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2015年8月30日日曜日

【電子管】Making a stable valve VFO

【真空管で作る安定なVFO】
真空管も良いんだが
 さるBlogによれば、私は真空管に冷たいんだそうである。確かに、真空管と言うだけで好意的に扱うことなんかしないので愛好家から見たら冷淡だと感じるのかもしれない。 だからといって、真空管が嫌いなわけではない。 いや、むしろ逆である。

 ただ、昨今のように球(タマ)なら何でも有り難がる風潮は看過できないと思っている。 良い物は良いが駄球は何時になってもやっぱり駄目である。 無知につけ込んだ駄球の高額販売は購入者のお気の毒が目に浮かぶようだ。まあご本人が納得していればそれも良いのかもしれないが。(笑)

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 閑話休題(それはさておき)今どき真空管のVFOなんかどうするの?・・・と言われそうだ。 発熱があって安定するまでに時間がかかるから、SSBトランシーバではVFO部は早々に半導体化されたのである。 TS-510が然り、それに続いたFTDX-400もFETを使った半導体式VFOになってずいぶん安定になったのを感じたものだ。少なくともウオームアップは格段に早まった。 FETなり普通のトランジスタなりの自己発熱は少ないのだからVFOの発振周波数は安定する。そう考えてVFOと言えば半導体式が全盛になって行った。

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 半導体は消費電力が少ないから発熱も少ない・・・と言うのは本当だろうか? 何を馬鹿なと言われそうだ。 しかし意外に消費電力はあるものだ。 FETを使ったVFOで考えてみよう。Vcc=9Vで、普通の発振回路ならドレイン電流:Id=3mAくらい流したい。 ソース抵抗が入っているとそこでの消費分もあるが、単純に考えてFETでの消費電力はP=Vcc×Idだから27mWと言うことになる。なーんだ、たったの27mWかよ・・・と言うなかれ。

 FETの熱容量は小さいのである。FETの内部チップは思いのほか温度上昇する。2SK192Aで考えてみよう。規格表によれば1mWあたり1.25℃ほど上昇するようだ。 だから27mWで34℃くらい上昇する計算だ。少ないとは言え、スイッチオンからしばらく周波数変動するのは自己発熱→FET自身の温度上昇が原因なのだ。

 では温度で何が変動するのだろう? 変化するのはゲート・ソース間容量とか、ドレイン・ソース間容量のような電極間の静電容量であろう。 それぞで3〜10pFくらいあって温度係数を持っている。 他にドレイン電流Idも温度で変化があって、FETの特性からIdが変わればgmも変化し、gmが変化すればミラー容量も変化することになる。 だから単純な帰還容量:Crssの変化よりも影響は大きくなる。このように意外にも半導体式VFOのウオームアップ・ドリフトは少なくない。 FETで考えたがバイポーラト・ランジスタでも同じような物である。

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 真空管式VFOのウオームアップ・ドリフトが大きいのは常識だろう。 なにしろ発熱が大きいからだ。よく使われた6BA6クラスの球でもヒーターだけで6.3V/300mAだから2W近い。プレート損失の方も、150Vで5mAなら0.75Wだからスクリーン損失など合わせたら合計で3〜4Wくらいの発熱はあるだろう。
 自身の熱膨張で電極間容量の変化があるだろうが、周囲のCやLがモロに熱せられてしまう。良く出来たVFOでさえ30分以上のウオームアップ・タイムを要するのは仕方あるまい。 ただ、真空管自身の電極間容量は意外に小さくて自己発熱さえ少なければ・・・と考えて、1T4や3S4と言うような電池管を使ったVFOが試みられたこともあった。 しかしgmが低いので周波数安定に有利な発振回路の定数を選びにくいとか、マイクロフォニック・ノイズが大きいと言うような固有の問題もあった。 それらの球は少ないとは言え100mWくらいの発熱はあるので、半導体の登場もあって試みる人も現れなくなった。

 長く忘れられていた電池管のVFOであったが、英国のHAM、G4OEPは面白い球に着目した。 彼が見つけたのは「補聴器」用の球である。 トランジスタの登場ですぐに廃れたが、真空管を使った補聴器もあったのだ。 補聴器はコンパクトであり、電池寿命は実用上たいへん重要だ。そのようなニーズから電池寿命を延ばすためにフィラメントの消費電流が極度に小さな真空管が作られた。 G4OEPはHivac社(英国)のXFY43と言う球を使いプレート電圧も12Vで済むVFOを完成させたのである。

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 しばらく前にG4OEPのWebsiteを見て、面白いなあと思っていた。 私と同じように面白いと思ったらしく、彼に続いてG0UPLも試作したようで、こちらも興味深かった。 ただXFY43と言う球はことに入手困難らしく代替の球ではEp=12Vでは発振してくれない。 いろいろ試してもG4OEPの再現はついに出来なかった模様だ。

 以下、だいぶ前置きが長くなったがG4OEPとG0UPLの試作例を紹介しながら私の試作結果も紹介したいと思う。 なお、限られた貴重な真空管が本当の自作HAMに渡るよう、興味本位のお方は手を出さないのがマナーである。

 優れたVFOは真空管があれば出来るものではない。 温度特性に優れたコイルやバリコンと言った主要パーツのほか、ダイヤル減速メカなどVFOの製作に不可欠な機構部品の入手はほぼ絶望的である。従って球だけ手に入れてもまったくもって無駄である。 以下写真で見て鑑賞するだけに留められたい。

写真説明:左の横に寝たサブミニチュア管が「補聴器」用に開発された真空管:6418と6088である。いずれもJAN(Joint Army and Navy Standard:陸海軍統一規格) 規格品であるが、軍隊が補聴器を大量に必要とする筈はなく、低消費電力を活かし電子兵器用として転用されたものであろう。なお、右のミニチュア管:6AN5WAは大きさの比較用であり、補聴器の球ではない。

 【G4OEPのハイブリッドVFO
 G4OEP Dr.Andrew Smith氏が製作したVFOの回路である。G4OEPのWebsite(←リンク)で作品の写真もご覧になって頂きたい。 この回路図には記載は無いが温度補償のためにバイメタルを使った小容量コンデンサを付加するなど興味深い記事がある。 周波数安定度の良い自励式発振器を実現するための非常に示唆に富んだ記述があるのでぜひともご覧を。

 発振回路はColpitts(コルピッツ)型である。 ごく一般的な発振回路であるが、周波数安定を問題にすると真空管の電極間に入っているコンデンサ、回路図で言えばC4やC5を大きくせねばならず、発振させるためには真空管に相応のゲインが必要だ。

 XFY43のフィラメント電圧・電流はEf=1.25V/If=10mAである。またプレート電圧:Ep=12Vでもそこそこ大きなgmがあるらしく、図のような回路定数で確実に発振するのだという。 但しこの発振回路はXFY43なら再現可能かもしれないが、他の球では難しそうなのだ。 実際、私もほぼ同じ回路定数で試してみたがまったく発振してくれなかった。 真空管はXFY43と同じような補聴器に使うためのもので、Raytheon社の6418と6088を試した。

 【G0UPLのVFO回路集
 同じく英国のHAM:Hans Summers氏が製作したVFOの回路だ。G4OEPの製作にinspireされたのは間違いない。 まず最初は左図のFig.1から始めたが、プレート電圧:Ep=12Vでは発振せず、少なくともEp=25V以上が必要だった。発振管はXFY43と同じく補聴器用のCK512AXでフィラメント電圧・電流は0.625V/20mAである。

 フィラメント・パワーが小さい球は「パービアンス」が小さく、当然gmも小さい。従ってゲインが無いのだ。 それで幾らかでもgmが大きそうな6088を使って試したのがFig.2である。6088のフィラメント・パワーはCK512AXの2倍である。 発振回路は同じくColpitts型だ。 しかしこれもEp=12Vでは発振しなかった。少なくともEp=27V以上が必要で、これではCK512AXと同じような物だ。

 おなじ6088を使いながら回路変更したものがFig.3である。Colpitts回路をやめてFranklin(フランクリン)回路に変更している。Franklin回路は2球使うのでゲインは2段の積になるから有利なはずだ。 しかし、同じくEp=12Vでは発振しないのである。 同調回路との結合が疎になることから、むしろEpは高い必要がある。よく見ると1段目の6088の負荷は1kΩだからゲイン・アップどころかむしろ減衰器になってしまっている。
 彼はEp=12Vに拘らなかったようで、これで満足した模様だ。 実際、ヘテロダイン型VFOに纏めて実用にしているが、他の部分に普通の球を使っているため必ずしもEp=12Vである必要がなかったからだろう。 精力的な実験過程が写真とともに纏められている。G0UPLのWebsite(←リンク)も訪問されることをお奨めする。

 私からのコメントであるが、実は6088があまり良くなかったのではないかと思う。フィラメント・パワーはCK512AXや6418よりも倍も大きいのだが、Ep=12Vではgmが急に低下してしまうらしく、ゲイン不足なのだろう。これは、後ほどの私の実験でも確認されている。

 【私もVFOを試作中
 発振しないVFOは価値がない。まずは発振させることを優先に実験を進めた。どんな発振回路でも発振は可能と思うかも知れないが、それはまったくの幻想だ。回路の選択が悪いと発振しない。

 最初はG4OEPと同じColpitts発振回路から始めた。発振管は6418と言う補聴器用である。 6418は補聴器用としては最終世代らしく、フィラメント電圧・電流は1.25V/10mAである。プレート電圧:Epが低くともgmはそこそこの大きさはあるのだが、Ep=12Vではぜんぜん発振してくれない。

 発振回路にはColpitts型の変形であるGouriet - Clapp(グーリエ・クラップ)型も試してみたが同じように発振起動できない。 これらの回路は非常にポピュラーであるが、意外に発振条件が厳しいようである。発振器の数値的な解析はTESLA研究所Vačkář氏の執筆によるTesla Technical Report(Dec.1949)(←リンク)に詳しいが、他を試みた方が有望そうである。 そこでおなじColpitts型の変形でありレポートにある「Vackar型」でやってみることにした。 発振条件の厳しさに大差はないものの、回路定数を良く選んでやれば確実に発振することに成功したのである。発振管は6418で、もちろんプレート電圧:Ep=12Vだ。

 写真手前に見えるステアタイト・ボビンに巻いたコイルが周波数安定度の点では有利だが、その左に見えるトロイダル・コアに巻いたコイルも悪くない。回路は次項に示した。

 【私のハイブリッドVFO回路
 先に書いたように発振回路はVackarである。 Vackar発振器はヨーロッパ生まれなので、米国技術圏の我が国ではあまりポピュラーにはなれなかった。これは米国でも同じである。いわゆるNIH(Not Invented Here)と言うやつだ。

 Vackar回路は一時、驚異的な性能の「チェコ・テスラ発振器」として注目されたことがある。(JA-CQ Hamradio 1968年8月号pp170〜174の記事など) TESLA研究所のレポートで詳解されていた関係で、TESLA発振回路などと言われたが、論文の発表当時ならともかく、今では正しくはVackar(バッカー)型と呼ぶべきである。

 正規のVackar回路は発振管とLC共振器との結合が極力疎になるように設計されている。しかし、ゲインの小さな補聴器用の球では同様の回路定数では発振不能である。 従って、Tesla Technical Reportにあるような回路定数の選び方はできない。例えば容量比:C4/C3=6が推奨値だが、それでは発振できない。そのような訳で各部の定数はかなり弄ってあるから、もはやTTT式Vackar回路と言うべきものになっている。(笑)

 6MHzの例で示しているが、3〜8MHzで概ね類似の回路定数で行ける筈だ。 もちろん周波数が高くなるほど発振は難しくなるので、1〜2MHzくらいの低い周波数で設計すると非常に有利だ。 逆に10MHz以上で発振させるのは徐々に困難になって行く。

参考:JA-CQ誌1968年8月号に掲載された「チェコ・テスラ発振回路の実験」の顛末:
 この記事はJA1DXG加藤 丘さんの執筆で、元ネタは同誌の1961年4月号「技術展望」の短い記事である。残念なことにその「技術展望」のさらに元になった米誌(米CQ誌Dec.1960:"Czech Tesla Oscillator")に重大な間違いがあったのだ。もっとも、この米誌の記事もルーマニアのアマ無線の雑誌からの引用らしいのでどこで間違えたのか不明なのであるが・・・。
 そのため、当初は記事の実験では正常な発振が出来ず、回路を考察して半信半疑で部品の入れ替えを行なって取りあえずの成功を見ている。「な〜んだ、これってVackar回路じゃん!」と言うオチである。(当時すでにVackar回路は既知であった)

 引用して記事化する際に具体的に言えば回路図のC3とC4を入れ違えたのが元凶であった。原本のTesra Technical Reportにはもちろん誤りは無い。原典を参照しない引用記事の危うさと言ったものを感じる。もっとも、当時はInternetのような強力な情報収集手段はなかったのだからやむを得なかっただろう。
 そのほか、Vackar回路VFOに関してはJA1FG:梶井謙一OT(故人)執筆による「送信機の設計と製作」CQ出版社1964年12月10日発行:pp57〜64に写真入り製作例がある。いずれも真空管式である。

Vackar回路VFOとチェコ・テスラ発振回路(実はVackar回路と同じもの)については、今でも情報を求める人があるのでこの機会に私の調査結果を纏めておいた。これは一私見であるがGouriet -Clapp回路よりも安定度に優れるように思う。

 【発振管は6418
 発振管の話しをしよう。6481は補聴器の出力管である。高効率なイヤフォンに数mWのパワーを送り込む。この6418の前段にはマイクロフォニック・ノイズに留意した6419が使われ、補聴器としては2段増幅になっていたようだ。なお6419のフィラメント・パワーはさらに小さいがgmもずっと低いから発振管には不適当と思われる。

 6418はフィラメントが改良されている。僅か12.5mWのフィラメント・パワーとEp=15Vでgm=200μ℧が得られるのは素晴らしい。プレート電圧:Ep=12Vではプレート電流とスクリーングリッド電流を合わせて200μAも流れない。従って、トータルの消費電力はせいぜい15mWである。これは先に書いたようにFETを使った発振回路をかなり下回る数字だ。(しかし、電子デバイスとして見れば恐ろしく低性能である)

 15mWの消費電力でこの大きさのデバイスの温度上昇は僅かだろう。もちろん、内部は真空であるしフィラメントの輻射熱で電極は加熱されるに違いない。しかし、物理的な大きさから見てすぐに熱放散されてしまうだろう。 おそらく数℃の上昇しか無いはずだ。 だから、電源のON/OFFでもすぐにもとの周波数で発振を始める。

 ウオームアップ・タイムが短いと言うメリット以外に、周囲温度の影響を受けにくいと言うのも大きなメリットだ。半導体の電極間容量は温度の影響を受け易く、自身の温度上昇だけでなく周囲温度の影響も大きく受ける。真空管の場合は、基本的にガラスや電極の熱膨張による物理的な寸法変動に起因する変化のみであり、半導体のジャンクション容量のような大きな変化はないと考えられる。

 従って、生活環境程度の周囲温度の変化では真空管の各電極間容量はあまり変化しないと考えて良いだろう。 補聴器用電池管を使ったVFOの周波数変動はその殆どがコイル:Lやバリコンを含むコンデンサ:Cの温度変化によるものと考えて良さそうだ。従って、良いLCを使えばそれだけでかなり良好な周波数安定度が得られることになる。

参考:gm=200μ℧の球に1kΩの負荷でアンプを作るとゲインは0.2倍である。要するに減衰器になってしまう。10kΩの負荷でもゲインはたったの2倍だ。 だからと言って数MHzの高周波で100kΩの負荷インピーダンスを実現するのは結構難しい。それに球自身のプレートインピーダンスも低下してくる。だからVFOは発振困難なのである。

 【バッファアンプは2SK544F
 周波数安定にとって発振回路とともにバッファ・アンプも重要なポイントであろう。ここでは2SK544Fを使っている。
 VFOではソース・フォロワを重ねる形式のバッファ・アンプを良く見掛けるが、この種のFETでは図の形式の方が有利である。2SK544は帰還容量が非常に小さいのでこうした形式の方がゲインもあって有利なのだ。

 このBlogで何度も書いているように、2SK544F(三洋)は2SK241GR(東芝)や2SK439F(日立)でも良い。2SK19や2SK192Aのような帰還容量:Crssが大きなFETは同じ回路では使えないので注意を。

 アウトプット・トランスは非同調形式である。概ね50〜100Ω程度の負荷が適している。増幅している関係で大きめのパワーが得られるので後続のステージに十分な発振勢力を供給できる。 トランスは写真のような既製品ではなく、自作のトリファイラ巻きでも十分だ。代替品の製作方法は回路図にも書いておいた。具体的な巻線方法はBlogを前の方に辿ってもらえば写真入りで説明されている。

るんだろうか?
 6418のフィラメント・パワーはたったの12.5mWだ。真空管と言えばオレンジ色に燃えるヒータ/カソードをイメージするはず。フィラメントから熱電子を放射させるためにそれなりの温度にはなっているはずだが・・・。

 流石にわずかでも明るいと、光っては見えないが暗黒の状態で注意深く観測すれば写真のように赤く光るのが確認できた。 無機質なガラスと金属片で出来た電子デバイスもこうして光る様子を見ると息吹が感じられるから不思議なものである。

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 周波数安定性を重視するVFOであるからスイッチ・オンから周波数変化の時間経過を示す必要がある。 周囲温度の変化に対する変動も観測しなくてはならない。 それらは、このあと丈夫な箱に入れてVFOの形にしてから行なうつもりだ。 ただ、BBでの試作であっても周波数安定な感触は十分実感できる。

 まず、ウオームアップ・タイムは非常に短い。 しばらく通電しておいてから、電源をOFF・・・もちろんフィラメントもOFF・・して、5分ほど経過後に電源再投入してみる。周囲温度の変動や風の流れも変わるから完全にもとの周波数には戻らないこともあるが、せいぜい3秒ほどで復帰するのが観測できる。
 連続した周波数変動の観測では、周囲温度が最大の変動要因だ。 真空管による変動は無いに等しいのでそれと無関係にコイルやコンデンサの温度変化がそのまま現れる。 だからG4OEPがバイメタルを使った「コンデンサ」で温度補償しているような手法が有効なのであろう。 きちんとした箱に入れ、LCに直接風が当たるのを避け周囲温度の影響が緩やかになるようにしたうえで「温度補償コンデンサ」の採用でウオームアップ・タイムが短く、周囲温度による変化が少なく周波数安定なVFOが完成する。

少々趣旨がぼやけてしまったが、要は「消費電力の極めて少ない真空管を活かしたVFOは半導体式に勝る」のですよ・・・と言うお話しだ。真空管好きが球を贔屓にすると言った話題ではなく、電子デバイスの特性を十分活かすのがテーマである。

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 実用的なVFOは回路技術だけでは完結できない。ギヤダイヤルのようなバリコンの減速メカは必須だ。 温度特性の良いコイル作成のためには良質のボビンも必要だろう。 もちろん、スムースで温度特性の良いエアー・バリコンも必須のパーツである。 すでにそうしたパーツは市場から姿を消してしまった。 こうした真空管と回路的な工夫で周波数安定なVFOの可能性が開けたとしても、実用品に纏め上げるにはまだまだ様々なハードルが待ち受けているのである。de JA9TTT/1

(おわり)

2015年8月14日金曜日

【回路】8MHz Carrier Oscillator

【8MHz Ladder Filter用のキャリヤ発振器】
 【8MHz Ladder Filterの特性とキャリヤポイント
 製作したラダー型フィルタはSSB用のものである。(参考:フィルタ製作編←リンク) SSB送受信機にはキャリヤ発振器が必要だが、その周波数が問題だ。

 市販のクリスタル・フィルタなら仕様で中心周波数が決まっており、キャリヤポイントの周波数も決められているのが普通だ。 例外的に昔々の国際電気のHAM用メカフィルのように、個々に実測特性データが付属してキャリヤポイントもそれぞれ違っていたなどと言う例もあったが、普通はキャリヤポイント周波数は仕様項目である。

 自作のラダー型クリスタル・フィルタの場合、使用する水晶振動子(水晶発振子)の特性によってフィルタの中心周波数は異なってくる。 また、通過帯域幅を幾らで設計するのか、ポール数(水晶の数)は幾つなのかによってもキャリヤポイントの最適周波数は異なるものだ。 従って、出来上がったフィルタについて実測によって求めなくてはならない。一般的にキャリヤポイントは通過帯域の平坦部から20dB下がったところに置くことになっている。 傾斜の急峻な「良く切れるフィルタ」なら-15dBあたりに決めることもあるが、普通は-20dBが無難な所であろう。あまり通過帯域側に寄せてしまうと逆サイドの漏れが目立ってくる。

 写真の例は、8MHzの中華クリスタルを使って製作した6ポールのSSB用クリスタルフィルタの例である。通過帯域幅は2.7kHz(@-3dB)で設計している。写真のように、USB用のキャリヤ周波数は7998.633kHz、LSB用のキャリヤ周波数は8002.013kHzであった。 これらの周波数が得られるような発振器を用意することになる。 参考:-20dBのポイントに於ける帯域幅(周波数差)は実測で3350Hzであった。これは設計ソフトで得られた数字と一致しており設計精度と製作再現性の良さがわかる。

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 ところで、自作のラダー型フィルタでSSBジェネレータを製作すると同種の問題に遭遇することが多いようである。即ちフィルタと同じ水晶を使うと希望のキャリヤ周波数で発振できないと言う問題だ。
 以下は自家用の備忘資料なので数値は直接役に立たないだろうが手法は使えるはずなので困った時には思い出して欲しい。 もちろんフィルタの自作などされないお方には無意味なので以下を読む価値はない。 例によって興味本位で覗き見する必要はないから早々にお帰りを。ご経験もないのにヨソで蘊蓄ばなしをされても困るので。(笑)

 【SSBジェネレータの回路変更
 フィルタを製作したものと同じ水晶振動子(発振子)でキャリヤ発振を行なうためには発振回路の工夫が必要になることが殆どだ。左図はそれに対応した変更回路である。ここでは例としてダイオード・バラモジを使ったSSBジェネレータを示しているが、バラモジにトランジスタやFETを使ったSSBジェネレータにも同じように適用できる。

 USB用にはかなり下の方へ動かさなくてはならないのが普通だ。 この例でも8000kHzよりも約2.4kHzほど下げなくてはならない。単にトリマコンデンサをかませて調整しただけでそこまで下げるのは難しいからコイル:Lを付加した回路が必要だ。C6+C7を50pF(max)のトリマコンデンサとして可変範囲を調べたら、7996.738〜8001.016kHzが可変できた。USB用としては7998.633kHzが必要なので可変範囲にある。

 また、LSB用には約2kHzほど上で発振させる必要がある。 USB用の回路を兼用する方法ではそこまで上げられないので、この例では独立した回路にしている。 もちろん標準的な負荷容量では8000kHzで発振してしまうので、かなり小さめの負荷容量にする必要がある。C10を50pF(max)のトリマコンデンサとして可変範囲を調べたら、8000.789〜8002.379kHzが可変できた。LSB用の方は8002.013kHzが必要だが、多少のマージンがあるので問題はない。なるべく周波数が高い方へばらついた水晶振動子を見つけると良いだろう。

 発振回路をスイッチする形式で周波数の切換えを行なっている。このように水晶発振子は2つ必要になってしまうがやむを得ない。 回路の切換えはバイアス回路の切換え式なので遠隔のスイッチで操作が可能だ。 それぞれの発振出力はダイオードスイッチで切り替えている。 これはこの種の切換えでは常套的な方法でありメーカー製のRigでも良く見かける手法だ。

 この切換えのダイオードには1SS53を使っているが一般的な小信号用のスイッチング用ダイオードなら何でも良いと思う。(例:1S1588、1S2076A、1N4148など)
 言うまでもないとは思うが、トランジスタは2SC372Y→2SC1815Y→2SC2458Yなど小信号用なら代替できるもの多数である。 またFETは2SK544E→2SK241Y→2SK439Eで良いが、2SK19Yや2SK192AYは不適当だ。もし2SK19Yや2SK192AYを使うなら中和回路が必要になるので面倒であろう。カスコードアンプにしても良いが部品数が増えて面白くないと思うので、指定の物とその代替候補がお奨めである。

 今回はマイクアンプを低インピーダンス型マイクロフォン用に変更しておいたのでご参考まで。 その他、このSSBジェネレータ全般に関しては前のBlogを参照されたい。

試作で確認する
 使用する水晶発振子の特性によって最適な回路定数は異なってくるので部品定数を追い込む目的で試作してみた。

 概ね机上設計のままでも大丈夫であったが、細部の定数を最適化している。 上記の回路図は試作結果を反映したものになっている。 自身の部品事情に合わせたものなので各自の事情で幾らか加減は必要であろう。 また、この例では8MHzであるが、±1MHz以上違った周波数で作るならかなり大幅な見直しが必要になるかもしれない。

 特に、USB用の発振回路にあるインダクタ:L1(22μH)は最適値を探す必要があるはずだ。 どんな場合でも同じ部品定数で良い訳ではないのでそのおつもりで参照を。もちろん、個別の事情による周波数変更のご相談には応じきれないので各自で検討されたい。そんなに難しいことではないので。

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 市販のクリスタル・フィルタには組み合わせて使うためのキャリヤ発振用の水晶発振子が用事されていた。 たとえば、9MHzのSSBフィルタなら、8998.5kHzと9001.5kHzの水晶発振子であった。 そのような水晶なら指定の簡単な回路でちょうど良い周波数に合わせられる。まあ、これは当たり前のことだ。 しかし、自作したクリスタル・フィルタにはそんなに都合の良いキャリヤ発振用の水晶がある筈もなく、意外に苦労させられたと言う経験を持つ人は多いだろう。

 ここで紹介した方法が万能だとは思わないが、USBなりLSB用の周波数を得るための例として試作候補にでもしてもらえたら幸いだ。 なお、CW用のBFOではフィルタの中心周波数より500〜800Hz程度離すだけで良いのでずっと容易である。 SSB/CW兼用のRigならこの例と同じ方法で3種の周波数に切り替えられるよう設計するとよいだろう。

 SSB用のバランスド・モジュレータから始まって、自作のクリスタル・フィルタとそれに合わせたキャリヤ発振回路の検討まで進んで来た。取りあえずこのシリーズはおしまいにしたいと思っている。 IC-DBMの活用例がまだではないかと言うご意見はあるだろう。しかし、それらは一般に標準使用例がデータシートに記載されていて目標にすべき数値も規格で示されているのが普通だ。 従って試作していて何か新しい知見でも見いだせた時には扱ってみたいが、標準的な用法は省略させてもらうつもりだ。 今回のBlogテーマに限らず、一連の関係記事に対するご意見、ご感想、ご要望などお待ちしている。de JA9TTT/1

(おわり)