2017年2月26日日曜日

【回路】Akizuki DDS-OSC

DDS:Akizuki DDSモジュールの挽歌
 【秋月のDDS発振器
 これは有名な秋月電子通商の「DDS発振器」です。多くの自作好きのお方と同じように過去に何台も製作しています。

 一見して周波数設定の部分をジャンパ・プラグ式で製作したので、DIP-SW式と違うように見えるかもしれません。 他にも少し変更した箇所があって、あとで説明があります。

 もう既に「中華DDSモジュール」でさえ盛りを過ぎた今頃になって何で「秋月DDS」なのだろうか? 疑問を持たれたかも知れませんね。

 ここに来て製作した理由は2つあります。
(1)理由の一つは、このまま活用しないと勿体ないと思ったからです。このキットは最近買ったものではありません。かなり前に買ったまま死蔵していたのです。活用しなければいずれゴミになります。
(2)二つめの理由は検討している目的にマッチしていそうだからです。今となっては高性能ではありませんが発生周波数を半固定で使うには便利そうなのです。 アキュムレータのビット数も適当です。

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 以下、思い付きのニーズからリバイバルさせてみたものです。 既に高性能なDDSモジュールがたくさん登場しています。これを今どき使う必然性はあまりないでしょう。 しかし、この秋月DDSが登場したころを懐かしく思い出しながら、味わいつつ製作したいと思います。 今回は単にキットを組み立てるだけでオシマイです。懐かしさは感じられても何かの役に立つとも思えません。単なる製作記録なのです。(笑)

 【自分で作る必要があった
 秋月のキットには有料の製作サービスが有ったと思います。 しかしDDS発振器が必要なら殆どの人は自分自身で製作したはずです。

 これ単体でも最低限の使い方ができるように考えられています。 基板の端面に並んだDIP-SWで発振周波数のセットができたからです。(実際にはマイコンで制御しないと実用性はあまりないのですが・笑)

 DIP-SWで周波数セットするのは手間が掛かります。 欲しい周波数を決めたら、クロックの周波数とアキュムレータのビット数からセットすべき数値を求めます。 しかもその数値を純2進数でDIP-SWにセットする必要があります。 関数電卓を駆使してセットすべきビット列を求めなくてはならないのでした。

 それでもマイコンのプログラムなしに単独でテストできるのは大きなメリットかも知れません。作ってすぐにテストできるからです。 今回、リバイバルさせてみようと思ったのもそんな特徴からです。 周波数を半固定して組み込み用に使います。そのような時には外付けマイコンなしで済むのは便利です。

 キットではハンダ付けの難しい部品は予め実装済みです。 DDS-ICとR-2R式のDAコンバータ用抵抗アレーは基板にハンダ付けされていました。

 初期のバージョンではクロック発振器が16.777216MHzになっていた記憶があります。あるいは16MHz丁度の発振器だったかも知れません。 その後、高い周波数が発生できるように67.108864MHzに変更されました。 現在でも後継のキットが発売されていますが(*注)、クロック発振器が写真とは異なるタイプに変更されています。プリント基板もそれに合わせたニューバージョンに更新されています。
*注:当初の6,400円が5,400円に値下げされたあと、暫く販売されていましたが現在はすべて販売終了したもようです。その役割も終わったと言う事でしょうね。2017.05.14)

 【部品はそれほど多くない
 写真に写っている部品がすべてです。 大した部品数ではないので容易に製作できます。

 購入時には周波数設定用のDIP-SWが3つ付属していたような気がします。 しかし何かの製作に流用したらしく欠品していました。

 基本的に付属してきた部品をそのまま使って製作します。 但しキットのままではローパス・フィルタ(LPF)の遮断周波数が低すぎました。 フィルタ部分のみ手持ち部品に置き換えることにします。 また、テストが済んだらクロックの67.108864MHzは外部から与えます。テスト時のみ付属の発振器を使います。

 【DDSの心臓部:Wellpine-DDS
 心臓部のDDS-ICです。 Wellpine社というのは設計会社だったように思います。 製造はどこかの半導体メーカーのはずです。型番から何となく東芝製のようにも見えますが・・・。

 中身はゲートアレーなのではないでしょうか? DDSの論理回路を汎用のゲートアレー上に実現したものと想像しています。

 ピン数が多くハンダ付けが難しいので、写真のように予め右隣のD/A変換用R-2Rラダー抵抗器と一緒に実装済みになっています。 従って残りは普通のリード線型の電子部品をハンダ付けするだけですから作るのは容易です。

旧キットはきれいなクロック
 これはキット付属のクロック発振器です。 消費電流が大きい、周波数の微調整ができない・・・などの欠点はありますが、出力信号そのものは奇麗だったのでDDS発振器の基準クロックとしては支障のないものでした。

 暫く前のBlog(←リンク)に書きましたが、いま手に入る「秋月DDSキット」にこの写真のタイプは付属しません。 写真の物が調達できなくなってから「プログラマブル・水晶発振器」を使ったクロックが付属するようになりました。 特に信号の奇麗さを要求されない用途なら新しいプログラマブル・水晶発振器でも支障はないかも知れません。

 しかしHAM用の送・受信機に使うなら写真の旧クロック発振器の方が遥かに望ましいのです。 そうは言っても手に入らないのですから仕方ありません。もし最近購入したキットを製作するなら、クロックは前回のBlog(←リンク)のような発振器を作って与えたいところです。

 【組立完成
 写真は秋月DDSモジュールの完成状態です。

 一部に付属にはない部品を使っています。そのため多少見た目が違うかも知れません。

 周波数設定用のジャンパ・プラグは未挿入です。 このあと必要な周波数に合わせて所定の位置に装着します。

 様々に周波数を変化させたいなら外付けマイコンでシリアル・コントロールする方が良いでしょう。 しかし、なかば恒久的に同じ周波数を発生させるのが目的ならジャンパ・プラグのセットで周波数を「プログラミング」する方法が手っ取り早いです。このあたり、どの様に使うのか目的次第でこのキットの扱い方も変わってくるところでしょう。

 【LPFは部品定数変更
 DDSに必須のローパス・フィルタですがキットのままでは約8MHzの遮断周波数になっていました。

 クロック周波数が低い時にはそれが適当ですが、67.108864MHzのクロックで使うには遮断周波数が低すぎて最適とは言えません。

 ここでは遮断周波数:fcが約15MHzになるように変更しています。 具体的にはL1〜L3に0.47μHを使います。C12とC15は220pF、C13とC14は440pF(=220pFのパラで実現)にしました。 これで15MHzあたりまで使えるようになります。

クロックは着脱式
 付属してきたクロック発振器は完成後の基板テストの時だけ使用します。 ハンダ付けしてしまうと取り外すのは厄介です。ここでは「ピンソケット」という部品を使って着脱式にしました。

 テスト時には写真のクロック発振器を装着し動作確認が済んだらクロックを外部から与えるようにします。 なお、外部クロックで動作させる際に追加を要する抵抗器:R20(=100kΩ)は基板の裏面に実装しておきました。この抵抗器は付けたままで支障ありません。外部クロックの与え方次第ですが、この抵抗はなくても良いことが多いはずです。

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 ありふれたキットを当たり前のように組み立てただけです。 他のDDS発振器が登場している今となっては少々色あせて見えるかも知れません。 しかし、1990年代の末にこのキットが登場した時のインパクトたるや強烈でした。 PLL発振器では困難だった1Hzや10Hzといった細かいステップで周波数変化が可能な発振器がいとも容易に可能になったからです。 PLLのような自動制御に付きものだった過渡応答のようなものはありません。PLLで細かい周波数ステップを実現するには多大な努力が必要でした。その殆どすべてが一発で解消されたのですから・・・。

 DDS(ダイレクト・デジタル・シンセサイザ)はそれ以前から存在していた技術です。しかし、それはたくさんのICを並べたとても高級な製作でした。 それがキット化されコンパクトで扱い易い形状で発売されたのです。 無銭家にとって6,400円はお手軽とは言えませんが「高度な技術を買う」と考えれば十分納得できるものでした。 だからこそ死蔵せずに活躍の機会を与えてやりたいと思うのです。

 それで、きちんと動作したかって? ずいぶん長い間、眠り続けてきたキットでしたが大丈夫でした。 付属してきたクロック発振器の状態でちょうど10MHzが出るようにセットしてみました。 出力は正弦波で、0.7Vppくらい得られました。 肝心の周波数を測定した結果は3.7Hzくらい低くなりました。これは0.4ppmくらいのマイナス誤差です。 クロックの周波数精度は±5ppm程度でしょう。0.4ppmの誤差なら十分スペックに入っています。 これで製作したDDS発振器の動作は正常だと確認できました。 ではまた。 de JA9TTT/1

【コラム:はんだコテ】
製作には2回前のBlogで紹介した「温調式ハンダこて」(←リンク)を使ってみました。細かいパターン部分の作業に付属していたコテ先チップはやや大きめでしたが、概ね支障なくハンダ付けできました。 温度設定は300℃で使いました。焼け過ぎることもなくハンダの乗りも良好です。 但しベタGNDの部分では長めにコテを当てる必要がありました。なかなか快適に作業できましたが、もう少し高めの温度設定でも良さそうです。
(おわり)nm

2017年2月11日土曜日

【回路】67.108864MHz OSC, Adjustable.

回路設計:周波数調整できる67.108864MHzの発振器
ブレッドボードで試作
  あまり手が進まなかったので小ネタの紹介です。今回のテーマは67.108864MHzの水晶発振器・水晶発振回路です。
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 DDSで精度の高い発振周波数を得たいと言うテーマでクロック発振器を模索しています。 この発振器はその目的のために設計した特殊なものです。作ってみたい人は稀ではないでしょうか? 自家用メモの域を出ない内容ですし地味なテーマなので覗き見ても退屈でしょう。 こんなところで時間を浪費しないでもっと楽しいサイトへジャンプをお奨めします。ジャンプしたらもう帰ってこなくていいんですよ。(笑)

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 67108864と言う数字は2を26乗した値です。 では、なぜこんな周波数が欲しいのかと言えば、DDS発振器の基準クロックに使うと正確な1Hz刻みの発振周波数を得るのが容易になるからです。

 例えば、DDS-ICにAD9834を使うとします。 AD9834のアキュームレータは28ビット長なので、発生できる周波数の刻みはクロック周波数の2の28乗分の1になります。 従って67.108864MHzのクロックを与えると得られる周波数の刻みは0.25Hzになります。クロックさえ正確なら、この0.25Hzに小数点二位以下の端数はまったくありません。 例えば40,000,000倍で10MHzちょうどが得られる訳です。そしてこの10MHzに周波数の端数は付きません。(40,000,000は2進数表記では、0010 0110 0010 0101 1010 0000 0000となる)

 ほとんどの用途では必要周波数に対して1Hz以下の誤差で設定できれば支障はありません。 受信機や送信機で必要とされる周波数精度は厳しく見積もっても誤差±数Hzでしょう。それにSSBでは相手局にゼロインしているのかが問題になるのであって、周波数の絶対精度は問題ではありません。あるいはCWなら各自が好みの音調でダイヤルしているので完全なゼロインなど要求されません。 従って、必ずしもこうした特定の周波数で与える必要はありません。 マイコンのプログラム処理によって容易に誤差1Hz以内の周波数に設定できるからです。あとはその周波数でずっと安定していれば良いのです。

 しかし非常に精密な測定のような用途では設定誤差がまったく含まれない正確な周波数が欲しくなることがあります。 その為にはDDS-ICに与えるクロック周波数は任意の周波数ではダメです。プログラム処理ではごく僅かな誤差が残存してしまい取り除けないからです。 従ってクロックは2のN乗の周波数であって、しかも調整によって必要とする周波数へ合わせ込めなくてはなりません。このようなことから周波数調整が可能な2のN乗周波数の発振器が欲しくなるのです。

 DDS-ICに与える基準クロックなので、2のN乗周波数でもなるべく高い周波数が有利です。AD9834を例にとれば、2^25=33554432あるいは2^26=67108864が適当でしょう。 具体的な周波数としては33.554432MHzまたは67.108864MHzになります。 用途次第ですが、高周波の発生が目的なら2^24=16777216(→16.77216MHz)ではやや低すぎます。そうかと言って、2^27=134217728(→134.217728MHz)ではAD9834が受け付けてくれません。(クロック上限周波数が高いAD9850やAD9851なら大丈夫です)

 【67.108864MHzの発振器
 図は67.108864MHzに調整可能な水晶発振回路です。 水晶発振器ですから大きく周波数を変えることはできません。もちろん目的の67.108864MHzに調整で合わせることはできます。

 ただし、それがずっと維持できるだけの安定度はありません。 一番下の桁は4で40Hzを意味しますが、それは67MHzに対して約0.6ppmにあたります。 いくら調整しても長時間維持することは不可能です。どうしても維持したいなら、恒温槽(オーブン)に入れるなどの対策が不可欠でしょう。

 もしDDSで得る周波数の精度が1ppm程度で良いなら、この67MHzの方も絶対精度は1ppmで良いので幾らか楽になります。 ±67Hz以内の周波数安定度が維持できれば済みます。 まあしかし水晶発振器とは言えども無補償で1ppmの周波数安定度を維持し続けるのは困難と言えます。従って1ppmの精度を求めるなら時々校正しながら使うのが現実的です。

 発振回路、及び逓倍器のいずれにも中華製のRF用トランジスタ:S9018Hを使いました。 国産のトランジスタでも支障ありません。 67MHzは大して高い周波数ではありませんが一応VHF帯です。 ここで使うトランジスタはft=300MHz以上の小信号用なら何でも大丈夫です。 しかし2SC1815のような汎用トランジスタは不適当です。  S9018Hは「秋葉原価格@¥10-」くらいのチープなRF用トランジスタです。でも、ft>800MHzですから、このくらいの周波数ならとても快適に動作してくれます。(中華トランジスタ:S9018HのShopping Report ←リンク) 写真のブレッドボード試作例では発振部のQ1に2SC2668Yを使っていますが、S9018Hでまったく支障ありません。足ピンの並びが異なるので気をつけます。

 2逓倍回路はPush-Push形式にしました。トランジスタ1石の逓倍回路でも周波数の2逓倍は可能ですが基本波の通り抜けが多いのが欠点です。 従って1石式でやるなら後続のフィルタはしっかりしたものが必要です。 Push-Push形式は基本波の通り抜けがずっと少ないので後続のフィルタが簡単になります。 安価なトランジスタを1つ追加するだけで、スプリアスの除去にたいへん効果があります。 なお、回路図のようにダイナミック・バランスがとれるようにして一段と不要成分の漏洩を低減するようにしました。

 【出力周波数
 出力周波数です。 この例ではユニバーサル・カウンタで測定しています。もちろん普通の周波数カウンタでOKです。 トリマ・コンデンサ:C6で周波数調整します。 但し、発振トランジスタ:Q1のコレクタ側の同調状態によっても幾らか発振周波数が変化します。 もしC6だけでうまく合わせ込めない時にはC4も微調整してみます。

 この状態で暫く様子を見ていましたが、10Hzの桁あたりが漂動しているようでした。 従って常に67.108864MHzちょうどが維持できる訳ではありません。 何の温度補償もしていない水晶発振器としてはごく普通の周波数安定度でしょう。(こんな多桁で見るから変動が多いように感じるのですが)

 【ダイナミック・バランスの調整前
 2逓倍器のダイナミック・バランス調整の効果を見てみましょう。 写真は調整前の状態です。 出力端子で観測しています。

 写真のように一つおきに波形の振幅が変化しています。 これは、逓倍回路のトランジスタ、Q2とQ3の特性が完全に一致していなかったり、トランジスタのベースに信号を与えるトランス:T1の2次側巻線の2つが良く揃っていない・・・などの影響があるからです。

 ゼロ・バイアスのC級増幅なので、Q2とQ3は交互に動作しており各々のコレクタ出力は合成されて出力に現れます。 各トランジスタのドライブ状態や増幅度に違いがあって一つおきに山の高さが異なっているのです。 このままの状態では基本波の通り抜けや、高調波成分は多くなっています。

ダイナミック・バランス調整後
 Q2とQ3のエミッタ間に入っている可変抵抗器:VR1を調整すると図のように山の高さが揃ったきれいな波形になります。 観測場所は同じく出力端子です。

 よく見るとまだ完全に同じにはなっていませんが、上記の状態よりも明らかに改善されたことがわかります。 この程度ならDDSのクロック用として支障ありません。 用途によっては、よりピュアな信号が欲しくなるかもしれません。それにはもう1段同調回路を加えます。

 Push-Push形式の2逓倍器は入力側のトランス製作が少し面倒ですが、それ以外は特に厄介な部分はありません。 スプリアスを抑えつつ、効率良く周波数の2逓倍が可能なので以前から好んで使っています。 逓倍器としてパワーゲインも大きいので、逓倍を重ねるような用途にも適しています。 なお、奇数次の逓倍、例えば3逓倍・・・したいときはPush-Pull型式にすると偶数次の高調波を抑制できるため有利です。ご参考まで。

                 ☆ ☆ ☆

 複雑なシステムもシンプルな回路の組み合わせです。 ごく基本的な要素回路ですが、テストしてデータをメモっておけば応用するときの安心感はずっと違います。 それぞれの回路にはクセのような物があって、それを知らないと後で問題になることがあります。 この発振+逓倍回路にも幾らかクセがありましたが試作したことで要点は掴めました。 安心感を持ってこの先の活用に進めます。

 以前、秋月電子通商で販売されていた67.108864MHzの発振器をDDS-ICのクロックに使ったことがありました。 電源を与えれば目的周波数の信号が得られるのは便利でしたが、周波数の微調整ができないのが欠点でした。少々精密な用途になるとそれが支障になったのです。 モジュールに加える電源電圧を変えると幾らか発振周波数が変化します。 その性質を利用して「周波数の微調整」を行なう例も見掛けました。  ほかに適当な代替パーツもなかったので、やむなく周波数誤差はソフトウエア的に補正する方向へ進みました。 しかしそのようなソフト処理では済まないことがあります。 そんな時は普通の方法で周波数調整できる発振器にニーズがあります。 さらに消費電流の削減は主目的ではありませんが既成の発振器よりも電源電流が少ないのも一つのメリットになりそうです。 では、また。 de JA9TTT/1


(おわり)fm