2020年6月21日日曜日

【回路】Audio AGC Amp.

MC3340Pを使った低周波AGCアンプ
 <Abstract>
I made an Audio-frequency AGC amplifier with MC3340P, an IC for electronic volume control made by Motorola. Even if the input signal changed by 60dB, the change in output was limited to only 6dB.
It would be suitable for a direct conversion receiver (DC-RX) or an Audio frequency amplifier for an Autodyne receiver. And it can also be used as a compression amplifier to increase the average power of the SSB transmitter.
 I bought MC3340Ps from China Mail Order, I received were all used, but everything worked fine. (2020.06.21  de JA9TTT/1 Takahiro Kato)

MC3340Pを購入
 MC3340Pはモトローラ/ONセミ製の電子ボリウム用ICです。電子ボリウムというのは電気的に入力信号の大きさを加減することができる電子部品です。 これを使うと大きさを加減したいオーディオ信号などの配線を長く引き回すことなく、遠隔から、あるいは他の回路の出力のような電気的な手段で制御することができます。 なんでもリモコンで制御する時代なので、様々なICメーカーから同種のICが登場しています。 MC3340Pはシンプルで使いやすそうなので購入してみました。

                   ☆

 電子ボリウムは普通のボリウム代わりに使うこともできますが、それだけでは面白くありません。 ここで使った電子ボリウムは扱える信号のダイナミックレンジが広く、ゲインの制御範囲も広いことから低周波のAGCアンプの用途に適当そうです。 多くのダイレクトコンバージョン式受信機(DC-RX)やオートダイン受信機にはAGC(自動利得調整器)が付いていません。そのため、受信中の信号の近くで強力なローカル局がオンエアを始めると爆音状態になります。あるいはブロックされて無音になってしまうこともあります。手動で頻繁にボリウムを加減すれば済むのですが、AGCアンプを付ければもっと扱いやすいでしょう。 低周波のAGCアンプは色々難しいことも多いのですが、制御回路の時定数など適当に選べばうまく使える可能性があります。 ここでは基礎実験として、MC3340Pを使った低周波のAGCアンプを試作してみました。 自家用の実験資料ですが、もしも暇を持て余しているようなら眺めてみてください。

 【中古品に違いない
 たまたまネットを散策していたらMC3340Pを使ったAGCアンプの記事が目にとまりました。 どんなICなのか調べたところ、外付け部品が少なくて使いやすそうなICでした。 他にも幾つか活用法が思い浮かんだのでさっそく購入してみました。

 国内のパーツショップでは見つけられなかったので例によって中華通販を利用します。 安価で売られていたのは良かったのですが、届いたものはすべて中古品のようです。 写真のようにハンダ付けの痕跡が残っていたり、足ピンがカットされていました。 安いので仕方がないとも言えますが、わざわざプリント基板から剥がして清掃するという手間をかけて割りに合うのでしょうかね? ちなみに10個で2ドル弱でした。幸い、簡単にチェックしたら全部支障なく使えそうでした。 こうした中古部品を販売目的の製品に使うのはどうかと思いますが、アマチュアが実験して遊ぶには何ら問題ないでしょう。

 【MC3340Pの特性
 MC3340Pの基本的な特性です。 2番ピンとGND間の抵抗値を変えると、右のグラフのようにゲインをコントロールできます。 ゲインをコントロールするのにボリウム(可変抵抗器)を使ったのでは、何だか意味がないなあ・・・と思われるかもしれません。

 しかし、このボリウム(図ではRc)には加減したい信号は流れていません。 配線を長く引き伸ばしてもブーンと言うハム(HUM)音の誘導はありません。 また、このRcは機械的なボリウムでなくてもよく、例えばFETのドレインとソース間の等価的な「抵抗」であっても構いません。  ボリウムをFETに置き換えてやり、FETの内部抵抗(ドレイン・ソース間抵抗)を電気的に制御してやればゲインが電圧によって制御されるようなアンプになるでしょう。

(参考)FETを使わずに、まず出力電圧を整流・平滑しOP-Ampで増幅した上で、その電圧によってMC3340Pのゲインを制御すると言った方法もあります。

【低周波AGCアンプの回路図】(Ver1.0.1)
 低周波AGCアンプの実験回路です。 ネットの探査で見つけた回路を真似ていますが、FETのコントロール部分を見直しています。ここがこの回路のキーポイントです。  オリジナルのままだと、信号の大きさによっては猛烈なハンチング(一種の発振現象)を伴うようでした。それでは旨くありません。

 こうしたAGCアンプは自動制御の一種なので、制御ループの時定数が適当でないと旨く動作しません。 使用するFETの伝達特性とも関係するので、Q1:2SK19Yを変更するなら時定数の見直しが必要です。 2SK19Yは廃品種ですが、同等品の2SK192AYがまったく同じ様に使えます。 MC3340Pの後段のアンプは40dBくらいのゲインが得られればなんでも良いでしょう。ここでは旧式なμA741Cを使っています。 単純な低周波アンプですから他のOP-Ampでも支障はありません。

 後ほど入出力特性のグラフがありますが、入力が60dB(1000倍)変化しても出力は約6dB(約2倍)しか変化しません。 ただし、自動制御ですから入力信号の大きさ変化に対して必ず過渡的な応答があります。 概ね受信機に良さそうな時定数に選んでありますが、実際の受信機に組み込んでから必要に応じて*1の部分を加減すると最適化できます。  現状では案外早く応答し、ややゆっくり戻る特性になっています。

 【AGCアンプを試作
 ブレッドボードに試作してみました。 ダイオード:D1とD2との結合コンデンサ、C5:0.33μFは漏れ電流のないものが必要です。 ここではマイラ・コンデンサを使ったのですが、巨大なのでイマイチでした。 良質な電解コンデンサか、タンタル・コンデンサに置き換えると良いでしょう。

 整流回路のダイオードはゲルマニウムの1N34Aを使いましたが、よく見かける1N60や1K60でも同じです。ゲルマ・ダイオードが手持ちに無ければシリコンの小信号用を使って試すのも良いです。多少出力電圧の大きさは変わりますが、同じようなAGC特性が得られるはずです。

 利得制御ループの時定数コンデンサ、C3:4.7μFはタンタル・コンデンサあるいは低リークな良質の電解コンデンサにします。 極性はGNDに接続される側が+(プラス)なので間違えないように配線します。  このコンデンサと直列の抵抗器、R2:100Ωは位相補償(遅れ補償)用の抵抗器です。 もし制御系がハンチングを起こすようなら幾らか加減してみます。小幅な加減で済むはずです。

 【入出力特性の測定
 測定器を見せても仕方がないのですが、電子電圧計(ミリバルとも称する)を使って入力と出力の関係を観測しました。

 測定に使う信号源は歪みの少ない1kHzの発振器を使いました。 入力信号の大きさを適宜変えながら出力の変化を観測します。

 MC3340Pは思ったよりもローノイズでした。 また入力は0.5V(rms) あたりまで加えられます。 従って十分に広いダイナミックレンジがあるので、入力信号の大きさが広範に変化するようなHAMバンド用の受信機にも適しているでしょう。

 【波形確認
 入力に10mV(rms)を与えた時の出力波形です。 OP-Amp. U2の出力で観測しています。

 このようにまずまず綺麗な波形が得られています。 入力電圧が0.5V(rms)を超えるあたりまでこのような波形が得られます。 こうした電子ボリウムをHi-Fiの用途にも使いたくなります。 写真のように見た感じ綺麗な正弦波で測定すると1〜3%程度の歪み率です。まずまず良好と言えます。 HAM用の受信機やAMラジオくらいならまったく支障はないのですが、純然たるHi-Fiの用途にはもう一歩歪み特性が良くないのが残念なところです。

 もちろんHAMバンドの、そもそもノイジーで歪んだ受信音なら十分すぎる性能なので受信機への採用に何も問題はありません。 むしろAGCアンプの付加でDC-RXも扱いやすくなれば本格的な受信機の地位が得られるやも知れません。(笑)

AGC特性は
 AGCアンプはグラフのような特性になりました。 入力の信号が1mV(rms)くらいからAGCが効きはじめます。 その後は1Vあたりまで綺麗に制御されるのがわかります。入力信号の60dB(1000倍)の変化を約6dB(約2倍)に圧縮できます。 どうやらMC3340Pのゲイン制御特性をうまく活かすことができたようです。

 DC受信機あるいはオートダイン受信機に使う場合、このアンプの前に20〜30dB(10〜50倍)程度のゲインを持ったローノイズなプリアンプを置くと良いでしょう。 例えば、2SC1815GRを1〜2石で作ったプリアンプなど適当です。 この低周波AGCアンプを出たところに受信音量を加減する(従来型の)音量調整用ボリウムを置き、さらにスピーカあるいはヘッドフォンを鳴らす簡単なアンプを付けてラインナップ完成です。 音量調節のボリウムをあまり頻繁に加減することなく受信可能な使い易い受信機が期待できそうです。

                   ☆

 MC3340Pはもともと低周波のボリウム・コントロールを目的に開発されたICです。 今回の実験のような目的には最適でしょう。 他に、送信機用のマイクコンプレッサのような用途もあります。 さらに、データシートを見ますと意外に周波数特性が伸びていました。 流石にHF帯は無理そうですが、おおよそ2MHzあたりまでフラットに伸びています。その上の方はだら下がりの周波数特性です。 したがって、AMラジオのような455kHzのIF-Ampに使い、広いAGC特性持たせると言った用途も十分考えられるでしょう。 むしろ、こちらの方向に興味を覚えたような感じです。 いずれ機会を見つけてIF-Ampへの活用も検討したいと思います。 では、また。 de JA9TTT/1

(おわり)nm

2020年6月6日土曜日

【回路】MECL Design notes (2)

ECL ICを使ったRF-PSNの製作
 <Abstract>
I use the ECL of a fast logic IC to make the 90° phase shifter needed to generate a PSN type SSB. It didn't work properly at first because it was built on the breadboard. Even though it was a logic IC, it was accompanied by an oscillation phenomenon.
The cause was unexpectedly simple, ECL-IC is an internal structure like an analog IC.    It's like a series of amplifiers, so it's prone to instability.    Put a bypass capacitor near the power supply and GND pins. It works stably if I even do it. (2020.06.06  de JA9TTT/1 Takahiro Kato )

MECL X-tal OSC 2
 まずは前回のBlog(←リンク)の続きです。使用したブレッドボード(BB)が適切でなかったため、配線が未整理でした。 改めて別のパターンのBB上にMECLを使った水晶発振器を組み立てました。 ピン配置の関係から、使うアンプを変更して部品配置を最適化しています。 ちょっとした修正で写真のようにスッキリしました。 後ほど変更後の回路図も掲載しておきました。

                   ☆

 モトローラ製のECL-IC、MECLを使ってPSNタイプのSSBジェネレータに使うRF-PSNを作ってみましょう。 MECLは既に廃れたロジック・ファミリです。 入手性は良くありませんので、お勧めはできませんが雑誌記事にもたびたび登場するので一度は試したいと 思っていました。 中華通販など使うことで必要なデバイスが手に入ったので実験を始めました。 例のコロナ禍によって部品到着が遅れたため実際にPSN-SSBエキサイタを使ったテストは間に合いませんでした。 まずはMECLを使ったRF-PSNを安定に動作させるまでを扱います。いつも通り、これは自家用の備忘録です。 かなりお暇なお方のみこの先にお進みを。 忙しいお方はこんなBlogを眺めるのはやめにして、今日という2度と来ない日をもっと有意義なことに費やしてください。

 【OSC Frequency
 発振周波数は3.6864MHzにしました。 既に扱ったPSNタイプSSBエキサイタ(←リンク)のキャリヤ周波数は930kHzでした。

 一番良いのはその4倍の3.720MHzですが、そう都合の良い水晶発振子は手持ちにはありません。 似寄りの周波数として、3.6864MHzのHC-49/USがあったのでそれを使いました。 今回は周波数調整用のトリマコンデンサもきちんと入れたので、写真のようにほぼジャストの周波数に調整することができます。

 しばらく通電して周波数変動の様子を見たのですが、30分間で2〜3Hzの変動でした。まずまず安定な発振周波数が得られるようです。 今となってはECL-ICそのものが特殊ですから、積極的に発振用に使うことも無いとは思いますが十分安定な発振器が作れることがわかりました。 周波数特性が良いことから数10MHz以上のオーバートーン発振も可能なので作ってみるのも面白そうです。 今回の目的には必要ないのでやめておいきますが、覚えておいて何かニーズがあったら実験しましょう。

 【MECL X-tal OSC 2 / Schematic
 前回の実験(←リンク)と基本的に同じなので、回路そのものは変わっていません。 ただし、BB上の部品配置が少しでも合理的になるよう、3回路入っている内部のアンプ・ブロックの使い方を変更しています。

 また、受端側の都合から出力回路を変更しました。2系統に分配しますが、どちらも終端インピーダンスが50Ωになるよう設計されています。 こちら側もそれに合わせた回路にしてあります。 今回は長い配線を引く必要がなかったので必ずしも50Ωで終端する必要もなさそうでしたが、少しでも良い波形でクロックが伝送できるよう万全を期すことにしました。 もっとも、組み立てがBBなのですからそもそも・・・なのですが。(笑)

 なお、R9:510Ωはこの発振部を単独でテストするときには必要です。 テストのあと90°移相器部へクロックを供給する際は除去します。 これは移相器の側に50Ωに終端するための抵抗器が付いているからです。

 使用しているMC10116Pはラインレシーバ用のICで、MECL10KファミリのECL-ICです。 いくらか詳しいことは前回のBlogに書きました。必要に応じて遡ってご覧を。



MECL RF-PSN / HJ No.45
 本題であるECL-ICを使ったRF-PSNの話です。 ECLを使った回路というと、左図のような回路が定番化しているようです。 過去の雑誌記事について調べてみたのですが、基本的に同じ回路でした。

 調査しても掴めなかったため、これは想像なのですが、おそらく外誌の記事にオリジナルがあるものと思われます。もし、何かオリジナル記事の情報でもあればお知らせください。

 この回路は外部の発振器をクロック源として使う前提になっています。 10dBmの入力があれば良いらしく、3dBのアッテネータを挟んでインターフェースしています。  インターフェース部分のMC10107は右の方にある±90°の位相切り替えに使う電子的なスイッチの余りを便宜的に使ったものであり、必ずしもこれをここに使う必要はないはずです。 ですから、今回のように水晶発振器をECL-ICで作れば直接フリップ・フロップをドライブできます。

 後ほど原理図を示しますが、回路はジョンソンカウンタを使った単純なものです。 ただし、それだけでは厳密に位相が揃わないため、出力パルスのエッジを揃える目的で出力部分にもD-FF/MC10131を追加してあります。 このようにすれば、ジョンソンカウンタだけで構成した90°位相器よりも高精度の実現が可能です。

 シンプルで良く考えられた回路だと感じます。ここではこの回路を踏襲して実験したいと思います。とりあえず、クロックの供給部分を除けば大きく変更する必要性は思い当たりません。 単純明快な回路なのですから、あえて変える意味はありませんね。

 【MECL Logic Symbols
 非常に基本的なことですが、MECLを扱うにあたってまず始めに馴染みのない論理記号が目にとまりました。

 論理記号の入出力端子には、何やら矢印のようなものが書かれています。 これは左図によって明らかになるのですが、黒い矢印が付いた端子は正論理、白抜きの矢印なら負論理という意味なのです。 ECL以外では見たことがないので戸惑いました。 しかしMECLの世界では常識なのでしょう。w  なお、多くのMECLデバイスは、2つ出力端子があって非反転の他に反転出力が付いています。これは差動回路の両コレクタから出力を取り出せば簡単に可能だからでしょう。

 また、論理レベルもTTLやC-MOSに馴染んだ者から見たら異常にさえ感じます。 これは、Vcc端子(+電源の端子)をGNDしていて、マイナスの電圧をVEE端子に与えて使っているからに他なりません。 正論理で言えば、論理「1」の電圧レベルは-0.9Vで論理「0」の電圧レベルは-1.7Vなのです。 確かに-0.9Vの方が-1.7Vよりも高いのですが、絶対値は0.9の方が小さいのでなんとなく混乱しそうになります。 これもECLの独特の世界なのでしょう。論理設計では「0」と「1」で考えて普通は電圧そのものを気にしなくても良いのかもしれません。もちろん正論理なのか負論理なのかは始めに決めて(考えて)おきます。

 なお、+電源:Vccの方をGNDにして動作させるのは理由があります。 ECLの回路構成では+電源側の電圧変動に弱いのです。ノイズが乗りやすいという意味でしょう。 そのためベタなGNDパターンを作って電位的に最も安定しているであろうそのGNDの部分を+電源の端子に接続して使う方が有利なのです。 必然的に電源のマイナス側の端子をICのVEE端子(一般に8番ピン)に配線して使うことになります。 もちろんECL-ICを数個しか使わないのなら、VEE端子をGNDして使っても大丈夫です。そんな時は+Vcc側の十分なバイパスを心がけノイズ混入に気を付ければ良いでしょう。

 ほとんどのECL-ICは出力回路が抵抗負荷のエミッタ・フォロワになっているのでワイヤード・オア接続が可能です。ECLの論理回路はOR/NORゲート回路を主体に使って設計するもののようです。TTLのようにNANDが基本なのとは勝手が違いますね。まあ、ド・モルガンの法則を適用すれば相互に入れ替え可能なので支障はないのですが・・。 入力インピーダンスは高くベース電流も少ないためファンアウトはたくさん取れます。入力端子の多くは-VEE間にプルダウン抵抗器が入っており、抵抗値は一般に50kΩのようです。 殆どのECL-ICは温度補償されたバイアス電源を内蔵しており、論理振幅はわずかに約0.8Vでそのバイアス電圧:VBBを前後して振れます。

 だいたいこう言ったところがECL-ICを使う上での常識的な話のようです。 使ってみると他にも「常識」があったのですが、それはまた後ほどにでも。

2bit Johnson Counter
 2ビットのジョンソン・カウンタのタイムチャートです。 図のようにD型フリップ・フロップを接続して共通のクロックを与えます。
 1段目のQ出力:QAと2段目のQ出力:QBはちょうど入力クロックの1周期分の遅れが現れ、これが出力の全周期に対して90°に相当する位相差になるのです。

  この位相差はクロックの周期が一定なら不変なはずで、 QAとQBの出力を使えば正確な90°の位相差を持った信号が得られるのです。 ただし、周波数は1/4になるので、必要周波数の4倍の周波数を持ったクロック信号を与える必要があります。 この回路の特徴を使ったのがデジタルなRF-PSN回路ということになります。

MECL RF-PSN Schematic
 クロック発生部を除いたデジタルなRF-PSN回路です。 実際の配線に便利なように、詳細な回路図にしておきました。

 論理「0」に保つべき端子は、すべて-VEEに接続するように書いてありますが、実際にはオープンにしたままでも動作はするようです。  それでも、きちんと処理した方が望ましいと考えて、実際にも-VEEラインへ繋いであります。入力端子のインピーダンスは高めなので、そうする方が安心でしょう。

 なお、この回路図にその例は1箇所しかありませんが、入力端子に論理「1」を与えたい時には注意が必要です。TTLやC-MOSのように電源の+Vccラインへ直結してはいけないのです。 そのまま直結しても動作するケースは多いようですが、確実な動作は保証されません。 論理「1」には必ず-0.9Vくらい「GNDレベル(=+Vcc端子電圧)よりも下がった電圧」を与えねばなりません。 この図で位相の切り替えスイッチの部分にダイオードが一つ入っているのはその電圧降下を得るためです。 電圧降下は-0.7Vでも大丈夫で、簡単にやるにはダイオードの順方向電圧分だけ落としてやります。 もし余ったゲートなどがあれば、その出力端子のうち論理「1」になっている所を利用するのも良い方法です。

 各フリップ・フロップに与えるクロック回路は:MC10131Lの9ピン直近で50Ωに終端しています。 これは少しでも綺麗な(確実な)矩形波で駆動するためです。可能であればクロック発生部との間は同軸ケーブルもしくは、ライン・インピーダンスが50Ωになるように設計したストリップラインで接続すべきでしょう。 基板化する際には考慮にあたいします。

MECL RF-PSN EX-View 1
 上記の回路図をブレッド・ボード(BB)にまとめました。 なるべく最短配線になるよう考えていますが、所詮はブレッド・ボードですから必ずしも理想的とは言えません。でも、まずまず綺麗に仕上がりました。hi hi

 電源ラインの各所にバイパスコンデンサを入れてあります。 またベースボード(底板)もGNDラインに接続して高速パルス回路が確実に動作するよう考えてあります。 それにクロック周波数はわずか3.6864MHzですし、一般的なRF回路ならこれでもう十分安定に動作するはずです。 が、しかし・・・。

 【Bad output wave form
 マトモに動作してくれません。 この写真はまだマシな方で、初めの頃はもっと酷いものでした。 まったく正常に動作してくれず、出力に現れるパルス波を観測すると理屈のようにクロック周波数の1/4とはならずかけ離れていました。ランダムにバラついており、まるでどこかで自己発振でも起こしているかのようです。

 クロックの配線部分で反射が起こって誤動作しているのかと思い、配線の途中にダンピング抵抗を挿入したりターミネーションの条件(終端条件)を変えてみたり・・・。 散々やっても言うことを聞いてくれないのです。まさかECLのデジタル回路ってこんなに難物だとは夢にも思いませんでした。(笑)

                   ☆

Add Bypass Capacitors
 どんなトラブルもそうですが、わかってみたら案外単純なものです。 それにその理屈は後から幾らでも付いてくるものでしょう。

 極意は電源端子:+Vcc1(大半は1番ピン)と-VEE端子 (大半は8番ピン)の間に、最短でバイパス・コンデンサを入れることです。 写真ではグレーの角型の部品がそれで、この例では主にロジック回路でバイパスの目的に使うタンタル・コンデンサが入れてあります。
(多くのECL-ICには電源ピンVccが2つあります。そのうちVcc1の方が効果的です。Vcc2に入れても効果は見られません。これは内部回路から考えても当然でしょう)

 はじめ誤動作の主原因は集積度の高いフリップ・フロップ:MC10131L(ここではより高速なMC10H131Lを使っています)だろうと思ったのですが、それだけでは完全ではありませんでした。 位相の切り替えスイッチに使っている:MC10107Lにも必要でした。 また、このBlogの最初のようにクロック発振器もそれ単独の観測では問題なさそうでしたが、実際には同じようにする必要がありました。回路全体で動作させると時折誤動作が見られたのですが、それがピタリとおさまります。

 だいぶ回り道をして得られた使い方の秘訣なのですが、これさえ行なってやれば他の論理回路ファミリと同じくらい安定に(確実に)動作してくれます。ブレッド・ボードでも。

 【Change to Ceramic Cap.
 ECL-IC個々に入れるバイパス・コンデンサは上の写真のようにそのままタンタル・コンデンサでも良さそうです。 ただしここで使ったコンデンサは少し特殊な物のようでした。

 ごく一般的な積層セラミック・コンデンサでも大丈夫なのか確かめました。 写真のような積層セラコンに交換してみます。

  積層セラコンのほかに円盤型セラコンでも試しましたがいずれでも大丈夫そうです。 なお、容量は0.1μFです。 回路図にはあらためて書き加えませんが、バイパス・コンデンサを必ず直近に入れておきます。

参考:むかしお仕事でECL-ICを使っていたと言う友人によると、各ICごとに10μFと0.1μFのパスコン入れてたそうです。その頃でも4層基板だったとのこと。(追記:20200609)

 【MECL RF-PSN EX-View 2
 まずは安定に動作させることに腐心してしまい、実際にPSN-SSBエキサイタに使って性能確認するまでには至りませんでした。

 ちょっと見たところでは最初の方の写真とあまり違いませんが、個別バイパス・コンデンサの効果は絶大で、たいへん安定して動作してくれるようになりました。 やっと各部の動作を確認できる状態になったのです。

 冷静になって考えてみると、ECL-ICというのは差動増幅器のかたまりのようなものです。 それを多段に渡って接続するのですから、アンプの従続接続のようなものでハイゲインになるのでしょう。しかもかなりの高速・広帯域回路です。 ECLも確実なバイパスがあってこそ正常な動作が期待できるのだと納得しました。

 完全な動作のためにはできたら両面基板を使い、裏面はグランドプレーン(ベタGND)にする必要があるでしょう。 その上で、Vcc端子、特にVcc1端子とVEE端子の間に最短距離でバイパス・コンデンサを配置すべきです。 これは個々のECLチップごとに行なう必要があります。 過去に試してうまく行かなかった経験があるなら、再度見直してチャレンジする意味はあるかもしれませんね。

 【Good output wave form
 相変わらずきちんとしたプローブ・チップを付けていないのでプローブのGNDリード線に起因するリンギングが波形に見られます。

 それは差し引いて、まずは観測波形はマトモそうになりました。 ここまで持ってくるまでにはだいぶ苦労しましたが実際に作ってこそ得られるものがあったと思います。

 気になったので過去の雑誌記事など読み返したのですが、こうしたECL-ICの扱いに関して配慮が見られたのは1例だけでした。(バイパスコンデンサに関する言及はありませんが、配慮は感じられた記事です) あとは単に回路図を掲載しているだけに過ぎません。この辺りは「常識」として片付けているのかもしれませんけれど・・・。 ユニバーサル基板に実配線で作ってはみたものの案外期待外れだったと言うような実験例も多いのかもしれませんね。

 これから試すならECL-ICを使う上での勘所はわかったので成功の確率は高くなったかもしれません。 専用基板を起こすのが理想ですが、片面がGNDメッシュになったユニバーサル基板に作っても良いでしょう。その上で、バイパス・コンデンサに留意します。 PSNタイプSSBエキサイタで実験するにはブレッド・ボードを脱却した方が良さそうです。 ナマ基板にデッドバク・スタイルで製作というのもアリでしょう。(笑)

Output Frequency
 Digital 90°移相器の出力周波数を確認してみました。 もちろん、水晶発振器の1/4になっています。 周波数安定度も良好で、もう不安定な挙動は感じられません。

 作ってみた当初は「これはダメかも」と思いました。 中華通販で購入したMECLですから、そもそも不良品なのかも・・・なんて疑ってもみたのです。 しかし、単にECL-ICの扱いに不慣れだっただけで、きちんと使えば問題などないのです。 中華通販でちゃんとした部品が届いたことの証明にもなりましたね。 ユーザーの不慣れで不良品扱いされたら可愛そうでした。(笑)

                   ☆

 改めて、こうしたデジタルICを使った90°移相器について考えるとなかなか厳しい条件で動作していることがわかります。 例えば、いま必要とするキャリヤ周波数が1MHzだとしましょう。要するに1MHzでSSBを発生しようと言う訳です。 1MHzの1周期は1μ秒です。そして位相の回転は1μSで360°と言うことになります。 求める位相誤差が90°に対して±0.1°だとすれば、許容される時間誤差は1周期の3600分の1ということになります。
 これを実時間で言えば、1μS/3600= 0.0002777・・・(μS)です。 これは≒278pS(ピコ秒)ということですから、スイッチング速度が約2.5nS(ナノ秒)=2,500pSのMECL10KファミリのECLでさえかなり厳しいはずです。 同一パッケージ内に入った2つのフリップ・フロップでさえ、スイッチングのタイミングがどこまで揃うかはわかりません。おそらく数pS〜数10pSの違いはあり得るでしょう。

 上記の考察は1MHzのものです。 いきなり周波数を10倍にしたのでは飛躍し過ぎかもしれません。しかし、実際に数MHzの周波数でPSNタイプのSSBを扱うケースは多いものです。あながち誇張し過ぎとも言えないでしょう。
 そこで、もしキャリヤ周波数が10MHzだったとすれば0.1°の誤差から許されるタイミング誤差はたったの27.8pSということになります。 この27.8pSと言う時間は実感できますでしょうか? 電線中をパルス波が進む距離はたったの6mmほどです。 電気って案外のろいんですね。w(真空中なら8.34mmですが電線やプリントパターン上では約70%の速さに)

 10MHzではたった6mmの配線長の違いが問題になります。 もはや2つのフリップ・フロップのスイッチングタイムがどこまで揃うのかあまりアテにはならないかも知れません。 今更ながらデジタル式の90°移相器は厳しいことがわかります。もっと周波数が高ければ一段と・・・。 逆に1MHzならかなり楽な周波数だったとも言えそうなのです。
 ECL-ICですらこれですから、LS-TTLやHC-MOSではもっと厳しいです。 さらに悪いことにそれらICの出力パルスは前縁のライズタイム:trと後縁のフォールタイム:tfが揃いません。 これはデバイスの内部構造上やむを得ませんがtr/tfに関しても、ECL-ICの方が幾らかマシなようです。

 結局のところ、デジタルなRF-PSNなのになぜか位相誤差が残ってしまい、アナログな手段(姑息な手段?・笑)で微調整して逃げたなどという笑うに笑えない結末も十分あり得ます。HC-MOSで試作した時はまさしくそんな感じで誤魔化してしまいましたね。(笑)

 それくらいでしたら、やや不安定で確実性に欠けるかもしれませんが、すでに実験したようなアナログな・・・L/C/RあるいはR/Cを使った・・・RF-PSNでも十分なのかも知れませんね。調整で追い込めるメリットがありますから。 デジタル式は複雑な回路と大きめの消費電力に見合っていなようにさえ感じてしまいます。 理屈から言えばデジタルなら完璧な90°が得られるはずです。しかし部品のバラツキや有限な配線長が存在する限りなかなか理想通りとはならないのが現実の世界なんです。(笑)

最後は何だか難しい話になってしまいましたが、続きはまたいつか。 de JA9TTT/1

(つづく)fm