2008年7月18日金曜日

【部品】FT-243型水晶振動子

FT-243型水晶振動子
 Old Crystalの続きである。
昨日の測定の続きは休日に行なう予定だ。とりあえず、FT-241型の構造に続き、FT-243型を採り上げておく。

FT-243型は、1960年代のHAMにはポピュラーな存在であった。
例えば、TRIOの送信機、TX-88AやTX-88Dのパネル左下には、水晶振動子(=水晶発振子)のソケットがあるが、FT-243用が付いていた。

これはTRIOに限らず、国産STAR や米国製にも見られる。 ソケットに合うのはいずれもFT-243型である。 アマチュアが容易に(安価に)入手できる水晶振動子はFT-243型だったからだ。 写真のようにFT-243の足ピンは太くてしっかりしている。 HC-6/Uの足ピンはピッチは同じでも太さが違うので挿入できない。 それで一時期アマチュア向けにFT-6/Uなる足の太いHC-6/U型が売られた事があった。 たぶん、そんな水晶振動子が作られたのは日本だけだと思う。 ただ、海外でもGT管の足をカットしてHC-6/Uに被せて太い足にすると言うようなアイディアも見受けられる。

FT243専用のソケットが用意されていたが、入手難だろう。その場合は、USオクタルソケット・・・要するにGT管用の8ピンソケットが使える。ピンを一つ飛ばして挿入する。オクタルソケットにはFT243が2個実装できるので都合が良いこともある。

FT-243型水晶の内部
内部は、昨日のFT-241とは大きく異なっている。 写真中央にあるのが水晶振動子そのもので、薄い板状である。 それを金属の電極板で挟み、蓋を閉めて右のバネで押さえる構造である。

このように水晶板が容易に取り出せる。 また、FT-243型に使ってある水晶は、BTカットあるいはATカットが一般的であって、厚みによって振動周波数が決まる。 従って何らかの方法で厚みを薄くすれば、周波数を高くすることができる。(注:上に盛って厚くすることはできないから、周波数を下げることはできない。OM曰く水晶板に赤チンを塗って僅かに下げるテクニックもあるとは言うのだが・・・笑)

たくさん研磨するのは大変なので、なるべく近い周波数が良いが、そう都合良く行かないのが普通だ。 面の平行度が悪くなると発振し難くなるので、手研磨で大きく削るのは難しいだろう。 研磨材を使う機械的な方法のほか、かなり危険な薬品であるがフッ化アンモニウム溶液(二フッ化水素アンモニウム溶液)を使って溶解する方法もある。 どちらもやったことは無いので、チャレンジするなら各自で研究を。(笑)

参考:ATカット水晶の周波数は厚み1.67mmのとき約1MHzとなる。厚みと周波数の関係は反比例するので、例えば7MHzでは0.2385mmになる。 あまり薄いものは割れてしまうのでFT-243の構造で可能な上限周波数は基本波で10MHz程度である。それ以上は製作困難なのでオーバートーン発振させるか逓倍で得ることになる。

しかし、いまどき研磨はお薦めしないので、どうしてもFT-243型水晶振動子が必要なら、中身を取り出してHC-18/U型(HC-49/Uでも良いが・笑)を内蔵してしまうのが良い。 そうすれば、7003kHzにFT-243型水晶でオンエアすることができる。(爆) 但し、見かけはともかく小型水晶なので水晶電流には気を付ける必要がある。

:もっぱら発振を目的に作られた水晶振動子を「水晶発振子」と呼ぶことがある。本質的には同じ物である。フィルタ用の水晶振動子では水晶定数を調整しHigh-Qに作るほか、副共振が主共振の近傍に現れぬように十分配慮してある。もちろんフィルタ用に作った水晶振動子でも発振はできる。なお、一般に見かける水晶振動子はその殆どが発振目的で作った物である。

2008年7月16日水曜日

【部品】FT-241型水晶振動子

FT-241型:水晶振動子
 今の水晶振動子は気密封止になっており、中身を見るには破壊が前提になってしまう。

 写真は、FT-241型水晶振動子である。 右の水晶のように、底面にネジがあり、ベークライトのキャップがネジ止めされている。ペイント・ロックされてはいても、容易に開封することが可能だ。

 FT-241水晶など、もはや普通に入手することはできないと思うが、参考までに周波数の計算方法を書いておく。ケースが黒いベークライトで、表示されているチャネル番号が二桁の場合は、54逓倍された周波数が書いてある。 従って、水晶の発振周波数は表示周波数の1/54である。写真中央の23.3Mc水晶は、431.481kHzである。

 また、左のように茶色のベークライトで、チャネル番号が三桁のものは、72逓倍された周波数が書いてある。 従って、写真左の34.3Mcの水晶は、476.389kHzである。 何かの機会に入手された時は、計算してみたら面白いと思う。 使えるか否かはまた別の話だ。(笑)

FT-241型:水晶の内部
 肝心の中身である。

 FT-241型はCTカットの輪郭すべり振動だそうである。 いまの大半の水晶振動子はATカットで、厚みすべり振動である。 輪郭振動と言うことは、水晶片の四角形の辺の寸法で周波数が変わるのであろうか。 近似の周波数でも、この写真のように大きさはだいぶ違う。


FT-241型:水晶の内部・詳細
このあと、FT-243型水晶を扱う予定なので、FT-241型の構造を詳しく見ておいて欲しい。

水晶片の両面に電極(多分、銀であろう)をメッキし、中央部をロウ付けして引き出している。 ワイヤー・マウントと言う形式で、後世の振動子保持技術に繋がるものであろう。
こうした構造はBell電話研究所で開発し、製造はBellの子会社:Western Electricが行なったそうだ。 1941年から終戦の1945年夏までの累積生産数は1,000万個を越えていた。

 それまでの水晶振動子は水晶板を金属板で挟む構造になっていた。それに対して、メッキ電極は水晶板との隙間が無いので、振動などの影響を受けずたいへん安定である。 但し、水晶片を取り出して研磨するなどと言う芸当は簡単ではない。 FT-241型を「分解・研磨して周波数を変えた」と言うなら余程のウデを持っているか、たぶんFT-243の勘違いだろう。構造を見れば特徴的だから勘違いする可能性も少ないと思うのだが・・・。(笑)

2008年7月12日土曜日

【測定】VTVM 三題

ヒューレット・パッカード:HP-401B
 昨日のBlogではDiode/二極管を話題にしたが、役立たない球(たま=真空管の意)と言う印象を与えてしまったかもしれない。(笑)
実際、一般的な回路では検波ならゲルマニウムやショットキー・ダイオード、電源の整流ならシリコン・ダイオードで事足りてしまう。 従って、二極管が登場するシーンは限定されてしまうことになる。

 測定器は、そのなかでも二極管が活躍できる数少ない場所の一つだろう。 図は、hp 410B型真空管電圧計である。 RF/AC電圧は左の方にある検波プローブを使って測定する。 ここに使ってあるのはEA53と言う、欧州系の専用二極管である。 検波プローブ専用に作られた球なので、構造も特殊であり破損すれば入手に窮することは疑いない。 しかし、非常に小さな入力容量で、しかも高い周波数まで使えるようにするにはこの種の球を使う以外に無かったようだ。
後継のhp 410Cは球石混合のハイブリッド回路になっているが、検波プローブの部分は同じである。 hp 410シリーズは、この種のVTVMとしては最高級の部類に入る。回路を見ればわかるが、定電圧放電管やバラスト・ランプを使い電源電圧変動の影響を受けないようになっている。それだけ大型で高価なのはうなずける。 まあ、今どき有り難がるほどの測定器ではないが用途・目的によっては役立つ可能性もあると思う。

松下通信工業:PV-91A
 国産でもVTVM(Vacuum Tube Volt Meter:真空管電圧計:通称・バルボル=Valve Volt Meterの意)は作られたがこれは松下通信工業製のPV-91Aである。 回路は双三極管(12AU7)で差動増幅を構成したオーソドックスなもの。 AC電圧は6AL5を使って倍電圧検波している。 なお、電源の整流にも6AL5を使っている。この程度の小電流なら電源整流にも使えると言う訳だ。

 面白いと思ったのは中央部下にある同じ6AL5を使った初速電流打消し回路の部分だ。 カソードを加熱すると熱電子が飛び出すが、プレート電圧はゼロであっても飛び出した電子は勢いが付いておりプレートに到達して電流が流れる。 即ち、信号ゼロなのに僅かだが検波電流が流れることになる。 これを同じ球で打ち消す仕組みのようである。 先人の工夫の跡であろう。(笑)
6AL5の特性は、使っているうちに変化して行くので、同じ球を打消しに使えば経年変化にも効果的だと考えたのだろう。 もし6AL5を交換するなら理想を言えば2本とも同時が良いはず。

菊水電子工業:PV-107
 HAMの間では菊水電子のPV-107がポピュラーなVTVMだった。上の松下通信製と類似の回路だが、多少簡略化されている。当然それだけ安価だった。 6AL5の初速電流打消しは、単純に電源電圧を分圧したバイアスを与えているだけだ。 たぶん、松下製のように凝った方法にしなくても十分な性能が得られたのであろう。
 PV-107は本体だけでAC電圧の測定もできたが、高周波電圧測定用には『クリスタル・プローブ』と称するゲルマニウム・ダイオードを使った検波プローブ(オプション)を使うことになる。 温度特性などを考えると検波管の方が良いが、プローブが大型化するし構造も複雑になってしまう。周波数特性を延ばすには特殊な球も必要だ。 廉価に作るために半導体式の検波プローブにしたのであろう。

 その昔、SSB送信機を製作しようと思えば、最低限こうしたVTVMが欲しくなり、菊水のPV-107は欲しいものリストの筆頭だったように思う。 本当はオシロスコープ(シンクロスコープは岩通製オシロスコープの一商品名)が欲しかったのだが、学生アマチュアには手が出なかった。40年も前の話しだ。(笑)

 今どき双三極管の差動増幅器でもない。 この種の電子電圧計はFET入力のOP-Ampを使うと安定度に優れた高性能なものが簡単に作れてしまう。しかもコードレスにもできる。(以前自作したものが今でもあるが滅多に使っていない) RF電圧測定用の検波プローブもGe-Diでまずまずのものが作れるが、測定値の信頼のためには校正がとても大切だ。 しかし、今では広帯域なオシロスコープがかなり容易に入手できるし、スペアナさえもシャックに入った。 だから、ただRF電圧を読むだけしかできないVTVMなど今更な測定器かもしれない。これも時代であろう。 もちろん欲しいものリストから消えている。(使い道がないし、邪魔だからタダでもいらない・笑)

追記:
継続して「VTVM」や「バルボル」などのキーワードで検索からこのブログに飛んでくる人がたくさんある。恐らく、オークションや中古ショップの出物を物色中に調べているのであろう。
 半世紀も前のノスタルジーを再現したい(体験したい)なら別だが、私なら今どき買わない。お金も時間も無駄だから、やめておくのが賢明だと思っている。高周波測定の経験も永いのでそれなりに熟練しているつもりだが、それでも何を(どんな信号を)計っているのか混乱しやすい測定器だ。測定対象が単純な正弦波なら良いが、教科書のように都合が良いのは現実の測定場面では稀だからである。
 指針の振れをピークに調整したら、スプリアス(不要波)に合わせていたと言うようなケースは簡単に起こる。そのような誤った調整をされたトランシーバ(FTDX-401)の再調整に手を焼いた事があり、VTVMで調整する危うさを感じた。結局、VTVMの使いこなしは簡単そうで素人にはむしろ易しくない。まあ、使えば良くわかることなんだが・・・。何事も経験することは悪いことではないから止めはしないけれど。(2009年2月追記)