2014年4月15日火曜日

【回路】Repair an NRD-72 Receiver

【JRC:NRD-72型受信機の修理】

NRD-72故障す
 まったく故障しない機械など存在しないでしょう。しかしJRC:日本無線製の通信型受信機:NRD-72が再び故障したのです。以下、簡単な修理記録として纏めておくことにしましよう。 コレをお持ちのお方でも同様の故障をするとは限りませんから参考にはならないでしょう。 以下、持ってないお方には単なる暇つぶしでしょう・・と言う訳で、もしお暇ならどうぞ。

 この機体が製造されたのは1979年のようです。 既に35年が経過していますからどこか不調になっても不思議ではありません。前回の修理は5年以上前だったと思いますから、それ以降はノートラブルでした。 少し接触不良が出るのはやむを得ません。古いのに立派なものと言えそうです。

 写真は正面パネルの左側部分です。 Sメータはこのように0〜10までの目盛になっているだけでアマチュア機のようにS目盛ではありません。プロの通信士は通信ができれば良いので、シグナルレポートの交換などしませんしアンテナが変われば指示値が変化するSメータなど飾りでしょう。

 流石に、この時代の受信機ともなればSメータを頼りにチューニングして最良点に合わせるなどと言う受信操作はせず、あらかじめ決められた周波数に数字を合わせるだけで事足りたはずです。 Sを見ながらワッチなどBCLやアマチュア無線家の楽しみです。(笑)

周波数は飛ぶ
 メインダイヤルの回転に対して周波数がスムースに変化せず飛ぶようになりました。 写真で100Hzの桁がおかしいのです。 0,1,2,・・・・9,0と順に変化しません。

 この桁は1kHz/0.1kHzのステップ切換えスイッチでスルーにすることができます。 スルーにしてダイヤルを回すと1kHz単位の変化になります。 その状態では正常に周波数のアップダウンが可能です。従ってロータリ・エンコーダの問題ではありません。どうやら一番下の桁のカウンタ部分に異常があるようです。

 前回の修理でもこの部分に異常が発生しました。 ダイヤルが一方向にしか変化しなくなったのです。 パネル面にあって、最初に外気に曝されるこの周波数表示ユニット:CDE-52は故障し易いようです。 このNRD-72も船舶に搭載されていたらしいので潮風が入ってくる環境に長年おかれたのでしょう。 NRD-72は密閉構造ではありませんから、スイッチや表示部の隙間から外気はお構いなく浸入したでしょう。

#どうも外気に曝された部分に故障が多発する印象があります。

NRD-72の中身
 同社のアマチュア向け受信機やトランシーバにも採用されている構造です。 底部のマザーボードのソケットに各機能ブロックを搭載したプラグイン基板が差し込まれます。 Collinsの651S-1あたりから採用された構造でしょう。ボードエクステンダが必要なので、メンテナンス性は良くないと思いますが製造には有利だったのでしょう。

 左から入力のLCフィルタ、RFアンプとミキサー、IFフィルター・・・・と言う順に並んでいます。 電源部は右の方にあります。 AC100VとDC24Vで動作します。 なお、故障が発生したユニットは正面パネル裏に搭載されています。 ダイヤルツマミを全て外し左右のラック・ハンドルを止めるネジを取ると前に倒れます。基板はフレームから取外さなくてもある程度のメンテナンスできます。

周波数表示の裏側
 写真の左上に見えるのが周波数ダイヤルのロータリ・エンコーダーです。 光学式のロータリ・エンコーダーで、かなり大型のユニットです。 耐久性を考えて非接触形式にしたのでしょう。 しかし、意外に故障が多いのも事実で不具合になっている機体もかなりあるようです。

 周波数表示ユニットは、このロータリ・エンコーダからのアップダウンパルスを拾って、周波数表示を行なうとともに、PLL回路にデータとして渡す役目を持っています。 一番下の桁が悪い場合に疑われるICは数個に限られていて、動作解析の結果からIC17:TC4510BPが最も怪しいことがわかりました。

 写真では褐色のフレキシブル基板(FPC)が目に入るでしょう。 これは基板ユニット間を繋ぐ配線用です。束線のワイヤ・ハーネスではなくこうしたFPCを使ったのは配線の合理化と確実性を追求してのことと思います。しかし修理などメンテナンスの際には障害になるので一長一短です。
 FPC上に見える細い青色の電線はLSBモードを追加した際の配線です。NRD-72はプロ用なのでSSBと言えばUSBモードです。しかし配線の追加でLSBも受信可能になります。デジタル周波数表示もキャリヤ・センターなのでLSBモードを追加しても支障はありません。

IC17:TC4510BPの周辺回路
 TC4510BPは標準的な4000/14500シリーズC-MOS ICです。 一桁のアップダウン・カウンタで特殊なICではありません。手持ちにはありませんが、各社からセカンドソースが出ていたので交換部品の入手は少しも心配していませんでした。 回路に見える周辺のゲートICも同じで、4001や4049と言ったポピュラーなデバイスです。故障原因さえ究明できれば修理に困る筈はありません。

 そう思っていたのですが苦労しました。 4000シリーズのC-MOSも市場から徐々に姿を消しつつあるのです。 4001、4011や4049と言ったポピュラーなゲート類ならまだ支障なく手に入ります。 しかしMSIの4510Bは入手困難でした。用途が限定されているからかも知れません。 もちろん秋葉原のお店を虱潰しに当たればどこかに在庫があったかも知れません。 しかし、若松、千石、鈴商ほかラジオデパートやセンターのメジャーな数軒を当たってもどこも在庫はありませんでした。通販のサトー電気にもありません。最後の手段で世界中から探して海外通販する手はありそうですがこれ一つと言うもの・・・。

 はたと困ってしまったのでJE6LVE高橋さんに相談してみました。少々古いようですが、お手持ちがあったほか大阪・日本橋のお店にも当たって頂きました。 数軒回って発見できたそうで送って頂くことができたのです。 LVE高橋さん、どうも有難うございます。お陰でこうして立派に直りましたよ。

#原因はほぼ特定されているので部品さえあれば直ったも同然だったのですが・・・。

4510Bを交換す
 両面スルーホール基板なので、良くハンダを除去しないと配線パターンを傷めてしまいます。 また、潮風と年数の経過とで基板は弱って来ているので丁寧な作業を心がけました。

 写真中央が交換したIC17:4510Bです。 オリジナルは東芝のTC4510BPでしたが、交換品はTI・RCA系のCD4510BEです。モトローラ系のMC14510BPでも良いでしょう。 ロータリ・エンコーダと言う人間が相手のインターフェースですから、ICの動作速度など影響はないので「4510B」なら何でも大丈夫です。 交換したら正常に動作するようになりました。 めでたし、めでたし。

 この写真の4510Bの右にあるTC4001BPは以前交換したものです。 聞くところによれば、前オーナーがそのほかにも交換しているとのことなので、やはりパネル面寄りの基板は故障率が高いようです。

                    ☆

NRD-72のRFアンプ
 せっかくNRD-72を開けたので、特徴的な部分を少しだけ紹介しておしまいにしましょう。

 写真はRFアンプ基板:CAF-50を引き出した状態です。 裏返しになったトランジスタが目に入るでしょう。 これがNRD-72の高周波増幅です。 2SC1164-Oと言うトランジスタがPush-Pullになっています。 小さなヒートシンクが付いていますが、これはそこそこ電力を喰わせているからです。

 それぞれ15mAくらい流れています。コレクタ電圧は15Vで、CE間には12Vほど掛かっています。200mWくらいの消費電力ですからそのままと言う訳には行かなかったようで、小型のヒートシンクが付いています。 なお、振動など考慮してヒートシンクを基板にネジ固定する関係で裏返して搭載したようです。足が長くなりますが30MHzまでの受信機ですから影響はありません。

RFアンプの回路
 アマチュア無線では、RFアンプと言えば2SK241や2SK125などがポピュラーです。 こうしたバイポーラ・トランジスタ(BJT)を使ったRFアンプはあまり見ません。大昔の半導体受信機にはBJTのRFアンプもありましたがそれとはまったくの別物です。

 実は、こうした形式のアンプはなかなか優秀です。使ってあるトランジスタはCATVの中継器用に向けて開発されたもので、直線性に優れています。CATVの中継器にあっては多重化された多チャンネルの信号を一括して広帯域増幅する関係で、混変調や相互変調を非常に嫌います。目は耳以上に鋭敏であり、僅かと言えども画質の低下は視覚的にすぐわかります。要するにIP3やIP2は十分大きくなくては使用に耐えないのです。 ですからそれ専用のデバイスが開発されました。 従ってデバイスの性能に依存しますから回路だけを真似ても真価は発揮できません。 ノイズ・フィギャもHF帯用としては十分低く、広いダイナミックレンジが得られるRFアンプです。 消費電力が大きい欠点の他に、デバイスのコストが掛かるのでアマチュア機で同様のデバイスを実際に使った例は杉山電機のF-850(但し簡易型)くらいしか見たことがありません。(稀な例として、トランシーバ・キットでも簡略型が見られました)

 ずいぶん前に扱った、Collinsの651S-1A受信機ではいきなりJ-FETのppミキサーで周波数変換していました。 おそらく、感度的にはそれでも十分行けるのでしょう。 しかし局発の漏れによるスプリアス輻射ほか、妨害特性の点ではRFアンプがあった方が有利なはずです。 HF帯のハイバンドではなるべくNFを下げたくなって来ますのでやはりRFアンプは欲しくなります。 広いダイナミックレンジを確保しつつ、良好なNFを得る必要からJRCの受信機ではこうしたRFアンプが付加されているのでしょう。

 ほか、ミキサーが2SK19BLなのはIdssが大きなJ-FETを使うと言う常套手段です。今ならJ310のような外国製J-FETの方が入手性は良いです。もちろん、2SK125があるならそれも良いでしょう。 しかし、昨今では高IPのミキサーはスイッチング・タイプに移行する傾向にあります。 これからはD-MOSを使う形式が台頭するはずです。 Bus-SW用ICも同様にD-MOSであって周辺回路が集積されていて使い易いものです。ミキサー話しはまたいずれ機会があれば。

2SC1164の素性
 あまり入手し易いトランジスタではないので簡単にしておきます。 同様のデバイスとしては、NECの2SC1252の方が有名です。たぶんそれもディスコンですが、RF用パッケージに入った面実装タイプのCATV用トランジスタが今でも作られています。

 コストが厳しく、そうでなくても昨今のアマチュア機は受信時の消費電力が過大な傾向にあります。 ですから無条件に採用するのは難しいかも知れませんが、一度検討してみる価値はあるでしょう。 バス・スイッチのDBMと同じで、ここでこう書いておくと何時の日にか良い性能のRFアンプがアマチュア機にも搭載される時が来るかも知れません。(笑) RFアンプのデバイスは2SK125/J310/SST310ばかりでありません。こうしたバイポーラ・トランジスタを使ったRFアンプなど如何でしょうか?

 まあ、今ならノイズレス・フィードバックのノートン・アンプ・・・もちろんPush-Pullタイプを使ってゲインの平坦化と低歪みの追求を図るのがトレンドです。 その為にはもう少しゲインの取れる石がベストチョイスかも知れません。

 そのほか、IFアンプなども面白い回路になっています。詳しく見て行ったら興味深いこともありますが、始めるとキリがないのでまた何時か機会でもあったらにします。

                 ☆ ☆ ☆

 JRCのNRD-72とかその上位の受信機は安定した性能なので使っていて安心感があります。だまって過不足なく受信できる安心・安定感はさすがです。 ところが操作していて何か楽しいかと言えば、あまりそう感じません。 当たり前に受信できる機械はプロにとっては頼りになる存在でしょう。 空気のような存在と言ったらわかり易いでしょうか。 なければ困りますが、普段は特に意識などしない存在なのかも知れません。 プロの通信士を惚れさせた小林無線とは対極にある受信機のようです。

 今でもプロ用受信機・業務用受信機に憧れを持つ人がたくさん居られます。 堅牢で確実な動作をしてくれるのは流石だと感じさせてくれます。 しかし、こうした受信機で聞こえるときは今のアマチュア機ならどれでも立派に聞こえます。 昔のようにプロ用とアマ用の性能差は無くなっています。 プロの通信はチャネルが割り当てられていましたから普通は混信など滅多にありません。従って混信除去能力は限定的です。一方、アマチュア無線は大違いです。混信対策の機能を考えれば今どきのアマ用の受信機なりトランシーバはとても優れものです。もちろん製造技術の進歩で信頼性だって侮れません。 de JA9TTT/1

(おわり)

2014年4月1日火曜日

【電子管】Restoration of a tube radio SR-100K

【STAR SR-100K型ラジオを復活する】

の色
 やっと春になりました。 2月の2回の大雪でずいぶん足踏みをした春です。 スイセンや鮮やかな黄色のレンギョウもやっと開花したと思ったら桜がやってきました。 北国の春と一緒で一気に花の季節を迎えています。

 春は出会いと新たなスタートの季節です。 学生時代は遠い昔のことになりましたが、なんとなくわくわくが4月とともに蘇ってきます。 もう一度初心に帰って・・・と言う訳でもありませんが、古いラジオのレストアでも辿りながらあのころを思い出しつつ書き綴ってみましょう。 何か新規性がある訳でもありませんし役立ちもしないとは思います。もしお暇ならお付き合いでも。もちろん自身のレストア記録が目的なので記述の過不足があっても悪しからず。

#真空管でノスタルジックな話しと言うより意外に近代的だったりします。(笑)

                    ☆ ☆ ☆


SR-100K発掘
 子供の頃から何回も引っ越ししています。運ぶ価値の無いものはその都度捨てられました。 ですから子供の頃の思い出と言えばアルバムくらいです。

 このラジオキットが残っていたのはそれなりの思い入れがあったからです。捨ててしまう気持ちにはなれなかったのです。 数年前に古い家を取り壊した時にも再整理しました。このラジオはその際に持ち出して屋根裏の奥深くに仕舞われていました。

 昨年の春頃から始めたシャックの整理で発掘されました。 STARの受信機キット・SR-100Kと言うものです。段ボール箱に入っていたから残ったと言えそうです。

私のSR-100K
 取り出して久しぶりに灯を入れてやりたいと思いました。

 ですが、確かめたらそうも行かないことがわかりました。 年数の経過だけが理由ではありません。 昔々、製作技術が稚拙だったころの作品です。 理屈も良くわからず行なった改良(改悪?)が随所に見られました。 ですから写真のように無事に通電できたのは全てのことが済んでからのことです。

 パネル面の登場はここだけなので少しだけコメントします。 まず、ラジーケータのSメータはオリジナルにはありません。これは以前の改造で取り付けました。 ほかバリキャップを使ったスプレッドや意味不明のジャックが数個追加されていましたがすべて撤去しました。空いた穴は埋め戻しました。いろいろ改造して遊んだ痕跡があったわけです。

SR-100kの回路図
 入っていた段ボール箱の文字を良く見ると、Communications Receiverとあります。要するに「通信型受信機」と言う意味です。 でも、回路を見れば一目瞭然、たんなる4球スーパーです。 整流管がダイオードに置き換わっていますが、トランス付きの「5球スーパー」と同じ回路構成です。 B電圧が低く回路電圧はトランスレスのラジオ並です。 ですからAFのパワーはあまり出ませんがそれで不足ではありません。十分うるさく鳴ります。

 もちろん同じ5球スーパーのような受信機にはDELICAのCS-7やTRIOの6R4Sのような「通信型」と呼べるものもあります。STARならSR-40Kが同類です。 ですがSR-100Kは純然たる家庭用スーパ・ラジオのキットです。回路だけでなく部品からも伺えます。この先、明らかになって行くでしょう。

こりゃ通電不可だな
 家庭用ラジオだって案外侮れません。中波放送くらいうるさいほど良く聞こえるのが普通です。 ですから、久しぶりに灯を入れてみたかったのです。

 しかし、ちょっと待った!

 上から見たら球も所定の位置に刺さっていて大丈夫そうですが、シャシの裏をみたらどうにも危なっかしいのです。 それにもう何10年も通電していないので、いきなり通電は危険過ぎるでしょう。

 中身を見て駄目そうでしたから捨てようとも思いましたが音を出してみたい一心で修復することになったのです。 これは平成の大修理です。(笑) 途中の写真は省略しますが要するに「完全分解+再組立」です。部品も怪しいので確かめながら使いました。新品キットの倍以上の手間がタップリ掛かりました。

IFTとIFアンプ
 手前の真空管は周波数変換の6BE6です。 IFTに挟まれたのが中間周波増幅の6BA6です。

 使ってあるIFTはごく一般的な物のように思えます。要するに家庭用ラジオと同じです。

 IF1段用のIFTでもTRIOのT-6型のような通信用とはだいぶ違います。これは通信機用の性能を追求したものでは無いでしょう。このIFTですがすこし怪しかった記憶もあるので確認してから再利用すべきです。

IFTの確認
 たとえばバリコンや電源トランスと言った主要部品はそのまま使うしかありません。 IFTはどうしても駄目なら代替品に換える手もあります。 あるいはあっさりラジオと割り切った使い方でしのぐことも必要でしょう。

 さっそく内部を確認しました。 同調コンデンサはディップド・マイカコンデンサです。 IFTテスト治具で特性確認したらIFT-Aは正常でした。 IFT-Bは2次側の同調がだいぶずれていて、正しく調整されていなかったようでした。 二次側コアを正しい方向へ回して行くと一旦信号レベルが下がるのです。コアを回す方向が逆だと勘違いする状態になっていました。 特性直視装置で観測しながら再調整したので間違いませんでしたが、放送を受信しつつ調整していたなら現象は良く理解できなかったでしょう。

#配線のストレー容量を見込んだ再調整を行なって再利用に備えることにします。

ウエファ型ソケット
 真空管のソケットはウエファ型です。 しかも最初からシャシにリベット止めでした。 リベット止めは家庭用の量産ラジオでは常套手段です。

 このソケット、何回も球の抜き差しをしました。 配線の付け替えもたびたび行なったので相当「へたって」います。 そのままでも何とか使えそうにも見えましたが、一旦外して超音波洗浄くらいしたいです。

 配線を撤去した後はシャシの清掃も必要なので一旦ソケットは撤去しました。結局、外してみたら程度が良くないので新品に交換したくなりました。

ステアタイト型に交換
 真空管ソケットは全部交換しました。 ラジオごときにステアタイトのソケットは贅沢でしょう。 しかし手持ちにウエファ型はないし、ベーク・モールド型もありません。

 ステアタイトをこの際使いました。 たぶん、持っていてもこの先使う機会はないでしょう。 こうしたソケットも近ごろは中華モノが出回っています。 但しこれはずいぶん前に購入した国産品です。

 タイトソケットはウエファ型とは取付けネジの間隔が異なります。 鉄シャシをヤスリで削って穴間隔を広げてやらないと止められません。その加工が修復作業の中で一番面倒でした。

 新品のソケットを使うなら、いらない球で「足慣らし」を数回やってから使うと安心です。 もし中華ソケットを使うなら寸法精度に注意しましょう。 しっくり来ないソケットは使わぬ方が良いです。金メッキされてはいても寸法誤差が大きいのは困りものです。

出力トランスも交換
 オリジナルとは違うアウトプット・トランスに交換されていました。使用中に断線したので手持ちで間に合わせたようです。出力管:6AR5にはミスマッチなので秋葉原の東栄変成器でT-600型を買って来ました。 T-600は小さな出力トランスですが、それでもオリジナルよりも大きくて取付け穴の追加が必要でした。

 5極管:6AR5シングルの無帰還アンプです。トランスも小さいので低域再生は望むべくもありません。 むかしの真空管ラジオらしい歯切れが良く明瞭な音がします。 音質改善の目的で6AR5のプレートと6AV6のプレートを高抵抗で結び、局部負帰還を掛けていた痕跡もありましたがオリジナルを尊重してそのままにしました。 ラジオチックな音なのは当然です。もちろん低周波出力は大きいしスピーカも大きな分トランジスタラジオよりマシな音がします。

AFゲインVRの交換
 音量調整は500kΩのスイッチ付き(S付き)VRが使ってあります。 電源スイッッチを兼ねた音量調整VRはラジオを使う都度回すことになるので損耗しやすいのです。 過去にも交換した記憶がありましたが、調べたらやはり使い物になりそうにありません。新しくすることにしました。

 もっと良い物が欲しかったのですが、500kΩのAカーブでS付き、しかもローレットの短軸ともなると秋葉原でも売っている所は限られます。 使える物が見つかったのはむしろラッキーでした。 このVRはAカーブの具合がJISとは違うらしいのと、左に回し切ってスイッチOFF直前の所に残留抵抗があってあまり芳しくありません。しかし他には無いので仕方ありません。もちろん使えない程ではありませんが無名の品の寿命は短そうです。最近秋葉原に多い中華部品のようです。

バンドスイッチは清掃で
 バンド・スイッチは4回路2接点のロータリ型です。 まだALPSほかで良い物を売っています。 しかし上のVRと同じようにローレットの短軸と言うものは近ごろ見かけません。 ツマミごと換えてしまえば良いのですが、それでは外観が別物になってしまいます。

 状態を見たら,接触不良は酷いもののガタもなく接点の状態は悪くないようでした。 良く清掃・整備して再利用することにします。 コンタクトスプレーほかケミカル品で接点クリーニングをしたあと有機溶剤も使って超音波洗浄しました。 完全に脱脂されてしまったので、必要部分に潤滑しました。 まだいくぶん接触状態に不安定さも見られますが概ね良好になりました。

 バンド切換えのロータリ・スイッチからは12本の配線が出ます。初心者にとって間違い易い部分です。キットの組立て説明書では拡大図で詳しく説明されています。 いまでは接点構造ほか回路も熟知しているのでこの程度ではまず間違いません。大人になって少し上手になりました。(笑)

シャシ下面全景
 写真の下側が正面パネル側です。シャシの四角い切り欠き部分にバンドスイッチがあります。 2つ見えるマイカ・コンデンサはパッディング・コンデンサです。 容量を確認したら正常だったのでそのまま再利用しました。 シャシ中央付近に見える2つのコイルは「局発コイル」です。

 そのほか、多くのCR部品は新しい物に交換しました。回路定数はオリジナルを尊重しつつ、もちろんE系列から近似値を採用します。 コンデンサは耐圧の必要な物とそうでない物を考慮して同一容量でも種類を変えています。これは耐圧の高いコンデンサの手持ちが限られるからです。 高周波部では卵ラグを随所に追加してニアバイアースに備えました。

 配線は奇麗とは言えませんが、高周波回路を意識してバイパス・コンデンサは最短で落としています。 また、ヒーターや電源一次側など、ACが通る配線は良くよじってHUMが誘導しないようにしておきます。 オリジナルではヒータ配線はシャシを帰路とした片側配線になっていました。 あらたに2本引いて行く形式に変えました。 低周波出力管の部分で片側をシャシに落としました。ヒーターのバイパスコンデンサも随所に入れてあります。耐圧が低くて良い所には50V耐圧の積層セラコンを使いました。 青い円盤型コンデンサは電源一次側に追加したコンデンサ(Yコン)です。 ここは安全規格品を使います。

シャシ下AF増幅部
 低周波回路部分です。 中間周波増幅(6BA6)で増幅された信号は、双二極三極管の6AV6の二極部で検波されます。 検波で得られたDC電圧分はAGC電圧となってコンバータ管:6BE6と中間周波増幅管:6BA6に加えられます。

 6AV6の二極部で検波された音声信号は三極部で電圧増幅されます。 回路は高抵抗のグリッドリークを使った「リークバイアス方式」です。 リークバイアス式は大きな入力信号では歪みが増えますが、ラジオですからまあ使えます。 青い色のカップリング・コンデンサ(フィルム型)を通って電力増幅用五極管:6AR5で増幅されスピーカーを鳴らします。 ワット数の大きな抵抗器は酸化金属皮膜抵抗を使ったので従来のカーボン型と比較して、非常に小型化されました。(ただし高温化します)

 写真下側に見える1,000μF/16Vの縦型ケミコンは後に説明するSメータアンプ用の電源部です。ヒーター用AC6.3Vをプラスとマイナスに半波整流して±約8Vを得ました。負荷電流を考えると1,000μFは大きすぎます。220μF程度で十分でしょう。

電源部は大改造
 電源部のブロック・ケミコン(70+60μF/180V)も再利用したいと思いました。 入念な再化成を試みたのですがリーク電流が減少してくれないので使うと危険なため再利用は断念しました。 この時代のケミコンとしては珍しいことです。多くの場合、再化成で復活する筈です。

 同じサイズのブロック・ケミコンはありませんから縦型とチューブラ型を組み合わせて平滑回路を構成しました。 ごく小容量の電源トランスなので許容リプル電流にはマージンがあります。 100μFと330μFを使ったので平滑容量はだいぶ大きめです。 整流回路もダイオード一つの半波整流から4ダイオードのブリッジ整流に変更しました。使用ダイオードはDS135C×4です。 その結果B電圧がやや上昇してオーディオはパワーアップしました。 リプルも減少したのでブーンと言うHUM音はまったく感じられません。 なお、電源部は部品が増えたのでラグ板を追加しました。

シャシ上面全景
 シャシ上面では、4連のトリマ・コンデンサが交換になりました。 オリジナルはタイト基板のマイカトリマでした。

 調べたら,タイト板にクラックが入っていて使用できません。 在庫からちょうど良い4連トリマコンデンサが見つかりました。寸法に合わせて穴加工を行ないスタッド・ボルトで浮かせて実装しました。ちょっと見ではオリジナルと違いません。

 スピーカー・マグネットの左に見えるのがアンテナ・コイルです。 手前のパネル寄りがBCバンド、奥側がSWバンドです。 いずれもアンテナ側の巻線がたくさん巻いてあるハイ・インピーダンス型です。 STARのラジオ用コイルによく見られる形式で、長さ数m程度のごく短いアンテナでも良く聞こえるようになっています。家庭用のラジオには好都合なようにできています。

 その代わりHAM局がよく使うダイポール型アンテナのようなローインピーダンス・アンテナを繋ぐには不適当です。 このあたりもSR-100Kが単なる家庭用ラジオの設計だと言うことを裏付けています。 HAM用受信機ならローインピーダンス型のアンテナコイルが良いのです。プリセレクタやクリコンと言った付加装置にマッチするからです。

Sメータ・アンプ基板
 マジック・アイにしろラジケータにしろ、ラジオには何らかの同調指示器があった方が使い易いです。 SR-100Kにはどちらも付いていないのが不満でした。 マジックアイは通信機らしくないので500μA-FSのラジケータを付けました。

 PNPトランジスタを使い、AGC回路に流れる電流を増幅する形式のメーター回路になっていました。 最初はゲルマニウム・トランジスタ:2SB185でしたがIcbo(コレクタ遮断電流)が機内温度の上昇で増加し零点がずれました。 その後、本質的にIcboの少ないシリコン・トランジスタ:2SA562に交換しました。 但しシリコン・トランジスタはVbeが大きいので振れ始めに不感帯を生じる欠点がありました。

 同調指示程度ならそのままでも良いのですが、ここは近代化してC-MOS OPアンプを使ったバルボル形式のSメータ回路を追加しました。 圧縮型の振り切れ防止を付けるなどラジケータが相手では勿体ない回路です。動作は安定していてとても快適です。

Sメータ回路図
 電源回路を含めてSメータ部分の回路を書いておきました。 メーターの照明は白色LEDを使います。 数mAで十分明るいので豆電球よりもずっと効率的です。 LEDなら切れる心配もありません。(そんなに使うこともないでしょううが・笑)

 アンプ部はRCAのC-MOS OPアンプ:CA3130Sです。CA3130EやCA3130Tでも同じです。 ここはFET入力型のOPアンプなら何でも大丈夫です。 AGC電圧は6BA6の部分から引張って来ます。 たいへん強い信号が入って来たときAGCは-12Vくらいの電圧が出ます。 それを約10MΩのアッテネータでだいたい1/10に分圧してからOPアンプでアンプし、メーターを振らせます。 昔の本を参考にすると12AU7の差動型Sメータアンプなどを付けたくなります。しかし補助回路にこそ半導体が相応しいでしょう。消費電力も僅かなので高性能な回路が追加できます。迷わずハイブリッド構成にしました。

 メータの振れ方はIF増幅管:6BA6のリモート・カットオフ特性に依存します。概ねLogリニヤに近い振れ方になります。 要するに一目盛りが何dBと言うSメータらしい目盛です。もちろん、メータースケールは自分で用意することになります。 いまならパソコンのグラフィック機能とカラープリンタで格好良い目盛板が作れますね。

参考:AGC回路には無信号時でも-0.3Vくらいの電圧が出ています。これは真空管の初速電子による電流が流れるからです。そのため大型のSメータを付けるとフルスケールの2〜3%程度指針が零点より浮くことになります。 これを回避するには幾つか方法があります。Sメータアンプに電気的にオフセットを掛けるのが本質的な対策ですが、メータースケールを書き換える、機械的な零点調整をマイナズ側にずらせるなどの方法もあります。 ここではもとがラジケータなので目立たないこともあって零点の浮きは無視しました。 初速電流は検波管の6AV6だけでなく、6BA6と6BE6からの電流もあります。 Sメータアンプの参照が多いようなので追記しました。(2014.04.06)

調整と仕上げ
 全般的な清掃と再組立を実施したので快調な受信ができるようになりました。 もちろん、初めて作った時のようにテスターくらいしか測定器が無い状況ではありません。きちんとした調整ができました。

 まずは、アンテナ端子から強めの455kHzを加えてIFTの調整を行ないます。変調は掛けても掛けなくても良いです。 Sメータ回路が付いていますから調整は容易です。 SメータがなくてもAGC電圧をテスタ(指針式が良い)で測定しながら同じようにできます。 その後は手順書に従いトラッキング調整を行なって終了です。 配線のストレー容量も設計想定の範囲に入っているようで、トリマ・コンデンサの可変範囲も中央あたりで調整終了できました。

 きちんと調整した五球スーパはずいぶん高感度なことがわかります。 短波帯も昔作った頃よりも良く聞こえるように感じるのは全般的な調整がうまくできているからでしょう。 あまり測定器が無い状態ではやむを得なかったとは思いますが、キットの値段を遥かに越えるような測定器を要求するようでは困るし・・・と言った所が初心者向けキットの難しさ(悲しさ)でしょうか。

                   ☆

 まさか、もう一回真空管ラジオを作ることになるとは思いませんでした。 同じような経験は中古のトランシーバキット:QS-500の時にもあったのを思い出します。 結局、ごく簡単なキットとは言え、初心者が完全な形で仕上げるのはなかなか難しいのです。 しかしどんな形にしろ『鳴るラジオ』が作れたことはとても良い経験だったのです。 まがりなりにも鳴ったのですから良い教材だったに違いありません。そうやってみな電子回路の入門をしたものでした。 もう一回組立てて面白かったか?・・と問われれば、とても懐かしかったと言うのが感想です。

 再製作でずっとマシな作りになりました。 これで何時の日にか電気に興味を持った孫が『じいちゃんの作ったラジオ』を開けてみたときに恥ずかしい思いをしなくて済むでしょう。良かった良かった。(爆)

 バンドスプレッドが無い、ダイヤルが十分減速されていないなど、HAM用はおろかBCLでさえ厳しいラジオです。あくまでも家庭用ラジオのキットです。 木造家屋なら数mのビニール線を垂らしてやれば在京の民放局はたいへん良く聞こえます。 夜間ともなればびっしり民放局が並ぶので、目的の局がどれなのか見分けるのも難しいくらいでした。Sメータを見ればAGCも良く効いています。 短波もラジオ日経の各プログラムが快適に入ってきます。大陸方面からの国際放送も同様です。 選択度はラジオ聴取に程良いらしく十分快適です。短波帯でも少しウオームアップすれば局が逃げてしまうようなQRHは感じません。 但し無改造のままではHAMバンドは殆ど実用性が無いことがわかります。せめてバンド・スプレッドは必要です。 選択度やゲインの問題もありますが、やはりきちんとしたダイヤル機構の存在が「通信型受信機」の決め手だと再認識しました。de JA9TTT/1

(おわり)