2013年12月15日日曜日

【部品】Solderless Breadboard (1)

ハンダ付けのいらないブレッドボード

ブレッドボードを新調
 簡単な回路の場合、最近ではブレッドボードで試作することが多くなった。

 元々のブレッドボードは昔風に言えば「まな板セット」のことである。平らな木板上に部品にソケットや端子などをネジ止めし、立体的な配線で組立てた回路のことであった。米国ではブレッドボード・セットと言っていた。要するにパン切り用のまな板(のような木板)を土台にした電子機器・回路のことだ。

 ここで言うブレッドボードはソルダーレス・ブレッドボードと言うものだ。昔の「まな板セット」とは大きな隔たりがある。 基本的にハンダ付けはせずに、ピン挿入式の端子板に回路を構築して行くものを言う。 その用途は実際に作って試作回路の様子を確かめてみたい、しかし恒久的に使う予定はない・・・と言った目的の製作に向いている。 その時の「土台」になるボードがここで言うブレッドボードだ。 広く使われており既にお馴染みだろうと思うので説明は無用だったかも知れない。

 もちろん高周波回路のように僅かのストレー容量が問題になったり、配線どうしの結合が問題になるような製作には向いていない。 ハイ・インピーダンスでローノイズを要求されるような試作も、静電誘導の可能性が高いのでブレッドボードでは難しいと思う。

 しかし、ごく一般的な低周波回路や高性能(高感度やハイゲインなど)を目的としない中波帯あたりまでの高周波回路も製作の範疇に入るのではないかと思っている。

大きなブレッドボード
 大きめのブレッドボードを購入してみた。 従来の約3倍くらいの回路規模まで搭載できるものである。実際には搭載効率も上がるので5倍くらい可能だと思う。

 そもそも余り規模の大きな試作には向いていないと思うのだが、アナデジ混在回路の試作では意外に場所を取るケースがあって旨く載せるのに四苦八苦するケースも多くなっていた。

 また、回路ブロックごとに分けておき、最後に各部を結合して纏めると言った使い方も可能だろうと思い大きなものを購入してみた。 敷地が広い方が土地の形状・寸法に縛られずに自在なデザインの建物を建設できると言った感覚であろうか。(笑)

愛用のブレッドボード
 これは従来使っていたもので、頂き物だったと思う。 その前に単独のボード部分だけを購入して持っていた。しかし何となく使い難くて活用する機会はごく少なかった。

 このような台座に載っていて電源端子やゴム足と言った付属物が付いたブレッドボードに使い勝手の良さを感じるようになってから徐々に使うようになった。

このブレッドボードには既製のジャンパー線一式がセットになっていたのも便利さを高めてくれたように思う。(次項参照)

ジャンパ−線セット
 ブレッドボードを使い始めるとすぐにわかるが、こうした接続用のジャンパー線のセットは必需品と感じるだろう。

 φ0.6mm程度の錫メッキ線(被覆線が良い)を適宜カットしながら配線を進めると言う方法も有る。 しかしあらかじめピッチに合わせてカットされたジャンパー線のセットがあると組立て効率は非常にアップする。

 写真のものは単芯の被覆電線の両端を曲げて作られた形式のジャンーパー線である。ほかに柔らかな撚り線の両端に挿入端子を付けた形式の物も配線に良く使う。 それぞれある程度の手持ちを用意しておきたい。

参考書
 既に使っている人は自己流で使いこなしていると思うので参考書など不要かも知れない。

 写真の書籍は2007年頃に発売されたものだ。 今ではほかにもたくさんのブレッドボード本が登場している。 これをお勧めするのはある程度の高周波回路までブレッドボードの範疇として工夫して取込んでいるのがHAM向きだと思ったからだ。もっとも、中身はラジオの製作が殆どなので他の電子工作を期待するなら別の本が良い。ラジオ好きには持って来いで、昔のラジオ少年が若かりし頃に思いをはせつつ、ラジオ再入門するには最適かも知れないね。(無線機の製作は無いけど・笑)

 一般的な(常識的な)使い方は、秋月電子通商のサイトにある「ブレッドボードの達人」と言う、使い方のポイントを簡潔に纏めたパンフが良くできている。ブレッドボードを使い始めたらまず最初に参考にすると良いだろう。(直リンク→ここ


参考書の中身
 写真のようなごく小規模のブレッドボードで遊べる範囲の製作を扱っている。これから電子回路に挑んでみようと言う初心者にも難しくないと思う。

 回路図とブレッドボード上の部品レイアウト、そしてジャンパー配線の入れ方まで図で示してあるので、教材にも向いているようだ。ブレッドボードの扱いも習熟できる。(最初から教育分野も出版意図にあるのかも知れない)

 ボードサイズが小さいのでかなり工夫しても部品の多い高級な回路は難しい。ノウハウを身につけたらもっと大規模なものに挑むのが良いと思う。 ただ、そうなるとその「作品」は恒久的に残したくなるものだ。 そんな時にはブレッドボードではなく蛇の目基板にハンダ付けで作るなり、更に一歩進めてプリント基板化も考える次の進歩の段階だと思う。恒久的に安定な製作物に纏めるべき時が訪れたわけだ。

小道具が大切
 ブレッドボードを使った製作と言えば、いきなり部品の足を差し込んで行くと言ったイメージが強い。 私の製作方法もそれに近いものがある。 あくまでも仮設だからだ。

 しかし、製作物に多少なりとも安定な動作や操作の容易さを求めるなら、写真にあるような「小道具」をこしらえておくと始末が良い。
 このあたり、グッドアイディアだと思うので真似させてもらおうと思っている。 もう一歩進めたアイディアも考えてみたのでこれから取込んで行くつもりだ。 かなり小さめのブレッドボードで様々な製作をこなしているのもこうした小道具を用意しているからだ。 これは大きめのボードを使う際にも役立ってくれるだろう。

                 ☆ ☆ ☆

 ブレッドボードと言えば、ソルダーレスではなかった時代から簡易工法のイメージが強かった。 金属シャシの上に回路を構築すると言った構造が一般的になる以前のイメージもあって、まな板セットは超古臭いイメージであった。
 時代は移り変わり、半導体回路の簡易実験に電子ブロック以上に高度な製作を、而もハンダ付け無しに実現するならブレッドボードは最適だと言えるようだ。
 接触不良の危険などもあって多少難しい面もあるとは思っているが、使ってみればなるほど便利なのでちょっと試すと言った用途にはお薦めできる。 大きなブレッドボードとジャンパー線のセットは3,000円以下で手に入る。お炬燵で楽しむお正月の電子工作にもピッタリかな?

2013年も後わずか、良いお年をお迎え下さい。御愛読感謝。de JA9TTT/1

(おわり)

2013年12月1日日曜日

【測定】GPS-RX and OCXO : Part 1

【GPS受信機】
GPS受信機・基板
 写真はGPS受信機基板:TU30-D140 "Jupiter"(仕様書←リンク)である。 暫く前に世界中で出回ったが既に過去のGPSモジュールになった。このテーマ、こんな古いものを持ち出すより新しいものでやる方が望ましいが、手持ちの機材を有意義に活用する為の一環だ。そうでもしないとますます陳腐化が進んでしまう。

 以下,旬を過ぎた部品(基板)を扱っている。努力すれば入手も可能とは思うが、無理に求めるのはお勧めしない。稀にオークションに出るかも知れないが皆で取り合れば高騰して面白くもないだろう。

 これは何でもそうだが、同じことの手段は他にもありうる。 真似るは学ぶに通じるから良いとしても、まるまるのコピーではではなく各自アイディアと工夫で乗り切ることをお勧めしたい。 もっとも金メッキに拘るとか霊験あたらかと云う「お宝部品」に置き換えると言った「ご工夫」ではコメントに窮してしまうが・・・。(笑)

                  −・・・−

 この基板は、ロックウエル社製である。写真の白い同軸ケーブルの先には一般的なGPSアンテナを接続する。昨今はGPSアンテナとこうした受信機が一体化したモジュールが多くなったので独立したGPSアンテナと言うものを見かけなくなってきた。

 グレーのフラットケーブルが付くコネクタ部には電源ほかシリアル・データ出力が引き出されている。 レベル変換してやればRS-232Cインターフェース経由でアンテナ位置の緯度・経度・海抜の情報が得られる。得られたデータを地図上にプロットすればGPSナビゲータのようにもなり得る。

GPS受信機・基板裏面
 TU30-D140基板の裏面である。
ロックウエル社のLSIが見える。 このチップは1990年代半ばの設計だろうから、この分野ではすでに過去の遺物になってしまったようだ。非常に進歩の速い世界だ。

 この基板からは位置情報とともに衛星搭載の原子時計に時刻同期した1pps、即ち1Hzの信号と、さらにその1Hzに同期した10kHz信号が得られる。

 即ちこれらの信号の精度はGPS衛星上の原子時計と一致する。1pps信号は周期の平均化処理によって電波伝搬などに由来する揺らぎを除去する操作を行なえば非常に高精度の「基準時間・基準周波数」が得られる可能性を秘めている。

 どんなGPS受信機でもこうしたタイムシグナルが得られる訳ではない。 このGPS受信機が「ある時期」もてはやされたのは1pps/1Hzと共に10kHzが得られたからであった。 10kHz信号があるのは便利だが本質的なものではない。 10kHzにロックするPLLなら簡単なのだが、肝心の10kHzが揺らいでいるのだ。 普通のPLL設計のようにref=10kHzでループフィルタの設計をしたのではアウトプットに1pps/1Hzの揺らぎが殆どそのまま残ってしまう。 結局、その揺らぎを考慮すれば1pps信号から始めるのと違わない。

 仕組みからGPS受信機から「基準」として得られるのは1pps信号のみだ。他の信号があるとしても1ppsから作られたものだろう。 従って1ppsこそが最も重要である。 同じような1pps出力が得られる受信機モジュールは他にも存在している。 リーズナブルな価格で入手可能かどうかは調査を必要とするとして、もし得られるなら新しい世代のもので代替すべきだ。可能ならスペックに1ppsがタイミング同期しているとあるものを選びたい。 TU30-D140は消費電流も大きいし衛星の捕捉能力などを考えればやはり一時代以上前のGPS受信機だ。

TU30-D140のインターフェース
 動作確認とこの先の活用の為に、インターフェース基板を製作した。

 TU30-D140とデータをやり取りするシリアル信号は0〜5VのTTLレベルである。 パソコンと接続するためにはRS-232Cインターフェースの標準電圧に変換する必要がある。 なお、USBとインターフェースするにはUSBシリアル変換ケーブルを使うことになる。(一般に市販されているもので可)

 そのほか、GPS受信基板に必要な5V/約220mAと1pps及び10kHz信号のバッファ回路も載せてある。 必ずしもこうしたインターフェースを作る必要性は無いのだが、取りあえず動作テストの実施には有用だ。

インターフェース基板の様子
 ユニバーサル基板上にインターフェース回路を搭載し、その上にGPS受信機:TU30-D140を載せるように実装した。

 LED(青)は1pps信号で点滅するが、実際の使用時には消灯できるようにしておくべきだと思った。点滅状態が常に見えるのは確認には良いとしても煩わしい感じがする。 視野内に存在する点滅光は非常に目に付くからだ。

 +5Vの3端子レギュレータを搭載している。 やや放熱器が小さいので10Vくらいまでの入力電圧で使うべきだ。 12Vでは過熱してしまう。 RS-232Cのコネクタは写真に見えないが3線式で9pinのD-SUBコネクタに引き出されている。 GPSアンテナはTU30-D140から引き出されたケーブルのSMAコネクタに接続する。 GPSアンテナへのパワー供給はジャンパーピンでON/OFFする形式だ。たいていのアンテナは電源を供給してやらないと受信できない。

GPS-Antenna
 アンテナは古いカーナビに良く使用されていたアクティブタイプが向いている。多くはパッチ・アンテナと言う形式だ。 アンテナは電源電圧が5Vのタイプが向いている。 3Vのものもあるので要注意だ。 もし5Vタイプがなくても3Vに落としてやれば大丈夫なので入手できたものを使えば良い。

 なお、実験程度だとは思うが、ダイポールアンテナでもそこそこ受信できるそうだ。ダブル・ヘリックス・アンテナなどを自作しても面白い。なかなか高性能だそうである。(こちら←リンク) 或は20cm角程度のグランド・プレーン上(金属板)に立てた約4.5cm長のモノポールとその根元にMMICのRFアンプを付けた自作アクティブ・アンテナでも十分いけるという。

 写真は既製品のアンテナを使った仮設のテスト風景である。本格的に連続運転するならしっかりした耐候性のケースに収納しておくと安心できる。 また、こうしたパッチ・アンテナの底面には接地面が有った方が良いので写真のような金属板に密着させて使う。 なるべく全天が見渡せる場所に置くのはもちろんだ。 この状態での衛星受信状況は次項のようになった。 衛星が家影の方位(この例では南東方向)に来ると旨くないが全般になかなか良好に受信できている。

NMEAモニタで受信確認
 GPS受信機からはNMEA-0183フォーマット(説明→リンク)で測位情報が出力されている。これは各種GPSモジュールに採用されている標準的なデータフォーマットである。

 NMEAモニタと言うソフトウエアをパソコンにインストールして受信状態の確認を行なってみた。 このBlogの右の下方にあるGPSリンク集先からダウンロードできる。(直接リンク→ここ)インストールしたらcomポートの選定と、ボーレート、パリティの設定を行なう。写真のような画面が現れればOKだ。(注:画面のような状態になるには受信開始から数10分〜数時間かかる)

 チャート上の赤丸は測位に(時刻同期にも)使用している衛星で、白丸は見えているが使用していないもの。高度が低く地平線の近くを飛行する衛星は精度が出難いので使用しない。観察していると地平の彼方から昇り、地平に沈んで行く様子など少しずつ移動する様子がわかる。
 下段中央のバーグラフは信号強度を示している。黒いバーが測位に使用している衛星で白いバーは使用していないもの。バーの無いものは準備中もしくは受信状態の良くない衛星を示している。各衛星の詳細情報は右の欄に表示されている。
 そのほか、GPS受信基板から出力される文字列をそのまま表示する機能などもある。なお、余りにも詳細な緯度経度はピンポイントでミサイルが撃ち込まれると困るのでモザイクにさせてもらった。(笑)

 他にもGPS受信機からNMEA-0183データを受け取って加工表示するソフトウエアは多数存在している。 GPS-DOとしてではなく他の目的に使うのも面白いかも知れない。 得られた緯度経度情報をGoogle Mapで表示すると拙宅の庭先を表示するので数mの誤差もなかった。 但し、近傍の水準点のデータと照合すると海抜の数値は誤差も変動も大きくてあまりアテにならない感じだ。ジオイドの補正が必要なのかも知れない。

                   ☆

 TU30-D140では少なくとも4個以上の衛星を安定して受信している必要がある。 そうでないと測位精度のみならず1pps、ひいては10kHzの同期性が失われてしまうそうだ。 そうなると高精度の周波数基準器の大元として利用できない。 実際にどのような受信状況になるのか暫くそのまま放置して観測してみた。

 数日間継続して動作させ随時状況の観察を行なった。 起動直後こそ捕捉する衛星数が少なくて、ぎりぎり4個程度の状態が続く。(数10分程度) やがて安定して来て少なくとも6個くらい、さらには写真のように8個以上を継続して捕捉するようになる。 昔テストした時よりもだいぶ衛星数が増えた感じもする。 継続して4個以上の捕捉は難しくなさそうだった。 時間を掛けて統計的に見るべきだと思うが、4個以下の状況になる確率はかなり低そうだ。(ゼロではない)

 こうした状況から見てGPS-DO用の受信基板として旨く使えるものと結論する。 実際のアンテナ架設にあたっては極力視界の良い場所を選ばぶべきだろう。 過去に良い結果が得られなかった事例はそうしたアンテナの影響があったのかも知れない。

以上、あらためて実施したGPS受信機の動作テストは上々であった。 安定した1ppsが得られれば残るキーパーツは良質のOCXOである。もちろんシステム設計もポイントとなる。

ここまではこのBlogで2008年春ころ扱った内容と概ね同じなので過去を知る人には目新しくなかったかも知れない。僅かとは思うが知る人は古参のBlog読者と言うことになる。hi

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OCXO各種
 GPS受信機の再評価が済んだら今度はオーブン入り水晶発振器の話しだ。この2つはGPS周波数基準器:GPS-DOのキーパーツとして強く結び付いている。良い性能のOCXO無しには実現できないからだ。(Rb-OSCでも良いのだが)

 少し前に良さそうなオーブン入り水晶発振器(OCXO)が手に入った。 それがGPS受信機の再評価を始めた切っ掛けであった。 その切っ掛けは写真のようなものからである。 5MHzと10MHzの各種OCXOだ。ジャンク屋ではなくオークションに頻繁に出ているのでモノを良く見て狙うと良い物が手に入る。 YAHOO!ではなく米e-Bayなどに良い物を見かける。

 このうち、右下のトヨコム製のTCO-646-A1だけはVC-OCXOの機能がなかったが、ほかはいずれも外部電圧によって周波数をコントロールするVC機能がある。

 暫く前のBlogでは周波数カウンタの基準用として作られたかなり旧式のOCXOを評価したことがあった。 今回評価してこの分野も確実に進歩していることを感じる。 写真のうち小型の3個は明らかに新世代のOCXOだ。 水晶発振子も旧来のATカットからSCカットへと移行しているものが多い。伴って位相雑音も少なくなっている。

 新世代は何が大きく違うのかと言えば、起動時間が短いことだ。 昔のタイプではある程度の精度(誤差0.1ppm程度)に落ち着くまでには数10分以上、数時間も要していた。さらに真の安定状態までには24時間くらい掛かった。 新タイプのOCXOは数分の一の時間で「安定」に達するようだ。 内部の熱容量が小さくなるよう製作されており、温度安定に達するまでの時間が短いからであろう。

 消費電流を観察すればごく短時間で温度平衡状態に到達するのがわかる。 伴って発振周波数の精度も短時間で得られる。 もちろんGPS-DOに要求されるような超高精度・高安定度までにはさらに相応の時間を見るべきである。

 但し上記は放出されたジャンク品の話しである。現在の最先端は更に小型で低消費電力で安定度も一段と良い方向へ進歩している筈だ。

まずは国産愛用から?
 後から評価してみて、CEPE(仏)とOFC(米)のOCXOの方が優秀な印象を受けている。 しかし、最初は大きくて立派で(見た目が・笑)奇麗なトヨコム製から始めてみた。

 これは電圧制御・周波数可変機能:VC機能はないのでそれについては例によって調査の上、改造で対応するつもりだ。まずはOCXOとしての基本的な特性を把握しよう。

 電源電圧は9Vである。 起動時には比較的大きな300mA近い電流が流れるが数10分すると概ね安定な状態になる。 なお、そのとき外箱に触れるとかなり暖かい。 本格的にGPS-DO用として使う際には外気との熱遮蔽を十分行なうか、更に一歩進めてダブルオーブン化も検討べきなようだ。(その場合も熱遮蔽は有効)

周波数精度・安定度
 流石にOCXOである。 数時間の通電でこのような周波数精度が安定して得られる。(周波数校正は行なっている) 写真撮影に使ったユニバーサル・カウンタには既設のGPS周波数基準器(GPS-DO)からリファレンスの10MHzを供給している。

 この状態で1/50,000,000の精度と言う訳だ。(0.02ppm) 一般的にはたいへん高精度と言える。数日観察してみたが、この状態が継続維持できたので安定度も良好だ。 このくらいの周波数安定度・精度があるなら最近注目のQRSSなどの周波数高安定度を要する通信モードにも最適ではないかと思う。 これを周波数基準器として使い必要な周波数を作ってリグに供給するのも面白いだろう。無線機にオプションのTCXOよりも2〜3桁ほど良い安定度が得られる。 高純度な基準信号でもあるからPureなAudioのクロックソースとしてもなかなか魅力的と言えるようだ。

周波数調整穴
 TCO-646-A1は外部から機械的に周波数校正が可能なようにできている。 従って単体で微細な調節が可能である。もちろん、校正手段が問題にはなるのだが・・・mHz(ミリHz=1/1000Hz)のオーダーまで合わせ込もうとするとテクニックを必要とする。

 写真はその調整穴で、どうやら周波数調整は多回転のボリウムになっているようである。 ・・・と言うことは、内部には周波数を電圧で可変する仕組みがあるはずだ。 もっと具体的に言えばバリキャップのような、電圧でリアクタンスが変わる素子が使ってあるのだろう。

VC-OCXOへ改造
 VC-OCXO即ち、電圧制御・周波数可変機能付きオーブン入り水晶発振器に改造する訳だ。

 写真はケースを外した様子である。 ハーメチックシールでは無く、単なるネジ止め構造なので簡単に内部にアクセスすることができた。

 写真中央に大きく見える箱型の物体は水晶発振子である。 そのほか発振回路と水晶発振子を恒温化する機能などを内蔵する。 水晶発振子には発熱線(ニクロム線とかマンガニン線?)が巻いてあるほか、制御トランジスタのフィンも熱結合する形式になっている。 それほど高級な構造にも見えない。 むしろ、高級なTCXOの方が技術を感じるのは気のせいでは無いと思う。オーブン式は言わば腕力で周波数を安定させるようなものだ。もちろん、オーブン用に適した水晶発振子を製作する高い技術は必要だろうが。(笑)

VC-OCXO化の評価
 図はVC化改造後の特性だ。 改造で設けたVC端子へ加えるDC電圧と周波数の関係を示している。 電圧可変リアクタンス素子はバリキャップが使われていた。 そのため加えるDC電圧と静電容量の関係はリニヤでない。 結果として周波数制御電圧対周波数の関係も図の様にノンリニヤになる。

 このことは、PLL回路の設計のときに幾分影響がある。 一巡系のループゲインが状態により変動することになるからだ。 しかし、中央付近を使うことにして設計すれば何とかなるであろう。 改造後の周波数安定度も見たが、特に改造前と変わらなかったのでVC-OCXO化は成功したようだ。 十分なウオームアップ時間をとれば周波数は良く安定しているからGPS-DOに使える性能がありそうだ。

                     ☆

  何気なく表とグラフをご覧だと思う。しかし1mHz(=0.001Hz)のオーダーまで周波数を読もうとするのはそれほど容易では無い。(特に迅速に行なうのは) 単に測定器があれば済むと言った問題でないことは実際にやってみた人だけがわかる。 1mHzの桁には不確かさが含まれている。

CEPEのOCXO
 写真はフランスはCEPE社製の10MHz・OCXOである。

 小型軽量であり、何となくTOYOCOM製よりも安っぽく感じて頼りなく思ってしまった。 そのため評価が後回しになってしまったが、実はこちらの方が性能は良い。

 規定の周波数精度に落ち着くまでの時間はずっと短いのである。 OCXOの弱点、ウオームアップの過程ではむしろ「低精度」と言う部分が短時間で済むわけだ。 また、安定してからの消費電流も少ないので、OCXOとしてはかなり優れている。

周波数調整方法
 トヨコム製は可変抵抗器を内蔵していたので周波数調整は外付け部品無しの単独で行うことができた。

 CEPEほか外国製のOCXOはいずれも外付けの電圧可変式周波数調整になっている。 図は標準的な周波数調整とVC化して使うための方法である。 可変範囲を狭くする方が調整は容易になるが、何らかの原因で大きくずれた時には合わせきれない。 各メーカーともに初期周波数精度はバラツキが大きいと言う書き方のスペックなので、実際に必要な以上の可変範囲幅で回路設計することなってしまう。 さらなるマージンを見込むと可変範囲が過大になって調整で追い込むのが困難になるから必要な範囲でなるべく狭めの調整幅に設計するのが良いと思う。

CEPE製10MHz-OCXOのVC特性
 制御電圧と周波数の関係を測定してみた。 PLL回路で言えばVCO感度の測定と言うことになる。

 外付け抵抗の値でVCO感度を変えることができる。ここでは10kΩと100kΩでやってみた。

 高安定で、ジッターの少ないPLL発振回路とするには電圧可変範囲はなるべく狭くすべきだ。 しかし経年変化が大きいとやがてロックレンジを外れてしまいPLLはロックできなくなるかもしれない。 頃合いと言うものがあるので、目的や用途、更には校正(調整)の周期なども考慮に入れて最適化したい。 また、あまりVCO感度が低いとPLL回路に入れた際にループゲイン不足になるので旨くない。 C/Nを良くしようとすれば、どうもその傾向が強くなってループフィルタの設計が難しくなる感じである。

                 ☆ ☆ ☆

 このBlogテーマ、既にルビジウム原子周波数基準器(Rb-OSC)が普及してきたので時代遅れかも知れない。 アンテナと言うヒモ付きではない方が何かと便利だし常時運転を要するGPS-DOはいま一つに違いない。 しかしGPS衛星を受信している限り常に周波数校正され続けていて時間経過に伴う精度低下が生じないと言うのは非常に大きなメリットだ。 従ってRb-OSCがあっても比較校正用としての有用性はまだまだ高いのでは無いかと考えている。 GPS-DOを「自家の」一次基準としてRb-OSCを校正し、それを二次基準として機動的に用いる行き方である。利便性を持たせつつ周波数(時間)の高い精度や安定度が維持できるだろう。

 なお、GPS周波数基準器の製作の具体例については「トランジスタ技術誌2016年2月号」P99〜P125の参照を。新世代のGPS受信機の入手から基準器の製作、製作後の周波数精度の評価まで詳細に解説した。(2016.1.10)

参考:新世代のGPS受信機:NEO-6Mとそれを使ったGPS周波数基準器の製作に関するBlog内関連情報はこちら(←リンク)から。

 GPS受信機の復習と新しい世代のOCXOにまつわる話題、例によって昼の憩いになっただろうか? 暇つぶしとは言え先端的なModeでOn the Airを目指すHAM局に何かの一助にでもなってくれれば幸いである。優れた周波数精度と高い安定度はデジタル通信時代のニーズなのだから。

 2002年8月に運転開始以来、既に10年以上経過したがhp製のGPS受信機:Z3801Aとそれを活かす自作の周波数基準システムは健在である。 今のところ代替システムの必要性は低いのだが、良さそうなOCXOが手に入ったことで技術的な興味が湧いて再び検討してみた。de JA9TTT/1

つづく)←リンク