YIG共振器を使った発振器のことで、YTO(YIG Tuned Oscillator)とも言う。一般には可変周波数型の発振器であってPLL周波数シンセサイザのVCOなどの用途で使われる。 その特徴はGHz帯で広い周波数可変範囲が得られることにある。位相雑音が少なく、奇麗な発振出力が得られるのも好まれる理由だ。
もっとも簡単なYIGオシレータの使い方と言えば、可変電流源でT-Coilの電流を変えれば良い。あとは発振部に電源を与えてやるだけで所定の発振出力が得られる。 コイルの直流的な巻線抵抗は温度により変動する。抵抗値が変化してもコイルの電流が設定した値に保たれるよう『定電流回路』を使うのである。なお、定電圧源ではコイル抵抗が変動すると電流が変わってしまうから駄目である。これだけでGHz帯の可変周波発振器になる。
YIGとはYttrium Iron Garnet/Y3Fe2(FeO4)3の略で一種の磁性フェライト材である。(Yttrium:イットリウム) YIGの単結晶フェライトで作った真球(Sphere)は磁界の中に置かれると高い周波数で鋭い共振特性を示す。要するにHigh-Qな共振器なわけだ。その共振特性を利用して発振回路を構成する事ができる。それだけでは水晶発振器と違いはないように感じるかもしれない。そのYIG球だが、共振周波数が磁界の強さによって変化するのが大きな特徴である。球の近傍に置いた電磁石に流す電流によって球に加わる磁界Hを変えてやれば、共振周波数を可変できる訳だ。
写真はYIG発振器の心臓部である。黒光りする球体がYIG球で、直径0.2〜0.8mm程度のものが使われている。球は熱伝導性のセラミック・ロッド(一般に酸化ベリリウム磁器)の先に接着してある。これは、YIG球が温度の影響も受けるからで、ロッド根元のヒーターで球の温度が一定になるよう制御する。(注:ロッドは回転させて共振する向きに球を調整する役割も重要)
YIG球を取り囲むような薄板の帯(オビ)は、発振回路と結合するためのワンターン・ループコイルである。左側のセラミック基板上に発振回路が構成されている。GHz帯なので極小の部品が使ってある。発振回路はトランジスタ式とFET式がある。位相雑音はトランジスタ(BJT)の方が優れるものの高い周波数のものが作れないとのことだ。最近の製品ではSiGeへテロジャンクション・トランジスタの登場により一段と性能を向上させている。
YIGオシレータは発振回路、可変磁界を作るコイル、YIG球の温度制御器を一体化したモジュールで供給される。 コイルに規定の電流を流しYIG球に磁界を与えた状態で発振回路に電源を加えれば出力端子に信号が出てくる。YIG球から発振器を自作する訳ではなく、完成したモジュールを使うに過ぎないから何も難しくはない。(・・と思う)
拙宅にあったYIGオシレータである。 測定器のメーカー、ADVANTEST社の旧社名であるタケダ理研と書かれているものだ。だいぶ古そうである。 ハムフェアのジャンク市で入手したものと思う。 端子接続はこの手のモジュールの標準的なものである。書いてある端子名を頼りに接続すれば良い筈だが、ドライバ回路の設計に必要な数値的な情報を得るために予備実験によって実測することにした。
もっとも重要なのは主同調用コイル(Tuning Coil/T-Coil)に流すDC電流と発振周波数の関係である。 コイル電流を可変しながら電流と発振周波数の関係を調べた。 その結果このモジュールはT-Coilの電流を約60mA〜180mA可変すると約1.6〜4.4GHzをカバーすることがわかった。その範囲を外れると発振は停止する。出力パワーは周波数によって多少変動するが、約15dBmくらいあるようだ。 だいぶ古そうな中古品だが性能は問題なさそうで、十分使えると思う。 他に発振部の所用電流なども合わせて測定しておいた。
もっと高いかと思ったが低い周波数のものであった。必要なのはもっと高い周波数なので今回は使わないが、何時か使う時の為の情報を集めておいた。このYIGオシレータはS-Band用という訳だ。いずれ2.4GHz帯のトランスバータでも作る時に使いたいと思う。
上記よりもう少し新しそうなモジュールである。こちらは貼ってあるラベルに周波数範囲が書いてある。 従って下限と上限の周波数になるときのT-Coilの電流がわかれば良い。
各電源の電流など、設計に必要な情報を得て予備調査を終えた。その結果、可変範囲には多少マージンがとってあってコイル電流:180mA〜420mAで3.6〜8.2GHzをカバーできるようだ。 発振出力は上記と同じように15dBm以上(30mW以上)あるので直接信号を分配できるのでなかなか使い易そうだ。このYIGオシレータはC-Band用という訳だ。
ADVANTEST社のYIGオシレータは自社の測定器用(スペアナなど)らしく、モジュール単体での外販はしなかったようだ。 現在もアクテブなYIGオシレータのメーカーとしては、Micro Lambda Wireless社などがある。
もっとも簡単なYIGオシレータの使い方と言えば、可変電流源でT-Coilの電流を変えれば良い。あとは発振部に電源を与えてやるだけで所定の発振出力が得られる。 コイルの直流的な巻線抵抗は温度により変動する。抵抗値が変化してもコイルの電流が設定した値に保たれるよう『定電流回路』を使うのである。なお、定電圧源ではコイル抵抗が変動すると電流が変わってしまうから駄目である。これだけでGHz帯の可変周波発振器になる。
10回転の可変抵抗器で3.6〜8.2GHzを可変するよう設計した。安定した10Vを作りそれを分圧して得た電圧で、電圧・電流変換回路(定電流回路)を駆動する。 そのほか発振回路に必要な電源を用意している。 GHz帯の製作とは言っても、ここまではDC電源の製作であって特に難しいものではない。
なお、YIGオシレータはどれでも同じような使い方をするので、他のモジュールでも同じ回路が使えると思う。もちろんT-Coilの電流はそれぞれ異なるので使う物に合わせた変更が必要である。 最近のモジュールはマイナス5V電源が不要なものが多いようだ。
注:参照あるいは追試して頂くことは意図していないため上記回路図は良く読めないようになっています。回路図や資料のリクエストなどのお問合せはご遠慮下さい。なお、この図面には後から追加した重要部品が数点抜けているため、そのままではYIGオシレータの破損等が考えられます。ご注意を。 ドライバ回路はYIGオシレータのメーカーであるMicro Lambda Wireless社のサイトなどに具体例があるのでそちらを参照するよう願います。
このような感じに組み立ててみた。 いずれ箱に入れたいと思っている。 その際は電源部もすべて内蔵した方が便利だろう。
なお、ごく短時間の実験的な動作ならそのままでも大丈夫そうだが、連続運転を行なうにはYIGオシレータ本体も十分な放熱をする必要がある。 より高い周波数のオシレータでは磁界を強く掛ける関係で、T-Coil電流も多く、DC抵抗分による発熱が無視できないので必ず放熱が必要である。逆に2〜4GHz程度のものは楽なようだ。高価なYIGオシレータを過熱させて壊さないよう注意されたい。最近のYTOでは永久磁石を併用するものがあって、低消費電力・低発熱に寄与しているようだ。
本回路であるが、旨く動作してもちろん設計通りの周波数可変範囲が得られた。
DC+10Vの高精度基準電源と電圧可変型の定電流電源回路である。 モジュールが要求する各種電源は3端子レギュレータで間に合わせている。 +15V電源は電流が多いので十分な放熱が必要である。-5V電源は小電流なので、簡単なフィンを付ける程度でも良さそうだった。
電圧可変型定電流電源の制御トランジスタも結構発熱するので、十分な放熱を行なっている。 回路基板を放熱器に一体化する構造で製作したが、十分なサイズの筐体に入れるのであれば、シャシに放熱しても大丈夫そうであった。
YIGオシレータモジュールの周波数安定度は思った以上に良好であった。 お陰で、使った部品のアラが目立つ結果となってしまったようだ。(笑)
茶色の大きな抵抗器は4Ωと6Ωのもので、直列にして10Ωを得ている。 もちろん単体で10Ωの抵抗器でも良い。 かなり発熱するので、許容電力はもちろんだが温度特性の良い抵抗器が良いのはもちろんだ。 一応、金属皮膜抵抗器なのだが、思ったよりも温度係数(正)が大きいようである。 コイル電流を変えると自己発熱量が変わって抵抗値が変わってしまうのだ。その結果コイル電流が変化し、揚句は発振周波数が変動することになる。電流を変えると周波数が落ち着くまで少し時間が掛かる。
サーミスタでもあるまい、抵抗値がべらぼうに変わるわけではないから周波数の変化はごく僅かなのでPLLなど周波数制御してしまえば全く気にならないだろう。 それでも、なるべくなら温度係数が保証された安定な抵抗器を使うべきだと思う。
これは無制御のままで使う可変周波発振器(一種の自励発振器)なので回路部品の性能がもろに見えてしまった訳だ。目的・用途によっては気にする必要はない程度かもしれないがもう少し良い抵抗器に交換したいものだ。 現状の周波数安定度はYIGオシレータによるものではなくて、ドライブする回路側の性能が支配している。 それだけYIGオシレータ固有の周波数安定度は良好だと言うことだ。
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最近はハムフェアのジャンク市にも登場するから、高い周波数に興味があるなら手に入れて置くと良いかもしれない。 これも使い道が良くわからんようでは『猫に何とか・・』と言われかねない少々高級なジャンクである。(笑)
YIGというのは初めて聞きました。
返信削除酸化ベリリウム磁器といえば、毒性が強いので扱いに注意が必要なものでしたね。
私にとっては、「猫に何とか・・・」どころではなくて、ブタに河豚肝となりそうです。(笑)
おはようございます。
返信削除YIG球は初めて見ました。こんな球がGHzの発振をするなんて不思議です。
1枚目の写真の、YIG球を取り囲むように取り付けられている金属(?)は何でしょうか?
グランドに接続されているようではなさそうですので、シールドではないように見えます。
発振をピックアップする導体でしょうか。
それとも、制御電流を流すコイルですか(これに接続されているワイヤが細すぎるので、電流線ではないように見えますが)
。
JA8IRQ 福島さん、おはようございます。
返信削除さっそくのコメント有難うございます。
> 酸化ベリリウム磁器といえば、毒性が強い・・・
ベリリアとも呼ばれ、毒性のある物質でしたね。高周波用デバイスにはたいへんよく使われる絶縁体です。
YTOはマイクロ帯では大変有用なモジュールです。いつかお使いになるチャンスがあるかも知れませんよ。その時はこのBlogを思い出して下さい。(笑)
JJ3CMV 酒井さん、おはようございます。
返信削除コメント有難うございます。
> こんな球がGHzの発振をするなんて不思議です。
球自体が発振するのではなくて、これが共振器(共振回路)になります。原理は違いますが、水晶振動子などと同じように回路に入れて発振させる為の共振器ですね。
> 金属(?)は何でしょうか?
この金属の帯(おび)は、発振回路とYIG球を結合するするためのワンターン・コイルです。 LC共振回路の同調コイルに結合する二次コイルのような感じですね。(笑)
磁界を与えるコイルは、写真には写っていません。写真部分の上に覆いかぶさるように大きな電磁石が取付けられています。
加藤さん、お早うございます。
返信削除昨日は楽しいお話をいろいろと聞かせていただきありがとうございました。
マイクロ波の可変信号源を欲しいと思っていたところですが、スイーパの中古は高くてなかなか手が出せません。YIGオシレータならそれほど高くはなさそうですね。探してみることにします。
JG1EAD 仙波さん、おはようございます。
返信削除昨晩は懇親会+二次会で楽しいアイボール有難うございました。
コメント有難うございます。
> YIGオシレータならそれほど高くはなさそう・・・
新品はそれなりのお値段のようですが、測定器などから外したジャンクは安価に入手できるようです。 周波数帯にもよると思いますが、数千円ではないかと思います。
hpのスイーパの方が信号源としては立派でしょうが、小型軽量で安価なものが作れるのでお薦めできると思います。 良いモジュールを調達されて下さい。
加藤さん、こんにちは。
返信削除興味深い記事ありがとうございます。
YIG関連はジャンクで購入したYTOとYTFが手元にありますが、比較的大きな定電流でドライブする必要があるので、YTFの蓋を開けてドライブ回路見たくらいで何もいじっていません。昔別件で定電流回路を作って発振に悩まされた記憶があるので、トラウマが克服できたら試そうと思っていますが、しばらく時間が経過しています。ベリリア磁器は8873の放熱で使われていた記憶があります。確か吸っても、さわっても、口にいれても有害とどこかに書いてあったような気がして怖そうな物質と認識しています。YIGに使われているとは初耳で、お勉強になりました。
JS1XFN 青木さん、こんにちは。
返信削除コメントありがとうございます。
> 比較的大きな定電流でドライブする必要がある・・
3端子レギュレータを定電流モードにしてお使いになるお方もあるようです。 但し、後々VCOにしてPLLでロックするには図のような電圧可変型の電流源でないと旨くありません。 OP-Ampを使う場合、外付けで位相補償を行なえば安定に動作すると思います。 ぜひお試しを。
> ベリリア・・YIGに使われているとは初耳で・・・
他にもマイクロ帯の電子部品ではかなり使われているようです。 固いセラミックスですから意図的に削ったりしなければ危険はないと思いますが、廃棄する際は有害物質として扱う必要がありますね。
こんにちは。
返信削除また病院からのアクセスです。^^
YIGが発明されてスペアナの高周波数対応が一気に進んだと聞きました。
YIGはスペアナ取り外しジャンクで見かけますね。
ところで何を作られているのでしょう?
この出力を分周して136KHzを作り出すのですか(笑)
JE6LVE/3 高橋さん、こんにちは。
返信削除お付き添いお疲れさまです。経過は宜しいようですね。
コメント有難うございます。
> スペアナの高周波数対応が一気に進んだと聞きました。
古いスペアナを見ますと、VCOを切り替えて広帯域を実現していて大変そうな回路構成でした。 YTOは周波数可変範囲が広いのでずいぶん簡略化に貢献したでしょうね。
> 分周して136KHzを作り出すのですか
流石に、これを分周するのは大変ですね。 まったく別件で可変周波の信号源として考えております。将来的にはPLLでロックして5.6GHz帯の局発にでも使いますかね。(笑)
おはようございます
返信削除珍しいものを見せていただき
ありがとうございます。
また、回路図は大変参考になります。
文章とは違った作用?で理解が深まります。
ところで、基板のTP端子はどうやって
作るのですか、自分なりに作ってみたのですが
コイルのように巻いてから切ると、足の部分が
丸まってしまい伸ばすとせっかくの丸い形が
崩れます。
ひとつひとつを作るには、小さすぎて扱いが大変。
こんなにたくさん作るには何か秘策が・・・
高級ジャンクの紹介に低級なコメントに
なってしまいました。
申し訳ありません。
exJE1UNX 田村さん、おはようございます。
返信削除コメントありがとうございます。
> 文章とは違った作用?で理解が深まります。
回路図がお好きなお方には図面で意思が伝わりますよね。(笑) YIGオシレータの使い方は、HAMの雑誌ではHJ誌に二回ほど記事があったと思います。
> ひとつひとつを作るには、小さすぎて扱いが大変。
基本的に一つ一つ作るのですが、一個数秒くらいで作れるので面倒ではないですよ。(笑) ドライバーの軸などを使って巻いてやれば簡単です。お試しを。
加藤さん、こんにちは。
返信削除AVANTEKのAV-7872という8~12.4GHzのYTOを入手できました。実測で6.6~15.2GHz動くとのこと。YTOは単体での写真しか見たことがなかったので、実物がこんなに小さいものとは思ってもみませんでした。駆動回路を作らねば。
JG1EAD 仙波さん、こんにちは。今日は暑いですね〜!
返信削除コメント有難うございます。
> 8~12.4GHzのYTOを入手できました。
さっそくFBな物を入手されましたね。 周波数が高いものはチューニング・コイルの電流がもっと大きいようです。YTOの発熱が大きくなるようですので、十分放熱してお使いになると良いでしょう。 ドライブ回路はMicro Lambda Wireless社のサイトにあるアプリケーションノートもご参考にされて下さい。他にハムジャーナルのNo.59とNo.95に製作記事がありました。
Hello:
返信削除I am looking for a TOP1245 YTO like the one you have. Do you know where may I found one ? Thank you.
Dear cathoderay;
返信削除My TOP1245 YTO was given to me by a friend. Since the TOP1245 was originally intended to be a spectrum analyzer, there will be no commercially available products. Why don't you check with a shop that deals in junk measurement equipment?
Hello:
返信削除Thanks for answering back. I live in Brazil and it's quite impossible to find such a part here. I would appreciate if you could sell the one you have or another one you could find over there. Thanks.
I only have one so I can't give it away. So sorry.
返信削除