【p-chのMOS-FETを使う】
最近のパワーデバイスはMOS型が圧倒的になってきました。既にバイポーラ・パワートランジスタは廃品種ばかりです。 スイッチングにはMOSの方が向くので困りませんが、増幅素子には困ることがあります。 特に、Audio系の石(BJT)はその傾向が強くて、かつて銘石と言われたようなパワトラにはプレミアムが付くほどです。あまり型番に囚われずに現行品で行く方が好ましいのですが・・・。
無線の用途でも使える品種は限られてきましたが、幸いRF用のPower-MOSが登場して支障なくなっています。 しかし昔の回路図のまま置き換える訳にも行かないので悩ましい所です。 無条件にMOS化で対処できる訳でもないですし・・・。
バイポーラ・トランジスタにしろMOS-FETにしろ、HF帯(〜50MHz)なら特にRF用と書いてなくても使える物がたくさんあります。本来の目的を超えて活用できるデバイスがあります。
表題から外れてしまいましたが、p-ch MOS-FETの話を進めましょう。 型番で言うと2SJxxxと言うFETです。 バイポーラ・トランジスタで言うところの2SAや2SBと言ったPNP相当のMOS-FETです。 だから何だと言われそうですが、要するにp-chなんて無線家には馴染みは薄いし、PNPトランジスタ同様にあまり好まれません。 ただ、そう言う石でも使い道はあって他人が使っていないデバイスでオンエアしたいなら悪くないかも知れません。
p-ch MOSはハイサイド・スイッチの用途があるので思ったよりも多品種が登場しています。 ただし増幅を目的にしたものは見かけません。数A〜数10A以上と言った大電流スイッチ用が殆どですが1〜3Aのものもあります。 小電流のスイッチ用にRFパワーアンプに適したものがあって、試してみる価値があります。 もちろん普通はn-chのFET、即ち2SKxxxが好まれるので、以下は物好きな実験です。
写真は2SJ178(NEC)で使う当てもなく纏め買いしました。 ハイサイド・スイッチが目的です。 図のようにハイサイド・スイッチは、電源の+側のライン(要するにGND側ではない方)をON/OFFする形式のスイッチです。HAMではトランシーバの受信系と送信系の電源ラインを切り替える目的に使われます。 PNP-Trでも可能ですがp-ch FETの方が電圧降下が少ない利点があります。
概略の規格は:Vds=-30V、Vgs=±20V、Id=-1A、Pch=750mW、gm=400m℧、Ciss=210pF、Coss=130pF、そしてCrss=3pFです。 小さいけれど結構パワフルです。それに帰還容量:Crssが小さくてRFに向きそうに見えます。(残念ならが2SJ178はディスコンです)
【テストしてみる】
簡単な回路でQRP送信機のファイナルのテストをしましょう。 Cissが200pFほどあるので、入力は容量性です。 本式に使うなら整合しますが、実験なので50Ωで直接ドライブします。
負荷側(出力側)はRFCのみで整合回路は設けません。 電源電圧:Vcc=12Vですから出力電力:Po=1W程度と考えて負荷抵抗:RL=約50Ωでマッチングします。
放熱はしていないので、規格のId(max)=1Aも流したら過熱で壊れます。せいぜい200mA位が良い所です。入力2Wと考えても170mA程度でしょうか。まずは7MHzでやってみました。
【Biasを与えてAB級で使う】
エンハンスメント・モードのFETはゲートに順方向のDCバイアスを掛けて使います。 約-2V程度のDCバイアスを掛けました。B級もしくはAB級で動作させる訳です。 十分なドライブが確保できるならゼロバイアスのC級で使い、オーバードライブしてやるとドレイン効率はアップします。
FET個々にばらつくので、B級もしくはAB級になるバイアスは何ボルトと言う表現は不適当です。 正しくは、Idを測定しながら調整します。 具体的には下の回路図のVR1を調整して無信号時にId=-10mAにます。
「バイアス電圧を調整する」と書くと、で は何Vなのか具体的に教えてくれと言う質問が来そうですが、それには答えられません。 質問者が使ったFETが全く同じでないかぎり、所定のドレイン電流が流れるバイアス電圧は異なります。電圧を聞いてそれに合わせても駄目なのです。
最初はVR1をVgs=0の所にセットします。ドレイン電流:Idを観測しながらそろそろ回して行き、Id=-10mA内外に合わせます。(-5〜-15mAくらいの適当で良いです) その時のVgsは-2ボルトくらいでしょう・・と言う訳です。 これはp-chのFETに限らず、n-chでも同じなのでMOS-FET(エンハンスメント型に限るが)をB級なりAB級で使ううえでの常識です。
【テスト回路】
単純なので書くまでもない回路です。 p-chのFETなのでプラス接地の方がスッキリしますが 、他の回路と組み合わせ易いようにマイナス接地で書きました。 ドレイン側はRFCのみで、Cで切って50Ωを直接負荷します。 RFCは100μHくらいでも良いですが、DC抵抗が数Ω以下のものを使います。DC抵抗は普通のテスタで測ればすぐわかります。 出力電力:Po=(Vcc)^2/(2*RL)から約1W+αです。VccはRFCのDC抵抗やFETのON抵抗があって降下しますから実質的に10V程度と考えます。実際にアンテナを繋ぐにはLPFが必須です。
出力部分にバイファイラ(Fig.1)あるいはトリファイラ巻き(Fig.2)のトランスを置くと、FETから見た負荷インピーダンスが下がってパワーアップできます。
2SJ178は小さなパッケージのFETです。 効率良く使っても放熱しないと厳しいのでパワーを欲張らない方が良いでしょう。 負荷インピーダンスを下げると同じ比率でゲインも下がるのでドライブしにくくなります。 十分なゲインが期待できる低い周波数を除き、図のままのPo=1W程度が良さそうでした。 なお、入力側は50Ω直結ではドライブしにくいですからFig.3のような昇圧トランスを置くと楽になります。 ドライブパワーはあまり要りませんが、それなりのドライブ電圧は必要です。
【7MHzで】
7MHzで負荷の両端電圧を読んでみました。 AB級のシングル動作なので整流したような波形になります。 当然高調波が含まれているので、2次高調波以上の除去に効果的なLPF(ローパスフィルタ)を設けます。
電源電圧が12Vなので。写真の状態が概ね飽和状態です。 正しくは高調波を除去してから測定しなくてはなりませんが、おおよそ1W出ているでしょう。
【3.5MHzで】
同じく、3.5MHzにて負荷の電圧を読んでいます。 これでだいたい飽和状態です。 7MHzと同じく約1Wです。 LPFの付加は必須で通過後のパワーは0.8WくらいですからQRPとしてはまずまずです。 ドライブにゆとりがあるなら、2SJ178を4パラにし、インピーダンス比=1:4(バイファイラ巻き:Fig.1参照)のトランスを使えば2〜3Wが期待できます。3.5MHzではゲインがアップして7MHzの約半分の電圧でドライブできました。 ゲインはだいたい-6dB/octの傾斜です。
p-chではなくn-ch MOS FETなら2N7000あたりが良いでしょう。 もちろん電源極性は逆にしますが類似の結果が得られます。 p-ch MOSはn-ch MOSより周波数特性が落ちるようです。それでも小型の石ならHF帯の低い方で十分使えそうでした。ちょっと変わったデバイスでオンエアしたい向きにはお勧めできます。(笑)
☆
10月になろうと言うのに適当なBlogテーマがありません。やむなく片付けていて目に入ったデバイスをネタにしました。 実験するまでもない。特性表から見たら使えて当たり前じゃないか・・・と言う声も聞こえます。 しかしそう言う人に限って実際は何もしないものです。 特性表には現れない固有のクセがあったりするので実地検証は大切です。 試すどころか、昨今はコテも暖めず・・・ブレッドボードでさえも面倒で・・・BlogやWebネタの疑似体験で満足してしまう人が多いのは残念です。
たぶん多くのBlogやWebに書いてある話はすべてではありません。都合の良いところだけが書かれています。 情報の出し惜しみではなくて、感触のような細部を伝えるのは難しいからでしょう。 ですから画面を眺めて納得したつもりでも、本当のことはてんでわかっちゃいない可能性もあります。自分の実験のごとく吹聴したら赤恥をかくかも知れません。注意しなくては。(笑)
以上、暇つぶしになったようでしたら今月のBlogは目的達成です。de JA9TTT/1
(おわり)
加藤さんこんにちは。
返信削除もう10月になってしまいました。
PNPのTrやp-chのFETはコンプリであまり使わないRF回路ではなじみが薄いですね。
自分で購入したp-chのMOS FETはたぶん一つもパーツボックスに入っていないと思います。Hi
普通に作るとプラス接地になってしまうところも取っつきにくい所でしょうか。
2N7000やBS170などを小型FETやTrをパラにしてファイナルにしている海外製QRP送信機のキットはおおいですね。
JE6LVE/3 高橋さん、こんばんは。 すっかり涼しくなって秋らしくなりましたねえ。 今年ももう10月ですね。 そのうち年賀状が発売され、除夜の鐘が・・・もうすぐになってしまいました。
返信削除早速のコメント有り難うございます。
> RF回路ではなじみが薄いですね。
ほとんどの用途がn-chで間に合ってしまいますので大半の回路でp-ch使う必然性がないのでしょうね。hi
> プラス接地になってしまうところも・・・
ゲルトラが全盛のころはプラス接地の回路も普通だったのですが今じゃマイナス接地以外はまず見かけないです。
> 小型FETやTrをパラにしてファイナルに・・・
大型のPower-MOSは入力容量が大きいとか、RFでは案外使いにくいからでしょうね。 QRPなパワーでしたら小さな石のパラで行けますから皆さん使うのでしょう。試してみると安くて良い石が結構見つかります。
次回はもう少し使えそうなテーマで行きたいものです。何が良いかなぁ・・。今から悩んでます。(笑)
おはようございます。
返信削除もう10月で今年も何もしないうちに終わってしまいそうです。
P-chのハイサドスイッチは私もマイコン制御のDSPラジオで使いました。ソフトスイッチを実現しようとするとポートが2つ必要なんですよね。何とかポートの入出力方向を切り替えて1つでできないかと考えたのですが、うまくいきませんでした。
RFアンプへの応用は興味のあるところです。SW用の石でも結構うまくいくのですね。海外のネットで2N7000をSW動作で使っているのを見たことがあります。A級やAB級以外でSW動作のアンプもおもしろそうですね。
私は、興味の方向が色々と発散して、まとまったことができませんhi
ps
毎月1と15日がblogの更新日かと、読者?は勝ってに思い込んでおりました。更新がなかったので、??っと思ってました(大きなお世話でスミマセン)
JK1LSE 本田さん、お早うございます。 光陰矢の如し、時の経つのは本当に早いですね。 歳を取ってからは加速が付いたように速く過ぎて行きます。(笑)
返信削除コメント有り難うございます。
> マイコン制御のDSPラジオで使いました。
マイコンのポートから電源ラインとか信号ラインを操作するにはハイサイド・スイッチが必要なことも多いですね。 信号系ならアナログ・マルチプレクサと言う手もありますが、電流が流れる系にはp-chのSWが良いです。
> SW用の石でも結構うまくいくのですね。
外国のPower-MOS、特にIR社のHEX-MOSには良い物が多いようで、結構ハイパワーのRFアンプが作れますね。 日本の各社のSW用MOSはどうも周波数特性の点で今ひとつです。 Low-Bandには使えますが・・。
> 毎月1と15日がblogの更新日かと・・・
月2回が努力目標です。hi ここは誰でも見れる関係から差し障りのないネタが切れると欠号になることも。ホントはそう言う話の方が面白いんですけどネ。hi hi まあ年間12回更新は死守したい最低線です。
不定期刊行物ですが、これからも宜しくお願いします。