【TA2003Pで作る短波ラジオ】
しばらくラジオじゃない電子回路が続きましたが、久しぶりにRadioがテーマです。
このBlogにはトランジスタを主役に使って短波ラジオを製作するページがあります。 トランジスタでスーパー形式の短波ラジオは珍らしいらしく、思ったよりも興味を持って頂けたようです。 ご覧のお方もぼちぼち続いていて最近は海外からのお客さんもあるみたいです。
短波ラジオはトランジスタで作れるのはもちろんですが、ラジオ用のICを使ったらもっとたやすく製作できるのでしょうか? そうした興味から試みたのがこのBlogです。 ラジオ用ICには既にお馴染み(?)になったTA2003Pを使いました。 これはいま現在でも簡単に手に入ります。
参考:TA2003Pの代替品について、詳しくはトランジスタ技術誌2014年8月号の拙記事をご覧ください。あるいはCQ出版社のラジオ作りでは定番の書籍(←リンク)にも情報があります。 TA2003Pは東芝製がオリジナルですが、UTC製のTA2003のほか、型番は違いますがSamsung製のS1A2297も同等品です。最近になってCD2003GBという中国製WUXIブランドのチップが流通しています。カタログ比較では同等に使えるようです。(2023.06.07追記)
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世の中は完全にデジタル時代になっています。 もし手っ取り早く短波放送を聴くのが目的でラジオに取り組むのでしたら専用のSDR-ICチップを使った製作キットがお薦めです。ラジオの仕組みを勉強するのには適当では無いのですが容易に高性能な物が作れます。
ここでは従来型の・・・要するにアナログ式で短波ラジオを作ります。 アナログとは言っても進歩した新世代のラジオ用ICを使います。 もちろん性能が確実なスーパー・ヘテロダイン方式です。 部品が少ないうえ調整箇所もわずかなので製作は容易なのですが性能もあなどれません。 もちろん製作者によって出来ぐあいも異なります。それでも、ぜんぶトランジスタで作るよりも高性能化しやすいと感じました。(写真:ラジオ全景)
工夫次第でHAM局用の通信機にすることもできますが、やはりラジオ用のICチップなので短波ラジオの範囲で製作するのが良さそうです。 そのあたりも含めて話を進めてみたいと思います。 そろそろ夏休みでお暇なのでしたらICを使った短波ラジオの世界で遊んでみてはいかがでしょうか?
【TA2003P短波ラジオ回路図】
ラジオ用のIC:TA2003Pを使った短波ラジオです。 TA2003Pについては過去のBlog(←リンク)に説明があります。 ICの中身を詳しく知りたいのでしたらそちらに戻ればわかります。
この短波ラジオでは受信周波数範囲といった基本的な設計は,トランジスタで作った短波ラジオ(←リンク)と同じにしました。 従って受信できる周波数は同じく3.4〜10.2MHzの範囲です。ただし変更も可能です。 アマチュア無線用のHAMバンド専用機ではなくてBCLも楽しめる「普通の短波ラジオ」の設計です。 フェライト・バーアンテナは使っていませんからワイヤーアンテナなど短波用のアンテナを外付けして受信することになります。 選択度は簡易なセラミック・フィルタで得ています。 調整が必要なIFT(中間周波トランス)は一つも使っていないので中間周波増幅の部分は完全無調整です。 もちろんスーパー・ヘテロダイン形式ですから受信範囲を決める局部発振器(Local OSC)と入力同調回路のトラッキング調整だけは必須です。受信感度に直結しますから、ここだけはきちんと調整する必要があります。
BFO(唸周波発振器:Beat Frequency Oscillator)は短波のラジオには不可欠なように思っています。 もちろんHAMバンドの交信を聞くには必須です。 BFOがなければ、無線電信(CW)や単側波帯通信(SSB:Single Side Band)を復調できません。 もっぱら国際放送のようなAM放送波だけを受信対象にするのでしたら不要ですが、ここでは設計に含めておくことにしました。 必要を感じないのでしたらその部分を作らなければ良いわけです。
受信信号の強さを測るためにSメータ回路を付けました。簡易型なのでできるだけ高感度なメーターが適します。理想を言えば100μAフルスケール(FS)くらいのメーターが良いです。250μA FSのラジケータでもまずまず使えます。 振れ具合はR6:4.7kΩで加減できます。 簡易なものですが受信信号の強さがかなり良くわかります。 またSメータは放送局に正しく同調をとるときにも役立ちます。 短波帯の電波は電離層の反射を使って遠方まで伝搬します。 電離層の状態は時々刻々変化していますからSメータを見ていると短波の性質がビジュアルに伝わってきます。 メーター指針の動きに短波らしさが感じられますね。
ラジオの主要な機能はTA2003P一つで実現できます。 出力として音声周波数の信号が得られます。 そこにクリスタル・イヤフォンを繋げば放送をただちに音として聞くことができます。 しかしスピーカを鳴らすには非力ですからさらに増幅が必要です。 そのための増幅器がLM386です。 ここではセカンドソース品(開発メーカー以外が作った同等品)のNJM386BD(新日本無線:NJRC製)を使いました。もちろんオリジナルのLM386N、LM386N-1またはLM386N-3(ナショセミ・TI製)でも大丈夫です。 これで十分にスピーカを鳴らすことができます。
電源電圧は+5Vで設計しました。 TA2003Pは3Vくらいでも十分に働きます。 しかし低周波増幅のLM386は少なくとも5Vほど必要です。 乾電池4本直列で約6Vを供給しても良いでしょう。 但し最大でも+7Vまでにします。 7Vを超えるとTA2003Pが壊れる恐れがあります。 もし12Vの電源で使いたいのでしたら、μA7805などの3端子レギュレータを使って5Vまで落とします。(μA7806で6Vに落とすのも良いです)
ラジオの主要な機能はTA2003PとLM386の2つのICだけで実現できます。 ただしBFO回路(ビート発振器)は通信機的な機能のため普通のラジオ用ICには内蔵されていません。 従ってトランジスタを使って外付けすることになります。 この例ではごく簡単な1石の発振回路にしました。ハートレー型のLC発振器です。
トランジスタは東芝の2SC1815で設計しましたが、ごく一般的な小信号用トランジスタ(NPN型)なら大抵なんでも使えます。 たとえば2SC183、2SC372、2SC458、2SC536、2SC538、2SC710、2SC828、2SC838、2SC945、2SC2458、2N2222、2N3904、BC548など使えるものは幾らでもあります。 2SC1815と形状や足の並び方が異なるものもあるので良く確認してから使ってください。 このBFO発振回路に使うコイルについては後ほど説明があります。
TA2003Pで構成した高周波部分です。 TA2003Pは外付け部品の少ないラジオ用ICです。 主要な部品は、ICのほかにアンテナ・コイル、局発コイル、バリコン、そして中間周波フィルタ(セラミック・フィルタ)です。 あとは数個のコンデンサのみです。
これだけの部品だけで感度の高い短波ラジオが作れるのですから、さすがにラジオ専用のICです。 十分な増幅度が得られるほか、自動利得調整(AGC:Automatic Gain Control)もよく効きます。
使い方のコツは、周囲をGND回路で囲むようにし、TA2003PのGNDピン(2番と9番ピン)を最短距離でGNDに接続します。 また電源ピン(6番ピン)とGND 回路の間には最短距離でバイパス・コンデンサを接続します。 基本的に高周波回路ですから、配線はなるべく短くすると動作が安定します。
ICを使った回路は、多くの機能が一箇所に集中することになります。 そのためコンパクトに作れる反面、IC周辺への部品配置が難しくなってしまいます。 写真のようにアンテナコイルと局発コイルはICの左右に別れて配置してあります。 2連バリコンで連携して同調されますから、2つのコイルはできれば近くに置きたいところですがICのピン配置を考えると写真のようになりました。
もちろんブレッドボードではなく、ユニバーサル基板に作ったり、新たに基板設計するのでしたら最適な答えは変わってきます。 ICのピン配置と周辺部品の接続状況をよく見ながら部品の配置を決めます。
【TA2003P短波ラジオのコイル製作図】
ほとんどの部品は市販品が容易に手に入りますけれど、2つあるコイルだけは売っていません。 製作に必要な材料を手に入れて自分で巻きます。 以前のBlog記事、トランジスタで作った短波ラジオ(←リンク)と同じようなコイルを巻きます。 巻き数は少し違いますが、作り方はまったく同じです。 コイルの材料になる、ボビン(巻き枠)や巻き線など製作の実際は以前の記事を参照してください。
受信周波数範囲は同じですから、各コイルはほとんど類似の仕様になります。 以前の短波ラジオのBlogの時に製作してあればそのまま試すことも可能です。 ただし、本式にはアンテナコイルをTA2003Pに最適化すべきです。 また局発コイルもリンク側(4番ピンと6番ピンの間)の巻き数は7.5回巻きよりもやや多め(8〜10回巻き)にすべきです。
コイルと組み合わせで使うバリコンの話です。
参考・1:aitendoで「443AB型バリコン」が復活しています。 価格は以前と比べて2倍の200円になっていますが、手に入るのはありがたいです。 短波ラジオの製作を計画中でしたら購入しておくのも良いかもしれません。(価格などは2019年4月初旬の調査) なお、ポリバリコン:443ABについて、詳しくはBlog内のリンクを参照してください。
参考・2:窮余の策として真空管用の最大容量が430pFのエアー型2連バリコンも使えるのですが、コイルの再設計を要します。 以下の数字を参照のうえ、同様に製作してください。
真空管回路用としてごく一般的なエアーバリコンは12〜430pFの可変範囲を持ちます。
(1)ANTコイルT1:4.66μH・・・(同調側)
(2)ストレー容量を含んだトリマ・コンデンサC4の容量:40pF
(3)OSCコイルT2:4.07μH・・・(同調側)
(4)ストレー容量を含んだトリマ・コンデンサC3の容量:43pF
(5)パッディング・コンデンサC2は:2984pF(2700pFまたは3000pFで良い)
・・・となります。
なお、小型ホームラジオ用と称した最大容量が300pFの2連エアーバリコンも見かけます。それを使うには上記の図表に示した設計のまま製作して大丈夫です。 エアーバリコンはポリバリコンよりもいくぶん周波数安定度が良くなるので手持ちがあれば活用されてください。
所定のインダクタンスとなるよう、各コイルを巻き、最大容量が30〜50pFくらいのトリマコンデンサと組み合わせて構成します。エアーバリコンは巨大なので配線のストレー容量が大きくなりがちです。ストレー容量を増やさぬよう部品配置をよく考え、最短配線に心がけます。
【TA2003P短波ラジオ:低周波部】
LM386N / NJM386BDを使った低周波増幅回路です。 ゲイン(増幅度)は約100倍です。 最大出力は8Ωのスピーカを繋いだとき約150mWです。
こうしたラジオは回路全体として見たとき、非常にハイゲインです。 少なく見積もっても10万倍(100dB)以上のゲインがあって部品配置や配線状態が不適切なら簡単に発振が起こります。 その対策の一つとしてLM386の部分に電源経由で信号の回り込みが起こりにくいようデカップリング回路(減結合回路)を設けています。 R9(10Ω)とC17(470μF)がそれです。効果が不十分ならC17の容量をもっと増やしてみます。
短波ラジオですからHi-Fiな設計にはしていませんが、国際放送の聴取やHAMの交信を傍受するには十分な音質です。 音の良し悪しはスピーカで決まる部分が大きいので、良い音で聴きたいのでしたらアンプをいじるよりも、大きくて効率の良いスピーカに変えると効果的です。ちっぽけなスピーカではアンプで幾ら頑張っても貧相な音になるのは当然でしょう。
【TA2003P短波ラジオ:BFO部】
無線電信:CWやSSB通信を復調するためのBFO回路です。 発振周波数は455kHz付近です。 正確な発振周波数は選択度を決める帯域フィルタの特性との兼ね合いで決めるべきです。
ここで使った帯域フィルタ:CF1(村田製作所:CFU-455H)は通信機用とは違います。 いささか特性が甘いため、BFOはかなり大雑把な発振周波数で支障はありません。 周波数カウンタがあれば455kHz ±2kHzくらいに合わせておけば良いでしょう。 本格的なBFOは発振周波数が可変できるようにします。 しかし、ここでは簡易版ですからその必要を感じません。 製作後にいちどBFOコイルのコアを回して周波数合わせをしておけば十分そうでした。 (参考:選択度が甘いのでダイレクト・コンバージョン受信機のような受信法になるわけです)
BFOコイルはトランジスタ・ラジオ用として市販されているIFT(中間周波トランス)を流用します。 たいていのIFTは3個組になっていて、調整コアの色は「黄・白・黒」でしょう。 ここでは何色でも使えますが、もし単品で購入できるなら白色か黄色にします。
ここで使った7mm角のIFTと同じものでない限り発振強度の再調整が必要です。 発振強度調整はBFOコイルの4番ピンと6番ピン(GND)間にオシロスコープをつなぎ、発振波形を見ながら行ないます。 具体的にはR4:3.9kΩを加減します。 発振が起こらないときは小さくし、波形が綺麗なサインウエーブ(正弦波)にならない時は大きくします。 ON/OFFしてみて確実な発振が起こる範囲で、小さめの発振状態が良いと思います。
もう一つ、BFOの調整ではTA2003Pへの注入量の加減が必須です。 あまり強く注入してしまうと、BFO信号によってTA2003Pに強いAGC(自動利得調整)が働き受信感度が抑圧されてしまいます。 CWやSSBの受信に支障がない範囲で小さな注入量にとどめるべきです。 その調整はコンデンサ・C9:3pFで行ないます。 発振に使用するBFOコイルによって発振の強さに違いがあるほか、回路の配置によってもコンデンサ・C9 の最適値は異なってきます。 場合によっては容量をゼロにしても大きすぎることさえあります。 そのような場合はBFO回路を独立させてシールドで覆うなどの対策を要するでしょう。
しかしあまり難しく考えず、受信状態を聞きながら加減すれば十分だと思います。 注入状態いかんですが、BFOをONするとSメーターがある程度振れるのは普通です。 振り切れるようでは注入量過大ですが、Sメーターが振れるのはやむを得ないと思ってください。 このあたりがラジオ用のICで簡易に作った短波ラジオの限界と言えます。 HAM局用には物足りない部分と言えるでしょう。 それでもCWやSSBの交信は聞こえますから楽しいものです。BFOがなければまったくダメなんですから・・・。
昔々の通信型受信機:9R4J、9R42Jや9R59(Dナシ)はBFOをONするとゲインが抑圧されてしまうため、AGCの働きを止めると言った受信方法でした。それが普通だったのです。 このラジオのほうがまだマシと言えるかもしれませんね。
#ここで使ったBFOコイル用のIFT(白)を差し上げます。必要ならメールください。
【TA2003P短波ラジオ:IFフィルタ部】
この試作では選択度を決めるフィルタとしてセラミック・フィルタを使いました。 村田製作所のCFU-455Hという古い形式のものです。 同じものは入手困難と思われますが、代替品なら何とかなるでしょう。 もし違う型番の手持ちがあるなら使ってみる価値は十分あります。 455kHz前後のセラミック・フィルタなら使えるものはたくさんあります。 型番にあまりとらわれずある物で試してみましょう。450kHzのセラフィルも使えます。
使ってみてからわかったのですが、このフィルタ一つだけでは不満がありました。 可能なら2個を重ねて使うべきです。 そうすると選択度も向上しますが、それ以上に通過帯域外の減衰特性が改善されるので「おかしな混信」から逃れることができます。
あまりにも本格的なIFフィルタは簡易な短波ラジオには馴染みませんが、逆に簡易すぎると不満が起こります。CFU-455Hクラスのフィルタならぜひとも2つ使いたいところです。
【使用したIFフィルタの特性】
CFU-455Hはこのグラフのいちばん内側のカーブのような特性になっています。 -6dBの通過帯域幅はおおよそ6kHzですから短波放送の受信にはちょうど良い選択度です。
しかし、問題なのは両脇の裾野の部分です。 赤く囲った部分では通過帯域からみてわずかに35dBくらいしか減衰しません。35dB以上の強度差がある信号は短波帯にはざらに存在します。 したがってその盛り上がった部分に強い局の方が掛かれば当然のように混信が発生します。(ラジオ放送の受信で起こりやすい)
2段に重ねれば通過帯域外は70dBくらいの減衰量になりますから混信はほとんどわからなくなります。 CFU-455は内部素子数の少ない簡易なフィルタ(4エレくらいでしょうか?)なのでやむを得ません。やはり2つ使うべきだと思いました。 同じセラミックフィルタでも通信機用のもっと高級なものなら一つでも大丈夫です。 別のラジオの例ですがこのフィルタを2つ重ねて使ったところ、おおよそ9R59なみの選択度になりました。 本格的な通信機用IFTを3つ使った受信機に近い選択度が得られます。ラジオとしては十分すぎるほどでした。CFU-455クラスの簡易セラフィルは2つ使うのがベストです。
【TA2003Pを使った短波ラジオの調整】
この短波ラジオが十分な性能を発揮するためには調整がとても大切です。 ラジオとしての基本的な動作が確認できたら調整を始めましょう。 省部品にできたICですから調整箇所は限られています。 スーパーヘテロダイン式ラジオに付きものの中間周波トランスの調整はありません。 従ってトラッキング調整のみ行なえば終了です。 短波の1バンドだけのラジオですからごく簡単です。もちろんテストオシレータなどの調整用機器は必要です。中波のラジオと違って放送局を使った調整は現実的ではありません。何とかして調整用機材を準備してください。
トラッキング調整の概要は以下の通りです。 まず、(1)局発回路(Local Oscillator)を調整します。 それによって受信範囲を決めます。 続いて、(2)局発回路で決まる受信周波数と入力の同調回路(アンテナコイル)がうまく連動するように調整します。
以上ですべてですが、具体的な作業手順はトランジスタを使った短波ラジオ(←リンク)のところに順を追った説明があります。 ここでは省略しますのでそちらを参照してください。 受信範囲も同じですからほとんど同じ手順で調整を進めることができるでしょう。
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