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2017年11月18日土曜日

【回路】Design of an Eight Transistor Radio

【回路デザイン:8石ラジオの設計】

8石ラジオ
 中波帯(BCバンド)のラジオなんて、自作HAMにはいま一つ興味が湧かないかも知れません。 このBlogは8石ラジオを作ることが主目的ではありません。ですからBlogのタイトルと内容がマッチしていないかも知れませんね。 トランジスタ・ラジオあるいは受信機に必要な自作の中間周波トランス:IFTを作り易いよう再検討するのが第一の目的です。その再設計の検証のために8石ラジオを作ります。

 このBlogテーマの元、対象となるトランジスタ・ラジオの回路やIFTの具体的な製作方法についてはトランジスタ技術誌:2015年10月号(p66〜p82)に詳しい記事があります。 以下の内容は、同誌の記事を参照されていることが前提なのですが、もしお手持ちでなくても何とかなるくらいの内容にはなっています。ご心配なく(笑) 参考:出版社及びamazonにバックナンバーあり。

参考:上記のトランジスタ技術誌2015年10月号の拙記事に加筆再校正を行なって収録した書籍がCQ出版社より新発売されました。AM/FMラジオ&トランスミッタの製作集(←出版社へリンク)この書籍にはコイル作りほかラジオ製作の詳しい情報があります。トラ技誌のバックナンバーをお求めになるより新刊の方をお薦め致します。 (2021年4月・追記)

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 局発コイルやIFTをすべて自作して、トランジスタ・ラジオを製作すると言った記事は珍しかったらしく、私が思っていたよりもたくさん読んで頂けたようです。どうも有り難うございます。 トラ技編集部が用意した記事連動の「製作部品キット」を求めるお方も結構あったんだそうです。

 実際にどれくらいのお方がIFTを巻いたのかはわかりませんが、小さなコアと細い巻き線で格闘されたであろう様子が思い浮かびます。 少し大変だったかも知れませんね。 巻線にはφ0.08mmのポリウレタン電線(UEW電線、ウレメット電線とも言う)を使います。もう少し細い方が良いのですが、切れ易いのと入手性の問題から手作りの材料としてはこの程度が限界だろうと思っています。

 巻き芯(フェライトのツヅミ型コア)の大きさから考えて、ギリギリ巻ききれる程度の巻き数になっていますが、特に検波段のIFT3は2次側の巻き数が多いため巻き難かったと思われます。 巻き芯のサイズに収まらず、やや山盛りの状態になってしまったかも知れません。調整用コアの内径にゆとりがあるので幾らか山盛りでも支障はないのですが、もう少し何とかしたいと思っていました。

 同調容量を大きくして巻き数を減じれば良さそうなものですがそう単純でもありません。 基本的にIFTの再設計が必要になります。使用デバイスの入出力インピーダンス、コイルの共振特性、利得配分、選択度などの条件から各IFTの巻き数を決定する訳です。 再設計は難しくはありませんが、意外に手間がかかるので先送りして来ました。しかし、記事の登場後はずっと気になっていたので改めて設計・検証を行なうことにしたのです。 そう言う意味では、記事のフォローBlogとも言えます。

 もちろん既にトラ技記事の内容を参考に製作され、旨く動作しているのでしたらそのままで支障ありません。あらためて巻き直す必要はありませんのであわてずにお願いします。旨く行っているものを巻き直すメリットは何もありません。 以下の内容はこれから新規に1からやってみたいお方へのフォローです。

8石ラジオの回路図
 回路図がないのは寂しいので、まずは検証のために製作したラジオの回路図です。 トラ技の記事では6石ラジオでした。 基本的に同じなのですが、そのまま転載したのでは能がないので低周波回路を再設計しています。

 標準的な6石ラジオと言えば、低周波増幅部はトランス結合になっています。 昔々、トランジスタが高価だった時代にはトランス結合のアンプは合理的でした。 小型トランスの方がトランジスタよりも安価だったからです。トランス結合の低周波アンプならトランジスタの使用数も最小限(3つ)で済みました。実用十分な音量も得られます。それでトランス結合の低周波アンプが標準として定着したのでしょう。当時はOTL形式がまだ完全には確立していなかったと言う事情もありそうです。

 しかし、今ではまったく逆転しています。 ラジオに使うようなトランジスタなら数円〜数10円で買えますが、トランスは結構なお値段なのです。 特にアマチュアがトランスを単品買いするような時には顕著です。 従って、トランジスタの数は少々増えてもなるべくトランスを使わない設計の方が合理的(経済的)になりました。 コンプリメンタリ・ペア(相補対)のPNP/NPNトランジスタも普通に売っていますからITL-OTL回路も簡単に実現できます。(ITL-OTL :Input Transformer Less & Output Transformer Less)

 そのような状況から、本来の原点である6石ラジオの設計にあまり縛られずに行くことにしました。 2石増えた分はいずれも低周波回路に割り当てています。 従って、周波数変換(コンバータ)回路、中間周波増幅(IF-Amp)の高周波部分は6石ラジオとまったく同じです。そのため感度や選択度に大きな違いはありません。 それに高周波部分を変えてしまったらIFTの検証になりませんからね。 受信周波数は520kHz〜1620kHz、中間周波数は455kHzの標準的な設計です。

コラム:なぜ「6石」にこだわったのか?
電波が強い都会地から、放送局から遠い山間僻地まで実用になるトランジスタ・ラジオと言えば6石スーパーでした。それが最小限のトランジスタ数です。1石でも削れば何がしかの性能が大きく後退します。逆に7石や8石になれば一段と有利ですが石数が多くなるほど高額でした。 そのような意味で日本全国ほとんどの地域で実用になる「6石ラジオ」はどれほどの性能だったのか知る意味もあって「6石」に拘った訳です。 6石使って性能の良いラジオが作れないならウデが悪いのです。(笑) 今のように電子部品が安価で豊富な時代にあっては、性能本意で言えば7〜8石使う方が「ゆとり」が生まれます。さらには専用のICを使えば一段と高性能なラジオになります。

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使用トランジスタについて
 例によって2SC1815Y、2SA1015Yと言ったポピュラーなトランジスタを使います。但し、低周波アンプの出力部分(Q6とQ8)には電流容量が足りません。このため、一回り大きなトランジスタ:2SC735Y(2SC1959Yが同等)と2SA562Y(2SA562TMYが同等)を使います。これらのトランジスタが入手し難いようでしたら、2SC735Yの部分は2SC1815Yを2本並列にし、2SA562Yの部分は2SA1015Yを2本並列にして代用することも充分可能です。 コレクタ電流が500mAあたりまで流せるトランジスタなら、他のPNP/NPNのペアでも大丈夫です。なるべくhFEが大きなランクのものを選びます。

 2SC1815Yや2SA1015Yの部分は、他の汎用トランジスタに置き換えることも可能でしょう。 試作では主に2SC372Yと2SA495Yを使いました。 中波帯のラジオですから交換しても変化は感じられません。 もちろん、トランジスタ個々に直流電流増幅率:hFEは異なるので、コレクタ電流の流れ方に違いが出ますから適宜調整します。回路図に記入してある各段のコレクタ電流値と±30%以上異なるようなら、付きの抵抗器(R1、R11、R20)の値を加減して電流を調整します。何れも抵抗値を大きくすると各コレクタ電流は減少する方向です。

 【IFTの巻数一覧表
 これが主題のIFTの製作データです。 新たに3種類の設計例を示します。 最上段が実際にこの8石ラジオの試作で使ったものです。 中段は幾らかゲインが大きめで、選択度も良くなるよう設計した例ですが、上段とあまり差はないでしょう。 下段は、秋葉原などで一般に市販されているトランジスタ用IFTと概ね同じ仕様の物を作るための参考データです。

 なお、左図においで各IFTの端子番号はメーカー製のTr用IFTに合わせてあります。従って全て底面から見た図になっています。これは常識かと思っていましたが、ご質問をいただきましたので注釈をつけた図面に差し替えました。 もちろん自作する場合は上面図だと思って巻いても良いでしょう。各端子の接続が回路図の通りになっていれば大丈夫です。

 IFTの共振周波数はすべて455kHzで設計してあります。また、同調容量はいずれも330pFを使います。IFTそれぞれの1番と3番の端子(ピン)間に取り付けます。設計において回路のストレー容量として10pFを見込んでありますが、IFTを使う人は特にそれを意識する必要はありません。
 一般的なトランジスタラジオ用IFTでは同調容量として100〜200pFあたりが使われています。 必要な共振インピーダンスを得るためにたくさん巻き線する必要があるからです。これは、使ってあるフェライト・コア材の特性によるもので、無負荷Qが低いのをインダクタンスの大きさでカバーすると言った考え方です。また、市販のIFTでは同調容量を内蔵する都合からサイズの制限があってコンデンサの容量をあまり大きくできないのも理由なのでしょう。

 しかし、ここで使っているaitendoの「IFTきっと」(←リンク)のコア材は高いQが得られます。従って、やや少ない巻き数でも(=少なめのインダクタンスでも)充分な共振インピーダンスが得られます。 そのため330pFと言った大きめの同調容量でも支障無く設計できる訳です。 それにコンデンサは外付けしますから物理的なサイズの制限もありません。 同調容量を大きくした結果、AGCが掛かった時に起こるトランジスタの特性変動によるIFT同調ズレが軽減されると言った副次的なメリットもあります。(参考:このaitendoの「IFTきっと」のコア材は1MHz以下で使うものです。それ以上の短波帯ではQが急激に低下するのでご注意を。一般的に言って短波帯の使用には向きません)

 全体に巻き数が少なくなったので作り易くなったと思います。2次側巻き数が多いIFT3も巻き溝から溢れることなく巻き切れるようになりました。

 巻線の端子接続も変更しています。 これは巻き易さの点で、4番ピンと6番ピンの接続を入れ替えた方が合理的な様に思えたためです。 もしトラ技誌の記事と互換にしたいなら、巻始めと巻き終わりの接続を変えて下さい。4番ピンと6番ピンを入れ替えてもIFTとしての性能は違いません。

 巻線はφ0.08mmのポリウレタン電線です。全般に巻き数は減っていますが太さφ0.1mmでは必要な回数だけ巻けません。(80回弱しか巻けない) トランジスタ・ラジオのIFTとしては、これ以上同調容量を大きくするのは適当でないので、設計どおりの巻き数で巻線にはφ0.08mmを使うようにします。

 【コンバータ部分
 周波数変換回路のアップ写真です。 トランジスタは2SC372Yになっていますが、もちろん2SC1815YでもOKです。 赤いコアは局発コイルです。 これは最大容量が275pFの等容量2連ポリバリコン用に巻いた自作品です。巻線仕様はトラ技の記事(p71、b図)の通りです。(参考:新刊書籍の場合、135ページの図7を参照) 使用するポリバリコンに合わせた物を使います。

 IFTは上表の上段のデータに従って巻きました。 実際のラジオ回路にて性能を確認しましたが、同調容量に220pFを使ったタイプと違いはありません。もちろん、これは同じようなゲインや選択度になるよう再設計しているからです。

 ブレッドボードにIFTを搭載するための変換基板は、JR2FNK/1鶴田さんが製作されたものを使ってみました。 最近ではaitendoでも類似の変換基板が手に入りますが、HAMが作っただけあって、鶴田さんの基板の方が高周波的に有利なようです。 まあ、ここでは455kHzと周波数が低いので顕著な違いは感じられないかも知れませんが。(笑)
 トラ技記事の写真のような、端子を片側に引き出す変換基板(aitemdo)よりもボード上のレイアウトがわかり易いと言ったメリットもあります。 IFTの同調容量:330pFはすべて変換基板の端子部分(上面)にハンダ付けしてあります。(写真ではIFTの金属缶の陰で見えませんが)

 【従来型の低周波アンプ
 この写真は別にテストした「6石ラジオ」の低周波アンプの様子です。使っているトランジスタは合計3石です。 回路は教科書どおりのシンプルなものです。

 この例では全て2SC1815Yを使っておりバイアスの温度補償には小信号用シリコンダイオードを使っています。 回路図は示しませんが、トラ技2015年10月号(p72)の記事そのままです。 少ないトランジスタ数で済むのは良いのですが、意外にトランスが場所をとります。それほどコンパクトには組めません。 また、こうした小型トランスではインダクタンスが小さいので数100Hz以下の低い周波数が延びないため低音が出てくれず、いわゆる「トランジスタラジオ」らしい音がします。低音域で無理にドライブしてもトランスが磁気飽和して歪むのがオチです。(笑)

 ディスクリート構成(個別半導体による回路構成)に拘らないのなら、 LM386のような低周波アンプ用のICを使うと簡単でしょう。 コンパクトな回路が組めますし周波数特性もずっと良いので大きめのスピーカを使うと意外に良い音が楽しめます。 あるいはディスクリート構成でやるなら、SEPP-OTLアンプを構成すると良いです。(SEPP-OTL : Single-ended Push-Pull - Output Transformer Less・・・ITL-OTL回路の一形式)

SEPP-OTLの例
 最大出力Po(max)=250mW程度のパワーアンプをSEPP-OTL形式で構成した例です。(上記8石ラジオの回路) トランスは必要なくなりましたが、比較的容量の大きな電解コンデンサが増えました。 それでも上手にレイアウトすればずいぶんコンパクトに作れます。

 トランス結合のアンプよりも周波数特性はずっと優れていて大きめのスピーカを使ってやれば音楽も楽しめるでしょう。 SEPP-OTL形式はトランスのコストが削減できるだけでなく、音質も向上することからお薦めです。 2石増えて6石トランジスタ・ラジオではなくなってしまいましたが・・・。

参考:低周波アンプ出力段のバイアス回路にトランジスタを使うのは好みの問題です。私はバイアスの調整範囲が広いので好んで使っています。回路例では手持ちのPNPトランジスタを消費する目的で2SA1015Yを使っていますが、NPNの2SC1815Yを使う設計も可能です。 もちろんSi小信号用ダイオード2本と可変抵抗器一つに置き換えることもできます。性能も違いません。そうすれば1石減って7石トランジスタ・ラジオになりますね。(笑)

 以上、IFTの再設計がテーマなのでラジオの作り方や調整についてはだいぶ省きました。雑誌記事や他のBlog記事を参照してもらえば大丈夫だと思っています。 試作した8石ラジオは感度も良く音質もマズマズなことから実用品として纏めるのも面白いです。 大きめのバーアンテナを搭載すれば高感度で受信できるでしょう。 さらに短波ラジオの設計(←リンク)を取り入れて2バンド8石スーパーに挑戦するのも楽しそうです。

                  ☆ ☆ ☆

 製作してみた感じではIFTの再設計で幾らかですが作り易くなっているようです。 入手容易な素材でオリジナルなラジオ用パーツが作れるのは有難いと思っています。 有効に活用したいものです。 コイル巻きは好まれませんが、RF回路ではある程度やむを得ないでしょう。 送信機を作ったらLPFが必要でトロイダルコアに巻いて自作する必要があります。自作HAMにとってコイル巻きは避けられません。

 ラジオ受信機ではなるべくコイルレスの設計が進んでいて、たとえばこのBlogでも紹介したことがあるTA2003P(←リンク)のようにIFTを一つも使わないICラジオもあります。 但し、単なる普通のラジオならコイルレスも可能かも知れませんがHAMが使うような「通信型受信機」では数個のコイルはどうしても必要でしょう。

 書き出しのように、8石ラジオなんて・・と思うかも知れませんが、作ってみると意外に遊べます。 ラジオはありふれていますから、電子回路としては目新しくもないでしょう。 でもトランジスタ・ラジオを作ったのはずいぶん昔だったのではありませんか? もしスーパー形式で作ったことがなければ、8石スーパーは大人が十分楽しめる製作だと思います。IFTから手巻きすればなおさらでしょう。あまりなめて掛かると完成しません。(笑)

 コイル巻きも適切な材料と製作に必要な情報が手に入ればそれほど難しくありません。 トランジスタ回路用のコイルはごく小さいので、最初は悪戦苦闘かも知れませんが少し慣れれば要領を得て手早く作れるようになります。 コイルが巻ければ自作RF回路の幅がずいぶん広がります。ぜひ習得したい自作の技術です。 オリジナリティを活かしたような製作も可能になるでしょう。 たまたま手に入ったFBなSSB用フィルタを自作回路に活かしたいと言ったニーズにも対応できるようになります。

 JARL主催の自作品コンテスト出品作品を拝見する機会があったのですが、最適なコイルを自分で工夫して巻くと言ったワザも重要な製作ノウハウの一つであるように感じました。 ではまた。 de JA9TTT/1

(おわり)

2017年11月4日土曜日

【測定】Repair the TR5821 universal counter

測定器修理:TR-5821型ユニバーサル・カウンタ
 【TR5821
 年代物のユニバーサル・カウンタを修理する話です。

 TR5821はAdvantest社製のユニバーサル・カウンタで1980年代の製品です。 既に30年以上経過していますから、だいぶ古い測定器と言えるでしょう。
 しかし、カウンタとしての機能や性能は今のものとほとんど変わりありません。 1980年代にはユニバーサル・カウンタは十分完成された測定器になっていたからです。

 ユニバーサル・カウンタは単純な周波数カウンタとは違います。周波数が測定できるのはもちろんですが、その他に入力信号の周期や2つの周波数の比を求めたり、パルス信号の時間差などの計測が可能です。 しかし、アマチュア無線の用途では殆どの場合「周波数の測定」のみが使われるようです。 様々な機能があっても使わないのではちょっと勿体ないかも知れませんね。(笑)

 TR5821は廉価版ではありますが、もともとプロ用ですからそれなりのお値段(¥128k)でした。しかし、長い年月を経ているので、中古品の価格は十分にこなれており、もし機能・性能に支障さえなければお買い得だと思います。 ここでは、15年ほど愛用したTR5821のメンテナンスの様子をレポートします。もう使っている人は少ないでしょうね。

 【プッシュ・スイッチが弱点
  底部にある4本の長ネジを外すと中身を見ることができます。 TR5821は専用IC化が進んでおり、しかもマイコン採用とあって意外なほどあっさりしています。

 筐体は隙間がない構造です。従って、年数は経過していても内部のプリント基板は奇麗な状態でしょう。使ってある半導体に問題がなければまだまだ十分使える筈です。 古くても実稼働時間はそれほど長くないでしょうから劣化の進んでいない機体も多いでしょう。

 しかし、プッシュ・スイッチだけは別です。 この時代のAdvantest社製の測定器に使ってあるプッシュ・スイッチは甚だ品質が悪く、途中で交換修理してないなら100%へたっている筈です。 押した感触がないばかりか、切換えもスムースにできないでしょう。

 私が持っているこれも、ご多分に漏れずプッシュ・スイッチは全滅でした。 幸い交換用のスイッチ(対策済みの部品)が知人を通じて入手できたので取り替えることにしました。 なお、交換用スイッチはYahoo等のオークションにて「ADVANTESTスイッチ」で検索するとヒットするとのこと。 あとはご自身で確認されてください。 Advantest製品の修理サービス会社は修理以外のサービスはしていないはずです。 部品の入手について問い合わせてもご迷惑をかけるだけでしょう。やめた方が良いです。

 表示・操作パネルは筐体下部と嵌め込み式になっており手前側に外すことができます。 写真は操作パネルの裏側にあるプリント基板です。 この基板にプッシュ・スイッチが付いています。 左側の2個を外したところで撮影しました。ちょっと面倒臭かったのですが、全部交換したら快調そのものです。もっと早く交換すれば良かったと思いました。

                    ☆

以下、せっかくの機会なので簡単にTR5821の特徴的なところを書いてみましょう。

A入力で1kHzを観測
 TR5821にはA入力とB入力があります。

 A入力はごく普通の周波数カウンタです。1kHzを入力し、1秒ゲートで測定すると写真のように「1.002kHz」のように表示されます。分解能は1Hzと言う訳です。

 なお、A入力の上限周波数はSpecでは120MHzとなっています。 標準信号発生器:SSGを使って試したところ、120MHzを超えると幾らか感度は悪くなる傾向が見えましたが180MHzまで測定できました。 測定精度も問題ないようです。 アマチュア局の場合、144MHz帯まで測定できれば活用範囲が広がるのでFBだと思います。 個々にバラツキはあると思いますが、故障さえなければ150MHz以上測定できるのではないでしょうか。

 【B入力で1kHzを観測
 TR5821の特徴はB入力ではないかと思います。

 写真は、上記と同じ1kHzをB入力に加え、同じ1秒ゲートの設定で周波数を測定している様子です。

 B入力は「レシプロカル・カウンタ」になっていて、入力信号の周期から逆算して周波数を計算する形式です。 従って、比較的低い周波数を短時間で高精度に読み取ることが可能になっています。 この例では、1mHz(ミリヘルツ:1/1000Hz)まで1秒ごとのサンプリングで読み取ることができます。 もしも上記と同じように、普通のカウンタでこれだけの桁数を読もうとすれば。1回毎の測定に1,000秒(17分近く)掛かることになります。

 このように、TR5821は比較的低い周波数の信号を高精度に測定するときに威力を発揮しますが、自作のプリスケーラを前置して測定する場合にも非常に効果的です。 なお、B入力の最高周波数は、Specでは50MHzですが実測では約88MHzまで可能でした。

 レシプロカル・カウンタの測定原理や固有の測定精度の問題に関しては、取扱説明書(ネットで入手可能)に書かれています。詳細はそちらを参照して下さい。


B入力で10Hzを観測
 「レシプロカル・カウンタ」の効果は上記の例で既に明らかですが、10Hzと言った低い周波数ではより顕著になります。

 もしA入力で測定すれば「10」としか表示されません。 左写真のように読もうとすれば「10万秒」が必要です。 それだけ掛かったら測定しているうちに被測定物の周波数がずいぶん変動してしまうかも知れませんね。(笑)

 TR5821の中古品を求めるなら、ぜひともB入力に着目したいと思います。 もしレシプロカル・カウンタの機能が使えないなら価値は半減以下ではないでしょうか? 目的次第かも知れませんが、ぜひとも押さえておきたいポイントの一つです。 TR5821の姉妹機には1.3GHzまでのプリスケーラが内蔵された機種(TR5823)やOCXO付き(TR5823H)もあって狙い目かも知れません。なお、TR5822はGP-IB付きです。但しいずれも機能的に同じですからTR5821で十分でしょう。精度や測定範囲は外付けで補えますから。 これらの上位シリーズにはTR5824/5825もありましたが、レシプロカル・カウンタの機能はなかったかも知れません。(要確認です)

 なお、内蔵の基準発振器が普通の水晶発振器の機種では良く校正しておけば誤差1ppm程度の精度になるようです。常温の環境で通電してから1時間後の精度です。 また、校正次第ですが基準発振器がOCXOならもう1〜2桁精度は良くなります。もちろんOCXOは常時通電されていなくてはダメですけれど。
 どれも外部基準入力端子(10MHz)が付いているので、写真のようにルビジウム原子周波数基準器なり、GPS周波数基準器から10MHzを与えれば測定精度の画期的な向上が図れます。 外部基準器としては、通電から30分程度で必要充分な精度に達するルビジウム原子周波数基準器がお薦めできると思います。

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 アマチュア無線家にとって周波数の高精度な測定手段を持つことは夢の一つでした。 ラフな測定なら吸収型周波数計やディップメータが役立ちますが、精度1kHz以下ともなればヘテロダイン周波数計くらいしかありませんでした。 ヘテロダイン周波数計は扱いに技量を要するうえ、周波数カウンタのような手っ取り早い測定は無理でした。 1960〜70年代の話です。

 1970年代に入って、高速なTTL-ICやECL-ICが入手できるようになると周波数カウンタの自作が流行しました。 私もさっそく自作し、上限周波数は50MHzくらいではありましたが、無線機の自作にたいへん活躍してくれたことを思い出します。 初代のTTL+ニキシー管を使った5桁表示の周波数カウンタは既に引退していますが、C-MOS LSIと高輝度LEDで作った2代目はいつでも使える状態です。

 かつて高性能な周波数カウンタを作ることは自作テーマの一つだったのですが、既に興味も薄れました。 組み込み用マイコン式カウンタには未だにニーズもありますが、独立した測定器としてのカウンタは別です。 流石にメーカーの製品は良くできています。まあ、これは当たり前ですが、中古品ならリーズナブルに入手できるのですから自作する面白みは何だか失われてしまった感じですね。 良かったら、貴局の周波数カウンタの思い出など教えて下さい。 ではまた。de JA9TTT/1

(おわり)

参考:最近の中華製ユニバーサル・カウンタにはレシプロカル・カウンタの機能が搭載されているものがあります。使用経験はないので使い勝手の良し悪しは不明ですが、新品が欲しい場合は検討対象にするのも良さそうです。