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2015年8月30日日曜日

【電子管】Making a stable valve VFO

【真空管で作る安定なVFO】
真空管も良いんだが
 さるBlog筆者によれば、私は真空管に冷たいのだそうです。確かに、真空管と言うだけで好意的に扱うことなんかしませんから愛好家から見たら冷淡だと感じるのかもしれません。だからといって真空管が嫌いなわけではないのです。 いや、むしろ逆でしょう。(笑)

 ただ、昨今のように球(タマ)なら何でも有り難がる風潮は看過できないと思っています。 良い物は良いですが駄球は何時になってもやっぱり駄目です。 無知につけ込んだ駄球の高額販売は購入者のお気の毒が目に浮かぶようです。まあご本人が納得していればそれも良いのかもしれませんが。(笑)

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 閑話休題(それはさておき)今どき真空管のVFOなんかどうするの?・・・と言われそうですね。 発熱があって安定するまでに時間がかかるから、SSBトランシーバではVFO部は早々に半導体化されたのでした。 TS-510が然り、それに続いたFTDX-400もFETを使った半導体式VFOになってずいぶん安定になったのを感じたものです。少なくともウオームアップは格段に早まったと思います。 FETなり普通のトランジスタなりの自己発熱は少ないのですからVFOの発振周波数はすぐに安定します。そう考えてVFOと言えば半導体式が全盛になって行ったのです。

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 半導体は消費電力が少ないから発熱も少ない・・・と言うのは本当でしょうか? 何を馬鹿なと言われそうですね。 しかし意外に消費電力はあるものです。 FETを使ったVFOで考えてみましょう。Vcc=9Vで、普通の発振回路ならドレイン電流:Id=3mAくらい流したいです。 ソース抵抗が入っているとそこでの消費分もありますが、単純に考えるとしてFETでの消費電力はP=Vcc×Idですから27mWと言うことになります。『なーんだ、たったの27mWかよ・・・』と言うなかれ。

 FETの熱容量は小さいのです。FETの内部チップは思いのほか温度上昇します。2SK192Aで考えてみましょう。規格表によれば熱抵抗から計算して1mWあたり1.25℃ほど上昇するようです。 だから27mWで34℃くらい上昇する計算ですね。少ないとは言え、スイッチオンからしばらく周波数変動するのは自己発熱→FET自身の温度上昇が原因なのでしょう。

 では温度で何が変動するのでしょう? 変化するのはゲート・ソース間容量とか、ドレイン・ソース間容量のような電極間の静電容量でしょう。 それぞれ3〜10pFくらいあって温度係数を持っています。 他にドレイン電流Idも温度で変化があって、FETの特性からIdが変わればgmも変化し、gmが変化すればミラー容量も変化することになります。 ですら単純な帰還容量:Crssの温度変化よりも影響はずっと大きくなります。このように意外にも半導体式VFOのウオームアップ・ドリフトは小さくないのです。 FETで考えましたがバイポーラ・トランジスタでも同じような物です。

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 真空管式VFOのウオームアップ・ドリフトが大きいのは常識でしょう。 なにしろ発熱が大きいからです。よく使われた6BA6クラスの球でもヒーターだけで6.3V/300mAですから2W近いです。プレート損失の方も、150Vで5mAなら0.75Wですからスクリーン損失など合わせたら合計で3〜4Wくらいの発熱はあるでしょう。
 自身の熱膨張による電極間容量の変化もあるでしょうが、周囲のCやLがモロに熱せられてしまいます。良く出来たVFOでさえ30分以上のウオームアップ・タイムを要するのは仕方ないでしょう。 ただ、真空管自身の電極間容量は意外に小さくて自己発熱さえ少なければ・・・と考えて、1T4や3S4と言うような電池管を使ったVFOが試みられたこともありました。 しかし電池管はgmが低いので周波数安定に有利な発振回路の定数を選びにくいとか、直熱管なのでマイクロフォニック・ノイズが大きいと言うような固有の欠点もあったのです。 それに、それらの球も少ないとは言え100mWくらいの発熱はあるので、半導体の登場もあって試みる人も現れなくなりました。

 長く忘れられていた電池管のVFOでしたが、英国のHAM、G4OEPは面白い球に着目しました。 彼が見つけたのは「補聴器用」の球です。 トランジスタの登場ですぐに廃れましたが、真空管を使った補聴器もあったのです。 補聴器はコンパクトな必要がありますから小さな乾電池の寿命は実用上たいへん重要でした。そのようなニーズから電池寿命を延ばすためにフィラメントの消費電流が極度に小さな真空管が作られたのです。 G4OEPはHivac社(英国)のXFY43と言う真空管を使いプレート電圧も12Vで済むVFOを完成させたのです。

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 しばらく前にG4OEPのWebsiteを見て、面白いなあと思っていました。 私と同じように面白いと思ったらしく、彼に続いてG0UPLも試作したようで、こちらも興味深い内容です。 ただXFY43と言う球はことに入手困難らしく代替の球ではEp=12Vで発振してくれません。 いろいろ試してもG4OEPの再現はついに出来なかった様でした。

 以下、だいぶ前置きが長くなりましたがG4OEPとG0UPLの試作例を紹介しながら私の試作結果も紹介したいと思います。 なお、限られた貴重な真空管が本当の自作HAMに渡るよう、興味本位のお方は手を出さないのがマナーでしょう。

 優れたVFOは真空管があれば作れる訳ではありません。 温度特性に優れたコイルやバリコンと言った主要パーツのほか、ダイヤル減速メカなどVFOの製作に不可欠な機構部品の入手はほぼ絶望的です。従って球だけ手に入れてもまったくもって無駄でしょう。 以下写真で見て鑑賞するだけに留められたいと思います。 もちろん、既にVFO用のパーツをお持ちなのでしたらぜひお試し下さい。

写真説明:左の横に寝たサブミニチュア管が「補聴器」用に開発された真空管:6418と6088です。いずれもJAN(Joint Army and Navy Standard:陸海軍統一規格) 規格品ですが、軍隊が補聴器を大量に必要とする筈はなく、低消費電力を活かし電子兵器用として転用されたものでしょう。なお、右のミニチュア管:6AN5WAは大きさの比較用であり、補聴器の球ではありません。

 【G4OEPのハイブリッドVFO
 G4OEP Dr.Andrew Smith氏が製作したVFOの回路です。G4OEPのWebsite(←リンク)で作品の写真もご覧になって下さい。 この回路図には記載はありませんが温度補償のためにバイメタルを使った小容量コンデンサを付加するなど興味深い実験記事があります。 周波数安定度の良い自励式発振器を実現するための非常に示唆に富んだ記述があるのでお奨めします。

 発振回路はColpitts(コルピッツ)型です。 ごく一般的な発振回路ですが、周波数安定を問題にすると真空管の電極間に入っているコンデンサ、回路図で言えばC4やC5を大きくしなくてはならず、発振させるためには真空管は相応のゲインが得られるものが必要です。

 XFY43のフィラメント電圧・電流はEf=1.25V/If=10mAです。またプレート電圧:Ep=12Vでもそこそこ大きなgmがあるらしく、図のような回路定数で確実に発振するのだそうです。 但しこの発振回路はXFY43なら再現可能かもしれませんが、他の球では難しそうなのです。 実際、私もほぼ同じ回路定数で試してみましたがまったく発振してくれません。 真空管はXFY43と同じような補聴器に使うためのもので、Raytheon社の6418と6088を試しました。

 【G0UPLのVFO回路集
 同じく英国のHAM:Hans Summers氏が製作したVFOの回路です。G4OEPの製作にinspireされたのは間違いないでしょう。 まず最初は左図のFig.1から始めたようですが、プレート電圧:Ep=12Vでは発振せず、少なくともEp=25V以上が必要でした。発振管はXFY43と同じく補聴器用のCK512AXでフィラメント電圧・電流は0.625V/20mAです。

 フィラメント・パワーが小さい球は「パービアンス」が小さく、当然gmも小さいのです。従ってゲインは低いのです。 それで幾らかでもgmが大きそうな6088を使って試したのがFig.2です。6088のフィラメント・パワーはCK512AXの2倍あります。 発振回路は同じくColpitts型です。 しかしこれもEp=12Vでは発振しません。少なくともEp=27V以上が必要で、これではCK512AXと同じような物でしょう。

 おなじ6088を使いながら回路変更したものがFig.3です。Colpitts回路をやめてFranklin(フランクリン)回路に変更しています。Franklin回路は2球使うのでゲインは2段の積になるので有利なはずです。 しかし、同じくEp=12Vでは発振しないのでした。 同調回路との結合が疎になることから、むしろEpは高い必要がありました。よく見ると1段目の6088の負荷は1kΩですからゲイン・アップどころかむしろ減衰器になっています。
 彼はEp=12Vに拘らなかったようで、これで満足した模様でした。 実際、ヘテロダイン型VFOに纏めて実用にしていますが、他の部分に普通の球を使っているため必ずしもEp=12Vである必要はなかったのでしょう。 精力的な実験過程が写真とともに纏められています。G0UPLのWebsite(←リンク)も訪問されることをお奨めします。

 私からのコメントですが、実は6088があまり良くなかったのではないかと思います。フィラメント・パワーはCK512AXや6418よりも倍も大きいのですが、Ep=12Vではgmが急に低下してしまうらしく、ゲイン不足なのでしょう。これは、後ほどの私の実験でも確認されています。

 【私もVFOを試作中
 発振しないVFOは価値がありません。まずは確実に発振させることを優先に実験を進めました。 どんな発振回路でも発振はできる筈と思うかも知れませんが、それはまったくの幻想です。ゲインの低い球を使うと回路の選択が悪ければ発振しません。

 最初はG4OEPと同じColpitts発振回路から始めました。発振管は6418と言う補聴器用です。 6418は補聴器用としては最終世代らしく、フィラメント電圧・電流は1.25V/10mAです。プレート電圧:Epが低くてもgmはそこそこの大きさがあるのですが、Ep=12Vではぜんぜん発振してくれませんでした。

 次に、発振回路にはColpitts型の変形であるGouriet - Clapp(グーリエ・クラップ)型も試してみましたが同じように発振起動できません。 これらの発振回路は非常にポピュラーですが、意外に発振条件が厳しいようでした。 発振回路の数値的な解析はTESLA研究所Vačkář氏の執筆によるTesla Technical Report(Dec.1949)(←リンク)に詳しいのですが、他を試みた方が有望そうでした。

 そこでおなじColpitts型の変形であり、Vačkář氏のレポートにあるいわゆる「Vackar型」でやってみることにしました。 発振条件の厳しさに大差はないものの、回路定数を良く選んでやれば確実に発振させることに成功したのです。発振管は6418で、もちろんプレート電圧:Ep=12Vです。

 写真手前に見えるステアタイト・ボビンに巻いたコイルが周波数安定度の点では有利ですが、その左に見えるトロイダル・コアに巻いたコイルも悪くありません。旨く行った発振回路は次項に示しました。

 【私のハイブリッドVFO回路
 先に書いたように発振回路はVackarです。 Vackar発振器はヨーロッパ生まれなので、米国技術圏の我が国ではあまりポピュラーにはなれませんでした。これは米国でも同じでした。いわゆるNIH(Not Invented Here)と言うやつです。

 Vackar回路は一時期、驚異的な性能(周波数安定度)の「チェコ・テスラ発振器」として注目されたことがありました。(JA-CQ Hamradio 1968年8月号pp170〜174の記事など。下記のコラム参照を。) TESLA研究所のレポートで詳しく解説されていた関係で、「TESLA発振回路」などと呼ばれましたが、論文の発表当時ならともかく、今では正しくはVackar(バッカー)型と言うべきでしょう。

 正規のVackar回路は発振管とLC共振器との結合ができるだけ疎になるように設計されています。しかし、ゲインの小さな補聴器用の球では同様の回路定数では発振不能です。 従って、Tesla Technical Reportにあるような回路定数の選び方はできません。 例えば容量比:C4/C3=6が推奨値ですが、それでは発振できないのです。そのような訳で各部の定数はかなり弄ってありますから、もはやTTT式Vackar回路と言うべきものになっています。(笑)

 6MHz帯のVFOを例示していますが、3〜8MHzで概ね類似の回路定数で行けます。 もちろん周波数が高くなるほど発振は難しくなるので、1〜2MHzくらいの低い周波数で設計すると非常に有利でした。 逆に10MHz以上で発振させるのは徐々に困難になります。

コラム:「チェコ・テスラ発振回路の実験」記事の顛末
 JA-CQ誌1968年8月号に掲載されたこの記事はJA1DXG加藤 丘さんの執筆で、元ネタは同誌の1961年4月号「技術展望」の短い記事です。 残念なことにその「技術展望」のさらに元になった米誌(米CQ誌Dec.1960:"Czech Tesla Oscillator")に重大な間違いがあったのでした。もっとも、この米誌の記事もルーマニアのアマ無線の雑誌からの引用らしいのでどこで間違えたのか今となってはわかりませんが・・・。 そのため当初の実験では異常発振して正常に動作しませんでした。良く回路を考察して半信半疑で部品の入れ替えを行なって取りあえずの成功を見ています。「な〜んだ、これってVackar回路じゃん!」と言うオチでした。(当時すでにVackar回路は既知でしたので) 引用して記事化する際に具体的に言えば回路図のC3とC4を誤植したのが元凶でした。原本のTesra Technical Reportにはもちろん誤りはありません。原典を参照しない引用記事の危うさと言ったものを感じます。もっとも、当時はInternetのような強力な情報収集手段はなかったのですからやむを得なかったでしょう。 そのほか、Vackar回路VFOに関してはJA1FG:梶井謙一OT(故人)執筆による「送信機の設計と製作」CQ出版社1964年12月10日発行:pp57〜64に写真入り製作例があります。いずれも真空管式です。Vackar-VFOは半導体時代にも通用する発振回路です。

Vackar回路VFOとチェコ・テスラ発振器(実はVackar回路と同じもの)については、今でも情報を求める人があるのでこの機会に私の調査結果を纏めておきました。これは一私見ですがGouriet -Clapp回路よりも安定度に優れるように思います。

 【発振管は6418
 発振管の話しをしましょう。6418は補聴器の出力管です。音響効率の良いイヤフォンに数mWのパワーを送り込むために作られました。この6418の前段にはマイクロフォニック・ノイズに留意した6419が使われ、補聴器としては2段増幅になっていたようです。なお6419のフィラメント・パワーはさらに小さいですがgmもずっと低いので発振管には不適当と思われます。

 6418はフィラメントが改良されています。僅か12.5mWのフィラメント・パワーでEp=15Vでgm=200μ℧が得られるのは素晴らしいと思います。プレート電圧:Ep=12Vではプレート電流とスクリーングリッド電流を合わせて200μAも流れません。従って、トータルの消費電力はせいぜい15mWです。これは先に書いたようにFETを使った発振回路をかなり下回る数字です。(しかし、6418は電子デバイスとして見れば恐ろしく低性能です)

 15mWの消費電力でこの大きさのデバイスの温度上昇は僅かでしょう。もちろん、内部は真空ですしフィラメントの輻射熱で電極は加熱されるに違いありません。しかし、物理的な大きさから見てすぐに熱放散されてしまうでしょう。 おそらく数℃の温度上昇も無いはずです。 ですから電源のON/OFFでもすぐにもとの周波数で発振を始めます。

 ウオームアップ・タイムが短いだけでなく、周囲温度の影響を受けにくいと言うのも大きなメリットでしょう。半導体の電極間容量は温度の影響を受け易く、自身の温度上昇だけでなく周囲温度の影響も大きく受けます。真空管の場合は、基本的にガラスや電極の熱膨張による物理的な寸法変動に起因する変化のみでですから、半導体のジャンクション容量のような大きな温度変化はないと考えられます。

 従って、生活環境程度の周囲温度の変化では真空管の各電極間容量はあまり変化しないと考えて良いでしょう。 補聴器用電池管を使ったVFOの周波数変動はその殆どがコイル:Lやバリコンを含むコンデンサ:Cの温度変化によるものと考えて良さそうでした。従って、良いLCを使えばそれだけでかなり良好な周波数安定度が得られることになります。

参考:gm=200μ℧の球に1kΩの負荷でアンプを作るとゲインは0.2倍です。要するに減衰器になってしまいます。10kΩの負荷でもゲインはたったの2倍です。 だからと言って数MHzの高周波で100kΩの負荷インピーダンスを実現するのは結構難しいのです。それに球自身のプレートインピーダンスも低下してきます。だからVFOは発振困難になるのです。

 【バッファアンプは2SK544F
 周波数安定にとって発振回路とともにバッファ・アンプも重要なポイントでしょう。ここでは2SK544Fを使っています。

 VFOではソース・フォロワを重ねる形式のバッファ・アンプを良く見掛けますが、この種のFETでは図の形式の方が有利です。2SK544は帰還容量が非常に小さいのでこうした形式の方がゲインもあって有利なのです。

 このBlogで何度も書いているように、2SK544F(三洋)は2SK241GR(東芝)や2SK439F(日立)でも良いです。2SK19や2SK192Aのような帰還容量:Crssが大きなFETは同じ回路では使えないので注意して下さい。代替できません。

 アウトプット・トランスは非同調形式です。概ね50〜100Ω程度の負荷が適しています。増幅している関係で大きめのパワーが得られるので後続のステージに十分な発振勢力を供給できます。 トランスは写真のような既製品ではなく、自作のトリファイラ巻きでも十分です。代替品の製作方法は回路図に書いておきます。具体的な巻線方法はBlogを前の方に辿ってもらえば写真入りで説明されています。

るんだろうか?
 6418のフィラメント・パワーはたったの12.5mWです。真空管と言えばオレンジ色に燃えるヒータ/カソードをイメージするでしょう。フィラメントから熱電子を放射させるためにそれなりの温度にはなっているはずですから・・・。

 流石にわずかでも明るいと、光っては見えませんが暗黒の状態で注意深く観測すれば写真のように赤く光るのが確認できました。 無機質なガラスと金属片で出来た電子デバイスもこうして光る様子を見ると息吹が感じられるから不思議なものです。

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 周波数安定性を重視するVFOですからスイッチ・オンから周波数変化の時間経過を示す必要があります。 周囲温度の変化に対する変動も観測しなくてはなりません。 それらは、このあと丈夫な箱に入れてVFOの形にしてから行ないたいと思います。 ただ、BBでの試作であっても周波数が安定しているのは十分実感できました。

 まず、ウオームアップ・タイムは非常に短いです。 しばらく通電しておいてから、電源をOFF・・・もちろんフィラメントもOFF・・して、5分ほど経過後に電源再投入してみます。 周囲温度の変動や風の流れも変わるので完全にもとの周波数には戻らないこともあります。しかし、数秒で殆どもとの周波数に復帰するのが観測できました。
 連続した周波数変動の観測では周囲温度が最大の変動要因でした。 真空管による変動は殆ど無いのでそれとは無関係にコイルやコンデンサの温度変化がそのまま現れます。 ですからG4OEPがバイメタルを使った「コンデンサ」で温度補償しているような手法が有効なのでしょう。 きちんとした箱に入れ、LCに直接風が当たるのを避け周囲温度の影響が緩やかになるようにしたうえで「温度補償コンデンサ」を採用すればウオームアップ・タイムが短く、周囲温度による変動が少ない周波数安定なVFOが完成します。

少々趣旨がぼやけてしまいましたが、要は「消費電力の極めて少ない真空管を活かしたVFOは半導体式に勝る」かもしれない・・・と言うお話しです。真空管好きが球を贔屓にすると言った話題ではなくて、電子デバイスの特性を十分活かす話しがテーマです。

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 実用的なVFOは回路技術だけでは完結できません。ギヤダイヤルのようなバリコンの減速メカは必須です。 温度特性の良いコイル作成のためには良質のボビンも必要でしょう。 もちろん、スムースで温度特性の良いエアー・バリコンも必須のパーツです。 すでにそうしたパーツは市場から姿を消してしまいました。 こうした真空管と回路的な工夫で周波数安定なVFOの可能性が開けたとしても、実用品に纏め上げるにはまだまだ様々なハードルが待ち受けているのです。de JA9TTT/1

(おわり)

2015年8月14日金曜日

【回路】8MHz Carrier Oscillator

【8MHz Ladder Filter用のキャリヤ発振器】
 【8MHz Ladder Filterの特性とキャリヤポイント
 製作したラダー型フィルタはSSB用のものです。(参考:フィルタ製作編←リンク) SSB送受信機にはキャリヤ発振器が必要ですが、その周波数が問題です。

 市販のクリスタル・フィルタなら仕様で中心周波数が決まっていて、キャリヤポイントの周波数も決められているのが普通です。 例外的に昔々の国際電気のHAM用メカフィルのように、個々に実測特性データが付属していてキャリヤポイントもそれぞれ違っていたなどと言う例もありましたが、普通はキャリヤポイントの周波数は仕様項目でしょう。

 自作のラダー型クリスタル・フィルタの場合、使用する水晶振動子(水晶発振子)の特性によってフィルタの中心周波数は異なってきます。 また、通過帯域幅を幾らで設計するのか、ポール数(水晶の数)は幾つなのかによってもキャリヤポイントの最適周波数は異なるものです。 従って、出来上がったフィルタについて実測によって決めなくてはなりません。一般的にキャリヤポイントは通過帯域の平坦部から20dB下がったところに置くことになっています。 傾斜の急峻な「良く切れるフィルタ」なら-15dBあたりに決めることもありますが、普通は-20dBが無難な所でしょう。あまり通過帯域側に寄せてしまうと逆サイドの漏れが目立ってしまいます。

 写真の例は、8MHzの中華クリスタルを使って製作した6ポールのSSB用クリスタルフィルタの特性です。通過帯域幅は2.7kHz(@-3dB)で設計しています。写真のように、USB用のキャリヤ周波数は7998.633kHz、LSB用のキャリヤ周波数は8002.013kHzでした。 これらの周波数が得られるような発振器を用意することになります。 参考:-20dBのポイントに於ける帯域幅(周波数差)は実測で3350Hzでした。これは設計ソフトで得られた数字と一致しており設計精度と製作再現性の良さがわかります。

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 ところで、自作のラダー型フィルタでSSBジェネレータを製作すると問題に遭遇することが多いようです。即ちフィルタと同じ水晶を使うと希望のキャリヤ周波数で発振できないと言う問題です。
 以下は自家用の備忘資料なので数値は直接役に立たないかも知れませんが手法は使えるはずなので困った時には思い出して下さい。 もちろんフィルタの自作などされないお方には無意味なので以下を読む価値はありません。 例によって興味本位で覗き見する必要はありませんから早々にお帰りを。ご経験もないのにヨソで蘊蓄ばなしをされても困りますので。(笑)

 【SSBジェネレータの回路変更
 フィルタを製作したものと同じ水晶振動子(発振子)でキャリヤ発振を行なうためには発振回路の工夫が必要になることが殆どです。 左図はそれに対応した変更回路です。ここでは一例としてダイオード・バラモジを使ったSSBジェネレータを示していますが、バラモジにトランジスタやFETを使ったSSBジェネレータにも同じように適用できます。

 USB用にはかなり下の方へ動かさなくてはならないのが普通です。 この例でも8000kHzよりも約2.4kHzほど下げなくてはなりません。単にトリマコンデンサをかませて調整しただけではそこまで下げるのは難しいですからコイル:Lを付加した回路が必要です。C6+C7を50pF(max)のトリマコンデンサとして可変範囲を調べたら、7996.738〜8001.016kHzが可変できました。USB用としては7998.633kHzが必要なので可変範囲にあります。

 また、LSB用には約2kHzほど上で発振させる必要があります。 USB用の回路を兼用する方法ではそこまで上げられないので、この例では独立した回路にしています。 もちろん標準的な負荷容量では8000kHzで発振してしまうので、かなり小さめの負荷容量にする必要があります。C10を50pF(max)のトリマコンデンサとして可変範囲を調べたら、8000.789〜8002.379kHzが可変できました。LSB用の方は8002.013kHzが必要ですが、多少のマージンがあるので問題はありません。事前になるべく周波数が高い方へばらついた水晶振動子を見つけておくと有利でしょう。

 発振回路をスイッチする形式で周波数の切換えを行なっています。このように水晶発振子は2つ必要になってしまいますがやむを得ません。 回路の切換えはバイアス回路の切換え式なので遠隔のスイッチで操作できます。 それぞれの発振出力はダイオードスイッチで切り替えています。 これはこの種の切換えでは常套的な方法でありメーカー製のRigでも良く見かける手法です。

 この切換えのダイオードは1SS53を使っていますが一般的な小信号用のスイッチング用ダイオードなら何でも良いです。(例:1S1588、1S2076A、1N4148など)
 言うまでもないとは思いますが、トランジスタは2SC372Y→2SC1815Y→2SC2458Yなど小信号用なら代替できるもの多数です。 またFETは2SK544E→2SK241Y→2SK439Eで良いです、2SK19Yや2SK192AYは不適当です。もし2SK19Yや2SK192AYを使うなら中和回路が必要になるので面倒でしょう。カスコードアンプにしても良いですが部品数が増えて面白くないと思いますから、指定の物とその代替候補がお奨めです。

 今回はマイクアンプを低インピーダンス型マイクロフォン用に変更しておいたのでご参考まで。 その他、このSSBジェネレータ全般に関しては前のBlogを参照して下さい。

試作で確認する
 使用する水晶発振子の特性によって最適な回路定数は異なって来ますから部品定数を追い込む目的で試作してみました。

 概ね机上設計のままでも大丈夫でしたが、細部の定数を最適化しています。 上記の回路図は試作結果を反映したものになっています。 自分自身の部品事情に合わせた回路なので各自の事情で幾らか加減は必要でしょう。 また、この例では8MHzですが、±1MHz以上違った周波数で作るなら見直しが必要になるかもしれません。

 特に、USB用の発振回路にあるインダクタ:L1(22μH)は最適値を探す必要があるはずです。 どんな場合でも同じ部品定数で良い訳ではないのでそのおつもりで参照して下さい。もちろん、個別の事情による周波数変更のご相談には応じきれないので各自で検討をお願いします。回路は決まっていますから、そんなに難しいことではありません。

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 市販のクリスタル・フィルタには組み合わせて使うためのキャリヤ発振用の水晶発振子が用事されていました。 たとえば、9MHzのSSBフィルタなら、8998.5kHzと9001.5kHzの水晶発振子でした。 そのような水晶なら指定の回路でちょうど良い周波数に合わせられます。まあ、これは当たり前のことでしょう。 しかし、自作したクリスタル・フィルタにはそんなに都合の良いキャリヤ発振用の水晶がある筈もなく、意外に苦労させられたと言う話しを良く耳にします。

 ここで紹介した方法が万能だとは思いませんが、USBなりLSB用の周波数を得るための例として試作候補にでもしてもらえたら幸いです。 なお、CW用のBFOではフィルタの中心周波数より500〜800Hz程度離すだけで良いのでずっと容易です。 SSB/CW兼用のRigならこの例と同じ方法で3種の周波数に切り替えられるよう設計するとよいでしょう。

 SSB用のバランスド・モジュレータから始まって、自作のクリスタル・フィルタとそれに合わせたキャリヤ発振回路の検討まで進んで来ました。取りあえずこのシリーズはおしまいにします。 IC-DBMの活用がまだではないかと言うご意見はあるでしょう。しかし、それらは一般に標準使用例がデータシートに記載されていて目標にすべき数値も規格で示されています。 従って試作していて何か新しい知見でも見いだせた時には扱ってみたいと思いますが、標準的な用法は省略させてもらいます。 今回のBlogテーマに限らず、一連の関係記事に対するご意見、ご感想、ご要望などお待ちしています。de JA9TTT/1

(おわり)