2024年4月24日水曜日

【HAM】Making a ADX-S Digital Modes Transceiver

デジタル・モード・トランシーバ:ADX-S製作

abstract
The ADX-S is a modification by BD2CR Adam Rong of the ADX digital mode shortwave transceiver developed by WB2CBA Barbaros Asuroglu. Both software and hardware are open source and information is available on GitHub. He referred to my Blog article when he improved the ADX-S. I was wondering what part of my Blog he referred to. I contacted the distributor, JL1KRA Nakajima-san, and asked him to distribute it. The reference was a Blog article about a shortwave receiver using the TA2003P chip for radio. Then I received a request from Mr. Rong to improve AGC. I immediately experimented with it and the conclusion is that AGC is not necessary for ADX-S. (2024.04.24 de JA9TTT/1 Takahiro Kato) 

ADX-Sキットが届く・・・
 ADX-Sと言うシンプルなトランシーバのキットが好評なようです。JA局へ頒布を仲介されているJL1KRA:中島さんのサイトを拝見していると頒布の開始、すぐ品切れの状況です。

 このADX-Sですが聞く所によるとJA9TTTのBlog情報を参考にしているとのこと。どんな所を参考にしているのか興味を覚えたのです。まあ、興味というよりちょっと心配になったと言った方が良いかも知れません。 Blogを参照した「いかなる結果にも責任は負わない」って書いてはいますが気になりました。(笑)

 もう昨年のことですが、お問い合わせ致したところJL1KRA:中島さん、開発者のBD2CR:Adam Rongさんのお世話で製作する機会が持てました。どうもありがとうございました。

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 勿体ぶってもしょうがないので、さっさと書いてしまいましょう。それは何かと言うと:このBlogにはTA2003Pと言うラジオ用のICチップを使い短波ラジオを作ると言う話(←リンク)があります。それを参考にしたそうです。その短波ラジオにはCWやSSBを聞く目的でBFOが付いています。この辺りが一般の短波ラジオとは違うところですが、それをADX-Sの受信部に採用したようです。

 ADX-Sにはその元になるトランシーバが存在します。WB2CBA / Barbaros Asuroglu氏が設計したADXと言うものです。周波数と送受信の制御にAruduinoマイコンを使うものでプログラムほかオープンソースになっています。興味を覚えたようなら検索すればGitHubに情報が見つかります。

 ADXも受信部にTA2003Pを使うことは同じですがTA2003Pのミキサ部を検波に使ったダイレクト・コンバージョン形式です。ではADX-Sは何が違うのかといえばADXが検波に使っていたミキサ部を本来の用途であるコンバータ回路として使ったところです。要するにDC受信機からスーパ受信機に発展させたのです。スーパ・ヘテロダインの「S」を付けて型番をADX-Sとしたのでしょう。この改良はBD2CR / Adam Rong氏によって行なわれました。ADX-Sも同じくオープンソースになっています。

 ADXがADX-Sになって向上したのは「感度」に違いありません。I-F Ampのゲインが加わるのですから30〜40dBはゲインがアップします。オリジナルのADXの使用経験はありませんが、やはり感度では差が付くのではないでしょうか。 あまり良いアンテナが望めない移動運用に於いてはアップした感度はたいへん有益なはずです。

メイン基板の製作
 製作方法の詳細を書くのはこのBlogの役目ではありません。作り方や手順はJL1KRA:中島さんの頒布サイト(←リンク)に詳しく解説されています。Kitに付属のドキュメントも良く参照する必要があります。

 Kitは始めに部品の過不足がないか確認する作業がとても大切です。確認しながら分類しておくと製作がスムースに進みます。付いてきた部品の形状を把握しておけば実装する際の注意ポイントもわかってきます。 もちろん製作の工程と手順の確認も重要なポイントです。 プリント基板の表裏を間違えると言ったポカミスも防げるはずです。

 以前、古くからキット頒布されているお方に伺ったことがあるのですが、こうした基本の作業を怠っていきなりハンダ付けを始める人がいるそうです。
 傾向として、ちゃんとやらないのは意外に「OMさん」に多いんだそうです。それでつまらん失敗の挙句、頒布者にクレームが来るんだとか。しかも言うことだけはご立派なくせに、返却品を見たらいい加減なことは一目瞭然だそうで・・・ハンダ付けさえも怪しいとか。大のオトナがみっともないくらいだそうです。(笑)説明書読むのは煩わしいかも知れませんが先ずは読んでみて手順の通りにやった方が確実ですね。恥もかかずに済みます。w

 少ないとは言っても写真のような部品があります。 普通の電子回路にはそれほど冗長性はありませんから、ハンダ付けが1ヶ所マズイだけでもきちんと働きません。 適切なハンダコテを使い確実なハンダ付けを心がける必要があります。

 両面パターンのスルーホール基板です。一旦ハンダ付けしてしまうと専用のリペアツールが無ければ付け直しは「かなり困難」です。特に足の多い部品は間違えないように挿入します。 ハンダコテは弱い物(ワット数が小さい物)よりもややパワーのある物を使った方が確実です。 弱いコテを長い時間当てるよりもパワーのあるコテで短時間でサッと済ませる方が部品へのダメージも少ないものです。

 付属部品の分類・整理を済ませてから、通電・動作テストできる状態までに必要な製作時間は5時間くらいでしょう。これにはLPFモジュール(下記)を1つ作る分も含まれます。私の場合、写真撮影や簡単な測定評価の時間も含んで昼から始めて夕方にはテストできる状態になりました。製作をじっくり楽しみながら実質5時間くらいで作れそうな規模のKitです。

LPFモジュール製作
 オンジエアする際はLPFモジュールをバンド毎に付け替える必要があります。このLPFモジュール部分の製作が意外に面倒でした。

 各モジュール毎に3個ずつコイルを巻く必要があるからです。(全部で4バンド分ですから12個も!) 2つがLPF(ローパスフィルタ)用で、一つがD級アンプの負荷コイルです。

 コイルの部分は部品を所定の場所にハンダ付けするだけでは済まないので時間が掛かります。 手際良く進めても1つのバンドあたり30分くらい掛かるでしょう。 だんだんコイル巻きにも慣れてくるので最後の方はもうちょっと早く作れるかも知れませんが・・・。

ADX-Sの回路
 左の回路図を見れば非常にシンプルなトランシーバとわかるでしょう。

 制御回路にArduino nanoマイコンボード、周波数シンセサイザにSi5351ボードと言った既成のモジュールを使い外付け部品が最小限で済むよう工夫されています。

 重要な周波数シンセサイザ部は定番のSi5351モジュールで、これ一つで送信、受信局発、BFOの3つの発振器の機能を実現しています。 組立の過程で周波数キャリブレーションを行なって十分な周波数精度が得られるようになっています。 FT-8用としてはマズマズの周波数安定度が得られていると思いました。WSPRには少し厳し感じですかね。

 受信部はラジオ用ICのTA2003Pを使っています。TA2003Pはもともと外付けの少ないICですがアンテナコイルを省く、局発は外から与えると言った方法で簡略化しているのがわかるでしょう。TA2003Pの検波出力は何も増幅せずに復調用パソコンのマイク端子へ送られます。

 送信部も見ての通り簡単な構造です。 Si5351の出力を高速C-MOSの74ACT244で強化して終段をドライブします。終段アンプはBS170と言う小型Power-MOS FET(3本パラ)を使ったD級アンプになっています。これで高効率に出力電力2〜4Wを得ています。

LPFモジュールの回路
 ローパス・フィルタ部は小さな基板モジュールになっています。

 運用するHAMバンドに応じてメイン基板のコネクタに挿入します。 バンドを変更するたびにLPFを交換しスイッチでバンド設定せねばならないので少し面倒臭いです。

 しかしたいへんシンプルな構造のトランシーバですからやむを得ないでしょう。 慣れればそれほど面倒とも感じなくなりそうです。(笑)

ADX-S完成
 意外に時間がかかったのはプラケースの加工でした。(上記の5時間にはケース加工は含まれません) ポリエチレンで出来た半透明の収納ケースは中途半端に柔らかくて加工しにくいのです。見ての通り出来栄えはあまり宜しくありません。w

 たぶん適切な加工用工具と作業方法があるのでしょう。 しかしコツを掴む前に完成してしまいました。(笑)

ADX-Sのバンドごとの出力パワーを測ってみました。

40m Band Po=2.9W 消費電流=510mA
20m Band Po=3.4W 消費電流=550mA
15m Band Po=1.7W 消費電流=390mA
10m Band Po=1.6W 消費電流=410mA

・・・のようになりました。電源電圧は12Vです。負荷は50Ωの終端型パワー計です。

 ファイナルのBS170はRFアンプ用ではなくて単なるスイッチング用MOS-FETなのでハイバンドで効率が落ちるのは仕方ないと思います。ドライブも掛かりにくくなってくるのでしょう。

 受信感度はなかなか良好で十分実用的だと思います。拙宅ではメインにIC-756proを使っていますが受信状況に大きな違いは感じられませんでした。 超強力なローカル局がオンジエアすると言った環境では厳しいと思いますが、そうしたことさえ無ければ問題はないでしょう。よく聞こえ(見え)ます。

 ADX-SはAndroidスマホと組み合わせて使う人が多いようです。アプリにFT8CNを使うと自動交信まで可能だそうです。 まあそこまでして面白いかどうかは別ですが・・・。 Androidスマホが手に入ったら試してみたいと思いますが寝ていて知らぬまに交信済カントリが増えるなんて何か意味ってあるんですかね?(爆)

 もちろんWSJT-XやJTDXと言ったパソコン用のアプリでオンジエアすることもできます。心配いりません。アナログ・インターフェースで使います。

                  ☆ ☆ ☆

 ADX-S製作の話はここでおしまいです。 続いてこの先は改造検討をする話になります。

AGC回路の検討
 私のBlogにあるTA2003Pを使った短波ラジオの回路ではAGCが効かせてあります。その代わり注入するBFOはなるべく絞って最低限必要な大きさに調整する必要がありました。

 Blogで作る短波ラジオのコンセプトは「単なる短波ラジオ」なのでBFOの機能はおまけ程度です。ですからそれでも良かったのですが、HAM専用受信機ともなると事情も変わります。 ADX-Sが組立Kitなのも厄介で製作者個々にBFOの注入レベルを調整しろとは言えないでしょう。 そこでADX-SではBFOをFT-8などの信号復調に十分なだけ(強く)注入しています。

 もし、そのままAGCを働かせたなら注入したBFO信号でAGCが掛かってしまいI-F Ampのゲインが抑制されてしまいます。これでは感度が低下してマズイです。そのためADX-Sの回路ではAGCをGNDにバイパスしてその機能を無くしています。常にフルゲインで動作する状態になっています。

 BD2CR / Adam Rongさんもこの辺りに課題を感じたらしく、ADX-SにAGCは掛けられないだろうかというご提案をいただきました。 写真はAGC回路の実験の様子です。

TA2003Pに外からAGCを掛ける
 TA2003Pはオールインワンのラジオ用ICなので回路の途中を切り離すと言った工夫は出来ません。そのためI-F Amp.の終段から信号を取出してAGC用の信号を作る・・・と言ったような手法は不可能です。

 可能性があるとしたらオーディオAGCということになります。BCLラジオのようなAM受信機の場合オーディオAGCはうまくありませんが、SSB/CWそしてFT-8などデジタルモードの受信なら十分な可能性があります。

 図はADX-SにAGCを付加する回路です。検波出力を十分に増幅し整流したあとOP-Ampのバッファアンプで外からAGCを掛けるというものです。 TA2003PのAGC機能を解析しIC内部の駆動インピーダンスなどを検討して、図のように外部から強引にAGCを掛けても支障ないことを確認してあります。(内部のAGCは抑制されます)

 TA2003Pの回路構成上の制限から本格的な通信型受信機のようなAGC特性は望めませんが少なくとも40dB以上のAGCレンジが得られました。 ADX-Sの改良は別としてもTA2003Pでデジタルモードを含めSSBやCWの受信機を作るにはマズマズの方法でしょう。強めのBFOを注入して、しかもちゃんとAGCを効かせられます。Sメータももちろん付けられます。

 Rongさんのご要望にはお応えしたつもりなのですが、オーディオAGCはあまりお気に召さなかったようです。 なのでこれ以上進めるつもりもないためラフな手書きのメモでおしまいです。ちょっと見にくいかと思いますがあしからず。(笑)

                    ☆

 通信型受信機に造詣の深いお方がADX-Sの回路を見たら驚愕(卒倒?)するでしょう。 何しろ受信機の3S(感度、選択度、安定度)の2つがないがしろです。 まあ周波数安定度は周波数シンセサイザですから良いとして・・・。

 受信のイメージ・レシオはほぼ0dBです。選択度もラジオ用セラフィルですから・・・。

 もちろんきちんとした受信機のセオリーから言ったら幾らでもダメ出しができるでしょう。しかし実際に使ってみたら結構な実用性を発揮するわけです。
 私は「これはシンプルさを楽しむ手作り品」なのだと納得しました。QRPな送信部には十分すぎる高感度です。 たぶんADX-Sはこのままが良いです。(必ず併用することになるパソコンやスマホアプリの信号処理能力が非常に高いからでもあります)

 蛇足になりますがAGCについて付け加えます。 現実の問題としてAGCの付加は必須ではないと思いました。 他局より極端に強いローカル局がオンジエアしているような時にはAGCが掛かって歪みを抑えられます。しかしこれは稀なケースです。 あまりゲインのないTA2003Pの受信部は常にフルゲインであっても歪んで困るようなことは稀なのです。
 HAMの電波は「かぼそく」てAMラジオ局のようにバカに強くはありませんからね。 ですからAGCはあっても無くても受信成績にはほとんど差が出ないのです。ならばAGCなんて無くても良いしそれが合理的と言うものです。今のままで良いのではありませんか? ・・・と言うのが私なりの結論です。あなたのお考えは如何でしょうか? ではまた。 de JA9TTT/1

(おわり)fm

2024年4月9日火曜日

【Antenna】Making a Duo-Band Whip Antenna

14MHzと18MHzの2バンド・ホイップ・アンテナ

abstract
I built a duo-band antenna for 14 MHz and 18 MHz. But the performance of that antenna was poor. The RF Power radiation efficiency was not good. The reason was the stainless steel antenna element. The antenna was a shortened version with a loading coil. The presence of stainless steel in the magnetic field of the coil caused a loss of RF power. I was able to improve the situation by dropping the stainless steel material and replacing it with brass material. I would not have experienced this if I had used toroidal coils instead of air-core coils. However, toroidal coils have other problems. (2024.04.09 de JA9TTT/1 Takahiro Kato) 

昔っから言いますが・・
 HF帯(短波帯)のモバイル用ホイップ・アンテナの話題が続きます。 そもそもHF帯でモバイル運用したいなんて言う物好きなHAMは稀でしょうから、そんなアンテナの話は飽きてきたのではありませんか? 前回の7MHz用でおしまいにしようと思ってました。

 今回は14MHzと18MHzの2バンド用アンテナを作りますが、それを紹介するのは主だった目的ではないのです。

残念ながらはじめに作ったものは低性能なアンテナになりました。 何でも成功する訳じゃありません。むしろ「失敗作」と言って良いでしょう。 なぜなのかしばらく悩んだのですが、むかし聞いたことのある話を思い出したのです。自分の経験ではないのでうろ覚えでしたがそれを切っ掛けに解決することができました。 ・・・どうやら成功の元になったようです。

                    ☆

 私自身では面白い経験だったのですが大抵のお方にとっては何か意味があるとも思えません。 いつ何をやったらどうなったのかと言う自身の備忘が主目的です。 モバイルからHFにオンジエアの最終回の話しはあいも変わらず雑談チックになりますが悪しからず。 この先はお薦めもしませんので、もしお暇でもあったら眺めてみて下さい。 暇つぶしくらいにはなるでしょう。(ココを見てる時点であなたは暇人ですが・笑)

                  ー・・・ー

トロイダル・コイルは
 最初の写真はトロイダル・コイルですがこの先の話には出てきません。トロイダル・コイルで短縮アンテナの「ローディング・コイルを」と目論んでました。High-Qという先入観からです。

 結論としてトロイダル・コイルは周波数特性が悪く不適当でした。特定の周波数範囲ではかなりHigh-Qですが空芯コイルと比べ高いQが保てる周波数範囲はずっと狭いのです。
 条件に合う単一バンドの短縮アンテナならある程度使える可能性はあります。しかし複数のHAMバンドにまたがるアンテナには向きません。
 またHigh-Qとは言っても最適化された空芯コイルを凌駕するほどの性能は難しそうです。 磁気コアによる鉄損や磁束飽和の観点から言っても短縮アンテナには空芯コイルが無難だと言う結論です。 トロイダル・コイルは回路用部品であってこうした短縮アンテナ用ではないようです。(私見です)

移動式容量冠
 HF帯ハイバンド・・・14MHz以上のHAMバンドへオンジエアしたいと思いました。

 2024年は黒点周期:サイクル25の極大期にあたります。極大期にはHF帯のハイバンドが活性化します。 まさしくDXingのチャンスです。

 チャンスを逃すのは惜しいです。11年後のサイクル26は生きてないかも知れません。 POTAなどのモバイルでもオンジエアが楽しめるようにHF帯ハイバンドの移動用アンテナを作ってみます。

                    ☆

 ところが手持ち部材が底を突いてきました。買わずに済ませるには工夫が必要でした。
 今回もセンタ・ローディング形式で作りましょう。 7MHzのアンテナ製作のとき切り残ったグラスファイバ・ロッドを使います。そのため全体に細くてコイルの下部セクションとしては少々貧弱です。できたらもっと長さも欲しいところです。 しかし波長は20mあるいは17mとLow-Bandよりずっと短いので何とかなるでしょう。軽量に作れば強度も大丈夫そうです。

 使うことにしたグラスファイバ・ロッドは先端が細いため前作のような方法でロッド・アンテナを繋ぐことはできません。 そこで持っていたステンレス(SUS)製のロッド(φ3mmの棒)を上部エレメントとして使いました。長さは820mmあります。もともとグラスファイバ・ロッドの先端に付けるための部材でした。アンテナ用として先端に金属球も付いてます。

 しかしこれを使うと上部セクションの長さを加減できないのが大きな問題でした。コイルのタップ切換だけで共振周波数をシビアに追い込むのは難しいからです。
 写真は共振周波数を微調整するのための移動式の容量冠(キャパシティ・ハット)です。 ミノムシ・クリップで挟む位置をスライドして共振点を微調整します。思っていたよりも調整可能な周波数範囲が狭いのはやや不満でしたが試行錯誤を繰り返してある程度うまく行きました。

タップ式コイル
 2バンドアンテナはローディング・コイルのタップ切換えで実現します。 ほかにトラップ式で作る高級な方法もありますが初期調整はかなりの困難が予想されます。

 運用時のバンド切替えは少々面倒くさいですがタップ選択式を採用しました。 ミノムシ・クリップによるタップ切替えには幾分不安を感じます。 ただしコイルより先の部分はRF電流が少なくなるので旨くタップを引き出せば何とかなるでしょう。

 こんどはバンドチェンジのたびにコイル容器を開閉します。この保護容器は開閉が容易なのは好都合でした。

14MHz and 18MHz Whip Antenna
 下部セクションが細くて華奢な感じがします。しかし走行しながらの運用はしないので折れることはないでしょう。

 全体的に軽量にできたのでアンテア基台の負担が少ないのはFBです。 流石に3つ目ともなれば目新しさはぜんぜん感じませんがマズマズの出来映えです。(・・・と自画自賛・笑)

 家人には「同じのを3つも作ってどうするの?」なんて言われてしまいました。 確かに同じにしか見えないかな。(笑)

残念ですが解体します
 何が問題かといえば送信時のロスが大きいことです。ローディング・コイルのあたりで発熱がありどうも輻射効率が低いようなのです。

 見ての通り過去2作とほとんど違わず何が原因なのか悩みました。 結論から述べてしまうとステンレス・ロッドがコイル内に掛かっていることが損失発生の原因でした。 原因がわかれば対策しなくてはなりません・・・。

 思い出したのはずいぶん前の話です。さるHAM局がモバイル用アンテナを作ったそうですが飛びが悪いと言うのです。細かい症状は忘れましたがコイル部分にかなりの発熱があるとのこと。そして輻射エレメントにステンレス材を使ったセンター・ローディング形式らしかったのです。

 その時は構造など詳しくお聞きした覚えがあります。ただ、私には何が原因なのかすぐには思い浮かびませんでした。 あとでそのアンテナを良く見せてもらう機会があったのですが器用なお方らしく丁寧にそして見栄えも良く美しく仕上げてあったことを思い出します。

 その後どうなったか記憶にないので、そのHAM局は諦めてしまったのかもしれません。 そして今回は私がよく似た現象に遭遇した訳です。 以下は問題検証の様子です。

ローディング・コイルのQ
 アンテナ製作に使っているコイルは実績のあるものです。

 念のために改めて確認していますが、写真のようにQu=265くらいあります。(巻数が少なく周波数が高いのでややQが低下)

 巻き数や測定周波数によって変化しますが、だいたい300前後が得られます。エアダックス・コイルとして正常でしょう。

ロッド・アンテナをコイルに挿入
 従来の構造である、ロッド・アンテナがコイルの端部に掛かった(挿入された)状態を再現してみます。

 少しインダクタンスの変化とQの減少が認められます。ただしQu=225くらいあるのでそれほど大きな減少ではありませんでした。もっと低下するかと思っていたので意外でした。

 そういえば、コイルのインダクタンス調整に真鍮コアを使うと言う話を思い出しました。FMやTVのチューナと言ったVHF帯のコイルのインダクタンス調整に使っているとのこと。 Qの低下を来さずにインダクタンスを加減する(減らす)ことができるので使っているのでしょう。

 使っている伸縮式ロッド・アンテナ(6段式)は真鍮にクロームメッキしたパイプが使われています。 そのためQの低下をあまり来さずに済んでいるのでしょう。

ステンレス・ロッドでQ低下
 今度は実際にアンテナに使ったステンレス・ロッドをコイル端部に挿入してみました。

 幾らかインダクタンスも変化しますが、それ以上にQuの低下が顕著です。 約半分のQu=130になってしまうのです。

 265だったQuが半分以下になったら損失は倍増です。 そうでなくてもローディング・コイルにはロスがあるのに損失が2倍になったら電波の飛びが悪くなって当然ですね。

 アンテナの部材としてステンレス材は悪くはないと思っています。しかし使い方を考えないと性能低下をきたすことがあるのです。良い勉強になりました。


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 ステンレス製の上部セクションを真鍮製のロッド・アンテナに交換することで対策しました。 実績のある方法へ戻ったわけです。 使っているグラスファイバ・ロッドの先端部は細いので、その先に付けるロッド・アンテナとの結合方法を考える必要がありました。これにはアクリル樹脂製のパイプに両方を挿入する形式で接続しています。
 アンテナの上部セクションが伸縮可能になったので移動式の容量冠(キャパシティ・ハット)はやめました。 また波長で考えて上部セクションの長さは十分に得られているので容量冠は使いませんでした。これで支障なく各バンド共振調整できます。 なお、HF帯ハイバンドになると無闇にHigh-Qなアンテナにはなりませんからコロナ放電対策は不要でした。 以下、改良後の様子を要約します。

14MHzのSWR特性
 nanoVNAを使って共振特性を確認します。

 写真に14MHzのSWR特性を示します。これは改造後のものです。
 改造後のトップセクションはロッド・アンテナです。 伸縮できるので共振周波数の調整範囲はかなり広くなりました。 従ってコイルのタップ調整は多少ラフに行なっても共振周波数をバンド内に持ってくるのは容易でした。

14MHzの飛びかた
 PSKRで飛びかたを確認しました。 パソコンの画面をキャプチャしたものです。

既にご存知かも知れませんがPSKRの概略をあらためて説明しておきます。
最近はやりのFT-8のようなデジタルモードではパソコンを使ってオンジエアします。パソコンにはJTDXやWSJT-Xと言った専用アプリを走らせます。

 専用アプリには受信時に聞こえた(見えた)ステーションの情報をサーバにアップロードする機能があります。もちろんパソコンはインターネットに常時接続されているのが前提です。 その上がってきた各局からの受信情報をまとめて表示するサイトがPSKRです。 PSKR(←リンク)をアクセスすると自局電波が世界中のどこで受信されたのか良くわかります。初めてPSKRを開いた際には自局コールサイン、運用バンド、モードなど必要な情報を設定して表示させます。(左の画面)

 吹き出しに「XX min」と表示のあるのがレポートをサーバーに上げてくれた受信局です。例として44minとあるのはこの画面キャプチャの44分前に見えたという意味です。そこへマウス・カーソルを当てればその受信局の詳細情報が表示できます。

 これは2024年1月28日の16:30(JST)ころ14MHz/20m Bandにオンジエアした際の伝搬状況です。送信電力は50WでアンテナはこのDuo-Band Whipです。 アンテナのテストを兼ねたPOTA活の一環として訪れた上武県立自然公園内:児玉千本桜堤付近からオンジエアです。運用した頃は冬なので誰もいませんでしたが桜の名所ですから開花が遅れた今年は丁度いま賑わってます。(埼玉県本庄市児玉町高柳・GL:PM96ne、標高:約120m) 県道沿いで行くには便利な場所ですが特に無線に向いたロケーションとは思えません。 HF帯は電離層反射なので良いとして、V/Uの移動運用にはむしろ不向きでしょう。

 流石に14MHz/20m BandはDXバンドだけあって海外へよく飛んでます。 但し夜間帯を通るパスはないらしく北米は良くありません。 昼間〜夕方ゾーンのアジア・オセアニアと東欧が良いです。夏季で日照時間が長い南米にも飛んでます。 このオンジエアではアルゼンチン:LU2やインドネシア:YC2とできたほか中国、韓国とは複数局と交信できました。 日本国内もわりあいスキップせず満遍なく飛ぶ感じです。

 SWR特性だけでは良し悪しはわかりませんが電波の飛び具合を見るとまずまず良好なアンテナと言えそうです。

18MHzのSWR特性
 同じくnanoVNAを使って共振特性を確認します。

 写真に18MHzのSWR特性を示します。こちらも改造後のものです。
 バンドの切り替えはコイルのタップ位置を変えているだけです。 具体的にはコイルのタップをミノムシ・クリップで挟んで切り替えています。 そのあと先端部分の伸縮で共振周波数を微調整します。 運用中、心配していたタップ切り替えによる不安定さのようなものは感じませんでした。 SWR値も常に安定していたので問題はないようです。

18MHzの飛びかた
 同じくPSKRで飛びかたを確認しました。 パソコンの画面をキャプチャしたものです。

 移動地、パワーなどは上記20mバンドと同じです。 この18MHz/17m Bandもサンスポットの極大期にはDXingに向いたバンドです。 新しくできたWARCバンドなのでオンエア局数は20m Bandより少なめです。18MHz帯は3級局から出られます。

 やはり夜間帯を通るパスはないようで、北米はダメですが日照のあるゾーンへ良く飛んでます。アジア・オセアニアが良好です。 QSOできるかどうかは別としても(笑)カリブ海からもレポート上がっています。 Euも20m Bandよりも深い方(西方向へ)開けています。 実際にスペイン: EA局に呼んでもらったのですが、QRMで尻キレてしまいました。(ちょっと残念) 30分程度のオンジエアでしたが、オーストラリア:VKや西マレーシア:9WとQSOできました。中距離の中国・韓国局は国内なみに交信できます。 逆に日本国内近距離はスキップするかと思ったのですがマズマズ満遍なく飛ぶようでした。打ち上げ角の関係でしょうか。

 このバンドも飛び具合から見て十分使えるアンテナと言えるでしょう。 波長が短くなった分だけ幾らか輻射効率もアップしているはずです。

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 輻射効率が悪くて一時はどうしようか迷ったアンテナですが、原因究明と対策ができ使い物になるアンテナとして蘇りました。飛び具合も悪くないので及第点でしょう。

 これは当然でしょうが、いずれのバンドも地上高があるホーム・シャックのビームアンテナと比べたらだいぶ心細さを感じました。 しかし条件の悪い移動運用ですからこんなものなのでしょう。給電点の地上高は1.5mで長さも僅か2mにも満たない小さなアンテナです。
 移動運用でこれ以上を望むなら高さのあるフルサイズのDPアンテナや或いはビームアンテナを架設すると言った大掛かりな運用になるでしょう。 それは私が目ざす「お手軽移動運用」とはまた別の世界です。(笑)

IC-7300とFC-700
 IC-7300を使っていて内蔵オート・アンテナ・チューナの整合範囲が狭いと感じることがあります。

 小型の筐体にオールバンドSSBトランシーバの機能を全て搭載しアンテナチューナ(ATU)まで内蔵しているのですから限界があってしかるべきでしょう。コンパクトで良くできたトランシーバだと思っています。
 外付けのリモート・アンテナ・チューナも用意されています。メーカーとしては内臓ATUでダメならそれを買って欲しい訳でしょう。w

 試したところ整合状態が厳しい時は外付けチューナを使うと良さそうでした。 お手軽移動運用の趣旨から言って機材が増えるのは好ましくありませんがRigの性能がフルに発揮できないのではやむを得ません。状況によって外付けチューナを使うことも考えましょう。これで整合の難しさはほとんど解消できます。

                    ☆

 ステンレス製のアンテナロッドがローディング・コイルに影響を与え、アンテナの輻射効率を低下させると言う話でした。 原因がわかれば対策が考えられます。 構造を変えるのではなく素材を変えて解決できました。

 真鍮なら大丈夫でステンレス鋼が良くないのは電気抵抗の違いにあると思います。あまり気にされないかもしれませんがステンレス材の電気抵抗値はかなり大きいのです。錆びなくて安価なことからステンレス線をダイポール・アンテナに使うHAMもあるそうですが、いちど抵抗値を計ってみると面白いでしょう。 意外に抵抗値が大きくて驚くはずです。 まあロスを気にしなければアンテナのQが下がって広帯域特性になるのでステンレス線のDP-ANTもFBと言えるかもしれませんが・・・私は使いませんけど。(笑)

 コイルで発生した磁束により周辺に存在する金属には誘導電流を生じます。その生じた誘導電流によっても磁界が発生しエネルギーとしては消費されることなく殆どが戻ってくるでしょう。 しかしステンレス材のように電気抵抗が大きかったら自身の電気抵抗でIR損失が発生し熱になってしまい全部は戻ってきません。 簡単に考えるとこのような理由でステンレス材がコイル近傍にあるとロスになるのでしょう。 磁束の外にあれば問題ないわけで要は使い方かもしれませんが。 そして磁束が閉じ込められ外に漏れないトロイダル・コイルをもしも使っていたなら現象に遭遇することはなかったかも知れませんね。

                  ☆ ☆ ☆

 モバイルでオンジエアのお話はアンテナ基台から始まり磁石アース板の効果を6mアンテナで確かめたあと、いよいよ本題のHF帯アンテナの製作へと進みました。 10MHz、7MHzと作って実用的な成績が得られました。 続いて14/18MHzのDuo-Band ANTでは少々躓きましたが解決できてマズマズの成績を得ました。 交信実績のなかった6mも近所の空き地でテストしたらVK4とQSOできたので、これからPOTAの運用も楽しみです。 まだ残ったHF帯HAMバンドもありますがアンテナ製作とモバイルのお話は一旦おしまいにします。バンドが追加できたら改めて紹介しましょう。
 車載アンテナは「システム」であってホイップ・アンテナ単体では完結できないことを実感しました。 伏線ではありませんが各回のBlogテーマはどれも関連づけて回収できたと思っています。 ここを見ているのは電子部品や回路趣味のお方が殆どでしょうから興味の範囲外だったかも知れません。 しかし無線通信はアンテナがあってこそ成り立つものです。いくら優秀な通信機と言えどもPoorなアンテナでは本領は発揮し得ません。 移動運用ともなるとさらに固有の難しさも表面化してきます。 少しだけでも興味を持ってお付き合い頂けたようでしたら幸いです。

 最近は自作したアンテナであちこちの公園移動運用(POTA)を楽しんでいます。 カミさんと出かけることも多くて私は無線であちらは公園の散歩や散策を楽しんでいます。 だいたい1時間を目処にしていて、あまり長時間オンジエアすることはないので、お互いに飽きずに楽しめる程よいレクレーションになっています。 せっかく訪れた公園です。いくらか健康に良いように私も散策してから帰ることにしています。 ではまた。 de JA9TTT/1

(おわり)nm