【回路:クリスタル・コンバータ】
【太宰府天満宮の紅梅】
春分の日も過ぎ、桜の便りも届いています。 桜には少し早く、梅にはもう遅いあいにくのタイミングでしたが少し旅に出てきました。
九州も鹿児島は訪問したことがありましたが、他県はみな初めてです。 福岡、大分、宮崎、熊本そして長崎と巡って帰ってきました。
良く交信して頂いている熊本のOMさんにもアイボールしたかったのですが、半日ほどの滞在ではそうも行きません。 シャックを訪問させて頂きたいと思いつつも、残念な思いで後にしました。
もっとゆっくりした旅ができたなら良いのですが、ツアーともなると自由が利きません。 三泊四日でしたが振り返って見れば慌ただしいでね。
☆
・・・と言うことで、旅の疲れもあり三月2回目のBlog更新は中身がありません。 あしからず。(笑)
【コイルの作成から】
簡単なクリスタル・コンバータ(略称:クリコン)を作ろうと思っています。 まだ検討している実験途中ですから回路図は次回以降にします。 回路は確定していませんが、取りあえず実験回路は決めたのでコイルを巻いたところです。
クリコンの入力周波数は50MHzで出力は5MHz帯を予定しています。 クリスタルは45MHzの3rdオーバートーン用あるいは、15MHzの水晶をオーバートーン発振させる方法を考えています。 いずれも無いようなら14.318MHzの水晶でも良いかも知れません。この場合は7MHz帯に周波数変換されます。 在庫未確認ですが、45MHz/3rd-OTの手持ちは無いかも知れないので第2案になりそうです。
コイルはトロイダルコアに巻いて同調はトリマ・コンデンサで行くか、10Kボビンに巻いてコアの調整で同調をとるか少々迷ったのですが、写真のように10Kボビンにしました。
50MHzともなると、こうしたボビンに巻き線するよりも太めのメッキ線・・銀メッキが良い・・でコイルを巻き、同調はエアートリマが良いのだろうと思いつつコンパクトな製作を優先して10Kボビンにしました。 凝った回路で優秀なデバイスを使う設計なら銀メッキ線+エアートリマに限ります。 しかし、ポピュラーなRF用デバイス・・要するに安価なデバイス・・だけで構成するつもりですから10Kボビンが似合っているでしょう。
インダクタンスvs巻数のチャートを使って巻き線しました。 周波数が高いため巻き回数はごく少ないので簡単に巻けます。 ただし前準備が面倒でした。 新品のボビンに巻くわけではありません。まずは分解して既存の巻き線や内蔵コンデンサを除去する必要があります。 シールドケースは結構しっかり止めてありますから、それを外すのが第1関門です。 コイルにダメージを与えずに奇麗に外すのが難しいですね。 頻繁にやるなら分解用の治具が欲しくなります。 まずはコイル巻きが終わったので、次回は少し回路実験も進むでしょう。
☆
ジェネカバの受信機やトランシーバが当たり前になっています。 50MHzなんて何の苦労も無く受信できます。 それに5〜600円も出せばUSBワンセグチューナが手に入り、そのSDR応用でオールバンド・オールモード受信ができる昨今です。もちろん50MHzも聞こえます。 ですから「クリスタル・コンバータ」を作って親受信機に付加するなんて言う受信法は時代遅れでしょうね。 それはその通りなので否定はしませんが遊ぶ中身がブラックボックスでは何となく物足りなさを感じます。 ディスクリート部品を寄せ集めて「受信機」とか作る方が面白く感じますね。コイルを巻きトランジスタをならべる製作の中に手作りの楽しさがあります。 de JA9TTT/1
(つづく)←続きへリンクfm
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2016年3月23日水曜日
2016年3月9日水曜日
【回路】Short Wave Radio Design (1)
【回路:短波ラジオの設計・試作】
【短波ラジオを開発する】
雑誌の記事やネットの検索で中波(BCバンド)のAMラジオを作る話はたくさん見つかります。でも、短波(SWバンド)が聞こえるラジオを作る話はずいぶん少なくなるようです。
試しに「短波ラジオ」で検索してみましょう。短波付き真空管式ラジオの話なら意外に見かけます。ノスタルジーを感じてご年配のお方が製作さているようですが、新たに部品を入手して作るのは難しそうです。
短波ラジオを半導体で作る話はぐっと少なくなります。再生検波のストレート式ならいくらか検索ヒットしますが、特にスーパーヘテロダイン式は希なようです。ICを使うと容易そうですがそれも珍しいのです。 自作ハムが作るHAM Band専用機はスーパー式が大半です。ただし受信周波数が限られていて「短波ラジオ」とは違うものです。短波帯を広くカバーするごく普通の「短波ラジオ」をトランジスタを使ってスーパー形式で作る話は殆ど見かけません。
トランジスタを使った短波ラジオを作ってみましょう。総合的な性能で優れるスーパー形式で行きます。今でもたやすく手に入る部品を使って作りたいと思います。
☆
写真はブレッドボードを使って短波ラジオを開発している様子です。もちろんスーパーヘテロダイン形式です。 ごくありきたりの入手し易いトランジスタやICを使っています。 受信できる周波数の範囲は3.4〜10.2MHzになるよう設計しました。 できたら3.5MHz帯のHAM Bandも含めたいと思い下限を3.4MHzにしています。 もちろん市販の短波付きトランジスタラジオのように3.9〜12MHzをカバーする設計もできます。以下、その方法も含めて説明しましょう。
ブレッドボード:BBでの試作ですから中波帯のラジオのようには行かない所があります。 一番の問題は周波数安定度でしょう。 短波ラジオは受信周波数が高くなるので周囲の影響を受け易くなって周波数安定度は悪くなります。部分によっては手を近付けただけでも受信周波数が変動します。 実用品にするにはきちんとハンダ付けして組み立て必要な箇所にはシールド(遮蔽)も施します。 実験としてはブレッドボードも良いのですが、試作が済んだら次のステップとしてハンダ付けで製作しましょう。
以下ご覧頂くと回路はごく簡単です。見かけは簡単ですが周波数の高い短波帯の製作になります。初心者がいきなり挑戦しても成功する可能性は小さいでしょう。 もしチャレンジされるなら中波帯のラジオ(スーパーヘテロダイン形式が良い)で製作と調整を体験してから取り組んで下さい。 単に製作するのではなくスーパーヘテロダインの仕組みを良く理解しておくことが大切です。 また、調整や確認にはそれなりの測定器が必要です。 なるべく詳しく説明していますが、DMM:デジタル・マルチメータだけでは完全な調整はできません。お知り合いの先輩がお持ちの測定器も頼りにして製作されることを期待しています。 想定している測定器は(1)オシロスコープ、(2)テストオシレータなどの高周波信号発生器、(3)デジタル・マルチメータ、(4)周波数カウンターです。
以下、自家用資料を含むため一部に一般的ではないデータもあります。 また詳しく書くにも限界がありますから貴方が知りたい事のすべてが書かれている訳ではないでしょう。 ご質問をいただいても大丈夫ですが常識の範囲でお願いします。私は占い師じゃありませんから断片的なお話だけでピタリとわかるわけではありません。ご質問を整理して具体的な内容をお聞かせください。 なお、この先の話は高級指向のお方には詰まらないと思われます。ここでお帰りが宜しいでしょう。 では『易しくてツマラナイ話し』かと言えば、たぶんそうではありません。
参考:このBlogにはHAM Bandの受信を目的とした再生検波式の短波受信機の話(全6回)もあります。こちら(←リンク)
【局発回路の検討】
スーパーヘテロダイン形式のラジオで最も重要なのは局部発振器(局発:Local-OSC)ではないでしょうか。 例えば、電池が消耗してきて他の回路はまだ生きているのに、局発がストップしたらもう何も聞こえなくなります。
ストレート形式のラジオなら、感度や音質は悪いなりにも電池が消耗してからかなり聞こえるのが普通です。 しかし、スーパー受信機では局発が止まればそこでオシマイなのです。
ですから、スーパーでは局発がキーポイントです。 短波帯の広い周波数範囲で確実に発振し、少々の電圧低下では発振停止しない発振回路が必須です。 しかも良好な発振波形が得られるような局発回路の開発が短波ラジオでは最も重要で難しいものでした。 ことに局発コイルの設計が難しく、まず最初に着手した部分です。 写真は、局発コイルのテストと発振トランジスタの動作点を検討している様子です。 2SC1815Yと言ったシリコン・トランジスタだけでなく、2SA101のようなゲルマニウム・トランジスタでもテストしました。
実験により中波帯のラジオとは少々異なるセンスで設計しなくてはならないなど様々な知見が得られたと思います。 そのデータを検証するために標準的な短波ラジオを試作することにしました。 最終的には中波と短波の2バンド・トランジスタ・ラジオが目標ですが最初は短波専用で作ってみます。
【短波ラジオの回路図】
たくさんデバイスを使い各回路をブロックごとに独立して製作するなど、通信機のような高級な手段を使えばむしろ製作は容易になります。 しかし、ここは単なる短波ラジオですから、ごくシンプルにありきたりのトランジスタを素材にミニマムな設計にしています。
短波帯の電波は中波放送と比べてかなり微弱です。そのため中波ラジオのようにフェライト・コア材を使ったバーアンテナを内蔵しただけでは良く聞こえません。最初から外部アンテナを使って受信するのを前提にしました。 従って、アンテナコイルは普通のコイルになっていてバーアンテナ形式ではありません。アンテナコイルの1次側はローインピーダンス設計です。使用するアンテナはロングワイヤなどではなく、受信周波数に合わせたダイポールアンテナを同軸ケーブルで接続するのに向いています。 もちろん、数mのビニル線のような簡易なアンテナでも日本向けの短波放送くらいなら十分聞こえるでしょう。 良好な短波受信には良いアンテナに勝るものはありませんが・・・。
周波数変換は「自励式コンバータ」を採用しています。 局部発振と周波数変換を1つのトランジスタで行ないます。 それだけに最適な動作をさせるのは難しいのですが、後の説明のようなコイルを製作することで満足できる性能が得られています。 消費電力が少ないので、熱的な安定度も良好で短波のラジオ放送でしたら長い時間ダイヤルの再調整なしに聞くことができます。
中間周波増幅は一般的な6石ラジオと同じ2段増幅です。周波数はラジオでは標準の455kHzです。トランジスタは2SC1815Yを使います。 ゲインは十分ありますが、選択度はそれほど良くないので必要に応じてセラミック・フィルタなど補うと良いでしょう。フィルタについてはあとで説明があります。 検波はゲルマニウム・ダイオードの1N34Aを使いました。 1N60や1K60でも同じように使えます。 ショットキー・バリア・ダイオード:SBDの1SS97などでも大丈夫です。
低周波増幅部分もトランジスタで作ることができますが、まずは高周波部分の実験が目的ですからICを使って簡略化しました。 電源電圧は6Vで設計しました。従って定番のLM386が適当でしょう。 ゲインは200倍で使っています。 ▲印のコンデンサはすべて0.1μFの積層セラコンを使います。耐圧は10V以上あれば何Vでも良いです。(回路図中の注意書きが漏れておりました)
短波ラジオと言うことで、ビート発振器(唸周波発振器:BFO)を追加してあります。 ブレッドボードのままでは選局や周波数安定度の点で難がありますがBFOがあればCWやSSBが結構聞こえるのがわかりました。 きちんと製作してスプレッド・ダイヤルなどを補えば通信型受信機のように扱えそうです。十分な感度もありますのでHAM Band受信のためにBFOを付ける意味があります。 なお、プロダクト検波のような高級回路は搭載していないためBFOの注入はIFアンプの初段のところが良かったです。 あまりBFOが弱いとSSBの復調が困難です。 逆に注入が強すぎればAGCが掛かって感度が低下するので、BFOの注入レベルは加減が必要です。 具体的にはC27:10pFで加減します。
4石2ダイオード、1-ICです。回路を見たらラジオで肝心のRF部は6石スーパそのままなので馬鹿にされそうです。 ところが、マトモなアンテナの使用が前提ではありますが、3.5MHzや7MHzのHAMバンドの受信でも実用的な感度があります。 これで下手な五球スーパ以上に良く聞こえますから驚かされます。 それもそのはず、例えばハムにおなじみの簡単トランシーバ:PIXIE-Ⅱなど、へんてこ(失礼)な検波回路のあと、LM386で増幅しているだけです。 それでもQSOできるのです。 それと比べれば、周波数変換部で30dB近いゲインがあり、中間周波増幅2段で50dBほどのゲインがあるのですから良く聞こえて何も不思議ではありません。良くできた6石スーパなら100〜120dB(10万〜100万倍)のゲインがあるんですから侮れずですね。 ここで作る「短波ラジオ」も120dBくらいのゲインがあってアンテナさえ悪くなければ十分良く聞こえるわけです。
こんなシンプルな短波ラジオでも、操作しやすいようにきちんとしたダイヤルを付けてやればかなり楽しめるでしょう。 そのような意味でスプレッド・ダイヤルやアンテナ・トリマ、BFOなど通信用にも使える装備を搭載しています。 製作するのでしたら、ぜひそれらを設けて下さい。主同調のバリコンには必ず減速機構を付けます。 カバーする周波数範囲が中波ラジオの何倍(この例では6倍以上)も広いためダイヤル操作は非常に微妙になります。 取りあえず実験してみるなら別ですが、減速ダイヤルなしで短波ラジオは殆ど実用になりません。十分に減速されたダイヤル機構はHAM用ではなくても短波ラジオには絶対必要です。
消費電流の少なさも特筆できます。 無信号状態では8〜9mAしか流れません。 大きな音を出すと消費電流は増えますが、それでも単三乾電池4本で長時間受信できます。 本格的に通信機に仕立てるなら相応の装備を付加したくなります。 しかし、それら回路の消費電力も考えたいところです。デジタル表示の周波数カウンタなど付けたなら100mA以上必要ですから電気の食い過ぎです。すなおにアナログ式ダイヤルで済ませた方がマッチしているでしょう。そのあたりどうやって読み取り精度を上げるとか、メカ部分のウデの見せどころでしょうか。(笑)
【コンバータ部】
以下、簡単に各部を見て行きます。 最初はコンバータ部です。 既に説明のように、局部発振器と周波数変換を1石で兼用しています。 たいていの小信号用シリコン・トランジスタが使えると考えて良いでしょう。 厳密には2SC1815Yよりもこの用途に向いたトランジスタがあって、測定器で比較すれば差異がわかるようです。
しかし2SC1815Yほか色々差し替えてみましたがどれでも大差なく良好に受信できます。例えば2SC183、2SC372、2SC458、2SC536、2SC710、2SC828、2SC945など何でも大丈夫でした。 但し無闇にfTの高いトランジスタは避けた方が無難です。(fTが1000MHz以上のようなトランジスタ) 回路図と同じトランジスタを使っても個々のバラツキによってコレクタ電流に違いが現れます。 回路定数は直流増幅率:hFE=150前後のトランジスタを想定して設計してありますが、コレクタに流れる電流;Icが大幅に違ようようなら、回路図のR1:15kΩを加減してIc=1mA前後に調整します。
オシロスコープがあれば、バリコンを回しながらエミッタの発振波形を観測して下さい。 発振振幅は周波数が低い方から高い方までバリコンを回して観測してみて400〜600mVppあたりであって、大きな変動がなければ正常です。 周波数の高い方で少し正弦波が崩れ波形が劣化すると思いますが、ブロッキング発振(間欠的に起こる不規則な発振現象)を伴わなければ特に支障はありません。 周波数が高い方でブロッキング発振が起こるようなら、まずはR1を大きくしてコレクタ電流を減らしてみます。それでもダメそうなら、思い切って別の種類のトランジスタに交換してみます。
【中間周波増幅と検波】
2段ある中間周波増幅も2SC1815Yを使っています。 ここも小信号用のシリコン・トランジスタなら何でも使えると思って大丈夫です。(写真は2SC372Yに交換してテストしている様子)トランジスタを変えたら後述の様にコレクタ電流を測定し、必要に応じバイアス抵抗を加減・調整します。
1段目の2SC1815YにはAGC(自動利得制御)を掛けてあります。リバースAGCですからAGCが掛かるとコレクタ電流は減少します。 ただし、こうした近代的シリコン・トランジスタは少々コレクタ電流を減少させたところで、ゲインはそれほど低下しません。従って、あまりAGCは効かないと思った方が正解です。 それでも、強力な信号で飽和するのを防ぐ意味はありますからAGCは無意味と言うことではありません。
バイアス調整用の抵抗R7: 47kΩでIF初段のコレクタ電流、R10:27kΩで2段目のコレクタ電流を調整します。 概ね回路図に記載の電流値の・・±30%以内くらい・・・になっていれば調整しなくてもOKです。 もちろん、無信号状態で確認・調整します。
なお、信号を受信し、AGCが掛かるとIF初段のコレクタ電流が変化(減少)します。 エミッタ電流も同じように変化しますので、エミッタ抵抗R5:1.2kΩと直列にフルスケール500μA程度のラジケータを入れると簡易なSメータになります。 その場合、ラジケータの内部抵抗(たぶん数100Ωでしょう)の分だけ、R5の値を減らして下さい。例えば500Ωのラジケータなら、R5を680Ωに変更して下さい。 だいたいの値で大丈夫です。
このSメータは特別な部品が要らないうえ、無用な消費電流もないので悪くないのですが指針は逆触れになります。 信号がないとき右に振り切れていて、強い信号が入ると電流が減って指針が左に下がる特性です。 振り切れ具合はバイアス調整用の抵抗:R7で加減できます。 非常に簡易なSメータですが同調指示器として便利ですから、付けておくと良いでしょう。本当の意味でのラジケータの使い方です。(笑)
☆さっそく引出しから約500μAのラジケータを見つけ、Sメータにしてみました。 使ったラジケータの内部抵抗は700Ωくらいあったので、R5は470Ωにしました。 簡易型とは言えSメータはかなり効果的で指針の振れを見ながらの同調は容易になりました。 また短波放送は電離層の状態により、信号の強さが時々刻々かなり変化しています。 Sメータの動きを見ていると短波の伝搬状態が見えてくるようで楽しいものです。 おすすめの装備と言えるでしょう。(追記:2016.03.12)
【IFTとセラミック・フィルタ】
元々が短波ラジオなのでHAM用通信機ではないと言うコンセプトですから選択度は特別良くしていません。従って一般のAMラジオ並みです。 それでも短波ラジオ放送の受信にはまずまずでした。海外放送が良い感じに受信できます。
しかし、ちゃんとしたアンテナを付けるとHAMバンドも意外に良く聞こえますからもう少し選択度を良くしたくなるかも知れません。 本格的なフィルタ・・・Collinsのメカフィルや高級なクリスタル・フィルタを付けたのでは通過損失が大きすぎて感度の低下が甚だしいでしょう。 フィルタを付けるのでしたら、少々選択度は甘いのですが写真のようなラジオ用セラミック・フィ
ルタが向いていると思います。(写真のCFT-455B/Cは既にディスコン部品かもしれません)
BCLにはそれで十分な選択度だろうと思います。 私はRN2(ラジオ日経・第2プロ)の音楽をHi-Fi(?)に聞きたいので、あえて普通の中間周波トランスのままにしています。 HAMバンドの交信はだいぶ混信しますが短波放送の受信には支障はありません。 左図はこのラジオに向いた簡易なフィルタのピン接続図です。かなり古い物がほとんどなので参考程度にどうぞ。
写真のようなトランス内蔵型のセラミック・フィルタが手に入らない場合は、IFTを併用するとうまく行きます。選択度も概ね同等になります。
すべて一般的なIFTだけで済ませる場合、市販されている3個組の「トランジスタ・ラジオ用IFT」を購入します。あるいは、aitendoで売っている「IFTきっと」に自分で巻線して製作することも可能です。写真のブレッドボードの製作例では自作したIFTを使っています。この「IFTきっと」を使ったIFTの自作方法についてはトランジスタ技術誌2015年10月号に詳しい記事があります。そのほかトランジスタ・ラジオの製作に有用な情報を纏めました。ラジオがお好きなお方にお買い求め頂けたら嬉しいです。バックナンバーがあるうちにどうぞ。(←下記の書籍をお薦めします)
参考:上記トランジスタ技術誌の記事のほかICを使ったラジオの製作記事などをまとめ、幅広くラジオの製作を扱った書籍が発売されています。コイル巻きについて実践的で詳しい話も載ってます。お手頃な価格ですがラジオ作りがお好きならたっぷり楽しめるでしょう。私も執筆に参加してます。詳しくは出版社(←リンク)の案内でご覧を。(2021.12.05)
【BFOと低周波増幅】
唸周波発振器:BFOはSSB(単側帯波通信)やCW(無線電信)の受信には必須です。 もともと短波の国際放送を聴くための「短波ラジオ」がコンセプトだったので、最初は付けていませんでした。
しかし、試しに付けてみたところ7MHzのHAMバンドでHAM局の交信が聞こえてきました。 できるだけ良く聞こえるようにBFOの注入レベルや注入場所などを検討した結果、回路図のような方法に落ち着きました。 検波ダイオードの所に注入するには、かなり大きなBFOレベルが必要でした。また、そのようにすると受信信号によるBFO周波数の引っぱり現象(Pull-In)が発生してうまくありません。
色々試して、弱めのBFO信号をIFアンプの初段に注入する方法が一番良さそうでした。 なお、そのようにするとBFOによってAGCが掛かってしまいます。 しかし、先に書いたようにもともとAGCの効きは良くないので、BFOの注入レベルを加減してやれば支障なく受信できるようです。 まずはAM受信の状態で回路の動作が完全になったら、最終調整としてC27:10pFを加減してSSBやCW受信が快適にできる所を見つけて下さい。 数pF〜10pFくらいの所に最適点があるようです。 BFO発振に使うIFT:T3の種類によってもC27の最適値は異なります。BFO回路のトランジスタは他と同じように選んでOKです。要するにシリコンの小信号用なら何でも大丈夫です。
BFOコイル:T3にはトランジスタラジオ用のIFTを使います。コアの色が白い中間段用のものです。2次巻数の関係から初段用(黄)か段間用(白)のIFTが良いでしょう。
BFOの発振状態はR20:3.9kΩで加減します。 オシロスコープを使って、T3の出力側:2次巻線のところで発振波形を見ながら奇麗な正弦波になるようR20の大きさを加減して下さい。 もしも発振しないようなら、R20の値を小さくします。 発振波形が歪んでいるようなら抵抗値を大きくします。 話が前後してしまいましたが、上記のC27の調整はこれが済んでからということになります。
【アンテナコイルと局発コイル】
アンテナコイルと局発コイルがこの短波ラジオを製作する上で、もっとも重要なポイントです。
残念ながら適当な市販品はありませんから自分で巻きます。 同調側に途中タップの引出しがあり、2次側にリンクコイルがあります。 既製品として手に入る「FCZコイル」も同じような構造ですが、タップの引出し位置や巻数比が適当ではないためそのまま使うことはできません。 必ず巻きなおして使うことになります。
ここでは、昔々購入した10Kコイルのジャンクを使って巻くことにします。 具体的には、このあとに示す巻数対インダクタンスのグラフにより、必要な全巻数を決めてからタップの位置を比計算で求めます。 その後、実際に巻き線することになります。
トラッキング回路の設計ですが、まずは受信範囲を決めます。 受信周波数の下限と上限の比は1:3以下でないと多くの場合設計が困難になります。ここでは下限:3.4MHz、上限:10.2MHzですからちょうど1:3です。
次に使用するバリコンを選定します。 バリコンは必ず等容量の2連型を使う必要があります。 中波ラジオでおなじみのトラッキングレス・バリコンは使えません。トラックングレス・バリコンは中波ラジオを簡略化するために作られた専用部品だからです。 短波ラジオを作るには等容量の2連バリコンを使います。 ここでは、手持ちの中から最大容量:Cmax=275pF、最小容量:Cmin=7.5pFの2連ポリバリコンを使いました。
市販品として、aitendoに最大容量266pFの等容量2連バリコン:443AB型(←お店にリンク)があります。公称の最大容量は少し違いますが、わずかの差ですからそのまま代替可能でしょう。 調整で吸収できる範囲の違いです。なお、お店の説明ではAMが2連でFMが2連の4連バリコンのように書いてあります。 現物を調べたところAM用の266pF2連ポリ・バリコンに4連のFM用バリコンが一緒になった6連バリコンでした。 背面にある4つのトリマ・コンデンサはFM用4連バリコンに付属のものです。 この短波ラジオに於いては、FMセクションを単独でスプレッドバリコンとして、2セクション並列でアンテナ・コンペンセータ(アンテナ・トリマ)として活用できます。(注:同じバリコンを3個購入し、主同調用に1つ、スプレッド用に1つ、アンテナ・トリマ用に1つ使います)
参考:このバリコン:443AB型を実際に入手して詳しく調べてみました。もし入手予定なら評価レポート(←Blog内リンク)をご覧下さい。
バリコンを決めたら、必要なトラッキング設計を行ないます。 少し面倒な計算ですから途中の過程は省きますが、局発コイルが6.35μH、アンテナ・コイルが7.27μHになるように巻き線します。 その他、タップの位置や2次側リンクの巻数はインダクタンスとQuなどから決めるほか、ある程度実験的に追い込む必要もあります。 このあたりが既製品のコイルで済んでしまう中波ラジオより難しく、厄介なため短波帯のトランジスタ・ラジオの製作例が少ないのでしょう。 しかし、そうした検討が済んでいる下記の製作例を参照して巻けば大丈夫です。
写真のコイルは完成した状態です。
参考:標準的な3.9〜12MHzをカバーする短波ラジオの作り方。
アンテナコイル:5.57μH、局発コイル:4.96μHを目標にコイルを巻いて下さい。 巻数が求まったらタップ位置と2次側の巻数は比計算で求めて下さい。 また、局発回路のパディング・コンデンサ:C15は2150pFに変更します。(2200pFで良い) ストレー容量、トリマコンデンサなどは上記の例と同じで大丈夫です。
【短波ラジオのコイル製作図】
同じボビンがないと、そっくりそのまま同じように巻き線するわけにも行きませんが、少し詳しく書いておきます。 自家用の備忘でもありますが、具体的な構造がわかるでしょう。
手持ちのボビンに巻く時は、まずは必要なインダクタンスを得るための巻数を実測から求めて下さい。 巻数を求める際、中心のネジコアはシールドケースの上端から概略2mm程度下がった位置にしておきます。 そのようにして、約6.4μHと約7.3μHのインダクタンスが得られる巻数を求めます。 あとはタップの位置と2次側巻線の巻数を図を参照して比例計算で求めます。
類似のコイル・ボビンを改造するなら巻数が極端に違うことは無いはずです。 巻数が2倍、あるいは半分になるような時は、使用予定のコイル・ボビンの用途を再確認して下さい。 お薦めは、FCZ-10S3.5のような、3.5MHz帯のハムバンド用コイルの改造(巻換え)です。 元来の目的から考えて類似した性能のコイルが製作できる筈です。
局発コイルは巻き方向を間違えると発振しませんので特に注意して下さい。図の黒ドット●があるピンが巻き始めです。 そこから必ず同じ方向に巻いて行きます。 私の場合、●のピンから巻き始め、コイルを上側から見た時に「反時計回り」に巻いて行くのを標準にしています。 接続は回路図も参考にしながら、上図にある通りに行ないます。
【例:10Kコイルのインダクタンス】
ここで使用したコイルの巻数対インダクタンスのグラフです。 コイルの型番はたまたまジャンクで入手した現品に印刷されていたものです。 在庫部品の識別のために書いてあるだけで、何かメーカーの型番と言うわけではないと思って下さい。単なる識別記号です。
このようなグラフが作ってあれば簡単にコイルを巻くことができます。 これが役立つ人は殆どいないでしょうが、一例として示しておきました。 グラフを見るとわかりますが、こうした10Kコイルは意外にQが低いようです。 周波数帯によって最適なインダクタンスがあるわけですが全般に低めでした。 これはFCZコイルでもそれほど違いません。 Amidonのトロイダルコアの方がQuが高くて良いのですが、巻いたあとからインダクタンスの加減ができないのが欠点です。 そのため、こうしたラジオの場合うまい具合にトラッキング調整ができません。
【コイルの内部構造】
見ても仕方がないと思いますが、このような状態です。 10Kボビンに対して、やや大きめのインダクタンスなのでφ0.16mmの巻線ではほぼ一杯の巻数になります。
写真のコアは3段の巻ミゾがあります。 調べたところ4段ミゾの物もあるので、巻数が必要な場合はそうした物を使うと良いでしょう。 一般に4段巻ミゾのものはコア材の比透磁率:μもやや大きいようです。 大きめのインダクタンスが得易いようにできているようでした。 10Kボビンにはそれほど種類はないと思っていたのですが、改めて調べなおしたら手持ちの中にも幾つかバリエーションがあることがわかりました。 それぞれ適材適所があると思うのでその辺りを調べて特性を掴んでおきたいと思っています。
以上、コイルの巻き方を主に短波ラジオの作り方を説明しました。 短波ラジオに適したコイルを作るのがキーポイントです。 コイルさえ作れれば、昨今の半導体を使えば殆ど差のない性能が得られるでしょう。 各自工夫して頂くのは大いに結構ですが、まず最初はなるべく例示したデータに基づいて実験してみて下さい。 あまりにも逸脱した製作では、ご質問頂いてもお答えは困難です。
☆
【調整方法】 以下、ごく簡略になりますが短波ラジオの調整手順を説明します。順を追って調整を行なって下さい。
(1)製作の確認:
まずは十分な目視確認をします。 続いて各部の電流や電圧を確認して配線や部品に間違えのないこと確認して下さい。 配線間違いは通電する前に気付くのがベストです。 誤りの内容によっては一旦通電してしまうとトランジスタやICなど半導体を破損してしまう危険性があります。
(2)中間周波トランスの調整:
テストオシレータ等の信号発生器で455kHzを発生します。変調を掛けると調整が容易です。 やや強めに信号を発生し、アンテナ端子から加えます。 中間周波トランス:
IFT1(黄)〜IFT2(白)〜IFT3(黒)のコアを順に調整して信号が一番良く聞こえるようにします。 良く聞こえるようになってきたら、徐々にテストオシレータの信号を弱く絞って行くようにします。なるべく絞った状態で、各コアを調整して終了します。
(3)局発の調整:
最初に10pFのスプレッド・バリコン:VC3を羽根が半分入った位置に固定します。 以後VC3は調整が済むまで動かしてはダメです。 テストオシレータ等の信号発生器で3.4MHzを発生します。 変調を掛けると信号がわかり易いでしょう。 その状態で、バリコン:VC1abを反時計方向に回し切って最大容量の位置にします。 信号発生器をアンテナ端子に接続します。 なお、信号発生器の信号強さは調整が進むにつれ徐々に絞るようにします。最終的には確認ができる範囲で必要最小限の強さに絞って調整して下さい。
まず、局発コイル:T2のコアを回して3.4MHzの信号が一番良く聞こえるようにします。 次にテストオシレータで10.2MHzを発生します。 バリコン:VC1abを時計方向に回し切り、最小容量の位置にします。 その状態でトリマ・コンデンサ:TC2を回して10.2MHzの信号が一番良く聞こえるようにします。
以上、3.4MHzでT2のコア、10.2MHzでTC2の調整を周波数を上下2点間で往復しながら数回繰り返します。 普通は3〜4往復すれば、バリコン:VC1ab最大容量の位置で3.4MHzが、バリコン:VC1ab最小容量の位置で10.2MHzが受信できるようになる筈です。 この2点が良く合ってきたら、10.2 MHzにてTC2を最後に微調整して局発の調整を終了します。これでこの短波ラジオの受信周波数範囲を設定することができたことになります。
参考:スーパーヘテロダインに付き物のイメージ周波数の受信があります。 まちがってイメージ周波数に合わせぬように理屈を考えながら調整します。 特に高い周波数側の調整で間違え易いようです。 10.2MHzにて、トリマコンデンサ:TC2をいっぱいに入れた状態(最大容量)から、抜いて行くと最初に聞こえるのがイメージ信号の方です。 さらに抜いて行くと、聞こえる方が本物の信号の方です。 TC2は最小容量の状態から増やす方向へ調整する方が安全かも知れません。最初に捉えた信号に合わせれば良い訳ですので。 調整が進んでくると間違えにくくなりますが、最初のうちはズレが大きいのでイメージ信号の方に合わせてしまう可能性があります。十分に注意して下さい。
(4)アンテナ・コイルの調整:
最初にアンテナ・トリマ:VC2の羽根が半分入った位置に固定します。 このバリコン:
VC2は調整が済むまで動かしてはダメです。 また局発コイル:T2や関連のトリマコンデンサ:TC2には触れないように注意します。 それらは既に調整済みなので、もし間違って手をつけたなら上記の(3)の調整を再度行なう必要があります。
まず、テストオシレータから3.8MHzを出します。 同調バリコン:VC1abを低い周波数の側からゆっくり高い周波数の方向へ回して行き、その3.8MHzの信号を受信します。 受信できたらダイヤルをそこで止め、アンテナコイル:T1のコアを回して一番良く聞こえる位置に調整します。
次に、テストオシレータから9.2MHzを出します。 同調バリコン:VC1abを高い周波数の側からゆっくり低い周波数の方向へ回してその信号が(最初に)受信できる位置に止めます。 更に周波数を下げて行くともう一度信号が聞こえるポイントがありますが、そちらはイメージ周波数なので間違えないようにします。 正しい信号の方が捉えられたら、その状態でトリマコンデンサ:TC1を調整して一番良く聞こえるようにします。 以上、3.8MHzでT1のコア、9.2MHzでTC1を周波数を数回往復して調整します。最後にTC1の微調整で終了します。 以上でスーパーヘテロダインで最も重要なトラッキング調整は終了です。 アンテナを繋いでみましょう。きちんと調整ができていると良く聞こえるようになったのがわかります。
参考:厳密にはトラッキングエラーを調べてエラーが大きすぎるようならパディングコンデンサの大きさを変えてみるなどの修正を行ないます。この短波ラジオの設計ではアンテナ・トリマ:VC2でトラッキング状態の補正ができるためそこまで厳密に行なう必要はありません。
(5)BFOの調整:
BFOピッチ調整のバリコン:VC4を羽根が半分入った位置に固定します。 455kHzの無変調信号をテストオシレータで発生させ、アンテナコネクタより加えます。 BFOをONしたら、BFOコイル:T3のコアをゆっくり回して発振周波数が455kHzになり、ゼロビートの状態になるようにします。 済んだらBFOをOFFします。
(6)ダイヤル目盛の記入:
テストオシレータから3.5MHz、4MHz・・・など、0.5MHz或は1MHzおきの周波数など適宜発生させダイヤル目盛板に周波数マーキングします。 上手にダイヤル板を作れば周波数直読も可能かも知れませんが、もともと高級なものではなく、単なる「短波ラジオ」ですから大まかな目盛りでも良いでしょう。 あとは気の済むようにやれば良いです。
文章で書くと難しそうですが要領がわかれば簡単だと思います。 現物と回路図を見ながら、まずは調整のイメージを良く掴んでから始めて下さい。
通常の受信時には使用するアンテナに合わせてアンテナトリマを調整しながら最も良く聞こえるようにして使います。 またハムバンドのワッチではスプレッドバリコンを併用すると同調し易くなります。
☆
真空管式の2バンドラジオなら良く見掛けるのですが、トランジスタでスーパー形式の短波ラジオを作る例はあまり見掛けません。 真空管にはコイルパックや標準的なコイルが市販されていました。だから製作が容易なのでしょう。 もしもコイルから自作する必要があったなら真空管で短波ラジオが作れる人は限られたでしょう。
短波付きトランジスタラジオ製作用コイルが市販された記憶はありません。東光のモノコイルのようなものはありますが、基本的にHAMバンド用です。それにアンテナコイルとして使うための物です。短波ラジオの製作にそのまま使えるようなものではありませんでした。 そのあたりが半導体で短波ラジオを作るのを難しくしているのでしょう。
自分でBCLラジオのようなものを作ってみたい人もあると思いますが、なかなかハードルは高いのです。 でもコイルさえ自分で巻くことができれば大丈夫です。トランジスタでスーパー形式の短波ラジオの自作は十分可能です。
例示したような自励コンバータ形式の場合は特に局発コイルの製作が難しいようです。 過去に何回か試したことがあるのですが、なかなか思ったように行きませんでした。色々なトランジスタラジオの回路図を眺めてみたのですがヒントは見いだせません。 そこで少し視点を変え、理想追求ではなく多少割り切ることで比較的容易に製作できる感触が得られました。 さっそく試作してみたところ、思った以上に良好だったのでBlogで扱ってみました。 短波の性質上、昼間はラジオ日経くらいしか聞こえませんが夜間ともなると放送バンドを主にたくさんの海外からの電波が受信できます。 家庭用2バンドラジオで夜な夜な「短波」を探った若かりし頃が思い出されます。
6石ラジオのような短波ラジオでも作り方次第で意外な実力を発揮するようです。 たくさん半導体を使った高級な回路が高性能なのは当たり前です。 高級指向のお方はこんなシンプルな短波ラジオに負けないよう「通信型受信機」で短波受信機の製作に挑戦されて下さい。 de JA9TTT/1
追記:ラジオ用IC:TA2003Pで短波ラジオを作る続編があります。こちら(←リンク)
(おわり)nm
【短波ラジオを開発する】
雑誌の記事やネットの検索で中波(BCバンド)のAMラジオを作る話はたくさん見つかります。でも、短波(SWバンド)が聞こえるラジオを作る話はずいぶん少なくなるようです。
試しに「短波ラジオ」で検索してみましょう。短波付き真空管式ラジオの話なら意外に見かけます。ノスタルジーを感じてご年配のお方が製作さているようですが、新たに部品を入手して作るのは難しそうです。
短波ラジオを半導体で作る話はぐっと少なくなります。再生検波のストレート式ならいくらか検索ヒットしますが、特にスーパーヘテロダイン式は希なようです。ICを使うと容易そうですがそれも珍しいのです。 自作ハムが作るHAM Band専用機はスーパー式が大半です。ただし受信周波数が限られていて「短波ラジオ」とは違うものです。短波帯を広くカバーするごく普通の「短波ラジオ」をトランジスタを使ってスーパー形式で作る話は殆ど見かけません。
トランジスタを使った短波ラジオを作ってみましょう。総合的な性能で優れるスーパー形式で行きます。今でもたやすく手に入る部品を使って作りたいと思います。
☆
写真はブレッドボードを使って短波ラジオを開発している様子です。もちろんスーパーヘテロダイン形式です。 ごくありきたりの入手し易いトランジスタやICを使っています。 受信できる周波数の範囲は3.4〜10.2MHzになるよう設計しました。 できたら3.5MHz帯のHAM Bandも含めたいと思い下限を3.4MHzにしています。 もちろん市販の短波付きトランジスタラジオのように3.9〜12MHzをカバーする設計もできます。以下、その方法も含めて説明しましょう。
ブレッドボード:BBでの試作ですから中波帯のラジオのようには行かない所があります。 一番の問題は周波数安定度でしょう。 短波ラジオは受信周波数が高くなるので周囲の影響を受け易くなって周波数安定度は悪くなります。部分によっては手を近付けただけでも受信周波数が変動します。 実用品にするにはきちんとハンダ付けして組み立て必要な箇所にはシールド(遮蔽)も施します。 実験としてはブレッドボードも良いのですが、試作が済んだら次のステップとしてハンダ付けで製作しましょう。
以下ご覧頂くと回路はごく簡単です。見かけは簡単ですが周波数の高い短波帯の製作になります。初心者がいきなり挑戦しても成功する可能性は小さいでしょう。 もしチャレンジされるなら中波帯のラジオ(スーパーヘテロダイン形式が良い)で製作と調整を体験してから取り組んで下さい。 単に製作するのではなくスーパーヘテロダインの仕組みを良く理解しておくことが大切です。 また、調整や確認にはそれなりの測定器が必要です。 なるべく詳しく説明していますが、DMM:デジタル・マルチメータだけでは完全な調整はできません。お知り合いの先輩がお持ちの測定器も頼りにして製作されることを期待しています。 想定している測定器は(1)オシロスコープ、(2)テストオシレータなどの高周波信号発生器、(3)デジタル・マルチメータ、(4)周波数カウンターです。
以下、自家用資料を含むため一部に一般的ではないデータもあります。 また詳しく書くにも限界がありますから貴方が知りたい事のすべてが書かれている訳ではないでしょう。 ご質問をいただいても大丈夫ですが常識の範囲でお願いします。私は占い師じゃありませんから断片的なお話だけでピタリとわかるわけではありません。ご質問を整理して具体的な内容をお聞かせください。 なお、この先の話は高級指向のお方には詰まらないと思われます。ここでお帰りが宜しいでしょう。 では『易しくてツマラナイ話し』かと言えば、たぶんそうではありません。
参考:このBlogにはHAM Bandの受信を目的とした再生検波式の短波受信機の話(全6回)もあります。こちら(←リンク)
【局発回路の検討】
スーパーヘテロダイン形式のラジオで最も重要なのは局部発振器(局発:Local-OSC)ではないでしょうか。 例えば、電池が消耗してきて他の回路はまだ生きているのに、局発がストップしたらもう何も聞こえなくなります。
ストレート形式のラジオなら、感度や音質は悪いなりにも電池が消耗してからかなり聞こえるのが普通です。 しかし、スーパー受信機では局発が止まればそこでオシマイなのです。
ですから、スーパーでは局発がキーポイントです。 短波帯の広い周波数範囲で確実に発振し、少々の電圧低下では発振停止しない発振回路が必須です。 しかも良好な発振波形が得られるような局発回路の開発が短波ラジオでは最も重要で難しいものでした。 ことに局発コイルの設計が難しく、まず最初に着手した部分です。 写真は、局発コイルのテストと発振トランジスタの動作点を検討している様子です。 2SC1815Yと言ったシリコン・トランジスタだけでなく、2SA101のようなゲルマニウム・トランジスタでもテストしました。
実験により中波帯のラジオとは少々異なるセンスで設計しなくてはならないなど様々な知見が得られたと思います。 そのデータを検証するために標準的な短波ラジオを試作することにしました。 最終的には中波と短波の2バンド・トランジスタ・ラジオが目標ですが最初は短波専用で作ってみます。
たくさんデバイスを使い各回路をブロックごとに独立して製作するなど、通信機のような高級な手段を使えばむしろ製作は容易になります。 しかし、ここは単なる短波ラジオですから、ごくシンプルにありきたりのトランジスタを素材にミニマムな設計にしています。
短波帯の電波は中波放送と比べてかなり微弱です。そのため中波ラジオのようにフェライト・コア材を使ったバーアンテナを内蔵しただけでは良く聞こえません。最初から外部アンテナを使って受信するのを前提にしました。 従って、アンテナコイルは普通のコイルになっていてバーアンテナ形式ではありません。アンテナコイルの1次側はローインピーダンス設計です。使用するアンテナはロングワイヤなどではなく、受信周波数に合わせたダイポールアンテナを同軸ケーブルで接続するのに向いています。 もちろん、数mのビニル線のような簡易なアンテナでも日本向けの短波放送くらいなら十分聞こえるでしょう。 良好な短波受信には良いアンテナに勝るものはありませんが・・・。
周波数変換は「自励式コンバータ」を採用しています。 局部発振と周波数変換を1つのトランジスタで行ないます。 それだけに最適な動作をさせるのは難しいのですが、後の説明のようなコイルを製作することで満足できる性能が得られています。 消費電力が少ないので、熱的な安定度も良好で短波のラジオ放送でしたら長い時間ダイヤルの再調整なしに聞くことができます。
中間周波増幅は一般的な6石ラジオと同じ2段増幅です。周波数はラジオでは標準の455kHzです。トランジスタは2SC1815Yを使います。 ゲインは十分ありますが、選択度はそれほど良くないので必要に応じてセラミック・フィルタなど補うと良いでしょう。フィルタについてはあとで説明があります。 検波はゲルマニウム・ダイオードの1N34Aを使いました。 1N60や1K60でも同じように使えます。 ショットキー・バリア・ダイオード:SBDの1SS97などでも大丈夫です。
低周波増幅部分もトランジスタで作ることができますが、まずは高周波部分の実験が目的ですからICを使って簡略化しました。 電源電圧は6Vで設計しました。従って定番のLM386が適当でしょう。 ゲインは200倍で使っています。 ▲印のコンデンサはすべて0.1μFの積層セラコンを使います。耐圧は10V以上あれば何Vでも良いです。(回路図中の注意書きが漏れておりました)
短波ラジオと言うことで、ビート発振器(唸周波発振器:BFO)を追加してあります。 ブレッドボードのままでは選局や周波数安定度の点で難がありますがBFOがあればCWやSSBが結構聞こえるのがわかりました。 きちんと製作してスプレッド・ダイヤルなどを補えば通信型受信機のように扱えそうです。十分な感度もありますのでHAM Band受信のためにBFOを付ける意味があります。 なお、プロダクト検波のような高級回路は搭載していないためBFOの注入はIFアンプの初段のところが良かったです。 あまりBFOが弱いとSSBの復調が困難です。 逆に注入が強すぎればAGCが掛かって感度が低下するので、BFOの注入レベルは加減が必要です。 具体的にはC27:10pFで加減します。
4石2ダイオード、1-ICです。回路を見たらラジオで肝心のRF部は6石スーパそのままなので馬鹿にされそうです。 ところが、マトモなアンテナの使用が前提ではありますが、3.5MHzや7MHzのHAMバンドの受信でも実用的な感度があります。 これで下手な五球スーパ以上に良く聞こえますから驚かされます。 それもそのはず、例えばハムにおなじみの簡単トランシーバ:PIXIE-Ⅱなど、へんてこ(失礼)な検波回路のあと、LM386で増幅しているだけです。 それでもQSOできるのです。 それと比べれば、周波数変換部で30dB近いゲインがあり、中間周波増幅2段で50dBほどのゲインがあるのですから良く聞こえて何も不思議ではありません。良くできた6石スーパなら100〜120dB(10万〜100万倍)のゲインがあるんですから侮れずですね。 ここで作る「短波ラジオ」も120dBくらいのゲインがあってアンテナさえ悪くなければ十分良く聞こえるわけです。
こんなシンプルな短波ラジオでも、操作しやすいようにきちんとしたダイヤルを付けてやればかなり楽しめるでしょう。 そのような意味でスプレッド・ダイヤルやアンテナ・トリマ、BFOなど通信用にも使える装備を搭載しています。 製作するのでしたら、ぜひそれらを設けて下さい。主同調のバリコンには必ず減速機構を付けます。 カバーする周波数範囲が中波ラジオの何倍(この例では6倍以上)も広いためダイヤル操作は非常に微妙になります。 取りあえず実験してみるなら別ですが、減速ダイヤルなしで短波ラジオは殆ど実用になりません。十分に減速されたダイヤル機構はHAM用ではなくても短波ラジオには絶対必要です。
消費電流の少なさも特筆できます。 無信号状態では8〜9mAしか流れません。 大きな音を出すと消費電流は増えますが、それでも単三乾電池4本で長時間受信できます。 本格的に通信機に仕立てるなら相応の装備を付加したくなります。 しかし、それら回路の消費電力も考えたいところです。デジタル表示の周波数カウンタなど付けたなら100mA以上必要ですから電気の食い過ぎです。すなおにアナログ式ダイヤルで済ませた方がマッチしているでしょう。そのあたりどうやって読み取り精度を上げるとか、メカ部分のウデの見せどころでしょうか。(笑)
【コンバータ部】
以下、簡単に各部を見て行きます。 最初はコンバータ部です。 既に説明のように、局部発振器と周波数変換を1石で兼用しています。 たいていの小信号用シリコン・トランジスタが使えると考えて良いでしょう。 厳密には2SC1815Yよりもこの用途に向いたトランジスタがあって、測定器で比較すれば差異がわかるようです。
しかし2SC1815Yほか色々差し替えてみましたがどれでも大差なく良好に受信できます。例えば2SC183、2SC372、2SC458、2SC536、2SC710、2SC828、2SC945など何でも大丈夫でした。 但し無闇にfTの高いトランジスタは避けた方が無難です。(fTが1000MHz以上のようなトランジスタ) 回路図と同じトランジスタを使っても個々のバラツキによってコレクタ電流に違いが現れます。 回路定数は直流増幅率:hFE=150前後のトランジスタを想定して設計してありますが、コレクタに流れる電流;Icが大幅に違ようようなら、回路図のR1:15kΩを加減してIc=1mA前後に調整します。
オシロスコープがあれば、バリコンを回しながらエミッタの発振波形を観測して下さい。 発振振幅は周波数が低い方から高い方までバリコンを回して観測してみて400〜600mVppあたりであって、大きな変動がなければ正常です。 周波数の高い方で少し正弦波が崩れ波形が劣化すると思いますが、ブロッキング発振(間欠的に起こる不規則な発振現象)を伴わなければ特に支障はありません。 周波数が高い方でブロッキング発振が起こるようなら、まずはR1を大きくしてコレクタ電流を減らしてみます。それでもダメそうなら、思い切って別の種類のトランジスタに交換してみます。
【中間周波増幅と検波】
2段ある中間周波増幅も2SC1815Yを使っています。 ここも小信号用のシリコン・トランジスタなら何でも使えると思って大丈夫です。(写真は2SC372Yに交換してテストしている様子)トランジスタを変えたら後述の様にコレクタ電流を測定し、必要に応じバイアス抵抗を加減・調整します。
1段目の2SC1815YにはAGC(自動利得制御)を掛けてあります。リバースAGCですからAGCが掛かるとコレクタ電流は減少します。 ただし、こうした近代的シリコン・トランジスタは少々コレクタ電流を減少させたところで、ゲインはそれほど低下しません。従って、あまりAGCは効かないと思った方が正解です。 それでも、強力な信号で飽和するのを防ぐ意味はありますからAGCは無意味と言うことではありません。
バイアス調整用の抵抗R7: 47kΩでIF初段のコレクタ電流、R10:27kΩで2段目のコレクタ電流を調整します。 概ね回路図に記載の電流値の・・±30%以内くらい・・・になっていれば調整しなくてもOKです。 もちろん、無信号状態で確認・調整します。
なお、信号を受信し、AGCが掛かるとIF初段のコレクタ電流が変化(減少)します。 エミッタ電流も同じように変化しますので、エミッタ抵抗R5:1.2kΩと直列にフルスケール500μA程度のラジケータを入れると簡易なSメータになります。 その場合、ラジケータの内部抵抗(たぶん数100Ωでしょう)の分だけ、R5の値を減らして下さい。例えば500Ωのラジケータなら、R5を680Ωに変更して下さい。 だいたいの値で大丈夫です。
このSメータは特別な部品が要らないうえ、無用な消費電流もないので悪くないのですが指針は逆触れになります。 信号がないとき右に振り切れていて、強い信号が入ると電流が減って指針が左に下がる特性です。 振り切れ具合はバイアス調整用の抵抗:R7で加減できます。 非常に簡易なSメータですが同調指示器として便利ですから、付けておくと良いでしょう。本当の意味でのラジケータの使い方です。(笑)
☆さっそく引出しから約500μAのラジケータを見つけ、Sメータにしてみました。 使ったラジケータの内部抵抗は700Ωくらいあったので、R5は470Ωにしました。 簡易型とは言えSメータはかなり効果的で指針の振れを見ながらの同調は容易になりました。 また短波放送は電離層の状態により、信号の強さが時々刻々かなり変化しています。 Sメータの動きを見ていると短波の伝搬状態が見えてくるようで楽しいものです。 おすすめの装備と言えるでしょう。(追記:2016.03.12)
【IFTとセラミック・フィルタ】
元々が短波ラジオなのでHAM用通信機ではないと言うコンセプトですから選択度は特別良くしていません。従って一般のAMラジオ並みです。 それでも短波ラジオ放送の受信にはまずまずでした。海外放送が良い感じに受信できます。
しかし、ちゃんとしたアンテナを付けるとHAMバンドも意外に良く聞こえますからもう少し選択度を良くしたくなるかも知れません。 本格的なフィルタ・・・Collinsのメカフィルや高級なクリスタル・フィルタを付けたのでは通過損失が大きすぎて感度の低下が甚だしいでしょう。 フィルタを付けるのでしたら、少々選択度は甘いのですが写真のようなラジオ用セラミック・フィ
ルタが向いていると思います。(写真のCFT-455B/Cは既にディスコン部品かもしれません)
BCLにはそれで十分な選択度だろうと思います。 私はRN2(ラジオ日経・第2プロ)の音楽をHi-Fi(?)に聞きたいので、あえて普通の中間周波トランスのままにしています。 HAMバンドの交信はだいぶ混信しますが短波放送の受信には支障はありません。 左図はこのラジオに向いた簡易なフィルタのピン接続図です。かなり古い物がほとんどなので参考程度にどうぞ。
写真のようなトランス内蔵型のセラミック・フィルタが手に入らない場合は、IFTを併用するとうまく行きます。選択度も概ね同等になります。
すべて一般的なIFTだけで済ませる場合、市販されている3個組の「トランジスタ・ラジオ用IFT」を購入します。あるいは、aitendoで売っている「IFTきっと」に自分で巻線して製作することも可能です。写真のブレッドボードの製作例では自作したIFTを使っています。この「IFTきっと」を使ったIFTの自作方法についてはトランジスタ技術誌2015年10月号に詳しい記事があります。そのほかトランジスタ・ラジオの製作に有用な情報を纏めました。
参考:上記トランジスタ技術誌の記事のほかICを使ったラジオの製作記事などをまとめ、幅広くラジオの製作を扱った書籍が発売されています。コイル巻きについて実践的で詳しい話も載ってます。お手頃な価格ですがラジオ作りがお好きならたっぷり楽しめるでしょう。私も執筆に参加してます。詳しくは出版社(←リンク)の案内でご覧を。(2021.12.05)
【BFOと低周波増幅】
唸周波発振器:BFOはSSB(単側帯波通信)やCW(無線電信)の受信には必須です。 もともと短波の国際放送を聴くための「短波ラジオ」がコンセプトだったので、最初は付けていませんでした。
しかし、試しに付けてみたところ7MHzのHAMバンドでHAM局の交信が聞こえてきました。 できるだけ良く聞こえるようにBFOの注入レベルや注入場所などを検討した結果、回路図のような方法に落ち着きました。 検波ダイオードの所に注入するには、かなり大きなBFOレベルが必要でした。また、そのようにすると受信信号によるBFO周波数の引っぱり現象(Pull-In)が発生してうまくありません。
色々試して、弱めのBFO信号をIFアンプの初段に注入する方法が一番良さそうでした。 なお、そのようにするとBFOによってAGCが掛かってしまいます。 しかし、先に書いたようにもともとAGCの効きは良くないので、BFOの注入レベルを加減してやれば支障なく受信できるようです。 まずはAM受信の状態で回路の動作が完全になったら、最終調整としてC27:10pFを加減してSSBやCW受信が快適にできる所を見つけて下さい。 数pF〜10pFくらいの所に最適点があるようです。 BFO発振に使うIFT:T3の種類によってもC27の最適値は異なります。BFO回路のトランジスタは他と同じように選んでOKです。要するにシリコンの小信号用なら何でも大丈夫です。
BFOコイル:T3にはトランジスタラジオ用のIFTを使います。コアの色が白い中間段用のものです。2次巻数の関係から初段用(黄)か段間用(白)のIFTが良いでしょう。
BFOの発振状態はR20:3.9kΩで加減します。 オシロスコープを使って、T3の出力側:2次巻線のところで発振波形を見ながら奇麗な正弦波になるようR20の大きさを加減して下さい。 もしも発振しないようなら、R20の値を小さくします。 発振波形が歪んでいるようなら抵抗値を大きくします。 話が前後してしまいましたが、上記のC27の調整はこれが済んでからということになります。
【アンテナコイルと局発コイル】
アンテナコイルと局発コイルがこの短波ラジオを製作する上で、もっとも重要なポイントです。
残念ながら適当な市販品はありませんから自分で巻きます。 同調側に途中タップの引出しがあり、2次側にリンクコイルがあります。 既製品として手に入る「FCZコイル」も同じような構造ですが、タップの引出し位置や巻数比が適当ではないためそのまま使うことはできません。 必ず巻きなおして使うことになります。
ここでは、昔々購入した10Kコイルのジャンクを使って巻くことにします。 具体的には、このあとに示す巻数対インダクタンスのグラフにより、必要な全巻数を決めてからタップの位置を比計算で求めます。 その後、実際に巻き線することになります。
トラッキング回路の設計ですが、まずは受信範囲を決めます。 受信周波数の下限と上限の比は1:3以下でないと多くの場合設計が困難になります。ここでは下限:3.4MHz、上限:10.2MHzですからちょうど1:3です。
次に使用するバリコンを選定します。 バリコンは必ず等容量の2連型を使う必要があります。 中波ラジオでおなじみのトラッキングレス・バリコンは使えません。トラックングレス・バリコンは中波ラジオを簡略化するために作られた専用部品だからです。 短波ラジオを作るには等容量の2連バリコンを使います。 ここでは、手持ちの中から最大容量:Cmax=275pF、最小容量:Cmin=7.5pFの2連ポリバリコンを使いました。
市販品として、aitendoに最大容量266pFの等容量2連バリコン:443AB型(←お店にリンク)があります。公称の最大容量は少し違いますが、わずかの差ですからそのまま代替可能でしょう。 調整で吸収できる範囲の違いです。なお、お店の説明ではAMが2連でFMが2連の4連バリコンのように書いてあります。 現物を調べたところAM用の266pF2連ポリ・バリコンに4連のFM用バリコンが一緒になった6連バリコンでした。 背面にある4つのトリマ・コンデンサはFM用4連バリコンに付属のものです。 この短波ラジオに於いては、FMセクションを単独でスプレッドバリコンとして、2セクション並列でアンテナ・コンペンセータ(アンテナ・トリマ)として活用できます。(注:同じバリコンを3個購入し、主同調用に1つ、スプレッド用に1つ、アンテナ・トリマ用に1つ使います)
参考:このバリコン:443AB型を実際に入手して詳しく調べてみました。もし入手予定なら評価レポート(←Blog内リンク)をご覧下さい。
バリコンを決めたら、必要なトラッキング設計を行ないます。 少し面倒な計算ですから途中の過程は省きますが、局発コイルが6.35μH、アンテナ・コイルが7.27μHになるように巻き線します。 その他、タップの位置や2次側リンクの巻数はインダクタンスとQuなどから決めるほか、ある程度実験的に追い込む必要もあります。 このあたりが既製品のコイルで済んでしまう中波ラジオより難しく、厄介なため短波帯のトランジスタ・ラジオの製作例が少ないのでしょう。 しかし、そうした検討が済んでいる下記の製作例を参照して巻けば大丈夫です。
写真のコイルは完成した状態です。
参考:標準的な3.9〜12MHzをカバーする短波ラジオの作り方。
アンテナコイル:5.57μH、局発コイル:4.96μHを目標にコイルを巻いて下さい。 巻数が求まったらタップ位置と2次側の巻数は比計算で求めて下さい。 また、局発回路のパディング・コンデンサ:C15は2150pFに変更します。(2200pFで良い) ストレー容量、トリマコンデンサなどは上記の例と同じで大丈夫です。
【短波ラジオのコイル製作図】
同じボビンがないと、そっくりそのまま同じように巻き線するわけにも行きませんが、少し詳しく書いておきます。 自家用の備忘でもありますが、具体的な構造がわかるでしょう。
手持ちのボビンに巻く時は、まずは必要なインダクタンスを得るための巻数を実測から求めて下さい。 巻数を求める際、中心のネジコアはシールドケースの上端から概略2mm程度下がった位置にしておきます。 そのようにして、約6.4μHと約7.3μHのインダクタンスが得られる巻数を求めます。 あとはタップの位置と2次側巻線の巻数を図を参照して比例計算で求めます。
類似のコイル・ボビンを改造するなら巻数が極端に違うことは無いはずです。 巻数が2倍、あるいは半分になるような時は、使用予定のコイル・ボビンの用途を再確認して下さい。 お薦めは、FCZ-10S3.5のような、3.5MHz帯のハムバンド用コイルの改造(巻換え)です。 元来の目的から考えて類似した性能のコイルが製作できる筈です。
局発コイルは巻き方向を間違えると発振しませんので特に注意して下さい。図の黒ドット●があるピンが巻き始めです。 そこから必ず同じ方向に巻いて行きます。 私の場合、●のピンから巻き始め、コイルを上側から見た時に「反時計回り」に巻いて行くのを標準にしています。 接続は回路図も参考にしながら、上図にある通りに行ないます。
【例:10Kコイルのインダクタンス】
ここで使用したコイルの巻数対インダクタンスのグラフです。 コイルの型番はたまたまジャンクで入手した現品に印刷されていたものです。 在庫部品の識別のために書いてあるだけで、何かメーカーの型番と言うわけではないと思って下さい。単なる識別記号です。
このようなグラフが作ってあれば簡単にコイルを巻くことができます。 これが役立つ人は殆どいないでしょうが、一例として示しておきました。 グラフを見るとわかりますが、こうした10Kコイルは意外にQが低いようです。 周波数帯によって最適なインダクタンスがあるわけですが全般に低めでした。 これはFCZコイルでもそれほど違いません。 Amidonのトロイダルコアの方がQuが高くて良いのですが、巻いたあとからインダクタンスの加減ができないのが欠点です。 そのため、こうしたラジオの場合うまい具合にトラッキング調整ができません。
【コイルの内部構造】
見ても仕方がないと思いますが、このような状態です。 10Kボビンに対して、やや大きめのインダクタンスなのでφ0.16mmの巻線ではほぼ一杯の巻数になります。
写真のコアは3段の巻ミゾがあります。 調べたところ4段ミゾの物もあるので、巻数が必要な場合はそうした物を使うと良いでしょう。 一般に4段巻ミゾのものはコア材の比透磁率:μもやや大きいようです。 大きめのインダクタンスが得易いようにできているようでした。 10Kボビンにはそれほど種類はないと思っていたのですが、改めて調べなおしたら手持ちの中にも幾つかバリエーションがあることがわかりました。 それぞれ適材適所があると思うのでその辺りを調べて特性を掴んでおきたいと思っています。
以上、コイルの巻き方を主に短波ラジオの作り方を説明しました。 短波ラジオに適したコイルを作るのがキーポイントです。 コイルさえ作れれば、昨今の半導体を使えば殆ど差のない性能が得られるでしょう。 各自工夫して頂くのは大いに結構ですが、まず最初はなるべく例示したデータに基づいて実験してみて下さい。 あまりにも逸脱した製作では、ご質問頂いてもお答えは困難です。
☆
【調整方法】 以下、ごく簡略になりますが短波ラジオの調整手順を説明します。順を追って調整を行なって下さい。
(1)製作の確認:
まずは十分な目視確認をします。 続いて各部の電流や電圧を確認して配線や部品に間違えのないこと確認して下さい。 配線間違いは通電する前に気付くのがベストです。 誤りの内容によっては一旦通電してしまうとトランジスタやICなど半導体を破損してしまう危険性があります。
(2)中間周波トランスの調整:
テストオシレータ等の信号発生器で455kHzを発生します。変調を掛けると調整が容易です。 やや強めに信号を発生し、アンテナ端子から加えます。 中間周波トランス:
IFT1(黄)〜IFT2(白)〜IFT3(黒)のコアを順に調整して信号が一番良く聞こえるようにします。 良く聞こえるようになってきたら、徐々にテストオシレータの信号を弱く絞って行くようにします。なるべく絞った状態で、各コアを調整して終了します。
(3)局発の調整:
最初に10pFのスプレッド・バリコン:VC3を羽根が半分入った位置に固定します。 以後VC3は調整が済むまで動かしてはダメです。 テストオシレータ等の信号発生器で3.4MHzを発生します。 変調を掛けると信号がわかり易いでしょう。 その状態で、バリコン:VC1abを反時計方向に回し切って最大容量の位置にします。 信号発生器をアンテナ端子に接続します。 なお、信号発生器の信号強さは調整が進むにつれ徐々に絞るようにします。最終的には確認ができる範囲で必要最小限の強さに絞って調整して下さい。
まず、局発コイル:T2のコアを回して3.4MHzの信号が一番良く聞こえるようにします。 次にテストオシレータで10.2MHzを発生します。 バリコン:VC1abを時計方向に回し切り、最小容量の位置にします。 その状態でトリマ・コンデンサ:TC2を回して10.2MHzの信号が一番良く聞こえるようにします。
以上、3.4MHzでT2のコア、10.2MHzでTC2の調整を周波数を上下2点間で往復しながら数回繰り返します。 普通は3〜4往復すれば、バリコン:VC1ab最大容量の位置で3.4MHzが、バリコン:VC1ab最小容量の位置で10.2MHzが受信できるようになる筈です。 この2点が良く合ってきたら、10.2 MHzにてTC2を最後に微調整して局発の調整を終了します。これでこの短波ラジオの受信周波数範囲を設定することができたことになります。
参考:スーパーヘテロダインに付き物のイメージ周波数の受信があります。 まちがってイメージ周波数に合わせぬように理屈を考えながら調整します。 特に高い周波数側の調整で間違え易いようです。 10.2MHzにて、トリマコンデンサ:TC2をいっぱいに入れた状態(最大容量)から、抜いて行くと最初に聞こえるのがイメージ信号の方です。 さらに抜いて行くと、聞こえる方が本物の信号の方です。 TC2は最小容量の状態から増やす方向へ調整する方が安全かも知れません。最初に捉えた信号に合わせれば良い訳ですので。 調整が進んでくると間違えにくくなりますが、最初のうちはズレが大きいのでイメージ信号の方に合わせてしまう可能性があります。十分に注意して下さい。
(4)アンテナ・コイルの調整:
最初にアンテナ・トリマ:VC2の羽根が半分入った位置に固定します。 このバリコン:
VC2は調整が済むまで動かしてはダメです。 また局発コイル:T2や関連のトリマコンデンサ:TC2には触れないように注意します。 それらは既に調整済みなので、もし間違って手をつけたなら上記の(3)の調整を再度行なう必要があります。
まず、テストオシレータから3.8MHzを出します。 同調バリコン:VC1abを低い周波数の側からゆっくり高い周波数の方向へ回して行き、その3.8MHzの信号を受信します。 受信できたらダイヤルをそこで止め、アンテナコイル:T1のコアを回して一番良く聞こえる位置に調整します。
次に、テストオシレータから9.2MHzを出します。 同調バリコン:VC1abを高い周波数の側からゆっくり低い周波数の方向へ回してその信号が(最初に)受信できる位置に止めます。 更に周波数を下げて行くともう一度信号が聞こえるポイントがありますが、そちらはイメージ周波数なので間違えないようにします。 正しい信号の方が捉えられたら、その状態でトリマコンデンサ:TC1を調整して一番良く聞こえるようにします。 以上、3.8MHzでT1のコア、9.2MHzでTC1を周波数を数回往復して調整します。最後にTC1の微調整で終了します。 以上でスーパーヘテロダインで最も重要なトラッキング調整は終了です。 アンテナを繋いでみましょう。きちんと調整ができていると良く聞こえるようになったのがわかります。
参考:厳密にはトラッキングエラーを調べてエラーが大きすぎるようならパディングコンデンサの大きさを変えてみるなどの修正を行ないます。この短波ラジオの設計ではアンテナ・トリマ:VC2でトラッキング状態の補正ができるためそこまで厳密に行なう必要はありません。
(5)BFOの調整:
BFOピッチ調整のバリコン:VC4を羽根が半分入った位置に固定します。 455kHzの無変調信号をテストオシレータで発生させ、アンテナコネクタより加えます。 BFOをONしたら、BFOコイル:T3のコアをゆっくり回して発振周波数が455kHzになり、ゼロビートの状態になるようにします。 済んだらBFOをOFFします。
(6)ダイヤル目盛の記入:
テストオシレータから3.5MHz、4MHz・・・など、0.5MHz或は1MHzおきの周波数など適宜発生させダイヤル目盛板に周波数マーキングします。 上手にダイヤル板を作れば周波数直読も可能かも知れませんが、もともと高級なものではなく、単なる「短波ラジオ」ですから大まかな目盛りでも良いでしょう。 あとは気の済むようにやれば良いです。
文章で書くと難しそうですが要領がわかれば簡単だと思います。 現物と回路図を見ながら、まずは調整のイメージを良く掴んでから始めて下さい。
通常の受信時には使用するアンテナに合わせてアンテナトリマを調整しながら最も良く聞こえるようにして使います。 またハムバンドのワッチではスプレッドバリコンを併用すると同調し易くなります。
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真空管式の2バンドラジオなら良く見掛けるのですが、トランジスタでスーパー形式の短波ラジオを作る例はあまり見掛けません。 真空管にはコイルパックや標準的なコイルが市販されていました。だから製作が容易なのでしょう。 もしもコイルから自作する必要があったなら真空管で短波ラジオが作れる人は限られたでしょう。
短波付きトランジスタラジオ製作用コイルが市販された記憶はありません。東光のモノコイルのようなものはありますが、基本的にHAMバンド用です。それにアンテナコイルとして使うための物です。短波ラジオの製作にそのまま使えるようなものではありませんでした。 そのあたりが半導体で短波ラジオを作るのを難しくしているのでしょう。
自分でBCLラジオのようなものを作ってみたい人もあると思いますが、なかなかハードルは高いのです。 でもコイルさえ自分で巻くことができれば大丈夫です。トランジスタでスーパー形式の短波ラジオの自作は十分可能です。
例示したような自励コンバータ形式の場合は特に局発コイルの製作が難しいようです。 過去に何回か試したことがあるのですが、なかなか思ったように行きませんでした。色々なトランジスタラジオの回路図を眺めてみたのですがヒントは見いだせません。 そこで少し視点を変え、理想追求ではなく多少割り切ることで比較的容易に製作できる感触が得られました。 さっそく試作してみたところ、思った以上に良好だったのでBlogで扱ってみました。 短波の性質上、昼間はラジオ日経くらいしか聞こえませんが夜間ともなると放送バンドを主にたくさんの海外からの電波が受信できます。 家庭用2バンドラジオで夜な夜な「短波」を探った若かりし頃が思い出されます。
6石ラジオのような短波ラジオでも作り方次第で意外な実力を発揮するようです。 たくさん半導体を使った高級な回路が高性能なのは当たり前です。 高級指向のお方はこんなシンプルな短波ラジオに負けないよう「通信型受信機」で短波受信機の製作に挑戦されて下さい。 de JA9TTT/1
追記:ラジオ用IC:TA2003Pで短波ラジオを作る続編があります。こちら(←リンク)
(おわり)nm