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2020年7月21日火曜日

【回路】Making an AM-Radio with MC3340P

MC3340Pを使ったAM Radioの試作
 <Abstract>
I built a prototype AM radio using Motorola's IC: MC3340P in the AGC circuit. The purpose of this is to test if the MC3340P electronic attenuator can be used for radio and wireless communication devices.
The MC3340P is a low-frequency device. As a result of my trial, I found out that it can be used for high frequency circuits as well.
 I think it is possible to make a receiver with good AGC characteristics by applying it well.  (2020.07.21  de JA9TTT/1  Takahiro Kato)

AM-Radio 機能試作・1
 二つ前のBlog(←リンク)でモトローラ/ONセミ製のMC3340Pと言う電子ボリウムを扱いました。 MC3340Pは低周波用のデバイスですが、周波数特性が伸びていることから、低周波のAGCアンプだけでなくラジオのIFアンプへの応用も示唆されたのです。
 そこで、さっそくMC3340Pを使ったAMラジオを試作しました。 まずは中間周波増幅器(IFアンプ)として思ったように動作するのか、ごく基本的な実験から始めました。 優秀なAGC特性・・・端的に言えば広いAGC範囲と低歪みな特性・・・を持ったIFアンプの製作はなかなか難しいものです。MC3340Pを使うことでそれが可能になるか確かめました。結果はかなりFBなようです。

                   ☆

 シンプルにAMラジオで試してみましょう。もちろん単なるAMラジオを作るのが目的ではないので専用のラジオ用ICチップは使いません。ラジオは作りますが、今回は「ラジオ作り」そのものが目的ではありませんので。
 ここでは電子ボリウム用のMC3340Pがラジオや通信機のAGC回路にうまく使えるのか実際にテストしてみます。 まずはAMラジオで様子を見ますが、より本格的な通信機に使えるかどうかも検討したいと思っています。
 MC3340Pの可能性が確かめられれば良いのでなるべく手間を省いて実験します。便利なICを多用することにしました。実験回路はそのままラジオとして使うことも十分可能ですが、実用品にするならもう少し改良したら良くなる所もありそうです。今回はありきたりのラジオ製作がゴールではありませんのでそのつもりでどうぞ。
 
AM-Radio 3340 Schematic
 さっそく実験回路です。中間周波が455kHzのスーパー・ヘテロダイン形式のAMラジオです。 6石ラジオの途中にMC3340Pを付け加えたような回路でも良いのですが、遊びの意味もあって新規のラインナップで考えました。

 周波数変換(コンバータ)はデュアルゲート・MOS-FET:BF998を使った自励式コンバータです。 DG-MOS-FETをこうしたAMラジオのコンバータ回路に使う例は見ませんでしたが旨く動作してくれるようです。感度もまずまずですからもっと使われても良いのではないでしょうか。

 コンバータに続くIFフィルタ(中間周波フィルタ)は中心周波数が455kHzで通過帯域幅が15kHzのセラミック・フィルタを使いました。ここでラジオの選択度が決まります。使ったフィルタは選択度が良い(特にスカート特性が良い)ため混信もなく、また十分な通過帯域幅があってAMラジオながら再生音域も広く得られます。市販のラジオが3kHzくらいまでしか再生できないのに対して7kHz以上の再生音域が得られそれだけHi-Fi(ハイファイ)になります。もしアマチュア無線用(AM波対象)なら帯域幅6kHzくらいのフィルタが適当ですが、AMラジオの受信にはずっと広い方が良いでしょう。混信さえなければ20kHzくらいでも良いくらいです。(但し夜間は9kHzのビート音の可能性があってノッチなどで対処が必要)

 セラミック・フィルタの次はMC3340Pです。ここにAGCを掛けます。AGC回路はFETを併用する方式にしました。  検波出力が小さめなので、AGCの効きを良くする目的でカットオフ電圧が小さい2SK544Fを使います。通信機なら増幅型AGCも考えるのですが、単なるAMラジオなのでシンプルに済ませました。 MC3340Pの後はLA1221と言う差動アンプ形式のIF-Amp.用ICを2つ使って十分なゲインを得ています。LA1221はCanパッケージのトランジスタのような形をした4ピンのコンパクトなICです。 MC3340Pを含めたIFアンプ全体で50dBくらいのゲインがあります。 検波回路はゲルマニウム・ダイオード:1N34Aを使った標準的なものです。検波した電圧を平滑してAGC電圧としています。

 初めはIFアンプ+検波器だけで実験していました。 セラミック・イヤフォンで聞いていたのですが、使い物になりそうだったので低周波アンプを追加しました。 低周波アンプは定番のLM386タイプです。 LM386にも少々飽きてきたので別のICでも・・・と思ったのですが、あえて凝る意味もないのであっさり定番で済ませました。(笑)

 全体の消費電流はICを多用したため少し大きめです。無信号状態で約27mAでした。上手に作った6石ラジオなら10mA程度で済むのですが、MC3340Pを試すのが目的ですから省エネ方向の追求はしませんでした。各部が安定して動作してくれたらテストには十分だと思います。

 【Converter : BF998
 コンバータには少し前のBlog(←リンク)でテストしたBF998型デュアル・ゲートMOS-FETを使いました。 また、別のBlogではDG-MOS-FETで自励コンバータ形式(←リンク)のクリスタル・コンバータを試したのですがなかなか旨く働いてくれました。 これらの実験結果に基づき、今回は水晶発振ではなく変形ハートレー型のLC発振回路を使った自励式コンバータを構成してみました。これはとても旨く動作しています。

 BF998はヨーロッパ系のDG-MOS-FETですが秋葉原や通販で安価に手に入ります。 国産品で代替するなら3SK35ほかディプレッション型のデュアル・ゲートMOS-FETならほとんどのものが使えます。(例:3SK35、2SK41、3SK45、3SK51、3SK59、3SK65、3SK73など候補はたくさんあります)

 アンテナコイルには、フェライト・バーアンテナを使いました。試作品では長さ120mm、直径10mmのものを使いました。このバーアンテナだけで十分な感度があります。 基本的に外部アンテナは不要でしょう。 外部アンテナは遠距離受信に効果がありますが、このラジオはローカルの放送局を良い音で聴くのが仕様です。

  市販のAMラジオ用局発コイルが使えると自分で巻いて作る手間が省けます。 性能など検討の結果、市販の既製品も支障なく使えましたが、後ほど局発コイルとIFTを手作りするための図面・資料があります。詳しくはそちらで。

 【OSC Level : at BF998 Source
 DG-MOS-FETの第1ゲート部分を使った変形ハートレー型の局部発振回路です。 ゲート部分に入れたダイオード(Si-Di)の整流作用で自動的にバイアスが掛かって発振振幅が安定します。 D1:1N914は重要な役割があるので省略しないでください。1N914の代替には一般的な小信号用シリコン・ダイオードなら大抵のものが使えます。1N4148、1S2076A、1S1588、1SS53、1SS178などなど。

 受信周波数範囲は520〜1620kHzなので、局発の発振周波数は+455kHzの975〜2075kHzです。 その範囲で発振振幅は概ね一定に保たれています。 写真では1Vppですが、もう少し小さめに調整しても良いようでした。 組み立てが済んでからVR1:10kΩで発振レベルあるいは変換ゲインを見て加減します。

(注:写真は未調整の段階で撮影したため上記の周波数範囲をやや外れています。ただし範囲調整後も発振振幅に変化はありませんでした)

 【AMR-3340 : Making Coils
 局発コイル(T2)と検波回路部分のIFT(中間周波トランス:T3)の作り方です。 aitendoで売っている「IFTきっと」を使って製作しました。 巻線はφ0.08mmのポリウレタン被覆電線(UEW電線)を用意します。 ここでは最大容量が275pFの等容量型2連バリコン(ポリバリコン)を使う前提で局発コイルを設計しました。 この図のコイルの足ピンの番号はすべてコイルを底面(足ピンのある側)から見た時のものです。

 しかし、市販品の局発コイルやIFTも十分使えます。 バーアンテナ・コイルなどと一緒にバリコンも合わせて購入すればコイル製作の手間は掛かりません。 AMラジオ用のコイル類は秋葉原あるいはラジオ部品の通販サイトで購入できます。 もちろん「IFTきっと」を使って自分で巻けば非常に経済的です。手間か費用かの選択と言うことですね。

 なお、一般的に市販されているAMラジオ用のポリバリコンはアンテナ同調側が約140pF、局発側が約82pFのトラッキングレス型が多いようです。 従って局発コイルもそれにあったものを購入します。局発コイルとしてはインダクタンスが約360μHくらいのものが良いはずです。(SLV-C01と言う型番の市販品がある)なお、こうした市販の局発コイルを使うときには回路図のC5:330pFは不要なので除去(取り除き短絡)します。 またバーアンテナ(T1)の方はインダクタンスが550μHくらいあるものを選ぶことになります。入手しやすい市販品として例えばSL-55X(あさひ通信)などが良いでしょう。バーアンテナはフェライトコアが大きなものが高感度です。(一般的にはコアが大きい方が良いが、コアの材質・種類にもよる)

参考:コロナのクラスタ発生もあり秋葉原には行きにくい状況にありますが、「東京ラジオデパート」のシオヤ無線電機商会あたりに行けばこのラジオの製作に必要なコイルとバリコンが一式揃うはずです。(残念ながら、シオヤ無線電機商会さんは、2023年8月31日に閉店しました。もう手に入らないコイル類は手作りする必要があります) KBF-455R15Aと類似特性のセラミックフィルタは秋月電子通商で手に入ります。

IF-Filter and IF-Amp
 選択度を決めるIFフィルタには「セラミック・フィルタ」を使いました。 写真・左側に見えるブルーの箱型がIFフィルタです。 京セラ製のKBF-455R15Aを使っています。これは製造中止品のようですから手に入ったもので代替すれば良いでしょう。村田製作所の製品が入手しやすいようです。 使用するフィルタの終端インピーダンスに合わせてR5とR6を変更します。(回路図では1.5kΩ) 一般的に終端インピーダンスは1〜2kΩのものが多いです。手に入ったフィルタのインピーダンスがわからないときは回路図のまま作っても良いでしょう。 このラジオの場合、セラミック・フィルタがないからと言ってIFTで代替すると選択度不足になるのでお勧めできません。

 AGC回路に使うMC3340Pの詳細は前のBlog(←リンク)を参照してください。ここでは455kHzの中間周波増幅回路のところに使っていますが考え方は低周波の場合と同じです。 但し、周波数特性を伸ばすためPin.6はオープン状態で使います。
 MC3340Pだけではゲインが足りません。LA1221と言うIFアンプ用のICを2つ使ってさらに2段増幅しました。 LA1221はちょっとしたRF/IFアンプには便利なのですが、かなり旧式なのでおそらく入手は困難です。 IFアンプ部分で40〜60dBのゲインが得られればどんな方法でも良いです。 手に入った部品で代替すれば十分です。トランジスタやFETでも良いですが、いまでしたら高速OP-Amp.の採用も有りでしょう。拙宅ではLM359NもIFアンプの候補でした。

 LA1221はもともとFM受信機用のICです。そのため、あまり大きな信号を扱うとリミッタ特性が現れてうまくありません。しかしこの例のように2段増幅ならリニアに増幅する範囲内でした。従ってAMやSSBのような振幅変調系のIFアンプに使っても支障はありません。同じ回路で試したいお方に差し上げますのでお問い合わせを。
 
 【Detector
 検波回路はゲルマニウム・ダイオード:1N34Aを使ったオーソドックスなものです。  IFT(=中間周波トランス)を使わぬ形式も可能ですが普通のトランジスタ・ラジオと同じ回路にしました。検波ダイオードは1N60や1K60も使えます。1SS97などのRF用ショットキ・バリヤ・ダイオード(SBD)でも大丈夫です。 ここで使用したIFTは自作品ですが、市販で見かけるSLV-C04(コアは黒色)が同じように使えます。

 IF信号を検波することで得られる直流(DC)電圧の成分は概ね信号の大きさに比例します。 図の回路では負のDC電圧が得られますのでその電圧を平均化してからAGC制御用のFET:2SK544Fのゲートに与えます。 AMラジオでは常識的な平均値型のAGC回路になっています。 なお、2SK544Fの代替として2SK241GRと2SK439F(ピン配置要注意)がありますが、この用途の場合2SK19GRや2SK192AGRもほぼ同じように使えます。

 【Audio Amp.
 初めの頃はセラミック・イヤフォンで実験していました。 しかし、イヤフォンは鬱陶しいのでスピーカを鳴らすことにしました。 100mWくらいのパワーがあれば実験には十分です。 アンプ回路は何でも良かったのですが、オーソドックスに「386型IC」を使いました。

 回路はメーカーの資料に「ラジオ用」として紹介されているものを参照しました。入力部のLPFや出力部のRFCで高周波の回り込みを防ぐ工夫がされています。

 写真のものはJRC製のNJM386BDですが、一般的なLM386Nでも支障ありません。 BlogではJRC製が頻繁に登場していますが単に手持ち在庫の都合に過ぎません。

 もちろん、他の低周波アンプ用のICでも良いのですが、電源電圧=9Vに適当な物となると意外に選択肢は少ないように思います。 ディスクリートで作っても良いのですが、今回はあえて部品数を増やす意味を感じなかったので定番の「386」で済ませました。 386なら秋葉原や通販で容易に手に入るのも良いところです。

AM-Radio 3340 EVX-2
 以上で全てです。 MC3340PのIF-AGC回路への適性を見極めるのが目的です。 IFアンプ部分だけを作って測定器による評価だけでも良かったのかも知れません。

 しかし、なるべく具体的な応用例があった方が実感が湧きやすいものです。そう思ってAMラジオの形に纏めてみました。 試作したラジオが非常に優秀だとは思いませんが、良くAGCが効いているのは実感できました。 感度的にもマズマズなので実用品として使うことも十分可能でしょう。 何れにしてもMC3340Pが受信機のIFアンプ回路に旨く使えるかの確認になりました。 AGC特性については下記の参考・3に概略の評価結果を追記しました。

                 ☆  ☆

参考・1このラジオの調整について
このラジオはスーパーヘテロダイン型なので、トラッキング調整が必要です。
◎次のような道具を用意します: 周波数カウンタ、テストオシレータ、DMM、調整用ドライバ、ジェネカバ・受信機(=周波数カウンタの代わり) 、直流安定化電源

☆以下の手順で調整します。
(1)製作の確認:電源を与える前に部品の付け忘れや誤配線がないか入念に確認します。
(2)消費電流の確認:DMMを使います。まず電源電圧を9Vにセットし、電源から流れる電流が測れる状態に配線します。電源を加えたら素早く電流値を読み取ります。回路図に書かれた値と大幅に違う場合(±50%以上)は誤配線やショート、配線もれなどが考えられるので一旦電源を切って再確認します。
(3)IFTの調整:テストオシレータを使います。アンテナ端子から変調をかけた455kHzの信号を与えます。周波数は正確である必要があります。60dBμ以上加える必要があるかもしれませんが、信号が聞こえたらIFT:T3を調整して一番大きな音が聞こえる様にします。最大のところがわかりにくい時はテストオシレータの出力を適宜加減します。
(4)受信範囲の調整:周波数カウンタを使います。Q1:BF998のソース電極:S端子の部分に周波数カウンタを接続します。 (A)バリコンを最大容量の位置(一番低い周波数側)にします。発振周波数が975kHzになるように局発コイル:T2のコアを調整します。 (B)次にバリコンを最小容量の位置(一番高い周波数のところ)にします。発振周波数が2075kHzになるように、半固定コンデンサ:C4を調整します。 上記の(A)と(B)を交互に繰り返します。両端で概ね5kHz以内まで合って来たら最後に(B)を行なって終了します。これで520kHz〜1620kHzが受信できるようになります。 なお、周波数カウンタは測定可能な範囲でなるべく小容量で結合させると精度良く調整できます。 ジェネカバ受信機を使って調整しても良いです。その場合、受信機からのアンテナ線を作ったラジオのコンバータ部:BF998のあたりに近付けます。SSBモードで受信すると発振の存在がわかり易いです。上と同じ手順で(A)975kHzと(B)2075kHzの周波数でビート音が聞こえるよう局発コイルと半固定コンデンサを調整します。
(5) アンテナ回路の調整:テストオシレータを使います。テストオシレータの出力はワンターンコイルでバーアンテナに結合すると良いです。 (C)まず変調した600kHzをアンテナ端子へ加えます。バリコンを回してテスト信号を受信します。その状態でバーアンテナ上の同調コイルをフェライトコア上でスライドさせ一番よく聞こえる位置に仮固定します。テスト信号が強すぎるとわかりにくいのでテストオシレータの出力を適宜加減します。 (D)テストオシレータの周波数を1400kHzにします。バリコンを回しその信号が受信できたら更によく聞こえるようにトリマコンデンサ:C3を調整します。 これら(C)とD)を交互に繰り返します。どちらでもよく聞こえるようになったら最終的に(D)の調整で終了します。 パラフィンなどでバーアンテナの同調コイルを固定して完了です。

# なお、テストオシレータが用意できない場合、(3)のIFT調整は後回しにします。(5)のアンテナ回路の調整は実際にラジオ局を受信しながら行なうこともできます。その場合、低い方は500〜600kHz、高い方は1200〜1500kHzのローカル放送局を2つ選んで調整します。例えば関東の場合はNHK第1(594kHz)とニッポン放送(1242kHz)などが良いでしょう。高い方はRFラジオ・日本(1422kHz)が良いのですが地域によっては受信困難です。 (3)を飛ばしたとき、IFTの調整は受信できるラジオのうち、弱めの局を聴きながらよく聞こえるように合わせておきます。

 このラジオはアンテナコイル(バーアンテナ)への負荷効果が小さいため、アンテナ同調回路における選択度はかなり良好です。同様に感度的にも有利です。これはDG-MOS-FETを使った効果です。 ただし完全な調整を行なわないと本来の感度が得られません。手順に従い入念に調整します。

参考・2Sメータの付け方(簡易版)
 同調点表示器と言ったほうが良いかも知れませんが、簡単にSメータが付けられます。FET:Q2 2SK544FのソースとGND間に入っている抵抗:R10(820Ω)のGND側を切ってGNDとの間にラジケータを挿入します。ラジケータの極性はR10側がプラス、GND側がマイナスです。 ラジケータの内部抵抗がわかればその分だけR10を減らすとなお良いです。 このSメータは逆振れ型で500μA程度のラジケータがよく振れます。 無信号のとき振り切れる場合はラジケータとパラに抵抗を入れて一杯に振れるよう加減します。ごく簡易なものですがメータがあるとラジオもサマになります。(笑)


参考・3:AGC特性(追記:2020.07.25)
測定器を使ったAGC特性の評価結果です。入力として変調信号が400Hzで変調度30%の1000kHz・AM信号で評価してみました。 強さを変えて採った代表的な特性ですが、AGCの有効範囲は約60dB程度でした。 60dB(1000倍)の入力変化で検波出力の変化は12.8dB(約4.4倍)に収まります。6石スーパと比べはるかに優秀です。 なお、IFアンプ自体はさらに大きな入力信号を扱えるのですがコンバータ段が先に飽和しました。しかし大電力放送局の至近でもなければ心配ないでしょう。コンバータ段は感度か大入力特性優先なのかを考えてバイアス調整すると効果的でした。 アンテナがバーアンテナなので測定には「テストループ」を使うべきですが、今回は使用せず簡易評価です。従って絶対感度は求めていません。現状で強弱の違いはありますが関東一円の民放局が受信できます。 これは当たり前ですが、MC3340Pの特性をフルに発揮させるには受信機全体のレベル配分がとても重要です。さらに高性能化するための指針としては、IFアンプのゲインをもう10dB程度アップするかDCアンプを付加して増幅型のAGCにしたいところです。ラジオではなく通信型受信機なら間違いなくそうすべきでしょう。

                   ☆

 もともとMC3340Pを使ってみるのが目的です。 AMラジオではあまり見たことのないようなデバイスを多用した「変わったラジオ」になりました。 前から研究テーマの一つだったDG-MOS-FETを使った自励式コンバータも実験できました。この自励式コンバータは短波帯でも十分使えそうです。  あえて珍しいようなデバイスを使ってAMラジオを作る意味はないかもしれませんが気分転換にはなりましたね。(笑) MC3340Pを試して受信機のAGC回路への適性があることもわかったのは収穫です。 今回は455kHzでテストしましたが、もう少し高い周波数でもかなり使えそうです。
 さらに使い方を工夫してちょっと高級な受信機でも試用してみたいと思っています。 既に良好なAGC特性を持ったIFアンプとしてはAD603を使ったものをテスト済みです。一方、MC3340Pの特徴はその扱い易さにあります。特に低い周波数のIFアンプには有利でしょう。それ自体は低ゲインですから発振しやすいと言ったトラブルもありませんから。

 AMラジオは何回も作ったので、ありきたりのデバイスで作っても面白くありません。 あまり定番にとらわれず手持ちの部品を積極的に使ってみました。従って実験した回路は必ずしも理想的ではない部分もありますが、少し変わった部品でラジオを作ってみたいなら面白いかも知れません。定番の部品を使ったラジオを卒業したら試してみてはいかがですか? ではまた。 de JA9TTT/1

(おわり)nm

2020年7月5日日曜日

【回路】Frequency Counter kit from China

回路:中華カウンタとプリアンプ
<abstract>
I made a kit for a frequency counter. This kit was purchased by mail order from China. It was only $2.9-.
The frequency counter was lacking in input sensitivity as it is. So I will build a pre-amp to increase the sensitivity. I put an amplifier on it and it started counting at an input of about 100mV. This is very practical.  (2020.07.05  de JA9TTT/1  Takahiro Kato)

お手軽カウンタキット
 しばらく前から秋葉原のお店で周波数カウンタのキットが安価に売られるようになりました。PICマイコンを使ったもので、5桁のLED表示になっています。キットをよく見ると中国製のようでした。そこでAliexpressで検索したら写真のようなキットが売られていました。価格はわずかに$2.90-です。どうやら秋葉原の商品と類似品のようです。送料無料なのと相まって、あまりに安いのですがちゃんとしたのが届くんでしょうか?

                   ☆

 HAMの自作にはテスタだけでは不十分です。 何もなかったころの「昔風の製作」を信条とするならともかく、いまなら周波数カウンタは欲しいものの一つでしょう。 ここでは中華通販で買った周波数カウンタとそれに付加するプリアンプを試作してみました。本格的な測定器の代わりとして結構役立ちそうなので紹介することにします。もし周波数カウンタを持っていないなら一つ作ってみては如何ですか?

 既に周波数カウンタを持っていても、この中華カウンタは役立つかも知れません。IF周波数が455kHzの受信機(例:9R59Dとか)はもちろん、それ以外に任意のオフセット値を加減算するカウンタにもなります。VFOとか局発の周波数を読んで送・受信周波数をデジタルで直接読み取る「周波数表示器」としても使えそうです。 機能の詳細については省きますので、設定方法など詳しい使い方はネットにある取扱説明書を参照してください。 プリアンプの付加はそうした「ラジオ・カウンタ」などの用途にも有用です。 以下、もしも興味を覚えたらご覧を。 今回の電子工作はビギナーでも難しくありません。

 【キットが届く
 注文してから約40日ほど掛かって到着しました。安価なキットですし、送料も無料ですから最も安価な輸送手段で発送されたのでしょうか? 台湾からのようですから、ひょっとしたらVia AirではなくてSurfaceだったのでしょうか?

  現在はコロナ禍の影響があって中華通販は滞り気味です。昨秋の購入なので約40日でしたが、いまはもっと掛るかも知れません。気長に待つしかないでしょう。 少し高くてもよければ秋葉原のお店で購入するのが手っ取り早いです。あるいは国際通販に不安があるなら国内の通販も良いかも知れません。Amazonにも売っているようです。 購入場所や時期によって幾らか基板のバージョンに違いが見られるようですが、基本的にどれも同じだと思います。

(備考)中華通販はあまりに安い(約330円)ので、ひょっとしてプログラムの書かれていないPICマイコンでも・・なんて疑いました。しかしこれは余計な心配であり、きちんとプログラムは書いてありますし基板も綺麗なものです。部品の過不足もありませんでした。ただし、組み立て説明書のような資料類は一切付いてきませんから自力でネットから探すことになります。でも、簡単に見つけられました。

 【組み立ては簡単
 部品数も少なくて簡単なキットです。まずは部品の不足がないか確認しましょう。もっとも、もし不足があってもお店にクレームを入れるよりも足りない分を自身で補う方が手っ取り早いです。もちろんLED表示器やPICマイコンのような主要部品の欠品は致命的ですが。

 抵抗器はカラーコードが5本の1%誤差のものが付属していました。5本なのでカラーコード4本の抵抗器に慣れていると戸惑うかも知れません。先頭の3本で有効数字を表します。(注・1) 各部品は浮かせたりせずに写真のように基板にぴったり付けて実装するのをお薦めします。

 この周波数カウンタキットは、クリスタル・テスタを兼ねています。このクリスタル・テスタは水晶発振子を発振させてテストするための機能です。 しかし不良品でもないのに発振できない水晶発振子が多くていま一つのようでした。 もし手持ちに2〜20MHzくらいの水晶発振子があれば装着してみます。 うまく発振してくれれば発振周波数が表示されます。
 周波数カウンタとしての基準は基板上に20MHz水晶発振子が載っています。その周波数調整用のトリマコンデンサも付いています。 正確に周波数がわかっている発振器があれば校正できますが、もしなければとりあえずそのままでも良いでしょう。 いずれ 機会を改めて校正すれば良いです。

 写真は外部の発振器から999.99kHzを水晶発振子の測定端子のところへ与えてみたものです。(1MHz以下の測定では小数点が点滅します) 残念ながらこの方法は感度が悪くて実用性に乏しいことがわかりました。かなり大きめの信号を与えないと計測してくれません。 要するにこの基板単体では周波数カウンタとして感度が悪すぎるのです。 さらに水晶発振子の端子からではなく、その右側のコネクタにある「IN」端子経由で試しても同様でした。(IN端子はもっと感度が悪い。ここは論理信号レベルの矩形波に限るようでした) そこで、外付けのプリアンプが是非とも必要だと思ったわけです。

(注・1)中国製抵抗器の精度:
日本メーカーの抵抗器は非常に優秀で、1%精度の抵抗器の実力は0.5%くらいです。1%を超えることはまずあり得ません。 これに対して中国製は1%精度の物でも数%以上の誤差を持つこともあるようです。中国製はあまりアテにはなりません。 但しこの周波数カウンタ・キットの場合、抵抗器の誤差は±10%でも支障ないので選別などせずに使って大丈夫です。  悲しいことですが、中国製抵抗器の精度が悪いのは半ば常識のようになっています。

 【プリアンプと接続法
 電界効果トランジスタ(FET)と普通の高周波用トランジスタ(BJT)を使った2石の簡単なプリアンプです。 カウンタ基板との接続方法も書いておきました。

 アンプはFETを使って高い入力インピーダンスを実現しています。 これは測定対象の回路にカウンタを接続した際の影響をなるべく小さくするためです。  入力された信号はまずFETで増幅されます。さらにそれに続くトランジスタで十分に増幅されます。その結果、30MHzあたりまで約100mVの入力感度が得られました。100mVの感度があればトランジスタ・ラジオの局発回路のような発振電圧が小さな所の測定もできます。 さらに高感度に・・と言うご希望もあるかも知れませんが、製作は難しくなってしまいます。簡単さも考慮すればこれくらいが適当でしょう。

 入力部のFET:Q1は2SK544Fを使います。代替として2SK241GRあるいは2SK439Fでも良いです。ただし2SK439Fは足の並びが逆順なので注意します。2段目のトランジスタ:Q2は高周波特性の良いトランジスタに限ります。ここでは2SC1424と言うfTが2GHzくらいあるトランジスタを使いました。2SC1424は大して高価なものではありませんが代替として中華トランジスタの「S9018H」(←関連Blogにリンク)が使えます。これなら単価10円くらいです。安くても性能十分です。

 回路はごくシンプルなものです。キーポイントはQ2に周波数特性の良いトランジスタを使うことにあります。「ピーキング」と言った広帯域アンプの周波数特性を伸ばす手は使いませんでした。再現性が必ずしも良くないため測定器を持っていないと調整や確認が難しいからです。 しかし、この回路ならバイアス調整のみ行なえばOKです。図の*1の抵抗器:R5を加減して、トランジスタ:Q2のコレクタとGND間の電圧が2.4〜2.6Vくらいになるよう調整します。測定は普通のテスタなら何でも可です。電圧が低すぎるなら抵抗値を大きくします。高すぎるなら逆にします。 同じ種類のトランジスタを使ったとしても調整は必ず行ないます。入力端子をGNDへ短絡し無信号の状態でやります。この調整は入力感度に影響するので必須です。

参考:合理的な調整方法
100kΩの可変抵抗器(ボリウム)を用意します。可変抵抗器は半固定型でも良いです。R5を取り除き仮に可変抵抗を配線します。電源を加え、Q2のコレクタとGND(電源マイナス側)との間の電圧を測定します。その電圧が約2.5Vになるよう可変抵抗器を調整します。そのまま可変抵抗器を取り外し、DMM(アナログ・テスタも可)で可変抵抗器の抵抗値を読み取ります。 その抵抗値になるべく近い抵抗器を標準品から選んでR5とします。交換したらQ2のコレクタ電圧をもう一度測定して確認します。2.4から2.6Vの範囲にあればOKです。やや低すぎるなら抵抗値を大きくし、高すぎるなら小さくします。あまり厳密である必要はありません。抵抗はE12系列から選べば十分でしょう。

注意:大き過ぎる信号を加えないよう注意します。例えばハイパワーな送信機の出力や真空管発振器のように発振電圧がたいへん大きな回路をそのまま測定すると入力部のFETを壊します。なるべく小容量の結合コンデンサを介して測定するとか「ワンターン・ループ」のような結合を加減しやすい測定プローブを作ってなるべく弱く結合して測定します。送信機のアンテナ端子を直結で測定するなどもってのほか。あんがい良く知った風のOMサンがやらかしてますのでご注意を。(笑)  アンプの入力部分にダイオード(2つ)を使った保護回路を追加するのも良いでしょう。ただし保護回路は万能ではないので測定の注意は同様です。

 【プリアンプを試作
 恒久的に使うならユニバーサル基板にハンダ付けで組み立てるべきでしょう。 専用のプリント基板を起こしても良いのですが、何台も作るわけではないので・・・。 とりあえず回路の動作確認のためにブレッド・ボード(BB)に組み立てました。

 部品数もわずかですから簡単にテストできます。 組み立ての注意は「なるべく部品の足を短く」です。 高周波回路ですからリード線が必要以上に長いとうまく動作しません。 配線を短くコンパクトに組み立てると高性能化できます。 写真はあまり上手な例とは言えませんのでユニバーサル基板に組み立てる際はもっとコンパクトに作りたいと思います。

 【カウンタ基板小改造
 一箇所だけ基板側の改造が必要ですが、魔改造ではありませんから誰でも簡単にできます。 基板端面の水晶発振子の測定端子の上側にある「102」と書いてあるコンデンサを取り除きます。それだけです。(笑)

  もしクリスタル・テスタの機能も残しておきたい場合は、コンデンサを外した場所にピンソケットのような物をハンダつけしておくと良いでしょう。(写真) ソケットにコンデンサを戻せばクリスタル・テスタになります。 周波数カウンタとして使う時はコンデンサを抜いておけば良いわけです。 ここでは1列型のピンソケットをカットしてコンデンサがあった場所にハンダ付けしました。 センターのピンが邪魔なのでカットしておきます。 写真はそのソケットに「102」のコンデンサを戻した状態です。外付けのプリアンプを付加して周波数カウンタとして使うときには「102」を抜き去ります。

テスト-1・455kHz入力
 この周波数カウンタはなかなかよくできています。5桁の表示器をうまく利用するためにオートレンジになっています。

 この例では約455kHzを測定している様子です。写真のように999.99kHzまでは10Hzの分解能で測定できます。 また、99.999kHzまでは2Hzの分解能です。(1Hzではありませんでした。まあ、支障はないですけれど) このように、有効桁数が活かせるようにレンジが自動で切り替わり、それに連れて小数点の位置も変化しますから読み取る際には良く確認します。 なお、表示値がkHz単位になるときには小数点がブリンク(点滅)します。MHz単位のときはブリンクしません。

テスト-2・30MHz入力
 参照した説明書によると50MHzまでカウントするそうです。 詳しい確認はしませんでしたが、それくらいまで可能なようでした。 ただし周波数の上昇と共に感度は悪くなります。プリアンプのゲインが下がってくるのもその原因です。

 それでも周波数特性の良いトランジスタを使ったおかげで、30MHzも100mV(rms)以下の入力で十分カウントできるようです。 もしQ2に2SC1815のような汎用トランジスタを使うと高い周波数でがっくり感度が落ちてしまいます。高周波用トランジスタの効果が実感できます。
 30MHzあたりまで100mVの感度があれば、ほとんどのトランジスタ回路の発振周波数が測定できます。自作した発振器の周波数を調整すると言った用途には十分活用できるでしょう。

 10MHz以上の測定では最小分解能は1kHzになります。 やや物足りないところですが、これはやむを得ないところでしょう。 レンジがホールドできればオーバーレンジさせて下の桁を読むと言ったこともできるのですが、オートレンジしかないのでそれもできません。 330円のカウンタに多くを望むのは酷でしょうか。hi

(参考)この周波数カウンタは、DL4YHFと言うドイツのHAMが開発した回路/ソフトウエアが元になっているようです。それを基板化し、発振回路を付け加えたものでしょう。リンク先にはオリジナルの記事があります。

                   ☆

 何でこのキットを作ったのかという話です。 しばらく前なのですが「短波ラジオの製作」を記事にしたいと言うようなお話がありました。でもそのお話はお断りしました。 たしか初心者向けの内容をご希望されたように思います。そうなると調整に使う「道具」が問題でした。 まさかシンプルな「短波ラジオ」を作るのに周波数カウンタや信号発生器(テストオシレータなど)を一式買ってくれとは言えませんからね。「短波ラジオ」は中波のラジオのようには行かないのです。

 幾らか工夫は必要ですが、満足に働く周波数カウンタが300円少々で手に入れば道は開けるかも知れません。加えてシンプルな発振器でも自作しその周波数が正確に読めれば信号発生器の代用品も得られます。道具さえ揃えば「短波ラジオ」の調整がちゃんとできるようになるでしょう。このキットにそれを期待しました。作ったあとラジオの周波数表示器としても使えますから。(ラジオのノイズ源になることがあって、良くシールドするとか使い方の工夫が必要になることもあります)

 こんなチープな測定器でも使いこなせば効果絶大です。逆にいくら高級な機器も有効に使わなければシャックのお飾りでしょうね。所有するだけでは価値は生まれません。手元の道具は有効に使いたいものです。これは自戒を込めて。(笑)

 何でも売ってる時代です。昔に比べれば、様々な測定器が安価に手に入る良い時代です。しかし入門向けの製作なのに測定器が何台も必要では製作意欲もそがれます。手作り+安価な市販品を道具として旨く活用し「ラジオ作り」が長く楽しめる趣味になって欲しいと思っています。 ではまた。 de JA9TTT/1

(おわり)fm

(参考)本格的な周波数カウンタを自作したいならこちら(←リンク)の連載でどうぞ。