【DDSで作る多用途VFO】
今さらですが通信型受信機の3要素(3S)といえば「感度」「選択度」「安定度」です。ただ、昔と今の受信機ではそれぞれのウエイトはかなり違っています。
例えば最重要視された「感度」は最近のデバイスを使い設計さえ誤らなければ容易に達成できます。まともな設計なら「感度不足」を心配する必要などないのです。
「選択度」も水晶振動子の進歩でVHF帯に及ぶ周波数範囲で最適なフィルタが製作できます。フィルタの自作に於いても測定器と設計ツールの発展で先人が想像さえできなかったような画期的な状況にあります。 さらに最近はデジタル処理で任意の特性のフィルタが数値演算的に可能になっておりかつての受信機のような課題も無くなってきました。
その一方で「周波数安定度」は一段と高度なものが求められています。音声(SSB/FM)や無線電信(CW)ならともかくデジタルモード(FT8など)では安定度の良いことが前提になっているからです。 従って簡易な無線機ならともかく様々な用途で普通に使える「通信型受信機」であるためには周波数安定度を「近代化」する必要があるでしょう。
「私だけの受信機設計」・第8回ではDDSを使ったVFO(可変周波発振器)を製作します。 DDS-VFOの出力を受信機の局発(Local-OSC)としてミキサ回路に加えます。 そのため受信機の周波数安定度に直結しますから周波数安定度に優れた発振器が製作目標です。スプリアスが少ないことも重要です。DDS-VFOで注意した点など製作の過程を辿ります。
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先日、HAMの仲間とアイボールしたとき「ブレッドボード以外でも作るんですねえ!」なんて言われてしまいました。 確かにハンダ付けで「本格的らしく」製作した作品を見るのは珍しいかも知れないです。(笑)
実験品ならともかく、やはりある程度実用的に使うものはきちんと製作しないとダメです。いくら上手に作ってもブレッドボードのままでは限界があるでしょう。
今回のDDS-VFOも実験用ではありますが汎用の発振器として様々な目的に使うつもりです。要所はきちんとハンダ付けして作り「箱」にも収めました。バラックのままでは使い難いですからね。(このDDS-VFOはバラックだったものを箱に入れて纏めたもの)
なるべく手間と費用を掛けず目的に合ったものを作るのが目標です。可能な範囲で手持ちの基板やユニットを活用します。自身の都合に合わせた設計になっていて、文字通り「私だけの受信機設計」です。ほかの人の役には立たない「プログラム・リスト」は省きました。(継ぎ接ぎだらけの『スパゲッティ状態』なのでお見せできません。笑)
このDDS-VFOはごく簡単な機能だけで出来ています。肝心のDDS-ICの制御方法はAD9833やAD9834を扱う以前のBlogページ(←リンク)に書きました。 マイコンや書き込みツールを扱えるのでしたらニーズにマッチしたVFOの製作は難しくないでしょう。
差し当たっての目的は受信機の局発(局部発振器:Local oscillator)です。 従って必要な周波数範囲がカバーされ、周波数が安定していればどんな発振器でも良いわけです。良質な部品の手持ちがあり板金工作のウデに覚えがあればLC発振のVFOを製作するのも面白いです。
デジタルで行くならPICマイコンやarduinoを使った周波数コントローラを作るなり、DDS-ICの代わりにSi5351Aのようなチップを使う方法もあります。
とりあえず製作中の「通信型受信機」の実験のために必要なのは7440kHz〜7640kHzの発振器です。50Ωの負荷に2Vppくらい(=10dBm)の出力があれば十分です。 もし局発を下側にとるのであれば発振周波数は6560kHz〜6760kHzでも構いません。
【DDS Controler:DDSコントローラ回路図】
図はマイコン:ATmega328P-Uを使って、DDSチップ:AD9833の発振周波数をコントロールするための回路です。LCD表示器に受信している周波数がデジタル表示されます。なお、送受信の制御機能があります。送信モードに切替えると「表示周波数=発振周波数」になります。この機能を使えばごく簡単にCWトランシーバが作れます。
図面左上部分にDDSチップ用のクロック発振器とDDSチップが載ったモジュールの部分回路が書いてあります。コントローラとの接続を明確化するためこの図面に置きました。
そのクロック発振器とDDSモジュールはコントローラ部とは別体の基板上に搭載されています。(後述)
マイコンを使ったDDSコントローラは過去のBlog(←一例にリンク)に何度となく登場しています。 DDSモジュール上のDDSチップ:AD9833に発生すべき周波数のデータを送るのが主な機能です。周波数の可変はロータリ・エンコーダを使いアナログチックに行ないます。 これは受信機の受信周波数を操作するとき最もやり易い方法だからです。 数値的にインプットする方法も可能ですが、バンドを隅からワッチして行くと言った扱いにはアナログチックにダイヤル操作する方法が優っているでしょう。テンキーで数字をインプットするなどと言うのではナンセンスです。
マイコンチップは何でも良いです。ここではAVRマイコンのATmega328P-Uを使っています。以前のBlogではmega8を使っていましたがチップを乗り換えました。 マイコン自身はチップに内蔵のクロックで動作しています。その方が周辺回路に及ぼすクロックの漏れは少なくて済みます。
表示器には青色のバックに白抜き文字のLCDを使いました。16文字2行のタイプです。制御はパラレルで4ビットのモードで使っています。 最近は同じAVRマイコンでもarduinoを使う人が多くなっています。その場合は同じようなLCD表示器でもシリアルインターフェースのものを使います。自身が使うコントローラに合わせた表示器を調達します。
なお、arduinoの互換品を作るわけではありませんが、製作には互換基板を自作するために販売されている部品未実装のプリント基板を「単なるマイコンボード」として流用しました。 この図面はマイコン周辺に接続するスイッチやボリウムなどへの配線を明確にするために書いたものです。互換基板の情報は次項に示します。
【arduino互換ボードを活用する】
秋月電子通商で安価に販売されているarduino互換ユニット製作用のプリント基板を流用しています。この基板は28ピンのATmegaX8シリーズのAVRマイコンならどれでも使えます。
たぶんarduinoの互換品を作るならATmega328P-Uが良いでしょう。しかしこのDDSコントローラに使うだけならATmega8や
マイコン基板とは言っても、電源のレギュレータや幾つかの部品が実装されるだけです。しかしマイコンのI/Oポート(接続端子)は全て引き出されていますし、コネクタが実装できるようになっているので便利に使えます。ぜんぶ手配線するより楽なので流用しているわけです。LCD表示器やDDSチップとの接続にも基板周辺に装着されたコネクタを使います。
LCD表示基板やDDS発振モジュールとの接続には端部にピンヘッダが付いた既製品のワイヤを多用しています。従って配線替えも簡単にできます。
左図は以前のBlog(←リンク)で既出ですが一部をアップデートしてあります。この図には各I/Oポートの接続先が具体的に記載されていますのでモジュール/基板間の布線確認用に使いました。
【LCDは青色・白抜き文字型】
この写真も既出です。マイコン基板とLCD表示器の接続テストをしているところです。
DDS-VFOの筐体内部に収めたのも基本的にこれと同じものです。 表示器には写真のような青色バックに白抜き文字のLCD表示器を使っています。 先ほど登場したコントローラ部の回路図もこのLCD表示器を使うように書き換えてあります。
以前の定番にしていたLCD表示器はバックライトが暗いためたくさん電流を流す必要がありました。明るいところならバックライト無しでも視認できると言ったメリットはあるのですが既に旧式なので使うのはやめています。 最近は写真のような青色バックに白抜き文字のLCD表示器が安価に出回っています。バックライトの白色LEDの発光効率が良いため少ない電流で十分なコントラストが得られます。
残念ながら、ここで使ったLCDモジュールのバックライト用LED(白)は劣化が早いようです。連続点灯させると半年もせずに変色と輝度低下が見られます。 例えば時計のように連続して点灯させる機器にはもう少し良い表示器が欲しいでしょう。しかし安価なので止むを得ない感じですね。それに時々使うような機器ならほとんど支障は無いと思いますが。
【中国製のロータリ・エンコーダ】
DDS-VFOの操作性を決めるロータリ・エンコーダは中国製のNC制御用と称する物を使いました。
このエンコーダは1回転あたり100ステップです。以前から使っている1回転24ステップのエンコーダよりも早いダイヤル送りが可能なので受信機に使うと操作性が良くなります。 しかもパルスエッジ検出方式で使い1回転あたり400ステップとして使います。
1ステップあたりの回転角は360/400(度)なのでわずか0.9度になります。 操作がクリチカルにならないか心配しましたが、ツマミの直径がわりあい大きい(約47mm)ので支障はありませんでした。むしろクイックなダイヤル送りが可能になって使い易さがアップしています。(参考:かなり早めに回したとき幅2mS程度のパルス波が出力される。A/Bの2相を使った4倍速なのでマイコンのUP/DOWN処理は500μS以内に行なう必要がある)
従来使っていた安価なロータリ・エンコーダでは4倍速に改造しても1回転あたり96ステップにしかなりませんでした。そのため周波数を大幅に変えるにはダイヤル・ツマミをたくさん回す必要がありました。基本は10Hz/Stepなのですが、それを補うためダイヤルスピードを100Hz/Step、1kHz/Step、20kHz/Stepに切り替えるスイッチが設けてあります。
この中国製エンコーダを使ったことで100Hz/Stepの切り替えは不要になったくらいです。バンド幅が狭いHF帯ローバンドの受信機なら実用上スピード切替はなくてもあまり不便に感じません。 送料込みで単価¥1,000-〜¥1,500-ですから中華モノとしては多少高価な部品です。しかし作りもしっかりしているのでメリットは大きいと思っています。このロータリ・エンコーダには+5Vの電源を与えて使います。(6端子型と4端子型の2種類がありますが4端子型を選びました)
ー・・・ー
【クリックなし改造方法】
購入したままではクリック付きの100ステップ型です。このDDS-VFOに使うにはクリックを外す必要があります。改造方法は以下に示しますが、わかってやれば簡単にできます。
改造はダイヤル・ツマミの側から行ないます。(黒い裏面には手をつけません)
まず、突き出ている早送りノブを外します。続いてツマミの表面に接着されている薄いアルミの飾り板を曲げないよう上手にはがします。両面粘着テープで貼ってあるので少々やり難かったです。
飾り板を取り除くとネジの頭が3つ見えますのでそれを緩めて取ります。ネジでツマミの部分と目盛のある傘状の部品が一緒に止めてあります。ツマミと傘を除くと「クリック機構」を覆っている細い円弧状の薄い金属製のカバー板が見えてきます。
その薄い金属製カバー板は持ち上げるとわりと簡単に取り除けます。 その中にクリック感を作り出す「ピン」と押さえの「板バネ」が見えるでしょう。φ1.4mm長さ3.5mmくらいの小さな「ピン」をピンセットで引き抜いて取り除けばクリックなしへの改造は終了です。
板バネはそのまま残しておいて支障ありません。「ピン」を除くだけでOKです。また金属製カバー板は外したまま元に戻さなくても大丈夫でしょう。あとは逆の手順で組み立てれば完了です。
これでクリックなしのロータリ・エンコーダになりました。改造にあたってJA6IRK/1岩永さんにFBな情報をいただききました。有難うございます。
簡単な改造ですから失敗しないと思いますが自己責任で実行してください。もちろんそのままクリック付き100ステップのダイヤルとして使っても良いのでお好みで改造されてください。(クリック付きダイヤルのまま使うにはマイコン・アプリも関係しますが詳しいことは省きます)
このロータリ・エンコーダはパネル面にφ42mmの大きな穴を開ける必要があって少したいへんでしたが奥行きが浅いので厚みのないシャシに収容するには最適でした。
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【出力アンプ部回路図】
DDSチップ:AD9833の出力は-15dBmくらいです。これは50Ωに変換した後の大きさです。(50Ωの両端に110mVppくらい)
受信機のミキサ回路に与えるには小さいためパワーアップする必要があります。 汎用の発振器として使うにももう少し大きな出力が欲しいところです。 またAD9833の出力そのままでは折り返しスプリアスが含まれているので、必ずLPF(ローパスフィルタ)を補う必要があります。 ここで使用したAD9833:DDSモジュールとその具体的な使いかたについては以前のBlog(←リンク)に情報があります。
AD9833は基準となるクロック信号が不可欠です。このDDS-VFOでは81MHzの発振器によって得ています。AD9833に外付けでクロック信号を与える話はこちら(←リンク)にあります。
AD9833のようなDDS-ICでは実用的な上限周波数はおおよそクロック周波数の40%程度までです。 ここでは81MHzのクロックを与えていますから上限は32.4MHzくらいになります。 ローパスフィルタ(LPF)はその周波数に合わせて設計します。クロック周波数に依存するわけです。 実際にはやや内輪の、カットオフ周波数が30MHzのLPFを使いました。 単なるπ型のLPFでは遮断特性が悪いため有極型で帯域外減衰特性の良いフィルタを作ります。 手持ち部品の都合で設計値を幾らか丸めて作りましたが必要とする性能は十分に得られています。
LPFの後のアンプには「広帯域アンプ」を使います。 アンプ初段にはNECの広帯域アンプ用MMICであるμPC1651Gを使いました。既に旧式ですが手持ちの都合です。 ゲインは十分なのですが小さな入力でも出力に非対称歪みが見られるようです。 従って図の回路定数よりも*1の部分のアッテネータを大きくする方が好ましいでしょう。 現状は3dBのアッテネータですがこれを6〜8dBくらいにして入力を減衰させると良いです。もちろんその分だけ出力のパワーは低下します。
(参考:μPC1651Gの代替方法:現在はBGA2851/NXPセミコンダクタ製などがお薦めできます。秋月電子通商で単価20円で買えます。ゲインの違いはATTで加減できます)
μPC1651Gのままでは出力0dBmくらいが上限です。 さらにパワーアップのために2段目にはfTの高いトランジスタを使って広帯域アンプを作りました。使った2SC2407(NEC)は500MHzにおいて5mW入力で160mWが得られると言うパワフルな小電力用トランジスタです。 他にも適当なトランジスタはたくさんありますがこうした広帯域アンプにはfTの十分高いものを使うのが秘訣です。2SC1815の様な汎用品では目的に合ったものになりません。
この設計では放熱を考えてセーブした使い方になっています。 コレクタ電圧10Vでコレクタ電流は30mA流しています。これでだいたい出力電力:Po=50mWまでがリニアな動作範囲になっています。
ゲインはμPC1651Gで17dB、2SC2407のアンプが21dBです。途中には6dBのアッテネータが入っています。 他にLPFなどのロスもあってアンプ全体のゲインは31dBくらいになりました。(@10MHz)
DDS-VFOの出力は約+16dBmです。(16dBm≒40mW:50Ω負荷に4Vpp) これくらいパワーがあれば受信機のミキサ回路には十分です。 実際には数dBのアッテネータで減衰させてから受信機のDi-DBM:ADE-1に加えることになります。
この回路図には記載が漏れていますが+10Vの電圧を作るために3端子レギュレータを使っています。これはこのアンプ部に安定した+10Vを供給するためです。3端子レギュレータには500mAタイプの78M10を使っておりシャシ底面に放熱を兼ねてねじ止めしています。もちろん1Aタイプの「7810」でもOKです。 DDS-VFOのメイン電源には外付けのACアダプタを使っていてDC12〜15Vで300mA程度のものが必要です。通信機に使うことを考慮してスイッチング型ではなくトランス式のACアダブタを使いました。
【出力アンプ部で使うコイル】
製作を思い立って面倒に感じたのがコイル巻きです。嫌いではないのですがやはり手間に感じます。
最初は75MHzのクロック発振器を予定していました。写真の7mm角コイル①はその75MHz用に巻いてあります。(使いませんでした) その後、基本波が27MHzのクリスタル(水晶発振子)が見つかったので81MHzに周波数変更しました。(27MHzx3=81MHz)
写真にありませんが81MHzの発振器に使ったコイルはトロイダルコア:T25-#10に巻きました。1次側10回で2次側が1回巻きです。巻線はφ0.32mm/UEW線(ポリウレタン電線。ウレメット線とも言う。2UEWと称する物でOKです)を使いました。ちなみに1次側のインダクタンスは0.2μHです。 7mm角のコイルからトロイダルコアに変更したのは組み込みの都合です。基板上の部品の高さを抑えたかったからです。7mm角のコイルでは寝かせて実装せねばならず、そうすると調整が厄介です。
AD9833を使った小型DDSモジュールにローパスフィルタ:LPFは載っていません。必ず外付けして使います。 そのLPFの設計はDDS発振器に与えるクロック周波数が出発点になります。 出来るだけクロック周波数が活かせるような設計にするわけです。
上述の通りカットオフ周波数が30MHzのLPFを作ります。LPFに使うコイル(3つ)には適当な既製品がないのでトロイダルコアに巻いて自作します。 1.1μHと0.91μH (2つ)のコイルが必要です。 コア材はT25-#10でφ0.32mm/UEW線を巻きました。 L1用の1.1μHが23回巻き、L2、L3用の0.91μHが21回巻きです。 巻線が重ならぬようにして円周全体に均等に巻きます。使用したコア材の#10材は高い周波数向きでVHF帯まで使えるものです。
メガネコアに巻いてあるもの②は巻数比が2:1のRFトランスです。 BN-43-2402というコア材に1次側が6回で2次側は3回巻きます。φ0.16mm/UEW線を巻きました。フェライトの素材は#43材です。このメガネコアは秋葉原の東京ラジオデパート3F:斎藤電気商会で手に入ります。
RFトランスのインピーダンス比は巻き数比の2乗になります。従って負荷となる2次側が50Ωですから200Ω:50Ωとなります。DDSチップ(AD9833)の出力インピーダンスが200Ωなので50Ωへのインピーダンス変換に使います。 このトランスはおおよそ100kHz〜30MHzでフラットな周波数特性が得られるでしょう。巻き方はトリファイラ巻きではなく1次と2次が独立です。トリファイラ巻きが理想ですが配線の引き出しを考えて別個に巻きました。
もしメガネコアが手に入らなければフェライト・ビーズ:FB-801-#43にトリファイラ巻きしたトランスが同じように使えます。φ0.16mm/UEW線を3本よじったトリファイラで6回巻いて作れます。
【出力アンプ部は低背に作る】
このDDS-VFOは使用の便を考えてタカチのYM-200型薄型ボックスに組み込みました。平置きして使いやすいようにしたかったのです。
そのため配線基板を収納するのが厄介になってしまいました。 はじめにパネル面のデザインを考えてスイッチや表示器のレイアウトを決めたので回路基板の配置が難しくなったのです。
特にDDSモジュールとLPFなどを含むアナログ回路の組込が課題になりました。 検討の結果、シャシの底面側に直接取り付けてなるべく背丈(厚み)を抑えるようにすれば収納可能そうでした。
写真のように高さが10mmを超えないように作ります。 DDSモジュールはAD9850を使った物も候補でしたがなるべく薄型にということでAD9833を使った小型モジュールになった訳です。 このAD9833のモジュールは写真のように小型で薄くできています。 こうした組み込みにはうってつけでした。
ただしAD9833のDDSモジュールは購入したままだと25MHzのクロック発振器で動作します。 そのままでは発生周波数の上限は10MHzあたりになってしまいます。 とりあえず7MHzの受信機のテストには使えるのですがDDS-VFOとしての汎用性が損なわれます。なるべく高い周波数まで使えるよう外付けの発振器からクロックを与えることにします。(モジュールに実装済みの25MHzオシレータは除去します。詳細は以前のBlogで。←リンク) 外付けクロック発生用の27MHz水晶発振子(基本波)は寝かせて取り付けてあります。2SK19Yを使ってオーバートーン発振させ81MHzを得ています。
トランジスタも寝かせて実装をすればより薄く作れます。そこまでの必要はなさそうなので写真のようになっています。 出力部のトランジスタを銅箔に放熱すればより大きなパワーが取り出せますがDDS-VFOとして必要は感じません。この程度で十分でしょう。
【DDSクロックは81MHzで】
以前のBlog(←リンク)にも書いていますが専用の水晶発振子でなくてもオーバートーン発振は可能です。 ここで使用した発振子は27.000MHzのものです。なお、27MHzの水晶発振子には3次オーバートーンで27MHzを得る物があって、それは今回の目的には使えませんので注意が必要です。基本波が27MHzの水晶発振子が必要です。(参考:3次オーバートーンの27MHz水晶発振子は9次のオーバートーン発振が可能かもしれません。但し発振はだいぶ弱いでしょう) 27MHzの基本波水晶発振子が入手困難なら25MHzの発振子でも良いです。25MHzの方が入手し易いでしょう。その場合DDSのクロックは75MHzになります。
27.000MHzの3倍は81.000MHzですがオーバートーン発振させると発振周波数に誤差を生じます。オーバートーン用に作られた発振子ではないためで、写真のように約74kHzの誤差が出ました。(約0.1%の誤差) マイコンをコントローラとして使ったDDS-VFOの場合、周波数の誤差は演算によって数値的に補正してしまいます。従ってDDSクロックに発振周波数の誤差や端数があっても支障はありません。もちろん発振周波数の調整も必要ありません。要は実際の発振周波数がわかっていればOKです。
(参考:実際には初めにクロックに誤差なしとして所定の周波数を発生させます。その発生させた周波数を周波数カウンタで精密に読み取ってクロック発振器の誤差を推定する方法が合理的です。実際にそうしました。さらに周波数を微調整する機能も持っているので少しならアナログ的な補正もできます)
しかし周波数の変動があると補正するのは容易でないため気になりました。 周波数カウンタを接続してしばらく観察していたら変動は数ppmに収まりそうです。 ちなみに1ppmの変動は1MHzにおいて1Hz、10MHzなら10Hzです。
なお、このDDS-VFOの刻みは最小で約0.302Hzです。(0.302Hz ≒ 81.074MHz/ 2^28) 従って、最大でその半分の約0.151Hzの設定誤差が起こり得ます。しかし0.151Hzの誤差ならSSB/CWにおいてはまったく問題になりません。それにそんな僅かなズレなどわからないでしょう。更にデジタルモードでも支障はないと思います。(・・と言っても実際にはダイヤルは最小で10Hz/Stepの設定ですから条件によっては±5Hzの同調誤差が出ます・笑) むしろ周波数変動(ドリフト or QRH)の方が問題かも知れませんね。
DDS-VFOとして7MHzを発生させ観測していると15〜20Hz程度の初期変動がありました。電源ONの直後から30分経過後における変動量です。 その後は数Hz以内の漂動にとどまるようです。 DDS用のクロック発振器(81MHz)は単なる水晶発振器であり、TCXOやOCXOではないのでこの程度の変動はやむを得ません。それでもVFOとしてはLC-VFOや可変範囲を欲張ったVXOとは比較にならないくらい安定です。SSB/CW用通信型受信機の局発と考えれば満足できる周波数安定度でしょう。
WSPRやFT-8のようなデジタルモードの受信機には少々物足りなさもありますが一般的な発振器(VFO)としては問題ありません。この先実際に使って様子を見たいと思います。 もしもこれ以上を望むなら外部から安定な周波数基準を与えると言った方法があります。 あるいはTCXOやOCXOを内蔵しそれを逓倍してクロックにすると言った方法になります。 それはちょっと大げさで別の意味の製作になってしまいますね。
【DDSで作った汎用VFO完成】
一連の受信機の開発・試作では必要のつど既製品の発振器を使っていました。 しかしそれでは大げさですし、IF周波数分の表示オフセットを与えると言った操作はできません。 どうしても不便がありました。
しかしシャシ加工を行ない回路を組み込んでDDS-VFOを作るには相応の努力を要します。 特に板金加工は苦手です。なかなか腰は重かったのですが他の事情もあって製作に踏み切りました。
出来上がってみますとやはり便利です。 もともと受信機やトランシーバの局発回路を考えてありますから使いやすいのは当たり前でしょう。用途に応じてプログラムだけで変幻自在なのも便利です。書き込み用コネクタを設けたので「箱」を開けずに書き換えできます。 得られた信号のC/Nもまずまずで妙なスプリアス受信も感じません。今さらながら作って良かったと思います。
組込み用VFOとしての機能試験も兼ねています。自作の受信機やトランシーバにも適当そうなので次回の製作は違った構造で作ることになるでしょう。 製作例のように平べったく作るには少し工夫が必要でしたね。hi
以下はDDS-VFOの使い方メモ。
(1)前回Blog(I-F Amp.第3回←リンク)の簡易フロントエンドでの使用を想定。
(2)ミキサーのADE-1には8〜10dBのアッテネータで減衰させて与えること。
(3)受信モードにおいて出力信号の周波数はLCDに表示の周波数+中間周波数(440kHz)である。従って製作中の受信機ではLCD表示周波数=受信周波数。
(4)局発を上側に取った差のヘテロダインゆえSSBはサイドバンドが反転。
(5)送信モードでは「発振周波数=LCDの表示周波数」になる。RITの値=ゼロである。
(6)周波数範囲は100kHz〜30MHz。ソフトウエア的にリミット。Po=約16dBm/50Ω。
・・・以上、自身の備忘として。
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どなたかが「受信機はフロントエンドができれば完成のようなもの」と仰ったとか。 昔の話ですから、たぶんその受信機のフロントエンドというのはRF部だけでなく局発を含んだものでしょう。 確かに「そこ」が出来上がればあとはI-F Amp.以降になります。 周波数は固定していますし、ひたすら増幅すれば良いので完成も近づいたでしょう。
実は「私だけの受信機設計」ではフロントエンド部分の心配はあまりしていませんでした。もちろん、RFアンプなどに課題もあります。ですが少なくとも「局発」の部分はすでに確立しています。昔の受信機において(大いに)問題だった周波数安定度の心配はいりませんからね。
次回はもう少しVFO(局発用)の話になるかもしれません。RFアンプなど含むフロントエンド部も考えていますが・・・。AFフィルタ付きの低周波部もまだでした。 ではまた。 de JA9TTT/1
(つづく)←リンクnm
【私だけの受信機設計・バックナンバー】(リンク集)
第1回:(初回)BFO/ビート発振器の回路を検討する→ここ
第2回:BFO/ビート発振器の実際と製作・評価→ここ
第3回:プロダクト検波器の最適デバイスと回路を研究する→ここ
第4回:プロダクト検波器の実際と製作・評価→ここ
第5回:I-F Amp.中間周波増幅器のデバイスと回路の検討→ここ
第6回:エミッタ負帰還型AGCで高性能I-F Amp.を作る→ここ
第7回:I-F Amp.増強とPIN-Di詳細/(含)簡易フロントエンド・IF-フィルタ→ここ
第8回:DDS-IC・AD9833で周波数安定で便利な局発用発振器→いまここ
第9回:高性能フロントエンドで活きる最適デバイスとその活用の実際→ここ
第10回:フロントエンド・Bus-SWとハイレベルDiミキサを比較する→ここ
第11回:古いAM/FMチューナが高性能なプリミクスVFOに大変身→ここ
第12回:音色が良いAF-CWフィルタと低周波アンプを作る(最終回)→ここ