2018年11月23日金曜日

【回路】A PWM Voltage Generator

回路:PWM式高精度電圧発生器の試作
 【PWM式の電圧発生器とは
 このBlogでは、しばらく前に精密な電圧発生器(←リンク)の製作を扱いました。

 精度の良い電圧発生の大元となる「基準電圧源」(=10.000V)の作成にはかなり拘ったのですが、それを分圧して様々な電圧を得ようとする部分はだいぶ妥協しました。 簡単な方法で高精度な分圧回路を作るのは難しかったからです。 少々精度が悪いのは目をつむって10回転のヘリカル・ポテンショメータで分圧する方法で済ませたのでした。

 任意の電圧を細かく取り出すには精密な分圧回路が必要です。 抵抗器とスイッチを使って合理的に分圧回路を構成する手法としてはKelvin Varleyのデバイダ回路(←リンク)があります。 しかるべきスイッチと抵抗器が手に入れば自作も十分可能です。 しかし精度や安定度を追求すれば結局は良質のスイッチや高価な抵抗器を求めるしかありません。実用品を作るにはなかなかハードルが高いのです。

 PWM式は時分割のテクニックを使って基準電圧を分圧しようとするものです。 原理的に時間精度だけで決まるため、デジタル回路が進歩した現在においては抵抗器による分圧方式よりも高精度が得られやすいのです。 周期が一定のパルス波(矩形波)のデューティ比をデジタル的に細かく変えて平均電圧として取り出そうとするものです。 D/Aコンバータの一種とも言えるでしょう。 動作原理はパルス幅変調(PWM)そのものです。 デジタル設定で数値的にパルス波の幅を変えて細かく任意の電圧を作り出そうとするのがこれから試作するPWM式電圧発生器です。

 この方式の大きなメリットとして2つ挙げられると思います。 まずは部品代が掛からないと言うメリットがあります。高精度抵抗器のような高価な部品は必要としません。良質の多接点スイッチも不要です。 もう一つはICを使ったカウンタ回路でデジタル的に(数値的に)実現するため製作の再現性がとても良いことが挙げられるでしょう。 しかし、これらはいずれも原理的な話ですから実際に製作して検証してみたいと思います。
 ディメリットとしては、設定してから安定した出力電圧が得られるまでにかなり時間遅れがあることです。 PWM式の説明には必ず「精度は良いのだが、遅いのが・・・」と言う一文が付いて回ります。 これもどの程度のものなのか実体験してみました。(後ほどムービーあり)

                   ☆

 RF発振器とかRF電圧計のような高周波用測定器なら自作HAMの興味の対象でしょう。たぶん直流電圧の発生装置など関心外かも知れません。興味がないものを無理して見る必要はありません。時間が勿体無いので早めのお帰りがです。 自身では回路実験で有用性を感じているためコンパクトな1台が欲しいと思ってきました。 直接的ではありませんがRFデバイスの評価やRF機器の開発・研究にも役立ちます。 そう思って必要な基板ユニットを製作し収納ケースを用意し、あとは箱に入れるだけの段階にあります。 実はそのまま停滞しているのですが理由の一つとしてこのPWM式を試してから・・・と言う気持ちがあったからです。 実験してみてまだ最終製作の決断はできていません。 以下は自家用のメモのようなものですがご興味でもあればそのあたりに至る経過など含めてお付き合いください。

PWM式電圧発生器・回路図
 ICを10個以上使うのでそれほど簡単ではありませんが、配線ミスさえなければほぼ確実に動作するので恐れるようなものではないです。 クロック周波数は250kHzですから高周波でもないため部品レイアウトや配線はクリチカルではありません。(もちろん常識的な製作の注意は必要です)

 この電圧発生器の構成要素は以下の5つです。
(1)基準電圧発生部・・・・PWM回路は電圧を精密に分圧するための機能です。
   従って、分圧すべき基準となる安定した電圧源が必要です。
   ここでは機能試作なのでTL431Cを使って簡単に済ませています。
(2)PWM回路・・・・C-MOS ICのアップダウンカウンタ:HD14516BPを使って
   実現しています。  3個をアップカウンタに3個をダウンカウンタに使います。
(3)クロック発振器・・・・カウンタの基準になる250kHzのクロックを作ります。
   Timer555などを使った弛張発振器でも良いのですが、水晶発振なら確実です。
   水晶発振子に8MHzを使ったのでHC-MOSの74HC4060Aを使います。
(4)時間電圧変換・・・・C-MOS アナログスイッチ:TC4053BPを使います。
   このTC4053BPの電源だけは他のC-MOSの+5Vとは異なる+15Vを与えます。
   PWM波の平均電圧化は抵抗器とコンデンサを使ったシンプルな形式です。
(5)出力アンプ回路・・・・負荷に影響されないように出力電圧を取り出します。
   この部分はアナログ回路でOP-Ampを使います。OP-07CPを使いました。

 その他の回路としてC-MOS ICの電源用に+15Vから+5Vを作っています。 C-MOSは+5Vで働いているのでアナログスイッチ(TC4053BP)のドライブ用にインターフェース回路が設けてあります。 高速SW用トランジスタ:2SC1216を使いました。 以上で全てですが、各部の働きは以下で細かく見て行きます。

 C-MOS ICが主ですから+5V系の消費電流は10mAくらいです。 ±15V電源で動作していますが、マイナス側の電圧は-15Vも必要ないので、ICL7660で+5Vから-5Vを作っても良いでしょう。 そうすれば+15Vの単電源にできます。

 いずれの部品も東京・秋葉原、大阪・日本橋や通販で容易に入手可能なものです。ブレッドボード上の部品の合計で2,000円以下で調達できるでしょう。  言うまでもないですが、恒久的に使うにはブレッドボードのままではダメです。

 機能試作なので出力電圧の設定はジャンパー線で行なっていますが、わかり易く設定できるよう工夫すべきです。 このあたりは使い勝手の改善なので改めて考えたいと思います。

(備考)回路図78L005Aのピン番号の間違いを修正。 (Ver.1.0.2: 28XI2018)

 【基準電圧源と+5V電源
 デジタル回路のほとんどは+5Vで動作します。 +5Vの消費電流は約10mAとわずかなので100mAタイプの3端子レギュレータを使って+15Vから得ました。 写真では東芝のTA78L005APを使っていますが一般的な「78L05A」で十分です。

  基準電圧発生にはTL431Cを使いました。 この基準電圧が発生電圧の精度や安定度を決めます。 本来は手抜きはせずにもっと吟味すべきですが、機能試作と割り切って採用しています。 TL431C周辺の抵抗器もごく一般的な金属皮膜抵抗なので100ppm/℃くらいの温度係数が予想されます。
 実験としてはこれでも十分ですが本式の製作時にはもう少し吟味しましょう。 TL431Cはパーツボックスから無造作に取り出したものを使いましたが、電圧で選別するのも簡単に可能な改善策です。 基準をどうするかは求める精度如何とも言えますが・・・。(TL431の端子電圧の話←リンク)

 【PWMカウンタ
 HD14516Bを3個使った12ビットカウンタを2系統作っています。 写真の上段は12ビットのアップカウンタで250kHzのクロックを4096カウントして1周期分の時間を作っています。
 4096カウントごとにNANDゲート2回路(沖電気製MSM4011B使用)で構成されたR-S Flip-Flopをセットします。 これがPWMを行なうパルスの1周期分の16.384ミリ秒(約61.04Hz)になります。

 写真の下段は12ビットのダウンカンタです。 こちらは上段のカウンタの1周期ごと(16.384mSごと)に、入力データ値に従った値にプリセットされダウンカウントします。 カウントがゼロになると、先ほどのRS-Flop Flopをリセットします。 セットからリセットまでがアナログスイッチが閉じて基準電圧がONになる時間です。 また1周期の残り、すなわち再びセットされるまでの時間だけGND側へONになります。
 ここでは「4516B」に日立製のHD14516Bを使いましたが、他社製の「4516B」も同じように使えます。

 カウンタに与える1クロックの周期は4μSです。標準C-MOSではこれくらいが無難なところでしょう。 高速応答のためにはクロック周波数をアップするのが効果的ですが標準C-MOSのHD14516Bではせいぜい2倍の500kHz(2μS)くらいが限界です。  高速化を目指すなら74HC191などHC-MOSを使います。

 【PWMクロックジェネレータ
 クロックはPWMの一周期のあいだ安定していれば良く、極端にふらつかなければクロック周波数は出力電圧の精度に影響しません。 従って4069UBのようなインバータ回路を使った簡単なRC発振器で済ませることもできます。 NE555などを使っても良いかも知れません。

 しかし安定している方が良いのは間違いないのでここでは8MHzの水晶発振子を使いました。水晶発振なら極めて安定ですから余計な心配をせずに済みます。 CD74HC4060Aは発振回路のほかにバイナリカウンタ(2進カウンタ)が内臓されていて各種の周波数が取り出せます。 ここでは1/32分周出力(Q5)を使い250kHzを得ています。 高精度の必要はないので周波数調整は設けていません。 使っている8MHzの水晶発振子はHC-49/US型のごく一般的なものです。(aitendoで購入)

 【PWMクロックは250kHz
 アバウトでも十分ですが、確認のために測定しておきました。 250kHzに対して3.45Hzほど高いですが全く支障ありません。

  とんでもない周波数になっていないか確認しておく程度で十分です。 74HC4060Aにはたくさん出力端子があって、様々なクロック周波数に切り替えられるので実験に便利です。 試作簡略化のためにSPG8651Bも考えたのですが100kHzが上限なので旨くありませんでした。 74HC4060Aを使ったクロック発生回路は水晶発振子さえまともなら確実ですから愛用の回路です。

 【レベル変換とアナログスイッチ
 アナログスイッチにはTC4053BPを使いました。 このアナログスイッチの部分は10V以上の電圧を扱います。 そのため電源電圧は+15Vで使います。 従って4053Bのスイッチ開閉も0〜15Vのロジックレベルを持った信号で行なう必要があります。

 C-MOS カウンタなど他のロジック回路は+5V電源で動作していますのでロジックレベル(論理振幅)は5Vです。 これをインバータを使ったロジックレベルの変換回路で5V系から15V系へインターフェースします。 インバータはトランジスタを使った簡単な回路ですがスイッチング・スピードが遅いとPWMに時間誤差を生じます。ひいては出力電圧に誤差を生じます。 そのためこのインターフェース用には特に高速スイッチング用に作られたトランジスタ:2SC1216を使いました。 当実験室ではほかに2SC269(NEC)、2SC395A(東芝)や2SC641(日立)も見つかりましたが「なるべく新しいものを」と言うことで2SC1216(NEC)にしました。 通販でどれかが手に入るでしょう。いちばん安価なもので十分です。 カタログを見て高速スイッチング用となっていれば他のNPNトランジスタでも大丈夫です。

 なお、汎用品の2SC1815GRだとスイッチングの遅れで-200ppmくらいの電圧誤差が生じますので、高速スイッチング用トランジスタの存在意義はあるようです。(当たり前ですかね・笑)

(参考)高速SW用Trと2SC1815の違い:高速SW用のTrとの違いは主に蓄積時間(ts)にあり、tsが長いためoffが遅れます。高速SW用のTrはベースに金(Au)をドープしてキャリヤのライフタイムを短くすることでtsを小さくしてあります。構造的な違いがあり、その副作用があるので増幅用としては最適とは言えません。しかし実際は使えなくもありません。

 【アナログスイッチと出力アンプ部
 アナログスイッチには各種ありますが標準C-MOSの4051B、4052B、4053Bが入手容易です。 ON抵抗はやや大きめですが、この用途では問題になりません。
 専用のアナログスイッチ・・・たとえばDG201CJとか・・・より高速なのも好都合です。 ここでは手持ちの関係でTC4053BPを使っています。 多少配線変更すれば4051Bや4052Bも使えます。 ほかに4066Bとインバータの4069B等で構成する方法があります。

 アナログスイッチの出力はHighが+10.24Vで、Lowが0Vのパルス波(矩形波)です。 周期は一定ですがHighの長さ(時間)が設定データによって変化します。 そのパルス波を抵抗器とコンデンサを使った「平均化回路」で精密な電圧に変換します。 平均化回路などと言うとたいそうですが、RCを使った単なる平滑回路に過ぎません。

 平均化回路の出力インピーダンスは高いのでそのまま電圧を取り出すと誤差を生じます。 OP-Ampを使った入力インピーダンスの高いバッファアンプ(ボルテージ・フォロワ)を設けて取り出します。 このOP-Ampはオフセット電圧が誤差の原因になります。オフセット電圧が小さく、そのドリフトも小さな高精度OP-Ampが適当です。
 ここでは安価なOP-07CP(TI製:秋月電子通商で@70円)を使っていますが、この目的には十分な性能です。 TI製OP-07CPの初期オフセット電圧は、max ±150μVで、ドリフトはmax ±1.8μV/℃の性能です。 初期オフセット電圧の分は調整で除去できます。
このOP-07CPの出力が精密な「設定電圧出力」となります。

試作品の成績
 左表は試作回路の成績です。 まずまずといったところではないでしょうか。

 精密という多回転ポテンショメータではせいぜい0.2%程度の設定精度しか期待できませんでした。 それよりも20倍くらい良い性能です。

 精度の目標値は書きませんでしたが、期待値として0.1%くらいの設定精度が得られればまずまずだろうと思っていました。そのくらいの精度は十分得られているようです。 ただし1V以下を出力すると徐々に精度は悪くなって行きます。 例えば10mVの0.1%は10μVですが、10Vから見たら1ppmの誤差です。これは容易に得られない精度です。 従って低い電圧の精度を追求するならアナログ的な手段で10V出力を1/10に分圧してやると高精度が得やすくなります。 実際の製作ではそうした工夫を加えたい感じです。 しかし、なかなか良い精度が実現できていると思います。

 室温の変化から、ざっとした温度系数を計算してみました。 現状では-45ppm/℃くらいの温度係数を持つようです。 まずまずと言えますが、これは基準に使用したTL431Cの温度特性とその周辺の抵抗器の温度特性がそのまま現れているのでしょう。 機能試作なのでラフに済ませましたが、本番の製作ではもうすこし基準電圧発生部を吟味すると改善できそうです。 できたら±10ppm/℃以内の基準電圧源が欲しいところです。 これについては過去のBlog(←リンク)を参照してください。

 このPWM式電圧発生器は、1ビットあたりの分解能は2.5mVになっています。 12ビットですから、全体では4096段階の電圧を発生できます。 2.5mV刻みに0〜10.2375Vが発生できるわけです。 ただし、わかりやすさなどを考慮して、下位の2ビットは使わず10mVステップで使うのが良さそうです。 その場合は0〜10.230Vの範囲となります。実用上、10mVの分解能でも十分だと思います。

参考:表ではゼロV出力でマイナスのオフセットが見られます。 その後、改めてゼロ調整とフルスケール調整を実施した結果、ゼロの残存電圧は室温20℃付近で±10μV以下に収まりました。 しばらく通電しておき動作が安定したところで入念な調整を行なうのが秘訣のようです。

コラム:DVMのレンジ間誤差
PWM式電圧発生器をテストしていてDVM(デジタル電圧計)のレンジ間誤差に気付かされました。 オートレンジで測定していたところ、10Vから始めて設定電圧を下げて行き、下のレンジに切り替わったとたんに比例関係を外れて誤差が大きくなりました。 わずかではあるのですが何故かと思って調べたらこれは使ったDVMの測定レンジ間に誤差があるからでした。 レンジを固定したまま測定すると綺麗な数値が得られるのです。 このPWM式電圧発生器はDVMのレンジ間誤差を表面化させるほど良好な直線性があるのでした。

                 ー・・・ー

 以上で簡単な動作説明と成績の報告を終えます。 こうした装置に興味を持つのは、ある程度高度な実験をされるお方でしょう。 あまり初心者向けの製作とは言えないので、常識的な話は省きました。 もし不明な点があればコメントなどお願いします。

                   ☆

 【電圧切替時の応答特性】(ムービー)
 PWM式の電圧発生器は設定値への応答が遅いと言う欠点があります。そう言われていても、実際の感触はどうなのか気になるところです。 このムビーでは4.880Vのところから、10.000Vへ設定を変えた直後の様子を写しています。
 おおよそ15秒程度で目標値の99%以内に収束しますが完全な安定までには30秒くらい待つ必要があることがわかります。 これを重大な欠点と見るか、製作が容易と言うメリットの方を取るのかは利用目的次第でしょう。(注意:再生すると音が出ます)

  いかがでしょうか? この程度の時間なら何とか待てると感じました。これで温度係数が小さくて超精密な分圧抵抗器は要りません。 安価で容易に製作できるメリットの方を重視したいと思います。 遅いと言う欠点を補って余るメリットがあると思います。もちろんもっと早く落ち着く方が良いに決まっていますが・・・。
 なお、複雑化しますが回路的な工夫と高速デバイスにより高い周波数のクロックを使って高速化する方法があります。 このムービより少なくとも5倍くらい早くすることは可能です。その代わり製作はそれなりに難しくなりますけれど・・・。

                    ☆

PWM式電圧発生器・全景】(エピローグ)
 PWM式電圧発生器の基本的な動作と性能を見極める目的で試作してみました。

 初めて作る回路なので、まずは様子を見る意味からオーソドックスでシンプルな構成から試すことにしたのです。 基準電圧合わせとOP-Ampのオフセット調整を行なっただけで実用になりそうな性能が得られたのは予想外でした。 ポイントさえ押さえておけば、かなりラフに作っても高精度が期待できそうです。

 やはりこのままでは出力電圧の設定が直感的ではありません。 デジタルICを並べてハードウエア的に純2進へ変換する回路の製作は大変です。 しかし、いまはワンチップ・マイコンが手軽です。 出力電圧をデジタル表示するにもマイコンを使うと便利ですから活用すべきだと思います。 今さらながらマイコンとプログラムの助けを借りないと合理的な製作もままならない時代なのですね。(笑)

 具体的な回路は示しませんが、データの設定にはシリアルデータをパラレルに変換するIC・・・例えば:NJU3714Dなど・・・の利用が便利そうです。 ピン数の多いマイコンを使いポートから直接データ出力する方法も良いかもしれません・・・。 難しくはないので、いずれそうした回路部分もやりましょう。 ではまた。 de JA9TTT/1

(おわり)fm

関連情報:精密電圧発生関連のBlog記事
(1)10V基準器と電圧発生器の研究・・・(ここ←リンク)
(2)電圧発生器を製作する・・・・(ここ←リンク)
(3) PWM式高精度電圧発生器の試作・・・(いま見ているここです)

参考文献:
(1)「実用電子回路ハンドブック:No.3」、トランジスタ技術編集部編、
   1978年8月10日初版、pp107〜109、オンデマンド版あり:¥3,888ー
   動作原理と具体的な回路が掲載されています。かなり古い設計です。
   PWM式電圧発生回路としてはオーソドックスな回路構成です。
   この実験でも参照しましたが、アナログ周りを主に全体を再設計しました。
(2)「精選アナログ実用回路集」、稲葉 保 著、CQ出版社、1991年9月10日第3版、
   pp386、オンデマンド版あり:¥3.564ー
   8ビットのPWM型電圧発生器が紹介されています。10mVステップで2.55Vまで
   出力可能な回路になっています。比較的新しいデバイスで構成されています。
   部品数が少ないのでお薦め回路の一つです。
(3)「デジタル技術を活用した高精度直流電圧発生器」、執筆者不明(共著記事)、
   トランジスタ技術1983年9月号、pp294〜299、コピーサービスで入手可能.
   高速化へのアプローチ手法が解説されています。 ただし、そのまま作らず
   吟味した方が良さそうに思います。 40HシリーズのC-MOSロジックICは
   入手困難なのですべて74HC系へ置き換えて再設計すべきでしょう。

 いずれもかなり古いので現在の部品事情を反映していません。 動作原理などは参考になりますが製作資料には不向きです。 いずれも必読とも言えないので機会でもあったら図書館などでご覧ください。 見つけられませんでしたが、他にも類似の記事があったと思います。

2018年11月8日木曜日

【回路】NIXIE Tube Clock Design, Part-2

NIXIE管を使った置時計の設計・その2
時計の数字表示器は
 前回(←リンク)はNIXIE管(ニキシー管)時計の機能部分を試作しました。 時計回路としての面白みは時刻を計数する「計時機能」の部分にあるわけですが、表示部がなければ時計にはなりません。

 ここでは旧ソ連製のNIXIE管( NIXIE Tube:米国Burroughs社の登録商品名)を使って作ります。 国産や米国製のNIXIE管も存在したので、手に入れば同じように使えます。 ただし、西側世界(古い言い方ですね・笑)ではNIXIE管は早々に廃れたので今となっては旧ソ連製の方が入手容易なようです。 それも徐々に価格が上昇してきたようなのでNIXIE管はお薦めしにくくなっています。レトロな雰囲気を楽しむには良いのですが・・・。

 もし表示器は何でも良いからデジタル時計を作ってみたいのなら7セグメントのLED表示器を推奨します。コストや入手性だけでなく性能も優れています。 最近のLEDは発光色にバラエティがあるのでかなり自由な表示色が選べます。 また輝度も高いので明るい環境でも読み取り易いです。 デコーダ・ドライバにSN7447ANやCD4511Bなどを使えばOKです。 +5Vの電源だけで済むLED表示器を使うと製作は容易です。  表示デバイスはLEDになっても、同じく停電対策された置き時計が作れます。
 また蛍光表示管(VFD)も綺麗ですが、+30Vくらいの中圧電源と数Vのフィラメント電源が必要なので幾らか面倒臭く感じます。

数字表示部の可能性は色々あるわけですが予定通りニキシー管で行くことにします。

# 数字表示部分がないと時計にならないのでさっそく検討を進めましょう。

ニキシー管置時計・表示部回路図
 前回作った時計のメイン・カウンタユニットの出力は2進化10進コード(BCDコード)です。 それを解読して10進表示器に合うようにします。 さらにNIXIE管は高電圧を扱うのでそれに合わせた耐電圧を持った駆動用のIC(ドライバIC)が必要です。

 デバイス史を紐解くと、NIXIE管用として10進解読と高圧駆動の機能を持ったTTL-ICとしては初めにSN7441Nが作られました。 しかしいくつか欠点があったので程なく改良版のSN74141Nが登場します。 SN7441Nも使えなくはないのですが、やはりSN74141Nの方が良いです。 この回路図もSN74141Nを使う設計です。
 表示管にはソ連製のNIXIE管: ИН-12Бを使います。 図面はИН-12Бを使う前提でドライバICと表示管の配線が書かれています。 ほかのNIXIE管も配線を合わせれば同じように使えるはずです。 特に小型のNIXIE管を使う場合は、R1〜R4の値を33kΩよりも大きくして電流が流れすぎないよう加減します。

 10時台の表示にはSN74141Nは必要なく、耐圧の高いNPNトランジスタで直接ドライブして点灯させています。 F335-1868と言う型番のトランジスタはたまたま手持ちがあったものです。番号はどこかのメーカーのハウスナンバーでしょう。 Vcboが250VくらいあるNPNトランジスタなら何でも良いでしょう。新規に求めるなら、MOS-FETの2SK4150が適当そうでした。トランジスタのコレクタをドレイン、ベースをゲート、エミッタをソースに置き換えれば他はそのままで置き換えられます。(2SK4150TZ-Eは秋月電子で10個250円)
 10時台の「0」は表示しません。  また、10分台は0〜5までしか表示されませんから表示管の「6」〜「9」への配線は不要です。
 時の表示と10分の表示の間にネオン管を2つ並べて「秒」で点滅させています。 この部分はLEDでも良いのですが雰囲気的にはネオン管でしょうね。 秒点滅用の信号はRTCモジュールの1秒出力から配線を引き出します。 NANDゲートとインバータで構成した回路は停電時に表示部と切り離すためのものです。

 製作するときはNIXIE管用の+180Vがほかのいかなる配線にも接触しないよう十分注意します。 間違ってたとえ瞬間的にでも触ってしまうと該当部分のICやトランジスタが破損します。 特にデコーダ・ドライバのSN74141Nは貴重品ですから壊れたら泣きです。

ИН-12Б
 表示管のИН-12Бを横から見た写真です。 写真上の面には型番などが書かれています。 キリル文字でИН-12Бとありますが、西側のアルファベットで書くとIN-12Bになります。

 反対の面(写真下)には「CCCP」とあって、旧・ソビエト社会主義共和国連邦で製造されたことを示しています。 ロシア製ではなくて「ソ連製」なんですね。

 規格や使い方の情報は検索ワードを「ИН-12Б」でやるとたくさん得られました。 ただしロシア語なので読めないのが難点ですが・・・。 それでも絵や図から想像してかなりわかります。(笑)

ИН-12Бの規格
 検索で見つけたИН-12Бの規格です。 この表示管にはA型とB型があって、ピンへの引き出しが少し違います。 使用するИН-12Б(IN-12B)には小数点の表示があって12番ピンに引き出されています。 なお、小数点は文字の前方(左側)に表示されるので何となく使いにくいです。

 使用するソケットですが、球を上下逆さまにしても装着できてしまうので気を付ける必要がありました。 アノードの1番ピンが上側に来るように装着します。

 何が書いてあるか翻訳エンジンを使って真面目に訳したら面白いのですが、ざっと眺めただけでも使い方はわかったのでこれ以上の探求はしていません。 もしきちんと翻訳されたお方があれば情報提供よろしくお願いします。(笑)

オリジナルはコレか?
 どうやらBurroughs社のB-5991というNIXIE管がオリジナルのようです。 形状やピン接続はほとんど同じです。 外周器がガラスでできたNIXIE管は見ただけでわかりますから、そっくり真似て作ったのでしょうね。

 B-5991はピンが2本多く、上下逆にはソケットに挿入できないようになっています。 また、ИН-12Бでは数字の「5」に「2」の文字を上下逆にして流用していますが、B-5991ではきちんとした専用の「5」の文字になっているようです。

 ソ連時代のИН-12БはB-5991のピン数を減らしたり、構成部品の種類を減らすような「合理化」が行われていますが、あまり感心しない努力のように感じられますね。(笑)

NIXIE管用デコーダ・ドライバ
 Digitalとの付き合いも永いので昔のデバイスが結構眠っています。 NIXIE管用のデコーダ・ドライバなんて他に使い道がないので捨てても良いくらいです。 まさか今頃になって使うとは思いもよりませんでした。(笑)

  手持ちがあるのはNIXIE管を使ったことがあるからです。 デコーダ・ドライバのSN74141Nは故障率が高くて壊れ易いと言われていました。半導体としては異例の高電圧を扱いますからねえ・・・。 手持ちはもっぱら補修用のパーツでした。 但し壊れたことは一度もありませんでした。 予備として最初から数個準備していましたが、知り合いの会社がもう要らないと言うので引き取ってきたように思います。 そのためか思ったよりも手持ちがありました。
  右手前の2個がSN74141Nです。これらを使います。 中央のК155ИД1(西側表記ではK155ID1)というのはソ連製の74141互換品です。 サンプルとして頂きましたが、最近はNIXIE管のドライバと言えばこちらを使うようですね。

 左方にあるDM7441ANやF9315はSN74141Nではなく、SN7441Nの互換品です。 あえて使う意味はないですし、以前テストした経験ではTI製よりも故障率が高かったです。 NIXIE管のおかげでジャンクのTTL-ICが復活しているようですが、素性をよく確かめてから使うべきでしょう。 ソ連製も少し心配はありますが、使用例をかなり見掛けますからそこそこ使い物になっているのでしょう。

# 写真左端のμPB217Cは同じレールに保管されていたので74141/7441の互換品かと思ったのですが、SN7475N(4ビットラッチ)の互換品のようです。

NIXIE管置時計・電源部回路図
 電源部をまとめておきました。 +180Vを作るDC/DCコンバータとデコーダ・ドライバのTTL-ICを動かすための+5Vを作ります。 また、時計のメイン・カウンタ・ユニットの電源と、バックアップ電源回路をまとめておきました。 バックアップは乾電池をやめて電気2重層コンデンサを使うことにしました。 停電はめったに起こらないので乾電池の必要はなさそうです。また電池と違って交換の手間がありません。

 +180V電源はMC34063Pを使った昇圧型のスイッチング電源、+5Vは3端子レギュレータのμA7806ACを使いました。 それぞれの電源は、+12Vから作ることになっています。 +12Vは1A程度の電流容量を持ったACアダプアで間に合います。 電源トランスと整流器+平滑コンデンサで作っても良いのですが、ACアダプタを流用するのが簡単でしょう。 少々変動しても大丈夫なので十分な容量を持ったACアダプタなら何でも使えるはずです。

 停電が発生したり、アダプタが抜かれるとNIXIE管の時刻表示は休止します。 時計用のカウンタ回路部分は電気2重層コンデンサに蓄えられた電荷でしばらくのあいだ動作します。 数日間は十分動作すると思いますのでバックアップとしては十分でしょう。

                   ☆

 時計は回路を収納する「箱」がとても重要です。 デジタル時計の自作が流行った頃ならデザインの良い「箱」がたくさん売られていました。 いまはもうほとんど見掛けませんから、自作で工夫しなくてはなりません。 海外のサイトなど参照するとアクリル細工や木工加工で素晴らしいデザインの筐体に収納されているのを目にします。 置時計と言えばやはりインテリアですからデザインにも拘りたいものです。
 表示器の回路部分は筐体のデザインや構造と密接な関係があるので製作は未着手です。うまい構造が浮かんできたら製作を始めしましょう。 とりあえず、このテーマはこれで終了します。 あとは工夫して形にまとめましょう。 しかし、案外バラックのような構造のままで完了してしまうんですよね。 ではまた。 de JA9TTT/1

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