EX

2014年10月15日水曜日

【部品】DBM Chip vintage, TA7310P

【年代物のDBM-IC:TA7310Pの試用】
【TA7310Pとは】
TA7310Pは簡単な発振回路とRFアンプ、そして主役のダブル・バランス型ミキサを集積したICである。 かなりの年代物なのだが、今でも比較的入手し易いように思う。 時折オークションにも登場するので未だかなりの市場在庫(引出し在庫?)が存在するのだろう。 新旧があって比較的遅くまで生産されていた様子がうかがえる。 本来とは別の新たな用途が生まれていたのかも知れない。

本来の用途・目的はPLL型周波数シンセサイザのミキサ回路用である。 1970年代のはじめ米国でCBトランシーバが爆発的なブームになった。その殆どは日本からの輸出品だったのである。 27MHz帯の出力4WのAM機(のちにSSBも)で車載用の多チャンネル型(23chなど)であった。 当初は各チャネル分の水晶発振子を並べた単純な形式であった。 しかし水晶発振子が各チャネルあたり送受で2個ずつ必要とあってはコスト高であり、水晶を減らす研究開発が精力的に進められた。その答えがPLL周波数シンセサイザであった。

PLL周波数シンセサイザは古くからある技術だが本格的な専用IC化が進むまでは一般化しなかった。 ECL-ICあるいはTTL-ICと言った汎用ロジックICを並べたのでは数10個を必要とした。それではまったくコスト低減にならなかった。
しかしC-MOSでカバーできる回路部分を極力LSI化してやることでCBトランシーバのPLL化が進められた。 生産台数が膨大であったゆえに専用ICの開発もできたのであろう。

TA7310Pの使用例
 TA7310Pは当時のC-MOSでは扱えなかった20〜40MHzと言った高い周波数を2MHz以下の扱える周波数へと周波数変換する目的に使われた。
 トランジスタを使ったシンプルなミキサ回路ではスプリアスの除去が困難であったため二重平衡型ミキサを採用して回路の簡略化を図っているのも特徴だ。(左図は東芝の技術資料より引用)

 本来はPLL回路用であったがDBM+OSC+RF AmpというアナログなICであるため、受信機のミキサ回路やSSB/CW検波回路にも使うことができた。 あまり活用例は見ないが、SSB送信のバラモジ回路にも使えたと思う。

CB機の輸出ブームも一瞬のバブルであった。 ブームも去り余剰部品が秋葉原へ流出するようになったころ買い求めたTA7310Pや頂き物が長いこと引出し在庫されている。 ここは 試用して感触を掴んで在庫を消費したいものだ。 例によってこのBlogは自分用の実験メモである。 以下、もしお暇なようならお付き合いを。 ご自身で使用計画でもあればコメントをどうぞ。

                    −・・・−

【評価する回路】
TA7310Pのメインは二重平衡型ミキサ(以下、DBMと略)であるが、発振回路部分を使わないと使えない設計になっている。 発振回路とDBMの間が内部でC結合されているのだ。 RFアンプ部分は独立しているので別途検討するとして、主役のDBM(+発振回路)の活用を検討してみよう。

単純な周波数変換に使えるのは勿論だが、シビアな性能が要求されるSSB送信機のバラモジ(バランスド・モジュレータ:平衡変調器)はどうだろう。 旨く使えるなら用途も広がる。 内部回路の考察では、HF帯用にできているように見えるが低い周波数、例えば455kHzでも使えるなら面白い。 そのような考えで、455kHzのバラモジで検討してみた。 なお、発振回路はセラミック発振子(村田製作所の商品名;セラロック)を使ってみた。 定数を選んでやれば水晶発振子でなくても発振できる。 工夫すればVXO回路とかもOKだ。

参考:村田製作所はセラロックの型番付与方法を変更している。旧CSB455Eは図のような長い型番になっている。この回路にはもちろん従来のCSB455Eも使える。

【試作風景】
例によってブレッドボードで試作だ。 周波数が低いこともあり特に問題は起こらなかったが、このブレッドボードは底面に金属板(正確に言えば片面プリント基板)が貼ってある。 銅箔面をアース電位にすることで高周波用の適性を高めてある。

左のオレンジ色の角形部品が455kHzのセラミック発振子(セラロック)である。 簡略実験のため、周波数調整用のトリマコンデンサ(C3)は固定コンデンサで代用している。 実際に作る際にはSSBフィルタに合わせたキャリアポイントの調整が必要なのでトリマ・コンデンサを使う。 455kHzの水晶発振子と違って455kHzのセラロックの周波数調整範囲は広いので容易に加減できる。
バラモジの出力に付けたコイルはトランジスタ・ラジオ用のIFTである。 ここでは白いコアの段間用を使ったが455kHz用なら何でも良いだろう。 DBM側はインピーダンスが低めなのでタップ付きが望ましい。

【DSB信号】
低周波入力端子J1-J2(AF Input)に約1kHzの正弦波を与えて測定している。1kHzは570mV(pp)を与えた。 出力は約3Vppで、まずまずなDSB波形と思う。

キャリヤ・バランス調整(VR1)は必須である。 無調整ではキャリヤ・サプレッション(搬送波抑圧比)は30dBもとれないくらいだ。 ミキサ回路なら良いのかもしれないが、バラモジには不十分だ。 かならずバランス調整を設ける必要がある。 ややクリチカルなのでR2(10kΩ)はもっと大きくした方が調整し易い。22kか33kΩが適当なところか。

【DSB信号:飽和】
過大入力で飽和してしまった状態。 こうなるずっと手前からIMDは悪化している。 もっと低い出力範囲で使うべきだ。 上図のように3Vppくらいまでが適当かと思われる。

なお、ここで3Vppと言うのは、使っているIFTのインピーダンスや巻き数比も関係するから普遍的な数字ではない。 部品が違えば値も異なってくる。 実際にオシロやスペアナで観測しながら最大信号レベルを見極めて使いたい。

内部回路から見て 455kHzではどうなのかと思っていた。 しかし思ったよりも良さそうなのは収穫であった。 この程度ならシビアでない用途には十分使える。

                    −・・・−


【内部等価回路】
なぜ内部等価回路を参照するのかと言えば、使う上で少々気になる部分があるからだ。 左側で発振部と中央のDBM部分の間をC1と言うコンデンサが繋いでいるのがわかるだろう。

このコンデンサはおそらく数pFしかない。大きく見積もっても10pFほどだろう。 従って、低い周波数で使うには小さすぎるのである。 流石に数10kHzと言ったキャリヤ周波数で使おうとは思わないが、せめて下は455kHzあたりまで使いたいものだ。 そのような意図で上記のテストをしている。 このC1の部分で455kHzの減衰が起こっている筈だが、DBMの動作に支障はない程度のようなので旨く使えることがわかった。 数個交換してみたが同じようなのでバラツキがあっても旨く使えるだろうと思う。 周波数の高い方は50MHzあたりまでが無難なところと言った感じか。


【セラミック発振子のトランジスタ発振回路】
セラミック発振子を使った発振回路と言えば、C-MOSインバータを使うものがほとんどだ。 しかしトランジスタでも発振回路は作れる筈だ。

TA7310Pを使うにあたってもう一つ検討しておきたいと思ったのは455kHzのセラミック発振子(セラロック)で発振するかと言うことだ。 セラミック発振子メーカの資料で左図のような発振回路を見つけた。さっそくTA7310Pの発振回路部分に適用してみた。 これは非常に旨く発振してくれて周波数調整も十分可能なので455kHzの標準用法にしておきたい。なお、この回路は簡易な受信機に付加するBFOにも良い。LC発振のBFOよりも周波数はずっと安定だ。少なくとも10倍は良いはず。(水晶発振にはかなわないが)

【発振波形】
水晶発振を含めて、こうした回路の発振波形はあまり奇麗なものではない。写真はPin3のモニタ端子を観測したものだ。4Vpp以上の発振振幅がある。

正帰還量を加減すれば正弦波に近付けることもできるが、今度は発振スタートしにくくなってくる。 従ってこの種の無調整発振回路では確実な発振起動を優先し発振波形の歪みはある程度やむを得ないと考えるべきだろう。

ただし波形歪みとIC内部のC1の容量小さい言うことは考慮すべきである。 C1のリアクタンスは周波数の上昇とともに小さくなり、ロスも減ってくる。 従って455kHzあたりで使うとミキサ部にはその高調波がかなり加わると考えるべきだ。 これはスプリアスの原因になるのでDBMから出て行かぬようきちんとしたフィルタを設けねばなるまい。

バラモジの後がSSB用の 狭帯域フィルタならたいてい支障ないのでフィルタ式のSSBジェネレータなら神経質にならずとも良い。 しかしPSN式の場合はそうは行かないので十分注意したい。 TA7310Pはもっと高い周波数(数MHz以上)で使う方が有利なのである。

                    ☆

TA7310Pはバラモジにはやや使いにくいので敬遠され気味かも知れない。 姉妹品のTA7320Pの方が使い易いのは確かだ。 しかし実際に確認しておけばどの程度までカバーできるか判断も可能になる。 これからの活用も有利になるわけだ。 意外に広範囲まで使えそうな感触が得られたのは収穫である。 昨今は使い易い DBM-ICも限られてきた。手持ちのTA7310Pも自作に動員したいものだ。

                   ☆ ☆

TA7310Pを使って感じたのはやはり数世代も前のDBMと言うことだ。 電源電圧は標準の7V以上は確実に掛けたい。できたら規格いっぱいの10Vが良い。低い電源電圧には向かないのだ。 また消費電流が大きいのも欠点と言える。この部分だけで30mAも消費するのはあまり頂けない。言わば電池の機械には向いていないICだ。
持っているなら死蔵ではなく活用すべきだが、あえて探して(買って)使うほどの価値は無さそうだ。 これからDBM-ICを買うのならNXPセミコンダクタ(旧フィリップス社)のSA612Aあたりをお薦めしたいと思う。もちろん現行品だ。 de JA9TTT/1

(おわり)

8 件のコメント:

T.Takahashi JE6LVE/JP3AEL さんのコメント...

加藤さん、こんばんは。
台風19号では被害ありませんでしたでしょうか?
こちらはたいしたことなく18号の方がバルコニーの段ボールが飛んだりと大変でした。Hi

DBM ICはSN76514,SN16913PやSA612など色々ありましたが、今でも製造されているのは612ぐらいでしょうか?
SA612は以前国内では入手誌ずらかった記憶がありますが、今では普通に入手可能なのかな?

パーツボックスを覗いてみますとやはりTA7310Pは20個ほど入ってました。Hi
以前BlogにかかれていたTA7358Pも出てきました。
似たような感じですが7358Pより7310Pの方が使いやすそうな感じですね。

これらのICも使わないとと思いつつ、回路が簡単なので最近はTDKなどのDiDBMモジュールばかり使ってます。^^;

TTT/hiro さんのコメント...

JE6LVE/3 高橋さん、こんばんは。 台風19号は拙宅のあたりを通過して行ったようですが大したことはありませんでした。 上陸前は強力だったようですが、その後は急速に衰退したようで雨風ともに問題なかったです。hi

いつもコメント有り難うございます。
> 今でも製造されているのは612ぐらい・・・
昔のチップはどれも製造中止でしょうね。 表面実装でも良ければ高性能なものが幾つかあるようです。

> 今では普通に入手可能なのかな?
国内で扱うショップは少ないようですが、Digi-KeyやMouserなどで単品から買えるようです。 Chip1Stopにもあるようですが、単品販売してもらえるかわかりませんでした。 秋葉原では見ませんね。 以前、共同購入したPhilips製の手持ちがまだ有ります。hi hi

> TA7310Pは20個ほど入ってました。Hi
TA7310Pは結構ポピュラーだったと思います。 持っているお方も多いのではないでしょうか。

> 7358Pより7310Pの方が使いやすそうな感じ・・
電源の問題はありますがTA7358Pより良さそうに感じます。 電気を喰う分だけ大きめの信号が扱えるようですから有利な感じです。

> DiDBMモジュールばかり使ってます。^^;
変換ゲインが必要なときにはDBM-ICが活躍しますよ。DC受信機など向いていると思います。 機会があったらぜひ使ってみて下さい。

本田/JK1LSE さんのコメント...

こんばんは。

今回も興味深く拝見しました。私はこの石を使ったことがありませんが、DBMという言葉にいつも惹かれます。(理屈よりも趣味の領域です)

LM1496とかに比べると、周辺のCRが少なくていいですね。この石が出てきた背景からなるべく周辺が簡単になるようになってるんですね。

先日、LM1496でAM変調器を作ったのですが、簡単に素晴らしい特性が得られました。偶数次の歪みが小さいのもいいです。ただ、キャリアの入力レベルとか、歪にも注意がいりそうです。AFも帯域制限と振幅制限を入れないと、変調特性が良い分、帯域が広がってしまいそうです。実用化するのは、結構大変そうです。

TA7358Pも加藤さんのblogを見て仕入れてあります。これもチャレンジしてみたいネタです。blogの続編を期待しています。SA612Aはちょっと前になりますがDigi-Keyで仕入れました。何かついでがないと中々買えませんが、国内に注文するよりも早く届いて驚きです。

やりたいことがいっぱいで、中々前に進みません。いつも同じですが・・・・(笑)

TTT/hiro さんのコメント...

JK1LSE 本田さん、こんばんは。

コメントどうも有り難うございます。
> DBMという言葉にいつも惹かれます。
私もDBMが好きで、新しいチップが登場すると使ってみたくなります。 最近は新製品も見なくなりましたけれど。

> 周辺のCRが少なくていいですね。
MC1496は周辺部品の選び方によって様々な使い方ができるよう考えたのでしょうね。 汎用性はありますが、部品が多くて閉口します。(笑) その点、こうした専用チップは使い易いと思います。

> AM変調器を作ったのですが・・・
コレクタ変調やベース変調と比べたら格段に奇麗な変調が100%まで・・いや、それ以上まで掛かりますね。hi hi  リニアに増幅してやれば素晴らしいAM送信機になるのですが・・・。それがなかなか難しいものです。(笑)

> 帯域が広がってしまいそうです。
振幅のリミッタ(あるいはクリッパ)を入れ、3kHzまでのLPFを入れないとアマチュア局のAM設備基準に入りませんね。 TX-88Aのような大昔のAM送信機で も同じような問題は有りました。

#トランスレス変調で信号波を100kHzあたりまで上げて変調を掛けたことが有ります。奇麗に掛かるものです。原理的に当たり前なのですけれど・・・。もちろんダミーロドでのテストです。hi

> 何かついでがないと中々買えません・・・
Digi-KeyやMouserは諸費用が掛かるのが問題でしょうね。 他のものと一緒に頼まないと高いものになってしまいます。 そのため、暫く前には有志で数を纏めて共同購入とか行なったのですけれど。 昨今は皆さんシャイなので人数が集まらないかもしれません。(爆)

> やりたいことがいっぱいで・・・
沢山ある構想の中から楽しいものが生まれるのでしょうね。 いっぱいあるのは良いことだと思います。 またFBな自作品を拝見させて下さい。

匿名 さんのコメント...

泉澤/JR8JUQ
CQ誌 1982年9月号に、TA7310PとコンパチのAN103を熊本C-STDのSSBジェネレーター
に組み込んで良好な結果を得たという記事がありました。今更ながらですが、
TA7310Pの応用例としてどうでしょうか。

http://yahoo.jp/box/NEGlyS

TTT/hiro さんのコメント...

JR8JUQ 泉澤さん、こんにちは。

コメントありがとうございます。
> CQ誌 1982年9月号に・・・
この記事は見覚えがありませんでした。 ご紹介ありがとうございます。 古い記事も捨てられませんね。hi hi

> 良好な結果を得たという記事が・・・
送受に使っていますね。 RFアンプ部分はすこしゲイン不足と思いますが「漏れなく使う」アイディアでしょう。

> 今更ながらですが、TA7310Pの応用例として・・・
確かに今更なんですが、お持ちのお方には参考になると思います。

またお気軽にコメント下さい。

Hiro Sugi さんのコメント...

大杉/JK7UST
加藤さん、こんにちは。

LA1600を使った7MHz受信機を作った時に局発はトランジスタを使ったセラロック発振回路にしました。
その後、市販のCWフィルターを使いたくなり、発振周波数を調整する必要が生じたので、C1とC2の値を変えて発振周波数を450kHzから452kHzにUPさせたのですが、それ以上はダメでした。
C3をいじればよかったのですね。

SA612ANが手に入ったので、それを使った受信機を作る時にセラロックで試してみます。
参考になりました。

TTT/hiro さんのコメント...

JK7UST 大杉さん、こんにちは。

コメント有り難うございます。
> C3をいじればよかったのですね。
今度お試しください。 セラロックと直列にC3を入れて調整すると可変範囲を広くできます。 個々に違いますが結構高い方まで行くと思いますよ。

逆に低くしたい時にはVXOのようにコイルを入れると言う方法もありますが、入念な調整が必要なようです。