ページ(テスト中)

2018年8月26日日曜日

【回路】7MHz PLL Oscillator (2)

7MHz帯のPLL発振器・その2
 【7MHzのPLL発振器(2)
  PLLの活用を目指したBlogの第2回です。 前回(←リンク)は7MHzのPLL発振器を題材に評価しました。 できたものがどんな性能か見えてきました。 第2回ではPLL発振器の概要をおさらいしたあと、PLLの回路要素を順に辿って行きます。

 写真は7MHzのPLL式発振器です。 今回はMC145163Pを使わず、汎用のHC-MOSとポピュラーなプログラマブル・カウンタ:TC9122P(東芝)を使いました。
 MC145163Pは持っていないけれど、TC9122Pならあるんだけれど・・・と言うのでしたら同じように7MHzのPLL発振器が作れます。 TC9122Pの代わりにTC9198P/Fでも大丈夫です。 少し部品数は増えますが使うICがスリムなのでコンパクトに作れます。 PLLとしての性能もさした違いはありませんでした。

 【7MHzのPLL発振器(2):TC9122P/74HC4046
 第2回のおもな目的は、この回路を作ることではないのですが典型的なPLL回路として載せています。 説明用の例題とも言えます。 だからと言って単なる見本ではなく使い物になります。 上記写真を具体的な回路図にまとめておきました。 MC145163Pがなくても作れる回路例と言うわけです。

 興味を持っていただけたようでしたらPLL回路を作りながら進んでいただければVY-FBだと思います。 前回の製作ではMC145163Pの機能をフルに使ったのでスッキリしていました。 使わないと部品は増えますがなるべくシンプルになるよう選んだので複雑にはなっていません。同じように簡単に作れます。

 10.240MHzのVXO出力から比較基準の10kHzを作る部分には、分周器としてHC-MOSのTC74HC4060APを使いました。 他のHC-MOSカウンタを並べて作ることもできますが、74HC4060なら一つで1/1024の分周ができて便利です。 74HC4060は水晶発振回路も内蔵していますが使わずに外部から与えることになります。 その発振回路の部分はインターフェース回路として利用します。 10.240MHzのVXO回路は前回とまったく同じです。 なお、扱う周波数が10.24MHzと高いためスタンダードC-MOSのCD4060Bは使えません。高速C-MOSの74HCタイプを使います。

 プログラマブル・カウンタにはだいぶ古臭いのですがTC9122Pを使いました。既にディスコンですが持っている人は意外に多いのではないでしょうか? 新規に買おうとすればだいぶ値上がりしていますがまだ何とか手に入ります。 持っているなら貴重品扱いなどせず積極的に使うべきでしょう。そのうち陳腐化して価値も無くなりますので。 ここはTC9198P/Fでも大丈夫ですがこちらもディスコンでしょうね。 ほかに74HCシリーズのカウンタ用ICで構成することもできるのですがICの数がずいぶん増えます。例えば74HC192などを並べて作れます。 しかし、なるべくPLL用に作られているTC9122やTC9198を使うのが良いです。

 ここで使用したTC9122PはMC145163Pに内蔵されているプログラマブル・カウンタほど周波数特性は伸びていません。 電源電圧5Vでは21MHz帯までが良いところです。 電源電圧を7Vまでアップして30MHzあたりまででしょう。 電源電圧をアップしても50MHz帯は無理ですからVHF帯が必要なら周波数変換する形式にします。  TC9198P/Fもほぼ同様です。  ここでは触れませんがTC9198と可変分周プリスケーラで高速カウンタを実現する方法もあります。(注:TC9122Pには3種類くらい世代の異った物があります。古い世代は周波数特性が伸びません。10MHz以下で使うのがせいぜいです)

 位相比較器はCD74HC4046AEに内蔵のもの(タイプⅡ)を使いました。 TC9122Pといえば同じ東芝のTC5081APが相棒の位相比較器かも知れません。 しかし入手は難しいでしょう。それに74HC4046の位相比較器の方が高性能ですからTC5081APを探すまでもないです。 74HC4046なら入手は容易です。 なお、74HC4046は電圧制御発振器:VCMを内蔵していますがここでは使いません。必ず遊び入力ピンの処理をしておきます。(回路図のようにしておけばOKです)

 ループ・フィルタとバッファ・アンプ、及び補助のフィルタは前回の回路と同じ考え方です。回路定数は低インピーダンス型になっています。上記の写真は普通に設計したループフィルタになっていますが、この回路図のように低インピーダンス型の方が良好でした。 OP-Amp.にはナショセミのLMC6482AINを使いました。 インターシルのICL7621DCPAも使えますがいくらかノイジーなようです。 やはり設計の新しいLMC6482AINの方が優れています。

 VCOは前回同様にモトローラのMC1648Pを使っています。これは比較の意味で前回と同じにしただけです。ほかの形式でも良いでしょう。 なお、VCO部分については次回のBlogで詳しく扱いたいと思っています。

 スペクトラムの写真は示しませんが、完成した7MHz PLL発振器の性能はMC145163Pを使ったものと同等です。 位相比較器の方式やVCOの部分が同じなのでほとんど違いはないと言えます。

                   ☆

 【PLL回路のブロック図
  図は典型的なPLL発振器のブロック図です。 上記の7MHz PLL発振器もこれにならっています。

 回路の構成要素は、(1)位相比較器、(2)ループ・フィルタ、(3)電圧制御発振器、(4)プログラマブル・カウンタ(主分周器及びプリスケーラ)、(5)基準発振器及び分周器・・ から成っています。 他の形式のPLL発振器も基本はこれと同じであり、付属回路の有無くらいのものです。

 PLLの設計はパート・1でも書いたように、ひとことで言うとループフィルタの部品定数を決めることに集約されます。 要求された仕様からPLL発振器としての仕様を決めます。 具体的には周波数ステップや周波数切り替えの応答速度などです。 さらに回路の構成要素ごとに、必要な特性が得られるよう細部設計を行ないます。 また、項目によっては事前に試作を行なって実測から特性を求めておく作業も必要でしょう。
  このように要求仕様から決定した項目と、各構成要素の特性から具体的にループフィルタの部品定数を計算します。
 そのようにして作ったPLL回路は確実にロックします。 ただし確実にロックしただけでは不十分なこともあります。そんな時はさらに信号の品質が満足できるよう細部をチューニングして完成させます。

 ループフィルタの設計は文章にすると難しそうに感じますが、実際の作業は意外に単純です。 よほど特殊なPLLでもない限り定型の計算式に数値を当てはめれば容易に算出できます。 ただし見慣れぬ単位を持つ数値も多いためいきなり計算式が出てきたら難解でしょう。 まずは構成要素を辿りながら準備運動から始めたいと思います。 回路の構成要素はほとんどがIC化されていますから主にICの説明になります。

 【位相比較器のIC
 PLL発振器は位相同期ループ発振器と言うくらいですから、位相比較器がシステムの「かなめ」になると言えるでしょう。 写真は市販されている位相比較器の例です。

 位相比較器は汎用ロジックICを組み合わせて構成することも可能ですが、いまでは専用のICを使うと便利でしょう。 右下のMC4044Pは初期のIC化された位相比較器です。 内部はTTL構造で、比較的高速で動作するため今でも稀に特殊な用途で使われることがあります。 しかし、使いにくいのであえて選択する意味はないと思います。すでに廃れているとも言えるでしょう。

 位相比較器の重要な特性は、位相比較器ゲインでKpの記号で表されます。 2つの信号の位相差がどれくらいの電圧として取り出されるのかというのが位相比較器ゲイン:Kpになります。 従ってKpの単位は出力電圧/位相差となります。 もちろんこのタイプの位相比較器の出力はパルス波形ですので、ループフィルタを通って平滑化された後の電圧と位相差の関係になります。

 MC4044PのKpは:Kp=(2・Vbe)/4π≒1.4/12.57≒0.111(Volt/radian)です。

なおVbeというにはシリコン・トランジスタのベースエミッタ間順方向電圧です。約0.7Vと言うことになります。 いまどきMC4044Pを使うケースはまず無いためこの数字は忘れても構いません。 しかし万一使う必要が生じた時のために書いておきました。 なぜこのような数字になるのかはMC4044Pのデータシートに詳しく書いてあります。

 ほかのIC、CD4046BE、CD74HC4046AE、TC5081AP、 SC371004の位相比較器は基本的に同じ特性ですがMC4044Pとはかなり違います。 次項で詳しく見てみましょう。

参考:CD4046BEには2種類、CD74HC4046AEには3種類の位相比較器が内蔵されています。詳しくはそれぞれのデータシートを見てください。 このBlogで扱っているPLL発振器(周波数シンセサイザ)の用途ではそのうちタイプⅡという位相比較器を使うことがほとんどです。 ここではその前提で話を進めます。 なお、タイプの異なる位相比較器ではKpの値も異なります。  TC5081APやSC371004、さらにはMC145163Pほか多くのPLL-ICに内臓の位相比較器もこの「タイプII型」と等価なものです。

 【タイプⅡ型・位相比較器の動作について
 出力周波数の範囲が広いPLL発振器には左図のような位相比較器が使われています。 周波数範囲が「狭い」あるいは「広い」の定義は漠然としていますが、例えば可変周波型水晶発振器:VCXOにロックを掛けるようなPLL発振器は狭い方の例です。せいぜい数kHz以内の範囲でロックさせようと言うものです。

 ここで製作している発振器は7〜8MHzと約1MHzの範囲を10kHzおきに広範囲に発振させようとするものです。 広い方の例といえるでしょう。 左図のタイプの位相比較器は、図右下にあるように2つの入力端子間の位相差に従った出力電圧が得られるだけでなく、周波数の高低も比較することができます。 そのため、広範な周波数可変範囲を持った電圧制御発振器:VCOと組み合わせても必ずロックできるPLLが作くれます。

 CD4046Bには他にイクスクルーシブ・ORゲートを使った位相比較器(Type Ⅰ)があり、さらに74HC4046AにはR-Sフリップ・フロップを使った位相比較器(Type Ⅲ)も内蔵されています。しかしこれらはどちらかと言えば特殊な用途で効果を発揮するものです。 ここではType Ⅱを使う前提で話を進めたいと思っています。 三つの中でType Ⅱがいちばん汎用性があります。(欠点もあるのですが・・・)

  4046Bや74HC4046のType Ⅱ型位相比較器の位相比較器ゲイン:Kpは
 Kp=(Vdd-Vss)/4π≒5/12.57≒0.398(Volt/radian)です。

 なおVddは位相比較器の電源ピンの電圧でVssはGNDピンの電圧です。 従って電源電圧が異なる時は再計算します。 例えばVdd=7Vとすれば:Kp≒0.557(Volt/radian)となります。
 電源電圧Vdd=5Vで使うケースがほとんどなので、位相比較器ゲイン:Kp≒0.4 (Volt/radian)は覚えておいて損のない数字かもしれません。 しかし意味さえわかっていれば簡単に計算はできますけれど。(笑)

上記のことは、C-MOS構造のPLL用ICであるMC145163Pなど多くのPLL用LSIに内蔵されている位相比較器に於いても同様です。 もちろんTC5081APでも同じです。 すなわち、Vdd=5Vで使えば:  Kp=0.398 (V/rad) です。

参考:PLL回路では弧度法で。
 PLL回路における角度の表記は基本的にラジアン(Radian)を使います。 ラジアンと言う単位は電気関係のお方にはお馴染みだと思います。 しかし生活では馴染みのない単位ですから一般にはピンとこないかも知れません。
 簡単に言うと円の360度が2πラジアンです。 πはお馴染みの円周率:3.1415926・・・ですから、1ラジアンは:1(radian)≒57.3度となります。  なぜこうした単位を使うのかと言う話しは冗長になるので省きますが、もし興味があれば「弧度法」(←リンク)を検索ワードに研究されてださい。

 【プログラマブル・カウンタのIC
 PLL発振器の出力周波数は、位相比較器の比較周波数とプログラマブル・カウンタ(可変分周比カウンタ)によって決定されます。 出力周波数をfo、比較周波数をfr、分周数をNとすれば: fo=fr×Nとなります。 Nは一般に正の整数ですが、フラクショナルN型という分数Nが可能なPLLの方式もあります。(フラクショナル=分数という意味)

 いま、比較周波数fr=10kHzとします。 N=700とすれば、出力周波数foは:fo=10×700=7,000(kHz)となります。 Nを700から順次大きくしてゆけば、発振周波数は10kHzずつ増加して行きます。

 プログラマブル・カウンタは汎用ロジックICのうち、プリセット可能なダウンカウンタがあれば構成できます。 マイコン以前の時代は10進数でプリセットできるカウンタがよく使われました。 写真のMC4016Pはその一つですが、高価なICだったので実際に使用例を見た覚えはありません。 一般には標準TTL-ICの74192がよく使われていました。 マイコンで設定する場合はバイナリ・カウンタの方が便利でしょう。 その場合は74191の方が良いのですが、いまどきTTLの時代でもないので高速C-MOSの74HC191あたりを使うことになるでしょうか。 アップカウンタの74HC161を使う方法もありますが、数値の設定が直感的でないためマイコンを併用しないとわかりにくいです。

 分周数が少ないうちは良いのですが、多くなると汎用ICでは必要なチップの数が増えてしまいます。 配線も面倒になることから、PLL発振器に向いた専用のプログラマブル・カウンタが作られました。 写真のTC9122PやTC9198FはそうしたICです。 これらのICも入手難になってきたことから、再び汎用のロジックICで構成する必要が出てきたのかも知れませんね。 プログラマブル・カウンタの設定や周波数の表示にマイコンの助けも借りればスマートにできると思います。今の時代ですからハードで何でも解決するのではなく、ソフトの助けも借りる方が製作はずっと容易です。

 【電圧制御発振器・VCO/VCMのIC
 写真は電圧制御発振器のICです。 電圧で何を制御するのかと言えば「発振周波数」です。

 電圧制御発振器の形式としては大きく分けて2つがあります。 LC共振回路の共振周波数を電圧によって変える方法と、CR回路の充放電を電圧で制御して発振周期・・・逆数を取れば周波数ですが・・・を変える方法です。 前者を一般にVCO(Voltage Controlled Oscillator)と言い、後者もVCOの一種に違いはありませんが、発振方式の違いを区別する意味からVCM(Voltage Controlled Multivibrator)と呼ばれます。

 MC1648Pは多くのVCO回路例で見かけますが、それ自体は単なる発振回路のICです。 発振周波数は外付けするコイル:Lとコンデンサ:Cの共振周波数で決まります。 そのうちコンデンサ:Cの方に可変容量ダイオード(通称:バリキャップ:Vari-Cap)を使うことで電圧により発振周波数をコントロールできる発振器になります。  蛇足とは思いますが、可変容量ダイオードとは端子間に加わる逆方向電圧によって端子間の静電容量(キャパシタンス)が変化するダイオードです。電気的に容量を変えられるバリコンのような半導体です。

 CD4046BEとCD74HC4046AEは位相比較器のところで既出ですが、これらのICには位相比較器のほかにVCMが内蔵さています。 内蔵VCMの周波数範囲はスタンダードC-MOSの4046Bは1MHzくらいまで、高速C-MOSの74HC4046では20MHzあたりまで発振させることができます。 しかし、その出力はお世辞にも綺麗なスペクトラムとは言えず、少なくとも無線通信のように信号の品質を要求される用途には使うことができません。

 過去に実験したことがあったので初めからVCMには期待していませんでした。 しかし74HC4046のVCMなら7MHz帯のPLL発振器が簡単に作れるので、工夫でカバーできないかと新たな期待を込めてやってみました。 もちろん周波数はうまくロックしてくれます。 しかし期待は見事に打ち砕かれました。 スペクトラムを見るまでもなく、受信機(CWモード)で聞いてみれば実用にならないことがはすぐわかります。ジッターが酷いためずいぶん濁ったトーンです。 スペアナの画面とにらめっこで種々設計を変えて試したところで解決には至りません。やはり通信系の信号源としては不適当という結論が妥当でしょう。 発振させたあとでたくさん分周するといった工夫でもすればそこそこ使えるようにはなります。しかしそれでは高いの周波数の発生はできません。 従って、ここでは4046B/HC4046系のICに内蔵されたVCMは使いません(使えません)。

 IC化されたVCMはまだ他にもあって、例えばモトローラのMC4024P(写真)や74シリーズTTL-ICの74124(74S124や74LS124もある)があります。 試してみると大同小異でいずれも無線通信関係に使うのは不適当でした。  高級な測定器の中にはVCMを信号源に使った例も見たことがあって、良い信号品質を得ているようなのでVCMが本質的にダメな訳ではないと思います。VCMなら磁気的な誘導を拾いやすいコイルを使わずに作れると言ったメリットもあります。 しかしLC回路のような共振器を使ったVCOより不利なことは否めないようでした。

 電圧制御発振器:VCOの特性は非常に重要です。 PLL発振器の出力信号の品質をほとんど決めるることになります。 どのような回路形式が最適なのか十分吟味したくなります。 ここでは一旦おしまいにしてあらためて扱うことにします。

 【複合機能のPLL用LSI
 機能説明の都合もあって、PLL発振器を構成する各部分をそれぞれ個々に扱ってきました。 しかし、特定の用途には機能の幾つかを纏めたICの方が使い易いです。

 PLLが高級な通信機や測定器などに使われていたころなら、モトローラ社の特殊なPLL用ICをたくさん並べた設計でもよかったのでしょう。 しかしコスト低減や小型化には向きません。 そこでより集積度を高めた専用のICが求められるようになりました。

 ちょうど、C-MOS ICが普及しはじめたころ車載CBトランシーバの輸出ブームが起こりました。 最初のころは水晶発振子を並べて多チャンネル化していました。 高価な水晶発振子は少しでも減らしたいところです。 そこでC-MOSを使ったPLL用のICが作られるようになりました。 C-MOSは消費電力が少なく高集積度の実現が容易だったからです。専用のC-MOS ICも量産効果でコストダウンできたのでしょう。 先に紹介したTC9122PやTC5081Pはそうした目的のICだった筈です。(これらは後に汎用に使われるようになりました)

 さらに集積化して基準発振器や基準分周器のほか、プログラマブル・カウンタ、そして位相比較器まで内蔵するようになります。 写真のNDC40013やLC7110はCBトランシーバを目的に作られたPLL用のLSIです。写真にはありませんが沖電気のMSM5807もジャンクのPLLユニットに使われていたので有名なPLL用LSIでした。 これらはVCO回路を除きPLL発振器に必要な機能のほとんどが集積されています。  性能はだいぶ違いますがMC145163Pも類似の目的ではないでしょうか。 また、CATVの発達やFM/AMラジオのデジタル選局などの目的でPLL方式の専用LSIが登場しています。 MB1504P、NJW1508、そしてTC9256Pはそのような用途のPLL用LSIです。

 こうした特定用途向けのPLL用も汎用に使えることがあります。 ただしCB用に作られた初期のC-MOS ICはプログラマブル・カウンタの上限周波数が低いのが欠点です。 せいぜい2MHzあたりまでしか扱えません。 7MHzのPLL発振器を作るのでさえプリスケーラや周波数変換が必要です。 死蔵しては勿体ないのですが回路を煩雑化させてまで使うメリットは少なそうなので見切りをつけても良いかも知れません。 逆に、MB1504やNJW1508はそれ単体でVHF〜UHFまで扱えるプリスケーラが内蔵されています。 上手に使えばマイクロ帯の機器にも活用できそうです。 何れにしてもPLL発振器の基本は同じですから設計法は押さえておきたいところです。

まだまだ続きますが一区切りがついたところでコーヒーブレークにでも致しましょう。 今日はこのあたりにしておきたいと思います。

                 ☆  ☆

 PLL回路を要素に分けて見てきました。 この中で位相比較器の定数、位相比較器ゲイン:Kpはこの先の設計で必ず使います。 ほかに、VCOの定数、VCO感度:Kvも重要な数字ですが、これは次回のテーマでもあります。 回路構成を要素ごとに詳しく扱っているとなかなか先に進みませんが出来上がった設計例を並べただけではあまり応用は利きません。 「周波数を変えたかったのでカットアンドトライで何とかでっち上げた」と言うような話も聞きます。 やはり基本的なことはきちんと理解しておきたいものです。 わかって設計すればトラブルが起こった際の対処も容易になるでしょう。

 以前はPLLを使って色々な発振器を作りました。 DDSモジュールが安価になったことから価値は薄れた感じもします。 しかしDDSを持ち出すほど細かい周波数ステップは必要なければPLL発振器の出番もありえます。 手持ちの部品を活用する意味からも見直したいと思っています。 DDSとコラボするような設計だってあります。 まだまだ使える技術でしょう。 次回は電圧制御発振器:VCOを集中的に扱います。 ではまた。 de JA9TTT/1

関連情報:7MHz PLL Oscillator関連のリンク
(1)イントロ編:(Part 1:こちら←リンク)
(2)PLLの機能分析編:(Part 2:いま見ているここです)
(3)PLLに向いたVCOの研究編:(Part 3:こちら←リンク)
(4)ループフィルタの設計編(最終回):(Part 4:こちら←リンク)

つづく)←リンクfm

2018年8月11日土曜日

【回路】7MHz PLL Oscillator (1)

7MHz帯のPLL発振器:その1
各種PLL用IC:Collection of PLL ICs
  これから何回かPLLをやろうと思います。何か必然性があって始めるわけじゃありません。 あえて言えばデバイス活用と設計法の纏めが目的と言ったところでしょうか。
 「何かにとっても役に立つ」などと言うつもりはありません。お暇でもあればお付き合い下さい。 このところ色々やっていて奥が深くてこれは面白いと思ったのでBlogにしました。先は急がないのでぼちぼちやります。 一応みなさんお好きなRF回路です。(笑) まずはイントロ編から。

                   ☆
 
 のっけから昔話になって恐縮ですが、初めて作った水晶発振器は6CB6と言う真空管を使った変形ピアース型だったように思います。  3.5MHzのFT-243型水晶を使い7MHzを得ていました。それで7MHzの送信機を作りました。

 しばらくは真空管を使った発振器の時代が続きましたが、やがてトランジスタを使うようになります。 特に受信系は半導体化したいと思いました。 ただ、当時のゲルマニウム・トランジスタは性能が悪くて苦労した記憶ばかり思い出されます。 そもそもウデも悪かったので苦労したのだと思いますが水晶発振子のアクティビティが低かったのも理由ではないかと思っているのです。hi

  オーディオも好きでしたがやがて無線の方向へ傾倒したので以来ずっと発振回路や発振素子は興味の対象でした。 周波数が安定していて任意の周波数が得られる発振器も研究テーマの一つです。 自励発振器は周波数の自由度はあっても良好な周波数安定度を得るのは至難です。 さりとて水晶発振では自由は利かず・・・ではVXOはと言えば今ほど水晶発振子が良くなかったようで意外に難しいものでした。 可変範囲を欲張ったのもマズかったのでしょう。

                   ☆

 PLL:Phase Locked Loop(位相同期ループ発振器)という発振回路を目にしたのは1970年代の初めです。 かなり難しい内容だったのでほとんど理解できなかったと思います。 自動制御の理論もまだ習ってはいませんでした。  それが何をやろうとしているかはおぼろげにわかっても、ではどうしたら実現できるのかと言う部分は謎でしかなかったのです。 モトローラ社が積極的に推進していた印象があって、同社の特殊なPLL用ICを使った回路は試したくても入手困難かつ高価なので手の出せない難物だった記憶があります。(写真はパーツボックスにあったPLL関係IC)

 自ら試すことができるようになったのは数年後に輸出用CBトランシーバにPLLの専用ICが使われるようになってからでした。 いまのDDS発振器のように小刻みな周波数を得ることはできませんが、それでもかなり自在に周波数の安定した発振ができるようになりとても嬉しかったものです。 その後、CBブームも去って信越電機商会(*1)にジャンクのPLLユニットが登場します。 それを切っ掛けに興味を持った自作HAMも多かったようでした。 CQ誌に何度も活用記事が登場したのはご存知の通りです。 *1:いまの秋月電子通商

                  ☆  ☆

7MHz帯のPLL発振器
 発振器は無線通信には欠かせません。 これはアナログ式であろうとデジタル式であろうとも重要さは同じでしょう。  すでにDDSや新世代のPLL式専用チップも登場しており、初めの写真のような従来型のPLL用ICは時代遅れでしょうか。 そろそろ懐かしい技術になりつつあるのかも知れません。

 ここでは7MHz帯のPLLを題材としてシンプルなPLL式発振器を試作してみます。 死蔵されつつあるPLL用ICの活用法を纏めておく機会にしたいと思います。 用途によっては従来型PLLの技術を頼った方がうまく行くこともあります。

 PLL発振器は周波数が可変できてしかも安定度の高い発振器です。 概略の仕様は:発振周波数範囲=7〜8MHz、周波数ステップ=10kHz・・・とします。 ただし、各10kHzステップの間は連続可変式として自在に設定できるようにしました。 従って7MHzから8MHz(*2)の間を隙間なくカバーでき、水晶発振器なみの周波数安定度を持った発振器になります。 典型的な用途としては7MHz帯のCW送信機やAM送信機のVFOがあるほか受信機の局発回路なども考えられましょう。 *2:正しくは、7.990MHzまでですが、スイッチを増やせば8.000MHz以上も可です。

写真は試作した7MHz帯のPLL発振器。 試作はブレッドボードが手軽ですが実用品はコンパクトに製作して良くシールドする必要があります。

 他の周波数帯への変更も難しくありません。 ほぼ同じ回路図のままでHF帯の各HAMバンド対応の発振器になります。 ただし、各バンドごと最適化のため回路定数の変更は必要です。 さらに50MHz帯用には電源電圧のアップを要しますがHF帯とほぼ同じように製作できます。 144MHz帯用はHF帯に周波数変換する方式が適当でしょう。  いずれにしても回路定数を最適化するには少しだけ計算が必要です。 しかしその計算は高度なものではありません。 四則演算(加減乗除)ができれば誰にでもできます。 筆算では位取りを間違いやすいので算盤や電卓を使ってください。(笑)

 今回(Part 1)は手始めとして事前に設計の済んでいる7MHz帯のPLL式発振器を試作し、出力信号を観測するところまでを扱います。どんなものが作れるのかまずは実際にやってみましょう。 PLL回路を構成する各回路要素の検討と詳しい設計の話しは続編で予定します。 いくらか時代遅れに感じるかも知れませんが、有用性がなくなった訳ではありません。 RF回路の基礎技術の一つとして良く研究しておけばいつか役立つこともあるでしょう。 せっかくここまでお読みいただいたのでしたら、この先もお付き合いください。 PLLに秘伝など必要ありません。誰でも面白いようにロックするPLLが作れます。(笑)

MC145163P・・高機能なPLL用IC
 MC145163PというICはPLL用のLSIとしてかなり後発でした。 PLL化されたCBトランシーバの輸出が盛んだった当時には存在しませんでした。 しかし後発なので機能は充実しており性能も優秀です。

 ここではなるべく簡略にPLL回路を試すことを目標にしています。  高機能なMC145163Pを使って部品数を減らしました。 28ピンの大きなICですが、外付けで必要なものは電圧制御発振器:VCOくらいです。 すっきりしたPLL回路が実現できます。 活用可能な周波数範囲を決める内蔵の「プログラマブル・カウンタ」の上限周波数もVdd=5Vのとき25MHz(標準)と高くなっています。 それ以上の周波数ではプリスケーラを使う必要も出てきますが、必要最小限の分周数で済むためループゲインを消費しないと言ったメリットがあります。 これ一つで色々試せるので便利なPLL用LSIだと思います。

 残念ながらMC145163Pはディスコン(Discontinued:廃止品)です。 まだなんとか手に入るようなので幾つか持っていると自作無線機の幅が広がるでしょう。  以前は比較的高価なICでしたが時代遅れになったからでしょうか? いくらか値崩れ気味のようです。

写真は基準発振の10.24MHzをVXO化する以前のものです。MC145163Pに内蔵の発振回路で水晶発振させています。後ほど外付け回路でVXO化してMC145163Pに与えるよう変更しました。

# まずはMC145163Pで始めますが、後ほどほかのPLL用ICを使った検討もしておきましょう。(Part 3あたり?)

 【MC145163Pの機能
 MC145163Pの内部回路ブロック図です。

 基準となる水晶発振器とそれを分周して比較周波数を得るための「リファレンス・カウンタ」が内蔵されています。 リファレンス・カウンタの分周比は1/512、1/1024、1/2048、1/4096から選べます。

 発振回路のバイアス用帰還抵抗は内蔵ですが負荷容量(2個)は外付けです。 その負荷容量を可変することにより周波数合わせを行ないます。 外部の発振器から基準周波数を与えることもできます。 一例ですが、10.24MHzの水晶発振子を使い1/1024の分周を選ぶと比較周波数は10kHzとなり、10kHz刻みに発振するPLL式の発振器が作れます。

 VCOからの信号を分周する「プログラマブル・カウンタ」は4桁のBCDコードで設定します。分周数はN=3〜9999が設定できます。 無線での用途の場合、あまり小さなNに設定するケースはまれだと思われますが、それでも数1000チャネルの周波数切り替えができる発振器が作れます。 PLL式発振器の出力周波数は比較周波数×分周数です。 いま、比較周波数が10kHzとすれば、分周数:N=700なら発振周波数は700×10=7,000kHz (=7MHz)となります。

 ほかに重要な機能として位相比較器が内蔵されています。 残念ながらループフィルタ用のアンプは付いていません。 従ってアクティブタイプのループフィルタを構成したい時には外付けになります。 あまり使われないのかもしれませんが、同社のMC4044タイプのような形式の位相比較器+ループフィルタを構成することもできるようです。  この部分には ロック外れを検知する機能があり万一の誤動作の時に発振を停止させることができます。

 左図には簡単な機能説明などを記入してあります。 この資料だけで完全な設計ができる訳ではありませんが下記の回路を試すには十分でしょう。 ネットの検索で詳しいデータシート(和文)が入手できるので、MC145163Pを手に入れたなら機会を見てダウンロードしておくと役立ちます。

7MHz用PLL発振器・回路図
 さっそく製作実例です。 最初に決めておいた仕様が実現できるような回路になっています。(2018.08.22:Ver.1.0.1に改版・現在の最新版です)

 電圧制御発振器:VCO回路はトランジスタやFETを使って構成することもできますが、モトローラ社の専用ICである:MC1648Pを使いました。VCO専用のICを使うことで製作の再現性は向上します。 ただしMC1648Pは入手しにくいかも知れません。 同種の改良版のICがONセミ社で販売されています。  (参考:MC1648Pの代替方法についてはPart 3(←リンク)で詳しく扱っています)

 周波数の可変にはバリキャップ:FC-52M(富士通)を使います。 FC-52Mは廃止品なので入手難ですから秋月電子通商で売られている1SV228(秋月で5個150円)などで代替します。 代替すると少し設計が変わりますが、とりあえずそのまま試しても良いでしょう。うまく周波数ロックするはずです。 1SV228は2素子複合型ですが、片側のみ単独で使います。他方は遊ばせておきます。

 VCO出力に使ってあるTT1-6(MCL:mini circuits lab.社製)というRFトランスはあまり安い部品ではありません。ここでは試作を手っ取り早く行なうために使いました。 フェライトビーズ:FB-801-#43にφ0.16mmのポリウレタン電線を6回トリファイラ巻きしたものでそっくり代替できます。 2SK544Fは2SK241GRもしくは2SK439F(ピン配置は要注意)で代替できます。この回路には2SK19、2SK192A、BF256BやJ310は適していません。

 最初は10.24MHzの基準発振にMC145163Pに内蔵の発振回路を使いました。 しかし、この部分を可変周波型水晶発振器:VXO化するのは少し難しいようです。(できない訳ではありません) そこで動作が確実で実績のある外付けのVXO回路を使うことにしました。 この基準発振器の周波数を変えることによって10kHzステップの間を自在に可変するわけです。 2SC2668YでVXO発振させ2SK544FでバッファしてからMC145163Pに与えます。

 このVXO回路は周波数安定度が重要です。しかし周波数の可変範囲はわずか15kHzほど(10.24MHzに対して約0.14%)と狭いためたいへん良好です。 無理にたくさん周波数を引っ張ったVXOとは違い普通の水晶発振器と同等の周波数安定度が得られます。 従って最終的に得られる7MHz帯のPLL発振出力も安定度の高いものになっています。  発振回路の2SC2668Yは2SC1923Yなど高周波小信号用のトランジスタで代替できます。

参考:10.24MHzの水晶発振子はaitendoなどで購入できます。同店で売られている水晶発振子(HC-49/US)はアクティビティにバラツキがあるのでうまく発振できない時は幾つか交換してみます。

 MC145163Pの位相比較器から出力されるのはパルス波形です。これを平滑化してVCO回路のバリキャップに加えます。 この平滑回路は「ループフィルタ」と呼ばれるものです。 回路としては簡単なローパスフィルタそのものです。 PLL回路の設計は最終的にはループフィルタの設計に帰結するとも言えるほど重要なものです。 ここでは設計済みですのでこのまま作れば支障なく動作してくれます。 ループフィルタは低インピーダンス型の設計になっています。

 ループフィルタとバリキャップとの間には2段のバッファアンプを入れてあります。 このようにするとVCOとの干渉が断てるので有利ですがアンプ自身にもわずかながらノイズがあるためC/Nの点では幾らか不利になります。 しかしそれに勝るメリットがありますから入れておくことにします。

 ここではICL7621DCPAというIntersil社(現:Renesas Electronics社)のDual C-MOS OP-Amp.を使いました。 手持ちがあったので使いましたが、ICL7621はだいぶ旧式だと思います。 5Vの単電源で使用できレール・トゥ・レール入出力特性を持った2回路入りOP-Amp.ならたいていの物が使えます。 もし新たに購入するのでしたらLMC6482AIN(秋月で@180円)が推奨品です。

 【7MHz PLLのスペクトラム・1
 各部の説明の前にこの発振器で得られた信号のスペクトラムを観測しておきます。 まずは、信号の上下5kHzずつ、全体で10kHzの範囲で観測してみます。 信号の付近をかなり拡大して見た状態です。

 よくできた水晶発振器と比べると、一見してPLL式の発振器であることがわかります。 十分シャープなスペクトラムが得られてはいますが、どうしても裾野を引く特性になります。 この例では+1kHz離れたところで-67dBですからなかなか良好です。 これはC/N値でいうと-78dBc/Hzくらいですが、キャリヤから1kHzのポイントであることに注目してください。10kHz離れるとさらに20dBくらい下がります。

 実際この信号をCWモードの受信機で聞いてみても綺麗なシングルトーンとして聞こえます。 ダメなPLLだとスペアナで見るまでもなく、受信機で聞いただけであたかもブザーのような濁った音色になるので簡単にわかります。

 位相比較器のデッドゾーンからできるだけ逃れるためループフィルタおよび周りの回路を低インピーダンスに設計しています。 裾野の部分も滑らかに落ちていますのでループフィルタ部分の設計に問題のないことがわかります。

 【7MHz PLLのスペクトラム・2
 信号の上下50kHzずつ、全体で100kHzの幅で観測しています。 測定系のノイズフロアはこの状態で信号のピークから見て-80dBくらいです。 特にスプリアスも見られずたいへん綺麗です。

 ループフィルタの設計が良くないとリファレンスの漏れが発生します。リファレンス・フィードスルーという現象です。 このPLLではリファレンスは10kHzですから、そのような場合には主信号の上下に10kHzおきのスプリアスが見られるようになります。 まったく見られませんのでうまくいっている証拠です。 漏れ出るリファレンス成分を減衰させるようなフィルタが追加してあるのも効果的なのでしょう。

 【7MHz PLLのスペクトラム・3
 さらに拡大して信号の上下500kHz、全体では1MHzの幅で観測してみました。 このくらいの周波数スパンで観測すると出来の良くないDDS発振器などではそろそろスプリアスが引っ掛かるようになります。

 このPLLの場合、信号のごく近傍はともかくこの範囲に発生するスプリアスの要因はないためとても綺麗でした。 DDS発振器のスプリアスを嫌ってPLLと組み合わせて信号をクリーニングすると言った回路手法も高級な機器では見られます。こうした特性を狙ってのことなのでしょう。 そのような意味で従来型のPLLも捨てがたいものがあると思います。目的によっては非常に有効な回路です。

 【7MHz PLLのスプリアス
 VCOに使ったMC1648Pの出力は基本的に矩形波です。 ただし、発振振幅を制御するAGCの効き方を調整すると正弦波に近づけることができます。ベストポイントは個々に調整が必要で、上記回路図のR11:4.3kΩで加減します。 この例では少し発振振幅を欲張ったためか2〜5次の高調波が多めに見えています。

 VCOの後は広帯域な増幅器で、まだ何のフィルタも入れていないので高調波が多いのはやむを得ません。 CW送信機に使う場合、何段かC級増幅したあと良く切れるローパスフィルタを入れます。  その部分で十分に除去できるのでこの段階では少々高調波があっても支障はありません。 受信機の局発に使う場合はスプリアスを十分落とす方が良いのでπ型2段くらいのLPFを付加しておきます。

 10.24MHzの漏れがいくらか見えますが、VCOの後の広帯域アンプ(2SK544F)への直接飛び込みのようでした。測定プローブへの結合もあるようです。 実用する際にはリファレンスの部分を独立させてシールドしておくと良さそうです。 そうすれば漏れはほとんど感じられなくなります。

 【MC1648Pを使ったVCO
 VCOに使ったMC1648Pはもはや古典的なICです。 しかしLC発振回路の周波数をバリキャップで可変する形式のVCOが確実に作れるためなかなか重宝です。

 良いICなのですがあまり使われなかったように思います。 それほど使われなかった理由は2つあると思っています。 一つはコストです。 大して高機能でもないのにMC1648Pはだいぶ高価なICでした。 これを使わなくてもVCOは作れます。 そうなると使用量が増えないのでコストも下がらなかったものと思います。 もう一つは発振出力のC/Nが良くないと言われています。 すでに見てきたような発振スペクトラムが得られますから、必ずしも劣っているとは思いません。 しかしトランジスタやFETで「上手に」作ったVCOならもう少し良いC/Nが期待できるでしょう。

 MC1648Pは発振振幅を抑えることによりバリキャップでの自己整流が発生しないよう考えられています。それだけ使い易くできている訳です。 しかし発振振幅を抑えた副作用でLCタンク回路の蓄積エネルギーが小さくなってしまいC/Nの点で不利になったようです。

 幾らか欠点はありますが一定の性能が保証されたVCOが確実に作れるというメリットは大きいので使ってみました。 すでにディスコンのデバイスですが表面実装型の改良型が登場しています。 性能も向上しているのでプロフェッショナルな用途にはそちらを使うべきでしょう。

のちほど入手容易なパーツを使ってMC1648Pの代替回路を試みます。(Part 3にて)

 【ループフィルタとバッファ・アンプ
 ループフィルタの部分は位相比較器(フェーズ・ディテクタ:Phase Detector : PDと略)と不可分の回路です。

 しかしここではPDはMC145163Pに内蔵されていますから独立した部品としては存在しません。 位相比較器:PDの特性もPLLの性能に大きく影響するのでとても重要です。

 幸いMC145163PのPDはなかなか優秀なようでした。 他のPDと比較しても何ら遜色のない・・むしろ優秀なくらいの性能です。 MC145163Pは後発のPLL用ICですから設計が新しくて内部のC-MOSが高速だからでしょう。

 ループフィルタは一種のローパスフィルタです。 あるいは平滑回路とも言えるものです。 位相比較器からの出力はパルス幅が2つの入力信号の位相差に比例したパルス波形として得られます。 それを平均化して得られた直流的な電位(電圧)を電圧制御発振器:VCO回路・・・具体的にはバリキャップ・・・に加えて周波数(位相)を制御します。

 可変容量ダイオード:Vari-Capを使ったVCO回路では自身の発振電圧がダイオードそのものにも加わっています。 バリキャップ(元もとは商品名でした)とは言っても、本質はシリコンダイオードそのものです。順方向電圧を超える発振電圧が端子間に加われば整流されて電流が流れます。 この電流がループフィルタの部分に流れ込むと制御電圧の変動をまねき、それを間欠的に補正するような動作が始まります。 この動作はPLLの信号純度を損なうため注意すべきす。

 ではどうすべきか? この回路例のようにバリキャップとループフィルタの間にOP-Amp.を使ったバッファアンプを置くことで影響をなくすことができます。 こうしたバッファアンプは原理上は必要ないものですが、性能を改善する効果があります。 発振にMC1648Pを使いましたのでバッファアンプは必ずしも必要なさそうです。しかし実際には制御電圧が小さくなってくると影響が現れはじめます。 さらに別の形式のVCOを試すことも考えて付けておきました。

 電源電圧は+5Vだけですから、バッファアンプには片電源だけでも動作する形式のOP-Amp.を使います。 また電源電圧はわずか5Vと小さいので出力電圧が電源電圧の範囲いっぱいに振れる入出力が「レール・トゥ・レール型」のOP-Amp.を選びます。 条件に合うOP-Amp.は各種発売されていて選択に困るほどですができるだけローノイズな製品を選びたいものです。 容量性の負荷で発振しにくいOP-Amp.と言うのも条件です。 ICL7621DCPAはそう言う意味ではかなり旧式でしょう。しかし写真の程度のスペクトラムは得られますから実用上の支障はなさそうでした。 もちろん新しいタイプのC-MOS OP-Amp.ならなお良いでしょう。

参考:このバッファアンプは、後に説明のある 「リファレンス・フィルタ」としての働きも持っています。 リファレンス・フィルタは比較周波数成分の漏れがVCOに及ぶのを軽減させるためのものです。

 【10.24MHz:VXO式リファレンス発振器
 PLLを使えば周波数が水晶発振器なみに安定している発振出力が得られます。 しかし10kHzステップでは物足りません。

 例えば7MHz帯のCW送信機に使いたいと思っても7000kHzちょうどではオフバンドになるので使えません。 使える周波数は7010kHzと7020kHzの2波しかないのです。(注:2015年のバンド利用プランの改訂でCW局は一応7045kHzまで出られるようになったが、それでも4波である)

 では1kHzステップで設計したら解決だろうと言う声も聞こえてきます。 しかし実際にやってみますと1kHzステップで満足できる品位の信号を得るにはなかなか高度な技術を要します。 1kHzおきにロックさせるのは難しくありませんが、綺麗な信号を得るのは簡単ではないのです。 容易に製作可能なPLLはやはり10kHzステップくらいが無難なところでした。かなり頑張っても5kHzステップまでが間違いないところです。

 そこで、10kHzステップを埋められるよう10kHzの間を自在に可変できるようにします。  いくつか手法はありますが、いちばん簡単な手としてリファレンス(基準)信号を可変してやります。 「基準」を動かすなんて野蛮だと言われそうですが、10.240MHzをVXOすればそれに伴ってPLLで得られる信号の方も動いてくれます。

 7MHz帯で10kHz動けば良いので、10/7000=0.0014285・・・の割合だけ動かせばOKです。 これは10.240MHzにおいて約14.6kHzということになります。 なお、お気付きのように8MHzでは、10/8000=0.00125なので10.24MHzにて12.8kHzだけ動かせば10kHzの可変幅が得られます。 発振周波数が7MHzのときと8MHzとでは必要な可変量が変わってしまいますがこのような方法で行なう限りやむを得ません。 7MHzで設計しておき、使用する上では8MHzの時には可変できる周波数範囲が幾らか広くなることをわかっていれば支障ないと思います。

 7MHzのHAM Bandに限って言えばバンドの上下で200kHzの違いですから、可変幅の違いは300Hz以下に収まります。 さらにCWバンドに限れば差はもっと少ないのでダイヤル板に目盛を記入してしまっても支障はないくらいでしょう。 なお、7000kHzちょうどにセットしてVXOするとバンドの下の方へオフバンドしてしまいます。 必ず7010kHzの設定からVXOするようにします。それで7010kHzから下の方へ10kHzだけ・・・即ち7000kHzまで自在に可変できます。(MC145163PはN=701に設定します)

 VXO回路は発振に高周波用トランジスタ:2SC2668Yを使いました。 周波数可変範囲を少しでも広く取りたい時にはFETを使った方がやや有利なようです。 しかし、ここではVXOとは言っても0.14%ほどの可変範囲しか必要としません。 普通のトランジスタを使った回路でもまったく支障ありません。FETよりもgmが大きいので発振は容易です。 周波数安定度を見ましたが普通の水晶発振器・・・要するにVXO回路ではない発振回路と違いません。 この周波数安定度はPLLにもそのまま反映されますので7MHz帯の出力も十分安定した周波数が得られます。

 VXO回路といえばいわゆる「VXOコイル」が議論になります。 ここでは18μHのマイクロインダクタが適当でした。このインダクタンスは水晶発振子によって最適値が異なります。 20μH前後で可変できるようなインダクタを使うと製作後の調整が容易です。 既製品ではFCZコイルの07S1.9が使えそうです。 しかし約20μHの可変インダクタはコア入りのボビンに巻けば簡単に自作できます。 無理にFCZコイルを探すまでもないでしょう。

  VXO回路に使うバリコンは最大容量が30〜50pFくらいの物が良いです。 エアーバリコンが好ましいのですがポリバリコンでも一応使えます。 調整はバリコンの可変範囲いっぱいで10kHzが可変できるようにすれば良い訳です。 必要以上に広く可変する意味はありませんが、狭すぎると発生できない周波数ができてしまいます。 VXOコイルとバリコンに並列のトリマコンデンサで可変範囲を加減します。 バリコンがほぼ抜けた位置で10.240MHzを発振し最大容量にしたときそこから15kHzほど周波数が下がるように合わせます。(7MHz帯で出力周波数をみて10kHzの可変幅になるようにしても同じです)

リファレンス発振器のスペクトラム
 リファレンスのスペクトラムが綺麗でなければPLLの出力信号もそれなりになってしまいます。

 写真は10.24MHzのスペクトラムを10kHzのスパンで観測したものです。 ご覧のように非常に綺麗です。

 あまり言いたくないのですが上の方で見たPLLで得た7MHzの信号と比較してみてください。 おなじ10kHzスパンの観測と比較すれば一目瞭然でしょう。 水晶発振のこれはスペクトラムが細く裾野の部分もスッキリしています。 それだけ付随するノイズや揺らぎが少ないことを示しているわけです。  水晶発振ならこの程度の信号が普通に得られるのですから、やはり真に綺麗な信号が欲しければこれに勝るものはありません。

 なんだかPLL式発振器の限界が暴露されたような感じになってしまいました。 入念に作ったPLLでも得られる信号は水晶発振には幾らか劣ります。 しかし十分な実用性がありますのでそれほど悲観的になる必要はないと思います。 かつて全盛だったPLL式の発振器を使っていたトランシーバ・・・例えばTS-820やFT-901の局発だって同じようなものだった筈です。 いずれも当時の名機です。 お使いだったお方はそれで支障を感じたことも無かったでしょう。 ここで作ったPLLくらいの性能が得られていればオンエアしていて他局の迷惑にもなりません。 実際にモニタしてみても綺麗なトーンが実現できています。  理想どおりではなくとも電子回路は実用的な性能が得られれば良い訳です。 電波法で規定されている信号近傍のスプリアス基準にもまったく抵触しません。(高調波対策はオーバーオールで行ないます)

                 ☆  ☆  ☆

 まずは7MHz帯のPLL式発振器を作ってみました。 これ自体で7MHz帯のCW送信機のエキサイタとして使えます。 2〜3ステージの増幅段を追加すれば実用的なパワーを持った送信機が完成できます。 終段に変調をかければAM送信機にもなりえます。 スタンバイの制御はMC1648Pの電源部で行ないます。 VXO部分は受信中も動作させたままにすれば良好な周波数安定度が維持できるでしょう。 発振周波数の切り替えは7MHz帯のCWバンドに限ればわずか3chですから簡単なスイッチで済みます。 VXO部分は10kHzをカバーすれば良いのでバリコンにツマミを直付したようなダイヤルでも十分行けます。なるべく180°近く展開し、大きめのつまみを付ければ操作しやすくなります。

 今となってはマイコンでDDS ICや新世代PLL ICを制御した方がスマートかもしれませんが、こうした方法でも実用的な発振器は作れます。周波数安定度も良好です。 実用的なものが作れるのですからこうした部品を眠らせておいたら勿体ないでしょう。 将来価値が出る可能性はありませんから今のうちに活用するのが良さそうです。 プログラムなんかいっさい書かなくても使えるところがいちばん有難いところかも知れませんね。(笑)

 評価手段の進歩で以前は不可能だったような解析が可能になったのも今頃になってPLL回路を始めた切っ掛けです。 昔は評価もそこそこでロックさえすれば良いと言った感じで使いました。  あまり酷いものは五感でわかったので実害は無かったと思っています。 しかしデバイスや回路を吟味して、もう少し定量的に突っ込んだ検討ができたら楽しいでしょう。

 PLL回路に使えるICの手持ちがあれば自作プロジェクトに動員するのも面白いでしょう。パーツボックスに眠らせておいては可哀想です。 PLL用のLSI:MC145163PやVCO用のIC:MC1648Pは既にポピュラーな存在ではないかもしれません。 そんな時は最初の写真にあるように他のPLL用ICでも類似の設計はできます。 次回以降でそのあたりも交えて話を進めたいと思っています。 ではまた。 de JA9TTT/1

関連情報:7MHz PLL Oscillator関連のリンク
(1)イントロ編:(Part 1:いま見ているここです)
(2)PLLの機能分析編:(Part 2:こちら←リンク)
(3)PLLに向いたVCOの研究編:(Part 3:こちら←リンク)
(4)ループフィルタの設計編(最終回):(Part 4:こちら←リンク)

つづく)←リンク nm