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2018年9月25日火曜日

【回路】7MHz PLL Oscillator (4)

7MHz帯のPLL発振器・その4 ループフィルタの設計編
HAMのPLLの設計
 7MHzのPLL発振器を題材にしたPLL設計の第4回です。 設計に必要な数値は前回(←リンク)までですべて集まりました。では始めましょう。

 HAM用の設計と言うようなものがある訳ではありませんが、HAM用のRig(無線設備類)で使われるPLLはどれも類似の設計で大丈夫です。 ツマミを回してチャネルを設定し、送受信を繰り返すというような使い方が想定できます。 軍用無線機のように特殊な用途は考えなくても良いでしょう。 従って、どれも同じような設計で行けるのです。(フル・ブレークインは幾らか検討が必要ですが)

 PLLの教科書を見ると、その特徴について詳しく書かれています。さらに自動制御理論に基づくループ特性の解析にページが費やされます。 もしPLLを専門にするならきちんとした理解が必要でしょう。

 しかし、用途はほぼ決まっているのでそれにマッチする設計ができれば我々HAMの希望を満たすことができます。 理論は不要とは言いませんが、基本的な動作を知っていれば、あとは製作に「使える」設計ができれば十分役立ちます。 以下、途中の解析過程はすっ飛ばして実際に使える設計を目指します。「実用設計法」とは言っても理論に基づいていますから、いい加減と言うわけではありません。どうぞ誤解なきように。(笑)

  実用的な内容を扱っています。しかし秘密の呪文を教えるものではありません。そもそも隠すような秘密なんてありません。 必要なのは、まずは自らの手を動かすことだと思います。さっそく例題を検算してみるのも良いですしVCOの試作に取り組むのもFBでしょう。 読んで「わかったようなつもり」になるのも結構ですが、実際にやってこそ意味があると思います。その気持ちが無ければこの先はつまらないかも知れません。

写真は以下の流れと直接の関係はありません。 かつて信越電機商会で売られていた金石舎製のPLLユニットです。「256チャンネルPLLシンセサイザユニット」と称していました。数種類ありましたが写真のこれには沖電気のPLL用LSI:MSM5807が使われています。このPLLユニット一つが500円でした。(信越電機商会はいまの秋月電子通商)

設計の準備
 左図は再掲載です。 「7MHzの発振器が欲しい」と言うだけでは漠然としています。 もう少し詳しく決めておく必要があります。 設計に必要な項目を整理しておきましょう。 あらかじめわかっているものもありますが、計算を始める前に検討しながら決めて行く項目もあります。 しかし、大して難しい内容はありません。

(1)周波数範囲:7.000MHz〜8.000MHz
   目的が7MHz帯の発振器なのでこのように決めます。
   この周波数の間で細かく周波数が設定できること・・・も要求項目でしょうか。
(2)周波数ステップ:10kHzあるいは5kHzとする。
   あまり細かい刻みで発振するPLLは製作が難しいことがわかっています。
   飛び飛びの各発振周波数の間をアナログ的に補間する場合、10kHz刻みの方が
   わかりやすいでしょう。 ここでは周波数ステップに10kHzを選びましょう。
(3)応答時間;10mS
   発振周波数を切り替えたとき、どの程度の速さで安定するのか。 (詳細は次項)
(4) 使用する位相比較器とVCO:この2つは既に決まっています。
   それぞれの定数、KpとKvはわかっています。 前回までのBlogで調べました。
(5)電源要件:電源電圧は5Vで設計します。
・・・・・・などです。

 使用部品ですが、ここでは既に見てきたようなパーツで実現することを前提にしたいと思います。 PLL用のICはMC145163PあるいはTC9122P+HC4060+HC4046を使います。 VCOにはMC1648Pまたは同タイプを使うことにします。 汎用の設計ですからほかのPLL用ICやVCOを使う際も同じようにできます。

 【PLL回路の動的特性
  PLLの応答特性についてです。  PLLの話では決まったように左図が登場します。 見飽きていますが説明の都合で登場もやむを得ません。 何を意味するグラフなのか初めて見るなら難解です。
 簡単に言うと周波数を切り替えた時にどのように切り替わって行くのかを示したグラフです。 縦軸は周波数で、以下の話の流れて言えば、縦軸のゼロの位置が7000kHzとします。 1.0の位置が7010kHzです。 横軸は時間軸ですが、目盛りはRadianが単位で、周期は「自然周波数」(後述)が単位になっています。 以上がグラフを見るための予備知識です。

 いま、受信機を想像してください。7000kHzを受信しています。7010kHzを聞きたいと思ったらダイヤルに指をかけて回すでしょう。受信周波数を移るにはそれなりに時間が掛かったはずです。
 PLLも同じで、切り替えから新しい周波数に移るまで何がしかの時間がかかります。 新しい周波数に落ち着くまでがロックアップタイム:tLです。 tLは短いほど良さそうですが極端に早くはできません。 だいたい1mSから100mSの間で決めることが多く、HAMが使うPLLではtL=10mSが無難なようです。 10mS=1/100秒なら感覚的にはほぼ瞬時と感じられますね。

 また、切り替えた瞬間からどのように変わって行くのかはダンピングファクタ:ξで決まります。(ξ:ギリシャ文字のグザイ) 受信周波数を移るとき、ダイヤルをそろそろと回して7010kHzを行き過ぎぬような合わせ方があります。 それには慎重にゆっくりダイヤル操作するでしょう。7010kHzに合うまで少し時間がかかります。 普通はそのようにダイヤル操作しません。 7010kHzを行き過ぎても良いので早く回し、行き過ぎたら少し戻して7010kHzぴったりに合わせるでしょう。その方が素早くできます。 図は、そのような過程を示すもので、ダンピングファクタ:ξの値との関係を示しています。多くの場合、ξ=0.5〜0.7あたりにとるのが適当です。ξがそのあたりなら「ちょっと行き過ぎて合わせる」と言ったダイヤル操作と類似になります。 数字で言うと、行き過ぎ量(オーバーシュート)を20%以下としてξ=0.7を選びます。実際、ξ=0.7でほとんど支障ないです。

 グラフを見ると、ξが小さくなると「振動的」になります。 PLL回路は出力から入力方向へ信号を戻しています。  帰還回路になっています。 ξを小さくすると負帰還からやや正帰還気味になります。 完全な正帰還になると固有の周期で振動(発振)します。 その固有の周期(周波数)を「自然周波数」と言い、ωnで表します。なお、ωnはVCOの発振周波数と関係はありません。 図の振動波形はωnの軌跡であり、系の応答はその周期に支配されます。ωnの単位はradian/secです。 もちろん持続的に振動させてはいけませんから、ξの大きさを適切に選ぶのは言うまでもないでしょう。

 ξとωnはロックアップタイム:tLと密接に関係します。 グラフからξ=0.7にとると、約5%以内の誤差で目標周波数に落ち着くのはωn・t=5(ラジアン)のあたりです。 これからωnが求められます。

ωnを求める計算式は:ωn=(ωn・t)/tLです。また、tL=10mSですから:
ωn=5/tL=5/(10x10^-3)=500 (rad/sec)・・・・・になります。

 tLやωnについて、PLLの解説書には詳細な説明があります。しかし我々が作るPLL発振器にはあまりバラエティはなく、概ね決まり切った値で作れば間に合ってしまいます。 tL=10mS、ξ=0.7で良いでしょう。 従って、ωnも500 (rad/sec)になります。

参考: tLが10mSではないときの参考値。
tL=1mSなら、ξ=0.7として、ωn=5000 (rad/sec)
tL=100mSなら、ξ=0.7として、ωn=50 (rad/sec)

# 大雑把な話ですが、周波数安定度の良いVCOならtLは長めに、あまり安定性がよくないVCOではtLは短めが良いです。

 【ループフィルタの形式と計算

計算式では以下の記号を使います。
 (1)位相比較器ゲイン:kp
 ・・・・・ここでは74HC4046のType Ⅱ型位相比較器を使うので、Kp=0.398 (V/rad)です。 詳しくは前々回のBlog (Part 2)を参照して下さい。

 (2)VCO感度:Kv
 ・・・・・これは実測によって求めた値を使います。詳しくは前回のBlog (Part 3)を参照します。 ここで使ったVCOは、Kv=3.338x10^6 (rad/V)です。
 このKvの値はVCOの設計ごとに違うので事前にVCOを試作して求めておきまます。 Kvは机上の計算もできますが精度が悪いので、試作して実測する方が確実です。

 (3)平均分周数:N
 ・・・・・7MHzから8MHzの間を10kHzステップで発振するPLLを作っています。プログラマブル・カウンタの分周数Nは、7MHzのとき、N=7000/10=700になり、8MHzの時はN=8000/10=800です。 平均のNは:N=(700+800)/2=750となります。

 (4)ロックアップ・タイム:tL 
 ・・・・・ここではtL=10mSに決めました。単位はSec(秒)です。

 (5)ダンピングファクタ:ξ
 ・・・・・オーバーシュート<20%の条件などからξ=0.7を選びました。

(5)自然周波数:ωn
周波数が目標値の5%以内に落ち着くのは、上記のξと応答性のグラフから読み取って、ωn・t=5 のポイントであることがわかります。

 ωn・t=5ですから: ωn=5/t= 5/10x10^-3=500 (rad/sec)

ループフィルタの計算:
 設計に必要な情報がすべて揃ったので計算しましょう。 左図を参照してください。

(1)ラグ型フィルタ:
 一番上のFig・1 は一次遅れフィルタ(ラグ・フィルタ)と呼ばれるものです。 稀に使われますが、応答時間と応答特性を独立に決めることができません。 制約が大きいためPLL周波数シンセサイザではあまり使われません。 抵抗器はひとつ少ないのですが特にメリットがないので設計式は省きます。


(2) ラグ・リード型フィルタ(パッシブ形式)
 二番目のFig・2はラグ・リード型のループフィルタです。 フィルタの後にOP-Ampがありますが、フィルタ部分にはアクティブ回路(アンプなど)を含みません。 この形式のフィルタは以下の設計式で計算できます。

  R2=(1/C)・((2・ξ/ωn) - (N/(Kp・kv)) ・・・・・・式・1

  R1=((Kp・Kv)/(N・C・ωn^2)) - R2 ・・・・・・・・式・2

 計算式には未定義の定数:Cがありますが、これはコンデンサ:C1の値です。 あらかじめ決めておく必要があります。単位はファラドです。 この設計では10μFに選びました。 とりあえず適当にCの値を決めて計算した結果、R1およびR2が数100Ω以上、1MΩ以下にならなければ、Cの値を変更します。 Cの値は0.1μF〜数10μF以下に選ぶべきです。必ず漏れ電流のないコンデンサを使います。 フィルム型かタンタル・コンデンサにします。 コンデンサは容量計で測定しておくと良いです。その実測値に基づいてR1やR2を計算すると確実です。

 さっそく具体的に求めてみましょう。 C=10μFとします。
  R2=(1/10x10^-6)・((2・0.7/500) - (750/(0.398・3.338x10^6))
      =100000・(0.0028 - (750/1328524)) ≒ 223.55・・・・・単位:Ω

  R1=((0.398x3.338x10^6)/(750・10x10^-6・500^2)) - R2
    =(1328524/1875) - 223.55 ≒708.55 - 223.55 = 485.0・・・単位:Ω
  ・・・・・となります。

 使う抵抗器は計算値の±10%以内で選んでおきます。 この計算例では、C1=10μFとして、R1に470Ω、R2に220Ωを使います。
  なお、C2はリファレンス信号の高調波を減衰させるものです。 おおよそC1の1/100くらいに選びます。 C2=0.1μFとしました。


(3) ラグ・リード型フィルタ(アクティブ形式)
 下段のFig・3もラグ・リード型のループフィルタです。 上記と同じラグ・リードフィルタですが、OP-Ampを使って構成しています。 ループフィルタの出力インピーダンスが下がりノイズの混入が防げます。 この形式のフィルタはパッシブ型より少し計算式が簡単です。 OP-Ampのオープンループ・ゲインは十分大きいとします。

  R1=((Kp・Kv)/(N・C・ωn^2))     ・・・・・・・・式・3

  R2=((2・ξ)/(ωn・C))                 ・・・・・・・・式・4

 この計算式にも未定義の定数:Cがありますが、同じくC1の値です。 あらかじめ決めておく必要があります。 OP-Ampのドライブ能力などから、0.01μFから数μFの範囲が良いです。 とりあえず適当にCの値を決めて計算した結果、R1およびR2が1kΩ以上、1MΩ以下に入らなければCの値を変更します。 Cの値は0.01μF〜数μF以下に選ぶべきです。 コンデンサの注意は上記と同じです。

 さっそく具体に求めてみましょう。 C=1μFとします。
  R1=((0.398x3.338x10^6)/(750・1x10^-6・500^2))
    =(1328524/187.5) ≒7085.5  ・・・・・・単位:Ω

  R2=((2・0.7/(500・1x10^-6))
      =((1.4/0.0005) ≒ 2800          ・・・・・・単位:Ω
  ・・・・・となります。

 こちらも計算値の±10%くらいに選んでおけば十分です。 従って、C1=1μFとして、R1は6.8kΩ、R2は2.7kΩにします。
  なお、C2はリファレンス信号の高調波を減衰させるものです。 おおよそC1の1/100くらいに選びます。 C2=0.01μFとしました。

注意:アクティブ型は反転型のアンプを使うため、ループフィルタを出た信号が反転します。 VCOの周波数変化方向を逆にする必要があります。 制御電圧が低いとき高い周波数で発振し、電圧の上昇とともに発振周波数が下がるように設計します。 前回のBlogで扱ったVCOの場合、バリキャップのカソード(K)端子をVdd(=5V)に接続し、アノード(A)側へ制御電圧を加えるように変更すれば大丈夫です。
 既成品のVCOモジュールを使う際にはこうした配線変更はできません。 OP-Ampを追加して反転アンプを構成し、信号を再反転して元に戻すようにします。 ほかに74HC4046のように位相比較器の入力が2つとも引き出されていれば、VCO側とリファレンス側を入れ替えても良いです。 MC145163PのようにICの内部で配線されているとその手は使えないので、VCO側で対策するか反転アンプを追加する方法になります。

# ラグ・リード型にはパッシブ型とアクティブ型がありますが性能は同じです。 TC5081Pを多用していた頃はアクティブ型を好んで使っていましたが、最近はHC4046の方を良く使うのでパッシブ型がほとんどです。 お好みでどちらでも良いと思います。 同じように設計すればPLLとしての性能に違いはありません。

 これでループフィルタの設計は終了です。  定型の式に当てはめるだけで求まります。 計算に慣れていないとちょっと難しかったでしょうか?  例題を参考に計算してみてください。 さらに実際のPLL回路で試すときちんとロックするのが確認できるでしょう。 スパっとロックするPLLは気持ちの良いものです。(笑)

                    ☆

リファレンスは漏らさない
 続いて、きれいな出力信号を実現する為の工夫についての話しです。 きちんとループフィルタを設計すれば確実にロックします。 しかしそれだけではまだ不十分なのです。

 位相比較器の出力は周期が比較周波数(リファレンス周波数)のパルス波です。 それを平滑して(平均化して)VCOを制御するDC電圧を得ています。 周波数切り替えの過渡的な状態が終わりロック状態になると細いパルスが時々現れる状態になります。

 ラグ・リード型のループ・フィルタを通っただけではリファレンス周波数の成分がかなり残っています。この例では10kHzとその高調波成分が残ります。 いくらループ・フィルタの設計を完全にしても残ったリファレンス成分によってVCOが変調されます。 ロックはしていてもスペクトラムが汚いのです。 このことはMotorola社の設計ハンドブック(末尾で紹介)でも触れられており、リファレンス漏れの対策は不可欠です。

 簡単な方法としてFig・4(左図)があります。単純な一次のフィルタを重ねただけでも効果的です。 さらに、OP-Ampを使ったアクティブ・フィルタを追加する例がFig・5です。 この2次のローパスフィルタ(以下LPFと略)はたいへん効果的です。 このLPFのカットオフ周波数は自然周波数:ωnの5倍程度に選ぶのが適当です。

 ここで扱った7MHzのPLLではωn=500 (rad/sec)でした。 追加するLPFのカットオフ周波数をωcとすれば、ωc=5・ωn=5・500=2500(rad/sec)となります。

 このLPFの計算は簡単です。(Ref.Filter Eの部分)

  R = R3 = R4とした場合、R = 1/(2・ωc・C3) ・・・・・・・式・5
  C4 = 4・C3  ・・・・・・式・6
 ・・・・となります。 なお、1kΩ ≦ R ≦1 MΩになるようコンデンサを選びます。

 ここでは、ωc = 5・ωn = 2500、C3 = 0.011μFとしました。 0.011μFというのは、0.022μFを2つ直列にした値です。

 R = 1/(2・2500・0.011x10^-6) = 18.182x10^3 ≒18kΩ にしましょう。
 実際に製作するにあたっては、C3としては0.022μFを2つ直列にし、C4としては0.022μFを2つを並列にします。このLPFの効果的は以下の回路シミュレーションで確かめられます。

ループフィルタのシミュレーション
 ループフィルタの部分でリファレンス周波数が・・・ここでは10kHzが・・・どれくらい減衰するのかを見るためにシミュレーションしてみます。

 (1)ループフィルタのみの場合、(2)単純な1次のフィルタを二つ重ねたフィルタの場合、(3)さらに2次のアクティブ・フィルタを追加した三つの場合についてシミュレーションします。 回路シミュレータはいつものようにLT-Spiceでバージョンは2018年9月現在の最新版:XVIIです。

 シミュレーションではOP-AmpにLT-1001を使っています。 低周波でのシミュレーションですからOp-Ampは何でも大丈夫でしょう。 回路シミュレータ:LT-Spiceの詳しい扱い方はOHM社やCQ出版社から参考書が出ています。

補助のフィルタは効果的
 緑色のトレース:V(out-7)がループフィルタのみの特性です。実線が振幅特性、破線が位相特性です。(以下同じ) グラフを読み取ると、10kHzで-12dBですから、いくらも減衰しないことがわかります。 ループフィルタだけではリファレンスの漏れはだいぶ大きいのです。

 青のトレース:V(out-6)が単純な1次のフィルタを重ねた特性です。グラフを読み取ると、10kHzで-47dBになりました。 ループフィルタのみと比較してさらに1/50以下まで減衰します。ごく単純なフィルタでもかなり効果的です。 ほとんどのテストをこの状態で行ないましたが満足できる結果が得られています。

 赤のトレース:V(out-3) が2次のアクティブ・フィルタを追加した特性です。 グラフから読み取ると、10kHzで-87dBになります。 ループフィルタのみと比較して1/5000以下です。非常に効果的です。

 なお、リファレンスの漏れはループフィルタからだけでなく、電源系統やGNDの共通インピーダンスによる結合などもあります。 電源のデカップリングを厳重にし回路のアースポイントをよく考え、デジタル部分とVCOが共通インピーダンスを持たないよう注意します。

PLL発振器のスペクトラムが汚れる一番の原因はリファレンス漏れにあるので、十分な対策を行ないたいものです。

                 ☆  ☆

 以上でループフィルタの設計とその関連でリファレンス・フィルタの設計の話は終わりです。 Part 1〜Part 3までのデータを総合して設計すればきれいなスペクトラムのPLL発振器が作れます。 ぜひ実践されてください。

 以下は、追加として74HCT9046Aの位相比較器についてのお話しです。 高性能な位相比較器として話題になったこともあるそうですが、使い方の説明がほとんど見当たらないため持て余しているかもしれません。 しかし使うのは難しくありません。

 【74HCT9046Aってどんなもの?
 74HCT9046Aは74HC4046の改良型として登場しました。 いくつか特徴がありますが、ここでは位相比較器に注目しましょう。

 Part 2で見たように、PLL周波数シンセサイザに向いた位相比較器としていわゆるType II型があって広く使われています。 万能に使える位相比較器ですが欠点があります。ある意味で致命的な欠点と言えるかもしれません。 その欠点を解決するために開発されたのが74HCT9046Aです。 9046Aを使えばHC4046で問題になった「デッドゾーン」による信号の汚れは起こらなくなります。 それはどう言うことか次項で説明します。

  74HCT9046Aは普通に入手できます。 写真は少々古いためフィリップス製ですが、現在ではNexperia製が手に入るでしょう。 ピンピッチ2.54mmのDIPパッケージ品もカタログにありますが入手できませんでした。ニーズが少ないためか殆ど作っていないようです。 ここではSO-16パッケージの面実装型を使いました。 変換基板に乗せてブレッドボードで実験しました。 ピンピッチの狭いTSSOP-16パッケージもあります。 74HCT9046Aは今のところ秋葉原や日本橋にはないようです。 部品商社のMouserほかで単価300円くらいです。

 【74HCT9046Aの特徴とループフィルタ設計
 左図のFig Aは、従来からあった74HC4046の位相比較器:Type IIの特性です。 2つの入力の位相差に比例した電圧が得られることがわかります。 しかし、位相差がゼロ付近で直線性がなくなっています。 このグラフはたいへん誇張されていますので、実際にこれほど目に見えるわけではありません。

 しかし、こうした特性があるのは事実であり、結果としてPLL発振器の出力スペクトラムに現れるのです。 PLLはロックしているものの、位相誤差ゼロ付近の微細な揺らぎが不感帯に掛かるので制御されず、信号はそのまま揺らぐのです。 スペクトラムを微細に観測すると揺らぎのため太くなっていることがわかります。

 原因はType II型位相比較器の動作メカニズムと内部構造にあります。 位相ロックしている状態でも何らかの外乱があり、ごくわずかですが発振周波数は変動しそうになります。 位相比較器はその変動を位相差として捉えます。 捉えた位相のずれを修正するため、位相差に比例した幅のパルス波が出力されます。 ところが既にロックした状態ですから非常に小さな位相のずれです。従って出力のパルス幅はとても狭いのです。 ICの内部には構造上必ず数pFのストレー容量が存在します。その狭いパルス波はストレー容量の充放電で吸収されてしまい有効な出力として得られないのです。  狭いパルスが出力されるのはロックした状態の前後に限られます。 そのためFig.Aのような不感帯(デッドゾーン)が現れるのです。

 さらにType II型の位相比較器の出力はC-MOSに類似の構造です。(Part 2のType-II型位相比較器の等価回路図を参照)電源側にP-ChのMOS-FETが、GND側にN-ChのMOS-FETが入っています。 両方のFETが同時にONになると電源からGNDに向かって過電流が流れます。 そのため同時にはONにならないようになっています。これも位相差ゼロ付近に不感帯ができる原因です。

 Fig.Bに74HCT9046Aの位相比較器の特性を示します。  位相差ゼロ付近に不感帯はありません。これは位相比較器の出力部分を改良してあるからです。 MOS-FETのON/OFFでは同時ONを防ぐ必要があって、完全に不感帯をなくすことはできません。 そこで内部抵抗を持った電流源を使って同時ONしても支障ないように工夫しているのです。 また電流源は等価的な内部抵抗を持つように作られており、Fig.Eの例で言えばストレー容量はC1あるいはC2と並列になる構造のため、微小容量の充・放電に吸収されず出力としてきちんと得られるようになるのです。 そのため、Fig.Bのように不感帯(デッドゾーン)のない位相比較器になります。 Type II型の位相比較器の欠点であるデッドゾーンの問題は解消され、ロックした状態で綺麗なスペクトラムが得やすくなっています。

 Fig. Cは74HCT9046Aのピン配置です。 HC4046と類似ですが、位相比較器:PC-IIIが省略されています。 Pin 15はPC-IIの電流値を決める端子になっています。 そのほか、Pin 5のInhibit端子の動作が異なります。 HC4046ではPin 5をHighに保つと内蔵のVCMがインヒビット(抑止=機能停止)されました。 HCT9046AではVCMだけでなく位相比較器もインヒビットされます。 従って位相比較器だけを使いたい時もPin 5はLowに保つ必要があります。  74HCT9046AはVCMも改良されていますが、未だに無線通信系の用途には使えません。 Fig.DはHCT9046Aの内部ブロック図です。 Pin 15が電流源の電流値設定端子:Rb端子であることに注意します。

 Fig. Eに74HCT9046Aの使い方を示します。
基本的に、ラグ・リード型ループフィルタの設計と同じです。 ただし、R1'と言う抵抗は実際にはICの内部に存在るするので実態を伴う部品としては存在しません。 具体的には(1)仮にR1'としてループフィルタを設計します。 これは既に見てきたループフィルタの設計とまったく同じでOKです。 C1を決めてR1'とR2の値を計算します。 なお、HC4046と同じようにKp=0.398 (V/rad)で設計します。 Vdd=5Vで使うなら意識しないと思いますが、HCT9046Aでは、このKpの値が電源電圧によって変化しないことに注意してください。(2)仮に求めたR1'を内部抵抗に置き換えるための計算を行ないます。 内部抵抗の値はPin 15とGND間に接続した抵抗器:Rbの値で制御できます。

 このRbの値はR1'の17倍にすれば良いことになっています。 例えば、R1'=4.85kΩなら、Rb=82.45kΩ ≒82kΩとなります。  74HCT9046Aの仕様書によると、Rbの範囲は25kΩ〜250kΩでなくてはなりません。 したがって、R1'としてはその1/17の約1.5kΩ〜15kΩになります。この範囲を外れるときは、C1の値を変更して再計算します。

 以上、何となく難しそうな74HCT9046Aですが意外に簡単なことがわかったと思います。 まずは従来通りにループフィルタを設計し、R1'とR2を求めます。 R1'を内部抵抗で置き換えるためRbの値を計算します。 Rbの値が規格の範囲にあれば設計終了です。 もし範囲に入らないときはC1の値を変更して再計算します。 あとはR1'の位置はゼロΩ・・・すなわち何も抵抗器は入れずにただショートしておけばOKです。 Pin 15とGNDの間に計算で求めた値のRbを入れるのを忘れないでくださいね。

 上記の74HCT9046Aの使用例は、ループフィルタとしてパッシブ型のラグ・リード型で説明しました。 もちろんアクティブ型でも同じです。 またラグ型のフィルタにも使えます。 設計方法も同じですからR1'を内部抵抗に置き換える計算を行なえば良いわけです。

参考・重要:位相比較器に74HCT9046Aを使うと劇的な変化が起こるように感じたかもしれません。 しかし、実際にはそのようなことはなく、74HC4046でもループフィルタの定数を上手に選んでやることでまずまずな性能が得られます。ループフィルタの抵抗値を小さく選びIC内部のストレー容量の影響が見えにくくなるように設計します。そうすれば影響はかなり軽減されます。 具体的にはループフィルタの抵抗値(特にR1)を低めに・・・100Ω以上〜1kΩ以下あたり・・・に選び、伴ってコンデンサ:C1の値をかなり大きめにすることで改善が見込めるのです。
 実際に74HC4046を使いループフィルタを低インピーダンスに設計したPLL発振器と74HCT9046Aを使った例を比べても極端な違いは感じませんでした。 もちろん、詳細な比較測定を行なうと確かに違いはあります。新たに購入するなら74HCT9046Aが良いでしょう。 しかし74HC4046も回路定数を上手に選べば十分使えます。手持ちをいますぐに捨てる必要はありません。(笑)
 同様の意味から、TC5081APや他のPLL用LSIの位相比較器も同じ問題を抱えていることになります。しかし設計次第でそこそこ使えます。 なお、位相比較器のスピードが遅いのは明らかに不利です。標準C-MOSのCD4046Bやそれに近い古いタイプのCB用PLL-LSIは性能が悪いようでした。TC5081APが高速な74HC4046に劣るのはやむを得ません。

7MHz PLL発振器・’9046Aを使う
 位相比較器に74HCT9046Aを使った7MHz帯PLL発振器の回路例です。 ループ・フィルタの設計は2次のパッシブ型です。  ほかの回路部分はPart 1〜Part 3の回路と同じです。 VCO回路はディスクリート構成に置き換えても良いでしょう。 性能の向上が期待できます。

 コンデンサ:C1は1μFで設計しました。 計算の結果、R1'=4.85kΩ、R2=2.2kΩになりました。 R1'はIC内部の信号源抵抗と置き換えます。 Rb=17・R1'なので、Rb=17・4.85(kΩ)で、Rb=82.45kΩ ≒ 82kΩとします。
 なお、74HCT9046Aを使ったからと言ってリファレンス漏れの対策は必須です。 OP-AmpにLMC6482AINを使った簡単なリファレンス・フィルタを付けておきました。 もちろん、この部分はアクティブ・フィルタ形式のLPFでも良いでしょう。
 実測してみますとたいへん良い特性の7MHz帯周波数シンセサイザになりました。 ただし74HC4046でループフィルタを低インピーダンス設計したものと極端に違うわけではありません。あまり幻想を抱きすぎませんように。(笑)

  PLL用のLSI:MC145163Pを使って実験をはじめましたが、オールインワンのLSIではそのもの本来の機能・性能ですべてが決まってしまいます。 TC9122Pや74HCT9046Aのような個別のチップで構成するとすこし煩雑にはなりますがより高性能化が図れるため有利なこともあります。 手持ちの部品を活かした設計をしたいものです。

                   ☆

 この「7MHzPLL発振器」もずいぶん回数を重ねました。 一気に終了にしたいと思ったら長大になってしまいました。 十分に網羅できていないかも知れませんので必要に応じて続編を出したいと思います。 忌憚のないご意見をいただければと思います。

このBlogは実用本位のものです。 学問的なものではありません。学生さんが参照して実験レポートや論文などを作成するには内容不十分です。 またプロフェッショナルな設計なら設計の裏付けが欲しくなります。 アマチュアのお方も詳細な解析にご興味があれば本格的な研究をお勧めします。 しかしホビーストやHAMが週末の余暇に実用品を製作するには役に立つはずです。

製作にあたり機械的な構造のへの配慮もPLLでは非常に大切です。 冒頭写真のメーカー製PLLユニットのように、部品が振動せぬよう樹脂で固めるような対策も必要です。 特に移動運用する無線機では振動対策は必須です。VCOにコア入りのコイルを使っているなら、コアは必ずパラフィンなどのワックスで固めておきます。 振動に強いようにVCO部分を表面実装部品で小さく作るのはたいへん有効です。 さらに電源トランスを内蔵しているなら磁束漏れがVCOに誘導すればノイズ源になります。電源トランスのコアの機械的な振動(トランスの唸り)もPLLの大敵です。構造の工夫や部品の振動対策のような電気的ではない部分もとても重要です。

                   ☆

 どうしても新しいデバイスに目を奪われがちですが、それでは温存していたパーツが浮かばれません。 もちろん旬を過ぎたパーツを無理して使っても不合理なものしか作れないなら、あまり意味はないと思います。 しかし、まずまずな性能が得られ、しかも設計の妙味があるなら旧型デバイスも十分価値があるでしょう。 MC145163Pに限らず、PLL系のICには活用の場が残されています。 陳腐化する前に積極的に使ってやりたいものです。 うまくロックするPLLが作れましたらレポートでも下さい。うまく行かなくてもコメントなどどうぞ。 待ってます。 ではまた。 de JA9TTT/1  (再校正・縮小版: 2018.09.30)

関連情報:7MHz PLL Oscillator関連のリンク
(1)イントロ編:(Part 1:こちら←リンク)
(2)PLLの機能分析編:(Part 2:こちら←リンク)
(3)PLLに向いたVCOの研究編:(Part 3:こちら←リンク)
(4)ループフィルタの設計編(最終回):(Part 4:いま見ているここです)

参考資料:PLL回路の設計関係
(1)「PHASE-LOCKED LOOP SYSTEMS (2ndED)」、Motorola、1973(英文)
   PLLのバイブルのような書籍です。PDF版がネット検索で得られます。
   非常に古いため、C-MOS構造のチップに関する情報はまったくありません。
   このBlogではこれを参照のうえ現代にマッチするようアレンジしています。
(2)「PLL回路の設計と応用」、遠坂俊昭 著、CQ出版社、初版2003年11月1日、
   JAN9784789833455、¥3,024ー
   PLL回路について扱う近代的な書籍は殆どないためたいへん貴重です。
   PLL回路の解析はユニークで設計法もMotorola社の資料とかなり違います。
   各種の位相比較器の動作などたいへん詳しいため勉強になりました。
   筆者の遠坂さんは知人です。HAM局のコールサインもお持ちだそうです。
(3)「Product specification 74HCT9046A」、Philips、1999 Jan 11、PDF版
   現在は同じ内容のNexperia版がDLできます。機能・性能の詳細がわかります。
   一般的な電気的仕様や注意事項が書かれているので使う前には一読を。
   簡単な設計例も載っています。内蔵のVCMに興味があれば必読です。

 以上、Blog作成にあたって参考にしましたが購読は必須ではありません。 ご自身の必要に応じ興味があれば読んでみたらどうでしょうか。 図書館の利用などもお薦めです。

(おわり)fm

2018年9月10日月曜日

【回路】7MHz PLL Oscillator (3)

7MHz帯のPLL発振器・その3 VCOの研究編
MC1648Pを使う
 7MHz PLL発振器を題材したPLL活用の第3回です。前回(←リンク)はPLL回路の各要素を概観しました。 今回はたいへん重要なVCOを集中的に扱います。 ループフィルタの設計が適切なら、あとはVCOの「良さ」が出力スペクトラムの「きれいさ」のほとんどを決めていると思っています。

 写真のMC1648Pは非常に古いICです。 1970年代のはじめには登場していました。 しかしPLL回路のVCO用として優れていたため、以後多くの推奨回路に使用例がみられます。 デバイス技術の進歩で改良版も登場していますが中身の回路に大きな変更はないようです。 それだけ優れた設計だったということでしょう。 ここではMC1648Pをあらためて見直し、代替となる回路を探りたいと思います。

                   ☆

PLL回路のVCOに求められるものは
 PLL回路のVCO(電圧制御発振器)としては、電圧または電流と言った電気的な手段で周波数が変えられるような発振器なら何でも良いはずです。 ですからごく常識的なコルピッツ型やハートレー型の発振器でも良いでしょう。 実際、過去に作ってきたPLLではそうした発振回路を採用してきました。 中でもよく使われる回路としてコルピッツ型の一種「変形クラップ型」があって今回もテストしています。 しかし、PLL用にはそうしたポピュラーな発振回路よりもMC1648Pの方がずっと使い易いのです。 流石に長く使われているだけの意味はあるようです。

 きれいな発振出力を得るためには共振回路を持ったVCOに限ります。 HF〜VHF帯ならLC発振器が、UHF帯以上ではストリップラインや誘電体共振器を使います。 場合によっては水晶発振子を使うこともあります。 いずれにしても周波数の可変には可変容量ダイオード(以下バリキャップと表記)を使います。 しかしバリキャップを発振振幅の大きな部分(例えばLC共振回路の部分)に接続するとダイオードとしての整流作用が働き、自己バイアスがかかるなど問題が発生します。 自己バイアスによって所定の周波数可変範囲が得られない、ループフィルタに電流が流れ込んでPLLの動作に干渉するなどの不都合が起こります。 これをうまくこなす方法もありますが、使いやすさの点ではLC共振回路(タンク回路)の発振振幅を約1Vppに抑えたMC1648Pに分があるように思いました。

 写真は新旧のMC1648Pで右が新しいものです。右は最近になって購入したものですが安価とは言えず確実な入手も難しいようでした。 MC1648Pのメリットは認めますが、そのものを継続して使うのはあまり得策とは思えません。できたら代替となる回路を検討すべきでしょう。 まずはMC1648Pの動作を見直した上で代替回路を考えたいと思います。

 以下、PLLで発振器を作ろうとすれば役立つかもしれませんが、VCOとして使うのではなくてバリコンで周波数可変するような一般的な自励発振器としてはほかの回路形式の方が優れています。 PLL回路にさして興味がなければこの先はお薦めしません。時間を無駄にしませんように!
                   ☆

MC1648PのVCO
 既出ですがMC1648Pを使ったVCO回路です。 発振専用のICなので内部で発振回路が構成されています。 あとはコイル:Lとコンデンサ:Cを使った共振回路を外付けするだけで確実に発振してくれます。 あまりQの低いコイルはC/Nが悪化するので感心しませんがそれほど難しく考えなくても発振はしてくれます。 特別High-Qにする必要もないです。

 発振周波数の可変はLあるいはCのいずれを変えても可能ですが、電子式に可変したいならCを変えるのが現実的です。 可飽和特性を持ったフェライトコアを使ってコイルを作り、励磁巻線にバイアス電流を流してインダクタンスを可変すると言った方法がない訳ではありません。しかしメリットは少ないでしょう。 バリキャップでキャパシタンスを変える方法が現実的です。  ここではバリキャップとしてFC-52M(富士通)を使いました。 逆バイアス電圧を0〜5V変化させると端子間容量は約140pF〜20pF変化します。

 バリキャップに加わる高周波電圧は1.2Vpp程度です。 逆バイアス電圧が0Vでは僅かに自己整流がありますが、0.5Vも加わればもう起こりません。 従ってバリキャップの容量変化特性から求まる周波数の可変範囲が実現できます。

MC1648Pの内部回路を考える
 MC1648Pの内部回路も含めて発振回路をもう一度見直しましょう。

 左図はMC1648Pの等価回路がわかるように書いた図面です。 内部はたったこれだけの回路でしかありません。 しかも左側の半分近くはバイアス回路が占めており、さらに右側に出力のバッファアンプがあります。 実際の発振回路は中央部分にあるわずか2石で構成されているのです。

 温度特性を良くするとか、発振振幅を一定に保つと言った回路の工夫は見られますが、発振器の本質はたった2石の帰還型発振回路なのです。これなら簡単に代替回路が作れそうに思いませんか?(笑)

MC1648PのVCO:出力波形
 MC1648Pは正弦波で発振していますが、出力波形は矩形波と正弦波が選べます。 Pin4のAGC端子とGND間の抵抗器を省き、コンデンサでバイパスするだけの状態で使うと写真のような矩形波っぽい波形になります。

 Pin4とGND間に10kΩくらいの可変抵抗器を挿入して最適なポイントに調整すると正弦波に近い波形にすることもできます。 ただし発振振幅はやや小さくなります。

 だいたい4.3kΩにすると大きめな発振振幅で正弦波にちかい波形になりました。 ICにはバラツキがあって、最適値は変化しますので波形を見ながら個々に調整すべきでした。
なお、発振そのものは正弦波状なので内部のアンプを通さずTank回路から直接取り出すと正弦波になります。

可変容量ダイオード
 電子的に共振周波数を可変したり微調整する目的で様々な可変容量ダイオードが作られています。 現在では表面実装型が主流になっているようです。

 参考のため手持ちのバリキャップを幾つかを並べてみましたが、見たところは小さな2端子もしくは3端子の電子部品です。普通のダイオードとあまり違いません。 3端子のものは2個が複合されたもので、カソード・コモンのものが多いようです。 これは2つ使って発振電圧による自己整流作用を軽減し周波数の可変特性を改善する方法があるからです。 3端子のものは最初からそのような目的に作られたものです。 ただし直列にすると容量は半減します。 もちろん片側だけ使ったり、2つを並列に使うと言った応用もできます。

 バリキャップには大きく分けて3種類があるようです。 最大容量が20pFくらいの比較的小容量のものはかつてのアナログTVやFMチューナの自動周波数調整(AFC)用でしょう。 最大容量が20〜40pFのものは電子同調式FMチューナあるいはCATVチューナ用です。 CATV用は逆耐電圧が高くなっていて30V程度まで加えて使うものがほとんどのようです。 もう一つにAMラジオの電子同調用があります。 AM放送は周波数が低いため大きな同調容量が必要です。したがって最大容量は400pFくらいあります。 AMラジオだけでなく低い周波数での応用にも重宝します。

 LC共振回路を使った電子機器は減少傾向にあるため、バリキャップにも廃止品が多くなってきました。 完全になくなることはないと思いますが、これからは表面実装型も含めて検討する必要があります。

 なお、電源整流用のダイオードやツェナーダイオードなどをバリキャップの代用に使うことがあります。LEDを使っている例も見たこともあります。 いずれも端子間のキャパシタンスは小さめで、逆電圧であまり大きく変化しません。 そのため周波数の可変範囲は狭いのですが目的次第で活用できることがあります。

FC-52Mと1SV228の実測特性
 左図の赤い線はここで使用しているFC-52Mの実測特性です。 5V以下の電圧でも使いやすい特性です。 バリキャップのためだけに高い電圧を用意する必要がないのは有難いです。
 また、左図の青い線は1SV228の特性です。 1SV228は一つのパッケージにダイオードが2つ入っていますが、片側の特性です。 もし直列に使うならグラフに示した値の半分になります。 この1SV228はFC-52Mの代替候補で現在でも入手できるものです。*1 FC-52Mよりも容量可変範囲は狭いのですが、このPLL発振器に使うには十分な容量変化特性です。 支障なく使えるでしょう。 こうした可変容量ダイオードの特性はLCRメータと可変電圧電源があれば容易に測定できます。

 いずれのダイオードも、より広い容量可変範囲を得るには10Vくらいまで加える必要がありそうです。 しかし発振周波数がHF帯なら5V以下でも十分でしょう。

 このFCシリーズでは最大容量の大きなFC-51M(150pF@Vr=1V)がHF帯でも低い周波数で、FC-53M(45pF@Vr=1V)と54M(25pF@Vr=1V)はHF帯の高い方に向いています。 中波帯や短波帯の低い方にはSVC321(430pF@Vr=1.2V)や1SV134(480pF@Vr=1V)が良いでしょう。 VHF帯には1SV103(CATV用40pF@Vr=3V)や1SV113(34pF@Vr=1V)が向いています。 もちろん、広い可変範囲が必要なければ周波数帯に関係なく容量の小さなバリキャップもVCOに十分使えます。

 残念ながらここで使ったFC-52M(80pF@Vr=1V)はずいぶん前に廃止になっています。 直接代替可能なバリキャップは存在しません。 類似品で代替できますがVCOの特性はあらためて採りなおすことになります。 もちろん1SV228で代替する場合もVCOの特性は再測定になります。 しかし可変電圧電源(9Vの乾電池と10kΩのVRでも良い)とマルチメータ、それに周波数カウンタがあれば再測定は容易です。 無理して同じバリキャップを探すよりも簡単ですから積極的に代替すべきでしょう。

*1:1SV228は面実装型で秋月電子通商にて5個150円で購入。変換基板に実装して測定しました。価格は2018年9月現在のものです。

トランジスタで作るVCO
 MC1648Pの内部を検討して発振回路のコアの部分はたった2石で構成されていることがわかりました。 ただし動作環境の変化などを考えるともう少し検討しておいた方が良いでしょう。

 いくつか検討したところ、トランジスタ4つとダイオード1つの回路が良好でした。調整も容易です。 4つのうち発振に直接寄与するトランジスタは2つです。その2つは特に周波数特性の良いものを選びます。 ここではローコストながら周波数特性の良い高周波用の中華トランジスタ:S9018Hを使ってみました。 さらにバイアス回路へも品種統一の意味で同じS9018Hを2つ使いました。
 バイアス回路の部分は2SC1815のような汎用品でも大丈夫だと思います。しかしS9018Hは安価ですから経済性は悪くありません。 S9018H の足の並びは2SC1815などとは違うので注意します。(下図参照) ダイオードはシリコンの小信号用なら何でも大丈夫です。 ここでは1S2076Aを使いましたが代替候補はいくらでもあります。

 MC1648Pは数10円では買えませんが、S9018Hを4つと汎用ダイオード1つならコストは50円以下です。 性能はむしろ良いくらいですからお薦めできます。 ディスクリートは嫌いでどうしてもIC化したいなら後ほど実例があります。そちらもどうぞ。(笑)

トランジスタで作るVCO:回路図
 このような回路になっています。 Q1とQ2が発振用トランジスタです。 Q3とQ4はQ1とQ2の動作電流を決めるカレントミラー回路です。 またD2はバイアス電圧を得るためのものです。

 使用する周波数帯により動作電流を変えると最適化できます。 だいたい30MHzまでのHF帯なら図のままの回路定数で大丈夫です。 VHF帯以上でも使える回路ですが、その場合はR3を8.2kΩよりもう少し小さくしてQ1とQ2の電流を増やしてやります。 増やしすぎると発振振幅が増大し、バリキャップに加わる発振電圧が過大になります。 念のためQ1のコレクタをオロスコープで観測し1.0〜1.5Vppの発振振幅になるよう加減します。オシロがなければ回路図のままでも十分です。

 この発振回路はS9018HのようにfTの高いトランジスタを使ってコンパクトに製作すれば100MHz以上でも楽々発振できます。 しかもバリキャップの容量を変え、発振周波数が変わっても発振振幅はあまり変化しないのでPLL回路には使い易い発振器(VCO)です。

 発振部のトランジスタはS9018Hに限りません。 低い周波数なら2SC1815でも問題なく発振できます。 もちろん高周波特性が良いトランジスタの方が有利です。 手持ちの中では2SC535、2SC668、2SC1923や2SC2668などが適当でした。

Tr-VCOを7MHzのPLLに使う
 さっそくPLL回路に組み込んでテストしました。 周波数帯は同じく7MHzです。 PLL用のICにはMC145163Pを使いました。 もちろんTC9122Pと74HC4046を組みわせた回路構成でも大丈夫です。

 MC1648PのVCOとほとんど同じですが、S9018Hを使った回路の方が回路自身のノイズは小さめです。 そのためスペクトラムを観測すると10dB近くノイズフロアが低下します。 発振信号近傍の状態はそれほど違いませんが広帯域なノイズが少ないのは評価できると思いました。 これはMC1648Pのように内部の出力アンプを通していないからでしょう。 1段でもアンプを通る回数が増えればどうしてもノイズフロアは上昇します。 MC1648Pは汎用性を持たせる意味でカスコード形式のアンプ+差動増幅のアンプという2段構成なので不利なのでしょう。 それなりのメリットのある回路構成ですがノイズの点では少し不利なようです。

 このようなことから、MC1648Pの入手を試みるまでもなくトランジスタ4石で作ったVCOを第一にお薦めしたいと思います。 国産品のRF用トランジスタでもOKですが中華トランジスタで作ればコスパも抜群です。

Tr-VCOを使った7MHz PLL:回路図
7MHz帯のPLLに採用した例です。 トランジスタを使ったVCOも使い方はMC1648Pと同じです。

 トランジスタ式はAGC回路がないので、温度変化や電源電圧の変動に幾らか弱い傾向があると思います。 しかし、カレントミラー形式にしたので抵抗分圧でバイアス電圧を得る方式よりもずっと安定です。 図では電源経路からのノイズやリプルを軽減する目的でローカル・レギュレータを設けています。 発振出力をきれいにする効果もありそうですが、実験に使っていた安定化電源のDCもきれいだったので極端な違いは見られませんでした。

 この回路例ではMC145163Pで10.240MHzを発振させたので、10kHzステップでしか信号は得られません。 10kHzの間を連続的にカバーしたいなら、このBlog特集の初回(←リンク)にあった様なVXO形式の基準発振器にします。 またMC145163Pの代わりにTC9122P+74HC4046+74HC4060を使った第2回(←リンク)のような回路構成も可能です。 手持ちを有効活用されることを希望します。

 ループフィルタのあとのバッファアンプ(OP-Amp)はLMC6482AINを採用して近代化しました。 すこしローノイズになったように感じます。 ICL7621DCでも大差はなかったので類似のC-MOS OP-Ampならなんでも間に合うかもしれません。 入出力ともレール・トゥ・レール型のOP-Ampを使ってください。

# 詳しい回路説明や、そのほかのパーツについてはPart 1およびPart 2のPLL回路などを参考にして下さい。

Tr-VCOを使った7MHz PLL:特性グラフ
 VCO特性の話しです。 制御電圧対周波数の関係がVCOの特性になります。一旦PLLのループを切り離してVCO部を単独で測定します。 このグラフは上記の7MHz PLLのトランジスタを使ったVCOの測定結果です。 言うまでもありませんが、MC1648Pおよび同タイプのVCOでは類似の特性になります。
 左図は回路図中にあるコンデンサ、C21を変えながら採取した特性です。 C21はコイルに並列になりますので、容量を増やすと周波数が下がるとともに、制御電圧による発振周波数の変化量も抑制されます。 以下Cpとあるのは、回路図のC21のことです。

 バリキャップにはFC-52Mを使っています。 すでに見たバリキャップの電圧と端子容量の特性がそのまま現れたような特性になりますが、実際にはストレー容量やデバイスの端子間容量が存在するため計算から精度よく発振周波数を求めるのは困難です。
 したがって、VCOを試作してから実測するのが現実的でしょう。 量産するような場合はバラツキも考慮する必要があります。 VCOの発振周波数範囲は必ずPLL発振器で発振させたい範囲をカバーしている必要があります。さらにある程度の余裕も必要です。 また、必要以上に周波数の可変範囲が広いVCOはきれいな信号を得にくい傾向があります。
 複数の周波数帯で使いたいなら、一つのVFOで広い周波数範囲をカバーさせるよりも周波数帯ごとに幾つかVCOを切り替える(コイルを切り替えても良い)方法がベターでしょう。

 VCOの特性は:Kvで表されます。 計算式は:Kv=2π(fmax-fmin)/ΔVcです。 単位は(radian/volt)です。 ΔVcと言うのはfmaxになるときの制御電圧:VcとfminになるときのVcとの差電圧です。 このグラフではVc=0V〜10Vまで可変していますが、その範囲の全部が使えるわけではありません。 Vc=0V付近はバリキャップの自己整流による影響が現れやすくなります。 また5Vを超えた部分は周波数変化が少なくなっています。 この様な部分はなるべく使わない様にすべきです。 ここではVc=0.5V〜4.5Vの範囲と考えるのが適当でしょう。ΔVc=4Vになります。 並列のコンデンサ:Cp=47pFとすれば、Vc=0.5Vのとき、fmin=6.847MHzです。 またVc=4.5Vのときはfmax=8.972MHzでした。

したがって、Cp=47pFのとき:
Kv=2π(8.972-6.847)×10^6/(4.5−0.5)=2π(2.125×10^6)/4
 ≒3.338×10^6 ・・・・・(radian/volt)となります。(Cp=C21=47pFのとき)

Cp=33pFのときは:
Kv=2π(9.631-7.131)×10^6/(4.5-0.5)=2π(2.500)×10^6 /4
 ≒3.927×10^6・・・・・(radian/volt)となります。(Cp=C21=33pFのとき)

また、Cp=22pFのときは:
Kv=2π(10.383-7.386)×10^6/(4.5−0.5)=2π(2.997×10^6)/4
 ≒4.708×10^6 ・・・・・(radian/volt)となります。(Cp=C21=22pFのとき)

さらにCpを入れないときは:
Kv=2π(12.328-7.987)×10^6/(4.5−0.5)=2π(4.341×10^6)/4
 ≒6.819×10^6 ・・・・・(radian/volt)となります。(Cp=C21=なしのとき)

ここでは7〜8MHz帯のPLL発振器を作るのが目的です。 従ってCp=47pFが適当です。 全体的にもうすこし周波数を下げたい感じもするので、コイルのインダクタンスを増やすと良さそうです。その場合は特性の再測定が必要です。

 なお、VCOの回路図にはコイル:L1のインダクタンス値が書いてあります。 その値とCpの値、さらにFC-52Mの容量特性から共振周波数が計算できます。 しかし計算値と実測値は一致しません。これはブレッドボードのストレー容量やトランジスタの電極間容量が存在するからです。 周波数の実測に基づき逆の計算から求めるとストレー容量は20pF近くあることがわかります。 これはブレッドボードの分布容量の実測からも十分納得できるストレー容量でした。 プリント基板化するとストレー容量は減少するので注意が必要です。

VCOの定数:Kvは計算からもある程度求めることができますが、現実にはストレー容量などの影響もあるので実測で求めるべきです。 そうすればPLLとしての設計精度は向上します。 場合によっては並列容量:Cpをトリマコンデンサにしてストレー容量の変化を吸収するような設計も必要かも知れません。 しかし手作りの一品料理でしたら実測から求めておくのが現実的でしょう。

 もちろん、まったく新規にVCOを設計するなら、まずは必要な発振周波数の範囲を決めます。 必要なバリキャップの容量変化比は上端周波数と下端周波数の周波数比の2乗ですので、十分な容量変化量が得られるバリキャップを選択します。 例えば5〜6MHzの発振範囲とすれば、周波数比は1.2倍ですから、バリキャップの容量変化比はその2乗の1.44倍以上必要です。 具体例として、例えば0.5V〜4.5Vの変化で、容量が1.44倍以上変化するようなバリキャップを選びます。 その後、バリキャップの容量特性および発振周波数比と下端周波数などからTank回路のインダクタンスや並列容量を計算します。 もちろん、インダクタンス値や並列容量Cpなどは目的の発振周波数において合理的な値の必要があります。 さらに得られた回路定数でVCOを試作測定してKvを求めれば完全です。(追記:2018.09.11)

                   ☆

 MC1648Pの考察と、それを模したトランジスタ式のVCOについて調べました。 あらかたの用途では代替のトランジスタ式VCOで満足できます。 従って、以下はまったくの蛇足なのですがVCOのIC化を試みた記録として紹介しておきます。

μA703を使ったVCO
 実験を始めた当初、MC1648Pは入手難だったので代替を試みたのがこの回路でした。 μA703はフェアチャイルド社のFM-IFアンプ用のICです。 内部構造は非常にシンプルで、上記のトランジスタで作ったVCOをそのままIC化したような構造です。

 実はそれは話が逆で最初はこちらから実験を始めたのです。 その結果がなかなか良かったのでトランジスタ化の方向へ進んだのです。 昔のようにμA703が容易に入手できるならこの回路も良いのですが、すでに過去のデバイスになっていて入手は難しいでしょう。 無理に手に入れようとすれば金銭的な解決になってしまいます。 上記トランジスタ式VCOとはコスパの点でも勝負にならないでしょう。(笑)

μA703を使ったVCO:回路図
 簡単な回路とは言えさすがにICです。 回路はすっきりします。 μA703はFMチューナの世界では定番だったのでしょう。 たくさんのメーカーからセカンドソースが登場しました。

 たとえば東芝のTA7060Pはパッケージ違いの同等品です。 回路図中にあるように接続して使えばそのまま代替できます。 さらにTA7060Pのセカンドソースとしてローム社のBA401がありこちらも同じように使えます。 NECのμPC555AはμA703の互換品でした。 しかしどのICも遠い昔に廃番なので入手は困難です。 稀にオークションに登場するらしいですが入手難から高騰するためとうていお薦めできません。 もしも手持ちがあったなら試してみる程度が適当です。

 MC1648Pを模した回路になっていますが周波数特性はやや劣るようです。 200MHz以上の発振はできないようでした。100MHz以下で使うのが適当でしょう。 できたら50MHz以下が間違いないようです。

TA7069Pを使ったVCO
 TA7069PはRCAのCA3028AもしくはCA3053Aと類似の等価回路になっています。 差動増幅器とバイアス回路からなっており、TA7060Pとも類似ですがFM-IFアンプ専用ではなくてもう少し汎用性があります。

 このTA7069PでもMC1648Pを模した発振回路を構成することができます。 当然ながら上記に書いたCA3028A,etcでも同じことができます。 さらにCA3028AのセカンドソースであるTA7045Mも使えます。

 しかしどのICも古典的すぎるでしょう。 もしたくさん手持ちがあって使うあてもなく持て余しているのでしたら活用の機会かもしれません。 ただし新たに購入してまで使うようなパーツではありません。 周波数特性は上記のμA703を使う例と類似ですので50〜100MHz辺りまでが適当です。
 
【TA7069Pを使ったVCO:回路図
 TA7069Pはこのように使いました。 バイアス回路の一部が内蔵されていないため、外付けで補います。 そのようにすればTA7060Pと同じように使えます。

 何か特別なメリットでもあれば良いのですがこれと言って無さそうでした。 TA7069Pはたまたま昔使った残りがあったので試すことができましたが、これから手に入れても仕方ないでしょう。 TA7060PやμA703よりも使用量の少ないICだったようです。 こちらも手持ちがあれば試す程度が宜しいと思います。

でき上がったVCOの性能はまずまず良好でした。 十分使い物になると思います。

LA1600を使ったVCO
 LA1600はラジオ用のICです。それをVCOに使ったら可哀想かもしれません。 LA1600はスーパー・ヘテロダイン形式のラジオです。 そのため局部発振回路(Local OSC)が内蔵されています。 それをVCOとして使うのです。

 ちょっと可哀想かもしれませんが経済性は悪くありません。 今のところ100円前後で購入できます。 MC1648Pに手を出すよりも安価でしょう。 必要な外付け部品も少ないので使いやすいICでした。 ただ、遊びピンだらけでせっかくの高機能ICがちょっぴり忍びない感じもしました。(笑)

LA1600を使ったVCO:回路図
 LA1600を使ったVCOは経済性だけではないメリットもあります。 内部の等価回路は公開されていないので詳しくわかりませんが、MC1648Pと類似の発振回路になっているように思います。 さらに発振振幅が一定に保たれるような工夫もされているようです。 このため、性能の面から見てもVCOとして悪くないと感じました。

 LA1600はたくさんの回路が内蔵されています。VCOとして使う際は未使用の回路が中途半端に動作しないよう気をつける必要があります。うっかりするとノイズ源になります。 回路図のように使えば大丈夫なようでした。 発振部とも関連があるためRFアンプ部分はノイズ源にならぬよう特に注意が必要です。 IFアンプ以降は単純にピンを遊ばせておけば動作しなくなるようです。

 LA1600はもともと短波帯のラジオが作れます。従って30MHz以下なら動作は確実でしょう。 それ以上の周波数はデバイスのばらつきにより違いがあるようです。 特に高い周波数では確実に発振できるか実験的に確認する必要がありそうでした。

 AMラジオや短波ラジオは同じICで1〜2台も作れば飽きてきます。 LA1600はラジオ作りには便利ですし安価ですから買い溜めているかも知れません。 調べたらまだ10個くらい持っていました。この先LA1600で幾つもラジオを作ることはないでしょう。 VCOへの転用も考えたいと思いました。その方が死蔵するよりずいぶんマシです。

蛇足とは思いますが、LA1600の機能をすべて活かし、局発回路をPLL化したような受信機も作れます。 たとえば、IF周波数=450kHzとして9kHzステップのPLLで局発を構成すれば、シンセサイザ化した中波ラジオが作れます。

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 VCO回路に絞って実験してみました。 PLL回路のVCOとしては従来から使われてきた発振回路で十分かも知れません。 ここでテストするまではそう思ってきました。 しかし話の種と思ってMC1648Pを試したところ、そのメリットがわかってきました。 調べたてみたら一つしか持っていなかったので、もう何個か欲しいと思いました。 さっそく購入を試みところ、手には入ったのですが入手性はかなり悪そうでした。 次はもう買えないかも知れません。 これをお薦めするのは躊躇われます。 あるいは面実装型の新型を買う方が良さそうでした。

 そこで代替回路を検討したところ、トランジスタを使った回路が好結果でした。 周波数特性はMC1648Pよりも良いくらいです。 ノイズが少ないのもメリットでしょう。 面実装型でfTの高いトランジスタを使い、極力コンパクトに作ってやれば更に高い周波数のVCOとして期待できます。 うまい代替回路ができて良かったと思っています。

 作った回路はMC1648Pと同じ欠点を持っています。発振振幅を抑えた結果、幾らかノイジーになっているでしょう。しかし実際の評価に於いてはディスクリート回路の有利さからでしょう、MC1648Pよりだいぶローノイズでした。  より高性能なVCOを必要とするケースもあると思いますが、ほとんどの用途で満足できると思います。 必要以上に可変範囲を欲張らないように設計し、なるべくQの高いバリキャップを使うのがベストです。

 VCOの検討が済んだのでPLLの設計に必要な情報は揃いました。 ここまででだいぶ時間が経過しましたが、次回はループフィルタの設計に進みましょう。 合わせて定数選びのコツと言ったところにも触れられたらと思っています。 ではまた。 de JA9TTT/1

関連情報:7MHz PLL Oscillator関連のリンク
(1)イントロ編:(Part 1:こちら←リンク)
(2)PLLの機能分析編:(Part 2:こちら←リンク)
(3)PLLに向いたVCOの研究編:(Part 3:いま見ているここです)
(4)ループフィルタの設計編(最終回):(Part 4:こちら←リンク)

つづく)←リンクnm