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2018年6月28日木曜日

【回路】Sine wave oscillator : Part 2

【回路:正弦波発振器の研究・その2】
 【低ひずみ・正弦波発振回路
 いつも忘れたころ登場する低ひずみな正弦波発振器の話しです。今回も発振周波数は1000Hzです。

 少し前のことになりますが、トラ技読者のお方から質問をいただきました。 「私の部品箱」というコラム記事に掲載された回路図についてでした。 その号のテーマはCDSとLEDを組み合わせた「リニア・フォトカプラ」でした。 その活用例として低ひずみな正弦波発振器を紹介しておいたのです。質問はその発振器についてでした。 簡単に言うと作ってみたいがもう少し詳しい情報が欲しいと言うものです。 回路図だけでほかに写真も何もなかったので情報不足だったのでしょう。 その時は手元の資料をいくつかお送りして対応しておきました。

 わずか1ページのコラム記事ですが意外にご興味を持ってお読みいただいているようです。 しかし更に詳しい話は新たな記事のご依頼でもあれば別ですが、いちどコラム記事として登場すればそれで終わりになることが殆どです。要するに使い捨て感覚なのでしょう。 記事にしていただくのは有り難いのですが、いくら頑張っても1ページの紙面では無理があります。 視点を変えた上でBlogでフォローしておくことにしました。

                   ☆

 写真はトランジスタ技術誌:2017年10月号の「私の部品箱」(P206)に登場した正弦波発振器の試作の様子です。 記事ではCDSとLEDを組み合わせたフォト・カプラ(オプト・アイソレータ)がテーマでしたがこのBlogでは発振回路そのものの方にスポットライトを当てたいと思います。 内容は全く独立していますから雑誌記事を参照する必要はありません。

 このBlogの趣旨に沿った内容で解説を試みましょう。 こうした発振器のHAMの用途は2トーン・ジェネレータでしょう。 近頃は高級測定器をお持ちの自作HAMも多いため2トーン・ジェネレータの高調波が観測の邪魔になるようです。昔のようにオシロスコープでの波形観測なら少々のひずみはわかりませんでした。 しかし高分解能、広ダイナミックレンジのスペアナだと2トーン・ジェネレータ自体の高調波が見えるのです。 従って高調波ひずみが非常に少ない2トーン・ジェネレータが必要になっているのでしょう。 こうした超低ひずみ発振器はオーディオ・アンプのひずみ測定の信号源がおもな用途だと思っていましたが、近頃は高度なHAMのニーズも生まれているのです。

 以下、製作のポイントや測定結果など交えて詳しく紹介しておきます。 この種のオシレータの自作に興味があればお付き合い下さい。 高性能オーディオや高度な無線機の自作に関心はないのでしたら退屈なだけかも知れません。

 【低ひずみ発振器の回路図
 低ひずみ発振器の回路図です。 超低ひずみと言えますが回路は意外に簡単です。使っている部品もごく一般的なものです。

 発振回路は低ひずみ発振器の定番のようになっている「状態変数型」です。この回路は積分型のLPFを重ねた形式なので高調波が減衰するため有利なのです。発振周波数は図中の計算式で求められます。 ここでは約1,000Hzになるよう設計しています。ただし部品誤差があるのでちょうど1,000Hzに合わせるには調整が必要です。R2およびR3を微調整する方法が良いです。

  肝心のひずみ率ですが、0.001%以下の性能が得られます。ひずみ率計の数字は単独の高調波だけで決まるわけではありませんが、ここでは話を単純化すると0.001%と言うのは基本波に対して-100dBになります。一般的なスペアナなら高調波が観測の支障になることはないでしょう。 発振振幅は約7V(rms)得られます。

 2トーン・ジェネレータにするならもう1回路製作します。そちらの発振周波数は1575Hzに設計します。回路図中の計算式から抵抗器:Rの値を求めます。例えば C=0.047μFならR=2150Ωになります。Cの方を変えても良いです。

 低ひずみな発振器では振幅制御がたいへん重要です。 電圧可変抵抗素子を使ってアンプが飽和しないよう増幅度(ゲイン・利得)を自動調整します。 電圧可変抵抗素子としてはFET(電界効果トランジスタ)がよく使われます。これは過去のBlogでも実験してます。(リンク:その1その2

 もちろん同じ方法で作っても良いのですが、ここではフォト・カプラ(オプト・アイソレータ)を使いました。 発光側がLEDで受光側がCDS(硫化カドミウムセル)のフォト・カプラです。 LED(発光側)の電流を変えると受光素子のCDSは大幅に抵抗値が変化します。 その特性を使って利得の自動制御を行ないます。 フォト・カプラはFETと違って制御側(LED)と被制御側(CDS)が電気的に切り離されているため使いやすいのです。ただしFETよりも低ひずみでは不利ではないかと言われることもあります。

 CDS-LEDのフォト・カプラを使った状態変数型発振器もときたま見かけます。 それらの殆どはフォトカプラのCDS素子を回路図のR4の位置に入れます。 入力側と出力側が電気的に絶縁しているためGNDから浮いた位置に挿入できるからです。 ここではR4の位置ではなく、R8と並列にGND側にCDSが来るようにしてみました。 このようにした方が低ひずみに有利ではないかと考えました。このあたりが私が工夫した部分です。
 この位置の方がCDSの両端に加わる電圧が低いのです。 CDSは抵抗値の電圧依存性が少ないのが特徴です。(電圧依存性:両端に印加された電圧により抵抗値が変化する現象。それが大きいとひずみの原因になる) 従ってR4の位置に入れてもかなり低ひずみです。 しかしR8の位置、GNDとの間に入れる方が端子間に加わる電圧はずっと低いためそれだけ有利なはずです。

 その代わり発振振幅を制御する方向は逆になります。 電源投入後の発振起動時には必ず低抵抗の状態にならなくてはいけません。 真っ先にフォトカプラのLEDを明るく点灯させねばならない訳です。 まず、整流回路とLEDの極性を逆にします。 さらに発振起動時を考えてCDSが必ず低抵抗の側からスタートするよう、LEDのカソードはGNDではなくマイナス電源に接続します。これで電源投入で確実に発振が起動でき振幅制御が働きます。

#状態変数型発振回路の動作原理は参考書がたくさんあるので文末をご覧ください。

 【発振波形
 ひずみ率が0.001%の正弦波などオシロで見ても面白くないと思います。 特にここで使ったようなデジタル・オシロは垂直軸の分解能は8bit程度のものです。 最近の高性能デジタル・オシロでも12bitですから波形を見てひずみを云々することは不可能でしょう。

 オシロスコープでは波形の観測ではなく、電源投入時の起動特性などを確認しておきます。 発振が始まり振幅が安定するまでの状態を確認します。 また、発振振幅とひずみ率には関連があります。ひずみが増加しない範囲においてなるべく大きな振幅で発振させた方が有利です。これはOP-Ampの残留ノイズによりひずみ率が悪く見えてしまうことへのの対策です。 ここでは画面を見ながら約20Vppの発振振幅に調整しておきました。

 【発振周波数と発振レベル
 オーディオ・アナライザを使って発振周波数と振幅を測定しています。 発振振幅は実効値(rms)で表示され、20Vppはおおよそ7. 07V(rms)です。 

 20Vppはオシロスコープの画面で見て合わせたので、多少小さめだったのでしょう。 この状態で再調整し7.07V(rms)になるようにしても良いと思います。

 発振周波数は計算では1,000Hzのはずですが少し高くなりました。 抵抗器は誤差1%のものを使っています。周波数のずれはおもにコンデンサの容量誤差によるものでしょう。 回路図のR2およびR3を少し加減すれば1,000Hzに合わせられます。 周波数カウンタがあれば簡単です。 少々の周波数調整ならR2またはR3のいずれか一方の加減でも大丈夫です。 しかしR2とR3はなるべく同じ抵抗値にすべきです。 大幅な周波数調整が必要ならR2とR3の両方を同じずつ調整するようにします。

 【肝心のひずみ率は
 ひずみ率は0.001%前後になりました。 これはこのオーディオ・アナライザ:hp 8903Aの測定限界に近い数字です。

 次の項目で高調波スペクトラムの様子をみると、実際はもう少し低ひずみなのではないでしょうか。 基本波が幾分大きめに漏れ残っているようです。 従って、実際にはもう少し良いひずみ率なのでしょう。 半ば想像ではありますが、大まかに0.0005%くらいのように思います。 もちろん0.001%であってもHAM用の2トーン・ジェネレータには十分すぎるくらいなのですが。

  ひずみ率の調整は基本的に必要ありません。 怪しげなジャンク部品はいけませんが、普通の部品を使って作れば発振振幅を調整するだけでこの程度のひずみ率になります。 振幅の自動調整に使ったフォト・カプラ:LCR-0203の影響を調べるために何個か交換してみました。 ばらつきのため交換しただけでは発振振幅に多少の違いが見られますが、調整して同じ発振振幅になるように合わせればひずみ率は同じになります。 LCR-0203のばらつきはひずみ率に影響しません。

 あえてひずみの調整を行なうなら、OP-Amp. U2bの7pin(R11との接続点)をオシロスコープで観測しながらR12(1MΩ)を加減します。 オシロスコープはAC結合にして感度を上げ、小さなリプル波形が良く見える状態にしておきます。 そのリプル波形が最も小さくなるようにR12を調整します。ただし完全に無くすることはできません。 もしひずみ率計が使えるなら、ひずみ率が最小になるように調整しても結構です。ただしオシロスコープを使う方法との差はないはずです。 この回路を使う限りここまでの調整を行なえばほぼ完璧です。これで0.001%以下のひずみ率まで持って行けます。
 
 【ひずみの周波数成分分析
 オーディオ・アナライザのモニタ出力(背面)をスペアナで観測するとひずみ成分の分析が可能です。 オーディオ・アナライザのモニタ出力であって、なまの信号を見ているのではないため、この画面から直接ひずみ率を求めることはできません。 しかし、ひずみの成分が分析できます。

 この観測によれば、ひずみの原因は第2高調波にあることがわかります。 それ以外の高調波はノイズフロアよりずっと下にあります。 従って、この第2高調波を低減する対策を行なえば一段と低ひずみな発振器になるでしょう。(一般的にいえば、偶数次のひずみは増幅器の非直線性によるもの、奇数次は飽和によるものがまずはじめに考えられます)

 実は第2高調波の発生原因はかなりはっきりしています。  発振振幅の自動制御回路に原因があります。 発振により生じた1,000Hzの信号をダイオードによって整流して振幅の制御に使っています。 整流したあと積分器で平滑して直流電圧にしていますが、どうしても微細なリプル電圧が残ります。そのリプルを含む電流がフォト・カプラのLEDに流れ、微細な光量変化となりCDSを介して回路に再注入されるのです。

 積分回路の時定数を長くすると効果がありますが少々では効きません。 あまり長くするとこんどは発振の起動特性が劣化します。積分コンデンサのESR(等価直列抵抗)も影響します。 ダイオードによる整流回路を持った振幅安定化回路の限界なのです。  これは振幅の制御にフォト・カプラを使おうがFETを使おうが同じことです。 参考書によれば乗算器を使ったリップルレスな整流回路を使うと良いようです。 しかし現状でも十分な低ひずみですし、なるべく手に入りやすい部品だけで製作できる範囲が好ましいと思っています。乗算器が手に入ったなら比較の意味で試す価値はありそうですけれど・・・。(笑)

 【OP-Amp.とコンデンサ
 使用する部品の話しです。 発振回路に使うOP-Amp.は十分に吟味しています。ここではNE5532(TI製)を使いました。単価100円くらいですから高価なものではありませんが、この用途に向いています。

 間違いないのはNE5532やLM4562NAのようなAudioに向いたOP-Amp.です。  NJM4580も有力候補でしたが高い周波数の微小発振を伴うようでした。 回路形式による原因のほかに部品レイアウトに何か問題があるのかもしれません。残念ながら諦めした。 いずれにしてもローノイズ、低ひずみなOP-Amp.を選びます。必ずしも高価なものが良いわけではありません。 ごく一般的な4558系であってもかなり良い性能が得られるものです。

 抵抗器は金属皮膜抵抗器を使います。誤差は1%のものが売られています。カーボン抵抗はノイズの点で感心しません。ベストは金属箔抵抗器ですが高価すぎます。 バイパスコンデンサを除きすべてフィルム・コンデンサを使いました。 容量が大きめなので振幅制御回路の積分コンデンサ:1μF(C3)はタンタル・コンデンサでも良いです。ただしその場合は極性に注意します。 発振周波数を決めるコンデンサ(C1とC2)は周波数安定度の点ではスチロール・コンデンサが最適です。 いくらか温度安定度は劣りますが写真のように安価なマイラーコンデンサでも良いです。マイラでも0.001%のひずみが得られますので心配ありません。銘柄モノのコンデンサに拘るのも結構ですが差額だけの効果がなくては面白くないでしょう。 もちろん、良質なコンデンサを使うに越したことはありませんが。

#重要部品である振幅安定回路のオプト・アイソレータは次項で説明します。

CDS-LEDオプト・アイソレータ
 振幅安定回路には発光側がLEDで受光側がCDSになっているフォト・カプラ(オプト・アイソレータ)を使います。

 写真のものは秋月電子通商で売られているLCR-0203という型番の製品です。中国製で単価120円でした。 共立エレショップでも扱っています。

 この形式のフォト・カプラとしてはモリリカ社のMCD-521がかつての定番部品でした。 しかし既に生産されていません。たとえ売っていたとしてもプレミアム付きで価格高騰しているでしょう。 今でも探している人があるのはアナログ・ミュージック・シンセサイザなど電子楽器の用途があるからです。(そちらもLCR-0203で代替できるはずなのですが・・・)
 ばらつきが大きいなど、いくらか性能は劣るようですが発振回路の振幅制限には安価なLCR-0203で十分です。 比較のためMCD-521と交換してみましたが、所定の発振振幅に調整してしまうと違いは感じられませんでした。

 なお、単体のCDS素子と発光ダイオードの手持ちがあればこの目的に使えるフォト・カプラを手作りできます。 CDSの波長に対する受光感度特性から緑色の発光ダイオードが適当です。ただし赤色の領域にも感度があるので赤色も十分使えます。LCR-0203も赤色LEDを使っているようです。 CDSの受光面とLEDの光軸を突き合わせにし2つの素子の周囲を完全に遮光して完成です。 絶縁フィルムを巻いたのち、アルミフォイルで覆うと見掛けはともかく遮光は良好です。 自作のフォト・カプラも十分使えますが光学的なノイズを拾わぬように良く遮光しておきます。蛍光灯やLED照明器具は強烈な光学的ノイズ源になります。CDSは高感度なので思わぬところから(光の)ノイズを拾います。

                   ☆

 HAM用の2トーン・ジェネレータの場合、1,000Hzと1,575Hzの2波が標準的です。 CRの定数を少し変えるだけで周波数の変更ができます。2つの周波数は近いためほぼ同じような性能が得られます。
 オーディオ用の信号源には100Hz、1,000Hz、10kHzの3波を作ります。それぞれ発振起動特性を見ながら振幅制御回路の積分時定数を最適化する必要があります。1,000Hzと10kHzは同じでも大丈夫ですが100Hzでは時定数を長くしなくてはなりません。
 オーディオ・アンプ等の評価ではその3つの周波数で出力対ひずみ率特性を調べることがよく行なわれています。 ひずみ率計がないとお話にはならないのですが、スポット周波数のひずみ率計なら思ったよりもずっと容易に製作できます。連続周波数可変型を試みると大変です。スポット周波数のものを作ると高性能が得られやすいです。(経験済み・笑)
 まずは1,000Hzで作ってみましょう。100Hzと10kHzは少し難しいので1,000Hzが旨く行ってからが良いでしょう。 高感度な電子電圧計が必須ですから事前に手に入れておきます。電子電圧計の感度によって測定可能な最低ひずみ率が決まります。 かつて垂涎のマトだった超高性能ひずみ率計(国産機)も例のコンデンサ劣化問題で出回っている中古品は殆どが故障品なのだそうです。入手するなら十分気をつけてください。状態いかんですが修理はかなり困難なようです。 ひずみ率計の稼働率は低いので自作で済ませるのが良いでしょう。 それにしても自作オーディオマニアでしたら低ひずみ発振器とひずみ率計のセットは既にマストアイテムでしょう。 さらにオーディオ測定マニアでしたらFFTアナライザもそろそろ必携でしょうか。パソコン・アプリもありますけど道具にハマると趣味もキリがありませんね。(笑)

                 ☆ ☆ ☆

 目標としていた低ひずみ率の発振器が確実に作れるようになりました。 難しいことなしに、ごく簡単な調整だけで満足できる性能が得られます。 製作に必要な情報はすべて公開してあります。あとはあなたの製作意欲しだいと言ったところでしょうか・・・。 従って、このテーマはこれで一旦おしまいにしたいと思っています。 他にも違った形式の低ひずみ発振器があって回路的な興味は尽きないのですがそれはまた気が向いたらにしましょう。 現状で十分な性能だと思います。 なお今回は単独の発振器を扱いました。いずれ機会があれば2トーン・ジェネレータにまとめるところまでやりたいと思っています。 ではまた。 de JA9TTT/1

参考・1:関連のBlog内記事へリンク(低周波の低ひずみ率発振器関連)
(1)RC Phase Shift Oscillator
(2)FLT-U2 Sine Wave Oscillator
(3)Sine wave oscillator : Part 1
(4)Wien Bridge oscilltor

参考・2:実験や研究の参考になる書籍・資料(2018年6月28日現在)
(1)はじめてのトランジスタ回路設計、1999年5月1日初版、黒田徹、CQ出版社、ISBN4-7898-3280-5、¥2,500−、絶版だがCD-ROM版あり(¥1,903-)
(2)OPアンプ活用100の実践ノウハウ、1999年8月1日第2版、松井邦彦、CQ出版社、ISBN4-7898-3281-3、¥2,100-:絶版だがオンデマンド版あり。¥2,916-
(3)OPアンプによる実用回路設計、2007年2月1日第4版、馬場清太郎、CQ出版社、ISBN978-4-7898-3748-4、(¥2,800-):新版として現在も販売中。¥3,024-
(4)発振回路の完全マスター、昭和63年9月20日第1版、稲葉 保、日本放送出版協会、ISBN4-14-072035-2、¥1,900-:絶版(古書も入手困難)
(5)定本・発振回路の設計と応用;1993年12月25日初版、稲葉 保、CQ出版社、ISBNN-7898-3046-2、¥2,718円:絶版だがオンデマンド版あり。(¥3,672-)
*筆者の稲葉 保さんは知人でした。残念ながら2018年2月4日にご逝去されました。謹んでご冥福をお祈り致します。

 絶版がほとんどなので、図書館の利用がお薦めです。 古書が出ることもありますが書籍によってはプレミアムが付いています。 書籍は先人の知恵や経験が凝縮されたものです。持っていて損はありませんが無理をする必要はありません。図書館で借りて必要な部分を参照すれば事足りると思います。節約した分で部品でも買っておおいに実験しましょう。

(おわり)fm

2018年6月14日木曜日

【回路】Frequency Counter Design, Plus One

【回路設計:周波数カウンタの設計・プラスワン】
ラジオ・カウンタ用LSI:M54821P
 カウンタ用LSIにはM54821Pと言う「ラジオ・カウンタ」に特化したチップがあったことを忘れるわけには行きません。

 前回(←リンク)までのカウンタ設計で扱ったLSIはどれも汎用性があって必ずしも周波数カウンタの専用というわけではありませんでした。 単純な個数計とか、計数が必要な用途に様々使えるように考えられていました。 それに対して三菱電機のM54821PはラジオやAM/FMチューナなどの受信周波数をデジタル表示するために考えられた専用のLSIです。 いくつかの専用周辺用ICと組み合わせることでたいへん簡単に「ラジオ・カウンタ」が作れるようになっています。1980年前後に中高生の間で一大ブームになったBCLラジオにも使われていました。

 その代わりごく普通の周波数カウンタを作ると制約があり、他のカウンタ用LSIのような設計の自由度はありません。 具体的には分解能が1kHzもしくは100kHzの周波数カウンタになります。 ごく普通に売られている周波数カウンタのようにHz単位まで読むと言った高分解能な測定器は作れないのです。 AM/SWラジオやFMチューナの受信周波数の表示にはとても便利ですが「周波数カウンタ」の機能はおまけ程度と言ったところでしょうか。

 M54821PはIIL(Integrated injection logic←リンク)という今では珍しい形式の集積回路で作られています。IILはバイポーラ型の集積回路でアナログ回路と共存でき、しかも低消費電力で高集積度が実現できるとして1970年代半ばから1980年代初めころに掛けて使われたLSIの製造技術です。民生品ではカメラやVTR用のLSIなどに使われていましたが、いまではまったく廃れています。現在ならC-MOSのデジアナ混在ICで置き換えるでしょう。(I2L、I2Lとも書かれます。アイスクエアエルと読む)

                   ☆

 M54821Pは専用のLSIだけに設計の自由度がないため他のカウンタ用LSIと一緒に扱うのは不適当でした。 忘れていたわけではないのですが別編で改めて扱いました。 このM54821Pも既に過去のものになっています。 当然ながら生産はされておらず、運が良ければ流通在庫品(お店の在庫品)が手に入るくらいのものです。
  メーカ推奨回路にある周辺用ICの入手が難しいため使うのはちょっと面倒臭いと思っていました。 考えてみたところ、そうした専用ICを使わずに回路が構成できそうなのです。 Blog全体ではM54821Pがなければ意味のないストーリなのですが、水晶発振と分周機能を持ったIC:NJU6311の活用は目新しいかも知れません。 良かったらご覧ください。

 【M54821Pの内部は
 M54821Pの内部は図のようになっています。 5桁の周波数カウンタがこれ一つで作れるようになっています。

 あらかじめカウンタの制御回路は内蔵されており、ゲートの開閉、ラッチ、リセットの各パルスは内部ですべて作られています。 外部から基準となる1.25MHzを与えてやれば済むようにできており、制御回路のことを考える必要はありません。その代わり何の自由度もない訳ですが。

 またM54821Pにはスーパ・ヘテロダイン形式のラジオの局部発振器(局発:ローカル・オシレータ)の周波数をカウントして、そこから実際の受信周波数に変換する機能が内蔵されています。 ごく普通のAMラジオでは局発は受信周波数より455kHz高い周波数を発振しています。 普通の周波数カウンタで局発の周波数を読むと実際の受信周波数よりも455kHz高い周波数を示します。 これでは受信周波数の直読にはなりません。

 M54821Pではその455kHz分を差し引いて表示するためのオフセット機能が内蔵されています。 従って特別なことを考えることなくラジオの受信周波数が直読できる周波数カウンタが作れるのです。 なお、オフセット量はいくつか選べるようになっており、オフセット=ゼロにすることもできます。 ゼロに設定すればごく普通の周波数カウンタと同じになります。

 このように専用LSIだけあってたいへん便利にできていますが融通は利きません。 周波数カウンタとして使う場合も分解能は1kHzのままです。 さらに FMラジオ用のモードでは100kHzの分解能になります。 BCLラジオのようにAM波のラジオ放送が受信対象なら1kHzの分解能でも十分でしょう。 しかしSSBやCWも受信対象とする「通信型受信機」(例えば9R59Dなど)ならもう一桁下の100Hzまで読みたいものです。 残念ながらM54821Pではそれができできません。 そもそもの目的と用途から考えてやむを得ないでしょう。マイコン式の周波数表示アダプタのようなフレキシビリティはないのです。

 【メーカ推奨回路
 左図はメーカ推奨の回路構成です。 M54821Pは単独では1.6MHzくらいまでしかカウントできません。 ECLやTTL構造でできた周辺回路用のICでカウント可能な上限周波数を拡大しています。 例えばAM受信モードでは入力信号を1/32に分周してからM54821Pに加えます。 これで32倍の周波数までカウントできることになり、カウント可能な上限周波数は約50MHzになります。

 水晶発振器(基準発振器)は内蔵していません。外部から周波数基準を与える必要があります。基準の周波数範囲は1.0〜1.5MHzと決められていて、それを大きく外れると動作しません。 基準信号は1.25MHzが推奨値(標準値)ですが1MHzを使うこともできます。周波数精度が悪いとカウント誤差を生じます。これは他の周波数カウンタと同じです。 1.25MHzは10MHzを1/8に分周すれば良く、汎用のICを使って簡単に作れます。

 入力信号の方もHC-MOSやLS-TTLで1/32分周回路を構成すれば良いでしょう。 推奨回路にあるような専用のICがなくてもM54821Pを使うことはできます。

 なお、FMモードの場合はVHF帯と周波数も高くなるためECLプリスケーラを使います。 測定対象の信号を1/80に分周してからM54821Pに加えます。 一例として1/10分周のM54459を使い、さらにHC-MOSなどで1/8すれば良いでしょう。 FMモードの場合は分解能が100kHzになってしまうため、あまり使い道がありません。ここでは扱いませんが使ってみたいならメールでも下さい。資料を送ります。 

 【M54821Pを使ってみる
 さっそく使ってみました。 写真は上限周波数の近くでカウントしている様子です。 IF周波数のオフセットはゼロに設定しています。 測定した周波数をそのまま表示するだけの普通の周波数カウンタの状態です。

 ブレッドボードでの製作のためか50MHzには届きませんでしたが、きちんとした基板で製作すればもう少し上限周波数が伸びるかも知れません。あるいは後ほど説明のあるNJU6311の限界かも知れません。 しかし45MHzなら問題なく安定にカウントできました。 分解能(最小桁)は1kHzです。

 写真の範囲でカウンタ回路全部が含まれています。 このようにわずかなICだけで周波数カウンタ(ラジオ・カウンタ)が製作できました。  メーカー推奨の専用ICは入手の見込みがあまりないため使いません。 現時点で普通に手に入るICや汎用のトランジスタを使って構成しています。 次項で回路図を示しますが特殊な部品はM54821Pだけですから、それさえあれば容易に再現可能ではないでしょうか。
 
 【M54821Pを使ったカウンタ回路
 上記写真のカウンタ回路です。 メインのカウンタ用LSIはM54821Pでこれは言うまでもないでしょう。

 基準発振器には新日本無線:New-JRCの水晶発振用IC:NJU6311を使いました。(回路図右下の部分) このチップは高速C-MOS構造で水晶発振回路と分周比が切り替えできる分周器を内蔵しています。 分周数は1、2、4、8、16、32が選択できます。

 ここでは10.000MHzの水晶発振子を使い1/8分周して1.25MHzを得ています。 発振回路に必要なコンデンサは内蔵されています。水晶発振子を2番と3番ピンの間に接続するだけで簡単に発振してくれました。 ただし数kHzくらい高い周波数で発振しました。 メーカのデータシートに周波数の調整方法は書かれていませんでしたが、いくつか試したところ図のようにすればOKでした。 水晶発振子と並列に最大容量が20〜30pF程度のトリマ・コンデンサを入れます。これで旨く調整できました。 もし発振周波数が低いときは、水晶発振子と直列にトリマ・コンデンサを入れます。 周波数安定度は水晶発振子しだいのようですが数ppm/℃くらいの安定性は十分あるでしょう。

 M54821Pの説明のところで書きましたが、周波数測定対象の入力信号はあらかじめ1/32に分周してから与える必要があります。 そのために使うメーカの推奨チップはM54408Pなのですが入手は難しそうです。(売っているところは見つけたのですが・笑) そこでここでも上記で説明したJRCのNJU6311を使って工夫してみることにしました。 手持ちを活用するという意味でもあります。

 NJU6311は水晶発振と分周が目的のチップなのですが、それを応用する訳です。詳しくは後ほど説明があります。 なお、汎用の周波数カウンタにするにはNJU6311に内蔵のアンプだけではゲインが足りないようです。 そこで前回のBlogで好成績だった広帯域増幅のICを付けました。FETのソース・フォロワも前置して入力インピーダンスを高くしておきました。 今回はNE592の方を使いましたがμA733も同じように使えます。(詳細は前回のBlog参照)

  7セグメントのLED表示器はカソード・コモン型を使います。 ダイナミック・ドライブですからなるべく高輝度の表示器が向いています。 M54821Pの桁ドライブ信号はNPNトランジスタを直接ドライブするようにできています。 μPA81Cのようなドライバ・アレーではなく、ごく単純なNPNトランジスタを使う必要がありました。 ドライバ・アレーを使ってみたら輝度が上がらずICが壊れたかと・・・。 ここはシンプルに単なるNPNトランジスタを使うに限ります。(笑)

参考:カウント上限周波数は1/10になってしまいますが、100Hz分解能にすることもできます。 まず、水晶発振子を8MHzに交換します。 これでM54821Pに与えるクロックは1MHzになります。 次にプリスケーラとして使っているU3:NJU6311の分周数を現状の1/32から1/4に変更します。変更方法はNJU6311の内部回路の説明の項にある分周比の設定表を参照してください。 このようにすればカウント上限周波数は6MHzくらいになりますが、最小桁は100Hzにできます。 必要に応じて試してください。 なお、こうした方法は単なる周波数カウンタには有効ですが、ラジオカウンタの機能は正常に動作しませんので注意してください。 例えばマイナス45.5kHzのオフセット値になってしまうので正しい受信周波数表示ができません。 工夫してもせいぜいここまでです。

 【基準発振器:NJU6311
 NJU6311は10ピンのICです。 MSOP型でピンピッチは0.5mmなので多少ハンダ付けは難しいです。 しかし10ピンと少ないですからそれほど困難ではありませんでした。

 写真は秋月電子通商で購入したMSOP-10ピン用の変換基板に載せたところです。 最初はハンダブリッジしても良いので確実にハンダが回るようにします。 フラックスを塗布してから良質のハンダを流しました。 あとでハンダ吸い取りリボンを使って余分なハンダを除去して完成です。 ルーペなど拡大鏡で十分な目視確認を行なっておきます。

 高周波回路なので、電源:Vdd(Pin10)とGND Vss(Pin5)の間に最短距離でバイパスコンデンサをハンダ付けします。 変換基板を使うと不安定になり易いものですが、電源端子の直近にバイパス・コンデンサを付けておけば安定して動作します。

 水晶発振子:10.000MHzと並列に入ったトリマ・コンデンサ(緑色)で周波数調整します。 発振子の端子部分で測定すると周波数がずれてしまいます。 NJU6311の出力端子:Pin 5に周波数カウンタを接続して合わせ込むのが良いです。 あるいは受信機のアンテナ端子からリード線を発振回路の近くに這わせ、標準電波(10MHzのWWVHやBPMなど)を受信しながらゼロビートになるように周波数を合わせます。

 この回路は10MHzを発振させた状態で3.5mAくらいの消費電流でした。 省エネにできていると思います。

 【NJU6311の内部回路
 NJU6311の内部構造を詳しくみてみましょう。

 もともと発振器として考えられています。 ゲート機能付きのC-MOS NAND回路に抵抗器でバイアスを掛け「アンプ」として動作させています。 この部分に基本波周波数の水晶発振子を接続すれば発振するわけです。コルピッツ型と等価な水晶発振回路です。

 しかし、よく考えてみると発振回路部分は利得を持った「アンプ」そのものです。 しかも50MHzまで発振するそうですから、そのあたりまでゲインはあるはず。 この部分は単なる「アンプ」として使うことも可能なのではないでしょうか。
 またこうした水晶発振回路の出力波形は矩形波ではなく正弦波状なのが普通です。 波形整形も難しくしく考えなくても良いかも知れません。 さらに1/32に分周してからM54821Pに行くように分周器をセットすれば目的の回路に使えそうです。

 さっそくラフな実験を行なったら上手く行きそうなのでこのアイディアを採用しました。 もともとが発振回路ですから「アンプ」のIn/Outに15pFのコンデンサが入っています。それが周波数特性となって影響しそうですが実際には十分高い周波数まで動作してくれました。   半導体メーカが驚くような使い方ですが「アンプ+プリスケーラ」と等価のICとして旨く使うことができたのです。 なお、もともとが水晶発振回路なのですからNJU6311からPin2とPin3を引き出して工夫すれば水晶発振子のチェッカーにもなりえます。

 NJU6311は部品通販商社のMouserにて単価100円少々で手に入ります。 個人にも少量販売してくれるほか数量割引もあります。 パーツボックスに数個入れておくと役立ちそうですが送料が勿体ないので数名で纏め買いして割り勘にしたら良さそうです。 JRCのICですから同社製品をたくさん売っている秋月電子通商に取り扱いをリクエストしてみると良いかも知れませんね。

カウンタ用プリアンプ
 J-FETによるソース・フォロワと広帯域増幅用ICの組み合わせはなかなか良好だったのでこちらでも採用してみました。 NJU6311との結合はC結合にしました。 もともと1kHz分解のですから低周波まで測定できる必要はありません。 C結合でも十分だと思ったわけです。

 なお、本来とは違う使い方をしていますので、NJU6311を壊さぬような配慮から、ダイオードを使ったクランプを入れておきました。 広帯域アンプも電源電圧=5Vで使っていますから、支障はないはずですが取り敢えず入れてあります。 様子を見て外そうと思っています。

 こうした状態で45MHz以上まで動作しましたのでHF帯が対象のラジオ・カウンタとしては十分な性能ではないでしょうか。 9R59Dのような高1中2型受信機に付加すれば全受信周波数で1kHz直読になります。 HAM局には少々不満でも、BCLの愛好家には最適な付加装置になるでしょう。 涼しそうなグリーンやブルーの表示器で作ってみたくなりました。

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 周波数カウンタの別編としてラジオカウンタ専用のLSIを扱ってみました。 流石にその目的にできているだけあって少ない部品で十分な機能を持った付加装置が作れます。 類似の機能を持った中華製品も登場しています。 M54821Pを新たに購入する意味はないと思いますが、もし持っているなら活用してみては如何でしょうか。 中華モノを買うよりも愛着が持てるだろうと思います。 1kHz分解能なので通信機用としては用途が限られますが、ディップ・メータの発振周波数表示器のような目的なら十分な分解能でしょう。比較的ラフで良い用途もあると思いますので活用を考えてみたいと思います。

 NJU6311は数年前に面白いチップができたので・・とのことで評価用サンプルを頂いたものです。 残念ながら「水晶発振器+分周器」のチップはあまり使い道がありませんでした。ずっと頂いたままになっていました。 今回、M54821Pの活用にあたり検討してみたところベストマッチだとわかりました。 これも先日行なった部品在庫調査が幸いしています。そうでなければ気付かなかったでしょう。 1.25MHzを作るのに水晶発振に74HCU04、分周器に74HC74を使うと言ったオーソドックスな方法になるところでした。

 また、HF帯の入力信号を1/32に分周する回路もちょっと悩みます。 プリスケーラ用のECL-ICが使えれば簡単です。しかしECLのプリスケーラには下限周波数があってそれ以下では誤動作します。だいたい10MHzくらいが下限でしょうか。1MHzあたりまで何とか使えるプリスケーラもありますがそれ以下はまずだめです。 結局のところ真面目にアンプして波形整形してからHC-MOSの2進カウンタで1/32にすると言った回路構成になります。 手持ちに専用の周辺ICがないのでやむを得ませんが、少ない部品でカウンタが作れるというメリットはだんだん薄れてしまいそうでした。
 実験したら発振回路+分周器のNJU6311がHF帯向きのプリスケーラとして十分機能することがわかり一気に簡潔になりました。 頂いたままパーツボックスの肥やしになっていたチップが発掘でき、しかもFBに活用できて良かったです。

 汎用の周波数カウンタは目的とせず「ラジオ・カウンタ」に徹するなら、2SK192AとNE592のアンプ部分は必要ないでしょう。  NJU6311に直結できますから回路はさらに簡潔になります。 ただし過大な入力で壊さぬよう局発との結合容量(C9:1000pF)は必要最小限の容量値に変更し、ダイオード:D3とD4も入れたままが良いです。

 4回にわたりカウンタ用LSIを試してみました。 一度は使ってみたいと思っていたICもあって、その目的も達成できました。 それぞれのLSIについて実際の使い方が確認できました。 これで心置きなく「さようなら」にしてカウンタ用LSIのことはきれいサッパリ忘れることにしましょう。  ではまた。 de JA9TTT/1

(おわり) nm