2015年1月15日木曜日

【部品】DBM Chip vintage, MC1496P

年代物のDBM-IC:MC1496G/MC1496Pの活用
MC1496と言うDBM-IC
 MC1496は非常に古いDBM-IC(DBM:二重平衡型変調器/ミキサ)です。 まさしくビンテージと言えます。1970年代のはじめには登場していました。 オリジナルの開発メーカーはモトローラ社でしたが、様々なアナログICメーカーがセカンドソースを作りました。

 写真は、10Pin-Canパッケージと14Pin DIPパッケージの「1496」です。 他に表面実装タイプもあって今はそちらが主流になっています。既に10Pin-Canパッケージは各社とも廃止品なので手に入るのは市場在庫品のみです。

 注意すべきはCanパッケージとDIP14Pinパッケージではピンのアサインが異なっている所です。とくに古い資料ではCanパッケージ品を標準にしてピン番号が振ってあります。 電気的特性は違わないのでDIP品あるいは表面実装品に置き換えれば十分です。 ここではすべて14PinのDIPパッケージ品(面実装品も同じ)を標準にして図面を書きました。従ってあえてCanパッケージ品を使うならピン番号を振り換えてください。

MC1496の入手
 DIP品も廃品種になっているメーカもありますが写真のJRC製:NJM1496DはMC1496P互換の現行品です。多くのパーツショップで安価に入手できます。

 写真は秋葉原の千石電商(←リンク)で入手した物です。2014年12月現在・単価231円でした。 共立エレショップ(←リンク)ではNJM1496Dが194円で売っています。また、先月までサトー電気でもMC1496Pが200円でしたが300円に値上げされました。CanパッケージのLM1496Hは460円と更に高価です。

 写真のCanパッケージのものは遠い過去に入手した拙宅の引出し在庫品です。ナショセミのLM1496Hは信越電機商会(←大昔の広告なので見ての注文は不可・笑)・・・今の秋月電子通商で購入したものだと思います。 探すと古いMC1496GやLM1496Hが置いてある店が見つかりますがCanパッケージ品を使うメリットはありません。(使いにくいしオネダンもだいぶ高い・笑)

NEWS:秋葉原の秋月電子通商がNJM1496Dの扱い開始。嬉しい単価100円です。(2015年4月現在)

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 今さらこんな古いDBM-ICなど登場させなくても・・・と思われるでしょう。 しかし後から登場したDBM-IC、例えばSN76514NやSN16913Pの方が先に生産中止になって、それから年月が経過したため既に手に入りません。
 かろうじてSA612なら手に入りますが扱うお店が少なく価格も高めです。 SA612は低消費電流なのは良いですがダイナミックレンジが少々狭いので気をつけて使うべきです。 そうかと言って入手容易なTA7358P/APは例の問題で使いにくいし・・・。

 MC1496は外付けが多くて面倒くさいですがセカンドソースが現行品として低廉に流通しています。外付け部品が多い反面、動作状態を自在に設定できるので用途に応じて最適化できる旨味がある・・・と言う訳で、なるべく省部品化して使い易いように考えてみました。もちろん自作などしないお方には面白くもないでしょう。ここらでお帰りがお薦めです。

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MC1496の標準的な用法
 もともとMC1496は何か特定の通信機向けに開発されたのではないかと思います。軍用品だったのかも知れません。その機器には+12Vと-8Vの2電源があったのではないでしょうか。
 左図はデータシートに記載された標準的な使い方です。 右側の±電源で使う方は幾つか外付け抵抗器が少なくて済みますがそれでもかなりの本数です。 左側の+12V単電源で使うと一段と外付け部品が増えます。

 これしか無かったころならともかく、その後登場したSN76514NやSN16913Pと比べて部品数が圧倒的に多いのが難点でした。すぐさまそちらに乗り換えたのは当然でしょう。ICですから周辺部品は少ないほど良い(有難い)に決まっています。

 外付け部品は多いですが、バラモジ(バランスド・モジュレータ:Balanced Modulator)としての性能は優秀で、特にキャリヤ・バランスの安定度は優れています。ダイオードやTrなど個別部品で構成していたバラモジと比べ、温度変化に強いのです。真空管のように徐々に消耗する心配もありません。流石にモノリシックIC化されたDBMです。

AM変調回路やプロダクト検波に使う
 キャリヤを抑制したDSB信号を作るのが目的のICで、あえてバランスを崩してAM変調に使うなんて言うのは邪道でしょうか?

 これはやってみればわかります。非常に良質のAM変調が掛かるのです。 (当たり前ですが)いとも容易く100%変調が掛かります。 しかも低い変調度から100%まで変調のリニヤリティ(直線性)はとても優秀です。オシロスコープにトラペゾイド(←参考)でも描かせてみたら優秀さは一目瞭然でしょう。

 同時に、変調トランスのような周波数特性を悪くするデバイスは使いませんから低域から高域までフラットな周波数特性が得られます。  実際に使うにあたっては音声帯域を制限するLPF(低域フィルタ)は必需です。 HAM局のAM送信機ならfc=3kHzのLPFを入れるべきです。あとはリニヤに増幅して行けばたいへん良い音のAM波でオンエアできます。 微弱電波のAMワイヤレスマイクならfc=10kHzあたりの簡単なLPFでも入れておきましょう。

 MC1496はSSB検波(プロダクト検波)にも向いています。その場合、ややゲインをアップした使い方をすると有利です。ゲインアップの具体的方法はPin2とPin3の間に入れる抵抗値を小さくします。 IFアンプのゲインは低めでも済みますし、そのように設計するとS/Nも良好です。 検波器自身でゲインを持つことから後続低周波アンプのゲインは少なめにしましょう。

 上手に設計してやれば送信時のバラモジと受信時のプロダクト検波が兼用できます。入力・出力ともに2系統あるのでうまく使うとトランシーバの構成が容易です。

MC1496を省部品で使おう
 性能が低下しない範囲で部品数を削減した使い方を検討してみます。

 図の左側はデータシートに書いてある標準的な使い方です。VRを含め抵抗器は14本もあってたいへんです。 右側はそれを可能な範囲で削減してみた例です。 抵抗器は5本少なくなっています。これでだいぶ使い易くなります。「JA9TTT式使い方」とでも言いましょうか、お勧めです。(笑)

 ネットでサーチしてみたら類似の使い方も散見されたので同じように感じて工夫した人もあるのでしょう。 理屈から言えばいくぶん温度特性が悪くなる筈ですが実際には性能低下を感じません。省部品型で十分でしょう。少々不真面目な使い方ですがこれが実用的です。 図面に記載漏れしていますが印のコンデンサは0.1μFで25Vまたは50Vのセラコンです。画像圧縮の関係で回路図の部品定数は読みにくいようですから部品表(←リンク)を用意しました。試作するお方はご利用ください。

 図はDBMでの用例ですが、AM変調器やプロダクト検波でも同様です。あなた自身のオリジナル設計で回路電流をもっと多めに流したい時はバイアス抵抗列を再設計する必要があります。しかし大抵の用途ではこのままの定数で済むでしょう。 電源電圧も9Vあたりならそのまま下げて行って大丈夫です。

 低周波信号とキャリヤ入力端子のインピーダンスは約1kΩに設計しています。従って前段回路の負荷は軽いのでドライブし易いです。HF帯ならこれで支障ありませんが、もっと高い周波数(VHF帯とか)でミキサー回路として使うなら低くします。 単純に該当部分の抵抗値を低くすれば良いです。

まあ、使い易くなったかな
 外付け抵抗器が9本ではまだ少ないとは言えませんが、ずいぶん減った印象を受けます。 部品レイアウトも容易になるのでプリント基板化でも有利です。

 写真は約1MHzのバラモジの例です。ブレッドボードでの製作にもかかわらず、キャリヤ・バランスの調整はとてもスムースで、容易にバランスアウトできました。 SSBジェネレータ用のバラモジとしては音声信号が過大にならぬよう信号レベルを管理してやれば良い音の変調が掛かります。フィルタ・タイプのSSBジェネレータだけでなく、PSN型にも向いています。

 AM変調器としての性能も見ましたがなかなか良好でした。 回路の性質上、100%を超えた変調も可能です。 ただし過変調の波はAM受信機で聞くと歪むだけなので100%を超えないよう制限を設けましょう。 多くのAM放送局のように平均変調度30%程度で行くなら過変調の心配は少ないです。 人声(スピーチ)を扱う範囲においては神経質になるほどでもないようです。

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 某誌で何回か「私の部品箱」と言うワンページ記事を書いています。 私はピンチヒッターなので懐かし系のデバイスをテーマにしています。 記事の依頼でも「長年愛用している」デバイスをと言うお話もあって何だかビンテージ物が続いています。(笑)

 MC1496もそんなデバイスの一つです。  そうは言っても、新たに扱うに当たり過去そのままの紹介では詰まらないでしょう。 いま使っても優秀なDBM-ICですが「何となく使いにくい」ので敬遠されがちです。 敬遠の理由はズバリ「外付けパーツの多さ」にあるわけで、そこが改善されたら再活用されるのではないでしょうか。 少ない誌面に使い方の経緯のような詳しいことは書けないのでBlogで纏めました。 ディスコン(製造中止)でプレミ付きになった高額なDBMチップを入手するのも詰まりません。  部品はちょっと増えますがコスト・パフォーマンス抜群のMC1496(NJM1496D)をもう一度DBM-ICの定番に据える良い機会なのかも知れません。de JA9TTT/1

(おわり)

(2017.05.21リンク切れ復活済み)