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2017年12月18日月曜日

【回路】High Level Diode-DBM,Part 1

ハイレベル・ダイオードDBM:第1回
 【Diode DBM
 高性能IFアンプの次はミキサー回路というわけでもないのですが、久しぶりにダイオードDBMがテーマです。 写真はRFトランスを2つ、ダイオードを4本使ったDBMです。

 4ダイオードのDBMなんて、なんの変哲もないように見えるのですが、大きな信号が扱えて、IMD歪みが小さく高IIP3が期待できるそうです。 また、出力側の終端条件が緩いので負荷の自由度が高いともいわれています。 一度は実験してみたいと思っていました。

 ダイオードを使ったDBMといえば市販品も多く、今では定番化しています。 ゲインの無いパッシブな回路なので比較的大きな信号まで歪みなく扱えるのですが、昨今は無線機のミキサー回路といえばFETを使ったスイッチングタイプが全盛になっています。おなじようにパッシブな回路ですがダイオードDBMでは達成できない高IIP3が実現できるからでしょう。 しかし、入力トランスの構造を変えた(工夫した)このDBMは従来型のDiode DBMより高性能だというレポートがあります。 普通の受信機用ミキサならIIP3>20dBmくらいあればまずまず優秀といえますが、実力はどんなものでしょうか。

 どの程度の性能が得られるのか、まずは試作のポイントなどをまとめておきたいと思います。実用例も見ておきましょう。 詳しい評価は年明けに行なうつもりです。 大晦日もせまってきました。 暮れは忘年会を楽しむとか、年賀状書き、大掃除など年越しの行事に励むことにしましょう。(笑)

試作回路
 左図のような試作回路でテストします。 この回路の特徴は信号入力側のトランス(T1)が、ペントファイラ巻きになっていることにあります。 「ペントファイラ」とは5つの巻線が並列に巻かれたことをいいます。

 参照したオリジナルの回路図には明確なことが書かれていないため部品や構造の詳細はわかりません。しかし、平衡度を保つためには各巻線が均一で良くバランスしてコアに巻かれていなくてはなりません。それでペントファイラ巻きにするわけです。 各巻線の結合度を上げるためには透磁率:μの大きなコアを使います。コアの形状もトロイダル型よりもメガネ型がベターです。 試作に使ったコア材についてはのちほど説明があります。

 回路をよく見ると標準的なDiode DBMの入力側トランスの巻線を2つに分けただけともいえます。 従って動作も同じように考えられますから解析は容易です。 そう見ると従来型とさした違いはないのかも知れませんが、まあやってみることにしましょう。 巻線が増えたので、くれぐれもその位相関係を取り違えないようにします。 あたり前ですが接続を間違えたら正常に動作してくれません。

 ダイオードは、逆耐電圧が高いRF用のショットキ・バリヤ・ダイオード(SBD):1SS97(2)を4本使います。このDBMでは大きめの局発を与える可能性があるため逆耐電圧が高いものを選びました。SBDによっては逆耐電圧が数Vしかないものがあります。また、順方向の抵抗値(ON抵抗)が低く逆方向の抵抗値が高いほど良いはずなのでGe-Diは不適当です。 HF帯で使うのなら高速スイッチング用のダイオードでも良くて、必ずしもSBDでなくても良いのかもしれません。このあたりもあとから比較してみましょう。 局発入力端子の抵抗器:R1、R2は180Ωから実験を始めます。

 出力側のトランス(T2)はトリファイラ巻きのトランスです。これはごく一般的な構造なので改めて説明の必要はないでしょう。自作も容易ですが、ここでは手持ちの既製品を使います。

 このDiode DBMは、信号の入力と出力端子は互換性があります。どちら側から信号を加えてもうまく働きます。しかし局発の端子はそれ専用です。 また、局発の端子を決めてしまうと、低周波から入力可能なポートはなくなります。そのため平衡変調器:バランスド・モジュレータ(バラモジ)には適さないことになります。高周波信号のミキサー回路専用になります。

 実際の使用例としては、米軍用の野戦用ポータブル・トランシーバPRC-74Bの送・受信ミキサ回路があります。以下、RT-794 / PRC-74Bについて触れておきます。

 【RT-794/PRC-74Bとは
 2〜17.999MHzをカバーするSSB/CWトランシーバです。 周波数は1kHzステップの水晶式シンセサイザになっていてTCXO内蔵で校正を行なった後の周波数精度は1.5ppm以内(-30℃〜+50℃において)です。

 中間周波(キャリヤ周波数)は1,750kHzでSSBはUSBモードのみです。AF発振器を内蔵しその発振器をキーイングするA2J(J2A)モードでCWの運用も可能ですが、補助的なものかも知れません。 出力は15W(PEP)です。 1960年代なかばの設計らしいのですが、全半導体式でほぼすべての回路がシリコン・トランジスタ化されています。(その当時の日本ではゲルマニウム・トランジスタが全盛期でした) 電源電圧は標準+12Vで、10.5〜17Vが仕様範囲です。 アンテナチューナを内蔵していてホイップアンテナのほか様々なアンテナで運用できます。製造はヒューズ社です。

 おもに野戦用のポータブルなトランシーバーで、写真では底部に乾電池ボックスが装着されています。比較的ハイパワーなので乾電池では寿命が短く「銀電池」を使うのが標準のようです。 スピーカ出力はなくヘッドフォンで受信します。 装備としてマイクと太ももに装着する形式の電鍵が付属します。 以前、このBlogでは非常用のRigとして扱ったことがありました。1993年10月末ころFair Radio Sales Co.より入手したものです。軍用無線機の研究目的には面白いのですが、HAM局のオンエアには使いにくいと思います。


受信部・ブロック図
 PRC-74Bの受信部を見てみましょう。受信部はIF周波数が1750kHzのシングルスーパになっています。

 RFアンプの後の周波数変換はダイオードDBMです。(ここが問題のDBMです) その局発は1kHz、10kHz、100kHz、1MHzステップで発振する水晶発振器の出力をミキシングすることで1kHzおきの周波数を得る水晶発振式の周波数シンセサイザです。たくさんの水晶発振子を使った贅沢な方式です。

 ダイオードDBMにつづき1段のバッファアンプを通ったあと、USB用のクリスタルフィルタに入ります。 IFアンプは2段でRFアンプとともに手動でゲイン調整できるようになっています。 SSB/CW検波回路はトランジスタ1石のプロダクト検波です。 検波後は簡単な低周波アンプになっておりヘッドフォンを鳴らします。

 特徴的なことはAGC回路が無いことです。 その代わりたった一つのツマミで広範囲に渡ってスムースにゲイン調整ができます。 低周波アンプのゲインは固定ですが、RFアンプとIFアンプのゲインを連続的に変えることで適切な受信音量に加減できるようになっています。SSBトランシーバはこのような方法が合理的だという考えなのでしょう。  これは、このトランシーバの使用想定から、電離層反射波を使う遠距離通信はあまり考えておらず、地表波による近距離交信が主だからでしょう。 交信相手との距離とともに信号強度が下がるのをゲイン調整で加減しつつ使うようになっているのでしょう。一対一の交信を想定しているようです。

 ゲイン調整はRFアンプ及びIFアンプの両方にいわゆる「フォワードAGC用トランジスタ」を使って行ないます。2N3339と言うMIL規格のNPNトランジスタです。 フルゲインから最低感度まで、Logリニヤ的にゲイン調整できるため非常にスムースです。
 シャックでの受信テストではAGCがないと不都合があるため低周波駆動式のAGC回路を付加して実験していました。 1kHzステップのチャネル式ですからHAMバンドのワッチには向きませんがDX局もけっこう良く聞こえます。 フォワードAGC特有と言うか・・・なかなかスムースなAGC特性が得られました。

 7MHz帯の大きなアンテナを繋いでも特に混変調なども感じず良く聞こえました。ミキサー回路の性能が活きているのでしょう。 近接して多数の電波が飛び交う環境で使われる可能性もありますから多信号特性を考慮した設計なのでしょう。

RFアンプとミキサー回路
 RFモジュールの回路を詳しく見ましょう。 入力信号は2段の入力同調回路で選択されたあと高周波増幅されます。 この高周波増幅回路は先の説明のようにマニュアルでゲイン調整できます。 RFアンプの後にもう1段の同調回路が入ります。

 RFアンプのあとが問題のダイオードDBMです。 このDBM回路はメーカーであるヒューズ社の部品番号が書いてありユニット部品化されています。おそらく市販された部品ではありません。 詳細は良くわからないと言った方が良いのですが、例えばLA8AK(Jan-Martin Ning. 故人)の記事にあるLA7MI (Stein Trop)のレポートによれば高性能が得られたとあります。HAM関係の書籍で見掛けた記憶もあったのですが発見できませんでした。良く見掛けるDi-DBM回路との違いが気になるところです。

 PRC-74BはNATO軍向けに技術供与されたらしく、ネット情報によれば英Redifon社のGR-345Bと言う型番で生産されたようです。 回路は基本的に同じですので、ここではオリジナルであるPRC-74Bの回路図を参照しました。

 このRFモジュールには局発の最終段アンプがあり、スプリアスを低減する目的から増幅周波数は受信同調と連動するようになっています。 また、件のミキサーは送信時にはIFユニットから来る1,750kHzを搬送周波数とするUSB信号を送信周波数に変換するためにも使われます。 信号の流れは双方向と言うことになります。 送信時にもRFアンプは使われ増幅後は送信パワーアンプユニットへと送られます。このRFアンプは送信時にはALCが掛かるようになっています。

 PRC-74Bですが、かなり少ないデバイス数で実用的な性能を得ています。 周波数シンセサイザ部を除けばゴテゴテしていないのは私好みといえます。HAMがSSBトランシーバを自作する際にもたいへん参考になる回路構成です。 今の時代ですからシンセサイザ部をDDSで簡潔にし、HAMバンドにしぼってカバーするように設計すれば面白いRigになりそうです。もちろんIFやRFアンプには2SC1855のような専用トランジスタを使ってフォワードAGCを掛けましょう。

 【トランス:T1のコア材
 ペントファイラ巻きのトランスを作るにはメガネ型コアが欠かせません。
 ここではBLN-43-2402(米Amidon社の型番)というメガネコアを使いました。 メガネコアを使う人は珍しいらしく米国からの通販を除けば入手できるところは限られます。 幸い、BLN-43-2402が秋葉原の斉藤電気商会(ラジデパ3F)で入手できました。

 しばらく前に購入したもので店頭には#43材とだけ書いてあったように思います。 実測寸法からBLN-43-2402で間違いなさそうですが、フェライトの材質を確認するために巻線してからインダクタンスを測定しました。 3回巻きで18μHくらいでしたので計算よりもやや大きめですが#43材(または同等品)と思って大丈夫そうでした。

 メガネコアはこうしたトランスには最適ですからパーツボックスにいくつか忍ばせておくと役立つことがあるでしょう。 コアの仕様を簡単にメモしておきました。


DBMに使うトランス
 ペントファイラ巻きのトランスといいましたが、実際にはテトラファイラ巻きの2次側+単独巻きの1次巻線の構造で作りました。

 平衡度が重要なのは2次側にある4つの巻線です。 広帯域特性は求めないため1次側を別巻きにしても支障はないという判断です。 実際に5本もの巻線をよじって巻くと間違いやすいのでこのような形式のほうがいくらか容易です。もしダメな場合は巻き直す必要があるかも知れません。 写真の物はインダクタンスから考えて3.5MHz帯あたりまでが良くて1.8MHz帯には4〜5回巻きに増やす必要があります。

 今後、評価の際に平衡度は局発のサプレッションとなって現れるでしょう。好結果を期待したいと思います。 例によってブレッドボードでテストしますので小型基板に実装しておきました。このようにしておくと取扱いが容易です。 このトランスは位相関係が極めて重要ですので絶対に間違いが生じないように十分確認しながら配線します。組み上がってからの再確認はかなり厄介です。(間違いを見つけて修正するのはほぼ絶望的なので巻き直した方が手っ取り早い)

 出力側のトランス:T2はごく普通のトリファイラ巻きのトランスです。 自作品でも良いのですがここには既製品を使うことにしました。

 ミキサー回路として455kHzといった低い周波数への周波数変換も考えています。 アウトプットの周波数が低くなればトランスは大きなインダクタンスが必要です。 たくさん巻かなくてはならないので自作は厄介です。 たまたま十分なインダクタンスを持った既製品があったので使ってみます。 使用する周波数に応じたものを巻けば良いのですからHF帯に周波数変換するなら作りやすくなります。 このような既製品がなくても実験できます。

 なお、このミニサーキット社のトランス:TT1-6に使ってあるコア材は何でしょうね? 透磁率:μ(ミュー)の大きなコア材を使っているはずです。 コア材によっては信号レベルが大きくなるとトランス自身でIMDが発生するかも知れません。 様子を見ながら必要に応じて交換しながら確認したいと思っています。

                   ☆

 何だか予告編のようになってしまいました。 回路検討とトランスを巻いただけで年内はおしまいです。 取りあえずDBMとして動作していることまでは確認しました。 このあとは周辺回路や測定機器の準備が幾つか必要なので評価は年明けにしましょう。 うまく行ったら良いのですが、お正月にでもじっくり取り組んでみたいですね。 2017年も終わります。良いお年をお迎えください。 ではまた。 de JA9TTT/1

(つづく)

2017年12月4日月曜日

【回路】AD603 IF-Amp. Design

回路:AD603を使った高性能IFアンプの設計
 【AD603とは?
 AD603は表面実装型の8ピンICです。ピン・ピッチは1.27mmですからハンダ付けは難しくありません。

 このICをご存知なら一度は高性能な受信機の自作を志したことがあるのでしょう。 低歪みでローノイズ、しかも利得の可変範囲が広く、通信型受信機の中間周波増幅回路(IF-Amp,)にピッタリなICチップだからです。

 写真の上段は15年以上前のもので、下段は最近になって中華経由で入手されたものです。 比較してみましたが、どちらも同じように使えました。

 2002〜3年頃だった思います。 AD603がAnalog Devices社から発表されると、いち早く入手されたお方がありました。(たしかJA2EQP鈴木さんでしたか・・) カタログの検討から高性能な受信機に使えるとお考えになったのでしょう。同好者の試用をご期待されたらしく数名のお方に分配されたようです。それで私にも3つほど届いたようでした。
 面白そうなチップとは思ったのですが、当時は正規のサンプル入手しか方法はなく、しかも結構高価らしいとあって、さして興味を持てませんでした。(他の方法もある訳ですし) 幾らFBなチップでも入手が難しければ多くの人にとって絵に描いた餅です。製作・実験レポートを書いても単なる自慢話で終わってしまうかも知れません。活用のための情報が不足していたこともあって、すっかり忘れてしまったのでした。いま頃なにですが申し訳なかったです。(笑)

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       (あんなこと、こんなこと、色々あってこの間15年以上)

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 ところが、最近になって中華系の通販ショップに格安なお値段で出回っているとの話しが舞い込んできました。 それで纏めて購入されたと言う自作好きの仲間から再びサンプルを頂く機会があったのです。写真下段がそれです。(VY-TNX ! JA6IRK 岩永さん) AD603と言う型番に記憶があったので、パーツボックスを掻き回したら写真上段の物も見つかりました。 コストや入手性と言った課題が改善されたのであれば試用してみる価値も生まれてきます。 旨くすれば自作用の標準パーツにできるかも知れません。 いま頃になって検討してみたのがこのBlogのお話しです。

                   ☆

 最初にまとめ(感想)を書いてしまいます。 このICは、はなから高性能を目指した受信機にこそ採用すべきです。 ごく簡易に使うことも可能ではありますが真価を発揮しないでしょう。 非常に高性能なAGC特性を持ったIF-Amp.が作れますが、それは同時にハイゲインと言う事でもあるため、うかつに扱えば発振などのトラブルで手がつけられません。 特性上クリチカルな所もあるので初心者向きとも言いかねます。

 ある程度の自作経験をお持ちでしたら、以下の試作結果は通信型受信機製作のヒントくらいにはなるやも知れません。 例によって自身の備忘がおもな目的のためわかり易さは配慮されていませんが、もし興味があればどうぞ。

 【AD603の内部構造
 まずはAD603の中身を理解しましょう。 メーカーの資料によるとAD603の内部は左図のようになっています。 入力部分に可変型の減衰器(アッテネータ:ATT)が置かれ、そのあとに利得固定のアンプが置かれています。 このアッテネータは6dB刻みで7段に切り替えられます。(計42.14dB) 切換えはAGC入力端子の電圧によりステップ状に行なわれます。 なお、利得固定のアンプは外付け抵抗でゲイン(増幅度)をプリセットすることができます。ゲインの設定範囲は約31〜51dBです。

 入力と出力端子間の増幅度は入力部のアッテネータによってのみ可変することができます。アンプ部分のゲインは半固定されており変わりません。 いまアンプ部のゲインを40dBにセットしたとすると、AD603一つで-2.14dB〜+40dBのゲインに可変することができます。

 アッテネータもアンプも広帯域であるため、AD603自体も広帯域です。 カタログによれば低周波帯から90MHzまでカバーするとのことです。 広帯域な可変利得アンプとして使うことも可能ですが、通信機への応用では狭帯域なアンプとして使うのが普通でしょう。 また、このIC一つでは50dB程度(300倍くらい)のゲインしか得られません。高性能な受信機のためには2段増幅する(2個使う)必要があります。なお、1段当たりのゲインを落として3個使う方法もありますが、その必要性は低いと思います。

 回路はアンプの前に置いた可変アッテネータでゲインを変える形式です。アンプ回路部分の動作状態を変えてゲインを絞る方式ではないため多信号特性に対しては有利です。 アンプは広帯域のOP-Amp.と同じような負帰還増幅器になっているようですから歪み特性は優れます。 アッテネータ部分は拡散抵抗ではなく薄膜抵抗で作られているようなので歪みの発生はわずかでしょう。 このようなことから歪みの少ない可変利得のIF-Amp.が実現できます。特に入力信号が大きくなった時に有利です。

 R-2R抵抗網を使ったアッテネータを入力部に置く形式なのでゲインを絞った状態でのNF(= Noise Figure:ノイズ・フィギャ)は絞っただけ悪くなる筈です。 しかしIF-Amp.として使う時は元々狭帯域ですし、対象の入力信号が大きいからゲインを絞るのですからNF劣化によるS/N低下が問題になることは稀でしょう。 実際に2段カスケードのIF-Amp.で観測してみてもこの種のハイゲインアンプとしてはローノイズです。

# 平たく言えば、AD603は入力の所にボリウムが付いたアンプ用のICと言う訳です。その入力部のボリウムは電圧で加減できるのですね。hi

 【AD603の使い方
 メーカーの資料に出ている2段アンプの例です。 広帯域アンプの設計で、AGC回路も付いているためこの回路から実験を始めるのが普通でしょう。

 示唆に富んでいるのはAGCの掛け方にあります。 多段アンプを使い広範な入力信号の大きさに応じて、自動利得調整:AGCを行なう場合、全部の増幅段を同じように利得制御するのは得策ではありません。

 増幅回路のNFを最小にし、S/Nを良くするには、信号が小さい部分の増幅度を大きくすべきです。 例えば、2段アンプで60dBのゲインを得る場合、前段30dB+後段30dBとするのではなく、40dB+20dBのようにすると有利なのです。

 低ノイズのアンプでもゲインを絞るとNFは劣化します。従って多段アンプの場合は前段の利得はなるべく絞らないのが設計上のコツになります。

 この回路例は2段増幅になっており全体で約80dBのゲインになっています。 信号が大きくなって行くと、まずは後段からゲインを絞って出力が一定になるように制御されます。 入力がどんどん大きくなると、後段はややマイナスゲインの所に落ち着きます。
 さらに入力が大きくなると今度は前段のゲインが40dBから絞られて行くようになります。 非常に大きな信号が加わると、最終的に全体で0dB(1倍)を下回るゲインに近付くよう動作して広範囲の入力電圧変化に対して出力電圧が一定になるように制御されます。もちろん自ずと限界はあって、試作例によればおよそ120dBμV(アンプ入力では0.5Vrmsあたり)を超えた所に限界がありました。(さらりと書きましたが、これはすごいダイナミック・レンジです)

 このように、シーケンシャルにゲインが制御される仕組みは実際の受信機でも有効ですから実用のIF-Amp.でも採用すべきでしょう。 その効能などメーカーのデータシートに詳しく書かれていました。

 なお、この回路図にはたいへんシンプルなAGC回路が記載されていますが、データーシートにあるように旨く動作させるのは難しいようでした。それに、あまり調整のしようがないのです。 受信機におけるAGC回路は非常に重要であり、立ち上がり特性、レリーズ時間、またAGC回路自身の制御ゲインなど任意に加減できる必要があります。 そのため、例示されたような簡易なAGC回路では不十分と考え、独自の設計で行くことにしました。

                   ☆

目標性能
 何も目標や方針がなければただの駄文になってしまいます。最終的にHAM局用の受信機として纏めるため、大まかですが以下を方針に実験しましょう。

(1)ゲイン:高感度な受信機として必要な80〜100dBを得る。
(2)AGC特性:入力の変化80dB(1万倍)に対して、出力の変化は6dB(2倍)以下。
(3)低ノイズ:IFアンプ単体として、NF=10dB以下が目標。
(4)IF周波数は、455kHz〜15MHzの範囲で任意に選べること。
(5)一目盛りが約6dBになるようなSメータ回路。
(6)電源電圧は12V以下。単電源で動作。消費電流は少ないほど良い。
・・・などです。

想定する受信機の一例
 このBlogでは受信機全体を扱う訳ではありません。 従って目的や用途が少々イメージし難いかもしれないので想定する受信機の一例をブロック図にしておきましょう。 

 Blogでは主に色塗りされた回路部分について書かれています。青色の部分がAD603を使った中間周波増幅:IF-Amp.の部分で、AGC回路とともにこのBlogのメインテーマです。 緑色の部分はSSB/CWの復調と低周波アンプで、ここはオマケ程度の内容です。もちろん、オマケではあっても十分実用になります。(笑)

 この例ではシングルスーパの回路構成になっています。 中間周波は12.8MHzで、選択度を決めるフィルタとしては過去のBlogで扱った「8素子のラダー型クリスタル・フィルタ」を想定します。  中間周波が高いので、十分なイメージ信号除去比が得られますから50MHz帯以下の受信機であればダブルスーパの必要性はありません。 PBTなどアクセサリを付加する目的でもあれば別ですが、このままの回路構成で十分な性能を発揮できるでしょう。

 もちろん他の回路構成も考えられますので目的に応じて変更すべきです。 ことにフィルタより前の部分は色々考えられます。 例えば選択度を決めるメインフィルタが5MHz以下の場合はダブルスーパ構成にした方が良い筈です。 特に50MHzの受信機など、受信周波数が高い場合は必ずそうすべきでしょう。 このブロック図は説明用ですから、これにとらわれる必要はなく設計の自由度は高いと思います。

                   ☆

 【AD630 IF-Amp.の試作
 例によってブレッド・ボード(BB)で試作しています。 100dB近いゲインの高周波回路の実験には向いていないのは重々承知の上です。 しかし逆に言えばBBで安定に動作させることができたなら、基板化した時にも十分安定に働くでしょう。(参考:100dBは電圧比で言えば10万倍)

 初めて使うデバイスでしたから、最初は「発振」などの不安定な動作に悩まされました。 しかし、現在はこの状態でたいへん安定して動作しています。安定動作のための秘訣などを交えながら話しを進めたいと思います。

 このBBの状態で以下に示す回路図の全ての部分を含んでいます。 受信機として完成させるには、この回路の前にIFフィルタやミキサー回路、高周波増幅などが必要です。

 またSSB/CW用受信機を想定しているので、この後ろにSSB検波器や低周波増幅回路も必要です。その部分については後ほど簡単な一例があります。

# 受信機全体は、前出の「通信型受信機のブロックダイヤグラム例」も参考にどうぞ。

AD603 IF-Amp.回路図
 AD603を2つ使い、約90dBのゲインを持つIF-Amp.の設計例です。 電源電圧は10Vの単電源で設計しました。 高性能なAGC回路を構成しています。 後ほど実測データで示しますが、入力信号が100dB(10万倍)変化しても、出力はわずか4.3dB(1.65倍)しか変化しません。

 AGCはFastとSlowの時定数に切換えできます。 Slowはやや短めの時定数になっていますが、C21: 4.7μFを大きくすれば長くできます。 立ち上がり時間は早めの設定ですが、こちらはAGC制御系の安定性が関係するため現状が良いところです。 併せてRFアンプにもAGCを掛ける際には、全般的な見直しが必要になる可能性も有ります。

 お薦めなのは、せいぜい20dB程度のゲインにとどめた・・・但し少々では歪まない強力なRFアンプと、低損失なミキサーを前置し、IFフィルタも良くインピーダンスマッチングを行なってロスが多くならないようにすることです。 このIFアンプは十分なゲインを持っていますから、少なくともローバンドでは感度不足を感じることはないでしょう。

 回路にはSメータ駆動回路も含まれます。 Sメータは上手に設定すれば概ねLogリニヤな指示をします。S一つあたり、約6dB刻みが実現できます。250〜500μA程度の電流計を使います。 ラジケータでも良いですが振れ方がリニヤでないので振れに合わせた目盛板を製作する必要があります。

 基板化する際は、GNDパターンを広く取り・・・できたら片面は全部GNDにするとか・・・RF回路の配慮を行ないます。 また理想を言えばAD603は各段がGNDで囲まれるようにすればベストでしょう。 Pin4、Pin8番の回りに接続されているバイパス・コンデンサは各ピンに最短距離で実装し十分な面を持ったGNDに最短距離で接続します。

使用デバイス情報:AD603ARZ・・・Aliexpressで検索して下さい。 LMC6484AIN・・・LMC6482AINを2個で代替可。 1N270・・・Ge-Diです。1N60等で代替可。 1S2076A・・・SW用Si-Di。1SS270Aまたは1N4148等で代替可。 AN8005・・・3端子レギュレータ、78L05で代替可。 以上はAD603を除き秋月電子通商にあります。

 【AD603の初期テスト状態
  最初はAGCのことは考えないで2段の電圧可変ゲイン型のアンプとして実験を始めました。 左上のVR(青い角形)でAGC端子の電圧を変え、ゲインを可変します。

 この状態では安定な増幅は困難でした。 2段増幅で最大ゲインは80dB以上得られるようでした。 しかしプローブであたって観測しようとすれば発振が起こります。 いろいろ工夫してみたのですが、このままではほとんど使い物になりません。

 もちろん、ブレッドボードなのも宜しくないのですが、安定でないのは本質的な問題と言えましょう。 基板化してもレイアウトに多少の不備があったら発振に至る危険性は常にあるでしょう。従って実用にするには何らかの手だてが必要なのは間違いありません。

 【AD603のバイパス・コンデンサ
 基板化して各足ピンの直近にバイパス・コンデンサが付けられればこのような実装は必要ありません。 但し、バイパス・コンデンサの入れ方はかなり重要であることがわかりました。

 上記のようなブレッドボードの実験でも、もちろんなるべく最短距離で電源端子などがバイパスされるように考慮しています。 しかし変換基板内のパターン長やブレッドボードにおける配線の取り回しでは、バイパス・コンデンサが効果的に働かないのです。 ブレッドボード上で回路的に同じになるようにコンデンサを入れても安定しません。 結局、変換基板上に直接バイパス・コンデンサを搭載しました。 特にピン4番(Common)とピン8番(VPos)間のパイパス・コンデンサが効くようです。

 これで安定動作の50%は確保できたような感じでした。 AD603を単体で使っている限り発振も起こらず安定して増幅しくれます。しかし2段増幅ともなればこれだけの対策では済まないのです。

AGC回路
 AGCについて、詳しく始めるとキリがないのでざっと説明しておきます。 実はこの種のSSB/CW用受信機では最も奥深い部分です。その良し悪しによって受信フィーリングは全く異なるほどです。

 AM受信機のように、入力信号に搬送波(キャリヤ)が存在する場合は「平均値AGC」が使われます。 これは、キャリヤの強さに比例したAGC電圧を得て、平準化してAGC信号とすれば良いので回路はごく簡単です。 AMラジオや昔の高1中2のようなAM時代の受信機でお馴染みの方式です。

 しかし、SSBやCWで良く効くAGCを考えると、断続するキャリヤあるいはそもそもキャリヤの無い信号でAGCを効かせなくてはならず簡単には済みません。 一般に、入力信号の最大値(尖頭値)を検出し、その信号電圧を元にAGCを効かせた上で、一定時間だけ保持するような動作が必要です。

 ここでは、ダイオード検波した信号を30倍くらい増幅し、さらに一種の整流回路でピーク値を検出します。 その電圧で速やかにコンデンサをチャージし、そのチャージをゆっくり放電することで必要な戻り特性を得ています。 さらに、AD603のAGC特性に合わせて、電圧変化の方向を合わせるとともに、電圧最適化のためオフセットを掛けています。

 使用しているOP-Amp.:LMC6484AIN(写真)はC-MOS構造の4回路入りOP-Amp.です。レールトゥレールの入出力特性を持っており、片電源のDCアンプ回路には最適なものです。 他のC-MOS OP-Amp.でも良いのですが、容量性負荷に対する安定性など必ず検討した上で代替するようにします。 使用している抵抗器の大きさや、電荷の保持容量などの関係でバイポーラ入力のOP-Amp.、例えばLM324などでは大幅な回路定数の見直しや回路そのものの再検討が必要になるでしょう。回路図どおりのLMC6484または2回路入りのLMC6482を2つ使うと間違いありません。 これらOP-Amp.はトランジスタ技術誌の「私の部品箱」と言うコラム記事でも紹介したことがあります。

段間にフィルタを入れる
 安定動作の話しの続きです。 AD603の2段アンプを安定に動作させるもう一つの秘訣は、段間にフィルタを入れることにあります。 要するに広帯域な2段アンプではなくするのです。
 1段ごと独立ならまったく安定に動作することから、広帯域のままカスケードに接続するのが宜しくないと結論づけられました。 頭を冷やして考えればゲインが80〜100dBにもなる高周波広帯域アンプを安定に働かせるのが難しいのはすぐわかるでしょう。

 フィルタの周波数はある程度任意に選べるはずですが、最初は10.7MHzのFMラジオ用セラフィルを段間に入れて実験していました。それでとても安定して動作するようになったのですが、当然ながら10.7MHzのアンプになってしまいました。10.695MHzのSSB用クリスタル・フィルタをお持ちならそのまま行けますけれど・・・。

 そこでセラフィルに代わり、2素子のラダー型クリスタル・フィルタに置き換えることにしました。IF-Amp.の入力部に置く本格的なメインフィルタは製作済みの12.8MHzのSSB用ラダー型フィルタ(←リンク)を使うと想定し、途中のフィルタをそれに合わせる訳です。もちろん、他の周波数のフィルタを使いたいならそれに合わせます。

 図は、AD603の段間用に12.8MHzの水晶を2素子で作る簡単なラダー型フィルタを設計している様子です。 Dishalの論文に基づく簡易設計ソフト(←リンク)を使います。 このBlogでは既にお馴染みのものですが、こうした検討にはかなり重宝します。 素子数を少なくしているのは、途中のロスを少なくすると言う意味もありますが中間のフィルタによる信号遅延を小さくするのが目的です。ここで遅延が大きくなるとAGCの時定数設定に影響が及びます。 応答性に優れ、深いAGCを掛けることが難しくなります。 途中のフィルタはせいぜい2〜3素子くらいのごく簡易なものにすべきでしょう。 旨く設計すればLCフィルタでも行けます。

 【12.8MHz ラダーフィルタ
 写真は実際の段間フィルタの様子です。 インピーダンス・マッチングは抵抗器で行ないます。 AD603の出力インピーダンスは非常に低くて数Ωしかありません。 また、入力インピーダンスは約100Ωです。

 フィルタの帯域幅などを旨く選んで、なるべくAD603の入出力インピーダンスに近いように設計するのがコツでしょう。もちろん、メインフィルタよりも帯域幅は広くなくては旨くありません。 この12.8MHzのフィルタでは、帯域幅3kHzの設計で入出力インピーダンスは約120Ωになりました。 従って、フィルタの入力側・・・即ち、前段のAD603の側に120Ωを入れ、フィルタの出力側・・・後段のAD603の側には22Ωの抵抗器を直列に入れてマッチングを取っています。 このようにして旨くインピーダンス・マッチングするとともに数dBの通過損失に収まっています。

 直列容量や結合容量(C28〜C30)は水晶の数が少なく、目的とするフィルタ特性がシビアではないため、簡易設計ソフトで得られた値をそのままを使って大丈夫です。 2素子でしたらMesh-Tuneもまったく不要です。(必要ありません) また、コンデンサは近似の標準値に丸めても支障無いことが多い筈です。

 なるべく同じ特性の水晶を2つ選ぶのが秘訣です。 またメインフィルタとの中心周波数合わせを行なう必要があるでしょう。 まずは仮組みして、中心周波数がどのくらいずれているかを見てから旨く合うように水晶を交換して周波数を合わせます。 参考ですが、私の製作例では段間フィルタの方が約350Hzほど中心周波数が低かったので、350Hzくらいfsが高い水晶に(2つとも)入れ替える必要がありました。

 【AD603 IF-Ampの特性
 AD603を2つ使ったIF-Amp.の入出力特性を示します。 約10dBμVからAGCが効き始めます。 10dBμVは約3μVですが、これはEMFですから、アンプに実際に加わるのはその半分です。 1.5μVあたりからAGCが効き始める訳です。 その後は、110dBμVまでほぼ直線的にAGCが掛かるのがわかります。

 アンプ自身のノイズフロアは測定していませんが、なかなか低ノイズです。 グラフからわかるように-20dBμV・EMF(0.05μV)の入力でもノイズによる盛り上がりは見えません。AGCの掛からない小信号領域では90dB超のゲインがあることから考えても低ノイズと言えます。 途中にフィルタが有ることは広帯域なノイズを抑えるのに効果的なのでしょう。

 例えば、標準的な設計の受信機を想定すれば7MHz帯のようなローバンドでは、アンテナから来る受信信号自体のノイズフロアが10μVあたりにあるのでアンテナを繋げば常にAGCが効いた領域で動作することになります。(もちろん、これは送信にも使えるようなマトモなアンテナを繋いだ場合です) フロントエンド部分が旨く設計されていれば、十分な感度とS/Nが得られます。

 青のラインは、Sメータ用出力の特性で、直線的に変化する部分を旨く使ってやれば良い感触のメーターの振れ方が実現できます。設定次第ですが1Sユニット=約6dBにできそうです。

 同時に、出力電圧は入力電圧が大幅に変化しても、約300mVpp程度にAGCで制御されていることがわかるでしょう。 このIF-Amp.の後ろにはSSB/CW検波回路が続きますが、おおよそこの程度の電圧が得られることを前提に回路設計します。 次項にTA7310Pを使った検波回路の一例を示しますが、TA7310Pにはそのままではやや大きすぎるので1/3から半分くらいに絞ってやれば丁度良くなります。

# 概ね目標とした性能は実現できていると思います。

SSB/CW検波回路の例
 この回路に限った訳ではないので、お好みの検波回路を使えば良いです。 AD603の出力インピーダンスは低いので、直列抵抗などでインピーダンス合わせを行なった上で、ダイオード・リング検波などを使っても良いでしょう。

 左図の回路は、BFO兼用で検波も行なえるTA7310Pを使ったSSB/CW検波器と、それに続く簡単な低周波アンプの例です。 TA7310Pの入力部にある抵抗器、R8:2.2kΩで信号の大きさを加減します。 十分な検波出力が得られる範囲で、検波器への信号は小さめに留めるのが良い受信感触を得るコツです。大きな音が出れば良い訳ではありません。(笑)

コラム;受信サイドバンドについて
上記回路図ではBFOの発振周波数はフィルタの通過帯域から見て下側になっています。従ってUSB側を復調することになります。 7MHzの受信の場合、受信機の局発周波数を上側(19.8000MHz〜)に取ればヘテロダイン時にサイドバンドの反転が起こります。従ってLSBモードの運用局はUSBに変換されて正常に復調できます。3.5MHz帯も同様です。 また14MHz帯以上の受信では局発を下側に取ればそのままUSB受信となります。 局発はDDSを想定するため、このような自由度があってBFOの周波数を変更することなくUSBあるいはLSBの受信が可能です。(追記:2017.12.10) 

 TA7310Pの手持ちがあったので使いましたがお店では入手困難になっているようです。 けっこう出回ったICなので、自作好きのお友達なら幾つか持っているかもしれないので聞いてみるのも良いでしょう。 もし手に入らなければ類似機能のICを使えば同じように作れます。工夫してみて下さい。 LM386の方は普通に手に入ります。

 高級な受信機にはもっと凝った回路が良いのかも知れませんが、この程度の回路でも実用上の大きな不満はないのも事実です。 低周波ばかり凝っても仕方ありませんが、必要に応じてグレードアップしたら良いでしょう。

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 重要なことを少しだけ補足します。 AD603のAGC特性ですがゲインを下げる方向・・・即ちAGC電圧を下げて行くと、ある電圧から減衰特性が反転するようになります。 要するに、信号が大きくなったのでゲインを絞ろうとしているのに逆に大きくなってしまう現象が起こるのです。 これは入力信号がたいへん大きくなってAGCが深く掛かったところでしか起こりません。 しかし、一旦そうなると信号がなくならない限り膠着状態に陥ってしまいます。 それを防ぐ目的でクランプ回路が設けてあります。

 120dBμV(1Vrms)を超えるような信号がIF-Amp.に加わる可能性はたいへん小さいと言えます。しかし間違って強力なノイズのようなものが加わる可能性が絶対に無いとも言い切れません。 誤動作を防ぐため最初はダイオードを使ったクランプを入れたのですが、幾らか温度特性が悪くなるのとAGCの直線性も損なわれるため現在のバージョンに変更しました。しかしダイオード式だったVer.1.0.3でも実用上の差はありませんでしたからそのままでも良かったのかも知れません。

 上記グラフの右方にこの2段IF-Amp.の限界が見えます。VSMや出力電圧が急上昇するところです。この領域はAD603のAGC範囲を超えている部分です。入力部アッテネータの減衰範囲を使い果たしたのです。もうこれ以上入力信号を絞れません。ゲインは固定されるため入力の変化がそのまま現れてしまう訳です。 しかし通常の受信状態ではまず起こりえない領域ですから支障はありません。 これを回避するには、フロントエンド部分に独立して掛かる「RF-AGC」のような仕組みを設けなくてはなりません。 近接して強力な電波を発射される危険性のあるプロ用受信機ではそのような対策がなされているのを見ます。

コラム:AD603はなぜ流行らなかったのか?
このICを試用していて、過去の用例を探したのですが中途半端なものしか見つけられませんでした。むしろ参考になるような情報はほとんど無いくらいです。 何故でしょうねと言うご質問も頂きました。 端的に言って「使う為の情報不足」だと思います。 CQ誌の2004年頃の記事を思い出したので見たのですがメーカーのテスト回路を試しただけの内容でした。具体的なAGC回路には話しが及んでおらず実用設計には至りません。事情はわかりませんが、リソース枯渇で至れなかったのでしょう。期待した読者は多かった筈ですが、理念だけが空転した企画でしたから仕方ないでしょうね。 その後はチャレンジされるお方もわずかで、本当に使いこなしておられるのは「良くわかっているごく少数の人」にとどまったように見えました。従って実用になっている例もごく稀です。 このBlogを切っ掛けに少しずつでも研究が進むことを期待したいと思います。

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 でき上がった回路を見たら「な〜んだ、こんなものなんだ」と思うでしょうね。でも、その「な〜んだ」の回路が浮かばないから一向に活用が進まないんだと思います。 拙い作例とは思いますが、まずは真似てみることからでも始めて頂き、貴方のオリジナルへと発展させて頂けたらVY-FBだと思っています。

 AD603を使ったIF-Amp.は設計の自由度があって面白いのですが、どうしても本格化する傾向に陥ります。 高性能な受信機を指向するなら当然進むべき方向なのかも知れませんが、他のIF-Amp.でも同様の成果は十分に期待できます。例えばMC1350P/MC1490Pを使い上手に設計したIF-amp.ならさしたる違いはありません。 概略評価の段階ですがフォワードAGCトランジスタを使ったIF-Amp.もかなり有望そうでした。まだまだ他の形式もあります。 通信機に必要なIFアンプのトータルゲインやAGC特性は凡そ決まっており、いずれのデバイスでも達成可能だからです。 従って、AD603が最優先でお奨めできるデバイスとは言い切れないでしょう。 それでも、IC化の威力で高性能なIF-Amp.がかなり確実に作れるメリットはあります。受信機やトランシーバを構想中でしたら試してみる価値はありそうです。 ではまた。 de JA9TTT/1

(おわり)

追記;高性能受信機のIF-Amp.ともなれば結構大掛かりなテーマです。書くべき話しが網羅できているか自信はありません。書き忘れたこともずいぶんあるでしょう。 ご質問や疑問などありましたらコメントを頂ければと思います。内容は何でも結構ですがBlog記事の範囲内でお願いします。 主義主張のようなコメントも結構ですが、ここは個人のBlogであってパブリックなものではないので節度を持ってお願いです。(笑)

参考:AD603を中国から輸入する購入記があります。(→こちら