【測定:クリスタル・インピーダンス・メータとテスト治具】
【Crystal Impedance Meterとは?】
クリスタル・インピーダンス・メータ:略してCIメータは水晶発振子(振動子、共振子)の評価を目的とした測定器です。
写真はAgilent社のE4916AというCIメータです。構造や機能から見て研究開発用の測定器ではなく、水晶発振子の製造ライン向けのようです。
測定可能な項目は水晶発振子の直列共振周波数とその等価定数です。 モーショナル・インダクタンス:Lm、同キャパシタンス:Cm、同レジスタンス:Rmのほか、並列キャパシタンス:Cpが測定できます。 もちろん、無負荷Q:Quも計算され表示されますが表示器の文字数の関係で一度に表示しきれないため切換え表示になります。 液晶表示器はバックライト付きですが余り見易くありません。製造ラインでは人が直接数値を読むことはなく、GP-IBインターフェース経由で自動測定と自動選別が行なわれていたのでしょう。 測定周波数範囲は1〜180MHzです。
非常に古くからあるCIメータとは測定法が異なるようで、ネットワーク・アナライザ(VNA)での評価に近い測定方法で水晶定数を求めているようです。 水晶振動子の測定に特化した測定器ですからVNAのような汎用性はありません。 備考:写真で型番の下にLCR Meterとありますがこれはオプションの機能です。
このCIメータは、Tさんのご好意でテストの機会が持てました。測定用の治具(テスト・フィクスチャ)は付属しないため製作する必要がありました。 その製作のためにテストソケットやアッテネータ用パーツまでご提供頂いたのですが完成までにずいぶん時間が掛かってしまいました。延び延びになり申し訳ないです。
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一般的ではない測定器を扱っています。 他にも良い方法があるので水晶発振子(振動子,共振子)の評価に不可欠なものとは言えません。 偶々入手されたお方には少しは参考になるかもしれませんが殆どのお方にとって無縁でしょう。 向学の為にご覧頂くのは結構ですが入手をお奨めする意図はありません。 なお、12.5Ω測定治具はネットアナやスペアナ+TGでも役立つ可能性が有ります。製作に興味があれば前のBlog(←リンク)も合わせてご覧下さい。 以下、主として自身のメモですがお暇でしたらお付合いを。
【測定用治具を作る!】
正規のテスト治具があれば一番なのですが新品は驚くばかりのお値段です。(笑) 中古品の出物でもあればメンテナンスして使いたいところですが、手動測定用アクセサリは滅多に出てきませんので余り期待できないでしょう。
せっかくの機会ですが、あまりにも高額な出費になっても困ります。 CIメータのテストに支障のない測定治具を製作することにしました。 もちろん正規の物とは違うので測定精度に何がしかの影響はあると思われます。しかしクリスタル・フィルタの製作に使えるデータが得られれば良いのでその辺りを目標にしてみましょう。
写真は治具のケースに相当する部分をプリント基板を使って製作しているところです。板取りと穴加工が終わり組み立てる段階です。 組立はハンダ付けによって行ないますが上手に作ると非常にしっかりした物が作れます。 基台部分はt=1.6mmの片面基板を使いサイド部分はt=1.0mmの両面ガラエポ基板を使いました。これは手持ち部材の都合によるものです。
【テストソケットは重要部品】
こうしたテスト治具では水晶発振子を装着するソケットが非常に重要です。 数回の抜き差しでは済みませんからテスト用に作られた耐久性のあるソケットを使います。
普通のICソケットを使ったのでは数10回の測定が限度でしょう。 比較的短時間で接触不安定が発生し安定した測定は望めません。 水晶振動子のQは非常に高く、良いものでは直列共振周波数に於けるインピーダンスは数Ωに過ぎません。 従って治具に接触不良があるのは致命的で測定器や測定方法による誤差以前の問題でありきちんとした評価はできないでしょう。
ここではテスト用として作られたソケットを使っています。 治具の製作用として纏めて入手されたもの分譲して頂いています。 最近販売が始まったaitendoのこれ(←リンク)と類似品ではないでしょうか? 少々高いですが測定の確かさに影響しますから良いソケットを使いましょう。
【抵抗減衰器で12.5Ωに変換】
水晶発振子の測定には12.5Ω治具を使うのが標準です。 これは一般的なHF帯水晶発振子のRmが小さいため低インピーダンスの治具を使う方が測定し易いからでしょう。 最近の表面実装型超小型水晶では励振電力が非常に小さくRmも大きいためもっと高いインピーダンスの治具を使うそうです。
ここでは50Ω→12.5Ω変換回路を使った標準的な12.5Ω治具を作ることにします。もっとも一般的な測定治具です。 アッテネータの製作には高周波特性の良い14.2Ω、66.2Ω、159Ωの抵抗器が必要です。精度も±1%くらいは確保したいところです。
測定器メーカでは特注によって必要な抵抗器を作らせているでしょう。最初から厚膜印刷抵抗を使ってアッテネータ形式に作ってしまっているかもしれません。 しかし一般には入手できませんからEシリーズの抵抗器を組み合わせで作ることになります。
実際には14.2Ωの部分に6.8Ωと7.5Ω、66.2Ωの部分に15Ωと51Ω、159Ωの部分には2Ω、75Ω、82Ωの組み合わせで製作しました。 いずれも抵抗器2個あるいは3個の直列で得ています。 誤差1%のチップ抵抗器なので無選別でも良い精度が得られました。 使用周波数はHF帯です。30MHz以上の水晶を扱うことは稀なのでストレー容量に気をつけコンパクトに作れば良いでしょう。
テストソケット部分とBNCコネクタまでの配線はプリント基板化してストリップライン構造にするのがベストです。ユニバーサル基板では難しいので0.8D-QEVと言う細芯耐熱同軸(50Ω)で配線しました。HF帯ですから効果は同じようなものでしょう。この同軸ケーブルの芯線はかなり細いですがクラッド銅線になっているので適度な強度があります。銅喰われしないよう銀入りハンダを使いました。
【測定治具が完成!】
写真のように完成しました。ネットワーク・アナライザによって周波数特性を確認したところ、概ね50MHzあたりまで減衰特性はフラットでした。治具内部の配線の関係で幾らか位相回りが見られました。
実際にCIメータで水晶を測定する際にはショート、オープン、ロードの各校正を行なってから使用します。 この治具の素の特性が現れるわけではありませんから精度は十分得られるでしょう。 CIメータ専用と言うわけではなくネットアナ等でも使えますので良い治具ができたと思っています。 30MHzまで安心して使え、気をつけて使えば50MHzあたりまで活用できるようです。
【CI-Meterで測ってみる】
測定治具を接続するためのコネクタは全て背面にあります。 写真のように使うためには、少々長めの接続ケーブルが必要です。 使用に際してはケーブルも含めた校正を行ないますから極端な長さのケーブルでなければ支障はありません。
テストソケットに装着可能な水晶発振子の種類・形状は、HC-18/U、HC-49/U、HC-49/USなどです。 足ピンの太いHC-25/Uも無理をすれば装着できますがソケットのヘタリが心配なので別のソケットを介した方が良いでしょう。 HC-6/UやFT-243などの大型水晶を測定するケースは稀だと思いますが直接挿入できないのでそれら専用のソケットを介して測定することになります。 その際はそれぞれのソケットの端子間容量を実測しておき、並列容量Cpから差し引くことで良い精度で測定すことができます。 それほど高い周波数の水晶を測定する訳でもないので神経質になる必要はないと思っています。
【10MHz水晶の測定例】
10MHzの水晶発振子を測定しているところです。 LCD表示器に各水晶定数が表示されます。 無負荷Q:Quも表示できますが、表示画面の切換えを行なう必要があって少し面倒です。仕様書によればGP-IB経由でデータを取出すことでさらに詳しい情報が得られるようです。
いずれにしてもラダー型クリスタル・フィルタを作るのでしたら選別のためにEXCELの表に纏める必要があります。 fr、LmとRmからQuは簡単に計算できるのでわざわざ切り替えてE4916Aで表示させなくても良いでしょう。 E4916AのLCD表示ではLmはL1、CmはC1、RmはR1となっています。 また、並列容量:CpはC0で、直列共振周波数:f0はfrの表示となっています。 並列共振周波数fpは表示されませんが、fpは治具などの外部容量によって変化する値なので必要度は低い筈です。 E4916Aの表示で添字の付け方はいずれもIEC標準の標記方法です。 水晶定数の詳細については過去のBlogでも扱っていますのでこちら(←リンク)もご覧を。
【ネットアナ測定との比較は?】
既存の測定との違いが気になる筈です。 8MHzの水晶発振子についてネットワーク・アナライザ:VNAを使って求めた値とE4916Aで測定した結果を比較してみます。 私のところではVNAによる測定を基準にしています。
以前のネットアナでの測定では50Ω測定治具を使いました。 従ってCIメータ:E4916Aとは異なる測定治具を使用しています。いずれの測定器にもGPS周波数基準器の10MHzを供給して周波数精度を上げています。これはルビジウム周波数基準器でも良いでしょう。(外部周波数基準は必須ではありません)
平均値から測定結果を見てみましょう。 まず直列共振周波数:frですが差異は僅かに「1Hz」でした。 周波数基準器の10MHzを与えた効果は十分ありました。 肝心のLmとCmですが、こちらは約-2〜+2.4%の違いになりました。治具の違いや測定器の違いなど考慮するとまずまずの精度で一致しており良い結果ではないでしょうか。
Rm(=R1)の違いが少し大きくなっています。 これはNo.12とNo.17のクリスタルのR1が特に大きいためのようです。 それに伴って無負荷Q:Quの違いも-3.3%と大きめになりました。 Quの値は直接フィルタの設計計算には使いません。使う水晶の平均値を求め帯域幅との関係から設計補正に使います。従って±10%の違いなら十分な精度です。Quが大きなものを選別してその平均値を求めると言った目的には支障ないでしょう。
直流:DCや低周波:AFでの測定と違い、僅かなストレー容量や配線インダクタンスが影響する高周波:RFの測定では測定誤差が現れ易くなります。 この比較のように違う測定法による差が2%前後でしたらとても良い再現性と言えます。同じ測定器、同じ治具を使ったとしても±2%程度の違いは容易に現れるからです。
表はネットアナとの比較です。既にG3UURによる周波数シフト法とネットアナの比較でも精度良く測定できることが確認されています。 ラダー型クリスタル・フィルタの設計・製作に使う水晶はいずれの測定方法で求めても良いことがわかります。
従ってアマチュア的には周波数シフト法(←リンク)がもっとも手軽と言えるでしょう。 損失抵抗:Rmや無負荷Q:Quを求める必要があるなら紹介済みの書籍:A Tester for Crystal F, Q and R : Doug DeMaw W1FB (W1FB's Design notebook, pp192 to 194)の測定治具がアマチュア的で良いです。自作の治具と手軽な測定器との組み合わせで求めることができます。関連ページ(←リンク)に帰って参照して下さい。(W1FB's Design notebookはネット上に電子データ版があります。おそらく違法なものでしょう)
参考・1:過去にも紹介していますが、測定方法と水晶定数についての比較検討結果はK8ZOAのレポート(←リンク)「Crystal Motional Parameters」に詳しい報告があります。それによると、各種の測定法の間でC1やL1で2〜5% 程度、R1では5〜20%の違いが生じています。 彼とは測定器やテスト治具がまったく異なる私の比較測定でも概ね同等以上の精度が得られています。状況から見て結果は十分信用できると考えています。
参考・2:CIメータは使い方さえわかれば誰でも簡単に水晶定数を求めることができます。便利な測定器ですが、スペアナ+TGあるいはネットアナのように主共振周波数の近傍に存在する有害な副共振の様子を簡単に見極めることはできません。*1 発振用の水晶を使ってフィルタを作ろうとする際にはこれが欠点だと思います。従って、他の方法で予備測定し共振状態を見てから使う必要があります。CIメータだけでは万全ではありません。(*1 E4916Aにはスプリアス測定モードがあります。但し画面で見るようなわかり易さがありません)
☆
ラダー型クリスタル・フィルタの話しは一区切りついていたのですが残った課題があったので扱いました。これでクリスタル評価の一通りの方法と道具について済んだと思っています。 まさかCIメータまで試用できるとは思いませんでした。12.5Ω治具もできたので、様々に活用できるでしょう。
それまで 汎用測定器でどこまで精度良くクリスタルの評価ができるか努めていた所に、CIメータの登場とは正直な話しかなり脅威を感じてしまいました。結果がぜんぜん違ったらどうしようかと心配したのです。(笑) 自身で比較評価してみた結果、いずれの方法でも良い精度の測定ができるとわかりホッとしているところです。
振り返って見ると良い精度を得るには治具や手順の違いのような部分で差が現れ易いように思います。 慎重に行なえばどの方法でも良い再現性が得られます。当然いずれのデータを用いてフィルタ設計しても大丈夫です。違いはごく僅かなので製作段階に於いて誤差として処理できる程度に過ぎないでしょう。 上手に測定し、ばらつきの少ないクリスタルを集めることでとても良いラダー型クリスタル・フィルタが作れます。
−・・・−
色々実験していると様子(窮状?)を見かねたお方からご好意を頂くことがあります。 有益な情報ばかりでなく物品のご提供を頂くこともあって恐縮しております。 ご不要品を片付けるケース(笑)もあるとは思いますが、多くは使って試して欲しいお気持ちもあるのでしょう。ですからさっそく試して結果をお知らせするのが礼儀なのでしょうね。
しかし現実はなかなか厳しいものがあります。 私の実験リストには計画項目が溢れています。なかなか優先順位が付けにくくて比較的容易そうなものから始めている状況です。そうでなくてはリストが少しも減ってくれませんからね。 途中の割り込みも多くてもともと何をやっていたのか忘れてしまいそうです。(爆) せっかくのご好意は無駄にしたくありません。気長にお待ち頂けたなら幸いです。いつかきっとやりたいと思っています。 何だか言い訳になってしまいました。w ではまた。de JA9TTT/1
(おわり)fm
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2016年7月20日水曜日
2016年7月4日月曜日
【回路】Review on Radio chip TCA440, Part 2
【回路:ラジオ用IC TCA440のレビューと活用:その2】
【TCA440を活かす】
少し間が空いてしまったのでごく簡単におさらいです。
TCA440は欧州系のAMラジオ用ICです。 1980年前後の設計のようで、等価回路を見るとアナログICとしてあまり洗練されていません。 その為もあってか検波回路が外付けになっているのかも知れません。お陰でHAMの応用には向いているのでした。 Part-1(←リンク)で詳しく検討しています。
ここでは7MHzのHAM Band専用受信機に使用します。しかも受信モードはCW(無線電信)だけです。 もし中波AMラジオやBCL用のような短波ラジオを製作したいならTCA440よりも洗練されたラジオ用ICがあるのでそちらがお奨めです。 このBlog内にも旧・三洋電機のLA1600、東芝のTA2003P、2SC1815のような汎用トランジスタで作る短波ラジオのページなどがあります。
TCA440を使った受信機はCW用に開発した「クリスタル・フィルタ」の評価が大きな目的です。 評価は進行中のため、詳細は次回以降になる予定です。 ここでは試作途中のブレッドボードの様子と終わりに受信状態のムービーを掲載しました。 例によって自家用メモです。 お暇ならどうぞ。
【試作回路全景】
厳密にはこのブレッドボードの他にDDS-IC:AD9850を使った局発部があるので全景ではありません。 局発部を除いたアナログ部分の全景と言うことになります。
受信機の主要な機能を司るTCA440は左側手前にあります。 左奥のCWフィルタが大きいので合理的な部品配置には苦労しました。 これでも完全ではないのですが、いずれブレッドボードを脱却するので評価用と言うことでここまでにしています。 受信回路全体では140dB(1,000万倍)くらいのゲインがあります。最初はわずかに回り込みが残ってしまい動作不安定でした。 GNDの取り方ほか配置の入れ替えなど対策を行ない現状では安定した動作が実現できています。
今回はICを積極的に使用しています。 他にダイオードを数本使いましたがトランジスタは一つも使いませんでした。 そのICも局発部を除けばアナログ部全部で4つだけです。 これだけで高性能な受信機が作れるのですから流石にICです。 以下、部分ごとに見て行きます。
【メイン回路】
高周波増幅〜中間周波増幅のメインになる部分です。TCA440には高周波増幅、ミキサー、中間周波増幅、AGCアンプが集積されています。 写真ではほかに外付けのAGC回路が見えます。 AGC用の検波器はゲルマニウムダイオード:1N34Aです。 狭帯域フィルタが実装されているのでこのままでは意味はありませんがAM検波としても動作します。 帯域幅の広いフィルタを使い検波出力を引き出せばAM受信機にもなり得ます。
CWの検波はダイオードを使ったリング検波器も考えたのですが、復調出力が小さいので低周波アンプを補う必要があります。 BFOも1〜2石必要でしょう。 簡略化の為にもリング検波器はやめてゲインのあるIC-DBMにしました。 IFアンプの出力はAGCによって信号レベルが管理されています。IC-DBMが飽和するほどの信号レベルにはなりません。 CWの復調にIC-DBMを使っても支障はないでしょう。
SSB/CW受信機のAGC回路はAM受信機と最も違う部分です。時定数のほか効き方をチューニングしたので良い感触が得られました。 保持時間はSlowとFastに切り替えられます。 Sメータの動きも自然です。 TCA440に内蔵のAGC回路だけでは実現が難しいので外付け回路を補っています。
【CW検波回路】
なるべく簡略化する目的で発振回路が付いているIC-DBMを使ってCWを検波します。 SA612/NE612も候補でしたが、ここではTA7310P(東芝)を使いました。 これはTA7310Pが9Vの電源電圧にマッチしていることと、SA612より大きめの信号が扱えるからです。
TA7310PにはDBMの他にバッファアンプ付きの発振回路が内蔵されています。 その発振回路で水晶発振させてBFOとして使います。 発振出力は内部でギルバートセル型DBMにC結合されています。 発振回路は変形コルピッツ型が構成し易くなっており、ここでは水晶発振子の周波数を下の方へ動かす必要があるのでVXO形式にしました。 なお、TA7310Pにはほかに汎用のRFアンプが内蔵されていますがその部分は使っていません。
二重平衡型復調回路(DBM)の負荷は単純に抵抗器にしてみました。 製作後に気になったところがあったので動作点の解析をしたところ初期定数のままで丁度良い値になっていました。 パッシブなリング検波と違い検波回路自身にゲインがあります。 検波後は簡単なLPFを通り、音量調整のあと低周波パワーアンプ(NJM386BD)でスピーカが鳴るまで増幅されます。 なお、この検波回路はSSBの復調にも適しています。IFフィルタをSSB用の帯域幅に変更するだけで大丈夫です。
TA7310Pへ加えるTCA440のIF出力はかなり絞っています。始めは少々絞り過ぎだろうかと思ったのですが全体的な調整が進んだ段階で見ると丁度良かったようです。 もう6dBくらい大きくても復調歪は起こらないと思いますが、ゲインアップした分だけIFアンプで発生するヒスノイズを聞くことになりそうです。従って現状のままがベターでしょう。
【低周波アンプ】
電源電圧は9Vです。 低周波アンプには新日本無線製のNJM386BDを使ってみました。これはTI/NS社のLM386Nでも同じです。40dBくらいのゲインで使っています。 無歪で500mWほどしか出ませんが普通に受信する上で支障はありません。
この部分は単純な低周波アンプなので簡単かと思いきや意外に厄介でした。(笑) よく考えずにやると満足できない性能になってしまいます。 ポイントがわかったので次回は一発でOKでしょう。 コツを掴めば悪くないICですね。 Application Noteそのままの単純な使い方ならともかく、私が思うに案外旨く使えていないことも多いのではありませんか?
【DDS-VFO部】
TCA440に内蔵の局発回路は単なるバッファアンプとして使います。 局発としてはAD9850を使った中華DDSモジュールをAVRマイコンでソフトウエア・コントロールします。 周波数ステップは最小10Hz刻みでアナログVFOと同じようにスムースな周波数変化が実現できています。 言うまでもありませんが周波数安定度は抜群です。(笑)
TCA440を使ったCW受信機の中間周波は約3.58MHzです。(3577.8kHz) 上側に局発周波数を取っています。 LCDにはその分を補正した実際の受信周波数が表示されます。 もともとがCWトランシーバを想定したソフトウエアです。 スイッチひとつで受信している周波数でCWの送信になります。ヘテロダインもせずにトランシーブ可能なのですから、このあたりがDDSの良いところですね。 DDSのあとに数段のパワーアンプを付ければただちにCWトランシーバになります。 詳しくはDDS-VFOのページに帰ってご覧下さい。
この部分は最終的にパネル取付用に製作しなおす計画です。 この受信機の試作でDDS-VFOが受信機の局発用として良い感触で使えることが実地検証できました。
☆
【TCA440を受信機の動画】
ごく簡単に受信している様子を動画に撮影してみました。 夏場の7MHzはあまりコンデイションが良くないのですが、取りあえず音が出ているところをです。 AGCはファーストの時定数になっています。 幾らかノイジーなのは受信信号が弱い為です。(参考:パソコンとブラウザの組み合わせによっては旨く再生できないことがあるようです)
☆
突発したアンテナの故障で復旧に精力を取られてしまい受信機の方はあまり進みませんでした。 それでも少しずつ細部を確認しながら回路の完成度を上げてきました。 おおむねチューニングも済んで部品定数も固まってきたのでこの後はハンダ付けで製作する段階です。 テスト受信ではCWフィルタの特性が良く現れておりオンエアしているCW波の質感がストレートに感じられます。これはちょっと凄いかも知れません。幾つか機能を充実させてメイン受信機として作りたくなってきました。
TCA440は通信型受信機への適性はあったのでしょうか? 所詮はAMラジオのICなのでゲイン不足だろうと思い当初はRFアンプを外付けする設計でした。 しかし検討半ばでRFアンプの追加はやめました。 TCA440はそこそこゲインがあって検波回路にもゲインがあります。 そのためRFアンプはなくても7MHzのCW用受信機として十分な感度があるのです。 メーカー機の様にカタログスペックを飾りたいならRFアンプの追加は効果的でしょう。 例えばS/N比10dBで0.05μVの感度があり・・・とか書けます。 或はHF帯でもハイバンドならRFアンプの効果はあるでしょう。
しかし7MHz帯のCWを受信して0.05μVの波は外来ノイズの深い底に沈んでしまいます。 誰も聞くことなどできません。 普通に交信できる相手局の信号は5μVどころかもっと大きいのです。 そうなるとゲイン20dBのRFアンプなど意味はないのです。もし付けたなら常にアッテネータをONで使うことになるでしょう。 送信に使えるようなマトモなアンテナを使う限りHF帯のローバンドはこれが現実です。余分なゲインはむしろ有害です。
現状ではS/N=6dBで1μVくらいですがそれで十分な感度です。 比較に使ったメーカー機に劣らず良く聞こえますし受信フィ−リングも良好でした。良く聞こえない時はメーカー機でも聞こえません。 AGCの設定も快適なところにあります。 Sメータも小気味良く振れてくれます。 TCA440の通信型受信機への適否はもう言うまでもないでしょう。 結局、CW受信機はCWフィルタとAGCの味付けにポイントがあることが再認識されました。de JA9TTT/1
(つづく)nm
【TCA440を活かす】
少し間が空いてしまったのでごく簡単におさらいです。
TCA440は欧州系のAMラジオ用ICです。 1980年前後の設計のようで、等価回路を見るとアナログICとしてあまり洗練されていません。 その為もあってか検波回路が外付けになっているのかも知れません。お陰でHAMの応用には向いているのでした。 Part-1(←リンク)で詳しく検討しています。
ここでは7MHzのHAM Band専用受信機に使用します。しかも受信モードはCW(無線電信)だけです。 もし中波AMラジオやBCL用のような短波ラジオを製作したいならTCA440よりも洗練されたラジオ用ICがあるのでそちらがお奨めです。 このBlog内にも旧・三洋電機のLA1600、東芝のTA2003P、2SC1815のような汎用トランジスタで作る短波ラジオのページなどがあります。
TCA440を使った受信機はCW用に開発した「クリスタル・フィルタ」の評価が大きな目的です。 評価は進行中のため、詳細は次回以降になる予定です。 ここでは試作途中のブレッドボードの様子と終わりに受信状態のムービーを掲載しました。 例によって自家用メモです。 お暇ならどうぞ。
【試作回路全景】
厳密にはこのブレッドボードの他にDDS-IC:AD9850を使った局発部があるので全景ではありません。 局発部を除いたアナログ部分の全景と言うことになります。
受信機の主要な機能を司るTCA440は左側手前にあります。 左奥のCWフィルタが大きいので合理的な部品配置には苦労しました。 これでも完全ではないのですが、いずれブレッドボードを脱却するので評価用と言うことでここまでにしています。 受信回路全体では140dB(1,000万倍)くらいのゲインがあります。最初はわずかに回り込みが残ってしまい動作不安定でした。 GNDの取り方ほか配置の入れ替えなど対策を行ない現状では安定した動作が実現できています。
今回はICを積極的に使用しています。 他にダイオードを数本使いましたがトランジスタは一つも使いませんでした。 そのICも局発部を除けばアナログ部全部で4つだけです。 これだけで高性能な受信機が作れるのですから流石にICです。 以下、部分ごとに見て行きます。
【メイン回路】
高周波増幅〜中間周波増幅のメインになる部分です。TCA440には高周波増幅、ミキサー、中間周波増幅、AGCアンプが集積されています。 写真ではほかに外付けのAGC回路が見えます。 AGC用の検波器はゲルマニウムダイオード:1N34Aです。 狭帯域フィルタが実装されているのでこのままでは意味はありませんがAM検波としても動作します。 帯域幅の広いフィルタを使い検波出力を引き出せばAM受信機にもなり得ます。
CWの検波はダイオードを使ったリング検波器も考えたのですが、復調出力が小さいので低周波アンプを補う必要があります。 BFOも1〜2石必要でしょう。 簡略化の為にもリング検波器はやめてゲインのあるIC-DBMにしました。 IFアンプの出力はAGCによって信号レベルが管理されています。IC-DBMが飽和するほどの信号レベルにはなりません。 CWの復調にIC-DBMを使っても支障はないでしょう。
SSB/CW受信機のAGC回路はAM受信機と最も違う部分です。時定数のほか効き方をチューニングしたので良い感触が得られました。 保持時間はSlowとFastに切り替えられます。 Sメータの動きも自然です。 TCA440に内蔵のAGC回路だけでは実現が難しいので外付け回路を補っています。
【CW検波回路】
なるべく簡略化する目的で発振回路が付いているIC-DBMを使ってCWを検波します。 SA612/NE612も候補でしたが、ここではTA7310P(東芝)を使いました。 これはTA7310Pが9Vの電源電圧にマッチしていることと、SA612より大きめの信号が扱えるからです。
TA7310PにはDBMの他にバッファアンプ付きの発振回路が内蔵されています。 その発振回路で水晶発振させてBFOとして使います。 発振出力は内部でギルバートセル型DBMにC結合されています。 発振回路は変形コルピッツ型が構成し易くなっており、ここでは水晶発振子の周波数を下の方へ動かす必要があるのでVXO形式にしました。 なお、TA7310Pにはほかに汎用のRFアンプが内蔵されていますがその部分は使っていません。
二重平衡型復調回路(DBM)の負荷は単純に抵抗器にしてみました。 製作後に気になったところがあったので動作点の解析をしたところ初期定数のままで丁度良い値になっていました。 パッシブなリング検波と違い検波回路自身にゲインがあります。 検波後は簡単なLPFを通り、音量調整のあと低周波パワーアンプ(NJM386BD)でスピーカが鳴るまで増幅されます。 なお、この検波回路はSSBの復調にも適しています。IFフィルタをSSB用の帯域幅に変更するだけで大丈夫です。
TA7310Pへ加えるTCA440のIF出力はかなり絞っています。始めは少々絞り過ぎだろうかと思ったのですが全体的な調整が進んだ段階で見ると丁度良かったようです。 もう6dBくらい大きくても復調歪は起こらないと思いますが、ゲインアップした分だけIFアンプで発生するヒスノイズを聞くことになりそうです。従って現状のままがベターでしょう。
【低周波アンプ】
電源電圧は9Vです。 低周波アンプには新日本無線製のNJM386BDを使ってみました。これはTI/NS社のLM386Nでも同じです。40dBくらいのゲインで使っています。 無歪で500mWほどしか出ませんが普通に受信する上で支障はありません。
この部分は単純な低周波アンプなので簡単かと思いきや意外に厄介でした。(笑) よく考えずにやると満足できない性能になってしまいます。 ポイントがわかったので次回は一発でOKでしょう。 コツを掴めば悪くないICですね。 Application Noteそのままの単純な使い方ならともかく、私が思うに案外旨く使えていないことも多いのではありませんか?
【DDS-VFO部】
TCA440に内蔵の局発回路は単なるバッファアンプとして使います。 局発としてはAD9850を使った中華DDSモジュールをAVRマイコンでソフトウエア・コントロールします。 周波数ステップは最小10Hz刻みでアナログVFOと同じようにスムースな周波数変化が実現できています。 言うまでもありませんが周波数安定度は抜群です。(笑)
TCA440を使ったCW受信機の中間周波は約3.58MHzです。(3577.8kHz) 上側に局発周波数を取っています。 LCDにはその分を補正した実際の受信周波数が表示されます。 もともとがCWトランシーバを想定したソフトウエアです。 スイッチひとつで受信している周波数でCWの送信になります。ヘテロダインもせずにトランシーブ可能なのですから、このあたりがDDSの良いところですね。 DDSのあとに数段のパワーアンプを付ければただちにCWトランシーバになります。 詳しくはDDS-VFOのページに帰ってご覧下さい。
この部分は最終的にパネル取付用に製作しなおす計画です。 この受信機の試作でDDS-VFOが受信機の局発用として良い感触で使えることが実地検証できました。
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【TCA440を受信機の動画】
ごく簡単に受信している様子を動画に撮影してみました。 夏場の7MHzはあまりコンデイションが良くないのですが、取りあえず音が出ているところをです。 AGCはファーストの時定数になっています。 幾らかノイジーなのは受信信号が弱い為です。(参考:パソコンとブラウザの組み合わせによっては旨く再生できないことがあるようです)
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突発したアンテナの故障で復旧に精力を取られてしまい受信機の方はあまり進みませんでした。 それでも少しずつ細部を確認しながら回路の完成度を上げてきました。 おおむねチューニングも済んで部品定数も固まってきたのでこの後はハンダ付けで製作する段階です。 テスト受信ではCWフィルタの特性が良く現れておりオンエアしているCW波の質感がストレートに感じられます。これはちょっと凄いかも知れません。幾つか機能を充実させてメイン受信機として作りたくなってきました。
TCA440は通信型受信機への適性はあったのでしょうか? 所詮はAMラジオのICなのでゲイン不足だろうと思い当初はRFアンプを外付けする設計でした。 しかし検討半ばでRFアンプの追加はやめました。 TCA440はそこそこゲインがあって検波回路にもゲインがあります。 そのためRFアンプはなくても7MHzのCW用受信機として十分な感度があるのです。 メーカー機の様にカタログスペックを飾りたいならRFアンプの追加は効果的でしょう。 例えばS/N比10dBで0.05μVの感度があり・・・とか書けます。 或はHF帯でもハイバンドならRFアンプの効果はあるでしょう。
しかし7MHz帯のCWを受信して0.05μVの波は外来ノイズの深い底に沈んでしまいます。 誰も聞くことなどできません。 普通に交信できる相手局の信号は5μVどころかもっと大きいのです。 そうなるとゲイン20dBのRFアンプなど意味はないのです。もし付けたなら常にアッテネータをONで使うことになるでしょう。 送信に使えるようなマトモなアンテナを使う限りHF帯のローバンドはこれが現実です。余分なゲインはむしろ有害です。
現状ではS/N=6dBで1μVくらいですがそれで十分な感度です。 比較に使ったメーカー機に劣らず良く聞こえますし受信フィ−リングも良好でした。良く聞こえない時はメーカー機でも聞こえません。 AGCの設定も快適なところにあります。 Sメータも小気味良く振れてくれます。 TCA440の通信型受信機への適否はもう言うまでもないでしょう。 結局、CW受信機はCWフィルタとAGCの味付けにポイントがあることが再認識されました。de JA9TTT/1
(つづく)nm