UJTとはその名の通り「単接合トランジスタ」あるいは「ダブル・ベース・ダイオード」とも呼ばれる半導体素子だ。1950年代半ばに米General Electric社によって研究開発された。
増幅用素子ではなくもっぱらパルス回路で使われる。 もともとはSCR(サイリスタ)の点弧パルス(トリガーパルス)の発生がおもだった用途であった。従って、今でもSCRを使った簡単な調光器回路などで見かける事がある。
また、数個のCRとUJT単独で「弛張発振器」(しちょうはっしんき)が構成できるので簡単な発振器に使う例も多い。 UJTの2つのベース:B1とB2の間にDC電圧を与えておくと、エミッタ:EとB1間の電圧電流特性に負性抵抗特性が見られるようになる。 その負性抵抗特性を使って弛張発振させる。発振波形はCRの充放電によるノコギリ波あるいは狭いパルス状である。(正弦波ではない)
弛張発振器の原理は、鹿脅し(ししおどし)の動作原理と似ている。細い流水が竹筒に溜まり、水位がある限界点を越えると一気に排水されると言う動作を繰り返す。同じように竹筒に相当するコンデンサと言う「容器」に電流を流すと電荷が蓄積し電位が上昇して行く。その電位が敷居値を越えると電荷を一気に放電させる仕組みが働き容器(コンデンサ)は空になる。蓄積した電荷を一気に放電させる仕組みをUJTが掌っている。そして再び電荷の蓄積と放電を繰り返す。これが弛張発振である。(追記:2013.04.29)
弛張発振器の原理は、鹿脅し(ししおどし)の動作原理と似ている。細い流水が竹筒に溜まり、水位がある限界点を越えると一気に排水されると言う動作を繰り返す。同じように竹筒に相当するコンデンサと言う「容器」に電流を流すと電荷が蓄積し電位が上昇して行く。その電位が敷居値を越えると電荷を一気に放電させる仕組みが働き容器(コンデンサ)は空になる。蓄積した電荷を一気に放電させる仕組みをUJTが掌っている。そして再び電荷の蓄積と放電を繰り返す。これが弛張発振である。(追記:2013.04.29)
昔は重宝だったデバイスもICの発展とともにすっかり廃れてしまった。 それはSignetics社が開発したTimer 555(NE555)のような便利なICが安価に供給されたからである。 回路設計の自由度が高いばかりか発振回路に使って得られる波形も良好なためUJTが使われなくなったのはもっともだろう。
写真は、NEC製の2SH12と中国製のBT33Fと言うUJTである。何れも類似の用途に使えるがピン接続は異なっている。 現在ではすっかり『珍し系の半導体』になってしまった。 同じ目的・用途に対して今では他の手段がたくさんあるのでUJTで無くてはならぬ用途は僅かだろう。 しかしごく簡単な目的には使い道もあると思いつつ少量の手持ちがある。 どうも出番はない感じなのだが。
UJTを使った教科書的な「弛張発振器」は幾らでも目にするので目新しくもない。 しかしこの例では階段波の発生に使っていて、どの様に動作するのか興味を覚えた。
Staircase waveform :階段波とは、例えばある一秒間が1V、次の一秒間2V、その次の一秒間が3V・・・と言うような時間に対してステップ状に電圧が変化する波形のことだ。オシロスコープで見るとまさしく階段状の波形が観測できる。 ある段数に達するとリセットされて最初の段から再び繰り返すことが多い。 もちろん下り方向の階段や、天辺あるいは谷底に到達すると戻ってアップ・ダウンする階段波もある。
【回路動作の概要】 2つのUJTをそれぞれ異なった用途に使っている。
1つ目のUJT:Q1は階段1段あたりの時間を決める弛張発振器である。 一定間隔で狭い幅のパルスを発生するのが目的だ。この例では10mSごとに発生する。 この狭いパルスによってPNPトランジスタ:Q2の定電流スイッチを駆動する。 Q2を通った瞬時の一定電流は電荷QとしてコンデンサC2にチャージされる。 V=Q/Cでチャージが繰り返される毎にC2の端子電圧Vは階段状に上昇して行くことになる。
2つ目のUJT:Q3は階段の段数を決める役目だ。 C2の端子電圧Vがある電圧を越えた瞬間にQ3のE・B1間が導通し溜まっていたC2の電荷を瞬間的に放電する。 瞬時に階段はリセットされて最初の段から再び始まることになる。その階段の段数はVR3で加減する。
Q4とQ5はC2の端子電圧を取り出す為のバッファアンプである。コンデンサに溜まった電荷を引き出す・・即ち電流を取り出すとサグが発生してしまう。その影響を軽減する為にダーリントン接続になっている。 ダーリントン接続でもベース電流はゼロではないが、C2の電圧降下はごくわずかなので支障無いわけだ。いまならバッファ・アンプにFET入力のOP-Ampなどを使えばベストであろう。
なお、この回路は1970年代始めころのものである。未だICは一般的でなかった時代なので当時得られたデバイスを巧みに使い、ごく僅かな素子(部品)で目的の波形を得る工夫には面白味を感じる。IC万能の現代に於いてはむしろ新鮮でさえある。
この回路の具体的な活用はあまり意図しないので取りあえずブレッド・ボードで試作してみた。 実際旨く動作するのか興味を覚えたからだ。 ブレッド・ボードの扱いはあまり慣れてないので部品配置の真似はしないように。(笑)
左の光っているトランジスタが弛張発振器のQ1である。 電流スイッチ:Q2はマイラ・コンデンサC2の影になって見えにくい。 その右の方にある光ったトランジスタがリセット用のUJT:Q3である。 一番右の黒いトランジスタがQ4 とQ5である。 この試作では内部でダーリントン接続になっている2SC982を使っている。従って見かけ上はトランジスタ1本で済んでいる。 回路図のように2SC1815を2つ使ってダーリントン接続してもまったく同じだ。
こんな回路を作る人もまれとは思うが検索で来るお方もあるので、以下念のために書いておく。 この回路の部品入手は思ったよりも容易である。 唯一珍しい部品であるUJT:BT33Fは「イーエレ」と言うお店から通販で購入した。 このUJTは中国製であるが、大陸方面では広く流通しているらしい。 同店で現在でも単価110円で購入できる。
もちろん国産のUJTでも良いが殆どがディスコンなので入手しにくいと思う。幾つかのお店に在庫があるようだが100円では買えないようだった。 むしろ2N型番の米国製の方が入手容易かも知れない。いまでも生産している会社があるからだ。2N2646ならRSコンポーネンツにもあるようだ。 なお必ずNベースのUJTを買うこと。(PベースのUJTは珍しいようだが・・) UJT以外で集めにくい部品は無いと思う。 部品を揃えて1時間くらいで完成できる。(ブレッド・ボードに製作の場合)
5段の階段波形である。 1段あたりの高さは1Vになるように合わせた。この高さは回路図のVR2で加減できる。 また1段あたりの時間は10mSであるが、これはVR1で加減できる。
階段の段数はVR3で変えられるが、1段あたりの電圧を1Vにした場合、正常に動作するのは6〜7段までであった。 もっと段数が必要な場合は、回路定数を見直すか1段あたりの電圧を1Vよりも小さくする必要がある。 一番下の段もUJTのONオン抵抗の関係でゼロまでは下がり切らない。オフセットを持っているのでDC結合で使う場合は目的によって注意が必要だ。
写真のように、オシロスコープでの観測ではなかなか奇麗な階段波が得られている。 階段波は簡易なA/Dコンバータの構成要素に使われるほか、ステップ状の電圧が欲しい用途では一般的に使われている。 DCアンプのリニヤリティ判定に使うこともあるようだ。 無線での用途は特に思い付かないが、エレクトロニクスの分野ではそれなりのニーズがある。
ところで写真を見るとまずまず良さそうなのだが、もとがUJT式では性能の限界を感じる。 たった5石の簡単な回路なので仕方ないだろう。 もし改善を目指すならこの回路の高級化ではなく、D/Aコンバータをベースにしたデジタル・アナログな回路の方が最適化し易い。
すぐに役立つような物でもないが、回路実験としてはUJTの動作がわかってなかなか面白かった。同時に先人のアイディアには感心させられた。 パーツボックスにあったUJTを見ていて、何か面白そうな活用方法はないかと思った次第。 こうした「真面目な回路」(?)よりも昔からある玩具のような電子回路に向いているように思えた。
【追記】アイディアの源泉は?
この回路の前には別の階段波発生回路があった筈だ。たとえば普通のTr(=BJT)だけで考えるとすれば、まずは2石の「アステーブル・マルチバイブレータ」で連続した矩形波を発振させる。その矩形波を「CR回路で微分」し狭いパルスをつくる。その狭いパルスで「電流スイッッチをON/OFF」すれば上記回路図のQ1とQ2の部分に相当するので階段波が作れる。段数を決めるリセット回路はTrを使った「差動コンパレータ」+「リセット・スイッチ」が良いだろう。なお途中にシュミット回路を入れる必要があるかもしれない。このようにすればまったく同じことは可能なのだが部品数は遥かに多い。こうした階段波発生回路の構成にUJTをうまく適用する方法はなかなかのアイディアなのである。(2010.10.15)
(おわり)