【GPS Module NEO-6Mのバッテリ交換】
【電池不良のNEO-6M対策】
NEO-6MモジュールはGPS周波数基準器だけでなく、様々な用途に使える便利なGPS受信機です。 ところが、残念なことに毎回初期状態で起動すると言う不具合のある物が出回っているようなのです。今年になって私が再度購入した物にも問題がありました。
起動の都度コールドスタートの初期状態になってしまい、衛星の捕捉まで長い時間が掛かるほか、例えばタイムパルス出力の周波数(周期)などユーザー設定しても記憶されないと言う不具合が発生するのです。
この件に関して数個続けて購入したがどれも同じ症状だったと言うお話がありました。 雑誌の通りに動作しないのでは「オマエの記事は出鱈目だ!」なんて言われかねませんからね。まったく困ったものです。(笑)
対策については既にニュースとして流していますが、ここでは不具合対策について私が実施した方法を具体的に説明したいと思います。 以下、このモジュールの活用を目的としていてトラブルに遭遇しているお方に向けた内容です。一般性はありませんがあしからず。
☆
【NEO-6Mモジュールの回路図】
毎回初期状態で起動すると言うトラブルの原因の一つとして、基板に搭載のバッテリの不良が考えられます。 あるいは、バッテリの搭載状態の方に問題があって旨く充電されていないのかもしれません。
いずれにしても、このバックアップ用のリチウム2次電池が働かないと、通電の度に初期状態からの起動になります。 最後に電源がオフされた位置情報などが記憶されず、必ずコールドスタートになるため衛星の捕捉までに長い時間が掛かるようになるのです。 また、タイムパルスの出力も初期状態の1Hzで20%デューティ比に戻るのです。いくら設定しても電源を切ったら元に戻ってしまいます。
図は、市販されているu-blox社のNEO-6Mが搭載されたGPS受信機モジュールの回路図です。 この回路図には多少現物とは違うところがあります。 例えばLEDの搭載個数のほかバッテリの種類も違っているのですが、実際に交換してみるまで電池の違いについては気付きませんでした。 回路図によればバックアップ用のバッテリはMS621FEと言う充電可能なリチウム2次電池のようです。
【MS621FE:交換用電池】
MS621FEと言うのは公称電圧が3Vで5.5mA/Hの容量を持ったマンガン・シリコン型のリチウム2次電池です。
昔はNiCd電池などが使われていた用途に使われているようです。 NiCd電池よりも自己放電が少ないため、データ保存状態で放電し切ってしまうと言うトラブルは少ないようです。液漏れしにくいのも特徴のようです。
基板にハンダ付けするようにタブが溶接された形で販売されているようでした。 しかし、かなり特殊な電池ですから普通の電気屋さんやホームセンターで入手するのは難しいでしょう。
【秋月電子通商で入手】
電池の不具合と言うことはわかっても、交換用の電池が手に入らなくては対策は厄介になります。 比較的短期間のバックアップで良いなら電気2重層コンデンサで代替するアイデアがあるでしょう。
あるいは、データ保持状態での消費電流は僅かなので、リチウム1次電池で間に合わせると言う手もありそうです。 その場合は間違って1次電池に充電してしまわぬための対策が必要です。バックアップ回路の変更が必要になります。
対策を考えていて試しにネットで検索したところ回路図に書いてある番号の電池が秋月電子通商で販売されていることがわかりました。単価は120円とお手頃です。 これなら購入して交換するのがいちばん手っ取り早いですね。 これで問題解決と思ったのですが・・・。
【電池交換の実際】
ネットでサーチしてみるとNEO-6Mモジュールには幾つか種類があるようです。 いま秋葉原で手に入る物は電池のサイズが小型化された物が多いようでした。
そのため、MS621FEでは大きすぎるのです。 ハンダ付けランドのパターンも合っていません。 従ってそのまま単純に乗せ換えはできないのです。
ハンダ付けランドのハンダを奇麗に除去し、基板パターンとショートしないように絶縁フィルムで不要部分を覆うように対策しておきます。 写真で電池の下に黄色く見えるフィルムはそのためのものです。 その上でMS621FEの端子を少し曲げて旨くランドに合わせてハンダ付けすれば交換完了です。
写真のように電池が基板からはみ出るのですが機能上の支障はありません。 写真では隣のUSBインターフェース基板と干渉しているように見えますがやや浮いているので支障はありませんでした。 実装してから端子電圧を測定してみたらちゃんと3Vあたりを示したのでこれで電池交換は成功です。交換前の端子間電圧は0.1Vくらいしかありませんでした。 さて、うまく直ったでしょうか?
【Sky View】
写真はNEO-6Mを窓際で暫く運転していた状態です。 Sky Viewがちゃんと表示されるのは勿論ですが、電源の再投入から衛星を捕捉するまでの時間は正常な迅速さになりました。今度は再通電から数秒くらいで捕捉します。
肝心のユーザー設定の保持ですが、こちらも正常になっています。 タイムパルスの出力を10kHzに設定するなど「GPS周波数基準器の製作」に必要な設定もきちんと保持されます。
短時間の電源ON/OFF繰り返しだけでなく、10日間ほど放置してから再度通電してみました。 今度は設定を「忘れてしまう」ことはありません。 電池電圧も前後で違いはなく正常に維持されていましたから、どこかに電流リークしていて電池容量を無駄に消耗しているようなこともないようです。
摘出した電池は直径4.8mmくらいの小さな物です。 特に意味のありそうな型番などの表示はありませんので正体不明です。 間違って1次電池を実装してしまった可能性がありますし、不良の2次電池を搭載してしまった可能性もあるでしょう、 見たところは同じでも正常動作するGPS受信モジュールもあるのですから、電池その物に原因があるとすれば特定の時期に生産したモジュールの電池に集中して不良があったのではないでしょうか?
☆
その後、外した電池を単独で充電してみたら電圧が復帰する傾向が見られたので基板実装に問題があった可能性もありそうです。 基板パターンが適切でないため、電池の両端をショートもしくは電流リークするようなハンダ付け状態になっていたのかも知れませんね。
安価だったNEO-6Mも品薄になるほどの人気のためか値上げされてコストパフォーマンスは少々落ちたように見えます。 しかし性能は悪くないので有用性は相変わらず高いでしょう。 ちゃんと使えれば悪くないGPSモジュールです。
後継のNEO-7やNEO-M8Tにも同じ機能がありますし、受信感度のような衛星の捕捉性能は改良されています。 そろそろこのモジュールだけに目を向けず他のユニットも検討してみる必要がありそうです。
ここでは再購入したNEO-6Mが不良だったことからその対策方法をご紹介してみました。もしも類似の症状が現れるようでしたら電池交換を検討してみては如何でしょうか? 旨く直るかもしれません。(もちろん、直ることを保証するものではありません。自己責任でやって下さい)
そもそも不具合のあるような物品を販売することこそ根本的な問題なのですが、中華クオリティが横行している現状では安く手に入る物を旨く使って行くと言うユーザー側の工夫も必要かも知れません。 製品品質は格段に向上したがお値段の方も鰻登りと言うのでは詰まりませんからね。(笑) ではまた。 de JA9TTT/1
(おわり)fm
参考:このBlogに関連のもと記事は以下になります。(各記事へリンク)
(1)GPS周波数基準器の製作記事紹介→Making GPS Frequency Standard
(2)GPS受信機NEO-6Mの紹介→GPS-RX NEO-6M
追記:前回予告のTCA440のCW受信機は開発継続中のため少々お待ちを。
ページ(テスト中)
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2016年5月22日日曜日
2016年5月7日土曜日
【回路】Review on Radio chip TCA440
【回路:ラジオ用IC TCA440のレビューと活用】
【TCA440とは】
TCA440はAMラジオ用のICです。 もうずいぶん前になりましたがWebサイトで扱ったことがありました。 基本的な動作を確認しHAM用の通信機への応用について検討すると言う話しでした。 再び扱うことにしたのは、CW受信機への活用を探るためです。 少し前に過渡応答性の優れた「良い音のCWフィルタ」が作れたので、実際に受信機に使ってその性能を検証すことが目的です。
TCA440は欧州系のICです。 カーラジオなどを目的に開発されたようです。 オリジナルはSiemens社(独)の開発でしょう。 開発当時ラジオ用のICは日系半導体メーカーの独壇場だったようで欧州製はあまりポピュラーにはならなかったようです。 そのため自社での生産は早々に諦めてしまい製造権を東欧の半導体メーカーに譲渡したようでした。 いまでも東欧諸国あるいは旧ソ連製らしいセカンドソースが入手できます。 しかし東欧でも既に生産は継続していない筈です。手に入るのは市場在庫品のみかも知れません。勿論それでラジオ作りに困ることもないのです。
参考:写真の下側のTCA440は東ドイツ時代のものです。 VBE RFT・・・Volkseigener Betrieb Rundfunk-und Fernmelde-Technik:放送と通信の技術人民公社・・・で製造されました。左下の丸いロゴはRFTのものです。半導体コンビナートは旧東独のフランクフルト(オーデル)に存在したようです。 なお上のTESLA社は旧チェコ・スロバキアのメーカーでした。どちらも東欧製と言うことになります。 製造時期は良くわかりませんが、冷戦終結後も暫くは共産主義時代のまま生産継続されたようです。TESLAのものは1990年製かも知れません。
☆
TCA440は基本的にAMラジオ専用のICです。 AMとは言っても中波AMラジオ放送専用と言う意味ではなく、長波帯から30MHzあたりまでの短波帯をカバーするAMラジオが作れます。 似たような機能のICは日本メーカーにもたくさん存在するので目新しくもないのですが、実は大きな特徴があるため注目しました。 これについてはあとで説明します。 TCA440の仕様や回路構成を見るとラジオ用ICとしては高性能な設計になっているのもFBです。
☆
以下は活用に当たって検討を進めるための自家用資料です。製作対象はHAMバンド専用のCW(無線電信)用に特化した受信機です。 普通のラジオを作るのでしたらTCA440ではなく他のIC・・・例えばLA1600、TA2003PあるいはTA7613APなどを使う方が断然有利でしょう。TCA440は入手性が良くないのも欠点です。特にお奨めするようなICではありません。 せっかく読み進んでいただき恐縮ですが、この先は「普通のラジオ」作りには役立ちませんからここでお帰りをお奨めします。あるいは「短波ラジオ」の製作がご希望なのでしたらこちら(←リンク)などいかがでしょう?
【TCA440・内部ブロックと標準回路・1】
日系AMラジオ用ICの多くは復調感度の向上と歪特性を改善するためにアクティブ検波回路を内蔵しています。 そのためAMラジオを作るには最適ですが、HAMが必要とするSSBやCWの復調には向いていないのです。 しかも多くの場合AGC回路もIC内部で直結されているためSSBやCWに適 した特性のAGC(自動利得調整)も実現困難です。 とりわけ検波回路直前のIF出力が取出せないのは最大の欠点です。外付けのSSB/CWの検波回路が旨く付けられませんでした。
その結果SSB/CW復調のためにIFアンプの頭の部分からBFOを注入する方法にならざるを得ません。 その方法も弱めのBFO注入で済むCWならまあまあなのですが、SSBの復調に向くようにBFOを強く注入すれば問題が起こります。BFOによってAGCが深く掛かって感度が抑圧されてしまい、これは致命的な欠点だったのです。 まあ、最初からSSB/CWは考慮されていないのですから仕方ありませんが。
図の様にTCA440はIF出力が引き出されており、ダイオード検波回路が外付けになっています。AGC回路の入り口も外に引き出されているのが特徴です。 そのためSSBやCW用受信機への活用に向いているのでした。 SSB/CW用の復調回路が簡単に付けられます。 またAGCも検波回路系とは独立に設計できるため通信機向きのAGC構成が容易です。 このような特徴を持ったAM系のラジオ用ICは殆ど見掛けないのです。TCA440はHAM用受信機の製作には好都合なのでした。
この回路例はRF部に独立したAGCを掛ける方式になっています。 AMラジオ放送は非常に強力なため放送局近傍ではミキサーの飽和を避ける意味からRF-AGCが効果的です。しかしHAM用受信機には必ずしも適当ではありません。 中波のカーラジオ向きの回路でしょう。
【TCA440・標準回路・2】
上記の回路と基本的には同じですが、RFアンプのAGCもIFアンプの系統から掛ける設計になっています。 HAM用の短波受信機ではこのような構成の方が向いているように思います。 もちろんフィルタでの信号遅延の問題はあるのですが・・・。
この回路のAGC特性は非常に優れており以前の実測評価によれば、入力信号が100dB(10万倍)変化しても、IFアンプ出力の変化は僅か7.6dB(2.4倍)に過ぎません。 これは素晴らしいAGC特性と言えるでしょう。 AGC電圧の配分など上手に設計し時定数の設定を適切に行なえば非常に快適なSSB/CW受信機になります。 SSB/CWの受信を主に考えていますから、こちらの回路構成を基本に設計を進めたいと思います。
【TCA440・等価回路】
内部等価回路を示します。 内部は差動増幅器を基本とした回路構成になっています。 バイアス回路ほかIFアンプなど主要部分の電源電圧は内蔵の3.5V電源で安定化されています。
IFアンプは差動4段構成になっています。 段数が多いのはゲインを稼ぐのが目的と言うよりもAGCの効きを良くするためでしょう。 しかし一般のAMラジオ用のICよりもゲインは高目なので後続回路のゲインを加減しないとノイジーな受信機になってしまう恐れがあります。 特に、SSB/CW検波にゲインがあるものを使う時はIFアンプの出力をかなり絞るなどの対策が欠かせません。むしろ復調ゲインのないリング検波が適当かもしれません。
IFアンプの周波数特性はあまり良くないようです。 普通は455kHzで使うので問題にはなりませんが規格では上限2MHzとなっています。 これから製作する例では、3.58MHzを考えているので多少心配があります。 但し2MHzを過ぎたら一気にゲインが低下するLPFのような周波数特性とも思えませんので十分期待できると思っています。等価回路を見ても意図的に周波数特性を落としている様子はありません。 但しIFアンプ最終段の差動増幅器がfTの低いラテラルPNPトランジスタによる構成なのでその周波数特性が現れそうです。 少々ゲインが低下する可能性はありますが、もし不足しても補うのは容易です。
追記:IFアンプの周波数特性は考えているだけではわからないので応急にテスト回路を作ってみました。その結果、簡易な測定ですが2MHzあたりから徐々にゲイン低下し、3.58MHzでは-6dBくらいになりました。さらに6MHzでは-10dBくらいになりました。概ね予想通りの結果ですが、-6dBなら補助のIFアンプは必要ないでしょう。
TCA440の内蔵局発回路はコレクタ同調形式のベース帰還型自励発振器です。 HAM用の短波受信機としては周波数安定度の不足が予想されるため局発は外部から与える方がより良いでしょう。 水晶発振も可能な回路ですから第2局発固定型のダブルスーパにも向いています。
【TCA440・RF部の解析】
RFアンプのAGC回路は面白い構成になっていたので詳しく検討してみました。 ミキサー回路はMC1496Pと同じようなギルバートセル型DBMになっています。 また、局発信号を平衡型で加えているなどあまり見ない回路形式なので興味を引かれました。
いちばんの検討目的はミキサー出力に設けるIFTの設計にあります。 使用する予定のCWフィルタは入出力インピーダンスがかなり低いため、旨くマッチングトランスを製作しないと信号ロスがたいへん大きくなってしまいます。
コイルの設計ではそのあたりの検討を十分行なったつもりです。 資料によればミキサーの負荷インピーダンスは7kΩあたりを想定しているようです。 同調回路からタップを引き出すとかフィルタ側のインピーダンスと旨くマッチングする巻き数比を検討しました。
【CWフィルタとマッチングコイル】
このところBlogでは10Kボビンにコイル巻きばかりしている印象があります。(笑) 写真は3.58MHzのCWフィルタとそのマッチング用IFTです。 フィルタのマッチング用のほかIFアンプの出力部に使うIFTも一緒に巻きました。 下に敷いてある455kHzの回路例のように既存のコイルが使えるとTCA440の活用も簡便なのですが、そんな都合の良いコイルはありません。
RF回路にコイルは付き物ですからやむを得ないのですが、やはりコイルの製作は厄介です。 特に十分な評価手段がない状態で自作するのでは不安も多いでしょう。 「近ごろのHAMはコイルの一つも巻けないで云々」と言われますが、既製品のコイルが重宝されるのはやむを得ないことです。 この先の製作でも既成のコイルが旨く使えるなら良いのですがそうそう都合よくは行かないようでした。
結局、必要なインピーダンス・マッチングができロスも少なくなるようなIFTを作る必要に迫られ自ら巻くことになってしまいました。 使うのは少し先になりますが旨く使えれば良いのだが・・・と案じているところです。 10Kコイルは3.58MHzあたりで使うと性能が悪いのもちょっと気になりました。 まあ何とかなる範囲でしょう。
☆ ☆ ☆
年月が過ぎ去るのは早いものです。 振り返って見たらTCA440を入手したのは2004年でした。さっそく使い方を検討したのもその頃でした。あれから10年以上も過ぎ去ってしまったのですね。 いろいろ構想もあって様々に寄り道を重ねるうちのあっという間の12年でした。(まったく笑えない)
この12年間の変化と言えばDSPラジオの台頭があげられるでしょう。 お陰で家庭用ラジオの製作はかなり容易になりました。しかしHAM用受信機に活用できないのでは興味の対象にはなりません。 その一方で従来型のアナログなラジオICは品種の淘汰が一段と進んだようです。 ただし海外通販の発達や中華系ショップの登場でセカンドソースの入手性が向上したのは幸いでした。
結局のところラジオ用ICを活用してHAM用受信機を作るための部品環境に大きな変化はなかったように思います。 TCA440の陳腐化は幾らか進んだかもしれませんが、12年前の状況と大きな違いはないのです。
ラジオ用ICではありませんが安価なDDSモジュールの登場は特筆すべきでしょう。この先の受信機製作でもVFO部はDDSの採用が前提です。 もうLC発振器やVXO回路で受信機の局発を作る時代ではないのです。それらの手段では周波数安定度も読み取り精度も近代的な要求を満たすのは容易でありません。 AC電源で使うのが前提なら消費電流が多いDDSの採用もあまり問題ではありませんから。
TCA440を活用する機会に恵まれなかったのは様々に検討を行なうと結局ワンチップICで可能なことには限界があると感じるからでした。 集積度の高い専用ICには自由度がないのです。 ただ、それは多分に性能の高望みであって上手にICを料理すれば最高級とまでは言えないまでも、十分美味しいモノが作れるはずです。 コンパクトで流石にICを使った製作だと感じられるでしょう。 CWフィルタの評価を第1目的と考え、それなりの受信機が可能ならTCA440は適材適所ではないだろうか? そう思いつつコイル巻きをしていたのでした。 またまた予告編のようになってしまいましたが、次回は幾らか進捗するでしょう。ではまた。 de JA9TTT/1
(つづく)←受信機の試作編にリンクします。nm
【TCA440とは】
TCA440はAMラジオ用のICです。 もうずいぶん前になりましたがWebサイトで扱ったことがありました。 基本的な動作を確認しHAM用の通信機への応用について検討すると言う話しでした。 再び扱うことにしたのは、CW受信機への活用を探るためです。 少し前に過渡応答性の優れた「良い音のCWフィルタ」が作れたので、実際に受信機に使ってその性能を検証すことが目的です。
TCA440は欧州系のICです。 カーラジオなどを目的に開発されたようです。 オリジナルはSiemens社(独)の開発でしょう。 開発当時ラジオ用のICは日系半導体メーカーの独壇場だったようで欧州製はあまりポピュラーにはならなかったようです。 そのため自社での生産は早々に諦めてしまい製造権を東欧の半導体メーカーに譲渡したようでした。 いまでも東欧諸国あるいは旧ソ連製らしいセカンドソースが入手できます。 しかし東欧でも既に生産は継続していない筈です。手に入るのは市場在庫品のみかも知れません。勿論それでラジオ作りに困ることもないのです。
参考:写真の下側のTCA440は東ドイツ時代のものです。 VBE RFT・・・Volkseigener Betrieb Rundfunk-und Fernmelde-Technik:放送と通信の技術人民公社・・・で製造されました。左下の丸いロゴはRFTのものです。半導体コンビナートは旧東独のフランクフルト(オーデル)に存在したようです。 なお上のTESLA社は旧チェコ・スロバキアのメーカーでした。どちらも東欧製と言うことになります。 製造時期は良くわかりませんが、冷戦終結後も暫くは共産主義時代のまま生産継続されたようです。TESLAのものは1990年製かも知れません。
☆
TCA440は基本的にAMラジオ専用のICです。 AMとは言っても中波AMラジオ放送専用と言う意味ではなく、長波帯から30MHzあたりまでの短波帯をカバーするAMラジオが作れます。 似たような機能のICは日本メーカーにもたくさん存在するので目新しくもないのですが、実は大きな特徴があるため注目しました。 これについてはあとで説明します。 TCA440の仕様や回路構成を見るとラジオ用ICとしては高性能な設計になっているのもFBです。
☆
以下は活用に当たって検討を進めるための自家用資料です。製作対象はHAMバンド専用のCW(無線電信)用に特化した受信機です。 普通のラジオを作るのでしたらTCA440ではなく他のIC・・・例えばLA1600、TA2003PあるいはTA7613APなどを使う方が断然有利でしょう。TCA440は入手性が良くないのも欠点です。特にお奨めするようなICではありません。 せっかく読み進んでいただき恐縮ですが、この先は「普通のラジオ」作りには役立ちませんからここでお帰りをお奨めします。あるいは「短波ラジオ」の製作がご希望なのでしたらこちら(←リンク)などいかがでしょう?
【TCA440・内部ブロックと標準回路・1】
日系AMラジオ用ICの多くは復調感度の向上と歪特性を改善するためにアクティブ検波回路を内蔵しています。 そのためAMラジオを作るには最適ですが、HAMが必要とするSSBやCWの復調には向いていないのです。 しかも多くの場合AGC回路もIC内部で直結されているためSSBやCWに適 した特性のAGC(自動利得調整)も実現困難です。 とりわけ検波回路直前のIF出力が取出せないのは最大の欠点です。外付けのSSB/CWの検波回路が旨く付けられませんでした。
その結果SSB/CW復調のためにIFアンプの頭の部分からBFOを注入する方法にならざるを得ません。 その方法も弱めのBFO注入で済むCWならまあまあなのですが、SSBの復調に向くようにBFOを強く注入すれば問題が起こります。BFOによってAGCが深く掛かって感度が抑圧されてしまい、これは致命的な欠点だったのです。 まあ、最初からSSB/CWは考慮されていないのですから仕方ありませんが。
図の様にTCA440はIF出力が引き出されており、ダイオード検波回路が外付けになっています。AGC回路の入り口も外に引き出されているのが特徴です。 そのためSSBやCW用受信機への活用に向いているのでした。 SSB/CW用の復調回路が簡単に付けられます。 またAGCも検波回路系とは独立に設計できるため通信機向きのAGC構成が容易です。 このような特徴を持ったAM系のラジオ用ICは殆ど見掛けないのです。TCA440はHAM用受信機の製作には好都合なのでした。
この回路例はRF部に独立したAGCを掛ける方式になっています。 AMラジオ放送は非常に強力なため放送局近傍ではミキサーの飽和を避ける意味からRF-AGCが効果的です。しかしHAM用受信機には必ずしも適当ではありません。 中波のカーラジオ向きの回路でしょう。
【TCA440・標準回路・2】
上記の回路と基本的には同じですが、RFアンプのAGCもIFアンプの系統から掛ける設計になっています。 HAM用の短波受信機ではこのような構成の方が向いているように思います。 もちろんフィルタでの信号遅延の問題はあるのですが・・・。
この回路のAGC特性は非常に優れており以前の実測評価によれば、入力信号が100dB(10万倍)変化しても、IFアンプ出力の変化は僅か7.6dB(2.4倍)に過ぎません。 これは素晴らしいAGC特性と言えるでしょう。 AGC電圧の配分など上手に設計し時定数の設定を適切に行なえば非常に快適なSSB/CW受信機になります。 SSB/CWの受信を主に考えていますから、こちらの回路構成を基本に設計を進めたいと思います。
【TCA440・等価回路】
内部等価回路を示します。 内部は差動増幅器を基本とした回路構成になっています。 バイアス回路ほかIFアンプなど主要部分の電源電圧は内蔵の3.5V電源で安定化されています。
IFアンプは差動4段構成になっています。 段数が多いのはゲインを稼ぐのが目的と言うよりもAGCの効きを良くするためでしょう。 しかし一般のAMラジオ用のICよりもゲインは高目なので後続回路のゲインを加減しないとノイジーな受信機になってしまう恐れがあります。 特に、SSB/CW検波にゲインがあるものを使う時はIFアンプの出力をかなり絞るなどの対策が欠かせません。むしろ復調ゲインのないリング検波が適当かもしれません。
IFアンプの周波数特性はあまり良くないようです。 普通は455kHzで使うので問題にはなりませんが規格では上限2MHzとなっています。 これから製作する例では、3.58MHzを考えているので多少心配があります。 但し2MHzを過ぎたら一気にゲインが低下するLPFのような周波数特性とも思えませんので十分期待できると思っています。等価回路を見ても意図的に周波数特性を落としている様子はありません。 但しIFアンプ最終段の差動増幅器がfTの低いラテラルPNPトランジスタによる構成なのでその周波数特性が現れそうです。 少々ゲインが低下する可能性はありますが、もし不足しても補うのは容易です。
追記:IFアンプの周波数特性は考えているだけではわからないので応急にテスト回路を作ってみました。その結果、簡易な測定ですが2MHzあたりから徐々にゲイン低下し、3.58MHzでは-6dBくらいになりました。さらに6MHzでは-10dBくらいになりました。概ね予想通りの結果ですが、-6dBなら補助のIFアンプは必要ないでしょう。
TCA440の内蔵局発回路はコレクタ同調形式のベース帰還型自励発振器です。 HAM用の短波受信機としては周波数安定度の不足が予想されるため局発は外部から与える方がより良いでしょう。 水晶発振も可能な回路ですから第2局発固定型のダブルスーパにも向いています。
【TCA440・RF部の解析】
RFアンプのAGC回路は面白い構成になっていたので詳しく検討してみました。 ミキサー回路はMC1496Pと同じようなギルバートセル型DBMになっています。 また、局発信号を平衡型で加えているなどあまり見ない回路形式なので興味を引かれました。
いちばんの検討目的はミキサー出力に設けるIFTの設計にあります。 使用する予定のCWフィルタは入出力インピーダンスがかなり低いため、旨くマッチングトランスを製作しないと信号ロスがたいへん大きくなってしまいます。
コイルの設計ではそのあたりの検討を十分行なったつもりです。 資料によればミキサーの負荷インピーダンスは7kΩあたりを想定しているようです。 同調回路からタップを引き出すとかフィルタ側のインピーダンスと旨くマッチングする巻き数比を検討しました。
【CWフィルタとマッチングコイル】
このところBlogでは10Kボビンにコイル巻きばかりしている印象があります。(笑) 写真は3.58MHzのCWフィルタとそのマッチング用IFTです。 フィルタのマッチング用のほかIFアンプの出力部に使うIFTも一緒に巻きました。 下に敷いてある455kHzの回路例のように既存のコイルが使えるとTCA440の活用も簡便なのですが、そんな都合の良いコイルはありません。
RF回路にコイルは付き物ですからやむを得ないのですが、やはりコイルの製作は厄介です。 特に十分な評価手段がない状態で自作するのでは不安も多いでしょう。 「近ごろのHAMはコイルの一つも巻けないで云々」と言われますが、既製品のコイルが重宝されるのはやむを得ないことです。 この先の製作でも既成のコイルが旨く使えるなら良いのですがそうそう都合よくは行かないようでした。
結局、必要なインピーダンス・マッチングができロスも少なくなるようなIFTを作る必要に迫られ自ら巻くことになってしまいました。 使うのは少し先になりますが旨く使えれば良いのだが・・・と案じているところです。 10Kコイルは3.58MHzあたりで使うと性能が悪いのもちょっと気になりました。 まあ何とかなる範囲でしょう。
☆ ☆ ☆
年月が過ぎ去るのは早いものです。 振り返って見たらTCA440を入手したのは2004年でした。さっそく使い方を検討したのもその頃でした。あれから10年以上も過ぎ去ってしまったのですね。 いろいろ構想もあって様々に寄り道を重ねるうちのあっという間の12年でした。(まったく笑えない)
この12年間の変化と言えばDSPラジオの台頭があげられるでしょう。 お陰で家庭用ラジオの製作はかなり容易になりました。しかしHAM用受信機に活用できないのでは興味の対象にはなりません。 その一方で従来型のアナログなラジオICは品種の淘汰が一段と進んだようです。 ただし海外通販の発達や中華系ショップの登場でセカンドソースの入手性が向上したのは幸いでした。
結局のところラジオ用ICを活用してHAM用受信機を作るための部品環境に大きな変化はなかったように思います。 TCA440の陳腐化は幾らか進んだかもしれませんが、12年前の状況と大きな違いはないのです。
ラジオ用ICではありませんが安価なDDSモジュールの登場は特筆すべきでしょう。この先の受信機製作でもVFO部はDDSの採用が前提です。 もうLC発振器やVXO回路で受信機の局発を作る時代ではないのです。それらの手段では周波数安定度も読み取り精度も近代的な要求を満たすのは容易でありません。 AC電源で使うのが前提なら消費電流が多いDDSの採用もあまり問題ではありませんから。
TCA440を活用する機会に恵まれなかったのは様々に検討を行なうと結局ワンチップICで可能なことには限界があると感じるからでした。 集積度の高い専用ICには自由度がないのです。 ただ、それは多分に性能の高望みであって上手にICを料理すれば最高級とまでは言えないまでも、十分美味しいモノが作れるはずです。 コンパクトで流石にICを使った製作だと感じられるでしょう。 CWフィルタの評価を第1目的と考え、それなりの受信機が可能ならTCA440は適材適所ではないだろうか? そう思いつつコイル巻きをしていたのでした。 またまた予告編のようになってしまいましたが、次回は幾らか進捗するでしょう。ではまた。 de JA9TTT/1
(つづく)←受信機の試作編にリンクします。nm