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2015年12月11日金曜日

【回路】8-pole X-tal Ladder Filter +1

【回路:8素子ラダー型クリスタルフィルタ+1】

12.8MHz 8-pole SSB Filter
 前のBlog(←リンク)では実際に新しい方法で作ったラダー型フィルタの製作例を示してその設計法も簡単に説明した。 6素子の例で示したが、8素子ラダー型フィルタも基本的に同じである。

 左図は「Dishalの論文に基づく簡易設計ソフト」(以降は簡易設計ソフトと略)を走らせた状態だ。
使用した水晶発振子は表示周波数が12.8MHzのもので形状はHC-49/Uである。 たくさん測定した中から無負荷Q:Quが高い物を8個選んだ。 水晶定数はそれら選んだ物8個の平均値で与える。

 具体的には以下の通りだ。
・Lm=7.989mH
・fs=12794.857kHz
・Cp=3.49pF
・・・である。

 右側の特性図を見ると、中心周波数の上下を見た場合の対称性が6素子よりずいぶん良くなっている。また、おなじ0.1dB−Chebychev型でも一段と急峻になった。追加の2素子はずいぶん効果的だ。 6素子のSSBフィルタでも実用にはなるが、できればこのくらいの特性が望ましい。

初期設計から実用設計へ
 この図は前回の再掲載である。 上記の設計で得られた値を書き込んだのが(A)である。 数値に端数が付き過ぎているのと、平均値計算なのでそのまま作るのには適さない。

(B)は、実際に使用う水晶発振子をどの位置に何番を使うのか具体的に選んで「格子周波数の同調」・・・Mesh Tuneを行なった。 「簡易設計ソフト」の上部メニューバーから「Xtal」をクリックするとチューニング用小プログラムが現れる。 使い方はソフト付属HELPファイル:eDishalHelp.pdfのAppendixにある"Xtal Tuning"の項に詳しく書いてあるので参照を。

 さらに(C)は数値を丸めて製作し易くした。 どこまで丸めてしまって良いのだろう。 各コンデンサの値をばらつかせて特性がどの様に変化するのかを検証した資料を見ると±5%程度ではほとんど影響はない。 従って、計算値から5%以内の誤差になるように選んでやれば十分そうだ。 心配なら最終値でシミュレーションしてみる。(実際、それをしてみたらいろいろなことがわかったのだが・・・)

LT-Spiceでシミュレーション
 すでに設計ソフトのところでシミュレーションしたフィルタ特性がグラフで表示されている。あらためてシミュレーションする意味はあるのだろうか?

 「簡易設計ソフト」のシミュレーションでは不完全なのである。 それは以下の結果から良くわかる。

 ここで使ったLT-Spiceは非常に有名である。半導体メーカーのリニア・テクノロージー社が無償提供している回路シミュレータだ。無償とは言え非常に高機能かつ高性能である。それまで世の中にあった有償の回路シミュレータが淘汰されてしまったくらいのインパクトがあった。更新が継続されているのも素晴らしい。 同社のサイトからダウンロード(←該当ページへリンク)して使うべきだろう。

 ネットをサーチすれば使い方も何となくわかると思うので、あえて参考書籍のお薦めは書かない。 情報提供しても「高いものを買わされた」などと反感を持たれたらアホらしい。倹約は美徳かも知れないが吝嗇は進歩に結びつかず。投資したなら、その分じゃぶり尽くそう。(笑)

 この画面コピーは上記の8素子ラダー型フィルタをシミュレーション用に書いてみたものだ。 水晶振動子そのものを書くのではなく、Lm、Cm、Ch、(Rm)に分けて回路図を作成する。 あとはRunボタンを押してから、観測プローブを出力端子に当ててやればグラフィカルに特性が表示される。

参考:私が作ったシミュレータ用ファイルをここ(←リンク)に置いておく。なお、再配布はしないでください。(注意:LT-Spiceがないと意味は無いのでクリックしませんように)

Dishalのシミュレーションを再確認
「簡易設計ソフト」の右側に表示されるグラフと同じものが得られるのか最初に確認しておく。 左図はLT-Spiceによる同条件での結果である。

 各Lm、Cmは設計に使用したのと同じく平均値をインプットする。 またRmはシミュレータのデフォルト値・・・確か10ミリΩだったはず・・・をそのまま使う。 Dishalの設計ソフトと同じく、Quは非常に大きい状態でのシミュレーションと言うことになる。

 同じような結果が得られている。 LT-Spiceでもきちんとしたシミュレーションができている。 まあ、ちゃんとできて当たり前なのだが、これで以降の結果も信用してもらえると良いが。

現実的な水晶でやってみる
 何が「現実的」なのかと言えば、損失抵抗:Rmの値を実際の値としてインプットしている。平均のRm=4.07Ωである。 Quで言えばQu=約158,000と言うことになる。 このQuの数字自体悪いものではない。むしろごく普通の水晶発振子としては優秀な方である。

 さっそく通過帯域の特性に注目しよう。 遮断域に向かう角(カド)の部分が丸くなり、通過帯域は平坦でなく山形で、なおかつ凸凹している。それに、すこし右下がり気味の特性だ。

 「簡易設計ソフト」は水晶発振子は無損失であると想定した結果だ。 現実はなかなか厳しい。 最初の特性グラフを見て「しめしめ、これでフィルタのエキスパート」なんて思ったら残念でしたということに。(爆)

それどころか、さらに現実は厳しいことが次の結果を見れば明らかに。

使用する水晶の実態とは
 これも再掲載だが、念のためにもう一度アップしておこう。 この後で登場する実際の製作に使用した現実の水晶そのものの特性である。 念のため書いておくが、この表の水晶振動子はそもそも選別品であって良く揃ったものを集めてある。無造作に・・まったくランダムに・・・選んだ水晶発振子ではないことを特筆しておく。要するに良いものを選んであるわけだ。

 次のシミュレーションで使った数字もこの表からピックアップした。 従って、これから作ろうとするフィルタの「実態に即した特性」がシミュレーションできるわけだ。水晶を良く選んで作ったんだから、当然良い結果を期待したい。

作ったらこうなるに違いない!
 これは予め書いておくが、シミュレーションよりも現実の方が良くなるのは稀なので、この状態では製作しなかった。 それにシミュレーションを行なう意味は、明らかな失敗作を回避するのも目的の一つだ。

 通過帯域の様子を見れば一目瞭然だろう。 ずいぶん凸凹があって、ずいぶん右肩下がりの特性だ。 最初に見たDishalの設計とかなり違っている。

 入念に水晶を選んでから、(A)〜(C)の手順を踏んで製作してもこのような結果になることがあるのだ。 「きちんと」やったんですが、旨く行かないのは何故なのでしょうね?・・・の、答えがここにある。(C)のところまでやってハンダ鏝を握ったらこうなっただろう。 何が問題なのか?・・・本質的には水晶振動子のバラツキである。

参考:(製作する方への助言)
 Dishalの論文に基づく簡易設計ソフトで設計・製作する場合、水晶振動子(発振子、共振子)のバラツキを抑えるのがもっとも重要です。 これは、直列共振周波数:fsだけでなく各水晶定数についても言えます。 合わせて、なるべく無負荷Q:Quの大きな水晶を使うことにあります。 そのようにして製作すれば旧来の設計では得られなかったような素晴らしいラダー型フィルタが作れます。これは、原理的に正しいことなので確実に行なえば誰でも再現できます。そうならなかったら何かが不十分と言う意味です。



私の試作例
 試作品はこんな感じに出来上がった。 写真から何となく実感が湧くかも知れない。

 8素子用の基板に組み立てた状態である。 流石に専用基板だけあってうまく纏めることができた。 基板設計の段階ではすこし窮屈な印象もあったが製作に支障はなかった。 コンパクトに纏まっているので使い易いユニット部品になった。

 以下の特性はシミュレーションではなく、このフィルタを測定器で評価した結果である。 今のところ試作品レベルだが、忘れてしまう前に途中経過を測定しておく。 当然ながら対策は行なっており、上記のシミュレーションのまま作った訳ではない。 対策の効果を検証するのが以下の測定の目的だ。

参考8素子用基板はまだ幾らか残っているので頒布は可能。 ←品切れです。ご希望があるようなら再製作します。(2015/12/11現在)

概要評価
 横軸のひと目盛りは1kHzである。全体では10kHzと言うことだ。 また縦軸はひと目盛りが10dBになっている。100dBの範囲で観測している。

 通過損失は測定用のマッチング回路のロスが含まれている。マッチング回路のロスを除いた正味の通過損失は10dB以内であった。 通過帯域から約80dB下がったところに少し盛り上がりはあるが、十分な帯域外減衰量だと思う。 中心軸から見た左右の特性は概ね対称になっている。 これは8素子にしたのが効果的だった訳だが、12.8MHzと周波数が高くなったのも有利だ。周波数に比例して水晶発振子のfsとfpの間隔が広くなるためだ。

 但し、周波数が高いのは良いことばかりではない。 中心周波数と帯域幅で考える「フィルタQ」が大きくなることから、High-Qな水晶振動子が不可欠になる。 現実にはQuが不十分な水晶で作ることになるから通過帯域が弓なりになりエッジが丸くなってしまう。改善は可能だが一段と高級な設計・製作になる。

製作者への助言:Dishalの論文に基づく簡易設計ソフトウエアによる設計でもここまで行ける。もしこのように行かないなら、それは本質的に水晶振動子(発振子)のバラツキによるものだ。 まずは使う水晶を精度よく測定することと水晶定数の「バラツキを抑える」ことがフィルタ作りの原点である。良い水晶を選別することで誰でも設計ソフトを頼ってこの特性に至ることは可能だ。

-6dB帯域幅
 中心部分から見て、-6dBの帯域幅を測定してみた。 設計値では2.76kHzだったが、2.55kHzに減少している。 約7.6%の減少なので、違いはそれほど大きくもないが幾らか広めに設計した方が良かったようだ。6素子でも同様の減少傾向があった。

 使用した水晶振動子の無負荷Q:Quがやや小さかったことによる「帯域幅減少」だろう。肩の部分の丸味も同じ理由だ。もちろんQuの問題が原因の全てではない。 通過帯域はフラットとは言えないけれどずまずかも知れない。 

-60dB帯域幅
 上の-6dB帯域幅と。この-60dB帯域幅でシェープ・ファクタ(形状比)を計算してみよう。

 -6dBが、2.55kHzで、-60dBが4.312kHzであった。 従ってシェープ・ファクタ:k=Bw(-60)/Bw(-6)=4.312/2.55=1.691である。 理想はk=1であるが、2以下であれば一般的なSSB用クリスタル・フィルタとしては合格点だと思う。

 SSB送信機において逆サイドの漏れは気にならないだろう。 受信機に使っても切れの甘さを感じることも無いだろう。

キャリヤ周波数は
 実際に使うときに必要なキャリヤ周波数を測定しておこう。 幾らか不満はあっても、いきなりジャンクにはせず、SSBジェネレータにでも使ってみたい。

 USB側が:f(USB)=12,795.075kHz
 LSB側が:f(LSB)=12,797.962kHz
 ・・・となった。

 どちらのキャリヤも発生させ易い周波数だ。 参考までに、両キャリヤポイントの中心をフィルタの中心周波数とすれば、fc=12,796.520kHz(概略)となる。 送受信機の設計では、フィルタの中心周波数はこの周波数で行けば良い。

あらためて、通過域の特性を見る
 「試作品」と言うのは、この特性に少々不満があるからだ。 画面のマーカーはピークから3dB下がったところ。 一応、急峻な部分にはあるのだが・・・。

 横軸はひと目盛りが500Hz、縦軸はひと目盛りが1dBの拡大目盛りになっている。 だから、通過帯域の平坦度が誇張されて蒲鉾型に見えているのではあるが・・・。 もちろん、「ちゃんと」やっているので右肩下がりもほぼ解消している。

 これで現実のRm=4.07Ωを考慮した状態でシミュレーションした結果と等価と言ったところだ。 注目すべきはDishalの論文準拠の(簡易)設計ソフトでもここまでは行けるということ。もちろん、それ以上は設計を変えないと無理だが・・・。

本当の0.1dB Chebychev型はこんなに丸くないのだ。(笑)

帯域外減衰を見る
 通過帯域外の減衰状態を見ておく。 横軸は全体で100kHzである。 縦軸は全体で100dBだ。

 通過域を画面の上端に合わせて見ている。 従って、フロアの部分は約-90dBと言うことになる。 多少左右で異なるが、まずまず支障のない性能だと思って良い。

 基板設計が悪いとこのように良好な性能が得られない。 無用な信号の結合が起こらないようにコンデンサと水晶の配置を入念に調整して頂いたのでその効果があったようだ。この性能から専用基板の出来がわかる。 コンパクトに纏めた構造を考慮して優秀な方だと思う。 あとは回路への実装に気をつけて、特性が劣化しないようにしたい。

                   ☆

 「Dishalの論文に基づく簡易設計ソフト」だけで見ていたのでは完全な設計にはならないことがご理解頂ければBlogの意味があったことになる。 特定の状態を前提にした設計では、得られた結果が予想外になったとしても不思議ではない。まったくバラツキのない水晶発振子など無いのだから。 もちろん、旨くないなら手だてはある。見た通り、手だてを行なえばかなりまで行けるのだから有用性がないわけではない。だからもう過去の設計に戻る必要はないのである。

 検討を進める過程で、きちんとした製作にはある程度マトモな道具が必要なこともわかってきた。 (シンセサイザ式の)SSGとRF電圧計(=RFミリバル)くらいでも、何とかなるが効率は低いだろう。それさえ用意できないと「闇夜で手探り」になってしまう。 できたらTG付きのスペアナやネットアナがあると良い。それら測定器も物を選ぶ必要がある。 製作のハードルは高くなってしまうが現実である以上、甘言を退けて正直に書いておく方が良さそうだ。 道具とそれを使いこなす技術は欠くことができない。

 それと水晶定数はLmとCmだけでは不十分だ。損失抵抗:Rmの値も掴んでおかないと確認のシミュレーションができない。必ずシミュレーションしてから作る方が良い。 LmやCmは発振周波数シフト法で良い。Rmの方は「W1FB's Design Notebook」にある様な測定治具が欲しい。
 高性能なフィルタ作りともなればイージーにとは行かないのは当たり前かもしれない。80%くらい確立できたと思っているが、もう一度整理し直そうと思っている。さらに幾つかフィルタを作ってみる必要があるだろう。今も検証は進んでいる。de JA9TTT/1

つづく)←音の良いCWクリスタルフィルタにリンク。

4 件のコメント:

T.Takahashi JE6LVE/JP3AEL さんのコメント...

おはようございます

メッシュチューンを行っても理想値とはかなり異なる結果になるんですね。
さすがにここまで性能を求めると水晶発振子や測定方法のハードルが上がってきますね

TTT/hiro さんのコメント...

JE6LVE/JP3AEL 高橋さん、こんにちは。 お天気は回復したんですが、強風でアンテナが心配な状況です。

さっそくのコメント有り難うございます!
> 理想値とはかなり異なる結果に・・・
はい、はい、これが・・・芳しくない特性になるんです。(笑)

> 水晶発振子や測定方法のハードルが上がってきます
高性能なフィルタを目指す以上、少なくとも目標の性能が実現できているのか評価できる必要があるでしょう。 漠然と作って出来上がるものではありませんから・・。 高橋さんのシャックは製作環境バッチリですね。

今回のBlogには書いていないんですが、水晶の方のハードルは幾らか下げられそうです。

JR2FNK さんのコメント...

加藤さん

こんばんは、鶴田です。先ほど帰宅しました。

特性がかなりシャープに出ていて、90dBも減衰していますので、最高の出来なのではないでしょうか?
かと言ってそう簡単には作れそうにはありませんが...

基板として性能が出たのは安心しました。

次回作ですが、変更する箇所がありましたらお知らせください。

当方の基板も仕上がってきましたので、新年会にはもろもろ持参します。

それでは、また!

TTT/hiro さんのコメント...

JR2FNK 鶴田さん、おはようございます。

コメント有り難うございます。
> 基板として性能が出たのは安心しました。
とても旨く行ったと思います。 コンパクトに纏めていますので結構難しいだろうと思っていました。

> 変更する箇所がありましたら・・・
有り難うございます。 変更が必要な箇所は特にないと思います。

こちらこそ、またよろしく!