2012年9月23日日曜日

【部品】TOKO HAM Band Mono-Coils

HAM Band モノコイル
 すっかり懐かしい部品になってしまったが、モノコイルがテーマだ。

 正しくは、「ハムバンド・モノコイル」と言うらしいが、自作HAMの間では(東光の)モノコイルで通っていた。

 FCZコイル以前の時代に幅を利かせていたトランジスタ回路用の既製コイルであった。

 3.5MHz、7MHz、14MHz、21MHz、28MHz、そして50MHz用の6種類が販売されていた。他のバンドの物は発売されなかったと思う。 160mバンド用のニーズは少なかったのと、この構造では作りにくかっただろう。 またWARCバンドは未だ許可されていなかった。 144MHzには構造上向いていないのだろう。 50MHz用でさえ無負荷Q:Quの低下が見られるからVHF帯には適さないようだ。 なお、VHF帯には別の「RF-Coil」(←参考リンク)と言う専用品が販売されていた。

 モノコイルはいずれも巻線部分のボビン外径がφ8mmで、5本のピンが付いた台座が一体になった構造だ。材質はベークライトだ。 オリジナルの物では巻線ボビン部分にスリットが入っていて、ねじ付きコアを挟んでおさえる構造になっている。(次の写真参照) この写真の自作例では、スリットなしの緩いボビンなので、ねじコアとボビンの隙間にゴム紐の弛み止めが入れてある。

 残念ながらオリジナルは見つからなかったので、写真は7MHz用:SCN-5948Aのレプリカである。7MHz QRP送信機の製作に使った写真の再掲載だ。(写真上の立っているものがホンモノの構造に近い)

 【モノコイルのカタログ
 今でもモノコイルを探す人がいるのでどんな物だったか仕様書を貼っておく。 これは、1970年代中頃に東光が無料で配っていた「市販品カタログ」の1ページである。 広告であって、雑誌記事ではないので公開しても支障はないと思う。

 インダクタンス、巻き数、同調容量、無負荷Qが載っており、タップ位置もわかるので同等品を作るためは極めて有用なデーターだ。(ファイルサイズを大きくして細部まで見えるようになっている)

          ☆ ☆ ☆

 自作する際には、巻き始めの位置や巻き方向をオリジナルと同じよう揃えておくと何かと都合が良い。 同調側の巻線、すなわち1番ピンと3番ピン間の巻線を台座に近い側に巻く。 4番ピンと6番ピン間のリンクはその上側に巻くことになる。 これはコアを調整して抜いて行った時でも結合度が下がらないようにする為だ。 自作する際も同じように巻くべきだ。 なお、5番ピンは一般に欠ピンである。

 オリジナルでは絹巻線が使ってあるが入手しにくいと思う。 そこでポリウレタン電線を巻くことにする。 太さはφ0.2mm〜0.4mm程度が良いようだ。私はφ0.32mmをよく使っている。 自作品を実測してみて無負荷Qの値などオリジナルと比べ顕著な性能差はないように感じる。 従って同等に使える筈だ。

参考)このコイルを作っていた東光(株)は(株)村田製作所の子会社になっている。

 【自作代替品の材料に
 自分でモノコイルの代替品を作るためには材料が必要である。 写真は「モノコイル」ではなく、どれも秋葉原のお店で見つけたジャンク品だ。 これらは用途不明で安価に売っていた。ジャンク詰め合わせ袋に入っていた物もある。

 そのままで旨く使えることもあるが、自分で巻き換えてしまえば良い。コイル巻きの材料として使う訳だ。コイルを巻くボビン部分の外径は同じくφ8mmである。 東光モノコイルの仕様はわかっているから自分で巻けば同じ物が作れる。

 ボビンや台座はともかくとして、入っているコアの種類・材質は気になるだろう。コア材には何種類かあるようで、厳密に言えば周波数帯ごとに最適な材質がある筈だ。 しかし写真の様に数回〜10回程度の巻線がしてあるものはどれも同じような特性だった。

 試してみると、モノコイルの巻き数と同じで良いか、せいぜい1〜2割くらい加減すれば良い程度だった。どれもHF帯には十分使える。 ボビンだけの品より、このような巻線のある物の方が何となく用途がわかるので好都合だ。 上左の物を除きどれもTV用かFMラジオ用、すなわち比較的高い周波数向きであろう。

 【巻線構造
 巻線をどのように足ピンにハンダ付けしているのかは見た通りだ。 他に、台座を貫通したピンの上部にハンダ付けするタイプもある。(どちらかと言えば古い形式)

 巻線の固定には、熱で溶ける「マジックハンダ」と言う物が使ってある。 昔は少量の入手は難しかったが、いまではサトー電気で売っている。 私もJH1FCZ大久保さんに頂いて以来長年愛用している。 更に巻線したあとには「高周波ワニス」を塗っておくとなお良い。サンハヤトから小瓶入りが出ている。(残念ながら高周波ワニスは販売終了のようです)

 「マジックハンダ」、「高周波ワニス」ともにたくさん使う物ではない。無くても巻線はできるし、他の物で代用しても良い。しかし、すこしあれば重宝するのでコイル巻きにはぜひ揃えておきたい補助材料だ。

 さらに調整後のコアが動かぬよう止めるためのパラフィン・ワックス(蜜蝋のようなもの)もあると良い。ゴム紐の弛み止めだけでは不足である。車載用や移動用のリグなど振動を伴うポータブルなリグでは調整後のコアの固定は絶対に必要である。

 【SWバンド用局発コイル
 写真の様に巻き数の多い物も見かける。 ジャンクで用途がはっきりわかる物は珍しいのだが、これは短波付きトランジスタ・ラジオの局発コイル(短波バンド用)である。

 巻線構造を見ると、同調側にエミッタもしくはベースにフィードバックするためのタップが設けてあるのですぐわかる。

 このような短波ラジオ用局発コイルに使ってあるコアは、どちらかと言えば透磁率μが大きめである。 またVHF帯には向かないことが多いので注意を。 HF帯の低い方で使うにはむしろ都合が良いことも多い。 一応、参考まで。


シールド・ケース
 FCZコイルが隆盛になった理由の一つに、シールド付きだったことがあげられるだろう。 モノコイルは、ネジコアしか入っておらず、開磁構造なので磁束はモレモレだから2つのコイルを密着して並べれば磁気結合してしまう。

 FCZコイル或は10Kコイルのように壷型コアとネジコアの構造のように閉磁構造(に近い)ものとはかなり違う。 コイルの配置には十分な注意が必要だ。 不用意にアンプの入・出力コイルを接近させると発振の原因になる。 発振しないまでも共振特性が変化してしまうので要注意だ。

 写真は「マルチ・ケース」と言う名前のシールド・ケースである。モノコイルのシールドに使える物だ。 もともと15mm角のFMマルチプレックス・コイルのシールドだった物をケースだけ市販していた。 他にこれよりやや大きめのモノコイル用として「ビデオ・ケース」と言う名前の専用シールドケースも市販されていた。 シールドしたい時にはぜひとも欲しいが、入手は望めないと思う。 構造は単純だから工夫で乗り切る必要がありそうだ。 コイルの間にシールド板を立てるだけでも効果的なことも多い。

 もちろん、開磁構造なのはディメリットばかりではない。 閉磁型よりもコアは磁気飽和しにくいので、ずっと大きなパワーを扱える。 周波数にもよるが数Wまで大丈夫なのでQRP機ならファイナル・アンプ部にも使うことができる。 ちなみにFCZコイルでは0.5Wでさえやめた方が良い。せいぜい0.1Wであろう。 モノコイルにもメリットはあるから適材適所で行きたいものだ。

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 FCZコイルも無くなってしまい、時おり懐かしい東光のモノコイルを求める声が聞こえてくるようになった。 或は、近ごろのCQ誌の記事にRF物の製作なんか稀だから、やむなく自作HAMは大昔の製作記事を紐解いているのかも知れない。 そんな懐かしい記事にはモノコイルが使ってあるのだろうか。(笑) モノコイルはもう市販されることも無いだろう。ならば自作で行くしかない。材料はまだ何とかなるようなので、自作用の資料をアップしておくことにした。

 暑い暑いと言っているうちに、もうお彼岸になった。 「暑さ寒さも彼岸まで」とは良く言ったもので、秋分を過ぎたら急に涼しくなった。 あれほど喧しかった蝉の声も何処へやら・・・。 墓参のお寺に静けさが戻ってきたようだ。

 このままでは9月のBlogが無くなってしまいそうだ。 10MHzのQRP送信機に手をつけ始めたので、そのコイル巻きに関連したお題でご勘弁を。(笑) de JA9TTT/1

(おわり)