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2009年9月26日土曜日

【回路】AM Tuner

YAMAHA CT-Z1
 写真はYAMAHAのCT-Z1と言うFA/AMチューナの内部写真です。

 1978年頃のもので定価24,800円だったそうです。 近所のリサイクル店でワンコインでした。 内部を見ればわかるように、高級モデルではありませんがステレオコンポの体裁を一応は保っています。しかしメータは1つだけでスイッチも数少なく、素っ気ない作りはやはり廉価版そのものと言えるでしょう。(笑)

 それでもトランジスタ・ラジオに比べたらHi-Fiでしょうからラジオ代わりにでもしようと思い調整を始めました。 FM部がメインだと思いますが、AM Tuner部の方が気になってしまうのです。 NHKの「ラジオ深夜便」を良い音で聞いてみたいから。(そう言えばFMでもやっています・笑)

 FM/AMチューナは無線機ではありませんから過去に調整した記憶はありません。 まあ、この種のチューナーの回路は知れたもので、ラジオに毛の生えたくらいと思って良いでしょう。(Hi-Fiプーム晩年の非常に高級なモデルもありました) これは流石に廉価版です。FMフロントエンドに3連バリコンが使ってあるので、実用的なHi-Fiチューナとしては最低線でしょう。  そしてそのころのチューナではAMは冷遇されていてオマケ程度のものになっていました。 6石トランジスタ・ラジオ並だったものです。 高級機の中にはAMを見限り、思い切って省略したモデルさえもありました。

 ところが調整を始めたらどうも様子がおかしいことに気付きました。FM部は簡略型ながらもオーソドックスそのものですがAM部はいま一つピンと来ないのです。どうも単純なラジオチックな回路ではなさそうに見えました。

CT-Z1のAMチューナブロック
 見慣れないとわからないかもしれません。 AMのトランジスタ・ラジオのような回路構成だとばかり思っていたのですが、それにしては部品の並びが変なのです。 赤いコアは局発コイルでしょう。 また、このチューナはバーア・アンテナを省略したモデルなので、右上の黒いコアがアンテナ・コイルです。 アンテナ端子から辿ってみてそれとわかりました。

 ところが、トランジスタの並びを考えるとどうも変なのです。 AMラジオの一般形で言えば、まずコンバータがあり、続いて二段のIFアンプがあって、ダイオード検波と来るのが常識的な回路構成でしょう。
 もちろん、AM部をIC化したチューナも多いので、その場合はICのアプリケーションを見れば様子はわかります。 これはディスクリート構成なのに何か変なのです。 IFT+セラフィル(黄色いコア)はあるものの、他のIFTがぜんぜん見当たらないのです。 おまけにトランジスタの並び方も妙です。
参考:ごく普通の6石スーパーの回路図はこちらにあり。==>リンク

CT-1010のAM部回路図
 CT-Z1よりもやや後のモデルらしいのですが、ほぼ近い時代の回路図が見つかりました。 少々高級モデルらしいので、FM部やMPX部はずいぶん異なっていましたがAM部をみれば瓜二つのようです。(注:CT-Z1は廉価版なので1石の自励コンバータに簡略化されていますが・・・他は同じようです)

 回路を見てビックリです。これは目から鱗のAMチューナでした。 普通のトランジスタ・ラジオの常識を払拭する斬新さです。 見てのようにアンテナ同調回路のあとコレクタ側非同調のRFアンプがあり、その後にミキサーが続きます。 局発はセパレート式で工夫されたミキサー回路になっています。 そしてIFT+セラフィルを通るとゲインのなさそうな非同調のIFアンプがたったの1段あるだけなのです。 あとは倍電圧整流型のダイオード検波があってオシマイなのでした。(この回路、どこかで見たように思うのですが実際の製品を見たのは初めてでした)

 思うに、IFTを幾つも重ねて周波数特性を損ねたくなかったのでしょう。 その結果、中間にたった一つのフィルタ(IFT+セラフィル)を置くだけになったのでしょう。 AMはオマケとは言え一応はHi-Fi用としてトランジスタ・ラジオ以上のクオリティを求めたに違いありません。但し、専らS/Nの良いLocal局を受信することを想定しているのか感度は高くない設計になっています。
 その昔、Hi-Fiと言えば高1ラジオと言われた時代もありました。高周波1段+検波形式のラジオだったので、選択度が悪いから高音域まで良く再生しました。 それに通じる回路構成と言ったら考え過ぎでしょうか。 もちろんスーパ・ヘテロダインだしスカート特性の良いフィルタが付いているので混信対策も万全でしょう。 AGCを前三段に掛けるほどの凝りようなので強電界でも歪みにくい筈です。これはなかなか面白いチューナ部です。特殊な部品は使っていないのでこれを真似て自作するのも難しくありません。

【CT-Z1の周波数特性】(AM部)
 実際に聴いてみた感じはなかなか心地よくトランジスタ・ラジオとはひと味違うものを感じます。 だから、さぞかし良好な周波数特性かと思ったらこんなモノでした。(爆)

 確かに、普通のトランジスタ・ラジオの周波数特性と来たら平坦な部分はまったくありません。 それと比べれば、かなり頑張った結果でしょう。それでも-3dBの低端が120Hz、高端が2,420HzなのではHi-Fiソースとは言いにくいと思います。 低端は部品定数を見直せばもう少し延ばせそうです。しかし高端はIFフィルタの交換しか手はありません。

 AM放送局では7kHzあたりまでフラットな周波数特性で変調して送り出しているそうなので受信部でカットしてしまうのではまったく勿体ないことです。 しかし、夜間の聴取を考えるとIFの帯域幅はほどほどにしておかないと、混信のビートだらけでHi-Fiどころじゃなくなります。 結局、全国どこで使っても破綻しないように商品設計すればこのようになるのはやむを得なかったのでしょう。(逆に言えば拙宅のロケーションのような良好な受信状況では広帯域化ができます)

 なかなか優れていると感じた点もありました。それは受信周波数によって周波数特性が変化しないことです。 コイルのQが周波数によらず一定だとすれば、AMバンドの低端ではアンテナ同調回路の選択度がアップして更に高域が出なくなります。 アンテナコイルのQは低いようで受信帯のの低端でも高端でもあまり違いはありませんでした。 同調回路を極力なくして受信周波数によって音が変わるのを防いだ効果でしょう。そのかわりイメージ比は芳しくありませんでした。大きなアンテナを付けてDX受信するなど思いもよらないことでローカル放送専用なのでしょう。

 今どきAMラジオでもないかもしれません。 しかし深夜にじっくり聴かせる音楽特集が組まれるほど人気があるようです。NHKラジオ深夜便に限れば01:00からFMでも同プログラムが流れます。しかしAMラジオ好きとしてはAMのままHi-Fiで行きたいものです。だからAMチューナの方が気になってしまいます。(笑)

 このチューナ、経年変化でトランキングはズレているしFM-MPXのVCOも離調していました。30年の歳月を考えれば仕方ないでしょう。それでも、ざっとした調整だけでもずいぶん良くなりました。アナログな機器は経年変化が避けられません。きちんとした調整で蘇るものです。 さらに部品を見直してやりクオリティの高いものに交換すれば音質も多少はアップしそうです。 少し使って気になってきたら手を入れてみましょう。

参考:CT-Z1のAM用IFフィルタを交換しHi-Fi化する改造編のBlogはこちら。===>「AM Tuner その後

(おわり)

8 件のコメント:

  1. JR2ATU澤村です。
    AM2連FM3連ギア付きのバリコンは安いチューナーでは定番でしたね。手元にもいくつかありますが、AMセクションだけポリバリという珍しいのもあります。全エアのやつはきれいだとオークションでもそこそこの値が付いてますからこれだけでも既に元は取ったかと。(笑)
    >さらに部品を見直し
    オーディオマニア的に行けばやはりコンデンサの交換ですか。(笑)あまり音が良くないといわれている倍電圧検波を止めるとか(これはAGCにも利いてきますからダメですかね)、この後にラインアンプがあるならその辺りをいじるとか。
    >AGCを前三段に
    3段目は局発に掛かっているようですが信号レベルに局発レベルもあわせるということなのでしょうか。6BE6の単球コンバータにAGCがかかっているのは5球スーパーではよくありましたが。この辺りご教授下さい。

    現在自家用車無し、会社の車はライトバンでAMラジオしかついていないので、MP3プレイヤーにつなぐAMトランスミッターを自作して使っていますが、実験中ストレートラジオでモニターして結構音が良かったことを覚えています。バンド幅が取れれば変調方式に寄らず音は良いということでしょうね。

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  2. JR2ATU 澤村さん、こんにちは。

    早速のコメント有難うございます。
    > AMセクションだけポリバリという・・・
    バリコンを小型化する目的でラミネート・バリコンと言うのをアルプスが作っていたのを思い出します。

    > やはりコンデンサの交換ですか。
    そうなるでしょうね。 ラインアンプはFM兼用です。 しかもAMもFM-MPXのICを通る設計なのは恐れ入ります。コスト重視で工夫したのでしょうね。善し悪しは別にしてよく考えた回路のなっていると感心しました。(笑)

    > 信号レベルに局発レベルもあわせるということ・・
    想像ですが、多分2段ではAGCレンジが足りなかったのではないかと・・・。局発レベルを変えると変換ゲインも変わるのでそうしたのでしょう。中波だから良いものの、周波数変動するので局発にAGCは短波帯では旨くないですね。(笑)

    > バンド幅が取れれば変調方式に寄らず音は良い・・・
    変調歪みの問題もあるのでFMの方が幾分有利ですけれど再生周波数だけで言えば、AMでも広くはできますね。 以前トランスレス変調の送信機を作ったら100kHz以上でも難なく変調が掛りました。(聞こえませんけど) あとでLPFを入れて帯域制限しておきました。(笑)

    放送局の送信機は低周波→変調→すぐに復調→低周波という経路で、オーバーオールのNFBを掛けているので変調歪みも少なく、たいへん良い音で送信しています。AM放送がFMに遥かに劣ると感じるのは主に受信機側の原因です。

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  3. こんにちは。

    古いアナログチューナーはハードオフなどでワンコインでよく見かけますね。
    私も以前購入してフライホイールなどの部品取りにしました。

    AM放送受信部の回路、説明されないと理解できませんでした。^^;
    AMとはいえその後にまともなアンプやスピーカーがつながることを考えるとあまり酷い音は出せないと言うことなのでしょうね。

    最近のFM局は全国どこも同じような放送になってしまいほとんど聞かなくなりました。
    深夜、自宅や車ではAMラジオから流れる歌謡曲を聴いていることが多いです。
    AM放送の音はなんとなくノスタルジックを感じますね。^^

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  4. JE6LVE 高橋さん、こんにちは。

    コメント有難うございます。
    > ・・・などの部品取りにしました。
    部品取りでは、バリコンと糸掛けダイヤルのメカくらいしか利用できそうにありませんね。チューナの内部はスカスカですから・・・。 アンプとスピーカを組込めばラジオに変身しそうです。(爆)

    > 説明されないと理解できませんでした。^^;
    ラジオの常識を外れた回路になっていますからね。それだけ考えたと言うことなのでしょう。(笑)

    > ノスタルジックを感じますね。^^
    帯域幅が狭いのとS/Nが良くないのでそう感じるのでしょうね。 朝は聴きながら通勤しています。 番組で時間がわかるので・・。

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  5. JR2WZQ 河野です。
    昔のカーラジオの回路を見ると、高周波1段、変換、中周波1段の構成が一般的だったようですが、それと通じるところがあると思いました。カーラジオの音もそれなりに良い音だと思いますので、回路構成がポイントになっているかも知れないと思いました。
    それにしても、普通の6石スーパーとは似ても似つかぬ回路なので驚きました。こういうところに、2SC941とか2SC2000のようなAM高周波増幅用のトランジスタの出番があるのだろうな、と思いました。
    私もAM放送が好きで、毎晩ゲルマニウムラジオのセラミックイヤホンを耳に突っ込んで寝ています。ゲルマニウムラジオもけっこう良い音で鳴ります。音は小さいですけれど。

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  6. JR2WZQ 河野さん、こんばんは。

    コメント有難うございます。
    > 6石スーパーとは似ても似つかぬ回路・・・
    やはり、ポータブルで使うラジオとチューナのように据え置きで使う物の違いで設計が変わってくるのだろうと思います。チューナの方が感度(ゲイン)は低いようですね。

    > AM高周波増幅用のトランジスタの出番が・・・
    2SC1918が多用されていますが、同じ三菱製2SC710の後継のようなRF汎用品のようです。 たぶん、2SC1815GRでも同じようだろうと思います。何故かわかりませんがhFEの大きい石のようです。AM帯ですのでシリコンTrには低周波のような物ですね。小信号用ならどれでも使えるだろうと思います。

    > ゲルマニウムラジオもけっこう良い音で・・・
    強電界の場所ならゲルマラジオの出力を増幅して聞くのが一番Hi-Fiだと教わったことがあります。 クリスタル・イヤフォンは独特のクセがありますが、意外に良い音がしますね。 アンプ付きのラジオで使う場合、定電流型のドライブで使うのが良い音の秘訣です。具体的には数100kΩの抵抗を直列に入れてドライブします。セラミック・イヤフォンはCが大きいので数10kΩが良いでしょう・・・(笑)

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  7. 加藤さん,皆さん,こんばんは

    「青天の霹靂」回路ですね.LOへのAGCは驚きました.
    検波もSiの汎用小信号でというのも驚きです.

    クリスタル(セラミック)イヤホンもいいですが,100均のモノラルレシーバも割といい音します.
    #100均ヘッドホンの方は今一つか二つですけど(^^;
    工作教室ではセラミックイヤホン買うよりトランジスタでドライブしてでも100均イヤホンの方が経費が安いので(笑)

    うちのラジオ工作教室の回路(=NR4K),今の会社のエリアではNHKが強すぎて混変調気味ですので,対策を考えないといけません.
    #ループアンテナの巻数を減らせばいいか

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  8. JH5ESM 武藤さん、こんばんは。

    コメント有難うございます。
    > 検波もSiの汎用小信号でというのも・・・
    トランジスタのバイアスを兼ねた順方向電流が流してありますので、立ち上がり電圧の問題はないように出来ていますね。 むしろ、DAGC気味になるよう考えてあるようです。 CT-Z1は1石少ないので調べたらPNP-Trを使った自励コンバータになっていました。RFアンプは省略されていません。

    > 100均イヤホンの方が経費が安いので・・・
    100均のモノラルレシーバは試したことがありませんでした。今度買ってみましょう。 確かにゲルマ・ラジオじゃしかたないですが、電池ありなら1石足しても100均レシーバの方が経済的ですね。(笑)

    > NHKが強すぎて混変調気味です・・・
    拙宅ではNHK-1とNHK-2から約40kmですが、大きなアンテナを使うと相互に変調されているのがわかります。どちらもハイパワーですので・・・。アンテナで加減しないとだめですね。(笑)

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