バー・アンテナ/フェライト・アンテナと言えばトランジスタ・ラジオ専用のイメージがあってHAMが使うことは滅多に無い。 HAMは受信するだけでは済まないので、送信にまったく不適当なバー・アンテナなどに着目はしないのだろう。
しかし色々な用途があって重宝することがある。 私が積極的に使った例としては電界強度計の製作がある。 もちろん簡易なものだがホイップ・アンテナ不要で機動的であった。バー・アンテナはループ・アンテナの一種であって、この場合は電界強度計と言うより『磁界強度計』と言うべきかもしれない。ずいぶん前になるがMobile HAM誌に製作記事を発表した。 シールデッド・ループ構造にしたので周囲から静電的な影響を受け難く便利に使えるものだった。 そのほかにも、フェライト・コアはコモンモード・チョークやバラン用としても使える。 トロイダル・コアと違い開磁型なので磁気飽和しにくいのが長所だ。
写真はコアの長さが100mmのもので、右側の巻き線が中波帯用(531kHz〜1602kHz)、左の巻き線は長波帯用(153kHz〜279kHz)である。欧州向けトランジスタ・ラジオ用だったのだろう。長波巻き線は分布容量が少なくなるような巻き方がしてある。
ところで、バー・アンテナと一口に言っても様々なものがある。構造やサイズは見ればわかるが、一番のポイントはフェライト・コアの材質にある。
たとえば一般HAMバンド用の電界強度計を作るには短波帯に適したものが必要だ。 中波止まりのコア材では透磁率:μ(ミュー)が周波数とともに低下し、Qも2MHzあたりを境に急落してしまう。 既に巻き線してある時は短波帯への適否も何となくわかることも多い。しかし結局のところ、こればかりは買って調べてみないと正しく判断できない。 良さそうと思い入手したものの、中波帯止まりだったものはパーツボックスに眠ってしまっていた。
写真のものは、通販で購入したものだが、残念ながら中波帯より上でQはガックリである。 左の巻き線(L=350μH)が中波用、右側の巻き線(L=3.3mH)が長波用でどちらの周波数でも良好であった。なお、長波付きラジオは上下に余裕を持たせてあって約140〜300kHzをカバーするようだ。
バー・アンテナは断面積が大きく長いものほど高感度である。同一電界内に置いたときバー・アンテナから取り出し得る最大電力はコアの寸法によって決まってしまう。 従って、いくら巻き方を工夫しHigh-Qなコイルを作っても、小さなコアではサイズで感度の限界が来てしまう。
写真のバー・アンテナは、左のセクション巻きになった巻き線が長波帯用で、右のソレノイド巻きが中波用、そして中央の小さな巻き線は外部アンテナ用リンクである。 比較的大型で高級なラジオに使うものだ。 残念ながら短波帯には不適当だったから上記同様にパーツボックスに眠ってしまった。入手したのは、まさか長波のハムバンドが実現するとは思わなかった頃だった。
本格的なアンテナを建てるのとは違いバー・アンテナには限度がある。幾ら大きなコアを使ったからと言っても自ずと限界がある。長波でやったことは無いが短波帯でどこまで聞こえるか試したことがある。 結論から言えばBCLラジオなど比較にならぬほどの感度まで行けるが、最後は熱雑音との戦いとなりそこで終わった。本格的な交信用には不十分だが簡易なテスト用受信機あるいは電界強度を調べる測定器用には最適である。大きなアンテナが張れない長波帯に向いているから利用価値の低かった部品も少しは着目されてきた。(笑)
上記のどれも長波帯のハムバンド:136kHzには良さそうであった。 コアの直径は同じようなものだが、少しでも長いこれが中でも有望だ。代表して評価してみることにした。なお、Qメータで評価したが、ディップメータ(DM)ほか可変周波発振器+オシロスコープで評価することもできる。オシロスコープはVTVMで代用しても良い。要は共振特性の具合を判断すれば良い。発振器となるべくウイーク・カップリングになるように工夫し、-3dB帯域幅で中心周波数を除すれば"Q"になると言う原理的な方法でやる。 なお、短波帯に使えるバーアンテナは多くないから必ず調べるべきだが、中波や長波で使えないものにお目にかかったためしは無いから、そこで使うならサイズで選んでも十分だと思う。
長波用巻き線の共振特性を調べた。中波用の巻き線は一旦外してしまい、長波用巻き線を中央に寄せて測定している。
なお、巻き線の位置が端部と中央ではインダクタンス、Qともに大きく変わる。 従って使う際の位置にコイルを固定して調べないと意味は無い。巻き線をコアの中央に置くと最大のインダクタンスを示し性能が最も良い状態となる。
巻き線方法でバー・アンテナの性能もずいぶん変わる。 詳しく調べたデータもあるが今の目的である長波帯では工夫の余地も少ないうえ性能に大差は出ない。従って適当なインダクタンスが得られるならあえて巻き換えなくても元々の巻き線で十分だ。 リッツ線が巻いてあることも多いが、136kHzでは表皮効果は大きくないからUEW線で十分そうだ。 但し巻き線どうしが密着すると分布容量が多くなり、また近接効果と言ってQが下がる現象もあるから絹巻き線が好まれるのだろう。
135kHzにおける無負荷Q(=Qu)は540を示した。この状態でインダクタンスは4.2mHあり、約330pFで同調する。
長波付きトランジスタ・ラジオではBC帯と同じバリコン(ポリ・バリコン)を使う関係でHigh-L/Low-Cになる。 おまけにたいへんなHigh-Qである。 これらの条件は一般的に共振インピーダンスが高くなって有利だが、それも程度問題だ。 あまりクリチカル過ぎても困るので使い方を工夫しないといけない。(ほか2種類のバー・アンテナもHigh-Qである)
試行錯誤が必要なので今から構想を書いても仕方ないが、NFの小さいトランジスタかFETを使って取り出される電力を無駄にしないよう設計すべきだ。 周波数が低周波並に低いことからGaAsやHEMTと言った超高周波用デバイスが適当であるとは言えず、むしろAudio用の中に良いものがありそうな気配がある。このあたり最高性能を極めるには我々にとって未知の周波数なのだ。
長波帯受信機の回路は殆どお目にかからないので、半導体を使ったものと真空管式を設計をしてみた。 140kHz〜310kHzがカバーできるようにしてある。カバー範囲を広めにとったのでアンテナ・コイルは分布容量が少なくなるように巻くこと。なお、これはEu標準の長波放送バンド受信用であって、136kHzのハムバンド用ではない。(変更法については後述)
半導体式の場合、トランジスタ1石の自励式コンバータでも十分実用するが、ここではMixerにDual Gate MOS-FET(3SK73)を使い、Local-OSCにはJ-FET(2SK192)を使った。少しだけ『通信機』を気取ってみた 訳だ。 FETは入力インピーダンスが高いので、コイルにタップは不要である。バリコンは最大275pFの等容量2連ポリ・バリコンを使う。 アンテナ同調回路はハイ・インピーダンスになるので、IFアンプと結合しないよう要注意だ。 必要に応じてシールドするなど、通信機を作るつもりでやれば問題ない。送信アンテナの近傍で使うには保護回路を設けMixerのFETを飛ばさぬように! 真空管式は五球スーパのコンバータ回路その物である。七極管のコンバータはノイズが云々などと寝言を言うのは現実を知らない人だ。ここはVHF帯ではないからきちんと調整できるなら性能を心配する必要はない。 こちらは430pFのバリコンを使う設計にした。従ってコイルのインダクタンスも半導体式とは異なる。
136kHz帯HAM Bandへの変更であるが、非常に狭いハムバンドなのでこのような本格的なトラッキング設計をしなくても十分である。従ってごく簡単にできると思う。このバンドではRFアンプの必要性は感じないだろう。すぐ上のBCバンドの放送波は非常に強力なので混変調を避ける意味で非同調/広帯域な高周波アンプを付けてはいけない。付けるなら必ず同調回路形式のものを。
バー・アンテナ一般について少しだけ触れておく。
コアの上で巻き線を動かすとインダクタンスが変わると書いた。トランジスタ・ラジオのトラッキングは巻き線を動かして調整する。 調整したらその位置で止まっていてくれないと困るので、このようなクザビ型のストッパーを使う。
パラフィンで固めてしまう例もあるようだが、本来は巻き線の位置が加減できるようになっているべきだ。 安価なトランジスタ・ラジオでさえも、きちんとトラッキングをとると驚くほど高感度になる。
このように、ボビンとコアの間に差し込んで半固定する。 トランジスタ・ラジオ(スーパーヘテロダイン式)のトラッキングは結構シビアである。 最後はほんのわずかの加減になるのでクサビの入れ方でも変化するくらいだ。 そこまで調整すれば6石スーパーも相当高感度なのがわかる。
6石スーパーと比べると五球スーパーの方が遥かに高感度だという印象を持っているかもしれない。しかし、実際は同等かトランジスタ・ラジオの方が高利得なくらいである。 それはバー・アンテナと言うたいへん不利な『アンテナ』で十分良く聞こえる必要があるからだ。 もしバー・アンテナではなく無線用外部アンテナを付ければ聞こえ過ぎて困るほどの感度(ゲイン)がある。6石スーパー侮れずである。
バーアンテナは便利ではあっても比較してたいへん低性能である。本格的な通信用途にはきちんとしたアンテナが必要だから期待してもその代替品にはならない。しかし、移動運用など機動性を活かす目的にはたいへん面白い素材だ。最大限の性能が発揮できるよう回路的な工夫とデバイスを探求する面白味もありそうだ。それにはまずはバー・アンテナと言う素材から着目してみた訳である。
粗大ゴミの日には古くて大きな『ラジカセ』が捨てられているのを目にする。大きなバー・アンテナが使ってありそうだから回収してみては如何だろうか?


