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2013年5月18日土曜日

【部品】Failure of a MK10 J-FET

【J-FET :MK10の不良発生
菊水418A型:RC発振器
 手軽な正弦波信号源として写真の発振器を愛用している。シンセサイザ形式のような周波数精度はないが正弦波が得られる発振器は幾つあっても重宝なものだ。

 最近使おうと思ったら、波形の歪みが目で見てわかるほどになっていた。 これは明らかに故障である。 オシロスオコープの管面から正弦波の歪みがわかるようでは、少なくとも数%オーダーの歪率になっている筈だ。 高級品ではないとは言え、このRCオシレータの歪みは0.1%以下の筈だから、オシロスコープではわからないのが正常だ。

 実は,開けるのは3度目だ。 前の2回とも調整で正常に復帰してしまったのである。 最初に異常を感じた時は、経年変化で調整ズレが起こったのだろうと単純に考えた。しかも所定の再調整を実施したら正常(らしく)になってしまった。 それから数年して開けた2回目も同じようだった。 ただ、状態の変動量が大きくなって来たように感じてはいた。まあ年式相応で仕方がない。そろそろコンデンサの劣化でも始まっているのではないかと思った。

 いよいよ3回目の修理開始だ。 低い周波数の歪みが特に酷いようだ。但し状態が安定しない。 なぜ、10Hz〜100Hzのレンジが特に悪いのか?・・・少々疑問であった。 しかし修理しないと使い物にはならない。 中古のRC発振器は安価ではあるが、これを捨てるのも勿体ないから何とかしよう。

回路はディスクリート構成
 おそらく1970年代の設計だ。 未だこうした測定器に使えるほど高性能なOP-Ampは一般的では無かった。 従って、FETやBJTと言ったディスクリート半導体で回路構成されている。

 結論を言ってしまうとつまらないのかも知れないが、図のFETが半不良になっていたのが不具合の原因だった。

 なぜ低い周波数が特におかしいのかと言えばインピーダンスが高くなるからだ。 このRC発振器は430pFの2連バリコン:Cと固定抵抗:Rでウイーンブリッジ発振器(ターマン発振器とも言う)を構成している。 そのため、Cの大きさがバリコンのCmaxで限定されるので、低い周波数では必然的にRの値が非常に大きくなる。

 ちなみに、発振周波数:f=1/(2πCR)である。 C=430pFとして10Hzの時のRを求めると、約37MΩにもなる。 実際には発振の下限に余裕を持たせる意味から38MΩが使われている。 要するに図のFETの先は大変なハイ・インピーダンスになる。 従ってわずかなゲートのリーク電流で回路のDC的動作点は狂ってしまう。 高い周波数が大丈夫だったのはインピーダンスが低くなるからだ。

 わかってしまえば謎でも何でもない。低域で歪んだのはFETのゲート漏れ電流で増幅器の動作点がシフトしたからだ。 わかればもう直ったも同じ。劣化したFETを交換するれば良い。 しかしそれを突き止めるまでには幾つかの試行錯誤もあったのである。(笑)

 【発振器の内部
 こうした発振器も、今ならFET入力の高速・広帯域・低ノイズなOP-Ampを使うだろう。 これはMK10と言う三菱製のFETを使ってハイ・インピーダンスな広帯域・ローノイズアンプをディスクリート部品で構成している。

 ディスクリート構成が必ずしも悪いわけではない。 部品を吟味すればローノイズで広帯域なアンプが作れる。 組立の手数と調整の煩わしさはあっても高性能な回路が実現可能だ。 とくに設計された当時はまだ709や741の時代だから、OP-Ampは性能的にこうした発振器に不十分だっただろう。

 FETのゲート部分は非常にハイ・インピーダンスになる。写真の様にテフロン端子で浮かせて空中配線になっている。 そこまで注意を払った部分にゲート漏れ電流があったのでは、旨くなかったに違いない。(注:写真はFET交換後のもの)

 【劣化していたMK10
  日本の半導体メーカーでFETを最初に開発したのは東芝や日立あたりではなかったかと思う。 しかし初期のころは通信工業用ばかりでどれも高価だった。 だからFETの良さはわかっていても、民生品や安価な機器に使うのは難しかったと思う。

 そんなころ、三菱は2SK・・・型番ではなく、MK・・と言う独自型番で安価なJ-FET(Junction Type FET:接合型電界効果トランジスタ)の供給を始めた。未だ2SK19や2SK30と言ったポピュラーなデバイスは登場していないころだ。 Mitsubishiの2SKタイプと言うような意味だろうか? 汎用品であって特別RF向きではないがVHF帯まで使えたのでFMチューナを含め幅広く使われた。 アマチュアにも手が出せたから自作品にも使った。 古い機器だけでなく製作記事でもMK10を良く見かけるが、それはそのころ他にあまり選択肢がなかったからである。

 写真は劣化してしまったMK10である。 回路図にIdssランクの指定はないがMK10-3らしい。文字消えで良くわからないが、Idss=10〜20mAの一番gmの大きなランクだろう。

                    ☆

 なぜ劣化したのか? 今では原因が良く知られている。 そのころの三菱製トランジスタは足に銀メッキ線を使っていてそれが良くなかったのだ。 銀メッキ線はハンダの乗りは良いものの、大気中に微量に含まれる硫化水素などにより硫化しやすい。写真の様に足が真っ黒くなるのは硫化銀が生成した証拠だ。鉄の黒サビとは違い銀の硫化には進行性があってリード線の奥まで腐食が及ぶことがある。 さらに多少の湿度があるだけで銀のイオン・マイグレーションと言って銀の原子が電流路に沿って移動・堆積する現象も起こる。 そのため内部半導体表面に無用な電流路が形成されてしまうことになる。そこに漏れ電流が流れるのだ。

 劣化したMK10のリードを見るとだいぶ硫化が進んでおり、内部でも銀のイオン・マイグレーションが起こっていたのだろう。 ドレイン・ゲート間に微小な電流路が出来ただけで、もはやハイ・インピーダンス回路の動作は正常さを失う。 回路の動作点変化量の実測結果から見て200〜300pA(ピコ・アンペア)のゲート漏れ電流が存在した模様だ。

 リード線や端子の銀メッキは半導体を劣化させる原因になるので、今の半導体製品では使われない。 数年間なら問題にならなくても10年にもなればトラブルの種になってしまう。

MK10の特性
 MK10の特性を掲載しておいた。 時々MK10の規格を探す人がいる。 昔の回路図を見ての自作か、古い機械の修理でもしているのだろう。

 すでに製造していないし上記の理由から古い在庫品は心配があると思う。 湿気がなく外気にあまり触れない好環境に保管されていたなら大丈夫かも知れないが、その保証もないだろう。 新品でもお薦めできないと思っている。手持ちにも数個のMK10があったが保管状態に疑問があったので使わなかった。

                    ☆

 このRCオシレータの場合は、ドレイン・ソース間耐圧が必要なので、Vds(max)の大きなFETが必要だ。 そのため2SK192AのようなRF用FETでは耐圧が足りない。 十分なドレイン耐圧のある代替品を見つける必要がある。 周波数上限は1MHzなので普通の小信号用J-FETならどれでも大丈夫だ。

 一方、無線機のRFアンプやVFOのような用途には2SK192A等で代替すべきだ。 その時はIdssランクを合わせればなお良い。 それでもソース抵抗を加減して所定のドレイン電流になるように調整すべきだ。 それさえすれば代替品の候補は沢山あるのでMK10を無理に探す必要は無い。(:RF用定番の2SK241は内部カスコードのMOS構造なのでJ-FETを代替の際は要注意)

2SK34の特性
 交換に使ったFETの特性だ。この2SK34も恐らくディスコン品(廃止品種)だと思う。自身の修理備忘の為に規格を載せている。

 必ずしもこのFETである必要はないが、要件を満たしていて手持ちもたくさんあったので使ってみた。 ただそれだけなのでMK10の代替品として推奨するつもりは毛頭ない。 MK10と同じ三菱製である。(なお、FETメーカーの資料によれば2SK34はMK10の代替品になっているようだ)

 回路電圧が40Vと高いのと、低ノイズなJ-FETが欲しいのでこれを使った。 2SK34はRF用ではなくて低周波用で耐圧の高いJ-FETだ。 低ノイズだけなら2SK117/2SK147/2SK363等の方が良いが、Cissが大き過ぎて不適当だ。 2SK34は規格上のドレイン・ゲート間耐圧:Vgs(max)が50V以上とあるが、実力的には100Vくらいある。ゲート漏れ電流も少ないFETだ。 ゲインにゆとりのある多段アンプなのでgmはある程度以上あれば支障無いはずだ。 使った物は元のFETよりIdssが大きかったが、取りあえず調整用VRによる動作点調整の範囲には収まった。

 まあ、普通はどう考えても2SK30ATMのYかGRあたりが適当だろう。型番は古臭いけれど低周波用の定番だから。(笑)

発振波形:1kHz
 写真は1kHzの発振波形だ。 このように奇麗な正弦波である。 もちろん、10〜100Hzのレンジも同じように奇麗だった。

 目で見て歪みがわかるのはどの程度からだろうか? 歪みの種類にもよるがクリッピング歪みやクロスオーバー歪みのようなものは意外に低歪率から目で見てわかるようだ。

 ただ、0.1%を切るような歪み率になると、歪率計を使うかスペクトラム解析を行なわないとまるでわからない。 オシロスコープで見て奇麗な正弦波でも意外に高調波が含まれているものだ。 だから目で見てわかるようではもう相当に歪んでいる。

歪み率測定
 オーディオ・アナライザで歪み率を調べてみた。
写真の様に、1kHzにおける歪み率は0.036%である。 この種のオシレータとしては標準的な性能だろう。

 このRCオシレータの出荷時の試験成績表によれば、1kHzに於ける歪みは0.04%だった。 従って、発振回路のFET交換修理は十分旨く行ったことがわかる。 これでまた暫く使えることだろう。

 オシロスコープの波形が奇麗なだけでなく、まずまずな低歪みが得られている。 一般にこうしたRCオシレータの正弦波は歪みが少ない。 ファンクション・ジェネレータではなかなか低歪みにならない。 今でもオーディオ系の測定にRCオシレータが使われる所以だ。

 昨今の超低歪みアンプの測定にはもう一桁くらい低歪みな正弦波信号が欲しいところだ。オーディオマニアならもっと良い発振器が欲しくなるだろう。 連続周波数可変式で極低歪みな発振器は難しいが、スポット周波数式なら自作も容易だ。 オーディオ用にはそうした信号源を用意しておきたい。同時に低ノイズな発振器であることも大切だ。

                 ☆ ☆ ☆


2SC710のこと
 MK10の劣化に関連して2SC710のことを書いておこう。 2SC710はRF汎用として非常にたくさん使われていた。

 ラジオやTVなど家電品に留まらず、CB無線機やアマチュア無線機にもたくさん使われていた。 SONYのBCLラジオに多用されていたのは有名な話である。

 しかし、この三菱製のトランジスタは、MK10と同じようにリード線の硫化や銀のイオン・マイグレーションと思われる劣化・・・BJTの場合はリーク電流だけでなく、hFE低下などの劣化症状を呈することも多い・・・が多発している。 中身の半導体チップは違っていてもパッケージ構造とリード線が同じだからだ。

 写真右側の大きめの2つは銀メッキリード線の2SC710だ。比較的良い環境に保管してあったので劣化は見られなかったが問題のブツである。 未使用ゆえ電極間に電圧は掛かっておらず電流も流れていないから銀のイオン・マイグレーションもないのだろう。 今のところ正常そうだ。 しかし積極的に使うつもりはない。 いずれトラブルになる可能性があるし、他にいくらでも代替品があるからだ。 写真左側の小さめの2個は同じ2SC710でも幾らか安心なようだ。 三菱製ではなくて、どこかのセカンドソースなのかも知れない。しかし、リード線は銀メッキではないので、こちらの方が信頼性は高い。 おなじ2SC710に交換するならこちらにすべきだ。

(参考)日立製の2SC460等も同じように銀メッキリードで問題の多い部品である。

 2SC710の代替に2SC1815を使う例もあるようだが、純然たるRF回路には向いていない。 低周波回路やスイッチのような用途なら別だが、RF/IF回路には1mA前後の小電流でもっとRF特性の良いデバイスで代替すべきだと思う。fTが高くCobが小さいトランジスタが良い。

重要:言わずもがなとも思うが、2SC710の足の並び方はこの種のトランジスタとしては変則的である。2SC1815のような他の大半の小信号用トランジスタの足の並び順とは逆になっている。修理の為に別のトランジスタに置き換える際は十分な注意が必要だ。足を下に向けて型番の捺印面を正面に見た時、2SC710は左からBCEの足の並びだが、他の殆どのトランジスタはECBの順である。2SC710を他のTrに置き換えるなら、もう一度よく確認してから作業を!

              ☆ ☆ ☆ ☆ ☆

 デバイスに関わるトラブル情報をBlogに書くのはどうも「ためらい」がある。 稀にとは言え、ある特定型番のデバイスに問題があることを知るやいなや闇雲に全交換しようとする人がおられるからだ。 無闇に交換して修理できる確率はたいへん低いのにも関わらず・・・。 不具合状況を的確に把握し、そうなる理由を考えるのがまず先決だと思う。

 たとえば今回のMK10の不良にしても、普通の増幅回路なら症状は示さなかっただろう。 わずか200〜300pAのゲート漏れ電流など支障無いのが殆どだからだ。 むしろ正常に動作しているなら交換などしない方が良い。 交換をすれば再調整が必要になるし、性能の確認も不可欠になってしまう。 闇雲に交換したのでは故障なのか調整不足なのかさえも判別不能になる。 そうなるとより高度の故障診断技術を要するようになる。かえって難しくしてしまっている訳だ。 だからデバイスの不具合情報は常にデリケートなテーマなのだ。

 問題のあるデバイスとは言え必ず壊れるものでもない。多少の経年劣化は問題にならないケースも多いものだ。 回路の働きをしっかり理解して狙いを定めた修理を行ないたいものである。 de JA9TTT/1

(おわり)

2013年5月6日月曜日

【部品】Radio Chip TA2003P : Part-2

TA2003Pを試用してみる
 ラジオ用ICチップでラジオが作れるのは当たり前です。単に普通のラジオを作りたいだけでしたら、メーカーの資料通り作れば間違いありません。 しかし、もう少し気の利いた活用がしたいものです。 それには自分で幾つか試すしかないでしょう。

参考:このBlogの前のPart-1はこちら。(←リンク)

 活用に先立ち確認しておきたかったのは概ね次のようなものです。
(1)ANTコイル、OSCコイルの同調側はVccラインに接続したくない。
   それで問題ないか?
(2)局発の発振レベルはどのくらいなのか? 外部から注入する時の基準として。
(3)AGCの効き具合は通信機用として十分なものか?
(4)感度(ゲイン)はどの程度あるのか? RFアンプやIFアンプの追加は必要か?
(5)IFTを省略して本当に実用性能なのか?
   ・・・などです。

 いずれもHAM用受信機(受信部)には検討しておきたい内容です。 もちろん他にも細かい検討項目はありますが概ねこんな所で、実際に作って感触を得るのも大切な一つです。

 まずはTA2003Pだけでもと思い実験回路で検討を始めたのですが、スピーカから音も出したくなってしまいついでにAFアンプも組込んだので単なる「ラジオ」のようになりました。(写真)

 【TA2003Pの評価用ラジオ
 上記の回路図です。 530kHz〜1620kHzをカバーする中波帯のAMラジオになっています。 評価目的に従いANTコイルや局発(Local OSC)コイルは同調側がGNDに落とせる形式で設計してみました。 局発コイルに関しては、事前にブレッドボードを使った予備調査を行ないました。それによれば十分行けそうなので図のような回路に落ち着きました。

 コイル部分を除けば特に目新しい所はありません。 概ねメーカー指定通りになっています。 なお、ありきたりのラジオを作るのが目的ではないので、アンテナ・コイルにバーアンテナは使いません。 電波暗室でもあれば別ですがバーアンテナを使うと外部信号を拾ってしまうので評価が困難なのです。 アンテナ同調回路に50Ω用のタップを出し、そこへ信号発生器:SGで信号を加えて評価します。(それでもハイゲインなので、評価中に強力な中波局が飛び込んで邪魔になりました)

アンテナコイル:
アンテナコイルのインダクタンスは同調側(バリコンの側)が304μHです。50Ωのタップは全巻数のGND側から3〜4%の所から取り出します。 TA2003Pへ行くリンク巻線の方は同調側巻き数の約20%としました。 いずれも一次と二次の結合が密なボビンに巻くことが前提です。 もしポータブルラジオを作りたいならバーアンテナにします。 インダクタンスを合わせ、巻き数比も概ね同じようなものを巻けば大丈夫です。

局発(Local OSC)コイル:
局発:Local OSCコイルのインダクタンスは同調側(バリコンの側)が144μHです。 TA2003Pへ行くリンク巻線は同調側巻き数の約20%としました。 こちらも一次と二次の結合が密になるボビンに巻くことが前提です。従って空芯コイルのようなボビンは不可です。 トランジスタ・ラジオ用の中波OSCコイル(赤色コア)やトランジスタ用IFT(455kHz用)を改造すると良でしょう。 ここでは東光の7PLA型ボビンを使い巻き直して自作しました。 なおこの局発(Local OSC)コイルと組み合わせるパッデング・コンデンサは320pF(330pFでも良い)です。 これらのコイルと一緒に使用するバリコンについては後で説明があります。

◎参考:コイルの具体的な巻き数が書いてないのは、使用するボビンが異なれば巻き数が違ってしまうからです。 初心者だったころには具体的なコイルの巻き数が欲しかったものでした。しかしまったく同じ材料が手に入らないと殆ど意味はありません。 インダクタンス巻き数比の情報なら普遍性があるのです。ボビンを決めたら、まずは必要な各インダクタンスが得られる巻き数を求めます。(実測あるいは巻数チャートなどを使う) その得られた巻き数から2次側の巻き回数やタップの引き出し回数を比率で計算すれば製作に必要な具体的なコイルの巻き数が求まります。 なお、作例と同じボビン(7PLA)が欲しいお方にはSASE対応で差し上げています。

 上記ラジオの全消費電流は、無音状態で:約8mA、常用音量で聞いているとき:約20mA、フルボリウムで;約80mAピークでした。 普通の使い方ならずいぶん電池の持ちの良いラジオになります。

 【TA2003Pの周辺
 右側に2つ見えるコイルは手前が局発(Local OSC)コイル、その奥がアンテナ・コイルです。

 TA2003Pの左側にある四角いブルーの箱型がIFフィルタで、セラミック・フィルタを使います。(詳細は後述) その右の青色で頭部が円筒の部品は電源ラインの高周波チョーク(RFC)です。 インダクタンスは10μHです。

 アプリケーション・ノートの最少部品構成よりも多少部品数は増えますが、安定な動作を主眼に幾つか余分に追加しています。 電源ラインほか各所にあるバイパス・コンデンサもメーカー・アプリでは小さい感じがするので大きめの容量に変更しました。 但し基本は指定の応用回路を参照しています。 その上で、変更して様子を見ます。

ポリ・バリコン
 AM2連-FM2連の4連ポリ・バリコンを使いました。

 AM部は最小容量7.2pF、最大容量275pFの等容量2連バリコンになっています。 周波数範囲とこのバリコンの容量可変範囲に従ってトラッキング設計を行ないます。 その結果が回路説明の所に書いたコイルのインダクタンス値です。


 BCバンド(中波放送バンド)なので神経質になることもありませんが、ツマミに近い側のセクションを局発回路に使い、その後ろのセクションをアンテナ同調回路に使います。 このバリコンのトリマ・コンデンサは背面に付いた分離型です。(次写真)

 FMセクションは遊ばせています。

トリマ・コンデンサ
 トラッキング調整に使うトリマ・コンデンサはバリコン背面に付属のものを使いました。 最小容量:1pF、最大容量は9.5pFです。4つ付いていて、うち2つを使いました。

 配線のストレー容量は作り方によってかなり変わりますが、こうした半導体回路ではせいぜい10pF程度でしょう。(部品配置と配線が下手だともっと大きくもなるが・笑) そのため、トリマ・コンデンサとバリコンの最小容量を合わせた「浮遊容量」はトラッキング設計の要求値よりもだいぶ少なめになります。 その分を補わないと、きちんとしたトラッキングが取れません。 この製作例ではアンテナ同調側に15 pF、局発(Local OSC)側に22pFを補っています。(その分は、回路図に書いてありませんが必要な場合は補って下さい) トラッキング・エラーは最大8kHzくらいになる計算ですが、アンテナコイルのQ値などから見て支障のない感度差に収まっています。

IFフィルタ
 このフィルタがラジオの選択度を決めます。 ここでは京セラ製のKBF455R-15Aを使いました。 6素子構成で中心周波数:455kHz、-6dB帯域幅:±7.5kHz、シェープ・ファクタ(-60/-6dB);2以下と言うものです。 TA2003Pの参考回路で指定のものより-6dB帯域幅は広めですがシェープ・ファクタはずっと良好です。 従って一般市販のAMラジオよりだいぶHi-Fi受信になります。

 シェープファクタが良い(小さい)フィルタなら通過帯域幅を広げても混信で悩まされる恐れはありません。LCのIFTでは無理な特性です。 終端インピーダンス:1.5kΩ、挿入損失:6dB以下がフィルタの規格です。 帯域幅から考えて、移動体通信機のNBFM用に作られたものでしょう。既に製造中止のようですが今でも入手は可能です。 なお、村田製作所のセラミック・フィルタ:CFWLA455KEFA(旧型番:CFW455E)が同じように使えます。

 こうしたフィルタは、通過帯域の端を出たノッチの外側に「跳ねっ返り」と称する信号の通過現象が存在します。それ以外にもスプリアス・レスポンスが存在するのが普通なのでフィルタ・メーカーもIFTの併用を推奨しています。 そのような訳で、まったくのIFT無しでは心配があるのでIFTも併用すべきと言うのが従来の常識になっていました。 そこで実際にどうなのか試してみる意味もある訳です。

 結果から言ってしまうと何ら支障はないようです。 単同調のIFTが一つくらい追加された所で「跳ねっ返り」が解消される訳でもありません。 通過帯域の近傍にスプリアスがなければIFTの有無など殆ど感じないのでしょう。 IFTをすべて省略する思い切った設計もまずまず実用的なことがわかりました。

 ここで使ったフィルタは一般ラジオ用よりも特性が良かったのも幸いしたようです。 隣接局の切れは抜群で夜間でも混信は気になりません。 帯域幅も±7.5kHzあるのでAM放送がなかなか良い音で聞けます。


 【低周波アンプ;MC34119P
 最初はTA2003P単独でテストしていました。 評価の目的から考えて、それでおしまいでも良かったのですが基板の余白が有ったのでスピーカーを鳴らせるように低周波アンプを追加してみました。 このICも前からテストしようと思っていたものです。電圧ゲインは50倍(34dB)あります。

 MC34119Pは、現オンセミ、旧モトローラ製のICで低い電圧でもパワーの出る低周波・パワーアンプです。 電源電圧2Vまで使えるので、乾電池2本の回路には適当です。 もちろん電源電圧が低下すれば最大出力も減少します。

 IC内部は2つのパワー・アンプで構成され、スピーカーはBTL接続になっています。 従ってスピーカーの両端子ともにGNDから浮いています。低い電圧でパワーを出す必要からやむを得ませんが、すこし注意が必要です。 ヘッドフォン(イヤフォン)ジャックを付ける時は少々注意が要るのです。

 音質はスピーカしだいですがOCLアンプなのでかなり低域まで伸びています。 パワーはMax 100mW少々ですが普通の静かな部屋なら音量不足は感じません。 このICは携帯機器用に作られただけあって、無信号電流が約3mA(@Vcc=3V)と小さいのも電池のラジオ向きです。

 現在、MC34119は表面実装タイプおよびDIPタイプがサトー電気で買えます。表面実装型が@140円、DIPが@300円とのこと。 秋月電子通商では売り切れたようです。 セカンドソースではないので回路は変更になりますが、同等機能のNJM2073D(JRC)を使う方法もあります。 どうしてもMC34119PやNJM2073Dが入手できなければ、LM386を使って電源電圧を5Vにアップすれば良いでしょう。

 【TA2003Pを短波ラジオに使う
 短波帯で使うのが目標の一つです。 短波帯で内蔵の発振回路を使う自励の局発も試してみました。 AM局が相手の短波BCLラジオならまずまず実用性がありそうでした。 しかし、SSBやCW用には内蔵の局発回路はいま一つです。 初期変動を含め全般的な周波数安定度は十分でない感じがします。 もちろん、さらなる工夫の余地はあるとは思うのですが・・・。

 そこで「通信型受信機」に仕上げるには、局発は外から与えるのが手っ取り早いでしょう。 DDS発振器あるいは、周波数安定度の良いVFOを外付けするのが最も確実です。 外部からの局発注入方法は図の通りで旨く行きます。 外部発振器の一例としてDDS-VFOを別のBlogで紹介しているのでそちらでご覧を。

 感度についてです。 共振した外部アンテナを使うのが前提のアマチュア局用受信機なら、このIC単独で十分な感度(ゲイン)があります。 なまじ中途半端なRFアンプなど付けない方が賢明でしょう。相互変調や感度抑圧が目立ってきます。 TA2003Pの電源電圧は3Vなので強入力特性は良くないはずです。 しかし、意外にも内部回路のレベル配分が良いらしく思った以上に健闘します。 なるべくそのままで使う方が全体のバランスが良いでしょうね。

参考・1:このTA2003Pを使って短波ラジオを作る続編があります。こちら(←リンク)  
参考・2;TA2003Pのほか、各種ラジオ用ICを使ったラジオ製作の詳しい書籍(←リンク)が発売されました。

感度測定結果:中波帯のラジオを例に実測した結果を以下に示します。
測定条件は、周波数=1MHz、変調周波数=400Hz、変調度=40%、AMモード、50Ωアンテナ端子にSSGを接続しました。 入念なトラッキング調整を実施した後に測定します。

 S/N=約20dBで、20dBμV・EMF(負荷端電圧:5μV/50Ω)の感度があります。S/N比は悪くなりますが、0dBμV・EMF(0.5μV/50Ω)まで十分な了解度があり、-6dBμV・EMF(約0.25μV/50Ω)までは信号の確認が出来ます。これは相当高感度と言う意味です。

 SSB/CWの場合は6〜10dB程度の感度向上が見込めるので、通信機用として十分な感度(ゲイン)があることがわかりました。 不要とは思いますが、もしもプリセレクタ或はRFアンプを付加するとしてもゲインは10dB以下が良いでしょう。それ以上は性能劣化に繋がる筈です。

 高感度だと言えば、今度は大入力特性が気になりますが、90dBμV・EMF(16mV/50Ω)くらいで復調信号(400Hz)に歪みが見られるようになります。 これはAGCで制御できなくなった為の飽和によるものです。 そこまではAGCが良く掛かって出力レベルは概ね一定に保たれます。AGCレンジは70〜80dBくらいはありそうでした。 SSB/CW用として製作した場合の評価はいずれ実施しましょう。思った以上に高性能なのが印象的でした。(追記:2013.05.12)

 Sメーターが付けられます。FS=100μA程度の高感度メーターを使いフルスケールが概略2Vの電圧計になるようにして回路図の場所に付けるとSメーターになります。 AGC回路の電流を失敬している関係で電流の大きなメーターでは旨くありません。例えば1mAの電流計とかは不適当なので、外付けのDCアンプを付けるべきです。C-MOS OP-Ampのボルテージ・フォロワが簡単で良いでしょう。 同調指示器としても、Sメータがあると便利です。もちろん、通信型受信機には必須かも知れませんね。

 BCLラジオとしては少し長めのアンテナを張ってやれば十分な感度が得られます。こちらの回路は短波用なのでIFフィルタにも狭帯域なものを使い混信対策をしてあります。

世羅多フィルタも
 すでにお馴染み、世羅多フィルタ(せらだふぃるた)の付け方を書いておきましょう。

 追加のIFアンプは不要そうに思いますが、信号の弱いHAMの電波にはもう少しゲインがあった方が安心かも知れません。フィルタロスを補う意味も有りますが、狭帯域化したことでS/N向上の分だけゲインアップが図れます。

 2SK241を使った簡単なアンプを補っておきます。 使用するFETは2SK241以外に2SK439や2SK544が代替候補です。それがなければ455kHzですから2SK192Aも可でしょう。Idssランクは何でも良いです。

 回路図の世羅多フィルタはCW用の狭帯域設計です。SSB用にはもう少し広くした方が良いです。 さらにCWやSSBモードの受信にはBFOが必要になるので、回路図に含めておきました。 このBFO部分は検討中なので参考程度にどうぞ。
 強く注入すればBFOでAGCが掛かってしまう不都合があります。BFOの注入レベルは注入方法も含めて各自の実験項目です。良い加減のところを見つける必要があります。

                 ☆ ☆ ☆

 TA2003Pは流石に近代的なラジオ用ICです。 感度もAGC特性も昔の6石スーパーよりずっと優れていました。ごく強いAM局でさえ歪まず受信できるので驚きました。 シリコンを使ったデバイスでありながら、電源電圧2V以下まで動作するのも立派なものです。 HAM用の応用には幾らか外付け回路や部品が増えてしまいます。 それでも主要な回路ブロックは「完成済み」なので、簡単な短波BCLラジオや一歩進めて「通信型受信機」の製作に十分活用できるデバイスです。 これでLA1600が無くなっても安心ですね。

 昨今はAMモードがリバイバルしています。 HF帯のAMには限界があると思いますが、例えばバンドの広い6mならローカルラグチューにもうってつけでしょう。 簡単なクリコンとTA2003Pの親受信機で6mバンドの受信設備が完成します。 感度も十分得られるし周波数安定度もDDS局発なら申し分ありません。 モダンでコンパクトな6m AM局が構築できます。 もちろん7MHzあたりのシングルスーパーも実用的なものが作れます。 手のひらサイズでも性能は9R59D以上です。 レトロな管球式受信機も面白いですが、ICを使ったコンパクト受信機もいかがですか? 送信機に組込んでトランシーバにも。 de JA9TTT/1

(おわり)

追記:このTA2003Pを使って短波ラジオを作る続編は、こちら(←リンク)