サーミスタと言えばトランジスタ・ラジオの教科書にも必ず説明が出てくる電子部品だ。 昔からトランジスタ・ラジオのB級Push-Pull低周波出力段の温度補償に使われていたからだろう。
写真はメーカー不詳だがそうしたラジオ用のものである。ずいぶん前から拙宅のジャンクボックスに眠っていた。 オレンジ色は150mWクラスの出力段用で茶色は500mWクラス用だろうか。
使用目的から、低い電圧のところで比較的大きめの電流を流す必要があるので低抵抗に作ってある。 25℃の抵抗:R25は数10〜数100Ωと言ったところだ。B定数は3000K(ケルビン)程度の物が多い。
左図は一般に入手可能であった東芝製のサーミスタとその特性一覧である。 主にゲルマニウム・トランジスタを使ったB級プッシュ・プルアンプのアイドリング電流を温度補償するために使用する。 目的から、被温度補償トランジスタとは良く熱結合するよう実装する必要がある。 そのため、細く長いリード線が付いていた。 既に過去の部品であって入手するのは困難だ。(2016.04.06追記)
#ポピュラーなサーミスタ:有名な東芝のD22AはR25=200Ω、B定数=3250K、許容動作電流=5mA、主に2SB56のB級PPアンプ用であった。
左図は一般に入手可能であった東芝製のサーミスタとその特性一覧である。 主にゲルマニウム・トランジスタを使ったB級プッシュ・プルアンプのアイドリング電流を温度補償するために使用する。 目的から、被温度補償トランジスタとは良く熱結合するよう実装する必要がある。 そのため、細く長いリード線が付いていた。 既に過去の部品であって入手するのは困難だ。(2016.04.06追記)
#ポピュラーなサーミスタ:有名な東芝のD22AはR25=200Ω、B定数=3250K、許容動作電流=5mA、主に2SB56のB級PPアンプ用であった。
サーミスタはゲルマニウム・トランジスタを使ったラジオに良く使われていた。低周波出力段の無信号バイアス電流(=アイドリング電流)の安定用に使っている。(R13がサーミスタ)
図はその一例で、B級プッシュプル出力段のアイドリング電流を温度安定させるために用いる。 温度上昇するとコレクタ電流が急増しさらなる発熱から熱暴走する危険がある。それを抑えるのが目的だ。そのためサーミスタはトランジスタの近傍に置き熱的に結合させるのが良い。(既成品AMラジオの部品を流用しで再設計した。図中の数値は試作後に実測した値を示す)
サーミスタの抵抗値は温度低下に対して指数関数的に増加するので並列抵抗を入れて効き過ぎないように加減する。そうしないと少しの温度降下でアイドリング電流過大になってしまう。温度上昇する方向では温度補償の効き方が過剰になる傾向にあるが、高い温度での電流減少は安全方向なので良しとしているのであろう。ゲルマニウム・トランジスタはVbeが小さいうえIcbも流れるからクロスオーバー歪みが極端に悪化しないのも幸いしている。
トランジスタ・ラジオのメーカーによって低周波出力段の無信号バイアス電流の温度補償にお好みがあったようだ。 東芝はおもにサーミスタを使い、日立や松下はバリスタ・ダイオードを使うケースが多い。 この設計では日立の古典的なゲルマニウム・トランジスタを使ったのでバリスタの方が良かったのかもしれない。もちろんサーミスタでも支障はないが。 いずれにしてもバイアス回路はそれぞれ最適設計する必要がある。
サーミスタは高感度で一般に熱時定数も小さいので温度補償特性は良好である。 一方、バリスタは温度検知感度は低いが減電圧補償にも効果があるので電池が電源のラジオには有利である。バリスタ・ダイオードはなるべく出力トランジスタの近傍に配置し密に熱結合した方が良い。 サーミスタかバリスタか、このあたりどのような性能を重視するかでメーカーの好みが別れたものと思う。(注:ここで言うバリスタはエレキーのPhoto-MOS保護に使ったものとは別もの。過電圧保護用バリスタではなくてバイアス安定用のバリスタ・ダイオードと言うもの)
#シリコン・トランジスタの時代になるとバリスタ・ダイオードを使うケースが多くなった。
サーミスタは温度センサとしても良くも用いられる。 温度センサには「白金測温抵抗体」や「熱電対(ねつでんつい)」がよく使われる。 サーミスタはこれらよりもやや精度で劣るものの温度感度が良い(=出力電圧が大きい)ので簡単な回路で扱い易い特徴がある。
写真の物は25℃の抵抗が10kΩのサーミスタである。秋葉原の国際ラジオから通販(残念ながら同社は2014年5月末に廃業した)で購入した。製造メーカーはSEMITEC・石塚電子である。(103AT-2型:R25=10kΩ、B定数=3435K)
温度センサとしては数kΩ以上のものが適している。 やや大きめの電圧を加えても自己発熱が少なく、温度に対する電圧感度を高くできるからだ。 抵抗値は温度に対し指数関数的に低下するから、室温でこの程度の抵抗値がないと高い温度では低くなり過ぎてしまう。もちろん室温付近で使うのが目的ならもう少し低い数kΩのサーミスタで良い。
ファンヒーターから温風が来る場所で測定したので10kΩよりもやや低かった。26〜27℃くらいだろうか? (テスタは抵抗×100Ωレンジ)
これは常温から100℃あたりで使うのに丁度良いサーミスタだ。 いま目的とするのは80℃で、1.6kΩくらいの抵抗値になるからだ。なお、サーミスタの温度と抵抗値の計算はここ(←リンク)などを利用すると便利。
温度センサとしての用途の他に各種電子回路の温度補償用にも良いだろう。 但し上の例のようなB級プッシュプル出力段にはあまり適当ではない。(抵抗が高過ぎてうまく使えない)
オーブン制御型水晶発振器:OCXOの自作は難しくない。 水晶発振回路は一般的なもので良く、オーブンを設けサーミスタで温度検出して加熱用ヒータを制御してやれば良い。 これはそうしたヒータ・コントロール回路の一例だ。(注:回路及び部品定数は変更される可能性あり)
センサは上記の10kΩサーミスタを使いヒータにはPNPトランジスタそのものの発熱を使っている。 従ってヒートシンクとトランジスタの熱結合を良くする意味から、コレクタ・フィンを直接GNDできるPNPトランジスタを発熱体に用いた。 サーミスタ部分の電圧をモニタすれば制御状態を監視することができる。温度モニタになるわけだ。モニタ用にバッファ・アンプも付けておいた。 基準電圧の側を外部から操作できるようにしておけば温度可変型のオーブンにもできる。 回路はオーソドックスだが、このあたりが私の工夫の部分だ。
銅板のような熱伝導の良い金属板に(1)発振回路の水晶振動子、(2)PNPトランジスタQ1、(3)サーミスタをそれぞれ旨く熱結合するよう実装する。 もちろん熱放散してしまわぬよう熱的に浮かせる『熱絶縁』に努め周囲は断熱材で覆う。
さらには水晶振動子と発振回路をもう一回り囲って同じように温度安定化してやればベストであろう。すなわちダブルオーブン型だ。 その場合はPNPトランジスタで発熱させるのではなく、マンガニン線などのヒータ線を巻いて「囲み」を加熱するようにする。 温度は内側より多少低い程度に設定するのが良いはず。
#言うまでもないが、ここで使う水晶振動子はOCXO用として80℃を指定したものを使う。
−・・・−
やや珍し系のデバイスとしてサーミスタを扱ってみた。 温度センサは各種あるがサーミスタは高感度なので簡単な回路構成で温度制御しやすい特徴がある。高級なOP-Ampなど高価な部品を使わなくても高性能が実現できる。 但し長期間連続して高温度の環境で使うのならより安定性に優れるガラス封止型のサーミスタの方が安心かもしれない。しかし実験的にはこのサーミスタが十分使える。 de JA9TTT/1
(おわり)
おはようございます。花粉の影響はいかがでしょうか。
返信削除私にとって一番なじみ深いサーミスタは、最初に出てきたディスク型でしょうか。ただ、6エリアの田舎では所望の品種が手に入らず難儀しました。そこで、代わりに1N60を使ったこともありましたが、あまりうまくなかったような気がします。
それからだいぶ経って2SB492を大量に譲り受けたのをきっかけに、遊びでSEPPアンプを試作しましたが、そこでは同じ石をダイオード接続で温度補償にも使いました。当然ですが、これはベストマッチでした。トランジスタが高価だった頃には絶対に許されない芸当だったでしょうが… Hi.
ゲルマ時代、その温度補償を省略したラジオキットやアンプユニットを結構見かけました。それでも通常の使用状態で熱暴走はしませんでしたが、電源電圧変動に対する影響が非常に大きかったという印象があります。特に電源電圧を高くしすぎると、共通エミッタ抵抗が焼けたりして悲惨でした。
蛇足ですが、私にとって一番なじみ深いラジオ用ゲルマトランジスタは2SA100~103と2SB172,175,176だったりします。RF用はドリフト型なので、ゲルマトランジスタとしてはやや進化したタイプですね。
温度センサとしてのサーミスタにはほとんど馴染みがなかったりします。こちらもシリコンダイオードを応用した例があり、秋月で昔売っていた温度計キットもそうでした。
PNPトランジスタを熱源にしたOCXOは手元にジャンク品が転がっています。水晶にディスク状のものが張り付いていたように思いますが、たぶんサーミスタでしょう。
JG6DFK/1 児玉さん、おはようございます。 杉花粉はヒドいですねえ。 外出困難です。hi
返信削除さっそくのコメント有難うございます。
> なじみ深いサーミスタは、最初に出てきたディスク型・・
私も同じくディスク型でしたね。同じように田舎では入手しにくいので困ったものですが、通販か秋葉原で買ったように思います。
> 1N60を使ったこともありましたが・・・
お書きのようにトランジスタのB-Eジャンクションを使うと旨く行きますね。松下や日立が使っていたダイオードバリスタは「不良品のトランジスタ」ではないかと疑ったものです。(たぶん、トランジスタとしては今ひとつなものをバリスタとして売っていた?)
> 電源電圧変動に対する影響が非常に大・・・
トランジスタラジオなら電池がフルの時に適当な値にしておく設計ですね。電違が減ってくるとクロスオーバー歪みが出るようになり、一段と音が悪くなったですね。(笑)電圧が上昇することはあまり考慮していない感じです。ACアダプタなど使うと危ないですね。
> ゲルマトランジスタとしてはやや進化・・・
わたしもNECの2SA156などがお馴染みでした。これもアロイ型よりも進歩型ですね。(笑)
> サーミスタにはほとんど馴染みがなかったり・・
工業用には温度センサとして良く使われています。冷暖房機器の温度センサーもサーミスタが多いです。
おはようございます。
返信削除やっと暖かくなったかと思ったら今日はまた寒いです。^^;
子供の頃、福岡のパーツショップではサーミスタは入手困難なパーツで雑誌の制作記事を作ろうとしても入手できずに諦めた記憶があるパーツの一つです。
温度補償といえばリニアアンプなどでバイアス補正にシリコンDiをTrに押しつけたぐらいしかやったことが無いです。
写真のサーミスタは結構新しそうですが、ディスコンとかではない通常部品なのでしょうか?
JE6LVE/3 高橋さん、おはようございます。 今朝は冬に逆戻りですね。寒いです。
返信削除コメント有難うございます。
> 入手できずに諦めた記憶があるパーツ・・・
今ほど通販が発達していなかったころは入手できなくて諦めることも多かったですね。 近所にもラジオ用の部品くらいしかありませんでした。
> ディスコンとかではない通常部品・・・
上の方のディスク型はわかりませんが、下の青いサーミスタは現在でも普通に売っています。 最近では面実装用チップ型サーミッスタもありますね。 手軽な温度センサとし継続したニーズがあるのでしょう。
ご無沙汰しております。
返信削除ゲルマニウムトランジスタで何か作ろうかと考えたときに、B級PPの出力段の温度補償にサーミスタが必要であることに気がついて、サーミスタも買い集めようと思いました。そう気がついたときには、何処で買えるのかわからなかったのですが、この5月いっぱいで店を閉める小澤電気商会に色々揃っていることがわかって、何種類か買い集めました。東芝のD61A、D22A、日立のD-1A、D-1Eなどです。
同時にゲルマニウムバリスタダイオードも買いましたが、日立のHV15とかHV16とかを見ると、ゲルマニウムトランジスタのベースとコレクタを外部で接続したような構造になっているように見えて、出来損ないのトランジスタをバリスタダイオードとして売っているように思えました。
バリスタダイオードを使った方が減電圧特性が良いはずだと思っていましたが、やはりそうなのですね。自分の考えていることが正しいとわかり、安心しました。でも、東芝のラジオにはサーミスタが使われていて、東芝さんはサーミスタにこだわりがあるようにも思えました。
国際ラジオで今時のサーミスタが売られているとは意外でした。商品が整理されていないように見えるので、国際ラジオには未だに何が売られているの把握できません。店主自身、どこに何があるのか把握できているのでしょうかねぇ?
JR2WZQ 河野さん、こんにちは。
返信削除コメント有難うございます。
> 小澤電気商会に色々揃っている・・・
他にも、秋葉原や日本橋の半導体を扱うお店なら在庫を持っていると思います。使うのは定番の品ですので何とか入手できると思います。 ダメなようでしたらダイオード・バリスタを自分で作ればOKでしょう。 C-Bショートして、B-E間ダイオードを使えば良いですね。
> 出来損ないのトランジスタをバリスタ・・・
パッケージを利用しているだけかも知れませんが、当時のトランジスタは歩留まりが悪かったので不良品の活用だった可能性は高いと思います。パッケージしてしまったものは既にだいぶコストが掛かっていますので。
> 商品が整理されていないように見える・・・
大量にある部品をピックアップして通販しているように見えますね。少量在庫品は把握しきれないのではないかと思います。 でも、案外何処に何があるか良く覚えているのかも。 模様がえしたらアウトでしょうね。(笑)
こんばんは。
返信削除先月の懇親会で検討した再生式ラジオを作ってみました。オリジナルのコンセプトの出来るだけ省電流で単三2本を遍く使うというのを踏襲すべく固定バイアスで絞ったAF段にしました。最初は調子よく鳴っていたのですが、節電をと暖房を消して室温が一桁になるととたんに鳴らなくなりました。原因は終段のPPのアイドル不足です。Siだし、まぁなんとかなるだろうとたかをくくっていたというのも有るのですが、温度依存性はあるもんだと思っていたところでタイムリーな話題でした(前置きが長すぎですね)。
1N60をブローブにというのは昔ラジオの製作で製作記事を見かけました。似たようなコンセプトとして封止がガラスなので光電流を利用した照度計というのも時期違いで載っていましたが、この時は2本使用して明条件と暗条件の差分で温度依存性をキャンセルしてたのだったかな・・・ちと記憶が定かではありません。ちなみに私の持っているアナログテスタの3001はオプションでサーミスタ式温度プローブがあったのですが今はもう入手できないでしょうね。
国際ラジオですが、3/12は前日帰宅できなかったとかで眠そうながら営業していました。品物は大丈夫でしたかと聞くと結構混ざってしまって区別がつかなくなったものを廃棄したと聞きました。具体的な品名は聞かなかったのですがちともったいない・・・
JH9JBI/1 山本さん、おはようございます。
返信削除コメント有難うとございます。
> 室温が一桁になるととたんに鳴らなくなりました。
Si-Trで製作されたのでVbeの温度特性が強く出たのでしょうね。Si-Trならサーミスタよりもバリスタの方が良いと思います。バリスタ代用はTrのB-E間(C-Bは短絡)か小信号用DiでOKです。
> 2本使用して明条件と暗条件の差分で・・・
ゲルマニウム・ダイオードは温度で暗電流の変化が大きいのでその必要があったのでしょうね。 ダイオードによっては光電流が流れる物も有り、外光から誘導ノイズを受けることがありますね。そんな時は黒く塗ります。hi
> サーミスタ式温度プローブがあったのですが・・・
メーカーに在庫があるかも知れません。必要でしたら聞いてみたらいかがでしょう?
> 区別がつかなくなったものを廃棄したと聞きました。
店主は帰宅難民になったのですね。あの状態で混じったら分別するのはたいへんでしょうね。何が混じったのでしょう・・・。あのお店らしい地震の被害と言えそうです。
来月は懇親会に参加したいと思っています。