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2014年3月1日土曜日

【部品】LM359N Norton Amp.

LM359N型ノートン・アンプ
 136kHz帯送信機製作の途中でまた寄り道します。 もちろん無関係ではありません。 ヘテロダイン・ミキサ後のフィルタ通過で下がった信号レベルを取り戻す必要があります。 136kHzと言う周波数は低いようでも汎用OPアンプにはだいぶ高めです。 汎用OP-Ampより周波特性の良いアンプが欲しいので高速ノートン・アンプを検討しています。 これは多分に自身の部品事情を反映していますからノートン・アンプを推奨する意図はありません。またまた「レアな部品を使ってる!」等といったご批判はご勘弁を。(笑)
 なお、近ごろアマ無線界では広帯域トランスを使ったノイズ・レス・フィードバック形式のRFアンプもノートン・アンプと呼びます。むしろそちらの方がポピュラーかも知れません。電流で負帰還する部分に類似性もありますが、ここで扱うICとは別ものです。

ノートン・アンプの基本:まずはLM3900から
 ノートン・アンプとは何でしょうか? Wikipediaでも参照していただくと良いかもしれませんが、「単電源動作で±入力を持った電流差動型アンプ」のことです。

 何のことか、ピンとこないとは思いますが、要するに左図のようなエミッタ接地型アンプ(Q2)の出力をエミッタ・フォロワ(Q1)で取り出す形式のアンプです。

 ディスクリートでも良くある形式なので特に目新しくはありません。 Q1のエミッタからQ2のベース(反転入力端子:In-)へ負帰還を掛ければ帰還型の増幅器になりますが、もう一工夫して+入力端子(In+)を設け電流差動形式になるようにしたのがノートン・アンプです。 初めて市販されたのはLM3900シリーズでした。なお、このシリーズのノートン・アンプにはLM2900N/LM3900Nのほか、モトローラ製の互換品、MC3301P/MC3401Pがあります。いずれもピン接続を含め機能・性能は同等ですが保証温度範囲や最大電源電圧など幾つかの規格に差があるので使用時には確認しておきましょう。一時期は両社の互換品が他社からも登場しましたが今では殆ど姿を消しています。

LM3900の等価回路
 長くなるので途中の設計経緯は省きます。 ICとして実用形式に纏めたものが左図のような等価回路で、ナショナル・セミコンダクタ社(現在はTI 社に吸収合併)から登場しました。(1972年頃か?)

 GNDへ向いたダイオードとその右のQ6と言うトランジスタが+入力端子を設ける為に追加された部品です。 これによってIn(+)とIn(-)の電流差が増幅されます。 詳しい仕組みや動作解析についてはメーカー(TI社)のサイトに詳細な資料があります。活用を試みるならナショセミ時代のアプリケーション・ノート:AN-72とAN-278は必読でしょう。 ほかにはもう目ぼしい資料も無くなっています。 要するに20世紀に置いて来たテクノロジーなのでしょう。

 もちろん、今でも有用性が失われた訳ではありません。しかし代わって扱い易い「電圧帰還型」のOPアンプが全盛になったので意味も薄れました。 低電圧でレール・トゥ・レール型のIn/OutをもったC-MOS OPアンプの登場で単電源動作に特化したICの必然性もだいぶ薄れたのです。 やや遅れて登場した片電源用OPアンプ:LM324Nも強力なライバルでした。

ピン接続図
 私が思うに、この妙なピン配置も馴染めなかった理由の1つです。 4回路入りOPアンプの常識とは外れたピン配置です。

 TTLなど多くの論理回路用ICでは半ば約束のようになっていたコーナーの14番ピンが+Vccで、7番ピンがGNDになるように配置したのでしょう。しかし合理的には見えませんでした。 Amp1の+入力端子がAmp2の側に出ているなど、4回路入りOPアンプの常識では考えられないのです。
 但し、アプリケーションを良く吟味すると+入力端子を片端に寄せたのは深い意味があったことがわかります。応用面から考えれば近くに並んでいた方が合理的なのです。

 結局、このLM3900(MC3401P)と言うQuadアンプはOPアンプではなく、片電源で使う汎用のアンプ・ブロックです。 OPアンプと類似だろうという先入観で扱うと不自然さばかり感じます。 そのように使うモノでは無いのです。

LM3900NとMC3401P
 今や開発メーカーのナショセミ社もTI社になりましたし、モトローラ社もONセミ社になっています。 LM3900は表面実装タイプのみ供給が続いています。 MC3401Pは既にディスコンです。 何個か手持ちがあったので撮影しておきました。

 なお、機能・性能はこの両者ともに同等ですが、MC3401Pは最大電源電圧がやや低いので要注意です。 LM3900Nが+32V、MC3401Pは+18Vが最大定格です。12Vで使うなら互換できます。

 これから使うのはLM3900やMC3401ではありませんが、元祖ノートン・アンプと言うことで扱いました。 写真のこれも勿体ないので将来何かに使ってみたいです。 ただ、特に何か良いことがあるわけでもないので使う機会もなさそうです。

 ノートン・アンプには特徴を活かした面白い各種の応用がありました。少し古い回路集にはノートン・アンプの応用例もかなり見うけられます。それらは他のOPアンプでは代替が効かないケースが殆どなので要注意です。再設計は面倒なことが多いのでそのまま作るに限ります。今でもLM3900Nの入手は難しくありません。なお、LM3900NでLM2900N、MC3301P、MC3401Pの代替ができます。

参考:続きとしてLM3900Nのような普通のノートン・アンプをアクティブ・フィルタに活用する話を追加しました。→こちら(リンク)

                ☆ ☆ ☆

ノートンアンプの高速化
 LM3900は車載機器などの単電源回路の汎用アンプとして作られたICです。従ってあまり高速ではない用途が主目的だったはずです。周波数特性はせいぜいオーディオ帯域止まりです。

 それに対し、大幅に高周波特性を改善したノートン・アンプがナショセミ社によって作られました。LM359Nがそれです。 出力電圧範囲を多少犠牲にして周波数特性が甚だ悪いラテラルPNPトランジスタを使わない設計に変更しています。 さらに、ミラー効果を低減し周波数特性を良くする為にエミッタ接地型のゲインステージがカスコードアンプになっています。

 LM359Nが本来どんな目的で作られたのかわかりません。もはやカーエレクトロニクス用ではないでしょう。 単電源動作のビデオアンプには便利なのでそれが主目的だったのかもしれません。 入・出力段の動作電流をユーザーが自由に設定できるなど、汎用性を持たせて幅広い用途を目指したようです。

LM359Nの等価回路
 左図は内部等価回路です。 比較的簡単です。LM359Nはアンプ2回路入りでバイアス回路は2つのアンプで共通です。

 片方のアンプだけを使うときは8〜14番ピンに割り当てられたAmp-Bの方を使うと節電できます。 たぶん4番ピンのGND-AをオープンにしておけばAmp-Aの電流が節約でます。 特に高周波まで周波数特性を伸ばす目的で回路電流を多く流した際にはムダな電流を減らすテクニックになるでしょう。

LM359Nのピン・アサイン
 自身の参照用が目的なので、利用する為の情報としてピン配置を載せておきます。 14ピンなので少々場所を食いますが今風に小型化したいときは面実装型があります。LM359は今でも供給されています。

 メーカーは180度ひねって挿入しても壊れないピン配置になっていると言っています。 確かにNCピン(無接続ピン)が+電源になるだけなのでデバイスを壊す恐れはないでしょう。 ピンが余ったのでそうした配慮をしておいたのだと思います。


LM359Nの外観
 特に変わったところもない普通の14ピンICです。

 わざわざ購入したのではなく長期在庫品としてパーツボックスに眠っていました。 部品は死蔵ではなく活用することが目標なので引張り出してきました。

 以前のテストではなかなか良い性能が得られていた印象があります。136kHz帯送信機のような中途半端に周波数が高い用途にはうってつけでしょう。

LM359Nを使ったビデオアンプ
 デジタルTVの時代になってアナログ形式のビデオ信号を扱う機器は珍しくなりました いずれ「ビデオアンプ」という言葉も死語になるでしょう。

 音楽などの音声信号に比べて、映像信号(ビデオ信号)は格段に周波数帯域が広かったのでそうした信号が扱えるアンプをビデオアンプと呼んでいました。

 左図はそうしたアンプの回路例です。ビデオ信号系なので特性インピーダンスが75Ωの同軸ケーブルをドライブする前提になっています。 ゲインは10倍(20dB)で-3dB帯域幅は下2.5Hz/上25MHzです。 ディスクリート部品でも製作可能なアンプですが、IC化することで性能の均質化がはかれます。 ビデオアンプとしてではなく汎用の広帯域アンプとして使うのも良いでしょう。

nVbeバイアス
 ビデオアンプは差動アンプの必要は無いので、片入力だけで十分です。 そのため+入力端子を構成していたダイオードとトランジスタからなるミラー回路を使用しない動作ができます。

 出力端子の直流的な動作点を決めるのが図のRbと言う抵抗器です。 トランジスタのVbeをn倍した所にバイアスするのでnVbeバイアスと呼ぶのでしょう。 Vbeは温度変化するため直流的な動作点は温度変化してします。 しかし出力をフルスイングしなければ少々の変動は支障ありません。 そのような想定に基づいたのが左図です。式の解釈についてはLM359Nのデータシート:SNOSBT4(Rev.C)を参照して下さい。(www.ti.com)

nVbeバイアスのメリット
 必要のない電流源をOFFして使うので、電流性ノイズが少なくなります。 約6nV/√Hzと言う値は広帯域アンプとしては悪くない数字です。 ローノイズを謳うアンプでも似たような数字ですからnVbeバイアスにはメリットがあります。

 すこし設計は面倒ですがローノイズはメリットなので積極的に使いたい回路です。 フルスイングさせなければ動作点変動は気になりません。

動作電流の設定
 入力回路と出力段の動作点を用途に応じて変えられるのがLM359Nの特徴の1つですが、実際にはあえて設計しなくてはならない煩わしさがあります。

 データーシートを見ると代表特性の殆どをIb=0.5mAで規定していることがわかります。それが標準的な動作なのでしょう。 電源電圧が12Vなら20kΩの抵抗器1つでこの標準的な動作になります。(左図)

 特別な性能・用途に特化したい時は個々に検討すべきですが、ここは取りあえず標準動作でも支障無いのでIb=0.5mAで使うことにしました。 ピン1番と8番の間に抵抗器を入れれば良いのですが、レイアウト上はあまり芳しくないピン位置です。 入出力段の電流を独立別個に設定するのに便利なピン配置なのです。

実際のアンプ回路
 2つあるフィルタの通過ロスを補い、次段を十分にドライブできる信号レベルまで増幅する必要があります。実測からゲインは50倍くらい必要です。 またアンプの入力インピーダンスは前段のフィルタ特性に影響があるので600Ωに整合させます。

 左図はそのような意図で設計しました。 実際に製作して良い特性でした。136kHzの送信機には十分な性能が得られています。

 2つ入ったうち未使用側のアンプは遊ばせます。上記に書いたようにAmp-Bの方を増幅に使い、Amp-Aは電流を消費しないよう休ませる設計の方が良かったかもしれません。 現状では無駄な回路電流が流れています。 取りあえずブレッドボード上のテストなので、恒久化する際には変更しましょう。

                 ☆ ☆ ☆

 ノートン型電流差動アンプは20世紀のテクノロジーかもしれません。 136kHzの増幅なら汎用トランジスタ数個のアンプで必要な性能が得られます。あえて使う意味は無いかもしれません。しかしICを使えば性能がわかった回路が僅かな部品で実現できる便利さがあります。試してみたら性能も良好なので無理して使ったと言うよりも、むしろ適材だったようです。
 いまでも十分通用する性能があるので特徴を活かした使い方ができたら面白いです。 高周波性能が良くてノイズも少ないので貴重なICでしょう。 あえて買ってまで使う理由はありませんが、もう少し見直しても良いデバイスだと思いました。

 読返して自身の参照用なら設計手順や手法など気付いた所をもっと書いておけば良かったと思います。 おいおい改訂して追記しましょう。 ナショセミの応用資料は良くできています。 わざわざ抜き書きする必要は無さそうですが毎回英文を読むのも面倒です。 自身が使いそうなポイントを纏めておけば便利でしょう。 だ手持ちがあるので使う機会もありそうですし。de JA9TTT/1

つづく・1)←136kHz送信機エキサイター部の纏め(最終回)へリンク

つづく・2)←「もっとノートン・アンプの検討を」へリンク

2 件のコメント:

  1. 加藤さん、こんにちは。
    あっという間に3月になりました。
    このまま暖かくなってくれるとうれしいのですが。^^

    ノートンアンプは名前を知っているレベルの知識でした。
    検索するとRFアンプへの応用が多く見られますね。

    記事を読んでいて途中からなぜわざわざノートンアンプを使うのだろうと思ったのですが、最初に自信の部品事情を反映したと注意書きがありました(笑)

    LM359Nにピンアサイン、5ピンのNCをV+に接続しておけばどちら向きでも動くのになぜNCにしたのでしょう^^

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  2. JE6LVE/3 高橋さん、こんばんは。 3月ですねえ! 日が延びました。5時過ぎても外はまだ明るいです。

    さっそくのコメント有難うございます。
    >名前を知っているレベル・・・
    LM3900が登場した頃は雑誌でも良く記事になっていましたが、その後はすっかりですね。今でもミュージックシンセサイザを作る人が使うようです。 LM359Nはビデオ帯域用ですから知る人も少ないでしょうね。

    > なぜわざわざノートンアンプを・・・
    少々高い周波数の増幅に、LM318では古典的だし、やや新しいLM6361とかAD817あたりと思っていました。最近のデバイスは電圧が低い物が多いので向かないし・・・。

    探していたら出て来たのがLM359Nで、数もあったので使ってみました。性能もまずまずで外付けも少なく手持ち活用としては良い選択だったようです。

    > 5ピンのNCをV+に接続しておけば・・・
    アンプも上下で反対向きに作っておけばそうできそうですね。 でも、逆に付けたら間違って組立てたと思われそうでどうも旨くない感じです。hi hi

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