2014年5月15日木曜日

【測定】AD9850 has a Clock Multiplier ?

AD9850にも有ったクロック逓倍器
噂の真相?
 QRPerの親睦を目的とした月例の懇親会が秋葉原で開催されています。小電力=QRPの通信や自作電子回路に興味をお持ちならどなたでも参加できます。 第一土曜日の夕方16:00〜です。(但し例外有り)

 懇親会には任意参加の2次会があって近くの居酒屋「天狗」秋葉原店にあらかたのメンバーがそっくり移動してAC付になります。

 いつも刺激的で楽しい話題が飛び交いますが、その席でとても興味深い話しを耳にしました。 早速試してみたのがこのBlogです。 TRIOのLPF:LF-30のPart-2が予定でしたが急遽テーマを変更します。

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興味深いお話
 その話しとは以下のようなものでした。 お馴染みの中華DDS基板に搭載されているDDS-IC:AD9850にもクロック逓倍器が内蔵されていると言うのです。 AD9850にはAD9851と言う上位チップがあって、そちらには与えたクロックの周波数を6倍する逓倍器が内蔵されています。 AD9850と51では最高クロック周波数の違いもありますが、クロック逓倍器の有無が一番の違いです。 そのためAD9851を最高クロック周波数:180MHzで使うのに30MHzのクロックで済むと言うメリットがあります。

 その機能を持たないAD9850を最高クロックで使うには直接125MHzを与えなくてはなりません。 この125MHzのクロックがなかなかの曲者なのは既にご存知の通りです。 ですからAD9850に4倍のクロック逓倍器が内蔵されてると言うのは聞き流すには惜しい「耳寄りな話し」なのです。

*以下の観測は同じDDSモジュールで行なっています。クロック発振器の周波数を変更し、それに伴って制御プログラムも変更しています。従ってAD9850の個体差ではありません。5種類のクロック発振器を使いましたが、どれもスペクトルに問題ないことは事前に確認してあります。

まずは近傍のスプリアスから
 その裏技的な技法とは・・・実はとても簡単です。 AD9850にもAD9851と同じコマンドワードを送れば良いのです。
 要するにコマンドワードの最下位のビット:LSBに「1」を立てたコマンドを送ります。具体的にはcmd=&B00000001です。

早速やってみたのがこの写真です。 何時ものように15MHzを発生させてみました。 まずは目的信号:15MHzの上下10kHzの近傍スプリアスから観測しました。

 左がAD9850のクロックに48MHzを与え4逓倍の192MHzクロックで動作させたもの。 その右側の写真はオーソドックスな125MHzクロック・・・もちろん奇麗なもの・・・を逓倍機能OFFで直接与えてた時のものです。

#なにやら左の方にはスプリアスが・・・・?。

100kHz幅で観測継続
 目的信号:15MHzの上下50kHz、全体で100kHz幅に拡大して観測しています。クロックの条件は上記と同じです。

 写真右のノーマルの状態はいつものようにとても奇麗なスペクトラムです。
 それに対して左の逓倍クロックの方はどうもスプリアスだらけです。 目的信号よりも70dBくらい小さいため極端に悪い訳ではありませんが右を見てしまうと使いたい気持ちにはなれませんね。 この例では15MHzなのでこの程度でしたが、30MHzを発生させると55dBくらいまで悪化します。

 試してみたら50MHzを4倍した200MHzのクロックでも動作しました。隠しモードにメーカーの規格なんて存在しないので、どこ迄が上限かはわかりません。 ただ、クロック逓倍器で高い周波数まで可能になっても、これでは意味も無くなりそうです。

クロックが高過ぎ?
 48MHzとか、50MHzを与えて4逓倍したのでは周波数が高過ぎて発生信号が劣化するのかも知れません。 そう思って、今度は21.0526MHzのクロック・オシレータで試してみました。手持ちを使っただけですから細かい周波数に意味はありません。

 写真はその結果です。 左は21.0526×4=82.2104MHzの逓倍クロックで動作させたもので、右の比較対象の方には64MHz・・・もちろん奇麗な・・・を与え、逓倍機能はOFFです。 目的信号の近傍のスプリアスは前の20kHzスパン、100kHzスパンの写真と大同小異です。 ここでは0〜150MHzまでの間に発生するスプリアスの写真を掲載しました。

 まずは右の方ですが、逓倍なしの奇麗なクロックにしてもかなりのスプリアスが認められます。 これは中華DDSモジュールにあらかじめ搭載されているローパスフィルタの遮断周波数(fc=70MHz)が高過ぎて効果的でないからです。 但しほとんどがDDSの原理上現れるスプリアスなのでしかるべき遮断周波数のLPFを挿入して使えば大丈夫です。 この例ではクロックが64MHzなので、1/3のfc=約20MHzのLPFが適当です。そうすればスプリアスの大半は片付きます。これは前々からわかっている通りですね。

 一方、左の4逓倍クロックで動作させた方はスプリアスだらけです。 LPFを最適な物に載せ換える程度では済まないでしょう。 目的信号の近傍だけでなく上にも下にも強いスプリアスが見られます。 結局、与えるクロックの周波数が高過ぎるからスプリアスが現れていた訳ではなさそうです。4逓倍クロックで使うとこうなってしまうようですね。 ですからメーカーもクロックの4逓倍を仕様書で触れないのでしょう。これは想像ですがクロック4逓倍を付けてみたものの、何らかの原因で目標Specをクリヤできなかったので無いことにしているのではありませんか?

 あるいは、4遞倍と推測するモードでは上限の125MHzを遥かに越えた200MHzでも動くように見えますから、何かのテストモードかも知れません。21.0526MHzを与えた例で見ると、逓倍されない成分の(要するに21MHzの)漏れがやたら大きく現れていて本当に逓倍したクロックで動作しているのか疑問があります。いずれにしても使うのはちょっと問題がありそうです。

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 「耳寄りな話」はちょっと残念な結末でした。 目的・用途によってはクロックの4逓倍も効果的なことがあるかも知れません。(もちろん、本当に4倍モードなら) 一概に何とも言えませんのでAD9850をクロック4逓倍のモードで使うかどうかの判断は各自に委ねます。ここではありのままを見てもらえたらそれで十分でしょう。

 それで、あんたはどうするのかって? まあ、何かの緊急時に知っていれば助かるかも知れません。ですが通信機に積極的に使いたいとは思わないなぁ・・・。 それぞれのお方のお考え次第なので、ご自由にされたら良いとは思いますが、お子様連れの電波を出さぬよう送信機に使う際は十分な確認をお願いします。 受信機に使うとスプリアス受信が多くなって色々不都合でしょう。ですが自身が納得して使えば良いです。 他人に迷惑はかかりませんから自由にされてください。 繰り返しますが送信機に使えば皆が迷惑しますからやめて欲しいですね。あなたの電波がバンド内外のそこらじゅうで聞こえたらまずいでしょう。

 酒席で小耳に挟んだ『うわさ話』を切っ掛けで実験しました。元はどのあたりの話しなのか、どなたが見つけた『新発見』なのかは知りません。 もし違う結果が(ずっとFBな結果とかが)出ているようでしたら情報やコメントなど頂ければと思います。 実は噂の奥にはもっと深い裏があるのかも知れません。それをクリヤして旨く使えるのなら素晴らしいですから。(笑)de JA9TTT/1

(おわり)

2014年5月1日木曜日

【測定】TRIO LPF LF-30 : Part 1

TRIOのLow Pass Filter : LF-30 その1

LF-30の外観
 何時ころからシャックにあるのでしょう? ずいぶん昔ですがローカルクラブのオークションで手に入れたように思います。

 写真はTRIO:今のKenwood社製のローパスフィルタ:LF-30です。 30MHzまでのHF帯用送信機とアンテナの間に挿入します。 送信機で発生する高調波を除去し、TVIを防止するのが目的でした。 シャックの必需品として売られていたアクセサリの一つです。

 今のメーカー製送信機では高調波対策が十分なされています。そうでないと技適が通りません。 しかしLF-30が使われていたころはまだそのあたりが不十分でした。 取説に書かれている送信機はTS-500やTX-40Sと言ったかなりの年代物です。 こうした時代の送信機は真空管式でπ型のタンク回路になっていました。 π型タンク回路にも高調波抑止効果はありますが不十分だったので運が悪いとTV放送に高調波が飛び込みました。 ですからこうした低域濾波器:LPFのニーズがあったのでしょう。TVIフィルタの専門メーカーからも各種販売されていました。 何かと問題が多かったVHF帯のTVが地デジ化でUHF帯へ移行してくれたのはHF帯にオンエアするHAMにはとても有難いです。

 シャックの整理で出て来ましたがどんな特性か興味があったので調べてみます。単なる興味本意ですが、せっかく有るので再利用を考えましょう。 半導体式のパワーアンプを実験していると臨時に外付けのLPFが欲しくなることがあります。30MHzのLPFだけでは済まないことも多いのですが、整備しておけば実験用器材として活用できるでしょう。

LF-30の内部
 どんなフィルタ形式になっているのか取扱い説明書からはわかりませんでした。 掲載の特性図からは無極の単純な特性のように見えます。 さっそく開けて調べました。

 四隅の取付け穴に入っていた鳩目を抜いて開けます。 外観は汚れていて程度は良くありませんが中はまずまず奇麗です。

 思った通り単純な無極のLCフィルタでした。コイル5個、コンデンサ4個でT型LPFを重ねた形式です。 一つセクションが遊んでいるのはLF-60と共通の箱を使った関係でしょうか。 コイルはLossを減らす目的で銀メッキ線が使ってあります。線径は実測でφ1mmでした。 割と雑な作りでハンダ付けで組立ててから伸縮させて特性を加減していた模様です。 他に調整可能なところはありません。
 コンデンサは誘電体フィルムを銅の円盤で挟んでネジ止めする形式で作られています。 普通のコンデンサを使った場合リードインダクタンスと自己共振してVHF帯で良い特性が得られなのかも知れません。

 このような方法で作れば自己共振の心配は少ないしフィルム厚があれば耐電力も十分得られます。おまけに電力用コンデンサよりもローコストでしょう。 構造から放熱にも優れるので1kWを許容しています。誘電体フィルムはテフロンではないでしょううか。仕切り板を折り曲げで一体式に作るなど、手間がかからず作り易い構造にできています。

取扱い説明書
 仕様と代表的な特性グラフが載った取扱説明書(一部分)を載せておきます。

 このLPFシリーズには60MHz以上をカットするLF-60と言うのもあって、50MHz帯を含むTX-88D、TX-88A、TR-1000、TX-26にはそちらを使うようにとあります。(それにしても想定機種が古いです・笑) 実際、TVIに悩まされたのは6 m局が一番多かった筈でLF-60の方がポピュラーだったかも知れません。

 仕様を見ると入出力インピーダンスが75Ωなのはちょっと問題で、いまの50Ωの機械には不適当と言うことになります。ですから遊休品になっていた訳なのですが・・・。 一応75Ω±40%までが使用範囲となっています。50Ωはその範囲内にあるので使えることになりますがどうも気持ちが悪いのです。それに±40%と言う数字そのものの根拠がわかりません。根拠は無くても使っても大丈夫だったと言うセールス上の話しかも知れませんね。(笑)

 送信終段が真空管だった時代の送信機は標準が75Ωでしたからフィルタもそれに合わせてあります。半導体時代に発売されたLF-30A、LF-60Aは50Ω用に変更されました。 中古市場を見てもA付きの50Ωモデルはそこそこのお値段ですが、75Ωのこらの方はジャンクの扱いです。(いじって遊ぶにはそう言うジャンク品が狙い目なのですが・・・)

実測特性
 規定のインピーダンス、75Ωで特性をとってみました。 遮断領域への傾斜がやや緩やかな印象もありますが、無極のフィルタなのでこの程度のものでしょう。

 上記特性図よりもカットオフ周波数は高くなっていて、-3dBは40MHzあたりです。 高調波は28MHzの2倍が40dBくらい、3倍が90dBくらい落ちるのでそこそこ効果的が期待できます。 通過損失は14MHzで見て0.13dBくらいです。これだけのLCが連なっていて3%ほどのLossなら優秀です。

 なお50Ωのインピーダンスでも測定しましたが、通過損失及び遮断特性ともに75Ωの時とと大差ありません。何となく気持ち良くないのですが、そのまま50Ω系でも使えそうです。たぶん50Ωのリグにそのまま使って問題はないでしょう。インターフェア対策に試して効果があったならそのまま使って支障はない筈です。

                 ☆

 50Ωで使うとまるで乱れてしまい使いモノにならないかと思っていました。その点は意外でしたが、やはり気持ちが悪いのです。ここはちゃんと50Ω用に改造してみようと思いました。 今では十分な評価手段があるので改造も難しくありません。

 遮断周波数とインピーダンスによるざっとした机上の検討ではコンデンサの追加が必要です。ハイパワーで使う予定はありませんから、ディップド・マイカや電力用セラコンで行けるでしょう。 50Ωに変更するとコイルはカットする方向なるので元のものが利用できます。 テフロン薄板を入手し銅板を切り抜いて任意容量のコンデンサを自作しても良いですが面倒です。 さらに箱だけ流用して任意特性のフィルタを作ってしまうのも面白いかも知れません・・・。

 この先、LF-30のLC値を実測しその結果を使った回路シミュレーション、さらには幾つかの改造指針について考えてみます。de JA9TTT/1

つづく)←Part-2へリンク