電子部品の小型化は著しい。つい最近まで小型部品と思っていた物がいまではすっかり巨大な部品になっている。
水晶振動子(Quartz Crystal/X-tal)の世界も例外ではない。写真に大きく写っているHC-18/U型もFT-243型やHC-6/U型よりもずっと小型化された「半導体時代」のクリスタルだと思っていた。
さらに内部構造は研究改良され、おなじATカット水晶片でも小さな短冊状に作れるようになる。左のHC-49/USにはそうした振動子が使われている。コンピュータを使った振動解析の成果が活かされた結果だという。(HC-18/Uには大きな円板形水晶片が使われている)
いまではコンピュータ設計と微細加工の技術進歩により一層の小型化が進行しており、写真中央の面実装型ですら最先端ではないのだ。 こうなってしまうと扱いにもピンセットが必要でハンダ付けも容易ではない。もはや手作りでは対処できなくなりつつある。 まさしく" too small "なサイズだ。 ちなみに外形サイズは3.2×2.5×1.0(mm)である。
表面実装部品になった小型水晶振動子はこのようにテーピングされており、機械で実装するのが常識だ。 この振動子は京セラキンセキ社製だったと思うが、各社共通の形状寸法で供給されている。 特殊な物ではなく移動体通信機器用の共通仕様の部品なのだ。 そして今では秋葉原の秋月電子通商でも扱っているごく普通の電子部品になっている。
一般に周波数精度は良好であり、バラツキも少なく出来ている。昔の通信機の様に組立て後に周波数調整する製造工程は省略されているので初期精度(バラツキ)が厳しく抑さえられているのだ。いまの携帯電話機には大きなトリマ・コンデンサを載せる余地などまったくありませんからネ。
従って我々が使う際には有利な筈で無選別でも良い性能の「ラダー型フィルタ」が作れる。 もちろん表面実装用の基板を製作し結合コンデンサにも表面実装型を使う。そのように作れば指先サイズで「高性能クリスタル・フィルタ」が作れそうだ。 表面実装部品を毛嫌いせず、ジャンク屋を覗いたら良く探査しておくと得をする。
もっとも小型水晶振動子は良いことばかりではない。 大きな信号レベルは不得意だ。発振回路に使う際は過剰な水晶電流が流れぬよう十分な注意が必要だ。 真空管回路などもってのほかだろう。 トランジスタ回路でさえもVcc=12Vは危険かもしれない。最悪、振動子が物理的に破損してしまう。
同様にフィルタに使う際も信号レベルはデリケートだ。 水晶振動子はあくまでも機械的な振動である。強力な信号では振動子がリニヤな振動範囲を超えてしまい非直線歪みが発生する。 即ち強い多信号がフィルタを通過するだけでIMDが発生してしまうわけだ。 特に物理的に厚みが薄くなる高い周波数の水晶振動子は結晶が「強電界」に曝されてしまう不利がある。そうした意味でも最新のクリスタルは" too small "なのだ。
Kenwoodの最新トランシーバ:TS-590Sのルーフィング・フィルタが低い周波数に移っているのも、あながちコストの問題だけではなく、その裏に「(安価で)高い性能の実現」があるのかもしれない。(もちろんこれは想像なんだが・笑)
低い周波数で「ルーフィング・フィルタ」なんて気取ってみても、昔のTS-820やFT-901の時代に帰って、1st-Mixer直後の狭帯域フィルタじゃないの?・・・なんて笑い声も聞こえてくる。まあ、それもそうなんだが1st-Loを複雑なPLLはやめてC/Nの良いDDSで直接得るとか、無線機としての進化を感じさせてくれる。
(おわり)