シリコン・マイクとは何であろうか? これは半導体素子と同じように、シリコンの薄板(ウエファ)の上に微細加工で作ったマイクロフォンである。
市販されているものは、写真のような形状をしている。 小さな穴が音響を取り込む部分である。 内部にはシリコンで作ったマイクエレメントとその出力を増幅するアンプが集積されている。
マイクロフォンの形式としては「コンデンサ・マイク」である。コンデンサ・マイクは空気または真空を挟んだ2枚の薄板で構成されている。その電極板の間に直流電圧を与え電荷:Qを保持させておく。 音圧を与えると電極板の間隔が微小変化し、これはとりもなおさず電極間の静電容量:C(コンデンサの値)の変化を意味する。
電極間の電圧:Vは、V=Q/Cであるから、Qは一定であってCが変化すれば電圧Vも変化することになる。 その微小電圧変化:ΔVがまさしく音声信号そのものである。 原理はいたってシンプルだ。(極板間で構成されるコンデンサCには高抵抗Rを通して電圧Vを加えてあるため、瞬時的な電荷Qの移動はなく一定と考える。逆に考えれば極板コンデンサと高抵抗Rの値で電気的な低域カットオフ周波数fLが決まってくる)
【Knowles SP0103N】
これは、ノウルズ社のSP0103Nと言うシリコン・マイクロフォンの内部ブロック図である。
左のマイクエレメントがシリコンのMEMS技術で作られたシリコン・マイク本体である。 電源端子に与えられたDC電圧からチャージポンプ式に高い電圧を作りマイクの電極板間に加えている。高い電圧とは言っても約11Vらしい。
一般的なコンデンサマイクでは数10Vから100Vくらいの高い電圧を印加している。 シリコン・マイクがたったの11Vで済むのは対向する電極板の間隔がごく狭いからであろう。同時にアンプを直近に置くことでマイク出力が小さくても直ちに増幅すればS/Nの劣化を防げる。
アンプはC-MOSアナログICだそうだ。極小マイクエレメントの静電容量は小さいのでアンプの入力インピーダンスは高いものが求められる。従ってMOS-FETのゲートで受けているのではないだろうか。 マイクで拾った音声信号はアンプで増幅され大きくなっている。また出力インピーダンスも低くなっているので誘導ハム(Hum)にも強い。扱いの感触は従来のエレクトレット・マイクと同じで良さそうだ。
ずいぶん前からMEMS(メムス)技術(所謂マイクロマシン技術)を使うと、微小なマイクロフォンが作れるのではないかと思っていた。 これはシリコンの異方性エッチングと言う技術を使い非常に薄い膜(=ダイヤフラム)を作れるからだ。しかも半導体回路技術を使いアンプを含めた周辺回路も取り込むことができる。(現状は完全ワンチップ型ではなく、マイク部と増幅部は別個になった2チップ構成とのこと)
音波の波長に比べ極小なダイヤフラム(振動板)を作ることよって、振動板の共振を可聴域外に追いやることができるだろう。そうすればクセのない良い音のマイクロフォンが実現できる筈だと思っていた。 しかし半導体技術を使うのでは莫大な設備コストが掛かるからよほどの量産が出来なければ実現性は乏しいと思ったものである。
今になって登場したのは携帯電話に代表される移動体通信機器の過激なコストダウンと薄型化の要求による。今や電話機だけでなくパソコンほか何にでもマイクロフォンが内蔵されている。
従来のエレクトレット・マイクは構造上熱に弱いことから他の電子部品と一緒にハンダ付け(表面実装)出来なかった。 しかし後から別に付けていたのでは製造行程が増えてコストは不利になる。 また従来のエレクトレット・マイクを薄くするには限界があった。
そのような市場のニーズから一気に開発が進んだようだ。 もちろんモバイル機器は膨大な数量だから量産効果も十分期待でき価格も急落する。
さて、我々が気になるのはお値段と音質であろう。お値段の方はだいぶ安くなってる。例によって秋月電子通商で小売りしている。2個入りで300円と400円のものがある。(2010年4月現在)
初期不良が多いと聞くが、まあ2個のうち1個は使えるだろうと言う販売形態なのだろうか? 或は表面実装品を手付けで試している例も多いから過熱で劣化させているのかも知れない。
肝心の音質だが無線用には十分なようだ。いま市販されているものはHi-Fiには今一歩らしいが、実際に確かめるべきだろう。 NHK技研が試作した同種のシリコン・マイクはとても良いので将来はナマ録(?)の分野でも大いに期待出来るかも知れない。
# このあと使ってみるのでその実体を報告したいと思っている。
参考:シリコンマイクSP0103NについてCQ出版社発行の月刊紙「トランジスタ技術誌」2015年1月号の付録冊子:トラ技Jr誌18号pp30〜35に評価レポートが掲載されました。 なお、トラ技Jr誌を纏めたCD-ROM版(No.1〜No.22)(←リンク)が発売されています。 SP0103Pの評価レポートはCD-ROM内のPDF版No.18号pp28〜33に収録されています。 トラ技Jr(紙版)のバックナンバーが入手困難な場合はCD-ROM版をご覧下さい。(2016.05.12追記)
参考:シリコンマイクSP0103NについてCQ出版社発行の月刊紙「トランジスタ技術誌」2015年1月号の付録冊子:トラ技Jr誌18号pp30〜35に評価レポートが掲載されました。 なお、トラ技Jr誌を纏めたCD-ROM版(No.1〜No.22)(←リンク)が発売されています。 SP0103Pの評価レポートはCD-ROM内のPDF版No.18号pp28〜33に収録されています。 トラ技Jr(紙版)のバックナンバーが入手困難な場合はCD-ROM版をご覧下さい。(2016.05.12追記)
(おわり)