【7MHzのVXOをテストする】
【トランジスタを使ったVXO】
シンプルなWSPR機を作ろうと思っています。 WSPR(←リンク)は数Wのパワーでしかも固定した周波数で送受を繰り返すだけです。 意外にシンプルな仕組みで済みそうですから、あとはいかに簡潔に実現するのかが工夫のしどころでしょう。
☆
Rigが空いている時を見計らってWSPRにオンエアしています。 自身がバンドの伝搬状況を掴む目的もありますが、他地域からの把握にも幾らか役立って欲しいと思っています。オンエアはWSPR専用送信機による送りっぱなしの一方通行ではなく、待機時は受信してレポートをアップする「送受信が揃った形態」が望ましいようです。 簡単に行なうにはメーカー製トランシーバが適当ですがメーカー機は送受ともに消費電力が大きすぎるように感じます。 そこで省エネなWSPR機はできないものか考え始めたわけです。 もちろん、既にそのようなKitとか製品も登場していますがなるべくなら自身の手で・・・それもシンプルさ優先で試してみたいものです。
ー ・・・ ー
ダイレクト・コンバージョン形式を考えるのでまずは検波用の発振器を作ろうと思います。 都合よくマッチする水晶発振子は手持ちにありません。いまどき特注も面倒です。 なるべく少ない消費電電力にしたいので近い周波数の水晶発振子を使ったVXOで何とかならないものでしょうか・・・。
21世紀になって20年も過ぎた今ごろVXOでもあるまいに・・・という呟きも聞こえてきそうです。(笑) 発振器と言えばDDSやPLLの時代ですからVXOなんて有用ではないかもしれません。 しかし周波数の可変は必要なく目的周波数の水晶発振子がないならVXO形式で周波数をちょっと引っ張るのも悪くないでしょう。 目論見通りWSPRの復調がうまく行くか、受信レポートに現れる周波数安定度は大丈夫なのか、それぞれ確かめましょう。 VXOなんて語り尽くされた昔話のようなものです。 息抜き程度にでもご覧ください。
【7MHz帯のVXO:実験回路】
まずは受信からでもと思ってシンプルなダイレクト・コンバージョン機を構想します。 高級な路線は狙わず、検波したら増幅してパソコンに接続という単純な形式で行きたいと思います。 そんな思いつき実験のために、7038.6kHzの発振器が欲しくなった訳です。 しかしそんな中途半端な周波数の水晶発振子は持っていません。 でも7040kHzあたりの水晶発振子ならジャンク箱にあったような。
引き出しを探したらそれらしい水晶発振子が出てきました。 表面の捺印からでは正確な発振周波数はわかりません。何のメモも付いていませんでした。 そこで、さっそく共振特性を調べたら発振周波数は少し高い7045kHzのようです。 どうやら目的周波数に対して6.4kHzほど高いようです。 残念ながら7MHzあたりの水晶発振子はトリマコンデンサを抱かせた調整でそれだけ下げられません。 でも、VXO式なら6.4kHz(約0.1%)など至極簡単です。それにその程度のVXO量なら周波数安定度もまずまずではないでしょうか。図のようなVXO回路でテストすることにしました。見ての通り回路そのものはオーソドックスなものです。 大きく周波数を可変させるVXOとの違いは直列のインダクタ(VXOコイル)の大きさだけです。
発振回路はクラップ型LC発振器と等価なものです。 発振デバイスはfTの高いRF用トランジスタを使いました。VXOと言えばFET(電界効果トランジスタ)を使う例が多いのですが、バイポーラ・トランジスタでも容易に発振できます。 むしろゲインが高いのでエミッタとGND間は単なる抵抗器で済んでしまいます。 図では発振に2SC207を使っていますが、ここはRF用小信号トランジスタなら何でも可です。安価な中華トランジスタの:S9018Hなど最適でしょう。 バイアスは無調整で大丈夫だと思いますが、必要ならベース抵抗:R1=330kΩを加減してコレクタ電流が2mAくらい流れるようにします。
VXOでいつも問題になるのはいわゆる「VXOコイル」ですね。 事前の見積もりでは68μHくらい必要そうです。 あとは作ってから実験的に決めることにしました。 その結果が図の定数(L1=47μH)です。 6.4kHzではなく、もっとたくさんVXOさせたいならL1は68μHくらい必要そうでした。 ここではそんなに引っ張る必要はないし少ないインダクタンスで済ませた方が周波数の安定度は優れます。安定なVXOを作るには必要最低限のコイル(=インダクタンス)で済ませるのがコツです。 稀にQの高いコイルを使うと異常発振するかも知れません。そのときはコイルと並列に10kΩくらいの抵抗を追加してみます。
なお、水晶発振子に並列のコンデンサ:C3=5pFは温度特性の良いものに限ります。 NP0特性(エヌピーゼロとくせい)のセラコンかディップド・マイカが適当です。 このコンデンサはVXO量に大きく影響します。大きくすると少なめのインダクタンス(VXOコイル)でたくさんVXOできますが、発振の起動特性や周波数安定度から考えて10pF以下で済ませる方が良いでしょう。私は3〜5pF程度にしています。
バッファアンプは近ごろ定番のFET:2SK544F(三洋/ONセミ)を使いました。2SK241GR(東芝)でも良いですし足の並びに気を付けて2SK439F(日立)も使えます。この回路の場合、帰還容量(Crss)が大きな2SK192A、BF256などは不適当です。 VXO発振部の出力波形はあまり綺麗ではありません。発振波形の綺麗さよりも確実な発振を優先しているからです。 そこでバッファアンプはドレイン側に同調回路を挿入した形式にします。これだけでだいぶ綺麗な出力波形になります。 2SK544Fの出力で5dBmくらい得られました。
参考:VXOコイルのインダクタンス見積もり方
以下はたいへんアバウトなものですが、初めに目星をつけておけばVXOコイルの製作はずっと容易になります。 上記回路図のように水晶発振子にC3を並列に入れる形式のVXOついて計算します。 いま、水晶発振子の端子間容量:Cpは2pF程度と見込めます。また、設計値から並列容量:C3は5pFで計算します。 C=Cp+C3=7(pF)となります。 VXOコイルは、概略でこの7pFとで水晶発振子の周波数:Fに共振するようなインダクタンス値にします。 この例では、水晶の周波数:Fは7045kHzで、C=7pFとすれば、コイルのインクタンス:Lは以下の計算で求められます。誰でもできる算数レベルの計算ですけれど・・・。w
左図のようにL=約73μHと求まります。 近似値の標準的なインダクタは68μHなのでそのあたりの値からテストしてみることになります。あるいはそのくらいのインダクタンスが得られるようなコイルを巻いて試すことにします。
VXOコイルが用意できたら、回路図のC4とC5の部分を最大容量が100pF程度のバリコンに置き換えます。発振させて十分な周波数変化が得られるかによってVXOコイルが最適か否かを判断します。 最適ならバリコンをいっぱいに回して水晶の表示周波数の約0.5%くらいの変化量が得られます。 この例で言えば水晶発振子は7045kHzですから、35kHzくらいの変化量が得られればちょうど良いインダクタンスです。
インダクタンスが変えられるコイル(コア入りのコイルなど)を使って試すと、最適量に近付くと急に大きな周波数変化量が得られるようになるのがわかります。インダクタンスの最適値はかなり狭い範囲にあります。 なお、0.5%以上の変化が得られることも多いのですが、周波数安定度がだんだん悪くなるので実用的ではなくなってきます。周波数安定度との兼ね合いなどを考えて概ね表示周波数の0.5%程度を目標にしています。
言うまでもないと思いますが発振周波数は表示周波数よりも下側に変化して行きます。7045kHzの水晶ではバリコンが最小容量のとき約7045kHzで発振し、容量の増加とともに発振周波数も下がって行きます。バリコンが最大容量のとき約7010kHzまで下げられればVXOコイルは最適と言えるでしょう。
もちろん水晶発振子には個体差があって、この計算値の「半分または2倍くらい」になる可能性もあります。得ようとする周波数変化量によっても必要なインダクタンスは違います。しかし闇雲にコイルを巻き始めるよりも計算すれば遥かに見通しは良くなります。
俗に言う水晶を2つパラにする「スーパーVXO」でやりたい時は、Cpの値を2倍にして計算します。 試すとわかりますが「スーパー」にしなくても水晶一つに並列のコンデンサ:C3を加えるだけで十分にVXOできます。 過去にスーパーVXOを試したこともありますが、あまりその必要性を感じなかったので最終的に採用しませんでした。 今回も必要とする変化量はわずかですから水晶一つで十分です。
【VXO部分】
使用した水晶発振子とVXOコイルの部分です。 VXOコイルは既製品のマイクロインダクタで済ませました。 今回の目的におけるインダクタンスの最適値は47μHよりもう少し小さいところにありそうでしたが、そこまで追い込まなくても十分でした。
VFOの代わりに使うような「たくさん引っ張るVXO」を作るなら是非ともVXOコイルを最適化すべきです。 ここではたった6.4kHzだけ引っ張れれば十分ですから既製品のインダクタで済ませたのです。(参考:写真で使用している中華製のRFCは温度特性がよくありませんでした。周波数安定度に大きく影響するので要検討です。)
同じ周波数の水晶発振子が3つあったので再現性の比較をしてみました。 どれもほとんど違いはないようです。 メーカーやロットが違えば最適インダクタンスも異なる可能性はあります。でも極端に違うことはないはずなので、33〜68μHあたりからテストを始めます。
写真のように発振に2SC207という金属缶タイプのトランジスタを使いました。 実測で1GHzを超えるfTがあってFBな石なのにパーツボックスの肥やしに成り下がっていたのです。 fTがある程度高いRF用のトランジスタならなんでも可ですから型番にとらわれず手持ちをドンドン試してみましょう。 周波数は7MHzですから汎用トランジスタ(2SC1815など)でも十分行けるのではないでしょうか。
【出力波形】
2SK544Fのバッファアンプを出たところの波形です。 ちょっと見たらきれいな正弦波ですが、スペアナでみるとけっこう高調波が含まれます。 しかしそのままオンエアに使う訳ではありませんからこの程度で十分でしょう。 それにまずは受信用ですからね。
途中の回路ロスなど考えて、もう少し大きめのパワーが欲しい気もするので出力部分のコイルを作り替えるかアンプの追加を考えています。 低消費電力の観点からはなるべくアンプは増やさずに行きたいところです。 この先は検波回路とバンドパス・フィルタなどを検討したいと思います。 旨くすればさっそくWSPRで受信テストができるかもしれません。
☆
ダイレクト・コンバージョン形式の受信機を作るには受信周波数の発振器が必要です。まずはその手当をしてからその先を進めましょう。 手持ちにちょうど使えそうな水晶発振子があって良かったです。 さらに探したら10140kHzの水晶発振子も見つかりました。 10MHz帯のWSPRは10138.7kHzです。 こちらはVXOせずに調整だけで行けるかもしれないほど近い周波数です。 7MHzのテストが済んだら10MHz帯もやってみましょう。 でも、複数の周波数発生にはDDSが一番かも知れませんね。周波数管理も楽ですから。そっちの方向へ行ってしまう可能性もゼロじゃありません。 ではまた。 de JA9TTT/1
(つづく)←リンク
加藤さん、こんにちは。
返信削除暑い暑いと思っていたのにもう明後日から10月ですね、歳取ると時間が経つのが速いです(笑
WSPRのTRX、面白そうですね、VXOにWSPRの変調?をかけるのでしょうか。
以前24MHzのTRXを作ったときに16MHzのVXOが全然動かず、VXO用に水晶まで特注したのにあまり上手く可変範囲が取れなかったのでVXOはちょっとトラウマです^^;
今考えるとVXOコイルが合ってなかったのだろうと思うのですが。
10MHz以下でしたら150円のAD9833はいかがでしょうか?(笑
JE6LVE/JP3AEL 高橋さん、こんにちは。 きょうは曇天の予報でしたが、ハレ晴れになって気温も急上昇です。そろそろエアコン入れようかと思ってますよ。hi
返信削除さっそくのコメント有難うございます。
> VXOにWSPRの変調?をかけるのでしょうか。
送信のほうは未検討ですが、VXOの直接変調はソフトでやらないと難しいでしょうね。hi
> VXOはちょっとトラウマです^^;
私もVXOはあまり得意じゃないんですよ。旨く周波数が変わってくれなかったり、発振停止したり・・・あまり良い思い出ありません。 たぶん、変化量を欲張り過ぎたり怪しそうな水晶を使ったからではないかと・・・。良い水晶使って控え目にするとずっと容易です。(笑)
> VXOコイルが合ってなかったのだろうと・・・
何と言ってもVXOコイルはキーパーツですね。 あとは水晶次第なので、よくVXOできるものと期待外れがあるように思います。
> 150円のAD9833はいかがでしょうか?(笑
ダメそうならその線も考えてますよ。でもマイコン使う必要が・・・。周波数表示は不要かもしれませんけど。 しかし、水晶買うのと同じようなお値段なんですから中華DDS恐るべし。w
加藤さん、コンディションが悪い最中WSPRも行けるモードかと
返信削除思います。最近の流行りがSi5351で直接発信ですが、VXOもオツ
な選択ですね、VXOでWSPR電波を出すには結構チャレンジング
かと思いますがSimple is bestの精神で作れば面白いと思います。
最近10MHzのWSPRをやりたくれ局免を取りましたがアンテナ
がなくて悩んでいます。どうも30mバンドがWSPRの銀座のよう
ですので簡単送信機でオンエアできるのは粋なプロジェクトと
思います。
JR1QJO 矢部さん、こんにちは。 秋分を過ぎてずいぶん日が短くなってきましたね。 今日はまだ暑いくらいですけれど・・・。
返信削除いつもコメント有難うございます。
> コンディションが悪い最中WSPRも行けるモードかと・・・
コンディション悪いですねえ! WSPRと言えども何も聞こえず(見えず)、どこにも飛ばない時間帯もあるようです。 バンドが開ける時間も短いです。 WSPRはビーコンなのでQSOとは違いますが、自局の波がどのくらい飛ぶのか、あるいはどれくらい聞こえるか、転じてバンドの様子を把握するには最適だと思います。
> VXOもオツな選択ですね・・・
DDSやPLLも良いんですが、なるべくならマイコンレス(ソフトウエアレス)で行けたらと思ってます。(笑)
> 30mバンドがWSPRの銀座のようですので・・・
オンエア局が多いのは7MHz、10MHz、14MHzです。 これからのシーズンは3.5MHzも増えますよ。 飛びとアンテナを考えて10MHzは良い選択でしょう。 短縮DPでも大丈夫と思いますのでチャレンジされてください。 あまりQRPではなく、まずは5Wで始めると良いでしょう。
> 簡単送信機でオンエアできるのは粋なプロジェクトと思います。
そうなると良いのですが、まずは旨く受信できるのか・・・ですよね。 送信も考えねば・・・。(汗)
加藤OM様 お久しぶり&遅レスです(汗)
返信削除WSPRはよく知りませんが、その本題より(失礼)VXO記事内容に興味を持ちました。
先日まで、アナログTVのクロマ発振用の3.58MHz水晶を2逓倍し、更に7.1MHzまで下げようと苦心惨憺しておりましたが、どうしても動かず放り出していたところでした。
今回の内容で、インダクタンス計算式を見まして計算してみましたら3.5MHzを動かすに必要そうな値の数分の1の値で格闘しておりました。
大きく動かすのは無理そうとは思ってましたが、それ以前の問題であったようでした、今一度格闘を再開してみます。
迂闊なことにこうした式も失念?若しくは既知でなかった?ようでした(がっくり)
私事ですが、今年2月に更新申請を失敗しまして局免を流してしまいました(大汗)。
旧コールで開局申請の準備を始めておりますが、保証認定ですとか、スプリアスがどうしたとか、自作派にはちょいと敷居が高いと感じております。
長々申し訳ありません、今後ともよろしく。
exJA8CZX 矢北さん、こんにちは。 関東地方はまだ30度超えの真夏日です。今日もエアコンのお世話になっております。(笑)
返信削除いつもコメントありがとうございます。
> VXO記事内容に興味を持ちました。
多分、WSPRは一般的なHAMの交信とは異質ですので興味をお持ちのお方は少ないだろうと思っております。VXOの方に興味を持ったお方が多いでしょう。hi hi
> 3.58MHz水晶を2逓倍し、更に7.1MHzまで下げようと・・・
3550kHzまで下げるとなると、0.8%少々のVXOになるようですね。 水晶発振子次第でそのくらいなら引っ張れるようですが、少し厳しいかもしれないです。 楽々動くセラロックでお試しになりたいうようでしたら差し上げますのでご連絡ください。
> 必要そうな値の数分の1の値で格闘して・・・
アバウトな計算なので、だいぶ違った値になることもありますが、実際に低い周波数ではかなり大きなインダクタンスを必要とするようです。 BCバンドの局発コイルを使うとか、既製品で大きめのインダクタでお試しになってください。
> 局免を流してしまいました(大汗)。
それは災難でしたね。 流してしまうと費用も手間も掛かってしまいます。 でも、自作機器の実験研究に免許は必要ですのでぜひ復活されてください。
長さとか気にせずコメントお願いします。もちろん、ヒトコトも大歓迎です。(笑)