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2018年8月11日土曜日

【回路】7MHz PLL Oscillator (1)

7MHz帯のPLL発振器:その1
各種PLL用IC:Collection of PLL ICs
  これから何回かPLLをやろうと思います。何か必然性があって始めるわけじゃありません。 あえて言えばデバイス活用と設計法の纏めが目的と言ったところでしょうか。
 「何かにとっても役に立つ」などと言うつもりはありませんので、たっぷりお暇でもあればお付き合い下さい。 このところ色々やっていて奥が深くてこれは面白いと思ったのでBlogにしました。先は急がないのでぼちぼちやります。 一応みなさんお好きなRF回路です。(笑) まずはイントロ編から。

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 のっけから昔話になって恐縮ですが、初めて作った水晶発振器は6CB6と言う真空管を使った変形ピアース型だったように思います。  3.5MHzのFT-243型水晶を使い7MHzを得ていました。それで7MHzの送信機を作りました。

 しばらくは真空管を使った発振器の時代が続きましたが、やがてトランジスタを使うようになります。 特に受信系は半導体化したいと思いました。 ただ、当時のゲルマニウム・トランジスタは性能が悪くて苦労した記憶ばかり思い出されます。 そもそもウデも悪かったので苦労したのだと思いますが水晶発振子のアクティビティが低かったのも理由ではないかと思っているのです。hi

  オーディオも好きでしたがやがて無線の方向へ傾倒したので以来ずっと発振回路や発振素子は興味の対象でした。 周波数が安定していて任意の周波数が得られる発振器も研究テーマの一つです。 自励発振器は周波数の自由度はあっても良好な周波数安定度を得るのは至難です。 さりとて水晶発振では自由は利かず・・・ではVXOはと言えば今ほど水晶発振子が良くなかったようで意外に難しいものでした。 可変範囲を欲張ったのもマズかったのでしょう。

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 PLL:Phase Locked Loop(位相同期発振器)という発振回路を目にしたのは1970年代の初めです。 かなり難しい内容だったのでほとんど理解できなかったと思います。 自動制御の理論もまだ習ってはいませんでした。  それが何をやろうとしているかはおぼろげにわかっても、ではどうしたら実現できるのかと言う部分は謎でしかなかったのです。 モトローラ社が積極的に推進していた印象があって、同社の特殊なPLL用ICを使った回路は試したくても入手困難かつ高価なので手の出せない難物だった記憶があります。(写真はパーツボックスにあったPLL関係IC)

 自ら試すことができるようになったのは数年後に輸出用CBトランシーバにPLLの専用ICが使われるようになってからでした。 いまのDDS発振器のように小刻みな周波数を得ることはできませんが、それでもかなり自在に周波数の安定した発振ができるようになりとても嬉しかったものです。 その後、CBブームも去って信越電機商会(*1)にジャンクのPLLユニットが登場します。 それを切っ掛けに興味を持った自作HAMも多かったようでした。 CQ誌に何度も活用記事が登場したのはご存知の通りです。 *1:いまの秋月電子通商

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7MHz帯のPLL発振器
 発振器は無線通信には欠かせません。 これはアナログ式であろうとデジタル式であろうとも重要さは同じでしょう。  すでにDDSや新世代のPLL式専用チップも登場しており、初めの写真のような従来型のPLL用ICは時代遅れでしょうか。 そろそろ懐かしい技術になりつつあるのかも知れません。

 ここでは7MHz帯のPLLを題材としてシンプルなPLL式発振器を試作してみます。 死蔵されつつあるPLL用ICの活用法を纏めておく機会にしたいと思います。 用途によっては従来型PLLの技術を頼った方がうまく行くこともあります。

 概略の仕様は:発振周波数=7〜8MHz、周波数ステップ=10kHz・・・とします。 ただし、各10kHzステップの間は連続可変式として自在に設定できるようにしました。 従って7MHzから8MHz(*2)の間を隙間なくカバーでき、水晶発振器なみの周波数安定度を持った発振器になります。 典型的な用途としては7MHz帯のCW送信機やAM送信機のVFOがあるほか受信機の局発回路なども考えられましょう。 *2:正しくは、7.990MHzまでですが、スイッチを増やせば8.000MHz以上も可です。

写真は試作した7MHz帯のPLL発振器。 試作はブレッドボードが手軽ですが実用品はコンパクトに製作して良くシールドする必要があります。

 他の周波数帯への変更も難しくありません。 ほぼ同じ回路図のままでHF帯の各HAMバンド対応の発振器になります。 ただし、各バンドごと最適化のため回路定数の変更は必要です。 さらに50MHz帯用には電源電圧のアップを要しますがHF帯とほぼ同じように製作できます。 144MHz帯用はHF帯に周波数変換する方式が適当でしょう。  いずれにしても回路定数を最適化するには少しだけ計算が必要です。 しかしその計算は高度なものではありません。 四則演算(加減乗除)ができれば誰にでもできます。 筆算では位取りを間違いやすいので算盤や電卓を使ってください。(笑)

 今回(Part 1)は手始めとして事前に設計の済んでいる7MHz帯のPLL式発振器を試作し、出力信号を観測するところまでを扱います。どんなものが作れるのか具体例があった方がピンと来るでしょう。 PLL回路を構成する各回路要素の検討と詳しい設計の話しは続編で予定します。 いくらか時代遅れに感じるかも知れませんが、有用性がなくなった訳ではありません。 RF回路の基礎技術の一つとして良く研究しておけばいつか役立つこともあるでしょう。 せっかくここまでお読みいただいたのでしたら、この先もお付き合いください。 PLLに黒魔術は必要ありません。誰でも面白いようにロックするPLLが作れます。(笑)

MC145163P・・高機能なPLL用IC
 MC145163PというICはPLL用のLSIとしてかなり後発でした。 PLL化されたCBトランシーバの輸出が盛んだった当時には存在しませんでした。 しかし後発なので機能は充実しており性能も優秀です。

 ここではなるべく簡略にPLL回路を試すことを目標にしています。  高機能なMC145163Pを使って部品数を減らしました。 28ピンの大きなICですが、外付けで必要なものは電圧制御発振器:VCOくらいです。 すっきりしたPLL回路が実現できます。 活用可能な周波数範囲を決める内蔵の「プログラマブル・カウンタ」の上限周波数もVdd=5Vのとき25MHz(標準)と高くなっています。 それ以上の周波数ではプリスケーラを使う必要も出てきますが、必要最小限の分周数で済むためループゲインを消費しないと言ったメリットがあります。 これ一つで色々試せるので便利なPLL用LSIだと思います。

 残念ながらMC145163Pはディスコン(Discontinued:廃止品)です。 まだなんとか手に入るようなので幾つか持っていると自作無線機の幅が広がるでしょう。  以前は比較的高価なICでしたが時代遅れになったからでしょうか? いくらか値崩れ気味のようです。

写真は基準発振の10.24MHzをVXO化する以前のものです。MC145163Pに内蔵の発振回路で水晶発振させています。後ほど外付け回路でVXO化してMC145163Pに与えるよう変更しました。

# まずはMC145163Pで始めますが、後ほどほかのPLL用ICを使った検討もしておきましょう。(Part 3あたり?)

 【MC145163Pの機能
 MC145163Pの内部回路ブロック図です。

 基準となる水晶発振器とそれを分周して比較周波数を得るための「リファレンス・カウンタ」が内蔵されています。 リファレンス・カウンタの分周比は1/512、1/1024、1/2048、1/4096から選べます。

 発振回路のバイアス用帰還抵抗は内蔵ですが負荷容量(2個)は外付けです。 その負荷容量を可変することにより周波数合わせを行ないます。 外部の発振器から基準周波数を与えることもできす。 一例ですが、10.24MHzの水晶発振子を使い1/1024の分周を選ぶと比較周波数は10kHzとなり、10kHz刻みに発振するPLL式の発振器が作れます。

 VCOからの信号を分周する「プログラマブル・カウンタ」は4桁のBCDコードで設定します。分周数はN=3〜9999が設定できます。 無線での用途の場合、あまり小さなNに設定するケースはまれだと思われますが、それでも数1000チャネルの周波数切り替えができる発振器が作れます。 PLL式発振器の出力周波数は比較周波数×分周数です。 いま、比較周波数が10kHzとすれば、分周数:N=700なら発振周波数は700×10=7,000kHz (=7MHz)となります。

 ほかに重要な機能として位相比較器が内蔵されています。 残念ながらループフィルタ用のアンプは付いていません。 従ってアクティブタイプのループフィルタを構成したい時には外付けになります。 あまり使われないのかもしれませんが、同社のMC4044タイプのような形式の位相比較器+ループフィルタを構成することもできるようです。  この部分には ロック外れを検知する機能があり万一の誤動作の時に発振を停止させることができます。

 左図には簡単な機能説明などを記入してあります。 この資料だけで完全な設計ができる訳ではありませんが下記の回路を試すには十分でしょう。 ネットの検索で詳しいデータシート(和文)が入手できるので、MC145163Pを手に入れたなら機会を見てダウンロードしておくと役立ちます。

7MHz用PLL発振器・回路図
 さっそく製作実例です。 最初に決めておいた仕様が実現できるような回路になっています。

 電圧制御発振器:VCO回路はトランジスタやFETを使って構成することもできますが、モトローラ社の専用ICである:MC1648Pを使いました。VCO専用のICを使うことで製作の再現性は向上します。 ただしMC1648Pは入手しにくいかも知れません。 同種の改良版のICがONセミ社で販売されています。

 周波数の可変にはバリキャップ:FC-52M(富士通)を使います。 FC-52Mは廃止品なので入手難ですから秋月電子通商で売られている1SV228(秋月で5個150円)などで代替します。 代替すると少し設計が変わりますが、とりあえずそのまま試しても良いでしょう。うまく周波数ロックするはずです。 1SV228は2素子複合型ですが、片側のみ単独で使います。他方は遊ばせておきます。

 VCO出力に使ってあるTT1-6(MCL:mini circuits lab.社製)というRFトランスはあまり安い部品ではありません。ここでは試作を手っ取り早く行なうために使いました。 フェライトビース:FB-801-#43にφ0.16mmのポリウレタン電線を6回トリファイラ巻きしたものでそっくり代替できます。 2SK544Fは2SK241GRもしくは2SK439F(ピン配置は要注意)で代替できます。この回路には2SK19、2SK192A、BF256BやJ310は適していません。

 最初は10.24MHzの基準発振にMC145163Pに内蔵の発振回路を使いました。 しかし、この部分を可変周波型水晶発振器:VXO化するのは少し難しいようです。(できない訳ではありません) そこで動作が確実で実績のある外付けのVXO回路を使うことにしました。 この基準発振器の周波数を変えることによって10kHzステップの間を自在に可変するわけです。 2SC2668YでVXO発振させ2SK544FでバッファしてからMC145163Pに与えます。

 このVXO回路は周波数安定度が重要です。しかし周波数の可変範囲はわずか15kHzほど(10.24MHzに対して約0.14%)と狭いためたいへん良好です。 無理にたくさん周波数を引っ張ったVXOとは違い普通の水晶発振器と同等の周波数安定度が得られます。 従って最終的に得られる7MHz帯のPLL発振出力も安定度の高いものになっています。  発振回路の2SC2668Yは2SC1923Yなど高周波小信号用のトランジスタで代替できます。

参考:10.24MHzの水晶発振子はaitendoなどで購入できます。同店で売られている水晶発振子(HC-49/US)はアクティビティにバラツキがあるのでうまく発振できない時は幾つか交換してみます。

 MC145163Pの位相比較器から出力されるのはパルス波形です。これを平滑化してVCO回路のバリキャップに加えます。 この平滑回路は「ループ・フィルタ」と呼ばれるものです。 回路としては簡単なローパスフィルタそのものです。 PLL回路の設計は最終的にはループ・フィルタの設計に帰結するとも言えるほど重要なものです。 ここでは設計済みですのでこのまま作れば支障なく動作してくれます。 低インピーダンス型の設計になっています。

 ループフィルタとバリキャップとの間には2段のバッファアンプを入れてあります。 このようにするとVCOとの干渉が断てるので有利ですがアンプ自身にもわずかなノイズがあるためC/Nの点では幾らか不利になります。 しかしそれに勝るメリットがありますから入れておくことにします。

 ここではICL7621DCPAというIntersil社(現:Renesas Electronics社)のDual C-MOS OP-Amp.を使いました。 手持ちがあったので使いましたが、ICL7621はだいぶ旧式かも知れません。 5Vの単電源で使用できレール・トゥ・レール入出力特性を持った2回路入りOP-Amp.ならたいていの物が使えます。 新たに購入するのでしたらLMC6482AIN(秋月で@180円)が推奨品です。

 【7MHz PLLのスペクトラム・1
 各部の説明の前にこの発振器で得られた信号のスペクトラムを観測しておきます。 まずは、信号の上下5kHzずつ、全体で10kHzの範囲で観測してみます。

 よくできた水晶発振器と比べると、一見してPLL式の発振器であることがわかります。 十分シャープなスペクトラムが得られてはいますが、どうしても裾野を引く特性になります。 この例では+1kHz離れたところで-67dBですからなかなか良好です。 これは-78dBc/Hzくらいですが、キャリヤから1kHzのポイントであることに注目してください。10kHz離れるとさらに20dBくらい下がります。

 実際この信号をCWモードの受信機で聞いてみても綺麗なシングルトーンとして聞こえます。 ダメなPLLだとスペアナで見るまでもなく、受信機で聞いただけであたかもブザーのような濁った音色になるので簡単にわかります。

 位相比較器のデッドゾーンからできるだけ逃れるためループフィルタおよび周りの回路を低インピーダンスに設計しています。 裾野の部分も滑らかに落ちていますのでループフィルタ部分の設計に問題のないことがわかります。

 【7MHz PLLのスペクトラム・2
 信号の上下50kHzずつ、全体で100kHzの幅で観測しています。 測定系のノイズフロアはこの状態で信号のピークから見て-80dBくらいです。 特にスプリアスも見られずたいへん綺麗です。

 ループフィルタの設計が良くないとリファレンスの漏れが発生します。リファレンス・フィードスルーという現象です。 このPLLではリファレンスは10kHzですから、そのような場合には主信号の上下に10kHzおきのスプリアスが見られるようになります。 まったく見られませんのでうまくいっている証拠です。 漏れ出るリファレンス成分を減衰させるようなフィルタが追加してあるのも効果的なのでしょう。

 【7MHz PLLのスペクトラム・3
 さらに拡大して信号の上下500kHz、全体では1MHzの幅で観測してみました。 このくらいの周波数スパンで観測すると出来の良くないDDS発振器などではそろそろスプリアスが引っ掛かるようになります。

 このPLLの場合、信号のごく近傍はともかくこの範囲に発生するスプリアスの要因はないためとても綺麗でした。 DDS発振器のスプリアスを嫌ってPLLと組み合わせて信号をクリーニングすると言った回路手法も高級な機器では見られます。こうした特性を狙ってのことなのでしょう。 そのような意味で従来型のPLLも捨てがたいものがあると思います。目的によっては非常に有効な回路です。

 【7MHz PLLのスプリアス
 VCOに使ったMC1648Pの出力は基本的に矩形波です。 ただし、発振振幅を制御するAGCの効き方を調整すると正弦波に近づけることができます。ベストポイントは個々に調整が必要で、上記回路図のR11:4.3kΩで加減します。 この例では少し発振振幅を欲張ったためか2〜5次の高調波が多めに見えています。

 VCOの後は広帯域な増幅器で、まだ何のフィルタも入れていないので高調波が多いのはやむを得ません。 CW送信機に使う場合、何段かC級増幅したあと良く切れるローパスフィルタを入れます。  その部分で十分に除去できるのでこの段階では少々高調波があっても支障はありません。 受信機の局発に使う場合はスプリアスを十分落とす方が良いのでπ型2段くらいのLPFを付加しておきます。

 10.24MHzの漏れがいくらか見えますが、VCOの後の広帯域アンプ(2SK544F)への直接飛び込みのようでした。測定プローブへの結合もあるようです。 実用する際にはリファレンスの部分を独立させてシールドしておくと良さそうです。 そうすれば漏れはほとんど感じられなくなります。

 【MC1648Pを使ったVCO
 VCOに使ったMC1648Pはもはや古典的なICです。 しかしLC発振回路の周波数をバリキャップで可変する形式のVCOが確実に作れるためなかなか重宝です。

 良いICなのですがあまり使われなかったように思います。 それほど使われなかった理由は2つあると思っています。 一つはコストです。 大して高機能でもないのにMC1648Pはだいぶ高価なICでした。 これを使わなくてもVCOは作れます。 そうなると使用量が増えないのでコストも下がらなかったものと思います。 もう一つは発振出力のC/Nが良くないと言われています。 すでに見てきたような発振スペクトラムが得られますから、必ずしも劣っているとは思いません。 しかしトランジスタやFETで「上手に」作ったVCOならもう少し良いC/Nが期待できるでしょう。

 MC1648Pは発振振幅を抑えることによりバリキャップでの自己整流が発生しないよう考えられています。それだけ使い易くできている訳です。 しかし発振振幅を抑えた副作用でLCタンク回路の蓄積エネルギーが小さくなってしまいC/Nの点で不利になったようです。

 幾らか欠点はありますが一定の性能が保証されたVCOが確実に作れるというメリットは大きいので使ってみました。 すでにディスコンのデバイスですが表面実装型の改良型が登場しています。 性能も向上しているのでプロフェッショナルな用途にはそちらを使うべきでしょう。

のちほど入手容易なパーツを使ってMC1648Pの代替回路を試みます。

 【ループフィルタとバッファ・アンプ
 ループフィルタの部分は位相比較器(フェーズ・ディテクタ:Phase Detector : PDと略)と不可分の回路です。

 しかしここではPDはMC145163Pに内蔵されていますから独立した部品としては存在しません。 位相比較器:PDの特性もPLLの性能に大きく影響するのでとても重要です。

 幸いMC145163PのPDはなかなか優秀なようでした。 他のPDと比較しても何ら遜色のない・・むしろ優秀なくらいの性能です。 MC145163Pは後発のPLL用ICですから設計が新しくて内部のC-MOSが高速だからでしょう。

 ループフィルタは一種のローパスフィルタです。 あるいは平滑回路とも言えるものです。 位相比較器からの出力はパルス幅が2つの入力信号の位相差に比例したパルス波形として得られます。 それを平均化して得られた直流的な電位(電圧)を電圧制御発振器:VCO回路・・・具体的にはバリキャップ・・・に加えて周波数(位相)を制御します。

 可変容量ダイオード:Vari-Capを使ったVCO回路では自身の発振電圧がダイオードそのものにも加わっています。 バリキャップ(元もとは商品名でした)とは言っても、本質はシリコンダイオードそのものです。順方向電圧を超える発振電圧が端子間に加われば整流されて電流が流れます。 この電流がループフィルタの部分に流れ込むと制御電圧の変動をまねき、それを間欠的に補正するような動作が始まります。 この動作はPLLの信号純度を損なうため注意すべきす。

 ではどうすべきか? この回路例のようにバリキャップとループフィルタの間にOP-Amp.を使ったバッファアンプを置くことで影響をなくすことができます。 こうしたバッファアンプは原理上は必要ないものですが、性能を改善する効果があります。 発振にMC1648Pを使いましたのでバッファアンプは必ずしも必要なさそうです。しかし実際には制御電圧が小さくなってくると影響が現れはじめます。 さらに別の形式のVCOを試すことも考えて付けておきました。

 電源電圧は+5Vだけですから、バッファアンプには片電源だけでも動作する形式のOP-Amp.を使います。 また電源電圧はわずか5Vと小さいので出力電圧が電源電圧の範囲いっぱいに振れる入出力が「レール・トゥ・レール型」のOP-Amp.を選びます。 条件に合うOP-Amp.は各種発売されていて選択に困るほどですができるだけローノイズな製品を選びたいものです。 容量性の負荷で発振しにくいOP-ampと言うのも条件です。 ICL7621DCPAはそう言う意味ではかなり旧式でしょう。しかし写真の程度のスペクトラムは得られますから実用上の支障はあまりなさそうでした。 もちろん新しいタイプのC-MOS OP-Ampならなお良いでしょう。

 【10.24MHz:VXO式リファレンス発振器
 PLLを使えば周波数が水晶発振器なみに安定している発振出力が得られます。 しかし10kHzステップでは物足りません。

 例えば7MHz帯のCW送信機に使いたいと思っても7000kHzちょうどではオフバンドになるので使えません。 使える周波数は7010kHzと7020kHzの2波しかないのです。

 では1kHzステップで設計したら解決だろうと言う声も聞こえてきます。 しかし実際にやってみますと1kHzステップで満足できる品位の信号を得るにはなかなか高度な技術を要します。 1kHzおきにロックさせるのは難しくありませんが、綺麗な信号を得るのは簡単ではないのです。 容易に製作可能なPLLはやはり10kHzステップくらいが無難なところでした。かなり頑張っても5kHzステップまでが間違いないところです。

 そこで、10kHzステップを埋められるよう10kHzの間を自在に可変できるようにします。  いくつか手法はありますが、いちばん簡単な手としてリファレンス(基準)信号を可変してやります。 「基準」を動かすなんて野蛮だと言われそうですが、10.240MHzをVXOすればそれに伴ってPLLで得られる信号の方も動いてくれます。

 7MHz帯で10kHz動けば良いので、10/7000=0.0014285・・・の割合だけ動かせばOKです。 これは10.240MHzにおいて約14.6kHzということになります。 なお、お気付きのように8MHzでは、10/8000=0.00125なので10.24MHzにて12.8kHzだけ動かせば10kHzの可変幅が得られます。 発振周波数が7MHzのときと8MHzとでは必要な可変量が変わってしまいますがこのような方法で行なう限りやむを得ません。 7MHzで設計しておき、使用する上では8MHzの時には可変できる周波数範囲が幾らか広くなることをわかっていれば支障ないと思います。

 7MHzのHAM Bandに限って言えばバンドの上下で200kHzの違いですから、可変幅の違いは上端と下端で40Hzほどに収まります。 さらにCWバンドに限れば差はもっと少ないのでダイヤル板に目盛を記入してしまっても支障はないでしょう。 なお、7000kHzちょうどにセットしてVXOするとバンドの下の方へオフバンドしてしまいます。 必ず7010kHzの設定からVXOするようにします。それで70010kHzから下の方へ10kHzだけ・・・即ち7000kHzまで自在に可変できます。(MC145163PはN=701に設定します)

 VXO回路は発振に高周波用トランジスタ:2SC2668Yを使いました。 可変範囲を少しでも広く取りたい時にはFETを使った方がやや有利なようです。 しかし、ここではVXOとは言っても0.14%ほどの可変範囲しか必要としません。 普通のトランジスタを使った回路でもまったく支障ありません。FETよりもgmが大きいので発振は容易です。 周波数安定度を見ましたが普通の水晶発振器・・・要するにVXO回路ではない発振回路と違いません。 この周波数安定度はPLLにもそのまま反映されますので7MHz帯の出力も十分安定した周波数が得られます。

 VXO回路といえばいわゆる「VXOコイル」が議論になります。 ここでは18μHのマイクロインダクタが適当でした。このインダクタンスは水晶発振子によって最適値が異なります。 20μH前後で可変できるようなインダクタを使うと製作後の調整が容易です。 既製品ではFCZコイルの07S1.9が使えそうです。 しかし約20μHの可変インダクタはコア入りのボビンに巻けば簡単に自作できます。 無理にFCZコイルを探すまでもないでしょう。

  VXO回路に使うバリコンは最大容量が30〜50pFくらいの物が良いです。 エアーバリコンが好ましいのですがポリバリコンでも一応使えます。 調整はバリコンの可変範囲いっぱいで10kHzが可変できるようにすれば良い訳です。 必要以上に広く可変する意味はありませんが、狭すぎると発生できない周波数ができてしまいます。 VXOコイルとバリコンに並列のトリマコンデンサで可変範囲を加減します。 バリコンがほぼ抜けた位置で10.240MHzを発振し最大容量にしたときそこから15kHzほど周波数が下がるように合わせます。(7MHz帯で出力周波数をみて10kHzの可変幅になるようにしても同じです)

リファレンス発振器のスペクトラム
 リファレンスのスペクトラムが綺麗でなければPLLの出力信号もそれなりになってしまいます。

 写真は10.24MHzのスペクトラムを10kHzのスパンで観測したものです。 ご覧のように非常に綺麗です。

 あまり言いたくないのですが上の方で見たPLLで得た7MHzの信号と比較してみてください。 おなじ10kHzスパンの観測と比較すれば一目瞭然でしょう。 水晶発振のこれはスペクトラムが細く裾野の部分もスッキリしています。 それだけ付随するノイズや揺らぎが少ないことを示しているわけです。  水晶発振ならこの程度の信号が普通に得られるのですから、やはり真に綺麗な信号が欲しければこれに勝るものはありません。

 なんだかPLL式発振器の弱点が暴露されたような感じになってしまいました。 入念に作ったPLLでも得られる信号は水晶発振には幾らか劣ります。 しかし十分な実用性がありますので悲観的になる必要はないと思います。 かつて全盛だったPLL式の局発を使ったトランシーバ・・・例えばTS-820やFT-901の局発だって同じようなものだった筈です。 いずれも当時の名機です。 お使いだったお方はそれで支障を感じたことも無かったでしょう。 ここで作ったPLLくらいの性能が得られていればオンエアしていて他局の迷惑にもなりません。 実際にモニタしてみても綺麗なトーンが実現できています。  理想的ではなくとも電子回路は実用的な性能が得られれば良い訳です。 電波法で規定されている信号近傍のスプリアス基準にもまったく抵触しません。(高調波対策はオーバーオールで行ないます)

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 まずは7MHz帯のPLL式発振器を作ってみました。 これ自体で7MHz帯のCW送信機のエキサイタとして使えます。 2〜3ステージの増幅段を追加すれば実用的なパワーを持った送信機が完成できます。 終段に変調をかければAM送信機にもなりえます。 スタンバイの制御はMC1648Pの電源部で行ないます。 VXO部分は受信中も動作させたままにすれば良好な周波数安定度が維持できるでしょう。 発振周波数の切り替えは7MHz帯のCWバンドに限ればわずか3chですから簡単なスイッチで済みます。 VXO部分は10kHzをカバーすれば良いのでバリコンにツマミを直付したようなダイヤルでも十分行けます。なるべく180°近く展開し、大きめのつまみを付ければ操作しやすくなります。

 今となってはマイコンでDDS ICや新世代PLL ICを制御した方がスマートかもしれませんが、こうした方法でも実用的な発振器は作れます。周波数安定度も良好です。 プログラムなんかいっさい書かなくても済むところがいちばん有難い特徴なのかも知れませんね。(笑)

 評価手段の進歩で以前は不可能だったような解析が可能になったのも今頃になってPLL回路を始めた切っ掛けです。 昔は評価もそこそこでロックさえすれば良いと言った感じで使いました。  あまり酷いものは五感でわかったので実害は無かったと思っています。 しかしデバイスや回路を吟味して、もう少し定量的に突っ込んだ検討ができたら楽しいでしょう。

 PLL回路に使えるICの手持ちがあれば自作プロジェクトに採用するのも面白いでしょう。パーツボックスに眠らせておいては勿体ないです。 PLL用のLSI:MC145163PやVCO用のIC:MC1648Pは既にポピュラーな存在ではないかもしれません。 そんな時は最初の写真にあるように他のPLL用ICでも類似の設計はできます。 次回以降でそのあたりも交えて話を進めたいと思っています。 ではまた。 de JA9TTT/1

(つづく)←リンク(準備中) nm

2018年7月28日土曜日

【回路】Short Wave Radio Design (2)

【回路:短波ラジオの設計・試作・その2】<TA2003P編>

 【TA2003Pで作る短波ラジオ
 しばらくラジオじゃない電子回路が続きましたが、久しぶりにRadioがテーマです。

 このBlogにはトランジスタを主役に使って短波ラジオを製作するページがあります。  トランジスタでスーパー形式の短波ラジオは珍らしいらしく、思ったよりも興味を持って頂けたようです。 ご覧のお方もぼちぼち続いていて最近は海外からのお客さんもあるみたいです。

  短波ラジオはトランジスタで作れるのはもちろんですが、ラジオ用のICを使ったらもっとたやすく製作できるのでしょうか? そうした期待から試みたのがこのBlogです。 ラジオ用ICには既にお馴染み(?)になったTA2003Pを使いました。 これはいま現在でも簡単に手に入ります。

                   ☆

 世の中は完全にデジタル時代になっています。 手っ取り早く短波放送を聴くのが目的でラジオに取り組むのでしたらSDRを使ったキットがお薦めです。 

 ここでは従来型の・・・要するにアナログ式で短波ラジオを作ります。 アナログとは言っても進歩した新世代のラジオ用ICを使います。 もちろん性能が確実なスーパー・ヘテロダイン方式です。 部品が少ないうえ調整箇所もわずかなので製作は容易なのですが性能もあなどれません。 もちろん製作者によって出来ぐあいも異なります。それでも、ぜんぶトランジスタで作るよりも高性能化しやすいと感じました。(写真:ラジオ全景)

 工夫次第でHAM局用の通信機にすることもできますが、やはりラジオ用のICチップなので短波ラジオの範囲で製作するのが良さそうです。 そのあたりも含めて話を進めてみたいと思います。 そろそろ夏休みでお暇なのでしたらICを使った短波ラジオの世界で遊んでみてはいかがでしょうか?

 【TA2003P短波ラジオ回路図
 ラジオ用のIC:TA2003Pを使った短波ラジオです。 TA2003Pについては過去のBlog(←リンク)に説明があります。 ICの中身を詳しく知りたいのでしたらそちらに戻れば確認できます。

 この短波ラジオの基本設計は。トランジスタで作った短波ラジオ(←リンク)と同じにしました。 従って受信周波数は同じく3.4〜10.2MHzになっています。ただし変更も容易です。 HAMバンド専用機ではなくて普通の短波ラジオの設計です。 フェライト・バーアンテナは使っていませんからワイヤーアンテナなどを外付けして受信します。 選択度は簡易なセラミック・フィルタで得ています。 IFT(中間周波トランス)は一つも使っていないので中間周波増幅部は完全無調整です。 もちろんスーパー・ヘテロダイン形式ですから受信範囲を決める局部発振器(Local OSC)と入力同調回路のトラッキング調整は必須です。受信感度に直結しますから、ここだけはきちんと調整する必要があります。

 BFO(唸周波発振器:Beat Frequency Oscillator)は短波帯のラジオには不可欠なように思います。 もちろんHAMバンドの交信を聞くには必須です。 BFOがなければ、無線電信(CW)や単側波帯通信(SSB:Single Side Band)を復調できません。 もっぱら国際放送のようなAM放送波だけを受信対象にするのでしたら不要ですが、ここでは設計に含めておくことにしました。 必要を感じないのでしたらその部分を作らなければ良いわけです。

 Sメータ回路を付けました。できるだけ高感度なメーターが適します。理想を言えば100μAフルスケールくらいのメーターが良いです。250μA FSのラジケータでもまずまず使えます。 振れ具合はR6:4.7kΩで加減できます。 簡易なものですが受信信号の強さがある程度わかります。 また放送局に正しく同調をとるときにも役立ちます。 短波帯の電波は電離層の反射を使って遠方まで伝搬します。 電離層の状態は時々刻々変化していてSメータを見ていると短波の性質がビジュアルに伝わってきます。 メーター指針の動きに短波らしさが感じられますね。

 ラジオの主要な機能はTA2003P一つで実現できます。 出力として音声周波数の信号が得られます。 そこにクリスタル・イヤフォンを繋げばただちに音として聞くことができます。 しかしスピーカを鳴らすには非力ですからさらに増幅が必要です。 そのための増幅器がLM386です。 ここではセカンドソース品(開発メーカー以外が作った同等品)のNJM386BD(新日本無線:NJRC製)を使いました。もちろんオリジナルのLM386N、LM386N-1またはLM386N-3(ナショセミ・TI製)でも良いです。 これでスピーカを鳴らすことができます。

 電源電圧は+5Vで設計しました。 TA2003Pは3Vくらいでも十分に働きます。 しかし低周波増幅のLM386は少なくとも5Vほど必要です。 乾電池4本直列で約6Vを供給しても良いでしょう。 但し最大でも+7Vまでにします。 7Vを超えるとTA2003Pが壊れる恐れがあります。 もし12Vの電源で使いたいのでしたら、μA7805などの3端子レギュレータを使って5Vまで落とします。(μA7806で6Vに落としても大丈夫です)

 ラジオの主要な機能はTA2003PとLM386の2つのICだけで実現できます。 ただしBFO回路は通信機的な機能のため普通のラジオ用ICには内蔵されていません。 従ってトランジスタを使って外付けすることになります。 この例ではごく簡単な1石の発振回路にしました。ハートレー型のLC発振器です。
  2SC1815で設計しましたが、ごく一般的な小信号用トランジスタ(NPN型)ならなんでも使えます。 たとえば2SC183、2SC372、2SC458、2SC536、2SC538、2SC710、2SC828、2SC838、2SC945、2SC2458、2N2222、2N3904、BC548など幾らでもあります。 2SC1815と形状や足の並びが異なるものもあるので確認してから使ってください。 発振用のBFOコイルについては後ほど説明があります。

 【TA2003P短波ラジオ:RF/IF部
 TA2003Pで構成した高周波部分です。 TA2003Pは外付け部品の少ないラジオ用ICです。  主要な部品は、ICのほかにアンテナ・コイル、局発コイル、バリコン、そして中間周波フィルタ(セラミック・フィルタ)です。 あとは数個のコンデンサのみです。

 これだけの部品だけで感度の高い短波ラジオが作れるのですから、さすがにラジオ専用のICです。 十分な増幅度が得られるほか、自動利得調整(AGC:Automatic Gain Control)もよく効きます。

 使い方のコツは、周囲をGND回路で囲むようにし、TA2003PのGNDピン(2番と9番ピン)を最短距離でGNDに接続します。 また電源ピン(6番ピン)とGND 回路の間には最短距離でバイパス・コンデンサを接続します。 基本的に高周波回路ですから、配線はなるべく短くすると動作が安定します。

 ICを使った回路は、多くの機能が一箇所に集中することになります。 そのためコンパクトに作れる反面、IC周辺への部品配置が難しくなってしまいます。 写真のようにアンテナコイルと局発コイルはICの左右に別れて配置してあります。 2連バリコンで連携して同調されますから、2つのコイルはできれば近くに置きたいところですがICのピン配置を考えると写真のようになりました。

 もちろんブレッドボードではなく、ユニバーサル基板に作ったり、新たに基板設計するのでしたら最適な答えは変わってきます。 ICのピン配置と周辺部品の接続状況をよく見ながら部品の配置を決めます。

 【TA2003P短波ラジオのコイル製作図
 ほとんどの部品は市販品が容易に手に入りますけれど、2つあるコイルだけは売っていません。 製作に必要な材料を手に入れて自分で巻きます。 以前のBlog記事、トランジスタで作った短波ラジオ(←リンク)と同じようなコイルを巻きます。  巻き数は少し違いますが、作り方はまったく同じです。 コイルの材料になる、ボビン(巻き枠)や巻き線など製作の実際は以前の記事を参照してください。

 受信周波数範囲は同じですから、各コイルはほとんど類似の仕様になります。 以前の短波ラジオのBlogの時に製作してあればそのまま試すことも可能です。 ただし、本式にはアンテナコイルをTA2003Pに最適化すべきです。 また局発コイルもリンク側(4番ピンと6番ピンの間)の巻き数は7.5回巻きよりもやや多め(8〜10回巻き)にすべきです。

 色々調べたのですが、合わせて使うバリコンの入手が問題になりそうでした。 aitendoの「443AB」が手に入れば安価で良かったのですが品切れが続いています。 ここでは手持ちから最大容量が275pFの「等容量型の2連ポリバリコン」を使いました。 最大容量が250pFから300pFくらいまでの2連バリコンならそのままの設計でもとりあえず使えます。 なお、必ず「等容量型」の2連バリコンを使います。 中波のラジオ製作でおなじみのトラッキングレス型バリコンは短波ラジオには使えません。 トラッキングレス型も2連バリコンの一種なのですが2つあるセクションの容量値は異なっています。 中波のラジオに使うとトラッキング調整が簡単に済むよう特別に作られている専用の部品ですから短波ラジオにはうまくないのです。 必ず等容量型の2連バリコンを使います。

 等容量型の2連ポリバリコンも昔は秋葉原の店頭で手に入ったのですが、いまでは困難です。 ネットで探してみましょう。

参考:窮余の策として真空管用の最大容量が430pFのエアー型2連バリコンも使えるのですが、コイルの再設計を要します。 以下の数字を参照のうえ、同様に製作してください。

真空管回路用としてごく一般的なエアーバリコンは12〜430pFの可変範囲を持ちます。

(1)ANTコイルT1:4.66μH・・・(同調側)
(2)ストレー容量を含んだトリマ・コンデンサC4の容量:40pF
(3)OSCコイルT2:4.07μH・・・(同調側)
(4)ストレー容量を含んだトリマ・コンデンサC3の容量:43pF
(5)パッディング・コンデンサC2は:2984pF(2700pFまたは3000pFで良い)
・・・となります。

なお、小型ホームラジオ用と称した最大容量が300pFの2連エアーバリコンも見かけます。それを使うには上記の図表に示した設計のまま製作して大丈夫です。 エアーバリコンはポリバリコンよりもいくぶん周波数安定度が良くなるので手持ちがあれば活用されてください。

所定のインダクタンスとなるよう、各コイルを巻き、最大容量が30〜50pFくらいのトリマコンデンサと組み合わせて構成します。エアーバリコンは巨大なので配線のストレー容量が大きくなりがちです。ストレー容量を増やさぬよう部品配置をよく考え、最短配線に心がけます。

 【TA2003P短波ラジオ:低周波部
 LM386N / NJM386BDを使った低周波増幅回路です。 ゲイン(増幅度)は約100倍です。 最大出力は8Ωのスピーカを繋いだとき約150mWです。

 こうしたラジオは回路全体として見たとき、非常にハイゲインです。 少なく見積もっても10万倍(100dB)以上のゲインがあって部品配置や配線状態が不適切なら簡単に発振が起こります。 その対策の一つとしてLM386の部分に電源経由で信号の回り込みが起こりにくいようデカップリング回路(減結合回路)を設けています。 R9(10Ω)とC17(470μF)がそれです。効果が不十分ならC17の容量をもっと増やしてみます。

 短波ラジオですからHi-Fiな設計にはしていませんが、国際放送の聴取やHAMの交信を傍受するには十分な音質です。 音の良し悪しはスピーカで決まる部分が大きいので、良い音で聴きたいのでしたらアンプをいじるよりも、大きくて効率の良いスピーカに変えると効果的です。ちっぽけなスピーカではアンプで幾ら頑張っても貧相な音になるのは当然でしょう。

 【TA2003P短波ラジオ:BFO部
 無線電信:CWやSSB通信を復調するためのBFO回路です。 発振周波数は455kHz付近です。 正確な発振周波数は選択度を決める帯域フィルタの特性との兼ね合いで決めるべきです。

  ここで使った帯域フィルタ:CF1(村田製作所:CFU-455H)は通信機用とは違います。 いささか特性が甘いため、BFOはかなり大雑把な発振周波数で支障はありません。 周波数カウンタがあれば455kHz ±2kHzくらいに合わせておけば良いでしょう。 本格的なBFOは発振周波数が可変できるようにします。 しかし、ここでは簡易版ですからその必要を感じません。 製作後にいちどBFOコイルのコアを回して周波数合わせをしておけば十分そうでした。 (参考:選択度が甘いのでダイレクト・コンバージョン受信機のような受信法になるわけです)

 BFOコイルはトランジスタ・ラジオ用として市販されているIFT(中間周波トランス)を流用します。 たいていのIFTは3個組になっていて、調整コアの色は「黄・白・黒」でしょう。 ここでは何色でも使えますが、もし単品で購入できるなら白色か黄色にします。

 ここで使った7mm角のIFTと同じものでない限り発振強度の再調整が必要です。 発振強度調整はBFOコイルの4番ピンと6番ピン(GND)間にオシロスコープをつなぎ、発振波形を見ながら行ないます。 具体的にはR4:3.9kΩを加減します。 発振が起こらないときは小さくし、波形が綺麗なサインウエーブ(正弦波)にならない時は大きくします。 ON/OFFしてみて確実な発振が起こる範囲で、小さめの発振状態が良いと思います。

 もう一つ、BFOの調整ではTA2003Pへの注入量の加減が必須です。 あまり強く注入してしまうと、BFO信号によってTA2003Pに強いAGC(自動利得調整)が働き受信感度が抑圧されてしまいます。 CWやSSBの受信に支障がない範囲で小さな注入量にとどめるべきです。 その調整はコンデンサ・C9:3pFで行ないます。 発振に使用するBFOコイルによって発振の強さに違いがあるほか、回路の配置によってもコンデンサ・C9 の最適値は異なってきます。 場合によっては容量をゼロにしても大きすぎることさえあります。 そのような場合はBFO回路を独立させてシールドで覆うなどの対策を要するでしょう。

 しかしあまり難しく考えず、受信状態を聞きながら加減すれば十分だと思います。 注入状態いかんですが、BFOをONするとSメーターがある程度振れるのは普通です。 振り切れるようでは注入量過大ですが、Sメーターが振れるのはやむを得ないと思ってください。 このあたりがラジオ用のICで簡易に作った短波ラジオの限界と言えます。 HAM局用には物足りない部分と言えるでしょう。 それでもCWやSSBの交信は聞こえますから楽しいものです。BFOがなければまったくダメなんですから・・・。

 昔々の通信型受信機:9R4J、9R42Jや9R59(Dナシ)はBFOをONするとゲインが抑圧されてしまうため、AGCの働きを止めると言った受信方法でした。それが普通だったのです。 このラジオのほうがまだマシと言えるかもしれませんね。

ここで使ったBFOコイル用のIFT(白)を差し上げます。必要ならメールください。

 【TA2003P短波ラジオ:IFフィルタ部
 この試作では選択度を決めるフィルタとしてセラミック・フィルタを使いました。 村田製作所のCFU-455Hという古い形式のものです。  同じものは入手困難と思われますが、代替品なら何とかなるでしょう。 もし違う型番の手持ちがあるなら使ってみる価値は十分あります。 455kHz前後のセラミック・フィルタなら使えるものはたくさんあります。 型番にあまりとらわれずある物で試してみましょう。450kHzのセラフィルも使えます。

 使ってみてからわかったのですが、このフィルタ一つだけでは不満がありました。 可能なら2個を重ねて使うべきです。 そうすると選択度も向上しますが、それ以上に通過帯域外の減衰特性が改善されるので「おかしな混信」から逃れることができます。

 あまりにも本格的なIFフィルタは簡易な短波ラジオには馴染みませんが、逆に簡易すぎると不満が起こります。CFU-455Hクラスのフィルタならぜひとも2つ使いたいところです。

 【使用したIFフィルタの特性
 CFU-455Hはこのグラフのいちばん内側のカーブのような特性になっています。 -6dBの通過帯域幅はおおよそ6kHzですから短波放送の受信にはちょうど良い選択度です。

 しかし、問題なのは両脇の裾野の部分です。 赤く囲った部分では通過帯域からみてわずかに35dBくらいしか減衰しません。35dB以上の強度差がある信号は短波帯にはざらに存在します。  したがってその盛り上がった部分に強い局の方が掛かれば当然のように混信が発生します。(ラジオ放送の受信で起こりやすい)

 2段に重ねれば通過帯域外は70dBくらいの減衰量になりますから混信はほとんどわからなくなります。 CFU-455は内部素子数の少ない簡易なフィルタ(4エレくらいでしょうか?)なのでやむを得ません。やはり2つ使うべきだと思いました。 同じセラミックフィルタでも通信機用のもっと高級なものなら一つでも大丈夫です。 別のラジオの例ですがこのフィルタを2つ重ねて使ったところ、おおよそ9R59なみの選択度になりました。 本格的な通信機用IFTを3つ使った受信機に近い選択度が得られます。ラジオとしては十分すぎるほどでした。CFU-455クラスの簡易セラフィルは2つ使うのがベストです。

TA2003Pを使った短波ラジオの調整
 この短波ラジオが十分な性能を発揮するためには調整がとても大切です。 ラジオとしての基本的な動作が確認できたら調整を始めましょう。 省部品にできたICですから調整箇所は限られています。 スーパーヘテロダイン式ラジオに付きものの中間周波トランスの調整はありません。 従ってトラッキング調整のみ行なえば終了です。 短波の1バンドだけのラジオですからごく簡単です。もちろんテストオシレータなどの調整用機器は必要です。中波のラジオと違って放送局を使った調整は現実的ではありません。何とかして調整用機材を準備してください。

 トラッキング調整の概要は以下の通りです。 まず、(1)局発回路(Local Oscillator)を調整します。 それによって受信範囲を決めます。 続いて、(2)局発回路で決まる受信周波数と入力の同調回路(アンテナコイル)がうまく連動するように調整します。

 以上ですべてですが、具体的な作業手順はトランジスタを使った短波ラジオ(←リンク)のところに順を追った説明があります。 ここでは省略しますのでそちらを参照してください。  受信範囲も同じですからほとんど同じ手順で調整を進めることができるでしょう。

                   ☆ ☆

 【TA2003Pで作った短波ラジオの受信ムービー(注:再生すると音が出ます

 

 ムービーはラジオNIKKEI第1プロ:6055kHz(JOZ2)を受信している様子です。アンテナはハーフサイズのG5RVです。 昼間は日経ラジオ(昔は日本短波放送と言った)くらいしか聞こえませんが、日没になると放送バンドにはたくさんの国際放送局がひしめきます。 感度も十分でとてもよく聞こえました。 ダイヤルを3.5MHzや7MHzに合わせBFOをONしたらHAM局の交信も聞こえてきます。ただしメインバリコン一つで同調するのは非常に困難です。 スプレッド・バリコンを追加するなど短波ラジオに向いた装備を充実させたくなります。 毎度書きますが、短波ラジオでは選局しやすいダイヤル機構をどう実現するのか、たいへん重要です。 感度を云々するのも結構ですがダイヤルがイモでは実用性はナシです。 スーパーヘテロダイン式受信機で問題になるイメージ比も十分とは言えませんからプリセレクタを外付けしてやると効果的です。 そこまでやれば立派な短波ラジオになります。

                   ☆

 HAMのこだわりで短波ラジオといえばCWやSSBの受信も・・と欲張りたくなってしまいます。 一般的に出回っているラジオ用のICにその機能はありません。 そうした受信も考慮されていませんからそのまま使ったら不満が残るのは当然でしょう。 幸い本格的な通信型受信機に向いた半導体も入手できますからTA2003Pのような「ラジオ用のIC」に過大な期待を掛けぬ方が良さそうです。 こうしたラジオ用のICは無理して通信型受信機に仕立てるよりも「高性能なラジオ」の方向が正解のようでした。

 TA2003Pはもともと短波受信も可能なICチップです。 「誰でも簡単に」とは言いませんが、ラジオの仕組みをある程度わかっていれば高性能な短波ラジオも実現し易いはずです。 特にAGCの性能などは立派であり、微弱な信号から強力なラジオ局まで破綻なく聞こえるのは流石でした。 このあたりは6石スーパーくらいでは真似できません。 出力側が非同調形式なので完全なものではありませんが、高周波増幅(RFアンプ)が内蔵されているため感度良好な短波ラジオになります。 トランジスタを並べて作った回路のような細部の融通性こそありませんが一定水準の性能は得られ易いです。 ラジオ専用のICを使った短波ラジオはお薦めできそうです。 ではまた。 de JA9TTT/1

(おわり)fm

2018年7月13日金曜日

【回路】Making a DVM with Green LEDs

【回路:緑色LED表示のDVMを作る】
 【高輝度Green LED
 緑の数字表示器といえば蛍光表示管がポピュラーです。明るくて目に優しい色合いなので長く使われてきました。

 しかし蛍光表示管はやっぱり真空管なのです。 フィラメントの加熱が必要ですし十分な輝度を得るには高い電圧を加えなくてはなりません。 あの緑色に未練は残りますがそろそろ交代を考えても良いのではないでしょうか。

  ずいぶん前から発光ダイオード:LEDにもGreenはありましたが、何となく寝ぼけた色合いですし、輝度もだいぶ低かったのでした。 刺激的で目に優しくないと言われつつも赤色のLED表示器が多かったのも仕方ないでしょう。 少しマシなオレンジ色も使われましたが今ひとつでした。

 最近はLEDを使った信号機が増えてきました。 いつも通過するたびに思うのですが、何とも魅力的な「青信号」だと感心していたのです。 あんな色合いの数字表示器があればいいのに・・・と。 それがありました!

                   ☆

 最近手に入れた緑色の数字表示器を使ってみたいと思ったのが出発点です。 周波数カウンタでも良かったのですが、今回はデジタル電圧計を作ることにします。
 単純に数字表示器を光らせるだけでは面白くないでしょう? 4桁の数字表示器ですから時計でもと思ったのですがデジタル電圧計にしました。 その方が実験っぽいでですからね。(笑) 例によってお暇ならお付き合いを。

デジタル電圧計のパーツ
 電圧計の製作に使ったICです。 メインのICはMP7138というDVM用のチップです。

 MP7138の入手は困難でしょうから詳しくは書きません。 2重積分型のA/D変換回路とデジタル表示のための回路を内蔵した専用のICです。よく覚えていませんが試作品を頂いたものだったと思います。 類似のICとしてはインターシル(現・Renesas Electronics社)のICL7137があります。 それとだいたい同じような機能を持っていると考えたら良いです。

 表示はダイナミックドライブ形式で外付けのデコーダ・ドライバが必要です。ここではC-MOSのTC4511BPを使っています。 桁ドライブが正論理なのでLEDはカソード・コモン型を使うと簡略になります。 ここで使った4桁のLED表示器:OSL40391-LG(←秋月電子通商にリンク)はGreenのものですが、同じ形状でRedとBlueもあります。 桁ドライブにはTD62003AP(←秋月にリンク)という東芝製を使ってみました。前のBlogでカウンタ用LSIと一緒に使ったNECのμPA81Cとピン接続を含めてほぼ同等です。 もちろん、デジトラを4個使っても同じようにできます。

 MP7138は基準電圧源を内蔵しないため別途用意する必要があります。 メーカーのアプリでは1.2Vのバンドギャップ・リファレンスが使ってあります。 あいにく、1.2Vの基準発生用素子に良い物がなかったのでここではTL431を使うことにしました。 TL431系のICは少々温度係数が大きくて、こうした電圧計の基準には不適当ではないかと思ってきました。 そこで性能を確認した上で使うことにしたのです。詳しくはこのあと試してみます。

 MP7138はプラス5Vの他にマイナスの電源も必要です。 マイナス電源の消費電流はわずかで電圧も安定化しなくて大丈夫ですが必ず用意する必要があります。 メーカーの回路例ではC-MOSインバータを使った負電圧発生回路になっています。ここでは専用のIC:ICL7660CPAを使うことにします。(写真にはありませんが)

 【MP7138 を使ったDVM
 CADを使った図面の話ですが、今まで使ったこともないデバイスで回路図で書こうとするとデバイスエディタを起動して新規登録しなくてはなりません。 そうなると回路図を書き起こすのも面倒くさいのと、同じデバイスはどうせ手に入りませんから新規登録しても意味がありません。 手間を省いてメーカーのアプリケーション・ノートに書き込みした回路図で済ませます。 ここではどんな物かわかれば十分なので参考程度に見てください。

 MP7138自体かなり古いICなので応用例には見たことも聞いたこともないようなICが使われています。 DS8857というのはナショセミ社の7セグメント・デコーダ・ドライバでTTL構造のICです。ただし一般的なSN7447と違ってカソード・コモンのLED用なのです。 持っていませんし手にも入りませんから類似機能のC-MOSの4511BPで代替します。 桁ドライブには同じくナショセミ社のDS75492が使われていますが、こちらはNPN-Trのダーリントン接続が6回路分集積されただけのチップです。ここではTD62003APで代替しました。機能は類似ですがピン接続はもちろん異なります。

 鎖線で囲まれた74C04を使った部分は負電圧の発生回路です。74HCU04で代用可能と思われますが、ここではICL7660CPAという負電圧発生用の専用チップを使います。動作が確実で性能もずっと良好です。 まあデジタル電圧計としての性能には影響はないのですが。

 MP7138は2Vフルスケールと0.2Vフルスケールが選択できます。ここでは2Vフルスケールで作ります。 その場合、必要な基準電圧は1.000Vです。必ず安定している1.000Vを与えなくてはなりません。 回路例では MPS5010という自社製のバンドギャップ・リファレンスを使っています。 もちろん入手難なので代替します。 購入するまでもないと思って手持ちを探したのですが適当なものが見つかりません。 そこですこし温度安定度に心配がありますがTL431を使ってみようと思います。 TL431は2.5Vを発生しますので、1Vになるよう分圧して与えればOKです。

メーカーの推奨回路では珍しいデバイスが使ってありますが、回路を見ても特に難しい部分はないと思います。

 【電圧基準:NJM431L
 1.2Vのバンドギャップ・リファレンスはポピュラーなのでですが手持ちに適当なものはないので新たに購入する必要がありました。

 探していたらTL431系のチップならたくさんあることがわかりました。 ツェナーダイオードなんかたくさん使わないのと同じで、TL431もそうそう使うものではありません。たくさんあっても少々持て余し気味でした。

 基準電圧源としては物足りないのですけれど、まあ実験用には良いかもと思ってデータシートを見ていたら面白いグラフが目にとまりました。

 【NJM431Lの温度特性
 この図はNJM431L(新日本無線製のセカンドソース品)のデータシートに載っていたものです。 横軸は温度、縦軸が電圧になっています。 従ってカーブが水平なものほど電圧が温度変化に対して安定していることになります。

 このグラフは開発評価の際に特定の製造ロットについて代表的な特性をとった結果ではないかと思われます。 従って、一般に流通している現品もまったく同じ傾向があると考えるのは早計ではないかと思うのです。

 しかし、デバイスとしての傾向はこの図の通りなのでしょう。 この図では、端子間のブレークダウン電圧:Vzが2.500V付近のものが最も温度係数が小さく周囲温度の変化に対して端子電圧が安定していることを示しています。

 そうそう旨い按配にVz=2.500VのNJM431Lが見つかるとも思えませんが、たくさんある中には近い電圧のものがあるかもしれません。 実測してみる価値はありそうです。

 【TL431Cがオリジナル
 431系のオリジナルはTI社のTL431です。 手持ちにオリジナルメーカの製品があるなら合わせて調べる必要があるでしょう。

 このTL431Cは許容電力が大きなタイプなのでパッケージは縦長で大きくできています。 ツェナー・ダイオードの代替品として使う際に大きめの電流が流せるようにできているのです。 外形こそ大きいですが内部の半導体チップはあまり違わないサイズと思われます。

 こちらも幾つか手持ちがあったので選別の対象になりそうです。

 【TL431Cの温度特性
 調べてみたらオリジナルメーカのデータ・シートにも同じようなグラフが掲載されていました。 この例でもほぼ2.500VのグラフをみるとNJM431Lと同じような傾向を示すようです。 製造プロセスの違いはあっても等価回路は同じですからね、シリコンであることに違いはありませんし。

 やはりVz=2.500V前後のTL431Cが見つかれば良い結果が期待できるのかもしれません。 探してみましょう。

 今まで見過ごしてきたようなグラフですが改めて見直すと面白いものです。 ただし、このTI社のグラフも特定の製造ロットを調べた例ではないかと思います。 実際に手持ち品が同じような特性を示すとは限りませんよね。 それにそんなに都合よく2.500Vに近いものなど見つかるものなのでしょうか?

 【端子電圧で選別する
 想像しているだけでは本当のことはわかりません。 現物は手元にあるわけですから、実際に測ってみるに限ります。さっそくやってみましょう。

 回路電圧は使用時を考えて+5Vにします。 グラフの特性例では流す電流をIz=10mA と大きめにとっています。 しかしここで使うには10mAは大きすぎるのでIz=1mAで行きたいと思います。 データシートにある幾つかの特性グラフから判断してIz=1mAなら10mAとさして違わないようです。 従ってドロッパ抵抗は2.2kΩを使いました。(写真)

 並列に入れるバイパス・コンデンサは3.3μFにしました。 TL431は0.01〜2.0μFあたりの容量が並列に入ると発振するおそれがあります。 これは特に気をつけなくてはなりません。 とりあえず3.3μFなら安全な範囲です。 使用時には10μFくらい入れておくことにします。

#このような回路で端子間電圧を実測してみることにしました。

 【Vz=2.5V付近が良い
 NJM431LとTL431Cを実測して見たところ、Vz=2.500V付近のものならそれほど苦労せずに見つけられることがわかりました。 5つも測定すれば2.500Vに非常に近いものが見つかります。たくさん探す必要もなく簡単に見つけられました。

 そうそう都合よくVz=2.500VのTL431やNJM431が見つかるとは思ってませんでしたが何でも試してみるものですね。 この例では4mVほど高めですが、2.500Vに十分近い電圧です。 これなら期待できるのではないでしょうか?

 【冷やしてみる
 指先でつまんでみたのですが、体温で温める程度では電圧の変化は見られません。 今の季節ですから、これ以上室温を上げるのは勘弁してほしいところです。

 想像や印象だけで議論していても答えは見つかるものではありません。可能なことなら何でも試してみるべきです。 そこで保冷材を冷凍庫から調達してきました。 出してきた直後なら氷点下20度くらいでしょう。 少し経つと温度も上がると思いますがTL431の熱容量から見たら十分な冷却能力があります。

#保冷材を少々当てた程度では電圧の変化は認められません。当てたままで暫く放置しましょう。

 【冷却後の端子電圧
 保冷材を当てたまま5分くらい経過したら変化が現れました。 100μVほど電圧の降下が認められます。(数字の変化はこのDMMの量子化誤差ではないようです。室温に戻れば電圧も戻りますので)

 電圧を測定したあとで触ってみた感触ですが少なく見ても10度以上の温度低下が生じています。ずいぶん冷たくなっています。 控えめに見て仮に10℃の低下と考えると、-100μVの変化は-40ppmの低下ということになります。従って温度係数は+4ppm/℃くらいと言うことでしょうか。
 これは思っていた以上に良い数字です。 3・1/2桁で2VフルスケールのDVMの最小桁は1mVです。 これは500ppmに相当しますから+4ppm/℃など無視しても良いくらいです。周囲温度が±30℃くらい変化しても変動は目に見えないでしょう。 +4ppm/℃が問題になるのはずっと桁数の多い電圧計です。

 TL431の温度変化に対する端子電圧は300K(=27℃)付近を頂点とした上に凸の二次関数になっています。 従って傾斜は直線的ではありませんので何ppm/℃というのは不適当です。 しかし思いのほか安定しています。 これくらいの性能があるなら3・1/2桁のデジタル電圧計の回路には十分な性能でしょう。 いささか定性的な評価ではありますが、使えるのか使えないのかという判定に於いては「使える」と考えて良いでしょう。

  TL431はツェナ・ダイオードの代用品であって、それほど温度係数は小さく(良く)ないに違いないと思ってきました。もっぱらラフな用途向けだと思ってきたわけです。 しかし先入観に囚われず試してみるものですね。 電圧で選別すれば良いものがあります。 メーカーは保証しないでしょうけど中には「イイもの」があるんですから。(笑)

参考:では、2.500Vから外れた物はどうかと言う疑問もあるでしょう。簡単に実験しています。 2.500Vの物よりも幾分変動は大きいようですが意外に悪くありませんでした。 2.500Vから大幅に外れたような物ではなかったからでしょう。 定性的な評価なので数字は省きますが選別の効果はそれなりにあったと思います。

 【電圧計を作る
 部品の選定が済んだのでさっそくデジタル電圧計を作ってみましょう。 こんな感じになりました。

 面倒なのは表示器まわりの配線です。 ここでは初めからダイナミックドライブ用に作られたLED表示器を使ったので配線はすいぶん簡単にできました。 その副作用で極性表示の回路に決め手がなく、現状ではやむなく別途外付けのLEDで対応しています。 MP7138の極性表示のピンはダイナミックドライブ型の表示器向きにできていないのです。 下3桁は良いとして、極性表示の部分には専用のLED表示器を使うのが前提なのでしょう。 工夫してみたのですがどうもうまく行きません。 まあこのあたりは仕方がない感じです。バラのLED表示器を並べて作ればそれほど苦労もないでしょう。

 グリーンのLED表示器は順方向電圧が高いため電流制限抵抗は小さめにします。 ここでは表示が暗いことを恐れてやや大きめの電流を流すように設計しました。 約20mA/セグメントにしています。 ダイナミックドライブですので、6〜7mAくらいのDC電流で使うのと同じ程度の輝度になるでしょう。

 実際にはこれでは電流が大きすぎたように思います。 周波数カウンタの時と違って桁数が少ないため、LED一つあたりに割り当てられる時間が長いのも原因です。 眩しいくらいの輝度になりました。 実用品にするときは半分以下の電流に減らすべきだと思います。 なにせ現状では直射日光下でも楽々見えるくらい明るいんですから。 緑のLEDは暗いと言うのは昔の話なんですね。

#GreenのLED表示のデジタル電圧計と言うのも良さそうです。

 【MP7138の周辺
 積分コンデンサやオートゼロ用コンデンサ、電荷の保持用コンデンサなどすべて安価なマイラ・コンデンサを使っています。

 ポリプロピレン(PP)コンデンサほか、手持ちにあったフィルム系のコンデンサを色々試してみました。 PPが一番良さそうでしたが3・1/2桁程度のDVM回路なら写真のようなマイラ・コンデンサでも十分そうでした。 積層セラコンは端子間電圧によって容量変化があるのではうまくありませんがフィルム系のコンデンサなら大抵のものが使えそうです。

 変換クロックは10kHzで、内蔵のCR発振器を元に得ています。 無調整ではライン周波数と完全には同期していないようです。ACラインの誘導を除去する性能が幾分良くない感じです。 できたら調整式にしておくと良さそうでした。 理屈の上では2重積分型はAC電圧の誘導には強いのですが、変換サイクルがAC電圧の周波数とうまく合っていないと本来の性能が発揮できません。 表示がばらつく原因になります。 3,000カウントが一回の変換サイクルになります。クロックは10kHzですから、1サンプリングは0.3秒です。(3.3回毎秒)

いくらか改良すべき点もありますが測定値は安定しており十分実用になる性能です。

基準電圧と負電源
 写真のように基準電圧にはTI社のTL431Cを使いました。もちろんJRCのNJM431L(2.5V選別品)でも同じようでした。 どちらでも問題なく十分な性能が得られます。

 こうしたDVM回路ではあまり使用例を見ませんがTL431系のICがうまく使えることがわかりました。 これは今回の収穫です。もっと積極的に使いましょう。 並列のコンデンサを大きめにすることでバンドギャップ・リファレンス固有の広帯域ノイズもあまり気にならない程度にできます。 3・1/2桁のDVMにはまったく支障ありません。

 写真のように負電源:-5Vの発生にはインターシルのICL7660CPAを使いました。外付けの電解コンデンサ、10μFが2つ必要ですがプラス5Vから簡単にマイナス5Vを作ることができます。 秋月電子通商にはTJ7660というHTC製(中華民国:台湾)のセカンドソース品が売られています。同じようにに使えます。 コイルを使ったDC/DCコンバータと比べて電流容量は小さいのですが、こうした用途には十分です。ノイズも比較的小さいのでちょっとした負電圧が欲しい時には使いやすいデバイスです。

Greenは綺麗
  フルスケールの1.999Vを加えて表示しています。 1.999Vを越えると、最上桁の1が点灯するだけで、下3桁はブランキングされます。 正にオーバーレンジしたのか、負にオーバーレンジしているのかは極性表示のLEDを見れればわかります。

 実は見たままに写真撮影するのが難しかったです。 明るすぎるため、かなり絞ってもハレーションから色味が飛んで白っぽく写ってしまうのです。 従って写真で表現するのは難しいのですが、このLEDの色は昔の緑色LEDと違って明るい青緑色です。LED式信号機の青を思い出してもらえば適切でしょうか。非常に美しいです。 蛍光表示管の色合いに近い感じもしますが、もう少し「固い感じ」のする緑色とでも言ったら良いでしょうか。 だいぶ輝度を下げてやり、グリーンのフィルタを掛ければ蛍光表示管に頼っていた用途を十分置き換えられます。 例えば置き時計などにはとても美しいのではないでしょうか? 蛍光表示管好きにもお薦めできると思います。  赤色も嫌いではありませんが緑はやっぱり綺麗ですね。

                  ☆

 緑のLED表示器を切り口にしてデジタル電圧計を扱いました。 こうした電圧計回路は専用LSI化されていますし、今ではパネルメータの完成品が安価に販売されています。 もはや作る機会はないのかも知れませんが作ればそれなりの面白さ(苦労も?)も味わえます。 多レンジのデジタル電圧計ともなれば校正手段が問題になるので自作する人も限られるとは思います。しかし一度は作ってみるのも良いかもしれません。1,000円で買えるくらいのマルチメータに10,000円以上掛かるかも知れませんけれど。(笑)

 オールイン・ワン形式でLED表示のDVMチップ(例えばLCL7107など)では消費電力の関係からチップ自体の温度上昇が大きくて内臓の基準電圧源では安定度が十分得られないことがあるそうです。 そんな時は外から基準電圧を与えれば精度の向上が期待できるでしょう。これはICL7107のアプリケーションノートにも書かれていることです。 3・1/2桁程度のDVMならTL431C・・・ただし要選別ですが・・・も十分使えますので試してみる価値があります。

 せっかくなのでデジタルパネルメータのような完成品に纏めたくなってきました。 コンパクトに作るには手間が掛かりますが、そのあたりをどうするのか旨いアイディアでも浮かんできたら考えてみましょう。 ではまた。 de JA9TTT/1

(おわり)nm

2018年6月28日木曜日

【回路】Sine wave oscillator : Part 2

【回路:正弦波発振器の研究・その2】
 【低ひずみ・正弦波発振回路
 いつも忘れたころ登場する低ひずみな正弦波発振器の話しです。今回も発振周波数は1000Hzです。

 少し前のことになりますが、トラ技読者のお方から質問をいただきました。 「私の部品箱」というコラム記事に掲載された回路図についてでした。 その号のテーマはCDSとLEDを組み合わせた「リニア・フォトカプラ」でした。 その活用例として低ひずみな正弦波発振器を紹介しておいたのです。質問はその発振器についてでした。 簡単に言うと作ってみたいがもう少し詳しい情報が欲しいと言うものです。 回路図だけでほかに写真も何もなかったので情報不足だったのでしょう。 その時は手元の資料をいくつかお送りして対応しておきました。

 わずか1ページのコラム記事ですが意外にご興味を持ってお読みいただいているようです。 しかし更に詳しい話は新たな記事のご依頼でもあれば別ですが、いちどコラム記事として登場すればそれで終わりになることが殆どです。要するに使い捨て感覚なのでしょう。 記事にしていただくのは有り難いのですが、いくら頑張っても1ページの紙面では無理があります。 視点を変えた上でBlogでフォローしておくことにしました。

                   ☆

 写真はトランジスタ技術誌:2017年10月号の「私の部品箱」(P206)に登場した正弦波発振器の試作の様子です。 記事ではCDSとLEDを組み合わせたフォト・カプラ(オプト・アイソレータ)がテーマでしたがこのBlogでは発振回路そのものの方にスポットライトを当てたいと思います。 内容は全く独立していますから雑誌記事を参照する必要はありません。

 このBlogの趣旨に沿った内容で解説を試みましょう。 こうした発振器のHAMの用途は2トーン・ジェネレータでしょう。 近頃は高級測定器をお持ちの自作HAMも多いため2トーン・ジェネレータの高調波が観測の邪魔になるようです。昔のようにオシロスコープでの波形観測なら少々のひずみはわかりませんでした。 しかし高分解能、広ダイナミックレンジのスペアナだと2トーン・ジェネレータ自体の高調波が見えるのです。 従って高調波ひずみが非常に少ない2トーン・ジェネレータが必要になっているのでしょう。 こうした超低ひずみ発振器はオーディオ・アンプのひずみ測定の信号源がおもな用途だと思っていましたが、近頃は高度なHAMのニーズも生まれているのです。

 以下、製作のポイントや測定結果など交えて詳しく紹介しておきます。 この種のオシレータの自作に興味があればお付き合い下さい。 高性能オーディオや高度な無線機の自作に関心はないのでしたら退屈なだけかも知れません。

 【低ひずみ発振器の回路図
 低ひずみ発振器の回路図です。 超低ひずみと言えますが回路は意外に簡単です。使っている部品もごく一般的なものです。

 発振回路は低ひずみ発振器の定番のようになっている「状態変数型」です。この回路は積分型のLPFを重ねた形式なので高調波が減衰するため有利なのです。発振周波数は図中の計算式で求められます。 ここでは約1,000Hzになるよう設計しています。ただし部品誤差があるのでちょうど1,000Hzに合わせるには調整が必要です。R2およびR3を微調整する方法が良いです。

  肝心のひずみ率ですが、0.001%以下の性能が得られます。ひずみ率計の数字は単独の高調波だけで決まるわけではありませんが、ここでは話を単純化すると0.001%と言うのは基本波に対して-100dBになります。一般的なスペアナなら高調波が観測の支障になることはないでしょう。 発振振幅は約7V(rms)得られます。

 2トーン・ジェネレータにするならもう1回路製作します。そちらの発振周波数は1575Hzに設計します。回路図中の計算式から抵抗器:Rの値を求めます。例えば C=0.047μFならR=2150Ωになります。Cの方を変えても良いです。

 低ひずみな発振器では振幅制御がたいへん重要です。 電圧可変抵抗素子を使ってアンプが飽和しないよう増幅度(ゲイン・利得)を自動調整します。 電圧可変抵抗素子としてはFET(電界効果トランジスタ)がよく使われます。これは過去のBlogでも実験してます。(リンク:その1その2

 もちろん同じ方法で作っても良いのですが、ここではフォト・カプラ(オプト・アイソレータ)を使いました。 発光側がLEDで受光側がCDS(硫化カドミウムセル)のフォト・カプラです。 LED(発光側)の電流を変えると受光素子のCDSは大幅に抵抗値が変化します。 その特性を使って利得の自動制御を行ないます。 フォト・カプラはFETと違って制御側(LED)と被制御側(CDS)が電気的に切り離されているため使いやすいのです。ただしFETよりも低ひずみでは不利ではないかと言われることもあります。

 CDS-LEDのフォト・カプラを使った状態変数型発振器もときたま見かけます。 それらの殆どはフォトカプラのCDS素子を回路図のR4の位置に入れます。 入力側と出力側が電気的に絶縁しているためGNDから浮いた位置に挿入できるからです。 ここではR4の位置ではなく、R8と並列にGND側にCDSが来るようにしてみました。 このようにした方が低ひずみに有利ではないかと考えました。このあたりが私が工夫した部分です。
 この位置の方がCDSの両端に加わる電圧が低いのです。 CDSは抵抗値の電圧依存性が少ないのが特徴です。(電圧依存性:両端に印加された電圧により抵抗値が変化する現象。それが大きいとひずみの原因になる) 従ってR4の位置に入れてもかなり低ひずみです。 しかしR8の位置、GNDとの間に入れる方が端子間に加わる電圧はずっと低いためそれだけ有利なはずです。

 その代わり発振振幅を制御する方向は逆になります。 電源投入後の発振起動時には必ず低抵抗の状態にならなくてはいけません。 真っ先にフォトカプラのLEDを明るく点灯させねばならない訳です。 まず、整流回路とLEDの極性を逆にします。 さらに発振起動時を考えてCDSが必ず低抵抗の側からスタートするよう、LEDのカソードはGNDではなくマイナス電源に接続します。これで電源投入で確実に発振が起動でき振幅制御が働きます。

#状態変数型発振回路の動作原理は参考書がたくさんあるので文末をご覧ください。

 【発振波形
 ひずみ率が0.001%の正弦波などオシロで見ても面白くないと思います。 特にここで使ったようなデジタル・オシロは垂直軸の分解能は8bit程度のものです。 最近の高性能デジタル・オシロでも12bitですから波形を見てひずみを云々することは不可能でしょう。

 オシロスコープでは波形の観測ではなく、電源投入時の起動特性などを確認しておきます。 発振が始まり振幅が安定するまでの状態を確認します。 また、発振振幅とひずみ率には関連があります。ひずみが増加しない範囲においてなるべく大きな振幅で発振させた方が有利です。これはOP-Ampの残留ノイズによりひずみ率が悪く見えてしまうことへのの対策です。 ここでは画面を見ながら約20Vppの発振振幅に調整しておきました。

 【発振周波数と発振レベル
 オーディオ・アナライザを使って発振周波数と振幅を測定しています。 発振振幅は実効値(rms)で表示され、20Vppはおおよそ7. 07V(rms)です。 

 20Vppはオシロスコープの画面で見て合わせたので、多少小さめだったのでしょう。 この状態で再調整し7.07V(rms)になるようにしても良いと思います。

 発振周波数は計算では1,000Hzのはずですが少し高くなりました。 抵抗器は誤差1%のものを使っています。周波数のずれはおもにコンデンサの容量誤差によるものでしょう。 回路図のR2およびR3を少し加減すれば1,000Hzに合わせられます。 周波数カウンタがあれば簡単です。 少々の周波数調整ならR2またはR3のいずれか一方の加減でも大丈夫です。 しかしR2とR3はなるべく同じ抵抗値にすべきです。 大幅な周波数調整が必要ならR2とR3の両方を同じずつ調整するようにします。

 【肝心のひずみ率は
 ひずみ率は0.001%前後になりました。 これはこのオーディオ・アナライザ:hp 8903Aの測定限界に近い数字です。

 次の項目で高調波スペクトラムの様子をみると、実際はもう少し低ひずみなのではないでしょうか。 基本波が幾分大きめに漏れ残っているようです。 従って、実際にはもう少し良いひずみ率なのでしょう。 半ば想像ではありますが、大まかに0.0005%くらいのように思います。 もちろん0.001%であってもHAM用の2トーン・ジェネレータには十分すぎるくらいなのですが。

  ひずみ率の調整は基本的に必要ありません。 怪しげなジャンク部品はいけませんが、普通の部品を使って作れば発振振幅を調整するだけでこの程度のひずみ率になります。 振幅の自動調整に使ったフォト・カプラ:LCR-0203の影響を調べるために何個か交換してみました。 ばらつきのため交換しただけでは発振振幅に多少の違いが見られますが、調整して同じ発振振幅になるように合わせればひずみ率は同じになります。 LCR-0203のばらつきはひずみ率に影響しません。

 あえてひずみの調整を行なうなら、OP-Amp. U2bの7pin(R11との接続点)をオシロスコープで観測しながらR12(1MΩ)を加減します。 オシロスコープはAC結合にして感度を上げ、小さなリプル波形が良く見える状態にしておきます。 そのリプル波形が最も小さくなるようにR12を調整します。ただし完全に無くすることはできません。 もしひずみ率計が使えるなら、ひずみ率が最小になるように調整しても結構です。ただしオシロスコープを使う方法との差はないはずです。 この回路を使う限りここまでの調整を行なえばほぼ完璧です。これで0.001%以下のひずみ率まで持って行けます。
 
 【ひずみの周波数成分分析
 オーディオ・アナライザのモニタ出力(背面)をスペアナで観測するとひずみ成分の分析が可能です。 オーディオ・アナライザのモニタ出力であって、なまの信号を見ているのではないため、この画面から直接ひずみ率を求めることはできません。 しかし、ひずみの成分が分析できます。

 この観測によれば、ひずみの原因は第2高調波にあることがわかります。 それ以外の高調波はノイズフロアよりずっと下にあります。 従って、この第2高調波を低減する対策を行なえば一段と低ひずみな発振器になるでしょう。(一般的にいえば、偶数次のひずみは増幅器の非直線性によるもの、奇数次は飽和によるものがまずはじめに考えられます)

 実は第2高調波の発生原因はかなりはっきりしています。  発振振幅の自動制御回路に原因があります。 発振により生じた1,000Hzの信号をダイオードによって整流して振幅の制御に使っています。 整流したあと積分器で平滑して直流電圧にしていますが、どうしても微細なリプル電圧が残ります。そのリプルを含む電流がフォト・カプラのLEDに流れ、微細な光量変化となりCDSを介して回路に再注入されるのです。

 積分回路の時定数を長くすると効果がありますが少々では効きません。 あまり長くするとこんどは発振の起動特性が劣化します。積分コンデンサのESR(等価直列抵抗)も影響します。 ダイオードによる整流回路を持った振幅安定化回路の限界なのです。  これは振幅の制御にフォト・カプラを使おうがFETを使おうが同じことです。 参考書によれば乗算器を使ったリップルレスな整流回路を使うと良いようです。 しかし現状でも十分な低ひずみですし、なるべく手に入りやすい部品だけで製作できる範囲が好ましいと思っています。乗算器が手に入ったなら比較の意味で試す価値はありそうですけれど・・・。(笑)

 【OP-Amp.とコンデンサ
 使用する部品の話しです。 発振回路に使うOP-Amp.は十分に吟味しています。ここではNE5532(TI製)を使いました。単価100円くらいですから高価なものではありませんが、この用途に向いています。

 間違いないのはNE5532やLM4562NAのようなAudioに向いたOP-Amp.です。  NJM4580も有力候補でしたが高い周波数の微小発振を伴うようでした。 回路形式による原因のほかに部品レイアウトに何か問題があるのかもしれません。残念ながら諦めした。 いずれにしてもローノイズ、低ひずみなOP-Amp.を選びます。必ずしも高価なものが良いわけではありません。 ごく一般的な4558系であってもかなり良い性能が得られるものです。

 抵抗器は金属皮膜抵抗器を使います。誤差は1%のものが売られています。カーボン抵抗はノイズの点で感心しません。ベストは金属箔抵抗器ですが高価すぎます。 バイパスコンデンサを除きすべてフィルム・コンデンサを使いました。 容量が大きめなので振幅制御回路の積分コンデンサ:1μF(C3)はタンタル・コンデンサでも良いです。ただしその場合は極性に注意します。 発振周波数を決めるコンデンサ(C1とC2)は周波数安定度の点ではスチロール・コンデンサが最適です。 いくらか温度安定度は劣りますが写真のように安価なマイラーコンデンサでも良いです。マイラでも0.001%のひずみが得られますので心配ありません。銘柄モノのコンデンサに拘るのも結構ですが差額だけの効果がなくては面白くないでしょう。 もちろん、良質なコンデンサを使うに越したことはありませんが。

#重要部品である振幅安定回路のオプト・アイソレータは次項で説明します。

CDS-LEDオプト・アイソレータ
 振幅安定回路には発光側がLEDで受光側がCDSになっているフォト・カプラ(オプト・アイソレータ)を使います。

 写真のものは秋月電子通商で売られているLCR-0203という型番の製品です。中国製で単価120円でした。 共立エレショップでも扱っています。

 この形式のフォト・カプラとしてはモリリカ社のMCD-521がかつての定番部品でした。 しかし既に生産されていません。たとえ売っていたとしてもプレミアム付きで価格高騰しているでしょう。 今でも探している人があるのはアナログ・ミュージック・シンセサイザなど電子楽器の用途があるからです。(そちらもLCR-0203で代替できるはずなのですが・・・)
 ばらつきが大きいなど、いくらか性能は劣るようですが発振回路の振幅制限には安価なLCR-0203で十分です。 比較のためMCD-521と交換してみましたが、所定の発振振幅に調整してしまうと違いは感じられませんでした。

 なお、単体のCDS素子と発光ダイオードの手持ちがあればこの目的に使えるフォト・カプラを手作りできます。 CDSの波長に対する受光感度特性から緑色の発光ダイオードが適当です。ただし赤色の領域にも感度があるので赤色も十分使えます。LCR-0203も赤色LEDを使っているようです。 CDSの受光面とLEDの光軸を突き合わせにし2つの素子の周囲を完全に遮光して完成です。 絶縁フィルムを巻いたのち、アルミフォイルで覆うと見掛けはともかく遮光は良好です。 自作のフォト・カプラも十分使えますが光学的なノイズを拾わぬように良く遮光しておきます。蛍光灯やLED照明器具は強烈な光学的ノイズ源になります。CDSは高感度なので思わぬところから(光の)ノイズを拾います。

                   ☆

 HAM用の2トーン・ジェネレータの場合、1,000Hzと1,575Hzの2波が標準的です。 CRの定数を少し変えるだけで周波数の変更ができます。2つの周波数は近いためほぼ同じような性能が得られます。
 オーディオ用の信号源には100Hz、1,000Hz、10kHzの3波を作ります。それぞれ発振起動特性を見ながら振幅制御回路の積分時定数を最適化する必要があります。1,000Hzと10kHzは同じでも大丈夫ですが100Hzでは時定数を長くしなくてはなりません。
 オーディオ・アンプ等の評価ではその3つの周波数で出力対ひずみ率特性を調べることがよく行なわれています。 ひずみ率計がないとお話にはならないのですが、スポット周波数のひずみ率計なら思ったよりもずっと容易に製作できます。連続周波数可変型を試みると大変です。スポット周波数のものを作ると高性能が得られやすいです。(経験済み・笑)
 まずは1,000Hzで作ってみましょう。100Hzと10kHzは少し難しいので1,000Hzが旨く行ってからが良いでしょう。 高感度な電子電圧計が必須ですから事前に手に入れておきます。電子電圧計の感度によって測定可能な最低ひずみ率が決まります。 かつて垂涎のマトだった超高性能ひずみ率計(国産機)も例のコンデンサ劣化問題で出回っている中古品は殆どが故障品なのだそうです。入手するなら十分気をつけてください。状態いかんですが修理はかなり困難なようです。 ひずみ率計の稼働率は低いので自作で済ませるのが良いでしょう。 それにしても自作オーディオマニアでしたら低ひずみ発振器とひずみ率計のセットは既にマストアイテムでしょう。 さらにオーディオ測定マニアでしたらFFTアナライザもそろそろ必携でしょうか。パソコン・アプリもありますけど道具にハマると趣味もキリがありませんね。(笑)

                 ☆ ☆ ☆

 目標としていた低ひずみ率の発振器が確実に作れるようになりました。 難しいことなしに、ごく簡単な調整だけで満足できる性能が得られます。 製作に必要な情報はすべて公開してあります。あとはあなたの製作意欲しだいと言ったところでしょうか・・・。 従って、このテーマはこれで一旦おしまいにしたいと思っています。 他にも違った形式の低ひずみ発振器があって回路的な興味は尽きないのですがそれはまた気が向いたらにしましょう。 現状で十分な性能だと思います。 なお今回は単独の発振器を扱いました。いずれ機会があれば2トーン・ジェネレータにまとめるところまでやりたいと思っています。 ではまた。 de JA9TTT/1

参考・1:関連のBlog内記事へリンク(低周波の低ひずみ率発振器関連)
(1)RC Phase Shift Oscillator
(2)FLT-U2 Sine Wave Oscillator
(3)Sine wave oscillator : Part 1
(4)Wien Bridge oscilltor

参考・2:実験や研究の参考になる書籍・資料(2018年6月28日現在)
(1)はじめてのトランジスタ回路設計、1999年5月1日初版、黒田徹、CQ出版社、ISBN4-7898-3280-5、¥2,500−、絶版だがCD-ROM版あり(¥1,903-)
(2)OPアンプ活用100の実践ノウハウ、1999年8月1日第2版、松井邦彦、CQ出版社、ISBN4-7898-3281-3、¥2,100-:絶版だがオンデマンド版あり。¥2,916-
(3)OPアンプによる実用回路設計、2007年2月1日第4版、馬場清太郎、CQ出版社、ISBN978-4-7898-3748-4、(¥2,800-):新版として現在も販売中。¥3,024-
(4)発振回路の完全マスター、昭和63年9月20日第1版、稲葉 保、日本放送出版協会、ISBN4-14-072035-2、¥1,900-:絶版(古書も入手困難)
(5)定本・発振回路の設計と応用;1993年12月25日初版、稲葉 保、CQ出版社、ISBNN-7898-3046-2、¥2,718円:絶版だがオンデマンド版あり。(¥3,672-)
*筆者の稲葉 保さんは知人でした。残念ながら2018年2月4日にご逝去されました。謹んでご冥福をお祈り致します。

 絶版がほとんどなので、図書館の利用がお薦めです。 古書が出ることもありますが書籍によってはプレミアムが付いています。 書籍は先人の知恵や経験が凝縮されたものです。持っていて損はありませんが無理をする必要はありません。図書館で借りて必要な部分を参照すれば事足りると思います。節約した分で部品でも買っておおいに実験しましょう。

(おわり)fm

2018年6月14日木曜日

【回路】Frequency Counter Design, Plus One

【回路設計:周波数カウンタの設計・プラスワン】
ラジオ・カウンタ用LSI:M54821P
 カウンタ用LSIにはM54821Pと言う「ラジオ・カウンタ」に特化したチップがあったことを忘れるわけには行きません。

 前回(←リンク)までのカウンタ設計で扱ったLSIはどれも汎用性があって必ずしも周波数カウンタの専用というわけではありませんでした。 単純な個数計とか、計数が必要な用途に様々使えるように考えられていました。 それに対して三菱電機のM54821PはラジオやAM/FMチューナなどの受信周波数をデジタル表示するために考えられた専用のLSIです。 いくつかの専用周辺用ICと組み合わせることでたいへん簡単に「ラジオ・カウンタ」が作れるようになっています。1980年前後に中高生の間で一大ブームになったBCLラジオにも使われていました。

 その代わりごく普通の周波数カウンタを作ると制約があり、他のカウンタ用LSIのような設計の自由度はありません。 具体的には分解能が1kHzもしくは100kHzの周波数カウンタになります。 ごく普通に売られている周波数カウンタのようにHz単位まで読むと言った高分解能な測定器は作れないのです。 AM/SWラジオやFMチューナの受信周波数の表示にはとても便利ですが「周波数カウンタ」の機能はおまけ程度と言ったところでしょうか。

 M54821PはIIL(Integrated injection logic←リンク)という今では珍しい形式の集積回路で作られています。IILはバイポーラ型の集積回路でアナログ回路と共存でき、しかも低消費電力で高集積度が実現できるとして1970年代半ばから1980年代初めころに掛けて使われたLSIの製造技術です。民生品ではカメラやVTR用のLSIなどに使われていましたが、いまではまったく廃れています。現在ならC-MOSのデジアナ混在ICで置き換えるでしょう。(I2L、I2Lとも書かれます。アイスクエアエルと読む)

                   ☆

 M54821Pは専用のLSIだけに設計の自由度がないため他のカウンタ用LSIと一緒に扱うのは不適当でした。 忘れていたわけではないのですが別編で改めて扱いました。 このM54821Pも既に過去のものになっています。 当然ながら生産はされておらず、運が良ければ流通在庫品(お店の在庫品)が手に入るくらいのものです。
  メーカ推奨回路にある周辺用ICの入手が難しいため使うのはちょっと面倒臭いと思っていました。 考えてみたところ、そうした専用ICを使わずに回路が構成できそうなのです。 Blog全体ではM54821Pがなければ意味のないストーリなのですが、水晶発振と分周機能を持ったIC:NJU6311の活用は目新しいかも知れません。 良かったらご覧ください。

 【M54821Pの内部は
 M54821Pの内部は図のようになっています。 5桁の周波数カウンタがこれ一つで作れるようになっています。

 あらかじめカウンタの制御回路は内蔵されており、ゲートの開閉、ラッチ、リセットの各パルスは内部ですべて作られています。 外部から基準となる1.25MHzを与えてやれば済むようにできており、制御回路のことを考える必要はありません。その代わり何の自由度もない訳ですが。

 またM54821Pにはスーパ・ヘテロダイン形式のラジオの局部発振器(局発:ローカル・オシレータ)の周波数をカウントして、そこから実際の受信周波数に変換する機能が内蔵されています。 ごく普通のAMラジオでは局発は受信周波数より455kHz高い周波数を発振しています。 普通の周波数カウンタで局発の周波数を読むと実際の受信周波数よりも455kHz高い周波数を示します。 これでは受信周波数の直読にはなりません。

 M54821Pではその455kHz分を差し引いて表示するためのオフセット機能が内蔵されています。 従って特別なことを考えることなくラジオの受信周波数が直読できる周波数カウンタが作れるのです。 なお、オフセット量はいくつか選べるようになっており、オフセット=ゼロにすることもできます。 ゼロに設定すればごく普通の周波数カウンタと同じになります。

 このように専用LSIだけあってたいへん便利にできていますが融通は利きません。 周波数カウンタとして使う場合も分解能は1kHzのままです。 さらに FMラジオ用のモードでは100kHzの分解能になります。 BCLラジオのようにAM波のラジオ放送が受信対象なら1kHzの分解能でも十分でしょう。 しかしSSBやCWも受信対象とする「通信型受信機」(例えば9R59Dなど)ならもう一桁下の100Hzまで読みたいものです。 残念ながらM54821Pではそれができできません。 そもそもの目的と用途から考えてやむを得ないでしょう。マイコン式の周波数表示アダプタのようなフレキシビリティはないのです。

 【メーカ推奨回路
 左図はメーカ推奨の回路構成です。 M54821Pは単独では1.6MHzくらいまでしかカウントできません。 ECLやTTL構造でできた周辺回路用のICでカウント可能な上限周波数を拡大しています。 例えばAM受信モードでは入力信号を1/32に分周してからM54821Pに加えます。 これで32倍の周波数までカウントできることになり、カウント可能な上限周波数は約50MHzになります。

 水晶発振器(基準発振器)は内蔵していません。外部から周波数基準を与える必要があります。基準の周波数範囲は1.0〜1.5MHzと決められていて、それを大きく外れると動作しません。 基準信号は1.25MHzが推奨値(標準値)ですが1MHzを使うこともできます。周波数精度が悪いとカウント誤差を生じます。これは他の周波数カウンタと同じです。 1.25MHzは10MHzを1/8に分周すれば良く、汎用のICを使って簡単に作れます。

 入力信号の方もHC-MOSやLS-TTLで1/32分周回路を構成すれば良いでしょう。 推奨回路にあるような専用のICがなくてもM54821Pを使うことはできます。

 なお、FMモードの場合はVHF帯と周波数も高くなるためECLプリスケーラを使います。 測定対象の信号を1/80に分周してからM54821Pに加えます。 一例として1/10分周のM54459を使い、さらにHC-MOSなどで1/8すれば良いでしょう。 FMモードの場合は分解能が100kHzになってしまうため、あまり使い道がありません。ここでは扱いませんが使ってみたいならメールでも下さい。資料を送ります。 

 【M54821Pを使ってみる
 さっそく使ってみました。 写真は上限周波数の近くでカウントしている様子です。 IF周波数のオフセットはゼロに設定しています。 測定した周波数をそのまま表示するだけの普通の周波数カウンタの状態です。

 ブレッドボードでの製作のためか50MHzには届きませんでしたが、きちんとした基板で製作すればもう少し上限周波数が伸びるかも知れません。あるいは後ほど説明のあるNJU6311の限界かも知れません。 しかし45MHzなら問題なく安定にカウントできました。 分解能(最小桁)は1kHzです。

 写真の範囲でカウンタ回路全部が含まれています。 このようにわずかなICだけで周波数カウンタ(ラジオ・カウンタ)が製作できました。  メーカー推奨の専用ICは入手の見込みがあまりないため使いません。 現時点で普通に手に入るICや汎用のトランジスタを使って構成しています。 次項で回路図を示しますが特殊な部品はM54821Pだけですから、それさえあれば容易に再現可能ではないでしょうか。
 
 【M54821Pを使ったカウンタ回路
 上記写真のカウンタ回路です。 メインのカウンタ用LSIはM54821Pでこれは言うまでもないでしょう。

 基準発振器には新日本無線:New-JRCの水晶発振用IC:NJU6311を使いました。(回路図右下の部分) このチップは高速C-MOS構造で水晶発振回路と分周比が切り替えできる分周器を内蔵しています。 分周数は1、2、4、8、16、32が選択できます。

 ここでは10.000MHzの水晶発振子を使い1/8分周して1.25MHzを得ています。 発振回路に必要なコンデンサは内蔵されています。水晶発振子を2番と3番ピンの間に接続するだけで簡単に発振してくれました。 ただし数kHzくらい高い周波数で発振しました。 メーカのデータシートに周波数の調整方法は書かれていませんでしたが、いくつか試したところ図のようにすればOKでした。 水晶発振子と並列に最大容量が20〜30pF程度のトリマ・コンデンサを入れます。これで旨く調整できました。 もし発振周波数が低いときは、水晶発振子と直列にトリマ・コンデンサを入れます。 周波数安定度は水晶発振子しだいのようですが数ppm/℃くらいの安定性は十分あるでしょう。

 M54821Pの説明のところで書きましたが、周波数測定対象の入力信号はあらかじめ1/32に分周してから与える必要があります。 そのために使うメーカの推奨チップはM54408Pなのですが入手は難しそうです。(売っているところは見つけたのですが・笑) そこでここでも上記で説明したJRCのNJU6311を使って工夫してみることにしました。 手持ちを活用するという意味でもあります。

 NJU6311は水晶発振と分周が目的のチップなのですが、それを応用する訳です。詳しくは後ほど説明があります。 なお、汎用の周波数カウンタにするにはNJU6311に内蔵のアンプだけではゲインが足りないようです。 そこで前回のBlogで好成績だった広帯域増幅のICを付けました。FETのソース・フォロワも前置して入力インピーダンスを高くしておきました。 今回はNE592の方を使いましたがμA733も同じように使えます。(詳細は前回のBlog参照)

  7セグメントのLED表示器はカソード・コモン型を使います。 ダイナミック・ドライブですからなるべく高輝度の表示器が向いています。 M54821Pの桁ドライブ信号はNPNトランジスタを直接ドライブするようにできています。 μPA81Cのようなドライバ・アレーではなく、ごく単純なNPNトランジスタを使う必要がありました。 ドライバ・アレーを使ってみたら輝度が上がらずICが壊れたかと・・・。 ここはシンプルに単なるNPNトランジスタを使うに限ります。(笑)

参考:カウント上限周波数は1/10になってしまいますが、100Hz分解能にすることもできます。 まず、水晶発振子を8MHzに交換します。 これでM54821Pに与えるクロックは1MHzになります。 次にプリスケーラとして使っているU3:NJU6311の分周数を現状の1/32から1/4に変更します。変更方法はNJU6311の内部回路の説明の項にある分周比の設定表を参照してください。 このようにすればカウント上限周波数は6MHzくらいになりますが、最小桁は100Hzにできます。 必要に応じて試してください。 なお、こうした方法は単なる周波数カウンタには有効ですが、ラジオカウンタの機能は正常に動作しませんので注意してください。 例えばマイナス45.5kHzのオフセット値になってしまうので正しい受信周波数表示ができません。 工夫してもせいぜいここまでです。

 【基準発振器:NJU6311
 NJU6311は10ピンのICです。 MSOP型でピンピッチは0.5mmなので多少ハンダ付けは難しいです。 しかし10ピンと少ないですからそれほど困難ではありませんでした。

 写真は秋月電子通商で購入したMSOP-10ピン用の変換基板に載せたところです。 最初はハンダブリッジしても良いので確実にハンダが回るようにします。 フラックスを塗布してから良質のハンダを流しました。 あとでハンダ吸い取りリボンを使って余分なハンダを除去して完成です。 ルーペなど拡大鏡で十分な目視確認を行なっておきます。

 高周波回路なので、電源:Vdd(Pin10)とGND Vss(Pin5)の間に最短距離でバイパスコンデンサをハンダ付けします。 変換基板を使うと不安定になり易いものですが、電源端子の直近にバイパス・コンデンサを付けておけば安定して動作します。

 水晶発振子:10.000MHzと並列に入ったトリマ・コンデンサ(緑色)で周波数調整します。 発振子の端子部分で測定すると周波数がずれてしまいます。 NJU6311の出力端子:Pin 5に周波数カウンタを接続して合わせ込むのが良いです。 あるいは受信機のアンテナ端子からリード線を発振回路の近くに這わせ、標準電波(10MHzのWWVHやBPMなど)を受信しながらゼロビートになるように周波数を合わせます。

 この回路は10MHzを発振させた状態で3.5mAくらいの消費電流でした。 省エネにできていると思います。

 【NJU6311の内部回路
 NJU6311の内部構造を詳しくみてみましょう。

 もともと発振器として考えられています。 ゲート機能付きのC-MOS NAND回路に抵抗器でバイアスを掛け「アンプ」として動作させています。 この部分に基本波周波数の水晶発振子を接続すれば発振するわけです。コルピッツ型と等価な水晶発振回路です。

 しかし、よく考えてみると発振回路部分は利得を持った「アンプ」そのものです。 しかも50MHzまで発振するそうですから、そのあたりまでゲインはあるはず。 この部分は単なる「アンプ」として使うことも可能なのではないでしょうか。
 またこうした水晶発振回路の出力波形は矩形波ではなく正弦波状なのが普通です。 波形整形も難しくしく考えなくても良いかも知れません。 さらに1/32に分周してからM54821Pに行くように分周器をセットすれば目的の回路に使えそうです。

 さっそくラフな実験を行なったら上手く行きそうなのでこのアイディアを採用しました。 もともとが発振回路ですから「アンプ」のIn/Outに15pFのコンデンサが入っています。それが周波数特性となって影響しそうですが実際には十分高い周波数まで動作してくれました。   半導体メーカが驚くような使い方ですが「アンプ+プリスケーラ」と等価のICとして旨く使うことができたのです。 なお、もともとが水晶発振回路なのですからNJU6311からPin2とPin3を引き出して工夫すれば水晶発振子のチェッカーにもなりえます。

 NJU6311は部品通販商社のMouserにて単価100円少々で手に入ります。 個人にも少量販売してくれるほか数量割引もあります。 パーツボックスに数個入れておくと役立ちそうですが送料が勿体ないので数名で纏め買いして割り勘にしたら良さそうです。 JRCのICですから同社製品をたくさん売っている秋月電子通商に取り扱いをリクエストしてみると良いかも知れませんね。

カウンタ用プリアンプ
 J-FETによるソース・フォロワと広帯域増幅用ICの組み合わせはなかなか良好だったのでこちらでも採用してみました。 NJU6311との結合はC結合にしました。 もともと1kHz分解のですから低周波まで測定できる必要はありません。 C結合でも十分だと思ったわけです。

 なお、本来とは違う使い方をしていますので、NJU6311を壊さぬような配慮から、ダイオードを使ったクランプを入れておきました。 広帯域アンプも電源電圧=5Vで使っていますから、支障はないはずですが取り敢えず入れてあります。 様子を見て外そうと思っています。

 こうした状態で45MHz以上まで動作しましたのでHF帯が対象のラジオ・カウンタとしては十分な性能ではないでしょうか。 9R59Dのような高1中2型受信機に付加すれば全受信周波数で1kHz直読になります。 HAM局には少々不満でも、BCLの愛好家には最適な付加装置になるでしょう。 涼しそうなグリーンやブルーの表示器で作ってみたくなりました。

                   ☆

 周波数カウンタの別編としてラジオカウンタ専用のLSIを扱ってみました。 流石にその目的にできているだけあって少ない部品で十分な機能を持った付加装置が作れます。 類似の機能を持った中華製品も登場しています。 M54821Pを新たに購入する意味はないと思いますが、もし持っているなら活用してみては如何でしょうか。 中華モノを買うよりも愛着が持てるだろうと思います。 1kHz分解能なので通信機用としては用途が限られますが、ディップ・メータの発振周波数表示器のような目的なら十分な分解能でしょう。比較的ラフで良い用途もあると思いますので活用を考えてみたいと思います。

 NJU6311は数年前に面白いチップができたので・・とのことで評価用サンプルを頂いたものです。 残念ながら「水晶発振器+分周器」のチップはあまり使い道がありませんでした。ずっと頂いたままになっていました。 今回、M54821Pの活用にあたり検討してみたところベストマッチだとわかりました。 これも先日行なった部品在庫調査が幸いしています。そうでなければ気付かなかったでしょう。 1.25MHzを作るのに水晶発振に74HCU04、分周器に74HC74を使うと言ったオーソドックスな方法になるところでした。

 また、HF帯の入力信号を1/32に分周する回路もちょっと悩みます。 プリスケーラ用のECL-ICが使えれば簡単です。しかしECLのプリスケーラには下限周波数があってそれ以下では誤動作します。だいたい10MHzくらいが下限でしょうか。1MHzあたりまで何とか使えるプリスケーラもありますがそれ以下はまずだめです。 結局のところ真面目にアンプして波形整形してからHC-MOSの2進カウンタで1/32にすると言った回路構成になります。 手持ちに専用の周辺ICがないのでやむを得ませんが、少ない部品でカウンタが作れるというメリットはだんだん薄れてしまいそうでした。
 実験したら発振回路+分周器のNJU6311がHF帯向きのプリスケーラとして十分機能することがわかり一気に簡潔になりました。 頂いたままパーツボックスの肥やしになっていたチップが発掘でき、しかもFBに活用できて良かったです。

 汎用の周波数カウンタは目的とせず「ラジオ・カウンタ」に徹するなら、2SK192AとNE592のアンプ部分は必要ないでしょう。  NJU6311に直結できますから回路はさらに簡潔になります。 ただし過大な入力で壊さぬよう局発との結合容量(C9:1000pF)は必要最小限の容量値に変更し、ダイオード:D3とD4も入れたままが良いです。

 4回にわたりカウンタ用LSIを試してみました。 一度は使ってみたいと思っていたICもあって、その目的も達成できました。 それぞれのLSIについて実際の使い方が確認できました。 これで心置きなく「さようなら」にしてカウンタ用LSIのことはきれいサッパリ忘れることにしましょう。  ではまた。 de JA9TTT/1

(おわり) nm