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2016年12月29日木曜日

【回路】DTL-IC Electric Keyer, nostalgic.

【DTL-ICを使ったキーヤー】
 【パーツ沼の底深く
 電子部品の話です。 長いことエレキと付き合っていると、パーツ沼・・・部品箱とも言う・・・の奥底にはたくさんの過去が沈んでいます。 この沼は底があるようでも意外に底ナシで何でも飲み込む困った存在でした。 どうやら妖精も住んでいないようで金の斧を持って登場することもありません。w

 まだ若かった頃には『何時か使うから』と言うもっともらしい理由をつけて構わず沼に放り込んだものでした。 それから月日も流れ、すでに人生の折り返し点を過ぎればぼちぼち「沼さらい」で身ぎれいにしておかないと家族の迷惑が目に浮かぶようになってきました。 そう思って手を付け始めると思いがけない『発見』があって、それがまたまた寄り道の始まりになるのです。

 少し前になりますが、RTL-ICと言う黎明期のロジックICを使ったキーヤーを製作したことがあります。 そのときDTL-ICの存在にも気付き、いずれ此れでも遊んで見たいと思いつつ今になってしまいました。(キーヤー:エレキーとも言うがたぶん日本だけのよう)

 ずいぶん古い話になります。ジャンクの基板から調達したDTL-ICでキーヤーを作ったことがありました。 そのとき参照した回路図にはDTLではなくTTL-ICが使われていたのです。 DTL-ICとTTL-ICは混在でき、しかもキーヤーのような超低速な論理回路なら殆ど同じように動く筈です。 但し同じ論理機能を持ったチップがなかったので生半可な知識に基づく代替を図ったのが間違いのもとでした。 その結果、もちろん旨く動作してくれません。 論理回路は冷徹ですから『性能は悪いが取りあえず動く・・』と言うようなアナログチックな寛容さはないのです。

参考:写真は発掘された超古いNEC日本電気製のDTL-ICです。あとで使ってみます。

                   ☆

 パーツ整理と「あの時」のリベンジを兼ねてDTL-ICでキーヤーを作ります。 今どきDTL-ICなど入手できませんしロジックICを並べて作るにしてもC-MOSがお薦めです。 むしろワンチップ・マイコンで作るのがトレンディでしょうから参考にならないBlogです。 お正月が超おヒマでしたら他愛ないお話にお付き合い下さい。 でも師走にこんなBlogを眺めて『ひまそー』にしていると奥さんに叱られますよ。w

 【TTL-ICのキーヤーで知る基本
 前にRTL-ICで作ったキーヤー(←リンク)のTTL-IC版と言える回路です。 RTL-ICは負論理デバイスだったのでICの単純な置き換えだけでは動きません。そのあたりが少し違っていますが動作の基本はまったく同じです。 

 TTL-ICとDTL-ICは互換性があって機能は類似しています。まずは良く見掛けるTTL-ICを使ったキーヤーを製作し、動作が理解できた所でDTL-ICに置き換えようと言う作戦です。

 図はSN7400シリーズの標準TTL-ICを使ったキーヤーです。 4回路入り2入力NANDゲートのSN7400Nと2回路入りJK Flip-FlopのSN7473Nを各1個ずつ使ったプリミティブなキーヤーです。 長短点メモリを持たないので高速キーイングでは多少ミスが出てきますが必要な機能は備えており十分実用になるだけの性能があります。 パドルを繋ぎ実際にキーイングして確かめました。hi
 特殊な部品は使っていないので製作容易です。ICや他の半導体もすべて安価な汎用品です。リレーは『リードリレー』がお奨めで後ほど説明があります。電源電圧は+5Vが標準ですが4〜6Vで支障なく動作します。

 どの様に動作するのか順を追って調べてみましょう。とてもシンプルなキーヤーなのでオシロスコープで各部の動作を見ながら理解するには最適です。低速論理回路なのでオシロスコープがなくてもLEDが点灯するロジック・プローブを使えば動きがわかります。

 まず、パドル(パドル:いまはマニピュレータとは言わない)が操作されず中点の位置にあるときがスタートポイントです。 クロック発振回路のQ2はONしておりQ1のベースとQ3のコレクタはGNDされ、クロックパルスは停止しています。またゲートU2a、U2bともに出力はLowです。 このためFlip-Flop、U1a、U1bともにリセット状態で静止しています。 ゲートU2cの両入力ともにHighのため出力は反転しLowの状態です。キーイング・トランジスタQ4はオフで、リレー接点もOFFのままです。

 いま、パドルが短点:Dotの側に倒されると、U2aの出力は反転し、Flip-Flop U1aのリセットが解除されます。同時にQ2のベースもD2を通してGNDされるためQ2はオフになります。 ただちにクロック発振のQ3がONしコレクタ電流がベースに流れ込んでQ1もオンするため正帰還が掛かってC1の電荷は一気にディスチャージ(放電)されます。R4とR5の接続点には鋭く下方に向かうパルスが現れます。これによりFlip-Flop U1aはただちにトリガされ/Qは反転しLowになります。 放電によってC1の電位が急速に低下するとただちにQ1とQ3はOFFになります。下方に落ちていたパルスは正方向へ急上昇に転じ、R4とR5の接続点にはごく幅の狭いパルスが発生します。
 Q1とQ3がOFFするとC1にはVR1を通して電荷がチャージされます。 C1の電位即ちQ3のエミッタ電位がR4とR5の接続点の電圧によって決まる電圧に達すると再びQ3がONし、Q1もONします。パドルが短点側に倒されている限り上記の動作を繰り返します。 狭いクロックパルスの立ち下がりエッジでFlip Flop:U1aは継続的にトリガされ、その出力:Qと/Qはクロック発振器の周期ごとに反転を繰り返します。 U1aの/Qは短点の周期でHighとLowを繰り返すことになります。 同時にU2cの出力もLowからHighになってリレードライバ:Q4がONしリレーの接点が短点の長さ分(クロック1周期の分)だけ閉じます。

 次にパドルが長点:Dashの側に倒されると、短点の時と同じようにクロック発振器によりパルスが発生します。なお、D1のルートによりパドルの短点側もGNDした状態になります。 こんどはFlip-Flop U1bの方もリセットが解除されるため、U1aの出力によりトリガされて反転を繰り返します。 U1aとU1bの/Q出力はU2cにより負論理のORが取られていて、いずれかがLowのときHighを出力します。この出力によってリレードライブのトランジスタはONします。 今度は短点一つ分と長点側のFlip-Flopで作られ、一周期遅れた短点2つ分の長さに相当するパルスが繋がって出力がでるので、合計で3短点分のパルスに相当する長点が作られます。U2cの出力がHighになってリレードライバ:Q4がONしリレーの接点が長点の長さ分だけ閉じます。

 パドルが中点に戻されると、次のクロック・パルスの到来でFlip Flopは反転し、そのときパドルは離れているため、ただちにU1aとU1bの/QがHighとなってFlip-Flopはリセット状態に戻り保持されます。U2cの出力もLowになりリレー・ドライバ:Q4もOFFになってリレー接点は開きます。クロック・パルスも停止します。 これで短点も長点も出ない初期の状態に戻ります。

 以上がクロック発振器の周期で短点とスペースが作られ、また周期の3倍の長点と1周期の長さでスペースが作られる仕組みです。 かなり簡略化しましたが大まかなキーヤーの動作です。各部の動きはクロック発振器に基づいたタイムチャートを作るとわかり易かったです。

参考:このTTL-ICを使ったキーヤーは古い雑誌記事(JA-CQ誌)を参照しました。 但し記事の回路図には誤植と思われる間違いがあったほか、回路の形式や部品定数にあまり適当でない所がありました。 そのまま作っても正常に動作しないので記事の引用はせず、図面は書き直しました。上の回路図は修正してありこのまま作れば旨く動作します。製作容易で費用も掛からないため入門用のキーヤーとしてお奨めできると思います。

 【発掘したDTL-IC
 DTL-ICと言うのは、Diode Transistor Logicの略です。その名の通りダイオード使ったANDやORと言った論理回路と論理レベルを再生するためのトランジスタ式反転アンプで構成されています。後ほど内部回路の説明図があります。

 写真の上側に3つ並んだM5946とM5952がDTL-ICで三菱電機製です。もちろんたいへん古くて1970年前後のICでしょう. 三菱電機はDTL-ICでは逸早くファミリを構築していたようです。 他の日本メーカーでも作っていたようですが見掛けませんでした。 ICが珍しい時代でしたし秋葉原でもデジタルICはまだまだ一般的ではなかったからだと思います。 このDTL-ICはFairchild社のDTμL9930ファミリと互換性があります。(セカンドソースです)

参考:M5946PとM5952Pはたくさんありました。いずれ捨てるので欲しい人はお早めに。但し、いずれも元々ジャンクの中古品です。動作確認済みを差し上げます。(2016年12月現在)

DTL-ICで作ってみた
 M5946PはSN7400Nとピン接続も含めて互換です。従って、そのまま置き換えできます。 しかし、問題はSN7473Nの方でした。 DTL-ICのファミリにはそのまま置き換え可能な互換品はなさそうです。それにもしカタログに存在したとしても手に入りません。

 手持ちのDTL-ICでSN7473Nと類似のJK Flip-Flopは写真のM5952Pしかありませんでした。 このM5952PもJK Flip-Flopが2回路入っているのは同じなのですが、2つのFlip-Flopのリセット端子が共通になっているのが困りものです。 おそらく同期式カウンタを構成する時に便利なように考えられているのでしょう。作ろうとするキーヤーでは個別にリセットが掛けられないと旨くないのです。 おまけに両方のFlip-Flopのクロック端子が共通ピンなのもまずいです。

 何か補うとか、少し工夫すれば使えそうにも思うのですがそれも面倒なのであっさり2パッケージ使うことにしました。外付けのICが増えるくらいならM5952Pを2つ使っても同じことですからね。 それぞれ半分は遊ばせる訳です。これでクロックとリセットの各入力端子はFlip-Flopごと独立にできたので問題は解決です。

 余った方のFlip-Flopが勿体ないのですが、このような置き換えでTTL-ICの時と同じように旨く動作してくれました。 これでDTL-ICでキーヤーを作ると言う目標はあっさりクリヤです。 まあ、論理回路なのですから「論理」の辻褄が合うように作ればちゃんと動いて当然ですよね。

 リベンジできたのでこれでオシマイでも良かったのですが「パーツ沼」の底をさらっていたら超古いDTL-ICらしき物体が発見されたのです。なので、以下は更なる続きです。

コラム:『TTLとDTL 』
キーヤーにTTL-ICが使われ始めたころ『TTLは高速なのでRFの回り込みで誤動作し易い』と言われたことがありました。今ではRFI対策を行なえば支障ないことが周知されていますが、当時はTTL-ICを嫌ってDTL-ICのキーヤーに戻ったHAMもあったと聞きます。確かに、DTL-ICの最高クロック周波数は低いのでRFの回り込みには幾らか有利だったのかも知れません。ただ、DTL-ICで作ったキーヤーの実物は回路図を含めてお目にかかったことはなかったように思うのです。DTL-ICはあまり流通しなかったので噂ほどには使われなかったのではないでしょうか? 1970年代中ころのお話です。

                 ☆ ☆ ☆

 【さらに初期の国産DTL-ICで
  最初は三菱のM5900シリーズのDTL-ICで出来たらおしまいにしようと思っていました。 しかし、使えそうなDTL-ICを探している途中で最初の写真にあるような日本電気製の超古いDTL-ICが出てきたのでした。それで何とか此れも使ってみたいと思ったのです。 引出しの奥から出てきたのはμPB2A、μPB3A、μPB7Aの三種類でした。

 そのDTL-ICは10ピンの金属缶パッケージに入っています。たぶん1960年代前半の製品でしょう。 まもなく60年前にもなる初期のデジタルICです。 μPB1AファミリはNEC日本電気が市販した最も初期のバイポーラ・デジタルICではないでしょうか? (1965年発売の半導体解説書には登場するのでそれ以前に開発されたようです)

 もともとハンダ付けの跡がある中古品でした。 まずは壊れていないか確認しました。NANDゲートのμPB2AとμPB7Aは簡単に調べられ全部大丈夫そうでした。 μPB3AはRS Flip-Flopなのですが、どうも様子がおかしくて壊れていそうです。 しかし数個ある全てが同じ症状と言うのもちょっと不思議です。

 やがてわかったのですがこのDTL-ICファミリは全てオープンコレクタ出力だったのです。参照した簡単な規格表にそのことは何も書かれていなかったのです。 結局どのICもプルアップ抵抗の外付けが必要なのでした。 まさかRS-Flip-Flopまでオープンコレクタ出力とは思いもよりませんでした。 初期のDTL-ICはまだ手探りだったのでしょう。ファンアウト、スピード、消費電力が出力端子のプルアップ抵抗で変わるため回路の自由度を上げる目的で外付け式にしたのではないでしょうか。

 古い古いDTL-ICの特徴がわかったので置き換えることができました。 JK Flip-Flopがないのが問題でしたが、RS Flip-FlopにCRを外付けしT Flip-Flopにする方法でこれも解決できました。写真はキーヤーの全貌です。以下、経緯など纏めます。

初期のDTL-ICで苦戦?
 さっそく最終的な回路図です。 ゲート、フリップ・フロップともに、すべての出力端子がオープン・コレクタ形式なのでプルアップ抵抗:RLの外付けが必要です。

 また、CRによる微分回路を外付けしてT フリップ・フロップを構成しています。このようなことからコンデンサ:Cと抵抗器:Rが増えました。この超古いDTL-ICを活用する以上やむを得ないでしょう。このμPB1Aファミリは電源電圧:Vcc=+6Vです。開発された当時はまだ電源電圧は+5Vと言う「常識」はなかったのでしょう。

 ほか、これはお遊びですが半導体は全て古いNEC製を使ってみました。 NPNトランジスタは2SC32です。PNPトランジスタにはゲルマニウムの2SB218を使いました。もっと近代的なシリコンのPNPもあったのですが時代を揃える意味でゲルトラを使いました。 ダイオードもNEC製で古い型式の小信号シリコンDi:SD101です。 ついでにキーイング・リレーもNECのリード・リレーを使います。 レトロな日本電気製の部品だけでキーヤーが作れました。(まあ、NECで揃えたからと言って大して意味はありませんけど)

 回路図の部品は1960年代末にはすべて存在した筈ですから、その当時、国産のDTL-ICを使ったキーヤーが作れた訳ですね。

備考:数に限りがあるようですが、μPB2AとμPB3Aがサトー電気で売ってます。どれも単価100円だそうです。各2個ずつあれば作れます。しかし、古くて珍しいと言うだけのもので他に何のメリットもないのでお奨めはしません。ゴミ扱いだから@100円なんです・爆 (2016年12月現在)

ある物を工夫して使う
 NEC製の古いDTL-ICだけでキーヤーが出来たらと思ったものの残念ながら肝心のJK Flip-Flopがありませんでした。 カタログにはμPB10Aと言うJK Flip-Flopも存在するのですが、私のジャンク沼には沈んでいなかったのです。

 最初はゲートの部分だけNEC製でFlip-Flopは三菱のM5900ファミリからでも良いと思ったのですが・・・何となくそれも残念です。

 左図・右下の様にRS Flip-FlopとゲートICを組み合わせてJK Fkip-Flopが合成できます。 しかしICの数ばかり増えて大変です。どうしてもダメそうならそれも考えたのですが・・・。 それにキーヤーの回路を見るとJ = K = Highに固定して単なる2分周器(バイナリカウンタ)として使っています。絶対にJK Flip-Flopである必要もないでしょう。

 RS Flip-FlopにCRを外付けすれば2分周器が作れることを思い出しました。 その方法でμPB3AがJK Flip-Flopの代用にならないかテストしてみました。 少しCRの値を加減したら旨く分周動作してくれます。 直接リセットする為にリセット端子も必要なのですが、μPB3Aは元がリセット・セット型のフリップ・フロップ(RS Flip-Flop)なのですから、余った入力ピンを使えばこれも簡単にOKでした。それに「セット端子」の方は使いませんから禁止されているR=S=Lowになって、Q=/Q=1や出力が「不定」になることもありません。これでμPB3Aが代替になった訳です。 なお、μPB3AがなければμPB2AあるいはμPB7AをRS Flip-Flopの形に外部で配線すれば同じように使えます。

 図の左上にDTL-ICの等価回路を載せておきました。回路は2入力のNANDゲートの例です。 但しμPB1AファミリのDTL-ICでは図のRLと言う抵抗器がすべて外付けになっているのです。 あとは概ね同じような等価回路でしょう。
 なお、EXPと言う端子は「エキスパンダ」端子です。これはダイオードを必要な数だけ外付けすれば任意の入力数のゲートが作れると言ったDTL-IC特有の便利端子です。 従って多入力のゲートは必要なくて、入力数を増やしたいならダイオードの外付けで間に合わせることができます。μPB2AにあるEXP端子はキーヤー回路には不要なので遊ばせておきます。

DTL-ICキーヤー:左半分
 写真左側に古いNEC製トランジスタ、2SB218と2SC32(2個)を使ったクロック発振器があります。

 2SC32と言えば、その昔50MHzトランシーバの終段増幅に使いましたね。 50MHzで数100mWのパワーが出ましたからHAMの間ではファイナルの石として有名でした。メーカーのカタログにもVHF帯まで使える中電力のRF用デバイスと書いてあります。 しかし当時の一般的な(工業的な)用途を調べると、どうやら汎用のシリコントランジスタの扱いだったようです。 いまで言うところの2SC1815のような存在でしょうか。要するにゲルトラで満足できない時はどんな回路にでも使ったようです。まだ汎用に使えるシリコンの小信号用トランジスタが無かったのでしょう。このような低速パルス回路に使って何も不思議ではありません。

コラム:『2SC32と2SC945』
2SC32研究家のJG6DFK/1児玉さんに伺ったお話です。児玉さんのご友人によれば『2SC32を半分にしたのが2SC945』とのこと。 汎用の小信号用トランジスタとしては半分くらいが丁度良いと言うニーズが多かったのでしょう。2SC32が祖先ならRFにも向いた汎用トランジスタとして2SC945が重宝されたのもわかります。実際、2SC945は2SC32(但し新型のほう)の半分と良く似た特性です。ちなみに写真の黒い2SC32は1964年製の旧型です。

 クロック発振器の右にはμPB3Aを使った分周器が2つ並びます。 一つ目でクロックパルスの周期に従い短点とスペースの長さを決めます。 もう一方で更に分周し続くゲートでORをとって三つの短点分の長点を合成するとともに短点一つ分のスペースを作ります。 動作は先のTTL-ICの説明と同じです。

 μPB3Aの部分にはCRによる微分回路やプルアップ抵抗があるのでアナログICのように見えます。 この辺が在り合せのDTL-ICで構成する上で工夫を要した部分でした。 趣味の電子工作だから良いものの、仕事のお方にはつまらん工夫と言われそうですね。

DTL-ICキーヤー:右半分
 長点を合成するORゲート(負論理)とクロック発振器を制御するゲートなどが並んでいます。いずれもμPB2Aを使っています。型番捺印は古い書体です。

 後に続く回路の状態に応じてプルアップ抵抗:RLを変えています。 ファンアウトが1で済むところは4.7kΩ、負荷が重いところは2.2kΩにして十分な論理レベルが確保できるように加減しました。同時に消費電流の低減もできました。

 リレードライバは2SC32です。 すこしhFEが小さいようですが取りあえずリード・リレーがドライブが出来ています。 なるべく高感度なリレーが良いのですが写真のNEC製リード・リレーの電流は多めです。ぎりぎりドライブできると言った状態でした。 無理そうなら2SC32を2つ使ってダーリントン接続にすれば良いでしょう。

 パドルが接続される部分はダイオードを使ったOR回路になっており、クロック発振器のスタート・ストップをコントロールします。 この部分の黒いダイオードはNECのSD101ですが、まあここは小信号用のシリコンDiなら何でも大丈夫です。1S1588とか1S2076Aで十分なんですがネ。

 【クロック発振器で味がきまる?
 正確に言うとクロック発振回路に使うPNPトランジスタでキーイングの感触に違いがあるんですよ!?

 写真では2SB218を使っています。 2SB218はゲルマニウム・アロイ型のPNP型トランジスタです。 もともとスイッチング用に作られたトランジスタなので旨く働いてくれます。

 ところがシリコンのPNPトランジスタ、例えば2SA1015Yなどと比較すると、どうもキーイングの感触に違いを感じるのです。 クロックの波形を観測してみると、ゲルトラだとパルス幅が30μSくらい広くなるようでした。 PNPシリコンでは負方向へ向かう狭いパルスの幅は40μSくらいですが、2SB218では約70μSに広がります。 たった0.00003秒の違いが人間の感触として捉えられるとも考え難いのですが、キーイング・スピードを上げてパドル操作が早くなると、パドルを離すタイミングで微妙に効いてくるのかもしれません。

 最初はまさかと思ったのですが、どうも(低速な)ゲルトラを使うと符号ミスが増えていま一つな印象がありました。 比較のため同じゲルトラでも高速なMesa型に交換したらパルス幅はずっと狭くなってキーイングの感触も変わります。 結局、スイッチングスピードが遅いアロイ型のゲルトラはどうもイマイチみたいなんです。 クロック周波数が僅か数10Hzのキーヤー回路でトランジスタのスイッチング速度の差を体感するなんて思いもよりませんでした。 まあ慣れれば何とかなる程度のごく僅かな違いなんですけれど・・・。

使った石の種類でキーヤーの打ち味が変わるとは面白いね。

いまどきリードリレーでもないが
 リードリレーはHAM局にはあまりお馴染みでないかもしれません。 リードスイッチと言う磁気に感じるスイッチを使ったリレーです。

 特徴は高速なことにあります。ON/OFFが1mS以内で可能です。 極端なところ、1kHzでON/OFFできるほどです。 但し、機械的な寿命があっという間に来てしまうのでそのようなお遊びはお奨め出来ませんけれど・・・。

 また接点が不活性ガス中に密封されているので酸化や汚れによる接触不安定が殆どありません。 欠点は接点の電流容量があまり大きくないことと、OFF時の耐電圧がやや低いことにあります。

 高速動作が可能なのでキーイングリレーには最適です。 真空管のカソード回路を直接キーイングするのは無理ですが、ブロッキングバイアス式のキーイングなら支障ありません。 開閉寿命は数100万回あるので普通にオンエアするならまず交換する必要はないと思います。 接点に無理を掛けないのがポイントなので、開閉電圧が高い時は接点保護にスナバ回路など入れておくと良いかもしれません。 機械的なリレーですから接点の開閉で幾らか動作音がします。

 写真上側のような円筒タイプは古い形式です。 Photo-MOSリレーの登場で活躍の場も少なくなっていますが、よく使われるのは手前のDIPタイプです。これは14ピンのDIP型ICと同じサイズです。 動作電流も10mA前後と高感度なのでドライブは容易です。 ドライバを介さずマイコンのポートから直接駆動できます。 OFF時の接点間キャパシタンスが小さく、RF用スイッチや測定器など小電流の開閉に最適です。

 やはり、機械的な接点ですからチャタリングは皆無ではありません。 どうしてもチャタリングが支障になるなら水銀接点型のリード・リレーもあります。

参考:入手容易なリードリレーとして秋月電子通商のこれ(←リンク)が見つかりました。 5V10mAで動作するのでちょっとした回路の開閉には便利です。マイコンから直接駆動できます。 すごく安いので信頼性などは国産品に及ばないかも知れませんがキーヤーのような用途なら支障ないでしょう。

                 ☆ ☆ ☆


DTL-ICでキーヤー:ムービー】(注意:音が出ます)



 キーヤーで恒例(?)のムービーです。 リレーをドライブする代わりに圧電ブザーをON/OFFしています。 実際にパドルを繋いでキーイングしてみました。 長短点メモリーがないので長短点が出たのを見計らって次のパドル操作をします。なので超高速キーイングには向きません。しかしムービーの速度くらいなら余裕で可能でした。 HAMバンドをウオッチすればわかりますが、他局に合わせた早さで支障なくキーイングできます。簡単なキーヤーですがごく当たり前に実用になるでしょう。

いずれブレッドボードの試作から脱却してハンダ付けで製作します。

参考:写真のシングルレバー式パドル:Hi-Mound MK-701はJR7HAN:花野さんがシャックをリニューアルされた際にお譲り頂きました。シンプルで扱い易いパドルで愛用致しております。 VY-TNX! JR7HAN

                  ☆

 パーツ沼の「底さらい」から始まったノスタルジックなお遊びです。 部品の入手に難点がありますから、そっくり真似てNEC製DTL-ICで作るのは難しいでしょう。

 しかし最初の動作検討に使ったTTL-ICのキーヤーなら今でも難なく作れます。 回路図通りのSN7400NやSN7473Nと言った古いTTL-ICもまだ手に入ります。 もしそれらのスタンダードTTLが難しければ74LS00と74LS73と言ったLS-TTLファミリでもOKです。 さらにC-MOSの74HC00と74HC73でも大丈夫なよう考えておいたのでHC-MOSファミリでの代替もできるでしょう。 近代的なマイコン式と大して違わぬ実用的なキーヤーが作れます。もしもエレクトリック・キーヤー未体験でしたら作ってみたら面白いでしょう。

 その上でCWのオンエアにハマってきたら長短点メモリ付きなりマイコン式なりのキーヤーを製作したら良いです。その頃にはキーヤーの良し悪しもわかる筈です。 なお、どんなに良く出来たキーヤーでも初めは上手く打てません。 30分も練習すれば誰でも上手になります。 一度エレクトリック・キーヤーを覚えるともう過去には戻れなくなりますけれど・・・。hi

                 −・・・−

 パーツ沼を覗き込んで、古い半導体の悲哀を感じてしまいました。きちんと動作する機器が作れるのにほとんど無価値な存在になっています。 真空管なら中古品でも十分価値が認められ高額取引されることも珍しくありません。 しかし古くなった半導体にそんなんことはまず稀です。どうやら頃合いを見てきれいサッパリ整理するしかないようです。その前に少しでも使ってやるのが供養と言うものでしょうか? この先も部品供養の製作が続きそうです。

 2016年もありがとうございました。良いお年をお迎えください。新年の挨拶に代えさせて頂きます。 ではまた。 de JA9TTT/1

(おわり)nm

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2016年12月14日水曜日

【部品】Tube Sockets BB Adapters

ブレッド・ボード用真空管ソケット変換基板
 【変換基板:組立済み
 しばらく前から使えるかどうか気になっていたパーツです。 主役は真空管やソケットではなくて、グリーンの変換基板です。

 普通の真空管回路は高電圧なのでブレッドボードでのテストは不安を持っていました。 またヒータやフィラメントの電流も大きめなのでブレッドボード向きとは思えません。 電池管やカーラジオ用12V管なら良いかも知れませんが・・・。

 先入観に囚われず試してみたいと思って変換基板とそれ用のソケットを買ってきました。 写真は組み立てた状態と、真空管を装着した様子です。 これらのソケットはピンサークル中央のセンターポールが無いため、ピン間のシールドは良くないですから低周波向きでしょうね。 ピンを一列に引き出すことからも高周波で使うのは厳しいかもしれません。

 この状態にするには:(1)変換基板の他に(2)真空管ソケット、(3)細ピンヘッダが必要です。 使用する真空管の種類に応じて9ピン用あるいは7ピン用を製作します。 いずれのパーツもお店に置いてあるので忘れずに入手します。特に真空管ソケットは一緒に購入した方が良さそうです。基板パターンと合わないと困りますので。 パーツが揃ったらハンダ付けで組み立てれば完成です。

参考:新品ソケットの扱い:
新品の真空管ソケットは馴染んでいないため勘合がきつくて真空管の足ピンに無理な力が加わることがあります。無理をすれば割れたりクラック(ひび)が入るかも知れません。 まずは万一割れても支障のない真空管を用意して数回抜き差しします。ソケットが馴染んできてから本番の球を装着します。貴重な球が『空気管』になったら泣きです。w

変換基板の使用例
 ブレッドボードに装着してみました。
9ピンの方は変換された列間隔が広いため、この例では2つのブレッドボード間を跨ぐ形に装着しています。写真の左側がそれです。

 1つのボードに載せるのも可能ですが変換基板の下側を通して引き出す必要があって配線しにくいように思います。写真のような使い方が合理的に見えました。 一方、写真中央の7ピンの方はピンがすべて片側に引き出されているので1つのブレッドボードに問題なく装着できます。

 このあと具体的に何かの回路に使ってみることにしましょう。 構造からみて製作する回路には向き不向きがありそうです。 真空管回路はインピーダンスが高めになることから、低周波回路とは言えどもハイゲインなアンプは難しいでしょう。 HUMの誘導や発振の危険を伴います。 Low-μな球を使いゲインの小さな低周波回路なら良さそうで、例えばヘッドフォンアンプの一部分に使うなどの目的なら大丈夫でしょう。 12AU7あたりがお奨めの球でしょうか?

 いずれにしても引出しパターンが長いことから高周波回路は厳しいです。 まあ、簡単なAMラジオくらいならたぶん大丈夫な範囲でしょう。 発振で手がつけられなくても困りますから、High-gmな球はやめておいた方が良さげです。 6BD6あたりなら安心かな?
 ブレッドボードの「耐電圧規格」を目にしたことはありませんが、100Vや200Vなら十分可能そうに見えます。 感電しないように注意しながら普通の真空管回路に使ってみましょう。

                   ☆

 特に12月だからといって他の月と違いは無いはずですが、何となく気ぜわしくなってきます。 年賀状書きとか大掃除などあって、幾つか余分な用事も増えるのも確かです。 まごまごしているとBlogをパスすることにもなりかねません。hi hi
 真空管用ブレッドボードパーツを用意してお正月はお炬燵で手軽な球遊びなど如何ですか? タイムリーになるよう紹介しておきました。(爆)

 何んでも彼んでもブレッドボードで済ませる訳にも行きません。 ハンダ付けできっちり作らないとちゃんとした性能は出ないことも多いでしょう。 何か実用品を作ろうとは思いませんが思い付きをちょっと実験するには重宝です。 それで「真空管用変換基板」を買っておきました。組み立てておけばすぐに使えます。
 これで具体的に何をしようと言うアテも無いのですが真空管が懐かしくなったら使ってみましょう。 ・・・と言う訳でまだ何を作るかまったくの白紙です。 さて、何を作りましょうかねえ?? ではまた。 de JA9TTT/1

(おわり)fm

2016年11月29日火曜日

【部品】Dual Gate FETs

【高周波用デュアル・ゲートFET 今昔】

 【3SK22-BL
 この3SK22と言うFET(電界効果トランジスタ)は「デュアル・ゲートFETなんですか?」と聞かれることがあります。その裏には3SK35や3Sk59などの代わりに使えるのだろうか?・・・と言う期待があるのかも知れません。

 一応3SKと付いてますから4電極の・・・すなわちデュアル・ゲートFETの仲間と考えて良いでしょう。 但し、次の時代に登場した3SK35のようなMOS構造のデュアル・ゲートFETとは構造の違う別物なのです。ですから代替品にはなりません。 言うまでも無いでしょうが、デュアル・ゲート FETとはゲート電極が2つあるFETのことです。

 3SK22はMOS構造ではなく、ジャンクション型(接合型)のFETです。 しかし接合型・MOS型を問わず普通の小信号用FETならペレット(半導体の小片)の表面側に作ったゲートの他にサブストレート(表面より下の基体部分)の側に副次的なゲートが(自然に)できるのです。 これをサブストレート・ゲートと言いますが普通は内部でソース電極に接続するか、表側のゲートと結んでしまいます。 サブストレート・ゲートを第2ゲートとして独立させて足ピンに引き出すことは稀なのです。 この3SK22はその稀なJ-FETです。 足ピンに引き出された第2ゲートが外装ケースと共通なのはサブストレートはケースに貼り付いていて不可分だからです。 従ってサブストレート・ゲートをソース電極に結んで使えば一般的なシングルゲートの高周波用J-FET・・・例えば2SK192Aなどと同じになります。

 今となってはサブストレート・ゲートを引き出す効用はあまり無いように思います。 表側のゲート(正規のゲート)と比べて性能が良くないからです。 また構造から見てもドレインと第1ゲート(表側の正規のゲート)の間を遮蔽する効果はないので、帰還容量:Crssは低減されません。 従ってこの3SK22は高周波増幅回路ではCrssの「中和」を行なわないと発振することがあります。

 3SK22の後に登場したデュアル・ゲートMOS FETのお陰で存在意義は無くなったものと思います。 まれに第2ゲートの方に局発を注入するミキサ回路を見掛けますが、そのような回路例はかなり古い設計なのでしょう。 3SK35のようなデュアル・ゲート MOS-FETの方が使い易く性能も良いのであえて3SK22で何かを作って見るほどの魅力は感じられません。

 3SK22はSSBトランシーバのVFOによく使われていました。(例:TS-510やFTDX-401など) これはパッケージが金属製なので熱伝導が良く、熱的な平衡状態に短時間で達するからだと思います。電源投入後の初期変動が早く落ち着くのでしょう。 デバイスの電気的な性能では2SK192AなどシングルゲートのJ-FETと違いはないのですが、VFOのようなデリケートな用途ではパッケージ構造の違いが現れたものと考えられます。

FM Tuner Front end
 3SK22を使った回路を紹介してこのFETのことは忘れることにしましょう。(笑) 左図はFMチューナのフロントエンド部分です。
 アンテナから入ったFM放送波は3SK22で高周波増幅されます。 この回路ではドレイン側の負荷インピーダンスをかなり低くとってゲインを抑え気味にすることで中和ナシで済ませています。 ミキサにも3SK22を使えば有利だった筈ですが、登場した当時は高価だったので高周波増幅だけに使ったのでしょう。

 局発回路が自励発振ではHAM用としては不適当ですが水晶発振器に置き換えればクリスタル・コンバータ(クリコン)になります。 このままの回路構成でも50MHzあたりでしたらマズマズの性能を発揮してくれるでしょう。 しかし3SK22を持っているなら別ですが、新規に購入するくらいならこの回路はお奨めしません。 それに2SK241や2SK544に置き換えてやれば同じように作れますし中和も要らなくて性能も向上しますから・・・時代遅れでしょうね。

MFE3007
米国では高入力インピーダンスのデバイスや高周波用としてMOS-FETの開発に国防省の研究予算が付いていたそうです。 かなり長い期間研究されたようです。 最初のころシリコンで作るのは困難だったようでセレン:Seやカドミウム:Cdなどを使ったMOS-FETの試作が試みられていました。1960年前後の話しです。 しかし、いずれもデバイスとしての特性安定性や寿命などの点で実用にならず実験室の域を出なかったようです。

 その後、シリコンで作れるようになってMOS-FETが実用になりました。 最初の頃はシングルゲートのMOS-FETも作られたようですが、帰還容量:Crssが大幅に低減でき高周波増幅が容易になることからデュアル・ゲートMOS-FETが主流になりました。

 初期のころ国産品は量産が遅れたようで手に入ったとしても高価なデバイスでした。 しかしニーズはあると見てか今の秋月電子通商、かつての信越電機商会に米国製のデュアル ・ゲート MOS-FETが登場しました。それがこのMFE3007(モトローラ製)でした。 デュアル・ゲート MOS-FETは米QST誌の記事やCQ誌の「技術展望」などで紹介されており、高周波増幅に於ける優位性が強調されていたので注目されたのです。

 さっそく手に入れたのですが初めて手にするデバイスとあって神経質なくらい気を使いました。 たぶん国産品より安価だったと思います。それでも一般的なトランジスタより高価だったのでしょう。静電気にたいへん弱いとされ素手で触っただけても壊れると言われるほどで、ハンドリングは容易ではなかったのです。 静電気保護のために各電極が短絡されるよう写真のようなハトメに足を通して売られていました。

 具体的に何を作ったのかは覚えていませんが、性能云々よりも使いにくいデバイスと言う印象が残りました。 現実には乾燥した季節なら気をつけるべきでしょうが、そこまで静電気に神経質にならなくても大丈夫だったように思います。 もう少しリラックスして使えたら印象も変わったでしょうね。(笑)


3SK45-B
 初期のデュアル・ゲート MOS-FETの問題はゲート酸化膜の静電気破壊にあったことは間違いありません。 やがてゲート保護用のダイオードが内蔵されるようになって一気に普及したように思います。 極端な話し保護のお陰で扱いは一般的な半導体とさして違わなくなったからです。 米国ではRCA社の「40673」が非常にポピュラーになりました。

 国産品では3SK35(東芝)あたりが初期の量産品のようですが、各社から類似の製品が一斉に登場しました。 写真の3SK45(日立)もその一つです。 主にFMチューナのフロントエンド、TVのVHFチューナ部分への利用を目的に作られたようです。当時の民生電子機器の事情を反映したものでした。

 VHF帯の無線通信が盛んになり、またFM局やTV局も次々に開局するに及んで相互変調や混変調と言う「多信号特性」が問題になりました。FCCによる基準もあったようで特に米国に輸出する機器では重要でした。 感度的には従来のバイポーラ・トランジスタでも十分だったのですが多信号特性が満足できなかったのです。 FETの伝達特性はほぼ二乗特性であるため指数関数的なバイポーラ・トランジスタよりも多信号特性は有利です。 ニーズから半導体各社とも一気に高周波用MOS-FETの開発が進んだようです。

  最初は高価だったデュアル・ゲート MOS-FETも入手容易になりました。高周波増幅に一つくらい使うのが精一杯だったのが、やがて中間周波増幅を含め高周波の各所に使えるようになりました。 有名な「熊本シティスタンダード」では随所に使われており「これから高周波はデュアル・ゲート MOS-FETだなあ」と思ったものです。

 しかし、第2ゲートにAGCを掛けるRFアンプとかミキサ回路のようにゲートが二つある特徴を活かした使い方なら別ですが、単なる増幅には第2ゲート部分の部品が増えると言う欠点もあったのです。 そのため少ない外付け部品で済む2SK241のような内部カスコード構造のRF用MOS-FETが登場しました。 ですから今ではデュアル・ゲートの特徴を活かした使い方でもない限り、2SK241、2SK439、2SK544のような内部カスコード構造のシングルゲート FETで十分と言うことになります。

備考:ハンダ付けに注意を!
危ないのは静電気だけではありません。 ハンダ付けツールの進歩で心配は減りましたが、ハンダ鏝によってはAC100Vの漏れ電流が存在します。それが危ないのです。 電子回路用として主流になっているセラミックヒータのハンダ鏝なら概ね安心です。 しかし近所のホームセンタを見ていたら雲母板にニクロム線を巻いたヒータ構造のハンダ鏝が売られていました。こうした昔ながらの構造のハンダ鏝は漏れ電流が多いことがあって半導体回路には不適当です。 ハンダ付けしただけで大切なFETやICを壊してしまう恐れがあります。むしろ静電気よりも危険です。

TRIO TS-520のRF Unit
 FETを積極的に使った無線機の例を紹介しておきましょう。各種FETの上手な使い方を知るのにはうってつけです。

 左図はTRIO(現在のKenwood社):TS-520のRFユニットです。高周波増幅だけでなくミキサにも3SK35や3SK41を使っています。 この時代のSSBトランシーバは真空管時代の影響が色濃く残っていました。 真空管とのハイブリッド構造と言うこともありますが、真空管時代と同様の回路構成になっていたからです。 そのため入力インピーダンスが高く、真空管(五極管)と類似の回路形式で使えるFETは重宝されたのです。

 FETの活用と言う視点で見るとTS-520は大変面白い回路になっています。 まず、送信ミキサーですが3SK41を使った理由は何でしょうか? 3SK35のIdssが大きめの物でも良かったように思います。送信部のミキサーですからNFは関係ないので、両者に殆ど違いはないからです。部品メーカが偏らぬよう配慮したのでしょうか? ちょっと興味を惹かれる部分です。
 TS-520の10MHz:JJY/WWV受信回路は独立していてこの部分には3SK22が使われています。独立させたのはバンドスイッチを安く上げる工夫でしょう。 この部分はシビアな性能は求めない補助的な回路なのでコストダウン目的に3SK22を使ったのでしょうか。 3SK35の登場で時代遅れになった3SK22なら幾らかリーズナブルだった筈です。 なお、バンドスイッチの位置にかかわらずボタン一つでJJY/WWVが受信できる機能はFBだと思います。

 受信ミキサ回路での使い方も面白いと思います。 一般的にデュアル・ゲート MOS-FETのミキサ回路では受信信号を第1ゲート、局発信号を第2ゲートに加えて使います。 その方がNFが小さく変換ゲインも大きくとれるため有利だからです。 しかしTS-520では局発を第1ゲート、信号は第2ゲートと逆になっているのが目に留まるでしょう。

 これはミキサのゲインが過剰にならぬよう配慮したためと思われます。 TS-520のようなダブルコンバージョン形式の受信部はクリスタルフィルタ以前の帯域が広い部分でゲイン過剰になり易いのです。 真空管と比較してMOS-FETはかなりHigh-gmなので安易にやるとゲインオーバになるので特に注意を要します。 真空管よりも電源電圧が大幅に低いこともあってアンプやミキサが簡単に飽和してしまいます。 定石通り普通に使ったのでは多信号特性が満足できなかったのでしょう。 それで信号を第2ゲートに加えることで変換ゲインを抑えるよう工夫したものと考えられます。 ゲイン配分とデバイスの特性を良く検討してあると思いました。 八重洲無線のFT-101よりも後から登場しただけのことはあるようです。

Collins 651S-1AのSSB/CW復調回路
 デュアル・ゲート MOS-FETが活かせる回路の一つに「プロダクト検波」があります。

 左図はCollinsのプロ用受信機:651S-1AのSSB/CW検波回路です。 3N141と言うデュアル・ゲート MOS-FETを使って検波しています。 初めて見たとき、このような回路で復調歪みほか満足な性能が得られるのか心配になりました。 しかしそれは杞憂であって実際にはとても旨く働きます。復調音もなかなか良好です。

 SSB検波と言うとSA612やMC1496のようなDBMをすぐに考えたくなりますがデュアル・ゲート MOS-FETのプロダクト検波でも十分満足できる性能が得られます。 実際にDC受信機や自作受信機のSSB検波に使いましたが不満はありませんでした。 SSB送信機のようにキャリヤ・サプレッションを必要とするならDBMに限ります。 しかし受信機の検波回路にその必要はありません。 今でも「プロダクト検波」はデュアル・ゲート MOS-FETの特徴が活かせる回路の一つだと思っています。 BFOの注入レベルがキーポイントになります。

シンプルなRFプリアンプ
 デュアル・ゲート MOS-FETの手持ちがあったら使ってみたくなるでしょう。 左図のようなプリアンプは如何ですか?

 こんな簡単なアンプでも20dB以上のゲインは簡単に得られます。 しかもノイズ・フィギャも良好です。 感度不足の受信機に付けたら効果的です。 FETは図の3SK35のほか、3SK39、3SK41、3SK45、3SK48、3SK51、3SK59、3SK73、etc・・・どれでも同じような性能を発揮します。 図の端子1と端子2の間に電流計を接続し5〜10mA程度の電流が流れるようにバイアス回路の抵抗器:4.7kΩを加減してやればOKです。 入出力のコイルはトロイダルコアに自身で巻けばベストですが、FCZコイル(および互換品)でも「まあまあ」でしょう。

 なお、このあと説明する「エンハンスメントモード」のデュアル・ゲート MOS-FETの場合は第1ゲートにも正のバイアス電圧を加えて同じ程度のドレイン電流が流れるように使えば同等の性能が得られます。

こうした「プリ・アンプ」の注意点を書いておきます。
 現在市販されているHAM局用のトランシーバのような近代的な無線機に後付けの「プリアンプ」は不必要です。 付ければSメータの振れは良くなりますが「感度」は改善されません。聞こえなかった局が聞こえるようになる可能性はほぼゼロです。(まあ、アンテナが劣悪なら別かもしれませんが・笑)
 逆に、改善どころか多信号特性は確実に劣化します。 近隣の周波数で強い局がオンエアすればいわゆる「かぶり」が酷くなります。 その強い局が悪いからではありません。余分なプリアンプなど付けた自分が悪いのです。
 従って、こうしたプリアンプが効果を発揮するのはもともと高周波部分のゲインが不足しているような簡易な受信機に限られると思って下さい。 それ以外の近代的な無線機には「有害無益」な付加装置だと思って間違いありません。
 無線局に於いて聞こえを良くするには「アンテナの改善」が第一です。 付加回路で補えることには限度があるのです。

追記Pri-Ampはどんな時に有効か?
最近のRigで運用するならHF帯ではPri-Ampの必要性はまずありません。Pri-Ampが効果的なのは以下のようなケースです。
(1)非常に旧式の受信機;特に21〜28MHzといったHF帯ハイバンドで感度低下があるような古いリグで効果があります。例えば、TS-510やFT-400と言った真空管時代のリグです。それ以降のリグではまず必要はありません。調整がずれたようなRigは論外ですが。(笑)
(2)VHF帯でケーブルロスがある場合;50MHz以上になると同軸ケーブルの信号ロスが目立ってきます。そのような場合、Pri-Ampをアンテナ直下に置くことで事実上ケーブルロスが無視できるようになります。Rigの近くに置いたのでは意味ないので、なるべくアンテナの直近に置きます。

3SK103
 金属Canパッケージに入っているようなデュアル・ゲート MOS-FETはすべて廃止品種でしょう。

 ニーズの減少でデュアル・ゲート MOS-FETは淘汰されつつありますが、まだ幾らか手に入ります。 写真の3SK103は比較的入手し易い品種です。 但し近ごろのFETでは「エンハンスメント・モード特性」のFETが多いので注意が必要です。
参考:2016年11月現在、秋月電子通商(←リンク)で販売されています。(販売終了)

 このFETも上で説明しているような各用途に使えるるのは勿論ですが、バイアスの与え方に注意します。 一般に第2ゲートにはドレイン電圧;Vdsの1/3〜1/2程度のバイアス電圧を与えます。例えば電源電圧が12VならG2へDC4〜6Vを与えれば良いわけです。 その上で従来型の「ディプレッション・モード特性」のFETでは第1ゲートのバイアス電圧は負もしくはゼロで使います。 ソースとGND間に抵抗が入っていれば第1ゲートは負のバイアスが掛かっています。その状態でソース抵抗の大きさでドレイン電流を加減します。
 しかし、3SK103のようなエンハンスメント・モードのFETでは、そのように使うとドレイン電流は殆ど流れません。流れたところで数10μAくらいのものでしょう。これでは旨く増幅してくれません。

 3SK103のようなFETの使い方ですが、まず第2ゲートのバイアス電圧はそのままで大丈夫です。 第1ゲートに正の(要するにプラスの)バイアスを与えて所定のドレイン電流が流れるようにするのです。 正のバイアス電圧は電源電圧を分圧するなどの方法で得てから、高抵抗を通して第1ゲート加えてやれば良いです。特に難しくはありません。 そのようにして使えば同等の性能が得られます。なお、電源電圧(ドレイン・ソース間電圧:Vds)が特に低くない限りソース抵抗:Rsは省略しない方が無難です。

 プロダクト検波の場合、第1ゲートのバイアス電圧を加減して1〜2mA程度のドレイン電流が流れるように調整すればOKでしょう。 ミキサー回路も同様の調整で旨く行きます。 エンハンスメント・モードのデュアル・ゲート MOS-FETもバイアスの与え方でドレイン電流を調整すれば良いのですから毛嫌いせず有効活用したいものです。

3SK294
 比較的新しいデュアル・ゲート MOS-FETを紹介しておきます。 上で扱った3SK103はだいぶ古くなったデバイスでした。既に生産は終了している筈で、たまたま何所かに在庫が沢山あったので手に入り易くなっているのだと思います。 それほど長くは続かない筈です。

 写真の3SK294(東芝)は現行のデュアル・ゲート MOS-FETです。 表面実装用のパッケージに入っているので少々扱い難いのですが当分入手には困らないでしょう。 10個230円にて秋月電子通商(←リンク)で購入できます。 VHF帯までの高周波増幅用としてなかなか高性能なデュアル・ゲート MOS-FETです。性能から見て安いと思います。特に帰還容量:CrssがfF(フェムト・ファラド=1/1000pF)のオーダーなのはとても素晴らしいです。ドレイン:Dと第一ゲート:G1が良く遮蔽(シールド)されている証拠です。このくらいになると使いかたの方が問題になりますね。
 なお、この3SK294も「エンハンスメント・モード特性」なのでバイアスの与え方に注意して下さい。 それさえ注意すれば従来からの回路に使えるのは勿論です。 なかなか高性能ですから推奨できる現行のデバイスだと思います。 できたらパッケージに合わせて表面実装で使いたいですね。

YAESU FTDX-5000の1st Mixer
 最後に3SK294が実際に使われている例を示しておきましょう。 左図は八重洲無線のトランシーバ:FTDX-5000の第1ミキサー付近です。
 FTDX-5000では3SK294を4つ使ってスイッチング・タイプのDBMを構成しています。 非直線特性あるいは二乗特性を使ったミキサー回路と言う使い方ではありません。 局発信号によって各FETをON/OFFさせるコミュテーティング・ミキサ(Commutating mixer)と言う回路のスイッチ素子として使っているのです。 このような回路形式の方が歪特性に対して明らかに有利だからです。 従来はJ-310あるいはSST-310と言ったJ-FETが使われてきましたが、3SK294の方が幾分スイッチ素子として優れているのでしょう。エンハンスメント・モード特性のデバイスなのでこのような回路に使い易いのは確かです。

 もう10年数年も前になりますがFST3125(e-エレに少量在庫あり)のようなBus-SWのICを使った高性能ミキサをテストしたことがありました。その結果、3次のインプット・インターセプト・ポイント:IIP3は40dBm以上と言う高性能が確認できたのです。 だいぶ時間はかかりましたが、昨今のメーカー機でもスイッチング・デバイスを使ったCommutating mixerの有利さが(やっと)認識され積極的に採用されるようになったことは喜ばしいことです。このミキサ回路は受信性能の向上にずいぶん貢献した筈です。 比較する意味もありませんが、ビーム偏向管:7360のミキサなどもう完全な時代錯誤になりましたね。(でも好きですけれど・爆)

 なお、Kenwood社がBus-SWを採用して高性能化しているのに対し八重洲無線はそれとの差別化の意味から3SK294を使ったのではないかと想像しています。 ON抵抗が小さくてしかも高速動作できることから使ったのでしょう。デバイスは違っても回路に使う目的はまったく同じです。 Commutating mixerにはD-MOS FETが最適ですが製造しているメーカも製品の種類も限られます。 量産品として性能/コストで優れることからBus-SWや3SK294を採用したのでしょう。(想像です・笑) 蛇足ながらBus-SWの中身はD-MOS FETです。ゲートドライブのインターフェース回路を考えただけでも外付け部品は必要ないのですからずっと使い易いです。自作にはBus-SWの方をお奨めしたいです。

                   ☆

 少し前のBlogにデュアル・ゲート FETを扱った企画を検討中と書いたら思わずたくさんのコメントを頂き驚きました。 最近の懇親会でも「アレはどうなったの?」とご質問を頂きました。半ば過去のデバイスのように思っていましたが今でも意外にポピュラーなのでしょうか?  いよいよ年末も迫ってきたので年を越さぬうちに扱うことにしました。(笑)
 デュアル・ゲート FETは、これまで様々な場所に使ってきました。従ってこのBlogの為に新たな実験はありません。読み物風に終始しましたがお楽しみ頂けたでしょうか? 何か書き忘れたこともあったかもしれません。 面白いテーマでも思いついたら、いずれ実験も交えて扱ってみたいと思っています。

 ご覧頂いたように、デュアル・ゲート FETのニーズは限定的になっているように感じます。 増幅素子として過去のように重宝されることは無いかもしれません。 しかし、用途によっては威力を発揮するのも確かです。2つあるゲートが有効に機能するような回路には「うってつけ」だからです。 上には書きませんでしたが再生検波回路に使ってみたところなかなか良好だったと言うような経験もあります。

 1980〜90年代にポピュラーだった3SK59や3SK73のような古い品種はずいぶん値上がりしています。手持ちがあれば別でしょうが探して新たな製作に使うメリットはないと思います。 しかし新しい世代の(但しあまり知られていない)品種なら安価ですしRFデバイスとして性能も一段と向上していますす。 ご紹介した3SK294以外にも幾つか存在します。 データシートを片手に構想を煉って積極的に使ってみたら面白いでしょう。

 なお、単なる高周波増幅やIFアンプでしたら2SK241、2SK439、2SK544のような内部カスコード構造の高周波用MOS-FETが向いています。 外付け部品が少なくスッキリした回路が作れるのでそのような目的にデュアル・ゲート MOS-FETの出番は無いと思っています。 ではまた。 de JA9TTT/1

参考:デュアル・ゲートFETを使ったRFアンプの設計とその成績を扱った続編のBlog(←リンク)があります。詳しい活用方法はそちらもご覧を。

(おわり)nm

2016年11月14日月曜日

【部品】Over Driving an AD9834 DDS-IC , Part 3

【部品:AD9834 DDS-ICのオーバードライブ・第3部】
 【AD9834はどこまで使えるのか?・追試
  AD9834に与えるクロックの上限周波数はどこなのか?・・・と言う実験の追試です。

 前回のテスト(←リンク)では約110MHzと言う取りあえずの結果が得られました。 しかし、GNDと電源系に幾つかの対策を行なうことで更に延ばせるのではないかと言うご意見を頂いたのです。

 そこで、DDS-ICのGNDピンを最短距離でGNDラインに接続し、Digtal系とAnalog系の電源端子をGNDラインに向かって最短距離でバイパスするなどの対策を行なってみました。

 テスト方法は前回と同じなので、詳しくはリンクを戻って確認して下さい。 簡単に説明すると、Clockは外部の信号発生器(SSG)から与えています。 与えるClock信号はレベルを変えて最適化します。 その状態でDDS-ICから得られた出力信号の波形とスペクトラムを確認して正常な動作が可能な上限クロック周波数を探ろうとするものです。

結論を先送りする意味も無いので先に書いてしまいますが、AD9834のクロック周波数上限は、やはり110MHzです。但し、これは私なりの結果と言うことです。以下、簡単ですがそれに至る過程です。

                   ☆

 Analog Devices 社のDDS-IC:AD9834の活用範囲を拡大する目的でテストをしています。このBlogは自身で参照するための記録として書いています。 従って貴方の知りたい事のすべてが書かれている訳ではありません。 このDDS-ICの活用を目論むなら役立つ可能性もありますが、それ以外のお方には時間の浪費でしょう。 漠然と眺めていても何も意味は無いので早々のお帰りをお奨めします。

GNDとバイパスコンデンサを最適化
 AD9834 DDS-ICをピッチ変換基板に載せ、更にブレッドボードで実験しています。 そのため、どうしてもGNDラインが長くなります。 また、各電源端子のバイパスコンデンサも最短距離でGNDラインに落とすのは困難でした。

  そこで、変換基板上に銅箔テープで大きめのGNDを設けました。 Digitalおよびanalogの各GNDピンはそのGNDに向かって短く配線します。 また、電源系のバイパスコンデンサもそのGNDに向かって最短配線します。

 50〜100MHzと言った周波数ですから、まだまだ波長も長く写真の程度にGND配線してあればほとんど問題になることはないでしょう。 不要なGNDループなどできないので概ね専用のプリントパターンを書いたのと類似の効果が得られる筈です。 ピッチ変換基板自体が狭小なため加工は厄介でしたが実験が可能な状態が作れたと思っています。

 【クロック120MHzの出力波形
 信号発生器から120MHzのクロックを与え、DDS-ICから約11.2MHzを取出している状態です。 なお、クロックから折り返して出力されるスプリアスは簡単に除去してあります。

 写真のように奇麗な正弦波が得られました。 クロックの周波数を更にアップして行くと、サイン波の出力に必要なクロック振幅は大きくなって行きますが150MHz以上でも動作するようでした。 このあたりは、前回のテスト(= 第2部)でも同様でした。

 GND系を強化し、バイパスコンデンサも最適化したことでクロック周波数の延びが期待されます。  正弦波は奇麗そうですが肝心のスペクトラムはどうでしょうか?

 【出力スペクトラム:Clock=120MHz
 上記の状態、即ちクロックを120MHzとして、DDS-ICの出力を11.2MHzとした状態でスペクトラムを観測してみました。

 残念ですが改善されなかったようです。 クロック信号の振幅を加減しつつ、最適なポイントを探ってみたのですがどうやっても奇麗なスペクトラムは得られません。 クロック周波数に依存性があるのかと思い、上下の周波数へ2〜3MHzくらい変えてみても状況は何ら変わりませんでした。

 オシロスコープの波形観測でわからないのはスプリアスの混入が-20〜-30dB(1〜0.1%)程度だからです。振幅成分および異った周波数の混入が1%程度では意外に奇麗な正弦波に見えるのです。しかし目的次第とは言え、-20dBでは大半の用途で使い物にはなりません。 例えば、受信機の局発なら-80dBくらいでないと不要信号の受信として感じられてしまいます。送信機ならローカル局には少なからず貴方の不要輻射が感じられるでしょう。 実験的に使うような信号源ならいざ知らず、きちんとした発振器としては通用しないのです。

 正常と見られる動作に落ち着く周波数はどの辺りなのか、改めて確認してみたのですが前回のテスト結果とほぼ同じでした。 従って、AD9834CRUZは110MHzが正常動作の上限であると考えて良いと思います。 カタログスペックが50MHzのAD9834BRUZについては実施しませんでしたが、CRUZを大幅に上回るような好結果は期待できないでしょう。

出力スペクトラム:Clock=110MHz
 改めて正常動作が可能な110MHzのクロックを与えて、出力のスペクトラムを確認してみました。

 写真のように奇麗なスペクトラムが得られました。 GNDとバイパスコンデンサを強化対策してもクロック周波数の上限を延ばす効果はほとんど無かったようです。また、従来の試作検討方法でも特に問題は無かったと言うことになります。

 以上数回に渡る実験の結果から、AD9834CRUZおよびAD9834BRUZ共に奇麗な出力信号を得るためのクロック周波数の上限は110MHzだと考えれば良いでしょう。  自身のアプリケーションでは、標準75MHz、特に高い周波数が必要な時に100MHzを実用の上限に考えたいと思います。

                 ☆ ☆ ☆

 AD9834のクロック上限周波数への期待は大きかったので、もう少し延びて欲しかったと思います。 理想を言えば67.108864MHzの2倍である134.217728MHzまで延びてくれたら最高でした。 そうすれば最小ステップ0.5Hzで信号発生ができたからです。 実験してみると確かにそのクロック周波数でも正弦波らしい波形は得られたのです。しかしスペクトラムを観察するとかなり酷いので用途は限定されそうでした。 残念ながら諦めた方が良さそうですね。 たとえ幾ばくか上限周波数が延ばせるとしても余りにも高級な手段を必要とするようでは実用性は損なわれてしまいます。 比較的簡単に可能なここ迄にしておきましょう。もともと50MHzあるいは75MHzが上限周波数のチップが100MHzあたりまで使えたのですから十分に満足できる結果です。

 AD9834はアキュムレータ長が28ビットなのでクロック周波数を高くすると出力信号の周波数ステップが粗くなってしまいます。 100MHzでは計算上:0.3725290298Hz刻みになっており、DDSで得る信号としてはかなり粗い刻みでしょう。 AD9850/51のように32ビット長なら良いのですが、28ビット長なのですから仕方ありません。 従って、75〜100MHzあたりを上限と考えて使う方が信号ステップの刻みから言っても適当だろうと思っています。 実際、約0.37Hz刻みでは精密な用途なら周波数設定の粗さが見えてきてしまうでしょう。 もちろん一般的な送受信機であれば未だ十分な周波数設定の細かさと言えるので75〜100MHzのクロックで使うのなら実用上の支障はまずありません。 では、また。 de JA9TTT/1

(おわり)fm

2016年10月31日月曜日

【部品】Shopping Guide 2016 part 2

【買い物ガイド 2016 その2】
このBlogの買物ガイドでは見過ごされそうなアイテムを扱っています。
MEMS Oscillator
 MEMS(メムズ)と言うのは、Micro Electro Mechanical Systemsの略です。 MEMS発振器は発振周波数を決める仕組みにMEMSの技術を使った発振器のことです。 基本的には機械共振器を使った発振器であって、昔の音叉(おんさ)発振器と考え方は同じです。 但し、機械的な共振器は非常に微細なためその共振周波数は高周波になります。

 写真は最近になって秋葉原は秋月電子通商で発売された「MEMS発振器:SiT2001B」(←リンク)です。これはSiTime社の製品でこれから扱うのは発振周波数が48MHzのものです。 SiTime社は水晶発振器が常識だった高周波の発振器にMEMS技術で参入しているメーカーです。シリコン・ウエファ上に立体構造を構築する高度な加工技術を使っています。近年のMEMSの進歩には著しいものがあって、水晶発振子や水晶発振器のメーカーにとってはかなりの脅威ではないでしょうか?

 MEMS発振器については2年ほど前に評価したことがあります。その結果はトラ技誌2014年4月号に纏めましたが、水晶発振器と比較して信号品質は未だ及ばずと言った状況でした。(評価したのは別メーカーの製品です) そのため、秋月電子の新商品案内を見てもあまり期待できないだろうと言う先入観を持ったのです。

 SiT2001Bは新世代のMEMS発振器で1MHzから110MHzの範囲で6桁精度の発振周波数が得られているそうです。 誤差10ppm以内の周波数精度がある訳ですね。 秋月電子通商では12MHz、16MHz、20MHz、そして48MHzの発振器が発売されています。いずれも単価100円とお手ごろです。 これまで発売されて来たPLL式のプログラマブル水晶発振器の信号品質があまり芳しくなかったことからその代替品を意図しているのかも知れません。

SiT2001B:48MHz Oscillator
 写真はSiT2001Bを拡大して見たものです。 パッケージはSOT-23サイズの5pinです。 かなり小さいですが、ピン数も少ないことから扱いはそれほど難しくありません。 なるべく先の細いハンダ鏝と良質のハンダを使って実装します。フラックスも併用すると良いでしょう。ピッチ変換基板も発売されています。

 今どきのデバイスですから静電気には気をつけるべきですが、特にデリケートではないらしく単なるICとして扱えます。 このチップをテストする上での注意点は電源電圧の最大値が4Vと低いことにあります。標準的には1.8〜3.3Vの電源電圧で使用することになります。

 以下の実験では、他の回路の都合で大もとの電源電圧が5Vだったので、赤色のLEDを直列に入れて約1.6Vほど電圧を落として供給しました。 消費電流は4.5mA以下ですから同じ周波数の水晶発振器(市販品)よりもだいぶ少ないです。

 内部回路はC-MOSのようで、出力の振幅は電源電圧に連動して変化します。 Vdd=3.4Vのとき無負荷では約3.3Vppが得られました。 周波数が高いことからきっちりした矩形波ではありませんがデジタル回路用として支障のない波形です。

スペクトラムの観測
 波形は矩形波的なので当然ですが奇数次の高調波は多めでした。 写真は48MHzを中心に500kHzの幅でスペクトル観測した様子です。

 主信号よりも40dB以上小さいのですが、無数の不要サイドバンド信号が観測されました。 どのような原因で発生しているのかはわかりませんが、出力周波数を「生成」する過程で何らかのシンセサイザのような仕組みを採り入れているのかも知れません。 ただし少々汚い信号ではありますが、主信号の揺らぎとは違うようなのでクロック信号として使うのなら支障ないかも知れません。

 もちろん、直接信号を扱うような用途にはスプリアス特性が悪くなるので適しません。一例としてはクリスタルコンバータの水晶発振器(局発)の代用のような目的には旨くありません。 用途としてデジタル回路のクロック用を意図しているのは間違いないでしょう。

近傍スペクトラムの観測
 同じく48MHzを中心に10kHzの幅でごく近傍のスプリアスや揺らぎなどを観測してみました。

 スペアナの観測では、主信号の揺らぎは感じられません。 MDAで仔細に見ると幾らか揺らぎがあるようですが、それほど大きくはないので支障ないように思います。 水晶発振だってOCXOでもなければそれなりの揺らぎはあるものです。

 48MHzなのでDDS-ICのクロック用としては少し低めですが確認しておくことにしました。 クロックを供給するDDS-ICはAD9834BRUZです。 結果が良ければ75MHz版をリクエストするなどの展開も考えられます。 期待したいと思います。 もし使えるなら消費電流が少なく無調整なのも好都合でしょう。

AD9834で使ってみる
 AD9834 DDS-ICの実験基板でテストしてみました。 SiT2001Bは左側の小基板に載っています。電源は+5V電源から赤色のLEDを通して与えています。

 赤色LEDの順方向電圧降下は約1.6Vです。 従って、SiT2001BはVdd=3.4V程度で動作することになります。 赤色LEDも流れるのが4.5mAくらいなら支障のない電流値です。

 AD9834とのインターフェースですが、SiT2001Bの電源電圧が5Vよりもかなり低いことから直結はせずにC結合にしました。 出力を1000pFで切ってからAD9834側で約2V(DC)のバイアスを与えてあります。 SiT2001Bのドライブ能力は十分あるのでバイアス回路が負担になるようなことはありませんでした。 これでAD9834を問題なくドライブできます。 ドライブ波形も良好でした。

AD9834 DDS-ICの10MHz出力
 SiT2001Bから48MHzを与えた状態でAD9834BRUZから約10MHzを発生させてみました。

 主信号の近傍10kHzの範囲でスプリアスなどを観測しています。 クロック信号が良くないと近傍の周波数にスプリアスやノイズが現れます。 この例では非常に奇麗な信号になっているようでした。 無線機で信号を聞いてみても奇麗なトーンが確認できます。

 どうやらSiT2001Bの48MHzはDDS-ICのクロック発振器として旨く使えるようです。 周波数安定度も悪くありませんでした。 ごく一般的な水晶発振器と類似の性能ではないでしょうか?  もし75MHz版が登場したら改めてテストしてみたいと思っています。

AD9834 DDS-ICの広帯域スプリアス
 クロック周波数が48MHzなので折り返しスプリアスの周波数も低くなります。 そのほか主信号の高調波など見られます。 しかし、これはSiT2001Bがクロック発振器だから現れるわけではありません。 同じ周波数のクロックなら水晶発振でも同じようなものです。

 良くご覧頂くと7MHzあたりに強いスプリアスが認められます。 最初、これは何だろう?・・・と思ったのですが同じ部屋で運用中のWSPR送信機の信号を拾っているのが原因でした。 DDS-ICからの出力ではありません。 その他にもWSPRの関係で現れているスペクトラムが見えている可能性もあります。(笑)

 SiTime社のMEMS発振器:SiT2001Bは新世代のためなかなか良好な信号が得られるようです。 詳細な比較では未だに良くできた水晶発振器に歩があるようにも感じますが、近い将来には覆るかも知れません。 SiTime社のアナウンスによれば2017年の新製品でTCXOやOCXOの領域までMEMS発振器が進出するそうです。 実力には未知数の部分もありますがかなりの自信作のようです。 いずれ特殊な用途を除き殆どの水晶発振モジュールがMEMS発振器に置き換わるのではないでしょうか。 水晶振動子を必要とするのはクリスタルフィルタの分野くらいになってしまう可能性だってありそうですね。

MEMS発振器は予想外の好結果でした。 DDS-ICだけでなくマイコン関係のクロック発振器にもお奨めできると思います。 デジタル回路全般に向いているでしょう。

MEMS発振器が大きく進化!(→参考リンク




aitendoの正体不明トランス
 先日のことですが、aitendo@秋葉原店で別の小型トランスを探していたのですが自力で見付けることができませんでした。商品の配置にあまり一貫性がない上、何しろ種類が多すぎます。 そこでベテラン店員のお姉さんに置き場所を教えてもらったのです。

 そのとき、「こっちに安いトランスあるよ!」とのセールストークが付いてきました。 そう言われたらそれも見ない訳には行きませんね。(笑) ついでにその「安いトランス」とやらを何個か買ってしまったのでした。商売がお上手です。(爆)

 まあ、見た感じでは得体が知れないものの、ひょっとしたら何かに使えるかもしれないし一つ39円だからダメもとで・・・と思って手にしてみたのでした。

 このHT-2394と言う型番のトランスですが帰宅して調べたら1次側と2次側がある普通のトランスでした。コア材はフェライトです。 従って山水トランスのような低周波用の小型トランスとは異なるものです。 ボビンにTDKの文字があるのでコアとボビンのメーカはTDKかも知れません。 しかし中国にはたくさんのフェイクが出回っていますから模造品の可能性もありそうです。

 オリジナルの用途はわかりませんが、巻き数が少ない方を1次側とすると、2次側の巻き数は数100倍もあるようです。 インダクタンスの関係で50Hzや60Hzのような低周波では使えませんが、数10kHzで使えばかなりの高電圧が発生できるでしょう。 ただし、小さなトランスですから大きな電力は無理です。 何かの放電管とかプラズマボール(?)、あるいはテニスラケット型虫取りネットにでも使うのでしょうかね?? うっかり実験したら感電するのでけっこう「あぶない」トランスです。

 巻き直してコア材として使うことも考えたのですが接着が強固なので奇麗に分解できません。 39円なんだから「駄目でもマアいいか・・」とも思ったのですが、うまい使い道がヒラメキました。(笑)

 トランスとして評価した際にLCRメータでインダクタンスを観測しました。 2次側がかなり沢山巻いてあるので、フェライトコアのトランスとは言え大きめのインダクタンスを持っていました。 しかも無負荷Qが結構高いようなのです。 トランスとして使うのは難しそうですが「インダクタ」として使ったらどうだろう?・・・と思ったのです。hi

CWフィルタに使う
 巻き替えることができないので、そのまま使うしかありません。 そのため、あまり高級なフィルタは作れませんが共振回路が2段になったようなLCフィルタなら製作可能です。

 次項の回路図にあるような回路をシミュレーションしてみたところ良さそうなCWフィルタになります。 左図のようなピーク型のフィルタではなく平坦な通過域を持ったBPFでも設計検討したのですが、LCの素子数とQuの関係から思ったような特性は難しそうでした。 しかし簡単な2段の共振型フィルタならグラフのようなものが実現できそうです。 アクティブ・フィルタではなく、今どき珍しいパッシブな素子によるCWフィルタと言う訳です。(笑)

 定数を変えながら色々シミュレーションしてみました。 概略を決めてから最後は実際にCWを受信しながら部品定数を微調整しました。 次項の回路図はその結果を纏めたものです。 CW受信は好みもあるでしょうから各自でチューニングすればベストです。 チューニング方法は後の方に書いてあります。

再生受信機で試す
 以前のBlog(←リンク)で紹介したことのある「再生式短波受信機」を試作してみました。 単なる外付けのLC-CWフィルタを作っても良かったのですが折角なので簡単な受信機で試してみましょう。その方が面白いでしょう?

 FETを使った無限インピーダンス検波回路と変形コルピッツ型発振回路を組み合わせたセパレートダイン型の再生検波受信機です。 2つに分けると再生の度合いが調整し易いメリットがあります。 オリジナルは英国のHAM:GI3XZMの設計によるものですが幾つか改良を加えました。 改良のポイントは(1)バリキャップを使ったバンドスプレッドの追加(2)低周波アンプのIC化などです。 また、最初から(3)CWフィルタを組み込む前提で設計しています。

 使用する半導体デバイスは国産品に置き換えています。検波のFETは小信号用のディプレッション型なら何でも良くて、最近秋月で売っているBF256Bでももちろん良いでしょう。Idssも幾つでも良いです。再生回路に使っているトランジスタも2SC1815のようなNPNの小信号用なら普通の汎用品で十分です。こちらもhFEランクは何でも大丈夫でしょう。指定品でなくては絶対ダメだなどと難しく考える必要はありません。

 このCWフィルタはなかなか良く切れるので入れっぱなしでは音声の受信には支障がありました。 そのためフィルタをバイパスするスイッチも設けます。 アンテナコイルにはAmidonのトロイダルコアを使います。 6〜11MHzあたりがカバーできるように巻きました。 FCZコイル(および同等品)も使えなくは無いのですがアンテナ側の巻き数が多すぎるように思います。トロイダルコアに自身で巻くことをお奨めします。

 ほとんどの部品は普通に入手できるので問題はないと思います。 唯一、バリキャップ(可変容量ダイオード)のFC54M(富士通)のみ生産中止品です。入手できない時は別のバリキャップで代替を考えましょう。良く見掛ける最大容量が20pF程度のものなら2個並列で使います。(合計で4個使うことになる)
 表面実装型なので少々扱い難いですが秋月電子通商で売っている1SV228(1つのパッケージにバリキャップ・ダイオードが2つ入っているので1個で済む)で代用しても良いでしょう。 なお、バリキャップがどうしても手に入らなければ12〜16V程度のツェナーダイオードで代用してみるのも面白いです。(9V以下のツェナーはだめです)
 もちろんCWフィルタ用のコイル:HT-2394も特殊部品な訳ですが、これがBlogの『お題』なので手に入ったと言う前提です。(笑)

 消費電流は僅かなので006P乾電池でも十分ですが、同調がバリキャップ式なので電源電圧が変動すると影響を受けます。 安定な受信には9Vの安定化電源の使用が望ましいと思います。 なおHAMバンドの受信ではなく、短波の海外放送が目的なら電源電圧変動の影響はあまり感じませんでしたから乾電池でも良いかも知れません。

再生受信機・試作の様子
 CWフィルタの実用性を検証するのが目的ですからブレッドボードに試作しました。 これで全回路です。

 主同調がトリマコンデンサでは同調操作が困難なので実用品にはなりえません。しかしこの仮設状態でも良く聞こえました。 特に短波国際放送はFBです。 6MHz帯〜11MHz帯が受信できるので幾つかの国際放送バンドが含まれます。 放送を捉えたら再生を掛けて行くと感度がグ〜ンとアップするのがわかるでしょう。感度が上がってきたら同調を微調整します。 あまり難しい操作をしなくても放送局の電波は強力ですからとても良く聞こえました。 過度に再生を掛けると発振をともなうようになるので程々にするのがコツです。

 もちろん、ごく簡単な受信機なのですから特にアンテナが重要です。 適当な(数mの)ビニール電線をたらした程度ではあまり聞こえません。 短波国際放送が目的なら屋外になるべく高く張った長さ10m以上の空中線(要するに電線です・笑)と大地アースが欲しいです。大地アースはアース棒を打ち込んだ程度の簡易なものでも十分です。 アパマンでしたらベランダに張ったビニール線と窓枠サッシのアースでも良いと思います。 なお、HAMバンドの受信には目的のバンドに共振したダイポールアンテナが望ましいです。

 HAMバンドはオンエア局数が多い7MHz帯で試しました。アンテナはハーフサイズの「G5RVアンテナ」(←リンク)です。 HAMの電波は放送波よりもずっと弱いので入念な操作が必要です。 それでも、この種の再生式受信機としては旨く聞こえる方です。 バリキャプを使ったバンドスプレッドも程よい感じで7MHzのCWバンドをスムースにウオッチできました。 再生を掛けて感度が上がってきたら、徐々に再生を深く掛けて行くと弱い発振が始まります。 発振が始まればCWのビートが聞こえてくるので聞き易いように同調と再生をさらに加減します。特に強い局を聞くには入力調整で信号を絞ってやる必要がありました。

 目的の「CWフィルタ」ですが、CWの受信にはとても効果的です。 バンドが混んでくると再生式受信機では混信も激しくなります。そんな時はCWフィルタをONするとたいへん聞き易くなります。39円のトランス2個のチープなCWフィルタとは思えない切れ味でした。(笑)

再生検波部分
 検波と再生回路が別建てなのと、バンドスプレッドにバリキャップを使ったので検波回路周辺の部品が増えてしまい、少し複雑になっています。 ただし、バリキャップの部分は電子同調ですからバリコンよりも配置の自由度があります。

 この製作例ではスプレッド同調に10回転のポテンショメータ(可変抵抗器)を使いました。 一般的な可変抵抗器よりもずっと操作は容易になります。少々高価な部品ですがお奨めできると思いました。 主同調のバリコンにはバーニヤダイヤルを付けてやりたいです。糸掛けダイヤルでも良いでしょう。ツマミ直結では同調操作はたいへん困難です。 また「再生調整」は頻繁に操作するのでパネル面の扱い易い場所に配置すべきでしょう。

 SSBの受信も不可能ではありませんが、「入力調整」のツマミを良く加減しやや強めの発振状態でゆっくりダイヤル操作する必要がありました。 CWの受信は簡単ですがSSBの受信は難しいのであまり期待しない方が良いかもしれません。 受信はできても、引き込み(Pull-In)があるので良い音での復調はまずできません。

 AM波の短波放送は非常に良く受信できます。音質も良好でした。 発振直前まで再生を掛け感度が上がったところで受信します。 おなじAMでもHAMの電波は弱いのでそれなりの加減は必要ですが意外に良く聞こえます。 やはり再生式受信機はAMとCWの時代の受信機ですね。

CWフィルタ部分
 aitendoの「正体不明トランス」:HT-2394で作ったCWフィルタの部分です。 HUMの誘導は感じませんでしたから特にシールドする必要はありませんでした。

 回路図のC11:0.0047μFと、C13:0.0047μFを換えるとフィルタの中心周波数を変更できます。 上記回路図の状態では600Hzくらいになっています。 なお、C11とC13はなるべく同じ値にしてください。受信しながら好みに応じて変更すれば結構です。

                  ☆

 @39円トランスが意外にも効果的なフィルタになったので、追加で数個仕入れておこうかと思っているところです。 用途のわからないパーツはほとんど無価値ですがFBな使い道が見つかったことでそれなりの価値が出てきたのではないでしょうか? なお、CWフィルタだけでなく、π型のLPFを作ればAM/SSB向きの低周波ローパスフィルタも作れます。 DC受信機の混信対策に如何でしょうか。

低周波アンプはNJM386BDで
 低周波アンプは定番のIC「386」です。 回路定数の選び方は実績重視でHAM用受信機向きにしています。

 この種のストレート式受信機では低周波ゲインが大きくなるため低周波発振が起こり易くなります。 各部分のデカップリングを入念に行なうなど注意しましょう。 配線の引き回し方によっても影響があります。

 なお、どうしても発振が止められない時には、R10:470Ωを1kΩ程度に大きくすると効果があります。 但し、その分だけゲインが下がるので感度の点ではやや損をすることになりますがやむを得ないでしょう。 発振しなければR10は470Ωよりもっと小さな値にしても結構です。

このBlogには再生式受信機の特集があります。第一回のBlogは:=>こちらから。 

                   ☆

最近の秋葉原から話題の(埋もれた?)パーツを採り上げてみました。

 MEMS発振器はまだまだこれからのパーツと言えそうですが現状でも「使える」性能を持っていると思います。 いま売っている物は周波数が中途半端ですが、50MHzあるいは75MHz版が登場すればAD9834 DDS-ICを正規の上限周波数で使うのに便利かも知れません。 発振器単体としての性能は水晶発振器に劣るようですが、DDS-ICのアウトプットを見た範囲では悪くありませんでした。 そのような用途には十分使える性能なのかも知れません。 自身では清く正しい「水晶のオーバートーン発振器」に未練が残りますが、MEMSの方は小型で無調整なのが大きなメリットだと思います。消費電流が少ないのも好都合です。 喰わず嫌いではなく新しいデバイスを積極的に活用できたらと思います。 そして来年登場予定のTCXOやOCXOの対抗版MEMS発振器が安価なことを期待しましょう。

 中華トランス:HT-2394はネットで検索しても意味のある情報は得られませんでした。 おそらくどこかの電子機器メーカが特注したものの製品の方が予定の生産数量に至らず余剰ジャンクとして流出したのでしょう。 もしも本来の使い方が判明したところで高電圧の発生用ではほとんど使い道がありません。 ここはQが高い「低周波用のインダクタ」として活用を試みた方が応用範囲は広いと思います。 今後このBlogに刺激されて類似の用法が様々試みられるかも知れません。 現時点でもCWフィルタと低周波のLPFに活用できることはわかったので、ジャンク箱に数個入れておくと役立つかも知れませんね。39円が数個でけっこう遊べます。(笑)
 なお、この「HT-2394」はaitendo秋葉原店3Fの店頭販売のみです。仕入れてみたものの見込みがないので「見切り品」になっているようです。店先では完全なジャンク品の扱いですね。hi 地方のお方は東京のお友達に調達を頼むのも手ですが、お店に聞いてみるのも良いと思います。 同じ型番の類似商品はないようですから紛れる可能性は無いでしょう。従って通販での購入に対応してもらえるかも知れません。問い合わせが多くなれば通販リストに載せるかも知れませんね。 aitendoのお姉さん面白いパーツ、どうもありがとう。楽しめました。 ではまた。 de JA9TTT/1

(おわり)nm

ご注意:このBlogはアフェリエイトBlogではありません。自作を楽しむための情報を提供していますが特定の商品やショップをお奨めする意図はありません。公開している商品情報やリンクは単なる参考です。お買い物は貴方ご自身の判断と責任でお願いします。

2016年10月16日日曜日

【部品】Over Driving an AD9834 DDS-IC

部品:AD9834 DDS-ICのオーバードライブ
 【AD9834はどこまで使えるのか?
 前のBlog(←リンク)では50MHzがクロック上限周波数になっているAD9834BRUZが75MHzで使えるのか?・・と言う疑問からテストしてみました。 その結果、カタログスペックに対して150%ものオーバークロック(=75MHz)で使えることがわかったのは収穫でした。

 しかし、そうなると本当の上限周波数は何処なのかと言う疑問が湧きます。 さらにカタログスペックが75MHzのAD9834CRUZではどうなのかと言う興味も湧いてきました。  ここはやはり限界がどこなのかハッキリさておくべきでしょう。そうでないと何時までもモヤモヤしたものが残ってしまいます。それを解消するのがこのBlogの目標です。 単なる「噂」ではなく根拠のある「事実」として掴みたいと思っています。

                   ☆

 始めにごく簡単に復習しておきます。 AD9834と言うのはアナログデバイセズ社製のDDS-ICです。 低消費電流であり省エネが特徴でしかも比較的安価なDDS-ICです。その代わり上限クロック周波数は低めです。またフェーズ・アキュムレータは28ビット長です。
 DDS-ICは与えられたクロック信号に基づいて正弦波信号を発生します。 発生可能な正弦波の上限周波数は与えるクロックの周波数で概ね決まってしまいます。具体的にはクロック周波数の30〜40%程度です。 従ってなるべく高い周波数のクロックを与えた方が発生可能な正弦波の周波数も高くなります。 AD9834にはAD3834BRUZというクロック上限周波数が50MHzのバージョンとAD9834CRUZと言う75MHzのバージョンがあります。

 50MHzや75MHzと言う上限周波数はカタログに記載された保証値であって実際にはそれ以上の周波数でも動作することが期待できます。  ここでは入手したサンプルについてどの程度のオーバークロックが可能なのか実測によって調査した結果を纏めておきました。 なお発生可能な周波数の刻みはクロック周波数をアキュムレータ長で割った値となります。

 カタログスペックを超えた動作はメーカーが保証しないのは当然です。また、実験されるならご自身の責任と判断でお願いします。結果については何の保証もありません。  プロのお方には釈迦に説法でしょうが商品や製品に使ったら問題が起った時に困るでしょう。カタログスッペク内で慎むべきです。 しかし、アマチュア的には部品の活用範囲が広がるので無視するのは惜しい気がします。多少のリスクは承知して使えば良い筈です。

                   ☆

 このBlogの記述は自身の参照を目的としたものです。 特定の条件とサンプルによって得られた実験結果であり再現性は保証されません。 また、要点を纏めただけなので貴方の知りたい事のすべてが書かれている訳ではないでしょう。 電子回路の製作をされないお方には意味の無い情報なので貴重な時間をロスされませんよう早々のお帰りをお奨めします。

 【オーバークロックのテスト方法
 AD9834 DDS-ICのテストに使ったブレッドボードを流用しました。 具体的には、搭載されていた水晶発振によるクロック発生部分を除去します。 代わりに注入用のトランスを載せ、DDS-ICに対して外部からクロック信号を与えます。 外部信号は汎用の信号発生器を使い周波数と与える電圧の大きさを可変します。

 50MHzから始めて10MHzあるいは5MHzおきに周波数を変えたクロック信号をDDS-ICに与えます。その周波数で正常に動作する条件を求めることにします。 予備実験の結果、正常な動作と異常との判定はAD9834 DDS-ICから出力される信号のスペクトラムを観察するとわかり易いようでした。詳しくは後ほど具体例があります。

 【信号注入トランス
 巻き数比1:2のトランスを使ってクロックを注入しています。  メガネ型コアを使ったトランスを使っていますが手近にあったので使ったまでで、それ以上の意味はありません。 一般的な広帯域トランスなら同じように使える筈です。 但し実用に際して専用のクロック発振回路を搭載する場合にはこのようなトランスは必要ないと思います。広帯域トランスはテスト用の部品です。

 巻き数比からDDS-ICへの信号は約2倍に昇圧されます。 実験当初はDDS-ICが必要とする信号レベルがはっきりしませんでした。十分な電圧が与えられるよう昇圧トランスを使うことにしました。 またクロックの配線が長くなることから動作不安定となって測定の妨げにならぬようトランスで分離すると言う意味もあります。 DDS-ICの入力インピーダンスは容量性で配線を含めても数pFに過ぎません。比較的容易にドライブ可能でした。 なおDDS-ICから見て信号源インピーダンス:200Ωでドライブすることになります。

 このテストは50MHz以上の周波数となるため完全な矩形波を与えるのは難しくなります。 高い周波数のクロックはどうしても正弦波的になってしまいます。 従ってDDS-ICとしても完全な矩形波によるドライブは期待していないでしょう。 リンギング等のない正弦波の方がむしろ望ましいかも知れません。 ここではクロック信号は最初から正弦波で与え直流バイアスを重畳する形式としました。 重畳するバイアス電圧は2V(DC)です。

 【正常動作のスペクトラム
  写真は110MHzのクロックを与えた時のスペクトラムです。出力周波数は約10MHzです。 主信号の周辺に不要なスプリアスは現れずノイズフロアの上昇も見られません。 このようなスペクトラムが得られるなら正常な動作であると判断することにしました。 正常な状態では広帯域で見てもスプリアス特性の劣化は感じられません。 発生周波数の方も幾つか変化させて様子を見ることにしました。

 50MHzから順次周波数をアップしながらこのようなスペクトラムが得られるよう信号発生器の出力レベルを加減します。 奇麗な信号が発生できた時の発振器の出力電圧をその時の周波数とともに記録します。

異常動作のスペクトラム
 クロック信号のレベルが大幅に不足していると出力はまったく出て来ないのですぐにわかります。しかしやや不足した状態にあると、スペクトラムの汚れとなって現れます。
 また、動作はしていても上限周波数を超えているとDDS-ICの出力信号は写真のようになってしまいます。 この例ではクロックに115MHzを与えていますが、この周波数ではクロック信号の振幅を大きくしても正常な動作にはなりません。 従ってこの115MHzは使えない周波数領域です。 さらに周波数を上げても状況は変わりません。

 写真は115MHzのクロックにおけるAD9834の出力です。 このような状態であっても周波数カウンタで測定すると正常そうに見える周波数が表示されるでしょう。しかし実用には適さない状態になっています。 上限に近いクロック周波数で動作させるなら必ずスペクトラムの確認をしておくべきです。 上限近くではクロックの振幅も大きくする必要がありました。 実際の使用に当たっては周波数および振幅ともにマージンを持って与える必要があります。そうしないと温度変化など条件の変化によって正常でない動作に移行する危険性があります。

AD9834のクロック周波数特性
 図はAD9834BRUZとAD9834CRUZについて、クロック周波数を変えながら正常な動作に必要なクロック信号の振幅(大きさ)について測定した結果です。 どちらも50MHzで動作するのは確実なので、それ以上の周波数について測定しました。 なお、周波数も高いことから測定系の周波数特性が幾らか現れている可能性もあります。 但し動作上限周波数には大きな影響は無いと考えます。

 測定結果によれば正常な動作が可能なクロック周波数の上限はBRUZおよびCRUZの何れも110〜120MHzの間にあるようでした。 発振器の振幅を大きくしても〜120MHzあたりに来ると正常な動作はできませんでした。 従って、どちらもこのあたりが上限のクロック周波数のようです。

 グラフで見るとCRUZの方が感度が良さそうに見えますが実際にはわずかな差です。100〜300mVppの違いはバラツキ程度と見ても良いでしょう。 従ってクロック周波数の上限についてはAD9834BRUZとAD9834CRUZで大差はないと言う結論です。どちらも100MHz+αまで動作する可能性が高いでしょう。+αは5〜10MHzと言った所でしょうか。

 実際に使用する際には、このグラフのラインよりも大きな振幅でクロック信号を与えます。 私の設計では2〜3Vppのクロックが与えられるようにしています。 あまり検証せずに決めていましたがグラフの曲線から見て妥当な値になっていました。 ちょうど100MHzのクロックなら上限の周波数に対して幾分かのマージンがあります。2Vppくらいのクロックを与えれば支障なく動作する筈です。 もちろん運悪く100MHzが限界のチップに当たれば正常な動作は期待できませんが・・・。 BRUZで確実性を担保するには75MHzが良いのではないでしょうか。 CRUZでも90MHzあたりまでが安心かも知れませんね。 いずれにしてもカタログスペックよりもずいぶん高い周波数まで動作するようです。

                   ☆

 噂通りAD9834は100MHzのクロックで動作しました。 オーバークロックと言えば汎用CPUで流行ったことがありました。 DDS-ICのオーバークロックを実験していてそんなことを思い出してしまいました。 昔からデジタルICではそのクロック周波数の上限はスペックよりもかなり高いのが普通でした。 ずいぶん前の話しになりますが、初めて周波数カウンタを作ったとき10進カウンタの「SN7490AN」がカタログ上限周波数:35MHzを遥かに超えた60MHzあたりまで動作して喜んだのを思い出してしまいました。AD9834の100MHzも何だか得をした気分です。(笑)

 AD9834 DDS-ICですが、BRUZCRUZは半導体チップの段階ではまったく同じように製造しているのではないかと想像します。 違うとすればBRUZの注文があった時にはテストを簡略化しているのではないでしょうか? 上限の50MHzが保証できる程度にテストを省略するのです。そしてAD9834BRUZと印刷して出荷している・・・のではないでしょうか? ひょっとしたら印刷の違いだけでそんなこともしていない可能性だってありそうです。

 測定して上限周波数で選別すると言う製造方法もあります。ICの製造技術が未熟で性能がギリギリだった時代には多かったように思います。しかし選別品が遥かに高額なら別ですが手数の割に儲からないのが普通です。 従って今となっては中身のICチップはすべて75MHzの上限周波数がごく普通に得られているのではないでしょうか? もしそうだとすれば安価なBRUZでもユーザー自身でテストすれば75MHz以上で十分使い物になるでしょう。 多少リスクはありますが100MHzでも使えそうです。この結果を旨く活用したいと思います。ではまた。 de JA9TTT/1

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第2部:AD9834の更なる可能性について

 ☆ ちょどオーバークロックの実験は終了し上記のようなレポートを纏めていたところでした。 AD9834のクロックについて新たな情報をコメントして頂いたのです。 JH9JBI/1山本さんのコメントで前回のBlogに対して頂きました。 山本さんもクロック周波数はどこまでだろうと言う疑問から実験されたようでした。

 Blogのコメント欄ですから実験の詳細まではわかりませんが、たいへん重要な情報だったのです。 曰く「75MHzはおろか250MHzでも動作していました。」と言うのです!

 これは一大事です!!(笑) すでに実験は終わったつもりで上記のような結論をあらかた纏めていたからです。 もし250MHzでも動作するものを「110MHzまででした!」なんて涼しい顔で書いたら信用に関わるでしょう。(最初から私なんか信用していないとか・爆)

 そこで上記の実験で幾らか気になった部分を修正の上、あらためて実験を行なうことにしたのです。以下にその再実験の状況を簡単に纏めておきましょう。

追試用ブレッドボード
 あまり違いを感じないかも知れませんが、高い周波数向きのレイアウトに変更しています。

 クロックを外部から与える前提で入力部分の位置を右側に移しました。 注入用のトランスには700MHz以上までの特性が保証されているmini-circuits社製のADT4-1WTを使いクロック端子の近くに配置しています。 きちんと2次側で終端を行ない平坦な周波数特性が得られるように考慮しました。 ブレッドボードなので限界はありますが測定に支障のない程度の性能は得られているようです。 実際に前回のテストよりも幾分か周波数特性は良くなりました。

 AD9834のD/A出力側は周波数も低いことからあまりシビアではありませんが、左側に移して最短配線で出力するように変更しています。 前作は既に解体済みでしたので全体に再製作になりました。

では、さっそく信号発生器:SSGからクロック信号を与えてみましょう。 SSGは約1GHzまで信号発生できます。

 【200MHzのクロックで
 もっと高い周波数でも「動く」のですが、200MHzのクロックを与えたときの様子を一例として紹介しておきます。

 写真はAD9834のD/Aコンバータ出力をオシロスコープで観測している様子です。 この波形の周波数は約18.7MHzになっています。 特にこの周波数でなくてはならない理由はありません。 クロック周波数が75MHzの時に7MHzが出力される設定のまま200MHzにアップしたため、自動的に出力周波数も約2.67倍になっただけです。(笑) しかし、もしもここが「特異点」だったら困るので、発生する周波数を18.7MHz以外に変えて見ました。特に問題は見られませんでしたから代表例として支障はないようです。

  この例では200MHzのクロックですが、250MHz以上までず〜っとアップして行っても追随して正弦波の出力が観測されました。 300MHzあたりまで楽々行く感じでしたが最後は出力がなくなります。 これなら「クロックは250MHzでも動作する!」と言う結論も十分納得できますね。 見た目だとLPFが甘いので輝線が少々太っていますが、ちゃんとしたフィルタを入れてやればもっと奇麗に見えますし・・・。

  【しかしスペクトラムが・・・
 さっそく期待を込めて上記の「正弦波」のスペクトラムを観測してみました。

 ・・・・・どうやら残念な状態のようです。 クロック信号のレベルを変えて、かなり大きめに与えてもまったく改善しません。具体的には5Vppをやや超えるあたりまで加えてみました。それでもダメです。良くなってはくれませんでした。 これ以上の大きさではAD9834の最大入力電圧を超えて壊れるかもしれません。限界でしょうね。 最適値がどこか途中にあるのかと思い逆にクロックの電圧を下げて行ってもダメでした。下げ過ぎれば改善する前に信号が消失します。

 アキュムレータなのかD/Aなのかどこかでビット落ちした動作になっているようです。 それらしい出力周波数とオシロスコープの波形にはなっているのですが信号スペクトラムを見たら明らかに異常です。 写真はある瞬間を捉えたもので別の瞬間にはまた違った様子になります。要するにスプリアスはランダムに現れているのです。

 AD9834CRUZだけでなく、AD9834BRUZに交換して確認してみましたが結果に違いはありません。 CRUZとBRUZに差はないことの検証にはなりました。

 この状態では通信機用として使い物にはならないでしょう。 もちろん非常にラフな用途、例えばアンテナインピーダンスメータのような物の信号源なら使える可能性があるやも知れません。 しかしスプリアスが多いと測定誤差の原因にもなり得るのであまりお奨めできないと思います。 たいへん残念ですが私の判定では「使えなさそう」と結論させてもらいました。 JH9JBI/1:山本さん、このような状況ですのでどうぞ宜しく。私からの返信です。 よかったら次回の懇親会の時にでも状況をもっと詳しくお聞かせください。 私の実験に何か重要なポイントが抜けている可能性もありますので・・。(ありえる、ありえる・笑)

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  改めて徐々に周波数を下げて行き、約110MHz付近になると誤動作は発生しなくなります。 それ以下の周波数でしたら初めの実験のように奇麗なスペクトラムが得られることが再確認できたのです。 通信機の信号源としては奇麗なスペクトラムが求められています。 従って、最初のように上限周波数は「110MHzあたりである」と言う結論で良いだろうと思っています。まずはこの周波数を目処に活用して行こうと思っているところです。

 ご覧のお方で、さらにテストされ「このようにすれば奇麗なスペクトラムが得られますよ!」というFBな成果が得られたようでしたらご一報ください。コメント欄への投稿でも結構です。AD9834の活用の可能性が飛躍的に広がりますから是非とも追試で確認したいですね。  なお、申し訳ないですが製作された物品の評価依頼などのご要望には応じかねますので予めお断りしておきます。 de JA9TTT/1

(おわり)fm