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2019年8月30日金曜日

【回路】Regenerative Receivers (5)

再生式受信機・その5 スーパ・ヘテロダインとの融合

SSBが受信できる性能
 再生式受信機の第5回です。 再生式受信機については過去にも散発的な実験を行なってきました。 なるほどCWやAMの受信には十分な可能性(実用性?)がありそうです。 しかしSSBの受信となるとあまり芳しい感触は得られませんでした。 ちゃんと「聞こえる」とは言えないように感じたのです。かろうじて可能かなあ・・というレベル。

 ところが巷ではSSBも結構イケるとの話もあり、これは是非とも確認しなくては・・・と思ったことも再生式受信機を改めて取り上げた切っ掛けでもあります。

参考:写真はSSBの「イメージ画像」であって、本文の内容とは関係ありません。 これはSSB送信機に2トーン信号を加えて変調を掛けた状態で撮影したものです。 もしシングルトーンで変調するとこのようにはならず、CWと同じ幅が一定の「帯状の波形」にしかなりません。初めてSSB送信機を作ったときシングルトーンを加え、DSB状態の波形をみて勘違いしやすいのがこの波形のようです。

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結局は周波数安定度が鍵
 いくつか実験してきてかなりわかってきました。 SSBの受信(復調)で一番のポイントは周波数安定度です。 何を今さらバカなと言われそうですが。 CWなら周波数変動は復調音の音調変動でしかありません。極端でなければかなり許容できます。 しかしSSBでは変動が大きいと音質どころかマトモな音声にすらなりません。SSBではせいぜい20〜30Hzの変動に抑えないとお話になりません。 CWでの実用性とは雲泥の差です。当たり前のことを認識した訳ですが方向もそれなりに見えてきました。

 再生式受信機の周波数変動に関しては2つのものがあります。一つは普通の意味としての周波数ドリフトです。これは一般的な発振器と同じ対策をとれば効果は自ずと現れます。 もう一つは周波数の引き込み(Pull-in)で、こちらの方はかなり厄介です。強い信号に周波数が引き込まれる現象はどんな発振器にも多かれ少なかれ存在するからです。

 (1)Qを高める: それらの改善策もだんだん見えてきました。 対策の一つは再生検波回路の共振器(同調回路)のQを高めることです。 できるだけQの高いコイルを巻き良いバリコンと組み合わせると効果があります。 例えばプロ用受信機:RAL(←第2回参照)のような行き方です。実現はなかなか大変ですが効果的です。これは周波数変動のどちらにも効果があります。
 また、水晶発振子ほどではありませんがセラミック発振子のQは普通のLC共振回路と比べたら数倍〜数10倍くらい高いのです。そのため引き込みに強いのでしょう。セラミック発振子を使った再生検波回路が好成績なのはそのQ(無負荷Q:Qu)の高さにあるはずです。

(2)周波数を下げる:さらに受信周波数が低いことも有利に働きます。低い周波数の発振器は絶対値としての周波数変動量が小さいのは当たり前でしょう。再生検波回路においても同様です。 引き込まれかたも周波数が低い分だけ小さくなります。 従って、周波数変換を行なって低い周波数になってから再生検波すればそれだけでずいぶん有利になります。

                 ー・・・ー

 このところ続けて再生検波式の受信機を扱っています。 第4回(←リンク)ではセラミック発振子を使った再生検波回路を試みました。 思った以上に良好な成績が得られたので本製作の有力候補です。 ただし手に入ったセラミック発振子の周波数で受信周波数の範囲が決められてしまうという弱点があります。 クリコン式ならその弱点はないのでテストしておきたいと思います。

 前置きがだいぶ長くなってしまいましたが、多分に自身の興味だけで進めていますので一般性のない話ばかりです。手持ちを使うので部品の入手性も考慮されていません。当然ですがお薦めするような話でもないことを予めお断りしておきます。  しかし、お暇でもあればこの先もどうぞ。いつものようにコメントも歓迎です。

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クリコン+再生検波の可能性
 既に再生検波式受信機にセラミック発振子を利用すると効果的なことは確認しました。 今回はもう一つの方向である、受信信号を周波数変換して低い周波数で再生検波する形式を検討してみたいと思います。例えば7MHzでそのまま再生検波するのではなく、いったん周波数変換して1.5MHzのような低い周波数で検波する方法です。

 こうした形式があることは昔から知ってはいましたが、ヘテロダインするくらいなら完全なスーパー受信機にした方が合理的ではないかと思っていました。 しかし再生検波式受信機の性能を改善する手段として考えるのであれば意味も違ってきます。 さっそく試したいと思います。それにはまず周波数変換回路を作らねばなりません。

  今回は真空管式も併せて試します。 周波数変換部分は次項で見るような三極五極管(球は6U8)を使う方法もありますが、ここでは専用の変周管であるペンタグリッド・コンバータ管を試すことにしました。なるべく簡潔な回路が目標です。

 左の写真はペンタグリッド(5つのグリッドを持った)コンバータ管の一例です。 右端の12BE6は家庭用の5球スーパでお馴染みです。左の2つはカーラジオ用に作られた特殊な球でヒータだけでなくプレート電圧の方も12.6Vで動作します。 12AD6は12BE6に類似でAM〜短波帯で使うものでしょう。 実例を目にしたことはありませんが12FX8AはたぶんFMラジオを意識したものです。RFアンプ用の三極管が複合されています。

 さっそく「ペンタグリッド管は等価雑音抵抗が高くノイジーだから・・・云々」という有難いご教示を頂きそうです。hi その通りなのですが、いま考えている7MHz帯はノイズフロアが高いのでコンバータノイズが問題になることはありません。 ここは回路の簡単化のために使ってみます。 そうでもしないと実験用に買い込んでおいたカーラジオの球が登場する機会は中々やって来ませんから。 なんだか変な球を使うのが目的のようになってしまいました。(笑)

 【JA1FGのクリコン+再生検波RX
 1960年ころでしょうか、米ARRLのアマハンにビギナー向けのシンプルな受信機(RX)が掲載されていたことがあります。 1.7MHzのシングル・クリスタル・フィルタにコンバータを組み合わせた2バンド受信機で、"SimpleX Super"という愛称でした。整流管を含めてもわずか4球(複合管が主体ですが)の入門用受信機です。周波数構成を工夫することで局発を共用してうまく2バンドカバーするよう考えられていました。

 それを受けJA1FG梶井OM(故人)がJA局向きとして推奨されたのが図の受信機です。これも原型はアマハンにあるようですがクリコンに再生検波を組み合わせた回路構成です。シンプルさを維持しつつ十分なゲインが得られるよう考えられています。 OMはアマハンのようなクリスタル・フィルタ付きスーパではゲイン不足だとお考えになったのでしょう。同じ球数なら高ゲインが期待できるクリコン+再生検波式が有利とのご判断だったのでしょう。
 クリスタル・コンバータですから周波数安定度は良好です。 また再生検波回路も1.5MHzあたりの中波帯近くの低い周波数ですから安定度はかなり有利です。 この回路が推奨された当時はCWとAMの時代です。シンプルでありながら実用性十分な受信機が実現できたと思います。

 時代から考えてSSBを意識したものではなかったはずです。しかし周波数安定度は当時の高1中2受信機より優れる可能性もあります。 その後普及したSSBの受信でも意外な実用性があったかも知れません。 しかし基本は再生検波式受信機ですから選択度はいま一つです。シングルシグナルにもなりません。このあたりはバンドが混んでくると大きな欠点になったでしょう。早晩廃れたのもやむを得ません。 ただ昨今のようにHAM局が減少傾向でバンドも拡張されるなら実用性は改善される方向かも知れませんね。

 このまま作るつもりはないのでこれ以上の追求はしませんがシンプルで実用的な受信機の実現手段として一考してみる価値はありそうです。

 【シンプルなクリコン・球で作る
 クリコン+再生検波形式の受信機の実現のため、まずはクリコン(クリスタル・コンバータの略)の検討から始めます。

 いくつかの回路を検討しました。後ほど半導体でも試みますが、まずはカーラジオ用の球で試してみます。 こうした球で難しいのは低いB電圧(プレート電源の電圧)にあります。 高抵抗が直列に入って大きく電圧降下するような回路形式は正常な動作が期待できません。自ずと動作させやすい回路は決まってしまう感じでした。

  コンバータ管には12AD6を使います。規格表の動作例はカソードタップ式ハートレー型の発振器を意図したものです。 LC発振ができるなら水晶発振だって可能なはずですが具体的な回路例は見たことがありません。 そこで幾つか検討したところ変形ピアース型あるいはグリット・プレート型の水晶発振回路が良さそうでした。

 まずはカソードを直接あるいは低抵抗でGNDできる変形ピアース型が有利と見て図のようにしてみました。 12AD6の発振部はgmがあまり高くないのですが図の部品定数でうまく発振してくれます。図の発振周波数は5.12MHzですが他の周波数でもOKでした。
  発振の強さが適切になるようにC5:68pFを加減します。12AD6の活きの良さにもよるので、0pF〜220pFの範囲で変えてみます。こうしたごく低電圧で使う球はバラツキが大きいようです。 テスト例では68pFあたりが適当そうでした。 また、プレート負荷抵抗:R4(100kΩ)は個々の球によって変更を要します。 プレート電圧を実際に測定し、7〜9Vあたりになるよう加減します。 球によってはR4=47kΩくらいにする必要があるでしょう。 変換コンダクタンス:gcが小さいため高性能とは言い難いのですがまずまず使えるコンバータ回路が作れます。

 バッファ・アンプの2SK19Yはテストの都合で便宜的に付加したものです。 このコンバータの後ろに再生検波回路を置くなら2SK19Yの部分は不要です。 C7を数pFにして直結すれば良いでしょう。  変換ゲインを考えると12AD6の負荷インピーダンスはなるべく高くする必要があります。 そうなるとコンバータ回路だけでテストするのは難しくなります。2SK19Yの部分はインピーダンスを下げテストを容易にする目的で付加したものです。 2SK19Yは2SK192AYあるいはBF256BなどのFETで代替できます。

 【12AD6を使ったクリコン
 水晶発振回路が発振しなくてはコンバータは機能しません。まずは確実な発振が目標になります。  変形ピアース回路は昔から発振させ易かった印象があります。 その印象の通りたった12.6Vの電源電圧でも簡単に発振してくれました。

 発振振幅も十分でスクリーングリッド(G2+G4)とGND間のコンデンサは68pFが適当でした。 このCを大きくすると発振は弱くなります。逆に小さくすると強くなり、ゼロにした状態が最大になります。 様子から見てグリッド・プレート型回路でも発振できそうでしたが変形ピアース型で旨く行ったので追試しませんでした。

 プレート負荷抵抗を100kΩとかなり高く選んでいますが、それでも変換ゲインは低めです。おそらく数倍か下手をするとマイナスゲインでしょう。 プレートに出力周波数に同調するLC回路を入れるとゲインアップします。 しかし再生検波回路との干渉を嫌って抵抗負荷で行くことにしました。受信機回路の一部分であって独立したクリコンではないからです。

 今回はなるべく少ないデバイス数で簡単な回路構成を目標にしています。 もし性能優先で独立した付加装置としてクリコンを作るのなら12AD6の前にRFアンプを置くべきでしょう。 さらに12AD6の負荷を同調回路形式とし、二次側のリンクコイルから受信機へ導くと言った回路形式にすべきです。
 ここではそれが目的ではないのでコンバータ部のみ試しました。 意外に少ない部品で作れるものです。 ただしゲインが低いのと真空管なので消費電流が大きいのは如何ともしがたいです。 まあ使えない訳ではありませんからこの結果を活かして真空管を主体にした再生式受信機も構想の一つに入れておきたい・・・と思いつつテストを終了しました。

参考:12AD6と12BE6のピン接続は同じです。交換して試したのですが残念ながら使えませんでした。12BE6にとって12.6Vのプレート電圧はあまりにも低すぎるのでしょう。 なお、12AD6の代用として12EG6が同じように使えそうでした。12FX8Aの7極管部も使えます。(12AD6などはAntique Electronic Supplyで購入。ただしかなり前です)

雑談:6BE6のような7極管は「Heptode:ヘプトード」とはあまり言わないようです。「Penta-Grid Converter:ペンタグリッド・コンバータ」と呼ばれることが多いのです。「ペンタ」は5つを意味しますから「5グリッド変周管」ですね。しかしなぜグリッドの数で言うのでしょうか。一つの習慣なんでしょうね。

                 ☆  ☆  ☆

 【FETを使ったクリコンの検討
 続いて半導体式のクリコンを検討します。 左図はFET(電界効果トランジスタ)を積極的に使ったクリコンの回路例です。(過去のBlogで既出)
 真面目に設計すると図のような回路になるでしょう。 余分な機能が付いている訳ではなく、各部品はクリコンとして必要なものばかりです。冗長な設計という訳ではありません。

 もし省略できるとすれば入力の同調回路を1段にする、HF帯の低い方で使うならRFアンプは取ってしまう・・・と言ったくらいでしょうか。 それでも半導体は2石必要ですしコイルもまだかなり多いのです。

 そもそも再生式受信機はシンプルなのですから、性能が破綻しない程度にできるだけ簡略なクリコン回路が望ましいと思うのですが・・・ 少し工夫してみたいと思います。

 【米誌・英誌にも紹介された回路
  うっすらとですが、Dual-Gate MOS-FET(2ゲートMOS-FET)で作った1石クリコンが記憶にあったのです。 CQ Hamradio誌の記事だったはずですが、ずいぶん前に処分してしまったので情報は得られませんでした。

 たまたま別件でサーチしていたら左図の回路が目にとまりました。 読んでみるとオリジナルはJAのCQ誌のようで、それにWのHAMが目をつけ、さらに回り巡って英誌に紹介されたようです。地球を一周した回路ですね。

 だんだん思い出してきたのですが、記憶ではJA1AYO丹羽OMの記事にあった回路でしょう。 クリコンの簡略化を意図されたのだと思いますが、Dual-Gate MOS-FET 1石でうまくまとめられています。 この回路なら十分な性能が得られそうです。 ただ、コイルが三つも必要で巻くのは厄介そう。 手堅い設計ですからクリコンとしてはFBな設計ですが、ちょっと面倒臭く感じてしまいました。 コイルは嫌いじゃないんですが私だって少なく済めばそれに越したことはないのです。hi

参考:JA1AYO丹羽OMの1石コンバータ回路の研究は、CQ Hamradio誌1990年3月号pp400〜404に掲載です。(後日調査により判明:AYO_No.11参照)

 【シンプルなクリコン・石で行く
 そこで再生検波回路に前置する前提で思い切り簡略化したクリコンを考えてみました。 同じくDual-Gate MOS-FETを使う設計です。 レトロですが3SK35GRを使います。 もちろん他のDuai-Gate MOS-FETでも行けるでしょう。試すなら3SK35は廃番ですから他のDual-Gate MOS-FET(←参考リンク)を探してください。

 水晶発振はコルピッツ発振器と等価の回路になっています。コイルの要らない無調整型水晶発振器の一種です。 周波数変換すべき7MHz帯の入力信号は第2ゲートの方に加えます。 第1ゲートに比べ、第2ゲートに信号を加える方法は少し性能が(ゲインが)落ちます。 しかし過去の実験では致命的な差があるとも思えませんでした。特に信号の強い7MHz帯なら大丈夫でしょう。

 水晶発振回路は無調整型ですからコイルは不要です。その代わり発振波形が悪くならないように発振レベルを調整します。ソースの波形を観察して綺麗な発振状態にセットしました。頻繁な調整は不要ですからVR1の部分は固定抵抗に置き換えられます。 また、周波数変換出力の方(=ドレイン側)も次段が再生検波回路ですから抵抗負荷で済ませました。これは検波回路との干渉を防ぐ意味もあります。 もちろん同調回路を省くと5.12MHz-1.88MHz=3.24MHzのイメージ成分が現れますが必要な信号の7MHz〜やIF信号となる1.88MHz〜とは離れているので支障になりません。

 周波数関係さえ悪くなければ、このようにコイルを減らして簡略化したクリコンでも十分行けそうです。 結果として、どうしても必要なコイルは一つだけになりました。 入力部のコイルは感度に影響するので省けません。 FCZ-10S7のような既製品(同等品可)でも役立つので買って済ませることもできます。 ただし図のようにトロイダルコアに自分で巻く方が優れます。

 先の真空管式と同様に2SK19Yのバッファはクリコン回路の単独テスト用です。次段が再生検波回路ならC7を数pF(1〜5pF程度)の小容量に選んで直結すればOKです。2SK19Yのバッファアンプは不必要です。なお、3SK35GRのドレインとGND間に入っているC11(47pF)は水晶発振に関係するので(なくても発振するかもしれませんが)省いてしまうのは適当でありません。

3SK35GRを使ったクリコン
 まずは水晶発振が上手くできるのかテストを始めました。 これはまったく問題なくて、あとはうまく周波数変換できるのか確かめればOKです。

 入力の同調回路を省くとさすがに低感度で旨くありません。しかし周波数変換の動作は確認できました。 そこで7MHzの同調回路を追加してやったら感度的にもFBになりました。 ゲインもまずまず取れるので12AD6のクリコンより遥かに良さそうです。 3SK35のようなデュアルゲートMOS-FETはgmが高いため変換コンダクタンス:gcもかなり大きいのでしょう。 簡単かつ十分な性能ということで、3SK35GRを使ったクリコンは有望な候補です。

参考:バイポーラ・トランジスタ(要するにFETではなくて普通のトランジスタ)を使った1石コンバータ回路もテストしています。なかなか旨く動作しますが、水晶発振の漏れは大きめでした。防ぐには入力の同調回路を2段にする必要があります。 ここでテストしたDual-Gate MOS-FETの回路は発振回路部分と信号入力端子が分離しているためアンテナ側への発振の漏洩はごくわずかです。

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 第5回ではクリコン+再生検波式受信機の検討を始めてみました。 再生式受信機というよりもスーパ・ヘテロダイン式受信機の一種と捉えるべきなのかもしれません。 しかし周波数変換部分をごく簡単にまとめられたので高周波増幅付き再生式受信機とさして違わぬ回路規模にできそうです。 再生検波式の受信機はせっかく回路が簡単なのですから、付加する回路もできるだけシンプルにしたいものです。 接続される前後の回路を考えてやり、無くても済みそうな部分を省くと言った工夫をすればずいぶんシンプルになります。

 一方で、再生式受信機ならスーパ受信機に付き物の「スーパ・ノイズ」や「スプリアス受信」から逃れられるものを「逆戻り」ではないかという意見もあるでしょう。 確かにその一面はあります。 ただし目的の受信周波数帯(7MHz帯)はかなりノイジーなので「スーパ・ノイズ」は感じられませんでした。 特にMOS-FETを使った1石コンバータ回路のノイズ・フィギャ(NF)は目的に対して十分なのでしょう。 スプリアスは確かにありますが目的を7.0〜7.2MHzの受信に限れば問題は感じられませんでした。 詳しくは続きで改めて。

 次回は再生検波回路ほかの部分を付加して受信機のかたちにまとめるつもりです。 再生式受信機が仕上がる前に夏休みシーズンも終わってしまいましたね。 秋の夜長にじっくりワッチできるような受信機が作れたら良いのですが。 ではまた。 de JA9TTT/1

つづく)←リンクnm

2019年8月15日木曜日

【部品】Chinese Transistors

中国製トランジスタの話
 【アキバ名物10円トランジスタ
 秋葉原で手に入る安価なトランジスタの一つに中国製のS9018H(←リンク)があってこれは暫く前に紹介しています。 高周波用としてなかなか優秀なのですでに活用していますが、今回はそれとは違う汎用トランジスタの話です。

 言うまでもないかと思いますが「汎用トランジスタ」と言うのは特定の用途を定めず様々な目的に使える、ある意味で「万能なトランジスタ」のことです。世間で最もたくさん使われている『たいへんポピュラーなトランジスタ』と言えるでしょう。

 半世紀も前の話で恐縮ですが、写真は1967年ころのCQ Hamradio誌(’67年8月号)の特集記事です。 面白い記事ではありますが、今となっては内容そのものはほとんど意味を持たないでしょう。 ジャンクなお買い得トランジスタが秋葉原で売られていて、それらを実際に使ってみたら・・・と言う話です。詳しい中身はやめておきます。何しろ大昔の話ですから。hi ただ、このBlogを書くにあたって、記事が登場したころ興味深く読んだことが思い出されたのでした。

 1960年代といえば、まだまだ真空管も全盛期でした。しかしトランジスタ・ラジオは輸出の花形でしたからトランジスタ自体も珍しい存在ではなくなっていました。 ただし子供の小遣いで気軽に買えるほど安くもなかったのです。(CQ誌が180円で買えた時代)
 それに真空管と違って「使い方が悪いとイッパツでお釈迦になる!」と脅されているとあっては気軽に使える部品ではありませんでした。 だから正規に買えば100円から1,000円もするトランジスタが、わずか10円で買えるならその素性に興味津々だったのです。記事の話をもとに秋葉原を探査したのを思い出します。結局、筆者と同じような美味しい石には遭遇できませんでしたけれど・・・。

                   ☆

 つまらない昔話から始めてしまいましたが、いまでは10円トランジスタなど珍しくもありません。少しまとめて買えば単価10円以下のトランジスタなどゴロゴロしています。 つくづく電子工作を楽しむには有難い時代だと思ってしまいます。 再生式受信機の話も半ばですが、少々夏休みを頂いて「中国製のセカンドソース・トランジスタ」の雑談にしましょう。前回のBlogでちょっとだけ触れた話題です。ヒマつぶしにでもご覧ください。

 【中国製のセカンドソース・トランジスタ
 もうしばらく国産品も十分手に入ると思うのであえて中国製のセカンドソースに手を出す必要はないのかもしれません。 しかし、写真のようなリード線付きトランジスタの国産品は次々に生産終了しています。 なお、「セカンドソース」とは簡単に言ってしまうと他社製の完全な「互換品」のことです。

 写真は左からC1815GR、A1015GR、2N3904、2N3906です。どれも中国製のセカンドソース(互換品)です。2N3904と2N3906はあまり馴染みがないかもしれませんが、米国ではたいへんポピュラーなトランジスタで、日本に於ける2SC1815や2SA1015のような存在です。米QST誌など見ていると良く目にします。

 足つき部品はブレッドボードでの試作だけでなく、ちょっとした回路の手作りには未だなくてはならない存在でしょう。 いつまでホンモノが流通するのかわからない状況になってきたので、中国製のセカンドソースを評価しておくことにしました。 たまたま目にした中華通販で、ものすごく安く売られているのを目にしたからでもあります。hi

ポイントはどれくらい「オリジナル(=ホンモノ)」に近いのか?という一点のみです。 以下「2S」を除いた型番で書いてあるものは中国製セカンドソースの意味です。

◎結論を言ってしまうと:
(1)左のC1815GRとA1015GRは東芝製のオリジナル品によく似ており、ほぼ同等といえます。 2SC1815GRや2SA1015GRで設計された既存の回路にそのまま使ってもなんら支障はなく、得られる特性も違いはないでしょう。  バラツキの少なさではホンモノ以上に優秀でした。

(2)右の2つ、2N3904と2N3906は足ピンの並びこそ左のC1815GRやA1015GRとは違いますが、電気的な特性は非常に良く似ています。 むしろオリジナル(=米国製のホンモノ)の2N3904や2N3906よりも2SC1815や2SA1015に類似しています。 この点はQST誌など米国の雑誌記事の回路を中国製のセカンドソースで代用すると再現性が問題になるかもしれません。少し注意が必要でしょう。 しかし、汎用のNPNやPNPトランジスタとしては優秀ですから幅広く活用できるはずです。

参考:(C1815GRと2N3904の類似性)
 例えば高周波特性に影響のあるトランジション周波数:fTを実際に測定して比較してみました。コレクタ電流:Ic=1mAに於いてC1815GRはfT=113 MHz、2N3904の方は112MHzです。fTのピークはC1815GRが220MHz、2N3904も220MHzで、いずれもIc=15mAのときです。 またPNPトランジスタのA1015GRと2N3906もたいへん良く似た特性でした。 このようなことから、それぞれ同じシリコンのチップを使い足ピンの接続だけを変えたまったく同一特性のトランジスタのように思えます。

入手先:(中国製1円トランジスタの入手は?)
2019年の夏現在、これらのトランジスタは、いずれも100個単位で1ドル以下で手に入ります。購入先はAliexpressで送料無料のショップもあります。 Aliexpressへ入ったら「2SC1815GR」で検索してみます。 円換算で言えばいずれも単価は1円以下なので、これはもう昔のアキバ名物を超えてます。

トランジスタを山ほど使った製作がフトコロ具合を気にせず楽しめます。w

トラ技Jr誌・No.38で
 このC1815GRとA1015GRについて詳しく調べた結果を「トラ技Jr誌:No.38:2019年夏号」に掲載して頂くことができました。  評価が可能な電気的特性について、それぞれオリジナルとの比較で表やグラフで示してあります。 もし詳しい比較結果にご興味があればご覧いただけたら嬉しいです。

 トラ技Jr誌は「トランジスタ技術」誌とは別の小冊子です。おもに電気・電子系の学生さん先生がたを対象に工業高校や大学工学部などへ配布されているとのこと。 以前はトラ技誌の付録だった記憶もあるのですが現在はそうではありません。普通の書店に並ばないのは残念ですがCQ出版社のTech Villageで電子版および印刷版が入手できるそうです。なんだか雑誌のPRのようになっちゃいましたね。hi

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 再生式受信機の試作でも中国製のセカンドソースを試しています。 個性が現われやすい再生検波回路でもホンモノとの違いは感じられませんでした。 なかなか良くできているセカンドソースという印象です。 非常に安価なので、初めは「怪しい部品」を疑ったのですが杞憂にすぎなかったようです。 プロフェッショナルな視点で見たら長期的な寿命など未知数の部分もありますが、少なくとも我々が実験や製作を楽しむのでしたら心配なく使えます。性能も申し分なくバラツキも少ないため再現性の良い製作が期待できます。

 中国製の電子部品というだけで何となく怪しさを感じてしまいそうです。 事実、ネット通販ではニセモノをつかまされたという話もよく聞きます。 しかし、中国製の半導体が本質的に怪しい訳ではないでしょう。もしそうだとすれば巷に溢れている中国製電子機器が軒並み怪しことになります。現実には十分な実用性を持った製品が殆どです。

 ではなぜニセモノに騙されるのでしょうか? 恐らく、探してもどこにも残っていないような「いにしえのデバイス」をたとえ「高額を支払ってでも手に入れたい!」と思う人がいるからでしょう。 形状が似たヤスモノの型番を書き換えて高額で売りつけられれば業者はウハウハです。 素人にはどうせわかりっこないと思えばご希望の品をこしらえてホンモノのように送ってくるわけです。あとはクレームがこなければ丸儲けでしょうね。 私もチャレンジすることがあります。面倒ですが到着次第ただちに真贋を確認し、もしダメならクレームを入れて返金させています。(笑)

 紹介したC1815GRとA1015GRは型番を偽装したものではなく、初めから代替を目的に製造したセカンドソース品でしょう。まともなセカンドソースであるためにはオリジナルと違わぬ性能が要求されます。 うまくそれが実現されたトランジスタだと思いました。 中国製の評価は国産品の終息に備えるという意味もありますが、安くて良いものなら今から使っても損はないはずです。 de JA9TTT/1

(おわり)fm

2019年8月1日木曜日

【回路】Regenerative Receivers (4)

再生式受信機・その4 セラロック®︎式の試作
It's a SONY】(?)
 このテーマも4回目です。そろそろまとめることにしましょう。
 写真は年代モノのSONY製トランジスタを使って作った再生式受信機です。 もっとたくさん使ってやれば良かったのですが、とりあえずSONYは2石だけです。(笑)

 セラミック発振子を使った再生式受信回路になっていて、昔ながらの言い方だと;1-T-2となります。 このブレッドボード上だけで回路のすべてが含まれます。 後ほどムービーがありますが、こんな簡単な回路構成でもなかなか良く聞こえます。

 この例では、6〜9Vの電源で問題なく動作します。 消費電流もわずかなので乾電池を電源にしても不経済ではないでしょう。

 基本的な動作を確認するためにブレッドボードに作りました。 実用品に仕上げるにはハンダ付けで製作するのが良いでしょう。このミニマムな回路構成のままでも楽しめそうでした。 そもそも遊びなので変なトランジスタを使いましたが代替部品はいくらでもあります。 手に入りやすいトランジスタを使った回路も載せておきました。そちらなら部品集めも容易ですから追試に支障はないでしょう。 古いSONY製トランジスタに無理にこだわらないで下さいね。 こんな機会にでも使ってやらないと2度と使うこともないと思うので使ったまでです。けして性能優先の選択ではありません。(笑)

                   ☆

 再生式受信機を楽しむ第4回です。 第3回(←リンク)でテストしたセラミック発振子(共振子・振動子)の具体的な活用をまとめた自家用メモです。 いずれにしても現代的な受信機(トランシーバ)と比べたら低性能で欠点もあります。 以下はシンプルさに楽しさを求める遊びなので高級志向のお方には馴染みません。これ念のため。 

年代モノのTrで作る再生式受信機
 SONY製の古いトランジスタを使ったのは偶然からです。  再生検波の検討は2SC1815Yや2SC372Yと言った汎用トランジスタで始めました。

 雑多なトランジスタで試す過程で、たまたま取り出したのが「2T76」でした。2T76はゲルマニウムのNPN型トランジスタです。本来の用途は中間周波増幅用(455kHz用)なので短波の7MHzなどお呼びじゃないでしょう。しかしダメだろうと思いながら試したらなかなか良かったのです。肝心の再生のスムースさも良好でした。
 古いトランジスタはバラツキが大きいので偶然かもしれません。 そこでジャンク箱をかき回して幾つか見つけて交換したらどれも使えたので偶然ではないようでした。 2T76は後にJISに準拠した型番の2SC76としてEIAJに登録されるゲルマニウム・トランジスタです。 トランジスタの型番が2SC***形式に統一されるのは1960年4月です。それ以前のものなのでしょう。

# もちろんバイアス抵抗値を少しだけ加減すれば他のトランジスタでも同じように試せます。古い石でチョット遊んでみただけです。持っていなければ古いモノにこだわる必要はまったくありません。

                ー・・・ー

 感度のアップと再生検波器の発振モレ対策として高周波増幅を設けました。 その趣旨から言うと帰還容量の小さな2SK241Yや2SK544Eが最適です。それらはゲインの点でも有利です。 そのため本来ならそちらを使うべきですが、懐かしいRFデバイスの2SK19Yにしました。 2SK19や2SK192Aを使うならソースフォロワ形式にする方法もあります。
  アンテナ入力部には同調回路を設けましたが、出力側は抵抗負荷の非同調式です。抵抗負荷式なのは増幅度をそれほど必要としないのと、検波回路への干渉を減らすためです。 検波回路との結合は2pFという小容量で行なっています。 これを大きくし過ぎると受信周波数の可変範囲が狭くなります。 大きくてもせいぜい5pFくらいが適当でしょう。

 再生検波回路はNPN-Trの2T76を使ったコルピッツ型です。 ベースに与えるバイアス電流によってゲインを制御して再生状態から発振状態までをコントロールします。 セラミック発振子を使った回路形式になっていますが、この再生検波回路の詳しくについては前回のBlog(←リンク)を参照して下さい。

 検波回路の後は同じく2T76を使った低周波プリアンプが続きます。2T76は低周波用ではありませんが低周波の小信号増幅なら支障なく使えます。 ここはNPN型の小信号用トランジスタのほとんどが使えるでしょう。 なお、古いものにはノイズが増加した劣化品もあるのでダメなときは近代的なトランジスタ(例:2SC1815など)を使います。

 この回路図では低周波パワー・アンプはLM386N(セカンドソースのNJM386BDを使用)を使っています。 回路そのものはオーソドックスなので説明の必要もないくらいです。 なお、実験の途中でUTC製の低電圧用パワー・アンプ:LM4880Lを試したので後ほどその試用レポートがあります。 ムービーもそちらを撮影しました。

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 以上、簡単な回路説明でした。 不明なところがあればコメントでもどうぞ。 各部の様子については写真付きで説明して行きます。

高周波増幅部
 アンテナから来た信号は簡単なアッテネータを通ったあと高周波増幅されます。 あとから思ったのですが、この部分にもSONY製を使ったら良かったですね。 2SK19Yの代わりに2SK125が少しの工夫で使えます。 特に高性能化する訳でもないので回路的なメリットはありませんけれど。

  古い型番のFET(電界効果トランジスタ)ということで2SK19Yを使いました。この回路形式の場合、2SK241Yや2SK544Eの方が有利です。 そのまま交換すると数dBの感度アップがはかれます。 もともとそれらのトランジスタを使うのが前提の設計だから当然なのですが。hi

 第2回(←リンク)のVK3YEの回路を思い出すかも知れません。 彼の回路では大胆にも入力の同調回路を省いていました。 それでも動作しない訳ではないのですが性能は犠牲になっています。 やはり受信機の入力部にはきちんとした同調回路を設けた方が有利です。 同調コイルは小型のトロイダルコアで自作しましたが、巻くのが面倒なら7MHz用のFCZコイル(同等品も可)が使えます。 不要信号の除去だけでなく感度アップにもなるので同調回路付きがお勧めです。

 アンテナ入力部に簡易な可変型アッテネータ・・・単なるボリウムですが・・・を入れてあります。簡略版ですがこれでも効果的でした。 本格的にやるなら可変リンク式がベストですが工作は面倒そうです。w

セラロック®︎を使って再生検波部
 セラミック発振子を同調回路の代わりに使った再生検波回路です。 受信可能な周波数範囲はセラミック発振子をVXO回路のように使った時の周波数可変範囲と一致します。
 ここでは規格の周波数が7160kHzのセラミック発振子を使いました。(村田製作所製:入手方法は前回のBlogを参照) 受信周波数範囲は6980kHzから7090kHzくらいになっています。 CW局(無線電信局)の受信をメインにするなら適当な周波数範囲です。

 写真のように再生検波回路のトランジスタ(Q2)は2T76です。ここは同じSONYの2T73(=2SC73)があればより確実です。 2T76のα遮断周波数:fαbは10MHzですが2T73なら20MHzと2倍あるのです。 もちろん近代的なシリコンのNPN型トランジスタならもっと高性能なものがたくさんあります。具体的な代替方法などは前回のBlogにも書いてあります。

低周波プリアンプ部
 自己バイアス回路を使ったシンプルな低周波プリアンプです。このバイアス回路は部品が少なく簡単なので採用しました。ただし個々のトランジスタの直流電流増幅率:hFEがバラつくと動作点が変動します。

 コレクタとGND間の電圧を測って2Vから4VになっていればそのままでOKです。それを外れるときは抵抗器:R6・・・回路図では100kΩ・・・を加減します。 コレクタ電圧が低過ぎるときはR6を大きくし、高過ぎるときは低くします。 大きくするときは例えば220kΩとか330kΩのように大胆に変えないと効果が現れません。 あまり厳密ではないので受信してみて歪みを感じなければそのままでも良いかも知れません。

 汎用のNPNトランジスタに置き換えることができます。 バイアス抵抗:R6を加減してやればほとんどのNPN型トランジスタが使えるでしょう。 2SC1815、2SC945、2SC458、2SC372、etcなど候補はたくさんあります。

低周波パワー・アンプ・1
 低周波パワー・アンプは2種類を試しています。 こちらはオーソドックスなLM386N(NJM386BD)を使ったタイプです。

 Hi-Fi用ではありませんので、増幅する周波数帯域を絞った方が有利です。 入力部分にRCによる簡単なローパス・フィルタが入れてあります。

# 珍しいICではないので詳細は省きます。

低周波パワー・アンプ・2
 手軽な低周波のパワー・アンプと言えば、一般的にはLM386Nなのでしょう。 しかしここで実験した、より低い電圧に向いているLM4880Lもなかなか良好でした。

 LM386Nよりクセが少ない感じで意外に扱いやすいように思います。 ただし推奨電源電圧は5.5Vで最大でも6Vまでなので電圧の掛けすぎには注意が必要です。 乾電池3本の4.5V程度で使うのに最適そうでした。 なお、ここではメーカーのアプリケーション・ノートには載っていないような使い方をしています。以下に回路図があります。

LM4880Lを使った低周波パワー・アンプ
 LM4880Lは低周波パワーアンプ用のICです。 250mW程度のパワーが得られるアンプが2回路内蔵されています。 一般的にはステレオ・ヘッドフォン・アンプなどに使うものでしょう。 標準的な使い方なら少ない外付け部品で済みます。 外付けのコンデンサも小さめの容量で済むよう考えられています。従ってコンパクトに回路が組めます。

 LM4880Lはもっぱら反転増幅用(インバーティング・アンプ用)に作られています。 またメーカーのアプリケーション・ノートではゲインが1倍の反転アンプがほとんどです。 これはLM4880Lの入力信号は十分大きいという前提なのでしょう。デジタル・オーディオ機器を作るならあまり増幅する必要はないという想定と思います。 全負帰還のマイナス1倍ゲインでも安定なことが保証されています。発振し難いはずなので扱いやすそうです。

 データシートのゲイン・位相特性を見るとゲインを持ったアンプを作っても大丈夫なことがわかります。 ここではアンプの片方を単なる電圧ゲインを稼ぐアンプとして使っています。残ったもう一方をスピーカを鳴らすためのパワーアンプとして使いました。 2段構成のアンプとなり、トータルの(電圧)ゲインは約45倍(≒33dB)です。同時に高音域を減衰させ聴感上のノイズを減らすようにしました。これはなかなか効果的でした。

 ノイズに敏感なヘッドフォンあるいはイヤフォン用を意識しているらしく静かなアンプです。 クロスオーバー歪みも特に感じないので良い感じの音がします。 結果が良かったので低電圧用の定番パワーアンプにしようと思っています。 入手先は秋月電子通商で単価は税込60円でした。 オリジナルメーカはナショセミ社(現・TI社)です。秋月電子通商では台湾メーカのUTC製が手に入ります。

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600Ωのヘッドフォン
 実はヘッドフォンで聴くのはあまり好きではないため、スピーカーを鳴らす設計を標準にしています。 しかし、ヘッドフォンにも捨てがたいものがあります。 かなり高感度なので低周波アンプのゲインが少なくても済むのです。 その結果、低周波アンプが発振すると言った不測のトラブルが減らせます。

 ヘッドフォンが高感度なのは経験的に知っていましたが、ではどの程度の感度を持っているのか試したことはありませんでした。 より具体的には、十分に鳴らすためにどれくらいのパワーアンプが必要なのだろうか・・・と言う疑問です。 そこで、手持ちにあった通信機向きの600Ωヘッドフォンについて感度を調べてみました。

写真は実際に調べたもので、左から:
  • (1)米軍用無線機の標準装備品でモノラル型。エレクトロ・ボイス(EV)製
  • (2)ヤマハのHP-50A型モノラル・ヘッドフォン。後で調べたら300Ωらしいですが600Ωの用途で使われていました。
  • (3)たぶん自衛隊用のJHS-33型。モノラルで耳当て部分は皮素材のようです。だいぶ古いですが遮音性もあり感触も良好です。マグネチック型でしょうか。
これら3つについて、インピーダンスが600Ωの発振器とアッテネータ使って感度測定してみました。 測定周波数は800Hzでテスト信号は歪みが少なく綺麗な正弦波です。

周囲が騒がしくても聞こえるレベル
(1)-20dBm、 (2)-15dBm、 (3)-20dBm

静かな部屋なら問題なく聞こえるレベル
(1) -40dBm、 (2)-30dBm、 (3)-40dBm

耳を凝らして聞こえる限界のレベル
(1)-65dBm、 (2)-55dBm、 (3)-67dBm

・・・のようになりました。

 マイナスの数字が大きいほど高感度です。 0dBm=1mWです。600Ω系で測定しています。 ちなみに、-20dBmというのはわずかに0.01mW(77.5mVrms @600Ω)です。 -40dBmというのはさらにその1/100です。(電圧では1/10) このようにヘッドフォンは非常に高感度であることがわかりました。

 ヘッドフォン用のパワーアンプなら最大出力は数mWもあれば十分そうです。 少なくともシャックのような屋内環境ならそれくらいで足りるでしょう。 (1)のヘッドフォンを使う米軍用無線機の低周波出力は10mWです。 戦場でもそれくらいパワーがあれば騒音に打ち勝つだけの音量が得られるということなのかも知れません。 間違ってハイパワーなアンプで直接ドライブしたら耳が破壊されかねません。難聴には気をつけたいものです。

 なお、ラフなテストですから音の「検知器」はJA9TTT局の「耳」です。 少年のころならもっと高感度だったんでしょうね。(笑)

参考:600Ωのヘッドフォンはやや特殊かもしれません。しかし8Ω系のヘッドフォンも同じような感度を持っています。きちんとインピーダンス整合を行なえば同じような電力で十分でしょう。 ヘッドフォンを新たに購入するならお店で試着して比べるのがベストです。感度の違いは比較すればすぐにわかります。 一部にHi-Fiを意識して低感度な製品もあるので要注意です。 HAM用には大きめの音量でも歪み感がなく高感度なものが適していると思います。 経験上、無線機のオプションとして売られているヘッドフォンよりもHi-Fi用の製品に使い心地の良いものが見つかるようです。無線機で使ってもです。

ヘッドフォン用・低周波出力アンプ
 おまけとしてSONY製の古い低周波増幅用トランジスタでヘッドフォン用パワーアンプを試作してみました。このアンプに交換すればさらにもう一歩「It's a SONY」に近付きます。(笑)

 手元に600Ω:600Ωの低周波トランスがあったので使いました。これは山水のST-71などで代替できるでしょう。
 こうしたトランス結合形式のアンプはHi-Fiではありません。 周波数特性を調べてみると、1kHz以下はダラダラと下がって行く特性です。

 そこでこの受信機はCW(無線電信)の受信がメインと考え、800Hzくらいで共振するようにしてみました。 トランスの1次側巻線(トランジスタ側)の両端に入った1μFが共振用のコンデンサです。 このコンデンサはフィルム系のコンデンサを使います。 コンデンサの値はトランスのインダクタンスと関係します。 トランスに代替品を使うときにはコンデンサの容量を加減して600から800Hzあたりで共振させます。 トランスには巻線抵抗があるので急峻な共振特性にはなりませんが、それがかえって好都合です。 不自然さをあまり感じさせずに「フィルタ効果」を発揮してくれます。

 このアンプは600Ωの負荷に5mW程度のパワーを歪みなく出力できます。 上記のようなヘッドフォンの駆動には適当なパワーです。

ヘッドフォン用アンプの回路図
 回路図です。 2T64はSONY製の年代物トランジスタです。 のちの2SD64と同じNPN型のゲルマニウム・トランジスタですが、もはや2SD64でさえ入手困難でしょう。 しかしNPN型の小信号用トランジスタなら何でも大丈夫です。 2SC1815とかで代替すれば同等以上の性能が得られます。

 2SC1815のようなシリコン・トランジスタで代替する場合はバイアス抵抗:R2・・・現状では56kΩ・・・をもっと小さくします。 これはゲルマとシリコンのVBEの違いによるものです。 コレクタ電流が7.5mAくらい流れるように加減すればOKです。 電源電圧は9Vの設計ですが、6Vにすることもできます。 同じように7.5mAくらい流れるようにR2を加減すれば大丈夫です。 8Ω系のヘッドフォンには、アウトプット・トランスにST-32(一例)を使います。

 このアンプはあまり電圧ゲインがありません。 再生検波回路に直結したのでは受信機としてゲイン不足になります。 簡単なもので良いので40dB(100倍)くらいのゲインを持った低周波アンプを前置して使います。

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テストしたトランジスタたち
 おもに再生検波回路のテストに使用したトランジスタです。 すべてNPN型のトランジスタです。 2T76と2T73はゲルマニウム・トランジスタですが、他はすべてシリコン・トランジスタです。

 いちばん左のC1815GRと言うトランジスタは中国製で、日本製2SC1815GR(東芝)の互換品です。  中華通販で単価1円以下と非常に安価ですが性能も申し分ないので代替品として問題なく使えます。 2SC1923Y(東芝)は高周波用の小信号トランジスタです。良いトランジスタですが7MHzあたりの再生検波回路にはこれでなくても十分です。
 中央のBC548はモトローラ製の汎用NPNトランジスタです。 使ってみるとノイズの少ない良い石でした。Eu圏ではポピュラーなようです。なお、BC548のようなEu系の小信号トランジスタ(TO-92パッケージ)は足の並びが米国型と逆順なので要注意です。
 2T73は2T76の選別品らしくfTが高いものです。 右端はCCS6400と言う正体不明のNPNトランジスタです。fT=100MHzくらいのごく平凡なトランジスタですが、再生検波回路に使うとスムースな再生の調整ができてなかなかFBでした。

◎ スムースな再生とは、再生回路のVRを再生度が増す方向へ回して行くと:

(1)バックグラウンドのノイズがだんだん増えて行くのがわかる。
(2)再生度が増してゲインがアップするとともに弱い発振が始まるのが感じられる。
(3)滑らかに発振が大きくなって行きだんだん一定の状態になる。
・・・というような過程で加減がスムースにできるものを言います。

スムースではない再生だと、(1)の状態をあまり経ずにいきなり強い発振に移行してしまいます。よく観察していると「ポコ」っという感じでいきなり強めの発振が始まるので少し慣れるとすぐにわかります。 このあたりの感触は文章を読んでわかったようなつもりになってもダメで、実際に経験しないと会得できないもののようです。

 手持ちのトランジスタを差し替えてテストしてみるのも面白いものです。 再生検波回路に使うと増幅回路に使った時とは違った個性が発揮されて興味深かったです。

# 以下は参考までに汎用のシリコン・トランジスタで製作する回路例です。

汎用トランジスタで作る回路図
 基本的に最初の回路と同じです。 ただしシリコン・トランジスタは性能が良いのでいくらか高利得になります。 そのため電源系を通して低周波の発振を伴うことがありました。 対策にアクティブ形式のデカップリング回路を追加してみました。 Q4:2SC1815Yがその部分です。作り方次第なので無くても大丈夫かも知れません。 電源電圧は6〜9Vが適当です。

 高周波増幅には2SK544Eもしくは2SK241Yを使います。 再生検波回路を含めNPN型トランジスタはすべて2SC1815Yです。 要(かなめ)の再生検波回路は使うトランジスタによってかなり様子が変わるので、交換できるようにしておくと面白いです。 組み立てた後で調子の良いものを見つけると言った楽しみができます。

 再生式受信機は古臭い形式の受信機ですが、あえて年代物のトランジスタを使う必要はありません。 性能優先ならだんぜん近代的な半導体で作るべきです。 しかし懐かしい部品の手持ちがあるなら死蔵せずこの機会に使ってみるのも興味深いものです。

 回路はNPNトランジスタで設計しましたが、電源の極性を変更しコンデンサなど各部品の極性に気をつければPNP型トランジスタで作ることもできます。 実際に2SA58、2SA93、2SA70、2SA101と言ったPNP型ゲルマニウム・トランジスタでも試してみました。それぞれ個性があってそれなりに動作してくれます。 (低周波アンプには2SB54、2SB77、2SB111、2SB172など低周波用PNP型を使います)

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セラロック式再生式受信機】(ムービー)
このところ7MHzのコンディションが良くないので受信テストに手間取りました。夜間になるとDXは開けるようですが、国内局はスキップしてしまいます。 様子を見て国内が開けたタイミングでムービーを撮影しました。 試作品の構造上ダイヤルを回して周波数を上下すると言った操作は撮影しながらでは難しいため受信周波数は固定した状態です。 いずれきちんと製作する機会があればダイヤル操作の様子も含めて撮影したいと思っています。(:再生すると音が出ます)
前回Blogの確認項目はどうだったでしょうか? まず、再生検波回路としての動作はうまく行っていることがわかります。 感度は標準信号発生器:SSGで測定して+20dBμEMFくらいが限界でした。+30dBμEMFならまずまず聞こえます。これは16μVくらいが十分聞こえると言うことです。7MHzの逆Vアンテナでかなり良く受信できました。
 周波数安定度ですが短時間ならまったく問題になりません。周波数の引っ張りもあまり感ぜず、ムービーにありませんがSSB局もまずまず受信できます。甚だ強い局だとわずかに引っ張られますがRFアッテネータで簡単に逃れられました。 欠点はAGCがないことです。弱い局は当たり前のように弱く、逆に強い局はとても大きな音で聞こえます。ワッチ中はゲイン調整を頻繁に行なわねばなりません。 最後に、選択度と関連する「シングル・シグナル」については次項をご覧ください。

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シングル・シグナルについて
 左の図を見てもらえばなんとなくわかってもらえると期待しますが、すこし補足します。 

 重要な前提として再生検波回路は必ず弱い発振が始まる状態に調整しておきます。 強い発振状態に調整してしまうと図のような状態は再現できません。 再生度調整の可変抵抗器:VRを良く加減して必ず再生状態から弱い発振に移行した直後のところに調整しておきます。 CWを受信していて、ビート音が聞こえ始めた所にセットすればOKです。

 もう一つ、発振回路について補足が必要そうです。 発振回路は自然に発振を始めると思ってしまいますが、実際には発振の起動にはなんらかの「タネ」が必要です。 タネというとわかりにくいかも知れませんが、何かのきっかけや刺激のことです。 その電気的なタネが増幅回路で増大されて出力に現れます。出力から入力へ正帰還されることで発振が継続します。 しかし大元になるのはなんらかの「タネ」です。タネがなければ発振は始まりません。 具体的には電源投入時の電気的な刺激や熱雑音などがキッカケになっています。 再生式受信機では受信している外来の信号もその「タネ」の一つになり得ます。

 発振が起こるかどうか微妙な状態では、刺激の有無や加わり方の影響を受けます。 加わり方としては、例えば刺激の大きさや位相などが考えられます。 同じ大きさの刺激でもうまくタイミングが合っていない・・・具体的には位相が合わない・・・と有効な刺激とはならず発振が継続できないことがあるわけです。

 弱い発振状態において発振が継続できるのは外来信号の刺激が考えられますが、共振回路を含むため外来信号の条件がうまく合わないと発振が継続できないことがあるのでしょう。そのため、再生検波回路の・・・より具体的には、セラミック発振子部分の・・・共振周波数と入力信号の周波数関係が大切になります。 同調回路と入力信号の周波数関係が適切でないと発振が止まるのです。その結果シングル・シグナルのように振る舞うのでしょう。 残念ながら、真のシングル・シグナルではありませんから混信に対する効果はほとんど期待できないでしょう。 アンテナを繋いだ実際でも矛盾はなさそうでした。

# 色々な理解の仕方があると思います。 以上は「一つの考え方」としてご覧いただければ幸いです。 もちろん他の解釈を否定するものではありません。 このBlogは試作レポートが目的です。議論は目的ではないので悪しからず。(笑)

                   ☆

  セラミック発振子を積極的に使った再生式受信回路をテストしてみました。 感度、周波数安定度はだいたい合格点にあると思います。 選択度が良くないのは本質的な問題なので、他の再生式受信機と同じようなものです。 そのほか、強力な入力信号による引き込み(Pull-in)がほとんど感じられないのは明らかに優れている点です。 受信周波数範囲がセラミック発振子で決まってしまうと言った弱点もありますが全体的に見てFBな再生式受信機が実現できます。 現状の回路でもまずまずですが、さらに低周波増幅回路に帯域フィルタ(バンドパス・フィルタ)を補ってやれば実用性能はアップします。 ハンダ付けによる「本番」を製作するならそのあたりも考慮しておきましょう。

 セラミック発振子のお陰でかなり使えそうな受信機が実現できました。しかし良くできたスーパーヘテロダイン式に劣る部分はかなりあります。 (簡単な割には)高感度というカッコ付きの性能だと思ったら良いでしょう。 高性能受信機に慣らされている我々現代HAMが過剰な期待をしたら裏切られた気持ちになるかも知れません。 それでも週末の1日で完成できる規模の自作受信機として、なかなか楽しめる製作でした。

 以上、すこし長くなったので一旦まとめとしました。 次回は別形式の再生式受信機を検討したいと思っています。 ではまた。 de JA9TTT/1

つづく)←リンクnm