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2015年5月18日月曜日
【回路】Transistor Balanced Modulator, Part-1
【トランジスタでバラモジを】
SSB送受信機でおなじみのバラモジ(Balanced Modulator:平衡変調器)と言えば、ICを使った物が人気です。 古くはMC1496Gがあり、その後はSN76514NやSN16913P、国産ではTA7310PやTA7320Pがありました。そしてSA612まで様々なものが登場しました。 しかし、その殆どが生産中止品になってしまいました。
では、IC-DBMを使う以外に方法はないのでしょうか? もちろん、Quad-Diodeを使ったリング・モジュレータも良く知られていますが、どうも人気がないように思うのです。解説記事を読むと入出力端子の終端インピーダンスが決められていて、キャリヤ信号にパワーが必要といった「使いにくそう」な印象を受けるのが敬遠の理由かもしれません。(実際はそうでもないのですが・・・)
IC-DBMが品薄ならダイオードDBM(←別のBlogにリンク)をお薦めしたいところですが、トランジスタやFETを使ったアクティブ・タイプのバラモジがあるのを忘れてはいけないでしょう。 ここでは、ちょっと珍しくなったトランジスタ式のバラモジを再評価してみました。 トランジスタ式は入出力インピーダンスに自由度があり、ゲインもあることからキャリヤ入力も変調信号も小さくて済みます。これはIC-DBMの使い易さに通じるものです。ですからもっと着目しても良いと思うのですが・・・。
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このBlog、オンエア用の話題作りが目的ではありません。口ばっかしで自作は一切しない人なんてお呼びじゃないのです。そう言う目的のお方は早々にお帰り願いたいものですね。逆に電子回路を作って遊んでみたい人はこの先も是非お付き合いください。(笑)
【トランジスタ式バラモジのテスト回路】
簡単に作れて性能が良く、しかも特殊部品を使わない回路を考えてみました。 バラモジで最も重要なのはキャリヤ・バランスにあります。まずはデュアル・トランジスタを使うことで平衡度を確保する作戦です。
ここでは往年の銘トランジスタ:2SC1583(三菱)を使ってみました。hFEランクはFです。 この差動回路になった上段のトランジスタに変調信号・・・即ち音声信号を加えます。 下段のキャリヤ入力側トランジスタにはこれまた往年の銘トランジスタ:2SC372Y(東芝)を使っています。但し、沢山あったから使ったまでで2SC1815Y(東芝)でもOKです。もちろん2SC945(NEC)や2N3904(Fairchildほか)なんかでも大丈夫です。
IC-DBMと違ってバイアス回路が要るので外付け抵抗器が多くなります。それでもMC1496Gを使うと思えば同じか、やや少ないくらいでしょう。意外に簡単な回路で済むことがわかります。
この回路はシングル・バランスド・モジュレータ(SBM)です。 DBM(ダブル・バランスド・モジュレータ)と何が違うのかと言えば、キャリヤ(搬送波)はバランスして出力に現れませんが、音声信号(変調信号)の方はバランスしないところです。Q1aとQ1bのコレクタ側に増幅されて出てきます。 しかし、それで支障はありません。アウトプット・トランス:T1は高周波用なので低周波は通しません。従って低周波の音声信号は出力端子には現れないのです。 この例のように9MHzのキャリヤ信号と低周波の音声信号のように周波数が離れていればDBMではなくても支障なくSSB送信機に使える訳です。目的如何ですが、DBMではなくてSBMで十分なことも多いでしょう。
【DSB出力】
テストは9MHzで行なっています。 ブレッドボード製作では少々辛くなってくる周波数です。 それでもこの程度のDSBは十分得られています。 40dB弱と言ったところでしょうか。キャリヤ・サプレッションもまずまずと言った感じなのはおわかりでしょう。 GNDの配線が合理的にできる専用プリント基板や、ユニバーサル基板で製作すればキャリヤ・サプレッションは一段と良くなります。ベタGNDの基板上に作るのも良いです。
トランジスタのベース変調を基本とするので、幾らか変調のリニヤリティが悪い感じもしますが、実際のところIC-DBMとさした違いは無いようです。 キャリヤ入力も変調信号も100mVpp少々与えてやれば良いのでとても使いやすいです。 例えば、マイクにECMでも使えば1石マイクアンプで十分変調が掛かります。 キャリヤの方も同じで簡単な水晶発振回路で十分でしょう。バッファ・アンプを付ける必要もないと思います。 トランジスタを使ったSBMをきちんと作ったことはありませんでしたが、これは意外にイケル感じです。
【失敗は成功のもと】
・・・とは良く言ったものです。これは失敗作の方です。何が違うのかと言えば、アウトプット・トランスが同調形式になっています。 その部分のみ上記回路図とは違います。
同調トランスを使うと(1)高調波の抑制などスプリアス特性が良くなる、(2)インピーダンスが高めになるので大きめの出力が取り出せる、などのメリットがあります。 ですから昔の回路例を見ると同調トランス形式になっているものが多いのです。 しかし、この形式で試作して思ったような成果が得られなかった人は多いのではないでしょうか。 要するにキャリヤ・バランスがどうもうまく取れないのです。 キャリヤ漏れが多くてはバラモジ失格ですから「使えない回路」と思ってしまうでしょう。
【アウトプット・トランスが肝】
トランジスタの左右。即ちQ1aとQ1bのバランスが確保できるようにデュアル・トランジスタを使うくらいですから、アウトプット・トランスのバランスもたいへん重要です。
実は、この部分が最も難しいのです。 写真は東光の13Kと言うボビンに巻いたものです。 13Kは10Kと良く似た構造ですが、外側の壷型コアがないのと巻き溝が大きくできているのが特徴です。1次側と2次側の巻き線が緩く結合するトランスも作ることができます。 複同調型IFT向きと言った感じのコイル形式です。 ずいぶん前に秋月電子通商(信越電機時代かも)で売られていたTV用のIFTジャンクと思われるものを改造して製作しました。
一つは2本をよじった線でバイファイラ巻きで作りました。 もう一方は13Kコイルの構造を旨く使い、中点タップが維持されるよう巻き溝を交互に使う形式です。 これが良好な性能だったなら製作方法を詳しく説明するところなのですが・・・。
平衡度についてよほど周到に考え、なおかつそれが実現できるような巻き方を実現しないと思ったような結果が得られないのです。 もちろん、そうしたトランスが作れない訳ではありません。しかしけして易しくないのです。イイカゲンは通用しないので万人向きのコイル作りとは言えないのです。 失敗作ではありましたが、この部分が性能を決めることが良くわかったのは収穫でした。良く考察すれば「失敗は成功のもと」になります。(笑)
【フェライトビーズにトリファイラ巻きが良い】
同調形式のアウトプット・トランスに未練も残るところですが、ここはあっさり写真の形式で行くことにします。 フェライトコア(フェライト・ビーズ)にトリファイラ巻きで製作します。既に多くの実績がある方法です。
この形式で作ったトランスの平衡度はかなり良好です。製作のポイントは(1)透磁率:μの大きなコア材を使うこと、(2)巻き数はそこそこ多めにする、(3)巻き線は3本を良くよじったものを使う、(4)引出し線の長さも揃える・・・と言ったところです。
なお、透磁率:μの小さなTシリーズのトロイダルコアで、同調形式で行く方法もあり得ますが、上の13Kを使った例と同じ問題に遭遇する可能性もあって得策とは言えないと思います。ここは平衡度のみを追求する方が製作は容易です。(1)〜(4)を実現する方が良い選択と言えます。 上の写真のDSB信号はこのトランスを使った例です。 このフェライトビーズは容易に手に入るので13Kコイルに巻くよりも普遍性があります。見ての通り巻き方も難しくなく、コストが安いのも有難いです。 ここではわかり易いように3色を使いましたが、単色の巻き線でも間違えないように結線すれは大丈夫です。
昔の設計でこうしたコアを使ったトランスの使用例が少ないのは、巻くためのコア材の入手が一般化していなかったからです。 μ(ミュー)の大きなトロイダルコアが手軽に入手できていたなら非同調形式のアウトプット・トランスも積極的に採用されていた筈です。その方が作り易いのですから。 今ではフェライトビーズ:FB-801-#43が通販で全国どこからでも手に入るようになっています。FTシリーズのトロイダルコアに巻いても良いのですが、フェライトビーズで代用すればお値段も数10円とお手軽です。
【デュアル・トランジスタでなくても】
そうは言っても、デュアル・トランジスタなんか持っていないよと言われそうですね。 もちろんトランジスタの平衡度も大切だからデュアル・トランジスタを使うに越したことはありません。 三菱電機の2SC1583は安くて良い石だったのですが既に生産中止品です。 オーディオ・アンプでの需要もあったのですっかり枯渇していています。
しかし諦める必要はありません。同じ型番のトランジスタで、hFEランクが同じものを2つ使えば十分キャリヤ・バランスがとれます。デュアル・トランジスタでなくても大丈夫です。 この回路ではどちらかと言えば、アウトプット・トランスの平衡度の方が支配的なのです。 この写真のように同じ銘柄の石を2個使えば十分良い性能のバラモジが作れることがわかりました。 もちろん写真のようなレトロな石ではなく高周波用の2SC1923や汎用品の2SC1815ほか、シリコンの小信号用なら大抵のものが使えると思って良いです。(実はゲルトラでも作れます)
万全を期したいなら、hFEを実測して選別し、良くマッチしたものを2つ見つけたら良いでしょう。 まあそこまでしなくても写真のようにYなりGRなり、hFEランクを合わせてやれば実用上支障は無いです。
昨今はリード線付きのトランジスタは廃番ばかりになっています。リード付きデュアル・トランジスタの入手は難しいかもしれません。しかし表面実装用トランジスタには良さそうなデュアル・トランジスタがあります。 直接専用基板に搭載するのが理想ですが、455kHzはもちろん9MHzあたりのHF帯でも変換基板で十分行けます。選別の手間を省き、デュアル・トランジスタでやりたいなら試してみると良いでしょう。調べたらROHM社のトランジスタに安くて良いものがあるようでした。
参考:デュアル・トランジスタ(2つの特性が良くマッチした2個入りトランジスタ)を使うのは温度の変化など環境の変化で個々の特性に違いが現れないようにするのが目的です。従ってバラモジには有利です。しかし実際に個別のトランジスタで組んでも十分使えるのも事実です。それが現実的な手法と言えます。もちろん精神衛生重視や、理屈重視ならデュアル型を使うべき。
【オマケ】
東芝のハカマ付きトランジスタを見ると「萌える」お方が多いそうなので、オマケ写真を付けておきます。(笑)
この形式のトランジスタは「Eパック」と言う組み立て方法で作られています。(製造工程の呼び方は各社で異なる) シルクハット型キャップを治具に裏返して並べ、キャップの穴にリード線の先にトランジスタチップが付いたものとエポキシ樹脂を挿入して固めるのです。今のTO-92型パッケージとはまったく違った組み立て方法で作られていました。シリコンのチップに機械的なストレスを与えにくい良い組み立て方法に思えますが、量産性では劣っていたために廃止されたのです。
自作も長いので、こんな旧型トランジスタがまだたくさん在庫されているので積極的に使うことにしています。そうしないととても消費しきれません。カタチは旧式でも性能は十分なので困ることはありません。もちろん、旧式をわざわざ探すまでもなく現行品トランジスタで代替して支障はないです。安くて性能が良いトランジスタがたくさん登場しています。
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バイポーラ・トランジスタを使ったバラモジ(SBM)はなかなか良さそうです。 ありふれたトランジスタ3つで作れるのが良いです。 かなめになるアウトプット・トランスも安価なフェライトビーズの活用で誰でも容易に製作可能です。 IC-DBMのような使い易さが実現できるのでもっと採用したい回路です。 昔々、同調トランス形で製作して旨く行かなかった人にもリベンジのチャンスでしょう。 いずれSSBジェネレータの形に纏めようと思っています。
生産中止になった部品を必死に求める人がおられるようです。機器の交換修理用ならやむを得ませんが、新規製作ならもう少し柔軟に考えては如何でしょうか? ダイオードDBMも使い方しだいで扱い易くもなります。 あるいはここで紹介したような、トランジスタを使ったSBMでも十分な性能が得られることがわかります。ポイントをわかって製作すれば失敗することもないでしょう。 姿を消したような部品を探し求めるよりも、回路の機能を理解して同じように使えるもので工夫したら良いです。同じ機能実現の為の手段は無数にあると思うべきです。de JA9TTT/1
(つづく)←FETを使うSBMで作ったSSBジェネレータへリンク
2015年5月4日月曜日
【回路】FLT-U2 Sine wave Oscillator
【FLT-U2】
またまた「部品が手に入らない!」シリーズ。(笑)
FLT-U2と言うのはフィルタを作るためのICです。スイッチド・キャパシタンス・フィルタはまだ登場せず、OP-Ampを並べて組むにもアクティブ・フィルタはちょっと面倒だった時代に作られました。セラミック基板に作られたハイブリッドICで白いセラミックの蓋が被せてあります。特定のユーザー向けではなくて一般市販部品でした。日経エレ誌やトラ技誌等でメーカーのPRを見掛けましたがこのICはそれほど使われなかったように思います。
フィルタ製作を容易にすることが目的のICです。 しかし今どき次数の低いフィルタなど設計も製作も簡単です。 ですからこのICは完全な遊休部品になっていました。 何かフィルタが欲しいときに無理して使ったとしてもさしてメリットはなさそうです。 たくさん持っている訳でもないので積極的に消費を考える理由もありません。そのまま遊休品でも良かったのですが・・・。
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ずいぶん長いこと部品箱に眠っていたものが整理中に発掘されたのでこの機会に試してみることにしよう・・・と言うことで、普通はご縁のない部品でしょう。 今回も自家用情報を纏めた話しになりそうです。 ただ、少し回路がわかるお方ならざっと回路図をご覧頂くと代替手段はいくらでもあることにすぐ気付くはずです。 このFLT-U2を探すこともなく、まったく同じことは十分できる訳なのです。そのあたりの情報もおまけしておきました。:-)
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【FLT-U2の内部は】
State variable Filter(状態変数型)と呼ばれるアクティブ・フィルタが手軽に構成できるよう便利に出来たハイブリッド構造のICです。 4つのOP-Ampのほかに、精度の良い1000pFのコンデンサが2つ、トリミングされている抵抗器が5つ内蔵されています。小さめのコンデンサ容量:1000pFで幅広い遮断周波数をカバーできるよう工夫された部品定数になっているのがこのICの特徴です。もちろん1000PFでは足りないなら外付けで補えます。 OP-Ampのうち1つは予備用であり、ノッチフィルタなどの応用に使えるようになっています。 各OP-Ampの電源は予備のOP-Ampを含めて内部で共通のピンに接続されています。 従って予備のOP-Ampを使わないとしても電源を供給しないと駄目です。
既に過去のデバイスでありe-Bayでも丹念にウオッチすれば別ですが普通は手に入らないでしょう。 詳しく書いても仕方がありませんが簡単な四則演算だけで低域濾波器(LPF)、高域濾波器(HPF)、帯域濾波器(BPF)の設計ができます。 遮断周波数やフィルタのQも簡単に求められます。 あとは計算値に基づいて外付けで抵抗器を数本選べば所望のフィルタの完成です。 ただしあまり高級なフィルタはこれ一つでは無理です。 従って用途も限定的と言えます。
【可能なフィルタの特性】
言葉ではわかりにくいので、グラフで示しておきます。
このような3種のフィルタが得られるのですが-20dB/ディケードもしくは-40dB/ディケードの傾斜なのでだいぶなだらかです。 要するに-6dB/octあるいは-12dB/octのなだらかなフィルタなのです。 Qを大きく取ってやれば良さそうなものですが、そうなると通過帯域の端にピークが出来てあまり面白くありません。 従って今となってはHigh-Qなピークフィルタや、ごく狭いノッチフィルタに特化させた使い方くらいしか思い浮かばないのです。
この形式の類似フィルタは前にノートン・アンプ(←リンク)を扱った時にも登場しています。設計が簡単なのは良いのですが、使うOP-Ampの数にしてはシンプルなフィルタしか作れないのが弱点と言ったところでしょうか。
【低ひずみ発振器に使ってみる】
メーカーのアプリケーション・ノートの記述はあくまでもフィルタとしての使い方のみです。このICの目的からして当然でしょう。発振器への応用など一切触れられてはいません。 しかし多くのフィルタ回路は少し回路を変更すれば発振器にすぐ変身できます。これはこのICに限ったことではありません。
左図はそのような考えから正弦波の発振回路に使ってみた例です。 FLT-U2はフィルタ用ですから発振器に最適とは言えないところがあります。外付け部品定数の選び方に工夫が必要です。 さらに、できるだけ低ひずみな正弦波発振器を作りたいのでOP-Ampをもう一つ付け足すことにしました。 わずかに歪が増えても良いのならFLT-U2の単独で発振回路を構成することもできます。
内部の等価回路も含めて書いておきました。 IC内部の部品も含め全部を外付けパーツとし、同じ回路構成にすれば一般的なOP-Ampで作れるわけです。FLT-U2がなくてもCRが数個増えるだけに過ぎません。 バイアス電流:Ibが小さいOP-Ampを使えばFLT-U2内部にあるr4とr5(それぞれ100kΩ)に相当する抵抗器は不要です。各In+端子は直接GNDに接続すれば良いです。
このように回路例では珍しいICを使っていますが、代替手段があるので一般性があるわけです。 実際、自分が次に作る時にはFLT-U2はもう無いのですから普通のOP-Ampを並べることになります。 OP-Ampを良く選んでやれば性能は同じかむしろ向上する可能性さえあります。
可変抵抗:VR101はひずみ率計やFFTアナライザがあれば入念に調整すべきですが、なければ中央の位置のままにしておけば良いです。それでも十分低ひずみなはずです。 オシロスコープで観測して、もし目で見て歪みがわかるようならR109(2kΩになっている)を1kΩに減じてみると良いでしょう。2SK246GRのバラツキで振幅制御が旨く掛からないことがあるのです。 振幅制限さえきちんと掛かっていれば既にひずみ率は十分小さくなっています。 発振振幅はR110(2.2MΩ)で変えることができます。抵抗値を大きくすると発振振幅が小さくなります。但し10Vpp以下にしない方が良いと思います。5MΩで10Vppくらいです。(この振幅調整の部分はこのような高抵抗を使わず済むよういずれ変更の予定・・・簡単にできるのですが)
【試作状況】
外付け部品も少ないことから簡単に組み立てできます。
使用したFLT-U2は非常に古い在庫品だったのでリード線の表面が錆びていました。 それで接触不安定が発生しました。 最初それに気付かず経年劣化したのではないかと思いました。
帰還ループを切ってフィルタとして動作させ、ICの各ピンで信号の通り具合を見て追跡しました。 その結果、信号が到達しない所があったので接触不良だとわかったのです。 どうやら保管状況が良くなかったようでリード線表面の酸化が進んだのだと思います。 足を磨いてやった後は順調でした。 幾つか部品定数を追い込んで概ね上記の回路図のような定数に落ち着きました。
【FLT-U2の部分】
これを作ったメーカー:DATEL社は高性能なモジュール型A/D・D/Aコンバータなどを製造していました。以前は日本支社もありましたが撤退したようです。 Date Codeは7832だから古さがわかりますね。(笑)
比較的安価に高性能なモジュールを提供してくれる有難い会社でしたが時代の波に飲み込まれ数回身売りされて転々としました。 日本では村田製作所がその事業の一部を継承しているらしいです。 メーカーのサイトから過去の製品の情報は得られないようでした。 幸いネット上にデータ・シートがあったので助かりました。 こうした機能が特化した電子部品は資料がなくてはまったくのお手上げです。
【LF356H】
追加したOP-Ampです。 別段これに限る理由はありませんので、他のもので代替は可能でしょう。 ただし、FLT-U2は±15V電源で使う前提です。同じ耐電圧のOP-Ampを選ぶ方が良いです。
引出しから出て来たので使ってみたのですが、高速性は要求しないのでもっと消費電力の少ないOP-Ampに置き換えたいところです。 LF356Hはいま見ても優秀なOP-Ampだと思いますが±15Vで使うと発熱が多いのがちょっと気になります。まあ放熱器が必要な程でもないのですが・・・もちろん壊れはしません。
【2SK246GR】
発振波形が歪まないように振幅を自動制御しなくてはなりません。 それに使う電圧制御可変抵抗素子としてはJ-FETの2SK246GRを使ってみました。 2SK30ATM-GRでも良いのですが幾らかでも新しい品種でと言うことで・・・。こうしたデバイスもいずれ面実装品を使うことになるのでしょう。IdssランクはYやBLでも良いですが、部品定数の変更を要する場合があります。
ひずみ特性に影響があって、J-FETにも幾つか候補はありますが2SK30と2SK246ならまずまずの性能が得られるので悪くない選択だと思います。 手持ちがなければ2SK192AやJ310なんかでも取りあえず使えるので試してみたら良いです。多少悪化したとしてもオシロスコープで見てわかる程のひずみ率にはなりません。 MOS-FETの2SK241とか2N7000(要回路変更)などは使えなくもないのですが、こうしたデリケートな低周波回路にはやめておいた方が良いです。なるべくJ-FETを使うべきです。一時の間に合わせならともかく、良い性能を目指すなら適材適所で行くべきです。
【きれいな正弦波】
オシロスコープで見ても「とても奇麗なサインウエーブ」としかわからないでしょう。純正正弦波の教科書的な波形と言ったところでしょうか。(笑) 発振振幅はある程度任意に加減できますが、アンプノイズとの関係から大きめの方が良いようでした。あまり絞ってしまうと残留ノイズとの関係でひずみ率が悪く出るようになるのです。
ここでは22Vppで発振させていますが、±15Vと言う電源電圧から考えてこの程度が最大と思った方が良さそうです。
周波数安定度は外付けの抵抗器:R102とR103、さらにはFLT-U2に内蔵の1000pF(2個)に依存します。 FLT-U2の内部コンデンサは良い物が使ってあると思います。 外付け抵抗器はせめて金属皮膜型の1%誤差で温度係数が小さいものを使いたいです。 なお発振周波数をもっと低い方・・例えば100Hz等に変更するなら内蔵の1000pFを補うだけでなく、振幅制御ループの時定数を決めているC101とC102の値も再検討せねばなりません。 発振の上限周波数は内蔵するOP-Ampのスルーレートで決まってきます。FLT-U2では可聴域が限度です。
【波形ひずみ測定】
回路図に書いてある計算式よりも2〜3Hz低く発振しました。部品の誤差とストレー容量に原因があります。 R102と R103を微調整すればちょうど1kHzに合わせられます。どちらか一方の抵抗だけで加減しても大丈夫な範囲と思います。 もちろんR102とR103は同じ値になるよう調整した方がより良いでしょう。 サイン波とコサイン波を同時に取り出したいときはR102とR103をよくマッチさせた方が良いです。もちろん内部のコンデンサのマッチも必要なのですが・・・。
ひずみ率は0.0012%くらいなので、測定している環境など考えるとそろそろ限界に近いところです。 特別に「低ひずみでローノイズ」とは言えないフィルタ専用のIC:FLT-U2を使った割にはかなり好結果が得られたと思います。回路がコンパクトに纏まっているのは有利なのでしょう。 データシートによれば中身のOP-Ampの種類はわかりませんがアナログ回路用に吟味したものを使っているようです。使っているのはノイズが10nV/√Hz以下、GB積は3MHzの高性能OP-Ampだそうです。今ならこの程度はごく平凡なものと言えますが1970年代にどんな種類のOP-Aampを内蔵したのでしょうか? (開発年代や種々のパラメータから私の推測ではRC4558またはその選別品ではないかと・・・)
FLT-U2と類似の回路は個別OP-Ampと精度の良いCRを集めればそのまま製作可能です。 いまはローノイズで低ひずみをセールスポイントにする非常に性能の良いAudio用と称するOP-Ampが登場しています。LME49720NAやLM4562NAなどこのような用途にはうってつけです。ちょっと下がってNJM4580やLM833あたりでも十分かもしれません。1000pFのコンデンサはQが高く温度特性も良好なスチコンかディップド・マイカを使いましょう。もちろん実測して2つを良くマッチングさせます。
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何時か使おうと思って集めた部品も様々な事情から忘れられてしまうことがあります。 FLT-U2はフィルタ設計が簡単ではなかった時代には重宝でした。 今ではコンピュータ設計や回路シミュレータが一般化してフィルタ専用ICの価値は下がってしまいました。 もう使うこともないだろうと思っていた部品です。 たまたま低ひずみ発振器の回路が頭の隅にあったので活用を思いついたようなものです。 回路をわかっている人の目で見たら発振器にできて当たり前なのですが・・・。
それでもこのくらいの低ひずみともなれば、実際にやってみないとわからないところは多いです。机上の検討だけで済むもんじゃありません。ひずみの多い発振器にフィルタで対処など机上アイデアなのはやってみたらわかりますから・・・。最初っから奇麗な発振をさせるのがベストです。 まあ、こんなBlogなんかいくら眺めていたところで貴方に本当のことなどわかるはずはありません。想像で語ってる他人の意見など何の役にも立ちません。まずは画面を離れて自身の手を動かすことです。
状態変数型フィルタを使った発振回路は設計が簡単になるような部品定数が選ばれるのが普通です。 FLT-U2を使おうとすると厄介な部分があって少し工夫が必要でした。フィルタとして使い易く工夫された部分が発振回路には少々不都合なのでした。 幸いうまく解決できたので好結果が得られました。 これで概ね発振回路として確立できたと思っています。 FLT-U2も低ひずみ発振器用のICと考えれば新たなニーズも生まれてきます。もう何個かあったなら・・・などと思ってしまいました。 ここは一つしかないからスポット周波数の製作になるのは仕方ありませんね。de JA9TTT/1
☆関連があるBlog内のページにリンク:(低周波の低歪み発振器関係)
1・低ひずみ正弦波発振→ここ
2・ウイーン・ブリッジ発振回路→ここ
3・RC移相シフト型正弦波発振器→ここ
4・超低ひずみ正弦波発振器→ここ
(おわり)
☆実験やBlog作成にあたり参照した情報:
(1)はじめてのトランジスタ回路設計、1999年5月1日初版、黒田徹、CQ出版社、ISBN4-7898-3280-5、¥2,500−、絶版だがCD-ROM版あり(¥1,903-)
(2)OPアンプ活用100の実践ノウハウ、1999年8月1日第2版、松井邦彦、CQ出版社、ISBN4-7898-3281-3、¥2,100-:絶版
(3)OPアンプによる実用回路設計、2007年2月1日第4版、馬場清太郎、CQ出版社、ISBN978-4-7898-3748-4、¥2,800-:販売中
(4)発振回路の完全マスター、昭和63年9月20日第1版、稲葉 保、日本放送出版協会、ISBN4-14-072035-2、¥1,900-:絶版
(5)FLT-U2 Micro-electoronic Universal Active Filter、DATEL社、仕様・取扱説明書
ほか、各社の半導体のデータブックなどを参照。 アナログ関係の良書が絶版ばかりなのは残念です。