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2018年5月15日火曜日

【回路】Frequency Counter Design, Part 2

回路設計:周波数カウンタの設計・Part 2
カウンタ用LSIのテスト
 カウンタ用のLSIを使ってみる第2回です。 前回(←リンク)は周波数カウンタの心臓部とも言える制御回路の設計と試作を行ないました。 周波数カウンタ用の標準的な制御回路として考えておいたのでどのカウンタ用LSIでもうまく動作するはずです。 もし何らかの問題が見つかればその都度対策しましょう。

 では、さっそく本命の「カウンタ用LSI」を実際に動作させてみたいと思います。

☆以下のような順で全部で6種類についてテストしました。

(1)TC5032P(東芝)・・・これで6桁の周波数カウンタが作れるので便利です。
(2)TC5001P(東芝)・・・東芝の5000シリーズで最初に登場した4桁のカウンタ。
(3)MSM5502(沖)・・・16ピンの小型パッケージで4桁のカウンタを実現。
(4)TC5037P(東芝)・・・MSM5502と類似ですがオーバーフローがないのが欠点。
(5)LC7961(三洋)・・・デコーダとLEDドライバを内蔵している4桁のカウンタ。
(6)μPD851C(日電)・・・4・1/2桁の多目的指向のカウンタIC。

・・・・以上、前回のBlog冒頭に登場したカウンタ用LSIです。それぞれ具体的な回路として製作し、使用する上での注意や使ってみた感想など交えてまとめました。

                   ☆

 すでに専用ICが周波数カウンタの製作にもてはやされる時代は終わっています。 ですから今さらの感もあるのですが、手持ちのICを試してみたいという興味から始めました。 ただし本格的に製作する意図はないのですべてブレッドボードで作ります。 制御回路やLED表示回路の部分は共通して使います。従って6種類とは言っても手早く試すことができるでしょう。

 こうしたICの時代も過ぎ去ったからでしょうか? ネットで検索しても設計に使える情報が見つけられないICもありました。 いずれICチップは持っていても情報がないので使えなくなる時がやって来るかも知れません。 手持ちの資料と合わせて新たに得た情報を繋ぎ合わせることで何とか実用回路にまとめることができました。この機会に全てのLSIについて具体的な回路を示して使い方を紹介しておくことにしました。大げさかも知れませんがある種の「技術遺産」になるかも知れません。ここに公開しておけばいずれarchive.org(リンク)が拾いにくるでしょう。

重要各カウンタ用LSIの評価はすべて同じ条件で行ないました。 制御回路は前回のBlogで紹介の回路を共通して使います。 また、電源電圧はすべて:Vdd=5.0Vとしています。 電源電圧アップでカウント上限周波数の多少のアップも見込めますが行ないませんでした。 現在ではより高い周波数まで確実に動作する高速C-MOS ICが容易に入手できます。  電源電圧アップを試すよりも、もともと上限周波数の高い高速カウンタを付加する方法が良いでしょう。(高速カウンタ:74HC390や74AC390など多数あり)

以下、かなり長いので適当に「つまみ食い」されてください。


その1:TC5032Pを使う
 TC5032P(東芝製)は28ピンの大きめのICです。 このICで6桁の周波数カウンタが作れます。 写真は同じ東芝のデコーダ・ドライバ用IC:TC5022BPを使ってLEDを点灯させている様子です。 TC5022BPは6と7と9の字体が写真のようになっています。それがわかるような周波数を与えて表示させています。(679.000kHzという訳です)

 後ほどTC5022BPではなく、より一般的な(入手し易い)デコーダ・ドライバである4511Bを使った例を示します。 比較して見るとこうした字体の方が日本人には馴染むように感じます。 もしTC5022BPの手持ちがあれば使ってみたら良いでしょう。 ただし、後ほど書いてあるようにリーディング・ゼロサプレス機能(不要な上位のゼロを表示しない機能。以下ゼロサプレスと略)が必要ならデコーダ・ドライバは4511Bに限ります。 TC5022BPではゼロサプレスがうまく機能しないのです。(TC5022Pと4511Bは同じピン数ですが差し替え可能な訳ではありません。配線の変更を要します)

TC5032Pを使ったカウンタ回路
 TC5032Pをメインにして、デコーダ・ドライバのICとしてTC4511Bを使った周波数カウンタの回路例です。 TC5032Pの桁ドライブ信号は負論理で出ています。どちらかと言えばアノード・コモンのLED表示器向きにできています。 しかし、ここではカソード・コモンのLED表示器をすべてのカウンタ用LSIで共通に使います。 従ってそれに合わせて桁ドライブ信号を反転する必要があります。信号の反転に4049Bを使っています。

 ダイナミック・ドライブ方式で数字表示器を駆動している関係で「小数点」の点灯は意外に厄介です。 表示器の小数点の引き出しピンを単純にVccなどへ接続してしまうと全部の小数点が点灯してしまいます。 正しくは図のようにします。 まず、点灯させたい小数点がある桁の桁ドライブ信号でトランジスタ:Q1をドライブします。 そのトランジスタで小数点のLEDを点灯すれば旨く行きます。ダイナミック・ドライブの配線になっていても大丈夫です。 小数点の輝度は直列抵抗:R1で加減できます。この例では他のセグメントに比べて暗かったのでR1=47Ωにして電流を増やしました。
 以下参考ですが、アノード・コモンの表示器を使う設計も可能です。その時はデコーダ・ドライバにLS-TTL ICのSN74LS47を使います。 さらに桁ドライバもμPA81Cではなくて、PNPトランジスタをハイサイド側(Vcc +5V側)に入れる形式にします。 なお、74LS47を使った場合もゼロサプレスは旨く動作しないのでご注意を。
TC5032Pはフル6桁表示です。 またカウント上限周波数も実測で17MHz以上と高いため、他のカウンタ用LSIよりもだいぶ高性能です。 したがって高速C-MOSで構成した前置のカウンタを1段設ければ上限周波数が100MHzを超えるような周波数カウンタも作れます。 実際に7桁の周波数カウンタとして自作したことがあり、これは十分実用になっています。  上限周波数を伸ばすために「プリスケーラ」を使うことも可能なのですが信号を分周した分だけ測定分解能も悪くなります。

端子接続について:
 各接続端子の番号は前回のBlog(←リンク)で製作した「制御回路」と合わせてあります。 回路のJ1とJ6は電源端子です。J1に+5V、J6はGND側(電源のマイナス側)です。 P2、P3、P4、P7、P9は制御回路のJ2、J3、J4、J7、J9へ同じ番号どうしを接続します。 J8とJ10はプリアンプ回路と波形整形回路・・・次回のBlogで予定・・・のP8とP10へ接続します。 ゲート回路部分にあるA-A'という部分は、補助の高速カウンタを追加するための箇所です。補助の高速カウンタについても次回のBlogで予定します。

部品について:
U1:メインになるカウンタ用LSIです。TC5032Pは言うまでもないので説明は省きます。
U2:μPA81CはNPNのダーリントン・トランジスタが7回路分入ったようなICです。  NPN型のデジタル・トランジスタ(一例←リンク)を必要な数(この回路では6個)使って代替できます。
U3:TC4511B(東芝)は4500シリーズの標準C-MOS ICです。オリジナルはモトローラのMC14511Bで、他社のセカンドソースでも同じように使えます。ほかに74HC4511も使えます。
U4:4049Bは6回路入りのインバータです。4000シリーズC-MOS ICの標準的なものです。 4069Bも同じように使えますがピン接続が違うので注意します。
U5:74HC00はHC-MOSのNANDゲートICです。各社から販売されています。ここは高速信号を扱うので4000シリーズのNANDゲート:4011Bは不適当です。必ず高速C-MOSの74HC00を使います。回路図には余ったゲートの処理が書かれていませんが、使用していない入力ピンはGNDするなりVddにつなぐなり適切な処理を行なっておきます。
DS1〜DS6:LED表示器は7セグメントでカソード・コモン型を使います。ここでは赤の表示器(参考←リンク)を使いました。 点灯方式はダイナミックドライブ式なので、できるだけ高輝度のものを選びます。R9〜R15(100Ω)を変えることで明るさを加減できますが100Ω以下にするのはあまりお薦めしません。緑色や青色のLED表示器も使えます。

デコーダは4511Bで
 上に書いたように、ゼロサプレス機能を活かすためには、デコーダ・ドライバのICに4511Bを使う必要があります。

 4511Bを使うと、6と7と9の字体は写真のようになります。 慣れの問題なので使っているうちに違和感もなくなりますがこのような字体です。

  7セグメント表示の字体について気になったので身の回りのデジタル表示の機器を観察したところ、7はこの写真のような文字が大半のようです。6と9はTC5022Pの字体が一般的になっているようでした。

 ところで、なぜTC5022BPではうまくゼロサプレスができないかというと、TC5032Pのゼロサプレス機能は 4511Bの機能を利用しているからです。 4511BへBCD入力として、9以上の値を加えると表示はすべて消灯になります。 しかしTC5022BPはBCD入力が10のとき0、11のとき1・・・15の時には5の文字を表示するのです。9以上の値を加えてもLEDは消灯しません。
 調べたところTC5032Pは不要なゼロの桁には「15」(16進で言えば "F")を出力しているようです。 したがってTC5022BPを使うとゼロサプレスではなく不要なゼロの代わりとして「5」が表示されてしまうのです。知らなかったのでこれにはビックリしました! TC5022BPの姉妹品にTC5002BPというデコーダ・ドライバがあります。こちらは4511Bと同じ字体で表示しますが表示機能はTC5022BPと同じなのでゼロサプレスは正常に働きません。 知らずに使うと悩むことになります。 TC5032PとおなじTC5000シリーズのICなので良さそうだと思ったのですが・・・。

ゼロサプレス
 ゼロサプレス機能はTC5032Pの22番ピン(BC端子)をどのように接続するかによって変化します。 単純にLow(=GND)に接続すると全ての桁がゼロサプレスされますから、無入力でカウント値がゼロだと全桁が消灯してしまいます。

 写真では 22番ピン(BC端子)を桁ドライブ端子の/T6(6番ピン)に接続しています。 このようにすると最下位桁はゼロサプレスされずにゼロの数字が残ります。 完全に消灯してしまうと故障と間違えるので、このようにするのが良いでしょう。 なお、22番ピン(BC端子)を/T5(5番ピン)に接続するとこんどは下2桁のゼロがサプレスされなくなります。 また、ゼロサプレスが不要な時は 22番ピン(BC端子)をHigh(=Vdd)に接続します。

 ゼロサプレス機能は必須ではありませんが、表示が減る分だけ消費電流も減るので電池動作の場合には効果的です。 好みの問題かも知れませんが、周波数カウンタの用途ではゼロサプレスはナシでも良いと思っています。



その2:TC5001Pを使う
 TC5001はカウンタ用のLSIとして古くからありました。初期のころは金メッキの足で白いセラミック・パッケージに入っていたと思います。かなり高価だった記憶があります。 24ピンの大きめのパッケージです。 古くからあっただけに応用例もよく見かけます。 私も過去に使ったことがあります。

 4桁のカウンタが作れます。 桁ドライブ信号はHighアクティブです。したがってTC5032Pのように信号を反転する必要はありません。具体的には4049Bの部分は不要になります。 そのほかの機能はTC5032Pとよく似ていますが、ゼロサプレスの動作は異なるようです。 単にゼロサプレスするか、しないかだけの選択しかできないようでした。

 ここでもデコーダ・ドライバは4511Bを使っています。

TC5001Pを使ったカウンタ回路
 TC5001Pを使った周波数カウンタの回路です。 表示は4桁です。

 ゲートタイムが1秒のときは9.999kHzを超えるとオーバーフローします。 ゲートタイムが1mSのときは表示的には9.999MHzまで可能なのですが、実際にカウント可能な上限周波数は約4.2MHzです。 これではHAM用には上限周波数が低すぎます。 TC5001Pの前に高速カウンタを1〜2段付加する必要があるでしょう。 1段で30MHz程度、2段付ければで上限周波数が100MHzを超えるような周波数カウンタも作れます。 さらにプリスケーラも併用すればGHz帯まで幾らでもお好みで。(笑)

回路図の各端子の接続、および使用部品に関してはTC5032Pの項と同じです。 そちらを参照してください。

最高カウント周波数は?
 写真はカウント上限周波数の信号を加えている状態です。 上限付近はやや不安定なので実用上はこれよりもやや低い・・・10%くらい低い周波数までと考えた方が良さそうでした。これは他のLSIでも同様です。

 電源電圧を高くするとカウント上限周波数をアップすることができますが、どの程度までアップできるかは個体差があるようです。 なお、TC5001Pの電源電圧だけをアップしてもだめで、リセットやラッチ回路も合わせて電圧アップする必要があります。 仮にTC5001Pだけ電圧アップさせて試すことも可能と思われますが、リセット信号などの振幅が足りないので正しい使い方ではありません。

 TC5001Pは高性能とは言えませんが、機能がすっきりしていて使いやすいカウンタ用LSIだと思います。 いくつかICを補ってカウント上限周波数をアップすれば実用的な周波数カウンタが作れそうです。 過去にこのICをメインに使った周波数カウンタの製作記事をよく見かけたものです。 それだけに持っているお方も多いのでは?

#思い出したのですが、TC5001Pで貨車の通過両数を数えるカウンタを作ったことがあります。 操車場で使う機器の一部だったようでした。 アルバイトで請け負ったもので最終的に国鉄(JR)に納品されたようでした。



その3:MSM5502を使う
 MSM5502は沖電気のカウンタ用C-MOS LSIです。写真のように16ピンパッケージに入っており、デコーダ・ドライバの4511Bと同じサイズです。 コンパクトさにどれほどの意味があるのかは疑問ですが、ピン数が少ないので配線が簡単と言うメリットはあるでしょう。

 MSM5502で4桁の周波数カウンタが作れます。 桁ドライブ信号はHIghアクティブです。したがってインバータICで反転することなく桁ドライブ用のIC:μPA81Cを駆動できます。これはTC5001Pと同じです。

 沖電気の500シリーズC-MOS ICの一つです。 このICは自作品での使用例がほとんどなくてネット上でも情報の収集は困難でした。 沖の500シリーズC-MOSが盛んに使われた時期もあったのですが、RCAの4000シリーズと完全互換とは言えないため廃れたのでしょう。沖電気自身も完全なセカンドソース路線の方が得策と見て一般的な4000シリーズのC-MOSへシフトしたようでした。 そうした関係で資料もあまり残らなかったのかもしれません。手元に古いデータブックがあったと思うので探したのですが発見できませんでした。もう使うこともないと思って廃棄してしまったのかもしれません。 やむなくわずかな使用回路例などから推測し、とりあえずの使い方はわかりましたが未だに正規のデータシートは手に入っていません。 (使い方はわかったのでもう必要はないのですが・笑)

MSM5502を使ったカウンタ回路
 MSM5502を使った周波数カウンタの回路です。 表示は4桁です。 内蔵のダイナミックドライブ用のスキャンオシレータはCRの外付けが不要なので非常にすっきりしています。

 4桁の表示なのでゲートタイムが1秒のときは9.999kHzを超えるとオーバーフローします。 オーバーフローは発生しますがもちろんカウント上限周波数までカウント動作します。オーバーフローで溢れた桁が表示されないだけです。 ゲートタイムが1mSのときは表示的には9.999MHzまで可能なのですが、実際にカウント可能な上限周波数は約2.0MHzでした。 従ってHAM用にはカウント可能な上限周波数が低すぎます。(次項参照) 実用にするならMSM5502の前に高速なカウンタを1〜2段付加する必要があるでしょう。 1段で20MHz程度、2段付ければで上限周波数が100MHzを超えるような周波数カウンタも作れます。 このあたりは上限カウント周波数が低い他のカウンタ用LSIと同じです。

 このLSI単独でゼロサプレスの機能はありません。MSM561という同じ500シリーズのICと数個のゲートを補うと実現可能なようです。ただしMSM561(デコーダ・ドライバ用のIC)は入手難で詳細な資料も見つけられないため代替方法の検討はできませんでした。

 回路図の各端子の接続、および使用部品に関してはTC5032Pの項と同じです。 そちらを参照してください。

最高カウント周波数は?
 カウント可能な最高周波数は約2MHzでした。 今回試したカウンタ用LSIでは最も低い値です。

 おそらく、製造プロセスが古いC-MOSなのでしょう。 初段のカウンタ部分に特別な配慮も行なっていない設計だったのでしょう。 そのため上限周波数が低めなのはやむを得ないと言えそうです。 ただ、当時の技術ではかなり頑張ってもせいぜい5MHzくらいが上限だったはずです。

 当時のC-MOSロジックは「低速ではあるが非常に低消費電力である」というのが最大の売りでした。 早い必要がある部分はTTLやECLに任せれば良いという考えだったと思います。 従ってMSM5502のようなIC単独で周波数カウンタを構成することは現実的ではなく、高速部分には他のロジックファミリを補えば良いと割り切っていたはずです。 既にTTLやECLも廃れているので実用的な周波数カウンタにするのでしたらHC-MOSなどを補うのが現実的でしょう。

 コンパクトかつシンプルで使いやすいため悪くないICなのですが、おそらく入手困難になっているでしょう。あえて買うようなものではなく、手持ちにあるなら活用する程度になっていると思います。



その4:TC5037Pを使う
 TC5037PはMSM5502とよく似た感じの4桁カウンタです。 ただし欠点があるのでいま一つ人気はありません。

 パッケージは16ピンですからデコーダ・ドライバの4511Bと同じサイズです。 MSM5502はスキャンオシレータを完全に内蔵したため外付けのCRは不要でした。 しかしTC5037Pは外付けCRが必要なのでこれだけで足ピン3本を消費します。 そのためでしょうか? カウンタのオーバーフローを知らせるピンが削られてしまったようです。 困ったことに周波数カウンタに使うとカウントがオーバーフローしているのがわからないといった致命的な欠点があるのです。 これがHAMの自作でもまったくと言えるほど使われない理由だと思います。

 写真はカウント上限周波数です。 約3.7MHzまでカウントできました。 TC5001Pと同じくらいまで使えますので、これでオーバーフローさえあれば・・・と言った感じでしょうか。
 
TC5037Pを使ったカウンタ回路
 オーバーフロー(オーバレンジ)しているのがわからないのでは実用上たいへん不便なので使われないのもわかる気がします。ここでは試用にあたりその対策を考えてみました。

 結果から言ってしまうと、要するにオーバーフロー検知のために補助のカウンタを外付けするのです。 もっと知的な方法も考えられるかも知れません。 例えばマルチプレックスされて出力されるデータをデコードしてオーバーフローしそうになる条件を見つけて状態の遷移を監視する・・・というロジックも考えられなくはないでしょう。 しかしそうそう単純ではないうえ、少々の外付けのICを補う程度では完全なオーバーフローの検知は難しそうです。 それをするくらいなら「インチキ」な手だと誹りをうけるかも知れませんが補助のカウンタを補う方がずっとスッキリします。

 4桁のカウンタに4桁分+αのカウンタを足すのですから屋上屋を重ねるようです。しかしTC5037Pの機能が無駄になったわけではありません。内蔵の表示器ドライブ機能は完全に活用していますからあんがい悪くない手だと思うのです。 安価なC-MOS ICを3つ足すだけでイマイチ人気のないTC5037Pの欠陥が解消できるのですから・・・。

 その他の回路はMSM5502などと同じです。 また、回路図の各端子の接続、および使用部品に関してはTC5032Pの項に準じます。 そちらを参照してください。

オーバーフロー対策
 たかがオーバーフロー検知のためだけにカウンタを足すのは馬鹿げたことかもしれません。 しかしこれが最も簡単な手段と思いました。 C-MOSの4518Bを2つ補います。4518Bは高価なものではなく、一つ数十円で手に入ります。

 写真には74HC73が写っていませんが途中段階で撮影したためです。 確実なオーバーフロー検知という意味では上記回路図通りに74HC73の追加が必要でした。 外付けで付け加えたカウンタICもリセットする必要があるのでそのような配線になっています。 また74HC73はリセットの論理が逆なので逆方向のリセットパルス(制御回路のJ5の方)を使ってリセットします。

 10進カウンタが2つ入っている4518Bはこれまで何気なく使ってきましたが、カスケードに接続する時は注意が必要でした。 入力パルスの前縁でカウントされるのか、後縁でカウントされるのかという違いがあります。その使い分けに注意が必要でした。 一般的に後縁(ネガティブエッジ)でカウントするカウンタICが多くて、TC5037Pもそのようになっています。 従って4518Bも同じように動くよう配線する必要があります。 外付けのカウンタに4518Bではなく74HC390を使えば余計なことを考えずに済むのでベターかもしれません。(足ピンの接続は異なります)

 TC5037Pですが、オーバーフローの問題から使い道のないチップだと思ってきました。 その状況は今でも変わりないのかもしれませんが、工夫(?)することで前途がいくらか開けたように思います。 これでTC5001Pと同じように使えますから。



その5:LC7961を使う
 あらかじめお断りしておきますが、LC7961は入手の可能性はほとんどゼロでしょう。 ずいぶん前にS社の友人にもらったものです。 ポピュラーではなかったですし活用例もまったく見たことがありません。当然ディスコンでしょう。 秋葉原では見かけませんけれど三洋電機系の半導体商社のどこかに眠っている可能性もないとは言えません。しかし望み薄でしょうね。

 LC7961を使うのは初めてでした。 あまり特徴のないLSIだと思ったのですが、デコーダ・ドライバまで内蔵しているため非常にスッキリしたカウンタ回路が実現できました。 デコーダ・ドライバまで内蔵ですから数字の字体が気になります。 実際には6、7、9の数字は写真のようになりました。

 他のLSIも同じですが、表示はダイナミック・ドライブ形式です。 そのためデータシートには「表示が暗いので・・・云々」と書いてあります。 1980年代のチップでしょう。その当時のLED表示器はダイナミック・ドライブで使うとかなり暗かった印象があります。そのため注意書きが添えられていたものと思います。

 現在ではLEDの高輝度化、超高輝度化が進んでいるので表示が暗いという不満はあまり感じないのではないでしょうか。 ここで使用している中華LED表示器もまずまずの輝度でした。3桁のダイナミック・ドライブ用で、PARA LIGHT社のC-533SR(←リンク)を使っています。秋月電子通商にて単価200円で購入しました。

 これから新規に購入されるのでしたら4桁の超高輝度タイプがお薦めです。必ずカソードコモン型を買ってください。 購入する際は同じシリーズの単体の(1桁の)表示器も数個買っておくと後々活用できます。

LC7961を使ったカウンタ回路
 LC7961は20ピンのやや大きめの4桁カウンタ用のLSIです。 特徴はデコーダ・ドライバを内蔵していることでしょう。他のLSIのように4511Bを必要としません。

 回路図のように他に必要なのは桁ドライブのICだけなので非常にスッキリしています。 桁ドライブの方も4桁分しか使っていないので、μPA81Cではなくデジタル・トランジスタ(一例←リンク)を四つ使えばICはLC7961一つだけになります。 その方が部品の入手性も良くなります。

 ゼロサプレス機能があって、ONするとカウンタの内容がゼロの時には最小桁のゼロだけが表示されます。 このLSIは複数個重ねて使うことも考慮されていて上位桁のチップは全桁ゼロサプレスすることもできるようになっています。 ここでは単独で使用する想定の配線になっています。

  制御回路との接続は他のカウンタ用LSIと同じです。 TC5032Pの項に準じますのでそちらを参照してください。 オーバーフローがギリギリ発生する状態を検出するためには74HC73を追加すると効果的でした。部品は増えますが最初からそのように設計しておく方が良いかも知れません。(74HC73の追加に関してはTC5037Pの項を参照)

最高カウント周波数は?
 カウント上限周波数は約3.6MHzでした。 データシートによればVdd=5Vで使うと500kHzまでとなっています。 あまり期待していなかったのですが意外に伸びてくれました。

 もちろん、HAM用の周波数カウンタには低すぎますので補助のカウンタを補うべきでしょう。 LC7961は外付け部品が少なくて回路が簡単なのでそれを活かすべきです。 1桁分の補助カウンタを追加する程度で済ませるのも良いかもしれません。 カウント上限周波数は30MHzくらいになると思いますがそれでほとんどの用途で不自由しないはずです。

 回路が「簡単」という意味では一番なカウンタ用LSIです。 手に入れば注目しても良いLSIかも知れません。 ちょっと残念ですが手に入らないのは仕方ありませんね。



その6:μPD851Cを使う
μPD851Cはデジタル・ボルトメータやデジタル・パネルメータを目的に作られたICではないでしょうか。 2重積分型のA/Dコンバータを作るのに適しているようです。 だからと言って周波数カウンタが作れない訳ではありません。 ほかにセラミック・パッケージのμPD851Dというのもありました。基本的なスペックは同じです。

 最大19999表示・・・すなわち4・1/2桁のカウンタ回路が作れます。 28ピンのパッケージに入っています。 計数途中の状態を出力する端子が複数あるほか、それぞれの出力端子がどのような条件で出力されるのかをコントロールできるようになっています。 ただし、それらの機能は周波数カウンタとして使う際にはほとんど必要としません。 それにマイコンではありませんからあまり自由度はありません。

 桁ドライブはTC5032Pと同じくLowアクティブなのでインバータICで反転してやる必要があります。 また、4・1/2桁というのはいかにも中途半端なので最上桁の表示は使わないで4桁表示だと思う方が使い易いようでした。 オーバーフローの出力は、9999を超えると出力されるものと、19999を超えると出力されるものの2種類があります。 9999で使うか、19999で使うのかで選択します。(回路図のP9-1またはP9-2で選択)

μPD851Cを使ったカウンタ回路
 μPD851Cを使った4・1/2桁の周波数カウンタ回路です。 最上位の桁は0と1の表示しかされません。 19999を超えると20000にはならず、再び00000から始まります。 もちろんこの時にはオーバフローが出力されます。

 しかしわかりにくいので9999までのフル4桁のカウンタだと思って使う方が使い易いと思います。 その場合は/T5(ピン17)への配線を省略します。当然ですがLED表示器DS1も不要です。 最初から4桁表示用のLEDを使えば良いと思います。 なお、μPD851CのリセットはLowアクティブです。ほかのLSIとは逆なので制御回路のJ5端子に接続します。

  その他の制御回路との接続は他のカウンタ用LSIと同じです。 TC5032Pの項に準じますのでそちらを参照してください。 使用部品の説明も同じです。

最高カウント周波数は?
 データシートによれば10MHzまで動作しそうですが9MHzあたりがカウント上限周波数でした。 データシートの回路例では、電源ピン:Vdd(14番ピン)のバイパスに特別な配慮が必要そうに見えます。

 もちろん、最短距離でバイパス・コンデンサを入れる必要があるのは他のカウンタ用LSIでも同じです。 しかしμPD851Cも同様であって他のLSIよりも特別にクリチカルという訳ではないようでした。 電源のバイパスを強化してもカウント上限周波数が改善すると言った効果はありませんでした。 10MHzというのは保証値ではないようですからこんなものでしょう。

 カウント上限周波数はTC5032Pに次いで高いのですが、HAMの用途にはやはり不満でしょう。 前置のカウンタを1〜2段付加する必要があります。

 ブランキング・インプット(BI)端子:ピン13を制御するとゼロサプレスが可能です。 セロサプレスするかしないかだけの選択のようなのであまり使いやすくない感じでした。

 μPD851Cも既に入手性は悪いようです。あえて探して使うほどのチップとも思えませんので、手持ちがあれば使うと言ったところではないでしょうか。



タイムベースの精度は?
 周波数カウンタの測定精度は基準となるタイムベースの周波数精度に依存します。 ここで使った制御回路では周波数の基準にプログラマブル・水晶発振器:SPG8651Bを使っており、その1kHz出力を基準にしています。 SBP8651Bは100kHzの水晶発振子を内蔵しそれを分周して1kHzを得ています。

 写真はこの1kHzをpHz(ピコヘルツ)のオーダーまで読んでみたものです。 実測によれば約0.58ppmほど高いことがわかりました。 SPG8651Bのスペックは±5ppmとなっていますが実際はそれよりもかなり良い精度でした。 もちろんこれは常温付近での測定ですから仕様書の温度範囲全体ではもっと誤差は大きくなるでしょう。 しかしなかなか優秀だということがわかりました。しばらく観測していましたが状態はずっと安定していました。

 SPG8651Bは表面の銘板(ふた)を剥がすとトリマコンデンサが見えるそうです。その調整で周波数を合わせられるようです。精度の良い測定手段をお持ちならやってみるのも面白そうです。 TCXOではありませんから限度はあると思いますが精度の向上が期待できるでしょう。

 タイムベースの周波数誤差がプラス方向だと周波数カウンタとしては同じだけマイナスの測定誤差が現れることになります。 実際にもTC5032Pのカウンタ回路に正確な10MHzを加えて測定したところ6Hz前後低く表示されました。  まったくの無調整で10MHzにて-6Hzの誤差ならたいへん良い精度と言えます。 基準発振器にSPG8651Bを使った周波数カウンタも悪くないと思いました。 タイムベースとカウンタの制御回路についての詳細は前回のBlog(←前回のBlogへリンク)を参照してください。

                   ☆

 以上6種類のカウンタ用LSIについて、実際に回路を組んで試してみました。 周波数カウンタは単純な測定回路ですからどのLSIでもたいした違いはありません。 しかし使う上では多少の注意は必要そうでした。 それぞれ幾らか個性もあるのですべてを回路図に纏めておくことにしました。 ご覧になってご質問や気づいた点などあればお知らせください。更新に反映したいと思います。

                  ☆ ☆

 あまり使うアテのないLSIを試すなんて意味はないなんて言われそうです。 それは否定しませんが、いつか使おうと思いつつパーツボックスに眠ってきた部品でたっぷり楽しむことができました。 同時に現時点で得られた情報を整理することにも繋がりました。

 古くから自作を楽しんで居られるのでしたらカウンタ用LSIを一つや二つくらいお持ちではありませんか? もしお気に入りの周波数カウンタをお持ちでなければこの機会に製作されてはいかがでしょう。 無線機の自作にもたいへん役立つ基本測定器が自ら手作りできます。 一連の情報でカウンタ用LSIが部品箱から救われ自作の役に立ってくれたら嬉しいです。

 それでお薦めのカウンタ用LSIはどれかと問われれば、TC5032Pの一択になってしまうのですが他のチップでも大差はありません。 いずれにしても補助のカウンタを前置する必要があって、結局どれでも同じになってしまうのです。 手持ちがあるならソレを存分に活用するのがベストですね。 あえて手に入れるならもっとも安価なもので十分でしょう。

 最後になりますが、前回のBlog(←リンク)で製作した周波数カウンタ用の「制御回路」はいずれのカウンタ用LSIでも支障なく使えました。 共通して使用できることを確認していますのでお奨めできると思います。 使用感もなかなか良好でした。

 次回はPart 3として入力アンプと波形整形回路を扱うつもりです。カウント上限周波数を伸ばすために付加する補助カウンタも予定します。 ただし、次回がいつになるかは実験の進捗次第です。 既にカウンタ用LSIを使ってみると言う目的は達成されています。やる気次第なのでどうなることやら。 ではまた。 de JA9TTT/1

(つづく)nm

2018年4月30日月曜日

【回路】Frequency Counter Design, Part 1

回路設計:周波数カウンタの設計・Part 1
 【カウンタ用LSI
 持っている部品のリストアップをしています。 以前ならどこに幾つくらいの手持ちがあるかなんて結構しっかり覚えてました。 しかしもういけません。 覚えるよりも忘れる方が早い年齢になると手持ちがどこにどれだけあるなんて忘れる一方です。(悲)

 結局のところまだ使え(使い)そうな在庫部品はリストアップして所在をメモしておく必要に迫られるようになりました。 そうしないと見つけられなくてあちこち探しまわるとか重複した購入などが頻繁に発生するようになります。 そんなニーズから始めたごく単純なデータベース(DB)ですが思った以上に便利です。 忘れっぽくなる前から作っておけば良かったと反省しているくらいです。 Excelの表を使っていますが簡単な機能説明と数量のほかに保管場所が書いてあります。 製作に先立って部品を集める時にはもちろんですが、こうしておくと手持ち部品を使って回路を考えるのにも重宝します。(DB化するまでは厄介ですけれど) それと同時にお宝になりそうなパーツは持ってないことも良くわかりました。(残念)w

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 DB化は部品整理も兼ねるので分散して保管してあったようなパーツをジャンルごとに寄せ集める効果もあります。 そのような過程でカウンタ用のLSI(写真)が何種類か出てきました。 以前は周波数カウンタといえばこうしたLSIを使うのが一般的だったものです。 いずれでも4桁〜6桁のカウンタが比較的少ない部品で作れます。

  今から周波数カウンタを作るならマイコン式が一番だと思います。PICなりAVRなり、もちろん他のチップでもマイコンを使ってFBなものが作れます。特別な専用ICの必要がないため部品集めは簡単です。さらに汎用の文字表示ユニットを使うと少ない配線で済むため製作も容易です。(ただし、プログラムミングのことを忘れてはいけませんが) ですからこうしたLSIで本格的に周波数カウンタを作りたいなどとは少しも思いません。

 ところが整理しているうちになんとなく動作させてみたくなってきたのです。この中で使用経験があるのは2つくらいでしょうか。 それであまり深入りしない程度に周波数カウンタ(のようなもの?)を作って遊んでみることにしました。 意図した動きをしたらそれでオシマイでもいいんです。カウンタはすでに間に合ってますから。 しかし予定とは違ってだんだん深みにハマりつつあります。(笑)

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 写真のカウンタ用のLSIですが、いずれもディスコン(生産終了)になっています。しかし未だにニーズがあるらしくお店の在庫も枯渇してきたようです。 手持ちでもあるなら別ですが、本来の価値以上に価格高騰していると感じるので新たな入手はお奨めしません。 もちろんこうしたLSIは無くても74HCXXといったスタンダード・ロジックのICを並べて作ることもできます。 必要なICの数はだいぶ増えますけれど。
 しかしフレキシビリティの点でもハードウエアだけで実現する周波数カウンタはイマイチですから、遊んでみる程度に留めるのが吉ではないでしょうか? もしもそうした遊びに興味がありましたら暇つぶしがてらにお付き合いください。

 【カウンタ制御回路
 周波数カウンタのキモになる部分といえば制御回路でしょう。 要するに、(1)決められた時間だけゲートを開きます。ただちにカウントが始まります。 (2)入力パルスの計数が終わったら一時記憶にデータを移します。同時に表示が更新されます。 そして、(3)カウント値をリセットして次の計数に備えます。 ・・・といった一連の制御シーケンスを作るわけです。

 もちろんこの部分には測定の基準となる「基準発振器」も含まれます。 一言で言えば、周波数カウンタとは一定の時間のあいだに入ってきた波の数(=パルス数)をかぞえて表示する測定器です。 例えば1,000Hzと言うのは「一秒間」に1,000個の波が入ってきたわけです。 したがってこの1秒間と言った「一定の時間」をつくる「基準」が大切なことは言うまでもありません。この時間が狂ったら正確な測定にはなりませんから。

 写真はカウンタの制御回路を試作している様子です。 簡易に遊ぶのが目的ですからOCXOなりTCXOのような本格的な高精度基準発振器は使いません。 もしも本気が出てきたらグレードアップすれば良いだけですので・・・。 まずは基本的な動作を追ってみれば十分なはずです。

 こうした制御回路の設計が周波数カウンタでは一番面白い部分かもしれません。 パルス数をカウントする部分には専用LSIを使うので工夫の余地もないため面白いとは言いかねます。数字表示器の部分も配線が面倒臭いだけです。 ほかに周波数カウンタの回路で面白いとすれば、入力のアンプと波形整形回路くらいのものでしょうか? このあたりは後でやってみたいと思います。 まずは制御回路の設計と実験からスタートしました。

周波数カウンタ制御回路の設計
 シンプルな実現手段としてはCRとゲートIC等を使った半分アナログっぽい制御回路だろうと思います。 タイムベース用の分周器を除けば数個のゲートICで作ることもできます。

 まあ、それでも良かったのですが違う方向で行くことにしました。 探したら以前考えてあったアイディアの手書きメモが出てきたのです。さっそく実際に回路を組んでみました。 参照したメモは机上のものだったので、そのままの回路ではいろいろ旨くないところがあって意図したように動いてくれません。 左図は幾つか問題を解消して取りあえずまともそうに動いている回路です。 このあとPart 2へ続く予定ですが、カウンタLSIと組み合わせた際に何らかの不都合が見つかれば変更する可能性もあります。一通りの検討はしてあるのでまず問題はないとは思うのですが・・・。

 簡単な説明です。 ゲートタイムは1mSと1Secが選択できます。 従って表示の最下位桁は1kHzまたは1Hzとなる訳です。 測定レンジとしてはMHz単位とkHz単位の2レンジ切替え式です。なお、下から3桁目と4桁目の間の小数点を点灯させ、小数点以下3桁の表示となります。
 単純な回路でやると1Hzまで読むのに2秒のサンプリングタイムを要することになります。表示の更新がのろくて使いにくい周波数カウンタになります。 ここでは11進カウンタを使って1.1秒のサンプリングで済むようにしてみました。倍近く早いので発振器の周波数をHz単位まで合わせ込むと言った用途にはずいぶん使いやすくなります。
 ラッチとリセットパルスは言わば常套手段のようになっているのですが、CRによるエッジ微分で取り出す形式はやめてておきました。 動作が確実なシフト・レジスタを使った同期微分形式としています。従ってCRの時定数を加減すると言った「調整」の必要はありません。 シフトクロックは1mSですのでラッチ、リセットのいずれも1mS幅のパルスとなります。 すべてクロックに同期して順序よく動きますからタイミングが逆転するといったおかしなことは原理的に起こらないでしょう。

参考:デジタル回路の配線図ではICの電源ピンやGNDピンへの配線記載を省くことが良く行なわれます。これはなかば常識でしょうか。 上記の配線図でも74HC02と74HC10などのVdd/電源(ピン14番)とVss/GNDピン(ピン7番)への配線は書かれていません。
 もちろん配線図に記載はなくても必ず配線してやります。74HC74、74HC175や74HC161も同様です。 各ICのピン接続を良く確認のうえ電源やGNDへの配線を行ないます。(回廊には注釈としてピン番号を記入してあります)
 すべてC-MOS ICを使っていますから余っているゲートなどは空きピン処理が必須です。入力になるピンは遊ばせたままにしないで必ずHigh(=+5V Vdd)もしくはLow(=GND)に固定してやります。言うまでもないでしょうが出力となるピンは開放(オープン)状態にしておきます。
 また、少なくとも3個のICに一つくらいの割合で電源ピンとGND間にバイパスコンデンサ(= 0.1μF程度のセラコン)を入れておくと動作が安定します。 電源供給端子のあたりにバイパス用の数10μF程度の電解コンデンサもお忘れなく。

基準水晶発振はSPG8651B
 ゲートタイムの精度が周波数カウンタの測定精度を決めます。 ここでは100kHzの水晶発振器を内蔵したプログラマブル・オシレータ:SPG8651B(セイコーエプソン製)を基準の発生に使いました。

 SPG8651Bの初期精度は±5ppm以内です。既成の水晶発振器としては高精度な方でしょう。また、簡単に様々な周期のパルスが得られるので便利です。 以前使ってみた感触ではSpec値よりもう少し周波数精度は良かったと思います。周波数の安定度もかなり優秀でした。 下手に作った自作水晶発振器なんかよりもずっと安定していました。  データシートを見る範囲では電源電圧を±0.5Vくらい振ってやると発振周波数の微調整もできそうなのですが・・・。それをするくらいなら周波数調整機能付きのTCXOを使うなどの方法がベターでしょう。

  SPG8651Bからは1mS周期のパルス・・・周波数でいえば1kHzを取り出しています。この1mSが制御回路の基本になっています。 もしSPG8651Bが入手できなくても代替手段として他の水晶発振器を使って1mSを作ってやれば良いわけです。 その作った1mS周期のパルスを回路図:TP5の位置に5V C-MOSのレベルで与えてやります。
 この1mSパルスは後に説明するシフト・レジスタのシフトパルスになります。 また、1mSをさらに10進カウンタが二つ入った:TC4518B(写真左)を使って1/100に分周します。 これで100mS周期(=10Hz)のパルスが得られます。100mSはさらに11進カウンタへ供給します。

1秒ゲートの作り方
 100mSパルスを11進カウンタで分周します。100mSを元にゲートを開く「1秒間」を作ります。 10mSを101分周とかでも良いのですが、複雑になるので11進でやってみました。 1秒ゲートを開いたら残りの100mSでラッチとリセットの動作を行ないます。

 はじめに11進カウンタを74HC74を使った4段のリプルカウンタで作ってみたのですが、各段の出力に遅延があって思ったように動作しません。 少々姑息な手を使えば動きそうですが、どうやらリプルカウンタでは無理がありそうです。 そこで同期式のバイナリ・カウンタ:74HC161を使うことにしました。これなら各段のタイミングがきれいにそろいます。 ただし11進カウンタにするためのデコードとそれに続くリセットは非同期ですから完全なクロック同期動作ではありません。

 完全な同期式も可能なのですがますますICが増える懸念があり遊びの域を超えますからやめておきました。実用上支障がないというのも理由です。 まあこうした回路はFPGAでも使って完全同期式の設計・・・それが常識ですが・・・で作るのが良いのでしょう。それ以前にマイコン式の方がプログラムによる自由度がありますから方向違いですネ。

参考:74HC10/U4cの8番ピンに74HC161をリセットするパルスが出ているのですがとても幅の狭いパルスです。 このパルスはゲートタイムの誤差の一因になるので狭い方が良いはずです。 狭いパルスのうえ繰り返し周期は1.1秒ですからアナログオシロでの観測はたいへん困難です。500MHz帯域のデジタルオシロを使いました。 観測によればリセット動作に約20nSほど要するようです。 従ってゲートタイム =1秒に対する誤差は2×10E-8程度考えられるでしょう。これは6桁程度の周波数カウンタではまったく表面化しません。 むしろほかの誤差要因の方がずっと大きいはずです。  プリスケーラを付けて測定範囲を拡大したとしてもその分だけ分解能も悪くなるので影響しません。 念のため検証しておきました。

ラッチ、リセットパルスを作る
 ラッチとリセットのパルスは、ゲート開閉パルスの後縁の部分を同期微分して得ています。 ラッチとリセットの間には1シフトクロック分の遅延を入れてあるので、タイミング的にクリチカルではありません。

  ちなみに、シフトクロックは上記にも書いたように1mSです。 各パルスは動作が遅いスタンダードC-MOS のカウンタLSIでも十分応答するだけの幅があります。 この部分は汎用のシフトレジスタでも構成できますが、ピンの引き出しの点などからQuad D-Flip-Flop:74HC175をシフトレジスタになるよう配線して使います。 段数が足りないので74HC74を一つ補いました。

 途中でNORゲートの74HC02で負論理のNANDをとって1mS幅のパルスを得ています。 これを使って1mSのゲートタイムを作るほか、それを遅延させてラッチやリセットパルスも作るわけです。 この1mS幅のゲート開閉パルスは100mS周期で発生しますから、10回/秒のサンプリングになります。 従って1mSゲートに切り替えても表示がやたらにチラつくようなことはありません。 ほかのアイディアとして、1〜2個のICと数個のCRを足すと可変サンプリング式にすることもできますが必要性が低いので省きました。

 この部分にはカウンタ部のレンジオーバーを表示するための回路を設けています。カウンタ部で表示オーバーフローが発生したときLEDが点灯します。(74HC02の2/4を使用)

 CRとインバータやゲートのICを使ったタイミング回路でも周波数カウンタごときものなら十分なのかもしれません。多少カットアンドトライを行なえばうまく行くでしょう。 シフト・レジスタを使った回路はクロックに基づいて動的に考えるのが面白いのでやってみたまでです。 オシロスコープで動きを確認しながら「デジタル回路」のハードな部分をたっぷり楽しむことができました。

参考:ゲート信号、ラッチパルス、リセットパルスのいずれも正論理で設計しました。High-Activeなわけです。 調べてみたら最初の写真にあるカウンタ用のLSIのうち、μPD851CのみリセットパルスがLow-Activeなので信号の反転が必要です。具体的にはμPD851Cに限ってリセットに端子:J5の方を使います。 そのほかのLSIはいずれもHigh-Activeなのでリセット信号は上記の回路図の端子:J4の方です。 このあと本命(?)のカウンタ用LSIを使って遊びますが、これでどのICにも使うことができる制御回路になっていると思います。

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今さらカウンタ用のLSIで周波数カウンタを作るなんて流行りませんよね。チープなチャイナ・カウンタ基板も売られているくらいですので。(笑) そんな意味からも遊びの実験とお断りしているようなわけです。作ってみること自体を「遊ぶ」わけです。 遊びとは言っても十分実用になる周波数カウンタが作れそうですから部品の手持ちがあるなら本格的に製作して役立てるのも悪くないと思います。意外に気の利いた周波数カウンタになるはずです。

 電子部品は使ってこそ価値が生まれますので死蔵されるよりも何がしかの用途に使われた方が幸せでしょう。  これは何もカウンタ用LSIに限りません。たとえ実験的であっても使って遊んでみたら興味深いのではないでしょうか。

 さて、制御回路はできましたから次回はカウンタ用LSIを使った計数部と表示器ドライバをやってみたいと思います。 少々フライングですがこの写真はそんな実験のひとコマです。 ではまた。 de JA9TTT/1

つづく)←リンク fm

2018年4月16日月曜日

【回路】Making a Voltage Generator

回路製作:電圧発生器の製作
 【組合せテスト中
 写真は電圧発生器のユニット組合せテストを行なっているところです。 ユニットごと個別のテストは済んでいますが、必要なユニットがすべて揃ったので組合せて様子を見ています。 どうやら目的のものができつつあるようです。

 3回前のBlog(←リンク)で検討した「電圧発生器」ですが、シンプルにヘリポットで出力電圧を可変する形式で作ることにしました。簡単に言えばアナログ的に設定する電圧可変型電源のようなものになるわけです。 独立した機器として使えるようにAC電源を内蔵することにしたほか、実用範囲を広げるために小変更を行ないました。 以下、全体の概要と製作したユニットについて記述します。

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 製作した直後は細部まで記憶は鮮明です。しかし暫くすると細かいことは忘れてしまうものです。 使い始めて問題がなければ良いのですが場合によっては改造の必要が生じるかも知れません。製作時の考えや細部の様子を纏めておくと将来の改良だけでなくメンテナンスの時にも参考になります。 以下、多分に自家用資料ではありますが、もしも同種のものに興味があればご覧ください。

 【全使用ユニット
 出力ターミナルやACのインレットなどまだ決めていない部分があります。 収納ケースとそうした外装の部分を除いた全ユニットを集めてみました。

 前回のBlogで使ってみて具合が良かったブレッドボードスタイルの試作用ボードを全面的に採用して製作しています。 これはこのボードの消費も目的の一つだからです。

 テスト段階では汎用の安定化電源から各ユニットへ電源電圧を供給していましたが、独立した機器にするにはどうしてもAC電源の自蔵が必要です。 各ユニットへ電圧を供給する電源部を作る必要があります。 10.000Vの基準電圧発生部と出力アンプ部分は前回のBlogと類似ですが、検討を行なった結果、実用性をアップするために部分的な変更があります。

 以下、写真の各ユニットについて順に見て行きます。 一部前回のBlogと重複する話しもありますが気にせず行きます。(笑)

 【10.000V基準発生ユニット
 大元の基準電圧源にはLM399Hを使うことにしました。LM399Hについては前回のBlog(←リンク)などを参照してください。 温度補償型のツェナ・ダイオードでも良さそうでしたが、実際に作って比較すると安定するまでの時間はLM399Hの方が早い印象もあり、安定性でも優れているのは間違いありませんでした。

 もちろん、本来の性能を発揮させるためには部品の吟味が大切です。 選定を誤れば十分な性能が得られないでしょう。

 LM399Hを使う際の課題は得られる電圧がばらつくことにあると思います。 予備実験として、手持ちにあったものを簡易的に動作させて個々の発生電圧を記録することから始めました。 評価方法はデータシートに記載がある通りです。 具体的には+15Vの電源から7.5kΩの抵抗を通して電圧を与え、ピン1とピン2の間の電圧を実測しました。 もちろん、LM399Hのオーブン回路にも+15Vを与え、30秒以上経過しておおむね温度が安定したところで電圧を読み取って記録します。

 LM399Hの実測でいくつかのことがわかりました。 ブレークダウン電圧(発生電圧)は低温時から高温(安定温度)に達するまで変化が見られ、その変化の大きさは個々に違いがありました。 目見当ではありますが観測していると違いがわかります。 安定状態に達すれば一定の温度に保たれるはずですが、実際には外気温の影響を受けて僅かながらの温度変化は存在するはずです。そのわずかな影響で電圧変化しやすそうなものと安定していてくれそうなものがわかってきます。 そのほかノイズに起因すると思われる「ゆらぎ」も見ていると違いがありました。

  記録した中から設計しやすそうな電圧であって、なおかつ温度の影響が少なそうで揺らぎも小さいものを選ぶわけです。 こうした希望に沿うものは全体の1/3くらいの感じでした。 普通は3つ買ってその中から良さそうなものを一つ選ぶくらいで満足できると思います。

 【10.000V基準ユニット回路図
  回路設計はデータシートの数字ではなく、先の予備実験で得られた電圧に基づいて行ないます。 現物合わせの設計は量産品では許されないことですが、一品料理ですからなんでもアリです。 以下の説明は左図のFig.1に基づいています。 なお、Fig2は集合抵抗を使う例で後ほど触れます。

 何を設計するかと言うと、回路の増幅度を決める抵抗値とその調整方法です。 いくら温度特性の良い抵抗器を使ったとしても、電圧を調整する部分で性能の低下が起こります。 調整なしというわけにも良きませんので、その影響が最小になるように設計します。

 具体的には温度係数の良好な固定抵抗だけで極力最終目的の電圧:10.000Vに近い電圧が得られるように設計します。細かな抵抗値を特注できれば良いのですが、そうも行きませんからできる限り標準的な抵抗値・・・例えば10kΩ・・・だけを使います。その代わり何本か並列や直列に使うことは許容します。

 その上で、なるべく狭い可変範囲で目的の電圧に追い込めるように調整範囲を決めます。 方法にもよりますが、そのようにすれば主たる抵抗器・・・この抵抗器は温度係数が小さいもの・・・との抵抗比だけ温度係数に対する影響を軽減できるでしょう。

 主たる抵抗器:Aの温度係数が仮に10ppm/℃としましょう。 電圧調整のための可変抵抗を含む抵抗器:Bは100ppm/℃だとしましす。 もしこれらの抵抗器:Aと:Bの抵抗比が100倍あるとすれば、性能の良くない方の:Bの抵抗器の全体への影響はおおよそ1/100にすぎないことになります。 上手に設計すれば全体の性能は:Aの抵抗器によってほとんど決まってしまいます。電圧調整の部分による温度特性の劣化はそれほど気にする必要がなくなります。( この設計例では:Aは6,250Ωで:Bは67Ωなので約1/93になっています)

 もちろん、これを実現するためのポイントは温度特性の良い固定抵抗器だけでできるだけ目的の電圧に近づくように設計しておくことにあります。その時に事前に実測しておいた発生電圧の数値が役立ちます。 もし温度特性が優秀な固定抵抗器がなくても、図のFig.2のように温度トラッキングが取れている組み抵抗をうまく使って作ることができます。そのような際にも電圧調整の部分については同じような効果が期待できます。(試作例を後述)

参考:LM3999ZはオーブンのヒータとツェナーのGNDが共通端子のため、この回路には使えません。前のBlogにあったように定電流源を併用する方法で使います。

 【10.000V基準主要部
 OP-Amp(OP-07CZ)やLM399HにはICソケットを使いたくなりますが、直接がっちり半田付けするに限ります。

 この回路のようにppmオーダーの安定性を追求する回路にICソケットなど使えば必ず「不安定さ」が現れます。 初期は良いとしても時間の経過でどうしても接触状態に変化が現れますからソケットのようなものを使うのは好ましくありません。 言うまでもありませんがブレッドボードでは試作はともかくとして恒久的な使用には全く不向きです。

 しかるべき筐体に組み込みますのであまり心配はないのですが、LM399Hの脚部に風が当たると微細な電圧漂動の原因になります。 写真のようにチューブで覆ってやります。 LM399Hは自身で発熱して温まりますから空気の流れの影響を受けやすいものです。

 【10.000V調整部
 電圧調整部分です。 ここで使用したLM399Hの発生電圧は:Vz=6.643Vでした。R2=12.5kΩ、R3//R4=6.25kΩでは出力電圧:Vo=9.9645Vです。 これを10.000Vにするには、R3//R4を大きくする必要があって、計算によれば約67Ωだけ追加する必要があります。この追加部分に電圧の微調整を設けるのです。(注:R2〜R4を実測しておき、必要に応じて補正量を加減します)

 ただしこの67Ωを可変抵抗器だけで得てしまうと可変範囲が広すぎるだけでなく不安定になるでしょう。 多回転の可変抵抗器を使うと調整は楽にはなるのですが、可変抵抗器は本質的に不安定ですから安定度の点では好ましくありません。可変できる部品は自然に変化する可能性もあるわけです。 必要な抵抗値はわかっていますから、もっと狭い可変範囲でも大丈夫です。 ここでは温度特性が良い50Ωの固定抵抗器(写真中央)と、サーメット型の50Ωの可変抵抗器の組み合わせ(直列)で可変範囲をできるだけ狭めることにしました。(参考:R3//R4の値が計算値よりも大きい時は補正のための抵抗+VRは並列に入れます。この場合、抵抗+VRの抵抗値はかなり大きな値となります)

 電圧の調整範囲は20mV程度ありますから十分な可変範囲です。 実際にも支障なく調整できました。 微細に合わせようとすると調整は多少クリチカルになるので多回転型の可変抵抗器を使うと楽かもしれません。 しかし現状でもそれほど難しくはありません。 電圧の安定性も良好です。 また、将来しかるべき校正の機会があった時に十分な調整範囲があります。 現状では真の電圧値(=10.000V)に対しておおよそ±2mV以内にありそうです。

 以上のように、使用するLM399Hを実測して得た発生電圧に基づいてピンポイントの設計を行なうことで、安定で調整しやすい回路が実現できます。一品料理ならではの製作手法でしょう。 

10.000V基準ユニット裏面
 10.00V発生ユニットの裏面(ハンダ面)です。 数本の裏面配線がありますが、ツェナ・電流のリターン配線などピンポイントで結びたい部分に使っています。 流石にこの基準発生回路くらいの精度になると電流が流れる部分に僅かでも共通インピーダンス(配線抵抗)が存在すると無視しえません。

 LM399Hのオーブンの電流とOP-Ampの電源電流は比較的大きいため、別系統のGNDラインに流すようにしています。
(注:写真は改造前のもの。現状はGND系の配線に多少の変更があります)

集合抵抗を使った10V基準器
 温度係数が極力小さい抵抗器が手に入れば問題ないのですが、実際には納期やコストの点でなかなか難しいものです。

 一つの方法として集合抵抗器をうまく使う手があります。 写真はそうした一例です。 上に示した回路図のFig.2に相当する試作例です。

 写真に見える集合抵抗は手持ちにあったものです。調べてみたのですが温度係数や温度トラッキングの性能は不明でした。 意図した性能が出せるか心配だったのですが、思った以上に良好でした。 温度係数のトラッキング特性がカタログに明示されいる集合抵抗も市販されています。 それらは単独では100ppm/℃くらいの温度係数があるので、そのまま個々の抵抗器として使ったら旨くありません。 しかし、OP-Amp回路のようにゲインが抵抗比で決まるような回路なら負帰還回路に使う抵抗器の温度係数がよく揃ってさえすれば支障ありません。

 集合抵抗器には端子が独立した抵抗器が並んだものと、全ての抵抗器の片側が共通端子になっているものがあります。前者の方が自由度があって使い易いのですが、この例のように一端が共通端子になったものでも旨く使えることがあります。 1:2や1:3・・・1:nと言った抵抗比なら簡単に実現できます。 この例では1:2で使っています。  写真の性能が不明な集合抵抗でも十分いけそうな温度安定性だったことを報告しておきます。

 【出力アンプユニット
 前回のBlog(←リンク)の回路図にあった出力アンプの部分です。 基本的に同じ回路なのですが、ゲインが1倍と2倍に切り替えられるように変更しました。 このゲイン設定の抵抗器にも温度係数が小さいものを使います。必要なのは同じ抵抗値の抵抗器2本なので集合抵抗でもうまく作れます。なお、ゲイン1倍の時には抵抗器の温度係数の影響はほとんどありません。

 基準電圧発生ユニットから得られる電圧は最大10.000Vです。 活用範囲を広くするため、ゲインの切り替えを設けることにしたのです。 簡単な変更によって最大で20.000Vまで出せるようになります。

 ただし、Op-Ampの電源電圧が±15Vでは+20Vは取り出せません。 +25Vくらいの片電源を与えれば+20Vまで出せるのですが、こんどは0V近くの電圧が出せません。 そこで少々変則的な電源電圧ですが出力アンプユニットには+25Vと-5Vの電源を与えることで解決しました。 後ほど説明する電源ユニットでは+25Vと-5Vを作ることになります。

 この部分のOP-AmpもICソケットは使いたくないのですが、外に配線が引き出されるため使用中に破損する恐れがあります。 簡単な保護回路は設けていますが万全ではないため交換可能にしておく方が安心です。 支障があればソケットはやめてハンダ付けしてしまうつもりですが、取り敢えず様子を見ることにしました。 このユニットでは数10mVまで扱う必要があるので、OP-Amp:OP-07CZにオフセット調整を設けます。これによって常温付近でのオフセット電圧は10μV程度に収まります。これで小さな電圧を出力するときの安定度向上が期待できます。

出力は20.000Vまで
 仮のテストですがこのように20.000Vまで出力できるようになりました。

 最大20Vのワンレンジにしてしまうと低い出力電圧における電圧設定分解能が悪くなってしまうため最大10Vと最大20Vの2レンジ切り替え式で作ります。

 20Vまで出せますと活用範囲もだいぶ広がるように思います。 最大出力電流は現状では10mAくらいです。 電源回路に幾らか余裕があるので50mAあたりまで増強することは可能でしょう。 PNP/NPNのコンプリメンタリトランジスタを補って最大電流を拡大することは十分可能です。 出力アンプユニットには幾らか余白があるので必要に応じて改造したいと思っています。

 【30V電源ユニット
 +25Vと-5Vの安定した電源電圧を発生するユニットです。 使用した電源トランスの電圧がやや高めだったので工夫が必要でした。

 使ったのが有り合わせのトランスですからちょうど良い電圧が得られるわけでもありません。 簡単に済ませたかったのですが、意外に大掛かりになってしまいました。(笑)

 トランスの18V+18Vの巻線をブリッジ整流して得られた約55VDCから安定化された+30VDCを得ます。 その30Vをアクティブ・ディバイダ回路で+25Vと-5Vに分割する形式で必要な電圧を得ています。 +25V側の電流値の方が-5V側よりも必ず大きくなるため、それを考慮して幾らか簡略化しています。詳細は次の回路図でどうぞ。

 【30V電源ユニット回路図
 まず初めに安定した+30Vを作ります。 PNPトランジスタを使ったコレクタ出力形式の安定化電源回路です。

 この回路では基準となるツェナ・ダイオードに流す電流を電圧が安定化された出力側から得ています。 そのため入力電圧変動に対する電圧安定度は良好です。 そうしたメリットがある反面、立ち上がり特性を考えておかないと電源投入時にオーバーシュートして瞬間的に高い電圧が出力に現れる可能性があります。 昔々の話ですが若かったころこの回路を使ったところそうした配慮が不十分だったため設計審査で問題になったことがありました。教訓を込めてこの回路を採用しています。 スタートアップ特性を観測していますが今度は問題ありませんよ。(笑) ツェナ・ダイオードには中グレード品ですが温度補償型の1S550を使いました。ちょうど10mA流すようにしています。一般的な9V程度のツェナ・ダイオードでも十分でしょう。

 整流・平滑した後の電圧がかなり高いことから、大半のOP-Ampは耐圧オーバーで使えません。 もちろん、補助の電源を用意するなど回路的な工夫で解決はできますが部品が増えます。 ここではモトローラ製の高耐電圧OP-Amp:MC1436Gを使いました。電源電圧は±30V(=60V)まで許容できます。 このOP-Ampは長いこと部品箱に眠っていたもので、この機会に使ってみたのですが1970年代の設計らしく流石に古典的で欠点がありました。 +Vccあるいは-Vee近くの電圧が出力できないのです。簡単にいえば高い電源電圧の割には大きな出力が取り出せないのです。
 もちろんレール・トゥ・レール出力のOP-Ampでもなければ、電源電圧いっぱいまで出力を振れないのは当然です。それでもレールの±2〜3V内側までなら振れるのが普通です。 ところがMC1436Gは±5〜6Vくらい内側までしか振れませません。 そのためこの電源回路ではPNPトランジスタのドライブが旨くできず、12Vのツェナ・ダイオードでレベルシフトして対処しています。(9Vのツェナ・ダイオードでも可)
 有るもので間に合わせたツケと言った所でしょうか。 すこし部品が増えても高耐圧OP-Ampではなく、一般的なOP-Ampで済むように回路側で工夫をした方が好ましいです。

 30V電源部分に続くアクティブ・ディバイダ回路はあまりなじみがないかもしれません。この回路で30Vを25Vと5Vに分割します。トータルの電圧を任意の比率に分割したい時には便利です。分割したポイントをGND電位と考えることによって+25Vと-5Vの電源となります。 単純な抵抗器での分圧と違って、+側と-側の負荷電流が別々に変動しても分割比は一定に保たれるように動作します。 なお、使っているOP-Ampが741タイプですからプラスおよびマイナスの電源電圧近くへは分圧できません。 具体的には、+30V電源のマイナス極をゼロ基準として+3〜+27Vくらいの設定が良いところです。  ここでは+5Vの位置ですので余裕のある動作範囲です。分割したポイントをGND基準にとるとマイナス側へは-5Vとなります。 これでプラス側へ+25V、マイナス側へは-5Vの電源が用意できたわけです。

 もし目的に合った電圧タップのないトランスしか用意できなくても、このような回路を使えば必要な電圧を得ることができます。 ただし各電圧の消費電流に大きな違いがあると無駄な電力損失が増えます。したがって全体的に負荷電流が小さな電源に適していると思います。

 少々電源ユニットが大掛かりになってしまいました。各ユニットに安定していてノイズの小さな電圧を供給したいと考えたためです。 この目的にマッチした電源ユニットが作れたと思います。いくらか窮屈でしたが基板1枚に収まったので良しとしましょう。 PNP型のパワートランジスタが2つ外付けになります。いずれも消費電力は小さいので特別な放熱機は必要なくて簡単にシャシへ放熱する程度で十分です。 手持ちの関係で2SB509E・・・パッケージはTO-66型を使っていますが、Vcbo < -60V、Ic = -1A、Pc = 5W、hFE = 100くらいのPNP型なら何でも良いと思います。TO-66は実装が面倒なのでフルモールド型のTO-220型PNPが良いと思います。(PNP型でもゲルトラはやめましょう)

 なお、新規に電源トランスを購入するならば電圧は15V+15Vで電流容量が0.3A程度のものが良いと思います。 電源回路の変更は必要ありません。

                  ー・・・ー

 以上、各ユニットのポイントなど大雑把に書いてみました。 文章には書かれていないような工夫もあったりしますが、常識の範囲や逆にあまり一般的でないような話しは省いています。 作ってみるような人は稀だと思いますがもしわかりにくい所があればメールでもどうぞ。 追記や修正で改訂したいと思います。

                  ☆ ☆ ☆

 もう少し簡略にと思って始めたのですが「どうせつくるなら・・」という気持ちになってしまい、幾らか複雑化しました。 それでも実用性を向上させる変更は意味があるでしょう。 また、10.000V基準発生ユニットは全体から見てオーバースペックですが、何かの機会にトレーサビリティの確かな基準発生器と比較し校正することを考えて確実そうなものを作っておくことにしました。 この10.000Vは校正に備えて独立した出力端子を設けておくつもりです。

 さて、次はケースを決めて板金加工をしなくてはなりません。 いくつか「箱」の候補は見つけたので、次回の秋葉原行きの時に購入してきましょう。 いつも思うのですが、ケースの類は電気部品と比べて割高ですね。 適度なサイズのジャン測を解体して「箱」をゲットすると言ったような工夫も必要かもしれません。 しっかりしていてデザイン的にも適当なケースが得られる可能性があります。 フロントとリアのパネルを造り替えるくらいなら簡単ですから。 ではまた。 de JA9TTT/1   

(おわり)nm

2018年3月31日土曜日

【回路】Making a Rev.-RIAA-Amp.

【回路:逆RIAAアンプを製作する】
 【BB-Styleのプロトボード
 前回のBlog(←リンク)のテーマ、逆RIAA特性のアンプを「ハンダ付け」して作ってみました。 恒久的に使うにはブレッドボードのままと言う訳には行きません。以下簡単にその様子をまとめました。

       ☆

 導体パターンがブレッドボードのようになっている試作用基板(写真上段)に組み立てました。 この試作用基板はブレッドボードで試作してうまく行ったらそれをそっくりそのままのレイアウトで移植すると言った想定で販売されているのだと思います。

 電子工作を始めたばかりなら旨く行ったものはそのままそっくりの部品配置や配線のままで「恒久化」したいと思うものです。 こうしたボードは写真上側のものだけでなく様々なサイズの製品(←リンク)が販売されるようになってきました。 昨今はマイコン工作を含めて電子回路の試作と言えばブレッドボードを使うのが一般化したためでしょう。

 写真下段は逆RIAAアンプをそうしたボードに載せてみたものです。 比較すれば明らかですが前回のブレッドボード製作と同じ部品レイアウトではないことにお気づきでしょう。 もちろん回路の方は前回のBlog(←リンク)そのままです。 ブレッドボードでの試作は回路規模をつかんだり部品配置の参考にはなりますがそのまま移植するのは必ずしも適当でないと感じました。 もちろん基板サイズがやや小さいこともあります。レイアウトを見直し余白の部分を減らして全体を詰め込んだ訳です。

 一般的な試作用基板(蛇の目基板)では部品は表面側に載せますが、配線はパターン側(裏面)で行なうのが普通です。しかしここではブレッドボードでの試作と同じように部品面にジャンパーピンを刺す形式で配線しています。もちろん基板裏面のランドパターンのところでハンダ付けを行ないます。 そうした作り方はいかがなものかと思ったのですが意外に旨くまとめられました。見ばえもまずまずでしょう。 裏面パターンはわかっていますから部品面から配線を追うのも比較的容易です。

 【裏面の配線は最低限で
 部品面から配線を追い易くするため裏面の配線はなるべく避けたかったのですが、一本だけ発生してしまいました。

 表の面でジャンパー線を複数回経由すればこの一本も無くすことは可能そうでしたが無理をしないほうが合理的でしょう。或いはフレキシブルなワイヤで表側で配線しても良かったかもしれません。 黒色の配線のほかに、何箇所か隣のランドパターンとの間で裏面のジャンパーがあります。

 一般的な試作用基板では、穴の周りにハンダ付け用の丸いランドパターンがあるだけです。 それに対して、こうしたブレッドボードスタイルの基板は電源用のラインはもちろんとして縦の5つの穴の間が繋がった「ブレッドボードと同じランドパターン」になっています。 このように穴の間が繋がっているのは部品配置の自由度が損なわれるので好ましくないと思っていました。 しかしうまく部品配置することでワイヤーによる配線を減らす効果があります。ブレッドボードでの製作に慣れてくると上手く部品配置もできそうです。 買ってはみたものの少々持て余し気味だったブレッドボードパターン基板も意外に使い易く感じられたのです。

 もっと部品実装密度を上げるにはどうしてもパターンカットが発生します。数カ所ならともかくあまりにもカットの箇所が多くなるようでしたら普通の蛇の目基板に組み立てる方が合理的でしょう。

OP-Amp.はLF356Hで
 OP-Ampはソケットにしたので交換可能です。 取りあえず設計通りのLF356Hを実装しておきました。

 周波数特性をとってみましたが、前のBlogで使ったOP-16GJと違いません。RIAAネットワーク部分の部品はブレッドボードからそのままそっくり移植しましたのでこれは当たり前でしょうけれど。

 1回路入りのOp-Ampは種類が限られますが、いくつかこうした用途に向いた品種もありますので、交換してみるのも面白いかもしれません。 電気的性能ではLF356Hでなんら問題ないので、測定用治具の扱いの本機はこのままで大丈夫です。

 このあとは箱に収納しなくてはなりませんが、電源部は内蔵せず外付けで行こうと思っています。AC電源を内蔵しておくと使うときには便利ですが大掛かりになるので外付けで行こうと思っています。 もちろん左右のチャネル分を製作してオーディオ用として常用するのでしたら電源内蔵に限りますね。

                   ☆

 こんど秋葉原に出たときにでもちょうど良さそうな「箱」を調達してきたいと思っています。 それまでには入出力の端子や電源コネクタに何を使うか決めておきましょう。 ケースや外装パーツを決めたら次は板金加工が待っています。(板金加工は苦手)

 ブレッドボードの製作は思いついた回路の検証にはたいへん便利です。 しかし上手く行っても恒久的なモノにはなりえません。 あらためてハンダ付けで作る必要がある訳です。 複数台作るつもりがあれば専用基板を起こすのが近頃のトレンドでしょうか。 綺麗にできますし数名で作るプロジェクトには専用基板化は最適です。 ここはごく個人的な興味だけでやってますのでお手軽さが最優先です。こうした試作用ボードが旨く活用できました。基板の納期を待つ必要もありません。 性能的にはなんら支障はありませんので写真のように作って旨く恒久化することができました。ではまた。 de JA9TTT/1

(おわり)fm

2018年3月17日土曜日

【回路】Reverse RIAA Amp.

【回路:逆RIAA特性のアンプを作る】
 【レコード再生には
 若い人たちのあいだでレコード盤が密かなブームになっているそうです。 年配者には懐かしいだけかもしれませんが、若い人はあのころを何も知りませんから「古いものは新しい」のでしょう。残念ながら私は古い方の人です。(笑)

 久しぶりにレコードを再生してみたくなりました。 昔のオーディオセットをメンテナンスするのは楽しいと思います。だいぶ年数が経過したのでうまく復活するでしょうか?

 昔よりいくらか知識も増えたのでここは一つ「シンプルなイコライザ・アンプでも作ろうか」と思いはじめました。 真空管も良しディスクリートも良し・・・OP-Ampが高性能化したのでそれで作るのがトレンドでしょうか? 構想を巡らせるのは楽しいものです。(写真はLP盤とPhono Cartridge:昔のままです・笑)

 今は半導体回路が進歩したので、DC点火も容易になっています。少し注意すればブーンというハム音に悩まされることもないので真空管を持ち出しても良いでしょう。 しかしどうも大掛かりになってしまう感じです。 そうかと言ってICで作ったら面白くないですし・・・。 ディスクリートのトランジスタ回路で懐かしい回路をリバイバルしてみましょうか。 あまりレコード盤は持っていませんので深入りしない程度の製作が安全だと思っています。

                   ☆

 はじめに断っておきます。イコライザ・アンプの設計製作は次の機会にしました。 まずは逆RIAA特性を持ったアンプを作ってみたいと思います。 NF型のイコライザ・アンプを設計していて、RIAA特性の負帰還ネットワークを計算していてたら逆特性の回路も簡単にできると思ったからです。 もし良いものができればネットワーク・アナライザと組み合わせて自作したイコライザ・アンプのフラットネスが管面から直視できるでしょう。ネットアナがなくても逆RIAAアンプを挟んだ周波数特性の平坦度を見ればよいわけで、RIAAイコライザ・アンプの評価はごく簡単にできるようになります。ちょっと面白そうなのでイコライザ・アンプの前に作ってみることにしました。
 オーディオが趣味でも逆RIAAアンプなんかに興味を持つ人は稀でしょう。 良い音の追及というよりも回路的な興味が優先したテーマです。 いくらかでもご興味を引かれたようでしたらご覧ください。 Hi-Fi再生に無関係でもありませんから。

 【RIAA特性とは
 昔々、エジソンが蝋管蓄音機を発明した頃は拾った音をそのまま録音していたのかも知れません。 しかし、やがてレコード盤に記録するようになり、歪みなくしかもS/Nが良い記録方法を追及するようになりました。

 レコード盤に音の振動を記録するにあたって様々な研究が行われました。 その結果、レコード盤の物理的な限界やカートリッジの機械電気変換メカニズム、レコード針の特性などからフラットな周波数特性で記録したのでは最適ではないことがわかってきます。このあたりの詳しいことは電気音響工学の専門書を読んでいただくとして、ごく簡単にまとめておきます。

 再生を考えたとき、針飛びが起こりやすい低音の振幅を抑えた方が有利です。録音時に抑えた分だけ再生回路の方でブーストするわけです。 逆に盤面ノイズは高音域で耳につくため録音時に高域を強調しておきます。再生時にその分を抑えれば改善します。 従って録音時に低域を低減し高域を強調しておけば再生を考えた最適化ができるわけです。 ただし各社が好き勝手に低減や強調をやったらレコード盤の互換性がなくなってしまいます。(実はそういう時代もありました。後述)

 RIAA特性というのは米国のレコード工業会(Recording Industry Association of America:RIAA)が決めたレコード盤の録音特性のことです。その規格に従って低域の減衰と高域の強調がなされたレコード盤が製造されました。日本でも同等な特性を規格としてJISで規定しました。一般的にこの特性に従ったレコード盤が発売されていますから、再生側もそれに合わせる必要があります。

 レコード再生ではRIAA特性で録音されたレコード盤から平坦な周波数特性を引き出す必要があるわけです。 そのため、レコード・ピップアップに続くプリアンプ部分をRIAA特性に従って録音時と逆の周波数特性を持つように設計します。

 図はJISによるRIAA特性のグラフと周波数特性の一覧表です。録音側と再生側について規定されていますが、数値を見るとまったくの逆特性になっています。 レコード再生に使うプリアンプはこの特性が基本となるため非常に重要です。 市販のステレオアンプでもRIAA特性との偏差はこの数値との比較で示されています。
 市販ステレオアンプでは誤差が±0.5dBならかなり優秀であり、±1.0〜2.0dBくらいがスペックになっているものが多いようです。スペックが省かれているような(書くことができない?)製品も多いようでした。 一般にかなり甘い規格になっているのでしょう。

 【逆RIAA特性のアンプ
 逆RIAA特性を持ったアンプの回路です。 詳しくはありませんが、レコード・カッターで録音するときにもカッティング・アンプのどこかにこう言った特性を持った回路が使われているのではないかと思います。

 逆RIAA特性ですから、低域は減衰し高域は強調される特性になっています。 回路図のC1、C2、R1、R2がRIAA特性を決めるRIAA特性ネットワークです。 R3は高域で効き過ぎないようにするためのオプションですが入っている場合が多いと思います。 全体のゲインはR4で変えられます。 ここでは1kHzにて0dB(=1倍)になるように設計してあります。
 また、R4と並列のC6(=47pF)は重要で、アクティブな回路で逆RIAA回路を構成した場合には不可欠です。 これが無いと可聴域の外で想定以上に特性の盛り上がりが起こり場合によっては発振します。必ず入れておきます。

 このアンプは測定用が目的です。あまり「音楽性」は追及しないため汎用のOP-Ampを使っています。 高域が上昇する周波数特性ですが、たかだか25dB程度のゲインなのでオープンループゲインの周波数特性が問題になることはないでしょう。 J-FET入力のLF356Hを使っています。 出力部にはアッテネータが付けてあります。 このアンプの後にくる測定対象の「プリアンプ」はハイゲインですから減衰させておく必要があります。

 なお、この逆RIAAアンプの目標精度は上表の逆RIAAカーブに対して±0.5dB以内としておきます。アンプ部のゲインは1kHzにおいて0dBとしました。レコード・ピックアップの出力に合わせ、減衰された出力も用意しておきます。

 【シミュレーションしてみる
 理屈ではうまく行くはずでも、シミュレーションしておくと安心です。 おおよその様子が製作する前につかめますので・・・。

 RIAAネットワーク部分の部品定数が細かく書いてありますが、これは実際に製作することを目的に部品集めをした結果を反映したものです。 計算値どおりの定数を持った部品を揃えるのは難しいため、極力誤差が少なくなるように選別した上で妥協するわけです。 それでも設計値との違いは0.2%くらいになっています。

 RIAAネットワークの設計方法は次回にでも扱いたいと思います。 簡単に言うと、まずは必要なゲインおよび回路動作から考えて不合理が起こらないように考えます。 ここではC1を最初に選ぶ方法で出発しています。 C1には表示が4020pF(誤差2%)というスチコンを使いました。このC1が実測で4035pFでしたので、それを計算の出発点にして他の部品定数を求めるわけです。その計算結果に基づいてC2、R1、R2、R3を集めました。(注:文中の部品番号はシミュレーション用の回路図のものではなくて一つ上の図面のものです)

 部品定数が決まったところで、例によってLT-SPICEに図のように回路をインプットします。 OP-AmpはLF356Hがライブラリにはないため、同等以上のLT社製品を選んでいます。 可聴域ですからOP-Ampの違いがシミュレーション結果に現れる可能性はほとんどありません。気になるようなら別のOP-Ampに置き換えてやってみたらよいでしょう。

 【カーブ・プロット
 シミュレーション結果です。 先に見たJISの特性一覧表と比較検討します。 図のようにカーソルを2つ表示して簡単に読み取ることができます。

 1kHzにてゲインがほぼ0dB(=1倍)になるようにR4を決めてあります。 R4にパラの47pFの効き方などシミレーションで確認しておきました。 可聴域の上にある盛り上がりをもう少し抑えたいところですが、これ以上やるとRIAA特性の高域に影響が出るのでこの程度にしておきました。

 シミュレーション結果を見ると綺麗な逆RIAA特性が得られることがわかりました。  設計したRIAAネットワークは(1)入力側の信号源インピーダンスはゼロである、(2)出力側の負荷インピーダンスもゼロである、・・という前提のとき最高性能を発揮します。 OP-Ampでドライブしますので信号源インピーダンスはわずか数Ωですし負荷側はOP-Ampのイマジナリ・ショートですからインピーダンスはほぼゼロと考えられます。 したがってかなり理想に近い状態です。 よい性能が得られるのでしょう。

 【逆RIAAアンプを試作する
 シミレーションだけでは絵に描いた餅の状態です。 実際に試作してみましょう。

 簡単な回路なので短時間で組み立てられました。 OP-AmpにはOP-16というPMI社(現ADI社)の製品を使っていますが、これはLF356Hの同等品(改良型)です。 在庫を探していたら最初に出てきたので使ってみたまでで特に意味はありません。 回路図通りにLF356Hで十分だと思います。

 なおU1はかなり容量性の負荷になるため容量性負荷でも安定なOP-Ampを使う必要があります。 ほかのOP-Ampに代替可能ですがC-MOS OP-Ampの一部には容量性負荷に弱いものがあるので注意します。 本格的に2チャンネル分製作して自作プリアンプの試聴用に使いたいのでしたら、LF356Hだってけして悪くはないのですが一段と音響特性に優れると言われるOP-Amp・・・例えばLME49720(LM4562NA)、NE5532、JRCのMUSEシリーズなどがお薦めできます。

 【RIAAネットワークがキーポイント
 何と言ってもRIAAネットワークがキーポイントです。 この部分の誤差が特性にそのまま現れます。OP-Amp部分は低周波ですから理想のアンプに十分近いため影響はほとんどないのです。

 コンデンサ:C1とC2にはスチコン(スチロール・コンデンサ)を使いました。C2は容量合わせのためにディップド・マイカを補っています。 いずれにしても電気的にも音響特性的にも優れたコンデンサです。 抵抗器も金属皮膜抵抗を使いLCRメータなどを用いて実測しながら2本あるいは3本の合成で必要な値を得ています。ここではコンデンサ、抵抗器ともに±0.2%以下の誤差に合わせ込んであります。

 いずれ(逆ではない)RIAA特性を持ったプリアンプを製作しますが、その際にもそのまま使えるような部品定数を選んでおきました。 プリアンプはステレオで作りますので2つのチャネル間で特性差がでないように2組をよく合わせてやらねばなりません。

 【1,000Hzを発生する
 テスト信号の発生にはシンセサイザ式のレベルジェネレータを使いました。 熱電型のレベル安定回路を内蔵しているため周波数を変えても安定した信号レベルが得られます。

 1,000Hzが基準になります。 ここでは-10dBm(600Ω)あるいは、0dBm(600Ω)を基準に測定しています。 測定周波数範囲は30Hz〜20kHzです。 一般的なRC発振器でも大丈夫ですが、周波数によってレベル変動がないことを確認してください。 あるいは入出力のレベル比較法によって周波数特性を求めるようにしないと正しい評価ができません。 レベル計は比較だけの目的に使い、アッテネータの読みからゲインを求めるといった方法も必要になるかもしれません。 測定精度が悪いとシビアに部品を選んだ効果がわからなくなくなってしまいます。

 【1,000Hzのゲイン調整
 測定の便から、1,000Hzにてちょうど0dB(=1倍)のゲインに調整することにしました。 R3の一部をVR(可変抵抗器)にして1,000Hzでゲインを微調整します。

 相対値で比較してもよいので、ゲインは無調整でも大丈夫です。1kHzにおけるゲインを測定しておいて後で差し引けば良いわけです。 1kHzでゲイン=0dBになっていれば読み取るだけで良いため面倒がないというだけの話です。

 次項の写真のように2針式の電子電圧計を使うことにして、IN/OUTの信号レベルを常に監視して測定しました。

 【1,000Hzのゲインは0dB
 アナログなレベル計では読み取り可能な数字はせいぜい3桁です。(それもかなり難しい) 測定を終わってからデジタル表示のレベル計を使えばよかったと思ったのですが結果的にはこれでもまずまずでした。

 なお、この2針式の電子電圧計は修理・校正を行なったばかりです。 2つのチャネルとも周波数の平坦度は良好でチャネル間も良く揃っていました。この辺りがきちんとしていないと何をやっているんだか・・・となってしまいます。

(参考)写真の電圧計は経年劣化のためレンジ切り替えのリレー接点が不安定になっていました。 オープン型のリレーではまた劣化するため、接点が密閉されているマイクロリードリレーに置き換える改造を行ないました。そのあとで周波数特性を合わせてあります。安価な電子電圧計なので部品のクオリティが低いのはある程度やむを得ませんが多少の改造でグレードアップできます。

 【逆RIAA特性の誤差は
 わかりやすくするためにRIAA特性表の数字と実測値との差をグラフにしてあります。 最初の方にある一覧表では0.01dBの桁まで数字が書いてありました。 アナログな電圧計ではそこまでは読めないので、0.05dBくらいの読み取りで我慢しました。

 ご覧のように想定していた±0.5dBの目標誤差範囲は簡単にクリアできました。 20kHzで少し悪くなってきますが、それでも-0.3dBくらいのようです。 悪くない結果が得られています。 RIAAネットワークの部品誤差を小さくした効果が十分現れています。

 この逆RIAA特性のアンプはプリアンプのRIAA特性を測定するときに使います。従って可能な限り誤差が小さい方が好ましく、このグラフくらいの特性が得られていればまずまずだろうと思います。 本格的に製作しても大丈夫でしょう。  いろいろ調査していたら米国ではこうした逆RIAA特性のフィルタがマニア向けに市販されているようでした。ただし誤差についてのSpecがないものが多いのは不思議です。ざっと見て±0.5〜1dBの誤差はありそうでした。アバウトでも十分だと思っているのかも知れませんね。(参考:0.5dBの誤差はパーセントでいえば、約6%の誤差になります)

参考:RIAA特性以前
 RIAA特性の調査の過程でRIAA特性に統一される以前の録音特性データが見つかりました。 RIAA特性は1954年にRCA社が開発したLP盤、EP盤共通の録音再生特性:New Orthophonic特性に基づいて決めたものだそうです。(図の下段中央の特性) この時代はRCA社がラジオやオーディオの世界に君臨していましたからね。長いものに巻かれたのでしょう。w 私がオーディオに興味を持ったのは45/45方式ステレオレコードのEP盤やLP盤が全盛の1960年代ですから既にRIAA特性に統一されていました。

 統一された初期の頃はまだ以前の特性のままプレスされていたレコード盤も存在したようです。 原音再生マニアはそうした特性に合わせたイコライザを用意していたと言う話を聞いた(読んだ)ことがあります。 メーカー製品ではイコライジング・ネットワークの部分をプラグイン式にして交換可能にしたものもあったようでした。 おそらくどんな音源でも正しく再生する必要のあるプロフェッショナル・オーディオでの話しでしょうね。 その後はRIAA特性に統一され補正曲線の形を意識する必要もなくなりました。それはいまでも続いています。 以上、参考までに。

                   ☆

 CD盤が登場したころ同じ内容のレコード盤と聴き比べたことがありました。 確かにS/Nは抜群ですし、ホコリや傷によるスクラッチノイズも皆無とあって素晴らしいことはわかりました。チープなステレオセットやラジカセで音楽を聴いていたような層には非常に満足できるメディアだったでしょう。しかし良質のレコード・カートリッジと高性能ステレオ・コンポでのレコード盤再生と比べるとCD盤はなぜか生気が失われたように感じられたのです。
 同じように感じた人も多かったようでCDの音の悪さについては可聴域外の特性が影響するからだとか様々に言われたものでした。 おそらく音楽メーカーもCD盤という記録メディアに慣れていなかったのでしょう。 いまはずっと良くなっていて、かなり聞き込んでも不満は感じられなくなりました。CD盤に向いた音作りが上手になったと言うことかも知れません。扱いが楽なのでレコード盤よりも良いです。 いやいや、それどころか最近はシリコンチップの音を聞いているありさまです。

 若かったころ聞いたレコード盤の音を懐かしく思います。その当時からプリアンプは変遷を続けていました。 オーディオから遠ざかる直前には差動増幅2段のOP-Ampの内部回路に近い形式のプリアンプになっていました。そうした形式のアンプは物理的な特性は素晴らしく向上していたと思います。
 しかし本当に耳に残っているのは後世のそれではありません。もう少し前の球や石で作った2〜3段増幅のプリアンプだと思うのです。もちろんDCアンプ形式ではありません。 それが本当に良い音だったのか自信はありませんが・・・。ただ懐かしく耳に残っているだけですから。
 性能の良いデバイスの登場もあって当時のプリアンプ回路を再現するのは容易でしょう。ぜひ確かめてみたいと思います。 案外そうした回路のアンプの方が良かった・・・なんていうことになるかも知れませんよ。(笑) ではまた。 de JA9TTT/1

「つづき」があります。(→こちら

(おわり)nm


:計測可能な電気的性能はともかくとして、音楽性など感性に関わる話しは単に筆者個人の感想や主観であって普遍的なものではありません。一つの見方や考え方を書いたものであって、他者に対して強制あるいは推奨する意図は含まれていません。オーディオは単なる趣味ですから各人がそれぞれに楽しめば良いはずです。