2019年12月26日木曜日

【部品】BF998 Europian Dual Gate MOS-FET

ヨーロッパ系の2ゲートMOS-FETを使う
 <Abstract>
 BF998 is a dual gate MOS-FET of European origin. It is a very small electronic component. It's hard to test it as it is. First, let's put it on a conversion board and try it out.
In this experiment I made 7MHz & 50MHz RF-Amps and measured the gain and frequency response. The performance is better than old Japanese dual gate MOS-FETs. This is probably because the BF998 is a new FET.  (2019.12.26  de JA9TTT/1  Takahiro Kato)

BF998と言うFET
 BF998はヨーロッパ系のデュアル・ゲート・MOS FETです。 BF998という型番は、ヨーロッパ式のもので、最初のBはシリコンを使ったデバイスを意味し、続くFは高周波小信号用デバイスを示します。998はたぶん登録順の連番でしょう。  なお、Eu式の型番にはFETとバイポーラ・トランジスタ(普通のトランジスタ)の区別はありません。 BF998は姿形こそ違いますが国産の3SK59や3SK73と同じような特性を持った高周波用のFETです。

 デュアル・ゲートとは、ゲート電極が2つあると言う意味です。 MOSとは金属酸化物半導体の意味で、ゲート部分の構造を示します。 FETはご存知のように電界効果トランジスタのことです。 従って、金属酸化物半導体2ゲート型電界効果トランジスタと言うわけですが、やたら長ったらしいですね。以下、DG-MOS-FETと略します。 それぞれの用語の意味や詳しい構造などは省きますので半導体工学の専門書を見てください。 このBlogはDG-MOS-FETを使ったRFアンプデザイン(←リンク)の続きです。

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  DG-MOS-FETと言えば、米国製と日本製がほとんどすべてだと思ってきました。 Euにも類似デバイスはあるものの使用上の互換性のないものばかりだったからです。

 このBF998は以下のような特徴から入手して確認してみようと思いました。
(1)安価である・・・・中華系のお店や中華通販で一つ10セントくらいで買える。
(2)互換特性である・・国産の3SK59や3SK73などと同じディプレッション特性。
(3)電極配置が互換・・国産の缶タイプDG-MOS-FETと互換できる足配置。
(4)近代的で高性能・・gmが高く、電極間容量が小さいので高性能が期待できる。
(5)入手性が良い・・・現行品種らしく、中華通販を中心に出回っている。

 DG-MOS-FETがどうしても必要と言うシーンは少なくなってますが、過去に設計された機器の再現や旧型無線機の保守・再生などには未だ欠かせないデバイスのようです。探している人も良く見かけます。 特に、かなり前に廃品種となった3SK59や生産終了で価格高騰した3SK73を置き換えられるデバイスが待たれていたように思います。 しかし最近登場するDG-MOS-FETは近代化設計に適したエンハンスメント特性のもので旧型の直接的な置き換えには向いていませんでした。

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舶来信仰ではないので、特にEu系だからと言って着目もしません。 しかし上述のような特徴からこの機会に評価しておくことにします。 あいにく秋葉原のお店は品切れでしたが、中華通販でたやすく手に入りました。 特に中華通販を使うと価格もお手頃なので代替の目的ばかりでなく新規設計への採用も悪くありません。

 昔懐かしい「熊本シティスタンダード」の再現にも適当でしょう。 そう言われてもピンとこない世代も多くなったでしょうか。 もう35年も前の話ですからね。hi 参考に回路図を添付しておきます。どんな物だったか図面から読み取ってください。 以下は手を動かして何かを作る方に向けて書いてますが、気負わずご覧ください。でも、見てるだけじゃ詰まらないかもしれませんね。 師走の貴重な時間を無駄にされませんように!(笑)

 【安価な変換基板
 BF998は最初の写真のような表面実装型です。 3SK35や3SK59あるいは、そのほかの金属缶タイプのDG-MOS-FETを互換するには変換基板に実装する必要があります。 新規設計なら直接基板に実装すれば本来の性能を発揮させやすいでしょう。

 まず始めに互換品のように扱える形状にしてから評価したいと思います。  写真は秋月電子通商で販売されているSOT-23型パッケージ用の変換基板です。 BF998はSOT-143型のパッケージですが、この変換基板に載せることができます。 他にも同様の変換基板が売られていますが写真のタイプが最安価でした。せっかくFETが安いのでローコストな路線で行こうと思います。この変換基板を使うのは初めてです。

  写真の変換基板はハサミやカッターナイフで簡単に切断できて便利です。 その代わり、あまり強度がないのでソケットやブレッドボードに着脱の際は無理な力を加えないように扱います。 裏面パターンもないため無用なストレー容量は付加されにくいでしょう。 28枚で150円ですから一つあたりのコストは五円少々と言ったところです。

 【BF998の実装例
 ブレッドボードでテストする都合で、写真のようなピンヘッダーをはんだ付けしました。 缶タイプのDG-MOS-FET:例えば3SK59を代替するにはフレキシブルなリード線を付けるのも良さそうです。

 変換基板のピンピッチは2.54mm、ピン列間は7.62mmなので、ユニバーサル基板やブレッドボードにうまく載せることができます。 ピンをハンダ付けする部分は両面パターンでスルーホールになっておりハンダ付けの強度も十分あります。

 BF998は4ピンのデバイスなのでハンダ付けは容易でした。 先の細いハンダ鏝と細いヤニ入りハンダを使います。 ハンダ付けが済んだら無水アルコールなどでフラックスを除去してやると綺麗に仕上がります。 足の並びがわかり易いように一番ピンの位置(ソース電極)に番号を記入しておきました。

 【BF998でHF帯のRFアンプ
 少し前のBlog(←リンク)でテストしたDG-MOS-FETを使ったRFアンプと同じ設計になっています。以下、必要に応じて前回も参照しながらご覧を。

 今回は金属CANタイプのDG-MOS-FETとピン配置が互換になることから、3SK35GR,etc.と差し替えて比較することができます。

 比較が容易なよう、前回の例に合わせて調整はドレイン電流:Id=10mAになるよう、バイアス電圧で加減します。 FETのソースとGND間の電圧:Vsを測定しながら、Vs=1Vになるよう可変抵抗:VR2 (10kΩ)を調整します。(回路図を参照)これでドレイン電流:Id=10mAになります。 そのあと受信機あるいはネットアナなどに接続し、ゲート側の同調回路:T1を調整して目的の7MHzでゲインが最大になるようにします。 なお、このRFアンプはあくまでも小信号用です。従ってオーバードライブにならぬよう、特にネットアナを使うときには注意します。ここではPin=-30dBmで調整しました。ネットアナの方も入力オーバーで飽和させないように注意を!

 回路図中の表・1に各種DG-MOS-FETをVs=1V、すなわちId=10mAに調整したときの第1ゲートの電圧:VG1Sとそのとき得られた最大ゲインをまとめておきました。 ゲインの測定は7MHzです。 BF998は近代的でHigh-gmな高性能FETなので28dB前後(約25倍)という高いゲインが得られました。 同じ回路での比較で旧式な3SK35GRでは21dB前後(約11倍)でした。 BF998は6〜7dBくらい大きなゲインが得られます。 さらに3SK35GRより新しい世代のFET(例えば3SK59GRなど)と比べても2〜4dBほど大きなゲインです。 BF998の高性能ぶりがわかります。

 受信機のRFアンプを3SK59などから置き換えるとやや過剰なゲインになるでしょう。 入力部のコイルをタップダウンしたり、ドレイン電流を加減してやや抑え気味に使うと良い結果が得られそうです。 受信機を始め電子回路は各部のバランスで成り立っています。 一部分だけゲインが高くなったら不都合が起こることもあるわけです。 BF998の性能が活かせるように上手く使いたいものです。

参考:BF998の入手について
国内ではaitendoに置いてありましたが、2019年12月現在品切れです。なお、同店には変換基板に実装済みのものが置いてあります。細かい作業が苦手な人には良いかもしれません。 国際通販ではAliexpressで購入できます。 サイトに入ったら「BF998」で検索すると扱うお店がたくさんヒットします。 購入単位や価格と送料、さらには信用スコアなどを参考に選びます。注文して10日から3週間くらいで手に入るでしょう。
 なお「BF998R」と言う、「R付き」のデバイスも売っていますが、こちらは電気的特性はまったく同じですがピン配置が裏返しになったものです。この裏返しのもの・・・R付きは国産の面実装型DG-MOS-FET、3SK294や3SK144などと同じピン配置です。
 3SK35や3SK59、さらに3SK73のような配置にピンが並ぶのは「Rナシ」の方です。 ここでは目的からRナシの方を入手しました。 購入する際は十分に確認します。
 BF998はNXPセミコンダクタ製とインフィニオン・テクノロジーズ製が出回っています。 入手できたものはインフィニオン製でした。表面の印字が「MO s」となっています。NXP製は「MO p」の印字です。 どちらのメーカーのものも同じように使えます。

 【BF998を試用する
 前のBlog(←リンク)で評価した3SK294となるべく違わぬように作って比較しています。 コイルや出力部のRFトランスは同じものを使いました。

 電極の並び方が異なるので、完全に同じ条件にはできませんが7MHzと言う低い周波数帯ですから影響があってもごくわずかでしょう。 いずれにしても十分安定に増幅してくれます。

 なお、写真のBF998は上記で紹介とは異なる種類の変換基板に載っています。 特性的には薄手の基板と同じようなものです。 ただし板が厚くてしっかりしているためブレッドボードにはこちらの方が扱い易いように感じられました。 薄手の変換基板は着脱時に無理な力が加わらないように注意しないと基板が割れてしまいます。 無造作に扱ったら1枚ヒビを入れてしまいました。ご注意を。

 【7MHz RF-Ampの周波数特性
  BF998で作ったRF-Amp.(7MHz用)の周波数特性です。 画面の中央少し上を横切る赤いラインがゲイン0dBです。縦軸のひと目盛りは10dBです。 横軸は左端が1MHzで右端は20MHzのLog目盛りになっています。 マーカーの位置がゲイン最大のポイントで、この例では28.1dB(約25.4倍)のゲインが得られています。

 回路図中の表・1のようにFETによってゲインに数dBの違いがあります。 これはドレイン電流:Id=10mAにおけるトランスコンダクタンス:gfsの違いによるものです。(昔風に言うと相互コンダクタンス:gmの違い) なお、BF998が優秀だとは言っても、他の近代的なDG-MOS-FETと比べて1〜3dB程度の差異ですから、差し替えて劇的な違いが体感できるほどではありません。 アンテナを繋いでの比較なら、ゲインがアップした分だけ空間ノイズによるノイズフロアの上昇が感じられるかもしれませんが・・・。

 BF998で他のFETを代替する際は、もしゲインが過剰気味なら入力部のコイルをタップダウンすると言った方法で加減します。幾らかドレイン電流を減らしても良いでしょう。 Id=10mAというのは総合的に見たときに良い特性が得られやすい動作点ですが、絶対というわけではありません。必要に応じて加減してももちろんOKです。 出力側にアッテネータを入れる形式では、出力側のインターセプトポイント(OIP)を劣化させるため望ましくないでしょう。 出力へのアッテネータの付加はせいぜい3dBまでにとどめたいところです。

 同調回路が一つですから写真に見るような特性カーブから選択度が良いとは言えません。 必要以上の増幅帯域幅を持つことは多信号特性を考えれば不利です。 目的に応じて良い性能のバンドパスフィルタを前置するのが望ましいと思います。 上手に使えばローノイズで高感度な受信に貢献するでしょう。

 【3SK35GRで比較測定
 写真は3SK35GRに差し替えてテストしている様子です。 高周波増幅器としての周波数特性などに違いはありませんが、ゲインのピークは6〜7dB低くなります。(ゲインとしては、21dBくらい。約11倍)

 これは3SK35の性能が良くないためです。 3SK35は1970年代のデバイスです。DG-MOS-FETとしては初期のものです。そのため当時の製造上の限界からBF998のような高性能が得られないのでしょう。

 MOS-FETのgmはゲート部分の電界の効き方に影響されます。電界効果トランジスタって言うくらいですからね。 電界の効き方はゲート電極とチャネルの電極間距離、すなわちゲート絶縁層の厚みの二乗に反比例します。 簡単に言えばゲート絶縁層が薄いほどgmは高くなります。 しかし3SK35を開発した当時、ゲート部分の絶縁層を薄く作る技術は未熟だったのでしょう。 その代わりとしてゲート幅を広くしますが、幅の拡大はgmに対して比例関係でしか効きませんから二乗で効く厚みの埋め合わせはできなかったのでしょう。 それがあまりgmが高くない理由でしょう。
 さらに、ゲート幅を広く設計した副作用でゲートの入力容量:Cisが大きくなっています。 3SK35に交換すると入力同調回路の同調点が移動するのがわかります。 新旧のDG-MOS-FETのゲインの違いなどからデバイスの進歩が読み取れました。

# テストしつつデバイスの進歩を感じました。高周波デバイスは新しい方が良いです。hi

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 【BF998で50MHzのRFアンプ
 今度はBF998を50MHzの高周波増幅に使ってみましょう。 7MHzの例と基本的に同じですが、入力回路をLマッチの組み合わせ形式に変更しました。

 これは、50MHzでは一段とローノイズな性能が求められるからです。 FETから見た信号源インピーダンスが2kΩ程度になるように設計しています。  ほとんどのDG-MOS-FETはそのあたりにノイズフィギャ:NFのミニマムがあります。 50MHzでは空間ノイズも減って来るので、7MHzよりローノイズなアンプになるよう設計します。

 7MHzのテストと同じような、1次と2次側があるような同調コイルを使い、ゲート側をタップダウンして最適な信号源インピーダンスにマッチングする方法もあります。 そのためには同調コイルの無負荷Qを知る必要があり、Lマッチ形式より面倒でしょう。 図のような入力回路の形式が設計・製作しやすいと思います。(注・1)

 配線が済んだらソースとGND間の電圧:Vsを測定して1VになるようVR2を調整します。 もし、NF計があればNFがミニマムになるよう調整するのも良いでしょう。 しかし、50MHzではまだまだ空間ノイズのレベルが高いため、Vs=1V、すなわちドレイン電流:Id=10mAに調整して終了でも良いと思います。 Id=10mAとすることで多信号特性も良くなっています。

 続いて、入力部のコイル:L1あるいはコンデンサ: C2を調整します。 まずは目的の周波数でゲインが最大になるよう調整します。 その後でNF計があればNFがミニマムになるポイントに修正する方法が良いでしょう。 NF計がない時はゲイン最大のポイントに同調しただけでも十分使えます。 NF≦3dBくらいになるので、50MHz帯の耳としてはまずまずな性能と言えます。(極度の田舎で外来ノイズがものすごく小さいなら別なのですけれども・笑)

 入力回路のコイルは空芯コイルでも良いですが、ここではコア入りの「RFコイル」と称する物を使ってみました。 コアの調整でインダクタンスが変えられ便利です。

(注・1:「Solid State Design」ARRL、W7ZOI、W. HayWard 著. 「トロイダル・コア活用百科」CQ出版社、JF1DMQ 山村英穂 著 など参照を)

 【既製のRF用コイル・米国製
 手持ちのRF用コイルを並べてみました。 これらはもう10年以上も前に米国のDan's small parts and kitsと言うお店から通販で購入したものです。

  コイルの詰め合わせを買ったのですが、大して役に立ちそうにないコイルばかりでした。 しかし今回のようなVHF帯の製作でしたら使えそうです。やっと日の目を見ることができました。(笑) 写真の上左のものを使います。

なお、送料がかさむことから同ショップは海外からの注文はお断りになってしまいました。 面白いパーツも多かったのでちょっと残念ですが仕方ないでしょうね。

 【参考資料:東光のRFコイル
 左図はコイルメーカの東光が一般市販向けとして販売していたRFコイルの規格一覧です。(1970〜80年代あたり) 言うまでもないことですが、東光のRFコイルはすでに販売されていないでしょう。 

 あまり流通しなかったようなので地方では入手が難しかったと思います。 しかし、一時期は自作にも良く使われたようで、古い製作記事に使用例を見ることがあります。 記事にはRFコイルの「M○○-T」を使います・・と言うように書かれていることが多く、インダクタンスなど規格がわからないため代替品の作成は難しかったのです。 今さらですが規格一覧をアップしておきます。なお、転載はご遠慮ください。

このBlogではなるべくコイルの巻き方だけでなく、インダクタンス値や必要に応じて無負荷Q:Quの大きさも書くようにしています。

 改めて一覧表を見ると残念ながら今回の50MHzアンプにはどのRFコイルもインダクタンス不足のようです。 従って定番の10K型のコイルボビンに巻いても良いでしょう。 あるいは空芯コイルに巻いてトリマ・コンデンサで同調を取る方法もあります。 その場合、L2=0.48μHの固定したコイルにしてC2の方をmax20pFくらいのトリマコンデンサにします。C2の可変で同調を取るようにします。

 もちろん、コイルはアミドンのトロイダル・コアに巻いても良いです。  その場合は、なるべく高いQが得られるよう周波数帯に見合ったコア材を使います。 一例として、コア材にT-25-#10を使い15回巻きます。巻線は直径:φ0.32mm程度が巻き易いでしょう。なるべく円周全体に均等になるよう巻きます。

 空芯コイルで作る場合、直径:φ1.0mmのメッキ線を使い、内径:Id=10mmに9回巻きます。 なお、コイルの長さが:w=15mmになるよう伸び縮みさせて加減します。  これで約0.48μHになります。 銀メッキ線など使うと最高でしょう。

 【BF998を使った50MHzアンプ
 さっそくBF998を使って50MHzのRFアンプを作ってみました。  BF998は写真のように薄手の変換基板に載せています。

 入力部分はLマッチ形式になっており、写真のようなコア入りのRFコイルを使います。 RFコイルにシールドはありませんが、出力トランスが閉磁型なので結合する心配はありません。 このRFアンプ単体で使うのならこのままの状態でもトラブルは起こりません。 但し他の回路と同居して組み込む際は、ほかのコイルとの結合に注意します。 そのような意味からいうと10Kボビンに巻いたりトロイダルコアを使うと無用な結合が防げるので扱い易いはずです。

RFコイルのコアは樹脂製の六角ドライバで調整します。 金属製のドライバではうまく調整できません。

 【BF998・50MHzアンプの周波数特性
 50MHzのRFアンプのゲイン・周波数特性です。

 ピークで26.5dB(約21.1倍)のゲインが得られました。 7MHzと比べて少し低いのですが、これは回路設計による違いもあります。 デバイス自身の周波数特性もあるのですが、主に入力部の形式を変更したためです。 もちろん悪くない数字です。高いゲインよりもローノイズを優先したわけです。 バラツキの確認のために4個ほど交換してみましたが、いずれも25dB以上のゲインが得られました。 BF998はなかなか優秀だと思いました。

 回路形式上、入力がC結合になる関係から周波数の高い側の選択度がやや甘くなります。 このRFアンプも良質のバンドパスフィルタ(BPF)を前置して使うと実用的でしょう。 50MHzのHAMバンドはバンド幅が4MHzもあるため、固定同調回路ではフルカバーしきれません。 もし4MHzをフルにカバーしたいなら、コンデンサ:C2(=10pF)にバリコン等を使い可変します。 しかし、普通はCW用ならバンド下端の50.1MHzに、SSBなら50.25MHz、AM局は50.6MHz(?)あたりに調整しておけば実用上支障ないと思います。

 【3SK35GRを使った50MHzアンプ・比較用
 比較のために3SK35GRに差し替えてテストしてみましょう。

 3SK35は初期のDG-MOS-FETなので、すでに考察したように性能はいま一歩です。やむを得ないでしょうね。

 特に入力容量:CisはBF998(標準2.5pF)の2倍以上の5.5pFもあります。 そのため、7MHz帯ではそれほど目立たなかった同調ズレも50MHzでは顕著になります。さらに高い周波数では入力容量が大きすぎて回路の最適設計が難しくなってきます。100MHzくらい迄が適当なのでしょう。 実際にBF998で50.7MHzに合わせた状態で3SK35GRに差し替えるとゲインのピークは47MHzあたりまで移動(低下)しました。 3SK35GRを置き換えると逆の現象が起こる可能性があります。VHF帯での置き換えでは必要に応じ同調容量を補うと言った対応も必要でしょう。

 3SK35GRは今の水準で見ると少々劣ったデバイスと言えますが、その性能で十分な用途も多いものです。手持ちがあるなら廃棄したりせず活用をお薦めします。 HF帯/VHF帯で十分なゲインが得られますしNFの値も悪くありません。  もちろん新規に買うなら近代的なデバイスがお薦めですけれど。

3SK35GR・50MHzアンプの周波数特性
 3SK35GRに置き換え、Id=10mAに調整した時のゲイン周波数特性です。 なお、入力部のコイルはゲインのピークが50MHz帯に入るよう再調整しています。

 3SK35GRに交換すると、ゲインは18〜20dB(8〜10倍)と言ったところになります。 BF998に比べると6〜7dB低い値です。 この辺りが1970年代のデバイスと21世紀のデバイスの違いと言ったところでしょうか。 年月の経過を感じさせてくれる測定結果でした。 もちろん6〜7dB低いゲインとは言っても使えない訳ではありません。念のため。

20dB前後のゲインがあれば十分な場合がほとんどでしょう。

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 今回のBlogはBF998と言う2ゲートMOS-FETを扱いました。 (手に入り易い)ディプレッション特性の2ゲートMOS-FETを探していたらBF998と言う見慣れぬFETが目に止まったからです。 Eu製なので「どうせ国産品と互換性のないFETだろう」と思ったのですが、どうやらそうではありませんでした。 面実装型なので3SK59や3SK73をそのまま代替する訳にも行きませんが、足の並びが類似なら工夫の余地もあるでしょう。 そのような目論見でテストを始めました。
 7MHz帯はもちろんですが、50MHzと言ったVHFでも高性能です。 メーカーによれば900MHz帯でも使えるそうです。 表面実装で使えばUHF帯でも良い性能が得られるのでしょう。 電気的な特性から見て3SK45、3SK59GRや3SK73GRの置き換え候補にできそうでした。 あとは実装方法を工夫すれば古いMOS-FETの代替問題も解消でしょうか?

 今回はRFアンプで試しました。 他のRFデバイスと同様にDG-MOS-FETの用途も様々あって、アンプ以外にミキサー回路、検波回路、発振回路など色々な活用が可能です。 機会を見つけてこれらの応用も扱いたいと思っています。 続編に乞うご期待。(笑) すでにこのBlogで扱った自励式のクリスタル・コンバータ回路再生検波器への活用ならすぐにでもできそうです。  ではまた。 de JA9TTT/1

この1年・・・と言っても五ヶ月サボったので半年余りですが、ご覧いただき有難うございました。 ネット上に初めてホームページを作ったのは1996年でした。 それから20有余年、齢を重ねつつこんな事もだんだん億劫になってきましたが、2020年も細々と続けられたらいいなと思っております。 どうぞ良いお年をお迎えください。 有難うございました。

お年玉企画のBF998は発送済みです。 近日お手元に届くでしょう。2020.01.01

(おわり)nm

2019年12月12日木曜日

【回路】SA612A test at 455kHz

回路テスト:SA612Aを455kHzで使ってみる
 【SA612Aとは
 SA612Aは二重平衡型ミキサあるいは二重平衡型モジュレータ(DBM)のICです。 かつて存在した米Signetics社が開発したNE602が原型でその改良型です。

 ユニークなICを開発することで有名であったSignetics社は暫く米Corning社(世界最大のガラスメーカ)の子会社でした。 その時代に登場したIC TimerのNE555Vや高性能なAudio OP-AmpであるNE5532は数多くのセカンドソースが登場し今でもアナログ界のスタンダードデバイスです。
 そのSignetics社は1975年に蘭Philips社に買収されます。 さらに2006年にはPhilips社も半導体部門の一部を投資会社に売却しました。 そうして誕生したのが現存するNXP Semiconductors社でSigneticsの直系と言えるでしょう。SA612Aは現在も同社からの供給が続いています。

 Philips社の傘下になって暫くはそのままでしたが、NE602、NE612は同社の型番付与規則に従いSA602およびSA612へと型番変更されます。しかし中身の変更はありませんでした。 従って古い雑誌記事などで見かけるNE602やNE612で設計された回路はそのままSA602とSA612で置き換えできます。 さらにNE602で設計された古い回路のほとんどは事実上の上位互換品であるSA612Aで代替できるはずです。 SA612AはSA612の改良型ですが、これら(NE602を含め)はピン接続をはじめ、性能・機能にほとんど違いはありません。(参考:NEとSAは動作保証温度範囲で使い分けていたようです。SAが広い)

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 写真のSA612ANはまだPhilips社だったころ購入したものです。 型番末尾のNは8ピンのDIP型を示す記号です。現在は8pin DIP型(ピンピッチ2.54mm)の生産は終了しており、NXP社によって面実装型(SA612AD)のみ生産が継続しています。 さらに互換品(セカンドソース)なのかも知れませんが、現在は中華通販で安価に出回っていてだいぶお手軽になっています。(5個で3ドル程度)

 SA612A(NE602などを含む)は、過去に評価したことがあります。 外付け部品が少なく低消費電力で使い易いIC-DBMです。 ただし、あまり大きな信号が扱えず歪み易いと言う欠点があるため積極的に使うことはありませんでした。 今でもこの状況に違いはないでしょう。

 しかし、近頃は他のIC-DBMが次々に廃止され姿を消しています。 価格もこなれてきたSA612Aをうまく活用すべき時が来たようです。 今回は455kHzでSSB/CW検波器に使う想定で評価します。 これは自身のニーズがあったことと、この周波数でSA612A(NE602等を含む)を使う例をあまり見ないためでもあります。 自身で評価して使う感触をつかんでおきます。 他の周波数でも概ね類似の性能が得られるはずですが、このBlogの情報は参考程度に留めて実際にテストしてから使うと間違いがありません。

 【SA612Aの内部ブロック図
 SA612A(NE602、NE612、SA602、SA612も)はトランジスタの差動対を三組使った乗算回路(マルチプライヤ)を中心とするICです。 二重平衡型ミキサ、二重平衡型モジュレータなどが主用途で何れにしてもDBMと略されます。

 特徴的なのは必要なバイアス回路を全て内蔵したことにあります。回路的な工夫でバイパス・コンデンサも最低限で済むよう考えられているようです。従って外付け部品は非常に少なく済みます。 もちろん、電源ピン(8番ピン)のバイパスは入念に行なう必要があります。

 また、発振回路を内蔵するので受信機の周波数変換回路(コンバータ回路)がこれ一つで作れるのもメリットでしょう。 発振回路はVHF帯でも動作するためFMラジオや種々のワイヤレス機器にも適しています。 発振回路の部分は外部から局発を注入する際にはバッファ・アンプとして機能します。

 電源安定化回路も内蔵するため扱いが容易です。 一般にICは消費電流を小さく設計すると高周波特性は悪くなるものです。 しかしSA612Aは3mA以下という低消費電流でもVHF帯まで十分に使えます。 ローノイズでゲインも高めの設計なので省部品な無線機器の構成が可能になります。 ただしその副作用で小さめの信号入力でも入力オーバーになって歪みが発生してしまいます。

 そのため、SA612Aをミキサに使うとあまり高性能な受信機にはなりません。使い方に少し工夫が必要でしょう。 例えばスーパーヘテロダイン型受信機の「SSB/CW検波回路部」なら心配ないでしょう。この部分はAGCによって加わる信号の大きさが管理されているからです。 差動出力になっているのでうまく設計すれば2倍の信号が得られます。 差動出力をうまく活かすと2次歪みに対しても有利です。

ピン接続は8pinのDIP型と表面実装型ともに図の通りです。 (図は上面図です)

 【SA612Aの中心部・等価回路
 主要回路は有名な「ギルバートセル型」のDBMになっています。 下側の差動対(Pin1とPin2)に信号を加えて使うのが基本です。 受信機のミキサではアンテナからの信号が入ります。検波器なら復調対象の信号ということになります。

 平衡変調器(バラモジ)に使うこともできます。Pin1またはPin2に音声信号を加えます。 差動入力になっていますが片側への入力でも大丈夫です。 そのときは信号を加えない側は扱う周波数に応じた十分なバイパスをしておきます。 両入力へ変調信号を加えたいときは一方へは位相反転したものを加えます。両入力に同相で加えては変調は掛かりません。 DBMとしての平衡度は良好ですがバラモジの場合はさらにキャリヤバランスを調整したくなるかも知れません。 その場合はいずれかの入力ピンに外部からDCバイアスを少しだけ与えて加減する方法で可能なはず。(今回は未確認)

 発振回路はコルピッツ等価のLC発振器が構成できるよう考えられています。 もちろん水晶発振も可能です。オーバートーン発振させるには基本波周波数をバイパスするようなインダクタをエミッタとGND間に挿入します。詳しくはメーカのアプリケーションノートに情報があります。

実験目的の一つは455kHzでうまく水晶発振させるための部品定数を求めることにあります。 周波数が低い、具体的には数100kHzの水晶発振子はHF帯の水晶発振子と「水晶定数」の違いが大きいため、確実・安定に発振させるためには回路定数の選び方に注意したいところです。

 【SA612Aを455kHzでテスト
 写真は455kHzでSSB/CW検波回路の特性を調べている様子です。 まずはじめに455kHzと周波数が低いことから、発振回路の帰還容量:C1とC2(次項の回路参照)はかなり大きな容量が必要であろうと予想して実験を始めました。 うまく(確実に)発振できる条件を探るのが目的です。

 過去に実験したセラミック発振子の条件などを参考に始めましたが、それではまったく発振してくれません。 使った水晶発振子はだいぶ古いため、それが問題なのかと思いましたがそうではありませんでした。 1MHz以下の水晶発振子は内部の損失抵抗が周波数に反比例して大きくなる傾向があります。 数MHzの発振子なら数10Ωから大きくても数100Ω程度ですが、455kHzにもなると数kΩ以上の値を示します。 そのため、損失抵抗を考慮して部品定数を選ぶ必要がありました。

安定な発振が得られれば検波回路としての動作は確実です。 SA612Aは周波数特性が良いことから、HF帯でも数100kHzのMF帯でも同等の性能です。

 【SA612Aを使ったSSB/CW検波器・回路図
 テスト回路を示します。 オーソドックスな回路になっています。 肝心の発振回路の部品定数ですが、C1=220pF、C2=470pFくらいが適当なようです。 それ以上大きな容量では発振が起動しないことがありました。

  発振波形を観測すると正帰還量はやや過剰な印象もあります。しかし正弦波に近づけようとすると確実な発振が維持できなくなります。455kHzで使うには現状のような部品定数が適当なようです。

 確実な発振が可能な状態で検波特性を測定してみました。 ミキサー回路に使った場合の入出力特性ならデータシートに載っています。 しかし検波器としてのグラフはないので実測してみようと言う訳です。後ほどその結果がありますので興味があれば参考にしてください。 検波回路として約17dB(≒7.54倍)のゲインがあることがわかります。 これはミキサー回路として使った際の変換ゲインに同じでした。 回路の動作が同じなので当然と言えますが自身で確認しておいくと安心感があります。 この種の回路としてはかなり大きめのゲインを持っています。 回路設計の際には注目しておくべきでしょう。

 回路図は455kHzの例ですが、水晶発振子を交換し帰還容量:C1とC2を適切に選べば他の周波数への変更は容易です。 数MHzのHF帯でしたらC1=C2=100pFあたりから実験を始めます。 発振周波数の微調整は水晶発振子に直列 or 並列に入れた小容量のコンデンサで可能です。 なお、455kHz帯では小容量の付加ではさして周波数調整できないので図のような無調整式になっています。
 精密な測定では、453.50432kHzで発振しています。 約4.32Hzほど高いのですがSSB(USB)の復調に支障はありません。 SA612Aを455kHz帯のSSB/CW検波回路に使うなら水晶発振子を切り替える形式にします。 HF帯のようにVXOで周波数を動かす・・・といった手は使えないので必要な水晶発振子を揃えることになるでしょう。 あるいは以前のBlogのようにPLL(←リンク)を使って必要な周波数を得るといった方法になります。もちろん、チャネル式のDDS発振器(←リンク)でも構いません。

 【復調波形:@-20dBm Input
 入力に-20dBm(50Ω系)を与えた時の出力波形です。 水晶発振の周波数:453.50432kHzのちょうど1kHz上の454.50432kHzを入力しています。

 ピン1への入力信号を電圧で言えば22.4mV(rms)ということになります。 その状態で169mV(rms)の出力が得られます。写真のように管面から読むと約480mVppとなります。

 周波数差が1kHzですから、復調信号として写真のようなちょうど1kHzの正弦波が得られます。 SA612Aへの入力はこのあたりまでならまずまず綺麗な復調が行なえます。 入力はpp値でいうと63mVくらいです。 大きくてもこの倍くらいまでに抑えたほうが良い音の復調ができます。

 スーパ形式の受信機回路でSSB/CW検波器に使うのなら、SA612Aを使った検波器の入力は大きくても100mVppまでに抑えるような設計で行きたいと思います。 他のDBM-IC(例えばSN76514N、SN16913P、TA7310Pなど)と比べると半分から1/3の入力で使うことになります。 入力を減らした分だけ出力も小さくなりますが、SA612Aのゲインは大きめなので案外大きな出力電圧が得られます。

 【SA612Aの検波器:入出力特性
 繰り返しになりますが、水晶発振が453.50432kHz、入力信号の周波数が454.50432kHzの条件で測定した入出力特性です。

 だいたい-20dBmあたりまでがリニアな範囲です。0dBmではかなり直線から外れてしまいます。 上にも書きましたが「おおよそ-20dBmまで」で使うと考えればまずまずの音でSSBの復調ができるでしょう。

 グラフを見ると入力信号が-60dBm以下のところで直線から外れてきます。これは測定環境の問題です。 ここは復調された信号が1mV(rms)以下とずいぶん小さなところです。 そのため測定の配線にハムなど外来ノイズの誘導があってS/Nが悪くなっているのです。 受信機に組み込む際はノイズの誘導などがないよう良くシールドします。
 SA612Aから発生するノイズ(変換ノイズ)もありますが数10μV以下のようです。 チップそのもののS/Nは悪くありませんからノイジーと感じることはありません。 もちろん、必要以上に周波数特性を伸ばすのは得策ではなく、適当なカットオフ周波数のLPFを入れるとS/Nの良い受信ができます。 また入力が過剰だとノイズフロアが高くなってノイジーに感じることもあります。ピーク値を考え、絞り気味の入力で使うとS/Nの点でも有効です。

三次歪み・インターセプト
 これはメーカー資料の転載です。 ミキサー回路に使った時の3次IMD特性を示しています。 図によると入力側で見たインターセプトポイント(IIP3)は-12dBmくらいです。

 インターセプトポイントについては既に周知でしょうから詳しいことは省きますが、もちろん-12dBmの入力まで使えるという意味ではありません。 グラフから3次IMDの立ち上がり方を見ると、少々のひずみを許容するとしても-30dBmがやっとと言ったところでしょうか? 3次のIMDは-40dBが辛うじてですから・・・。 「-20dBmまで」と言う前言は撤回して、3次のIMDが見え始める手前の-40dBm以下で使いたい気もしますね。(わずか2.24mVですか・溜息)

 SA612Aの欠点というよりも、高感度寄りに設計されたDBMと考えて、それにマッチした使い方をすれば性能を十分に発揮させることができるわけです。

あらためてSA612A系のDBMはあまり大きな入力信号は扱えないことに留意しておく必要があるようです。(まあ、これは以前からわかっていた通りなのですが、数値で示された訳です・笑)

 【発振部・発振波形を観測
 写真はPin6において水晶発振の発振波形を観測している様子です。 波形を観測しながら適切な発振条件を探りました。

 453.5kHzの水晶発振子はHC-6/U型です。 ずいぶん大きく感じますがこれでも昔はコンパクトな発振子と思ったものでした。 ピンが太いのでブレッドボードには刺さりませんからHC-6/U用水晶ソケットを介して使います。

 この水晶発振子ですが、実験に際しあまりにも古くて汚かったため「写真うつり」を気にしました。 研磨剤のピカールで磨いたところピカピカになりました。 見かけは光ってますが、中身は50年モノですからアクティビティが低下しているかも知れません。(笑)

気になったのでもう少し新しい物と比較したら活きの良さにさしたる違いは見られませんでした。

参考:近ごろ455kHz帯では水晶発振子ではなく、セラミック発振子(セラロック®️)の方がポピュラーになっています。 同じような発振子ですが、セラミック発振子の等価的な内部定数は水晶発振子とだいぶ違います。 したがって帰還容量:C1とC2は修正が必要です。 セラミック発振子として、CSB455E(村田製作所)を使ったテストでは、C1=C2=470pFとするのが適当でした。 また、発振周波数の調整用としてセラミック発振子のGND側に100pFのトリマ・コンデンサと33pFを並列にしたものを追加します。これで455kHz±700Hzくらいの周波数調整ができます。 中国製セラミック発振子、CRB455Eも同じように使えます。

453.5kHzの発振波形
 453.5kHzの発振波形です。 見た通り、下側が潰れて歪んだ波形になっています。

 水晶発振の高調波が受信のビート妨害になる可能性があります。 できるだけ正弦波が好ましいのですが、帰還回路の定数を変えて正弦波に近づけようとすると確実な発振が難しくなってしまいます。 この程度の発振波形でもあまり実害はないようなのでこれで済ませることにしました。

 発振レベルは1.6Vppくらいあれば良いようです。 SA612Aで発振させず外部から与える際も1.5Vpp前後を目処にしておきます。(注:ピン6のBase端子で見たとき) 小さ過ぎると変換ゲインが低下します。あまり大きくするとスプリアス特性の劣化が考えられます。

                   ☆

 SA612Aを455kHz帯のSSB/CW検波器に使ったときの特性に興味があったので実測してみました。 あえて自身で評価するまでもなく、メーカーのデータシートにあるミキサー回路の特性を参照しても良かったようです。 しかしいちど自分で調べておけば安心感は違います。 使う上での感触を掴むことも出来ました。

 SA612Aは消費電力が少なく、周囲の部品も少なくて済みとても使い易いのですが、入力信号は抑え気味で使うべきです。 こうしたことは私自身としては再確認のようになってしまいましたが、このBlogにはSA612Aを扱った情報が何もなかったので経過を含めて紹介してみました。 既に使いこなしている人にはどうでも良い話だったのかも知れませんね。hi

 SA612Aは安くないチップだったのでそれほどたくさん引き出しには入っていないかも知れません。 しかし、ちかごろは中華製(?)の登場で価格もこなれて来たようです。 温存せず積極活用する時期が来たように感じます。 通信型受信機への活用はもちろんですが、家庭用短波ラジオや昔風の高1中2に付加するSSB/CW検波器としても重宝なIC-DBMです。 入力信号が過大にならぬよう注意すればなかなか良い音がします。機会を見つけてぜひお試しを。 ではまた。 de JA9TTT/1

                   ☆

リンク集:このBlogにはIC-DBMを扱った以下の記事があります。
(1)MC1496P・・・IC-DBMの元祖のようなチップです。
(2)TA7310P・・・CB無線機のPLL回路用IC-DBMですが汎用に使えます。
(3)TA7358P/AP・・FMラジオのフロントエンド用IC-DBMです。
(4)K174ΠC1・・・旧ソ連製のIC-DBMで独製S042Pのセカンドソース。
(5)S042P・・・・独Siemens社が開発したヨーロッパ系IC-DBMです。
(6)μPA101G・・・新世代のIC-DBMで1GHz帯までカバーします。
(7)MC-1443・・・搬送多重電話装置の周波数変換用に作られたIC-DBMです。
(8)MC-1451・・・搬送多重電話装置の音声復調用に作られたIC-DBMです。
(9)SN16913P・・・ 外付け部品が少ないIC-DBM。CB無線機用がルーツ。

そのほかに、個別半導体を使ったDBM/SBMの記事があります。
(1)Di-DBM・・・オーソドックスだが確実性の高い4ダイオード型のDBM。
(2)トランジスタ式SBM・・・バイポーラ・トランジスタを使ったSBM研究。
(3)FET式SBM・・・FET;電界効果トランジスタを使ったSBM研究。
(4)高IP Di-DBM・・・4ダイオードを使ったハイレベルDBMの検討。

・・・・など。  ほかにも記事中でDBM/SBMに触れた箇所は多数あります。

(おわり)fm

2019年11月27日水曜日

【部品】Shopping notes, 2019 -11

たんなる買物メモ】(どうでも良い話)
 【多回転型半固定抵抗器
 お値段を見てもらうとわかるのですが「安物買いの何とやら」とはまさしくこれでしょう。

 5個で100円じゃ、一つ20円です。 駄菓子でもあるまいに。 100円ではまともな半固定抵抗は一つでさえ買えないでしょう・・・。(笑)

 おそらく「銭失い」になるに違いないとはわかっていながら「何となく」気になって買ってしまいました。 見たところはそんなに悪くないんです。

それで「使えた」のかって?  まったく使えないワケでもないが・・・お薦めしませんね。
 
 【とりあえず使ってみるが
 写真は前回実験の60MHz発振器の周波数調整に使ってみた図です。

 それらしくは見えるんですが、やはりダメですね。 半固定抵抗器として全く使えない訳でもないので返品はしませんが・・。 ともかく「バックラッシュ」が酷くて調整がやりにくくてどうしようもありません。 「バックラッシュ」とはどういうものかたっぷり体験するのには最適です。w

 抵抗値の全範囲が25回転くらいで微動調整できるのですが、バックラッシュが1回転分くらいあるのです。 ですから調整していてちょっと行き過ぎちゃったので僅かに戻そうとすると、反対方向へ1回転くらい回さないと戻ってくれないのです。それで、もし戻し過ぎちゃったらまた・・・。 調整しにくいこと甚だしいので基本的に「使い物にはならない」んです。 もし試したいお方はそのおつもりで。 見掛けを真似ただけの部品であって、流石に中華クオリティでした。

まともな多回転トリマにもバックラッシュは有りますが調整が困難なほどじゃないのがアタリマエ。 まさかこんなにヒドイとは思わなかった。(反省・笑)

9ピンmt管用変換基板
 何でもブレッドボードで作ろうとするのは無茶なんですが、QRP送信機(←リンク)を真空管で作ってまんまとQSOにも成功しました。(笑)

  その時は7ピンのmt管で作ったのですが、9ピンは適切な変換基板を持っていなかったからでした。
 写真の右側のような、基板両端に端子を引き出すタイプなら持ってました。 こちらのタイプは12AU7のような双三極管には適当ですが単体の多極管(例:12BY7Aとか6BQ5など)にはあまり向きません。(使えなくもないが)

 それで左のように片側へ一列に引き出すタイプが欲しかったのです。この方がBBに搭載したあと配線し易いからです。 はじめはこのタイプは売ってませんでした。 登場してすぐ買いに行ったのですが間違ってもう一度右のタイプを買ってきてしまったのです。 先日、やっと希望のもの(左)が買えたようなわけです。

よく見て買ってこなくちゃダメです。ちゃんと買ったつもりの先入観が危ない。(笑)

 【12BY7Aを載せてみる
 9ピンの基板用真空管ソケットは上の写真のような2種類が売られています。 大きめの方はタイト製です。

 どちらも変換基板には載りますが、スリムなタイプの方が良さげです。(その根拠はありませんけれど・笑)

 写真は12BY7Aを装着してみたところです。 もちろん、実際の使用前にジャンクの9ピン管を使って数回の抜き差しを行ないソケットの足慣らしを済ませておきます。3回くらいの抜き差しでかなり馴染んでくるのがわかります。

今度は12BY7AをファイナルにしたQRP送信機で遊べますね。 お空で聞こえてたらお相手よろしく。

 【中華でAD7555KNを買う
 こちらは中華通販で入手しました。 昔ぜひ使ってみたいと思っていたICが売られていたので手が勝手に動いてポチってしまいました。w

 到着までしばらくかかったので半分忘れかけていたんですが、先日届いたので「届いたよ〜」とついつい嬉しくなってtweetしてしまいました。

 3つで$18-、送料が$5-なので合計で$23-でした。 「ずいぶん高いものだけど何だろう? 楽しみ。」なんて言われちゃいまいました。 気づいたら確かに中華モノにしては高価でしたねえ・・・。   私だって友人が買って嬉しそうにしてたら「何を買ったんだろ?」って気になります。 ごもっともな反応です。hi

これで使えなかったらどうしよう? 簡易チェックではOKそうで、少なくとも中身は入ってそうです。w

 【どんなチップなのか
 簡単に言うと高精度・高分解能のデジタル電圧計を構成するためのロジック回路部分が集積されたICです。 とっくに廃止品になっています。   今だったらワンチップマイコンと周辺部品の幾つかで実現できそうです。もちろんプログラムは要りますが。

 表示は5・1/2桁ですが、数カウントの表示ばらつきが残るそうです。 実質的には4・1/2桁のDVMが作れるチップです。わかりにくい仕様なのであまり人気が出なかったのでしょうか。 当然ですがディスコンになってます。

 シリアルアウトが可能なので、データをマイコンに吸い上げて移動平均でもとったら5・1/2桁表示にできませんかね? ただし変動の早い信号の測定には向かないでしょうけれど・・・。 などと妄想を抱いてチップを眺めてます。(作るの厄介そうなので眺めて終了かも)

# はい、お薦めするようなパーツではございません。 いまはマイコンベースで使う高性能なA/Dコンバータもたくさん売ってますしね。(笑)

日本的な気遣い?
 ぜんぜん話は変わりますが、日本のショップらしさを感じたというお話です。
 何を購入したのかしげしげ眺めてもあまり意味はないです。アイテム自体は不足部材の補充用なので特筆すべきは何もありません。 「商品の渡されかた」の話です。

 秋月電子通商で買い物をしたら、小物のパーツを小袋に入れ、それを大きなパーツ・・・ここではブレッドボードですが・・・に貼り付けてレジ袋に入れ手渡してくれました。(ところで、いずれ電子部品屋でもレジ袋は有料になるんでしょうかネ?)

 これなら袋からこぼれて失う恐れもなくなります。 こうした配慮が日本のショップらしい気遣いなんでしょうね? まあ、過去のトラブルの経験からこのように包装してお客に渡せという「従業員教育」がなされていると言うことかも知れませんが。

# 無造作に袋に入れるだけのお店も多いです。(勿論それで十分とは思いますけれど・笑) 親切で丁寧なのは日本的って感じた次第なり。通販の包装も丁寧ですよね。

                   ☆

 電子回路の方はちょっとスランプ気味なので「どうでも良い話題」でおしまいにしました。 年がら年じゅう電子回路と格闘している訳じゃありませんし、そんなことはすっかり忘れて違う遊びに興じることもあります。  ・・・ということで、ショッピングノートと題してお茶を濁しておきます。 よかったら雑談に加わってください。 ではまた。 de JA9TTT/1

# まあ、いつだってどうでも良い話でしたね。(笑)  (おわり)nm

2019年11月12日火曜日

【回路】A Stable 60MHz Oscillator

回路試作:安定な60MHz発振器
60MHz発振器:OCXO基準
 WSPR受信機(←リンク)をテストしていて「かなめは周波数安定度にあり」と言うことを再認識しました。 復調用のBFOにはVXOを使いましたが、周波数安定度に不足が感じられたのです。 周波数安定度について「頭の片隅に入れておく」つもりでしたが、何だか気になってしまい早々に手をつけたようなわけです。

 しばらく前に購入したまま死蔵状態になっている中華DDSモジュール(AD9850使用)を活用する方針でそれに与える精度・安定度の良いクロック発振器を作ることにします。DDS発振器は基準が安定なら得られる信号も同等の安定度が得られます。 DDSモジュールには既にクロック発振器が載っていますが、WSPR受信機で使うには安定度が不足しています。 ここでは簡易型ながら恒温槽型の水晶発振器(OCXO)を使ってDDS-IC:AD9850の基準用クロックを作ります。それをDDSモジュールに供給します。
 今回のBlogテーマはちょっと特殊ですが周波数安定度の良いDDS発振器を作りたい時にでも・・。 自家用の製作情報をまとめただけですが興味でもあればご覧を。 ほかに、逓倍形式の送信機にも利用できるかも知れません。

60MHz発振器:回路図
 何と言っても基準となる発振器が安定でなけれ意味がありません。 究極的にはRb-OSCやGPS-DOを基準にするのが最高でしょうが、そこまでのSpecは不要に違いありません。 WSPRの目的なら自身ばかり安定度を追求しても性能は頭打ちです。必要以上の追求は自己満足にすぎません。 実用的な性能が得られればそれで十分です。

 手元にいくつか周波数安定度の良い発振器がありました。12.8MHzの簡易TCXOはポピュラーです。 さらに良さそうなものを見繕っていたら10MHzの小型OCXOが見つかりました。 ジャンクを入手したままになっていたものです。 簡易にテストしたところ行けそうなので、この機会に使うことにします。従って大元の基準周波数は10MHzということになります。(TCXO:温度補償型水晶発振器、OCXO:恒温槽付き水晶発振器)

 DDSチップ(AD9850)に与えるクロックはある程度高い周波数の必要があります。想定の7MHz WSPR受信機に対して、少なくとも20MHz以上が必要です。 さらに10MHzあるいは14MHzでのテストも考えると50MHzくらいのクロックが欲しいところです。

 50MHz以上のクロックの作り方にはいくつかのアイディアが浮かびます。 10MHzのOCXOを基準にPLLで作る方法がまず考えられます。 それも一案でしたが回路は大げさになってしまうでしょう。ここでは単純な周波数逓倍式で行くことにしました。

 10MHz/OCXOの出力はHC-MOS波形(矩形波)なので、奇数次の高調波が多いと踏んで一気に5逓倍しようかと思いました。 少しテストしてみたのですがやや無理があるのでオーソドックスに行くことにしました。 また、外部から基準の10MHzを与える(Rb-OSCとかGPS-DO)ことも考えると正弦波を基本に設計する必要があります。 合計で6逓倍して60MHzを得る形式にしました。 もう2逓倍して120MHzを得ることもできますが、目的に対して必要十分なので60MHzで済ませることにします。 (AD9850をフルに働かせるなら120MHzにするのも良いです)

 OCXOからの10MHzは2SK241Yを使った同調型のバッファ・アンプに加えられます。ここで大まかに正弦波になったあと、2SC2668Y(2SC1923Y同等品)を使ったプッシュ・プル形式の3逓倍器に入ります。プッシュ・プル形式の逓倍器は3逓倍のような奇数倍の逓倍に使うものです。 この逓倍器に十分なドライブ電力を与えることで、省部品と無調整化を図ります。 従ってトランジスタと同調回路(LC共振器)の他にはほとんど部品がありません。
 プッシュ・プル形式の逓倍器にすることで偶数次の高調波波・・・例えば20MHzや40MHzの成分・・・が抑えられるため回路は簡単になります。 実際に回路の途中を観測してみると同調回路一つだけでも綺麗な30MHzが得られていました。

 続いてプッシュ・プッシュ形式の2逓倍器に入ります。トランジスタは同じく2SC2668Yを2つ使います。  プッシュ・プッシュ形式ではプッシュ・プル回路と逆に偶数次の逓倍が効率的に行えるだけでなく、奇数次の高調波を抑えやすいという特徴があります。 この2逓倍器も十分なドライブを与えることで省部品と無調整化がなされています。いくらも部品がありません。 これで30MHzを2逓倍して目的の60MHzが得られます。60MHzの同調回路は一つでも大丈夫そうでしたが、念のため2段にしました。

 コイルばかり目立つのでやや大げさに見えますが、逓倍段は全てゼロバイアスのC級アンプなので回路そのものは非常に簡潔です。 のちにスペクトラムなど示しますが、満足できる基準発振器ができました。  もちろん逓倍形式ですから基準の10MHzと同等の周波数安定度が得られます。

# 以下、簡単に各部分を見て行きます。

VC-OCXOと電圧基準
 使用したOCXOはトヨコム製のTCO-679D2というものです。 発振周波数の微調整が可能で、周波数調整端子に与える電圧によって調整します。 VC-OCXOということになります。

 この微調整のための電圧もそれなりに安定していなくてはなりません。ここでは基準電圧発生用のIC:TL431Cを使って安定した5Vを得ています。
 その5Vを分圧して周波数調整用の電圧とします。 なお、かなりシビアな調整が必要なので半固定抵抗器は多回転型を使うか、写真のような単回転型のVRを使うなら回路図のR4(この例では270Ω)を状況に応じて適宜選ぶ必要があります。

 電圧制御式の周波数調整は便利そうですが、安定している電圧が必要なことから意外に面倒です。OCXOによってはそのような安定な電源を自身に内蔵しその出力端子を設けている便利な例もあります。 このOCXOにそのような端子はないので別に安定な電圧源を用意しました。計算上ではTL431の電圧安定度で十分でしょう。

TCO-679のSpecから
 頂き物のジャンクでしたのでピン接続を含め使い方がわかりません。 何とか調べがついて左図のようなSpecとわかりました。

 もし手に入れたジャンクパーツが見たところ新品のようなら、なぜジャンクになったのか気になりませんか? 今の場合、エージングしても安定度が規定に達しなかった・・・というような「不良品」かも知れません。 まず始めにOCXOのみでテスト回路を作ってみました。

 2つあったのですが、一つはジワジワ周波数が上昇して行きます。何となくダメっぽい感じがします。 もちろん変化は僅かなのですが変動量を見るとエージングが足りないような動き方です。 数日間通電しておいても安定点に達したように感じられません。どうやらそれが原因でジャンクになったのかもしれません? もちろん、まずまず安定なので目的によっては十分使えそうではありました。 何となくですが、徐々に落ち着く傾向も見られるのでもうしばらく様子を観察するのも面白いかも知れません。 もう一方は初期変動が済めばだいぶ安定しました。こちらなら大丈夫でしょう。 こうした精度が勝負になる電子部品のジャンクはなかなか難しいものです。

 それにしても、以前評価したOCXOに比べると安定性が悪いように感じられます。 思い起こすと以前評価したのはダブル・オーブン型のOCXOでした。 このOCXOはシングル・オーブン型ですからこんな物なのでしょう。 それでもさすがにOCXOです。WSPR受信機の目的なら短期・長期ともに安定性は十分です。 仕様書によればSCカットの水晶発振子を使っているそうなので、発振器自身のC/Nもなかなか良さそうです。

Push-Pull Tripler:PP型3逓倍器
 2SC2668Yを2石使ったプッシュ・プル形式の3逓倍器です。 ドライブ側、出力側ともにセンタータップ式の同調回路が必要になるため、コイル巻きは少し手間がかかります。コイルの構造を含めて、2つのトランジスタがバランス良く動作するよう心掛ける必要があります。

 ここではコイルに10K型ボビン(VHFタイプ)を使って作りました。 先にあった回路図に謎めいた数字が書いてありますが、それらは巻き溝の使い方と巻線の配分などをまとめた自家用情報です。 解読できれば再現性良くコイルを作れますが同一素材は入手難ですから詳しくは省かせてもらいます。 各コイルともamidonのトロイダルコアを使って作るのも良いです。その場合はトリマ・コンデンサで同調をとります。

 前段のバッファ・アンプの出力が10dBmくらいあるため、逓倍段はバイアス回路を省いても十分なドライブが掛かります。 深いC級アンプなので2つのトランジスタのアンバランスは表面化しにくくなります。 従って無調整でもまずまず綺麗な逓倍出力が得られています。(そのようになるようコイルを作った)

 トランジスタは中華製RF用トランジスタ:S9018H(←リンク)が使えます。ただし足の並びは2SC2668Yと違います。  2SC1815のような汎用トランジスタも使えそうですが、逓倍効率を上げるためにはRF用トランジスタを使うのが無難です。

Push-Push Doubler:PP型2逓倍器
 写真は30MHzを2逓倍して60MHzを得る回路部分です。 プッシュ・プッシュ形式の2逓倍器です。ここにも2SC2668Yを2石使いました。

 入力部分にあるバイファイラ巻きの小さなトランス:T3は位相反転用の1:1トランスです。プッシュ・プッシュ回路のドライブ用です。 これは、前段のトランス:T2に出力側のピンが2本しかないため、プッシュ・プッシュ回路用の巻線が設けられないためです。 もし6端子型の10KボビンがあればT3は省けます。 あるいはトロイダルコアに巻く場合も同様に省略可能です。

 プッシュ・プッシュ型の2逓倍器は以前のBlog(←リンク)でも扱いました。 今回は前段の3逓倍器に十分な出力があって、十分深いドライブが掛かることからバランス調整は省いています。 出力側の同調回路(60MHz)はDDSのクロックが目的なら一つでも行けそうでしたが、念のため2つにしました。 出力波形やスペクトラムを観測するとやはり2つ使った効果はあるようです。 低調波・高調波など少なくとも-50dB(電力で1/10万)に抑えられました。

60MHz:周波数確認
 周波数カウンタで出力周波数を確認しています。 この状態で0.2Hzほど誤差がありますが、これはOCXOの温度が十分に安定してから再調整すれば小さくできます。

  これでも0.004ppmの誤差ですからもう十分なんですけどね。hi

60MHz:波形観測
 オシロスコープで波形を観測してみます。 3.5Vppくらい得られていますので、DDSチップ(AD9850)のドライブには十分です。 なお、負荷インピーダンスは2.7kΩで観測しています。

 このあと見るスペクトラムでは一番大きなスプリアスでも-50dBくらい(電圧で1/300)ですから、ほぼ正弦波に見えるのも当然でしょうね。 十分綺麗な60MHzではないでしょうか。

60MHz:高調波・低調波スペクトル観測
 オシロスコープの波形観測だけで十分そうでしたが、スペアナでも見ておきましょう。 10MHzおきのスプリアスがいくらか見えますが逓倍式だからこんなものでしょう。主信号の-50dBだからまずまずと言ったところです。

 プッシュ・プル型の3逓倍器及びプッシュ・プッシュ型の2逓倍器の効果は十分認められます。 昔見たような逓倍式のFM送信機では途中のコイルを必ず二つずつ使っていました。 今はトランジスタを節約しても意味のない時代ですからプッシュ・プル型やプッシュ・プッシュ型の逓倍器にすると有利ですね。少ないコイルで済む方が有り難いわけです。 もっとも、いまどき逓倍式で送信機を自作しようと言う人も稀だと思われますけれど。

60MHz:近傍スペクトル観測
 ついでなので60MHz近傍のスペクトラムを観測しておきます。

スパンは10kHzで観測しています。少しスプリアスが見えますが、測定環境によるもののようでした。 それにしても-80dBくらいですので綺麗なものです。 PLLではVCOのノイズがあるため、なかなかこのように細いスペクトラムとは行きません。 逓倍式で作った意味はありそうです。 何れにしてもDDS用のクロック発振器として十分なものと言えるでしょう。

参考:60MHzクロックでAD9850を使った時に得られる周波数精度について
 2のn乗となる周波数のクロックではないため、DDSで得られる周波数には端数が付きます。 例えば60MHzに全く誤差がないとした場合、AD9850のアキュムレータは32ビットですから周波数設定の1ビットあたりの刻みは ≒0.013969838619・・・Hzです。
 7038.600kHzに対しては、「503842613」をセットすれば最も近い周波数になりますが、具体的には7038.59999310・・・kHzになります。 誤差は0.01Hz以下です。 実際にはOCXOの周波数誤差がありますし、受信信号は空間波ですから電離層反射によるドプラ効果で微細な周波数シフトもあるでしょう。誤差ゼロではありませんが、これくらいで十分すぎる設定精度と言えるでしょう。
 それに突き詰めたらパソコンの周波数解析精度も問題になるやも知れません。 従って、この60MHzを基準にDDSで必要な周波数を得れば周波数精度や安定度の心配なしにWSPRの運用が可能なはずです。




JAL553便で北へ:羽田にて
 今回のBlogは60MHzのクロック発振器でおしまいです。 ちょっと旅に出た関係もあり、準備とか何やらで実験どころではありませんでした。 まあ、シャックにこもるのも良いですが、旅に出るのも楽しいものです。

 少し旅の話をしましょう。 山の紅葉には遅いのですが、平地の紅葉はまだまだFBとのことで北海道へ飛んでみました。 写真は羽田国際空港を出発するJAL553便:旭川空港行きのB767の機窓からです。 東京はあいにくの雨でしたが北の空の好天を期待しましょう。

機内wi-fiを試す
 今では他のエアラインでもやっているので珍しくもありません。たまたま搭乗することになったJALのほぼ全便で機上のwi-fiが使えるとのことで試してみることにしました。
 このwi-fiは誰でも無料で使えますが、出発前に登録する必要があるので注意が必要です。(搭乗してからの登録はできません)

 事前登録はメールアドレス程度の情報で済むので、個人情報にそれほど気遣う心配はないでしょう。メルアドはyahooメール等も可です。 あとは搭乗当日に席の前にある機内での利用案内カードに従って接続の手順を行なえばOKです。

 搭乗する前にスマホ、タブレット、ノートPC等は機内モードに切り替えておきます。 飛び立ったら各モバイル・デバイスを起動し、その状態から接続するwi-fiを選びます。(Japan Airlinesまたはgogoinflightを選ぶ) さらにブラウザからjal-wifi.comにアクセスして登録済みのメルアドをインプットしてネット接続をONする手順が必要でした。

 いったんONすればあとは普通にtwitterとかFacebookも使えます。 やってみませんでしたがYoutubeもOKだそうです。ただしあまり早くない感じなので動画はスムースでないかも知れません。

                   ☆

 写真はブラウザでFlightrader24のサイト(←リンク)を開き、自身のフライトの航跡を表示したものです。(こんなつまらんことに使って何だかテクノロジーの無駄使いっぽいが・笑) 飛行位置は逐次更新されて行きますが、それほどデータ量は多くないようで十分追従して表示されました。 画面はちょうど八幡平の上空あたりを通過しているところですね。

  他にもtwitterに写真の投稿などやってみましたが、まあまあのレスポンスでした。 帰りの機材はB737で、同じようにやってみましたが取り敢えずスムースに使えたので事前登録しておくと機内のヒマつぶしになります。 国内線は飲み物くらいしかくれませんし。 1時間ほどのフライトでは大して意味はないかも知れませんけどね。 なお、帰路の途中、岩手県の上空あたりで瞬時的に接続が途切れたところがありました。 (:離着陸の前後5分間くらいは使えません)

美瑛町:黄葉と青い池
 北海道の晩秋を楽しんできましたが、1枚だけ写真を貼っておきます。 写真は美瑛町の「青い池」です。 ここはTVなどで頻繁に紹介されているので観光シーズンは大混雑するそうです。 晩秋ですから自家用車で訪れる道内の観光客もぐっと少なくなってゆっくりと散策することができました。

 もともと十勝岳の噴火時に発生が予想される土石流の砂防目的で作ったダムの堰き止めでできた「池」なのだそうです。 アルミ分を多く含む美瑛川の水質の関係で水色が濃く見えるため「青い池」と呼ばれるようになったのだそうです。

 晩秋の黄葉が水面(みなも)に映ってなかなか幻想的な雰囲気でした。 観光シーズンには夜間のライトアップがあるそうですが、周辺は人家はおろか街路灯さえもまったくないような辺鄙な場所なので夜道は真っ暗なんでしょうね。

                   ☆

 まずは7038.600kHzの発生に使って実際に受信して確かめるところまで行ければ良かったのですが、残念ながら時間切れでした。 狙った通り何でも成功する訳ではありませんが、このクロック発生部はBBでの試作で概ね予定の性能が得られました。 あとは整理してクロック発生基板として製作しましょう。 DDSモジュールも載せてしまえばまとまりが良いなあ・・・などと妄想しているところです。(笑) 今回の図面には含めませんでしたが外部入力端子を設けておけばRb-OSCやGPS-DOの10MHzにも対応できそうです。 その辺りも考慮しておきたいです。 出来上がれば周波数安定度の良い汎用の発振器として使えますので。

 送信系を検討するにしても周波数安定度の課題はずっと付いて回ります。 この先はVXOでなくDDSモジュールで行けますから周波数の自由度は格段に高くなります。 受信機の構成では入力部のRFアンプのみ他のバンド対応にすれば良く、マルチバンド化は容易です。 送信部をどう簡略化するのかという悩ましい課題を抱えつつも発想は今から既に発散気味です。(笑) ではまた。 de JA9TTT/1

つづく)←リンクfm

2019年10月28日月曜日

【回路】Simple WSPR Receiver

簡単にできるWSPR受信機
あなたもできるWSPR受信機
 WSPR受信機は、簡単に言ってしまえばSSB受信機そのものです。 例えば、7MHz帯のWSPR局は、キャリヤ周波数が(リグのダイヤル表示周波数が)7038.6kHzのUSBモードでオンエアしています。 受信機はその同じ周波数をUSBモードで受信すればOKです。 また、WSPRの変調周波数は1500Hz±100Hzのあいだに限られます。 そのため、受信機はできるだけその周波数幅のみ通過するように設計します。

 上図は、これから作る「シンプルなWSPR受信機」のブロック図です。 SSB/CW受信用のダイレクト・コンバージョン受信機にそっくりです。 その違いはフィルタにあります。 音声や電信の受信用ではないので、WSPRの復調に必要な1500Hz±100Hzだけを通過させます。 その1500Hz±100Hzの受信信号をパソコンのマイク端子に導いてやればWSPR受信機の役割は終了です。 復調はパソコンのアプリで行ないます。 受信状態とデコードしたデータはネット経由でサーバーにアップされます。 これで自局で聞こえたWSPR各局の受信状況が世界のHAM局と共有できるわけです。

                   ☆

 受信周波数は固定ですしWSPRの受信に特化した受信機です。 ところが、低周波フィルタとVXO部分をちょっと変更してやれば直ちにSSBやCWの受信機に変身します。 具体的には、受信周波数の変更はVXO部分を必要な受信範囲をカバーするように変えます。セラロックを使った”VXO”など最適でしょう。CW受信機にはフィルタを700Hzくらいにします。 そうやって実際に受信してみると思った以上によく聞こえました。 ポート間のアイソレーションが良いDi-DBMを使ったので周波数の引き込み現象もなく安定かつ快適な復調ができます。 WSPRに興味がないようならSSB/CW用ダイレクト・コンバージョン受信機に転用するアイディアはどうでしょうか?

参考:最後の部分にこの受信機の「プロモーション・ビデオ」(のようなもの?)があります。先に動画の方を見てから以下に目を通すのも良いと思います。

簡単WSPR受信機・回路図その1
 これは「簡単WSPR受信機」の初期バーションです。 ただし、最終バージョンではむしろ簡略化しました。

 復調用の7038.6kHzの発振器は予定通りVXO形式です。この部分の詳細については前のBlog(←リンク)に書きました。 ただし、周波数安定度の問題などから更に検討を加えています。詳しくはこの後にも説明があります。

 アンテナからの受信信号は、2SK544Eで高周波増幅されます。2SK544Eは2SK241Yと互換の高周波増幅用MOS-FETです。 当初は前回のBlog(←リンク)で扱ったDual-Gate MOS-FETあるいはGaAs MES-FETのRFアンプを使う予定でした。(それも目的の一つとして実験していましたので) しかし、最小部品数で済むように2SK544Eを使う設計に変更しました。これは、あらかじめ受信機全体の回路規模が読めなかったからです。 高周波増幅部にたくさん面積を割いてボードに乗せきれなくなっても困ります。最小面積で済む方を優先したのです。 なお、最終的にボードにかなりの「ゆとり」が生じましたからRFアンプにもっと面積を割いても支障はなかったようです。この回路にとらわれずお好みのRFアンプが使えます。

 検波にはダイオードDBMを使いました。 コンパクトさと手間を省く意味から市販品のDBMモジュールを使いました。Mini Circuits Lab社のADE-1です。 HF帯ですし復調用ですから他社のDBMでも、あるいは伝送線路型トランスとショットキ・ダイオードで自作したDBMでも大丈夫です。 RF信号のロスが少なく、なるべく各端子が50Ωに終端されるように使います。 回路図では幾らか不整合ですが受信復調用ですから特に問題になりません。 VXO発振部から7038.6kHzは7dBmくらい注入されています。

 DBMで復調されたWSPR信号は、ゲイン約26dBの低周波プリアンプで増幅されます。その後、中心周波数が1500Hzのバンドパス・フィルタで選択されます。 この1500Hzのフィルタはシミュレーテッド・インダクタを使った共振器が3段シリーズになった形式です。  どちらかと言うとブロードな選択度で良いため、あまりHigh-Qな設計ではありません。 後ほど周波数特性の実測結果があります。フィルタ自身にも約27dBのゲインがあります。プリアンプと合計で50dBくらいのゲインがあるため、後続のアンプはゲインをあまり必要としません。

 フィルタの後、ボリウム・コントロールがあって全体のゲインが加減できます。 その後、この初期バージョンでは低周波パワー・アンプ:LM386Nがあり、スピーカーを十分鳴らせるパワーが出ます。 後ほどのテストでわかったのですが、WSPR用の受信機としてはゲイン過剰かつ、スピーカを鳴らすパワーは不要でした。そのため、最終バージョン(後述)ではLM386Nのアンプは省いています。

 もし、WSPR以外のモード・・・例えばCWの受信機にするのでしたら低周波パワー・アンプ付きのままが良いです。 その場合、フィルタの中心周波数を約700Hzに変更します。 フィルタの設計方法(変更方法)は以前のBlog(←リンク)にあります。 リンク先と回路は同じで抵抗値のみの小変更で簡単にCW受信機へと変身できます。 抵抗値がクイズ形式になってますが、XXおよびYYともに1.5kΩでやってみてください。

BPF用にコンデンサを選別
 写真は1500HzのBPF用に、コンデンサを選別している様子です。 0.039μFのコンデンサがたくさんあったので、選別してみました。使うのは6個です。

 結論から言うと、選別は不要なようです。 もちろん、選別したコンデンサを使って作ると、設計と実際の差は小さくなります。設計の再現性が良くなるわけです。 シビアな切れ味を求めるフィルタなら、部品合わせの選別は必須でしょう。
しかし、ここで作るフィルタはブロードですから無選別でも大丈夫そうでした。

 選別を行なうにしても入念さは必要なく気休め程度で十分です。 選別にはLCRメータ:DE-5000を使いました。 こうした作業には手軽で便利です。

もやし配線で様子を見る
 1500HzのBPFを試作している様子です。 初めてブレッド・ボード上に作る回路は部品配置を決めるのが難しいものです。なるべく合理的な配線ができ、性能も維持できるような部品配置を目指します。それがなかなか難しいのです。

 4回路入のOP-Amp:TL-074CNを使ったので、コンパクトに作れますが、反面、部品が密集するので配置は少し難しく感じました。

 そこで、まずはジャンバー線が多くなっても気にせず配置・配線してみます。 だいたい写真のような規模になるのがわかったので、様子を見ながら徐々に合理的な配置に変えて行くわけです。 検討の成果は次の写真を見てもらえばわかります。(笑)

フィルタ完成版+低周波アンプ
 左半分が低周波プリアンプ+1500HzのBPFです。 上記の写真と同じだけ部品が載ってますがスッキリしました。 配線の見通しも良くなり、チェックも容易です。

 プリント基板の設計と同じで、ブレッドボードも2回目の方が格段に上手く作れるものです。(笑)

 右側にLM386N(NJM386BD)の低周波アンプがあります。 こうするとトータルの低周波ゲインが大きくなる関係で、発振し易くなりますから対策は必須になります。 CW受信機に転用されるなら十分な対策をしておきます。

 まずは、この状態でパソコンのマイク端子に接続してテストしました。WSPRの受信は可能でしたが、低周波部分がオーバーゲインなのと、GND系のアイソレーションがとれていないためパソコンからのノイズ混入が気になりました。

低周波部の周波数特性
 低周波系の周波数特性とゲインを評価しておきます。回路図のTP-1とTP-2の間の特性を測定したものです。  50Ω系の測定器を接続する都合で、ゲインは6dBほど低く測定されています。 従って、実測のゲインは44dBですから予定のゲイン、50dBが得られていることがわかりました。

 フィルタの「切れ」にやや物足りなさを感じますが、通過帯域に平坦部のない形式なのでこの程度の特性が妥当でしょう。 もっと本格的なフィルタを作れば改善できますが「シンプル」と言う趣旨にそぐいません。 実用的な範囲で済ませることにしました。

 後ほどのテスト運用によれば、WSPR用受信機として高性能とは言えぬまでも実用性能にあると思います。 パソコン側のソフトの助けもあるようで、マズマズの選択度でした。 なお、50dBの低周波ゲインではかなり過剰です。だいぶボリウムを絞って使うことになります。 いわんやLM386Nのアンプ(ゲイン)など必要としません。 接続先のパソコンの入力端子が感度の高いマイク入力端子だからです。

課題あったVXO・初期版
 VXOの周波数安定度について考えるとき、もう一度WSPR局のデータ送信について考える必要があるでしょう。 WSPRでは発信局のコールサイン、グリッドロケーション、パワーレベルが50ビットのデジタルデータとして送られてきます。

 1400Hzから1600Hzの間のどこかに設定(送信局のオーナーが設定)された副搬送波は、4値のFSK信号として周波数変調されます。 その4値のそれぞれはわずかに1.4648Hzしか離れていないのです。従って、占有周波数帯域幅は約6Hzしかありません。  また低速のボーレートなので一回あたりの送信時間は110.6秒間もあって、少なくともその間だけ周波数は安定でなくてはなりません。(多少は許容量があるがレポートの数値に現れるのでみっともない・笑)

 長期的な変動は取りあえず考えないとしても温度補償のない水晶発振器の周波数安定度はせいぜい±1ppm/℃くらいのものでしょう。 これはかなり良い方向に見積もっています。 従って7MHzの発振器なら1℃あたり7Hzくらいの変動は存在するわけです。 急激な変化さえなければWSPRのデータ一周期ごとの復調は可能でしょう。 しかし出来の悪い発振器ではこれさえも難しいのです。無造作に作れば水晶発振器と言えども安定度はずっと悪くなります。
 一日の気温変化は10℃くらい存在します。 何の温度補償もない水晶発振器ならそれだけで10ppmくらいは変動するでしょう。 良い方に見積もっても70Hzの周波数変化ですから、WSPRを安定に運用するにはどうやら十分とは言えないようです。 

 CWやSSBの受信でも周波数変動は問題になります。 ただし交信のあいだ安定で了解に支障がなければ良いのであって、オペレータがズレを修正することも可能ですからそれほどシビアではありません。 普通の水晶発振器や上手に作ったVXOならほとんど問題になりません。 しかしWSPRではそうも行かないのです。手を煩わせずに連続運転が基本ですからね。

                   ☆

 写真の初期状態では周波数安定度が不十分でした。原因はいくつかありました。使った部品の温度安定性が悪かったのです。考えてみれば当たり前のことばかりですけれど・・。

 まず、数pF〜10pFあたりの小容量セラミック・コンデンサはNP0特性であろうと考えたのが勘違いでした。  水晶発振子とパラの5pFと、周波数設定のトリマ・コンデンサにパラになった10pFのセラコンが問題でした。 実際には温度特性がかなり悪かったのです。 多分、普通の用途ならそれほど気にはならなかったでしょう。しかしシビアな用途では不十分な性能でした。

 もう一つはVXOコイルです。使用した47μHのマイクロインダクタは温度特性が良くないのです。VXOコイルのようなシビアな用途には使うべきではなかったようです。 小さくて扱い易いのですが、おそらくμ(透磁率:ミュー)が大きな・・・ただし温度特性の良くない・・・コア材が使ってあるのでしょう。 指で少し触れた程度でも体温の影響が強く現れました。マイクロインダクタの用途は共振回路ではありませんからやむを得ないでしょう。実験的には良いとしても実用には温度特性の良いコイルに替えなくてはなりません。

# このようなことから、WSPRを安定して受信するには不十分な周波数安定度です。

こちらが改善版VXO
 問題点が明確になれば対策は可能です。 温度補償型の発振器ではないと言う本質的な問題はありますが対処療法は可能です。

 まずは、問題のコンデンサを温度係数がはっきりしているNP0のセラミックコンデンサあるいはディップド・マイカコンデンサに交換してみました。 セラミック・トリマコンデンサもいくらかマシそうな物に替えます。

 VXOコイルは空芯もしくは温度係数の小さなコアに自分で巻いた方が良いのでしょうが、いくつか交換したらだいぶマシなものが見つかったのでそれで済ませました。

 このような対策で短時間の漂動(ドリフト)なら、数十ミリHzに抑えることができるようになりました。 環境の変動に強くする意味で、回路部分に直接風が当たらぬように箱で覆うと効果的です。 ブレッドボードなのでやりずらいのですが、覆って外気の流れを防ぐのは必須とも言えます。きちんと作って箱に入れればかなり効果的です。

 アンテナとパソコンを繋いで実験すると、ここまでの対策を施した初期バージョンでも旨く受信できました。 しかし、初期バージョンでわかってきた問題点はできるだけ改善しましょう。

                   ☆

簡単WSPR受信機・回路図その2
 改良版の回路図です。 VXO部分の周波数安定度は部品の交換でまずまずになったのですが、長期的な連続運転にはまだ不足するように感じます。 いずれ本格的な対策を行ないたいと思いますが、一旦ここまでにしました。

  VXO周りの部品定数など変化はありませんが、温度特性の良いコンデンサやコイルを使うことで対策しました。 シビアなことを言うと、やはりセラミック・トリマでは不安があります。 エア・トリマコンデンサを使うことにしました。

 プリアンプ+1500HzのBPF部の低周波ゲインは約50dBあります。 この時点で、すでにオーバーゲイン気味なので、ボリウムでだいぶしぼる必要がありました。 特に低周波アンプにゲインのあるLM386N(NJM386BD)を使ったため、その部分はまったくの過剰ゲインです。 スピーカを鳴らす意味はないので、思い切って簡単な1石のアンプにしました。アンプ無しでも行けそうでしたが、ゲイン調整の便など考えてアンプは設けておきました。

 初期バージョンでは、PCとの接続はレベルを合わせただけでC結合で直結しました。 回路のGND回路はパソコンのそれと共通になります。 しかし、そのようにするとパソコンで発生したノイズの混入が見られました。 試しにトランスでアイソレーションするとノイズの混入はかなり軽減されます。 改良にあたり、出力アンプのアウトプットはトランスで分離する形式にしました。 トランスの二次側は回路のGNDに接続せず、浮かせたままパソコンのマイク入力端子へ接続します。

以上のような対策を行なって、概ね使えそうな性能のWSPR受信機が出来ました。

試作完成・外観全景
 初期バージョンと比べてあまり変わり映えはしませんが、改良版の受信機全景です。 低周波パワー・アンプ(LM386N)を取ってしまったので、その部分がずいぶんスッキリしました。

 高周波増幅、検波器、プリアンプ、1500HzのBPF部分に変更はありません。 WSPR受信機としてかなり簡単に実現できることがわかります。

 もちろん、よくご存知のお方なら単純なダイレクトコンバージョン受信機では逆サイドの混信があって、性能に影響しないか気になるでしょう。 原理通り逆サイドの受信はありますが、低周波で受信帯域を絞っているのでほとんど支障ないようでした。 ただし、受信のS/Nは6dBくらい犠牲になっているのでしょう。 従ってあまり高性能な受信機にはなりませんが、簡単で実用的な性能と思えばまずまずのようです。

VXOは受信のかなめ
 WSPRの概要を検討した結果でもわかるように、周波数安定度は受信・送信の「かなめ」と言えます。

 さらに改善する目的で、周波数調整のトリマコンデンサにシリンダー型のエア・トリマを使ってみました。 多回転型なのでシビアな調整には向いているようです。 もちろん一般的な羽を回すエアトリマでも十分です。 何ならエアバリコン(50pFくらい)にバーニヤ・ダイヤルでもつけてやればすこぶる調整し易くなります。  言うまでもありませんが、きちんとした箱に収納するのは安定した受信の大前提ですね。w

 一連の対策を行なったことで、周期の早い変動は収まったのでまずまず安定に受信できるようになりました。 電源投入後は30分くらいの初期変動がありますが、その後はかなり安定します。 ただし変動の様子を観察すると、数時間あるいは一昼夜といったゆっくりした変動は未だに残存します。 だいたい±10Hzくらいはありそうです。 これくらいならWSPRの復調に支障はなさそうでした。 まずはワッチしてレポートをアップするのに十分使えます。

 しかし、このままでは数ヶ月や1年間と言った長期的な安定度は維持できそうにありません。 できれば良質のTCXOあるいは可能ならOCXOを基準にした発振器に置き換えるのが理想でしょう。 週に一度くらい周波数をチェックして、もしずれていたら補正すると言う運用方法もありますがちょっと面倒です。できたら技術的に解決したいものです。 この後は送信の検討を始めますが、必要な周波数安定度は同じですから何か改善策も考えておきたいと思います。

                   ☆

簡単に済むRFアンプ+検波器
 回路をざっと見て行きます。
これはRFアンプと検波回路の部分です。

 RFアンプには2SK544Eを使いました。 ゼロバイアス(Idssの状態)で使い、最小限の部品数で済ませています。 これでも20dB以上のゲインはあるので必要十分です。 なるべくロスなく検波器に導きます。

 検波器は4ダイオード式のDBMです。既製品を使ってコンパクトに作りました。 復調用キャリヤ(BFO)の入力端子へは3dBのPADを挟んでインピーダンスマッチングを改善しています。 出力側も概ね50Ωに終端するように回路設計しています。 信号入力側は不整合ですが、用途が検波回路なので支障はないでしょう。 アンテナへのキャリヤ漏れも高周波アンプがあるのでほとんどありません。

 いずれも簡単な回路ですが、7MHzのダイレクトコンバージョン受信機には十分なものです。 検波信号を耳で聞いてみると、近傍の周波数でオンエアしているロシアのレタービーコンが良く入感しました。 メインのトランシーバと比較しても同等であり、感度が悪いと言った印象はありませんでした。

低周波アンプも簡潔に!
 パソコンとの接続部分にはFETを使った簡単な低周波アンプを置きました。 回路のGND系を分離する目的で、トランス結合式のアンプです。

 低周波アンプにはFET:2SK19Y(GRでも良い)を使いました。これは回路が簡単に済むためです。 2SK19は高周波用のFETですが、こうした低周波アンプに使っても支障はありません。 トランジスタやICでも良いのですが、2SK19Yならゲートのバイアス用抵抗器が1本必要なだけです。 ただし、大きな信号を扱うとFET固有の「二乗特性」が現れるため、二次ひずみ(非対称歪み)が大きくなります。もちろん、パソコンとの接続はローレベルで済むので支障はありません。

 ほとんどゲインのない低周波アンプですが、インピーダンス変換と信号およびGNDラインのアイソレーションの目的は十分に果たしてくれます。 アイソレーション用の小型トランスは山水のST-71などで代替できます。aitendoのチープな低周波トランスも十分役立ちます。

受信始めました
 画面はパソコンでWSPRネットのサイトを開いて、自局のレポート状態を表示したものです。

 受信した時刻が昼過ぎの午後なので国内のWSPR局しか見えていませんが、まずまずではないでしょうか。 1WでオンエアしているJA9MAT局、JA8XMC局もコンディションが悪いなか、旨く受信できています。 いつもFBな電波を送ってくるJA5NVN局はS/Nも良く強力に入感しています。(画面の時刻はUTCです)

 気になる周波数変動ですが、例えばJA5NVN局の周波数をみると様子がわかります。 10〜20分間で1〜3Hzくらいの変動があるようです。 この表示周波数には空間状態による変動や送信局の周波数変動も含まれます。 レポートのいずれの局も連続運用されていて、いつも周波数は安定しているように思います。 したがって、現れる周波数変動は自局における変動であると推測できます。(周波数カウンタで見ていればわかりますが・笑)

 Driftの項目に0あるいは±1の数字がありますが、これはデータ受信の110.6秒間の変動が十分小さいことを示しています。 支障のない周波数安定度ですです。 もし、ここが±1Hz以上の数字を示すなら短時間における周波数安定度はあまり良くないと思うべきでしょう。

以上、総合すると長期的な周波数安定度には多少の懸念はあるものの、WSPR受信機としてまずまずの性能があると思われます。

海外WSPR局も見えた
 画面は23時(JST)ころキャプチャしたものです。 夜になって7MHzバンドがオーバーシーズへも開けてきました。

 北米やオーストラリアのWSPR局も見えるようになっています。 このところサンスポットは連日ゼロで、MUFも数MHz台のところに低迷しています。 それでも何とか入感するのが7MHzの良いところでしょうね。 ノイズレベルの下がる冬場になればもう少し見えてくるはずです。

 シンプルな受信機なので感度が心配でした。また逆サイドの混信もあって不利です。 しかし、実際に受信してみるとまずまずの性能が実感できます。 どうしてもダメならPSNを使ったシングルシグナル受信も考えました。 しかし一気に複雑化するのでシンプルと言う精神(?)に反します。 実際に作ってわかりましたが、単純な回路で使い物になりそうなのは良かったです。

                   ☆

 消費電力が少ないWSPR専用受信機を作りたいと言う目的は概ね達成できそうです。 簡単な回路構成ですが、少なくとも感度は大丈夫そうです。 周波数安定度はDDSやPLL化で簡単に解決できるものではありません。 それらの発振器も基準の発振器が十分な安定度を持っていなければ、ここで使ったVXOに及ばぬ可能性さえあるでしょう。

 以前、キットのWSPRの送信専用機を検討したことがありました。 それにはオプションでGPSに同期させるAFC機能が付いていました。 Hzオーダーの誤差を自動修正する仕組みでした。(GPS-DOとは違います) 当たり前のようにオプションを付けた状態で検討したのですが、思えば簡単な回路構成の専用機にとって必須だったのでしょう。 そうでなければ安定性は確保できなかったはずです。

 手持ちTCXOのSpecを見ると変動は1ppm/年以内とあります。 まあ、この程度の変動なら実用性は損なわれないでしょう。 7MHz帯ですから7Hz/年くらいの変動があるわけです。 WSPRでオンエアしている各局の周波数を観察していると、その程度ならマシな方にも感じます。 消費電力など考えてTCXOを基準にしたDDS発振器などが周波数対策の決め手になるでしょう。


簡単WSPR受信機・プロモーション・ビデオ 
(再生すると音が出ます)

 耳で聞く受信機と違って、こうした受信機の動的な紹介は難しいものです。 初めはVXOの周波数変動の様子を流しておしまいにしようと思っていました。 編集していて、だんだん各部のシーンを寄せ集めたプロモーション・ビデオのようになってしまいました。(笑) この1分半ほどの動画をご覧になって、もし興味が湧いた部分でもあれば本文に帰ってじっくりお読みください。 それでも解消しない疑問などは遠慮なくご質問いただけたらFBです。 あなたの「ひとこと」が何か解決の糸口になるかもしれません。ご感想・ご意見など歓迎いたします。

                   ☆

 受信機といっても耳で聞くものではありません。 パソコンのマイク入力端子に接続してスタンバイOKです。 あとはオンエアしているWSPR局がうまく復調できるか待つことになります。 インターネットとも関係するので、全体を見渡すと大掛かりな仕組みと言えるでしょう。 それだけに受信機が自作できるのか心配にもなります。 しかし、ポイントさえ押さえておけば案外簡単に作れるもののようです。 ポイントとはもちろん周波数安定度ですね。あとは意外にシンプルです。

 周波数安定度の改善策は頭の隅に入れておくとして、次回は送信系の検討を始めたいと思います。 周波数安定度の課題は同様に存在しますが送信パワーは5W以下です。中には数10mWでオンエアされるお方もあります。  電波型式はF1D(FSK)ですからシングルトーンと等価です。従って効率の良いC級増幅でも支障はないはずです。 数ステージの送信部で何とかならないものでしょうか?  ではまた。 de JA9TTT/1

つづく)←リンクnm