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2015年9月28日月曜日

【測定】Crystal Motional Parameters , Plus

測定:水晶の等価定数の比較測定
 【周波数シフト法による水晶定数測定
 水晶の等価回路:Lm、Cm、Rmよりなる直列共振器と直列に容量:C1を入れると共振周波数が変化します。各記号の意味などは前回のブログ(←リンク)を参照して下さい。

fo=1/(2*π*√(Lm*Cm))が、
CmがC'=Cm*C1/(Cm+C1)になることから、
fo'=1/(2*π*√(Lm*C'))と変化します。

 C1は既知であり、foもfo’も実測で求まるから、Cmが計算できるのです。 Cmの値を算出できたら、さらに直列共振周波数:foから計算することでLmを求めることができます。 なお、実際には電極間容量及び、ホルダ容量も影響しますのでそれらの合計容量である:Chも実測によって求めておきます。

C1が直列になった時の発振周波数をf1とし、C1をショートした時の発振周波数をfoとすれば、Cmは以下の計算式で求めることが出来ます。

Cm=(2*(C1+Ch))*(f1-fo))/fo・・・・・(1)
なお、コンデンサ:C1、Ch、Cmの単位はファラド、周波数:fo、f1の単位はHzです。

また、Lmは、Cmとfoから計算できます。
Lm=1/((2*π*fo)^2*Cm)・・・・・・・(2)
Lmの単位はヘンリです。Cmはファラド、foはHzの単位で計算します。

 必要な測定器は周波数カウンタと数pFが精度良く測定できる容量計(Cメータあるいは、LCRメータなど)です。 周波数カウンタも測定値の安定さ・・・すなわち、基準がふらつかなければ十分なので絶対精度はそれほど必要としません。 少しウオームアップしてから使用すれば十分でしょう。 むしろ、1Hzの桁まで読み取れる測定分解能が必須です。 一般的な周波数カウンタであれば殆どのものが条件を満たすでしょう。 従って、ごく普通の周波数カウンタと小容量が測れるCメータがあれば水晶定数を求めることができます。

 発振部はオリジナルのG3UURのものと同じです。 続くバッファ・アンプは単なるエミッタフォロワよりも、図の回路の方が良いです。 少々感度の悪い周波数カウンタでも十分な信号を与えることが出来、測定が安定します。 発振用トランジスタ:Q1には2SC2668Yを使いましたが、これは2SC1923Yが同等品です。 2SC9452SC1815も使用可能です。hFEランクは何でも大丈夫です。 バッファ・アンプのトランジスタ:Q2は2SK544Eを使っています。これは、2SK241Yでも良く2SK439E(ピン配置に注意)でも大丈夫です。 9VのZennerダイオードで電源を安定化していますが、大元の電源に安定化電源を使用すれば省略可能です。 回路図のスイッチ:SW1の部分は、実際にはスイッチではなくジャンパ・ピンの抜き差しで代用します。その方が無用のストレー容量が増えず好ましいからです。(次項以降の写真参照)

 【重要:C1の値は実測値を使うこと
 この例では、C1=22pFを使っています。 しかし、Cmの計算式でC1=22pFとすれば、誤差が大きくて旨くありません。

 かならず、C1を測定回路に実装した状態で実測しておきます。 数回計測して、平均値を用いています。この例では、C1=25.75pFでした。

 もちろん、コンデンサの誤差やブレッドボードの分布容量が効いてくるので、22pFのコンデンサを使ったからと言って同じ値にはならないので、各自が実測しなくてはなりません。 ひいてはCmやLmの精度にも多大な影響があるので入念な測定が求められます。

 ここでは、LCRメータ:DE-5000(←参考リンク)と専用の「SMDパーツ用プローブ」を組み合わせて使い、ショート・オープン校正を行なってから測定しています。LCRメータの測定周波数は100kHzを選ぶと分解能が高くなります。 

foの測定
 最初はC1を短絡(ショート)した状態で発振させます。 そのときの周波数をfoとして記録します。

 ブレッドボードに作った測定回路は不安定ではないかと懸念するかもしれません。 もちろんこれから長く使おうと思うならプリント基板にハンダ付けで作ることをお奨めします。
 その際は、測定するクリスタルを挿入するソケットにはスムースで接触の良い物を使うべきです。 普通のICソケットでは、たくさんの抜き差しには耐えられずヘタってしまうでしょう。 その点、ブレッドボードは抜き差しが容易であり、接触もまずまず安定しているので良いと思います。 実際に作ってみると、発振周波数の不安定も見られないので、心配は要らないと思います。測定再現性もまずまずでした。

 なお、このブレッドボードは底面にプリント基板を使ったGND板が貼付けてあります。 GND板は回路のGNDラインと結んであります。このあたりの配慮が安定測定のためのノウハウの一つです。

 【f1の測定
 クリスタルにC1が直列に入った時の周波数を測定します。

 C1を短絡(ショート)していたピンを抜き去れば良いです。 C1が直列に入ると、発振周波数の上昇が見られるでしょう。

 なお、「発振周波数が安定しない」、「予定の周波数から大幅に外れている」、「周波数のふらつきが大きい」などは、測定している水晶発振子の不良が考えられます。 実際に、秋葉原で入手した水晶発振子では発振しない物や、発振はしても数値がばらついて不安定な物が見られました。 そのような水晶発振子は水晶発振器に使えないのはもちろんですが、よりシビアな性能が要求されるフィルタ用にはまったく使い物になりません。×印でも付けて除外しておきましょう。


 【12800kHzの測定例:VNAを使ったもの
 比較の基準には、ネットワーク・アナライザ(VNA)を使って測定した水晶定数を使用することにします。

 図は、12.8MHz・HC-49/U水晶発振子についてネットワーク・アナライザを使って-3dB法でLm、Cm、Rmを求めた結果です。 以下、いずれの測定でもネットワーク・アナライザを使った測定結果を取りあえずの基準としています。

 いずれも平均値ですが、Lm=7.965(mH)、Cm=19.428(fF)です。

 【12800kHzの測定例;発振周波数変化法
 上記と同じ水晶発振子を、発振周波数変化法で測定してみました。 直列容量C1は25.75pFで計算しています。

 実測から計算された平均値は:Lm=8.0709(mH)、Cm=19.174(fF)です。

 上記のVNAによる測定値を基準とすれば、周波数変化法で求めたLmは+1.33%であり、Cmは-1.31%の違いとなりました。 それぞれの標準偏差を比較しても大きな違いは無いことがわかります。


 【9000kHzの測定例(1):VNAを使ったもの
 この水晶発振子は、aitendoで10個150円で売られているものです。形状はHC-49/USです。 期間を置いて20個ずつ過去2回購入しています。 まずは、最近購入した20個についてネットワーク・アナライザで測定した例を示してきます。

 いずれも平均値ですが、Lm=39.9492(mH)、Cm=7.8352(fF)でした。

 この水晶発振子は、周波数:foのバラツキはまずまず少ないものの、損失抵抗:Rmのバラツキが大きいです。 それに伴い、無負荷Q:Quの値も大きくバラついています。 σが186000もあるのは発振用としても支障がありそうです。実際に、次項のように発振周波数法では発振できないものがありました。 非常に良い水晶も混じっているので、フィルタで使用するにはピックアップすべきです。玉石混淆と言った水晶発振子でした。

9000kHzの測定例(1);発振周波数変化法
 上記と同じ水晶発振子を、発振周波数変化法で測定してみました。 直列容量C1は再測定しても同じであったため、25.75pFで計算しています。

 実測から計算された平均値は:Lm=40.299(mH)、Cm=7.767(fF)でした。

 同様にVNAによる測定結果を基準とすれば、発振周波数変化法によって求めた、Lmは+0.88%、Cmは-0.87%の違いです。


9000kHzの測定例(2):VNAを使ったもの
 上記と同じ9MHzの水晶発振子です。 購入したのも同じaitendoで、形状も同じHC-49/USです。 但し、購入時期が異なっており、数ヶ月間を置いています。 数ヶ月では在庫品が回転していない可能性もあるので、個体に刻印されていたロットを示すと思われる記号をしらべてみました。(左欄外に記載) 共通したロット番号もありましたが、異なるものも含まれたので先の20個とは混ぜずに測定してみました。 もちろん大きな差が見られなければフィルタに使う際には混合してしまうつもりです。

 いずれも平均値ですが、Lm=40.477(mH)、Cm=7.735(fF)でした。

 こちらのグループもRmに大きなバラツキがあり、従って無負荷Q:Quも大きくバラついています。 σでみても163000ですから、上記のグループと似たようなものと言えそうです。 直列共振周波数:foで比較しても平均値では僅か3Hzしか違わないので同じグループとして扱っても支障なさそうです。 いずれにしても、選別して使えば良いフィルタも可能でしょう。

 【9000kHzの測定例(2);発振周波数変化法
 同じように、発振周波数変化法で測定してみました。 既に2例を見ているので、同じような結果が得られると推測できますが結果はどうだったでしょうか?

いずれも平均値ですが、Lm=40.930(mH)、Cm=7.651(fF)でした。

 同様にVNAによる測定結果を基準とすれば、発振周波数変化法によって求めた、Lmは+1.12%、Cmは-1.09%の違いです。 予想通り同じような結果になりました。



測定法による水晶定数の違い
 以上、ネットワーク・アナライザを使って水晶定数を求める方法と、直列容量の有無による発振周波数変化から水晶定数を求める方法の比較を行なってみました。

 ネットアナによる方法は、直列共振周波数:foにおいてLmとCmが打ち消し合って、Rmが求められることを原理とします。Rmの値と測定治具における共振特性からLmの値を求めて行く方法です。 一方、後者の直列に容量を付加する方法は、付加した容量による共振周波数の変化からCmの値を求める方法です。 このように測定原理は異なっています。

 それぞれの方法で求めてみて、原理の異なる測定法から得られたLmとCmが2%以内の違いで求められることがわかりました。 このことから、簡略な方法でありながら周波数変化法で求めたLmやCmも十分信頼できる精度が得られていると推測できます。 標準偏差の比較でも大きな違いは見られませんでした。

 ここには示しませんでしたが、3周波数法や、±45度法など他の方法と比較しても概ね1〜2%程度の違いしかありませんから、いずれの測定法でもまずまずの精度でLmやCmが求まることがわかりました。 これは得られた数値に基づくフィルタ特性のシミュレーションや、製作したフィルタそのものの実測特性からも得られた数値の正しさが実証できていると思います。  わずか2%程度の違いではフィルタ設計の結果に何ら差異は認められません。従って目的に対して十分な測定精度です。

 もちろん、直列容量:C1の値を実測から精度良く求めるほか、個々の水晶発振子の並列容量:Chも実測で求めるなど相応の注意は必須です。 それでも自作好きのHAMならたいてい持っていそうな測定器・・・周波数カウンタとCメータだけでLmやCmが良い精度で求められることは嬉しい結果でしょう。

                  ☆ ☆ ☆

おまけ:G3UUR法によるRmの測定
 上記の比較検討は既に紹介したARRLの出版物:「QRP POWER」(←参考リンク)に囲み記事があった「G3UURによる水晶定数の求め方」に基づいています。 十分良い精度でモーショナル・インダクタンス:Lm、及びモーショナル・キャパシタンス:Cmが求められることがわかりました。 

 しかし、残念ながら動的な損失抵抗;Rmを求めることが出来ませんでした。そのため、無負荷Q:Quの値も計算できません。Dishalに基づく簡易フィルタ設計ソフト(←参考リンク)を使う上ではRmの値は必要としませんが、RmやQuは水晶の良し悪しに関わるので気になる人も多いでしょう。 ちなみに、Rmがわかれば、無負荷QはQu=ωo*Lm/Rmで計算することが出来ます。(ωo=2*π*foなのは言うまでもないでしょう)

 Rmが求められない不都合に対応する解決法を見掛けたので要約して説明しておきます。 これはG3UUR自身の記事であり、QRP-ARCI(QRP Amateur Radio Club International)の季刊誌、The QRP Quarterlyの2010年10月号に掲載されたものです。 なお、図の回路で発振とバッファ・アンプに使うトランジスタはオリジナルではBC108あるいはBC182となっています。いずれもfT=200MHzくらいの小信号用汎用品なので、2N3904や2SC1815のような代替品で大丈夫です。ダイオードD1とD2は筆者はOA47と言うMullard製のゲルダイを使っていますが、代替として1N60や1K60などのゲルマニウム点接触型を使えば良いでしょう。 またVR2は無くても良さそうです。コンデンサの単位;1nFと言うのは1000pF(=0.001μF)のことです。

以下、G3UURの発振回路でRmを求める手順を箇条書きに纏めてみました。 測定は1個の水晶発振子ではなく、複数個のグループについて行なうことを前提としています。

(1)準備:
検波ダイオードの先にあるMとGと言う端子間にデジタル・マルチ・メータ:DMMを接続して電圧が読めるようにしておく。また、O/P端子とGの間に周波数カウンタを接続する。

(2)foとVoscの測定:
水晶発振子を挿入する。スイッチS1とS2を閉じて発振周波数:foの測定を行なう。 そのときに、foと共にDMMに表示される電圧Vosc;(発振電圧の相対値)を記録しておく。Voscの測定で周波数カウンタ接続の影響が見られるなら一時的に接続を外すこと。

(3)f1の測定:
スイッチS1を開き、S2を閉じたままで発振周波数:f1を測定する。
測定したfo、f1からLmとCmを算出しておく。(これは、上で行なった方法と同じ)

(4)水晶ペアの作成:
測定した水晶発振子のグループから、DMMで読み取った発振電圧:Voscが近くて(5%以内)、なおかつ周波数;foがなるべく近い(100Hz以内)ものを2つ選ぶ。 もしもそのグループ内でDMMで読み取った電圧:Voscが大きくばらついているようなら、Vosc電圧が大きいもの2個のペアと、小さいもの2個のペアの2種類を作るのが良い。

(5)測定:
作ったをペアをハンダ付けして並列にしたものを発振回路に入れる。スイッチ1、2ともに閉じた状態でDMMの電圧;Voscを読み取る。

水晶が単独だった時よりもDMMの電圧;Voscは大きくなるでしょう。

(6)発振電圧の調整;
S2を開いて、VR1=100Ωを加減して水晶発振子が単独だった時の発振電圧:Voscと同じになるように調整する。 ペアにした2個で個々のVosc電圧が異なるなら平均値を用いる。

(7)Rxの測定:
水晶発振子を取り除いてから、TP1とTP2の間にDMMを抵抗計に切り替えて接続し、R1(100Ωの可変抵抗器)の抵抗値;Rxを読み取る。

その抵抗値:Rxの2倍がRmの値です。(ペアにした2個のRmの平均値)

発振電圧が大きいペアと、小さいペアの2種類について上記の測定を行なえば、そのロットのRmについて、大きなものと小さながわかることになります。他はその間にあるでしょう。 全体の平均値はその中間あたりでしょうか? 誤差±10%くらいの測定精度があるそうですが、これは十分設計に役立つデータになります。

☆上記の方法以外にも、例えばARRL発行のハンドブック:2010年版 ARRL Handbook のCrystal Filter section (11.6)にも簡易ながらもう少し良い精度で求める方法が掲載されています。上記とはまた異なった方法で面白いです。お持ちなら参照を。 以上、【おまけ】の項は資料に基づいた解説です。理屈の上では旨く行きそうに思いますが、やってみたわけではありませんからあとは各自で実験して下さい。

                  ☆ ☆ ☆

【エピローグ】
 誰しも良い測定器や良い環境があればと望むものです。 もちろん、それが可能ならベストに違いありませんが、時として本末転倒になってしまうことがあります。 FBなメーカー製Rigが何台も買えるほど投資した挙げ句、出来上がったモノと言えばまったくの初心者レベルだった・・・では笑話しにしかならないでしょう。 ならばなるべく少ない出費で楽しむのが賢明と言うものです。それに何でも高級な方法が格段に優れるわけでもありません。(以上、自戒を込めて・笑)

 しかし、簡単な方法には不安があるのも常です。何となく高級な道具を使った方が良さげに見えるものです。 だから誰かが比較して有効性の検証をしておけば簡単な方法も安心できるでしょう。これで簡易な方法も自信を持ってお奨めできると思います。de JA9TTT/1

(おわり)

追記
比較用にデータ付きクリスタルを無償頒布する・・・と言う話しは一旦ペンディングにさせてもらいます。周波数変化法で良い精度の測定ができることがわかったので、比較用のクリスタルは必要ないでしょう。それに希望されるお方も少ないようです。(2015.09.28)

2015年9月13日日曜日

【部品】Crystal Motional Parameters

【部品:水晶の等価定数と評価】
 「はじめに水晶定数ありき」です。新しいラダー型クリスタル・フィルタの設計(←リンク)には水晶の等価定数を知る必要があります。そして設計ソフトに与える定数の精度でフィルタ設計が決まってしまいます。 水晶振動子(発振子、共振子)は水晶板の機械振動ですが、外部から電気的な特性を眺めるとLC共振器と等価な「回路」として見ることができます。

 等価回路は、LCRが直列になった「直列共振回路」とそれに並列に容量Chが入った回路としてみることができます。 LCRが直列になった部分が水晶板が機械振動しているそのものであり、このLCRをモーショナル(動的)定数と言います。 それぞれ添字を付けて、Lm、Cm、Rmと言います。並列に入ったコンデンサは、主に水晶板を挟む電極板によるキャパシタンスと、水晶板を保持し保護するための外周器によるストレー容量です。ホルダー(容器:Holder)容量の意味で、添字としてhを付けてChと呼ばれることが多いようです。或はパラレルの意味で、Cpとする例も良く見掛けます。

 このBlogの読者であればラダー型クリスタル・フィルタの話しの中で、何度となく登場している記号なので周知のことと思います。纏める意味であらためて書いておきました。 常識はずれの添字を付けてしまうと話しが混乱し易くなるので、なるべく従った方が良いと思っています。

参考:International Electrotechnical Commission Standard : IEC STDによれば、水晶振動子の等価モーショナル定数はC1、L1、R1とし、並列容量をC0としています。また、直列共振周波数(resonance frequency)をfr、並列共振周波数を反共振周波数(anti-resonance)と呼びfaで示すのを標準としています。学会の論文など執筆のお方はこれに従うのが良いでしょう。このBlogも従った方が良いのかもしれませんが、過去のBlog全部の書き換えは容易でないのでそのままで行くことにします。w

                    ☆

 以下は自家用メモとして纏めておいたものです。 多少は参考になる可能性もありますが、個々の数値そのものはあまり役には立たないと思ってもらった方が良いでしょう。あえて役立つとすれば、一般に手に入る可能性がある水晶の良し悪しが統計的に判断できることくらいでしょう。 もしも、この先もご覧ならそのような意味で眺めて頂ければと思います。

(参考)だれでも「標準水晶」のような「水晶定数がわかっている物」が容易に手に入れば良いのですが難しいでしょう。そう言う物があれば、自身の測定の確かさの検証がきるのですが・・・。 もし私の測定結果で良ければ「チェック用の水晶」として・・・もちろん基準などと言うつもりはなくて単なる目安ですが・・・頒布(無償)も考えています。 ご興味の有無でもコメントしてもらえたらと思っています。



 【aitendoの15円水晶:8MHz
 秋葉原のaitendoで現在でも販売されている8MHzの水晶発振子です。 通販でも買い求めることが出来ます。 10個単位で売られており、2015年7月ころ150円で購入して来たものです。 2袋購入し、20個について水晶定数を求めました。 安物水晶の典型と言えそうですが、お手軽なのは有難いです。
 【aitendo 8MHz水晶の特性一覧
 直列共振周波数:foのバラツキは標準偏差でみて、75Hzほどでした。 悪くない数字だと思います。
 無負荷Qの価;Quを水晶振動子の良さと考えると、平均で128,000くらいあるので、悪くない数字でしょう。 但し、Quのバラツキはかなり大きいようです。 標準偏差で24,000もあるので、Quが低い物をフィルタに使うと思うような特性が出ないかもしれません。 従って、良いラダー型フィルタを作るためには、必ず実測してQuの小さい物を除く必要があるでしょう。 そのほか、ロットの混合が原因と見られるLmのばらつきも見られるので、Lmをなるべく揃えると言った選別も行なうべきです。 それでも、20個も購入すれば、特性良好なSSB用フィルタが作れるのは間違いないようでした。



 【NDK製NTSCクロマ発振用;3579.545kHz
 HC-6/Uと同じサイズで溶接で組立られたタイプです。HC-48/Uと言う形状です。 リード線は細くて長いハンダ付けタイプです。 3579.545kHzと言うのは、TV受像機がアナログだった時代のカラー復調用サブキャリヤの周波数です。

 NTSC方式なら、どんなカラーTVにも必ず一つは入っていたものでした。同様にVHSやβマックス方式のVTRでも使われていました。(4倍の14.318MHzを使う例も多いようです)
 この水晶発振子はずいぶん前にIさんに頂いた物だったと思います。 大きくて使いにくいのでやや持て余し気味でしたが、実測してみたらなかなか良い物でした。 Quが大きいのです。

 【NDK 3549.545kHz水晶の特性一覧
 他に使った記憶は無いので、全部で14個頂いたようです。 但し、測定していて2個は不良品でした。 1個は電極間の絶縁抵抗が低下しています。 もう1個は水晶板がケースに接触しているらしく機械的損失:Rmが異常に大きいのです。 そのため、これらの2個は除外して表に纏めておきました。

 この水晶発振子の特徴は無負荷Q:Quが高いことにあります。 平均で20万を超えていて、低いものを除去すれば平均25万くらいになるので、かなり良い特性のフィルタが作れます。但しSSB用のような帯域幅の広いフィルタでは、中心周波数から見た上下の非対称性が目立つため不向きではないかと思われます。対策としてfpを移動させる方法で対称化を図る方法もありそうです。 CW用の狭帯域フィルタには最適です。高いQuを必要とする100〜250Hz幅くらいのTransitional gaussian to 6dB型で設計してみたいと思っています。良い音のCW受信機が作れるでしょう。



 【Toyocom製ボーレート用:11059.2kHz
 ボーレート・ジェネレータ用のクリスタルでしょう。コンピュータ時代らしい周波数の水晶発振子です。 同一ロットで無開封の袋入りが非常に安価に売られていたので纏めて購入した記憶があります。
 日本のメーカー名が入っているので、そこそこ良好ではないかと思って購入した覚えがあります。 たしかに、中華クリスタルのように100個に3個も不良が混じっていると言うようなことはありませんでした。

Toyocom 11059.2kHz水晶の特性一覧
 流石に日本メーカの水晶発振子と言いたい所ですが、直列共振周波数のバラツキは思ったよりも大きかったです。 8MHzの水晶よりもバラツキの絶対値は大きくなるのは当然ですが、それを考慮しても大きいようです。

 ただ、無負荷Q:Quの価はバラツキが少なかったです。 残念なのは、そのQuの平均値が小さいことにあります。 平均で10万少々と言うのは、発振用には支障ありませんがフィルタ用としては少々物足りないのです。  無損失の水晶振動子を前提としたDishal準拠の簡易設計ソフトでは現実との乖離が大ききくなる傾向がありそうです。 なるべく、Quが大きいものを選別して使用すると幾らかでも有利でしょう。



NDK製時計用水晶:4194.304kHz
 HC-49/U型のこの水晶発振子は2^22Hzの水晶です。22段のバイナリ・カウンタ(2進カウンタ)で分周すれば1Hzが得られるので、おそらく置き時計などの用途に使っていたものと思います。

 周波数はやや低めですが、SSB用フィルタは十分可能です。 まだ評価の途中なのですが、無負荷Q:Quは20万近くありそうなので有望だと思います。 HC-49/USよりも水晶板が大きいのも有利な筈で、あとはバラツキが少なければフィルタ用として最適でしょう。 以前はたくさん流通していたので持っている人は多いと思いますが?

一例であるが:
fo=4193.174kHz
Rm=16.7Ω
Lm=125.5mH
Cm=11.48fF
Qu=198,000



朝日電波製12.8MHz:その1
 12.8MHz=2^7×100kHzの汎用水晶発振子と思います。 最近はより小型の20MHzあたりが標準的な汎用水晶発振子のようですが、以前は12.8MHzでした。
 そのまま発振回路に使われるケースが殆どだと思いますが、TCXOに組み込まれたものもあるでしょう。但し、TCXO用と一般発振用は温度特性の決め方には違いがあります。 この水晶発振子がどちらなのかはわかりません。 次項の12.8MHzの方を先に評価したので、こちらは後回しになっています。一応、概略の価を書いておくに留めます。 形状はHC-49/Uを一回り小さくしたものです。

fo=12.797744MHz
Rm=12.2Ω
Lm=19.4mH
Cm=7.97fF
Qu=128,000

 なお、念のために書いておきますがfFというのは、フェムト・ファラドのことです。 フェムトとは10^-15で、1ピコ(p)は1^-12であるから、1fFは0.001pFのことです。 mHは1/1000ヘンリーなのは言うまでもないでしょう。Quは単位無しの無名数です。



朝日電波製12.8MHz:その2
 同じ12.8MHzの汎用水晶発振子ですが、ユーザー名が印刷された専用品です。 形状はHC-49/Uのようですが、何となくケースに厚みがあるように感じます。すこし違うのかもしれません。

 数年前ですが、オークションに大量に登場したことがあって、数名のお方と一緒に分けて頂いたことがありました。その後もオークションに登場しているそうで、これは別途落札したものだそうです。 前から有った手持ちと比較したら、ロット番号が違っているようでした。 その他は同じようです。 ICOMと書いてありますが、無線機でおなじみのICOMなのかどうかは不明です。どんな場所に使っていたのでしょう? また、なぜ大量にオークションに登場するのでしょうか? 朝日電波と言う会社は既に存在しない(?)ようなので、整理されたとき流出したのだろうか?

ASAHI 12.8MHz水晶の特性一覧
 偶々なのかもしれませんが、無負荷Q:Quが高くて、周波数:foのバラツキも小さいのが特徴です。 Quは平均で15万を超えます。標準偏差も1万以下なので良く揃っていると思って良いでしょう。 もちろん、選別すれば安心です。 次項に示した表は選別の一例を示しています。


ASAHI 12.8MHz水晶の選別例
 8素子のラダー型フィルタを目的に選別してみました。 まずは、Quの大きさで並び替えを行ないます。 その後、周波数順に並び替えを行なったあとで、周波数差が一番小さい8個の組を選んでいます。 このように並べ替えた物を使って設計することになります。

 これらの一覧表はMS-Excelで作成しているので並べ替えはお手のものです。 もちろん、水晶定数も必要項目だけをインプットすればあとは自動的に求まります。平均値や標準偏差の計算も同様です。ラダー型フィルタの製作では水晶定数をたくさん計算しなくてはならないので、いちいち電卓をたたいていたのでは日が暮れてしまうでしょう。(笑)

 Dishal準拠の簡易設計ソフトには平均値を入れてやれば良いです。 この水晶はQuが大きいので肩部分のダレも少なくて良いフィルタになるでしょう。 どんな物が作れるのか、気になるお方は表の数値を設計ソフトにインプットして遊んでみてはいかがですか?



【水晶定数の測定について
 水晶定数の測定は幾つかの方法で試しています。 結論から言うと、どの方法で測定しても大差はないようでした。 写真では、ネットアナを使っている様子です。 おなじネットアナを使う方法でも、-3dB法と±45度法があります。スペアナ+TGでやるなら-3dB法と言うことになるでしょう。

 さらに、まったく別の方法として発振させ直列容量の有無による周波数シフト量から求める方法もあります。 まだ他にも方法があって、同じ水晶発振子についてそれぞれに基づき測定し計算してみました。 その結果、測定方法の間でせいぜい1〜2%くらいの違いしか見られずかなり良く一致しました。

 そのような結果から、特別高級な測定器を用いなくても十分良い精度で水晶定数が得られることが確認できました。 従って、もっとも手軽な発振周波数のシフト量を測定する方法・・・G3UURの方法・・・がアマチュア向きでしょう。 安価な手段で実現できなくてはフィルタを製作する意味も薄れるので、これはたいへん良い結果です。

 注意すべきは、直列に挿入する容量値を発振回路に実装した状態で実測から求め、その数字に基づいて計算することです。例えば30pFのコンデンサを使ったからと言って、30pFで計算するのではなく回路に入れた状態で実測した数値を使用します。測定にはLCRメータDE-5000(←リンク)とSMD部品用測定プローブを使うと容易でした。
 それさえ行なえば良い精度で水晶定数の算出ができるでしょう。 周波数シフト法ではRmが求められませんが、Dishal準拠の簡易設計ソフトを使った設計ではRmの数値は必要としないので殆どの製作者にとって欠点にはならないでしょう。 もちろん、それ以上を目指すならW1FBの測定治具などを検討すべきですが・・・。 G3UURの方法についての比較と考察などは別のBlog(←リンク)で扱っています。ぜひ参照して下さい。

                    ☆

 自家用情報なので、数値そのものは殆どの人に役立たなかったでしょう。 それに、外観形状を見ただけでは良否の判定は出来ませんから写真と似ていると言って、類似の性能が保証されるわけではありません。フィルタへの適否は個々の測定によらねば判断できません。

 参考までですが、SSB用フィルタを作る際の判断はQu>100,000と考えています。これは最低限の数字です。 もしQu>150,000ならなかなか良い水晶です。もちろんQu<100,000でもSSBフィルタは作れますが設計通りに行かないのはやむを得ないでしょう。思惑とはずいぶん異なる可能性も有ります。

 発振用に作られた水晶発振子をクリスタル・フィルタ用として使うのはリスクがあるのではないかと思う人もありそうです。 しかし実測値で示したように、良く吟味すれば非常に良い水晶振動子が安価に手に入るのですから、クリスタル・フィルタはやっぱり「自作するもの」と言えるのではないでしょうか? de JA9TTT/1

(おわり)