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2020年11月30日月曜日

【回路】Try the germanium transistor! Part 2

回路検討:ゲルトラで作るパワー・アンプ

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Making an RF Power Amplifier with Germanium Transistors. Germanium transistors are vulnerable to high temperatures, so they are mounted on a large heat sink. The Π605 is made in the Soviet Union, so I had to make a little effort to mount it on a heat sink. Now that it went well, let's try a collector grounded type RF Power Amplifier. (2020.11.30 de JA9TTT/1 Takahiro Kato)

Π605でパワー・アンプ
 前回のPart 1(←リンク)では水晶発振回路を試作してみました。大きめの石(トランジスタ)を使えば100mWくらいの発振出力なら十分可能そうでした。

 7MHzの送信機として目標パワーは3〜5Wです。発振から一段の増幅で一気に3W以上得られたら良いのですが、それには終段パワー・アンプのゲインがどれくらい取れるのかが課題になります。

 パワー・アンプも旧ソ連製のトランジスタ「Π605(P605)」で作ります。Π609Aよりコレクタ耐圧が高く電流もたくさん流せるからです。これらはパワーを出すための条件とも言えるものです。但しfTが低いのでのでパワー・ゲインは小さめでしょう。

 2000年ころ作ったゲルトラの送信機でも終段の石が問題でした。何とか100mWが得られる2SA127という石を見つけて目標のパワーが出せたのですが、それが限界でした。
 Π605は遥かに大きな規格のトランジスタです。コレクタ耐圧:VCBO=-45V、コレクタ電流:Ic=-1.5Aです。コレクタ損失:Pcも3Wありますから上手に使えば数Wは可能なはずです。 fTはΠ609Aの120MHzより低いのですが、それでも30MHz以上あるので7MHz送信機のファイナル(終段増幅器)なら何とかなるでしょう。あとはどれくらいのパワー・ゲイン(PG)が得られるのか、具体的に言えばどれくらいのドライブ電力が要るのかがこの実験のテーマとなります。

                    ☆

 20年前ならもっと「ヤル気」に満ちていたかも知れませんね。最近はボチボチじっくり楽しもうという方向で進めるようになってしまいました。たった2〜3ステージのシンプルなCW送信機に何ヶ月も掛けていてはしょうもないのですが、遅々としているのが現実です。私なんか待っていないで「ヤル気」に満ちたお方はどんどん先に行ってください。じっくり楽しみながら追い付きますから。(笑)

 ゲルトラの送信機など自作のテーマとしてもは特殊ですし、さしたる意味がある製作とは思えません。実用的な送信機なりトランシーバはシリコンの高性能なトランジスタやFETで作るべきです。 物好きな製作がお好みならこの先も宜しいかも知れませんが、あまり興味がなければ早々にお帰りください。大したことは書いてありませんし。 暮れは何かと慌しいもの、いたずらに時間を浪費されませんように。


黒いΠ605
 入手できたΠ605には黒いものもありました。この黒いΠ605はさらにリード線がハンダ付けされていました。ソ連時代の機器の何か決められた目的・用途に使う物だったのかも知れません。

 地金色の無塗装でリード線付きのΠ605も売られているのを見たので、色の違いにさしたる意味はないのかも知れません。 しかし何となく気になりました。本体部分の形状はまったく同じですが、黒く塗装されていてリード線が付いているなど選別品を加工した可能性もありそうです。 ひょっとしたら電気的な特性に違いがあるかも知れません。可能な範囲で調べてみることにしました。

 今回のようなRFのパワー・アンプで気になるのはコレクタ耐圧とトランジション周波数:fTの違いです。 耐圧が高ければより高いコレクタ電圧を印加できるため増幅効率が良くなり、大きなパワーが得られる可能性があります。 逆に耐圧が低ければ目的のアンプには不適当になるでしょう。 またfTが高ければRFのパワー・アンプには有利ですが、逆に低ければ十分なゲインが得られません。使いにくい石になってしまいます。

 調べた結果から言うと大した違いはありませんでした。ロットの違いによるバラツキ以上の差異はなさそうです。 黒い方がややfTが低めでしたが10%くらいの違いです。 コレクタ耐圧はほとんど同じでした。 耐圧の実測ではいずれの石も規格値よりも高かったので好都合です。電源電圧:Vcc=-12VのCW送信機なら十分安全に使えそうです。

こうしたデバイスの特性を比較する時にはカーブトレーサがあると重宝します。


Π605の外形寸法図
 Π605に限らず、前回のBlogで発振回路に使ったΠ609Aも同じ形状です。 この形状はソ連時代のパワー・トランジスタではポピュラーなようです。

 今回はパワー・アンプなので十分な放熱が必要ですから寸法図に従って、本格的なヒートシンクに穴あけ加工を行なって取り付けることにします。

 ソ連は米国と違ってメートル法を採用していたようです。 そのためこうした電子部品の寸法もmm単位になっています。 その点は米国のインチ法よりも扱い易いのですが、手加工するとなるとなかなか細かいところは思うように行かないものです。


ハンコは廃止の方向ですが
 上記の図面に従って精密な穴加工ができると良いのですが、手工具だけではなかなか精度が出せません。せめて重要な寸法の部分だけでも正確な位置にセンターポンチを打って精度を出したいものです。

 精密にけがいて位置決めできたら良いのですが、なかなか精度が出ません。手っ取り早い方法として「現物合わせ」で行くことにしました。
 足ピンに太さが有りしっかりしていますから、スタンプの要領で朱肉を付けてピンの位置を正確に写し取ることができました。 あとは写し取った紙片を切り抜いてヒートシンクの所定の場所に貼り付け、正確にセンターポンチを打ってやればOKでしょう。 この方法は精度もよく大成功でした。

 足ピン3本の穴加工が成功したら、止め金具の穴位置を決めます。 トランジスタの足ピンが開けた穴のセンターに来るように粘着テープで仮に固定します。 止め金具を載せて固定する位置を確定します。こちらの穴はφ3mmのビスに対して、最初から遊びがあるため多少ラフでも支障ないでしょう。


穴加工終了
 穴加工がうまくできました。 押さえ金具の位置合わせは多少やり難かったのですが大丈夫でした。 金具の方に遊びがあるのでそれなりの加工精度でもうまく行くようです。

 日本で一般的なパワー・トランジスタなら取り付け穴加工が済んでいるヒートシンクが容易に手に入ります。自ら穴加工する必要はあまりありません。 また、最近は樹脂モールドタイプのパワトラが殆どですから穴加工も一つだけで済むため簡単です。 まさかソ連製のトランジスタ用にヒートシンクの穴加工をするとは思いませんでした。


取り付けてみる
 さっそく仮に取り付けてみました。思ったよりも上手く行きました。
 ピン足の穴あけ位置は十分良い精度が得られています。 ピン足の穴は初めφ2mmで開けました。位置的にも精度的にも問題はないようでした。 しかしリード線をハンダ付けするなどの都合を考えると余裕がないのでφ2.5mmに追加工して終了にしました。

 押さえ金具の固定にはヒートシンクにタップを立ててネジ穴加工を行ないました。これでM3のネジで直接止めることができます。

 Π605はケースがコレクタに接続されています。 従ってこのような止め方ではコレクタとヒートシンクの絶縁が保てないことになります。 しかし、これは支障ありません。 はじめからコレクタをアース・GNDする回路形式で設計しているからです。(後ほど回路図あり)
 トランジスタのケースを直接ヒートシンクに密着することで最良の放熱効果が得られます。また、コレクタとヒートシンク間のキャパシティも発生しなくなります。 コレクタがケースに接続されているRF用パワー・トランジスタの使い方として確立された回路形式です。


組立構造を考える
 どのように組み立てるのか考えた結果、ナマ基板の上に作ることにしました。周波数は7MHzですから神経質になる必要もないのですが、RF的(高周波的)に安定な構造が間違いないでしょう。

 ヒートシンクに固定用のタップを立ててあります。 基台となる生基板にねじ止めで固定します。 ヒートシンクもGNDに直結されますから高周波的にも安定すると思います。
 回路部分は生基板の上にランドとなる基板片を瞬間接着剤で貼り付けて組み立てます。 何しろ実験的な一品料理ですから何でもアリです。

 さて、今回のPart 2はここまでの作業でおしまいです。 RFアンプとして組み立ててゲインの測定や可能なパワーなど見極めるのは次回以降になります。 今のところ、トランジスタ単体での事前評価では十分なゲインが得られ、パワーも出てくれるように思います。 ただし、RF用のゲルトラで数Wと言った「ハイパワー(?)」を扱った経験はありません。 ゲルトラは思いのほか脆い(もろい)という印象もあるので、パワーが出るのはほんの一瞬ですぐに壊れてしまう・・・と言った結末もないとは言えません。 大きな・・・過剰そうにも見える・・・ヒートシンクを奢っているのも少しでも安全かつ確実なパワーを期待してのことです。 それでも、このソ連製ゲルトラのS/B領域はどの程度なのかと言った情報はないので気が抜けません。


実験回路(案)】
 最終設計ではないことをあらかじめ書いておきます。 まずはRFパワー・アンプ部単独でテストします。回路はこのような物を考えていますが、まだ最終的なものではありません。

 ゼロ・バイアスのC級増幅ではなく、B級あるいはAB級バイアスも可能なように考えてあります。 ただし、ゲルトラの場合ゼロバイアスであっても僅かなコレクタ電流:Icoが流れています。これはベース漏れ電流:ICBOの影響によりるものです。普通、シリコンのトランジスタでは殆ど無視できる電流です。ところが、ゲルマニウム・トランジスタではそれが無視できません。 従って常に完全なゼロバイアスではない訳で、特にリニヤ・アンプ的な動作を望まないのであれば、外部に特別なバイアス回路は必要ないのかも知れません。VBEも0.2V位と小さいですし。このあたりも含めて、実際に製作して最適化したいと思っています。 ゲルトラのRFパワー・アンプはまだまだ未知の部分が多いのです。 だからこそじっくりとスリルも味わいつつ製作を楽しみたいものです。

                   ☆

 少し間が空いてしまったらすっかり気が抜けてしまいました。やるべきことは沢山あるのですが、なかなか捗りませんでした。取り敢えずはどんな回路で作るのかを決め、それに合ったようにヒートシンクの加工から始めました。ここまでは何とか進んだのですがその先がストップしています。パワー・アンプとしての回路定数も未定の部分があります。そこが肝心だったりしますが・・。(笑)
 何事も心がけ次第ですね。気が抜けてしまうと遅々としてしまいます。この先はパワー・アンプのゲインを測定したらドライバ・ステージへ戻って必要なパワーが得られるよう設計を進めましょう。ではまた。 de JA9TTT/1

(おわり)nm
 

2020年11月15日日曜日

【測定】Simple Transistor Curve Tracer.

測定:簡単カーブトレーサ・アダプタの試作法

abstract
This Blog explains how to make a simple curve tracer adapter. This curve tracer adapter was designed in the 1970s. So, there is no IC in it. Instead, this is a very good use of UJT. The circuit is simple, but I think it still works well today. I also dealt with how to modify the cheap oscilloscope, which is an essential part of the curve tracer. Even a simple oscilloscope may work well. How do you like it for your shack? (2020.11.15 de JA9TTT/1 Takahiro Kato)

これだけの回路でできる
 カーブトレーサはトランジスタやFETと言った半導体の特性をビジュアルに表示するための装置です。 そんなカーブトレーサ(アダプタ)の製作と言うと何だか難しそうですが、写真のたったこれだけでも機能します。 もちろん、シンプルなだけに機能や性能は限定されたものですが「有るのと無いのとでは別世界」なのは間違いないです。(私見です・笑)

 これで殆どの小信号用トランジスタの観測ができます。 ただし特性カーブを描き出すための表示装置としてオシロスコープを使います。オシロまで自分で作るのは大変なのでこれだけは用意しましょう。 難しいことを言わなければ、後ほど説明するような安価なオシロスコープでも十分役立ってくれます。 オシロスコープなんて持っていないと言わずにローカルなジャンク市とかメルカリやジモティーで目的に最適な出物が見つけられるでしょう。

                   ☆

 うまく説明できなかったようでカーブトレーサにご興味を示すお方は限られたようです。・・と言うか、使用経験のないものには反応もないですよね。 予想通りPart 0で終了しても良さそうでしたが、それでは収まりが悪そうです。 そこで予備調査の段階で検討したとても簡単なカーブトレーサ・アダプタを雑誌記事から紹介しておきたいと思います。 今は興味がなくてもいつか欲しくなるかもしれません。そんな時には思い出して下さい。 もちろんその可能性はなければここでお帰りがお勧めです。

試作の元はこれ
 ネットで探すとカーブトレーサ(アダプタ)の製作は結構引っかかります。 しかしごく簡単なものが大半で、画面にトランジスタの特性は描き出せるもののオモチャ程度の物が多いようでした。
 そうかと言って「測定器」として通用しそうな物は高級すぎて製作も大変です。 その中で参照したこの記事はオモチャ以上に役立ちそうに見えました。しかも、見ての通り回路もかなり簡単です。

 古い記事なのでシンプルとも言えますが、旨く纏められていると思います。これくらいなら誰でも作れそうな回路規模でしょう。 実際に試作は手持ちの部品でほとんど間に合ってしまいました。(手持ち部品に合わせ多少は工夫した)

 前回のBlog(←リンク)の写真に写っている大きな電源トランスは手持ちの都合です。過剰なサイズですからもっと小さな物で十分でしょう。たくさんあるスイッチ関係が一番厄介かもしれません。 スイッチのような機構部品は正規に購入すると意外に高価です。しかし秋葉原や日本橋で探せば適当なものが見つけられるはずです。(参考:例えば2回路11接点のスイッチは、東測のRS400N2-2-11APなど。@¥2,500ーくらい) 手持ちのジャンクを有効活用すれば経済的でしょう。回路の詳細はこのあと説明します。

 なお、ここで参照した雑誌記事の全文がここ(←リンク)に置いてありますので、製作されるのでしたら是非ダウンロードして下さい。製作方法だけでなく特徴や詳しい使い方も解説されています。英文ですが一般読者向けの内容ですし、たった3ページですから読むのも困難ではありません。わからなければ質問でもどうぞ。(もしリンク先のファイルが開けない・ダウンロードできないなどトラブルがあれば言って下さい。メール添付で送ります)

回路の説明
 カーブトレーサ(アダプタ)として非常に基本的な回路です。 それでもベース電流のステップ数が任意に変えられるほか、NPNトランジスタだけでなくPNPトランジスタの観測もできるようになっています。なかなか本格的ですね。
 また2SK192Aのような小信号FETの特性もわかります。 古い設計なので最近のMOS-FETのようなエンハンスメント型には対応していませんが、ちょっと改造すれば原理的にそれも観測できるはずです。

 回路は主に2つの部分でできています。 一つ目はメインとなる回路で、ベース電流を段階的に増加させて流すための「階段波発生器」です。この部分はUJT(ユニ・ジャンクション・トランジスタ:単接合型トランジスタ)を非常にうまく使った回路になっています。詳しい動きは過去に実験したことがあるのでそちら(←リンク)も参照して下さい。

 1V刻みの階段状の波形を作っています。オリジナルの回路のままだと6段程度が限度でした。6段でも十分実用にはなりますが、もう少しだけ段数を増やしたかったので単純に電源電圧をアップして対応しました。これで8〜9段が得られるはずです。使用しているトランジスタやUJTの定格から見て電源電圧20Vなら支障のない範囲です。(左図はBT-33Fのピン配置図)

 なお、わざわざ電圧の高いトランスを購入までして対応する意味は少ないです。手持ちにトランスがあるなら回路図通りに作っても良いでしょう。 試作では+20Vの安定した電圧を与えてやりました。整流したあと3端子レギュレータなど使って安定した電圧を与えるようにすれば確実な動作が期待できます。

 半導体の代替方法は回路図に注釈しておきました。肝心のUJT:BT-33Fはイーエレ(←リンク)で購入しましたが、Aliexpress(中華通販)でもたいへん安価に売られています。BT-33Fは中国のUJTですが2N1671の代替品として支障なく使えます。手に入るなら国産のUJT:2SH12とか2SH21などでも良いでしょう。 他のトランジスタは2SC1815GRと2SA1015GRで十分です。わたしは中華モノの2N3904と2N3906(どちらも互換品)を使ってみました。たいへんうまく動作します。

 もう一つはコレクタ電源です。これは測定対象のトランジスタに(スイープされた)コレクタ電圧を与えるための電源部です。ゼロVから最大電圧まで任意に加減できる必要があって、この回路図ではワット数の大きなボリウム(可変抵抗器)を使って電圧を加減するようになっています。(R27の部分)ここはだいぶ電流が流れますから普通の500Ωのボリウムではまったくダメです。数W(ワット)以上が定格の巻線型ボリウムを使うと安全です。 わたしは手持ち部品の都合で別の回路(手前にある謎の回路)で試しましたが、シンプルなこの回路図のような方法で十分だと思いました。

 もともとパワートランジスタ向きの設計ではありませんので、電源トランスなどいずれも小型のもので十分使い物になります。これでなくてはいけないという部品はUJTくらいのものですから、手持ちを有効活用する方向で検討すると良いです。 電源部で難しい部品はないと思いますが、ダイオードは逆耐電圧が100V以上あって1Aくらい流せるものなら何でもOKです。 電源トランスですが、12V巻線が3つ付いた規格品は見掛けませんが、トヨデンのHTR-2405のようなトランス(24V途中タップつきが2巻線:各0.5A)で代替できるでしょう。安定した20Vを作るのにも好都合なトランスです。東栄変成器にも同様なトランスがあります。 もちろん都合の良い巻線が2つ付いたトランスが見つからなければ小型のトランスを2つ使う方法でもかまいません。各自が工夫できる部分です。

階段波発生回路の製作例
 階段波発生回路の様子です。 同じような機能を得るために、今でしたらデジタルな回路を作るとかOP-Amp.で行くとか別の方法があると思います。いくつか簡単そうな方法も考えました。 しかし必要な性能があってしかもシンプルな回路となると、このUJTを使った回路は捨て難いものでした。

 測定対象のトランジスタのベースにこの階段状の電圧から直列の高抵抗を経由して加えます。トランジスタのVBEはほぼ一定ですので、概ね階段状に変化する「定電流」でドライブされることになります。

 回路のかなめであるUJTこそ少々特殊な部品ですが、中国製のUJT:BT-33Fが安価で手に入るので支障はないでしょう。以前購入した物を使いましたが、今でも問題なく手に入ります。 価格も安いですから心配ありません。 UJTと言うと凡人は電子メトロノームや雨垂れ睡眠器のようなアプリしか思い浮かびませんが、こうした測定回路にも使えるのですね。考えたお方は素晴らしいです。

 写真には可変抵抗器(半固定抵抗)が3つ写っています。 そのうち一つ、1V Stepの調整用VR(R4)は製作後の初期調整用です。操作パネルに出す必要はありません。 他の二つはパネル面に出してツマミをつけて下さい。 使用中は時々加減する必要があります。

 配線は少々長くなっても支障はありません。何しろ低周波の50Hzとか60Hzを扱うだけですので。 ただし、被測定トランジスタのベースへの配線に電源からのAC電圧が誘導すると波形が揺れてしまいます。またコレクタに印加する電圧は100または120Hzの脈流なのでこれの誘導にも注意します。いずれもベースへの配線と密着させて長く引き回さなければ大丈夫です。あとは特に難しいことはないでしょう。部品配置もラフで大丈夫です。案外雑に作っても動作します。

重要:トランジスタを壊さないように
カーブトレーサは測定対象のトランジスタを(簡単に)壊す能力があります。トランジスタに加えられる最大電圧や、流せる最大電流を超えた測定ができるからです。従って扱いを間違えると貴重なトランジスタやFETを瞬時に壊します。測定を始める時には、必ずコレクタ電圧を絞った状態で装着します。さらに、ベース電流も小さな設定から様子を見ながら順次増やして行くようにします。 NPNとPNPの区別はもちろんですが、コレクタ、ベース、エミッタの電極を間違えて装着すると「イチコロ」の可能性があるので十分気をつけます。これはどんなカーブトレーサでも同じです。 どうか虎の子の貴重な石を壊しませんように!

CO-1303Gの使い方
 だんだん使い道がなくなって来たようなオシロスコープ:CO-1303DやGも十分使えます。ただし少し改造した方が使い易くなるでしょう。

 写真は、無改造のCO-1303Gに表示させて見たものです。 測定しているのはNPNトランジスタの2SC1815Yです。写真のように第3象限に波形が描かれるようになります。(画面を180度回転したようになる訳です) これはカーブトレーサ・アダプタの回路構成上、コレクタ電流は負方向の電圧として現れるためです。(←NPNトランジスタの場合) また、コレクタ電圧は正方向に出るのですが、このCO-1303Gの外部入力(X軸入力)は偏向方向が逆なのです。プラスの電圧を与えると輝点が右ではなく左に動くのです。(逆に動くなんて、こんなのもあるんですねえ!・笑)これら2つの理由のため写真のように反転したような表示になってしまう訳です。

 慣れの問題なのでこのまま使っても支障ないかも知れませんが、できたらNPNトランジスタの特性は第1象限に現れて欲しいものですね。

近代的オシロなら改造不要
  カーブトレーサ・アダプタ側で回路的に解決することも可能です。しかし幾らか複雑化しますし、このシンプルなアダプタはこのままが良いと思います。 それと、もう少し高級な(近代的な)オシロスコープならこうした問題は回避できるのが普通です。 今では2現象以上のオシロスコープが一般的だと思います。 そうしたオシロでは、ほぼすべての物にチャネル2(Y軸になる)の極性反転スイッチがあるはずです。このスイッチをONすればコレクタ電流の表示極性を反転できます。これで上方向が正(+方向)の表示になります。 また、チャネル1がコレクタ電圧を示す横軸(X軸)になるのですが、正方向の電圧で右に(+方向に)振れるのが常識でしょう。 従って、CO-1303G/Dでは表示が反転する問題がありますが、もう少しマシなオシロならカーブトレーサ・アダプタの側はそのままで何も問題ないのです。

 そのようなことから、回路的に対策するのはやめておきました。シンプルなままが良いです。

CRTの極板を入れ替えればOK
 CO-1303G/Dの場合、ではどうすれば良いか? 答えは案外簡単に見つかりました。 要するにCRT(ブラウン管)の偏向方向を変えてやれば良いわけです。 偏向極板の極性を入れ替えれば、輝点の動きは逆になりますから簡単に反転できるのです。バカみたいに単純な方法ですが、何でもSimple is the Bestですから。

 もっと高級なオシロでは、そう簡単ではないかも知れませんがシンプルなCO-1303Gのようなオシロならごく簡単に対策できます。 現象から見て、X軸、Y軸ともに反転する必要があります。 回路図と現物を確認したら容易に可能でした。 まず、Y軸ですが背面に直接軸入力用の切り替えスイッチが付いていました。 そのスイッチを流用して偏向極板の極性を入れ替えます。極板からの配線もそのスイッチまで来ています。 X軸の方はおあつらえ向きのスイッチは付いていませんから、2回路のスナップ・スイッチを追加して写真のように配線の途中に切り替えを設けました。

 恒久的にカーブトレーサにするなら配線を変更して(入れ替えて)しまえば良いとは思いますが、PNPトランジスタを測定することなども考えるとスイッチで反転・非反転が切り替えられた方が使い勝手は良いでしょう。

良い感じに
 偏向方向の反転スイッチを設けてやるとこのようにわかり易い表示になります。これは2SC373の特性を測定しています。 安価なオシロですから、表示の有効面積が小さくCRTも内面目盛ではありません。それでも十分使い物になります。縦x横で6x8目盛分の有効範囲があります。 簡易型のカーブトレーサ・アダプタとは言え小信号トランジスタを測定する範囲においては本格的なものとさして違いのない能力があると感じました。手持ちオシロの活用範囲を拡大できるアダプタとして面白い製作ではないでしょうか?

 オシロスコープのY軸とX軸の感度を校正しておきます。 CO-1303GのY軸には感度の調整ツマミが付いていますから、例えば0.1V、0.2V、0.5Vで1目盛になるポジションにそれぞれ印を付けておくと便利です。そうすれば0.1Vのところで管面の1目盛が1mAのように直接読み取ることができます。 感度ツマミ右のアッテネータ(V.ATT)と併用すれば高級なオシロと遜色ない程度に使えます。 X軸も感度調整のツマミに1Vで1目盛、あるいは2Vとか5Vで1目盛といったポジションに印を付けておくと便利です。校正は電圧可変型のDC電源とデジタルマルチメータなどを使えば簡単にできます。

もちろんもっと良いオシロを使えばさらにFBです。 CO-1303Gで説明を進めましたが、もしオシロスコープの購入を考えているならもっと良いものを手に入れてください。 きちんとしたオシロならX軸・Y軸ともに校正さていますからコレクタ電圧やコレクタ電流の読み取りも確かです。50MHzや100MHzと言った広帯域なオシロの必要はまったくないので、10MHzや20MHzと言った人気のない機種が十分役立ちます。従って、この用途に適した中古品でしたらかなり安価に手に入るでしょう。

                  ☆ ☆

 初めは約束通りPart 0でお仕舞いにしても良いかと思ったのです。何だか傍観者ばかりの現状ではこれ以上話しを進める意義は感じられませんでした。 しかし、簡単な紹介くらいしておくことにしました。 尻切れのようでは後味が悪いですからね。hi
 私が試作したものは記事のままではなくVer.1.0.1と称して仕様を変更したり、いくつか手持ちパーツの都合で工夫した箇所もあります。しかし既に解体済みで説明が面倒なので本来の記事にある範囲にとどめておきました。それで実用上の支障はないからです。Ver.2の話もまたいつか何かのご縁でもあればにします。多分、それもありません。

 たいへんシンプルなカーブトレーサ・アダプタですが、原理的にはTEKTRONIXの本格的なカーブトレーサとさしたる違いはありません。 雑誌記事のままだと幾つかの欠点がありますし扱いにくさも感じますが、まずまず実用になるはずです。百聞は一見にしかず、管面に描き出されたリアルなトランジスタの特性を見ればそれはわかりますね。

 もし、これで満足できなくなったらもっと高級なものに手を出しても遅くはないでしょう。 最初から高級すぎる物を目指して挫折するよりもずっとマシです。まずはシンプルなものを存分に使いこなすのが賢明かも知れません。 これでカーブトレーサのお話はおしまいです。次回はいつもの路線(?)に戻ります。  ではまた。 deJA9TTT/1

(おわり)nm