【電子部品:日本の古いトランジスタ】
【日立:HJ22D】
写真の黒い電子部品は、日立製作所がトランジスタの量産を始めた頃のものです。 リード線が短いのは新品ではないからです。 たしか、修理に値しないような古いトランジスタ・ラジオから調達したように思います。昔々のお話しです。
部品箱の電子部品にもそれぞれに物語があると思います。 でもゲルトラはやはり懐かしすぎるでしょうね。 「私の・・」からお声も掛からないだろう・・・と選んだテーマでもないのですが。(笑)
・・・
前が何時だったか思い出せないほど久しぶりにゲルマニウム・トランジスタで6石スーパ(←参考図あり)を作りました。そう言えばもっと古い石もあったなあ・・・と思い出しました。 ブレッドボード製作ですから「取っ替え引っ替え」はお手の物です。 これだけ古いと貴重品かもしれませんが、足が短い中古の石ではたいした価値はないでしょう。早速これで遊んでみることにします。
あとで対照表が出てきますが、後世の2SA12と言うトランジスタのご先祖にあたります。型番が2SAXX形式になったのは1960年4月以降ですから50年はゆうに経過しているでしょう。いや還暦近いかも知れません。 だいぶ足のメッキが酸化していたので少々磨いてやりました。 これ今でも働くんでしょうか?
【HJ22Dに通電する】
いきなり通電されたら石もビックリするかも知れないので、テスター(指針式)のΩレンジで各PN接合の様子を見てからにしました。(注:×1Ωレンジは使ってはいけません。過大電流で壊すこと有り) 長く寝かせた球とちがって寝覚めが悪いなんて言う半導体はないでしょう。 ICBOは大きくなっていませんから気密漏れや汚染は大丈夫そうです。hFEもそこそこあります。
HJ22Dはアロイ型のPNPトランジスタです。アロイ型は「ジャンクション型トランジスタ」としては初期のものでした。不安定なポイント・コンタクト型を卒業しやっと安定した構造になったのです。 ハンダ封止という古典的な組み立て方法でパッケージングされています。 封止のあとで黒く塗装し、手で型番を捺印したような手作り感いっぱいのトランジスタです。
量産された接合型トランジスタとしては最初期のものでしょう。 電流利得=1となるトランジション周波数:fTは僅かに8MHzしかありません。 それでも低周波用ではなくて高周波用のひとつ、中間周波増幅用です。ここで言う中間周波とは455kHzですけれど。
それで、働いたかって? 何の問題もなくちゃんと働きましたよ。 ゲインも新しいトランジスタと違わない感じで。 トランジスタの寿命は半永久なんて今じゃだれも信じませんが、50年以上経ってもこのトランジスタは立派に生きていました。
【日立:2SA12】
なぜか2SA11と言うのは登録がなかったらしいのです? 2S11と言うのが日本電信電話公社専用にあったらしいのでその関係かも知れません。 従って日本のトランジスタ規格表で最初に登場するのは2SA12です。 2SB11も存在しなくて、2SC11と2SD11が存在するのも面白いですね。
2SA12はHJ22Dと同じ電気的特性ですが、形状はまったく違います。 組み立て方法が変わったからです。 ステム(台座)とキャップの部分を電気溶接で組み立てるようになりました。ハンダ付けより生産性が向上し信頼性も向上しました。HJ22Dはやはりかなりの旧式なのです。
こちらはTO-1と言うパッケージ形状です。統一されたトランジスタの形状としては最初の物です。ちなみに、2SC1815はTO-92型パッケージです。 既知かも知れませんが、今も見かけるTO-XX型の「TO」と言うのは、「Transistor outline」・・・即ち「トランジスタの外形」と言う意味そのものです。(参考:半導体技術協会JEDECのTOアーカイブ:TO-archive)
#このちょっとメッキが錆びて来た2SA12も立派に動作しました。
【東芝:2SA53】
2SA12の同等品と言えば東芝の2SA53でしょう。これにも旧型番があって2S53です。 同じようにゲルマニウム時代の6石スーパーでは定番トランジスタでした。
2SA52の自励コンバータのあと2SA53のIFアンプが2段、1N60で検波、そして2SB54の低周波アンプのあとは2SB56ppでパワーアンプと言うラインナップでした。(参考:2SA53の一方を2SA49とするものもあります)
ちなみに日立の方なら、2SA15-2SA12-2SA12-1N34A-2SB75-2SB77ppとなります。
性能は2SA12と違いません。まったく同じように動作します。 中和容量も同じで大丈夫でした。 カタログ性能を見ても殆ど違いがないくらいの互換品です。 もちろん、この2SA53もちゃんと使えました。 写真の2SA53は捺印文字が緑色なので通信工業用のグリーン・シリーズのようです。 確か頂き物だったはず。TKS JL1KRA !
☆
【ゲルトラのラジオで】
All Ge-Trで6石ラジオを試作し日立のラインナップと東芝、日電のそれぞれで試みました。いずれも後期の高性能なゲルトラではなくて、ごく初期の石ばかりを集めたものです。
全部シリコンの近代的な石・・例えば2SC1815,etc・・で作ったものと比べても遜色ない性能が得られました。もちろん各々に最適化はしてありますし、設計利得は同じになるよう計算しています。違いがなくても当然なのですが。
VHF帯ともなると、性能差が歴然としてくるかも知れませんが少なくともHF帯なら違いは感じないでしょう。或はGe-Mesa型でも使えば50MHzくらいゲルトラでも楽勝です。
周囲温度の上昇のように環境が悪くなるとゲルマは不利です。しかし日常の生活環境ならまずまず使えそうな「受信機」が作れます。 ならば作るのかと問われれば・・・答えはやや否定的ではあるのですが・・・。 単に珍しい物を使ったと言うだけではどうも意義が・・・(笑)
【旧型トランジスタの型番対照表】
神戸工業、日立、松下、日電、ソニー、東芝の旧型トランジスタと2SA・・・形式になってからの対照表です。 旧型番は各社が思い思いに命名していた様子がうかがえて面白いです。
非常に古いトランジスタ・ラジオの修理の時にでも資料にして下さい。 そうは言っても代替品の方も手に入らないかも知れませんけれど。(笑)
そんなときはバイアス関係を少し定数変更してやればシリコンのPNPで代替出来ます。機能優先で復活させたいなら工夫してみると良いでしょう。場合により高性能化されることもあります。
標準的な6石スーパの動作として、コンバータ段がIc=500μAくらい、IF初段も500μA、IF2段目が1mA、低周波ドライバ段が1.5mAくらいになるようバイアス抵抗を加減すれば大丈夫。低周波パワーアンプは各々1.5mAくらいで良いでしょう。いずれも無信号時のコレクタ電流値です。(エミッタで測っても概ね同じです)
なお、電気的な特性は同じではあってもHJ22Dと2SA12のように外観形状まで同じと言う訳ではありません。
この表以外に、三菱もTJ○○と言う旧型トランジスタを作っていました。 三洋電機は2SA・・・の時代になってからの生産開始でシャープはトランジスタを作っていません。 他の家電品メーカーは日立やSONYと言った逸早く量産に成功したメーカーからトランジスタを購入してラジオを量産していました。 トランジスタ・ラジオが輸出家電製品の花形だったのは'60年代初めのころです。
☆
デバイスも集めて眺めるだけでは大して面白くないでしょう。 ぜひ何か作って働かせたいものです。 既にラジオは身の回りに溢れていますし、ICとかDSPとか近代的なものが登場しています。 ですから作るのは恒久的な「作品」でなくても良いでしょう。いじって遊べる程度で十分です。 ラジオ用のトランジスタはやっぱりラジオで試すのが一番でしょうか? 50年の歳月を超えたトランジスタから聞こえてくるAMラジオ放送は何となく神秘的に囁くように聞こえました。de JA9TTT/1
(おわり)
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2015年4月18日土曜日
2015年4月4日土曜日
【部品】DBM Chip from Russia, K174ΠC1
【ロシアからやって来たDBMチップ:K174ΠC1】
【K174ΠC1】
西側のアルファベットで書けばK174PS1となりますが、ロシアの表記ではK174ΠC1と言う名前のDBM-ICです。
このDBMチップのオリジナルは独SIEMENS社(ジーメンス社)の「S042P」のようです。 型番表記はまったく異なりますがが内部等価回路やピン接続から見て、S042Pのセカンドソースと思って良さそうです。 近ごろ東側デバイスに凝っているYさんにお譲り頂きました。
e-Bayもしくは、ロシア・旧東欧系のお店で手に入るようですが多分いまでは作られていませんから古い在庫品でしょう。 ロシア・東欧(旧ソ連圏)では通信機関係に使っていたのではないでしょうか。 FMラジオのような家電品への活用も見かけましたがどうだったのでしょう。 製造量が限られていたなら、いずれ手に入らなくなりそうです。
オリジナルのSIEMENS製S042Pもヨーロッパ系の部品販売店で稀に見かけますが入手はあまり期待できそうにありません。Euの半導体各社は一時期米国や日本メーカーに圧倒され早々に見切りをつけたところが多かったのです。東欧製より先に生産中止になっていたはずです。 以下、ご覧頂くと悪くないチップなのですが普通にお店で買えるものではありませんからお奨めしにくいです。機能は他のICで代替できますので無理するほどの逸品でもないでしょう。 よって読み物としてご覧頂くのが適当ですから、以下もしお暇ならどうぞ。
★
写真のように、Dual-Inline 14ピンです。足ピンのピッチは概ね西側のそれと類似のようですが、外観に微妙な違いがあって独特の雰囲気を感じます。 ロゴマークが違うので別メーカとは思いますが、ラジオ用チップのK174XA10(TA7613AP同等品)と良く似た感じです。 東側のICチップの特徴なのでしょうか。 例によってDate Codeの付け方が西側と同じだとすれば1992年の初めのチップと言うことになります。
【S042P・K174ΠC1の内部等価回路】
基本的にギルバート・セル型のDBM-ICです。 すこし工夫が見られるのは、下段の差動対のエミッタが切り離された部分です。
単なるDBMとして使う場合はPin10とPin12のエミッタ同士を結んで使います。 あるいは抵抗を入れてやると差動ゲインを調節することができます。 さらに、この下側差動対を上手に使ってLCの自励もしくは水晶発振回路を構成することもできます。 使い方に制約があって設計しにくいのですが、SA612やTA7358Pと同じようにこのIC一つでコンバータ回路が作れます。 そのような使い方にメリットはあまりないだろうと思いますが、省部品にはなるので面白い発想です。
上記のような使用方法から一般的なギルバートセル型DBMとは違って、下段の差動対の方にキャリヤもしくはLocal-OSCを注入する方法が標準になっています。 信号は上段の2組の差動対の方へ加えます。 上段の差動対にはエミッタ抵抗が入っていないのでリニヤな差動入力電圧範囲は制限されてしまい大きな信号が扱えない不利があります。 もちろん一般的なDBM-ICのように下段に信号、上段にキャリヤまたは局発を加える使い方でも原理的に支障はありませんから、そのように使っても良いはずです。
バイアス回路が内蔵されているので、外付け抵抗器が要らずチップ周辺はスッキリしています。MC1496Pと比べたらかなり使い易いです。 電源電圧は12Vくらい掛けた方が良いですが下は5Vあたりまで使えそうです。 回路電流は12Vのとき2mAと少なめの設計なので、省電力です。ただしダイナミックレンジはそこそこでしょう。特別高性能を目指したDBM-ICではないのだと思います。
【テストしてみる】
次項に回路図を示しますが、メーカー指定の使い方でテストしてみました。 局発信号の大きさと、そのとき扱える信号の大きさがどう変わるのかを見るのが目的です。
実際に使う際に、局発もしくはキャリヤを何Vにして、信号の大きさをどこまでに留めるべきかがわかるはずです。 ゲインもわかるので後続するアンプの設計も可能になります。
Pin11とPin13に加えるキャリヤもしくは局発信号の部分、及びPin7とPin8に加える信号の部分は、バイファイラ巻の広帯域RFトランスを使っています。 Pin2とPin3の出力部分には455kHzのIFTを入れてあるので、出力は455kHzに限定されます。
写真のようなブレッドボードを使った評価ですが、K174ΠC1にはたくさんのGNDピンがあるので適宜GNDラインに結んでおくことにより安定した性能が得られています。 評価する周波数帯は局発やキャリヤ周波数など概ね1MHzあたりまでを選んでいます。 ICの規格上はFMラジオの周波数帯まで使えます。
参考)実際に内部回路のGNDラインに接続されているのは14番ピンのみです。他の1、4、6、9番ピンは無接続のN.CピンなのですがシールドのためにGNDして使用します。
【テスト回路】
左図はミキサー回路として評価する状態で書いてあります。 R1〜R3は発振器や測定系のための終端抵抗なので、実用回路では必要ないものです。 信号及びキャリアの入力端子ともに数kΩのインピーダンスを持つのでドライブは容易です。
出力回路には回路図のような巻数比のIFTを使っていますが、最適負荷と言う訳ではありません。 用途目的に応じて最適化すれば幾分性能は良くなる筈です。 以下の評価では、図のようなもので行ないました。従って一般性がある訳ではないことを予め書いておきます。 ただし、異常な負荷状態ではなくて、ごく標準的な状態になっています。従って実用の際にも類似の使い方で良いでしょう。
電源電圧を変えた特性も測定しておくべきでしたが、時間がなかったので以下は12Vの結果だけを示します。 等価回路から見て、Vcc=5Vあたりで使うのが下限のはずで、性能を悪くしないためにもできたらVcc=9Vくらい掛けたいものです。
【バラモジとしての評価波形・1】
写真の入力トランス:T2は低周波を通せないのでパスしてC結合で低周波:1kHzを与えています。(50Ωの終端あり) キャリヤ周波数は455kHzです。 1kHzは約-10dBmを加えて、このように奇麗なDSBが得られました。
IFTの負荷の1kΩ両端に0.6Vppくらい得られます。 写真はバランス調整を省略した状態ですが約30dBのキャリヤ・サプレッションが得られました。 SSB送信機では是非ともバランス調整を設けるべきで、バランス調整により容易に50dB以上が得られます。
【バラモジとしての評価波形・2】
上記と同じですが、過大入力を与えた時の状態です。 1kHzは上よりも10dB大きな0dBmを加えました。 写真のように飽和して「フラット・トップ」になってしまいます。
歪み方は他のDBM-ICと同じようですから過大入力には注意すべきです。 特に、フィルタ・タイプのSSBジェネレータの場合、フィルタから出てきたSSBを復調し、耳で聞いただけでは歪みをあまり感じないことがあります。 実際には写真の程度にピークが圧迫されたフラット・トップ状態になっている可能性もあるのでDSBの状態で波形を確認すると良いでしょう。上の写真のようなリニヤな範囲で使うのが正しいです。 この写真の縦軸目盛りは上の写真の倍の0.2V/divになっているので注意して下さい。
【ミキサーとしての評価】
局発=1,455kHz、信号=1,000kHzとして入出力特性を測定してみました。 出力周波数:Fif=1455-1000=455(kHz)です。
局発レベルは、-20dBm、-10dBm、0dBm、+8dBmの4種類で実測しました。 信号の方は10dBまたは5dBステップで、-120dBm〜+7dBmまで127dBの範囲で変化させます。
負荷回路に上記回路図のIFTが入っているので、一般化するのは難しいかも知れませんが、おおよそ-10dBmくらいまでの入力範囲で使えばリニヤな動作と言えます。 この種のギルバートセル型DBMは差動増幅回路を電源電圧に対して積み重ねている関係で、電源の利用率が悪いですから電圧性の歪みが発生し易いのです。
もっとたくさん電流を流し、負荷インピーダンスを下げて使うパワフルなチップもありますがS042P/K174ΠC1はそのようなチップではありませんから、ほどほどのダイナミックレンジと言うことになるでしょう。
局発は-10〜0dBmで十分なようです。 それ以上与えてもダイナミックレンジの拡大は微々たるものです。 逆に-20dBmでは変換ゲインの低下も大きくなるので下限でしょう。
なお、グラフの曲線の左下部分でやや持ち上がりがあるのは、測定に使ったオシレータのノイズ・フロアが見えているためです。 DBM-ICそのものはさらに10dB以上ノイズレベルが低いようでした。 受信機のフロントエンドに使っても悪くないS/Nが得られそうです。
【RFレベル測定器】
ノイズ・フロアに掛かるほどの微小信号まで読み取るのは広帯域なRF電圧計では無理があります。 ここでは、hp3586Aと言う選択レベル計:Selective Level Meter(SLM)を使っています。簡単に言えばSメータが良く校正された受信機のような測定器です。高分解能スペアナの発達で廃れてしまった測定器です。大きくて重たい二時代前の機械ですが小さな信号は読み取り易いのです。選択度は主に400Hzを使って測定しました。
この種の評価では下の方は-60dBm程度までの測定で済ませれば十分ですから、RFミリボルト・メータを使えば良いでしょう。455kHzにてmVの信号まで測定できる電子電圧計はたくさん存在します。 ただし、広帯域な電圧計は外乱の影響を受け易いのでしかるべきシールドを行なって、なるべく測定系を低インピーダンスに保つような工夫をします。 なお、検波プローブ型のRF電圧計(=P型バルボル)ではここまでの細かい測定は難しいです。
特定の測定器が無いと「何もできない」と言う印象を与えたくないので測定のことは詳しく触れないことにしています。しかしグラフを見て同等の評価を試みる人もあるかも知れないので紹介してみました。(科学的なレポートとして使用計器や評価条件など詳細に書くのは当然ですが、あえてBlogでは記述を省略しています。手元記録には詳細が書いてあるのはもちろんです)
SLMの代わりにスペアナの管面から読み取っても良いです。カーソル機能を使えば読み易いでしょう。近ごろそちらの方法がポピュラーです。スペアナの機種によりノイズ・フロアやRBW(分解能帯域幅)も違うため測定限界は異なりますが-80dBm程度まで十分読めると思います。アッテネータ+ジェネカバ受信機(レベル比較用に)と言う組み合わせもあります。 要は工夫次第で何とでもなるので、あまり道具に捕らわれ過ぎませんように。 殆ど使わない遊休設備を増やすのでは勿体ないですし、増えたら管理の面倒も増すばかりです。所詮は自家用データなのですから手持ちの道具をやりくりしながら評価すれば十分でしょう。(笑)
★ ★ ★
またまたレア・パーツの登場で失礼しましたがロシア生まれを手短に紹介してみました。 実はS042Pの名前は前から知っていたのですが、着目していませんでした。今回触ってみて意外に面白いチップだと思いました。時間が取れれば自励式コンバータの実験もやりたかったですね。
戦前戦後を通じて日本は米国の技術圏内にあったのでヨーロッパや東欧圏のエレクトロニクスは縁遠い傾向があります。特に戦後は米国一辺倒になった感じです。 このDBM-ICのように米国系とは異なった発想で作られた面白いデバイスも多々存在する筈なので視野を広く持つべきだと思っています。 ずいぶん前に評価したTCA440もそのようにして見つけたEu発のデバイスでした。 皆さんおなじみの3端子ラジオだってルーツは英国にあるのですから。
入手性の問題は常にありますが、個人が数個使う程度なら手に入る可能性はあるので諦めない方が良いです。 モノによっては、注目されていないために驚くほど安価に手に入ることさえあります。逆に使い切れないほど押し付けられるとか・・。(爆) 要は「見る目の有無」と言えるのかも知れません。 ディスコンになったデバイスを血眼になって探すより幾らかでも建設的でしょう。 Yさんが東欧デバイスのマニアになるのが何となくわかった気がしました。de JA9TTT/1
#次回のバラモジはレアものではない路線で行きたいと思っていますが・・・。
☆
警告:通販で特別酷い目にあった経験はありませんが、様々な事故が報告されています。 商品が届かない、不良品や偽物が届く、最悪は支払い情報が漏洩するなど様々なトラブル事例を目にします。 海外・国内を問わず通販の利用は必ずご自身の判断と責任でお願いします。 このBlog筆者はその結果に責任は持てません。
(おわり)
【K174ΠC1】
西側のアルファベットで書けばK174PS1となりますが、ロシアの表記ではK174ΠC1と言う名前のDBM-ICです。
このDBMチップのオリジナルは独SIEMENS社(ジーメンス社)の「S042P」のようです。 型番表記はまったく異なりますがが内部等価回路やピン接続から見て、S042Pのセカンドソースと思って良さそうです。 近ごろ東側デバイスに凝っているYさんにお譲り頂きました。
e-Bayもしくは、ロシア・旧東欧系のお店で手に入るようですが多分いまでは作られていませんから古い在庫品でしょう。 ロシア・東欧(旧ソ連圏)では通信機関係に使っていたのではないでしょうか。 FMラジオのような家電品への活用も見かけましたがどうだったのでしょう。 製造量が限られていたなら、いずれ手に入らなくなりそうです。
オリジナルのSIEMENS製S042Pもヨーロッパ系の部品販売店で稀に見かけますが入手はあまり期待できそうにありません。Euの半導体各社は一時期米国や日本メーカーに圧倒され早々に見切りをつけたところが多かったのです。東欧製より先に生産中止になっていたはずです。 以下、ご覧頂くと悪くないチップなのですが普通にお店で買えるものではありませんからお奨めしにくいです。機能は他のICで代替できますので無理するほどの逸品でもないでしょう。 よって読み物としてご覧頂くのが適当ですから、以下もしお暇ならどうぞ。
★
写真のように、Dual-Inline 14ピンです。足ピンのピッチは概ね西側のそれと類似のようですが、外観に微妙な違いがあって独特の雰囲気を感じます。 ロゴマークが違うので別メーカとは思いますが、ラジオ用チップのK174XA10(TA7613AP同等品)と良く似た感じです。 東側のICチップの特徴なのでしょうか。 例によってDate Codeの付け方が西側と同じだとすれば1992年の初めのチップと言うことになります。
【S042P・K174ΠC1の内部等価回路】
基本的にギルバート・セル型のDBM-ICです。 すこし工夫が見られるのは、下段の差動対のエミッタが切り離された部分です。
単なるDBMとして使う場合はPin10とPin12のエミッタ同士を結んで使います。 あるいは抵抗を入れてやると差動ゲインを調節することができます。 さらに、この下側差動対を上手に使ってLCの自励もしくは水晶発振回路を構成することもできます。 使い方に制約があって設計しにくいのですが、SA612やTA7358Pと同じようにこのIC一つでコンバータ回路が作れます。 そのような使い方にメリットはあまりないだろうと思いますが、省部品にはなるので面白い発想です。
上記のような使用方法から一般的なギルバートセル型DBMとは違って、下段の差動対の方にキャリヤもしくはLocal-OSCを注入する方法が標準になっています。 信号は上段の2組の差動対の方へ加えます。 上段の差動対にはエミッタ抵抗が入っていないのでリニヤな差動入力電圧範囲は制限されてしまい大きな信号が扱えない不利があります。 もちろん一般的なDBM-ICのように下段に信号、上段にキャリヤまたは局発を加える使い方でも原理的に支障はありませんから、そのように使っても良いはずです。
バイアス回路が内蔵されているので、外付け抵抗器が要らずチップ周辺はスッキリしています。MC1496Pと比べたらかなり使い易いです。 電源電圧は12Vくらい掛けた方が良いですが下は5Vあたりまで使えそうです。 回路電流は12Vのとき2mAと少なめの設計なので、省電力です。ただしダイナミックレンジはそこそこでしょう。特別高性能を目指したDBM-ICではないのだと思います。
【テストしてみる】
次項に回路図を示しますが、メーカー指定の使い方でテストしてみました。 局発信号の大きさと、そのとき扱える信号の大きさがどう変わるのかを見るのが目的です。
実際に使う際に、局発もしくはキャリヤを何Vにして、信号の大きさをどこまでに留めるべきかがわかるはずです。 ゲインもわかるので後続するアンプの設計も可能になります。
Pin11とPin13に加えるキャリヤもしくは局発信号の部分、及びPin7とPin8に加える信号の部分は、バイファイラ巻の広帯域RFトランスを使っています。 Pin2とPin3の出力部分には455kHzのIFTを入れてあるので、出力は455kHzに限定されます。
写真のようなブレッドボードを使った評価ですが、K174ΠC1にはたくさんのGNDピンがあるので適宜GNDラインに結んでおくことにより安定した性能が得られています。 評価する周波数帯は局発やキャリヤ周波数など概ね1MHzあたりまでを選んでいます。 ICの規格上はFMラジオの周波数帯まで使えます。
参考)実際に内部回路のGNDラインに接続されているのは14番ピンのみです。他の1、4、6、9番ピンは無接続のN.CピンなのですがシールドのためにGNDして使用します。
【テスト回路】
左図はミキサー回路として評価する状態で書いてあります。 R1〜R3は発振器や測定系のための終端抵抗なので、実用回路では必要ないものです。 信号及びキャリアの入力端子ともに数kΩのインピーダンスを持つのでドライブは容易です。
出力回路には回路図のような巻数比のIFTを使っていますが、最適負荷と言う訳ではありません。 用途目的に応じて最適化すれば幾分性能は良くなる筈です。 以下の評価では、図のようなもので行ないました。従って一般性がある訳ではないことを予め書いておきます。 ただし、異常な負荷状態ではなくて、ごく標準的な状態になっています。従って実用の際にも類似の使い方で良いでしょう。
電源電圧を変えた特性も測定しておくべきでしたが、時間がなかったので以下は12Vの結果だけを示します。 等価回路から見て、Vcc=5Vあたりで使うのが下限のはずで、性能を悪くしないためにもできたらVcc=9Vくらい掛けたいものです。
【バラモジとしての評価波形・1】
写真の入力トランス:T2は低周波を通せないのでパスしてC結合で低周波:1kHzを与えています。(50Ωの終端あり) キャリヤ周波数は455kHzです。 1kHzは約-10dBmを加えて、このように奇麗なDSBが得られました。
IFTの負荷の1kΩ両端に0.6Vppくらい得られます。 写真はバランス調整を省略した状態ですが約30dBのキャリヤ・サプレッションが得られました。 SSB送信機では是非ともバランス調整を設けるべきで、バランス調整により容易に50dB以上が得られます。
【バラモジとしての評価波形・2】
上記と同じですが、過大入力を与えた時の状態です。 1kHzは上よりも10dB大きな0dBmを加えました。 写真のように飽和して「フラット・トップ」になってしまいます。
歪み方は他のDBM-ICと同じようですから過大入力には注意すべきです。 特に、フィルタ・タイプのSSBジェネレータの場合、フィルタから出てきたSSBを復調し、耳で聞いただけでは歪みをあまり感じないことがあります。 実際には写真の程度にピークが圧迫されたフラット・トップ状態になっている可能性もあるのでDSBの状態で波形を確認すると良いでしょう。上の写真のようなリニヤな範囲で使うのが正しいです。 この写真の縦軸目盛りは上の写真の倍の0.2V/divになっているので注意して下さい。
【ミキサーとしての評価】
局発=1,455kHz、信号=1,000kHzとして入出力特性を測定してみました。 出力周波数:Fif=1455-1000=455(kHz)です。
局発レベルは、-20dBm、-10dBm、0dBm、+8dBmの4種類で実測しました。 信号の方は10dBまたは5dBステップで、-120dBm〜+7dBmまで127dBの範囲で変化させます。
負荷回路に上記回路図のIFTが入っているので、一般化するのは難しいかも知れませんが、おおよそ-10dBmくらいまでの入力範囲で使えばリニヤな動作と言えます。 この種のギルバートセル型DBMは差動増幅回路を電源電圧に対して積み重ねている関係で、電源の利用率が悪いですから電圧性の歪みが発生し易いのです。
もっとたくさん電流を流し、負荷インピーダンスを下げて使うパワフルなチップもありますがS042P/K174ΠC1はそのようなチップではありませんから、ほどほどのダイナミックレンジと言うことになるでしょう。
局発は-10〜0dBmで十分なようです。 それ以上与えてもダイナミックレンジの拡大は微々たるものです。 逆に-20dBmでは変換ゲインの低下も大きくなるので下限でしょう。
なお、グラフの曲線の左下部分でやや持ち上がりがあるのは、測定に使ったオシレータのノイズ・フロアが見えているためです。 DBM-ICそのものはさらに10dB以上ノイズレベルが低いようでした。 受信機のフロントエンドに使っても悪くないS/Nが得られそうです。
【RFレベル測定器】
ノイズ・フロアに掛かるほどの微小信号まで読み取るのは広帯域なRF電圧計では無理があります。 ここでは、hp3586Aと言う選択レベル計:Selective Level Meter(SLM)を使っています。簡単に言えばSメータが良く校正された受信機のような測定器です。高分解能スペアナの発達で廃れてしまった測定器です。大きくて重たい二時代前の機械ですが小さな信号は読み取り易いのです。選択度は主に400Hzを使って測定しました。
この種の評価では下の方は-60dBm程度までの測定で済ませれば十分ですから、RFミリボルト・メータを使えば良いでしょう。455kHzにてmVの信号まで測定できる電子電圧計はたくさん存在します。 ただし、広帯域な電圧計は外乱の影響を受け易いのでしかるべきシールドを行なって、なるべく測定系を低インピーダンスに保つような工夫をします。 なお、検波プローブ型のRF電圧計(=P型バルボル)ではここまでの細かい測定は難しいです。
特定の測定器が無いと「何もできない」と言う印象を与えたくないので測定のことは詳しく触れないことにしています。しかしグラフを見て同等の評価を試みる人もあるかも知れないので紹介してみました。(科学的なレポートとして使用計器や評価条件など詳細に書くのは当然ですが、あえてBlogでは記述を省略しています。手元記録には詳細が書いてあるのはもちろんです)
SLMの代わりにスペアナの管面から読み取っても良いです。カーソル機能を使えば読み易いでしょう。近ごろそちらの方法がポピュラーです。スペアナの機種によりノイズ・フロアやRBW(分解能帯域幅)も違うため測定限界は異なりますが-80dBm程度まで十分読めると思います。アッテネータ+ジェネカバ受信機(レベル比較用に)と言う組み合わせもあります。 要は工夫次第で何とでもなるので、あまり道具に捕らわれ過ぎませんように。 殆ど使わない遊休設備を増やすのでは勿体ないですし、増えたら管理の面倒も増すばかりです。所詮は自家用データなのですから手持ちの道具をやりくりしながら評価すれば十分でしょう。(笑)
★ ★ ★
またまたレア・パーツの登場で失礼しましたがロシア生まれを手短に紹介してみました。 実はS042Pの名前は前から知っていたのですが、着目していませんでした。今回触ってみて意外に面白いチップだと思いました。時間が取れれば自励式コンバータの実験もやりたかったですね。
戦前戦後を通じて日本は米国の技術圏内にあったのでヨーロッパや東欧圏のエレクトロニクスは縁遠い傾向があります。特に戦後は米国一辺倒になった感じです。 このDBM-ICのように米国系とは異なった発想で作られた面白いデバイスも多々存在する筈なので視野を広く持つべきだと思っています。 ずいぶん前に評価したTCA440もそのようにして見つけたEu発のデバイスでした。 皆さんおなじみの3端子ラジオだってルーツは英国にあるのですから。
入手性の問題は常にありますが、個人が数個使う程度なら手に入る可能性はあるので諦めない方が良いです。 モノによっては、注目されていないために驚くほど安価に手に入ることさえあります。逆に使い切れないほど押し付けられるとか・・。(爆) 要は「見る目の有無」と言えるのかも知れません。 ディスコンになったデバイスを血眼になって探すより幾らかでも建設的でしょう。 Yさんが東欧デバイスのマニアになるのが何となくわかった気がしました。de JA9TTT/1
#次回のバラモジはレアものではない路線で行きたいと思っていますが・・・。
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警告:通販で特別酷い目にあった経験はありませんが、様々な事故が報告されています。 商品が届かない、不良品や偽物が届く、最悪は支払い情報が漏洩するなど様々なトラブル事例を目にします。 海外・国内を問わず通販の利用は必ずご自身の判断と責任でお願いします。 このBlog筆者はその結果に責任は持てません。
(おわり)