【自動車無線と車載アンテナの話】
abstract
Modern vehicles are more aerodynamic in character. It has become more difficult to mount HAM antennas in such vehicles. This Blog explains how to find and mount the antenna where it can be installed. Modern cars can also be used to enjoy amateur radio. (2024.01.11 de JA9TTT/1 Takahiro Kato)
【アンテナが付くクルマ】
『今どきのクルマにアンテナなんて付かないよ』アキバのHAMショップで店員に冷たくそう言われてしまいました。
最近の車に向いた(付けられる)アンテナ基台にどんなものがあるのか知りたかっただけなのですが・・・。しかし「そんなものなんて無い」ってあっさり言われてしまいました。車種やどんなアンテナを付けたいのか聞くでもなしに・・・。
『無線やりたい人は始めにクルマを選ぶんですよ』とも言われました。 まあ「そうかも知れないな」とは思ったものの、何とかする術(すべ)はないものかここは一旦引き下がって考えてみることにしたのです。
☆
左の写真を見てしまったら『な〜んだ、もうちゃんと付いてるじゃん』と思うでしょう。 そうなんです、結果として問題なく付けられたのです。ただ、取付場所は限られるしアンテナ基台も選ばないと付けられません。 HAMショップの店員さんにはその辺りの情報が欲しかったのですが、たぶんご自身で付けたことがなければ無理な話だったのかも知れませんね。(今どきの店員さんの不勉強とも言えますけど・・・)
もちろん車種にかなり依存しますから一般性のある話は難しいでしょう。しかし「今ふうのクルマにもアンテナは付く」のです。旨く付けられそうな場所さえ見つかればあとは選択と工夫でカバーできます。
以下、今ふうの自動車にアンテナ基台を取り付けてテスト・オンエアすると言った単純なお話です。モバイルでのアマ無線の運用に興味がなければつまらないでしょう。ここらでお帰りになることをお薦めします。
【古いアンテナ基台】
まず始めに取付可能な方法を検討したいと思ったのです。それには何か見本になるアンテナ基台があったほうが検討し易いでしょう。 それで物置を探していたら以前の車で使っていたアンテナとその基台が出てきました。
25年くらい前はセダン型乗用車(いすゞ・ジェミニ)に乗ってました。V/UHF帯のアンテナをトランクリッド(トランクの蓋部分)に付けていたのです。そのときのアンテナ基台とV/Uアンテナは車を替えた時に取り外したまま残してありました。
写真は取り付けを検討するために整備を済ませたアンテナ基台とケーブルです。物置で見つけた時はかなりひどい状態に見えました。取り付けたまま何年も屋外に晒していたのでサビが出ていて樹脂製パーツもずいぶん劣化していました。ただ、劣化は致命的ではなかったため一般的な部品(ボルト類など)に交換して整備できたのです。
この基台は小型・軽量なアンテナを目的としたものでしょう。コンパクトですから狭い隙間でも取り付けられます。 それで現用車で付けられそうな場所を探したところリア・ハッチのコーナー部分が良さそうでした。コーナーの部分は強度が持たせてありペコペコする感じもありません。意外にリジットな(強固な)構造になっているようでした。重いハッチを支えているヒンジ部分に隣接する場所だからでしょう。
【細芯同軸を交換】
ケーブルを隙間から引き込み易くする目的で基台を出た部分は細い同軸ケーブルになっています。その細い同軸をドアなどのパッキン材のゴム帯(ウェザーストリップ)の隙間から強引に(笑)車内へ引き込む訳です。
ただ、どうしても同軸が潰れ気味になります。この基台に付いていた同軸も潰れていました。導通はありましたがインピーダンス不整合や切れかかりでロスが出たら面白くありません。この際、新しいケーブルに交換しておきました。
写真は太いケーブルとの接続部分です。両面プリント基板を使った簡素な構造になっていました。まあ430MHzくらいまでならコンパクトに繋げばそれほどロスにもならないのでしょう。新しい細芯同軸ケーブルに交換して補修しておきました。(茶色のケーブルが交換した新しいもの)写真のように簡易な耐水のために高周波ワニスを塗っておきました。アンテナ・コートなどを塗っておくのも良さそうです。
☆
なるべく手持ち機材を活用する方針でやっています。買ってしまえば手っ取り早いですが、手持ちの「保存品」はいずれゴミになってしまうでしょう。このさき車載アンテナはなるべく手持ちの部材で検討し工夫でカバーできないときだけは購入する方針で進めます。
【リア・ハッチのコーナーに取付】
写真のように取り付けてみました。 台座をクランプするためにはある程度面積のある平坦部分が必要です。 最近の車は曲面が基調でそうした場所がほとんどないので基台を(アンテナを)付けにくいのでしょう。
車種は2023年2月に納車されたトヨタ・シエンタです。 リアのドアはスライド式ですからルーフサイドにマウントするのは難しそうです。 また今どきの乗用車には「雨どい」のように台座を固定できる構造物はありません。セダンのようなトランクもありませんからあとはエンジンフードのエッジくらいしか付けられそうな場所はなさそうだと思いました。(もちろんルーフキャリヤを付けてそこにと言った手段もありますがアンテナのためだけにキャリヤを付けたくはないのです)
もう一度よく観察したところ、リア・ハッチのエッジ部分なら開閉時にもボディーと干渉せずにアンテナの取り付けが可能そうです。 台座をクランプするために必要な平坦部分もある程度得られそうでした。台座金具を挟み込む隙間もそこそこあります。 裏側に細い同軸ケーブルを通せるだけのスペースもありました。 さっそく台座を仮止めしたところケーブルの車内引き込みも可能そうです。
探し出した古い基台でもアンテナ取付の検討には十分役立ってくれました。
【ボディーと干渉せず】
アンテナを付けたことでリア・ハッチの開閉に支障が出ると不便になってしまいます。 うまいことにリア・ハッチを跳ね上げると基台を付けたエッジ部分がもち上がります。
そのため取り付けたアンテナがボディーと干渉することもありませんでした。 この場所はなかなか都合の良い位置だったようです。
【クランプとケーブル引き込み】
やや見にくい写真ですが、台座をクランプしている様子です。 取り付け部分の塗装面に傷をつけないようクランプ部分は板ゴムとアルミ板で挟み込む構造になっています。最近のアンテナ基台ならほぼすべてがそうなっているでしょう。
ケーブルの車内引き込みについて簡単に説明します。 閉めたときリア・ハッチが当たるボディー側の部分にはゴム製のウェザーストリップが巡らせてあります。 ゴム製のウェザーストリップには十分な厚みがあって細い同軸ケーブルを挟んでも問題なさそうです。 しか単に挟み込んだのではどうしても隙間ができます。雨水の侵入を完全に防ぐことはできないかも知れません。
そこではめ込まれているウェザーストリップを浮かせその下を通すことにしました。 ウェザーストリップ下のボディー部分の鉄板端部を少しだけ削ります。細い同軸ケーブルを通すためです。 幅5mm、深さ7mmくらいのU字型のくぼみを設けました。 鉄板は薄いため丸ヤスリでごく簡単に加工できます。
そのU字の部分を通してあまり無理せずに同軸ケーブルを引き込めました。 ウェザーストリップの下を通過する部分の同軸ケーブルには自己融着テープを数回厚めに巻きその上からアセテート布テープを巻いてケーブルの潰れと隙間からの雨水浸透を防ぐように対策しておきました。 なお鉄板をヤスリで削った部分(U字断面)にはエナメル塗料を塗って簡単に防錆しておきました。
【アンテナにはnanoVNAが重宝する】
写真は少し前から流行っているnanoVNAというハンディな測定器でアンテナのSWR特性を観測している様子です。 黄色のトレースがSWRを示しており145MHzを中心に上下25MHzの幅で観測しています。最下端の罫線がSWR=1のラインで縦目盛り1つが「1」です。
このように145MHzを中心にまずまずのSWR値を示しており、物置からサルベージした古いアンテナとアンテナ基台(ケーブル付き)が十分役立つことがわかりました。 もっともケーブルの方は潰れていた細芯同軸ケーブルを交換してありますけれど・・・。
nanoVNAの効用はいまさら言うまでもないかも知れません。 この写真のようにアンテナの共振状態がビジュアルに観測できます。 きちんと設置できているのか、あるいは幾らか長さの調整が必要なのか画面から一目瞭然です。
もう昔のようにハンディ・トランシーバとSWR計を使い周波数を変えながら様子を見るといった手間はありません。 こうした「便利なツール」が数千円で手に入るのですから有効活用しなかったら何だか損した気分になりそうですね。
nanoVNAの使い方は様々な雑誌で幾度となくしつこいほど(笑)特集されています。そちらをご覧ください。 アンテナ製作で必要な最低限の使い方については、そのつどBlogでも扱うつもりです。 流行りだからと言って意味もわからずに買うのは馬鹿げていますが、もしアンテナをやるなら持っていて損のない道具です。 一般的なHAM局の場合、nanoVNAはアンテナの調整や確認以外の用途はありません。ハヤリに流されませんように!
【V/UHFは高さに勝るものなし】
自宅の駐車場でテストしていても「飛び具合」はよくわかりませんでした。 近所の小高い丘へ移動してテストしてみました。
ここは小高く見晴らしが良いのでずいぶん良く聞こえます。ちょっとレポートをもらってみたのですがホイップ・アンテナとしては普通に飛んでいるように感じました。
たぶん車からV/UHF帯にオンジエアすることは稀です。 誰かと出掛ける時にはあった方が便利かもしれませんが走りながらオンジエアするつもりはあまりないのです。
どこか見晴らしの良いロケーションで半固定してオンジエアすると面白そうだなあ・・と。 車で寄れる見晴らしの良い所はたくさんありますので・・・。
【テストに使ったRig】
IC-9700を使いました。電源はクルマのDC12Vを供給しても良かったのですが、テストを兼ねて新車購入時にオプションで付けておいたAC100V/1,500Wの車載電源を試してみます。
まず電圧を実測したら荷室側アウトレットの所で102.5Vあって周波数はほぼ正確に50Hzでした。(簡易測定ですが49.98Hzでした) このAC100VからDC12Vを作るためにはスイッチング電源ユニットを使います。ここで使ったSW電源ユニットの電流容量は25Aくらいありますから最大50Wのリグには十分でしょう。
ここで気になるのは車載AC100V電源から出るインバータ・ノイズです。 私が使ったTDK製のスイッチング電源は固定シャックで使ってもノイズが問題になったことはありません。従ってクルマ(トヨタ・シエンタHV)に搭載のAC100V電源(たぶん擬似正弦波のDC/ACインバータ)のノイズはどうなのかと言うことになります。
結論から言うとノイズはまったく気になりませんでした。まあV/UHF帯までインバータ・ノイズの高調波が及んでいることもないのでしょう。 かなり静かな場所でワッチしても大丈夫そうです。 むしろ周辺環境から受ける正体不明のノイズが気になったくらいでした。
聞くところによれば、最近のハイブリッド車ではハイブリッドシステムの遮蔽(シールド)はかなり厳重なのだそうです。自身がノイズを出さないばかりか、外部からの強電界でも誤動作しないよう十分なシールドが施されているようです。車載のAC100V電源もそのシステムの一部な訳です。昨今はEMIの発生やEMCの耐性が問題になっており車とは言えども他の電子機器と同様の電磁波対策が行われているのでしょう。 むしろ誤動作は人命に関わるだけにより一段と厳しいのかもしれません。
☆ ☆ ☆
【左側用の基台】
V/UHF帯のモービル運用が最終目標ではないのです。 もちろんあったら便利ですから右側後方に付けた144MHz/430MHzのアンテナと基台はそのままにしておきましょう。
このテストで付けたアンテナ基台はTNC型という同軸コネクタが使われていました。それとセットになるアンテナもあったので好都合だったのですが、昨今の市販アンテナではTNCコネクタはほとんど見かけません。 市販のモービル・ホイップ・アンテナはM型コネクタが多いようですし、小ぶりのアンテナではBNC型あるいはSMA型も多くなっています。
この先、いくつか車載アンテナを実験したいと思っています。そのために左側にもアンテナ基台を付けましょう。 物置から50MHz用らしい未調整のホイップ・アンテナも出てきました。これはM型コネクタです。先々を考えてM型コネクタが付けられるようなアンテナ基台を購入することにしました。 これから実験するアンテナはM型コネクタで統一すれば良い訳です。
今度はどんなサイズと構造のアンテナ基台なら支障なく取り付けられるのか目星が付いています。メーカーのサイトを見てK416型というトランク・ハッチバック用と称するアンテナ基台を発注しました。 これは問題なく取り付け可能でした。 ケーブルの引き込みも右側と同じようにやれば良い訳ですから迷いもありません。 なるべく手持ちを活用する方針ですが無いものは潔くスパッと購入します。(笑) 必要となるM型の座が付いたケーブルセットは手持ちに新品がありました。
次回は違うHAMバンドのアンテナにチャレンジしたいと思います。 まだその前に幾つかやるべき課題もあったかな?? ではまた。 de JA9TTT/1
(つづく)nm
加藤さん、今年もよろしくお願い致します。
返信削除最後に車に無線機を積んだのは13年ぐらい前に乗っていた車でした。
そのときはリアハッチの縁に小型基台を取りつけたのですが、それ以降の車ではアンテナ基台よりも無線機を付ける場所が見つからなくて付けなくなってしまいました。
最近の車では変なところから電源を引くだけで警告灯が点いたりすることもあるようで、便利になった反面素人では手が出せなくなってますね^^;
JE6LVE/JP3AEL 高橋さん、おはようございます。 こちらこそ本年もよろしくお願いします。
返信削除さっそくのコメント有難うございます。
> 最後に車に無線機を積んだのは13年ぐらい前に乗っていた車でした。
実は私もだいぶ長いこと無線機はつけてませんでした。先代、先先代の車には付けようとさえ思いませんでしたね。 たぶん周りに付ける人がいなくなったからです。
> 無線機を付ける場所が見つからなくて付けなくなってしまいました。
これありますね。 今回のクルマはよほどコンパクトなRigじゃないと付かないと思います。 スマホサイズなら何とかなるかな・・・(笑)
> 電源を引くだけで警告灯が点いたりすることも・・・
昔、ハンディ機を運転席で送信したらエンジン止まった事があって、その車での無線は諦めました。 万一走行中に止まったら危険ですからね・・・。 安全第一です。
今回は走行中のオンジエアはせず、半固定での運用を考えてます。Rigも目的地に着いてからセットアップ。 今年はシャックを出て無線を楽しみましょう。hi hi
加藤さん、新年おめでとうございます。ブログが、再開されましたね、楽しみにしています。
返信削除私も、30年くらい前に、同じくジェミニに乗っていましたが。リグは、IC-03Nを持ってましたが、アンテナは、マグネット機台の5/8λを使っていました。ただ、車体に傷がつくのが難点でした。
固定のアンテナを使用しなかった理由は、当時一般車両のラジオ用のアンテナが、折り曲げられる等の悪戯が絶えなかったからです。
10日に、運転免許の更新(高齢者対応、まだ認知症テストは必要ない)を行いましたが、もう自家用車は持っていません。余り、ブログの内容は、役に立たないでしょうかね。
ところで、加藤さんが乗られていた車は、いすゞのピアッツァじゃなかったでしたっけ?間違っていたら失礼しました。
JI1HVI 仲野さん、こんばんは。 本年もどうぞよろしくお願い致します。
返信削除コメントありがとうございます。
> アンテナは、マグネット機台の5/8λを使っていました。
マグネット基台は手軽でFBですが、鉄粉を吸い寄せるので傷になりやすいようですね。
> アンテナが、折り曲げられる等の悪戯が絶えなかったからです。
最近アンテナ付きの車を見ないのは車上荒らしが怖いと言う理由もあるようです。 オクで転売できるような金目のモノを積んでるって目を付けられたら危険でしょうね。
> 余り、ブログの内容は、役に立たないでしょうかね。
自身の無線活性化が目的のBlogですので悪しからず。(汗)
> いすゞのピアッツァじゃなかったでしたっけ?
あってます。 その後釜がジェミニです。 それって、ずいぶん昔の話になりました。(爆)
宮原三郎/JH6WOF/JO4FSM
返信削除高橋さま
ブログが再開されていることに本日気付きました。
nanoVNAは大変便利なツールですね。当局も昨年購入し、1200MHzのアンテナ自作に
活用しました。一昨日も14Mhzのワイヤーアンテナを上げて調整するのに使用しました。
数十年前にモービル用のヘリカルホイップを自作した時には、ディップメーターとSWR計および
発信周波数確認のために受信機でディップメーターの電波を受信しながら苦労して調整したのを思い出しました。様々なパラメターが一目瞭然で、時代と共に進歩した技術に感心するとともに画面に表示されるスミスチャートにも感激しました。
今年もブログを楽しく読ませていただきます。
JH6WOF/JO4FSM 宮原さん、こんばんは。
返信削除いつもコメントありがとうございます。
> ブログが再開されていることに・・・
長らくお待たせしたようですが、またお付き合いください。どうぞ宜しく!
> nanoVNAは大変便利なツール・・・
シャックで使うことはあまりないのですが、コードレスで動作しオールインワンで小型なので車載アンテナ系の調整にはとても重宝なツールですね。
> ディップメーターとSWR計および発信周波数確認のために受信機で・・・
モービル・ホイップは共振点調整がシビアなのでジャストに合わせるのが重要ですから・・・。GDMの目盛り精度じゃ役には立ちませんね。hi hi
> 時代と共に進歩した技術に感心する・・・
テスタとGDMくらいだった時代から思えば、今は安くて VY-FBなツールが溢れてます。 有効活用できないと損している気分になってしまいます。(笑)