写真はYAMAHAのCT-Z1と言うFA/AMチューナの内部写真です。
1978年頃のもので定価24,800円だったそうです。 近所のリサイクル店でワンコインでした。 内部を見ればわかるように、高級モデルではありませんがステレオコンポの体裁を一応は保っています。しかしメータは1つだけでスイッチも数少なく、素っ気ない作りはやはり廉価版そのものと言えるでしょう。(笑)
それでもトランジスタ・ラジオに比べたらHi-Fiでしょうからラジオ代わりにでもしようと思い調整を始めました。 FM部がメインだと思いますが、AM Tuner部の方が気になってしまうのです。 NHKの「ラジオ深夜便」を良い音で聞いてみたいから。(そう言えばFMでもやっています・笑)
FM/AMチューナは無線機ではありませんから過去に調整した記憶はありません。 まあ、この種のチューナーの回路は知れたもので、ラジオに毛の生えたくらいと思って良いでしょう。(Hi-Fiプーム晩年の非常に高級なモデルもありました) これは流石に廉価版です。FMフロントエンドに3連バリコンが使ってあるので、実用的なHi-Fiチューナとしては最低線でしょう。 そしてそのころのチューナではAMは冷遇されていてオマケ程度のものになっていました。 6石トランジスタ・ラジオ並だったものです。 高級機の中にはAMを見限り、思い切って省略したモデルさえもありました。
ところが調整を始めたらどうも様子がおかしいことに気付きました。FM部は簡略型ながらもオーソドックスそのものですがAM部はいま一つピンと来ないのです。どうも単純なラジオチックな回路ではなさそうに見えました。
見慣れないとわからないかもしれません。 AMのトランジスタ・ラジオのような回路構成だとばかり思っていたのですが、それにしては部品の並びが変なのです。 赤いコアは局発コイルでしょう。 また、このチューナはバーア・アンテナを省略したモデルなので、右上の黒いコアがアンテナ・コイルです。 アンテナ端子から辿ってみてそれとわかりました。
ところが、トランジスタの並びを考えるとどうも変なのです。 AMラジオの一般形で言えば、まずコンバータがあり、続いて二段のIFアンプがあって、ダイオード検波と来るのが常識的な回路構成でしょう。
もちろん、AM部をIC化したチューナも多いので、その場合はICのアプリケーションを見れば様子はわかります。 これはディスクリート構成なのに何か変なのです。 IFT+セラフィル(黄色いコア)はあるものの、他のIFTがぜんぜん見当たらないのです。 おまけにトランジスタの並び方も妙です。
(参考:ごく普通の6石スーパーの回路図はこちらにあり。==>リンク)
(参考:ごく普通の6石スーパーの回路図はこちらにあり。==>リンク)
CT-Z1よりもやや後のモデルらしいのですが、ほぼ近い時代の回路図が見つかりました。 少々高級モデルらしいので、FM部やMPX部はずいぶん異なっていましたがAM部をみれば瓜二つのようです。(注:CT-Z1は廉価版なので1石の自励コンバータに簡略化されていますが・・・他は同じようです)
回路を見てビックリです。これは目から鱗のAMチューナでした。 普通のトランジスタ・ラジオの常識を払拭する斬新さです。 見てのようにアンテナ同調回路のあとコレクタ側非同調のRFアンプがあり、その後にミキサーが続きます。 局発はセパレート式で工夫されたミキサー回路になっています。 そしてIFT+セラフィルを通るとゲインのなさそうな非同調のIFアンプがたったの1段あるだけなのです。 あとは倍電圧整流型のダイオード検波があってオシマイなのでした。(この回路、どこかで見たように思うのですが実際の製品を見たのは初めてでした)
思うに、IFTを幾つも重ねて周波数特性を損ねたくなかったのでしょう。 その結果、中間にたった一つのフィルタ(IFT+セラフィル)を置くだけになったのでしょう。 AMはオマケとは言え一応はHi-Fi用としてトランジスタ・ラジオ以上のクオリティを求めたに違いありません。但し、専らS/Nの良いLocal局を受信することを想定しているのか感度は高くない設計になっています。
その昔、Hi-Fiと言えば高1ラジオと言われた時代もありました。高周波1段+検波形式のラジオだったので、選択度が悪いから高音域まで良く再生しました。 それに通じる回路構成と言ったら考え過ぎでしょうか。 もちろんスーパ・ヘテロダインだしスカート特性の良いフィルタが付いているので混信対策も万全でしょう。 AGCを前三段に掛けるほどの凝りようなので強電界でも歪みにくい筈です。これはなかなか面白いチューナ部です。特殊な部品は使っていないのでこれを真似て自作するのも難しくありません。
実際に聴いてみた感じはなかなか心地よくトランジスタ・ラジオとはひと味違うものを感じます。 だから、さぞかし良好な周波数特性かと思ったらこんなモノでした。(爆)
確かに、普通のトランジスタ・ラジオの周波数特性と来たら平坦な部分はまったくありません。 それと比べれば、かなり頑張った結果でしょう。それでも-3dBの低端が120Hz、高端が2,420HzなのではHi-Fiソースとは言いにくいと思います。 低端は部品定数を見直せばもう少し延ばせそうです。しかし高端はIFフィルタの交換しか手はありません。
AM放送局では7kHzあたりまでフラットな周波数特性で変調して送り出しているそうなので受信部でカットしてしまうのではまったく勿体ないことです。 しかし、夜間の聴取を考えるとIFの帯域幅はほどほどにしておかないと、混信のビートだらけでHi-Fiどころじゃなくなります。 結局、全国どこで使っても破綻しないように商品設計すればこのようになるのはやむを得なかったのでしょう。(逆に言えば拙宅のロケーションのような良好な受信状況では広帯域化ができます)
なかなか優れていると感じた点もありました。それは受信周波数によって周波数特性が変化しないことです。 コイルのQが周波数によらず一定だとすれば、AMバンドの低端ではアンテナ同調回路の選択度がアップして更に高域が出なくなります。 アンテナコイルのQは低いようで受信帯のの低端でも高端でもあまり違いはありませんでした。 同調回路を極力なくして受信周波数によって音が変わるのを防いだ効果でしょう。そのかわりイメージ比は芳しくありませんでした。大きなアンテナを付けてDX受信するなど思いもよらないことでローカル放送専用なのでしょう。
今どきAMラジオでもないかもしれません。 しかし深夜にじっくり聴かせる音楽特集が組まれるほど人気があるようです。NHKラジオ深夜便に限れば01:00からFMでも同プログラムが流れます。しかしAMラジオ好きとしてはAMのままHi-Fiで行きたいものです。だからAMチューナの方が気になってしまいます。(笑)
このチューナ、経年変化でトランキングはズレているしFM-MPXのVCOも離調していました。30年の歳月を考えれば仕方ないでしょう。それでも、ざっとした調整だけでもずいぶん良くなりました。アナログな機器は経年変化が避けられません。きちんとした調整で蘇るものです。 さらに部品を見直してやりクオリティの高いものに交換すれば音質も多少はアップしそうです。 少し使って気になってきたら手を入れてみましょう。
参考:CT-Z1のAM用IFフィルタを交換しHi-Fi化する改造編のBlogはこちら。===>「AM Tuner その後」
(おわり)