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2022年12月8日木曜日

Kumano Pilgrimage :熊野詣で

【熊野三山を巡る旅】  (Link : 熊野三山

Photo : 2022.11.15 12:10 JST : JL215

Photo : 2022.11.15 12:11 JST : JL215 Wing

Photo : 2022.11.16 09:31 JST : Kumano Hongu Taisya / 熊野本宮大社

Photo : 2022.11.16 11:01 JST : Kumano Hayatama Taisya / 熊野速玉大社

Photo : 2022.11.16 13:36 JST : Kumano-Kodo / 熊野古道・大門坂

Photo : 2022.11.16 14:27 JST : Kumano Nachi Taisya / 熊野那智大社

Photo : 2022.11.16 14:36 JST : Nachi Waterfall / 那智の瀧

Photo : 2022.11.17 13:52 JST : JL214

皆さまにとって令和五年が良いお年でありますように.

2022年11月24日木曜日

Audio CW Filter and AF-Power Amp.

オーディオCWフィルタとパワーアンプ

フィルタ付き低周波アンプを作る
「私だけの受信機設計」の第12回です。今回は低周波アンプ部を製作します。

 ここまでのテストでは低周波アンプにLM380Nと言う低周波パワーアンプ用のICを使ったものを使ってきました。 電圧利得で50倍だけ増幅するシンプルなパワーアンプでした。8Ωのスピーカを負荷にしたときの無歪最大出力は250mWくらいです。

 まずまず使い物になるのでそのまま低周波アンプとしても良かったのですが、通信型受信機にマッチした「低周波アンプユニット」をあらためて作ることにしました。 3kHzのローパスフィルタと聴感の良いオーディオCWフィルタを組み合わせた低周波アンプ部を作ります。

                   ☆

 受信機の低周波アンプなんて必要なゲインがあれば「適当なもので良い」と思うかも知れません。 しかし意外に重要な部分なのです。 低周波アンプ回路のひずみ特性や周波数特性が良くないと特有の音色を持ちます。ワッチしていて疲れる受信機になってしまうかも知れません。受信了解度にも影響がでるでしょう。 プロの受信機を見ると思った以上に凝った回路になっていて勉強させられます。

 メーカー製のアマチュア機ではシンプルに低周波アンプ用のICを使う例がほとんどです。コストの問題もあるのでしょう。しかし、小音量で聞くことが多いシャックではクロスオーバー歪が気になることがあります。 特に大きな音量が出せる固定機ではその傾向があります。パワーの大きなカーオーディオ用のICを使っているのが原因でしょう。
 合わせて無線機内蔵のスピーカーもチープなものがほとんどです。それで良い音は無理です。外付けスピーカを使いましょう。無線機のオプション品も良いですがミニコンポ用(リサイクルショップで購入)がオススメです。たった数百円〜で音質良好になります。

 ここでもパワーアンプ用のICを使いました。AB級アンプなのでちょっと心配したのですが小出力でワッチしていてもまずまずでした。それで気になって来たらグレードアップも可能です。

 高周波部に比べて低周波アンプ部は受信機の本質的な部分ではないと思われがちです。たしかに高周波部に比べて重要度や難易度がやや低いのはその通りです。 ここでは意外に凝った低周波アンプ部になりました。 単純なオーディオアンプで十分と思っているのでしたら複雑過ぎると感じるでしょう。しかしやさしいところで手を抜くと良い結果は得られないかも知れません。w

アナログで作るオーディオCWフィルタ
 だいぶ前のBlogで扱った「音の良いCWフィルタ」を使います。 過去のBlog(←リンク)では同じ回路で様々な特性のフィルタが作れることに面白さを感じたことが出発点でした。シミュレーションを主体にした内容です。

 もちろん良い性能が得られるので作り甲斐があります。 実際に自作受信機やCWフィルタの帯域外減衰が不十分なFR-101受信機に内蔵させてとても良い結果が得られています。
 図の回路はOP-Ampを使った2次のアクティブ・フィルタを4段重ねて様々な特徴を持ったフィルタが作れるという設計になっています。

 通信型受信機のCW受信用としては図中の表で2段目の「トランジショナル・ガウシャン トゥ 6dB」と称するフィルタがお奨めです。 -6dBより内側が過渡応答に優れるガウシャン特性で、その外側は遮断特性の良いバターワース型になったフィルタです。 名前の通り-6dBの所で特性が切り替わるという「良いとこ取り」のようなCWフィルタです。

 一覧表の赤で囲った部品定数を選びます。 この特性のフィルタはCWのような断続波において、CWトーンの立ち上がり部分でオーバーシュートせず滑らかに立ち上がります。また信号が切れた後に余韻を引かないため粘らないので了解度に影響を及ぼしません。従って200Hzといった狭帯域でも聴感はナチュラルで感触良好です。

 図の部品定数表は実際に製作するためのものです。コンデンサや抵抗器は少なくとも1%精度の物を使う必要があります。その上で4つある各セクションをそれぞれ表中の周波数でピークになるよう同調させます。結構シビアな調整が必要なので周波数がHz単位までわかる低周波発振器あるいは周波数カウンタの併用を要します。

 E24系列で1%精度の抵抗器は入手容易なので問題はないとして0.039μFで誤差1%のコンデンサが厄介かも知れません。良質なフィルムコンデンサを余分に手に入れてLCRメータで選別する必要があるでしょう。10%や20%の誤差のまま使ったのでは所望の特性が得られないのです。 なお、「0.039μF」という数値に拘るのではなく8個がなるべく同じ容量値になるようにします。例えば8個を0.038μFに揃えても良い訳です。 もちろん容量差の分だけ僅かに中心周波数はズレますがフィルタの特性カーブは保たれます。

作るCWフィルタの周波数特性
 フィルタと言うとどんな周波数特性なのか気になります。中心周波数が700Hzで-3dBの帯域幅が300Hzの設計です。

 ここで選択したフィルタはグラフの緑色のカーブのようになるはずです。 これは誤差のない部品を使ってシミュレーションした結果です。 現実の部品には何がしかの誤差があるので厳密にこのようにはならないかも知れません。

 しかし、各段を構成する2次のアクティブ・フィルタはあまりQが高くなく、ゲインも低い設計なので大きく崩れることはないはずです。 配線・組立の後に表中に記された周波数でそれぞれピークが出るように各可変抵抗を調整すればシミュレーションと良く一致した特性が得られます。

 もし異なる特性のフィルタを作りたいのなら回路図の表に戻って作ればうまくゆきます。 しかしCWの受信には「トランジショナル・ガウシャン トゥ 6dB」特性のフィルタをお薦めしたいです。(注:やや特性が甘くなりますがベッセル特性も良い選択です)

OP-Amp.で作ると
 どんな感じになるのか実際の製作例を示します。 写真は昔作った自作受信機における製作例です。

 コンパクトに製作する目的でコンデンサには積層セラコンを使っています。温度補償系のセラコンならマズマズですがフィルム・コンデンサの方が優れます。 できたらマイラ・フィルムのような低周波に向いたコンデンサを使いたいところです。

 この写真の製作例では部品を高精度に選ぶことで無調整にしています。そのために部品集めが大変でしたから回路図のように調整式にした方が作りやすいです。

 OP-Amp.は4回路入りのTL074CNを使って小型化しています。 他のOP-Amp.でも良いのですがこうしたフィルタ回路にはオーディオ特性(正確に言えばAC特性)の良いOP-Amp.が向いています。 周波数は1kHz以下ですから大抵のものが使えます。
 汎用品のLM324NやLM358N系はお手軽なので好きなOP-Amp.ですがこの用途にはやめておいた方が良いです。出力段がC級アンプなのでどうも音が良くありません。 オーディオ用と称するOP-Amp.はFBですがHAMの用途にはちょっと勿体無いかも知れません。お手軽なOP-Amp.としては4558系などが良いのではないでしょうか。あとはお好みです。

以上、周波数は700Hz固定で良い、やっぱり純アナログが一番だ。・・・と言うのでしたらOP-Amp.を使ったCWフィルタが最適です。 部品の選別が必要なので少し作るのは面倒ですが、使用感はなかなか素晴らしいので手間を掛けるだけの価値を感じられます。

参考:フィルタ部のコンデンサ(C1〜C8)のすべてを0.039μF±1%から0.047μF±1%に変更すると約600Hzのフィルタになります。また、0.039μFから減らして0.033μF±1%にすれば約800Hzのフィルタにできます。なお各調整周波数は変更した容量比の逆数分だけ変えます。例えば0.039μF→0.047μなら容量比は47/39≒1.205ですから、各調整周波数は1/1.205を掛けたものになります。(≒0.83倍) この件、あやふやな部分とかもし良くわからなければ聞いてください。わかる範囲でなるべく詳しくご返事します。

 上図の回路はCWフィルタ部分だけです。低周波のパワーアンプ部分などは、このあと説明のある回路と同じで大丈夫です。後述の回路図のCWフィルタ部分を上図の回路に置き換えてやれば全く同じように製作できます。 電源電圧も9Vで支障ありません。

                  ☆ ☆


オーディオCWフィルタ・もう一つの方法
 写真はブレッド・ボードに作ったオーディオCWフィルタと低周波アンプ部です。 SSB用に3kHzのローパス・フィルタも含んでいます。

 CWフィルタの部分は始めに紹介したフィルタとまったく同じ特性を持っています。すなわち「トランジショナル・ガウシャン トゥ 6dB」と称する特性のフィルタです。 従って後ほど特性の測定例が出てきますが実測でもシミュレーションそのままです。

 ただしCWフィルタの部分にOP-Amp.は使っておらず「スイッチド・キャパシタ・フィルタ」(以下略してSCF)と言うやや特殊なフィルタ専用のICを使って作りました。 SCF-ICはナショナル・セミコンダクタ社(現TI社)のMF10CCNを使いました。写真の上の方に2つある20ピンの大きめのICです。 MF10CCN一つで2次のフィルタが2回路作れます。従って2個使うことで2次のフィルタを4セクション使う最初の説明のような「トランジショナル・ガウシャン トゥ 6dB」がそっくり同じように作れる訳です。

 基板手前左には2回路入りのOP-Amp:TL072CPを使ったプリアンプとローパスフィルタ(LPF)があります。LPFのカットオフ周波数は3kHzで遮断特性は12dB/octです。あまり急峻とは言えませんがもともとI-Fフィルタで帯域制限されていますから、この程度で十分効果的です。 それと、その可能性はほとんど無いのですがSCFのクロック周波数とビートになる周波数で信号通過が起こるのを防ぐ意味があります。(ビートが起こるのは数10kHz〜100kHzと言う可聴域外の周波数なのでそもそも受信機の低周波アンプでは問題にならないのですが・・・)なお、SCFのクロックの話は後ほど出てきます。

 右下に見える低周波パワー・アンプ部にはNJM386BDを使いました。 これはナショセミ社のLM386Nと同等のものです。 テスト受信に使っていたLM380Nよりも低い電源電圧向きなので使うことにしました。 オーソドックスすぎますがまずまずの性能です。8Ωのスピーカで最大300mWくらいしか出ませんがシャックに置く受信機には適当なパワーです。 電源電圧を9Vに統一していますので「386」のパワーアンプは無難な選択です。

スイッチド・キャパシタ・フィルタで作る
 低周波プリアンプ、3kHz-LPF、CWフィルタ、低周波パワーアンプ部の回路図を示します。このユニットへの入力信号はBFO&プロダクト検波ユニット(←この特集第4回へリンク)の出力です。

 回路図の上の方の抵抗器がたくさん使ってある部分がCWフィルタです。所定のフィルタ特性を得るためには計算通りの抵抗値が必要です。 キリの良い抵抗値にならないのでE24系列の抵抗器(←リンク)を2本直列で必要な抵抗値を得ている箇所があります。そのため抵抗器の本数が多くなっています。 面倒だからと言って近い値の標準抵抗値に丸めてしまうと所定の特性が得られません。(参考:抵抗器の誤差を±1%とすれば一部に抵抗器の本数を減らして簡略化できる箇所があります)

 たくさん抵抗器を使うので複雑であまりメリットはなさそうに思うかも知れません。その代わり0.039μFと言ったコンデンサは不要なのでたくさん買って選別する手間はありません。これは一つ目のメリットです。E24系列で1%精度の抵抗器は普通に売っていますから選別など必要ありません。

 ご存知のようにSCFを使ったフィルタにはそれ以上の非常に大きなメリットがあります。 SCF-ICには必ずクロック・パルスを与える必要があるのですが、そのクロックの周波数を可変してやるとフィルタの周波数を自由に変えることができるのです。 OP-Amp.で作った純粋なアナログ式フィルタではもし700Hzで作ると後からフィルタの周波数を変えることはかなり厄介です。8つもあるコンデンサを切り替えるのは大変でしょう。 しかしSCFを使うとクロック・パルスの周波数を変えてやればフィルタの中心周波数を自由自在にできるのです。回路図の例では200Hz以下から8kHzあたりまで変えられます。(CW用なのでそんなに変えられる必要はないのですが・笑)

 ここではフィルタの中心周波数は700Hzで-3dBの通過帯域幅は300Hzで設計しています。 その時のクロック周波数は100倍の70kHzを与える設計です。これが設計の出発点です。 しかし後からクロック周波数を変えてやれば700Hz以外のフィルタにもなります。 即ち40kHzのクロック信号を与えれば400Hzの、あるいは100kHzなら1kHzの所にピークが来るCWフィルタになる訳です。もちろん周辺部品を交換する必要は何もありません。 このように中心周波数可変型のCWフィルタを実現するためにSCF-IC:MF10CCNを使いました。
 これで「トランジショナル・ガウシャン トゥ 6dB」と言う優れた特性のままで中心周波数を自由に可変できるCWフィルタを作ると言う長年の課題に答えが出せました。(前々から可能なことはわかっていたのですが面倒に感じて手をつけなかっただけなのですが・笑)

 クロック発振器にはタイマーICのNE555Pを使いました。可変抵抗器:VR一つで発振周波数が幅広く変えられる矩形波発振器です。 このNE555PとMF10CCNは電源電圧:+9Vの他にその半分の電圧(+4.5V)が必要です。
 その+4.5Vの生成にシャント・レギュレータ:TL431Cを使いました。 また、既に書いたように低周波パワー・アンプはNJM386BDです。 この低周波ユニットは+9Vの単電源で動作し無信号時に約34mA流れます。音量のピークでは140mAくらいでした。(8Ωのスピーカ負荷で)

フィルタの中身はどうなっているか?
 フィルタの設計を詳しく扱うとBlog一回では終わらないので、かいつまんだ話をしましょう。 それと計算式を羅列されても大半のお方にとっては退屈で眠くなるだけでしょう。以下深みにハマらぬ程度でやめておきます。従って数式は登場しません。

 まず、仕様を決めるのがスタートになります。CWフィルタですから、中心周波数は800Hz付近に選びます。これは経験的に800Hz付近が聴きやすい周波数だと考えられているからです。もちろん各人の好みで変えても構いません。私はやや低めが好みなので700Hzにしました。 また、通過帯域幅ですが無闇に狭いと使いにくいだけなので200〜300Hzの幅を持たせるのが実用的です。それでもダイヤルの減速が十分でない受信機(トランシーバ)では同調がクリチカルになるのでやや広めが望ましいと思っています。既にI-Fアンプの所に数100Hz幅のCWフィルタが装着済みなら300Hzくらいでも十分ですし、SSBフィルタしか持たない受信機でもそれくらいで不満はないでしょう。

 フィルタは「共振器(共振回路)」の数がモノを言います。従ってセクションの数が多いほど急峻になりますが回路はそれだけ複雑になります。過去に6セクションのタイプを製作しましたが過剰だと感じました。複雑さと性能を天秤にかけると2次フィルタの4セクションで十分です。 このようにしてフィルタの概要が決まりますが、CWはバースト波なので過渡応答性を考慮してフィルタ形式を決めます。私の場合は「トランジショナル・ガウシャン トゥ 6dB」を選ぶことにします。これはベッセル特性でも構いません。過渡応答をそれほど重視しなければ他の形式でも良いです。あとは目的次第です。

 その上で、フィルタ形式とセクション数:n=4に従ったポールロケーションと言うものを求めます。これはフィルタ関係のデータブックなどから得ることができます。フィルタ設計のソフトウエアを使っても構いません。 それで得られる設計データは一般に「正規化」されているため所用の周波数へスケーリングの計算を行ないます。その計算を経て4つある2次フィルタの各セクションについてそれぞれ(1)中心周波数、(2)フィルタのQ、(3)ゲインが導かれます。

 OP-Amp.を使うアナログ形式で作る場合、適切な形式の2次のバンドパスフィルタ回路を選択し、(1)〜(3)の特性が得られるようにコンデンサ:Cや抵抗器:Rの値を決めて行くことになります。回路例では「多重帰還型」という形式の2次のBPF回路を採用しています。 4つのセクションについて計算が済めば設計完了です。アナログ形式では都合の良いコンデンサの値を事前に決めておく必要があるでしょう。このコンデンサ:Cの値はある程度任意に決められます。最初の例ではそれが0.039μFだった訳です。(0.039μFにしたのは手持ちの都合) 計算は少し面倒くさいですが決して難しいものではありません。

 SCFの場合もまったく同じ手順ですが、MF10CCNの設計資料を参照して4つある各セクションについて(1)〜(3)を満たすように設計します。回路例はMF10CCNの「モード3」と称する動作モードで設計しています。 それでMF10CCNに外付けすべき抵抗の値が求められます。 その際、計算の基準とする抵抗値を一つだけ決めておく必要があって私の設計では20kΩに選びました。これは例えば5kΩや10kΩに選んでも良いはずです。もちろん基準の抵抗値を変更しても同じ特性が得られます。クロック周波数は100倍あるいは50倍で選択します。(どちらかを選択してピン接続を決める)これはSCF-IC:MF10CCNの仕様によります。製作例では100倍を選択しています。
 設計された4つのセクションの周波数特性は図のようになっていて、図に見るように2次のセクション4段の合計で最終的に目的のフィルタ特性になります。この特性はOP-Amp.を使ったアナログ形式でもSCFを使った形式でもまったく同じです。

 現在では入力信号をA/D変換し数値演算によってまったく同じ様な特性を得ると言うDSPによるデジタル・フィルタ形式がトレンドになりつつあります。 しかしアナログ式やSCFによる方法は演算処理に要する信号の遅延がほぼ無いという特徴があってDSPより優れる部分もあると思っています。しかもわずかな消費電力で目的の性能が得られます。

 多分、これだけの説明ではチンプンカンプンかもしれません。説明力不足で申し訳ないですがまだまだ勉強中です。 もうちょっと理解するには入門くらいでも良いのでフィルタの理論を知っていると良いです。フィルタの専門書はどれも難しいと感じられますが興味があれば手に取ってみてください。 HAMの自作にとってフィルタは切り離せないものです。ある程度思うような設計ができると自作の世界も広がります。もちろんデジタル・フィルタであってもフィルタ理論の根本は同じです。フィルタについて知ることは決して無駄にはならないと思っています。

SCF-ICのMF10CCNが主役
 ICの写真を見せても仕方がないのですが、中華通販などで購入されるなら参考に見ておいてください。

 MF10には表面実装型もありました。残念ながら写真のDIPタイプだけでなく表面実装型もディスコンになったようです。おそらくだんだんニーズが減ってきたからでしょう。 デジタルなように見えてもアナログなICですし設計の自由度があり過ぎるため、あまり素人向きとは言えないように感じていました。
 それに単純なピーク型の単峰特性のフィルタや簡単なLPFくらいならOP-Amp.と数個のCRで作れますからね。 MF10CCNを上手に活用するとたいへん面白いフィルタが作れるのですが、それが実感できるためにはフィルタの理論を知らねばなりません。結局、美味しくても調理が難しい素材はシェフから敬遠されてしまうのでしょう。(笑)

 MF10CCNは歴史のあるICですからまだまだ流通在庫が残っています。やや価格上昇気味かもしれませんが何とか手に入るでしょう。 もともとあまり安いICではなかったので一つ1,000円くらいなら買って損はないと思われます。中華通販やオクション品はニセモノに注意を! もし可変周波型の「音の良いCWフィルタ」に興味があるなら有るうちに手に入れておくのも良いかも知れません。 いつか作りたいと思ったとき手遅れにならないように・・・。(もちろん、購入の際はご自身の判断と責任でお願いします)

代替品情報】(2024年1月現在)
MF10CCNは生産終了品(ディスコン品)ですがいくつか代替品があります。

そのまま置き換え可能なものとしてMF10BN(オリジナルはMaxim社)があって、Rochester Electronicsと言う互換品メーカーの製品が出ています。Digi-Keyのような部品商社経由で入手できます。 さらに型番は異なりますがリニアテクノロジー社(現・ADI社)のLTC1060CNも同じように使えるはずです。こちらも商社経由で購入可能でしょう。

完全互換ではありませんが、機能的に互換可能なチップもあります。 MAXIM社(現・ADI社)のMAX7490がほぼ同等の機能を持っています。ほかにもリニアテクノロジー社(現・ADI社)のLTC1067(-50)も同じようなチップです。 いずれも部分的な設計変更で同じように使えます。 どちらかと言えば電源電圧範囲の広いLTC1067の方が有利かも知れません。どちらも生産中です。部品商社から少量の購入が可能で単価は$15-くらいです。

脇役デバイスにも重要な役目あり
 低周波アンプのユニットですから低周波パワーアンプのIC「386」が主役なのかも知れません。(笑) LM386やNJM386は秋葉原や日本橋のパーツショップほか通販でも普通に手に入るオーディオ用パワーアンプICです。

 NE555P(NE555Vも同じ)はSCF-ICに必要なクロックの発生に使います。 各社から同等品が出ていますのでどれでも良いでしょう。最近はC-MOSタイプもポピュラーになりました。C-MOSタイプの"555"も同じように使えます。

 MF10CCNはプラス5Vとマイナス5Vの2電源で使うのが標準ですが、+10Vだけの単電源でも使えます。その代わり+5Vの中点電圧が必要になります。 またここでの製作例のように+9Vの単電源でも支障なく使えますが電源電圧の中点電位である+4.5Vの電源が必要になります。その+4.5Vは可変電圧型シャントレギュレータ:TL431Cで作っています。 +4.5Vの消費電流は12mAくらいですからブースタ・トランジスタは必要ありません。この12mAのうち大半はNE555Pが消費しています。

 いずれのICもポピュラーで安価なものです。通販でも容易に入手できるので困ることはないでしょう。

SCFで作ったCWフィルタ・拡大
 MF10CCNの周りを拡大しています。

 1セクションあたり抵抗器が4本・・・実際には複数で抵抗値を合成していますので7本くらいあります。そのためブレッドボードでの試作では配線の取り回しが難しくてどうもスッキリしません。 基板化する場合は抵抗器の下へ配線を通すなど工夫すれば配置しやすいと思います。 MF10CCNのピン配置も配線を考慮してうまく考えられていると感じます。

 回路のインピーダンスは低めですし低周波ですから配線は少々長くなっても大丈夫です。 電源端子など要所に0.1μFくらいのバイパスコンデンサを入れておけば安定した動作が期待できます。

 原理的にはフィルタ部の全段をDC的に直結可能なのですが、いくらかオフセット電圧が発生します。オフセット電圧が累積するとダイナミックレンジが縮小するので途中をコンデンサでDC的に切ってやります。
 あまり小容量のコンデンサで切ると周波数特性に影響が出ますから1μFのフィルムコンデンサで切りました。コンデンサの両端でDC的な電位差はほとんど生じないためかえって電解コンデンサは不適当です。 もし電解コンデンサを使いたいならBP型(バイポーラ型、無極性型:ノンポーラ型とも言う)を使います。 特に難しいところはないので容易に作れると思います。もちろん配線間違えは致命的ですけれど。hi

 MF10CCNはC-MOS構造のICです。このCWフィルタの製作では空きピンは発生しませんが、ユニットの片側のみ使うと言った場合には使わない側の空きピン処理が必要です。使い方のすべては書き切れませんので詳しくはメーカーの資料を参照します。 もちろん自身で新たに回路設計しないのでしたら何も悩まず上述の回路図通り作ればOKです。

入力プリアンプと3kHzのLPF
 この低周波ユニット全体で約32dB(40倍くらい)のゲインになるようプリアンプを置いています。プリアンプのゲインは2倍弱で入力インピーダンスは47kΩです。このBlogで製作したSSB/CW検波ユニットを繋ぐ場合は入力部の可変抵抗:VR3はなくても良いでしょう。(音量調整はVR4:10kΩ・Aカーブの方で行ないます)

 OP-Amp.:TL072CPの片側でフラットに約2倍増幅したあと、もう半分で3kHzのローパスフィルタ(LPF)を構成します。そのあとCWの時はMF10CCNのバンドパスフィルタへ行きます。 SSBの時はそのままNJM386Bの低周波パワーアンプへ行くようにします。

 LPFは-3dBの周波数が3kHzで、その上の周波数で-12dB/octの傾斜を持つシンプルなものです。なお、-12dB/octと言う意味は周波数が2倍(オクターブ)になると12dB減衰する特性のことです。 3kHzのLPF回路はなるべく精度の良い部品を使うべきですが神経質になるほどではありません。回路図のコンデンサ:C10はC9のちょうど半分なので、C10と同じ容量のコンデンサを2個使って直列にすれば目的の容量になります。あるいはC9 = 0.01μF、C10 = 0.0047μFでも十分かも知れません。 いくらか遮断特性は変わりますが支障はないはずです。 カップリング・コンデンサ:C6は1μFのフィルム・コンデンサを使いました。BP型の電解コンデンサでも良いです。

SCFクロックGENと低周波パワーアンプ
 SCFのMF10CCNには矩形波のクロック信号が必要です。

 フィルタ中心周波数の100倍の周波数のクロック信号を与えます。 クロックの振幅はGND〜+4.5Vの矩形波です。ピン接続を変えれば波高値が0〜+9Vの矩形波も使えます。詳しいことはMF10CCNのデータシートを参照します。

 クロック信号の発生にはタイマーICのNE555Pを使って矩形波発振器を作りました。 周波数の可変範囲が広くて、Duty比がほぼ50%の矩形波が得られる回路になっています。 配線が済んだらNE555PのPin7にて出力波形をオシロスコープで観測し、まずはじめにVR1を調整してHighとLowの割合が半々になるようDuty比を調整します。波高値が0〜+4.5Vであることも確認しておきます。発振周波数調整用のVR2:100kΩは受信機のパネルに取り付けて目盛りを記入しておくと便利です。周波数の可変範囲は広すぎるくらいになっていますのでコンデンサ:C3(470pF)を変えたり、抵抗器R22(1kΩ)を大きくするなど実用的な発振周波数範囲に狭めておくのも良いでしょう。

 話が前後しますが、TL431Cを使った+4.5V電源の電圧を確認しておきます。+4.3〜4.7Vくらいなら良いでしょう。それを大きく外れているならまずは配線を確認します。その上で抵抗器:R18とR19の値を確認します。

 LM386N(=NJM386BD)を使った低周波パワーアンプはアプリケーション・マニュアル通りのオーソドックスな回路になっています。ゲインは20倍で使います。
 LM386Nはゲイン200倍で使うこともできますが発振しやすくなります。ここではその必要もなかったので20倍にしていますが動作はずっと安定していて発振などのトラブルは起こりにくいようです。 LM386Nはできるだけ20倍のゲインで使うのがコツのようです。このAFアンプユニットでもプリアンプにゲインを持たせることで「386」のゲインは20倍で使いました。

SCFにはクロックが要る
 NE555Pの発振周波数を確認しています。Pin7の所で測定しました。これがMF10CCNに与えるクロックの周波数になります。

 これから中心周波数が700Hzの時のフィルタ特性を観測したいと思います。 クロックは100倍の周波数が必要ですから周波数調整用のVR2で70kHzになるようにしておきます。(±1%くらいで十分です)

 フィルタの中心周波数が400Hzなら40kHzに、中心周波数が1kHzなら100kHzに調整して測定します。 NE555Pを使った矩形波発振器の周波数安定度はあまり良いとは言えませんが神経質にならなくても大丈夫です。 1kHz変わってもフィルタの中心周波数は10Hz変わるだけです。もしその程度の変動があっても使っていてわかりません。それに安定度が良くないとは言ってもそんなにたくさん変動しません。(C3:470pFの温度係数が大きいと周波数変動が大きくなります。スチコンあるいはマイカコン、またセラコンならCH特性品を使うべきです)

 どうしても気になるのでしたら水晶発振器を基準にして分周するとか高精度が得られる方法でクロック発振器を作ります。しかし実用上その必要はまったく感じられない筈です。従ってNE555Pの発振器で十分です。

クロック70kHzで700Hzのフィルタ
 写真は中心周波数が700Hzの実測フィルタ特性です。 黄色のトレースが振幅特性で緑色が位相特性です。

 回路シミュレーションで計算した特性とよく一致した周波数特性が得られています。 なお、14dBほどゲインがありますが、これはVNA(低周波まで観測可能なもの)の出力を50Ωで終端しなかったことと、TL072CPによるプリアンプのゲインが加わっているためです。

 山形のさえない周波数特性に感じるかもしれませんが使ってみますとCWフィルタとして良い感触です。 音色はまろやかで心地良いものです。 無信号時のノイズも不自然さがなく耳に付きません。 あえて欠点を挙げるとすればどんなCW局もそれなりに美しく感じてしまうことでしょうか。これこそが「フィルタ」の効果なのかも知れません。 まあ、このあたりは私見ですのであなたご自身で確かめて頂く必要があります。(笑)

クロック40kHzで400Hzのフィルタ
 クロックを40kHzに調整して400Hzの特性を観測しています。

 たぶん400HzでCWを聞くお方は少ないと思いますがあえて低い周波数で試しています。 もちろん500Hzとか600Hzも自在に可能ですから完成したらぜひ試してください。

 700Hzと言った固定した周波数に縛られず好みに調整できるのは大きなメリットです。 また近接した周波数で混信が出てきたらフィルタの周波数を加減すると言った方法で逃れることもできるわけです。

クロック100kHzで1kHzのフィルタ
 周波数特性観測の最後はクロックを100kHzにして中心周波数1kHzの状態で測定します。

 中心周波数が700Hzのとき-3dBの通過帯域幅は300Hzになります。 クロック周波数を変えて中心を変えると帯域幅が変化します。ただし中心周波数に対する帯域幅の割合は変化しません。
 従って中心周波数が1kHzのとき帯域幅は1000/700の割合だけ広くなります。計算すると-3dBの帯域幅は430Hzくらいになります。 中心周波数が400Hzなら逆に狭くなって-3dBの帯域幅は170Hzくらいです。 中心周波数が変わっても「フィルタの"Q"」は変化しないように動作するからです。

 通過帯域幅が変化しては困るように思うかも知れません。しかし測定器で観測のように横軸対数で見たとき特性変化がなければ人間の感覚上でも違和感はないようです。 実際に中心周波数を変えると帯域幅は変化するのですが何らの問題も感じませんでした。扱い易さにも変化はありせん。 それに設計周波数の700Hzから大幅に変化させて使うものではないでしょう。実用上の支障は何もないわけです。

                 ☆  ☆  ☆

7MHzのCWをワッチしてみました
(再生するとが出ます)

 7MHzのCWバンドを下の周波数から上に向かって受信して行きます。初めの写真にあるような構成でDDS-VFOを使いました。オーディオCWフィルタは約700Hzの設定です。 ワッチしたとき7MHzのコンディションはあまり良くなかったようです。全般にSメータの振れも良くありません。 それでも各局の信号が次々に浮かび上がってくるのが感じられたでしょうか? あいも変わらず7041kHzにFT-8でオンエアの局が群がってますね。hi Sメータの動きなどを観察しながら擬似ワッチをお試しください。 ダイヤルが7050kHzあたりまでアップしたら下の方へ戻って来ます。

                   ☆

 これで低周波アンプユニットの特集はおしまいです。 オーディオCWフィルタの製作がメインになってしまいました。 もしオーディオ帯のCWフィルタに興味がなければ作る必要はありません。スイッチの部分を直結してしまえばOKです。 LM386Nの部分に20倍よりも大きめのゲインを持たせればTL072CPのプリアンプとLPFも省略可能でしょう。各自のニーズと好みに応じて変更すれば良いわけです。

 約1年続けた「私だけの受信機設計」はこれで最終回になります。長いあいだお付き合いいただきありがとうございました。

 HAMが通信に使う受信機と言ってもたいへん幅広いものが使われています。わずか数石・数球のシンプルなものから非常に高級なものまで、さらに最近はSDR式も一般化しました。 アナログな通信型受信機について1年に渡って続けましたが興味のあったごく限られた範囲をかいつまんだだけのようにも思います。各編から何か少しでも自作受信機のヒントを発見して頂けたなら幸いです。 もっとも、はなから作るつもりなんてサラサラなくって単に暇つぶし程度の読み物だったのかも知れません。あなたもその一人の筈です。そのお役に立ちましたでしょうか?(笑)

 検討・製作してきた各ユニットは信号のレベルとインピーダンスが考慮してあるので、そのまま接続して行けば支障なく動作するようになっています。 電源もすべて+9Vだけで済むようにしてあります。(除VFO部分) 電源部の製作は省きましたが+9V/1Aの3端子レギュレータを使った簡単なものを作れば十分でしょう。 +12Vの電源から+9Vに落としても良いでしょう。
 同調回路はどれも電子同調式になっていますので受信機のパネルレイアウトには自由度があります。 VFO部もDDS式で作ればこの部分もレイアウトは自在にできます。 AM/FMチューナ活用のプリミクスVFOもお薦めです。 単独の受信機として製作するだけでなく送信部と組み合わせてトランシーバに発展させるのも面白いでしょう。10MHz以下のHAMバンド用ならこのままのシングルスーパで大丈夫です。

 あえて追加すべきようなテーマがなければこれで「私だけの受信機設計」は完了にしたいと思います。 de JA9TTT/1

(おわり)nm

私だけの受信機設計・バックナンバー】(リンク集)

第1回:(初回)BFO/ビート発振器の回路を検討する→ここ
第2回:BFO/ビート発振器の実際と製作・評価→ここ
第3回:プロダクト検波器の最適デバイスと回路を研究する→ここ
第4回:プロダクト検波器の実際と製作・評価→ここ
第5回:I-F Amp.中間周波増幅器のデバイスと回路の検討→ここ
第6回:エミッタ負帰還型AGCで高性能I-F Amp.を作る→ここ
第7回:I-F Amp.増強とPIN-Di詳細/(含)簡易フロントエンド・I-Fフィルタ→ここ
第8回:DDS-IC・AD9833で周波数安定で便利な局発用発振器を作る→ここ
第9回:高性能フロントエンドで活きる最適デバイスとその活用の実際→ここ
第10回:フロントエンド・Bus-SWとハイレベルDiミキサを比較する→ここ
第11回:古いAM/FMチューナが高性能なプリミクスVFOに大変身→ここ
第12回:音色が良いAF-CWフィルタと低周波アンプを作る(最終回)→いまここ

2022年11月8日火曜日

Usui Pass(碓氷峠・秋)

Photo : 2022.11.07 11:28 JST : Usui Pass; Annaka-City

2022年10月30日日曜日

The Kurobe Gorge Railway(黒部峡谷鉄道)

Photo : 2022.10.30 13:34 JST : The Kurobe Gorge Railway, Unazuki-Onsen, Kurobe-City

2022年10月25日火曜日

Making a Premix-VFO

プリミクスVFOを作る

AM/FMチューナ活用のFBなVFO
 「私だけの受信機設計」の第11回です。 今回は少し趣向を変えて試作中の受信機にマッチするプリミクス形式のVFOを作ります。

 VFOについては既に第8回でDDSを使ったもの(←リンク)を作りました。 DDS-VFOはメリットもありますが電子工作だけでは済まないのが製作上のハードルでしょうか。

 もちろんマイコンとか無しでも趣味の無線機製作は楽しめます。 今回はリサイクルショップで手に入れたAM/FMチューナを活用してアナログなVFOを作ります。 まあ、これも「誰でも」とは言い難いところもありますが、AMラジオ用のエア・バリコンや局発コイルの手持ちがあればフル自作も難しいことではありません。 何事も同じだと思いますが要はやる気しだいでしょう。 写真のように見かけはちょっと大げさですが周波数安定度が良く、つまみの感触はとても滑らかでスムースに選局できますから意外にFBではないでしょうか?

 周波数が安定な局発(Local-OSC)を自作するのはなかなか難しいものです。 さらに受信しやすいダイヤル機構を実現するのも大変です。ここではそれを容易に実現するアイディアの一つとして検証してみました。

                ー・・・ー

 ちょっと前の話ですが、シャックのBGM用にAV-Amp.をメインにオーディオをセットアップしました。主要な音源はPCからオーディオ用D/Aコンバータでもらいます。今では「ラジコ」や「らじる・らじる」もありますけれどAMやFMラジオは直接受信したいものです。 古いチューナを引っ張り出しラジオの受信テストをしたら良い感じです。ダイヤルの感触もなかなかです。ダイヤル機構は糸掛式で十分減速されていますしフライホイール付きですからとても滑らかなのでしょう。 まあ、中波のラジオ放送はAM変調波だから局発(局部発振器:Local Oscillator)の周波数安定度はそこそこでも十分イケるのだろうと思いました。 しかし実際の安定度はどんなものなのかちょっと興味を覚えました。

 さっそく周波数カウンタを繋いで実測したところ安定度が良くて驚きました。測定中はシャシむき出しのオープン状態ですから不利なはずです。それでもしっかり周波数は安定していることがわかりました。
 この理由は:(1)発振周波数が低いこと、(2)エアバリコンを使っていること、(3)年代物だから十分なエージング済み・・・と言ったところでしょうか?
 このうち、(1)の周波数が低いことは何よりも有利です。中波帯のラジオでは局発の発振周波数は986〜2057kHzになります。 概ね1〜2MHzを発振していますので短波帯を発振させるよりもずいぶん有利なのです。

参考:局発の周波数はAM放送の周波数範囲を531〜1602kHz、IF = 455kHzとした場合です。実際には受信可能な周波数範囲には上下に幾らか余裕が持たせてあります。

 そこで、この局発に目を付けてそっくり頂くことで考えてみました。 ちょうど6.4MHzの水晶発振子も手持ちがありうまく製作中の通信型受信機に必要な周波数:7440〜7640kHzへと周波数変換が可能そうです。あとはこうしたプリミクス形式のVFOに付き物のスプリアスが気になりますが、それは実験的に確認することにしました。 ブレッドボードでミキサ回路を試作したところバンドパスフィルタさえきちんと作れば問題はなさそうでした。

ムービーで擬似受信体験してみる
バンドエッジの7000kHzからワッチを始めて、7100kHzあたりまで行ったら下へ戻ってくるようにダイヤルを操作しています。 受信に使ったアンテナは15mHの逆Vです。受信機のAGCはFastの状態です。 では、さっそくワッチを始めましょう。
(再生するとが出ます)

 7MHz受信の擬似体験は如何だったでしょうか? Sメータの動きも軽快さを感じさせます。 そう言えば、この連載Blogで実際に受信している様子をアップしたのは初めてになります。 DDS-VFOでも同じように受信できていましたが、ムービーのようにAM/FMチューナ活用のプリミクスVFOでもなかなかスムースに受信できています。
 実際にしばらくHAMバンドのワッチに使ってみても周波数はとても安定でした。同じCW局をダイヤルに手を触れずにずっとワッチして居られます。 あとは周波数読取りが課題かもしれませんが、まずはバンドエッジさえわかれば十分実用になります。昔なつかしいマーカーオシレータを追加すれば使いやすくなるのではないでしょうか?

                   ☆

「通信型受信機」には何はともあれ周波数が安定な局発を用意する必要があります。 ここではリサイクルショップで手に入れた既製品のAM/FMチューナをVFOに変身させる方法をレポートします。
 けして「ゲテモノ」ではなく実際になかなかFBですから「がらんどう」のチューナ内部に受信機の回路をすべて収める・・・といった発展の仕方もあるでしょう。

 これからプリミクスVFOの製作過程を見て行きます。 例によってこのBlogは「私だけの・・・」ですから興味のおもむくままに進めているだけにすぎません。無理に読んでいただく必要はありませんし、その意味もないでしょう。 もしも興味を覚えたらご覧いただければ嬉しいです。何か感じたことでもあればコメントでもどうぞ。 誰でも思い浮かぶようなアイディアかも知れませんが実際にやってみる人は案外少ないものです。hi  

プリミクスVFOのブロック図
 AM/FMチューナのAM部から局発信号(Local-OSC)を取り出し通信型受信機に必要な局発信号を作ることが目的です。

 AMチューナの発振部の周波数安定度が良いことを利用します。 電気的な機能はそれがすべてなのですが、AMチューナ部を利用することで、そっくりそのままダイヤル機構も活用できることになります。
 ここが重要なポイントです。大掛かりな板金加工などせずに扱いやすくスムースなダイヤル機構を持った自作受信機用の局発(VFO)が手に入るわけです。 何しろ私が板金工作したのはφ3.2mmのネジ穴一つとBNCコネクタの取付け穴が一つの「たった2箇所」だけなんですから。それさえも工夫で省くことができます。(笑)

 試作中の7MHz受信機に必要なVFOは周波数が7440〜7640kHzの発振器です。(受信周波数範囲は7.000〜7.200MHz) これはI-F周波数が440kHzの場合です。一般的なI-F周波数:455kHzの場合、7455〜7655kHzのVFOが必要です。このプリミクスVFOではどちらにも対応できます。

 AMチューナ部から局発信号の1040〜1240kHzを取り出します。これはAMチューナのコンバータ回路から簡単に引き出せます。 ここで使用したFM/AMチューナはYAMAHAのCT-Z1と言うモデルですが、AM付きのチューナならどれでも使える筈です。(注:AM受信部がPLLシンセサイザ形式の近代的なモデルは不向きです) AM受信部を観察すると局発の取り出しが可能な箇所が容易に見つかります。そこにバッファアンプを設けてプリミクス・ユニットへ引き込みます。

 7440〜7640kHzへ周波数変換するためにTA7310Pを使います。TA7310Pは発振回路、ダブルバランス型ミキサ回路などが集積されたICです。TA7310Pは生産中止品ですが中華通販などで入手できます。
 発振部で6400kHzを水晶発振させます。その出力とAMチューナ部から取り出した1040〜1240kHzをミキサで混合して7440〜7640kHzを得ます。(和のヘテロダイン) ただしミキサの出力には差の周波数成分:5160〜5360kHzも現れます。このうち必要な7440〜7640kHzを取出すのがバンドパスフィルタ(BPF)の役目です。

 周波数変換で得られた7440〜7640kHzの信号はそのままでは小さいためFETを使ったアンプで増幅します。FETを使った増幅器は多少高調波の発生があるのでローパスフィルタ(LPF)を通過させてからスプリアスを抑えた出力を得ます。

プリミクス・ユニット
 プリミックス・ユニットは生基板とランド形式で製作しました。 基板のサイズはチューナーへの取り付け構造で決まったものです。 回路の規模に対してやや大きすぎますがゆったり組み立てることができました。

 このユニットの電源は+12Vです。 これはチューナ回路から貰います。 後ほど説明しますが、チューナの電源部はあまり余裕がありません。そのためこのユニットに+12V/50mAを貰うために強化改造しています。

 基板に貼ってある茶色のフィルムは絶縁用です。コイル類が基板にショートしないよう貼ったものです。コイル類を浮かせてハンダ付けするなど注意を払えば必要ないでしょう。

 このプリミクス・ユニット(基板)はチューナ背面のパネルにL金具でねじ止めされます。 他端は強力な両面テープでシャシの桟に接着したあと、ねじ止めした卵ラグにアース強化を兼ねてハンダ付され固定されます。(後ほど写真を参照)

プリミクス・ユニット回路図
 プリミクス・VFOの回路図です。 可変周波数の発振部はAMチューナ部ですのでこの図には含まれていません。 また、発振を取り出だすためのバッファ・アンプは別の図面にあります。

 回路と使用部品の説明です。 TA7310Pは東芝のICです。すでにディスコン(生産終了品)ですが、中華通販や国内の通販ショップなどで購入可能です。手に入らない場合は、SA612Aなども使えますが回路の見直しが必要です。 バランス型ミキサですから6.4MHzの漏れは少ないのですがバランス調整を設けています。

 TA7310Pのミキサ出力は1Vpp近くあって割合大きいのですがバンドパス・フィルタのロスがあります。製作中の受信機のVFOとして必要な+7dBmを得るためにFETで増幅します。FETには2SK544F(ONセミ)を使いました。2SK241GR(東芝)、2SK439F(日立)でも良いです。2SK439Fは足の並びが逆なので注意します。 50Ωの負荷に大きめの出力を取り出すためにFETアンプには+12Vを加えています。

 TA7310Pは電源電圧の上限が低いため+8Vの3端子レギュレータを使って電圧を下げて与えます。+8VのツェナーダイオードとNPNトランジスタで安定化電源を構成しても良いのですが手間がかかります。+8Vの3端子レギュレータがお勧めです。ごく一般的な「78L08型」で大丈夫です。大は小を兼ねるので3端子レギュレータは500mAタイプや1Aタイプでも構いません。

 RF回路ではいつも懸案になるコイル類ですがすべて自作品を使っています。バンドパス・フィルタ:BPFのT1とT2はFCZコイル:10S7で代用しても良いでしょう。自作する場合は10Kボビンに巻きます。インダクタンスは4.75μHです。アミドンのトロイダルコア:T25-#2などに巻きトリマ・コンデンサで同調させる方法もあります。 ローパス・フィルタのL1とL2はトロイダルコアに巻きました。トロイダルコア:T25-#10にφ0.32mmのポリウレタン電線を20回巻きます。インダクタンスは0.825μHが目標値ですが±10%くらいならOKです。従って同じコアと同じ太さの巻線を使えば確認は不要で巻きっ放しでOKです。

 水晶発振子はHC-49/U型(類似形状)のもので手持ちを使いました。6.4MHzの水晶発振子は市販品が容易に手に入ると思います。もし入手に困った場合は遠慮せずにご相談を。SASE対応で同じ物を差し上げます。

TA7310Pのミキサー部
 TA7310Pを使ったヘテロダイン発振とミキサ部を拡大しています。

 6.4MHz(6400kHz)の水晶発振子は頭部にリード線をハンダ付けして基板に直接アースできるようにしています。これは基板への固定も兼ねています。

 周波数調整は設けませんでしたが、回路図のC1(27pF)をmax50pF程度のトリマコンデンサに置き換えれば調整式にできます。 全般に配線は長めになっていますが周波数が低いので支障はありません。必要以上に長くする意味はありませんが基板に余裕があったのでゆったり作りました。

バンドパス・フィルタと出力アンプ部
 バンドパス・フィルタ:BPFと出力アンプの部分です。

 バンドパス・フィルタの調整方法ですが以下のようにします。 (1)出力周波数が低端である7440kHzより50kHz高い7490kHzでT1を調整して出力が最大になるようにします。 続いて、(2)出力周波数が高端である7640kHzより50kHz低い7590kHzでT2を調整し出力が最大になるようにします。

 これらの(1)と(2)を2〜3往復します。その後、7440kHz〜7640kHzで出力電圧が±15%くらいの変化に収まっていれば調整終了です。
 FETアンプの出力部分をオシロスコープあるいは高周波電圧計で観測しながら出力電圧がピークになるよう(1)と(2)の調整をしてもOKです。 ゲルマ・ダイオードで作った簡易なRFプローブも十分役立ちます。
 上記周波数範囲で出力の大きさに多少の上がり下がりがあっても支障はありませんからほどほどに調整しておけば大丈夫です。実際にこの試作品でも出力の大きさには山谷があってフラットではありません。

 出力アンプ(2SK544 x2)とローパス・フィルタの部分は無調整です。最終的に7440kHz〜7640kHzで+5〜10dBm程度の出力になっていれば完成です。

AM/FMチューナとインターフェースする
 AM/FMチューナーの回路も千差万別です。 従ってごく一例として見てください。

 アナログ式のチューナではトランジスタもしくはAMラジオ用アナログICでAMチューナ部が構成されているはずです。 スーパーヘテロダイン形式になっているのが常識でしょう。 従って、必ず局発回路があります。 455kHz付近のI-Fフィルタを使うのが普通ですから局発の発振周波数は986〜2057kHzくらいの筈です。

 オシロスコープで回路を当たって行けば確実ですが、AM受信部の部品配置をよく観察するとコンバータ回路(周波数変換回路)がすぐに見つかるでしょう。 ここで使ったような安価な機種では自励式のコンバータ回路ですが高級機の場合は局発回路は独立しているかも知れません。 いずれにしても発振振幅が100〜300mVppの部分が見つかりますのでそこにバッファンプを付加します。

参考:【局発回路の探し方】
局発コイルが目印になります。一般的に赤色のコアが使ってあるコイルが局発コイルです。 その周辺を当たれば適当な箇所が見つけられます。 AMラジオ用のICが使ってある場合はICの型番でネットからデータシートを探します。データシートから非常に有用な情報が得られるでしょう。

AM部の局発を取り出す
 局発の出力をそのまま配線で長々と引き回せば周波数安定度が悪くなります。 必ず発振回路の近くにバッファアンプを置いてから配線を引き出します。

 このチューナでは局発コイルのフィードバック端子が適当な引き出しポイントでした。 そのごく近傍に2SK544Fを使ったバッファアンプを「空中配線」で組み込みました。部品が小型で軽量ですから空中配線でも支障はありません。
 バッファアンプの電源はプリミクス・ユニット側からシールド線(細い同軸ケーブル)経由で供給されます。 シールド線はぶらぶらしないよう要所を固定しておきます。

重要:局発を引き出すにあたり極めて重要な話があります。 もともとAM受信回路になっていますがAM放送がまったく受信されないように対策します。 このチューナの場合、バーアンテナは内臓していませんので外部アンテナ端子をGNDへ短絡しておきました。 それだけでは不十分でAMチューナ回路のRFアンプ部分(コンバータ回路の直前にある)が動作しないよう対策しました。 その上でコンバータ回路が「発振回路」として完全に機能することを確認しておきます。 バーアンテナが付いたチューナもあるので、その場合はバーアンテナからの配線を切断(もしくは短絡)など確実な対策をします。言葉で書くと厄介そうですが難しくはありません。

 もしもAM放送が少しでも受信される状態が残るとVFOとして使ったときAMラジオ放送の混入が感じられてしまいます。対策していればBGMでラジオ番組が流れてくるようなことは無いとは思いますが、わずかでも混入は困ります。w

チューナの電源を強化する
 チューナの機種によりますが+12V程度の電源を持っているものが多いようです。

 基本的にチューナ自身の回路以外に電源を供給するだけの余裕はないでしょう。大丈夫かも知れませんが無理をせず電源を強化しておくと安心です。

 プリミクス・ユニットは+12Vで50mA弱を消費します。もともと+12Vの簡易な安定化電源になっていましたが、3端子レギュレータに交換して電源を強化しておきました。3端子レギュレータは配線を伸ばしてシャシの桟(さん)にねじ止めして放熱します。ねじ穴は元々開いていた物を使いました。

 電源トランス(低圧のもの)には50mA程度の余裕は十分あるのが普通ですから少々負荷が増えても心配ないでしょう。 発熱など確認しておけば完璧ですがその必要もない筈です。 もちろん製作中の通信型受信機の回路全部を組み込むといった発展には容量不足も考えられます。その場合は15V/1A程度の電源トランスに交換する必要がありそうですね。 整流回路もブリッジ式にするなどグレードアップします。 事情は個々のAM/FMチューナによって異なりますので現物を確認して対応方法を考えておきます。

プリミクス・ユニットを装着
 プリミックス・ユニットの実装状態です。

 もともとのチューナ回路の基板と電源トランスの間に空間があったのでプリミックス・ユニットはそこに収納しました。取り付けを考えてぴったりのサイズにカットした生基板を用意し、そこに組み付けたわけです。

 基板を固定してチューナ基板から+12Vの電源を給電します。 局発バッファ・アンプからの同軸ケーブルを配線します。 なお、出力端子はチューナに元々付いているオーディオ出力用のRCA端子を流用しても良いです。 ここではシャックにある機器のコネクタ統一を目的にBNCコネクタを新設しておきました。これはお好みですのでM型でもSMA型でも何でも良いでしょう。 このコネクタの穴あけとプリミクス基板を固定するために裏面パネルに開けたφ3.2mmの穴一つがチューナ改造に要した板金工作でした。 さしたる板金工作もなしにFBな減速ダイヤルが付いている周波数安定なVFOができました。

改造後のチューナ内部
 別の角度から改造済みのAM/FMチューナの内部を見ています。

 右のほうにAM2連・FM3連のエア・バリコンが実装されています。 バリコンには簡易な減速ギアがついており、さらに糸掛式のダイヤルで減速されています。 写真では見えませんがダイヤルつまみにはφ50mmくらいのフライホイールが付いていてダイヤル操作が滑らかにできるようになっています。

 機内の発熱も少ないので、完成後に周波数安定度を見ていますがHAMの無線機に内臓のアナログVFOにも劣らない・・・むしろ良いくらいの安定度がありました。 CWはもちろんですが、SSBの復調でも周波数安定度が問題になることはなさそうです。 もちろんSSBをメインにするならI-FフィルタはSSBに向いた帯域幅に交換した方が良いですね。最初のムービーのように、今のままのCW用I-FフィルタではSSB受信にはいささか狭く感じます。

 あとはもう少しダイヤルの減速が大きければSSBの同調もずっと楽になります。AMチューナ部の発振周波数範囲を加工するといった方法もあるので将来「チューナとして復活させる」つもりがなければ改造すると面白くなります。 ダイヤル面いっぱいで200kHz+αをカバーするようにするとVY-FBです。 そのようにすればチューニングし易さがアップするだけでなく、ダイヤル面が全部活かせるので周波数の読み取り精度もグンとアップします。現状ではAMラジオのままなのでダイヤル面の1/5くらいしか使っていません。

受信機を構成してみる
 製作してきた「私だけの通信型受信機」を上に乗せてテスト受信しています。

 ちょっとVFO部が巨大すぎますが受信機として何となく纏まってしまいました。 ブレッド・ボードを脱却し、コンパクトに基板を製作すれば容易に筐体内に収容可能でしょう。 あるいは同じサイズ(底面積)の薄型ボックスでも用意してAM/FMチューナの上に載せて使うといった方法もありそうです。

 受信して感じたのですがやはりアナログなVFOは操作フィーリング優良だと言うことです。けしてDDS-VFOも悪くはないのですが、10Hz/Stepのデジタルよりもアナログの連続周波数可変の方が滑らかに感じます。 DDSの方をもっと細かいステップにでもすれば近付きますが今度はダイヤル機構(ロータリ・エンコーダ)が厄介でしょうね。 周波数安定度や読み取りといったメリットを取るのか、受信操作のスムースさを重視するのかこれまた悩ましいテーマです。(笑)

                   ☆

 エア・バリコンと糸掛けのメカが欲しくてリサイクルショップで古いAM/FMチューナを手に入れたのはずいぶん前でした。 何となく突然に(笑)BGMを楽しむ環境を作りたくなり、ジャンク置き場の奥の方に眠っていたそれらを探し出して再整備したのはまだ最近のことです。 AM/FMチューナは何台かあって良さそうな1台は再調整してさっそく本来の役目に復帰させました。ローカルのFM局が良い音で鳴っています。S/Nはやや落ちますが「らじる・らじる」と言ったネット・ラジオよりいい音ですね。 そして余ったチューナでFMの受信成績があまり良くなかった1台を今回の実験に回してみました。捨ててしまってはもったいないですからね。分解して価値のある部品もロクに見あたりません。なるべくそのまま活かせたらFBでしょう。

 「私だけの受信機設計」第11回はいかがだったでしょうか。少し傍道に逸れて遊んでみました。 余興のつもりだったのですが、意外に悪くない・・否、良好な結果に満足しています。この実験が「私だけの受信機設計」にうまく活かせたらFBだと思っています。
 次回は残っているAFアンプ部を検討したいと思っています。 やり残しはそれだけだと思いますが「アレ忘れてるヨ!」と言うリクエストでもあればできるだけ努力したいと思います。w ではまた。 de JA9TTT/1

つづく)←リンクnm

私だけの受信機設計・バックナンバー】(リンク集)

第1回:(初回)BFO/ビート発振器の回路を検討する→ここ
第2回:BFO/ビート発振器の実際と製作・評価→ここ
第3回:プロダクト検波器の最適デバイスと回路を研究する→ここ
第4回:プロダクト検波器の実際と製作・評価→ここ
第5回:I-F Amp.中間周波増幅器のデバイスと回路の検討→ここ
第6回:エミッタ負帰還型AGCで高性能I-F Amp.を作る→ここ
第7回:I-F Amp.増強とPIN-Di詳細/(含)簡易フロントエンド・IF-フィルタ→ここ
第8回:DDS-IC・AD9833で周波数安定で便利な局発用発振器を作る→ここ
第9回:高性能フロントエンドで活きる最適デバイスとその活用の実際→ここ
第10回:フロントエンド・Bus-SWとハイレベルDiミキサを比較する→ここ
第11回:古いAM/FMチューナが高性能なプリミクスVFOに大変身→いまここ
第12回:音色が良いAF-CWフィルタと低周波アンプを作る(最終回)→ここ

2022年10月10日月曜日

Cosmos(コスモス)

Photo : 2022.10.08 13:13 JST at Cosmos Road Fukaya-City

2022年9月26日月曜日

Reciever Frontend Design (2)

受信機のフロント・エンド設計(2):ミキサ編

作ってフロントエンドを探る
 前回のフロントエンド:その1(←リンク)では雑誌・書籍の記事を参照しながら受信機のフロントエンド部分を探ってみました。 今回はフロントエンドでは重要な役割を担うミキサ回路を実際に製作して評価したいと思います。

 受信機に使われるミキサ回路と言っても様々なものがあります。 ここでは通信型受信機が目的ですから「高性能なミキサ」を試すことにします。

 現代における高性能ミキサと言えば「大信号における低ひずみ」が最も重視されています。 いにしえの真空管時代はミキサノイズが課題とされていました。ですから7360のような原理的にローノイズなビーム偏向管が重用されたのです。 しかし現在ではデバイスの進歩からミキサのノイズ特性はあまり問題にならなくなっています。 ローノイズなミキサが作れるようになったのはもちろんですが優秀なローノイズ・トランジスタやFETと言った高周波デバイスの発展でミキサのノイズ特性は最重要ではなくなっています。 その代わり大きな入力信号でもひずみが少なくIMDによるスプリアス(不要な信号)発生のない「直線性に優れるミキサ」が第1に望まれています。(写真はフロントエンド・フィルタのテスト風景)

                   ☆

 「私だけの受信機設計」(第10回)では高性能受信機のキーポイント:フロントエンドのミキサ部を扱います。 前回のフロントエンド考察でも幾つかのミキサ回路が登場しました。 しかし半導体式では既製品の「ダイオードDBM」に殆どすべて任せてしまいました。 もちろんそれで実用的な性能は十分に得られるのですが、より高性能と言われるミキサーに触れないのではどうも物足りません。ごく限られた試作に過ぎませんが実力を探ってみました。

 動作説明の他に実験結果なども交えているため今回も長大な(冗長な?)Blogになっています。 やたらと暇を持て余しているなら別ですが、お忙しいお方はココでやめていただくのが宜いでしょう。あまり大したことは書いてありませんし、公開した資料もかなり限られたものです。 いつか余暇ができた折にでもじっくりご覧いただきたいと思います。 ご覧になったらコメントなどお書き下さい。

高性能受信機のミキサ素子とは
 これからテストするミキサ回路に使用する半導体デバイスを集めてみました。

 左上のダイオード4本は1SS97(2)と言うショットキ・バリア・ダイオード(SBD)です。既にSBDはミキサでは定番ですね。型番の末尾に(2)がついているのは逆耐電圧選別品です。一般品よりも耐圧が高いものです。但し今回の実験では一般品でまったく支障ないはずです。

 変換基板に搭載されているのは「高速バス・スイッチ」と呼ばれるもので、FETを使ったアナログ・スイッチの一種です。 ダイオードで構成されたDBM回路と同じ機能をFETを使ったスイッチで実現するために使います。高速バス・スイッチは各社から同等品が出ていますが、ここでは「3126タイプ」のQS3126S1を使いました。制御端子が逆論理の「3125タイプ」も同じように使えます。

 14PinのICは初めからハイレベル・ミキサとして登場した英プレッシー社製のIC-DBMである、SL6440Cです。MC1496やSA612Nとは比較にならない高性能ですが、残念なことに生産は終わっています。今回は時間不足でテストできなかったのでQST誌のテスト結果を転載しておきました。いずれ機会をみて自身でテストしたいと思っています。

 小さな面実装型のICはNJM2288F1です。これはローレベル用IC-DBMです。今回の高性能ミキサ特集とは場違いなのですが買ったのを忘れていたので写真に収めました。VUHF帯に向いています。こうして忘れないようにしていつか試してみましょう。

RFトランスも等しく重要部品
 高性能なミキサと言えばICやFETと言った電子デバイスばかり注目されますが、実はある程度以上の性能に達するとこうした高周波用トランス(RFトランス)の性能が効いてくるのです。

 以下のテストではすべて既製品のRFトランスを使いました。これは手間を省くと言う意味もありますが、市販品を使うことで回路の再現性が向上することも狙っているわけです。トランスの作り方で性能が変わってしまい結果に差が出ることを防ぎたかったのです。

 MCL社のRFトランスはたいへん小型なのでブレッドボードに搭載するのには便利なのですが、いずれも米粒のようなサイズのフェライト・コアに細い線材が巻かれているはずです。したがって扱えるパワーにはゆとりがありません。ですからより高性能を目指すなら最適なコア材に巻いて自作する必要がありそうです。

 特にこうしたRFトランスではコア材のフェライトの種類が重要です。 コアの材質によってはトランスにツートーン信号を通すだけでIMD(相互変調ひずみ)が発生します。初透磁率:μiが大きなコア材は少ない巻き数で巻線間の結合が密にできることから広帯域トランスとして望ましいのですがひずみ特性は芳しくないものがあります。高性能なDBMに使う以前にトランス単独でテストする必要がありそうです。

 すべてのコア材を試したわけではありませんが、アミドン社のものでは#43材がまずまず良好なことが確認されています。

バス・スイッチを素直に使う例
 バランスド・モジュレータ(以下バラモジ)に高速バス・スイッチを活用する方法はいくつかあります。

 図の回路はダイオードを4本使ったバラモジを高速バス・スイッチでそのまま置き換える方法です。バス・スイッチの動作はダイオードを使うバラモジとまったく同じです。 ダイオードの場合は強力な局発信号をダイオードに流すことでON/OFFしていました。

 それに対して、バス・スイッチではスイッチの開閉信号に矩形波(くけいは)変換した局発信号を使います。 矩形波でON/OFFするスイッチですから、徐々にONして行く、徐々にOFFに戻って来る・・・と言った非直線性を伴うような「曖昧な状態」は殆どないためIMDの発生が抑えられるのです。(これはある意味「理想論」です。矩形波の立ち上がりスピードは有限ですから・・)

 ダイオードを正弦波の局発でON/OFFするとおのずと「曖昧な状態」は発生するわけです。 だから矩形波の局発でダイオードを・・・と言った話はまた後ほど。(笑)

 この回路形式も有望なのですが今回はテストしませんでした。 SSB発生用のバラモジに類似回路を使ったところ非常に優秀だったと言う実績があります。但し、アナログ・スイッチのON抵抗変化が逃れられるようインピーダンスを考えた回路で使いました。 この回路例のようにインピーダンスが低い・・・50Ωの回路で使うとON抵抗の影響から逃れられないでしょう。しかし、いずれテストしてみたいと思っています。

 ここでは高速バス・スイッチを次に説明するようなH-Modeと称する回路形式で使ってみました。

バス・スイッチでH-Modeミキサを作る
 H-Mode DBMと言うのは英国のHAMである、G3SBI:Colin Horrabin氏(2020 Silent Key)によって考案されたものです。

 左図は動作原理図です。バイアスを掛けていないのでこのままではアナログな信号・・例えば受信機のRF信号は扱えませんが原理を理解するにはわかりやすいでしょう。 4つのFETは矩形波のゲート信号により交互にON/OFFしてバラモジの機能を実現しています。

 FETによるスイッチが理想的であればこの回路も歪みの原因になるものはありません。実際にはFETがONの状態でも数オームの「ON抵抗」が残ります。そのON抵抗に電圧依存性・・・抵抗の両端に掛かる電圧により抵抗値が変化する現象・・・がなければ単なる「抵抗器」と同じですから歪みの原因にはなりません。 しかし現実にはFETのON抵抗には電圧依存性があって、それゆえIMDが発生するのでしょう。

 ただ、ダイオードを使ったスイッチよりも非直線性は少ない筈です。従って優れたIMD特性が期待できるわけです。

 原理図ではなく具体的にミキサ回路を構成した例は後ほど登場するフロントエンドの回路図のところにあります。実用回路の詳しい話はそのとき改めて。

H-Modeミキサ:テストボード
 写真は高速バス・スイッチ:QS3126S1を使ったH-Modeミキサをブレッドボード上に試作した例です。

 扱う周波数は7MHzですからブレッドボードでも支障ありません。 バス・スイッチも変換基板に載せています。 RFトランスは3つ必要で、いずれもMCL:Mini Circuits Lab.社の小型RFトランスを使いました。 周波数帯の関係からRF入力部には高周波特性の良いADT4-1WTを、I-F信号が出力される部分にはI-F周波数が440kHzですから周波数特性が低い方まで伸びているTT1-6を使いました。 高速バス・スイッチはQuality Semiconductor社のQS3126S1を使っています。

 周波数変換のための局発信号はDDS発振器(←リンク)で得ています。なお、局発信号は一般的なLC発振器を使ったVFOでもまったく支障ありません。 その局発信号をブレッドボード上のハイスピードC-MOS IC:74AC86で矩形波変換します。矩形波に変換したあと位相が非反転と反転した波形を作って高速バス・スイッチをドライブします。 ボード上の可変抵抗器は矩形波のDuty比が50%に・・・HighとLowが半々に・・・なるよう調整するためのものです。Duty=50%の矩形波でバス・スイッチの2組のFETが等しく交互にON/OFFを繰り返すようにします。

2トーン信号源の性能確認
 はじめにミキサの評価・測定に使用した2トーン・ジェネレータのスペクトラムを確認しておきます。

 写真のように各信号の大きさが0dBmの2周波が発生できるものです。 2つの周波数は7430kHzと7440kHzです。10kHz離れた2トーンです。大元が水晶発振器なので周波数は可変できません。 出力インピーダンスは50Ωです。 信号を絞る場合は外付けのアッテネータを使用します。

 しばらく前に製作した自作品ですが、このテストに先立って確認と再整備を行ないました。 各信号のレベルは良く揃えてあります。レベルの絶対値はレベルジェネレータとスペアナを使って合わせました。 ご覧のように-85dBmあたりにノイズフロアがありますが、これは観測に使ったスペアナの性能限界によるものです。その範囲においてIMDはまったく観測されません。 より広いダイナミックレンジを持ったスペアナで評価したことがありますが、-100dBm近くまで歪み成分は確認できませんでした。 従って今回のような高性能ミキサの評価用として十分使えるテスト信号源です。
 「ああそうなのか」と何気なくご覧かと思います。こうした信号源を用意することや写真のように綺麗に測定するのはそれほど容易でないのはやってみた人だけがわかります。

                   ☆

H-Modeミキサの3次IMD:下側
 写真は高速バス・スイッチ:QS3126S1を使ったH-Modeミキサに各信号が0dBmの2トーン信号を与えて得られた出力信号を示します。下側の周波数に変換された信号を観測しています。
 製作中の通信型受信機での使用を考えていますので、観測の中心周波数は440kHzです。

 局発信号は7875kHzで+6dBmを与えています。ただし矩形波変換回路があるので局発信号のレベルは原理的に影響しません。矩形波変換回路が正常に働く範囲において一定になります。

 3次のIMDは主信号に対して-65.1dBとなりました。 入力信号は0dBm/Toneです。 周波数変換ロスは約8dBです。 これらの値から計算した第3次の入力インターセプトポイント:IIP3は約+32.5dBmとなります。 同じく出力側の3次のインターセプトポイント:OIP3は+24.5dBmとなりました。

評価
 まったく同じ条件と言う訳ではないのですが、同じバス・スイッチ:QS3126S1を使ったH-Modeミキサを試作したことがあります。 その結果を振り返るともう少し良い性能だったようです。 原因は追求していませんが、主にRFトランスの差ではないかと考えています。(そこだけしか違いはないからです。I-Fが17MHzでのBest DataではIIP3=+47dBmでした)
 しかし、IIP3≒+32dBmならかなり優秀なDBMと思って良いでしょう。 ごく一般的なダイオードDBMではIIP3=+15dBmくらいだからです。もちろんIIP3=+15dBmだってけして悪い数字ではありません。何しろIC-DBMのSA612AなどIIP3=-12dBmに過ぎないのですから・・・。
(参考:20dBの違いは電圧で10倍、パワーで言えば100倍の違い。同40dBは電圧で100倍、パワーで1万倍ですからねえ・・・)

H-Modeミキサの3次IMD:上側
 上と同じような写真ですが、こちらは上側に周波数変換された信号を観測したものです。 7430kHz+7440kHzが周波数変換されて約15.310MHzに周波数アップされました。

 3rd-IMDは主信号の-71.28dBでした。これから計算されるIIP3は約+35.5dBmとなります。 OIP3は約+27.5dBmです。 このように高い周波数へ変換する方が幾分良好なIMD特性を示すのは小さなRFトランスにとって楽になるからでしょう。 低い周波数ではインダクタンスの関係で磁束密度が大きくなりコア材の非直線性の影響が現れやすくなるものと思います。

 従って、少しでも良い性能を得たいと考えるならアップコンバージョン形式を考えた方が有利です。 あるいは455kHz帯へ周波数変換を考えるなら、余裕を持ったサイズのコア材に・・もちろんひずみ特性の良いものに・・十分な大きさのインダクタンスが得られるように巻いたRFトランスを作る必要がありそうです。

H-Modeミキサのローカル漏れ
 写真はローカル・オシレータのI-Fポートへの漏れを示しています。

 -48dBmですからまずまず良好なアイソレーションが得られていると思います。 ブレッドボード構造ですからそもそも不利です。 広いグランドプレーンの両面基板に最適化して製作すれば改善も可能でしょう。

 なお、RFポートにも同じ程度漏れますのでなるべくRFアンプを設けた方が良いでしょう。 そのアンプのゲイン分だけIIP3は縮小しますが、局発の漏れはできるだけ防ぎたいものです。 入力フィルタのロスが補える程度のローゲインなRFアンプが正しい選択でしょうね。

参考:ローカル信号(管面中央)の左右に2トーン信号の影響で現れるスプリアスが見えます。2トーンをオフすると消えるものです。こうしたスイッチング形式のミキサ回路では出力に様々なスプリアス信号が現れることに注意が必要です。50Ωのレジスティブな負荷(抵抗性の負荷)で終端してしまえば特に支障はありません。

H-Modeミキサに現れるスプリアス:150MHzまで
 写真はH-ModeミキサのI-F出力端子に現れるスプリアス信号を示します。 150MHzまでの範囲で観測していますがこの先の高い周波数までずっとスプリアスが並びます。

 アナログ・スイッチ(高速バス・スイッチ)の開閉に高速C-MOS ICで作ったエッジの立った矩形波を使っているので、非常に広い周波数範囲のスプリアスが生成されるのです。

 H-Modeミキサの使用に当たっては、I-F出力にディプレクサを置いてさらに高IPなポストミキサアンプも設けます。そのようにすればスプリアスは終端されてしまい実用上支障がない状態で使えます。 しかしこれだけ大量に発生するスプリアスが漏れたら影響が出ますから、ミキサのI-F出力はなるべく引き回さないようにした方が良さそうです。

H-Modeミキサを採用のフロント・エンド
 写真はH-ModeミキサにRFアンプやポストミキサ・アンプなど付加して7MHz受信機のフロントエンドとしてテストしている様子です。

 入力回路はバリキャップを使った同調周波数可変型のバンドパス・フィルタになっています。 写真にはテストの途中で試用した暫定版のRFアンプが写っています。実働テストでは次の回路図の回路を使っています。

 実際に受信してみて中々良好な性能が得られています。ただし以前紹介した簡易版のフロントエンドと比較して格段の違いは感じられませんでした。 もちろん測定的には少なくとも20dB以上、大入力信号特性は向上しています。しかし実際にアンテナを繋ぎ受信していてそれが発揮できるような状況はほとんど発生しないのです。 従って、簡易版とさして違わぬ感触というのは当たり前なのです。
 それでもきちんとしたフロントエンドを指向するなら、こうした設計をしたものが良いはずです。様々な配慮を行なって製作しただけの効果は実際にあるわけですから。

H-Modeミキサ採用の回路図
 H-Modeミキサをメインにしたフロントエンド部の回路例です。推奨する意図はありませんので参考程度にどうぞ。回路は現在も検討を進めていて改良・改善の途上にあります。

 最高性能のRFアンプは採用しませんでしたがこれには理由があります。 I-F周波数が440kHz(455kHz)のシングルスーパ形式では、入力フィルタ部分の難しさがありました。通過損失を抑えながら十分なイメージ比が得られるようなフィルタの実現は困難だからです。

 従ってより高性能なフロントエンドを目指すならI-F周波数はもっと高くすべきです。これが実験してみての結論です。第1中間周波を数MHzに選びダブル・コンバージョン形式にすると言った回路構成が現実的でしょう。 シングル・コンバージョンで行きたいなら高い周波数のI-Fフィルタを使うのも良い方法です。何かと問題が多いミキサは増やしたくないですからね。
 あるいはI-F周波数を455kHz(440kHz)のままで行くなら受信周波数帯を変更して、例えば80mや160mバンドの受信機として製作する考え方もあるでしょう。ハイバンドはクリスタル・コンバータで対応するわけです。 その上で高性能なRFアンプを採用したいと思います。

 H-Modeミキサの出力スペクトラムを見てしまうと、いい加減なポストミキサ処理では済まないことがわかります。この回路では440kHzのバンドパス型ディプレクサを作っています。コイルは既製品がないので7PLA型というコアに巻いて自作しました。通過ロスを最小にするためには同調調整が必要ですからインダクタンスが可変できるように作ります。

 またポストミキサアンプにも2SC2407を使った強力なものを使いました。(まだ強度不足を感じます・笑)トータルのフロントエンド・ゲインはやや多めになりましたが受信してみてちょうど良いくらいに感じます。
 しかしシンプルな路線で行くなら簡易版のフロントエンドで十分でしょう。7MHzモノバンドのCWトランシーバくらいなら簡易版のフロントエンドであまり不満は感じないだろうと思っています。

                 ☆ ☆


ハイレベル・ダイオードミキサ:PRC-74Bの回路
 以前のBlog(←リンク)でハイレベルなダイオードDBMについて検討したことがありました。 そのときは一旦ペンディングにした案件ですが、今回あらためて仕切り直してテストすることができました。

 そのとき検討したのは軍用トランシーバのミキサ回路でした。PRC-74Bというフィールド用のSSB/CWトランシーバのミキサ回路で、受信時は1stミキサとして動作します。 送信時にはヘテロダイン・ミキサとしても使います。 図のような回路になっていて双方向性のあるミキサ回路です。

 この部分はモジュール化されているため参照したインストラクション・マニュアルに詳細は何も書かれていません。 今回の調査で入力部のトランスは図に示したような位相になっていなくてはならないようです。 この巻線の位相を示す黒丸●は私が書き加えたものです。これは実験的にも確認しています。この絵のように素直に巻線を並べて作ったのでは正常に動作しません。hi

ハイレベル・ダイオードミキサのテスト回路
 具体的なテスト回路を示します。 このテストでも局発信号(Lo-OSC)は矩形波に変換してダイオードに与えています。 これがこのミキサで高性能を得るための秘訣の一つです。

  ただしPRC-74Bではそのようなこと(=矩形波変換)はしておらず、正弦波のまま局発を与えています。正確な局発レベルまではわかりませんが、回路構成を見ると十分な大きさの局発を与えているのは間違いないでしょう。50mWくらいではないでしょうか?
 それでもなお図のテスト回路の方が優れるはずです。局発を矩形波で与えることはIMDの発生に対して明らかに有利なのです。(その代わり出力には高調波によるスプリアスが多量に生じるのですが・・・)

 ここでは高速C-MOS ICを使った矩形変換回路を構成したあと、余ったゲートをパラレルに配線し電流容量を増やしてダイオードを強力にドライブするようにしています。 そのため消費電流はかなり増えましたが、高性能を得るためにはやむを得ない感じです。(笑)

 入力部分のトランスはPRC-74Bのような5巻線型はやめました。 トランスを2つに分けて等価な回路を構成しています。トランスの数は増えますがこうすれば既製品のRFトランスが活用できるようになります。 さらにトランスが2つになることでパワーが分割されるのでRF信号のハンドリングも幾分楽になるでしょう。 なお、低い周波数まで使えるRFトランスを3つ使いました。タップの関係で2種類使っていますが、T1-6TとTT1-6は概ね同等のトランスです。部品を統一する意味では3つともTT1-6でも良いでしょう。

テスト回路外観
 ハイレベル・ダイオード・ミキサとして単独にテストする目的で小型のブレッドボードに組み立てました。

 フロントエンドとして完成させるにはRFアンプやディプレクサなど補う必要があります。このサイズのボードには載せきれません。 しかしミキサ単体でのテストには十分なサイズです。 基本波型の正弦波-矩形波変換回路も支障なく搭載できました。 トランスの数は同じですがH-Modeミキサよりもコンパクトに組めます。

ハイレベル・Diミキサの核心部
 RFトランスが3つとショットキ・バリア・ダイオード(SBD)が4つのシンプルな回路です。

 部品数は少ないですが、トランスの巻線の位相関係を間違えないように十分注意が必要でした。 間違えると正常な動作は期待できません。まあ、これは当たり前ですね。

 プリント基板化するときはトランスの配置を再考すべきです。入力RF信号とI-F信号出力の取り回しも最適化した方が望ましいです。 このミキサもH-Modeミキサと同じCommutating Mixer(スイッチング・タイプのミキサ)ですから出力にはたくさんのスプリアス信号が現れます。 RFポートに逆流しないよう部品のレイアウトや配線は重要です。その上でリバース・アイソレーション特性に優れたRFアンプを設けるべきでしょう。

基本波型・正弦波-矩形波変換部
 基本波型の正弦波-矩形波変換器です。

 DDS-VFOを使う前提であれば。2倍周波数の局発信号を発生させてフリップ・フロップ回路で分周しデューティ比が50%一定な矩形波を発生させる方法もあります。
 そのようにすれば無調整化できますが、ここでは汎用性を考えて基本波型の正弦波-矩形波変換器を作りました。DDS-VFOだけでなくLC発振のVFOも使えます。 その代わり調整の手間があります。さらにアナログな方法なのでDuty=50%を安定的に得るには幾らか課題もありそうです。

 使用したICは高速C-MOSの74AC86です。ACタイプの高速C-MOSは「じゃじゃ馬」なところがあって、入力信号が適切でないとH/Lの過渡状態に発振を伴うことがあります。 7MHz程度の周波数ならやや遅いHC-MOSの74HC86でも十分なので、もしあやしいと思ったら変更した方が間違いないです。

ハイレベル・Diミキサの3次IMD:下側
 写真はショットキ・バリア・ダイオード(SBD)を使ったハイレベル・ミキサに各信号が0dBmの2トーン信号を与えて得られた出力信号を示します。下側の周波数に変換されたI-F信号出力を観測しています。
 このテストでも製作中の通信型受信機での使用を考えて観測の中心周波数は440kHzです。

 局発信号は7875kHzで+6dBmを与えています。正弦波-矩形波変換回路が正常に働く範囲において局発信号のレベルによる影響はありません。

 3次のIMDは主信号に対して-69.35dBとなりました。 入力信号は0dBm/Toneです。 周波数変換ロスはこのDi-DBMでも約8dBです。 これらの値から計算した3次IMDによる入力インターセプトポイント:IIP3は約+34.7dBmとなります。 また出力側のインターセプトポイント:OIP3は+26.7dBmとなりました。

評価
 この測定結果:IIP3≒+34.7dBmから見て、かなり優秀なDBMと言って良いでしょう。440kHzと言った低い周波数のI-F(中間周波)へ変換する場合はH-Modeミキサより低ひずみでした。 テストしてみた甲斐があります。

 スペクトラムを詳しく評価すると、この観測の方がH-Modeミキサの場合よりノイズサイドバンドが少なくだいぶスッキリしています。調べたところ、この原因は測定系にあることがわかりました。 H-Modeミキサの評価時にはこんな物かと思ったのですが測定系のGNDを見直したら改善されました。
 なぜノイズサイドバンドが大きいのかいささか気になっていたのですが解消できた訳です。矩形波変換に使った74AC86のジッタなども疑ったのですが・・それはありませんでした。この観測結果が実力のようです。 従ってH-Modeミキサでも改めてきちんと対策の上で測定すればこれと同じようにスッキリするはずです。

ハイレベル・Diミキサの3次IMD:上側
 上と同じような写真ですが、こちらは上側に周波数変換された信号を観測したものです。 7430kHz+7440kHzが周波数変換されて約15.310MHzに周波数アップされました。

 3rd-IMDは主信号の-67.55dBでした。これから計算されるIIP3は約+33.8dBmとなります。 OIP3は約+25.8dBmです。 高い周波数へ変換すると幾分IMD特性は悪くなりました。 小さなRFトランスを考えると高い周波数への変換が有利なはずでしょう。 しかし下へ変換した方が良くなったのは入力トランスを2つに分けた効果なのかもしれません。面白い結果です。

 幾らか性能が悪くなるとは言えアップコンバージョン形式でも十分良好です。ハイフレなI-Fアンプを採用した受信機にも適性はあるでしょう。

ハイレベル・Diミキサのローカル漏れ
 写真はローカル・オシレータのI-Fポートへの漏れを示しています。

 -34.6dBmですからまずまず良好なアイソレーションが得られていると思います。 ブレッドボードを脱却しプリント基板化すれば改善方向でしょう。

 RFポートにも同じ程度漏れますのやはりRFアンプを設けるべきでしょう。 そのアンプのゲイン分だけIIP3は縮小しますが、局発の漏れは低減できます。 入力フィルタのロスが補える程度のローゲインなRFアンプで足りるでしょうね。

出力に現れるスプリアス:100MHzまで
 写真はハイレベル・ダイオード・ミキサの出力に現れるスプリアス信号を示します。 100MHzまでの範囲で観測していますがこの先の周波数までずっとスプリアスが並びます。

 ダイオード・スイッチの開閉に高速C-MOS ICで作ったエッジの立った矩形波を使っている訳ですから非常に広い範囲のスプリアスが生成されるのです。しかもRF信号と一緒にダイオードに流しています。

 こうした形式のミキサの使用に当たってはディプレクサを置いてさらに高IPなポストミキサアンプは必須でしょう。そのようにすれば実用上問題ない状態で使うことができます。 しかしこれだけ大量に発生するスプリアスが漏れたら影響がありますので、ミキサの出力はなるべく引き回さないようにした方が良さそうです。これはH-Modeミキサの場合と同じですね。

 ハイレベル・ダイオード・ミキサの性能はなかなか優秀です。 部品数や配線など様々考慮するとあえてH-Modeミキサを使うまでもなく、こちらを使っても十分なようです。性能的にも同等以上が期待できます。フロントエンドを作り直して試そうと思います。 但し、こうした結論もI-F=455kHz(440kHz)へ周波数変換する場合であってハイフレのI-Fへの変換では答えも違ってくるかも知れません。

                 ☆  ☆

追記:ハイレベルIC-DBM:SL6440Cについて
 ハイレベルIC-DBMのSL6440Cですが、最初の写真に登場させておきながらテストが間に合いませんでした。QST誌から評価結果を転載しておきます。

 テストは局発のレベルを変える方法と、SL6440Cに流すバイアス電流を変える方法で行なっています。 このうち、局発のレベルの方はある程度以上の大きさを与えてやれば変化は少ないようです。

 それに対して、バイアス電流による違いはずっと大きいのです。少ないバイアス電流でもMC1496とかSA612Aなどの従来型IC-DBMよりもずっと高性能ですが、たくさん流してやればさらに高性能になります。 ただし、あまり流すと発熱が大きくなって許容損失を超えてしまうため、放熱器を付加する必要が出てきます。 そのようにして使えばOIP3≒+30dBmも可能ですが、ちょっと使いにくくなってしまいますね。

 またSL6440Cは「変換ゲイン」があるため入力側で見たIP3はゲインの分だけ小さくなることに注意が必要です。 従ってIIP3で見ると+20dBm台になるでしょう。もちろん+20dBm台のIIP3はなかなか優秀だと言えます。 ゲインがあることはメリットにもなるので要は使い方次第といったところでしょうか。 お手持ちのSL6440の採用をお考えなら、あとはご自身で確かめていただくのがベストでしょう。

 SL6440Cは優れたIC-DBMです。安定した供給があるなら有望なDBMですが、すでにディスコン(生産終了品)ですから高性能な受信機には他のDBMを考えた方が良いと思います。それに無理に探して使うほどのDBMとも言えないでしょう。他にも優れたミキサはありますので。 もし手持ちがあるなら温存などせず積極活用がベストです。プロダクト検波回路にも向いています。

                    ☆

 「私だけの受信機設計・第10回:ミキサ編」は如何だったでしょうか? 高速バス・スイッチを使ったミキサが絶対有利と思っていましたが、ハイレベル・ダイオード・ミキサもなかなかの性能であることがわかりました。 世界的な通販が発達したおかげで高速バス・スイッチも特殊なパーツではなくなっていますが、ごく一般的な部品だけで構成できるハイレベル・ダイオード・ミキサもかなり有望な選択肢でしょう。

 配線がすっきりしていて扱いやすそうなハイレベル・ダイオード・ミキサで纏めてみるのも良さそうです。まあ、そこまで高性能なミキサは必要もないように感じているのですが折角の実験が活かせれば有益でしょうね。 次回のテーマはまだ考えていませんが残った部分は低周波アンプになりました。 ではまた。de JA9TTT/1

つづく)←リンクnm

私だけの受信機設計・バックナンバー】(リンク集)

第1回:(初回)BFO/ビート発振器の回路を検討する→ここ
第2回:BFO/ビート発振器の実際と製作・評価→ここ
第3回:プロダクト検波器の最適デバイスと回路を研究する→ここ
第4回:プロダクト検波器の実際と製作・評価→ここ
第5回:I-F Amp.中間周波増幅器のデバイスと回路の検討→ここ
第6回:エミッタ負帰還型AGCで高性能I-F Amp.を作る→ここ
第7回:I-F Amp.増強とPIN-Di詳細/(含)簡易フロントエンド・IF-フィルタ→ここ
第8回:DDS-IC・AD9833で周波数安定で便利な局発用発振器を作る→ここ
第9回:高性能フロントエンドで活きる最適デバイスとその活用の実際→ここ
第10回:フロントエンド・Bus-SWとハイレベルDiミキサを比較→いまここ
第11回:古いAM/FMチューナが高性能なプリミクスVFOに大変身→ここ
第12回:音色が良いAF-CWフィルタと低周波アンプを作る(最終回)→ここ