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2016年2月8日月曜日

【回路】11MHz X-tal SSB Filter Design

回路:11MHz帯のSSB用クリスタル・フィルタ
SSB用フィルタの自作
 同じ周波数の水晶振動子(水晶発振子、水晶共振子)をたくさん並べることで、SSB(単側帯波)の発生に適した帯域幅を持ち急峻な帯域フィルタ(BPF)を作ることが出来ます。それがSSB用クリスタル・フィルタです。

 安価な既成品の水晶振動子を使って製作できる経済性があることから、水晶を梯子状の回路に並べる「ラダー(梯子)型」フィルタを作るのが一般的です。 HAM局の自作ではSSB用に適した通過帯域幅2〜3kHzのものが良く製作されています。

 ここでは、SSBジェネレータあるいはSSB用送受信機に適したクリスタル・フィルタを試作してみました。 周波数は11MHz帯を選びました。 これは、HF帯の送受信機製作に適した周波数と言うこともありますが、表示周波数が11.0592MHzの水晶振動子(HC-49/US型)がたくさんあったからです。

 残念ながら、その水晶は平均的な無負荷Q:Quは低かったのです。そのため、普通に製作したのでは、あまり良いフィルタにはならないことが予想されます。しかし、取りあえずやって見ることにしました。

 平均のQuは10万少々なので、狭いフィルタは難しそうでも通過帯域幅の広いSSB用なら何とか設計可能な範囲にありそうです。 ここでは、Quが小さい水晶振動子を使いながら、実用性能のクリスタル・フィルタが作れるのかが重要なポイントになります。

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 基本的に自家用資料と製作記録です。どのようなフィルタが出来るのか興味を持って頂けるのは嬉しいのですが、すぐに役立つ情報ではないかも知れません。 毎度のことで申し訳ありませんが、冗長になるので細かな作業工程は省かせてもらいました。

 別のBlog(←リンク)でご紹介した資料・情報だけでは多少物足りないかも知れませんが、設計・製作に必要なことはすべて書いてありますのでご自身で研究して頂けたら嬉しいです。 いずれご自身で試作された暁にはこのBlogの試作例がお役に立つかも知れません。以下、そのような内容なのでお暇のないお方はここらでお帰りになっても無理に止めません。w

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 【使用した水晶発振子
 マイコン応用機器用と思われる11.0592MHzの水晶発振子の手持ちがたくさんありました。もともとボーレート・クロック発生用ではないでしょうか。

 11MHzはSSB用クリスタル・フィルタの製作には適した周波数です。 LmやCmと言った水晶定数のバラツキは少なくて悪くない水晶振動子なのですが、平均した無負荷Q:Quが10万くらいしかないのが欠点でした。バラツキが少ないのは良いのですが・・・Quが低いのはクリスタル・フィルタには致命的なのです。

 普通のコイル:Lとコンデンサ:Cを使ったLC共振回路のQuはQu=100〜200くらいのものでしょう。そうとう頑張ってもHF帯で500を超えるものを作るのは容易でありません。ポピュラーなFCZコイルではQu=100くらいのものです。ですからQu=10万は驚異的な数字に見えるでしょう。残念ながら水晶振動子(水晶共振子)の世界では低い部類なのです。
 なお、こうしたHigh-Qの測定にはQメータなどまったくお呼びでありません。すでにご紹介したような水晶振動子の評価方法で測定します。もちろん、Qu=10万でも発振用としてはまったく支障ありません。フィルタの製作にはあまり適さないだけです。

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 資料によれば、フィルタの製作に必要な水晶振動子のQuは目安があるとのことです。これは厳密なものではないものの水晶を選ぶ目安になります。

 まず最初にフィルタQを計算しておきます。 フィルタQ:Qf=中心周波数/3dB帯域幅
これは概略で良いですから、式の「中心周波数」は水晶振動子(水晶発振子)の周波数とすれば良いです。

フィルタの形式:          必要な水晶のQu(6素子の例)
(1)  Butterworth                  32×Qf
(2)  0.1dB Chebyshev          90×Qf
(3)  0.5dB Chebyshev        130×Qf

 ここでは、3dB帯域幅2,700Hzのフィルタを0.1dB Chebyshev形式で製作しようとしています。 水晶の周波数は11,059,200Hzですから、Qf=11,059,200/2,700=4,096です。
 従って6素子で作るとして必要な水晶振動子のQuは:Qu > 4,096×90=368,640となります。 約37万近く必要な訳です。 しかも8素子のように素子数が増えれば必要なQuは大きくなる方向です。 Qu=10万そこそこの水晶振動子では良いフィルタは望めないことがわかるでしょう。 もしも無視して作れば意図したのとは違うものになってしまう筈です。

参考・1:CW用フィルタをChebyshevで作るのはお奨めしません。可能ならBesselなど位相直線系のフィルタが良く、どうしても「切れ」が優先ならButterworthにしておきます。
参考・2:Quの小さなクリスタルで急峻なフィルタを目指すから苦しいのです。最初からButterworthで行けばQu=13万くらいで行けます。よって既成の設計ソフトでも大丈夫なはずです。少々なだらかな特性になるのは勿論ですが・・。

 【半自動設計
 水晶振動子のQuは無限大であると想定して設計する『Dishalの論文に基づく簡易フィルタ設計ソフト』(DJ6EV & G3JIR)で計算したのでは、通過帯域が丸みを帯びたフィルタになってしまうでしょう。 しかも、前の12.8MHzの例よりも一段とQuが小さいので丸みは顕著になる筈です。通過帯域のエッジもダレるに違いありません。 従って既成の設計ソフトで作ったら不満が残るでしょう。 かなり手間は増えますが、自作の設計ツールを改造して使うことにしました。

 少しでも有利になるようQuが大きな水晶振動子を8個選んで使います。ただ、選別しても平均のQuは11万5千ですからプラス1万くらいでは気休め程度かもしれませんね。 たくさん測定してQuが高いものを選んでも元のQuが低い水晶では所詮限界があるのです。 むしろQuが特に小さいものを除外する程度の選別で良いのではないでしょうか。 もちろんなるべくバラツキの少ないものを選ぶ意味はあります。  設計計算の数値は選別品の平均値を用いました。

 【11MHz帯のSSBフィルタ
 図の(A)が基本設計です。 (B)は実装するプリント基板のストレー容量を考慮して補正したものです。 プリント基板の実測から約4pFを見込むと意味がありそうでした。

 この設計では結合容量:Cjkが小さい所で40〜50pF程度になるので、パターンの浮遊容量:約4pFは無視し得ないのです。  検討した結果、リファレンス・メッシュをX6の位置に決めました。従ってX6の直列容量:CS6は不要です。伴ってパターン上のCS6の場所はショートしておきます。また、基板パターンにないCS2とCS7を追加する必要があります。パターン配線のカットを行なってから基板の裏面に実装することにしました。図の(C)はMesh Tuneを行なった値です。

 もしもこの種の設計をメインにするのでしたら、プリント基板を修正した方が良さそうです。新しく基板を製作する機会があれば、X1〜X8の全てにCSが入れられるようにしたいと思っています。 基板頒布を受けたお方で、もし同様の製作を行なうようなら、お手数ですがパターン・カットで対処して下さい。 こうした設計になるとは専用基板の設計時点では想定できなかったことなので・・・。

 【シミュレーション
 いきなりはんだコテを握らず、かならずシミュレーションを行なってから製作すべきです。水晶の選定ほか、コンデンサの値もなるべく設計値に近づくように多大な手間をかけて製作することになります。

  それだけの手間を掛けるからには可能な検証は事前に十分に行なっておきます。 ただしこれは水晶振動子のバラツキはあまり考慮していないシミュレーションですら理想と現実のギャップはあるでしょう。 それでもシミュレーションの結果が芳しくないなら、初期の設計に立ち返って見直すべきでしょう。そうでなくては、これから掛ける手間が報われないことになります。

◎コテを握る前にまずはシミュレーションを!

 【まずまずだろうか?
 上記の回路定数による周波数特性のシミュレーション結果です。 例によってLT-Spiceを使いました。 シミュレーションではまずまずの特性が得られそうなことがわかりました。

 もちろん、これはQu=11万くらいの理想の1/3もないようなQの低い水晶振動子を使った計算結果です。Quが無限大の水晶振動子でのシミュレーションではありません。

 水晶振動子のバラツキを完全に反映しているわけではないので、実際の製作ではこれよりも悪くなるでしょう。 詳細に見ると既に通過帯域内にリプルが現れているのが見えます。 現実にはこうしたリプルがもっと大きくなったり、通過帯域のエッジもこれほど鋭角ではなくて丸みを帯びるかもしれません。 シミュレーション結果はこの設計の「理想解」と言うべきものでしょう。

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 【実測特性
 入念に製作してみました。 実際のフィルタはこのようになりました。 画面の横軸は一目盛り1kHz、全体で10kHzです。縦軸は一目盛り10dBで、全体で100dBの範囲です。入力側が350Ω、出力側は250Ωで終端しています。

 測定信号源のレベルは0dBmですが、-10dBmに絞っても変化はありません。小さな水晶振動子を使ったフィルタでは飽和させぬよう過大入力に注意が必要です。発振器のレベルを変えて特性変化を確認しておきます。

 -3dB通過帯域はやや狭くなるのを見越して2900Hzで設計しています。 結果として約200Hzくらい狭くなったのでうまい具合にSSB用として適当な2700Hzに仕上がりました。 

 シミュレーションで気になった通過帯域のリプルは現実ではやや大きめになりました。中心部分が少し凹んでいますがそれほど酷いものではありません。 また通過帯域のエッジは奇麗に出ていて、補正設計の効果が良く見られます。シミュレーションの結果がかなり旨く再現できているようです。

 帯域外の減衰量は水晶の個数に依存するので、8素子になれば有利です。写真のように90dB以上得られているので十分なものです。広帯域でも観測してみましたがスプリアスは認められませんでした。 通過帯域の中心から見た対称性もまあまあと言ったところです。 この程度であればUSBとLSBの音色の違いは殆ど感じられないでしょう。良いSSBフィルタと言えます。

-3dB帯域幅
 横軸全体を5kHz幅に狭め拡大表示してみました。 精密に読んで、-3dB通過帯域幅は2,725Hzでした。 なお、今回は水晶振動子に並列に入れるコンデンサの値はゼロで良いような設計を行なっています。

 良くシールドする意味から水晶のケースは必ずGNDへ接続するので、水晶定数の測定もそのようにして行なっています。 中心周波数が高く通過帯域幅が広いSSB用フィルタでは結合容量:Cjkが小さくなります。従って水晶振動子の電極とケース間のキャパシタンスも設計に含める必要があります。 ここでは、パターンのストレー容量のみ4pFと見込んで設計していますが、もう少し大きく見込んでも良かったのかも知れません。
  
-60dB帯域幅
 -60dB帯域幅は4,538Hzでした。 通過帯域のエッジが急峻なので、通過帯域幅は-3dBも-6dBもそれほど違いません。 少々変則的ですが、-3dBと-60dBで計算したシェープファクタは:k=4,538/2,725=1.665・・となります。 もちろん、-6dBの帯域幅で計算すればもう少し良く(小さく)なるでしょう。

 8MHzで作った6素子のSSBフィルタのシェープファクタはk=2.43くらいだったので、k=1.665と言うのはかなりの改善です。  12.8MHzの製作例でもそうでしたが、水晶2つの追加はかなり効果的なのです。 SSB用のフィルタは6素子でも十分実用になりますが、8素子で作った方が望ましいと思います。

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 もう少し「理想解」に一致した特性が得られるかも知れないと期待していたので、すこし残念な気持ちになりました。 しかしそれは高望みだったのかも知れません。 程々に手間は掛けましたが後で気付いたら少々詰めの甘い所があってその影響もあるようです。

 そもそも理想に遠い水晶振動子で作ったものです。 このくらいの性能が得られたなら自作フィルタとして上出来と思うべきでしょう。 旧来の設計によるラダー型フィルタで発生していたエッジ部分に起こるディップや通過帯域の丸みと凸凹は解消されています。製作に手間をかけた甲斐は十分あった訳です。

 あと、水晶振動子のQばかり問題にしてきましたが、使っている各コンデンサも無関係ではありません。安易に高誘電率系のセラコンなど使えば特性の乱れもあり得るでしょう。理想を言えばDipped-micaやGlass CapacitorのようなHigh-Qなコンデンサを使いたいのですが、現実的なところで我慢しています。あまり理想ばかり追っていたら実用的な製作ではなくなってしまうでしょう。自作するより特注した方が手っ取り早くなってしまいます。

 何回かに分けて『新しいラダー型クリスタル・フィルタの設計』として検討を進めてきました。前回の『音の良いCWフィルタ』と合わせてこのSSBフィルタで概ね設計・製作技術は確立できたと思います。帯域幅の広いAM用フィルタなどもクリスタルの周波数を選べば自在に設計できるでしょう。フィルタが必要になったらニーズに応じたものが何時でも作れるようになったわけです。

 幾つか壁に突き当たった局面では諦めそうになりましたが、それで昔に戻らなくて良かったと思っています。 もちろん課題がすべて解消した訳ではありません。その課題解決の方向はある程度見えていますが、さらなる手間が待っています。 設計と製作の精度を一段と向上することにある訳なので、それほど難しくもないのですが面倒臭くてメゲそうです。もうそろそろおしまいにしたい気持ちになっています。概ね十分な所まで来ていますからね。(笑)

 次にラダー型フィルタを扱う際にはセラミック発振子:セラロックを使ったいわゆる「世羅多フィルタ」が新設計でどこまで行けるか検証してみたいと思います。それで一連の新しいラダー型フィルタシリーズを締め括りましょう。de JA9TTT/1

つづく)←セラミック発振子(セラロック)を使った続編へリンク。nm

2 件のコメント:

  1. 加藤さん、おはようございます

    高性能ラダーフィルターの検証お疲れ様です。

    >もう少し「理想解」に一致した特性が得られるかも
    シミュレーション結果と実測値を拝見して一致しているなあと感心していたのですが、
    これではまだまだなんですね^^;

    水晶のQはジャンクで水晶を入手するのが一般的なアマチュアには運みたいな物ですね。
    今は測定方法があるので確認出来るだけでもましなのかもしれませんが。

    >「世羅多フィルタ」が新設計で
    これも楽しみです。
    455kHz付近の周波数だと思いますので音の良いラジオなど色々活用出来そうですね。

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  2. JE6LVE/JP3AEL 高橋さん、こんにちは。 立春を過ぎてもなかなか暖かくなりませんね。

    さっそくのコメント有り難うございます。
    > 拝見して一致しているなあと感心して・・・
    全体的な形は良く一致して来たと思っています。 細部が今一歩と言う感じなんですよ。(笑)

    > 一般的なアマチュアには運みたいな物ですね。
    適当な周波数のクリスタルがあったら数個買って確認してから沢山買う方が良いのですが、HAMフェアのジャンクのような場合はそうも行きませんね。 見かけではわかりませんから博打みたいなものです。hi hi

    > 音の良いラジオなど色々活用出来そうですね。
    セラロックがたくさんあるので、活用しないと勿体ないと思っているのです。 ほか、14.318MHzの水晶発振子も沢山あるんですが・・・。

    次回もどんな物が出来るかお楽しみに。(笑)

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