【低ひずみ正弦波発振:Part 1】
【低ひずみをめざす】
低周波発振器の話です。 去年の9月ころ、ウイーン・ブリッジ発振回路(←リンク)というBlogを書きました。 発振回路にはウイーン・ブリッジ型を使い、発振振幅の自動制御には「まめ電球」の加熱による抵抗変化特性を利用しました。
うまく発振してくれて、そこそこ良い性能が得られたので振幅の安定に「まめ電球」式もなかなかだと思いました。 まあ、教科書通りと言うことかもしれません。 ただし、ひずみ率は0.01〜0.02%程度なので昨今のオーディオアンプの性能評価には物足りません。 真空管式パワーアンプのテスト用信号源ならまあまあ使えるレベルと言った感じでしょうか。
やはりもう一桁くらい低ひずみの発振回路が欲しくなります。 ウイーン・ブリッジ回路と電球による振幅制限では限界があるので、別の方法でやってみました。 この手の低歪低周波発振回路は色々あってそれぞれポピュラーです。ここでは状態変数型:State-Variable型で試しました。(参考:Bi-Quad型のフィルタ回路も類似であり、発振回路を構成できます) バンドパス・フィルタに正帰還を掛ける形式です。 写真はその試作風景です。
【0.0014%くらい】
途中経過ですが、ひずみ率は0.0014%くらいが得られます。(上のブレッドボード) 目標性能なので、まずまずと言ったところでしょうか。 これ以上改善するには全体的な見直しが必要でしょう。
その前に測定環境を改善しないと測るのが難しいレベルに来ています。 AC電源50Hzハムやラジオ電波の飛び込みはカットしていますがLED電球や電球型蛍光灯などのインバータ機器によるノイズほか、電気的なノイズは身の回りにあふれています。 ガラス入りダイオードをレベル検波に使うと照明の明滅周期でノイズが乗るとか・・笑えないことも起こります。(SBDで起き易い傾向あり)
-100dBあたりの歪み率を扱います。 発振振幅は数Vpp程度ですからひずみ成分はマイクロ・ボルトのオーダーです。容易に環境ノイズの影響を受けてしまいます。 このあたりも考えて評価しないと何をやっているんだか・・・の世界なのです。(笑)
☆ ☆ ☆
イントロ編ということでサワリだけになりました。 諸事が重なって、Blogネタに窮したので実験の途中経過をちょっとだけ報告しました。
最終目的は低ひずみ発振回路の製作にありますが、実はその回路に使う振幅制御素子の検討から始めています。 低ひずみを狙って今度は「まめ電球」ではなく、電圧可変抵抗素子を使います。 そのような素子は種々ありますが、FETでやってみようと思い何種類か交換してデータを採取しています。
巷ではレトロな2SK30Aの使用例が多いようです。古い回路の引用だから仕方ないと言う理由もあるでしょう。しかし回路は引用していてももっと良いFETがあるなら交換しているはずです。 いつまでも製造中止のFETに頼るのも如何なものでしょうし・・・。 使い続けるからには、何かノウハウのような理由(ワケ)があるに違いない・・・と思いながら専用測定回路を作って各種FETのデータを採ってみました。 そのあたりのこともさらっとやろうかと思いますが、どうも浮気タネばかり多くて進みそうにありません。(笑) de JA9TTT/1
(つづく)←一応、このつづきのBlogへリンクします。
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2014年8月15日金曜日
2014年8月1日金曜日
【測定】TRIO LPF LF-30 : Part 3
【TRIOのLow Pass Filter : LF-30 その3】
【改造検討した回路】
トリオ(現Kenwood社)製・30MHzのローパス・フィルタを75Ωから50Ωに改造して活用しようと言う話の最終回です。この話しもそろそそ片付けることにします。(前回:Part2は→こちら)
オリジナル回路の検討と実測した部品定数でシミュレーションを行ないました。 最近のリグやアンテナは基本的にインピーダンスは50Ωになってますのでマッチするように改造します。 オリジナルのLF-30は昔のHAM局の実情に合わせて75Ωの設計になっていました。なお、昔のHAM局が75Ω系だったのはダイポール系のアンテナが主だったからです。
実測評価していて75Ω用と言う根拠には疑問があることがわかりました。 部品定数など総合的に考えると、このフィルタが最適な動作をするインピーダンスは44.2Ωではないかと考えられました。従って75Ωよりもむしろ50Ωの方に適していると言えます。 しかし設計遮断周波数が少々高めで、30MHz用としてはやや最適ではないようでした。 そこで、実験の意味もあり全般に見直した上で改造します。
改造指針として:(1)遮断周波数は約33MHzくらい。(2)IN/OUTのインピーダンスは50Ωにする。(3)改造はなるべく既存の部品を活かす。(4)最大電力は100W程度あれば良い・・・・とします。 以上の指針で決めたのが上図の上から3番目の回路です。 結局、33pFのコンデンサ(但し耐圧は高いこと)を8個付加するだけの改造で様子を見ます。
【改造したLF-30】
基本的にコイルはそのままにします。 銅の円盤とテフロンシートで作ってあるコンデンサもそのまま使います。
従って既存コンデンサの各部分に33pFのセラミックコンデンサを2つずつ追加しました。
33pFの取付けは極力リード線を短くすべきです。その言う意味で、写真の方法は最適ではありません。 銅円盤のコンデンサのところに極力リード線をつめで最短でハンダつけする方が良いでしょう。 33pFとリード線インダクタンスで共振が現れます。
そのあたり、実際に評価してみて問題がありそうならやり直しましょう。
【特性シミュレーション・1】
改造に先立って特性シミュレーションを行ないました。 これは既出ですが、あらためて掲載します。
赤色のトレースがオリジナルの定数によるもの。実測値に基づいた部品定数になっています。 IN/OUTのインピーダンスは仕様の75Ωです。
グリーンのトレースは、部品定数はオリジナルのままですが、IN/OUTのインピーダンスを44.2Ωにしています。 良く見てもらうとわかりますが、通過域の平坦度がよくなっています。 これは反射による影響がなくなるからで、フィルタ本来の特性と言えます。
青のトレースは仮にC=180pF、IN/OUT=50Ωとして設計したときの特性です。
紫色のトレースはC=186pFの特性です。180pFは標準的な値のコンデンサでは済まないので実際には実測値+33pF+33pFの約186pFでやってみます。 一応、33pFのコンデンサも実測して、偏りが生じないようにしておきます。
【特性シミュレーション・2】
通過帯域の上端付近の特性を拡大表示しています。
オリジナルの状態で最適なIN/OUTになっているグリーンのトレースの通過域が一番平坦な特性になっているのがわかります。
青色と紫色のトレースは思い切って遮断周波数:fcを下げたため、通過域の凹みがやや大きくなっています。 そのためパワーロスが大きく見えるHAMバンドが出現します。 それを嫌ってオリジナルではかなり高めの遮断周波数に作ってあったようでした。 ここでは、少々ロスが増えても良いので検討した図(3)の回路定数で行くことにします。
【実測特性・1】
改造後の実測特性です。 部品定数は回路図(3)の値です。 見たところまずまずの特性になりました。
通過域にやや凹みが見られるのはシミュレーション通りですが、あまり支障無さそうなのでこれで行きましょう。 減衰域の切れ味はたいへん良好です。 このあたりは、オリジナルと同じ段数なので、傾斜に変化は見られません。 シールドも悪くないらしく、十分な減衰量が得られています。
【実測特性・2】
通過域の詳細を見るために、縦軸の1目盛りを10dB→2dBに変更して表示しました。
通過域の凹みが2dB弱あるのでいま一つかもしれませんが、実際の使用ではあまり影響はないだろと思います。 測定器用のフィルタなら不合格かもしれませんが、無線機の外付け高調波抑止用フィルタですから少々の凸凹は問題ではありません。むしろなかなか良好な特性です。(参考:この凸凹は損失の発生と言うよりもインピーダンス変換が行われた結果の電圧変化と捉える方が合理的なようです)
【実測特性・3】
減数域の様子を見るために縦軸の一目盛りを20dBにしています。 また周波数範囲も上限500MHzにアップしました。
33pFのリードインダクタンスとの共振と思われるピークが2箇所見られます。 但し、ピークとは言っても60dB以上減衰しているので支障はなさそうです。 問題があれば33pFの実装方法を再検討しようと思っていましたが、概ね大丈夫そうです。 そもままで行くことにします。
以上、TRIOの古いローパス・フィルタ:LF-30の解析と50Ω化改造の経緯です。 外装が汚くなっているので、塗り直して新しいラベルを貼れば完璧でしょう。 オリジナルの仕様は50Ω用なので何となく気持ち悪かったのですが、改造して特性の確認も済んだので、これで気持ちよく使えるようになりました。
☆ ☆ ☆
【フィルタの特性評価と実際の使われ方】
ここでは改造したフィルタを題材にして、LPFが実際に使われる際の特性について考察してみましょう。
このLF-30の仕様書はPart 1に掲載してあります。他社のLPFも恐らく同じだと思いますが、仕様書に掲載されている周波数特性図は言わば『まやかし』なのです。 ウソではないのですが、測定方法と現実の使われ方の間には大きな違いがあるからです。
カタログの周波数特性は、この図の(A)のような方法で採取しています。 上の写真も同様で、信号源インピ−ダンスが50Ωの発振器と、入力インピーダンスが50Ωのレベル測定系の途中にフィルタを挿入して実測している訳です。 もちろん、測定方法やその測定結果に誤りがある訳ではありません。 問題はLPFが実際に使われる状態とは異なる測定方法なのが原因です。
上図(B)のように、アンテナ系が、如何なる周波数で見ても50Ωである・・・と言うようなことは殆どあり得ません。 もし本当にそうなら、どこで送信しようとVSWR=1です。 良くできたダミーロードならいざ知らず、そんなアンテナなどないでしょう。 アンテナの設計周波数で、尚かつ良く調整されていればそこは50Ωかもしれませんが、それ以外の周波数では50Ωなどと言うことはあり得ないのです。
このように考えると、いくら50Ωの測定系で良い特性が得られたとしても、それを外れるインピーダンスのところでは、思っている周波数特性とはずいぶん違うのではないかと言う疑問が生じてきます。 フィルタが効いたり効かなかったりするのはそれが原因ではないだろうかと・・・。
【高い負荷インピーダンスのケース】
アンテナ系を負荷にした実測もある程度可能ですが、バンド外の電波輻射は旨くないし、個別ケースの話しにしかなりませんから、ここはシミュレーションで行くことにします。負荷を変えて傾向から判断するのが目的です。
ここでは30MHz以下の通過帯域の特性は無視します。高調波の減衰を見るのが目的ですから。 まずはアンテナ系のインピーダンスが50Ωよりも高い時の特性です。 100Ω、1kΩ、10kΩそして100kΩとした場合の減衰特性です。 アンテナ系が数kΩになることは十分考えられますが100kΩ以上になるケースは考えにくいのでインピーダンスが高い方へ外れた場合の特性がこれで予測できる訳です。
もちろん、良くおわかりのお方ならアンテナ系が「純抵抗」になるなど「有りえん!」と怒られるかもしれません。 そう思って容量性(C性)や誘導性(L性)を付加したシミュレーションもやってみました。 たしかに、フィルタ内部の最終部分にあるコイルやコンデンサとの共振が見られるようになって、この図のような奇麗な遮断特性ではなくなります。 しかし、わずかなピークが通過帯域のやや上側に現れる程度であって、その部分を除けば図の特性と大差は無いのです。 従ってこの図で代表させてもらいました。
要するに、この形式のLPFは負荷側のインピーダンスが高い方へ大きく外れても十分良く効く特性を持っていると言うことです。 50Ω系で測定した結果その物と完全に同じではありませんが高調波抑止に十分な効果があることは実証できたと思います。
【低い負荷インピーダンスのケース】
上記と同様に、今度はアンテナ系のインピーダンスが低くなった場合のシミュレーションを行なってみます。
インピーダンスは25Ω、10Ω、1Ω、0.1Ωです。 この場合も通過域の特性は無視します。 0.1Ωと言うのは負荷がほぼショートのような状態になった想定です。 高周波系ですから、完全なショート状態と言うのはまず有り得なくて、むしろ完全なショート状態の実現には技術を要します。 従って、これでおおよむね低い方へミスマッチした状態におけるフィルタ特性の評価になっているでしょう。
もちろん、C性やL性の負荷も想定したシミュレーションも行ないましたが、結果はグラフで示した純抵抗負荷の場合と類似であって、低い方はこのシミュレーションで十分推定は可能でした。
☆
従来、こうしたHAM局のアンテナ系に挿入して使うローパス・フィルタの特性と実際の高調波除去効果には疑問を持ってきました。 アンテナ系があらゆる周波数で50Ω(75Ω)であるなど考えられませんから、下手をすれば入れない方がマシのフィルタにさえなっているのではないかと疑ってきました。 しかし、それは杞憂であって効果的に高調波の抑止に役立つていることがわかったのです。
もちろん、運が悪いこともないとは言えず、高調波がジャスト受信されるインターフェアのケースにあってはハイパワーだとそこでは効果も限定的でしょう。-100dB以上の減衰量が有っても駄目かもしれません。 或は基本波により対象機器の内部で自ら高調波を作り出しているようなケースでは効果はまったく期待できません。 何が原因でインターフェアが起こっているのかを見極めないと効果的でない対策に走る可能性もあるのです。
☆ ☆ ☆
【出力インピーダンスが低く負荷側が高いケース】
以下の考察は、上記以上に様々な議論を呼びそうです。 貴方のお考えをどうこうしようと言うつもりは毛頭ありませんから、予めそのおつもりでご覧ください。
上記のように、アンテナ系のインピーダンスがフィルタの減衰域で必ずしも(否、必然的に!)50Ωではないとしても十分に効果的であることはわかりました。 ところが、それだけではありません。
実のところ無線機の出力インピーダンスは50Ωではないのです。 スペアナやネットアナでは測定系の信号源インピーダンスはすべて50Ωになっています。これは仕様書にも書いてあってウソでありません。その50Ωの精度まで規定しているのが普通です。
では、実際のHAM局ではどうでしょうか? まさかIC-XXXやTS-YYY、さらにFT-ZZZの出力インピーダンスは50Ωではないでしょう。 いや、「50Ωだって書いてあるヨ!」と仰るかもしれません。 たしかに、「Output Impedance : 50〜75Ω」なんて書いてある例も見ます。 しかし、それはそのRigが想定している負荷インピーダンス(アンテアナ)が50Ω系なのであって、トランシーバ(送信機)の内部インピーダンス;Rgは50Ωではないはずです。 もしも本当にそのRigの内部インピーダンスが50Ωだとしたら送信電力をどこかでロスしています。まあ、そんなバカなことはないでしょう。
たぶん、現実には数Ω以下の内部インピーダンスなのです。 特にNFBが掛かった半導体式のパワーアンプなら一段と内部インピーダンスは低いでしょう。 定電圧源に近い特性になっています。 (注:NFBの掛かっていないビーム管ファイナルの送信機の内部インピーダンスは逆に50Ωよりも高くて、誇張的に言えば定電流源に近いです)
そのような想定で、送信機側の内部インピーダンス;Rgを1Ωとし、また負荷側のインピーダンスが高い方へ外れるケースでシミュレーションしてみました。 このようなケースでもLPFは良く効いてくれると言う結論で良いでしょう。(上図)
【出力インピーダンスが低く負荷側も低いケース】
同様に、負荷が低い方へ外れたケースもシミュレーションしてみました。
上の方にも書きましたが、純抵抗負荷ではなくC性やL性の負荷ではどうかと言う検討もしましたが、代表してこのグラフを掲載します。 要するに、そうしたケースでも良く効く特性であることがわかっています。
ごく単純なπ型やT型のローパス・フィルタも十分な段数を重ねた構成を採れば高調波の抑止効果は充分得られることがわかりました。 これは、IN/OUTが50Ωと言った『理想的な』測定系の話しだけではなく、実際のアンテナ系に挿入してもその効果は十分期待できます。長年の疑問も解消したのでこれで安心して眠ることができます。(笑)
☆ ☆ ☆
地デジ化でTV全般がUHF帯に移行してくれたのは非常に有難いことでした。それだけでインターフェアは40dBくらい効果的なはずで、しかもEMC(電磁的な不干渉性)対策がまったく不十分だった古い家電品の駆逐にもたいへんな効果があったのです。
しかし、高感度な機器も多くなった結果、わずかな高調波でも支障の出るケースもあって、LPFの出番がなくなった訳ではありません。 旧型のLPFでも特性を良く吟味し実用になることを確認しておけば有効活用のチャンスもあるでしょう。
アンテナ系の使用周波数外のインピーダンス変化についての認識はあまりされていないように思います。 また理想系で測定した周波数特性で云々しているケースも良く目にしますのでずっと気になっていました。 HAMの用途にあっては測定数値の精度を云々するより、十分効果的であるか否かを見ておく方が意味があるでしょう。 そのような視点で見直してみたのがこのBlogの締くくりです。de JA9TTT/1
(おわり)
【改造検討した回路】
トリオ(現Kenwood社)製・30MHzのローパス・フィルタを75Ωから50Ωに改造して活用しようと言う話の最終回です。この話しもそろそそ片付けることにします。(前回:Part2は→こちら)
オリジナル回路の検討と実測した部品定数でシミュレーションを行ないました。 最近のリグやアンテナは基本的にインピーダンスは50Ωになってますのでマッチするように改造します。 オリジナルのLF-30は昔のHAM局の実情に合わせて75Ωの設計になっていました。なお、昔のHAM局が75Ω系だったのはダイポール系のアンテナが主だったからです。
実測評価していて75Ω用と言う根拠には疑問があることがわかりました。 部品定数など総合的に考えると、このフィルタが最適な動作をするインピーダンスは44.2Ωではないかと考えられました。従って75Ωよりもむしろ50Ωの方に適していると言えます。 しかし設計遮断周波数が少々高めで、30MHz用としてはやや最適ではないようでした。 そこで、実験の意味もあり全般に見直した上で改造します。
改造指針として:(1)遮断周波数は約33MHzくらい。(2)IN/OUTのインピーダンスは50Ωにする。(3)改造はなるべく既存の部品を活かす。(4)最大電力は100W程度あれば良い・・・・とします。 以上の指針で決めたのが上図の上から3番目の回路です。 結局、33pFのコンデンサ(但し耐圧は高いこと)を8個付加するだけの改造で様子を見ます。
【改造したLF-30】
基本的にコイルはそのままにします。 銅の円盤とテフロンシートで作ってあるコンデンサもそのまま使います。
従って既存コンデンサの各部分に33pFのセラミックコンデンサを2つずつ追加しました。
33pFの取付けは極力リード線を短くすべきです。その言う意味で、写真の方法は最適ではありません。 銅円盤のコンデンサのところに極力リード線をつめで最短でハンダつけする方が良いでしょう。 33pFとリード線インダクタンスで共振が現れます。
そのあたり、実際に評価してみて問題がありそうならやり直しましょう。
【特性シミュレーション・1】
改造に先立って特性シミュレーションを行ないました。 これは既出ですが、あらためて掲載します。
赤色のトレースがオリジナルの定数によるもの。実測値に基づいた部品定数になっています。 IN/OUTのインピーダンスは仕様の75Ωです。
グリーンのトレースは、部品定数はオリジナルのままですが、IN/OUTのインピーダンスを44.2Ωにしています。 良く見てもらうとわかりますが、通過域の平坦度がよくなっています。 これは反射による影響がなくなるからで、フィルタ本来の特性と言えます。
青のトレースは仮にC=180pF、IN/OUT=50Ωとして設計したときの特性です。
紫色のトレースはC=186pFの特性です。180pFは標準的な値のコンデンサでは済まないので実際には実測値+33pF+33pFの約186pFでやってみます。 一応、33pFのコンデンサも実測して、偏りが生じないようにしておきます。
【特性シミュレーション・2】
通過帯域の上端付近の特性を拡大表示しています。
オリジナルの状態で最適なIN/OUTになっているグリーンのトレースの通過域が一番平坦な特性になっているのがわかります。
青色と紫色のトレースは思い切って遮断周波数:fcを下げたため、通過域の凹みがやや大きくなっています。 そのためパワーロスが大きく見えるHAMバンドが出現します。 それを嫌ってオリジナルではかなり高めの遮断周波数に作ってあったようでした。 ここでは、少々ロスが増えても良いので検討した図(3)の回路定数で行くことにします。
【実測特性・1】
改造後の実測特性です。 部品定数は回路図(3)の値です。 見たところまずまずの特性になりました。
通過域にやや凹みが見られるのはシミュレーション通りですが、あまり支障無さそうなのでこれで行きましょう。 減衰域の切れ味はたいへん良好です。 このあたりは、オリジナルと同じ段数なので、傾斜に変化は見られません。 シールドも悪くないらしく、十分な減衰量が得られています。
【実測特性・2】
通過域の詳細を見るために、縦軸の1目盛りを10dB→2dBに変更して表示しました。
通過域の凹みが2dB弱あるのでいま一つかもしれませんが、実際の使用ではあまり影響はないだろと思います。 測定器用のフィルタなら不合格かもしれませんが、無線機の外付け高調波抑止用フィルタですから少々の凸凹は問題ではありません。むしろなかなか良好な特性です。(参考:この凸凹は損失の発生と言うよりもインピーダンス変換が行われた結果の電圧変化と捉える方が合理的なようです)
【実測特性・3】
減数域の様子を見るために縦軸の一目盛りを20dBにしています。 また周波数範囲も上限500MHzにアップしました。
33pFのリードインダクタンスとの共振と思われるピークが2箇所見られます。 但し、ピークとは言っても60dB以上減衰しているので支障はなさそうです。 問題があれば33pFの実装方法を再検討しようと思っていましたが、概ね大丈夫そうです。 そもままで行くことにします。
以上、TRIOの古いローパス・フィルタ:LF-30の解析と50Ω化改造の経緯です。 外装が汚くなっているので、塗り直して新しいラベルを貼れば完璧でしょう。 オリジナルの仕様は50Ω用なので何となく気持ち悪かったのですが、改造して特性の確認も済んだので、これで気持ちよく使えるようになりました。
☆ ☆ ☆
【フィルタの特性評価と実際の使われ方】
ここでは改造したフィルタを題材にして、LPFが実際に使われる際の特性について考察してみましょう。
このLF-30の仕様書はPart 1に掲載してあります。他社のLPFも恐らく同じだと思いますが、仕様書に掲載されている周波数特性図は言わば『まやかし』なのです。 ウソではないのですが、測定方法と現実の使われ方の間には大きな違いがあるからです。
カタログの周波数特性は、この図の(A)のような方法で採取しています。 上の写真も同様で、信号源インピ−ダンスが50Ωの発振器と、入力インピーダンスが50Ωのレベル測定系の途中にフィルタを挿入して実測している訳です。 もちろん、測定方法やその測定結果に誤りがある訳ではありません。 問題はLPFが実際に使われる状態とは異なる測定方法なのが原因です。
上図(B)のように、アンテナ系が、如何なる周波数で見ても50Ωである・・・と言うようなことは殆どあり得ません。 もし本当にそうなら、どこで送信しようとVSWR=1です。 良くできたダミーロードならいざ知らず、そんなアンテナなどないでしょう。 アンテナの設計周波数で、尚かつ良く調整されていればそこは50Ωかもしれませんが、それ以外の周波数では50Ωなどと言うことはあり得ないのです。
このように考えると、いくら50Ωの測定系で良い特性が得られたとしても、それを外れるインピーダンスのところでは、思っている周波数特性とはずいぶん違うのではないかと言う疑問が生じてきます。 フィルタが効いたり効かなかったりするのはそれが原因ではないだろうかと・・・。
【高い負荷インピーダンスのケース】
アンテナ系を負荷にした実測もある程度可能ですが、バンド外の電波輻射は旨くないし、個別ケースの話しにしかなりませんから、ここはシミュレーションで行くことにします。負荷を変えて傾向から判断するのが目的です。
ここでは30MHz以下の通過帯域の特性は無視します。高調波の減衰を見るのが目的ですから。 まずはアンテナ系のインピーダンスが50Ωよりも高い時の特性です。 100Ω、1kΩ、10kΩそして100kΩとした場合の減衰特性です。 アンテナ系が数kΩになることは十分考えられますが100kΩ以上になるケースは考えにくいのでインピーダンスが高い方へ外れた場合の特性がこれで予測できる訳です。
もちろん、良くおわかりのお方ならアンテナ系が「純抵抗」になるなど「有りえん!」と怒られるかもしれません。 そう思って容量性(C性)や誘導性(L性)を付加したシミュレーションもやってみました。 たしかに、フィルタ内部の最終部分にあるコイルやコンデンサとの共振が見られるようになって、この図のような奇麗な遮断特性ではなくなります。 しかし、わずかなピークが通過帯域のやや上側に現れる程度であって、その部分を除けば図の特性と大差は無いのです。 従ってこの図で代表させてもらいました。
要するに、この形式のLPFは負荷側のインピーダンスが高い方へ大きく外れても十分良く効く特性を持っていると言うことです。 50Ω系で測定した結果その物と完全に同じではありませんが高調波抑止に十分な効果があることは実証できたと思います。
【低い負荷インピーダンスのケース】
上記と同様に、今度はアンテナ系のインピーダンスが低くなった場合のシミュレーションを行なってみます。
インピーダンスは25Ω、10Ω、1Ω、0.1Ωです。 この場合も通過域の特性は無視します。 0.1Ωと言うのは負荷がほぼショートのような状態になった想定です。 高周波系ですから、完全なショート状態と言うのはまず有り得なくて、むしろ完全なショート状態の実現には技術を要します。 従って、これでおおよむね低い方へミスマッチした状態におけるフィルタ特性の評価になっているでしょう。
もちろん、C性やL性の負荷も想定したシミュレーションも行ないましたが、結果はグラフで示した純抵抗負荷の場合と類似であって、低い方はこのシミュレーションで十分推定は可能でした。
☆
従来、こうしたHAM局のアンテナ系に挿入して使うローパス・フィルタの特性と実際の高調波除去効果には疑問を持ってきました。 アンテナ系があらゆる周波数で50Ω(75Ω)であるなど考えられませんから、下手をすれば入れない方がマシのフィルタにさえなっているのではないかと疑ってきました。 しかし、それは杞憂であって効果的に高調波の抑止に役立つていることがわかったのです。
もちろん、運が悪いこともないとは言えず、高調波がジャスト受信されるインターフェアのケースにあってはハイパワーだとそこでは効果も限定的でしょう。-100dB以上の減衰量が有っても駄目かもしれません。 或は基本波により対象機器の内部で自ら高調波を作り出しているようなケースでは効果はまったく期待できません。 何が原因でインターフェアが起こっているのかを見極めないと効果的でない対策に走る可能性もあるのです。
☆ ☆ ☆
【出力インピーダンスが低く負荷側が高いケース】
以下の考察は、上記以上に様々な議論を呼びそうです。 貴方のお考えをどうこうしようと言うつもりは毛頭ありませんから、予めそのおつもりでご覧ください。
上記のように、アンテナ系のインピーダンスがフィルタの減衰域で必ずしも(否、必然的に!)50Ωではないとしても十分に効果的であることはわかりました。 ところが、それだけではありません。
実のところ無線機の出力インピーダンスは50Ωではないのです。 スペアナやネットアナでは測定系の信号源インピーダンスはすべて50Ωになっています。これは仕様書にも書いてあってウソでありません。その50Ωの精度まで規定しているのが普通です。
では、実際のHAM局ではどうでしょうか? まさかIC-XXXやTS-YYY、さらにFT-ZZZの出力インピーダンスは50Ωではないでしょう。 いや、「50Ωだって書いてあるヨ!」と仰るかもしれません。 たしかに、「Output Impedance : 50〜75Ω」なんて書いてある例も見ます。 しかし、それはそのRigが想定している負荷インピーダンス(アンテアナ)が50Ω系なのであって、トランシーバ(送信機)の内部インピーダンス;Rgは50Ωではないはずです。 もしも本当にそのRigの内部インピーダンスが50Ωだとしたら送信電力をどこかでロスしています。まあ、そんなバカなことはないでしょう。
たぶん、現実には数Ω以下の内部インピーダンスなのです。 特にNFBが掛かった半導体式のパワーアンプなら一段と内部インピーダンスは低いでしょう。 定電圧源に近い特性になっています。 (注:NFBの掛かっていないビーム管ファイナルの送信機の内部インピーダンスは逆に50Ωよりも高くて、誇張的に言えば定電流源に近いです)
そのような想定で、送信機側の内部インピーダンス;Rgを1Ωとし、また負荷側のインピーダンスが高い方へ外れるケースでシミュレーションしてみました。 このようなケースでもLPFは良く効いてくれると言う結論で良いでしょう。(上図)
【出力インピーダンスが低く負荷側も低いケース】
同様に、負荷が低い方へ外れたケースもシミュレーションしてみました。
上の方にも書きましたが、純抵抗負荷ではなくC性やL性の負荷ではどうかと言う検討もしましたが、代表してこのグラフを掲載します。 要するに、そうしたケースでも良く効く特性であることがわかっています。
ごく単純なπ型やT型のローパス・フィルタも十分な段数を重ねた構成を採れば高調波の抑止効果は充分得られることがわかりました。 これは、IN/OUTが50Ωと言った『理想的な』測定系の話しだけではなく、実際のアンテナ系に挿入してもその効果は十分期待できます。長年の疑問も解消したのでこれで安心して眠ることができます。(笑)
☆ ☆ ☆
地デジ化でTV全般がUHF帯に移行してくれたのは非常に有難いことでした。それだけでインターフェアは40dBくらい効果的なはずで、しかもEMC(電磁的な不干渉性)対策がまったく不十分だった古い家電品の駆逐にもたいへんな効果があったのです。
しかし、高感度な機器も多くなった結果、わずかな高調波でも支障の出るケースもあって、LPFの出番がなくなった訳ではありません。 旧型のLPFでも特性を良く吟味し実用になることを確認しておけば有効活用のチャンスもあるでしょう。
アンテナ系の使用周波数外のインピーダンス変化についての認識はあまりされていないように思います。 また理想系で測定した周波数特性で云々しているケースも良く目にしますのでずっと気になっていました。 HAMの用途にあっては測定数値の精度を云々するより、十分効果的であるか否かを見ておく方が意味があるでしょう。 そのような視点で見直してみたのがこのBlogの締くくりです。de JA9TTT/1
(おわり)