2014年12月1日月曜日

【測定】Rubidium atomic clock

【測定:ルビジウム原子クロック/10MHz周波数基準器】

仮設から脱却
 ルビジウム原子周波数基準器:LPRO-101をケースに収めました。 従来のテスト運転・・・言わば仮設状態から脱却して本格的に使える状態になりました。

 周波数基準器は極めて精度の良い10MHz得るために使う物です。 同種の基準としてGPS周波数基準が稼働中なので必要度は高くありませんでした。 最近になって測定器の置き場が2ヶ所に分散したので新たに周波数基準が欲しくなりました。 GPS基準器の分配を増やしても良いのですが、配線を長く延ばす必要があるのが面倒です。 そこで10MHz:ルビジウム原子周波数基準器:Rb-OSCの活用を決めました。

 Rb-OSCユニットを収納したケースはハム局の外付けリニヤアンプ用でしょう。 10年以上前にローカルのOMさんに頂きました。 構造から他への応用には使いにくいためそのままになっていました。 Rb-OSCの本格稼働を目的に適当なヒートシンクを探していてこれが見つかりました。 ユニットの取り付け方法を工夫することでうまく収納できました。

 ケース内部に4分配用アンプを収納しました。出力はパネル面に1つ、背面に3つです。各出力ともGND側および信号側共にアーソレーション(絶縁分離)されています。 接続する機器間のシャシ電位差やグラウンド引き回しの影響を受けません。

 電源は24Vで、 起動直後5分間ほどが約1.6A、平常運転時には約0.6A流れます。 AC電源も内蔵するとスッキリします。しかし磁気フラックスが漏れる電源トランスや、大きなノイズ源になり得るスイッチング電源が同居したら信号純度の点で不利です。 大きな箱に入れ厳重にシールドすれば対策できますが、あっさり別置きにしました。電源部は本体と並べずに1mくらい離しておけば良いわけです。 稼働には写真にない外付けの電源が必要です。

仮評価
 数年前ですが、仮設状態で評価した際に入念に周波数調整してありました。

 写真は10MHzを10秒ゲートで測定しています。桁数の関係で最上桁の「1」が表示オーバーフローしています。 最小桁は100ミリHzで、この状態は10ppb(1億分の1=0.01ppm)までの測定ですが取りあえず製作直後のチェックとしては問題なさそうです。

 このあと、十分な連続運転が済んで安定してきたところでGPS周波数基準器と周波数合わせを行ないます。

 この10MHz-Rb-OSCは1ppb(10億分の1、10E-9、絶対値で10ミリHz)の精度まで普通に得られます。しかし小さな温度係数があって10ppt(1兆分の10、10×10E-12、絶対値で10マイクロHz)オーダーの僅かな漂動が認められます。 通常まったく問題にはなりませんが完全に静止した不動の基準ではありません。 また経年変化もあって数年に1度くらいの周波数合わせは必要なようです。もちろん、校正頻度は要求精度によります。 この種のRb-OSCは校正しながら使うべき『2次基準器』です。(参考:放電セルのガス・クリーンナップ現象による圧力変化に伴う周波数シフト量の経年変化のようです) GPS衛星にもRb-OSCが搭載されていますが、あれは地上局から常に監視され、随時補正されて高い絶対精度が維持されています。 非常にゆっくりした変化なので監視して補正を続ければGPSナビゲーションに必要な精度を維持することができるのです。

きれいな10MHz
 もう一つ気になるのは10MHz信号の奇麗さでしょう。 写真は横軸:10MHzを中心に10kHz幅にとって信号近傍のスペクトラムを見ています。 LPRO-101のあとに分配用アンプを付加した状態です。実際の出力信号と言うことになります。

  50Ω負荷に信号レベルは8.54dBmです。 信号純度は良くできた水晶発振器と同等です。ジッターはもちろんサイドバンド・ノイズも認められません。良い信号が得られています。

 LPRO-101内部には20MHzのVCXO(電圧可変型水晶発振器)があり、その周波数をRb放電管セルの光吸収スペクトルが起こる励起周波数:6,834,682,612.8Hz*1にロックしています。回路としては周波数ロック・ループ:FLL方式です。

参考*1:原子時計・発振器にも幾つかの方式があり、直接周波数を取り出す形式・・メーザー形式の物もあります。ここで使ったRb-OSCでは実現の容易さからガスセル式の吸収スペクトルを利用する間接的な方式を採用しています。NIST(米国国立標準技術研究所)によるRb原子時計の理論的な周波数は6,834,682,612.8Hzですが、LPRO-101では6,834,687,500Hzとなっています。この周波数差+4887.2HzはRb放電セルに混合された緩衝ガスによるシフトです。端数の少ない奇麗な周波数になっていて、LPRO-101はそのように設計されたRb-OSCであると言えます。これは緩衝ガスによる周波数シフトを逆手に取った上手い方法であり、方式特許として出願されています。もちろん2次標準器だからこそ可能な方法です。

 その20MHzを1/2分周して得ている10MHzの本質は水晶発振器そのままです。Rb発振器とは言ってもこの間接方式の場合「Rb放電管の発振周波数」のような直接得られる「何か特別」の周波数がある訳ではありません。得られる10MHzの元は水晶発振器です。こうして見ると内蔵の20MHz発振器もまずまずなようです。

 この10MHz発振器を基準に携帯電話の中継網を構成していたのですから信号の品質は言うまでもないでしょう。 基準信号が汚ければ中継機からの信号もすべて汚れてしまいます。 周波数の絶対精度および安定度は勿論ですが純度の良い信号を必要としていたはずです。

#この製作では電源を外付けにし、10MHz分配用アンプをローノイズに作ったのも意味があったようです。高速OPアンプを使えば製作は容易ですが、ノイズフロアの上昇が気になってディスクリートで作りました。

 このくらいの基準信号ならV/U/SHF帯の通信用周波数基準としても十分でしょう。 マイクロ波帯のPLLや多段の周波数逓倍にも耐えられます。 測定器の周波数基準やオーディオ再生装置のマスター・クロックのみでなく利用範囲の広い周波数基準器です。 起動から高精度までの待ち時間が短くGPS周波数基準のようにヒモ付きでないのも便利です。

#もちろん、いくら良い周波数基準があってもその後が劣ればそれなりです。Rb-OSCさえ繋げば・・・と妄信したら間違いでしょう。

                   ☆

 12月のBlogは更新しないつもりでしたが、それも寂しいので近況報告しました。 内部写真は撮り忘れました。 簡単な製作なので詳細な製作情報は省きますが、もしもニーズでもあればいずれ機会を見てレポートします。 これで今年はおしまいです。どうぞ良いお年をお迎えください。de JA9TTT/1

(おわり)

参考:ルビジウム発振器関連の過去Blogなどの情報
(1)Rb-OSC今が旬か? (2009年2月1日)→ここ
(2)あなたも今日から高精度病 (2010年9月5日)→ここ
(3)GPS周波数基準器の製作(2016年1月10日)については→ここ
(4)肝心のRb-OSCですが、LPRO-101は旬を過ぎています。代わってFE-5680Aと言うユニットが出回っています。おおよそ$200〜$300でe-Bayに出ています。→該当へリンク

重要:オークションの出品物は基本的にジャンクです。性能・品質は保証されません。実際に非常に酷い出品物もあります。Blogの記述は購入の助言や推奨ではありません。入手は各自の責任で行なって下さい。どのような結果にもこのBlog筆者は関知しません。

2014年11月15日土曜日

【HAM】 A New life for FT-101 Part 2

【八重洲 FT-101にニューライフを】
FT-101のシリアルナンバー
 Part 1(←リンク)の続きです。 FT-101は世界のベストセラーなので詳しく調べられています。情報がネット上にたくさん存在します。 (参考:ここではFT-101無印〜FT-101Eまでを扱います。FT-101ZDシリーズについてはこちらのBlog(←リンク)です)

 Part2では、再整備してからWARCバンド改造を行なう本機の素性を明らかにしたいと思います。 八重洲のこのシリーズについては、NW2M のサイト(←リンク)が詳しいので参照しました。

 それによれば、この無印FT-101は、1972年3月の製造です。 FT-101としての生産は12ラン目(12th Lot)で製造番号は2103号機ということになるようです。  FT-101/B/Eの最終累計では80,000台くらいなので、連番で2103号機では少なすぎますし、ロット内の番号としては大きすぎるように感じます。
 CQ出版の「FT-101メンテナンスガイド」(ISBN4-7898-1015-1)では別の記述です。それによれば山梨工場(=1番工場)の22ロット目、ロット内番号103号機という解釈です。ただしそうに思いますが、その記述でも解明できない謎もありそうです。正しくはどんな番号なのでしょう。 それにしても、生産開始から2年にもせずに12th Lot/22nd Lot(後者)に達していたのは趣味の高額な機械としては例外的な大ヒットです。ここでは22103号機と呼ぶことにしましょう。

 1972年当時の138,000円と言えば2014年現在の50万円以上に相当します。 米国では$500〜$550で売られますが彼らにもお手軽ではなかったそうです。ニクソンショックで変動相場制に移行していましたが、$1=¥300-くらいでした。 FT-101のヒットは八重洲無線の急成長に貢献したのは間違いありません。

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 この先、40年モノの「他愛ないお話し」になります。 特別な興味でもお持ちならともかく、お付き合いいただいても時の無駄かも知れません。何か有用な「情報」もありません。 お暇の無いお方はここらで早めにお帰りください。 たっぷり時間があるならごゆっくりどうぞ。 例によって異論・反論があってもマジになりませんように。 何せ「他愛ないお話し」なのですから。(笑)

                   ⭐︎ ⭐︎

初期型の色濃く・1
 22103号機は最初期型の設計が色濃く残っています。 例えば、このVFOの上にある固定チャネルの発振基板です。 後のモデルでは本格的なノイズ・ブランカやスピーチ・プロセッサが載っています。

 無印FT-101にもノイズ・ブランカはありますが、ごく簡単な方式がIF基板に同居しています。 従って、効果があるのはイグニッション・ノイズくらいで、他のノイズには効きません。 それでもJAではノイズ・ブランカが搭載されたのはこのFT-101が初めてなのでCQ HAM Radio誌で特集が組まれるほど話題になりました。ちなみにTRIO/KenwoodではTS-511DNが初めてでした。

初期型の色濃く・2
 RF基板はPB1077Bで、BバージョンではRF-Amp.は3SK22GR×2のカスコード形式をやめてDual-Gate MOS-FETの3SK39Qになっています。FETのドレインを切り離すために小型リレーが搭載されているのが特長です。ここは後にダイオード・スイッチになります。 

 この基板に同居するミキサは送受信ともにバイポーラ・トランジスタ(BJT)が使われています。 受信第1ミキサが2SC372Y、送信の第2ミキサは2SC373です。これでは混変調特性が今一つなのもうなずけます。 BCL用受信機でもあるまい、BJTではHAM用通信機に不適当です。

 受信第1ミキサはまもなくFET:2SK19GRになってかなりの改善を見ます。 蛇足ながら、別基板上の受信第2ミキサも2SC372Yから3SK39Qへと変更されます。2つの送信ミキサは最後までBJTのままですが使用デバイスは何回か変更されます。

 もしも、今からFT-101の入手されるなら間違いなくFT-101B以降のモデルにすべきです。このように無印101とB付き以降では大きな違いがあります。

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FT-101の終段管のお話し
 終段電力増幅管の話しです。 FT-101Eなど、後期のモデルでは写真の6JS6Cが2本パラで使われています。(100Wモデルの場合) 写真の6JS6CはNEC:日本電気製ですが、これは東芝が電子管の製造をやめてからFT-101(E)に採用されました。

 6JS6Aは言うまでも無いでしょうが、ブラウン管式カラーTVの水平偏向出力管です。 FT-101の初期型には6JS6Aが使われますが、TVの方が順次アップグレードしたのでFT-101でも自動的に6JS6Cへとバージョンアップされました。 東芝製の6JS6Cはプレートの外側に放熱補助翼が・・もちろんガラス管の内部ですが・・付けてあり放熱の改善を試みています。このNEC製には付いていません。 しかしトランシーバの場合、主な放熱は輻射ではなくファンによる空冷です。基本的に6JS6Aでも6JS6Cでも大丈夫です。一度しか見たことはありませんが6JS6Bでも。

31JS6Aで代替
 ヒータ電圧が異なるので、6JS6AをトランスレスTV用の31JS6Aで代替するのは面倒です。 幸い、背面の11ピン・アクセサリ・ソケットに終段管のヒーター配線が出ているのでそこに供給すれば旨く行きます。 ただし、ヒーターは2管直列の配線になっているのでそのままでは63V掛けねばなりません。

 しかし、そのような配慮をすればトランスレスTV用に作られた6JS6系の球・・・例えば、23JS6A(600mA系)や31JS6A(450mA系)で代用できます。 現在、ヒーターが6.3Vの6JS6A〜6JS6Cは枯渇しています。 Audio系の球と違って新規製造の可能性はありません。 そのため終段管の補給に困るケースも見られます。 しかし工夫すれば代替可能なので覚えておくと助かります。

参考:正確には31JS6Aのヒータ電圧/電流は31.5V/450mA、また23JS6Aは23.6V/600mAです。それぞれ±5%以内のヒータ電圧を与えます。なお6JS6A〜Cは6.3V/2.25Aです。一般に受信管のヒータ電圧の許容範囲は±10%ですが、パワー管では±5%程度に収めるべきでしょう。特に低い方は厳しいので-5%までと考えています。言うまでもありませんがヒーター電圧は真空管のピンの所で測った値です。ヒータートランスの巻線電圧ではありません。ヒーター配線による電圧降下が思いのほか大きいことがあります。

ヒータ配線の変更
 このように配線変更してしまうと互換性がなくなってしまうので好ましくないかもしれません。

 しかし、手持ちのヒーター用トランスでは63V/450mAを供給するのが大変なのでヒーター配線を2管直列から2管並列に変更しました。 よって31.5V/900mAを供給します。

 なお、きっちり31.5Vでなくても大丈夫で30〜33Vなら支障ありません。この機体は中古の不動品をレストアしたものです。元来付いていた6JS6Aは完全なエミ減(エミッション減退=カソードの電子輻射能力減退によりIpが十分流れなくなる。原因は酷使による消耗)でした。そのため新品の31JS6Aに交換して外にヒーター用トランスを設けてACCソケット経由で点灯してテストしていました。 ヒータが6.3Vの6JS6の手持ちが無くなったからです。31JS6Aなら何本かありました。 (まあ、お金さえ出せば手に入ります。しかし1本1万円も出して買うような球ではないので・笑)

 写真で左右の真空管ソケットの色が異なるのは右側のソケットが不良になったからです。珍しい故障なので原因究明に手間取りました。それだけ酷使された機体だったようです。どうも27MHzの違法CB(AMで)で使っていたようでした。 不良マイカ・コンデンサの幾つかと、そのショート故障の道連れになったドロッパー抵抗器も交換しました。

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6JM6で代替検討
 6JM6というのは、6JS6Aより小ぶりの水平出力管です。 画面の大きなモノクロTVに使われていました。 日本ではあまり使わなかったようで、ジャンクのTV受像器で見た覚えはありません。

 日本のモノクロTVでは独自の水平出力管が使われていたのでコンパクトロン管はあまり使わなかったのでしょう。

 幸いなことに、6JM6は6JS6Aとほとんど同じピン配置です。 配線変更はほんのわずかです。 有力な代替候補ですが、これも既に枯渇気味でしょう。 もしも手持ちにあれば試す程度かもしれません。わざわざ購入するすることもないでしょう。

パワーは半減か?
 こうやって6JS6Cと並べると、だいぶ小振りです。 肝心の許容プレート損失は28Wから17.5Wへと4割近くの減少です。スクリーン損失も5.5Wから3.5Wへと同じく約4割減です。

 従って、2管並列でも100Wアウトプットは無謀です。 良いところ半分で使えれば上等でしょう。 実際、FT-101の前身にあたるFTDX-100/150では2管使って50W出力でした。それにならった使い方が適当そうです。 FTDX-100よりプレート電圧が高いのでIpをセーブすれば事故にはならないでしょう。少しスクリーンも下げた方が良いかも知れません。

6JS6は6DQ5系の球
 別の代替の可能性も考えてみました。 外観の違いで、気づかないかもしれませんが、6JS6A系のルーツは6DQ5です。 プレートの大きさや形状を比較すると類似がわかります。

 もし、6DQ5系の球があれば十分代替できます。 ベース(ソケット部分)はGT管と同じ8ピン・オクタル型なので交換が必要です。 また背丈も高いので収まりきれないと思いますが電気的には代替できます。 6DQ5といえば、その昔の自作SSB送信機ではパワーが出ると言って重宝がられていました。(写真:左は25DQ5、右は31JS6Aで、どちらもトランスレス・カラーTV用)

6JM6は6DQ6系の球
 6DQ6の手持ちは発見できませんでした。写真左は6G-B6という国産管で6BQ6系の球です。 6DQ6は6BQ6のプレートを大きくしてパワーアップした球なので、プレート損失を除けば6G-B6もよく似ています。パワーダウンを許容するならこれらの代替も可能です。6JM6は6DQ6直系の球ですから6G-B6も親戚筋です。

 一説によれば、6DQ5系、即ち上記の6JS6AよりもIMD特性は優れるそうです。 事実、ローカル局によれば軽く使うと3次IMDは-50dBくらい行くそうですから大したものです。5次は幾らか見えるもののそれ以上の高次IMDは見えなかったそうです。 終段が半導体のRigでは3次が-30dBでさえ厳しいのですから並々ならぬ努力をしなくては実現困難な数字です。 もちろん、6JM6×2でも出せるだけパワーを出し、50Wで-50dBなどという筈はなく、せいぜい2管でPEP30W程度でしょう。 このあたり、ご興味あれば「アマチュア無線の新技術」JA1ACB著:誠文堂新光社(絶版だから図書館で)でもご覧になってください。

 6JS6Aを6JM6に交換すると、パワー半減で良いことはないかもしれませんが低IMDというオマケが付くなら面白いです。 外付けヒータートランスも不要なので配線を元に戻して6JM6に換装しようと思い始めています。 入力容量が違うので、ドライブ側同調の関係から補正容量の追加が必要です。 出力容量の方はバリコンの可変範囲が十分あるので支障ありません。 あとはうまく中和が取れるかですが問題は無いでしょう。このあたりは経験から。(笑)

(参考)このFT-101で送信時に良好なIMD特性が得られるかどうかは微妙です。 送信ミキサは2つあって、そのいずれもバイポーラ・トランジスタ(BJT)です。デバイスの種類だけでなく回路設計も影響しますが、一般にBJTのミキサは歪みに対して不利です。改善にはバイアス・ポイントや注入レベルの最適化のようなチューニングも必要で、その為にもツールから揃える必要があります。例えば先のBlogの低歪ツートーン・ジェネレータなどが欲しいです。

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 真空管談義のようになりましたが、整備の済んでいる機体なのでPart 2は雑談を交えました。WARCバンド改造にあたっては終段管の換装も考えています。 追加整備の過程で面白い話でもあれば採り上げましょう。

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プリセレクタとバンドスイッチ
 無印のFT-101ですから、写真のようにWARC Bandどころか160m Bandさえも付いていません。まだこの当時のRigには標準ではありませんでした。

 160m Bandの搭載は米国Drake社の4Cのラインが最初でしょう。 国産機ではこのFT-101が最初でした。そろそろFT-101Bが登場しようかという頃でした。その後は各社とも標準装備になりました。

 160m Bandの出るメーカー製Rigが存在しなかったころは面白かったそうです。様々な自作機でオンエアされていたのでしょう。QSOも楽しかったに違いありません。 残念ながら私がオンエアした頃はメーカー機が幅を利かしていました。既に自作機は少数派でした。 ライセンスはあったのでもっと早くオンエアすればと反省したものです。 ローカル局のUY-807Sの波が思い出されて懐かしいです。自身では受信機:JR-599で水晶制御:2SC931シングル・ファイナルの約5Wでテスト運用し1st-QSOしたのが思い出です。アンテナは7MHz/IVのフィーダー込みロングワイヤでした

 なるべく改造しない方針なので、どこかのバンドを潰すことは考えていません。 従って、WARCバンドはどこかのポジションを共用することになります。 160m Bandの追加は望まないことにしましょう。 160mはダウンバータなど付加してオンジエアすると「懐かしい」という声が飛んでくるでしょうか?? 160m Handbookでも読み返してみましょう。hi hi

FT-101の底面
 今になって思うと、よく詰め込んだものだと思います。 もちろん昨今の半導体機と比べたらずいぶん大きなトランシーバです。 しかし、当時の部品事情と回路構成を考えると感心するくらい詰め込んであります。

 マイクと電鍵、あとは何もいらないというオールインワンのコンパクト機ですからベストセラーになったのも当然でしょう。 しかもDC-DCコンバータ付きなら車載運用もOKでした。 出力回路はアンテナ・インピーダンスの変化にも対応できるパイ・マッチ形式なのでATU内蔵とも言えます。

RF部分
 検討対象のPB1077B:RF部分を見て少々考え込んでしまいました。 詰め込んである無線機です。 何かを追加するにはスペースを確保しなくてはなりませんが難しそうです。 何かを犠牲にはしたくないし・・・。

 なるべく簡単に済む方法を考えて最小の追加で済ませたいところです。 回路の検討は進んでも、どのように実装するのか検討を要します。旨いアイディアが出ないと進捗が止まる危険があります。ww

                   ⭐︎

 さっぱり具体的な話に進みませんでした。WARC Band追加だけが目的ではありません。 まずは再整備してコンデションを整えましょう。 不調な機体に改造を加えたら手に負えなくなります。 下手をすればそのままお釈迦の運命もありえます。 まずは納得できるまで整備したいと思います。 パワーは欲張らないので綺麗な波を目指しましょう。終段管の交換も検討対象です。

 傍でリハビリ中の22103号機に7MHzのラグチューが快調に入感しています。 初めてFT-101を見たのは1969年12月発売のCQ HAM Radio誌(1970年1月号)でした。 それらしく作られた広告でしたが、恒温槽でテストされるカラー写真のFT-101が印象的でした。 発売前なので型番は伏せられていました。どんなリグか想像するしかありません。カドの取れたFT-200ライクの筐体なのでその新型だろうと思ったものです。 やがて詳細が明らかになりそのインパクトたる強烈でした。世にKWM-2というお手本はあったにせよFT-101は日本人が産み出した傑作トランシーバです。いまでも褪せていません。小気味好いSメータの振れに目をやりながら様々な感慨が浮かんできます。de JA9TTT/1

(つづく)←たぶん(笑)

お知らせ:この先師走の繁忙につき年内のBlog更新は無いかも。

2014年11月1日土曜日

【HAM】 A New life for FT-101 Part 1

【FT-101にニューライフを】
 写真は無印・初期型のFT-101です。 ただし1970年5月発売の最初期型ではありません。 最初期型は結構珍しくて、なかなかお目にかかれないでしょう。受信のRF-Ampが3SK22GRを2つ使ったカスコードアンプになっているのが特徴の一つです。他もかなり違っていました。もちろん性能が良くないので改良された訳ですから有り難がるような代物ではありません。FT-101Eなど後期型の方が優れているのは勿論です。

 写真の機体はFT-101無印のかなり初期型のようです。最初期型ではないものの、FT-101Bの登場に近いころのものとはだいぶ違う部分があります。詳細は後に記述したいと思っています。もちろん160m Bandは搭載されていません。 全般的な様子から見て1970年後半から1971年初め頃のものではないでしょうか。いずれ製造番号から調査を試みましょう。 全般的な性能は後のFT-101Eには劣るように感じますが概ね実用性能は有しています。 混変調特性などこのFT-101シリーズが持つ本質的な弱点はやむを得ないとして、よく整備すれば今でも実用に成り得る性能があります。(改訂:2014.10.9)

                 ⭐︎

 閑話休題、ニューライフとは例によってWARC Band追加のことです。(参考:FT-101ZDのWARC Band改造記事は→こちら) FT-101の無印でWARC Bandなど大改造が必要と思われるかもしれません。 しかし、調査した結果、それほど困難なくオンジエアできそうです。 まずは既にポジションが用意されているWWV/JJYのところを30m Bandにするのが手始めでしょうか。この101のWWV/JJYは10MHz帯なので改造は容易な筈です。

 FT-101Zシリーズと違い、こちらのオリジナル101シリーズはダブルコンバージョン形式です。 2回の周波数変換があるので厄介そうに見えるかもしれません。ところが意外にもこちらの方がWARC Bandの追加が容易そうです。 WARC Band対応なしのFT-101Zシリーズに追加するより簡単かもしれません。 バンドスイッチのWWV/JJYの所に30m(10MHz) Band、AUX の所に17m(18MHz) Band、普通のHAMには用のない11m(27MHz)の所に12m (24MHz) Bandを追加実装するというのが標準的な改造でしょうか。

 ここでは、別体の『WARC Bandコントローラ』を置くことで本体内部の改造は必要最小限で済ませようと思います。 本来なら各WARC Band用に特注の水晶発振子が必要ですが、ここでは例の中華DDSを採用する方向で行きます。 従ってバンド追加の水晶を特注する費用は掛かりませんし納期待ちのじれったさもありません。 他にもちょっとした面白アイデアもあるのですがパクられて先に実現されてもしゃくなので今はまだ書かずにおきます。(笑)

 この機体にCWフィルタは実装されていませんが、必要そうなら他所から・・例えばFR-101とか・・から拝借しましょう。 30m BandはCWバンドですし、17m BandもDXingにはCWが有利です。 CWフィルタはぜひ欲しい装備です。今更中古を買うのも何なので手持ちがあったら良かったのですが・・・。 何ならオージオCWフィルタという手があります。

【まずは再整備から】
 40年越えの年代モノですが綺麗そうに見えるでしょう。見掛けはともかく整備してから10年以上にもなるので各部の接触不良がだいぶ再発しています。改めてエージングと再調整が必要そうです。改造はもちろんマトモな状態になってからです。正常でもないものを改造したら手に負えなくなるだけですから。hi hi

 少し通電してからバンドスイッチを数回転したらとりあえず受信できるようになりました。 さっきから7MHzのラグチューをウオッチしていますが周波数安定度もまずまずです。 全般的な点検と軽微な補修を行なえばまともな状態に復帰できそうです。 年代モノのRigは世話がやけますが、きちっと聞こえて飛ぶようになれば充実感が得られます。

                 ⭐︎

 DDS搭載ということは、もちろん専用のコントローラが必要でマイコンを使います。 基本的に周波数設定ができれば良いので難しくありませんが、幾つかアイディアを盛り込むにはそこそこ複雑になります。 そのあたり、どうするかも含めてまずは簡単な所から攻めて順次バージョンアップして行く方針です。

 簡単そうに見えても誰でも可能なものではないでしょう。 その他大勢には読み物でしかないでしょう。 ただ、同じような試みをされたい方があれば詳しく扱おうと思います。その辺りのご意見・ご要望とか頂けたらと思います。お気軽にどうぞ。

                 ⭐︎

 FT-101やTS-520と言った年代物のSSBトランシーバは複雑ではありません。部品サイズも程々に大きいので整備は容易です。(もちろん、修理技術は必要で誰にでも簡単とは言えませんが。修理とは「石・球の交換」と思ってるようでは幸運のみが頼りでしょう・笑) 半導体式で発熱量が少ないため状態の良い機体も見かけます。 そのため、レストア素材として楽しめるでしょう。 青春の思い出として着手するお方もあるでしょう。 もちろんレストアして「完了」でも良いでしょう。 しかしレストア後のテスト・オンエアも済んで、ちょっと飽きたらWARCバンド改造にチャレンジは如何でしょうか? うまく行けば貴方のHAMライフに新たなシーンが加わるでしょう。de JA9TTT/1

(つづく)←リンク

2014年10月15日水曜日

【部品】DBM Chip vintage, TA7310P

【年代物のDBM-IC:TA7310Pの試用】
【TA7310Pとは】
 TA7310Pは簡単な発振回路とRFアンプ、そして主役のダブル・バランス型ミキサを集積したICです。 かなり年代物のICですが、今でも比較的入手し易いようです。 時折オークションにも登場するようですから未だ市場在庫(引出し在庫?)が存在するのでしょう。 外観から見て新旧があって比較的遅くまで生産されていた様子がうかがえます。 本来とは別の新たな用途が生まれていたのかも知れません。

 本来の用途・目的はPLL型周波数シンセサイザのミキサ回路用です。 1970年代のはじめ米国でCBトランシーバが爆発的なブームになりました。その殆どは日本からの輸出品だったのです。 27MHz帯の車載用トランシーバで、出力4WのAM機(のちにSSBも)で多チャンネル型(23ch、のちに40ch)でした。 初期の輸出用CB機は僅か5チャンネルしかなくて各チャネル分の水晶発振子を並べた単純な形式でした。

 やがて長距離トラックドライバーの間で人気が沸騰し(米国では)ニーズに応え徐々に多チャンネル化して行きました。 しかし多チャンネル化すると水晶発振子が各チャネルあたり送受で2個ずつ必要なためコストが掛かります。 その結果、水晶発振子を減らす研究開発が精力的に進められました。その最終的な答えがPLL周波数シンセサイザでした。

 PLL周波数シンセサイザは古くからある技術ですが、専用ICができるまではあまり一般化しませんでした。 ECL-ICあるいはTTL-ICと言った汎用ロジックICを並べたのでは10個以上のICチップが必要です。しかも特殊なICが多くてコスト低減にはならなかったのです。
 しかしC-MOS ICでカバーできる回路部分を極力LSI化してやることでCBトランシーバのPLL化が進められました。1975年ころには各社とも技術的に確立しました。 生産台数が膨大でしたから専用ICの開発も進んだのでしょう。

TA7310Pの使用例
 TA7310Pは当時のC-MOSでは扱えなかった20〜40MHzと言った高い周波数を2MHz以下の扱える周波数へと周波数変換する目的に使われました。

 トランジスタを使ったシンプルなミキサ回路ではスプリアスの除去が困難だったので二重平衡型ミキサを採用して回路の簡略化を図っているのが特徴でしょう。(左図は東芝の技術資料より引用。10.7MHz帯のフィルタを使うSSB機用のPLL回路です)

 本来はPLL回路用のTA7310Pですが、DBM+OSC+RF AmpというアナログなICですから受信機のミキサ回路やSSB/CW検波回路にも使うことができました。 あまり活用例は見ませんが、SSB送信のバラモジ回路にも使えます。

                   ☆

 CB無線機の輸出ブームも一瞬のバブルでした。バブルが崩壊したのはFCCによる規制強化の影響もありそうですが、実際には膨大な輸出によって市場が飽和してしまったからではないでしょうか。最盛期には猫も杓子もと言った感じで中小電気メーカーがこぞって輸出していたからです。 ブームは突然去って余剰部品が秋葉原へ流出するようになりました。 そのころ買い求めたTA7310Pや、頂き物が長いあいだ引出し在庫されて眠っています。 そろそろ試用して感触を掴んで在庫を消費したいものです。 例によってこのBlogは自分用の実験メモです。 以下、もしお暇なようならお付き合い下さい。 活用のアイディアなどお持ちでしたらコメントをどうぞ。

                    −・・・−

【評価する回路】
 TA7310Pのメインは二重平衡型ミキサ(以下、DBMと略)ですが、発振回路部分を使わないと使えない設計になっています。 発振回路とDBMの間が内部でC結合されているからです。 RFアンプ部分は完全に独立していますから別途検討するとして、主役のDBM(+発振回路)の活用を検討してみましょう。

 単純な周波数変換に使えるのは勿論ですが、シビアな性能が要求されるSSB送信機のバラモジ(バランスド・モジュレータ:平衡変調器)はどうでしょう? 旨く使えるなら用途も広がります。 内部回路の考察では、HF帯用にできているように見えますが低い周波数、例えば455kHzでも使えるなら面白いです。

 そのような考えから、455kHzのバラモジで検討してみました。 なお、発振回路はセラミック発振子(村田製作所の商品名;セラロック)を使ってみます。 外付け部品の定数を選んでやれば水晶発振子でなくても発振できます。 工夫すればVXO回路とかの応用も可能です。

参考:村田製作所はセラロックの型番付与方法を変更しています。旧CSB455Eは図のような長い型番になっています。この回路にはもちろん従来のCSB455Eも使えます。

【試作風景】
 例によってブレッドボードで試作です。 周波数が低いこともあり特に問題は起こりませんでしたが、このブレッドボードは底面に金属板(正確に言えば片面プリント基板)が貼ってあります。 銅箔面をアース電位にすることで高周波用の適性を高めています。

 左のオレンジ色の角形部品が455kHzのセラミック発振子(セラロック)です。 簡略実験のため、周波数調整用のトリマコンデンサ(C3)は固定コンデンサで代用します。 実際に作る際にはSSBフィルタに合わせたキャリアポイントの調整が必要なのでトリマ・コンデンサを使います。 455kHzの水晶発振子と違って455kHzのセラロックは周波数調整範囲が広いので容易に調整できます。
 バラモジの出力に付けたコイルはトランジスタ・ラジオ用のIFTです。 ここでは白いコアの段間用を使いましたが455kHz用なら何でも良いでしょう。 DBM側はインピーダンスが低めなのでタップ付きIFTが望ましいです。

【DSB信号】
 低周波入力端子J1-J2(AF Input)に約1kHzの正弦波を与えて測定しています。1kHzは570mV(pp)を与えました。 出力は約3Vppで、まずまずなDSB波形と思います。

 キャリヤ・バランス調整(VR1)は必須です。 無調整ではキャリヤ・サプレッション(搬送波抑圧比)は30dBもとれないくらいでした。 ミキサ回路なら大丈夫かもしれませんが、バラモジには不十分です。 かならずバランス調整を設ける必要があります。 ややクリチカルなのでR2(10kΩ)はもっと大きくした方が調整が容易でしょう。22kか33kΩが適当なところでしょうか。

【DSB信号:飽和】
 過大入力で飽和してしまった状態です。 こうなるずっと手前からIMDは悪化しています。 もっと低い出力範囲で使うべきです。 上図のように3Vppくらいまでが適当かと思います。

 なお、ここで3Vppと言うのは、使っているIFTのインピーダンスや巻き数比も関係しますから普遍的な数字ではありません。 部品が違えば値も異なってきます。 実際にはオシロやスペアナで観測しながら最大信号レベルを見極めて使います。

 内部回路から見て 455kHzではどうなのかと思っていました。 思ったよりも良さそうなのは収穫でした。 この程度ならシビアでない用途には十分使えそうです。

                    −・・・−


【内部等価回路】
 なぜ内部等価回路を参照するのかと言えば、使う上で少々気になる部分があるからです。 左側で発振部と中央のDBM部分の間をC1と言うコンデンサが繋いでいるのがわかるでしょう。

 このコンデンサはおそらく数pFしかありません。大きく見積もっても10pFほどでしょう。 従って、低い周波数で使うには小さすぎるのです。 流石に数10kHzと言ったキャリヤ周波数で使おうとは思いませんが、せめて下は455kHzあたりまで使いたいものです。 そのような意図で上記のテストをしました。 このC1の部分で455kHzの減衰が起こっている筈ですが、DBMの動作に支障はない程度のようなので旨く使えることがわかりました。 数個交換してみましたが同じようなのでバラツキがあっても大丈夫だと思います。 周波数の高い方は50MHzあたりまでが無難なところと言った感じでしょうか。


【セラミック発振子のトランジスタ発振回路】
 セラミック発振子を使った発振回路と言えば、C-MOSインバータ回路を使うものがほとんどです。 しかしトランジスタでも発振回路は作れます。

 TA7310Pを使うにあたってもう一つ検討しておきたいと思ったのは455kHzのセラミック発振子(セラロック)で発振できるかと言うことでした。

 セラミック発振子メーカの資料で左図のような発振回路を見つけました。さっそくTA7310Pの発振回路部分に適用してみました。 これは非常に旨く発振してくれて周波数調整も十分可能なので455kHzの標準用法にしておきたいと思います。

 この発振回路は簡易な受信機に付加するBFOにも向いています。 LC発振のBFOよりも周波数はずっと安定で、少なくとも10倍は良いはずです。(水晶発振にはかないませんが)

参考:製作したらセラロックを付ける前に、エミッタとGND間の電圧を測ってみます。電源電圧:Vccの半分くらいになっていればOKですが、大きく外れているようなら抵抗器:R1の値を変えて調整します。現状のR1=47kΩでは、Vccが12Vなら小さすぎると思います。

【発振波形】
 水晶発振を含めて、こうした回路の発振波形はあまり奇麗なものではありません。写真はPin3の発振モニタ端子を観測したものです。4Vpp以上の発振振幅があります。

 正帰還量を加減すれば奇麗な正弦波に近付けることもできますが、今度は発振スタートしにくくなってきます。 従ってこの種の無調整発振回路では確実な発振起動を優先し発振波形の歪みはある程度やむを得ないと考えるべきでしょう。

 ただし波形歪みとIC内部のC1の容量小さい言うことは考慮すべきです。 C1のリアクタンスは周波数の上昇とともに小さくなり、ロスも減ってきます。 従って455kHzあたりで使うとミキサ部にはその高調波がかなり加わると考えるべきです。 これはスプリアスの原因になるのでDBMから出て行かないようにきちんとしたフィルタを設けねばなりません。

 バラモジの後がSSB用の 狭帯域フィルタならたいてい支障ないのでフィルタ式のSSBジェネレータなら神経質にならずとも良いでしょう。 しかしPSN式の場合はそうは行かないので十分注意を要します。 TA7310Pはもっと高い周波数(数MHz以上)で使う方が有利なのです。

                    ☆

 TA7310Pはバラモジにはやや使いにくいので敬遠され気味かも知れません。 姉妹品のTA7320Pの方が使い易いのは確かです。 しかし実際に確認しておけばどの程度までカバーできるか判断も可能になります。 これからの活用も有利になるわけです。 意外に広範囲に使えそうな感触が得られたのは収穫でした。 昨今は使い易い DBM-ICも限られてきました。手持ちのTA7310Pも自作に活用したいものです。

                   ☆ ☆

 TA7310Pを試して感じたのはやはり数世代も前のDBMだと言うことです。 電源電圧は標準の7V以上は確実に掛けたいと思います。できたら規格いっぱいの10Vが良いでしょう。低い電源電圧には向きません。 また消費電流が大きいのも欠点と言えます。この部分だけで30mAも消費するのはあまり頂けません。どちらかと言えば電池電源の機械には向かないICです。
 持っているなら死蔵ではなく活用すべきですが、あえて探して(買って)使うほどの価値は無さそうです。 残念ながら DBM-ICはその大半が姿を消しました。ですから今ではDiode-DBM(←リンク)が一番のお薦めです。既製品も入手容易です。 de JA9TTT/1

(おわり)

改:2017.05.11

2014年10月5日日曜日

【Antenna】 Preparation of typhoon

【アンテナの台風準備】
北関東を強力な台風が直撃することは滅多にありませんが、今回の台風はだいぶ強力そうです。しかも6日の朝には関東平野をかすめそうな進路予測なのでアンテナの荒天準備をしました。

 地面まで全部降ろせれば一番ですが、屋根と干渉するのでこの程度まで降ろすだけでやむを得ません。アンテナエレベータをこの位置でパークできるようストッパーが設けてあります。

 以前の台風のときの様子では20m近くと10m以下ではずいぶん風当たりが違いました。 それなりの効果が期待できるので『備えあれば憂いなし』ですから降ろしておきます。

 台風はこれから九州に近づく位置にあります。まだ遠いのですが今朝は前線が刺激されて雨が降り始めていて、合羽を着ての作業になりました。早めに始めたので小雨で助かりました。昼現在、かなりの雨脚になっています。あとは無事に過ぎてくれるのを祈るのみです。 de JA9TTT/1

                  ☆ ☆ ☆

【復帰】
 2014年10月6日、台風18号は九州の南で北東に進路を変えて本州沿いに進むようになりました。午前8時過ぎに浜松市に上陸しました。955hPaで風速も35m/s以上と強力です。

 その後は65km/hにスピードアップし足早に神奈川〜茨城を通り再び太平洋に抜けました。雨はかなり降りましたが、北関東は進行左側に入ったので思ったより風は強くならなりませんでした。 昼過ぎには晴れ間が覗いて、徐々に吹き返しも弱まりました。

 夕方になってアンテナも復帰できました。 再架設中にワイヤーアンテナの接続部分が緩んでしまいました。ハンダ付けで補強する必要が生じましたが短時間の地上作業だけで済みました。 de JA9TTT/1(追記:2014.10.06)

(おわり)

2014年10月1日水曜日

【部品】p-ch MOS-FET

【p-chのMOS-FETを使う】
最近のパワーデバイスはMOS型が圧倒的になってきました。既にバイポーラ・パワートランジスタは廃品種ばかりです。 スイッチングにはMOSの方が向くので困りませんが、増幅素子には困ることがあります。 特に、Audio系の石(BJT)はその傾向が強くて、かつて銘石と言われたようなパワトラにはプレミアムが付くほどです。あまり型番に囚われずに現行品で行く方が好ましいのですが・・・。

 無線の用途でも使える品種は限られてきましたが、幸いRF用のPower-MOSが登場して支障なくなっています。 しかし昔の回路図のまま置き換える訳にも行かないので悩ましい所です。 無条件にMOS化で対処できる訳でもないですし・・・。

 バイポーラ・トランジスタにしろMOS-FETにしろ、HF帯(〜50MHz)なら特にRF用と書いてなくても使える物がたくさんあります。本来の目的を超えて活用できるデバイスがあります。

 表題から外れてしまいましたが、p-ch MOS-FETの話を進めましょう。  型番で言うと2SJxxxと言うFETです。 バイポーラ・トランジスタで言うところの2SAや2SBと言ったPNP相当のMOS-FETです。 だから何だと言われそうですが、要するにp-chなんて無線家には馴染みは薄いし、PNPトランジスタ同様にあまり好まれません。 ただ、そう言う石でも使い道はあって他人が使っていないデバイスでオンエアしたいなら悪くないかも知れません。

p-ch MOSはハイサイド・スイッチの用途があるので思ったよりも多品種が登場しています。 ただし増幅を目的にしたものは見かけません。数A〜数10A以上と言った大電流スイッチ用が殆どですが1〜3Aのものもあります。 小電流のスイッチ用にRFパワーアンプに適したものがあって、試してみる価値があります。 もちろん普通はn-chのFET、即ち2SKxxxが好まれるので、以下は物好きな実験です。

 写真は2SJ178(NEC)で使う当てもなく纏め買いしました。 ハイサイド・スイッチが目的です。 図のようにハイサイド・スイッチは、電源の+側のライン(要するにGND側ではない方)をON/OFFする形式のスイッチです。HAMではトランシーバの受信系と送信系の電源ラインを切り替える目的に使われます。 PNP-Trでも可能ですがp-ch FETの方が電圧降下が少ない利点があります。
 概略の規格は:Vds=-30V、Vgs=±20V、Id=-1A、Pch=750mW、gm=400m℧、Ciss=210pF、Coss=130pF、そしてCrss=3pFです。 小さいけれど結構パワフルです。それに帰還容量:Crssが小さくてRFに向きそうに見えます。(残念ならが2SJ178はディスコンです)

テストしてみる
 簡単な回路でQRP送信機のファイナルのテストをしましょう。 Cissが200pFほどあるので、入力は容量性です。 本式に使うなら整合しますが、実験なので50Ωで直接ドライブします。

 負荷側(出力側)はRFCのみで整合回路は設けません。 電源電圧:Vcc=12Vですから出力電力:Po=1W程度と考えて負荷抵抗:RL=約50Ωでマッチングします。

  放熱はしていないので、規格のId(max)=1Aも流したら過熱で壊れます。せいぜい200mA位が良い所です。入力2Wと考えても170mA程度でしょうか。まずは7MHzでやってみました。

Biasを与えてAB級で使う
 エンハンスメント・モードのFETはゲートに順方向のDCバイアスを掛けて使います。 約-2V程度のDCバイアスを掛けました。B級もしくはAB級で動作させる訳です。 十分なドライブが確保できるならゼロバイアスのC級で使い、オーバードライブしてやるとドレイン効率はアップします。

 FET個々にばらつくので、B級もしくはAB級になるバイアスは何ボルトと言う表現は不適当です。 正しくは、Idを測定しながら調整します。 具体的には下の回路図のVR1を調整して無信号時にId=-10mAにます。

「バイアス電圧を調整する」と書くと、で は何Vなのか具体的に教えてくれと言う質問が来そうですが、それには答えられません。 質問者が使ったFETが全く同じでないかぎり、所定のドレイン電流が流れるバイアス電圧は異なります。電圧を聞いてそれに合わせても駄目なのです。

 最初はVR1をVgs=0の所にセットします。ドレイン電流:Idを観測しながらそろそろ回して行き、Id=-10mA内外に合わせます。(-5〜-15mAくらいの適当で良いです) その時のVgsは-2ボルトくらいでしょう・・と言う訳です。 これはp-chのFETに限らず、n-chでも同じなのでMOS-FET(エンハンスメント型に限るが)をB級なりAB級で使ううえでの常識です。 

【テスト回路】
 単純なので書くまでもない回路です。 p-chのFETなのでプラス接地の方がスッキリしますが 、他の回路と組み合わせ易いようにマイナス接地で書きました。 ドレイン側はRFCのみで、Cで切って50Ωを直接負荷します。 RFCは100μHくらいでも良いですが、DC抵抗が数Ω以下のものを使います。DC抵抗は普通のテスタで測ればすぐわかります。 出力電力:Po=(Vcc)^2/(2*RL)から約1W+αです。VccはRFCのDC抵抗やFETのON抵抗があって降下しますから実質的に10V程度と考えます。実際にアンテナを繋ぐにはLPFが必須です。

 出力部分にバイファイラ(Fig.1)あるいはトリファイラ巻き(Fig.2)のトランスを置くと、FETから見た負荷インピーダンスが下がってパワーアップできます。

   2SJ178は小さなパッケージのFETです。 効率良く使っても放熱しないと厳しいのでパワーを欲張らない方が良いでしょう。 負荷インピーダンスを下げると同じ比率でゲインも下がるのでドライブしにくくなります。 十分なゲインが期待できる低い周波数を除き、図のままのPo=1W程度が良さそうでした。 なお、入力側は50Ω直結ではドライブしにくいですからFig.3のような昇圧トランスを置くと楽になります。 ドライブパワーはあまり要りませんが、それなりのドライブ電圧は必要です。

【7MHzで】
 7MHzで負荷の両端電圧を読んでみました。 AB級のシングル動作なので整流したような波形になります。 当然高調波が含まれているので、2次高調波以上の除去に効果的なLPF(ローパスフィルタ)を設けます。

 電源電圧が12Vなので。写真の状態が概ね飽和状態です。 正しくは高調波を除去してから測定しなくてはなりませんが、おおよそ1W出ているでしょう。

【3.5MHzで】
 同じく、3.5MHzにて負荷の電圧を読んでいます。 これでだいたい飽和状態です。 7MHzと同じく約1Wです。 LPFの付加は必須で通過後のパワーは0.8WくらいですからQRPとしてはまずまずです。 ドライブにゆとりがあるなら、2SJ178を4パラにし、インピーダンス比=1:4(バイファイラ巻き:Fig.1参照)のトランスを使えば2〜3Wが期待できます。3.5MHzではゲインがアップして7MHzの約半分の電圧でドライブできました。 ゲインはだいたい-6dB/octの傾斜です。

 p-chではなくn-ch MOS FETなら2N7000あたりが良いでしょう。 もちろん電源極性は逆にしますが類似の結果が得られます。 p-ch MOSはn-ch MOSより周波数特性が落ちるようです。それでも小型の石ならHF帯の低い方で十分使えそうでした。ちょっと変わったデバイスでオンエアしたい向きにはお勧めできます。(笑)

                    ☆

 10月になろうと言うのに適当なBlogテーマがありません。やむなく片付けていて目に入ったデバイスをネタにしました。 実験するまでもない。特性表から見たら使えて当たり前じゃないか・・・と言う声も聞こえます。 しかしそう言う人に限って実際は何もしないものです。 特性表には現れない固有のクセがあったりするので実地検証は大切です。 試すどころか、昨今はコテも暖めず・・・ブレッドボードでさえも面倒で・・・BlogやWebネタの疑似体験で満足してしまう人が多いのは残念です。

 たぶん多くのBlogやWebに書いてある話はすべてではありません。都合の良いところだけが書かれています。 情報の出し惜しみではなくて、感触のような細部を伝えるのは難しいからでしょう。 ですから画面を眺めて納得したつもりでも、本当のことはてんでわかっちゃいない可能性もあります。自分の実験のごとく吹聴したら赤恥をかくかも知れません。注意しなくては。(笑)

以上、暇つぶしになったようでしたら今月のBlogは目的達成です。de JA9TTT/1

(おわり)

2014年9月1日月曜日

【HAM】 HAM Fair 2014

【ハム・フェア 2014より】

【今年のハム・フェア】
 8月の末はハム・フェアです。 今年も有明ビックサイトで開催されました。 22日が準備で、23・24両日が一般公開日です。 土曜日23日に出掛けました。 例年、この時期は残暑が厳しいのが通例でした。 Getした重たいジャンク品を汗だくで運んだことなど思い出されます。 ことしは雨模様もあって幾分過ごしやすかったです。それでも蒸し暑くて、帰宅したら真っ先にシャワーを浴びずにはいられません。にぎやかな懇親会で時を過ごし、24時前に帰宅しました。

 ハム・フェアと言えば無線機メーカーの新製品発表が恒例ですが、HF帯の旗艦機は既に出そろった状況なので、今年はこれぞと言う目玉は無いようでした。 アルインコのデジタル機は大幅なデジタル化とかで興味がありましたが、どうもチープな路線のようでパッとしなかったのは残念です。あとは某社50周年記念の金ピカモデルとか、これもちょっと趣味が合わない感じでした。中身もいじってあるようですが金ぴかにする必要があるのでしょうか。渋い燻し銀にするとか、よほど高級に思うのですが金ぴかは大阪人の趣味でしょうか。hi hi

もう一つ、「ハム・フェアと言えばジャンク市だろう!」と言うお方も多いと思いますがネットオークション全盛の昨今にあってはどうもパッとしません。 リグ系、測定器系、部品系、アンテナ系のいずれも大したものが見つけられませんでした。 記念になりそうな軽量小型でお値打ちの品などないだろうかと思ってぐるぐる回って探したが見つけられませんでした。 遊ぶための素材もだいたいは揃ってるのですから食指が動かないのも無理からぬとも思います。私が欲しくないだけで、一般的に見てそれなりに良さそうなものは結構出ていたように感じました。

 結局、私は買うものに困ってZilogのロゴも鮮やかな往年の銘CPU:Z-80の10個入り1レールをお土産にしました。1992年第46週製造の終末期のZ-80ではないでしょうか。(写真) まあ、使うことは99.9%ないと思いますが本家ZilogのZ-80はいずれ希少品になるかも?? i8008じゃあるまいお宝に化けはしないでしょうねえ。(笑)

 流石に超ポピュラーだったCPUだけあって、今でも作って楽しんでいるお方もあってネット検索でたくさんヒットします。 面白いなあと思ったのは、AVRマイコンとZ-80のコラボで昔懐かしいCP/Mを動かすプロジェクト。(→リンク)流石にフロッピーディスクの時代じゃないのでソフトはSDカードに移して読ませています。MBASICほか各種の高級言語が豊富に存在していたので何も無いほかのCPUより遥かに遊び甲斐がありそうです。まだ読めるかどうかわかりませんが拙宅にもFortranとかCobolなんかのFDもあったはずです。工夫すればまだまだ楽しめる素材のようですね。本家本元のZ-80でやったら乙かも知れません。

【24MHzの水晶発振器】
もう少し実用的なものもと言うことで、24MHzの水晶発振モジュールを購入しました。 すぐに必要ともしていませんが新品25個入りが500円だったので何かの時にでも・・と思って買っておきました。 たぶん使い切れずに死蔵品になりそうな予感がします。(笑)

 ちなみに、DDS:AD9850のクロックに使うと消費電流を大幅に削減可能です。クロックそのものが喰わないのとAD9850の消費もかなり減って、だいたい50mA以上少なくて済みます。 もちろん、実用的な上限周波数はせいぜい8MHzになってしまいます。ごく低い周波数の発生で済むなら十分使えるでしょう。 125MHzクロックで消費電流過多で困ったなら使える手です。 信号のきれいなクロック発振器でした。

                   ☆

ハム・フェアと言えば、やっぱりジャンクでしょ!・・・と言う声も聞くのでお土産をご披露してみました。 しかし、本当のお土産は皆さんとのアイボールです。 クラブの会員さんがたくさんお見えになったので久しぶりのラグチューを楽しむとか、お元気な姿を拝見するだけでも良かったです。 来場者と話し込んでいたらJH1FCZ大久保さんに声をかけて頂いきました。会場に出てくるのもだんだん大変になったと言うお話でしたが、お元気そうで何よりでした。

#写真はロシア製真空管6H7C(米 6N7GT相当):新橋で開催のQRP懇親会場にてJG1SMD 石川さんに頂いたもです。B級pp用の面白い球。TKS ! JG1SMD

 冷静に考えてみれば、すでに「モノ」は整理する段階にあるのだからそうそう目ぼしいものが見つかるはずはありません。 出来心から始末に困りそうな大きくて重たいガラクタジャンクを買い込まなくて良かったというオチにもなりそうです。 楽しい思い出なら有って困ることもありません。 de JA9TTT/1

(おわり)

2014年8月15日金曜日

【回路】Sine wave oscillator : Part 1

【低ひずみ正弦波発振:Part 1】

低ひずみをめざす
 低周波発振器の話です。 去年の9月ころ、ウイーン・ブリッジ発振回路(←リンク)というBlogを書きました。 発振回路にはウイーン・ブリッジ型を使い、発振振幅の自動制御には「まめ電球」の加熱による抵抗変化特性を利用しました。

 うまく発振してくれて、そこそこ良い性能が得られたので振幅の安定に「まめ電球」式もなかなかだと思いました。 まあ、教科書通りと言うことかもしれません。 ただし、ひずみ率は0.01〜0.02%程度なので昨今のオーディオアンプの性能評価には物足りません。 真空管式パワーアンプのテスト用信号源ならまあまあ使えるレベルと言った感じでしょうか。

 やはりもう一桁くらい低ひずみの発振回路が欲しくなります。 ウイーン・ブリッジ回路と電球による振幅制限では限界があるので、別の方法でやってみました。 この手の低歪低周波発振回路は色々あってそれぞれポピュラーです。ここでは状態変数型:State-Variable型で試しました。(参考:Bi-Quad型のフィルタ回路も類似であり、発振回路を構成できます) バンドパス・フィルタに正帰還を掛ける形式です。 写真はその試作風景です。

0.0014%くらい
 途中経過ですが、ひずみ率は0.0014%くらいが得られます。(上のブレッドボード) 目標性能なので、まずまずと言ったところでしょうか。 これ以上改善するには全体的な見直しが必要でしょう。

 その前に測定環境を改善しないと測るのが難しいレベルに来ています。 AC電源50Hzハムやラジオ電波の飛び込みはカットしていますがLED電球や電球型蛍光灯などのインバータ機器によるノイズほか、電気的なノイズは身の回りにあふれています。 ガラス入りダイオードをレベル検波に使うと照明の明滅周期でノイズが乗るとか・・笑えないことも起こります。(SBDで起き易い傾向あり)

 -100dBあたりの歪み率を扱います。 発振振幅は数Vpp程度ですからひずみ成分はマイクロ・ボルトのオーダーです。容易に環境ノイズの影響を受けてしまいます。 このあたりも考えて評価しないと何をやっているんだか・・・の世界なのです。(笑)

                ☆ ☆ ☆

 イントロ編ということでサワリだけになりました。 諸事が重なって、Blogネタに窮したので実験の途中経過をちょっとだけ報告しました。

 最終目的は低ひずみ発振回路の製作にありますが、実はその回路に使う振幅制御素子の検討から始めています。 低ひずみを狙って今度は「まめ電球」ではなく、電圧可変抵抗素子を使います。 そのような素子は種々ありますが、FETでやってみようと思い何種類か交換してデータを採取しています。

 巷ではレトロな2SK30Aの使用例が多いようです。古い回路の引用だから仕方ないと言う理由もあるでしょう。しかし回路は引用していてももっと良いFETがあるなら交換しているはずです。 いつまでも製造中止のFETに頼るのも如何なものでしょうし・・・。 使い続けるからには、何かノウハウのような理由(ワケ)があるに違いない・・・と思いながら専用測定回路を作って各種FETのデータを採ってみました。 そのあたりのこともさらっとやろうかと思いますが、どうも浮気タネばかり多くて進みそうにありません。(笑) de JA9TTT/1

つづく)←一応、このつづきのBlogへリンクします。

2014年8月1日金曜日

【測定】TRIO LPF LF-30 : Part 3

【TRIOのLow Pass Filter : LF-30 その3】

改造検討した回路
 トリオ(現Kenwood社)製・30MHzのローパス・フィルタを75Ωから50Ωに改造して活用しようと言う話の最終回です。この話しもそろそそ片付けることにします。(前回:Part2は→こちら

 オリジナル回路の検討と実測した部品定数でシミュレーションを行ないました。 最近のリグやアンテナは基本的にインピーダンスは50Ωになってますのでマッチするように改造します。 オリジナルのLF-30は昔のHAM局の実情に合わせて75Ωの設計になっていました。なお、昔のHAM局が75Ω系だったのはダイポール系のアンテナが主だったからです。

 実測評価していて75Ω用と言う根拠には疑問があることがわかりました。 部品定数など総合的に考えると、このフィルタが最適な動作をするインピーダンスは44.2Ωではないかと考えられました。従って75Ωよりもむしろ50Ωの方に適していると言えます。 しかし設計遮断周波数が少々高めで、30MHz用としてはやや最適ではないようでした。 そこで、実験の意味もあり全般に見直した上で改造します。

 改造指針として:(1)遮断周波数は約33MHzくらい。(2)IN/OUTのインピーダンスは50Ωにする。(3)改造はなるべく既存の部品を活かす。(4)最大電力は100W程度あれば良い・・・・とします。 以上の指針で決めたのが上図の上から3番目の回路です。 結局、33pFのコンデンサ(但し耐圧は高いこと)を8個付加するだけの改造で様子を見ます。

改造したLF-30
 基本的にコイルはそのままにします。 銅の円盤とテフロンシートで作ってあるコンデンサもそのまま使います。

 従って既存コンデンサの各部分に33pFのセラミックコンデンサを2つずつ追加しました。

 33pFの取付けは極力リード線を短くすべきです。その言う意味で、写真の方法は最適ではありません。 銅円盤のコンデンサのところに極力リード線をつめで最短でハンダつけする方が良いでしょう。 33pFとリード線インダクタンスで共振が現れます。

そのあたり、実際に評価してみて問題がありそうならやり直しましょう。


特性シミュレーション・1
 改造に先立って特性シミュレーションを行ないました。 これは既出ですが、あらためて掲載します。

 赤色のトレースがオリジナルの定数によるもの。実測値に基づいた部品定数になっています。 IN/OUTのインピーダンスは仕様の75Ωです。

 グリーンのトレースは、部品定数はオリジナルのままですが、IN/OUTのインピーダンスを44.2Ωにしています。 良く見てもらうとわかりますが、通過域の平坦度がよくなっています。 これは反射による影響がなくなるからで、フィルタ本来の特性と言えます。

 青のトレースは仮にC=180pF、IN/OUT=50Ωとして設計したときの特性です。

 紫色のトレースはC=186pFの特性です。180pFは標準的な値のコンデンサでは済まないので実際には実測値+33pF+33pFの約186pFでやってみます。 一応、33pFのコンデンサも実測して、偏りが生じないようにしておきます。

特性シミュレーション・2
 通過帯域の上端付近の特性を拡大表示しています。

 オリジナルの状態で最適なIN/OUTになっているグリーンのトレースの通過域が一番平坦な特性になっているのがわかります。

 青色と紫色のトレースは思い切って遮断周波数:fcを下げたため、通過域の凹みがやや大きくなっています。 そのためパワーロスが大きく見えるHAMバンドが出現します。 それを嫌ってオリジナルではかなり高めの遮断周波数に作ってあったようでした。 ここでは、少々ロスが増えても良いので検討した図(3)の回路定数で行くことにします。

実測特性・1
 改造後の実測特性です。 部品定数は回路図(3)の値です。 見たところまずまずの特性になりました。

 通過域にやや凹みが見られるのはシミュレーション通りですが、あまり支障無さそうなのでこれで行きましょう。 減衰域の切れ味はたいへん良好です。 このあたりは、オリジナルと同じ段数なので、傾斜に変化は見られません。 シールドも悪くないらしく、十分な減衰量が得られています。

実測特性・2
 通過域の詳細を見るために、縦軸の1目盛りを10dB→2dBに変更して表示しました。

 通過域の凹みが2dB弱あるのでいま一つかもしれませんが、実際の使用ではあまり影響はないだろと思います。 測定器用のフィルタなら不合格かもしれませんが、無線機の外付け高調波抑止用フィルタですから少々の凸凹は問題ではありません。むしろなかなか良好な特性です。(参考:この凸凹は損失の発生と言うよりもインピーダンス変換が行われた結果の電圧変化と捉える方が合理的なようです)

実測特性・3
 減数域の様子を見るために縦軸の一目盛りを20dBにしています。 また周波数範囲も上限500MHzにアップしました。

 33pFのリードインダクタンスとの共振と思われるピークが2箇所見られます。 但し、ピークとは言っても60dB以上減衰しているので支障はなさそうです。 問題があれば33pFの実装方法を再検討しようと思っていましたが、概ね大丈夫そうです。 そもままで行くことにします。

 以上、TRIOの古いローパス・フィルタ:LF-30の解析と50Ω化改造の経緯です。 外装が汚くなっているので、塗り直して新しいラベルを貼れば完璧でしょう。 オリジナルの仕様は50Ω用なので何となく気持ち悪かったのですが、改造して特性の確認も済んだので、これで気持ちよく使えるようになりました。

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フィルタの特性評価と実際の使われ方
 ここでは改造したフィルタを題材にして、LPFが実際に使われる際の特性について考察してみましょう。

 このLF-30の仕様書はPart 1に掲載してあります。他社のLPFも恐らく同じだと思いますが、仕様書に掲載されている周波数特性図は言わば『まやかし』なのです。 ウソではないのですが、測定方法と現実の使われ方の間には大きな違いがあるからです。

 カタログの周波数特性は、この図の(A)のような方法で採取しています。 上の写真も同様で、信号源インピ−ダンスが50Ωの発振器と、入力インピーダンスが50Ωのレベル測定系の途中にフィルタを挿入して実測している訳です。 もちろん、測定方法やその測定結果に誤りがある訳ではありません。 問題はLPFが実際に使われる状態とは異なる測定方法なのが原因です。

 上図(B)のように、アンテナ系が、如何なる周波数で見ても50Ωである・・・と言うようなことは殆どあり得ません。 もし本当にそうなら、どこで送信しようとVSWR=1です。 良くできたダミーロードならいざ知らず、そんなアンテナなどないでしょう。 アンテナの設計周波数で、尚かつ良く調整されていればそこは50Ωかもしれませんが、それ以外の周波数では50Ωなどと言うことはあり得ないのです。

 このように考えると、いくら50Ωの測定系で良い特性が得られたとしても、それを外れるインピーダンスのところでは、思っている周波数特性とはずいぶん違うのではないかと言う疑問が生じてきます。 フィルタが効いたり効かなかったりするのはそれが原因ではないだろうかと・・・。

高い負荷インピーダンスのケース
 アンテナ系を負荷にした実測もある程度可能ですが、バンド外の電波輻射は旨くないし、個別ケースの話しにしかなりませんから、ここはシミュレーションで行くことにします。負荷を変えて傾向から判断するのが目的です。

 ここでは30MHz以下の通過帯域の特性は無視します。高調波の減衰を見るのが目的ですから。 まずはアンテナ系のインピーダンスが50Ωよりも高い時の特性です。 100Ω、1kΩ、10kΩそして100kΩとした場合の減衰特性です。 アンテナ系が数kΩになることは十分考えられますが100kΩ以上になるケースは考えにくいのでインピーダンスが高い方へ外れた場合の特性がこれで予測できる訳です。

 もちろん、良くおわかりのお方ならアンテナ系が「純抵抗」になるなど「有りえん!」と怒られるかもしれません。 そう思って容量性(C性)や誘導性(L性)を付加したシミュレーションもやってみました。 たしかに、フィルタ内部の最終部分にあるコイルやコンデンサとの共振が見られるようになって、この図のような奇麗な遮断特性ではなくなります。 しかし、わずかなピークが通過帯域のやや上側に現れる程度であって、その部分を除けば図の特性と大差は無いのです。 従ってこの図で代表させてもらいました。

 要するに、この形式のLPFは負荷側のインピーダンスが高い方へ大きく外れても十分良く効く特性を持っていると言うことです。 50Ω系で測定した結果その物と完全に同じではありませんが高調波抑止に十分な効果があることは実証できたと思います。

低い負荷インピーダンスのケース
 上記と同様に、今度はアンテナ系のインピーダンスが低くなった場合のシミュレーションを行なってみます。

 インピーダンスは25Ω、10Ω、1Ω、0.1Ωです。 この場合も通過域の特性は無視します。 0.1Ωと言うのは負荷がほぼショートのような状態になった想定です。 高周波系ですから、完全なショート状態と言うのはまず有り得なくて、むしろ完全なショート状態の実現には技術を要します。 従って、これでおおよむね低い方へミスマッチした状態におけるフィルタ特性の評価になっているでしょう。

 もちろん、C性やL性の負荷も想定したシミュレーションも行ないましたが、結果はグラフで示した純抵抗負荷の場合と類似であって、低い方はこのシミュレーションで十分推定は可能でした。

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 従来、こうしたHAM局のアンテナ系に挿入して使うローパス・フィルタの特性と実際の高調波除去効果には疑問を持ってきました。 アンテナ系があらゆる周波数で50Ω(75Ω)であるなど考えられませんから、下手をすれば入れない方がマシのフィルタにさえなっているのではないかと疑ってきました。 しかし、それは杞憂であって効果的に高調波の抑止に役立つていることがわかったのです。

 もちろん、運が悪いこともないとは言えず、高調波がジャスト受信されるインターフェアのケースにあってはハイパワーだとそこでは効果も限定的でしょう。-100dB以上の減衰量が有っても駄目かもしれません。 或は基本波により対象機器の内部で自ら高調波を作り出しているようなケースでは効果はまったく期待できません。 何が原因でインターフェアが起こっているのかを見極めないと効果的でない対策に走る可能性もあるのです。

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出力インピーダンスが低く負荷側が高いケース
 以下の考察は、上記以上に様々な議論を呼びそうです。 貴方のお考えをどうこうしようと言うつもりは毛頭ありませんから、予めそのおつもりでご覧ください。

 上記のように、アンテナ系のインピーダンスがフィルタの減衰域で必ずしも(否、必然的に!)50Ωではないとしても十分に効果的であることはわかりました。 ところが、それだけではありません。

 実のところ無線機の出力インピーダンスは50Ωではないのです。 スペアナやネットアナでは測定系の信号源インピーダンスはすべて50Ωになっています。これは仕様書にも書いてあってウソでありません。その50Ωの精度まで規定しているのが普通です。

 では、実際のHAM局ではどうでしょうか? まさかIC-XXXやTS-YYY、さらにFT-ZZZの出力インピーダンスは50Ωではないでしょう。 いや、「50Ωだって書いてあるヨ!」と仰るかもしれません。 たしかに、「Output Impedance : 50〜75Ω」なんて書いてある例も見ます。 しかし、それはそのRigが想定している負荷インピーダンス(アンテアナ)が50Ω系なのであって、トランシーバ(送信機)の内部インピーダンス;Rgは50Ωではないはずです。 もしも本当にそのRigの内部インピーダンスが50Ωだとしたら送信電力をどこかでロスしています。まあ、そんなバカなことはないでしょう。
 たぶん、現実には数Ω以下の内部インピーダンスなのです。 特にNFBが掛かった半導体式のパワーアンプなら一段と内部インピーダンスは低いでしょう。 定電圧源に近い特性になっています。 (注:NFBの掛かっていないビーム管ファイナルの送信機の内部インピーダンスは逆に50Ωよりも高くて、誇張的に言えば定電流源に近いです)

 そのような想定で、送信機側の内部インピーダンス;Rgを1Ωとし、また負荷側のインピーダンスが高い方へ外れるケースでシミュレーションしてみました。 このようなケースでもLPFは良く効いてくれると言う結論で良いでしょう。(上図)

出力インピーダンスが低く負荷側も低いケース
 同様に、負荷が低い方へ外れたケースもシミュレーションしてみました。

 上の方にも書きましたが、純抵抗負荷ではなくC性やL性の負荷ではどうかと言う検討もしましたが、代表してこのグラフを掲載します。 要するに、そうしたケースでも良く効く特性であることがわかっています。

 ごく単純なπ型やT型のローパス・フィルタも十分な段数を重ねた構成を採れば高調波の抑止効果は充分得られることがわかりました。 これは、IN/OUTが50Ωと言った『理想的な』測定系の話しだけではなく、実際のアンテナ系に挿入してもその効果は十分期待できます。長年の疑問も解消したのでこれで安心して眠ることができます。(笑)

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 地デジ化でTV全般がUHF帯に移行してくれたのは非常に有難いことでした。それだけでインターフェアは40dBくらい効果的なはずで、しかもEMC(電磁的な不干渉性)対策がまったく不十分だった古い家電品の駆逐にもたいへんな効果があったのです。

 しかし、高感度な機器も多くなった結果、わずかな高調波でも支障の出るケースもあって、LPFの出番がなくなった訳ではありません。 旧型のLPFでも特性を良く吟味し実用になることを確認しておけば有効活用のチャンスもあるでしょう。

 アンテナ系の使用周波数外のインピーダンス変化についての認識はあまりされていないように思います。 また理想系で測定した周波数特性で云々しているケースも良く目にしますのでずっと気になっていました。 HAMの用途にあっては測定数値の精度を云々するより、十分効果的であるか否かを見ておく方が意味があるでしょう。 そのような視点で見直してみたのがこのBlogの締くくりです。de JA9TTT/1

(おわり)