【FT-101ZDにニューライフを:第3回】
【FT-101ZDのWARCバンド対応】
『FT-101ZDでWARC Bandにオンエアしよう!』の3回目である。 Part 2(←リンク)では手始めに汚れの酷い内部の清掃から始めた。これから行なう改造や再調整の下準備であった。
いよいよ、ここからが本来の目的であるWARC Bandの改造である。 FT-101ZDではPart 1で書いたように、後期型であるMark ⅢからWARC Band対応になった。 それ以前のモデルも改造でWARC Bandにオンエアは可能だが、追加バンド用の水晶発振子ほかコイルなど多数の部品が必要である。 ここではMark Ⅲに絞って話しを進める。他についてはまた機会があればと言うことで。(WARC:ワークと読む)
FT-101ZD Mark Ⅲは、写真のようにもともとWARC Band対応になっている。全バンドともに受信だけは最初から可能だ。 但しMark Ⅲであっても当初発売のモデルにあっては30、17、12mの3つのBandは送信できないようになっていた。 途中で30m Band(10MHz)が許可されるとそこは送信可能になったようだが、相変わらず17、12mの2つのBandは送信できなかった。(注:30m Bamdの許可は1982年4月1日である。FT-101ZDの製造終了時期にあたるから30mが送信可能なモデルはなかった可能性もある)
Part 1にも書いたように、17mと12mの二つが許可されたのは30m Bandの許可から遅れること7年後の1989年であった。すでにその頃にはFT-101ZDなど製造も販売もされていなかった。 結局のところ全てのバンドが送信可能なFT-101Z/ZDは国内出荷されなかったことになる。 途中でユーザーによって改造されていれば別だが、そうでなければWARCバンドにオンエアしたいなら以下の改造は必須なようだ。(たぶん、FT-901シリーズも事情は同じ)
(参考)FT-101ZDの製造時期について:デジタル表示無しのFT-101Zの発売は1978年12月ころ、デジタル周波数表示付きのFT-101ZDは3ヶ月後の1979年2月だったようだ。生産終了時期は良くわからないが後継機のFT-102が発売されたは1982年4月ころだから、その頃までには終了していただろう。製造番号によれば、この機体は1982年3月の生産らしいから最終生産に近いのかも知れない。在庫品が残っていたとすればディスカウントされてその後も暫く売られていたはずだ。(あとで調べたら1982年いっぱいは販売されていた模様)
以下では、上記の3バンド送信禁止、2バンド送信禁止のいずれの状態にも適用可能な内容になっている。
注・1:毎度のことであるが、作業はコンセントからACコードを引き抜いてから行なうこと。 生命に危険が及ぶ高電圧が内在することを常に念頭において安全優先で作業を。
注・2:以下を参照した結果、万一事故の発生や機器の破損などが起こっても責任を負わない。作業は各人の技量に基づき自身の責任に於いて実施を。 もし自信がないなら工賃を支払ってでもメーカーあるいは必要な技術を持つハムショップなどに依頼することをお薦めする。
【シールドカバーの除去】
キャビネットの上下を外したら、作業台の上に裏返しにする。 終段管のある方を手前に、即ち正面パネルが右手に来るように配置する。
写真の様に、左のパンチング・メタルのカバーと、右に何個か丸穴の開いているシールド板が目に入るだろう。
WARC Bandの送信禁止を解除するには、右側の何個か穴の開いている方のシールド板を外す必要がある。 なお、暫く使った機械ではシールド内部の清掃も行なう必要があるので、左のパンチング・メタルの方も外しておく。
【ネジはスポンジの下に】
シールド板を止めるネジは、数条貼ってあるスポンジテープの下に隠れている。 上から触ってネジの感触が認められる部分を探し出し、このように掘り出す必要がある。私が掘り出すまでネジはスポンジに埋まっていたのでメーカー出荷以来、ここを開けたのは初めてだったようだ。
このスポンジの役目は止めネジの弛み止めのほか、ファンモーターの振動やトランスの唸りが伝わって異音を発しないように対策した物と思われる。
スポンジの劣化が激しいようなら全部除去しても支障はないと思うが、あとから隙間テープのような物を要所に貼っておく方が良さそうだ。
【WARC Band送信禁止部分】
中央付近の青い線が盛り上がった部分が該当箇所だ。 青い配線は隙間に畳み込まれていたが、作業を行う関係ですべて手前に引き出してある。
バンドスイッチのウエファ(ベークの接点板)で、パネル側から数えて4枚目のウエファDと5枚目のウエファEの部分が該当箇所だ。 現物と対比しながら十分な確認を。
なお、先に書いた様に送信禁止には2つのバージョンが存在する。 この写真例は全てのWARC Band、即ち3バンドともに送信禁止されているバージョンのものである。
【図で見るWARC Band 送信禁止解除方法】
送信禁止方法の理屈は次項をご覧頂くとして、ともかく解除するには左図のような配線替えを行なえば良いことがわかった。
30mバンドの送信が可能なバージョンでは1本だけ配線が少ない筈だ。 いずれも図の一番右側の絵と同じになるよう一部配線の撤去と配線変更を行なえば良い。
私が参照した資料は1989年7月号のモービルハム誌である。この号は18MHz(17m Band)と24MHz(12m Band)が追加で許可になった際の特集号であった。 そのため改造は既に10MHz(30m Band)が送信できるモデルを前提にしていた。
手持ちの実機ではそれ以前のバージョンであって、全WARC Bandともに送信禁止されたモデルだったから少々迷いが生じた。 しかし理屈がわかれば何のことはない。上図の中央のようになっていたものを一番右側の様にすれば良い訳だ。
【FT-101ZDのWARC Band送信禁止方法】
後世のマイコン搭載機なら、ソフトウエア的な対処で特定バンドの送信禁止ができる。 しかし、マイコン非搭載のFT-101ZDではそうした方法はとれない。(このあたりは、FT-901でも同じ)
WARC Bandの送信禁止は、ドライバ段のプレート同調回路の共振周波数を大きくずらすことで行なっていた。 即ち、左図のように30、17、12m Bandのポジションにスイッチされると、ドライバ段の同調コンデンサは40m Band(7MHz)のものが選択されるように配線されていた。
そうなっては、各WARC Bandともに終段管は殆どドライブされない、もしパワーが出たとしても微々たる物に過ぎない筈だ。 これで実質的に送信禁止できることになる。 関係するスイッチはウエファDだけの筈だが、配線を中継する為にウエファEの遊び端子を利用している。 電気的にはウエファEはまったく関係ない。
【WARC Band送信禁止解除後の回路】
取説に添付の回路図は左図のようになっているだろう。 これは各WARC Bandを含め、すべてのバンドで送信可能な状態に書いてあるものだ。 確かに最終形はこうなるのだが・・・。
しかしこの回路図をいくら眺めていてもどんな方法で送信禁止しているのかは想像すらできなかった。それがわからなくては禁止解除もできまい。 よもやWARC Bandのドライバ段の同調をずらすなど思いもよらなかった方法だ。hi hi
まったく旨い方法を考えたものである。 送信部が完全に死んだ訳ではないが実質的に送信できないようになっている。そうするために追加した部品はわずかな配線材だけなのだ。 部品費用の掛からない実利的な旨い方法だと感じた。設計担当者の工夫が感じられる。
なお、配線の状態を見るとJA向けモデルに限って実施していた措置のようだ。 生産ラインでは全バンド送信を含めて完全な状態で製造し、JA向けにはあとから禁止措置が追加さたように見える。 こうしないと保証認定機種にしてもらえなかったのだろうか?
【WARC Bandも送信可能に】
濃い青色の線が30mと20m Bandのポジションを結ぶ配線で、ループ状になった空色の線は17m と15m Bandのポジションを結ぶ配線だ。外して余った配線を再利用するのも良い。
ほかに、12m Bandを送信禁止にする濃い青色の配線があると思う。 それはハンダ付けを外して撤去するか、スイッチの端子の根元でカットしてしまえば良い。
入念な目視確認を行ない、他の配線や部品にダメージを与えていないかチェックしておく。 作業中は余計な場所にハンダを垂らさぬよう注意が必要だ。
【トリマコンデンサ・ボード】
説明が後先になるが、トリマコンデンサ・ボードは一旦外しておくと作業しやすい。 スイッチ回りに手をつける前に外しておく方が良かった。
ホードは裏面に配線が付いているので無理に引張らない様にし、シャシの隅の方へ一時退避しておく。 調整済みのトリマコンデンサなのでなるべく手を触れない方が良い。
【これで完成!】
作業中に外しておいたトリマコンデンサ・ボードを元に戻したら作業は終了だ。
あとは良く目視確認を行なってから、シールド板を元に戻して完了である。 必要があればネジ部には新しい隙間テープでも貼っておこう。
それほど難しい作業ではないから理屈を理解して作業すべき場所を間違えなければ1時間ほどで完了できる。 これでWARC Bandを含め全バンドの送受信が可能になった筈だ。 故障していない限り特別な調整は必要なく、あとは通電して動作確認を行なえば良い。
もちろん、改造してオンエアする為にはライセンスの問題はクリヤしておかねばならない。WARCバンドのうち10MHzは2アマ以上、18MHzは3アマ以上のライセンスで運用できる。24MHz帯は全資格がオンエアできる。ステーション・ライセンスも該当バンドの運用許可が必要だ。 FT-101Zを対象に変更に関する電子申請とTSSの保証認定取得に関してはJF1DIR・広瀬さんのBlog記事が参考になるでしょう。
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全半導体機に傾いていたこともあるが、当時は仕事が忙しかったこともあって、この時代のRigはあまり詳しくなかった。縁あってお譲り頂いたものの、手付かずのまま放っておいたのもさして興味がなかったからだ。 WARC Bandのこうした送信禁止はごく当たり前の手法だったのかもしれない。おなじ八重洲無線のFT-901もWARC Band付きモデルに共通の方法のようだ。 理屈がわかってしまえば対処方法もあるはず。まったく同じではないとは思うが、あとはFT-901オーナー自身でご研究を。
Kenwoodの当時の機械では、該当バンドのコイル類が基板に搭載されていなかった。そのためFT-101ZDやFT-901のように簡単にWARC Bandも・・・と言う訳にも行かないことがある。 八重洲のこのシリーズは、同調回路がミュー同調なのでそもそも広帯域だった。それが禍いして送信禁止をするには工夫を要した感じだが、のちのちWARC Bandを活かすには八重洲無線の方法が断然有利なようだ。
WARC Band対応だけでずいぶん長くなってしまった。次回はCWフィルタを装着し、電源を再投入するまでの過程を追うつもりだ。de JA9TTT/1
(つづく)←リンク・Part 4へ
加藤さん、こんにちは
返信削除FT-101ZDの掃除?WATCバンド改造3部作を拝見させていただきました。
FT-101のミュー同調(スラグ・チューン)、バリコンによるチューニングには新鮮でしたね。
私は、球を使用した機器は、使用したことはなく、高校のクラブ(40年以上前)で、TX-88D,9R59Dをさわったぐらいです。
私も今、TS-430Vを修理中(送信できない!)です。また、昨年12月、1アマをとったので、WARCバンドに改造をしましたが、ネットで改造方法を探したら、「送信禁止」の端子1個を接続するだけで、殆ど改造という程のことはありませんでした。やはり、ソリッドステート(死語!)は、簡単でいいです。
もう30年以上経つ古いリグなので、ブロックダイアだけでなく、ちゃんと回路図も付いてます(笑)、オプションの取り付けも、自分でやるのが当然でした。
それでは、また。
7月27日 JI1HVI 仲野 直裕
加藤さん、こんにちは。
返信削除WARCバンドの送信禁止、斬新?ですね^^
トランジスタのスイッチか何かで送信出来なくなるようにしていると思っていました。
昔のJARL保証認定機はTSSの申請が必要なのが面倒ですね。
一回3000円かかるので出来るだけまとめて申請しないとコストがかかります。HiHi
昨日、自作135kHz送信機の申請を行いました。
電子申請Liteでファイルを作成して、TSSに送付し、変更手数料3000円を振り込んだところです。
さてどんな物言いが付くのか楽しみです。^^
JI1HVI 仲野さん、こんにちは。 ご無沙汰でした。 お元気なようで何よりです。 今日は暑くなって来ましたね。
返信削除早速のコメント有難うございます。
> ミュー同調によるチューニングには新鮮でしたね。
Collinsの機械ではポピュラーでしたが、同じ機能を簡便な仕組みで旨く実現したのは素晴らしかったですね。
> TX-88D,9R59Dをさわったぐらいです。
私は599 Lineを暫く使ったので、球ファイナル機はずいぶん使いましたが、このFT-101ZのころはIC-720Aを使っていたと思います。 今さら真空管なんて・・・と言う感じでしたね。(笑)
> TS-430Vを修理中(送信できない!)です。
頑張って下さい。 米国の業者ならサービスマニュアルも売っていたと思います。 あればかなり役立ちます。
> 取り付けも、自分でやるのが当然でした。
簡単なことは自分でやるのがHAMでしたね。いまはハンダ鏝を持たない人も多いそうですので時代も変わりました。(笑)
またお気軽にコメントをどうぞ。
JE6LVE/3 高橋さん、こんにちは。 大阪は連日猛暑のようですね。 お変わり無いようで何よりです。
返信削除コメント有難うございます。
> ・・スイッチか何かで送信出来なくなるように・・
私もそう思って回路図を眺めていたのですが、どうしてもその場所が見つかりませんでした。 まさかと思うような方法でしたね。(笑)
> TSSの申請が必要なのが面倒ですね。
仕方がないのですが、費用が問題ですよね。hi
> 自作135kHz送信機の申請を行いました。
それはFBです。 135kHzでのQSOは困難だと思いますが、このさき400kHz帯も免許されるようですから経験を積まれて下さい。そちらなら交信可能かも知れないです。 免許されるのが楽しみですね。
+AM・WARCありのFT101ZSDを入手して、記事を参考にさせていただき、WARCの解除をいたしました。
返信削除ただデジタルは91.004.3って表示ですけれど
IFとミキサーあたりを今探っております(笑;
DE: JH9BRA 菅谷内浩行
JH9BRA 菅谷内さん、こんばんは。 初めてかと思いますが、どうぞ宜しく。
返信削除コメント有難うございます。
> 記事を参考にさせていただき、WARCの解除・・・
参考になったようでよかったです。わかり易かったでしょうか? スムースに進められたなら幸いです。
> ただデジタルは91.004.3って表示ですけれど・・・
どこか、不調が有るようですね。 メーカーにてWARCバンドも調整済みになっているようです。普通は解除するだけで他のバンドと同じようになると思います。
他のバンドの周波数表示がどうなのかわかりませんが、確認しながら進めてみて下さい。 WARC送信解除したからと言って、何か特別な調整は必要ないようです。
旨く行くことを祈ります。
加藤さんご返信ありがとうございます。
返信削除コメントの書き方がまずかったですね!
91M表示は、WARCバンドのみならず、全バンドですので、ミキサー辺りが怪しいかと探っています。
外部VFOを繋げずに、外部VFOのボタンを押せば、同じ表示になります。(別の101Zで確認済み)
JH9BRA 菅谷内
JH9BRA 菅谷内さん、こんばんは。
返信削除コメント有難うございます。
> 全バンドですので、ミキサー辺りが・・・
状況のご説明有難うございます。
ほかにVFO切換えのスイッチ周りやコネクタなどの接触不良もありそうですので、信号を追いかけながら調べてみると良いでしょうね。 別の機体があるようですので、比較できますから追跡し易いでしょう。
良く整備すればFBな機械ですので頑張って下さい。